特許第6856027号(P6856027)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社GSユアサの特許一覧

<>
  • 特許6856027-非水電解質二次電池 図000011
  • 特許6856027-非水電解質二次電池 図000012
  • 特許6856027-非水電解質二次電池 図000013
  • 特許6856027-非水電解質二次電池 図000014
  • 特許6856027-非水電解質二次電池 図000015
  • 特許6856027-非水電解質二次電池 図000016
  • 特許6856027-非水電解質二次電池 図000017
  • 特許6856027-非水電解質二次電池 図000018
  • 特許6856027-非水電解質二次電池 図000019
  • 特許6856027-非水電解質二次電池 図000020
  • 特許6856027-非水電解質二次電池 図000021
  • 特許6856027-非水電解質二次電池 図000022
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6856027
(24)【登録日】2021年3月22日
(45)【発行日】2021年4月7日
(54)【発明の名称】非水電解質二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/052 20100101AFI20210329BHJP
   H01M 10/0567 20100101ALI20210329BHJP
   H01M 10/0568 20100101ALI20210329BHJP
   H01M 10/058 20100101ALI20210329BHJP
   H01M 50/409 20210101ALI20210329BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20210329BHJP
【FI】
   H01M10/052
   H01M10/0567
   H01M10/0568
   H01M10/058
   H01M2/16 P
   H01M4/62 Z
【請求項の数】11
【全頁数】41
(21)【出願番号】特願2017-545087(P2017-545087)
(86)(22)【出願日】2016年9月30日
(86)【国際出願番号】JP2016004424
(87)【国際公開番号】WO2017064842
(87)【国際公開日】20170420
【審査請求日】2019年6月10日
(31)【優先権主張番号】特願2015-202630(P2015-202630)
(32)【優先日】2015年10月14日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2015-218141(P2015-218141)
(32)【優先日】2015年11月6日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2016-109738(P2016-109738)
(32)【優先日】2016年6月1日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(72)【発明者】
【氏名】中島 要
(72)【発明者】
【氏名】西川 平祐
(72)【発明者】
【氏名】人見 周二
【審査官】 結城 佐織
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−192385(JP,A)
【文献】 特表2015−520502(JP,A)
【文献】 特開2000−215916(JP,A)
【文献】 特開2002−083633(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0224550(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/052
H01M 4/62
H01M 10/0567
H01M 10/0568
H01M 10/058
H01M 50/409
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫黄を含む正極、
負極、
正極と負極との間に介在するカチオン交換樹脂層、
正極電解質、及び
負極電解質を備え、
正極電解質はリチウム多硫化物を含み、
正極電解質の硫黄換算濃度が負極電解質の硫黄換算濃度よりも高く、
正極電解質の硫黄換算濃度が1.2mol/l以上である
非水電解質二次電池。
【請求項2】
硫黄を含む正極、
負極、
正極と負極との間に介在するカチオン交換樹脂層、
正極電解質、及び
負極電解質を備え、
正極電解質はリチウム多硫化物を含み、
正極電解質の硫黄換算濃度が負極電解質の硫黄換算濃度よりも高く、
正極電解質の硫黄換算濃度が、18mol/l以下である
非水電解質二次電池。
【請求項3】
硫黄を含む正極、
負極、
正極と負極との間に介在するカチオン交換樹脂層、
正極電解質、及び
負極電解質を備え、
正極電解質はリチウム多硫化物を含み、
正極電解質の硫黄換算濃度が負極電解質の硫黄換算濃度よりも高く、
正極電解質に含まれるアニオンの濃度が0.3mol/l以下である
非水電解質二次電池。
【請求項4】
正極電解質の硫黄換算濃度が、3.0mol/l以上である
請求項1〜3いずれかの非水電解質二次電池。
【請求項5】
正極電解質及び負極電解質の少なくとも一方に含まれるアニオンの濃度が0.7mol/l以下である
請求項1〜4のいずれかの非水電解質二次電池。
【請求項6】
硫黄を含む正極、
負極、
正極と負極との間に介在するカチオン交換樹脂層、及び
非水電解質を備え、
正極及び負極の少なくとも一方がカチオン交換樹脂を含む合剤層を備え、
非水電解質に含まれるアニオンの濃度が0.7mol/l以下である
非水電解質二次電池。
【請求項7】
カチオン交換樹脂層が、ラフネスファクターが3以上である第一面を備える
請求項1〜のいずれかの非水電解質二次電池。
【請求項8】
カチオン交換樹脂層の第一面の算術平均粗さRaが0.5μm以上である
請求項の非水電解質二次電池。
【請求項9】
カチオン交換樹脂層の第一面の最大高さ粗さRzが5μm以上である
請求項7又は8の非水電解質二次電池。
【請求項10】
さらに多孔質層を備え、多孔質層はカチオン交換樹脂層の第一面に接している、
請求項7〜9のいずれかの非水電解質二次電池。
【請求項11】
硫黄を含む正極と、負極と、正極と負極との間に介在するカチオン交換樹脂層を備えた非水電解質二次電池の製造方法であって、
正極とカチオン交換樹脂層との間に、リチウム多硫化物を含む正極電解質を注入し、負極とカチオン交換樹脂層との間に、正極電解質よりもリチウム多硫化物の濃度が低い負極電解質を注入することを含む
非水電解質二次電池の製造方法。



【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池に代表される非水電解質二次電池は、携帯用端末、電気自動車、ハイブリッド自動車等に広く用いられており、今後もエネルギー密度の向上が期待されている。現在、実用化されているリチウムイオン二次電池の正極活物質にはリチウム遷移金属酸化物、負極活物質には炭素材料、電解質には非水溶媒にリチウム塩を溶解させた非水電解質が主に用いられている。
【0003】
非水電解質二次電池の正極活物質として、リチウム遷移金属酸化物の代替に硫黄を用いる検討が進められている。硫黄は、質量あたりの理論容量が1675mAh/gと大きいため、高容量化に向けた次世代正極活物質として期待されている。
しかしながら、充放電中に正極で生成したリチウム多硫化物(Li、4≦n≦8)が非水電解質に溶出し、負極に到達して還元されることにより自己放電が進行するシャトル現象が課題となっている。シャトル現象を抑制するために、正極と負極との間にカチオン交換樹脂層を配置する技術が知られている。(特許文献1〜3、非特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015−128063号公報
【特許文献2】国際公開第2015/083314号
【特許文献3】特表2015−507837号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Journal of Power Sources,Vol.251,p.417−422(2014)
【非特許文献2】Journal of Power Sources,Vol.218,p.163−167(2012)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本願発明者らは、正極と負極との間にカチオン交換樹脂層を設けることで、正極から負極へのリチウム多硫化物の移動は抑制できるが、エネルギー密度及び充放電サイクル性能が充分に高くないことを見出した。本発明は、上記課題を解決することを目的とする。
【0007】
本発明の一側面に係る非水電解質二次電池は、硫黄を含む正極、負極、正極と負極との間に介在するカチオン交換樹脂層、正極電解質、及び負極電解質を備え、正極電解質はリチウム多硫化物を含み、正極電解質の硫黄換算濃度が負極電解質の硫黄換算濃度よりも高い。
【0008】
本発明の別の一側面に係る非水電解質二次電池は、硫黄を含む正極、負極、正極と負極との間に介在するカチオン交換樹脂層、及び非水電解質を備え、正極及び負極の少なくとも一方がカチオン交換樹脂を備え、非水電解質に含まれるアニオンの濃度が0.7mol/l以下である。
【0009】
