(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6855295
(24)【登録日】2021年3月19日
(45)【発行日】2021年4月7日
(54)【発明の名称】密封装置
(51)【国際特許分類】
F16J 15/447 20060101AFI20210329BHJP
F16J 15/24 20060101ALI20210329BHJP
F16J 15/3256 20160101ALN20210329BHJP
【FI】
F16J15/447
F16J15/24 Z
!F16J15/3256
【請求項の数】5
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2017-52412(P2017-52412)
(22)【出願日】2017年3月17日
(65)【公開番号】特開2018-155314(P2018-155314A)
(43)【公開日】2018年10月4日
【審査請求日】2020年2月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】特許業務法人秀和特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100085006
【弁理士】
【氏名又は名称】世良 和信
(74)【代理人】
【識別番号】100096873
【弁理士】
【氏名又は名称】金井 廣泰
(74)【代理人】
【識別番号】100131532
【弁理士】
【氏名又は名称】坂井 浩一郎
(72)【発明者】
【氏名】岩井 陽紀
【審査官】
羽鳥 公一
(56)【参考文献】
【文献】
特表2016−516958(JP,A)
【文献】
国際公開第2014/054745(WO,A1)
【文献】
実開昭60−023293(JP,U)
【文献】
実開昭64−021856(JP,U)
【文献】
特開2008−151174(JP,A)
【文献】
特開2007−009938(JP,A)
【文献】
英国特許出願公告第00653608(GB,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04D 1/00−13/16
F04D 17/00−19/02
F04D 21/00−25/16
F04D 29/00−35/00
F16C 33/72−33/82
F16J 15/16−15/32
F16J 15/324−15/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸と、該回転軸が挿通される軸孔を有するハウジングとの間の環状隙間を封止する密封装置であって、
前記回転軸に対して設けられる回転環ユニットと、
前記ハウジングに対して設けられる固定環ユニットと、
を備える密封装置において、
前記回転環ユニットは、
前記回転軸に固定される円筒部を有する環状部材と、
前記環状部材に対して固定される回転環と、
を備えており、
前記固定環ユニットは、
前記ハウジングの軸孔に固定される補強環と、
前記回転環の端面に対して摺動自在に設けられる固定環と、
一端側が前記補強環に設けられた内向きフランジ部に固定され、他端側が前記固定環に固定されており、該固定環を前記回転環に向けて押圧する環状弾性体と、
を備えると共に、
前記環状部材における前記円筒部の端部には、前記固定環よりも前記補強環の内向きフランジ部側に位置する外向きフランジ部が設けられており、
前記環状弾性体は、前記内向きフランジ部側の端部から、前記外向きフランジ部よりも軸線方向において前記内向きフランジ部側の位置で、前記回転軸の表面に向かって伸び、かつ該表面には接しない位置まで伸びる外側環状リップを備えていることを特徴とする密封装置。
【請求項2】
前記環状弾性体は、前記固定環側の端部から前記外向きフランジ部の先端に向かって伸び、かつ該外向きフランジ部の先端には接しない位置まで伸びる内側環状リップを備えていることを特徴とする請求項1に記載の密封装置。
【請求項3】
回転軸と、該回転軸が挿通される軸孔を有するハウジングとの間の環状隙間を封止する密封装置であって、
前記回転軸に対して設けられる回転環ユニットと、
前記ハウジングに対して設けられる固定環ユニットと、
を備える密封装置において、
前記回転環ユニットは、
前記回転軸に固定される円筒部を有する環状部材と、
前記環状部材に対して固定される回転環と、
を備えており、
前記固定環ユニットは、
前記ハウジングの軸孔に固定される補強環と、
前記回転環の端面に対して摺動自在に設けられる固定環と、
一端側が前記補強環に設けられた内向きフランジ部に固定され、他端側が前記固定環に固定されており、該固定環を前記回転環に向けて押圧する環状弾性体と、
