特許第6855768号(P6855768)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6855768メッシュ積層体及びコンクリート剥落防止材
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6855768
(24)【登録日】2021年3月22日
(45)【発行日】2021年4月7日
(54)【発明の名称】メッシュ積層体及びコンクリート剥落防止材
(51)【国際特許分類】
   B32B 5/26 20060101AFI20210329BHJP
   B32B 17/04 20060101ALI20210329BHJP
   B32B 27/12 20060101ALI20210329BHJP
   B32B 27/28 20060101ALI20210329BHJP
   E04G 23/02 20060101ALI20210329BHJP
   E04C 5/07 20060101ALI20210329BHJP
   D06M 17/06 20060101ALI20210329BHJP
【FI】
   B32B5/26
   B32B17/04 Z
   B32B27/12
   B32B27/28 101
   E04G23/02 D
   E04C5/07
   D06M17/06
【請求項の数】10
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-233778(P2016-233778)
(22)【出願日】2016年12月1日
(65)【公開番号】特開2018-89822(P2018-89822A)
(43)【公開日】2018年6月14日
【審査請求日】2019年6月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001232
【氏名又は名称】特許業務法人 宮▲崎▼・目次特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西堀 真治
【審査官】 増田 亮子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−019146(JP,A)
【文献】 国際公開第2016/093212(WO,A1)
【文献】 登録実用新案第3081633(JP,U)
【文献】 特開2003−105975(JP,A)
【文献】 特開2016−033108(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00−43/00
E04C 5/07
E04G 23/02
D06M 17/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の方向に延伸している繊維束により構成されるメッシュと、
前記メッシュを覆っており、熱可塑性樹脂により構成されている、被覆樹脂と、
前記被覆樹脂により前記メッシュに接着されている、不織布と、
を備える、メッシュ積層体であって、
前記メッシュの前記繊維束は、ガラス組成として、ZrOを12質量%以上、及びRO(RはLi、Na及びKから選択される少なくとも1種)を10質量%以上含有するガラス繊維束であり、
前記熱可塑性樹脂が、エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂であり、
前記メッシュ積層体を長さ方向の寸法及び幅方向の寸法がいずれも100mmとなるように切り出して得られた矩形状の試験片のうち、一方の面(但し、前記メッシュの片面にのみ前記不織布が設けられている場合は、前記メッシュ側の面)に粘度が25℃で3000mPa・sの酢酸ビニルエマルジョン10gを全体に均一に塗布し、その後、前記酢酸ビニルエマルジョンが塗布された面を垂直にして、25℃で3分間放置した際に、前記メッシュ積層体の下部に落下した前記酢酸ビニルエマルジョンが、前記酢酸ビニルエマルジョンの塗布量に対して質量分率で35%以下である、メッシュ積層体。
【請求項2】
前記メッシュの目間隔が、1mm以上、20mm以下の範囲内にある、請求項1に記載のメッシュ積層体。
【請求項3】
前記メッシュの目付が、70g/m以上、300g/m以下の範囲内にある、請求項1又は2に記載のメッシュ積層体。
【請求項4】
