(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述の位置調整方法では、上部構造と下部構造との間に配置された設備配管や配線が干渉して治具の設置が困難な場合があった。また、建物に反力用の基礎(免震基礎やダンパー基礎など)が設けられていない場合は、治具を取り付けることができないおそれがあった。また、履歴型ダンパーを多く設置している場合は非常に大きな力が必要となり、元の位置(原点)に戻せないおそれがあった。
【0005】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、残留変位を簡易に且つ確実に解消することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる目的を達成するため、本発明の免震建築物の位置調整方法は、
上部構造と下部構造との間に免震装置が設けられた免震建築物の位置調整方法であって、
前記免震装置は、
複数の上ボルト孔を有し、複数の上ボルトによって前記上部構造に取り付けられた上フランジと、
前記複数の上ボルト孔にそれぞれ対応する複数の下ボルト孔を有し、複数の下ボルトによって前記下部構造に取り付けられた下フランジと、
前記上フランジと前記下フランジとの間に設けられた支承部材と、
を備えており、
前記複数の上ボルト孔のうちの一部の上ボルト孔の前記上ボルトを取り外して、当該一部の上ボルト孔を利用して前記上部構造に上反力部材を取り付ける第1取付工程と、
前記一部の上ボルト孔に対応する一部の下ボルト孔の前記下ボルトを取り外して、当該一部の下ボルト孔を利用して前記下部構造に下反力部材を取り付ける第2取付工程と、
前記上反力部材と前記下反力部材とをジャッキで拡張する位置調整工程と、
を
有し、
前記位置調整工程において、
水平面内における、前記下反力部材の反力板に対して前記上反力部材の反力板の位置している方向が、位置調整の方向であり、
前記上反力部材及び前記下反力部材のうちの一方の反力板に設けられた前記ジャッキが、前記上反力部材及び前記下反力部材のうちの他方の反力板を押して前記上反力部材を前記位置調整の方向へ移動させることによって、前記下部構造に対する前記上部構造の残留変位を調整する
ことを特徴とする。
このような免震建築物の位置調整方法によれば、反力用の基礎や擁壁が不要であり、また、上フランジへの上反力部材の取付けや、下フランジへの下反力部材の取り付けも簡易であるので、残留変位を簡易に且つ確実に解消することができる。
【0007】
かかる免震建築物の位置調整であって、前記一部は、前記支承部材の平面中心を通る第1方向の対向する部位であり、前記上反力部材、前記下反力部材、及び、前記ジャッキは、それぞれ、前記第1方向に一対設けられ、前記位置調整工程では、一対の前記上反力部材と一対の前記下反力部材とを一対の前記ジャッキで前記第1方向と交差する第2方向に拡張することが望ましい。
このような免震建築物の位置調整方法によれば、第2方向への位置調整を確実に行うことができる。
【0008】
かかる免震建築物の位置調整方法であって、前記位置調整工程の後、前記支承部材の前記平面中心を通る前記第2方向の対向する部位の別の上ボルト孔の前記上ボルトを外して、当該別の上ボルト孔を利用して前記上部構造に一対の前記上反力部材を取り付ける第3取付工程と、前記別の上ボルト孔に対応する別の下ボルト孔の前記下ボルトを取り外して、当該別の下ボルト孔を利用して前記下部構造に一対の前記下反力部材を取り付ける第4取付工程と、一対の前記上反力部材と一対の前記下反力部材とを一対の前記ジャッキで前記第1方向に拡張する第2位置調整工程と、をさらに有することが望ましい。
このような免震建築物の位置調整方法によれば、第2方向の残留変位に加えて第1方向の残留変位も解消することができ、これにより水平面内における残留変位を完全に解消することができる。すなわち、原点位置に復帰させることができる。
【0009】
かかる免震建築物の位置調整方法であって、前記免震装置は、前記上部構造と前記下部構造との間に複数設けられており、前記上部構造を動かすのに必要な水平力の大きさに応じて、前記上反力部材及び前記下反力部材を取り付ける前記免震装置を定めることが望ましい。
