(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
車両のエンジンのクランク軸端部に装着されたクランクプーリと、エンジン本体に固定されたスタータジェネレータに装着されたスタータジェネレータプーリと、前記クランクプーリと前記スタータジェネレータプーリとの間に巻掛けられた第1ベルトと、エンジン本体に固定された補機に装着された補機プーリと、前記クランクプーリと前記補機プーリとの間に巻掛けられた第2ベルトと、を備える車両用エンジンの始動装置であって、
クランク軸方向から見てクランク軸に直交する方向の基準線に対して一方側に前記スタータジェネレータが配置され、他方側に前記補機が配置され、
前記スタータジェネレータによって前記エンジンを始動する際に、前記補機と前記補機プーリとを断接する補機クラッチを接続制御するクラッチ制御部と、
前記クランク軸を回転支持するクランクジャーナルの軸受への潤滑油の油温を検出する油温検出手段と、を備え、
前記クラッチ制御部は、前記油温検出手段からの検出値が、所定温度を超える場合には、前記補機クラッチを遮断し、前記所定温度以下の場合には前記補機クラッチを接続することを特徴とする車両用エンジンの始動装置。
前記エンジンは、前記スタータジェネレータとは別に前記エンジンを始動するためのスタータを備え、エンジン停止状態の継続時間が所定時間以上の場合には、前記スタータジェネレータによるエンジン始動を禁止して前記スタータによって前記エンジンを始動する始動制御装置を備えることを特徴する請求項1に記載の車両用エンジンの始動装置。
前記エンジンは、前記スタータジェネレータとは別に前記エンジンを始動するためのスタータを備え、大気温度が所定温度以下の場合には、前記スタータジェネレータによるエンジン始動を禁止して前記スタータによって前記エンジンを始動する始動制御装置を備えることを特徴する請求項1に記載の車両用エンジンの始動装置。
前記クランクプーリはクランク軸方向に2段掛け構造からなり、エンジン側に前記第1ベルトが巻掛けられ、エンジンから離れる側に前記第2ベルトが巻掛けられることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の車両用エンジンの始動装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、スタータジェネレータを備えた車両用エンジンは、エンジンの一端面から突出したクランク軸の端部に固定されたクランクプーリと、スタータジェネレータに設けられたスタータジェネレータプーリとの間に巻掛けられたベルトを介して駆動力が伝達される。
【0007】
このため、エンジンの始動の際には、クランク軸にはベルトを介して曲げ力が作用し、そのためクランク軸を回転自在に支持するクランクジャーナルの軸受にはクランク軸の曲荷重が作用する。特に、クランクプーリ側の先端部に配置されるNo.1クランクジャーナルの軸受は他の軸受より荷重負担が増大する。しかも始動時にあっては、軸受へ潤滑油を供給するオイルポンプがまだ十分稼働していないため軸受への潤滑が不十分な状態にあるため、クランクジャーナルの軸受の耐久性に問題を生じるおそれがある。
【0008】
また、最も影響を受けやすいクランクプーリ側のNo.1軸受では、高性能メタルや、軸受荷重低減のために軸受幅を増大してグレードアップが必要となり、コスト面及びフリクション面で不利となる問題も有する。
【0009】
しかし、上記特許文献1、2には、スタータジェネレータを備えた車両用エンジンにおいて、スタータジェネレータを用いてエンジンを始動する際に生じるクランクジャーナルの軸受への荷重負荷を低減して、クランクジャーナルの軸受の耐久性の向上及びコスト低減を図ることについては示されていない。
【0010】
そこで、上記技術的課題に鑑み、本発明の少なくとも一実施形態は、スタータジェネレータを備えた車両用エンジンにおいて、スタータジェネレータを用いてエンジンを始動する際に生じるクランクジャーナルの軸受への荷重負荷を低減して、クランクジャーナルの軸受の耐久性の向上及びコスト低減を図ることができる車両用エンジンの始動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(1)本発明の少なくとも一実施形態に係る車両用エンジンの始動装置は、車両のエンジンのクランク軸端部に装着されたクランクプーリと、エンジン本体に固定されたスタータジェネレータに装着されたスタータジェネレータプーリと、前記クランクプーリと前記スタータジェネレータプーリとの間に巻掛けられた第1ベルトと、エンジン本体に固定された補機に装着された補機プーリと、前記クランクプーリと前記補機プーリとの間に巻掛けられた第2ベルトと、を備える車両用エンジンの始動装置であって、