前記不織布の目付が、8g/m以上、200g/m以下の範囲内にある、請求項1〜のいずれか1項に記載のメッシュ積層体。
【請求項5】
前記不織布が、有機繊維により構成されている、請求項1〜のいずれか1項に記載のメッシュ積層体。
【請求項6】
前記有機繊維が、ポリエステル樹脂により構成されている、請求項に記載のメッシュ積層体。
【請求項7】
前記熱可塑性樹脂の溶融温度が、10℃以上、150℃以下の範囲内にある、請求項1〜のいずれか1項に記載のメッシュ積層体。
【請求項8】
コンクリート剥落防止材に用いられる、請求項1〜のいずれか1項に記載のメッシュ積層体。
【請求項9】
前記エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂は、JIS K6924−2(1997年)に記載の溶融温度が90℃以下であり、JIS K6924−1(1997年)に記載のメルトマスフローレイト値が100g/10分以上である、請求項1〜8のいずれか1項に記載のメッシュ積層体。
【請求項10】
マトリックス樹脂と、
請求項1〜のいずれか1項に記載のメッシュ積層体と、
を備える、コンクリート剥落防止材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メッシュ積層体及び該メッシュ積層体を用いたコンクリート剥落防止材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、建築物やトンネルなどのコンクリート構造物における剥落防止・部分補強対策として、コンクリート構造物の表面に補強材を貼り付ける方法が知られている。上記補強材としては、鋼板、繊維強化プラスチック、又はセメントモルタル若しくは樹脂等にガラス繊維メッシュや合成繊維メッシュが埋め込まれてなる構造体が用いられている。
【0003】
例えば、下記の特許文献1には、コンクリート構造物の補強材(剥落防止材)に用いられるガラス繊維メッシュが開示されている。上記ガラス繊維メッシュは、複数のストランドからなる主繊維束と、該主繊維束に絡ませた補助繊維束とを有している。上記主繊維束は、ガラス繊維により構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−291590号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のようなガラス繊維メッシュは、通常、下塗り樹脂や上塗り樹脂のようなマトリックス樹脂とともにコンクリート構造物に貼り合わせられ、それによってコンクリートの剥落防止や部分補強が図られている。しかしながら、特許文献1のようなガラス繊維メッシュをマトリックス樹脂とともにコンクリートの剥落防止材や部分補強材(以下、コンクリート剥落防止・部分補強材という場合があるものとする)に用いた場合、コンクリート構造物に貼り合せた後、マトリックス樹脂が乾燥するまでに、下方に樹脂が垂れ落ちる、いわゆる樹脂垂れが生じることがあった。また、現場施工では、マトリックス樹脂の塗布量を管理することが難しく、例えば施工しにくい箇所であれば、マトリックス樹脂の塗布量が多くなることがあり、厚みの制御も難しかった。
【0006】
本発明の目的は、コンクリート剥落防止・部分補強材に用いたときに、樹脂垂れを抑制するとともに、マトリックス樹脂の厚みやコンクリート剥落防止・部分補強材の厚みを管理しやすくすることを可能とする、メッシュ積層体及び該メッシュ積層体を用いたコンクリート剥落防止材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るメッシュ積層体は、複数の方向に延伸している繊維束により構成されるメッシュと、前記メッシュを覆っており、熱可塑性樹脂により構成されている、被覆樹脂と、前記被覆樹脂により前記メッシュに接着されている、不織布と、を備えることを特徴としている。
【0008】
本発明に係るメッシュ積層体は、前記メッシュの前記繊維束が、ガラス組成として、ZrOを12質量%以上、及びRO(RはLi、Na及びKから選択される少なくとも1種)を10質量%以上含有するガラス繊維束であることが好ましい。
【0009】
本発明に係るメッシュ積層体は、前記メッシュの目間隔が、1mm以上、20mm以下の範囲内にあることが好ましい。
【0010】
本発明に係るメッシュ積層体は、前記メッシュの目付が、70g/m以上、300g/m以下の範囲内にあることが好ましい。