このような免震建築物の位置調整方法によれば、より簡易化を図ることができる。また、履歴型ダンパーなどが多数設置された場合(大きな水平力が必要な場合)でも位置調整を行うことができる。
【0010】
かかる免震建築物の位置調整方法であって、前記ジャッキは油圧ジャッキであり、前記免震建築物に複数配置されており、単一のポンプから複数の前記ジャッキにオイルを供給することが望ましい。
このような免震建築物の位置調整方法によれば、免震建築物の複数個所の位置調整を同時に行うことができるので、手間がかからず位置調整しやすい。
【0011】
かかる免震建築物の位置調整方法であって、前記上反力部材の取り付け、及び、前記下反力部材の取り付けは仮ボルトを用いて行うことが望ましい。
このような免震建築物の位置調整方法によれば、位置調整時の応力によるボルト(上ボルト及び下ボルト)の変形や破断を防止できる。
【0012】
また、かかる目的を達成するため、本発明の免震建築物の位置調整構造は、
上部構造と下部構造との間に免震装置が設けられた免震建築物の位置調整構造であって、
前記免震装置は、
複数の上ボルト孔を有し、複数の上ボルトによって前記上部構造に取り付けられた上フランジと、
前記複数の上ボルト孔にそれぞれ対応する複数の下ボルト孔を有し、複数の下ボルトによって前記下部構造に取り付けられた下フランジと、
前記上フランジと前記下フランジとの間に設けられた支承部材と、
を備えており、
前記複数の上ボルト孔のうちの
一部の上ボルト孔を利用して前記上部構造に取り付けられた上反力部材と、
前記一部の上ボルト孔に対応する一部の下ボルト孔を利用して前記下部構造に取り付けられた下反力部材と、
前記上反力部材と前記下反力部材とを拡張するジャッキと、
を
備え、
前記ジャッキは、前記上反力部材及び前記下反力部材のうちの一方の反力板に設けられ、
水平面内における、前記下反力部材の反力板に対して前記上反力部材の反力板の位置している方向が、位置調整の方向であり、
前記ジャッキが、前記上反力部材及び前記下反力部材のうちの他方の反力板を押して前記上反力部材を前記位置調整の方向へ移動させることによって、前記下部構造に対する前記上部構造の残留変位を調整可能に構成されていることを特徴とする。
このような免震建築物の位置調整構造によれば、残留変位を簡易に且つ確実に解消することができる。
【0013】
かかる免震建築物の位置調整構造であって、前記ジャッキは油圧ジャッキであり、前記免震建築物に複数配置されており、複数の前記ジャッキにオイルを供給する単一のポンプを備えることが望ましい。
このような免震建築物の位置調整構造によれば、手間がかからず位置調整しやすい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、残留変位を簡易に且つ確実に解消することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一実施形態について図面を参照しつつ説明する。
【0017】
===実施形態===
<<免震建築物の構成について>>
図1A及び
図1Bは、本実施形態の免震建築物の構成を示す概略説明図である。
図1Aは上面図であり、
図1Bは側面図である。また、
図2A及び
図2Bは、免震装置10の構成を示す図である。
図2Aは上フランジ11を下から見た矢視図であり、
図2Bは免震装置10の側面図である。なお、
図2Aでは上ボルト21の図示を省略している。また、
図2Aに示す点Cは、上フランジ11及び積層体12の平面中心である。以下の説明では、図に示すように各方向を設定する。すなわち、水平面において直交する2方向をそれぞれX方向、Y方向とする。また、X方向及びY方向に直交する方向(すなわち鉛直方向)をZ方向とする。また、各方向において、図に示すように一方側と他方側を定めている。
【0018】
本実施形態の免震建築物は、上部構造1と下部構造3との間に介設されて上部構造1を免震支承する免震装置10を備えている。
【0019】
上部構造1は、例えば、建物、床、大型装置等の構造物である。
【0020】
下部構造3は、上部構造1を支えて荷重を地盤に伝達させる構造物であり、上部構造1の下方に形成されている。
【0021】
免震装置10は、上部構造1と下部構造3との間に複数(本実施形態では
図1Aに示すように6個)配置されており、これらの各免震装置10は、それぞれの位置において上部構造1の重量を分担支持している。