クランク軸方向から見てクランク軸に直交する方向の基準線に対して一方側に前記スタータジェネレータが配置され、他方側に前記補機が配置され、前記スタータジェネレータによって前記エンジンを始動する際に、前記補機と前記補機プーリとを断接する補機クラッチを接続制御するクラッチ制御部を備えることを特徴とする。
【0012】
上記構成(1)によれば、スタータジェネレータによってエンジンを始動する際に、クラッチ制御部によって、補機と補機プーリとを断接する補機クラッチを接続制御するので、補機の負荷がクランクプーリに第2ベルトを介して作用する。
一方、エンジン始動時にスタータジェネレータの駆動力がクランクプーリに第1ベルトを介して作用する。
【0013】
この第2ベルトを介してクランクプーリの中心部に作用するに力、即ちクランク軸の曲げ力と、第1ベルトを介してクランクプーリの中心部に作用する力、即ちクランク軸の曲げ力とは、クランク軸方向から見てクランク軸に直交する方向の基準線に対して一方側にスタータジェネレータが配置され、他方側に補機が配置される関係で配置されているので、クランク軸方向から見て互いに打ち消し合う方向に作用する。
【0014】
この結果、クランク軸に作用する曲げ力は、補機が接続されていない場合に比べて低減される。特に、クランクプーリ側のNo1.のクランクジャーナルの軸受けにおいては効果的である。
従って、スタータジェネレータを用いてエンジンを始動する際に生じるクランクジャーナルの軸受への荷重負荷を低減することがき、軸受の耐久性を向上できる。その結果、高性能メタルや、軸受荷重低減のために軸受幅を増大してグレードアップが不要となり、コスト面及びフリクション面でも改善できる。
【0015】
(2)幾つかの実施形態では、前記クランク軸を回転支持するクランクジャーナルの軸受への潤滑油の油温を検出する油温検出手段を備え、前記クラッチ制御部は、前記油温検出手段からの検出値に基づいて前記補機クラッチの断続を制御することを特徴とする。
【0016】
上記構成(2)によれば、クラッチ制御部は、クランク軸を回転支持するクランクジャーナルの軸受への潤滑油の油温を検出する油温検出手段からの検出値に基づいて補機クラッチの断続を制御するので、潤滑油が十分潤滑機能を発揮できる温度になっているか否かに基づいて補機クラッチを遮断と接続とを制御することが可能になるので、クランクジャーナルの軸受の耐久性の向上及びコスト低減を効果的に達成できる。
【0017】
(3)幾つかの実施形態では、前記クラッチ制御部は、前記油温検出手段からの検出値が、所定温度を超える場合には、前記補機クラッチを遮断し、前記所定温度以下の場合には前記補機クラッチを接続することを特徴とする。
【0018】
上記構成(3)によれば、クラッチ制御部は、油温検出手段からの検出値が、所定温度を超える場合には、補機クラッチを遮断し、所定温度以下の場合には補機クラッチを接続するので、クランクジャーナルの軸受の耐久性の向上及びコスト低減を効果的に達成できる。
すなわち、所定温度以下の場合には補機クラッチを接続し、クランクプーリの中心に掛かる力を相殺してクランクジャーナルの軸受荷重を低減することができる。また、所定温度を超える場合には、補機クラッチを遮断して、スタータジェネレータの駆動負荷を低減して迅速始動を行うことができる。
【0019】
(4)幾つかの実施形態では、前記エンジンは、前記スタータジェネレータとは別に前記エンジンを始動するためのスタータを備え、エンジン停止状態の継続時間が所定時間以上の場合には、前記スタータジェネレータによるエンジン始動を禁止して前記スタータによって前記エンジンを始動する始動制御装置を備えることを特徴する。
【0020】
上記構成(4)によれば、エンジン停止状態が所定時間以上継続している場合には、クランクジャーナルの軸受に供給されていた潤滑油がオイルパンへ落下して十分な油膜を保持していないため、エンジン始動に際してスタータジェネレータによる始動を行うとクランクジャーナルの軸受に過大な負担が生じる恐れがあるため、スタータジェネレータによる始動を禁止してスタータによって始動するようにしている。
【0021】