本発明の別の一側面に係る非水電解質二次電池の製造方法は、硫黄を含む正極と、負極と、正極と負極との間に介在するカチオン交換樹脂層を備えた非水電解質二次電池の製造方法であって、正極とカチオン交換樹脂層との間に、リチウム多硫化物を含む正極電解質を注入し、負極とカチオン交換樹脂層との間に、正極電解質よりもリチウム多硫化物の濃度が低い負極電解質を注入することを含む。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一側面によれば、優れたエネルギー密度及び充放電サイクル性能を有する非水電解質二次電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】第一実施形態に係る非水電解質二次電池の外観斜視図である。
図2】第一実施形態に係る非水電解質二次電池の局所的な模式的断面図である。
図3】第一実施形態に係る非水電解質二次電池を複数個集合して構成した蓄電装置を示す概略図である。
図4】第三実施形態に係る非水電解質二次電池の模式的断面図である。
図5】第一実施例等で用いた試験用セルの構成を示す模式的断面図である。
図6】第二実施例で用いた抵抗測定用セルの構成を示す模式的断面図である。
図7】第三実施例で用いた試験用セルの構成を示す模式的断面図である。
図8】第四実施例で用いた試験用セルの構成を示す模式的断面図である。
図9】第四実施例における界面抵抗低減率とカチオン交換樹脂層表面のラフネスファクターとの関係を示すグラフである。
図10】第四実施例における界面抵抗低減率とカチオン交換樹脂層表面の算術平均粗さとの関係を示すグラフである。
図11】第四実施例における界面抵抗低減率とカチオン交換樹脂層表面の最大高さ粗さとの関係を示すグラフである。
図12】(a)第四実施例における実施例電池5−1の放電カーブを示す図であり、(b)第四実施例における比較例電池5−1の放電カーブを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の一側面に係る非水電解質二次電池は、硫黄を含む正極、負極、正極と負極との間に介在するカチオン交換樹脂層、正極電解質、及び負極電解質を備え、正極電解質はリチウム多硫化物を含み、負極電解質の硫黄換算濃度が正極電解質の硫黄換算濃度よりも低い。
【0013】
上記構成により、エネルギー密度及び充放電サイクル性能に優れた非水電解質二次電池を得ることができる。
【0014】
正極電解質の硫黄換算濃度が、1.2mol/l以上であることが好ましい。
【0015】
このような構成により、充放電サイクル性能がより優れたものとなるだけでなく、サイクル後の充放電効率を高くすることができる。
【0016】
上記構成において、正極電解質の硫黄換算濃度は、3.0mol/l以上であることが好ましい。
【0017】
このような構成により、高容量かつ高エネルギー密度を有する非水電解質二次電池を提供できる。
【0018】
正極電解質の硫黄換算濃度は、18mol/l以下であることが好ましい。
【0019】
このような構成により、正極電解質の粘度が上がりすぎず、正極電解質とカチオン交換樹脂層との界面抵抗が高くなり過ぎないので、エネルギー密度の高い非水電解質二次電池が得られる。
【0020】
上記構成において、前記正極電解質及び前記負極電解質の少なくとも一方に含まれるアニオンの濃度が0.7mol/l以下であることが好ましい。
【0021】
このような構成とすることにより、正極電解質又は負極電解質とカチオン交換樹脂層との界面抵抗の低い非水電解質二次電池とすることができる。
【0022】
正極電解質に含まれるアニオンの濃度が、0.3mol/l以下であることが好ましい。
【0023】
上記構成により、正極電解質に含まれるリチウム多硫化物の濃度を高くしても、正極電解質とカチオン交換樹脂層との界面抵抗が上昇しにくく、高い容量を有する非水電解質二次電池とすることができる。
【0024】
本発明の別の一側面に係る非水電解質二次電池は、硫黄を含む正極、負極、正極と負極との間に介在するカチオン交換樹脂層、及び非水電解質を備え、正極及び負極の少なくとも一方がカチオン交換樹脂を備え、非水電解質に含まれるアニオンの濃度が0.7mol/l以下である。
【0025】
このような構成により、優れたエネルギー密度及び充放電サイクル性能を有する非水電解質二次電池を得ることができる。
【0026】
カチオン交換樹脂層は、ラフネスファクターが3以上である第一面を備えることが好ましい。
【0027】
上記構成を有することにより、カチオン交換樹脂層の第一面の界面抵抗が低減され、非水電解質二次電池の高率放電性能が向上する。
【0028】
カチオン交換樹脂層の第一面の算術平均粗さRaは、0.5μm以上であることが好ましい。
【0029】
カチオン交換樹脂層の第一面の算術平均粗さRaが0.5μm以上であることにより、界面抵抗を低減することができる。
【0030】
カチオン交換樹脂層の第一面の最大高さ粗さRzは、5μm以上であることが好ましい。
【0031】
カチオン交換樹脂層の第一面の最大高さ粗さRzが5μm以上であることにより、電解質塩濃度が低い場合においても、カチオン交換樹脂層の第一面の界面抵抗を低減することができる。
【0032】
前記非水電解質二次電池はさらに多孔質層を備えていてもよい。その場合、多孔質層はカチオン交換樹脂層の第一面に接していることが好ましい。
【0033】
詳しくは後述するが、カチオン交換樹脂層中では、カチオンが選択的(優先的)に移動し、アニオンの移動は起こりにくい。一方、カチオン及びアニオンを含む非水電解質が含浸された多孔質層中では、カチオン及びアニオンの双方が移動することができる。そのため、カチオン交換樹脂層と多孔質層とを備える非水電解質二次電池では、イオンの伝達機構が異なるため、カチオン交換樹脂層と多孔質層との界面の抵抗が大きい値となる傾向にある。このように、界面抵抗が高い非水電解質二次電池に本実施形態を適用することにより、顕著に界面抵抗が低減し、優れた高率放電性能を備えた非水電解質二次電池を得ることができる。
【0034】
本発明の別の一側面に係る非水電解質二次電池の製造方法は、硫黄を含む正極と、負極と、正極と負極との間に介在するカチオン交換樹脂層を備えた非水電解質二次電池の製造方法であって、正極とカチオン交換樹脂層との間に、リチウム多硫化物を含む正極電解質を注入し、負極とカチオン交換樹脂層との間に、正極電解質よりもリチウム多硫化物の濃度が低い負極電解質を注入することを含む。
【0035】
上記の製造方法を用いることにより、正極電解質が含有するリチウム多硫化物の濃度をコントロールすることができるので、充放電サイクル性能に優れた非水電解質二次電池を製造することができる。
【0036】
<第一実施形態>
以下、第一実施形態に係る非水電解質二次電池について説明する。以下で説明する実施の形態は、いずれも本発明の好ましい一具体例を示している。以下の実施の形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置位置及び接続形態等は、一例であり、本発明を限定する主旨ではない。また、以下の実施の形態における構成要素のうち、本発明の最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素については、より好ましい形態を構成する任意の構成要素として説明される。
【0037】
第一実施形態に係る非水電解質二次電池は、硫黄を含む正極、負極、正極と負極との間に介在するカチオン交換樹脂層、正極電解質、及び負極電解質を備え、正極電解質はリチウム多硫化物を含み、正極電解質の硫黄換算濃度が負極電解質の硫黄換算濃度よりも高い。正極電解質は、正極とカチオン交換樹脂層との間に配され、負極電解質は、カチオン交換樹脂層と負極との間に配される。なお、以降の説明において、「正極電解質」と「負極電解質」とを合わせて「非水電解質」ということがある。また、非水電解質二次電池に用いられる非水電解質は、通常、電解質塩と非水溶媒とを含むが、本明細書においては、電解質塩を含まない非水溶媒を「非水電解質」ということがある。
【0038】
カチオン交換樹脂層は、カチオン交換樹脂を含む層であり、正極と負極とを絶縁状態に保つセパレータの役割を有する。カチオン交換樹脂は、主に炭化水素からなるポリマー中に、スルホン酸基、カルボン酸基等のアニオン性の官能基が結合した構造を有する。このアニオン性基の静電相互作用により、高いカチオン透過性を有する一方、アニオンの透過性は低い。すなわち、カチオン交換樹脂は、リチウムイオンを通過させ、正極電解質(電解液)中でわずかに解離してアニオン性を帯びているリチウム多硫化物の通過を阻止する。これにより、カチオン交換樹脂層は、正極から負極へのリチウム多硫化物の移動を抑制するため、シャトル現象が抑制される。
【0039】
カチオン交換樹脂層により、正極から負極へのリチウム多硫化物の移動は抑制されるが、充放電反応中に正極で生成したリチウム多硫化物は、非水溶媒への溶解性が高いため、充放電サイクル中に容易に正極電解質中に溶出する。本発明者らは、正極とカチオン交換樹脂層との間に配される正極電解質にあらかじめリチウム多硫化物を混合しておくことにより、正極で生成したリチウム多硫化物の溶出が抑制されるばかりでなく、正極電解質中のリチウム多硫化物が正極活物質として充放電反応に寄与することにより、優れたエネルギー密度及び充放電サイクル性能を発揮できることを見出した。すなわち、本実施形態に係る非水電解質二次電池は、正極と負極との間にカチオン交換樹脂層を備え、正極電解質がリチウム多硫化物を含み、正極電解質の硫黄換算濃度が負極電解質の硫黄換算濃度より高いことにより、高い充放電サイクル性能を有する。ここで、硫黄換算濃度とは、非水電解質中の硫黄化合物の濃度を硫黄原子の濃度に換算した値である。すなわち、1mol/lの硫化リチウム(LiS)は硫黄換算濃度1mol/lに相当し、1mol/lのLiは硫黄換算濃度6mol/lに相当し、1mol/lの硫黄(S)は硫黄換算濃度8mol/lに相当する。