【0022】
免震装置10は、積層ゴムタイプのものであり、円形のゴムと内部鋼板を交互に積み重ねた円柱状の積層体12(支承部材に相当)を上フランジ11と下フランジ13で挟んで構成されている。換言すると、積層体12は上フランジ11と下フランジ13との間に設けられている。
【0023】
図2Aに示すように、上フランジ11には複数(本実施形態では16個)の上ボルト孔11aが設けられている。各上ボルト孔11aは、上フランジ11のうちの積層体12よりも外側の部位において周方向に並んでおり、それぞれ、上フランジ11を面の法線方向(Z方向)に貫通している。そして、上フランジ11は、
図2Bに示すように、複数(ここでは16個)の上ボルト21によって上部構造1に取り付けられて固定されている。
【0024】
下フランジ13も上フランジ11と同一の構成である。つまり、下フランジ13には複数(本実施形態では16個)の下ボルト孔13aが設けられており、16個の下ボルト孔13aは、それぞれ、上フランジ11の上ボルト孔11aと対応している。各下ボルト孔13aは、下フランジ13のうちの積層体12よりも外側の部位において周方向に並んでおり、それぞれ、下フランジ13を面の法線方向(Z方向)に貫通している。そして、下フランジ13は、
図2Bに示すように、複数(ここでは16個)の下ボルト23によって下部構造3に取り付けられて固定されている。なお、本実施形態では、上ボルト孔11aと下ボルト孔13aは同じサイズ(同径)であり、上ボルト21及び下ボルト23に同じボルトを用いている。ただし、これには限らず、上ボルト孔11aと下ボルト孔13aの径が異なっていてもよい。その場合、上ボルト21として上ボルト孔11aに適合(螺合)するものを用い、下ボルト23として下ボルト孔13aに適合(螺合)するものを用いればよい。
【0025】
以上の構成により免震装置10は、地震等が発生した場合、上部構造1と下部構造3との相対変位による水平力に応じて、積層体12が水平方向に剪断変形(上フランジ11と下フランジ13とが水平方向に相対変位)する。これにより、上部構造1の水平振動を長周期化し、振動を低減させる。
【0026】
なお、免震装置10は、上部構造1を支承するのみならず、下部構造3に対する上部構造1の位置を元の状態(以下、原点ともいう)に戻す機能(復元機能)を備えている。しかしながら、地震の収束後において、上部構造1の位置が原点からずれたままになることがある。この位置ずれ(以下、残留変位という)が大きい場合、残留変位を解消すべく位置調整を行うことが必要になる。
【0027】
例えば、上部構造1の周囲を囲むように、下部構造3に擁壁が設けられていれば、上部構造1と擁壁との間に残留変位解消用の治具(油圧ジャッキ等)を設置して、擁壁から反力を得ることによって上部構造1を押して位置を調整することができる。しかしながら、擁壁の強度が弱い場合や、上部構造1の荷重が大きい場合には、擁壁の補強が必要になるおそれがあった。また、免震層が地上にある中間層免震などの場合にはこのような擁壁を用いた位置調整はできなかった。
【0028】
また、例えば中間層免震の場合、反力用の基礎(免震基礎やダンパー基礎)に治具を設置して位置調整を行うことができるが、設備配管や配線が干渉して治具の設置が困難な場合があった。また、反力用の基礎が構築されていない場合では、治具を取りつけることができず残留変位を解消できなかった。また、履歴型ダンパーを多く設置している場合は非常に大きな力が必要となり、元の位置(原点)に戻せないおそれがあった。
【0029】
そこで、本実施形態では、後述する位置調整用治具30を用いることにより、位置調整の簡易化を図るとともに、残留変位を確実に解消するようにしている。
【0030】
<<位置調整用治具について>>
図3Aは本実施形態の位置調整用治具30の側面図であり、
図3Bは
図3AのA−A断面図である。
【0031】
本実施形態の位置調整用治具30は、上下一対の反力部材(上反力部材40及び下反力部材50)と、油圧ジャッキ60とを備えている。
【0032】
上反力部材40は、免震装置10の上フランジ11に取り付けられる部材であり、固定部42と反力板44を備えている。
【0033】