なお、スタータによる始動は、スタータの先端にあるピニオンが、クランク軸に直接組み付けられているリングギヤ(フライホイール外周)にかみ込むことによって、その駆動力を伝えて始動させる構造であるため、スタータジェネレータの始動に比べてクランクジャーナルの軸受への軸受荷重(曲げ力の作用)が低減される。
【0022】
(5)幾つかの実施形態では、前記エンジンは、前記スタータジェネレータとは別に前記エンジンを始動するためのスタータを備え、大気温度が所定温度以下の場合には、前記スタータジェネレータによるエンジン始動を禁止して前記スタータによって前記エンジンを始動する始動制御装置を備えることを特徴する。
【0023】
上記構成(5)によれば、大気温度が所定温度以下の場合には、例えば氷点下の場合には、クランクジャーナルの軸受に供給される潤滑油の潤滑性能が低下しているため、エンジン始動に際してスタータジェネレータによる始動を行うとクランクジャーナルの軸受に過大な負担が生じる恐れがあるため、スタータジェネレータによる始動を禁止してスタータによって始動するようにしている。これにより、クランクジャーナルの軸受への軸受荷重(曲げ力の作用)が低減される。
【0024】
(6)幾つかの実施形態では、前記基準線は、直列エンジンの場合にはシリンダ中心線であり、V型エンジンの場合にはV型エンジンのバンク間の中心線であることを特徴とする。
【0025】
上記構成(6)によれば、クランク軸方向から見てクランク軸に直交する方向の基準線は、直列エンジンの場合にはシリンダ中心線とし、V型エンジンの場合にはV型エンジンのバンク間の中心線とすることによって、基準線の一方側に配置されるスタータジェネレータと他方側に配置される補機とをコンパクトに配置することができる。
【0026】
(7)幾つかの実施形態では、前記クランクプーリはクランク軸方向に2段掛け構造からなり、エンジン側に前記第1ベルトが巻掛けられ、エンジンから離れる側に前記第2ベルトが巻掛けられることを特徴とする。
【0027】
上記構成(7)によれば、2段掛け構造のエンジン側に第1ベルトが巻掛けられるので、クランクジャーナルの軸受に近づく側に、スタータジェネレータによるクランクジャーナルの軸受に作用する曲げモーメント力が作用し、曲げモーメント力が小さくなるように配置され、さらに、エンジンから離れる側に第2ベルトが巻掛けられるので、クランクジャーナルの軸受から離れる側に、補機からの負荷による曲げモーメント力が作用し、曲げモーメント力が大きくなるように配置される。
これによって、クランクジャーナルの軸受に作用するスタータジェネレータによる曲げモーメント力を、補機からの負荷による曲げモーメント力で効果的に打ち消し合う(相殺する)ことが可能になる。
【発明の効果】
【0028】
本発明の少なくとも一実施形態によれば、スタータジェネレータを備えた車両用エンジンにおいて、スタータジェネレータを用いてエンジンを始動する際に生じるクランクジャーナルの軸受への荷重負荷を低減して、クランクジャーナルの軸受の耐久性の向上及びコスト低減を図ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、添付図面を参照して、本発明の幾つかの実施形態について説明する。ただし、これらの実施形態に記載されている又は図面に示されている構成部品の寸法、材質、形状及びその相対的配置等は、本発明の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
【0031】
本発明の一実施形態に係る車両用エンジンの始動装置1について、全体構成を、
図1を参照して説明する。
図1は、車両用エンジン(以下エンジンという)3をクランク軸方向から見た正面視図を示す。エンジン3は、一例として直列3気筒のエンジンを示し、主要要素としてシリンダブロック5と、その上面に固定されたシリンダヘッド7と、その上面に固定されたヘッドカバー9と、シリンダブロック5の下面に固定されたオイルパン11とを備えており、これらによってエンジン本体が構成され、エンジン本体のシリンダブロック5の前面13からクランク軸15の一端部が外側に突出している。
【0032】
そして、クランク軸15の一端部にクランクプーリ17が固定されている。このクランクプーリ17は2段掛け構造となっており、クランク軸方向にベルトが掛けまわされる溝を外側溝19と内側溝21との2列によって構成されている(
図2参照)。
【0033】
図1において、クランク軸15の中心を通り、クランク軸中心に直角方向で、且つ各気筒のシリンダ中心線方向に延びる線を基準線Kとして、基準線Kの一方側(左側)にスタータジェネレータ23が配置されてシリンダブロック5に取り付けられている。またスタータジェネレータ23は、