【0040】
正極電解質の硫黄換算濃度の下限は、1.2mol/lが好ましく、1.5mol/lがより好ましく、3.0mol/lがさらに好ましい。硫黄換算濃度が1.2mol/l以上であることにより、充放電サイクル後の充放電効率が向上する。硫黄換算濃度が3.0mol/l以上であることにより、高容量かつ高エネルギー密度を有する非水電解質二次電池が提供できる。
【0041】
正極電解質の硫黄換算濃度の上限は、18mol/lが好ましく、12mol/lがより好ましく、9mol/lがさらに好ましい。硫黄換算濃度が上記上限以下であることにより、正極電解質の粘度が上がりすぎず、正極電解質とカチオン交換樹脂層との界面抵抗が高くなり過ぎないので、エネルギー密度の高い非水電解質二次電池が得られる。
【0042】
非水電解質(正極電解質及び負極電解質)は、電解質塩に由来するアニオンを含んでいてもよい。なお、本実施形態におけるアニオンとは、非水電解質中に溶解している電解質塩由来のアニオンを指し、カチオン交換樹脂の分子構造中に含まれるスルホン酸基等のアニオン性官能基や、リチウム多硫化物及びリチウム多硫化物の一部が解離してアニオン性を帯びた化合物は含まない。
正極電解質及び負極電解質の少なくとも一方に含まれるアニオンの濃度の上限は、0.7mol/lが好ましく、0.5mol/lがより好ましく、0.3mol/lがさらに好ましい。正極電解質に含まれるアニオンの濃度の上限は、0.3mol/lが好ましく、0.2mol/lがより好ましく、0mol/lであってもよい。アニオンの濃度が上記上限以下であることにより、非水電解質の粘度を下げることが可能となり、放電容量が高く、充放電サイクル性能に優れた非水電解質二次電池を得ることができる。
【0043】
正極電解質及び負極電解質の少なくとも一方に含まれるアニオンの濃度の下限は、0mol/lであってもよいが、0.1mol/lが好ましく、0.3mol/lがより好ましい。非水電解質中に少量のアニオンを含むことにより、優れた充放電サイクル性能が得られる。
【0044】
正極電解質が含有するリチウム多硫化物としては、特に限定されないが、Li(4≦n≦8)で表されるリチウム多硫化物が好ましい。
【0045】
組成式Li(4≦n≦8)で表されるリチウム多硫化物を得る方法は限定されない。例えば、目的とする組成比でリチウム硫化物(LiS)と硫黄(S)とを、溶媒中で混合及び撹拌したのち、密閉容器に入れて80℃の恒温槽で4日以上反応させることにより、得ることができる。
【0046】
本実施形態において、負極電解質は正極電解質よりも硫黄換算濃度が低い。すなわち、負極電解質に含まれる単体硫黄、リチウム多硫化物及びLiSの濃度の総和が、正極電解質のそれよりも低い。リチウム多硫化物は、負極活物質と反応して負極活物質の充電深度を下げるとともに、還元生成物としてLiSを生じる。LiSは非水溶媒に不溶性であるため、負極表面に析出して負極の反応面積を低下させる。このため、負極電解質の硫黄換算濃度の上限は、0.5mol/lが好ましく、0mol/lであってもよい。リチウム多硫化物は、負極表面で反応して固体電解質被膜(SEI)を形成することが知られているため、負極電解質は少量のリチウム多硫化物を含んでいることが好ましい。
【0047】
本実施形態に係る正極は、正極基材、及び正極基材上に直接又は中間層を介して配された正極合剤層を含む。
【0048】
正極基材としては、電池内で悪影響を及ぼさない電子伝導体であれば、公知の材料を適宜用いることができる。正極基材としては、例えば、アルミニウム、チタン、ステンレス鋼、ニッケル、焼成炭素、導電性高分子、導電性ガラス等の他に、接着性、導電性及び耐酸化性向上の目的で、アルミニウムや銅等の表面をカーボン、ニッケル、チタンや銀等で処理したものを用いることができる。正極基材の形状は、フォイル状の他、フィルム状、シート状、ネット状、パンチ又はエキスパンドされた物、ラス体、多孔質体、発泡体、繊維群の形成体等が用いられる。厚みの限定は特にないが、1〜500μmのものが用いられる。
【0049】
上記中間層は、正極基材の表面の被覆層であり、炭素粒子等の導電剤を含むことで正極基材と正極合剤層との接触抵抗を低減する。中間層の構成は特に限定されず、例えば結着剤及び導電剤を含有する組成物により形成できる。
【0050】
正極合剤層は、活物質、導電剤及び結着剤を含み、活物質は硫黄を含む。活物質として、導電性物質と複合化した硫黄を用いることが好ましい。導電性物質としては、多孔性カーボン、カーボンブラック、黒鉛、炭素繊維などの炭素材料やポリアニリン、ポリチオフェン、ポリアセチレン、ポリピロールなどの電子伝導性ポリマーが挙げられる。正極合剤層は、必要に応じて、硫黄以外の活物質、増粘剤、フィラー等を含んでいてもよい。
正極合剤層は、固体状態の硫黄を含まなくてもよい。この場合、正極合剤層は導電剤及び結着剤のみを含有し、正極電解質中のリチウム多硫化物が活物質として充放電に寄与する。固体状硫黄を含有することで、非水電解質二次電池の放電容量及びエネルギー密度を向上させられるため、好ましい。
【0051】
硫黄以外の正極活物質としては、リチウムイオンを吸蔵放出可能な正極活物質であれば、適宜公知の材料を使用できる。例えば、LiMO(Mは少なくとも一種の遷移金属を表す)で表される複合酸化物(LiCoO、LiNiO、LiMn、LiMnO、LiNiCo(1−y)、LiNiMnCo(1−y−z)、LiNiMn(2−y)等)、あるいは、LiMe(XO(Meは少なくとも一種の遷移金属を表し、Xは例えばP、Si、B、V)で表されるポリアニオン化合物(LiFePO、LiMnPO、LiNiPO、LiCoPO、Li(PO、LiMnSiO、LiCoPOF等)から選択することができる。また、これらの化合物中の元素またはポリアニオンは一部他の元素またはアニオン種で置換されていてもよく、表面にZrO、MgO、Al等の金属酸化物や炭素を被覆されていてもよい。さらに、ジスルフィド、ポリピロール、ポリアニリン、ポリパラスチレン、ポリアセチレン、ポリアセン系材料等の導電性高分子化合物、擬グラファイト構造炭素質材料、単体の硫黄等が挙げられるが、これらに限定されない。また、これらの化合物は単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0052】
導電剤としては、電池性能に悪影響を及ぼさない電子伝導性材料であれば限定されないが、例えば、天然黒鉛(鱗状黒鉛、鱗片状黒鉛、士状黒鉛等)、人造黒鉛、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンウイスカー、炭素繊維、金属(銅、ニッケル、アルミニウム、銀、金等)粉、金属繊維、導電性セラミックス材料等の導電性材料を1種又は2種以上の混合物を用いることができる。これらの中で、導電剤としては、電子伝導性及び塗工性の観点よりアセチレンブラックが好ましい。導電剤の添加量は、正極合剤層の総質量に対して0.1質量%〜50質量%が好ましく、0.5質量%〜30質量%がより好ましい。アセチレンブラックを0.1〜0.5μmの超微粒子に粉砕して用いると必要な炭素量を削減できるため好ましい。
【0053】
結着剤としては、一般に非水電解質二次電池に使用される結着剤が使用でき、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリエチレン、ポリプロピレン等の熱可塑性樹脂、エチレン−プロピレン−ジエンターポリマー(EPDM)、スルホン化EPDM、スチレンブタジエンゴム(SBR)、フッ素ゴム等のゴム弾性を有するポリマーの1種又は2種以上の混合物を使用することができる。結着剤の添加量は、正極合剤層の総質量に対して1〜50質量%が好ましく、2〜30質量%がより好ましい。
【0054】
増粘剤としては、カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース等の多糖類高分子が挙げられる。また、増粘剤がリチウムと反応する官能基を有する場合、予めメチル化等によりこの官能基を失活させておくことが好ましい。
【0055】
フィラーとしては、電池性能に悪影響を与えないものであれば特に限定されない。フィラーの主成分としては、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン、シリカ、アルミナ、ゼオライト、ガラス等が挙げられる。
【0056】
本実施形態に係る負極は、負極基材と、負極基材上に直接又は中間層を介して配された負極合剤層を含む。負極合剤層は、負極活物質及び結着剤を含む。負極合剤層は、必要に応じて、導電剤、増粘剤、フィラー等を含んでいてもよい。負極の中間層は、上述した正極の中間層と同様とすることができる。
【0057】
負極合剤層に用いられる負極活物質としては、電気化学的にリチウムイオンを吸蔵放出可能な物質であれば、特に制限はなく、適宜公知の材料を使用できる。例えば、炭素質材料、酸化錫や酸化ケイ素等の金属酸化物、金属複合酸化物、リチウム単体やリチウムアルミニウム合金等のリチウム合金、SnやSi等のリチウムと合金形成可能な金属等が挙げられる。炭素質材料としては、グラファイト(黒鉛)、コークス類、難黒鉛化性炭素、易黒鉛化性炭素、フラーレン、カーボンナノチューブ、カーボンブラック、活性炭等が挙げられる。これらの中でもグラファイトは、金属リチウムに極めて近い作動電位を有し、高い作動電圧での充放電を実現できるため負極活物質として好ましく、例えば、人造黒鉛、天然黒鉛が好ましい。特に、負極活物質粒子表面を不定形炭素等で修飾してあるグラファイトは、充電中のガス発生が少ないことから望ましい。これらは、1種を単独で用いても、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。なかでも炭素質材料又はリチウム複合酸化物が安全性の点から好ましく用いられる。
