(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
〔基本構成〕
図1に示すように、回転作動により流体を送り出すポンプ部1と、ポンプ部1を回転駆動するブラシレスDC型のモータ部2と、モータ部2に供給する電流を制御する制御部10とを備えて電動ポンプPが構成されている。
【0020】
この電動ポンプPは、車両の走行駆動系のミッションケース等に貯留されるオイルを供給するために用いられるものを例に挙げている。この電動ポンプPは、車両に備えられるバッテリーで成る直流電源3から供給される電流を、制御部10を介してモータ部2に供給する。尚、この電動ポンプPによって供給する流体はオイルに限るものではなく、冷却水等の液体を対象としても良い。
【0021】
モータ部2は、三相モータと共通する構成の界磁コイルと、界磁コイルから作用する磁力により回転するように永久磁石を有するロータ(図示せず)とを備えており、ロータの駆動力によりポンプ部1が駆動される。また、モータ部2は、ロータの回転位置を検出するためのセンサを備えないセンサレス型として構成されている。
【0022】
〔制御部〕
図1に示すように、制御部10は、ドライバユニット11と、電流制御ユニット12と、回転位置検出ユニット13と、制御管理ユニット14とを備えている。
【0023】
ドライバユニット11は、モータ部2に電流を供給する際にON制御される複数のFETを有している。電流制御ユニット12は、目標とする駆動電圧に対応した目標デューティ比の制御信号をパルス幅変調(PWM)の技術により生成し、回転位置検出ユニット13の検出信号と同期するタイミングでドライバユニット11の複数のFETを個別に駆動する駆動回路を有している。尚、電流制御ユニット12は、ベクトル制御も可能に構成されている。
【0024】
回転位置検出ユニット13は、ロータの回転時にモータ部2の各コイルに生ずる誘起電圧からロータの回転位置を検知する。
【0025】
制御管理ユニット14は、温度センサ4で検知されるミッションケースの温度情報、及び、目標とするオイルの供給量等の目標情報、電源電圧、電源電流等に基づいてPWMによるFET駆動デューティ比の上限値Dmaxと下限値Dminとを設定すると共に、モータ部2の電圧制御と電流制御との切り換えが可能に構成されている。
【0026】
制御部10は、ドライバユニット11と、電流制御ユニット12と、回転位置検出ユニット13とがハードウエアで構成されるものであり、制御管理ユニット14がハードウエアとソフトウエアとの組み合わせで構成される。
【0027】
〔制御形態〕
制御管理ユニット14では、
図2のフローチャートに示すように、ポンプ部1の制御(以下、ポンプ制御と称する)を実行する。このポンプ制御では、制御情報を取得し、FET駆動Dutyを算出する(#101、#102ステップ)。
【0028】
この制御において、制御情報はオイルの単位時間あたりの目標吐出量や、温度センサ4で取得される温度情報等である。特に、#102ステップには、同ステップにおいて横軸に入力値(単位はデューティ比(%))を取り、縦軸にFET駆動Duty(単位はデューティ比(%))を取り、制御情報としての入力SIGに基づき所定の特性ラインLからFET駆動Dutyの値としてのDsigを取得するグラフを示している。
【0029】
尚、FET駆動Dutyは、電流制御ユニット12がドライバユニット11の複数のFETを駆動することにより、モータ部2の界磁コイルが現実に駆動される際のPWMのデューティ比の駆動信号である。
【0030】
次に、回転位置検出ユニット13からの信号に基づき、ロータの回転位置が検出した場合にロータの回転数を取得すると共に、ロータの概算回転数を演算し、この概算回転数に基づいて動作モード決定処理を行う(#103〜#107ステップ)。
【0031】
#104ステップでロータの回転を検出するためには、モータ部2のロータが回転状態にあることが条件となる。また、#105ステップでは単位時間あたりの回転数を算出し、#106ステップでは概算回転数を算出する。
【0032】
概算回転数とは、例えば、移動平均のように設定時間内における平均回転数の値、あるいは、所定の桁の数値を四捨五入した値、あるいは、所定インターバルで取得したロータの回転数の平均値のようにリアルタイムで取得した現実の回転数の変動による影響の抑制が可能となる値を想定している。
【0033】
モード決定処理(#107ステップ)では、モータ部2のロータが停止状態から回転を開始した直後やロータが低回転で回転を継続する場合のように、例えば、概算回転数が第2設定値としての800rpmを超えない状況では、動作モードとして非制限モードMaの選択が決定される。これに対して、ロータの回転の概算回転数が800rpmを超えた後には、動作モードとして制限可能モードMbの選択が決定される。
【0034】
非制限モードMaは、FET駆動Dutyの上限を100%に設定することが可能で、電圧制御が行われるモードである。また、制限可能モードMbは、FET駆動Dutyの上限が100%以下に設定され、FET駆動Dutyが上限に達するまでは電圧制御を行われ、FET駆動Dutyが上限にする場合には、電流制御によりFET駆動Dutyを上限に維持するモードである。
