(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6856000
(24)【登録日】2021年3月22日
(45)【発行日】2021年4月7日
(54)【発明の名称】双ロール式連続鋳造装置、及び、薄肉鋳片の蛇行制御方法
(51)【国際特許分類】
B22D 11/06 20060101AFI20210329BHJP
B22D 11/20 20060101ALI20210329BHJP
B22D 11/12 20060101ALI20210329BHJP
【FI】
B22D11/06 330B
B22D11/20 A
B22D11/12 B
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-209229(P2017-209229)
(22)【出願日】2017年10月30日
(65)【公開番号】特開2019-81182(P2019-81182A)
(43)【公開日】2019年5月30日
【審査請求日】2020年6月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】宮嵜 雅文
【審査官】
國方 康伸
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭63−49350(JP,A)
【文献】
特開平11−156504(JP,A)
【文献】
特開2000−326055(JP,A)
【文献】
特開平1−130847(JP,A)
【文献】
特開平6−285594(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 11/00−11/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転する一対の冷却ロールと一対のサイド堰によって形成された溶融金属プール部に浸漬ノズルを介して溶融金属を供給し、前記冷却ロールの周面に凝固シェルを形成・成長させて、薄肉鋳片を製造し、ピンチロールによって前記冷却ロール間から引き出された前記薄肉鋳片を上下方向に挟持して搬送する双ロール式連続鋳造装置であって、
前記冷却ロールの軸線と平行に延在するガイド面を有するガイド部材と、前記冷却ロールから製出される前記薄肉鋳片の製出速度と前記ピンチロールを介して搬送される前記薄肉鋳片の搬送速度との相対速度を調整する相対速度調整手段と、を有し、
前記ガイド部材は、水平方向で前記冷却ロールのロールキス点と前記ピンチロールとの間に位置するとともに、挟持された前記薄肉鋳片の下側に位置するピンチロールよりも下方に配設されており、前記相対速度調整手段によって前記搬送速度を前記製出速度よりも遅くして前記薄肉鋳片を前記ピンチロールの上流側で弛ませた際に、前記薄肉鋳片が、前記ガイド面に接触するとともに、前記冷却ロールと前記ガイド部材との間、及び、前記ガイド部材と前記ピンチロールの間で、下方に弛むように配置されることを特徴とする双ロール式連続鋳造装置。
【請求項2】
前記ピンチロールの入側に、前記薄肉鋳片の蛇行を検知する蛇行検知手段が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の双ロール式連続鋳造装置。
【請求項3】
前記ガイド面は、接触した前記薄肉鋳片と同期して移動する構成とされていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の双ロール式連続鋳造装置。
【請求項4】
前記ガイド部材の前記ガイド面には、接触する前記薄肉鋳片に対してガスを噴出する噴出孔が形成されていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の双ロール式連続鋳造装置。
【請求項5】