固定部42は、上フランジ11の下面に当接し、上フランジ11を介して上部構造1にボルト固定される部位であり、平面形状が矩形に形成されている。本実施形態の固定部42の長手方向の長さは上フランジ11の隣接する上ボルト孔11aの間隔よりも長く、固定部42には上ボルト孔11aと同サイズのボルト孔42aが2個設けられている。2個のボルト孔42aは、それぞれ固定部42の幅方向の中央に設けられている。
【0034】
反力板44は、固定部42に対して直角に立設された部材である。
【0035】
下反力部材50は、免震装置10の下フランジ13に取り付けられる部材であり、上反力部材40と同様に、固定部42と反力板44を備えている。
【0036】
固定部52は、下フランジ13の上面に当接し、下フランジ13を介して下部構造3にボルト固定される部位であり、平面形状が矩形に形成されている。本実施形態の固定部52の長手方向の長さは下フランジ13の隣接する下ボルト孔13aの間隔よりも長く、固定部52には下ボルト孔13aと同サイズのボルト孔52aが2個設けられている。2個のボルト孔52aは、それぞれ固定部52の幅方向の中央に設けられている。
【0037】
反力板54は、固定部52に対して直角に立設された板状の部材である。
【0038】
油圧ジャッキ60は、下反力部材50の反力板54に設けられており、先端が上反力部材40の反力板44と対向するように配置される(
図3A参照)。そして、油圧ジャッキ60が反力板44を押すことによって上反力部材40の位置を移動させる。つまり、油圧ジャッキ60(及び反力板54)に対して、反力板44の位置している方向が位置調整の方向となる。
【0039】
なお、本実施形態では、油圧ジャッキ60はZ方向に2個並んで設けられている。この2個の油圧ジャッキ60には、単一のポンプ62から分岐チューブ61を通ってオイルが供給される。これにより、2個の油圧ジャッキ60は同時に動作する。
【0040】
<<位置調整方法について>>
図4は、本実施形態の位置調整方法のフロー図である。また、
図5A及び
図5Bは、本実施形態における残留変位の説明図であり、
図6A〜
図6Cは、位置調整の様子を示す概略図である。また、
図7Aは、
図6Aにおける位置調整用治具30の取り付け位置を示す矢視図であり、
図7Bは、位置調整用治具30を取り付けた状態の側面図である。また、
図8Aは、
図6Bにおける位置調整用治具30の取り付け位置を示す矢視図であり、
図8Bは、
図8AのB−Bの断面図である。
【0041】
図5A、
図5Bにおいて、地震後の上部構造1の位置を実線で示し、地震前の位置(原点位置)を一点鎖線で示している。図に示すように、本実施形態では、地震発生後、X方及びY方向のそれぞれに残留変位が発生している。具体的には、X方向については一方側に変位しており、Y方向については他方側に変位している。まず、測定器を使ってこの残留変位の大きさをX方向、Y方向のそれぞれについて確認(計測)する(
図4:S01)。
【0042】
次に、
図6Aに示すように、各免震装置10について、それぞれ、X方向の残留変位を修正するための位置に位置調整用治具30を取り付ける(
図4:S02)。
【0043】
本実施形態では、
図7Aに示すように、点C(積層体12の平面中心)を通るY方向の対向する部位に位置調整用治具30を一対取り付ける。具体的には、上フランジ11の16個の上ボルト孔11aのうち、Y方向端部における隣接する2個の上ボルト孔11aの上ボルト21を取り外す。そして、当該上ボルト孔11aと上反力部材40のボルト孔42aに仮ボルト71を通してボルト止めし、上反力部材40を上部構造1に取り付ける(第1取り付け工程に相当)。反対側(積層体12を挟んで対向する側)についても同様に上反力部材40を取り付ける。このように、16個の上ボルト孔11aのうち、点Cを通るY方向の対向する部位の上ボルト孔11aを利用して、2個(一対)の上反力部材40を上部構造1に取り付ける。
【0044】
下フランジ13側についても、同様に、Y方向端部における隣接する2個の下ボルト孔13aの下ボルト23を取り外す。そして、下ボルト孔13aと下反力部材50のボルト孔52aに仮ボルト73を通してボルト止めし、下反力部材50を下部構造3に取り付ける(第2取り付け工程に相当)。反対側(積層体12を挟んで対向する側)についても同様に下反力部材50を取り付ける。このように、16個の上ボルト孔11aのうち、点Cを通るY方向の対向する部位の下ボルト孔13aを利用して、2個(一対)の下反力部材50を下部構造3に取り付ける。なお、前述したように、下反力部材50の反力板54には油圧ジャッキ60が取り付けられており、
