(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来、ボイラ水と接触するボイラ水管等の伝熱面に生じる腐食を抑制するために、ボイラ給水に水処理剤として脱酸素剤を添加する技術が知られている。ボイラの伝熱面の腐食は水中の溶存酸素が主原因となって起こるため、ボイラ給水に脱酸素剤を添加することで水中の溶存酸素量を減少させ、腐食を抑制することができる。このような脱酸素剤としては、例えば、亜硫酸塩等が用いられる。
【0003】
亜硫酸塩は優れた脱酸素効果を有するが、自身が酸化されることで腐食性因子である硫酸イオン(SO
42−)を生成し、ボイラの伝熱面の腐食要因となる問題があった。そこで、亜硫酸塩に加えケイ酸やケイ酸塩等を水処理剤に添加することで伝熱面のボイラ水との接触面側に皮膜を形成し、腐食を抑制する技術が知られている(例えば、後述の特許文献1参照)。
【0004】
また、上記に加え、ボイラの伝熱面の腐食防止を目的とし、ボイラ給水のpHを腐食が起こりにくいアルカリ側へ調整するためpH調整剤をボイラ給水に添加することでボイラの伝熱面の腐食を防止する技術が知られている(例えば、後述の特許文献2参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に記載された水処理剤の実施例に開示されるように、亜硫酸塩に対してケイ酸塩の配合濃度が比較的低い場合には、ボイラの伝熱面の腐食を十分に抑制できない場合があった。
【0007】
また、特許文献2に記載された水処理剤に関して、脱酸素剤として亜硫酸塩を配合する場合、水処理剤中のイオンバランスによっては亜硫酸塩の結晶化が起こり、水処理剤を安定して保存できない問題があった。すなわち、従来の亜硫酸塩を含む水処理剤においては、ボイラ水管の好ましい防食性と水処理剤の保存安定性を両立できていないのが現状であった。
【0008】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、好ましい防食性を付与できると共に優れた保存安定性を有する亜硫酸系水処理剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、ボイラ給水に添加される亜硫酸系水処理剤であって、亜硫酸塩と、ケイ酸又はケイ酸塩と、アルカリ金属の水酸化物と、を含み、亜硫酸塩の濃度は、10〜25質量%であり、ケイ酸又はケイ酸塩由来の二酸化ケイ素濃度は、1〜15質量%であり、カリウムイオン濃度([K
+])とナトリウムイオン濃度([Na
+])との比([K
+]/[Na
+])は、2/5〜2/1である亜硫酸系水処理剤に関する。
【0010】
また、前記亜硫酸塩は、亜硫酸ナトリウムであることが好ましい。
【0011】
また、前記ケイ酸又はケイ酸塩として、ケイ酸カリウムを含むことが好ましい。
【0012】
また、前記アルカリ金属の水酸化物は、水酸化カリウムであることが好ましい。
【0013】
また、本発明は、ボイラ給水100容量部に対し、亜硫酸系水処理剤を0.001〜0.1容量部添加する薬注ステップを備える水処理方法に関する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、好ましい防食性を付与できると共に優れた保存安定性を有する亜硫酸系水処理剤を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
本実施形態に係る亜硫酸系水処理剤は、ボイラ水と接触するボイラの伝熱面に生じる腐食を抑制するために用いられる。
【0016】
本発明に係る亜硫酸系水処理剤は、亜硫酸塩と、ケイ酸又はケイ酸塩と、アルカリ金属の水酸化物と、を含む。また、溶媒としては水、特に純水が好ましく用いられる。
【0017】
亜硫酸塩は、分子中に亜硫酸基を有する亜硫酸の塩である。亜硫酸塩は水溶液中で電離して亜硫酸イオンを生じる。亜硫酸イオンは以下の式により溶存酸素と反応し硫酸イオンとなる。すなわち溶存酸素量を低減させる脱酸素効果を有する。
2SO
32−+O
2→2SO
