特許第6855907号(P6855907)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社明電舎の特許一覧

<>
  • 特許6855907-保護継電装置 図000002
  • 特許6855907-保護継電装置 図000003
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6855907
(24)【登録日】2021年3月22日
(45)【発行日】2021年4月7日
(54)【発明の名称】保護継電装置
(51)【国際特許分類】
   H02H 3/02 20060101AFI20210329BHJP
【FI】
   H02H3/02 F
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2017-86742(P2017-86742)
(22)【出願日】2017年4月26日
(65)【公開番号】特開2018-186639(P2018-186639A)
(43)【公開日】2018年11月22日
【審査請求日】2020年3月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006105
【氏名又は名称】株式会社明電舎
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100104938
【弁理士】
【氏名又は名称】鵜澤 英久
(72)【発明者】
【氏名】露木 和生
【審査官】 辻丸 詔
(56)【参考文献】
【文献】 特開平04−251514(JP,A)
【文献】 特開平01−198213(JP,A)
【文献】 特開平10−295034(JP,A)
【文献】 特開昭61−156399(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02H 1/00−3/07
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
30°間隔でサンプリングされた電力系統のアナログ信号の瞬時値を12サンプル、5サイクル分加算する60サンプル加算部と、
その加算結果を60で除算して直流オフセット値として出力する除算部と、
前記除算部で直近に算出された前記直流オフセット値を格納する今回バッファと、
前記除算部で前回算出された前記直流オフセット値を格納する前回バッファと、
前記除算部で前々回算出された前記直流オフセット値を格納する前々回バッファと、
前記アナログ信号から前記前々回バッファに格納された前記直流オフセット値を減算して、前記アナログ信号の補正値を算出する補正値算出部と、
を備えたことを特徴とする保護継電装置。
【請求項2】
地絡事故発生時は、前記60サンプル加算部において前記アナログ信号の60サンプルの加算を中止して初期化し、地絡事故復帰時は、地絡事故復帰してから所定時間経過後に前記60サンプル加算部において前記アナログ信号の60サンプルの加算を再開することを特徴とする請求項1記載の保護継電装置。
【請求項3】
地絡事故が検出された際は、前記前回バッファ、前記今回バッファに格納された前記直流オフセット値を削除し、前記前々回バッファに格納された前記直流オフセット値を前記前回バッファ、前記今回バッファに格納することを特徴とする請求項1または2記載の保護継電装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保護継電装置に係り、特に、入力した零相電流のアナログ処理における直流オフセット値の除去に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、アナログ入力におけるオフセット電圧の影響を除去する手段を備えたデジタル保護継電器に関する技術が記載されている。
【0003】
具体的には、オフセット電圧を除去するため、入力信号の周波数と比べて十分長い期間の入力信号の積算量からオフセット値を算出し、オフセット値分の電圧を除去している。つまり、データの積算期間を、入力周波数の整数サイクルとすることで、定常的な交流成分を平均化してオフセット電圧を除去することが可能となることを示唆している。
【0004】
特許文献2には、デジタル保護リレーにおいて、電力系統から少なくとも電流または電圧の信号をアナログ信号として取得するためのアナログ素子に起因する入力データの誤差を適切に補正する技術が開示されている。特許文献2は、発電関係の入力にも対応できるように極性反転で1サイクルの変化点を検出しオフセット量を算出することで、周波数が変動してもオフセット量の算出が可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平1−198213
【特許文献2】特許第5680260号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1および特許文献2のオフセット除去方法では、電力系統における事故時の値を直流オフセット値の算出に使用してしまうおそれがあった。