【0058】
負極合材層に用いられる結着剤としては、前述した種々の結着剤を用いることができる。また、負極合剤層は、上述の導電剤、増粘剤及びフィラー等を含んでいてもよい。
【0059】
負極基材としては、銅、ニッケル、鉄、ステンレス鋼、チタン、アルミニウム、焼成炭素、導電性高分子、導電性ガラス、Al−Cd合金等の他に、接着性、導電性、耐還元性の目的で、銅等の表面をカーボン、ニッケル、チタンや銀等で処理したものを用いることができる。
負極基材の形状については、フォイル状の他、フィルム状、シート状、ネット状、パンチ又はエキスパンドされた物、ラス体、多孔質体、発泡体、繊維群の形成体等が用いられる。厚みの限定は特にないが、1〜500μmのものが用いられる。
【0060】
本実施形態において、カチオン交換樹脂層は、正極と負極とを絶縁するセパレータの役割を担う。カチオン交換樹脂層はカチオン交換樹脂を含む。カチオン交換樹脂としては、例えば、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリビニルベンゼンスルホン酸、ポリベンゼンメタンスルホン酸、ポリアクリルアミド−2−メチル−1−プロパンスルホン酸が挙げられる。また、種々の樹脂にスルホン酸基(−SOH)、カルボン酸基(−COOH)、又は水酸基(−OH)を導入することにより、カチオン交換樹脂を得ることができる。種々の樹脂としては、パーフルオロカーボン樹脂、芳香族ポリエーテルケトン樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリフェニレンオキサイド樹脂、ポリベンゾイミダゾール樹脂等が挙げられる。
高いイオン伝導性が得られるため、パーフルオロカーボン樹脂にスルホン酸基を導入したパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂が好ましい。
【0061】
カチオン交換樹脂層が、カチオン交換樹脂を含む形態は、特に限定されない。カチオン交換樹脂を膜状に形成したカチオン交換膜を用いてもよいし、市販のイオン交換膜を用いてもよい。市販のイオン交換膜としては、具体的には、ナフィオン膜(商品名、デュポン社製)、フレミオン(商品名、旭硝子社製)、アシプレックス(商品名、旭化成社製)等を挙げることができる。
カチオン交換樹脂を膜状に形成したカチオン交換膜を用いる場合、カチオン交換膜の厚みは20〜180μmが好ましい。20μm以上とすることで、電池製造時のハンドリングが容易となる。また、180μm以下とすることで、電池の内部抵抗が大きなものとなる虞を低減できるとともに、電池のエネルギー密度を向上させることができる。
カチオン交換樹脂層は、カチオン交換樹脂とその他の高分子との混合物を薄膜状に成形したものであってもよい。その他の高分子としては、後述する多孔質膜を構成する材料を適宜用いることができる。
【0062】
カチオン交換樹脂層は、多孔質膜の多孔質構造の内部にカチオン交換樹脂を充填した構成としてもよい。充填する方法としては、特に限定されないが、例えば、スプレー法、ディスペンス法、浸漬法、ブレードコート法を挙げることができる。
【0063】
カチオン交換樹脂層は、一方の表面から他方の表面へ連通する孔を有しない、すなわち非多孔性である。非多孔性であることにより、正極電解質と負極電解質とが混合されることがなく、リチウム多硫化物が負極へと到達する虞が低減される。なお、少なくとも一方の表面に、他方の表面と連絡しない細孔や凹凸を有していてもよい。このような形態の詳細は、第三実施形態において説明する。
【0064】
通常、市販されているカチオン交換樹脂又はカチオン交換膜は、アニオン性官能基にプロトンが結合したプロトン(H)型である。非水電解質二次電池にカチオン交換樹脂又はカチオン交換膜を適用するにあたって、H型からリチウム(Li)型に置換を行うことが好ましい。Li型への置換は、セパレータを水酸化リチウム水溶液に浸漬することによって行う。浸漬後、セパレータを25℃の脱イオン水で、洗浄水が中性となるまで洗浄する。水酸化リチウム水溶液の温度は70℃〜90℃が好ましく、浸漬時間は2時間〜6時間が好ましい。
【0065】
カチオン交換樹脂層は、その内部でのリチウムイオンの伝導のために、非水溶媒を含むことが好ましい。カチオン交換樹脂層に含まれる非水溶媒には、後述する正極電解質又は負極電解質に使用できる各種非水溶媒が適宜使用できる。非水溶媒を含まないカチオン交換樹脂層をそのまま非水電解質二次電池に適用してもよいが、カチオン交換樹脂の中には、非水溶媒(又は非水電解質)の膨潤性が低いものがあるので、電池作製前にあらかじめ非水溶媒で膨潤処理を行うことが好ましい。膨潤処理は、Li型に置換されたカチオン交換樹脂層を、非水溶媒に浸漬することによって行う。膨潤処理時間は、12〜48時間が好ましい。
【0066】
カチオン交換樹脂層に含まれる非水溶媒の量は、カチオン交換樹脂層に対して30質量%以下であってもよい。このような構成とすることにより、カチオン交換樹脂層が非水溶媒によって適度に膨潤され、カチオン交換樹脂層内でのリチウムイオンの移動がスムーズになる。その結果、非水電解質二次電池の放電容量を大きくすることができる。
【0067】
カチオン交換樹脂層に含有される非水溶媒の質量の調整方法としては、カチオン交換樹脂への含浸性が低い非水溶媒を用いることによって行ってもよいし、カチオン交換樹脂を浸漬する非水溶媒の量を、予めカチオン交換樹脂の量に対して30質量%以下として行ってもよい。カチオン交換樹脂層への含浸性が低い溶媒としては、例えば、1,3−ジオキサン、1,4−ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン、1,4−ジブトキシエタン、メチルジグライム、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル等のエーテル類、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート等の鎖状カーボネート類、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート等の環状カーボネート類が挙げられる。その他、膨潤用の溶媒として、後述する正極電解質又は負極電解質に用いられる非水溶媒を適宜用いることができる。
【0068】
カチオン交換樹脂層に加えて、通常の非水電解質二次電池で用いられる多孔質膜をセパレータとして用いてもよい。多孔質膜としては、合成樹脂製の微多孔膜、織物又は不織布、天然繊維、ガラス繊維又はセラミック繊維の織物又は不織布、紙等を用いることができる。合成樹脂としては、例えばポリエチレン,ポリプロピレン等に代表されるポリオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート,ポリブチレンテレフタレート等に代表されるポリエステル系樹脂、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−パーフルオロビニルエーテル共重合体、フッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−トリフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−フルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロアセトン共重合体、フッ化ビニリデン−エチレン共重合体、フッ化ビニリデン−プロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−トリフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体、ポリアクリロニトリル、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド等を用いることができる。これらの中でも、有機溶剤に不溶な織布、不織布、ポリエチレン又はポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂からなる合成樹脂微多孔膜を用いることが好ましい。多孔質膜は、材料、重量平均分子量、又は、空孔率の異なる複数の微多孔膜が積層して構成されてもよく、これらの微多孔膜に各種の可塑剤、酸化防止剤、又は、難燃剤等の添加剤を適量含有していてもよい。厚さ、膜強度、又は膜抵抗等の観点から、ポリエチレン及びポリプロピレン製の微多孔膜、アラミド又はポリイミドと複合化させたポリエチレン及びポリプロピレン製の微多孔膜、又は、これらを複合した微多孔膜等のポリオレフィン系微多孔膜を用いることが特に好ましい。多孔質膜の厚さは、5〜35μmが好ましい。
【0069】
正極電解質及び負極電解質に用いる非水溶媒は、限定されず、一般にリチウム二次電池等への使用が提案されているものが使用可能である。非水溶媒としては、例えば、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、クロロエチレンカーボネート、ビニレンカーボネート等の環状炭酸エステル類;γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン等の環状エステル類;ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート等の鎖状カーボネート類;ギ酸メチル、酢酸メチル、酪酸メチル等の鎖状エステル類;テトラヒドロフランまたはその誘導体;1,3−ジオキサン、1,4−ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン、1,4−ジブトキシエタン、メチルジグライム等のエーテル類;アセトニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル類;ジオキソランまたはその誘導体;エチレンスルフィド、スルホラン、スルトンまたはその誘導体等の単独またはそれら2種以上の混合物等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0070】