【0011】
本発明に係るメッシュ積層体は、前記不織布の目付が、8g/m以上、200g/m以下の範囲内にあることが好ましい。
【0012】
本発明に係るメッシュ積層体は、前記不織布が、有機繊維により構成されていることが好ましい。前記有機繊維は、ポリエステル樹脂により構成されていることが好ましい。
【0013】
本発明に係るメッシュ積層体は、前記熱可塑性樹脂の溶融温度が、10℃以上、150℃以下の範囲内にあることが好ましい。
【0014】
本発明に係るメッシュ積層体は、前記熱可塑性樹脂が、エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂であることが好ましい。
【0015】
本発明に係るメッシュ積層体は、コンクリート剥落防止材に用いられることが好ましい。
【0016】
本発明に係るメッシュ積層体は、前記メッシュ積層体から切り出して得られた矩形状の試験片のうち、一方の面に粘度が25℃で3000mPa・sの酢酸ビニルエマルジョンを全体に均一に塗布し、その後、前記酢酸ビニルエマルジョンが塗布された面を垂直にして、25℃で3分間放置した際に、前記メッシュ積層体の下部に落下した前記酢酸ビニルエマルジョンが、前記酢酸ビニルエマルジョンの塗布量に対して質量分率で35%以下であることが好ましい。
【0017】
本発明に係るコンクリート剥落防止材は、マトリックス樹脂と、本発明に従って構成されるメッシュ積層体と、を備えることを特徴としている。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、コンクリート剥落防止・部分補強材に用いたときに、樹脂垂れを抑制するとともに、マトリックス樹脂の厚みやコンクリート剥落防止・部分補強材の厚みを管理しやすくすることを可能とする、メッシュ積層体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の第1の実施形態に係るメッシュ積層体を示す模式的平面図である。
図2図1のA−A線に沿う模式的断面図である。
図3】本発明の第2の実施形態に係るメッシュ積層体を示す模式的断面図である。
図4】本発明の一実施形態に係るコンクリート剥落防止材を示す模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、好ましい実施形態について説明する。但し、以下の実施形態は単なる例示であり、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。また、各図面において、実質的に同一の機能を有する部材は同一の符号で参照する場合がある。
【0021】
[メッシュ積層体]
(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態に係るメッシュ積層体を示す模式的平面図である。また、図2は、図1のA−A線に沿う模式的断面図である。なお、図1においては、図示の都合上、図2に示す被覆樹脂4を省略している。
【0022】
図1及び図2に示すように、メッシュ積層体1は、メッシュ2、被覆樹脂4、及び第1の不織布3を備える。
【0023】
本実施形態において、メッシュ2は、複数本のたて糸2a及び複数本のよこ糸2bにより構成されている。本実施形態においては、たて糸2a及びよこ糸2bが、ガラス繊維束である。上記ガラス繊維束は、ガラス組成として、ZrOを12質量%以上、及びRO(RはLi、Na及びKから選択される少なくとも1種)を10質量%以上含有している。なお、本発明においては、たて糸2a及びよこ糸2bの少なくとも一方がガラス繊維束であればよい。従って、たて糸2a及びよこ糸2bうち一方がガラス繊維束であれば、他方は合成繊維束であってもよい。また、メッシュ2は、複数の開口2cを有している。開口2cは、互いに隣り合うたて糸2a,2aと、互いに隣り合うよこ糸2b,2bとにより形成されている。
【0024】
メッシュ2は、被覆樹脂4により覆われている。被覆樹脂4は、熱可塑性樹脂により構成されている。本実施形態では、被覆樹脂4によりメッシュ2と第1の不織布3とが接着されている。より具体的には、被覆樹脂4を介して、第1の不織布3上に、メッシュ2が積層されている。それによって、メッシュ積層体1が構成されている。
【0025】