【0007】
以上示したようなことから、保護継電装置において、事故時のサンプリングデータを直流オフセット値の算出に使用しないように、地絡事故の遅れ時間を考慮した直流オフセット値算出方法を提供することが課題となる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、前記従来の問題に鑑み、案出されたもので、その一態様は、30°間隔でサンプリングされた電力系統のアナログ信号の瞬時値を12サンプル、5サイクル分加算する60サンプル加算部と、その加算結果を60で除算して直流オフセット値として出力する除算部と、前記除算部で直近に算出された前記直流オフセット値を格納する今回バッファと、前記除算部で前回算出された前記直流オフセット値を格納する前回バッファと、前記除算部で前々回算出された前記直流オフセット値を格納する前々回バッファと、前記アナログ信号から前記前々回バッファに格納された前記直流オフセット値を減算して、前記アナログ信号の補正値を算出する補正値算出部と、を備えたことを特徴とする。
【0009】
また、その一態様として、地絡事故発生時は、前記60サンプル加算部において前記アナログ信号の60サンプルの加算を中止して初期化し、地絡事故復帰時は、地絡事故復帰してから所定時間経過後に前記60サンプル加算部において前記アナログ信号の60サンプルの加算を再開することを特徴とする。
【0010】
また、その一態様として、地絡事故が検出された際は、前記前回バッファ、前記今回バッファに格納された前記直流オフセット値を削除し、前記前々回バッファに格納された前記直流オフセット値を前記前回バッファ、前記今回バッファに格納することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、保護継電装置において、事故時のサンプリングデータをオフセット値の算出に使用しないように、地絡事故の遅れ時間を考慮したオフセット値算出方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施形態における零相電流補正値の算出方法を示すフローチャート。
図2】実施形態における零相電流補正値の算出方法を示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本願発明の保護継電装置の実施形態を図1図2に基づいて詳述する。
【0014】
[実施形態]
本実施形態は、電力系統のアナログ信号(例えば、零相電流I0)の直流オフセット値を除去する母線保護継電装置に関するものである。本実施形態における[直流オフセット値の算出]、[直流オフセット値の更新]、[地絡事故対策]の概略は以下のとおりである。
【0015】
[直流オフセット値の算出]
30°間隔でサンプリングした瞬時値データを1サイクル(12サンプル)加算すると基本波周波数は除去され、直流分が算出される。平均化作用を期待して5サイクル分の加算を行うと、60サンプルとなる。5サイクルの時間は50Hzで100msごととなる。60サンプルの加算結果を60で割ると1サンプルあたりの直流分となる。この値を直流オフセット値とする。
【0016】
[直流オフセット値の更新]
直流オフセット値の格納バッファは、直近に算出された直流オフセット値を差格納する今回バッファ、前回算出された直流オフセット値を格納する前回バッファ、前々回算出された直流オフセット値を格納する前々回バッファの3つのバッファを用意しておく。5サイクル(100ms)ごとに算出された直流オフセット値を今回バッファに格納し、前々回バッファ、前回バッファも更新していく。零相電流の補正処理には、前々回バッファに格納されている直流オフセット値を使用する。
【0017】
[地絡事故対策]
CT飽和を伴う地絡事故時には直流分が発生する。事故時の直流分を直流オフセット値の算出に使用しないために、以下の対策を行う。
(1)地絡事故時には直流オフセット値の算出処理を中止する。地絡事故復帰時は初期状態から直流オフセット値の算出処理を開始する。
(2)地絡事故時には、前回バッファ、今回バッファに格納された直流オフセット値を削除し、前々回バッファに格納されている直流オフセット値を前回バッファと今回バッファに格納する。
【0018】
以下、図1に基づいて、本実施形態における零相電流補正値I0’の算出方法を説明する。
【0019】
S1において、地絡事故が発生しているか否かを判定する。地絡事故が発生していない場合はS2へ移行し、地絡事故が発生している場合はS11へ移行する。
【0020】
S2において、60サンプル加算処理を行う。すなわち、30°間隔でサンプリングした電力系統のアナログ信号の瞬時値データを60サンプル分加算していく。
【0021】
S3において、60サンプル分加算したか(5サイクル経過したか)否かを判定する。60サンプル分加算した場合はS4へ移行し、60サンプル分加算していない場合はS9へ移行する。
【0022】
S4において、直流オフセット値を算出する。60サンプルの加算結果を60で割ると1サンプル当たりの直流オフセット値となる。