図1のエンジン3の正面視において上下方向の略中間部に位置して配置されている。
【0034】
基準線Kの他方側(右側)には、エンジン冷却水を循環させるウォータポンプ25が、
図1のエンジン3の正面視において上下方向の略中間部に位置して固定されている。さらに、ウォータポンプ25の下方には、車両のエアコン用コンプレッサ27が配置されている。
【0035】
このように、クランク軸15の方向から見て該クランク軸15に直交する方向の基準線Kを、シリンダ中心線方向に延びる線としているため、基準線Kの一方側に配置されるスタータジェネレータ23と、他方側に配置される補機であるウォータポンプ25及びエアコン用コンプレッサ27とをコンパクトに配置できる。
【0036】
なお、本実施形態では、直列エンジンについて説明しているが、V型エンジンの場合にはV型エンジンのバンク間の中心線を基準線としてもよい。このように基準線を設定することで、V型エンジンにおいても、直列エンジンと同様に一方側のスタータジェネレータと他方側の補機との配置をコンパクトに配置することができる。
【0037】
また、スタータジェネレータ23、ウォータポンプ25、エアコン用コンプレッサ27は、それぞれ回転軸に固定されたスタータジェネレータプーリ23a、ウォータポンププーリ25a、エアコン用コンプレッサプーリ27aを備えている。
【0038】
さらに、補機を構成するウォータポンプ25、及びエアコン用コンプレッサ27には、それぞれの回転軸とウォータポンププーリ25a、及びエアコン用コンプレッサプーリ27aとの間に、接続と遮断を切換える補機クラッチであるウォータポンプクラッチ25b、コンプレッサクラッチ27bが設けられている。なお補機については、ウォータポンプ25、及びエアコン用コンプレッサ27に限らず、クランクプーリ17によって駆動され、基準線Kに対して他方側に配置されるものであればよい。
【0039】
また、クランクプーリ17の内側溝21とスタータジェネレータプーリ23aとの間には第1ベルト29が巻掛けられ、クランクプーリ17の外側溝19と補機プーリであるウォータポンププーリ25a及びエアコン用コンプレッサプーリ27aとの間には第2ベルト31が巻掛けられている。
【0040】
本実施形態では、第1ベルト29、第2ベルト31、及び各プーリ17、23a、25a、27aは、
図1に示す矢印方向、すなわち、右回りに回転するようになっている。
また、スタータジェネレータ23が、エンジン3を始動させるスタータとして機能する場合の第1ベルト29の緩み側に、ベルトに当接してベルトの張力を所定張力に保持しうるオートテンショナ32が設けられ、また、第2ベルト31においても、第2ベルト31の緩み側に、ベルトに当接してベルトの張力を所定張力に保持しうるオートテンショナ34が設けられている。
【0041】
スタータジェネレータ23は、エンジン3を始動させるスタータとしての機能を有するとともに、エンジン3によって駆動されて発電を行うオルタネータとしての機能も有している。従って、エンジン3の始動時には、スタータジェネレータ23がスタータジェネレータプーリ23aを回転させ、その駆動力が第1ベルト29を介してクランクプーリ17及びクランク軸15へ伝達されて、エンジン3を始動(又は、起動)するようになっている。
【0042】
エンジン3が一旦始動すると、今度は逆にエンジン3が第1ベルト29を介してスタータジェネレータプーリ23aを回転させてスタータジェネレータ23を駆動し、スタータジェネレータ23に発電をさせることができるようになっている。なお、スタータジェネレータ23は、車載エアコン装置の駆動やヘッドランプの点灯といった車両の電気負荷に応じた発電を行うだけでなく、制御装置33の制御によって車両の電気負荷のない状態でも発電を行い、エンジン3に積極的に負荷を与えることができるようになっている。
【0043】
次に、
図2、3を参照して、スタータジェネレータ23を用いてエンジン3を始動する際に生じるクランクジャーナルの軸受35(35a、35b、35c、35d)への荷重負荷、及びその低減について説明する。
図2は、クランクジャーナルの軸受35(35a、35b、35c、35d)に作用する荷重の概念図を示す。
図3は、クランクプーリ17の中心部に作用する力の方向と大きさを説明する説明図である。
【0044】