メッシュ積層体1においては、上記のように、被覆樹脂4によりメッシュ2と第1の不織布3とが接着されている。第1の不織布3は、繊維がランダムに配置され、各繊維径が一定でなく、かつメッシュ2と比較して、目間隔が小さい。そのため、メッシュ積層体1を、例えばコンクリート剥落防止・部分補強材に用いたときに、垂れ落ちそうになった樹脂を第1の不織布3により吸収することができ、樹脂垂れを抑制することができる。樹脂垂れを抑制することができるので、マトリックス樹脂の厚みやコンクリート剥落防止・部分補強材の厚みを管理しやすくすることが可能となる。また、メッシュ積層体1は、樹脂垂れを抑制することができるので、コンクリート剥落防止・部分補強材に好適に用いることができる。なお、図2では、メッシュ積層体1は、一部が被覆樹脂4により覆われているが、全体が被覆樹脂4により覆われていてもよい。
【0026】
また、メッシュ積層体1では、上記のようにメッシュ2に第1の不織布3が接着されているので、メッシュ積層体1を巻き取って保管する際に生じる、メッシュ積層体1同士のブロッキングを抑制することができる。また、巻回体からメッシュ積層体1を巻き出す際においても、メッシュ積層体1同士のブロッキングを抑制することができる。これは、内層側に巻き取られたメッシュ2と、外層側に巻き取られたメッシュ2との間に第1の不織布3が存在することで、メッシュを巻き取る際に、内層側と外層側のメッシュ2が直接触れないためである。
【0027】
本発明においては、メッシュ2の目間隔が、1mm以上、20mm以下の範囲内にあることが好ましい。メッシュ2の目間隔が上記下限以上である場合、コンクリート構造物の表面状態をより一層確認しやすくなる。他方、メッシュ2の目間隔が上記上限以下である場合、メッシュ積層体1の機械的強度(引張強度)及び押し抜き特性をより一層向上させることができ、コンクリート構造物への補強効果をより一層高めることができる。メッシュ2の目間隔の上限は、15mmであることがより好ましく、下限は、5mmであることがより好ましい。
【0028】
なお、上記目間隔とは、メッシュ2を構成する隣り合うガラス繊維束間の空隙の目間隔の平均値を示すものとする。また、本明細書において、目間隔とは、一方のガラス繊維束の断面の中心から、他方のガラス繊維束の断面の中心までの寸法のことをいう。本実施形態においては、互いに隣り合うたて糸2a,2a間において、一方のたて糸2aの断面の中心から、他方のたて糸2aの断面の中心までの寸法のことをいう。また、互いに隣り合うよこ糸2b,2b間において、一方のよこ糸2bの断面の中心から、他方のよこ糸2bの断面の中心までの寸法のことをいう。本実施形態のように、たて糸2a及びよこ糸2bの双方がガラス繊維束である場合、たて糸2a及びよこ糸2b双方の目間隔が上記範囲内にあることが好ましい。
【0029】
本発明においては、メッシュ2の目付が、70g/m以上、300g/m以下の範囲内にあることが好ましい。また、メッシュ2の目付は、より好ましくは120g/m以上、250g/m以下である。メッシュ2の目付が上記下限以上である場合、メッシュ積層体1の機械的強度(引張強度)及び押し抜き特性をより一層高めることができ、コンクリート構造物への補強効果をより一層高めることができる。他方、メッシュ2の目付が上記上限以下である場合、コンクリート構造物の表面状態をより一層確認しやすくなる。
【0030】
本発明においては、第1の不織布3の目付が、8g/m以上、200g/m以下の範囲内にあることが好ましい。また、第1の不織布3の目付は、より好ましくは10g/m以上、100g/m以下である。第1の不織布3の目付が上記下限以上である場合、樹脂垂れをより一層抑制することができる。他方、第1の不織布3の目付が上記上限以下である場合、コンクリート構造物の表面状態をより一層確認しやすくなる。
【0031】
また、本発明においては、第1の不織布3における複数の開口の開口径の平均値が、メッシュ2における複数の開口2cの開口径の平均値よりも小さいことが好ましい。なお、開口径とは、各々の開口の面積を求め、当該開口を円と想定した際における直径のことをいう。この場合、樹脂垂れをより一層抑制することができる。なお、第1の不織布3における複数の開口は、図1及び図2において図示を省略している。
【0032】