を備えると共に、
前記環状部材における前記円筒部の端部には、前記固定環よりも前記補強環の内向きフランジ部側に位置する外向きフランジ部が設けられており、
前記環状弾性体は、前記固定環側の端部から前記外向きフランジ部の先端に向かって伸び、かつ該外向きフランジ部の先端には接しない位置まで伸びる内側環状リップを備えていることを特徴とする密封装置。
【請求項4】
前記環状弾性体は、径方向に突出する山部及び径方向に凹む谷部のうちの少なくともいずれか一つを有する、軸線方向に伸縮可能な伸縮部を備えていることを特徴とする請求項1,2または3に記載の密封装置。
【請求項5】
前記固定環における内周面と外周面との間の中心を通る仮想円柱面は、前記伸縮部における前記内向きフランジ部側の端部の径方向の範囲内に位置し、かつ前記伸縮部における前記固定環側の端部の径方向の範囲内に位置することを特徴とする請求項4に記載の密封装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転軸とハウジングとの間の環状隙間を封止する密封装置に関する。
【背景技術】
【0002】
回転軸とハウジングとの間の環状隙間を封止する密封装置として、回転軸に対して設けられる回転環の端面と、ハウジングに対して設けられる固定環の端面とが摺動するように構成される密封装置が知られている。このような技術においては、回転環の端面と固定環の端面との間に異物が侵入してしまうと、摺動摩耗が促進され易く、また、シール性が低下してしまうおそれがある。従って、当該密封装置が泥水等の飛散する環境下で用いられる場合には、回転環の端面と固定環の端面との間に泥水等が侵入してしまい、シール性が低下してしまうおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2014/173495号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、泥水等の侵入によるシール性の低下の抑制を図ることのできる密封装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記課題を解決するために以下の手段を採用した。
【0006】
すなわち、本発明の密封装置は、
回転軸と、該回転軸が挿通される軸孔を有するハウジングとの間の環状隙間を封止する密封装置であって、
前記回転軸に対して設けられる回転環ユニットと、
前記ハウジングに対して設けられる固定環ユニットと、
を備える密封装置において、
前記回転環ユニットは、
前記回転軸に固定される円筒部を有する環状部材と、
前記環状部材に対して固定される回転環と、
を備えており、
前記固定環ユニットは、
前記ハウジングの軸孔に固定される補強環と、
前記回転環の端面に対して摺動自在に設けられる固定環と、
一端側が前記補強環に設けられた内向きフランジ部に固定され、他端側が前記固定環に固定されており、該固定環を前記回転環に向けて押圧する環状弾性体と、
を備えると共に、
前記環状部材における前記円筒部の端部には、前記固定環よりも前記補強環の内向きフランジ部側に位置する外向きフランジ部が設けられていることを特徴とする。
【0007】
本発明によれば、固定環ユニットに備えられる補強環には内向きフランジ部が設けられており、回転環ユニットに備えられる環状部材には外向きフランジ部が設けられている。これらにより、いわゆるラビリンスシール構造が形成されることにより、泥水等が回転環と固定環との摺動部に向けて侵入してしまうことが抑制される。
【0008】
前記環状弾性体は、径方向に突出する山部及び径方向に凹む谷部のうちの少なくともいずれか一つを有する、軸線方向に伸縮可能な伸縮部を備えているとよい。
【0009】
これにより、環状弾性体の伸縮部によって、固定環を回転環に向けて安定的に押圧させることができる。
【0010】
前記固定環における内周面と外周面との間の中心を通る仮想円柱面は、前記伸縮部における前記内向きフランジ部側の端部の径方向の範囲内に位置し、かつ前記伸縮部における前記固定環側の端部の径方向の範囲内に位置するとよい。
【0011】
これにより、伸縮部が異常に変形してしまうことを抑制することができ、環状弾性体の伸縮部によって、固定環を回転環に向けて、より一層安定的に押圧させることができる。
【0012】
前記環状弾性体は、前記内向きフランジ部側の端部から、前記外向きフランジ部よりも軸線方向において前記内向きフランジ部側の位置で、前記回転軸の表面に向かって伸び、かつ該表面には接しない位置まで伸びる外側環状リップを備えているとよい。
【0013】
これにより、より一層経路が複雑なラビリンスシール構造を形成させることができ、泥水等の侵入をより抑制することができる。