図2において、クランクプーリ17の中心に掛かる力は、第1ベルト29を介してスタータジェネレータ23から作用する力P1と、第2ベルト31を介して補機負荷であるウォータポンプ25及びエアコン用コンプレッサ27から作用する力P2とが掛かる。
図2に示すように、クランクプーリ17の中心に掛かる力P1、P2は、クランク軸15のジャーナルの軸受35(35a、35b、35c、35d)で荷重分担(R1〜R4)する。そのため、クランクプーリ17に最も近いNo.1軸受35aに荷重が集中する。
【0045】
図3(A)は、プーリ中心に掛かる力および向きの説明図であり、プーリ中心に掛かる力Fradは、一般的に次式(1)によって与えられる。
【0046】
Frad:ラジアル荷重(プーリ中心に掛かる力)
Ts1:始動(運転)時張り(緩み)側張力(N)
Ts2:始動(運転)時緩み側(張り)側張力(N)
θsg:プーリ掛り角(deg)
【0047】
なお、上記(1)式において、Ts1、Ts2のどちらが張り側又は緩み側でも構わない。また、主動・従動に関わらずラジアル荷重は同一方向にかかる。また、ラジアル荷重の方向は、張り側及び緩み側ベルトの向きにより決まる。また、ラジアル荷重の方向は、プーリ掛り角の二等分方向に決まる。
【0048】
以上の式(1)を基に、第1ベルト29を介してスタータジェネレータ23からクランクプーリ17の中心に作用する力P1と、第2ベルト31を介して補機負荷であるウォータポンプ25及びエアコン用コンプレッサ27からクランクプーリ17の中心に作用する力P2と、を求め、それを示したのが
図3(B)である。
【0049】
従って、第2ベルト31を介してクランクプーリ17の中心部に作用するに力、即ちクランク軸15の曲げ力と、第1ベルト29を介してクランクプーリ17の中心部に作用する力、即ちクランク軸15の曲げ力とは、クランク軸15の方向から見て該クランク軸15に直交する方向の基準線Kに対して一方側にスタータジェネレータ23が配置され、他方側に補機のウォータポンプ25及びエアコン用コンプレッサ27が配置されているので、クランク軸方向から見て互いに打ち消し合う方向に作用する。すなわち、
図3(B)のP1及びP2の水平方向分力が打ち消すように作用する。
【0050】
この結果、クランク軸15に作用する曲げ力は、補機が接続されていない場合に比べて低減される。従って、スタータジェネレータ23を用いてエンジンを始動する際に生じるクランクジャーナルの軸受35、特にNo.1軸受35aへの荷重負荷を低減することがき、軸受の耐久性の向上及びコスト低減が可能になる。このため、高性能メタルや、軸受荷重低減のために軸受幅を増大してグレードアップが不要となり、コスト面及びフリクション面で改善できる。
【0051】
さらに、
図2に示すように、第1ベルト29は、クランクプーリ17の内側溝21に巻掛けられ、第1ベルト29を介してスタータジェネレータ23からクランクプーリ17の中心に作用する力P1は、クランクジャーナルの軸受35に近づく位置に配置され(
図2のL1)、スタータジェネレータ23によるクランクジャーナルの軸受35に作用する曲げモーメント力を小さくするように配置される。
【0052】
また、第2ベルト31は、クランクプーリ17の外側溝19に巻掛けられ、第2ベルト31を介して補機負荷であるウォータポンプ25及びエアコン用コンプレッサ27から作用する力P2は、クランクジャーナルの軸受35から離れる位置に配置され(
図2のL2)、補機からの負荷によるクランクジャーナルの軸受35に作用する曲げモーメント力を大きくするように配置される。
【0053】
これによって、クランクジャーナルの軸受35に作用するスタータジェネレータ23によるクランクジャーナルの軸受35に作用する曲げモーメント力と、補機からの負荷による曲げモーメント力を効果的に打ち消し合う(相殺する)ことが可能になり、軸受35に作用する曲げ荷重による悪影響を効果的に低減できる。
【0054】
次に、制御装置33について
図1、4を参照して説明する。
制御装置33は、図示しない信号入力部、信号出力部、記憶部、演算部等が設けられている。信号入力部には、
図1に示すように、エンジン3の状態を検出する種々のセンサからの信号が入力される。例えば、クランクジャーナルの軸受35に供給される潤滑油の油温を検出する油温センサ37、エンジン回転数を検出する回転数センサ39、車両の外気温度を検出する外気温センサ41からの信号が入力される。さらに、ドライバがエンジン始動時に操作するイグニッションスイッチ43のON信号が入力される。
【0055】
また、