回転する一対の冷却ロールと一対のサイド堰によって形成された溶融金属プール部に浸漬ノズルを介して溶融金属を供給し、前記冷却ロールの周面に凝固シェルを形成・成長させて、薄肉鋳片を製造し、ピンチロールによって前記冷却ロール間から引き出された前記薄肉鋳片を上下方向に挟持して搬送する双ロール式連続鋳造装置において、前記薄肉鋳片の蛇行を矯正する薄肉鋳片の蛇行制御方法であって、
前記冷却ロールの軸線と平行に延在するガイド面を有するガイド部材が、水平方向で前記冷却ロールのロールキス点と前記ピンチロールとの間に位置するとともに、挟持された前記薄肉鋳片の下側に位置するピンチロールよりも下方に配設されており、
前記薄肉鋳片の蛇行が確認された際には、前記ピンチロールを介して搬送される前記薄肉鋳片の搬送速度を、前記冷却ロールから製出される前記薄肉鋳片の製出速度よりも遅くして、前記薄肉鋳片を前記ピンチロールの上流側で弛ませ、
前記ガイド部材の前記ガイド面に前記薄肉鋳片を接触させるとともに、前記冷却ロールと前記ガイド部材との間、及び、前記ガイド部材と前記ピンチロールの間で、前記薄肉鋳片を下方へ弛ませることを特徴とする薄肉鋳片の蛇行制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一対の冷却ロールと一対のサイド堰によって形成された溶融金属プール部に溶融金属を供給して薄肉鋳片を製造する双ロール式連続鋳造装置、及び、この双ロール式連続鋳造装置において製造される薄肉鋳片の蛇行を矯正する薄肉鋳片の蛇行制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属の薄肉鋳片を製造する装置として、内部に水冷構造を有し互いに逆方向に回転する一対の冷却ロールを備え、一対の冷却ロールと一対のサイド堰によって形成された溶融金属プール部に溶融金属を供給し、前記冷却ロールの周面に凝固シェルを形成・成長させ、一対の冷却ロールの外周面にそれぞれ形成された凝固シェル同士をロールキス点で圧着して所定の厚さの薄肉鋳片を製造する双ロール式連続鋳造装置が提供されている。このような双ロール式連続鋳造装置は、各種金属において適用されている。
【0003】
上述の双ロール式連続鋳造装置においては、例えば特許文献1に示すように、冷却ロールの上方に配置されたタンディッシュから浸漬ノズルを介して溶融金属プール部に溶融金属が連続的に供給され、回転する冷却ロールの周面上で溶融金属が凝固成長して凝固シェルが形成され、各冷却ロールの周面に形成された凝固シェルがロールキス点で圧着され、薄肉鋳片が製出される。
そして、冷却ロール間から下方に製出された薄肉鋳片は、薄肉鋳片を上下方向に挟持するピンチロールを介して水平方向に搬送され、必要に応じてインラインミルによって圧延され、巻き取り装置によってコイル状に巻き取られる。
【0004】
ここで、上述の双ロール式連続鋳造装置においては、ピンチロールの下流側の搬送路で薄肉鋳片の走行にズレが生じ、薄肉鋳片の蛇行が生じることがあった。
このため、例えば以下の特許文献2−6に示すように、搬送される薄肉鋳片の蛇行を制御する様々な手段が提案されている。
【0005】
特許文献2には、ピンチロールのレベリング制御を行うことによって、薄肉鋳片の蛇行を抑制する手段が提案されている。
特許文献3には、ピンチロールの幅方向の両側における反力を制御することで、薄肉鋳片の蛇行を抑制する手段が提案されている。
特許文献4には、ピンチロールのアライメント制御を行うことによって、薄肉鋳片の蛇行を抑制する手段が提案されている。
特許文献5には、巻き取り時における張力を制御することによって、薄肉鋳片の蛇行を抑制する手段が提案されている。
特許文献6には、インラインミルによる圧延を制御することによって、薄肉鋳片の蛇行を抑制する手段が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−045950号公報