【0035】
特に、この制御では、制限可能モードMbが決定された後において、例えば、概算回転数が第1設定値としての500rpm未満に低下するまでは、制限可能モードMbが維持される。また、概算回転数が500rpm未満に低下した場合には、動作モートとして非制限モードMaが決定され、この非制限モードMaは、概算回転数が800rpmを超えるまで維持される。このようにヒステリシスを設定することでモードが頻繁に切り換わる不都合を抑制している。
【0036】
尚、500rpm(第1設定値)と800rpm(第2設定値)とは、特定の電動ポンプPを制御する際に設定される値であり、動作モードを決定するための回転数として任意の値を設定することも可能である。例えば、非制限モードMaと制限可能モードMbとの切り換えを、いずれも500rpmで行っても良い。
【0037】
次に、#104ステップでロータの回転が検出されない場合、及び、#107のモード決定処理が行われた後には、ドライバユニット11の情報を取得し(#108ステップ)、モータ制御ルーチン(#200ステップ)を実行し、この後に、制御全体がリセットされない限り#101ステップからの処理が反復して行われる。
【0038】
モータ制御ルーチン(#200ステップ)は、サブルーチンとして設定されるものであり、その制御形態を
図3のフローチャートに示している。
【0039】
図3に示すように、FET制御情報は、モータ部2の界磁コイルが現実に駆動される際に電流制御ユニット12からドライバユニット11に出力される駆動信号の出力状況を示す情報であり、このFET制御情報からFET駆動Dutyが0%を超えない場合(#201のNo)には、モータ部2の停止状態が維持される(#201、#202ステップ)。
【0040】
次に、#201ステップにおいて、FET駆動Duty0%を超える場合(#201のYes)には、更に、モータ部2においてロータの位置が検出可能か否かを判定する。この判定によりロータが検出されない場合(#203のNo)には、モータ部2を起動する(#203、#204ステップ)。
【0041】
そして、#203ステップでロータの位置が検出された場合(#203のYes)には、ロータは既に回転状態にあるため、回転制御ルーチン(#300ステップ)を実行する。
【0042】
この回転制御ルーチン(#300ステップ)は、モータ制御ルーチン(#200ステップ)において、更に、サブルーチンとして設定されるものであり、その制御形態を
図4のフローチャートに示している。
【0043】
図4に示すように、回転制御ルーチン(#300ステップ)ではモータ部2の動作モードを判定する。動作モードが非制限モードMaである場合には、FET駆動Dutyの上限を100%に設定する(#301、#302ステップ)。これに対し、動作モードが制限可能モードMbである場合にはFET駆動Dutyの上限を演算によって求める(#301、#303ステップ)。
【0044】
非制限モードMaでは、ロータが低速で回転する状況にあるため、#302ステップでFET駆動Dutyの上限を100%に設定することにより、ロータ回転の高速化を可能にしている。
【0045】
これに対し、#303ステップでは、ロータが既に高速で回転する状況にあるため、#303ステップに示すように、モータ部2に供給される電流の目標電源電流値が例えば、5.9Aに設定された際に、PI制御で設定されるFET駆動Dutyの値を演算によって求め、このDutyを上限値Dmaxとして制御管理ユニット14に記憶する。
【0046】
尚、#303ステップは、上限値Dmaxを設定する処理形態の一例であり、目標電源電流値は5.9Aに限るものではなく任意の値を設定することが可能である。また、上限値Dmaxを求めるための処理として、複数の情報を記憶したテーブルデータから上限値Dmaxを求めても良い。
【0047】
このように設定される上限値Dmaxが、制限可能モードMbにおいてモータ部2に供給される電流値の限界値であり、後述するように、モータ部2に供給される電流が上限値Dmax(限界値)を超えることがない電流制御を可能にしている。
【0048】
また、#302、#303ステップにおいてFET駆動Dutyの上限値Dmaxが設定された後には、FET駆動Dutyの下限値Dmin(%)を演算により設定する(#304ステップ)。
【0049】
#304ステップでは、電源電圧値(12Vとしている)を所定の電圧値(BVとしている)で除し、30%を乗ずる演算により、下限値Dminを求めている。尚、この演算の結果、下限値Dmin≦25(%)である場合には、下限値Dmin=25(%)とする。
【0050】
#304ステップは、下限値Dminを設定する処理形態の一例であり、演算式は同ステップに記載したものに限るものではなく、演算に用いる数値も任意の値を用いることが可能である。
【0051】
次に、#102ステップで演算された目標値Dsig(FET駆動Duty)と上限値Dmaxとの比較の結果、Dsig<Dmaxが成立しない場合(#305のNo)で、更に、目標値Dsigと下限値Dminとの比較の結果、Dsig<Dminが成立しない場合(#306のNo)には、上限値DmaxをFET駆動Dutyに設定する(#305〜#307ステップ)。