図1に示すように、制御装置33は、主に、クラッチ制御部45とエンジン始動制御部47とを備えている。
このクラッチ制御部45は、スタータジェネレータ23によってエンジン3を始動する際に、ウォータポンプクラッチ25b及びコンプレッサクラッチ27bを接続状態に制御する。
また、エンジン始動制御部47は、イグニッションスイッチ43のON信号が入力された場合の始動制御や、エンジン3に対してアイドルストップ信号によってエンジンを自動停止させた後の再始動に際してのエンジン始動制御を行う。
【0056】
制御装置33のクラッチ制御部45及びエンジン始動制御部47による制御を
図4に示す制御表にまとめる。
図4より、運転パターンが、極寒時又はイグニッションスイッチ43による始動の場合には、始動動力はスタータ(セルモータ)49による始動を行う。この場合には補機クラッチのウォータポンプクラッチ25b及びコンプレッサクラッチ27bは、OFFとなって遮断される。この場合は、通常のエンジン始動と同一であり、スタータジェネレータ23は非駆動である。
【0057】
運転パターンが、エンジンの暖機前(油温閾値以下)の場合には、始動動力はスタータジェネレータ23による始動を行う。この場合には補機クラッチのウォータポンプクラッチ25b及びコンプレッサクラッチ27bは、ONとなって接続される。これによってクランクプーリ17の中心に掛かる力を相殺してクランクジャーナルの軸受荷重を低減する。
【0058】
運転パターンが、エンジンの暖機後(温閾値超え)の場合には、始動動力はスタータジェネレータ23による始動を行う。この場合には補機クラッチのウォータポンプクラッチ25b及びコンプレッサクラッチ27bは、OFFとなって遮断される。これによってスタータジェネレータ23の駆動負荷を低減して迅速始動を行う。
なお、油温閾値は、例えば50℃〜60℃の範囲内において設定された所定温度であり、この所定温度に達すれば、潤滑油の潤滑性能が発揮される温度である。
【0059】
次に、
図5を参照して、制御フローチャートについて説明する。
まず。ステップS1で、エンジン始動スイッチがONされる。このエンジン始動スイッチONは、イグニッションスイッチ43によるON信号(始動信号)が入力された場合、及び、エンジン3に対してアイドルストップ信号によってエンジンを自動停止させた後の再始動に際してのエンジン始動信号の場合の両方を含む。
【0060】
次に、ステップS2で、イグニッションスイッチ43による始動かを判定する。Noの場合には、イグニッションスイッチ43以外の始動、すなわち、アイドルストップ信号によってエンジンを自動停止させた後の再始動に際してのエンジン始動信号の場合の始動の場合には、ステップS3へ進む。
【0061】
次に、ステップS3で、スタータジェネレータ23を始動する。ステップS4で、潤滑油の油温を検出する油温センサ37からの検出温度が、閾値温度以下か判定する。この閾値温度は前述したように50℃〜60℃の範囲内において設定された所定温度である。閾値温度以下の場合には、ステップS5に進み補機クラッチをONする。すなわち、ウォータポンプクラッチ25b及びコンプレッサクラッチ27bを接続する。
【0062】
ステップS4で、油温が閾値温度を超える場合には、NoとなってステップS6に進んで補機クラッチをOFFする。すなわち、ウォータポンプクラッチ25b及びコンプレッサクラッチ27bを遮断する。
【0063】
その後、ステップS7で、エンジン3が始動したかを判定する。この判定はエンジン回転数を検出する回転数センサ39からの信号を基に始動が完了したと判定できる回転数に達したか否かによって判定する。そして、エンジン3が始動したと判定した場合には、ステップS8で、接続したウォータポンプクラッチ25b及びコンプレッサクラッチ27bを再びOFFにし、また、OFFの状態であればそのOFF状態を維持して終了する。
ステップS7で、エンジン3が始動していないと判定した場合には、ステップS3に戻ってスタータジェネレータ23による始動を繰り返す。スタータジェネレータ23により繰り返しても始動しない場合は、例えば3回目からはスタータ49による始動に切替えるなど所定の回数でのスタータ49による始動に切替えても良い。
【0064】
一方、ステップS2で、イグニッションスイッチ43による始動であると判定した場合には、ステップS14に進んで、スタータ(セルモータ)49による始動を開始する。そして、ステップS15では、ステップと7と同様に、エンジン回転数を基にエンジン3が始動したかを判定する。始動したと判定した場合には終了し、始動していないと判定した場合には、ステップS14に戻ってスタータ49による始動を繰り返す。