【0014】
前記環状弾性体は、前記固定環側の端部から前記外向きフランジ部の先端に向かって伸び、かつ該外向きフランジ部の先端には接しない位置まで伸びる内側環状リップを備えているとよい。
【0015】
これにより、より一層経路が複雑なラビリンスシール構造を形成させることができ、泥水等の侵入をより抑制することができる。
【0016】
なお、上記各構成は、可能な限り組み合わせて採用し得る。
【発明の効果】
【0017】
以上説明したように、本発明によれば、泥水等の侵入によるシール性の低下の抑制を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は本発明の実施例に係る密封装置の模式的断面図である。
【
図2】
図2は本発明の実施例に係る密封構造を示す模式的断面図である。
【
図3】
図3は本発明の実施例に係る密封装置における固定環ユニットの模式的断面図である。
【
図4】
図4は本発明の実施例に係る回転環の側面図の一部である。
【
図5】
図5は本発明の実施例に係る環状弾性体における伸縮部の変形例を示す模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に図面を参照して、この発明を実施するための形態を、実施例に基づいて例示的に詳しく説明する。ただし、この実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは、特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0020】
(実施例)
図1〜
図5を参照して、本発明の実施例に係る密封装置について説明する。
図1は本発明の実施例に係る密封装置の模式的断面図である。なお、本実施例に係る密封装置は、一部の部材を除き略回転対称形状であり、
図1においては、密封装置を、その中心軸線を含む面で切断した断面図を示している。
図2は本発明の実施例に係る密封構造を示す模式的断面図である。なお、
図2中の密封装置については、
図1と同様に、密封装置を、その中心軸線を含む面で切断した断面図を示している。
図3は本発明の実施例に係る密封装置における固定環ユニットの模式的断面図である。なお、
図3においては、固定環ユニットを、その中心軸線を含む面で切断した切断面の図を示しており、奥行き線は省略している。
図4は本発明の実施例に係る回転環の側面図の一部である。なお、
図4においては、側面図中のAA断面図も図中丸の中に示している。
図5は本発明の実施例に係る環状弾性体における伸縮部の変形例を示す模式的断面図である。
【0021】
<密封装置の全体構成>
本実施例に係る密封装置10の全体構成について説明する。本実施例に係る密封装置10は、回転軸500と、回転軸500が挿通される軸孔を有するハウジング600との間の環状隙間を封止するために用いられる。本実施例においては、
図2において、図中左側が、密封対象流体(油など)が密封された密封領域側(O)であり、図中右側が密封領域側(O)とは反対側の大気側(A)である。
【0022】
本実施例に係る密封装置10は、回転軸500に対して設けられる回転環ユニット100と、ハウジング600に対して設けられる固定環ユニット200とを備えている。回転環ユニット100は、回転軸500と共に回転するように構成されている。
【0023】
そして、回転環ユニット100は、金属製の環状部材110と、この環状部材110に対して固定される回転環130と、環状部材110に設けられ、回転環130を環状部材110に嵌合固定し易くするための弾性体製の被嵌合部材120とを備えている。環状部材110は、回転軸500の外周面に固定される内周面側円筒部111と、内周面側円筒部111における密封領域側(O)の端部に設けられる密封領域側外向きフランジ部112と、密封領域側外向きフランジ部112の先端に設けられる外周面側円筒部113とを有している。なお、内周面側円筒部111と外周面側円筒部113は、密封領域側外向きフランジ部112の各端部から同じ方向(大気側(A)の方向)に向かって伸びるように構成されている。
【0024】
また、環状部材110における内周面側円筒部111の大気側(A)の端部にも、大気側外向きフランジ部114が設けられている。
【0025】
被嵌合部材120は、ゴムなどの弾性体により構成される。そして、被嵌合部材120は、環状部材110の外周面側円筒部113の内周面に固定される円筒部121と、円筒部121の密封領域側(O)の端部に設けられる内向きフランジ部122と、円筒部121の大気側(A)の端部に設けられる外向きフランジ部123とを備えている。内向きフランジ部122は環状部材110における密封領域側外向きフランジ部112に密着した状態で固定され、外向きフランジ部123は環状部材110における外周面側円筒部113の先端面に密着した状態で固定されている。