本実施形態において、正極電解質又は負極電解質には、添加剤を含有させてもよい。添加剤としては、一般に非水電解質二次電池に使用される電解質添加剤が使用できる。例えば、ビフェニル、アルキルビフェニル、ターフェニル、ターフェニルの部分水素化体、シクロヘキシルベンゼン、t−ブチルベンゼン、t−アミルベンゼン、ジフェニルエーテル、ジベンゾフラン等の芳香族化合物;2−フルオロビフェニル、o−シクロヘキシルフルオロベンゼン、p−シクロヘキシルフルオロベンゼン等の前記芳香族化合物の部分フッ素化物;2,4−ジフルオロアニソール、2,5−ジフルオロアニソール、2,6−ジフルオロアニソール、3,5−ジフルオロアニソール等の含フッ素アニソール化合物;ビニレンカーボネート、メチルビニレンカーボネート、エチルビニレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、ジフルオロエチレンカーボネート、トリフルオロプロピレンカーボネート等の環状カーボネート;無水コハク酸、無水グルタル酸、無水マレイン酸、無水シトラコン酸、無水グルタコン酸、無水イタコン酸、シクロヘキサンジカルボン酸無水物等の無水カルボン酸;亜硫酸エチレン、亜硫酸プロピレン、亜硫酸ジメチル、プロパンスルトン、プロペンスルトン、ブタンスルトン、メタンスルホン酸メチル、ブスルファン、トルエンスルホン酸メチル、硫酸ジメチル、硫酸エチレン、スルホラン、ジメチルスルホン、ジエチルスルホン、ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシド、テトラメチレンスルホキシド、ジフェニルスルフィド、チオアニソール、ジフェニルジスルフィド、ジピリジニウムジスルフィド等の含硫黄化合物;パーフルオロオクタン、ホウ酸トリストリメチルシリル、リン酸トリストリメチルシリル、チタン酸テトラキストリメチルシリル等を単独で又は二種以上混合して用いることができる。
【0071】
正極電解質又は負極電解質に含有される電解質塩としては、公知の電解質塩を適宜用いることができる。例えば、LiClO、LiBF、LiAsF、LiPF、LiSCN、LiBr、LiI、LiSO、Li10Cl10、NaClO、NaI、NaSCN、NaBr、KClO、KSCN等のリチウム(Li)、ナトリウム(Na)またはカリウム(K)の1種を含む無機イオン塩、LiCFSO、LiN(CFSO、LiN(CSO、LiN(CFSO)(CSO)、LiC(CFSO、LiC(CSO、(CHNBF、(CHNBr、(CNClO、(CNI、(CNBr、(n−CNClO、(n−CNI、(CN−maleate、(CN−benzoate、(CN−phthalate、ステアリルスルホン酸リチウム、オクチルスルホン酸リチウム、ドデシルベンゼンスルホン酸リチウム等の有機イオン塩等が挙げられ、これらのイオン性化合物を単独、あるいは2種類以上混合して用いることが可能である。
【0072】
さらに、LiPF又はLiBFと、LiN(CSOのようなパーフルオロアルキル基を有するリチウム塩とを混合して用いることにより、電解質の粘度を下げることができるので、低温性能を高めることができ、また、自己放電を抑制することができ、より好ましい。
【0073】
非水電解質は、常温溶融塩やイオン液体を含んでもよい。
【0074】
本実施形態に係る非水電解質二次電池の製造方法は、正極とカチオン交換樹脂層との間に、リチウム多硫化物を含む正極電解質を注入し、負極とカチオン交換樹脂層との間に、正極電解質よりもリチウム多硫化物の濃度が低い負極電解質を注入することを含む。当該製造方法は、例えば、(1)正極を作製する工程、(2)負極を作製する工程、(3)正極電解質及び負極電解質を調製する工程、(4)カチオン交換樹脂層を非水電解質又は非水溶媒に浸漬する工程、(5)正極とカチオン交換樹脂層との間に正極電解質を注入する工程、(6)負極とカチオン交換樹脂層との間に負極電解質を注入する工程、(7)正極及び負極を、カチオン交換樹脂層を介して積層又は巻回することにより交互に重畳された電極群を形成する工程、(8)正極及び負極(電極群)を電池容器(ケース)に収容する工程、並びに(9)上記電池容器の開口部を封止する工程を備えることができる。
(3)の工程で調整された正極電解質は、少なくともリチウム多硫化物を含み、負極電解質は、正極電解質よりも硫黄換算濃度が低い。正極電解質は、硫黄換算濃度が1.2mol/l以上であることが好ましく、1.5mol/l以上がより好ましく、3.0mol/l以上がさらに好ましい。
(5)の工程は、正極に直接正極電解質を滴下することにより行ってもよいし、正極電解質を含浸させた多孔質層等を正極とカチオン交換樹脂層との間に配置することにより行ってもよい。(6)の工程についても同様である。
上記(1)〜(4)の工程はどのような順序で行ってもよく、(5)〜(7)の工程は同時に行っても逐次行ってもよい。
【0075】
本実施形態の非水電解質二次電池としては、例えば、図1に示す非水電解質二次電池1(リチウムイオン二次電池)が挙げられる。
【0076】
図1に示すように、非水電解質二次電池1は、容器3と、正極端子4と、負極端子5とを備え、容器3は、電極群2等を収容する容器本体と上壁である蓋板とを備えている。また、容器本体内方には、電極群2と、正極リード4’と、負極リード5’とが配置されている。
【0077】
正極11は、正極リード4’を介して正極端子4と電気的に接続され、負極13は、負極リード5’を介して負極端子5と電気的に接続されている。なお、正極11には正極電解質が含浸され、負極13には負極電解質が含浸されているが、当該液体の図示は省略する。
【0078】
電極群2は、正極11と、負極13と、セパレータとしてのカチオン交換樹脂層15とを備え、電気を蓄えることができる。具体的には、電極群2は、図2に示すように、負極13と正極11との間にカチオン交換樹脂層15が挟み込まれるように層状に配置されて形成されている。
【0079】
電極群2の局所的な模式断面図を図2に示す。電極群2は、正極11とカチオン交換樹脂層15との間に正極電解質12を備え、負極13とカチオン交換樹脂層15との間に負極電解質14を備える。正極電解質12はリチウム多硫化物を含む。カチオン交換樹脂層15はカチオン交換樹脂を含む。負極電解質14の硫黄換算濃度は、正極電解質12の硫黄換算濃度より低い。
なお、図2では、正極11と正極電解質12、負極13と負極電解質14とを分けて示しているが、正極電解質12及び負極電解質14は、正極11及び負極13にそれぞれ含浸されているため、通常の電池では、正極11はカチオン交換樹脂層15の一方の面に接し、負極13はカチオン交換樹脂層15の他方の面に接している。
【0080】
上記の説明では、正極11はカチオン交換樹脂層15の一方の面に接し、負極13はカチオン交換樹脂層15の他方の面に接しているとしたが、正極11とカチオン交換樹脂層15との間、及び負極13とカチオン交換樹脂層15との間の少なくとも一方に、多孔質層(多孔質膜)を配置してもよい。正極11とカチオン交換樹脂層15との間に配置される多孔質層には正極電解質が含浸され、負極13とカチオン交換樹脂層15との間に配置される多孔質層には負極電解質が含浸される。
【0081】
本発明に係る非水電解質二次電池の構成については特に限定されるものではなく、円筒型電池、角型電池(矩形状の電池)、扁平型電池等が一例として挙げられる。上記の非水電解質二次電池を複数備える蓄電装置としてもよい。蓄電装置の一実施形態を図3に示す。図3において、蓄電装置100は、複数の蓄電ユニット20を備えている。それぞれの蓄電ユニット20は、複数の非水電解質二次電池1を備えている。上記蓄電装置100は、電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車(HEV)、プラグインハイブリッド自動車(PHEV)等の自動車用電源として搭載することができる。
【0082】
<第二実施形態>
以下、第二実施形態に係る非水電解質二次電池について説明する。以下で説明する実施の形態は、いずれも本発明の好ましい一具体例を示している。以下の実施の形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置位置及び接続形態等は、一例であり、本発明を限定する主旨ではない。また、以下の実施の形態における構成要素のうち、本発明の最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素については、より好ましい形態を構成する任意の構成要素として説明される。なお、第一実施形態と共通する構成要件については、説明を省略する。
【0083】
第二実施形態に係る非水電解質二次電池は、硫黄を含む正極、負極、正極と負極との間に介在するカチオン交換樹脂層、及び非水電解質を備え、正極及び負極の少なくとも一方がカチオン交換樹脂を備え、非水電解質に含まれるアニオンの濃度が0.7mol/l以下である。より詳細には、第二実施形態に係る非水電解質二次電池は、硫黄を含む正極、負極、正極と負極との間に介在するカチオン交換樹脂層、正極とカチオン交換樹脂層との間に配される正極電解質(非水電解質の一例)、及び負極とカチオン交換樹脂層との間に配される負極電解質(非水電解質の一例)を備え、正極及び負極の少なくとも一方がカチオン交換樹脂を備え、正極電解質及び負極電解質に含まれるアニオンの濃度が0.7mol/l以下である。
【0084】