本発明に係るメッシュ積層体は、メッシュ積層体を、長さ方向の寸法及び幅方向の寸法が100mmとなるように切り出して得られた矩形状の試験片のうち、一方の面に粘度が25℃で3000mPa・sの酢酸ビニルエマルジョン10gを全体に均一に塗布し、その後、酢酸ビニルエマルジョンが塗布された面を垂直にして25℃で3分間放置した際に、メッシュ積層体の下部に落下した酢酸ビニルエマルジョンが、上記酢酸ビニルエマルジョンの塗布量に対して質量分率で35%以下であることが好ましく、質量分率で30%以下であることがより好ましい。これにより、樹脂垂れをより一層効率的に抑制することができる。なお、酢酸ビニルエマルジョンは、例えば、酢酸ビニル樹脂系エマルジョン系接着剤を用いてもよい。
【0033】
以下、メッシュ積層体1などの本発明のメッシュ積層体を構成する各材料の詳細について説明する。
【0034】
(メッシュ)
本発明において、メッシュは、複数の方向に延伸している繊維束により構成される。好ましくは、メッシュの繊維束が、ガラス組成として、ZrOを12質量%以上、及びRO(RはLi、Na及びKから選択される少なくとも1種)を10質量%以上含有するガラス繊維束である。なお、上述の第1の実施形態においては、たて糸2a及びよこ糸2bが、ガラス繊維束である。
【0035】
このようなガラス繊維束としては、例えば、ガラス組成として、質量%で、SiO 54〜65%、ZrO 12〜25%、LiO 0〜5%、NaO 10〜17%、KO 0〜8%、R’O(ただし、R’は、Mg、Ca、Sr、Ba、Znを表す)0〜10%、TiO 0〜7%、Al 0〜2%を含み、好ましくは、質量%で、SiO 57〜64%、ZrO 14〜24%、LiO 0.5〜3%、NaO 11〜15%、KO 1〜5%、R’O(ただし、R’は、Mg、Ca、Sr、Ba、Znを表す)0.2〜8%、TiO 0.5〜5%、Al 0〜1%を含むものを用いることができる。
【0036】
このように、本発明においては、メッシュが、ガラス組成として、ZrOを12質量%以上含有しているガラス繊維束を有しているので、耐アルカリ性に優れている。そのため、セメント中などに存在するアルカリ成分や、コンクリート表面から析出するアルカリ成分によりメッシュが浸食され難い。従って、メッシュが劣化することを防止することができる。
【0037】
もっとも、ZrOを12質量%以上含有しているガラスは、溶融し難いが、本発明においては、さらにROを10質量%以上含有するので、ZrOを12質量%以上含有していても溶融性に優れている。なお、ROが10質量%以上とは、ガラス繊維束中におけるLiO、NaO及びKOの含有量の総和が、10質量%以上であることをいう。
【0038】
ガラス繊維束は、例えば、数十本から数百本程度のガラス繊維を束ねたものとすることができる。ガラス繊維束は、上記ガラス繊維の表面にサイジング剤を塗布し、集束させ、サイジング剤を乾燥させることにより得られる。
【0039】
サイジング剤は、水等の溶媒、樹脂を含むことが好ましい。これら樹脂はエマルジョン状態であることが望ましい。
【0040】
このようなサイジング剤を構成する樹脂としては、例えば、ポリエステル樹脂が挙げられる。ポリエステル樹脂は、飽和ポリエステル樹脂であってもよく、不飽和ポリエステル樹脂であってもよい。また、酢酸ビニル系樹脂や、ウレタン系樹脂であってもよい。
【0041】
また、サイジング剤は、それ以外に、例えばシランカップリング剤を含んでいてもよい。上記シランカップリング剤としては、具体的には、アミノシラン、エポキシシラン、ビニルシラン、アクリルシラン、クロルシラン、メルカプトシラン又はウレイドシランなどが使用できる。なお、シランカップリング剤を添加することで、ガラス繊維束の表面を保護する効果が生まれ、引張強度等の機械的強度をさらに一層向上させることができる。本発明では、樹脂を含浸させることから、ビニルシランあるいはアミノシランが好ましい。
【0042】
また、上記サイジング剤は、上述のシランカップリング剤以外に、潤滑剤、ノニオン系の界面活性剤又は帯電防止剤等の各成分を含むことができる。
【0043】
また、ガラス繊維束の番手は、特に限定されないが、100〜3000texであることが好ましい。ガラス繊維束の番手が上記の範囲内にある場合、製織可能範囲であり、メッシュ積層体の押し抜き特性をより一層高めることができ、コンクリート構造物への補強効果をより一層高めることができる。
【0044】
(被覆樹脂)
被覆樹脂は、熱可塑性樹脂により構成されている。被覆樹脂は、メッシュと第1の不織布とを接着させる機能を果たしている。