【特許文献2】特表2008−532776号公報
【特許文献3】特開平11−156504号公報
【特許文献4】特開平08−215814号公報
【特許文献5】特開平04−197561号公報
【特許文献6】特開2003−088941号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上述の双ロール式連続鋳造装置においては、鋳造時に、冷却ロールとサイド堰との間のシール不良による隙間への溶融金属の差し込みが発生することがあり、この差し込みによって、薄肉鋳片の幅方向一端側の冷却ロール面に凝固シェルの焼き付きによる一時的な拘束が生じ、冷却ロールから薄肉鋳片が離れるタイミングが薄肉鋳片の幅方向一端側と他端側とで異なってしまい、冷却ロールから製出される薄肉鋳片に捩れが発生することがあった。冷却ロールから製出された薄肉鋳片に捩れが生じた場合には、ピンチロールで挟持した薄肉鋳片が幅方向に変位し、薄肉鋳片に蛇行が発生することになる。
ここで、上述のように特許文献2−6に開示された手段においては、ピンチロール以降で蛇行制御を行なっていることから、冷却ロールから製出された薄肉鋳片の捩れに起因した薄肉鋳片の蛇行を制御することは困難であった。
【0008】
本発明は、上述の事情に鑑みてなされたものであって、冷却ロール間から製出される薄肉鋳片の捩れに起因した蛇行を矯正することができ、薄肉鋳片の鋳造を安定して実施することが可能な双ロール式連続鋳造装置、及び、この双ロール式連続鋳造装置において製造される薄肉鋳片の蛇行を矯正する薄肉鋳片の蛇行制御方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明に係る双ロール式連続鋳造装置は、回転する一対の冷却ロールと一対のサイド堰によって形成された溶融金属プール部に浸漬ノズルを介して溶融金属を供給し、前記冷却ロールの周面に凝固シェルを形成・成長させて、薄肉鋳片を製造し、ピンチロールによって前記冷却ロール間から引き出された前記薄肉鋳片を上下方向に挟持して搬送する双ロール式連続鋳造装置であって、前記冷却ロールの軸線と平行に延在するガイド面を有するガイド部材と、前記冷却ロールから製出される前記薄肉鋳片の製出速度と前記ピンチロールを介して搬送される前記薄肉鋳片の搬送速度との相対速度を調整する相対速度調整手段と、を有し、前記ガイド部材は、水平方向で前記冷却ロールのロールキス点と前記ピンチロールとの間に位置するとともに、挟持された前記薄肉鋳片の下側に位置するピンチロールよりも下方に配設されており、前記相対速度調整手段によって前記搬送速度を前記製出速度よりも遅くして前記薄肉鋳片を前記ピンチロールの上流側で弛ませた際に、前記薄肉鋳片が、前記ガイド面に接触するとともに、前記冷却ロールと前記ガイド部材との間、及び、前記ガイド部材と前記ピンチロールの間で、下方に弛むように配置されることを特徴としている。
【0010】
この構成の双ロール式連続鋳造装置によれば、冷却ロール間から製出される薄肉鋳片の捩れに起因して蛇行が生じた場合には、相対速度調整手段によって前記搬送速度を前記製出速度よりも遅くして前記薄肉鋳片を前記ピンチロールの上流側で弛ませることにより、前記薄肉鋳片が前記冷却ロールの軸線と平行に延在するガイド面に接触するとともに、前記冷却ロールと前記ガイド部材との間、及び、前記ガイド部材と前記ピンチロールの間で、前記薄肉鋳片が下方に弛むように配置されるので、薄肉鋳片の自重によって薄肉鋳片がガイド面に沿うように配置されることになり、薄肉鋳片の捩れが解消され、薄肉鋳片の蛇行を矯正することが可能となる。
【0011】
ここで、本発明に係る双ロール式連続鋳造装置においては、前記ピンチロールの入側に、前記薄肉鋳片の蛇行を検知する蛇行検知手段が設けられていることが好ましい。