第二実施形態に係る非水電解質二次電池において、正極及び負極の少なくとも一方がカチオン交換樹脂を備える。正極及び負極の少なくとも一方がカチオン交換樹脂を備える態様は特に限定されないが、正極合剤層又は負極合剤層の表面又は内部に備えることが好ましい。すなわち、カチオン交換樹脂が合剤層の表面を覆う態様でも良いし、合剤層内部の少なくとも一部に存在する態様でも良い。
【0085】
前述したように、カチオン交換樹脂は、カチオンのみを通過させ、アニオンの通過を阻害する。したがって、カチオン交換樹脂中のリチウムイオンの輸率はほぼ1である。すなわち、カチオン交換樹脂は、シングルイオン伝導体となっている。一方、リチウム塩を含む非水電解質中では、リチウムイオンと対アニオンの双方が移動するため、リチウムイオンの輸率は1ではなく、非水電解質はシングルイオン伝導体ではない。このように、イオンの伝達機構が異なるため、非水電解質とカチオン交換樹脂層の界面では、界面抵抗が大きい。
本実施形態においては、カチオン交換樹脂が、正極及び負極の少なくとも一方に含まれることにより、カチオン交換樹脂層と正極活物質又は負極活物質との間にカチオン交換樹脂からなるリチウム伝導パスが形成される。すなわち、リチウムイオンは、非水電解質を経由することなく、カチオン交換樹脂層と正極活物質又は負極活物質との間を行き来できることから、カチオン交換樹脂層の界面抵抗を小さくすることができる。これにより、高いエネルギー密度と優れた充放電サイクル性能を有する非水電解質二次電池を得ることができると推測される。
【0086】
第二実施形態に係る正極は、正極基材、及び正極基材上に直接又は中間層を介して形成された正極合剤層を備える。正極基材、中間層の構成は、第一実施形態と同様である。正極合剤層は、正極活物質、導電剤、結着剤及びカチオン交換樹脂を備える。正極合剤層は、必要に応じて、増粘剤、フィラー等を含んでいてもよい。正極活物質、導電剤、結着剤、増粘剤及びフィラー等は、第一実施形態に記載した材料を使用することができる。
【0087】
正極合剤層が備えるカチオン交換樹脂は、正極合剤層全体の質量に対して、10質量%〜150質量%であることが好ましい。カチオン交換樹脂の量が、正極合剤層全体の質量に対して10質量%〜150質量%であることにより、正極合剤層内に連続したリチウムイオン伝導チャネルを形成できるため好ましい。
【0088】
第二実施形態に係る負極は、負極基材と、負極基材上に直接又は中間層を介して配された負極合剤層を含む。負極基材及び中間層は、第一実施形態と同様の構成とすることができる。負極合剤層は、負極活物質、結着剤及びカチオン交換樹脂を備える。負極合剤層は、必要に応じて、導電剤、増粘剤、フィラー等を含んでいてもよい。負極活物質、結着剤、導電剤、増粘剤及びフィラーについては、第一実施形態と同様の構成とすることができる。
【0089】
負極合剤層が備えるカチオン交換樹脂は、負極合剤層全体の質量に対して、10質量%〜150質量%であることが好ましい。カチオン交換樹脂の量が、負極合剤層全体の質量に対して10質量%〜150質量%であることにより、負極合剤層内に連続したリチウムイオン伝導チャネルを形成できるため好ましい。
【0090】
正極合剤層の内部にカチオン交換樹脂が存在する正極は、次のようにして作製することができる。粒子状の正極活物質、カチオン交換樹脂、導電剤、及び結着剤を、アルコールやトルエン等の分散媒と混合し、正極合剤ペーストを作製する。得られた正極合剤ペーストを、シート状の正極基材の両面に塗布、乾燥後、プレスすることにより、正極を作製する。正極活物質、カチオン交換樹脂、導電剤、及び結着剤等を混合する方法としては、例えば、V型混合機、S型混合機、擂かい機、ボールミル、遊星ボールミルなどの粉体混合機を用い、乾式又は湿式で混合する方法が採用される。カチオン交換樹脂としては、第一実施形態において挙げた材料を適宜用いることができる。
負極合剤層内部にカチオン交換樹脂が含まれている負極も、上述の方法により作製できる。
【0091】
カチオン交換樹脂を含む溶液を、正極合剤層又は負極合剤層上に塗布することにより、カチオン交換樹脂が正極又は負極表面を覆う形態としてもよい。その際、カチオン交換樹脂を含む溶液が合剤層内部に浸透することにより、合剤層表面及び内部にカチオン交換樹脂が存在することが好ましい。カチオン交換樹脂を含む溶液を塗布する方法としては、例えば、スプレー法、ディスペンス法、浸漬法、ブレードコート法が挙げられる。
【0092】
本実施形態において、カチオン交換樹脂は、正極及び負極の少なくとも一方に含まれていればよいが、正極に含まれていることが好ましく、正極及び負極の両方に含まれていてもよい。カチオン交換樹脂が正極に含まれていることで、充放電反応中に正極で生成したリチウム多硫化物が正極近傍に存在する正極電解質中に溶出することが抑制され、正極の容量低下が生じにくい。カチオン交換樹脂が正極及び負極に含まれていることで、正極からカチオン交換樹脂層を経て負極に至るまで、カチオン交換樹脂によるリチウムイオン伝導パスが形成されるため、リチウムイオンの伝導が良好となり、高い放電容量及び充放電効率を達成することができる。
【0093】
カチオン交換樹脂を含む正極又は負極とカチオン交換樹脂層とが一体的に設けられていてもよい。すなわち、カチオン交換樹脂を含む正極又は負極表面にカチオン交換樹脂層が接着されている態様としてもよい。この場合、正極合剤層内部までカチオン交換樹脂が含有されていれば、本実施形態の効果が得られる。
【0094】
さらに、第二実施形態においては、非水電解質に含まれるアニオンの濃度が0.7mol/l以下である。非水電解質は、カチオン及びアニオンからなる電解質塩、非水溶媒、並びに必要に応じて添加剤を含む。ここで、非水電解質とは、正極電解質及び負極電解質を指す。すなわち、本実施形態においては、正極電解質及び負極電解質の両方に含まれるアニオンの濃度がそれぞれ0.7mol/l以下である。
なお、本実施形態におけるアニオンとは、非水電解質中に溶解している電解質塩由来のアニオンを指し、カチオン交換樹脂の分子構造中に含まれるスルホン酸基等のアニオン性官能基や、リチウム多硫化物及びリチウム多硫化物の一部が乖離してアニオン性を帯びた化合物は含まない。
電解質塩、非水溶媒、及び添加剤としては、第一実施形態と同様の構成とすることができる。
【0095】
非水電解質に含まれるアニオンの濃度の上限は、0.7mol/lであり、0.5mol/lが好ましく、0.3mol/lがさらに好ましい。正極電解質に含まれるアニオンの濃度の上限は、0.3mol/lが好ましく、0.2mol/lがより好ましく、0mol/lであってもよい。アニオンの濃度が上記上限以下であることにより、非水電解質の粘度を下げることが可能となり、放電容量が高く、充放電サイクル性能に優れた非水電解質二次電池を得ることができる。
【0096】
非水電解質に含まれるアニオンの濃度の下限は、0mol/lであってもよいが、0.1mol/lが好ましく、0.3mol/lがより好ましい。非水電解質中に少量のアニオンを含むことにより、優れた充放電サイクル性能が得られる。
【0097】
第二実施形態に係る正極電解質は、リチウム多硫化物を含んでいてもよく、負極電解質の硫黄換算濃度が正極電解質よりも低くてもよい。
【0098】
正極電解質及び負極電解質の少なくとも一方を、多孔質膜に含浸させて、正極とカチオン交換樹脂層との間、又は負極とカチオン交換樹脂層との間に配置してもよい。多孔質膜としては、第一実施形態にて説明した多孔質膜と同様の構成が採用できる。
【0099】
第二実施形態に係るカチオン交換樹脂層が含むカチオン交換樹脂の種類や、カチオン交換樹脂層の形態等は、第一実施形態と同様の構成とすることができる。
【0100】
第二実施形態の非水電解質二次電池は、正極又は負極にカチオン交換樹脂を含有させる工程を含むことを除いては、第一実施形態の非水電解質二次電池と同様に製造できる。すなわち、第二実施形態の非水電解質二次電池の製造方法は、(1)正極を作製する工程、又は(2)負極を作製する工程において、正極及び負極の少なくとも一方にカチオン交換樹脂を含ませることを有する。あるいは、(1)正極を作製する工程、又は(2)負極を作製する工程の後に、(1’)正極及び負極の少なくとも一方にカチオン交換樹脂を含ませる工程を含んでいてもよい。
【0101】
第二実施形態に係る非水電解質二次電池は、第一実施形態に係る非水電解質二次電池と同様の構成としてよい。すなわち、非水電解質二次電池1は、容器3と、正極端子4と、負極端子5とを備え、容器3は、電極群2等を収容する容器本体と上壁である蓋板とを備えている。また、容器本体内方には、電極群2と、正極リード4’と、負極リード5’とが配置されている。図2に示すように、電極群2は、正極11とカチオン交換樹脂層15との間に正極電解質12(非水電解質の一例)を備え、負極13とカチオン交換樹脂層15との間に負極電解質14(非水電解質の一例)を備える。カチオン交換樹脂層15はカチオン交換樹脂を含む。正極11及び負極13の少なくとも一方はカチオン交換樹脂を含む。正極電解質及び負極電解質に含まれるアニオンの濃度は、0.7mol/l以下である。正極電解質及び負極電解質は、同一の構成であってもよいし、異なる構成であってもよい。正極電解質はリチウム多硫化物を含んでいてもよい。
第二実施形態に係る非水電解質二次電池を複数個集合して、図3に示す蓄電装置としてもよい。
【0102】
<第三実施形態>
以下、第二実施形態に係る非水電解質二次電池について説明する。以下で説明する実施の形態は、いずれも本発明の好ましい一具体例を示している。以下の実施の形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置位置及び接続形態等は、一例であり、本発明を限定する主旨ではない。また、以下の実施の形態における構成要素のうち、本発明の最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素については、より好ましい形態を構成する任意の構成要素として説明される。なお、第一実施形態又は第二実施形態と共通する構成要件については、説明を省略する。