図7Bに示すように、油圧ジャッキ60を、上反力部材40の反力板44に対向させる。
【0045】
以上の取り付け作業を、
図6Aに示すように、本実施形態の6個の免震装置10について同様に行う。なお、各位置調整用治具30の油圧ジャッキ60は、単一のポンプ62に接続されている。よって、これらの複数の油圧ジャッキ60は単一のポンプ62によって同時に動作する。
【0046】
そして、位置調整用治具30を取り付けた後、各位置調整用治具30の油圧ジャッキ60に単一のポンプ62からオイルを供給し、油圧ジャッキ60を拡張させる。油圧ジャッキ60は、上反力部材40の反力板44に当接し、上反力部材40(換言すると上部構造1)をX方向の他方側に押す。このようにして、上部構造1のX方向の位置(X方向の残留変位)を修正する(
図4:S03)。
【0047】
X方向の残留変位の修正後、各位置調整用治具30を取り外し(
図4:S04)、上フランジ11及び下フランジ16に元のボルト(上ボルト21、下ボルト23)を取り付ける。
【0048】
続いて、
図6Bに示すように、各免震装置10について、それぞれ、Y方向の残留変位を修正するための位置に位置調整用治具30を取り付ける(
図4:S05)。
【0049】
本実施形態では、
図8Aに示すように、点Cを通るX方向の対向する部位に位置調整用治具30を一対取り付ける。具体的には、上フランジ11の16個の上ボルト孔11aのうち、X方向端部における隣接する2個の上ボルト孔11aの上ボルト21を取り外す。そして、当該上ボルト孔11aと上反力部材40のボルト孔42aに仮ボルト71を通してボルト止めし、上反力部材40を上部構造1に取り付ける。反対側(積層体12を挟んで対向する側)についても同様に上反力部材40を取り付ける。このように、16個の上ボルト孔11aのうち、点Cを通るX方向の対向する部位の上ボルト孔11aを利用して、2個(一対)の上反力部材40を上部構造1に取り付ける(第3取り付け工程に相当)。
【0050】
下フランジ13側についても、同様に、X方向端部における隣接する2個の下ボルト孔13aの下ボルト23を取り外す。そして、下ボルト孔13aと下反力部材50のボルト孔52aに仮ボルト73を通してボルト止めし、下反力部材50を下部構造3に取り付ける。反対側(積層体12を挟んで対向する側)についても同様に下反力部材50を取り付ける。このように、16個の上ボルト孔11aのうち、点Cを通るY方向の対向する部位の下ボルト孔13aを利用して、2個(一対)の下反力部材50を下部構造3に取り付ける(第4取り付け工程に相当)。これにより、油圧ジャッキ60を、上反力部材40の反力板44に対向させる。
【0051】
以上の取り付け作業を、
図6Bに示すように、本実施形態の6個の免震装置10について同様に行う。
【0052】
そして、X方向の位置修正の時と同様に、各位置調整用治具30の油圧ジャッキ60に単一のポンプ62からオイルを供給し、油圧ジャッキ60を拡張させる。油圧ジャッキ60は、上反力部材40の反力板44に当接し、上反力部材40(上部構造1)をY方向の一方側に押す。このようにして、上部構造1のY方向の位置(Y方向の残留変位)を修正する(
図4:S06)。
【0053】
このように、X方向の位置の調整とY方向の位置の調整を行うことにより、
図6Cに示すように、上部構造1の位置を原点に復帰させることができ、水平面内の残留変位を完全に解消することができる。最後に各免震装置10から位置調整用治具30を撤去し(
図4:S07)、上フランジ11と下フランジ13に元のボルト(上ボルト21、下ボルト23)を取り付ける。
【0054】
以上説明したように、本実施形態では、免震装置10の上フランジ11の16個上ボルト孔11aのうちの一部の上ボルト孔11aの上ボルト21を取り外して、当該一部の上ボルト孔11aを利用して上部構造1に上反力部材40を取り付けている。また、一部の上ボルト孔11aに対応する一部の下ボルト孔13aの下ボルト23を取り外して、当該一部の下ボルト孔13aを利用して下部構造3に下反力部材50を取り付けている。そして、上反力部材40と下反力部材50とを油圧ジャッキ60で拡張している。これにより、反力用の基礎や擁壁などが無くても、上反力部材40と下反力部材50を設置することができ、残留変位を簡易に且つ確実に解消することができる。