【0023】
S5,S6,S7において、前々回バッファ、前回バッファ、今回バッファに格納されている直流オフセット値を更新する。まず、S5において、前回バッファに格納されていた直流オフセット値を前々回バッファに格納する。次に、S6において、今回バッファに格納されていた直流オフセット値を前回バッファに格納する。S7では、今回バッファにS4で算出された直流オフセット値を格納する。
【0024】
S8において、60サンプル加算処理の初期化を行う。
【0025】
S9において、零相電流補正値I0’=零相電流−直流オフセット値を算出する。
【0026】
地絡事故が発生している場合は、S11において、60サンプル加算処理を初期化する。CT飽和を伴う地絡事故時には直流分が発生する。事故時の直流分を直流オフセット値の算出に使用しないために、地絡事故時には、直流オフセット算出処理をやめて、初期化状態から処理を始める。
【0027】
S12,S13では、前回バッファ、今回バッファに格納されている直流オフセット値を削除し、前々回バッファに格納されている直流オフセット値を前回バッファ、今回バッファに格納する。その後S9へ移行する。
【0028】
図2は、本実施形態における零相電流補正値I0’の算出方法を示すブロック図である。
【0029】
零相電流I0を60サンプル加算部1、零相電流補正値算出部2に出力する。
【0030】
60サンプル加算部1では、30°間隔でサンプリングした瞬時値データを5サイクル分加算する。5サイクルは、50Hz系では100ms、60Hz系では83.3msとなる。
【0031】
カウンタ部3では、60サイクル分(50Hz系では100ms)カウントした場合、highレベルの信号を判定部4に出力する。
【0032】
判定部4は、カウンタ部3からhighレベルの信号を入力した場合、60サンプル加算部1の出力信号を除算部5に出力する。
【0033】
除算部5は、判定部4から出力された零相電流I0を60サンプル(5サイクル)分加算した加算結果を60で除算する。この除算結果を直流オフセット値として今回バッファ6に出力する。
【0034】
直流オフセット算出値を格納するバッファは、今回バッファ6、前回バッファ7、前々回バッファ8、の3つを設ける。
【0035】
零相電流補正値算出部2は、零相電流補正値I0’=零相電流−直流オフセット値を算出する。事故時の入力を補正しないように、地絡事故検出の遅れ時間を考慮し、前々回バッファ8に格納された直流オフセット値を使用する。零相電流I0から直流オフセット値を引き、オフセット分の除去を行う。正波判定要素、負波判定要素には、この零相電流補正値I0’を使用する。
【0036】
地絡事故検出部9は、零相電圧V0が所定の閾値以上で地絡と判定する。地絡事故発生時は直流オフセット値の算出をしない。また、事故成分を直流オフセット値の算出に用いないように、クリア信号を60サンプル加算部1、カウンタ部3に出力し、直流オフセット値算出の処理の初期化を行う。また、今回バッファ6,前回バッファ7に格納されている直流オフセット値を削除し、前々回バッファ8に格納されている直流オフセット値を今回バッファ6,前回バッファ7に格納する。
【0037】
このように、地絡事故時は事故電流が直流オフセット値に含まれないように、加算データのリセット、直流オフセット値の入れ換えを行う。
【0038】
地絡事故の復帰時は、クリア信号を停止し、直流オフセット値の再計算を行う。この時、例えば、5サイクル(50Hzでは100ms)のオフディレイタイマ10を設け、地絡事故から復帰してから5サイクル後にクリア信号を停止する。60サンプル加算部1、カウンタ部3、今回バッファ6、前回バッファ7、前々回バッファ8はクリア信号を地絡事故復帰後から5サイクル後に受信するようになっており、事故影響を受けないようにしている。
【0039】
以上示したように、本実施形態によれば、直流オフセット値を除去することにより正確な事故判定を行うことができる。また、AD変換値の下位ビット切り捨てなどのAD変換器の精度を低下させることなく適用することができる。
【0040】
また、本実施形態では、事故時のサンプリングデータをオフセット値の算出に使用しないようにしているため、地絡事故の遅れ時間を考慮したオフセット値の算出を行うことが可能となる。
【0041】
以上、本発明において、記載された具体例に対してのみ詳細に説明したが、本発明の技術思想の範囲で多彩な変形および修正が可能であることは、当業者にとって明白なことであり、このような変形および修正が特許請求の範囲に属することは当然のことである。
【0042】
例えば、実施形態では、アナログ信号の零相電流I0の補正方法について説明したが、アナログ信号であれば、零相電圧V0など他の信号でも適用可能である。
【符号の説明】
【0043】
1…60サンプル加算部
2…零相電流補正値算出部(補正値算出部)
3…カウンタ部
4…判定部
5…除算部
6…今回バッファ
7…前回バッファ
8…前々回バッファ
9…地絡事故検出部
10…オフディレイタイマ
図1
図2