42−
亜硫酸塩を含む水処理剤は、ボイラ給水に添加されて上記のようにボイラ給水中の溶存酸素と反応するだけでなく、水処理剤の保存中にも空気中の酸素と反応して硫酸イオンとなる可能性がある。硫酸イオンは脱酸素効果を有しないばかりか、ボイラの伝熱面に腐食を発生させる腐食性因子である。そのため、亜硫酸塩を含む水処理剤の保存時においてはこのような亜硫酸イオンの酸化が防止される必要がある。
【0018】
本実施形態で用いられる亜硫酸塩としては、例えば、亜硫酸ナトリウム(Na
2SO
3)、二亜硫酸ナトリウム(Na
2S
2O
5)、亜硫酸水素ナトリウム(NaHSO
4)、亜硫酸アンモニウム((NH
4)
2SO
3)、亜硫酸水素アンモニウム((NH
4)HSO
3)、亜硫酸カリウム(K
2SO
3)、亜硫酸水素カリウム(KHSO
3)等が挙げられるが、中でも亜硫酸ナトリウムを用いることが好ましい。亜硫酸ナトリウムは食品添加物としても使用されているような安全性の高い化合物であるため、亜硫酸ナトリウムを水処理剤に用いることで、取扱時の安全性が確保される。
【0019】
亜硫酸塩の水処理剤中における濃度は、10〜25質量%であり、15〜25質量%であることが好ましい。亜硫酸塩の必要量はボイラ給水に対する水処理剤の添加量や、ボイラ給水中の溶存酸素濃度等によっても変化するが、未処理のボイラ給水100容量部に対し0.001〜0.1容量部の水処理剤を添加する場合においては、一般に水処理剤中の亜硫酸塩の濃度が10質量%未満である場合、十分な脱酸素効果が得られない。また、水処理剤中における亜硫酸塩の濃度が25質量%を超える場合、水処理剤保存中の亜硫酸塩の結晶化が起こりやすくなる。また、腐食性因子である硫酸イオンが多量に生成することから、ボイラ水管の好ましい防食性が得られない。
【0020】
ケイ酸はケイ素・酸素・水素を含む化合物であり、ケイ酸塩はケイ酸とアルカリ金属等の塩である。これらの化合物は二酸化ケイ素(SiO
2)によって構成され、総称して「シリカ」と呼ばれる。
シリカは、伝熱面のボイラ水との接触面側に吸着されて皮膜を形成し、ボイラ水管の伝熱面をこの皮膜で被覆することでボイラ水管に好ましい防食性を付与する皮膜形成成分として機能する。すなわち、シリカによって形成された皮膜がボイラ水管の伝熱面を被覆することで、ボイラ水中に含まれる溶存酸素や、硫酸イオン、塩化物イオン等の腐食性因子による影響が抑制されるため、ボイラ水管の好ましい防食性が得られる。特に、溶存酸素や塩化物イオンは伝熱面に局部的なアノードを発現させ、これにより腐食が進行する場合があるが、ボイラ水中でアニオンや負電荷のミセルとして存在するシリカはそのようなアノードに吸着しやすく、当該部分で選択的に防食皮膜を形成しやすい。従って他の皮膜形成型防食剤と比較し、シリカは比較的少ない添加量で好ましい防食性をボイラ水管に付与できる。
【0021】
本実施形態で用いられるケイ酸としては、無水ケイ酸(SiO
2)、オルトケイ酸(H
4SiO
4)、メタケイ酸(H
2SiO
3)、メタ二ケイ酸(H
2Si
2O
5)等が挙げられ、ケイ酸塩としては、ケイ酸ナトリウム(Na
2O・nSiO
2)、ケイ酸カリウム(K
2O・nSiO
2)等が挙げられるが、中でもケイ酸カリウムを用いることが好ましい。上述のように本実施形態に係る水処理剤において、亜硫酸塩としては亜硫酸ナトリウムを用いることが好ましいため、ケイ酸カリウムを水処理剤に用いることで、ケイ酸カリウムがカリウムイオンの供給源となり後述のカリウムイオン及びナトリウムイオンのイオンバランスを取ることが容易となる。ひいては、亜硫酸塩の結晶化を抑制できるため、優れた保存安定性を有する水処理剤が得られる。
【0022】
ケイ酸又はケイ酸塩由来の二酸化ケイ素の水処理剤中における濃度は、1〜15質量%であり、5〜15質量%であることが好ましい。シリカの必要量はボイラ給水に対する水処理剤の添加量や、亜硫酸塩の添加量、ボイラ給水中の腐食性因子によっても変化するが、ボイラ給水100容量部に対し0.001〜0.1容量部の水処理剤を添加する場合においては、一般に水処理剤中における二酸化ケイ素濃度が1質量%未満である場合、十分な皮膜形成効果が得られず、ボイラ水管の好ましい防食性が得られない。また、水処理剤中における二酸化ケイ素濃度が15質量%を超える場合、水処理剤の保存中にシリカが析出する恐れがあり、好ましい水処理剤の保存安定性が得られない。