【0045】
上記熱可塑性樹脂としては、特に限定されないが、溶融温度(融点)が、10℃以上、150℃以下の範囲内にある樹脂を用いることが好ましい。より好ましくは、軟化点溶融温度が40℃以上、100℃以下の樹脂であり、さらに好ましくは、軟化点溶融温度が60℃以上、80℃以下の樹脂である。溶融温度が上記範囲内にある樹脂を用いた場合、メッシュと第1の不織布との接着性をより一層高めることができる。
【0046】
具体的に、熱可塑性樹脂としては、特に限定されず、エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂、ポリビニルアルコール、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂などを用いることが好ましい。なかでも、メッシュと第1の不織布との接着性をより一層高める観点から、熱可塑性樹脂は、エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂であることが好ましい。
【0047】
また、エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂としては、特に限定されないが、JIS K6924−2(1997年)に記載の溶融温度が90℃以下であり、JIS K6924−1(1997年)に記載のメルトマスフローレイト値が100g/10分以上であるエチレン−酢酸ビニル共重合体であることが好ましい。このような熱可塑特性を有する樹脂であると、第1の不織布とメッシュの間に樹脂を配置させ、ホットローラーでプレスすることにより、これらの一体化が簡易に行える。
【0048】
(第1の不織布)
第1の不織布の材料としては、特に限定されないが、有機繊維であることが好ましい。第1の不織布に有機繊維を用いた場合、第1の不織布における樹脂の吸収性をより一層高めることができ、樹脂垂れをより一層抑制することができる。もっとも、第1の不織布は、繊維を織らずに絡み合わせたシート状のものであればよく、例えば、綿、羊毛、麻、パルプ、絹などの植物繊維、ガラスなどの鉱物繊維、レーヨン、ナイロン、有機繊維からなる不織布、これらの繊維からなる繊維ペーパーなどであってもよい。
【0049】
有機繊維の材料としては、特に限定されず、例えば、ポリエステル樹脂、ポリプロピレン樹脂、アクリル樹脂、ビニロン樹脂、アラミド樹脂が挙げられる。なかでも、有機繊維は、ポリエステル樹脂により構成されていることが好ましい。この場合、第1の不織布における樹脂の吸収性をより一層高めることができ、樹脂垂れをさらに一層抑制することができる。以下、メッシュ積層体1の製造方法の一例について説明する。
【0050】
(メッシュ積層体の製造方法)
メッシュ積層体1の製造方法においては、まず、以下に示す方法でメッシュ2を用意する。
【0051】
初めに、ガラス溶融炉内に投入されたガラス原料を溶融して溶融ガラスとし、溶融ガラスを均質な状態とした後に、ブッシングに付設された耐熱性を有するノズルから溶融ガラスを引き出す。その後、引き出された溶融ガラスを冷却してガラス繊維モノフィラメント(ガラス繊維)とする。
【0052】
次に、このガラス繊維の表面に、サイジング剤を塗布する。サイジング剤が均等に塗布された状態で、そのガラス繊維を数百から数千本引き揃えて集束し、乾燥させてガラス繊維束とする。
【0053】
次に、得られた複数のガラス繊維束(例えばよこ糸2b)を一方向に等間隔で並べた状態で、被覆樹脂4を構成する熱可塑性樹脂を、例えば遠心スプレー法により塗布する。このように一方向に走行するガラス繊維束に溶融した被覆樹脂4をスプレーするため、被覆樹脂4がガラス繊維束全体にわたってめぐらされる。その際、熱可塑の特性により、被覆樹脂4は、常温では固化状態になり、熱可塑性樹脂ののり布状態になる。続いて、上記熱可塑性樹脂(被覆樹脂4)が塗布された複数のガラス繊維束(例えばよこ糸2b)とは異なる方向において等間隔で並べられた複数のガラス繊維束(例えばたて糸2a)を、上記熱可塑性樹脂(被覆樹脂4)を介して貼り合わせる。貼り合わせ後、ホットプレスにより、再加熱し、被覆樹脂4を再溶融した状態で、上記方向の異なるガラス繊維束同士であるたて糸2a及びよこ糸2bの交差部を接着し、それによって、被覆樹脂4により覆われたメッシュ2を得る。この場合、メッシュ2は、被覆樹脂4により完全に覆われていなくてもよく、少なくとも一部が被覆樹脂4により覆われていればよい。