【0026】
回転環130は、環状部材110に固定された被嵌合部材120における内向きフランジ部122に突き当たる位置まで挿入され、回転環130における外周面が被嵌合部材120における円筒部121の内周面に密着した状態で嵌合固定される。また、回転環130は、環状部材110における内周面側円筒部111の外周面との間に環状の隙間を空けた状態で、環状部材110に対して固定されている。なお、回転環130は、金属や樹脂(例えばPPS)などの剛性の高い材料により構成されている。
【0027】
固定環ユニット200は、ハウジング600の軸孔に固定される補強環210と、回転環130の端面に対して摺動自在に設けられる固定環230と、固定環230を回転環130に向けて押圧する環状弾性体220とを備えている。この環状弾性体220は、一端側が補強環210に固定され、他端側が固定環230に固定されている。補強環210は、ハウジング600の軸孔の内周面に嵌合により固定される円筒部211と、円筒部211の大気側(A)の端部に設けられる内向きフランジ部212とを備えている。
【0028】
環状弾性体220は、ゴムなどの弾性体により構成される。環状弾性体220は、伸縮部221と、外側環状リップ222と、内側環状リップ223とを一体に備えている。この環状弾性体220は、補強環210に一体成形されている。すなわち、補強環210をインサート部品として、インサート成形することにより環状弾性体220を設けることができる。
【0029】
固定環230は、環状部材110における内周面側円筒部111の外周面との間に環状の隙間を空けた状態で環状弾性体220に固定されている。なお、固定環230は、金属や樹脂(例えばPPS)などの剛性の高い材料により構成されている。
【0030】
また、回転環130における固定環230に対する摺動面には、回転環130の回転に伴って、これらの摺動面同士を離間させる動圧を発生させる動圧発生用溝131が複数設けられている(
図4参照)。つまり、回転環ユニット100が回転すると、動圧発生用溝131による動圧によって、固定環230は、環状弾性体220による押圧力に抗して、回転環130から離れる方向に移動する。なお、回転環130における固定環230に対する摺動面は、回転環130における固定環230側(大気側(A))の端面である。また、固定環230における回転環130に対する摺動面は、固定環230における回転環130側(密封領域側(O))の端面である。
【0031】
ここで、動圧発生用溝131については、回転環130の回転によって、回転環130と固定環230との間の隙間に動圧を発生させる溝であれば、適宜、公知技術を採用することができる。本実施例では、
図4中のAA断面図に示すように、動圧発生用溝131は、その溝底が滑らかな湾曲面で構成されている。また、回転環130は、
図4中時計回り方向に回転するように構成されており、動圧発生用溝131は、回転方向の上流側に溝底の深い部分が偏るように構成されている。以上のように構成される動圧発生用溝131によって、回転環130が回転すると、流体(本実施例の場合には、気体または油)が
図4中の矢印F方向に流れる。これにより、回転環130の摺動面と固定環230の摺動面とを離間させる方向の力が生じる。なお、回転環130の摺動面と固定環230の摺動面とが離間していても、これらの隙間においては、動圧発生用溝131によって、流体の周方向の流れが生じているため、密封対象流体が大気側(A)に漏れてしまうことはない。
【0032】
なお、本実施例においては、回転環130に動圧発生用溝131を設ける場合を例にして説明した。しかしながら、固定環230における回転環130に対する摺動面に、回転環130の回転に伴って、これらの摺動面同士を離間させる動圧を発生させる動圧発生用溝を設けてもよい。また、動圧発生用溝は、回転環130と固定環230の摺動面の双方に設けてもよい。
【0033】
<伸縮部付近の詳細構造>
固定環ユニット200における環状弾性体220の伸縮部221付近の詳細構造について説明する。
【0034】
<<ラビリンスシール構造>>
本実施例に係る密封装置10においては、伸縮部221付近に、いわゆるラビリンスシール構造が形成されている。このラビリンスシール構造について、以下に説明する。
【0035】
上記の通り、回転環ユニット100における環状部材110の内周面側円筒部111には、大気側外向きフランジ部114が設けられている。この大気側外向きフランジ部114は、固定環230よりも固定環ユニット200における補強環210の内向きフランジ部212側に位置するように構成されている。
【0036】