【0052】
これにより、#302ステップ、又は、#303ステップで設定された上限値DmaxがFET駆動Dutyとして電流制御ユニット12に与えられ、この上限値Dmaxのディティ比でドライバユニット11が駆動される。
【0053】
これに対して、#305ステップにおいて、Dsig<Dmaxが成立した場合(#305のYes)には、更に、目標値Dsigと下限値Dminとを比較した結果、Dsig>Dminが成立しない場合(#308のNo)、又は、#306ステップにおいて、Dsig<Dminが成立した場合(#306のYes)には、下限値DminをFET駆動Dutyに設定する(#308、#309ステップ)。
【0054】
これにより、#304で設定された下限値DminがFET駆動Dutyとして電流制御ユニット12に与えられ、この下限値Dminでドライバユニット11が駆動される。
【0055】
更に、#308ステップにおいて、Dsig>Dminが成立する場合(#308のYes)には、目標値DsigをFET駆動Dutyに設定する(#310ステップ)。
【0056】
これにより、#102ステップで演算された目標値DsigがFET駆動Dutyとして電流制御ユニット12に与えられ、この目標値Dsigでドライバユニット11が駆動される。
【0057】
〔電圧制御と電流制御〕
この電動ポンプPでは、制御管理ユニット14において、外部から伝えられる目標情報や、温度センサ4の計測値に基づき、モータ部2に供給すべき電流の目標電圧に対応するFET駆動Dutyを設定する電圧制御によりポンプ部1において必要とするオイルの吐出量を得ている。
【0058】
制御管理ユニット14では、駆動モードが非制限モードMaにある場合には、必ず電圧制御が実行される。また、駆動モードが制限可能モードMbにある場合でも、
図4に示すフローチャートの#303ステップで設定された上限値Dmaxを超えないデューティ比の駆動信号がFET駆動Dutyに設定される場合には電圧制御が実行される。
【0059】
これに対して、
図2のフローチャートに示す#102ステップで設定される目標値Dsigが、
図4のフローチャートに示す#303ステップで設定された上限値Dmaxを超える場合には、この上限値Dmaxに等しいデューティ比の電圧を印加したときの駆動電流がFET駆動Dutyに設定される。これが電流制御である。
【0060】
つまり、
図4のフローチャートに示す#303ステップでは、目標電源電流(実施形態では5.9Aの電流)をモータ部2の界磁コイルに供給するためにPI制御を実行した際に設定されるデューティ比を上限値Dmaxとして演算しているため、目標値Dsigがどのような値であっても、FET駆動Dutyが上限値Dmaxを超えることはなく、電流制御が実現するのである。
【0061】
〔実施形態の作用効果〕
電圧制御として、例えば、直流電源3からの電流をパルス幅変調(PWM)によって目標とする電圧に変換してブラシレスDC型のモータ部2に供給する電圧制御により、ブラシレスDC型のモータ部2の回転速度の制御を容易に行える。
【0062】
また、例えば、ポンプ部1に作用する負荷が増大し、モータ部2の界磁コイルに供給される電流の電流値が上昇する状況では、電流制御を行うことによりモータ部2に供給する電流の電流値の上限が決まることになり、過剰な電流をモータ部に供給する不都合を抑制できる。
【0063】
この電動ポンプPでは、モータ部2のロータの回転速度に基づいて非制限モードMaと制限可能モードMbとの切換を行うため、モータ部2に作用する負荷が多少変動する状況でもモータ部2に対し、電圧制御により電流を継続して供給することが可能となり、モータ部の脱調の抑制できる。
【0064】
〔別実施形態〕
本発明は、上記した実施形態以外に以下のように構成しても良い(実施形態と同じ機能を有するものには、実施形態と共通の番号、符号を付している)。
【0065】
(a)実施形態では、モータ部2に供給される電流が上限値Dmaxを超えないように電流制御の制御形態が設定されていたが、例えば、モータ部2の界磁コイルに供給される電流値を検知する電流センサを備え、この電流センサの検出値に基づいて界磁コイルに供給する電流を制御するように電流制御の制御形態を設定することも可能である。
【0066】
この別実施形態(a)のように電流センサを用いる構成では、モータ部2の界磁コイルに対して現実に供給されている電流値を取得できるので、制御の精度が向上する。
【0067】
この別実施形態(a)の変形例として、実施形態と同様に電流センサを用いずに、例えば、このように電流制御を行う際に、例えば、入力SIGの値が、予め設定された値を超えた場合に電流制御を行うように、入力SIGの値に対応して上限値Dmaxと下限値Dminとを設定することにより電流制御を実現するように制御形態を設定しても良い。
【0068】
(b)
図4の#303ステップで上限値Dmaxを演算する際に、モータ部2の界磁コイルの温度から界磁コイルの抵抗値を演算に反映させることも考えられる。つまり、界磁コイルは温度によって電気抵抗が変化することから、例えば、温度に対する抵抗値をテーブルデータ等で参照するように処理形態を設定することにより、上限値Dmaxの値の精度を高めることが可能となる。