【0023】
アルカリ金属の水酸化物は、ボイラ水管の伝熱面が腐食されにくいpHとなるようにボイラ給水のpHを上昇させるpH調整剤としての機能を有する。すなわち、pH調整剤によりボイラ給水のpHがアルカリ側に調整されることでボイラ水管の腐食が抑制される。このようなpH調整剤として用いられるアルカリ金属の水酸化物としては、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムが挙げられ、これらは強塩基のためpHを上昇させる効果が高く、あるいはスケール発生防止の観点から好ましく用いられる。
上述のように本実施形態に係る水処理剤において、亜硫酸塩としては亜硫酸ナトリウムを用いることが好ましいため、水酸化カリウムを水処理剤に用いることで、水酸化カリウムがカリウムイオンの供給源となり後述のカリウムイオン及びナトリウムイオンのイオンバランスを取ることが容易となる。ひいては、亜硫酸塩の結晶化を抑制できるため、優れた保存安定性を有する水処理剤が得られる。
【0024】
本実施形態に係る亜硫酸系水処理剤において、カリウムイオン濃度([K
+])とナトリウムイオン濃度([Na
+])との比([K
+]/[Na
+])は、2/5〜2/1であり、2/5〜3/2であることが好ましい。
本発明者らは、原理については必ずしも定かではないが、亜硫酸塩とともにケイ酸塩やpH調整剤を配合する場合、ケイ酸カリウムや水酸化カリウムのようなカリウム塩を用いた方がナトリウム塩を用いる場合に比べて、亜硫酸塩の結晶化を抑制でき、良好な保存安定性が得られる事を確認した。すなわち、カリウムイオン濃度とナトリウムイオン濃度との比が上記範囲内にあることで、亜硫酸塩が析出し結晶化することを抑制できる。
【0025】
本実施形態に係る亜硫酸系水処理剤は上記の効果を阻害しない範囲内で、上述した成分以外の成分を含んでもよい。例えば、亜硫酸塩の脱酸素能力を向上させるために用いられる触媒や、ビタミンC及びその塩、タンニン等の他の脱酸素剤、クエン酸やポリアクリル酸塩等の他のスケール分散剤、アミノメチルプロパンール、シクロヘキシルアミン等の中和性アミンが含まれていてもよい。
【0026】
続いて、本実施形態に係る水処理剤を用いた水処理方法について説明する。
本実施形態に係る水処理方法は、本実施形態に係る水処理剤を、ボイラ給水100容量部に対し0.001〜0.1容量部添加する薬注ステップを備える。
【0027】
本実施形態に係る薬注ステップにおいては、ボイラ給水中の水処理剤の注入量が上記範囲内となるよう調整され、水処理剤がボイラへ給水を供給する給水路内に薬注される。ボイラ給水中における水処理剤の注入量を上記範囲内とすることで、ボイラ給水中の亜硫酸イオン、シリカ等を好ましい濃度とすることができる。また、水処理剤の注入量をボイラ給水中の溶存酸素濃度に応じて上記範囲内で調整してもよい。ボイラ給水中の溶存酸素濃度は水温による寄与が大きいため、ボイラ給水の水温に応じて注入量を調整してもよい。注入量をボイラ給水中の溶存酸素濃度に応じて調整することで、水処理剤による好ましい防食性が得られると共に、不要な薬注を抑制できるためコストを削減できる。また、不要な薬注による腐食性因子の増大や、シリカのスケーリングを防止することができ、安定した水管理を行うことができる。
【0028】
ボイラ給水中の水処理剤の注入量が上記範囲内となる限り、薬注の方法は特に制限されず、ボイラ給水に対して連続的に注入されてもよいし、断続的に注入されてもよい。また、薬注されたボイラ給水がボイラ系内に供給される前に一定時間貯留しておくタンクを設け、そのタンク中のボイラ給水に対する水処理剤の注入量が上記範囲内となるよう、注入量が調整されるようにしてもよい。
【実施例】
【0029】