また、固定環ユニット200における環状弾性体220には、上記の通り、外側環状リップ222が設けられている。この外側環状リップ222は、環状弾性体220において、補強環210の内向きフランジ部212側の端部から、環状部材110の大気側外向きフランジ部114よりも軸線方向において内向きフランジ部212側の位置で、回転軸500の表面に向かって伸び、かつ、この表面には接しない位置まで伸びるように構成されている。
【0037】
更に、固定環ユニット200における環状弾性体220には、上記の通り、内側環状リップ223が設けられている。この内側環状リップ223は、環状弾性体220において、固定環230側の端部から環状部材110の大気側外向きフランジ部114の先端に向かって伸び、かつ、この大気側外向きフランジ部114の先端には接しない位置まで伸びるように構成されている。
【0038】
以上の構成により、大気側(A)から回転環130と固定環230との摺動部に至るまでには、複雑な経路が形成され、いわゆるラビリンスシール構造が形成される。これにより、大気側(A)から、泥水等が回転環130と固定環230との摺動部に侵入してしまうことが抑制される。なお、外側環状リップ222と内側環状リップ223のうちのいずれか一方のみが設けられ、他方が設けられない場合でも、ある程度、複雑な経路が形成されるため、ラビリンスシール構造を形成させることができる。また、外側環状リップ222と内側環状リップ223の両者が設けられない場合でも、ある程度、複雑な経路が形成されるため、ラビリンスシール構造を形成させることができる。
【0039】
<<伸縮部による押圧構造>>
本実施例に係る環状弾性体220の伸縮部221による押圧構造について、より詳細に説明する。本実施例に係る伸縮部221は、径方向に突出する山部が1箇所設けられた構成である。これにより、伸縮部221は、軸線方向に伸縮可能となっている。なお、本発明における伸縮部は、このような構成に限らず、径方向に突出する山部及び径方向に凹む谷部のうちの少なくともいずれか一つを有すればよい。これにより、伸縮部は、軸線方向に伸縮可能となる。例えば、
図5に示す変形例に係る伸縮部221aにおいては、2つの山部と、これら2つの山部の間に設けられる一つの谷部とを備えている。このような伸縮部221aを採用してもよい。
【0040】
次に、特に、
図3を参照して、伸縮部221と固定環230との配置関係について説明する。固定環230における内周面と外周面との間の中心を通る仮想円柱面は、伸縮部221における内向きフランジ部212側の端部の径方向の範囲S1内に位置し、かつ伸縮部221における固定環230側の端部の径方向の範囲S2内に位置するように構成されている。なお、
図3中、一点鎖線Cは、固定環230における内周面と外周面との間の中心を通る仮想円柱面の位置に相当する。
【0041】
<本実施例に係る密封装置の優れた点>
本実施例に係る密封装置10によれば、大気側(A)から回転環130と固定環230との摺動部に至るまでには、複雑な経路が形成され、いわゆるラビリンスシール構造が形
成されている。従って、泥水等が回転環130と固定環230との摺動部に向けて侵入してしまうことが抑制される。
【0042】
また、環状弾性体220は、径方向に突出する山部及び径方向に凹む谷部のうちの少なくともいずれか一つを有する、軸線方向に伸縮可能な伸縮部221を備えている。これにより、環状弾性体220の伸縮部221によって、固定環230を回転環130に向けて安定的に押圧させることができる。更に、固定環230における内周面と外周面との間の中心を通る仮想円柱面は、伸縮部221における内向きフランジ部212側の端部の径方向の範囲S1内に位置し、かつ伸縮部221における固定環230側の端部の径方向の範囲S2内に位置するように構成されている。従って、伸縮部221に対しては、両側から軸線方向に圧縮される力が加わるものの、伸縮部221が異常に変形してしまうことを抑制することができる。従って、環状弾性体220の伸縮部221によって、固定環230を回転環130に向けて、より一層安定的に押圧させることができる。
【符号の説明】
【0043】
10 密封装置
100 回転環ユニット
110 環状部材
111 内周面側円筒部
112 密封領域側外向きフランジ部
113 外周面側円筒部
114 大気側外向きフランジ部
120 被嵌合部材
121 円筒部
122 内向きフランジ部
123 外向きフランジ部
130 回転環
131 動圧発生用溝
200 固定環ユニット
210 補強環
211 円筒部
212 内向きフランジ部
220 環状弾性体
221,221a 伸縮部
222 外側環状リップ
223 内側環状リップ
230 固定環
500 回転軸
600 ハウジング