【0055】
===その他の実施形態について===
上記実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれることはいうまでもない。特に、以下に述べる実施形態であっても、本発明に含まれるものである。
【0056】
<免震建築物について>
前述の実施形態の対象となる免震建築物は、基礎免震(下部構造3が基礎、上部構造1が建物)であってもよいし、中間層免震(下部構造3が建物の下層部、上部構造1が建物の上層部)であってもよい。特に、擁壁の設けられていない中間層免震に適用するとより効果的である。また、床免震などに適用してもよい。
【0057】
<免震装置について>
前述の実施形態では、上部構造1と下部構造3との間に免震装置10が6個配置されていたが、これには限られず、5個未満あるいは7個以上であってもよい。
【0058】
また、前述の実施形態では、免震装置10の平面形状は円形であったが、これには限られない。例えば、平面形状が正方形であってもよい。
【0059】
また、前述の実施形態では、免震装置10は積層ゴムタイプのものであったが、これに限らない。例えば、滑り支承タイプや転がり支承タイプであってもよい。また、ダンパーと一体の免震装置であってもよい。
【0060】
<位置調整用治具について>
前述の実施形態では、下反力部材50に油圧ジャッキ60を取り付けていたが、これに限られず、上反力部材40に油圧ジャッキ60を取り付けていてもよい。また本実施形態では、油圧ジャッキ60を用いていたが、他のジャッキ(例えば手動のジャッキ)を用いてもよい。但し、本実施形態の免震建築物のように複数の免震装置10に対して位置調整を行う場合、油圧ジャッキ60を用いると、複数の油圧ジャッキ60を単一のポンプ62で同時に動作させることができる。よって、手間がかからず位置調整しやすい。
【0061】
また、前述の実施形態では、油圧ジャッキ60は、下反力部材50の反力板54にZ方向に2個並んで配置されていたが、これには限られず1個、あるいは、3個以上配置していてもよい。
【0062】
また、前述の実施形態では、上部構造1と下部構造3との間の全て(6個)の免震装置10に位置調整用治具30を取り付けていたが、これには限らず、上部構造1を動かすのに必要な水平力に応じて、位置調整用治具30を取り付ける免震装置10を定めるようにしてもよい。つまり、大きな水平力が必要でない場合には、6個のうちの何れか(例えば4個)の免震装置10に対して位置調整用治具30を取り付けてもよい。これにより、より簡易化を図ることができる。一方、上部構造1の重量が大きい場合や、履歴型ダンパーを多く用いて上部構造1を動かすのに大きな水平力が必要な場合には、位置調整用治具30を取り付ける免震装置10の数を多くすればよい。これにより、残留変位を確実に解消することができる。
【0063】
また、前述の実施形態では、免震装置10の積層体12を挟む両側に位置調整用治具を取り付けていたが、例えば、上部構造1が下部構造3に対して水平面内で回転している(捩じれている)場合、免震装置10の片側に位置調整用治具30を取り付けて位置調整をしてもよい。これにより、捩じれを解消することができる。
【0064】
また、前述の実施形態では、位置調整用治具30の上反力部材40、下反力部材50は、それぞれ、フランジの2つのボルト孔(例えば隣接する2つの上ボルト孔11a)に取り付けていたが、これには限られない。例えば、1つのボルト孔のみに取り付けてもよいし、あるいは、3つ以上のボルト孔に取り付けるように形成されていてもよい。
【0065】
また、前述の実施形態では、上反力部材40及び下反力部材50の取り付けには仮ボルト(仮ボルト71、仮ボルト73)を用いていたが、これには限られず、取り外したボルト(上ボルト21、下ボルト23)をそのまま用いてもよい。ただし、この場合、位置調整時の応力によってボルトが変形したり、破断したりするおそれがある。本実施形態のように仮ボルトを用いると実際のボルト(取り外した上ボルト21、下ボルト23)の変形や破断を防止できる。