【0103】
第三実施形態に係る非水電解質二次電池は、硫黄を含む正極、負極、正極と負極との間に介在するカチオン交換樹脂層、及び非水電解質を備え、カチオン交換樹脂層は、ラフネスファクターが3以上である第一面を備える。非水電解質は、正極とカチオン交換樹脂層との間に配される正極電解質、及び負極とカチオン交換樹脂層との間に配される負極電解質を含む。ラフネスファクターとは、見かけの単位表面積(幾何単位面積)に対する実表面積の比である。
【0104】
本実施形態に係るカチオン交換樹脂層は、少なくとも一方の表面である第一面のラフネスファクターの下限が3であり、好ましくは4であり、より好ましくは10である。カチオン交換樹脂層の第一面のラフネスファクターの上限は、20が好ましく、18がより好ましく、16がさらに好ましい。ラフネスファクターが3以上であることにより、カチオン交換樹脂層と非水電解質との界面の抵抗が低減するため、非水電解質二次電池の高率放電性能が向上する。
【0105】
本実施形態におけるカチオン交換樹脂層の第一面は、JIS B 0601:2013に規定される算術平均粗さRaが、好ましくは0.5μm以上、より好ましくは2μm以上である。上記算術平均粗さRaが上記範囲を満たすことにより、カチオン交換樹脂層と正極との界面の抵抗を低減することができる。さらに、カチオン交換樹脂層の強度を維持するために、上記算術平均粗さRaは、10μm以下が好ましく、8μm以下がより好ましく、5μm以下がさらに好ましい。
【0106】
本実施形態におけるカチオン交換樹脂層の第一面は、JIS B 0601:2013に規定される最大高さ粗さRzが、5μm以上であることが好ましく、10μm以上であることがより好ましい。最大高さ粗さRzが上記範囲を満たすことにより、非水電解質中の電解質塩濃度が低い場合においても、界面抵抗を低減することができる。上記最大高さ粗さRzは、30μm以下が好ましく、28μm以下がより好ましい。
【0107】
カチオン交換樹脂層の第一面のラフネスファクター、算術平均粗さRa及び最大高さ粗さRzは、カチオン交換樹脂層の表面を以下の条件により撮影及び測定し、形状解析を行うことにより求める。
・測定機器:超深度形状測定顕微鏡VK−8500(キーエンス社製)
・測定範囲:1.04×10−3 cm
・形状解析アプリケーション:VK−H1A9(キーエンス社製)
【0108】
第三実施形態に係るカチオン交換樹脂層のラフネスファクターを3以上とする粗面化処理の方法としては、例えば、サンドペーパー等の研磨材によってカチオン交換樹脂層の表面を荒らす方法や、サンドブラスト法、化学エッチング法などが挙げられる。研磨材としては、JIS R 6010:2000に規定される研磨布紙用研磨剤の粒度が320〜1000であるサンドペーパーを用いることが好ましい。
【0109】
第三実施形態に係るカチオン交換樹脂層の厚みは、20〜180μmが好ましく、30〜180μmがより好ましい。30μm以上とすることで、粗面化処理を行ってもカチオン交換樹脂層の厚みが充分に保たれるので、電池製造時のハンドリングが容易となる。また、180μm以下とすることで、電池の内部抵抗を低減できるとともに、電池のエネルギー密度を向上させることができる。
【0110】
カチオン交換樹脂層は、カチオン交換樹脂とその他の高分子との混合物を薄膜状に成形し、表面を粗面化したものであってもよい。その他の高分子としては、第一実施形態において説明した多孔質膜を構成する材料を適宜用いることができる。
【0111】
第三実施形態に係る非水電解質二次電池は、さらに多孔質層を備えていてもよい。多孔質層は、カチオン交換樹脂層の第一面に接していることが好ましい。多孔質層としては、第一実施形態にて説明した多孔質膜が好適に用いられる。
通常、正極及び負極の表面は、粒子状の活物質に由来する凹凸を有している。そのため、柔軟性が低いカチオン交換樹脂層を用いた場合、粗面化した第一面と正極又は負極との接触面積が、粗面化していない場合に比べて低下する虞がある。ポリマーを含む多孔質層は、カチオン交換樹脂層に比べて柔軟性に優れているため、多孔質層がカチオン交換樹脂層の第一面に接していることで、正極−多孔質層−カチオン交換樹脂層の第一面間、又は負極−多孔質層−カチオン交換樹脂層の第一面間の接触が良好に保たれ、リチウムイオンが良好に伝達される。さらに、多孔質層に非水電解質を保持させることができるので、正極又は負極中での非水電解質の偏在が起こりにくく、正極又は負極での充放電反応を均一化できる。
なお、多孔質層は、正極とカチオン交換樹脂層の第一面との間のみに設けられてもよいし、負極とカチオン交換樹脂層の第一面との間のみに設けられてもよい。あるいは、正極とカチオン交換樹脂層の間及び負極とカチオン交換樹脂層の間の両方に、多孔質層を設けてもよい。
【0112】
本実施形態に係る正極及び負極は、第一実施形態と同様の構成とすることができる。また、本実施形態に係る非水電解質は、第二実施形態と同様の構成とすることができる。
【0113】
第三実施形態に係る非水電解質二次電池は、カチオン交換樹脂層の少なくとも一方の面のラフネスファクターを3以上とする工程を含むことを除いては、第一実施形態と同様の方法で製造できる。すなわち、本実施形態に係る非水電解質二次電池の製造方法は、(4)カチオン交換樹脂層を非水電解質又は非水溶媒に浸漬する工程より前の段階で、カチオン交換樹脂層の少なくとも一方の面を粗面化処理し、ラフネスファクターを3以上とする工程を含む。
【0114】
第三実施形態に係る非水電解質二次電池は、第一実施形態に係る非水電解質二次電池と同様の構成としてよい。すなわち、非水電解質二次電池1は、容器3と、正極端子4と、負極端子5とを備え、容器3は、電極群2等を収容する容器本体と上壁である蓋板とを備えている。また、容器本体内方には、電極群2と、正極リード4’と、負極リード5’とが配置されている。
第三実施形態に係る非水電解質二次電池を複数個集合して、図3に示す蓄電装置としてもよい。
【0115】
電極群2の局所的な模式的断面図を図4に示す。第三実施形態に係る非水電解質二次電池において、電極群2は、正極21とセパレータ25との間に正極電解質22を備え、負極23とセパレータ25との間に負極電解質24を備える。正極電解質22と負極電解質24は、同じでも異なっていてもよい。セパレータ25は、第一面25c及び第二面25dを有するカチオン交換樹脂層25aと多孔質層25bとを備え、第一面25cと多孔質層25bとが接している。カチオン交換樹脂層25aの第一面25cのラフネスファクターが3以上である。
なお、図4では、正極21と多孔質層25bとの間に正極電解質22が配置され、負極23とカチオン交換樹脂層25aとの間に負極電解質24が配置されている。しかしながら、正極電解質22は、正極21及び多孔質層25bに含浸されており、負極電解質24は負極23に含浸されているため、通常の電池では正極21は多孔質層25bに接し、負極23はカチオン交換樹脂層25aに接している。すなわち、電池内では、正極21、多孔質層25b、カチオン交換樹脂層25a、負極23の順に積層されて配置されている。
【0116】
セパレータ25は、第一面25cを有するカチオン交換樹脂層25aと多孔質層25bとが積層された構造を有する。第一面25cは、多孔質層25bと接している。カチオン交換樹脂層25aはカチオン交換樹脂を含み、正極21で生成する、及び/又は正極電解質22に含まれるリチウム多硫化物Li(4≦x≦8)が負極に到達することを抑制する。このため、正極21で生成する、及び/又は正極電解質22に含まれるリチウム多硫化物は負極に到達することが妨げられ、シャトル現象が抑制される。
【0117】
図4、及び後述する実施例においては、正極、多孔質層、カチオン交換樹脂層及び負極を、この順に配置し、カチオン交換樹脂層の第一面である、多孔質層に接する表面のラフネスファクターを3以上としたが、第二面である、負極に接する表面のラフネスファクターも3以上としてもよい。すなわち、カチオン交換樹脂層の第一面及び第二面のラフネスファクターを、それぞれ3以上としてもよい。カチオン交換樹脂層の両面のラフネスファクターを、それぞれ3以上とすることにより、カチオン交換樹脂層の界面抵抗を低くすることができ、電池の高率放電性能を向上させることができる。
【0118】
正極、カチオン交換樹脂層、多孔質層、負極という順に配置し、カチオン交換樹脂層の、多孔質層に接する表面のラフネスファクターが3以上としてもよい。これにより、カチオン交換樹脂層と多孔質層の界面抵抗を低いものとすることができる。また、正極、多孔質層、カチオン交換樹脂層、多孔質層、負極という順に配置してもよい。この場合、カチオン交換樹脂層の両面のラフネスファクターが、それぞれ3以上であることが好ましい。これにより、カチオン交換樹脂層と多孔質層の界面抵抗を低いものとすることができ、電池の高率放電性能を向上させることができる。
【0119】
第三実施形態に係る非水電解質二次電池が備える正極電解質は、リチウム多硫化物を含んでいてもよく、負極電解質の硫黄換算濃度が正極電解質の硫黄換算濃度よりも低くてもよい。正極電解質がリチウム多硫化物を含むことにより、カチオン交換樹脂層の界面抵抗が大きくなりやすいが、このような構成とすることにより、界面抵抗を抑制することができる。
【0120】
第三実施形態に係る非水電解質二次電池が備える正極及び負極の少なくとも一方は、カチオン交換樹脂を含んでいてもよい。
【0121】