【0054】
このとき、被覆樹脂4の塗布量は、5g/m以上、100g/m以下であることが好ましい。より好ましくは、10g/m以上、50g/m以下である。被覆樹脂4の塗布量が上記下限以上である場合、上記方向の異なるガラス繊維束同士の交差部でより一層十分に接着させることができる。被覆樹脂4の塗布量が上記上限以下である場合、被覆樹脂4が熱可塑性樹脂であるがゆえに発生しやすい巻物としたときのブロッキングの発生をより一層確実に抑えることができる。
【0055】
なお、被覆樹脂4を構成する熱可塑性樹脂は、浸漬法などの他の方法により塗布してもよい。
【0056】
次に、メッシュ2を、被覆樹脂4により第1の不織布3に接着させる。具体的には、例えば、少なくとも一部が被覆樹脂4で覆われたメッシュ2を第1の不織布3の上に重ね合わせ、ホットローラーでプレスすることにより被覆樹脂4を溶融させ、メッシュ2と第1の不織布3とを接着させる。それによって、メッシュ積層体1を得ることができる。なお、ホットローラーによるプレスの温度は、例えば、130〜150℃とすることができる。この場合、他の不織布をメッシュ2の反対側に配置して、メッシュ2を不織布によってサンドイッチすることも可能である。
【0057】
本明細書において、メッシュ2を覆っており、熱可塑性樹脂により構成されている被覆樹脂4には、メッシュ2と第1の不織布3の中間層に、上記熱可塑性樹脂を連続繊維となるように遠心スプレー法により噴霧した熱可塑性樹脂ののり布を配置することも含まれる。この場合、のり布の連続繊維としては特にガラス繊維束である必要はなく、ポリエステルや、レーヨンなどの合成繊維であってもよい。また、本発明で使用されている被覆樹脂4を使用しているため、ホットローラーによるプレスにより容易にメッシュ2と第1の不織布3を接着することは可能であり、メッシュ2は被覆樹脂4により被覆されている必要はない。またこの熱可塑性樹脂ののり布を第1の不織布3の上に配置して、さらに他の不織布を貼り合わせたり、他のシートを貼り合わせたりすることは可能である。上記熱可塑性樹脂ののり布は、メッシュ2と第1の不織布3以外にも耐熱性のあるシートとは接着可能である。
【0058】
(第2の実施形態)
図3は、本発明の第2の実施形態に係るメッシュ積層体を示す模式的断面図である。図3に示すように、メッシュ積層体21では、メッシュ2の第1の不織布3とは反対側の主面が、被覆樹脂4により、第2の不織布5に接着されている。より具体的には、第1の不織布3上に、被覆樹脂4を介してメッシュ2が積層されており、さらにメッシュ2上に、被覆樹脂4を介して第2の不織布5が積層されている。第2の不織布5は、第1の不織布3と同じ材料により構成されていてもよいし、異なる材料により構成されていてもよい。第2の不織布5は、上述した第1の不織布3と同じ材料により構成することができる。その他の点は、第1の実施形態と同様である。
【0059】
本発明においては、メッシュ積層体1のようにメッシュ2の一方側の主面にのみ不織布が接着されていてもよいし、メッシュ積層体21のようにメッシュ2の両側の主面に不織布が接着されていてもよい。メッシュ積層体21のようにメッシュ2の両側に不織布が接着されている場合、不織布によってより一層樹脂を吸収することができ、より一層樹脂垂れを抑制することができ、厚みの管理もしやすくなる。
【0060】
[コンクリート剥落防止材]
図4は、本発明の一実施形態に係るコンクリート剥落防止材を示す模式的断面図である。図4に示すように、コンクリート剥落防止材31は、メッシュ積層体1と、マトリックス樹脂12とを備える。メッシュ積層体1は、上述の第1の実施形態に係るメッシュ積層体1である。メッシュ積層体1は、マトリックス樹脂12の内部に埋め込まれている。コンクリート剥落防止材31は、コンクリート躯体13上に設けられている。
【0061】
このように、コンクリート剥落防止材31においては、メッシュ積層体1が、マトリックス樹脂12の内部に埋め込まれているので、メッシュ積層体1の第1の不織布3が樹脂を保持し、樹脂垂れが生じ難くなる。
【0062】
なお、メッシュ積層体1においては、本実施形態のように、第1の不織布3側がコンクリート躯体13側に配置されていてもよいし、メッシュ2側がコンクリート躯体13側に配置されていてもよい。また、メッシュ2の両側に不織布が配置されたメッシュ積層体21が、マトリックス樹脂12の内部に埋め込まれていてもよい。