この場合、ピンチロールの入側に設けられた蛇行検知手段によって、薄肉鋳片の蛇行を検知した時点で、相対速度調整手段に指令を与え、薄肉鋳片の蛇行の矯正を速やかに行うことができる。また、上述の蛇行検知手段によって蛇行が矯正されたことを確認した際には、再度、相対速度調整手段に指令を与え、通常の操業に復帰することができる。また、これらの蛇行矯正作業を自動で実施することができる。
【0012】
また、本発明に係る双ロール式連続鋳造装置においては、前記ガイド面は、接触した前記薄肉鋳片と同期して移動する構成とされていることが好ましい。
この場合、ガイド面が接触した薄肉鋳片と同期して移動することから、薄肉鋳片の搬送速度を変更した場合にも、薄肉鋳片に疵が発生することを抑制できる。なお、ガイド部材を、回転可能なガイドロールや、ベルトコンベア式とすることで、前記ガイド面を前記薄肉鋳片と同期して移動させることが可能となる。
【0013】
さらに、本発明に係る双ロール式連続鋳造装置においては、前記ガイド部材の前記ガイド面には、接触する前記薄肉鋳片に対してガスを噴出する噴出孔が形成されていてもよい。
この場合、ガイド面から噴出されるガスによって、ガイド面と薄肉鋳片とが強く接触することを抑制でき、薄肉鋳片の表面疵の発生を抑制することができる。
【0014】
本発明に係る薄肉鋳片の蛇行制御方法は、回転する一対の冷却ロールと一対のサイド堰によって形成された溶融金属プール部に浸漬ノズルを介して溶融金属を供給し、前記冷却ロールの周面に凝固シェルを形成・成長させて、薄肉鋳片を製造し、ピンチロールによって前記冷却ロール間から引き出された前記薄肉鋳片を上下方向に挟持して搬送する双ロール式連続鋳造装置において、前記薄肉鋳片の蛇行を矯正する薄肉鋳片の蛇行制御方法であって、前記冷却ロールの軸線と平行に延在するガイド面を有するガイド部材が、水平方向で前記冷却ロールのロールキス点と前記ピンチロールとの間に位置するとともに、挟持された前記薄肉鋳片の下側に位置するピンチロールよりも下方に配設されており、前記薄肉鋳片の蛇行が確認された際には、前記ピンチロールを介して搬送される前記薄肉鋳片の搬送速度を、前記冷却ロールから製出される前記薄肉鋳片の製出速度よりも遅くして、前記薄肉鋳片を前記ピンチロールの上流側で弛ませ、前記ガイド部材の前記ガイド面に前記薄肉鋳片を接触させるとともに、前記冷却ロールと前記ガイド部材との間、及び、前記ガイド部材と前記ピンチロールの間で、前記薄肉鋳片を下方へ弛ませることを特徴としている。
【0015】
この構成の薄肉鋳片の蛇行制御方法によれば、前記薄肉鋳片を前記ピンチロールの上流側で弛ませることにより、前記薄肉鋳片が前記冷却ロールの軸線と平行に延在するガイド面に接触するとともに、前記冷却ロールと前記ガイド部材との間、及び、前記ガイド部材と前記ピンチロールの間で、前記薄肉鋳片が下方に弛むように配置され、薄肉鋳片の自重によって薄肉鋳片がガイド面に沿うことになり、薄肉鋳片の捩れが解消され、薄肉鋳片の蛇行を矯正することが可能となる。
【発明の効果】
【0016】
上述のように、本発明によれば、冷却ロール間から製出される薄肉鋳片の捩れに起因した蛇行を矯正することができ、薄肉鋳片の鋳造を安定して実施することが可能な双ロール式連続鋳造装置、及び、この双ロール式連続鋳造装置において製造される薄肉鋳片の蛇行を矯正する薄肉鋳片の蛇行制御方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の実施形態である双ロール式連続鋳造装置の概略説明図である。
【
図2】
図1に示す双ロール式連続鋳造装置の鋳造部分の拡大説明図である。
【
図3】本発明の実施形態である双ロール式連続鋳造装置において、冷却ロールから製出される薄肉鋳片が捩れた際の蛇行発生状況を示す説明図である。
【
図4】
図1に示す双ロール式連続鋳造装置の冷却ロール及びピンチロール近傍の拡大説明図である。
【
図5】
図1に示す双ロール式連続鋳造装置において、蛇行の矯正を行っている状態を示す説明図である。