【0065】
以上の一実施形態によれば、クランク軸方向から見て該クランク軸15に直交する方向の基準線Kに対して一方側にスタータジェネレータ23が配置され、他方側に補機が配置され、スタータジェネレータ23によってエンジン3を始動する際に、クラッチ制御部45によって、ウォータポンプクラッチ25b及びコンプレッサクラッチ27bを接続制御するので、補機の負荷がクランクプーリ17に第2ベルト31を介して作用するとともに、スタータジェネレータ23の駆動力がクランクプーリ17に第1ベルト29を介して作用することで、クランクプーリ17の中心に掛かる力が相殺されて、クランクジャーナルの軸受荷重を低減することができる。
【0066】
また、クラッチ制御部45によって油温センサ37からの検出値が、所定温度を超える場合には、ウォータポンプクラッチ25b及びコンプレッサクラッチ27bを遮断し、所定温度以下の場合にはウォータポンプクラッチ25b及びコンプレッサクラッチ27bを接続するので、所定温度以下の場合には補機クラッチを接続し、クランクプーリ17の中心に掛かる力を相殺してクランクジャーナルの軸受荷重を低減でき、また、所定温度を超える場合には、補機クラッチを遮断して、スタータジェネレータ23の駆動負荷を低減して迅速始動を行うことができる。これによって、クランクジャーナルの軸受35の耐久性の向上及びコスト低減を効果的に達成できる。
【0067】
他の一実施形態を
図6のフローチャートを参照して説明する。
図6に示す実施形態は、
図5の実施形態に対して、ステップS12、ステップS13が追加されたものである。その他は、
図5と同一のため、同一ステップに対しては同一ステップ番号を付して説明は省略する。
【0068】
ステップS2において、イグニッションスイッチ43による始動でないと判定した場合にステップS12に進み、ステップS12で、前回始動から一定時間以上経過したかを判定する。この一定時間は、例えば2、3日以上である。そして、一定時間以上経過している場合には、YesとなってステップS14に進み、スタータ49によるエンジン始動が行われる。
【0069】
一方、ステップS12でNoの場合には、ステップS13に進んで、極寒時かを判定する。この極寒時は、外気温センサ41によって外気温度が氷点下(ゼロ℃以下)であるかを判定する。氷点下である場合にはステップS12が、YesとなってステップS14に進み、スタータ49による始動が行われる。ステップS12が、Noの場合には、ステップS3に進んで、スタータジェネレータ23による始動が行われる。
【0070】
図6に示す実施形態によれば、エンジン停止状態が所定時間以上継続している場合、例えば、2、3日以上経過している場合には、クランクジャーナルの軸受35に供給されていた潤滑油が落下して排出されているため、エンジン始動に際してスタータジェネレータ23による始動を行うとクランクジャーナルの軸受35に過大な負担が生じる恐れがあるため、スタータジェネレータ23による始動を禁止してスタータ49によって始動する。
【0071】
なお、スタータ(セルモータ)49による始動は、スタータ49の先端にあるピニオンが、クランク軸15に直接組み付けられているリングギヤ(フライホイール外周)にかみ込むことによって、その駆動力を伝えて始動させる構造であるため、スタータジェネレータ23の始動に比べてクランクジャーナルの軸受への曲げ力の作用が低減される。
【0072】
また、大気温度が所定温度以下の場合には、例えば氷点下の場合には、クランクジャーナルの軸受35に供給される潤滑油の潤滑性能は低下しているため、エンジン始動に際してスタータジェネレータ23による始動を行うとクランクジャーナルの軸受35に過大な負担が生じる恐れがあるため、スタータジェネレータ23による始動を禁止してスタータ49によって始動する。
【0073】
このように、エンジン停止状態の経過時間と外気温度によって、スタータジェネレータ23による始動を禁止してスタータ49によって始動するので、クランクジャーナルの軸受35に過大な負担が生じることを防止できる。従って、
図5に示す実施形態に加えて、さらに、クランクジャーナルの軸受荷重を低減することができる。従って、クランクジャーナルの軸受35の耐久性の向上及びコスト低減を効果的に達成できる。
なお、エンジン停止状態の経過時間による判定と、外気温度による判定とのいずれか一方だけを行ってもよい。