【0063】
マトリックス樹脂12としては、特に限定されず、例えば、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂又はシリコン樹脂が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、複数を併用してもよい。
【0064】
コンクリート剥落防止材31は、例えば、コンクリート躯体13上にプライマー及び下塗り樹脂を塗布した後、メッシュ積層体1を貼り合わせることにより形成することができる。また、メッシュ積層体1を貼り合わせた後、さらに上塗り樹脂を塗布してもよい。いずれの場合においても、コンクリート剥落防止材31は、メッシュ積層体1を備えているので、樹脂垂れを抑制することができる。
【0065】
以下、本発明について、具体的な実施例に基づいて、さらに詳細に説明する。本発明は、以下の実施例に何ら限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において適宜変更して実施することが可能である。
【0066】
(実施例1〜3)
まず、SiO 57.9質量%、ZrO 17.2質量%、LiO 0.5質量%、NaO 14.8質量%、KO 1.3質量%、CaO 0.9質量%、TiO 7.4質量%の組成を有するガラスとなるように原料を調製し、溶融した溶融ガラスを、数百〜数千のノズルを有するブッシングからガラス繊維を引き出した。
【0067】
次に、得られたガラス繊維の表面に、ビニルシラン、飽和ポリエステル樹脂、及び潤滑
剤を水に分散させたサイジング剤を、強熱減量が0.8質量%となるようにアプリケータ
ーにより調製して塗布し、ガラス繊維を束ねた後、サイジング剤を乾燥させることでガラ
ス繊維束を製造した。
【0068】
次に、図1に示すメッシュ2を作製した。具体的には、上記のようにして得られた複数本のガラス繊維束をたて糸として一定方向に配置するとともに、熱可塑性樹脂であるエチレン−酢酸ビニル共重合樹脂を塗布し、その後、たて糸に対して垂直方向に配置されたよこ糸としての複数本のガラス繊維束を貼り合せることにより、被覆樹脂により覆われたメッシュを得た。なお、実施例1〜3で得られたメッシュの目付及び目間隔を表1に示す。
【0069】
次に、ポリエステル繊維からなる1枚の不織布をメッシュに貼り合わせ、130℃のホットローラーによりプレスすることで、メッシュ積層体を得た。なお、実施例1〜3で使用した不織布の目付は表1に示す。
【0070】
(比較例1,2)
比較例1では、不織布を貼り合せなかったこと以外は、実施例1と同様にしてメッシュを得た。また、比較例2では、不織布を貼り合わせなかったこと以外は、実施例3と同様にしてメッシュを得た。
【0071】
(試料の特性評価)
樹脂垂れ量の測定;
実施例1〜3で得られたメッシュ積層体及び比較例1,2で得られたメッシュにおける樹脂垂れ量は、以下の方法により測定した。まず、メッシュ積層体及びメッシュを、幅100mm及び長さ100mmとなるように切断して試験片を作製した。なお、各実施例、及び各比較例につき5枚ずつの試験片を採取した。メッシュ積層体及びメッシュの試験片につき、気温25℃の実験室において、セメント板の上に置いた試験片の一方の面(メッシュ積層体に関しては、メッシュ側の面)に、酢酸ビニル樹脂系エマルジョン系接着剤(コニシ株式会社製、25℃での粘度:3000mPa・s)10gを、刷毛により塗布した。その後、セメント板そのものを持ち上げて、メッシュ積層体及びメッシュの面が、地面に対して垂直となるように3分間保持した。なお、メッシュ積層体及びメッシュが貼り付けられたセメント板の下方には、接着剤を回収するためのパッドを準備した。3分経過後、パッド上の接着剤を回収し、接着剤の質量から樹脂垂れ量を測定した。また、パッド上における接着剤の質量の上記接着剤塗布量全体に対する質量分率から、樹脂垂れ率を測定した。結果を、下記の表1に示す。
【0072】
【表1】
【符号の説明】
【0073】
1,21…メッシュ積層体
2…メッシュ
2a…たて糸
2b…よこ糸
2c…開口
3,5…第1,第2の不織布
4…被覆樹脂
12…マトリックス樹脂
13…コンクリート躯体
31…コンクリート剥落防止材
図1
図2
図3
図4