【
図6】本発明の他の実施形態である双ロール式連続鋳造装置に用いられるガイド部材の概略説明図である。
【
図7】本発明の他の実施形態である双ロール式連続鋳造装置に用いられるガイド部材の概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明の実施形態について、添付した図面を参照して説明する。以下の実施形態においては、鋳造する対象金属を鋼として説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。
ここで、本実施形態において製造される薄肉鋳片1を構成する鋼種としては、例えば、0.001〜0.01%C極低炭鋼、0.02〜0.05%C低炭鋼、0.06〜0.4%C中炭鋼、0.5〜1.2%C高炭鋼、SUS304鋼に代表されるオーステナイト系ステンレス鋼、SUS430鋼に代表されるフェライト系ステンレス鋼、3.0〜3.5%Si方向性電磁鋼、0.1〜6.5%Si無方向性電磁鋼等(なお、%は、質量%)が挙げられる。
また、本実施形態では、製造される薄肉鋳片1の幅が500mm以上2000mm以下の範囲内、厚さが1mm以上5mm以下の範囲内とされている。
【0019】
本実施形態である双ロール式連続鋳造装置10は、
図1に示すように、一対の冷却ロール11,11と、この一対の冷却ロール11,11から製出された薄肉鋳片1を上下方向に挟持するピンチロール21,21と、ピンチロール21,21を介して搬送された薄肉鋳片1を圧延する圧延機22と、圧延された薄肉鋳片1を巻き取るコイラー23と、を備えている。
【0020】
そして、
図2に示すように、一対の冷却ロール11,11の幅方向端部にサイド堰15が配設され、一対の冷却ロール11,11とサイド堰15とによって溶鋼プール部16が画成されている。
また、一対の冷却ロール11,11の上方には、溶鋼プール部16に供給される溶鋼3を保持するタンディッシュ18と、このタンディッシュ18から溶鋼プール部16へと溶鋼3を供給する浸漬ノズル19と、が配置されている。
【0021】
この双ロール式連続鋳造装置10においては、溶鋼3が回転する冷却ロール11,11に接触して冷却されることにより、冷却ロール11,11の周面の上で凝固シェル5、5が成長し、一対の冷却ロール11,11にそれぞれ形成された凝固シェル5、5同士がロールキス点で圧着されることによって、所定厚みの薄肉鋳片1が鋳造される。
【0022】
ここで、上述の双ロール式連続鋳造装置10においては、冷却ロール11,11とサイド堰15との間のシール性が悪くなると、冷却ロール11とサイド堰15の間に溶鋼が差し込んで、薄肉鋳片1の幅方向一端側に焼き付きによる局所的、一時的な拘束が生じることがある。このように幅方向一端側に拘束された薄肉鋳片1が冷却ロール11,11から離れるタイミングが幅方向の一端側と他端側とで異なってしまい、冷却ロール11,11から製出される薄肉鋳片1に捩れが生じる。冷却ロール11,11から製出された薄肉鋳片1に捩れが生じた場合には、
図3に示すように、ピンチロール21,21で挟持した薄肉鋳片1が幅方向に変位してしまい、薄肉鋳片1に蛇行が生じることになる。
【0023】
そこで、本実施形態である双ロール式連続鋳造装置10においては、ピンチロール21,21の上流側において薄肉鋳片1の蛇行を矯正するために、
図4及び
図5に示すように、冷却ロール11の軸線と平行に延在するガイド面32を有するガイド部材31と、冷却ロール11から製出される薄肉鋳片1の製出速度とピンチロール21,21を介して搬送される薄肉鋳片1の搬送速度との相対速度を調整する相対速度調整手段38と、を備えている。蛇行の検知は目視でも可能であるが、ピンチロール21,21の入側において薄肉鋳片1の蛇行を検知する、レーザー式あるいは2値化画像処理式の薄肉鋳片端位置検出装置等の、自動検知手段39が設けられていることが好ましい。なお、ここで、目視による蛇行の検知として、ビデオ等による観察手段を含む。