次に、本発明を実施例に基づいて更に詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0030】
<実施例1〜7及び比較例1〜6>
亜硫酸ナトリウム(和光純薬製、特級試薬)、ケイ酸カリウム(和光純薬製、けい酸カリウム溶液)、水酸化カリウム(和光純薬製、特級試薬)及び溶媒としての蒸留水が、それぞれ表1に示す含有量(単位:質量%)となり、かつ水処理剤中のカリウムイオン濃度とナトリウムイオン濃度の比([K
+]/[Na
+])が表1に示す数値となるように混合することで、各実施例及び比較例の水処理剤を調製した。
【0031】
[保存安定性]
実施例及び比較例の水処理剤を−5℃、5℃で270日間保管した。保管後の水処理剤の外観を目視で観察し、変化の有無を確認した。変化が無い場合は「A」とし、−5℃で結晶や析出物等の沈降が生じている場合を「B」、−5℃及び5℃で結晶や析出物等の沈降が生じている場合は「C」と評価し、評価B以上を合格、Cを不合格と判定した。結果を表1に示す。
【0032】
[脱酸素効果]
実施例及び比較例の水処理剤を、pH11に調整した50℃の蒸留水に対し400mg/L添加し、添加時から30分経過後の溶存酸素濃度を溶存酸素濃度計で測定した。水処理剤添加前からの溶存酸素の低減量が1.0ppm未満を「A」、1.0〜2.0ppmを「B」、2.0ppm超を「C」と評価し、評価B以上を合格、Cを不合格と判定した。結果を表1に示す。
【0033】
[防食性]
実施例及び比較例の水処理剤をボイラ給水に薬注した場合における、ボイラ水管の伝熱面の防食性を評価した。ここでは、蒸発量1.35kg/時間の実験用貫流ボイラに、水処理剤を400mg/L添加した軟水をボイラ給水用に供給し、圧力0.3MPaの蒸気を連続的に発生させながら、ブロー率10%で当該ボイラを運転した。運転48時間経過後の食孔(伝熱管のボイラ水との接触面側に発生する厚さ方向の反対側に向かう孔状の腐食を示す。)の深さの最大値により防食性を評価した。具体的には、食孔深さ最大値が50μm未満を「A」、50〜150μmを「B」、150μm超を「C」と評価し、評価B以上を合格、Cを不合格と判定した。結果を表1に示す。
【0034】
【表1】
【0035】
実施例2と、比較例1との比較から、亜硫酸塩の量が10質量%未満である水処理剤は好ましい脱酸素効果が得られないことが確認された。また、実施例3と、比較例2との比較から、亜硫酸塩の量が25質量%を超える場合、水処理剤の保存安定性が悪化し、更に防食性も悪化することが確認された。
これらの結果から、水処理剤における亜硫酸塩の濃度を10〜25質量%とすることで、好ましい脱酸素効果と水処理剤の保存安定性及び防食性を両立できることが確認された。
【0036】
実施例4と、比較例3との比較から、ケイ酸又はケイ酸塩由来の二酸化ケイ素濃度が1質量%未満である水処理剤は好ましい防食性が得られないことが確認された。また、実施例5と、比較例4との比較から、ケイ酸又はケイ酸塩由来の二酸化ケイ素濃度が15質量%を超える場合、水処理剤の保存安定性が悪化することが確認された。
これらの結果から、水処理剤におけるケイ酸又はケイ酸塩由来の二酸化ケイ素濃度を1〜15質量%とすることで、好ましい防食性と水処理剤の保存安定性を両立できることが確認された。
【0037】
実施例6と、比較例5との比較から、水処理剤中のカリウムイオン濃度([K
+])とナトリウムイオン濃度([Na
+])との比([K
+]/[Na
+])が2/5未満である水処理剤は好ましい保存安定性が得られないことが確認された。また、実施例7と、比較例6との比較から、水処理剤中のカリウムイオン濃度([K
+])とナトリウムイオン濃度([Na
+])との比([K
+]/[Na
+])が2/1を超える水処理剤は同様に好ましい保存安定性が得られないことが確認された。
これらの結果から、水処理剤中のカリウムイオン濃度([K
+])とナトリウムイオン濃度([Na
+])との比([K
+]/[Na
+])が2/5〜2/1であることで、水処理剤の好ましい保存安定性が得られることが確認された。