【0024】
ガイド部材31は、水平方向で冷却ロール11,11のロールキス点とピンチロール21,21との間に位置するとともに冷却ロール11,11、挟持された薄肉鋳片1の下側に位置するピンチロール21よりも下方に配置されている。
本実施形態では、ガイド部材31は、冷却ロール11,11の軸線と平行に配置された回転軸を中心に回動するガイドロールとされており、このガイドロールの外周面が、冷却ロール11の軸線と平行に延在するガイド面32とされている。
【0025】
このガイド部材31は、
図4及び
図5に示すように、水平方向で冷却ロール11,11とピンチロール21,21との間の中間位置に配置されており、冷却ロール11,11とガイド部材31、ガイド部材31とピンチロール21,21との間に、それぞれ空間が形成されている。
【0026】
次に、本実施形態である双ロール式連続鋳造装置10を用いた薄肉鋳片の蛇行制御方法について説明する。
本実施形態である双ロール式連続鋳造装置10においては、目視または蛇行検知手段39によってピンチロール21,21の入側で薄肉鋳片1の蛇行を検知すると、相対速度調整手段38に指令が送られ、相対速度調整手段38によって、ピンチロール21,21を介して搬送される薄肉鋳片1の搬送速度を、冷却ロール11,11から製出される薄肉鋳片1の製出速度よりも遅くする。これにより、ピンチロール21,21の上流側において、薄肉鋳片1が下方へと弛むことになる。
【0027】
すると、薄肉鋳片1は、ガイド部材31のガイド面32と接触する。さらに、薄肉鋳片1を下方に弛ませると、薄肉鋳片1は、
図5に示すように、冷却ロール11,11とガイド部材31との間の空間及びガイド部材31とピンチロール21,21の間の空間において、下方に弛むように配置される。
【0028】
このとき、ガイド面32が冷却ロール11の軸線と平行に延在するように配置されているので、薄肉鋳片1は自重によってガイド面32に沿うように移動し、薄肉鋳片1の蛇行(捩れ)が解消される。
そして、目視または蛇行検知手段39によってピンチロール21,21の入側で薄肉鋳片1の蛇行が矯正されたことを検知すると、相対速度調整手段38によって、ピンチロール21,21を介して搬送される薄肉鋳片1の搬送速度を、冷却ロール11,11から製出される薄肉鋳片1の製出速度よりも速くし、下方に弛ませた薄肉鋳片1をピンチロール21,21側へと搬送し、弛みを解消する。
薄肉鋳片1の弛みが解消された後には、相対速度調整手段38によって、ピンチロール21,21を介して搬送される薄肉鋳片1の搬送速度と、冷却ロール11,11から製出される薄肉鋳片1の製出速度とを一致させて通常の操業へと復帰する。
【0029】
ここで、ガイド部材31がガイドロール等の接触した薄肉鋳片1と同期して移動する構成とされているので、ガイド面32に接触した薄肉鋳片1が移動する際には、薄肉鋳片1とともにガイド部材31が同期して移動することになる。
【0030】
以上のような構成とされた本実施形態である双ロール式連続鋳造装置10によれば、冷却ロール11,11から製出される薄肉鋳片1に捩れが生じて薄肉鋳片1の蛇行が発生した場合には、相対速度調整手段38によって、ピンチロール21,21を介して搬送される薄肉鋳片1の搬送速度を、冷却ロール11,11から製出される薄肉鋳片1の製出速度よりも遅くするので、ピンチロール21,21の上流側において、薄肉鋳片1が、下方へと弛んでガイド部材31のガイド面32と接触し、冷却ロール11,11とガイド部材31との間の空間及びガイド部材31とピンチロール21,21の間の空間においてそれぞれ下方に弛んで、薄肉鋳片1の自重によって薄肉鋳片1がガイド面32に沿うように配置されることになり、薄肉鋳片1の捩れが解消され、薄肉鋳片1の蛇行を矯正することが可能となる。
【0031】
また、本実施形態においては、ピンチロール21,21の入側に、薄肉鋳片1の蛇行を検知する蛇行検知手段39が設けられている場合には、蛇行検知手段39によって薄肉鋳片1の蛇行を検知した時点で、相対速度調整手段38に指令を与え、薄肉鋳片1の蛇行の矯正を速やかに行うことができる。一方、蛇行検知手段39によって薄肉鋳片1の蛇行が矯正されたことを確認した際には、相対速度調整手段38に指令を与え、通常の操業に復帰することができる。また、これらの蛇行矯正作業を自動で実施ことができる。
【0032】
さらに、本実施形態においては、ガイド部材31がガイドロール等のガイド面32が接触した薄肉鋳片1と同期して移動する構成とされているので、薄肉鋳片1の蛇行(捩れ)が解消して薄肉鋳片1の移動速度が変化する際に、ガイド面32で薄肉鋳片1が摺れて表面疵が発生することを抑制できる。
【0033】
以上、本発明の実施形態である双ロール式連続鋳造装置及び薄肉鋳片の蛇行制御方法について具体的に説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0034】
本実施形態では、ガイド部材としてガイドロールを例に挙げて説明したが、これに限定されることはなく、例えば
図6に示すように、湾曲したガイド面132を有するガイド部材131であってもよい。
図6に示すガイド部材131においては、ガイド面132をベルトコンベアで構成することにより、接触した薄肉鋳片と同期して移動する構成としてもよい。
また、
図6に示すように、ガイド面132には、接触する薄肉鋳片に対してガスを噴出する噴出孔133を形成してもよい。この場合、ガイド面132から噴出されるガスによって薄肉鋳片とガイド面132とが軟接触することになり、薄肉鋳片の表面疵の発生を抑制することができる。
【0035】
さらに、ガイド面は連続して形成されている必要はなく、ガイド面が点在し、これらのガイド面が冷却ロールの軸線と平行に配置されていればよい。例えば、
図7に示すガイド部材231は、湾曲した複数のパイプを、冷却ロールの軸線に平行な方向に並列して配置し、ガイド面232を形成している。
【0036】
なお、以上に説明した本発明による薄肉鋳片の蛇行制御を行いつつ、特許文献2−6に例示した既往の蛇行制御手段を併用することも可能である。
【実施例】
【0037】
以下に、本発明の効果を確認すべく、実施した実験結果について説明する。
【0038】
本実施形態で説明した双ロール式連続鋳造装置(冷却ロールの直径1200mm、幅800mm)を用いて、板厚3.0mmのSUS304からなる薄肉鋳片を鋳造した。
鋳造開始から間もなく、薄肉鋳片の幅方向の一端側で焼き付きによる拘束が生じ、薄肉鋳片の捩れが発生した。
【0039】
従来例として、そのまま鋳造を実施した場合には、ピンチロール以降で薄肉鋳片の蛇行が拡大し、薄肉鋳片の巻き取りが乱れ、鋳造を長時間安定して実施することができなかった。
一方、発明例として、ピンチロールを介して搬送される薄肉鋳片の搬送速度を冷却ロールから製出される薄肉鋳片の製出速度よりも遅くして薄肉鋳片を前記ピンチロールの上流側で弛ませた場合には、薄肉鋳片がガイド部材と接触するとともに、冷却ロールとガイド部材との間、及び、ガイド部材とピンチロールの間で薄肉鋳片が下方に弛むように配置され、自重によって薄肉鋳片の蛇行が矯正された。これにより、薄肉鋳片の巻き取りが安定し、鋳造を長時間安定して実施することができた。
【0040】
以上のように、本発明例によれば、冷却ロール間から製出される薄肉鋳片の蛇行を矯正することができ、薄肉鋳片の鋳造を安定して実施可能なことが確認された。
【符号の説明】
【0041】
1 薄肉鋳片
3 溶鋼
5 凝固シェル
11 冷却ロール
15 サイド堰
16 溶鋼プール部(溶融金属プール部)
31 ガイド部材
32 ガイド面
38 相対速度調整手段
39 蛇行検知手段