図4、及び後述する実施例においては、カチオン交換樹脂層及び多孔質層をそれぞれ一層としたが、カチオン交換樹脂層又は多孔質層が複数備えられていてもよい。この場合、ラフネスファクターが3以上である第一面は、すべてのカチオン交換樹脂層に設けられていてもよいが、少なくとも一つのカチオン交換樹脂層に設けられていればよい。カチオン交換樹脂層の界面抵抗を低いものとし、電池の高率放電性能を向上させることができるからである。
【実施例】
【0122】
以下、実施例によって第一から第三実施形態をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0123】
<第一実施例>
(実施例1−1)
クエン酸マグネシウムを900℃、アルゴン雰囲気下で1時間炭化処理したのち、1mol/lの硫酸水溶液中に浸漬することによって、酸化マグネシウム(MgO)を抽出した。残留物を、洗浄及び乾燥して、多孔性カーボンを得た。この多孔性カーボンと硫黄とを質量比30:70で混合した。この混合物を、アルゴン雰囲気下で密閉容器に封入し、昇温速度5℃/分で150℃まで昇温し、5時間保持した後、80℃まで放冷した。その後、再び昇温速度5℃/分で300℃まで昇温し、2時間保持する熱処理を行い、カーボン−硫黄複合体(以下、「SPC複合体」ともいう)を得た。
【0124】
正極活物質としてSPC複合体、導電剤としてアセチレンブラック、及び結着剤としてポリフッ化ビニリデン(PVDF)を質量比85:5:10で含み、溶媒としてN−メチルピロリドン(NMP)を用いた正極合剤ペーストを作製した。得られた正極合剤ペーストをニッケルメッシュ集電体に充填したのち、乾燥することにより、正極を作製した。
【0125】
カチオン交換樹脂層には、シグマアルドリッチ社製ナフィオン膜をH型からLi型に置換して用いた。すなわち、H型ナフィオン膜を、1mol/lの水酸化リチウムの水/アルコール溶液に浸漬し、80℃で12時間撹拌することによりプロトンをリチウムイオンに交換した。撹拌後のナフィオン膜は、脱イオン水で洗浄し120℃の真空下で乾燥することにより、水酸化リチウム及び溶媒の除去を行った。
得られたLi型ナフィオン膜を、1,2−ジメトキシエタン(DME)と1,3−ジオキソラン(DOL)とを体積比50:50で混合した溶液に浸漬することにより、膨潤処理した。この処理により、膨潤処理後のナフィオン膜には、膨潤処理前のナフィオン膜の質量に対して20質量%の非水電解質が含浸された。膨潤処理前後のナフィオン膜の厚みは、それぞれ50μm、64μmであった。
【0126】
負極には、厚さ10μmの銅箔に金属Liを貼り付けて、負極全体の厚みを310μmとしたものを用いた。
【0127】
正極電解質は次のようにして作製した。
露点−80℃以下のグローブボックス内で、リチウム多硫化物(LiS)と硫黄(S)をLiが生成し得る量論比(モル比8:5)にて、DMEとDOLとを体積比50:50で混合した非水電解質に投入し、撹拌した。この溶液を密閉容器に封入し、80℃の恒温槽内に4日間静置することにより、LiSとSとを反応させた。得られたリチウム多硫化物溶液を正極電解質として用いた。このリチウム多硫化物溶液には、硫黄に換算した場合3.0mol/lに相当するリチウム多硫化物が溶解している。
【0128】
負極電解質は、DMEとDOLとを体積比50:50で混合して用いた。
【0129】
図5に示す電気化学測定用セル31(日本トムセル社製)を用いて、試験用セル30を作製した。まず、ステンレス鋼板製支持体31aに設けられた内径26mm、外径34mmのO−リング31fの内側に、上記のようにして作製した正極33を配置する。正極電解質を滴下したのち、O−リングの内径よりも大きなサイズのカチオン交換樹脂層35を配置した。その上に、負極電解質を含浸させた負極34を配置した。ステンレス鋼板製の電極31eを負極34上に配置し、ステンレス鋼板製の蓋体31bを重ねてボルト31cとナット31dとを締結することにより、試験用セル30(以下、「電池」ともいう。)を組み立てた。
【0130】
(実施例1−2)
正極電解質として、硫黄換算濃度が1.5mol/lのリチウム多硫化物を含むDME:DOL=50:50(体積比)の溶液を用いたこと以外は実施例1−1と同様にして、実施例1−2の電池を作製した。
【0131】
(実施例1−3)
正極電解質として、硫黄換算濃度が3.0mol/lのリチウム多硫化物と0.5mol/lのリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)とを含むDME:DOL=50:50(体積比)の溶液を用い、負極電解質として、0.5mol/lのリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)を含むDME:DOL=50:50(体積比)の溶液を用いたこと以外は実施例1−1と同様にして、実施例1−3の電池を作製した。
【0132】
(実施例1−4)
正極電解質として、硫黄換算濃度が3.0mol/lのリチウム多硫化物と1.0mol/lのリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)とを含むDME:DOL=50:50(体積比)の溶液を用い、負極電解質として、1.0mol/lのリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)を含むDME:DOL=50:50(体積比)の溶液を用いたこと以外は実施例1−1と同様にして、実施例1−4の電池を作製した。
【0133】
(実施例1−5)
クエン酸マグネシウムを900℃、アルゴン雰囲気下で1時間炭化処理したのち、1mol/lの硫酸水溶液中に浸漬することによって、MgOを抽出した。続いて、洗浄及び乾燥して、多孔性カーボンを得た。この多孔性カーボンと、アセチレンブラックと、PVDFとを質量比85:5:10の割合で含み、NMPを溶媒とする正極合剤ペーストを作製した。得られた正極合剤ペーストをニッケルメッシュ集電体に充填したのち、乾燥することにより、正極を作製した。このようにして作製した正極を用いたこと以外は実施例1−1と同様にして、実施例1−5の電池を作製した。
【0134】
(比較例1−1)
正極電解質及び負極電解質として、硫黄換算濃度が3.0mol/lのリチウム多硫化物と1.0mol/lのリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)とを含むDME:DOL=50:50(体積比)の溶液を用いたこと以外は実施例1−1と同様にして、比較例1−1の電池を作製した。
【0135】
(比較例1−2)
正極電解質及び負極電解質として、1.0mol/lのリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)を含むDME:DOL=50:50(体積比)の溶液を用いたこと以外は実施例1−1と同様にして、比較例1−2の電池を作製した。
【0136】
(比較例1−3)
正極電解質及び負極電解質として、DME:DOL=50:50(体積比)の溶液を用いたこと以外は実施例1−1と同様にして、比較例1−3の電池を作製した。
【0137】
(比較例1−4)
正極電解質及び負極電解質として、硫黄換算濃度が3.0mol/lのリチウム多硫化物と1.0mol/lのリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)とを含むDME:DOL=50:50(体積比)の溶液を用い、カチオン交換樹脂層の代わりに厚み25μmのポリエチレン製微多孔膜を用いたこと以外は実施例1−1と同様にして、比較例1−4の電池を作製した。
【0138】
(比較例1−5)
正極電解質及び負極電解質として、硫黄換算濃度が3.0mol/lのリチウム多硫化物を含むDME:DOL=50:50(体積比)の溶液を用い、カチオン交換樹脂層の代わりに厚み25μmのポリエチレン製微多孔膜を用いたこと以外は実施例1−1と同様にして、比較例1−5の電池を作製した。
【0139】
次の方法で、実施例1−1〜1−5及び比較例1−1〜1−5の電池の初期放電容量、並びに5サイクル目の容量維持率及び充放電効率を測定した。
25℃で1.0Vまで0.1CAの定電流放電を行った。放電後に10分間の休止を設けた後に、25℃で3.0Vまで0.1CAの定電流充電を行った。充電及び放電の終止条件は、設定電圧に到達するか10時間経過するまでとした。つまり、本実施例の充放電条件は、一定電気量を通電した場合には、充電又は放電終止電圧に至っていなくても、充電又は放電を終了する、いわゆる容量制限条件つき充放電試験である。このときの放電容量を正極合剤層に含まれる正極活物質の質量で除した値を、初期放電容量とした。
なお、実施例1〜4及び比較例1〜4の電池については、1CAは、正極活物質の質量あたりの容量を硫黄の質量あたりの理論容量である1675mAh/gとしたときに、正極に含まれる正極活物質の容量を1時間で放電する電流値とした。実施例5の電池については、1CAは、正極に含まれる多孔性カーボンの質量に対して1000mA/gとなる電流値とした。
上記の放電及び充電の工程を1サイクルとして、このサイクルを6サイクル繰り返した。5サイクル目の放電容量を初期放電容量で除することによって、サイクル容量維持率を算出した。また、6サイクル目の放電容量を5サイクル目の充電容量で除することによって、5サイクル目の充放電効率を算出した。
【0140】
実施例1−1〜1−5及び比較例1−1〜1−5の各電池のサイクル容量維持率及び5サイクル後の充放電効率を表1に示す。
【0141】
【表1】
【0142】
表1からわかるように、実施例1−1〜1−5の電池はいずれもサイクル容量維持率、5サイクル後のクーロン効率ともに100%以上の値を示し、優れたサイクル性能を有することが明らかとなった。これは、セパレータとしてカチオン交換樹脂層を用いたことにより、正極電解質に含まれるリチウム多硫化物が負極に到達せず、自己放電が抑制されたこと、及び、予め正極電解質に硫黄換算濃度1.5mol/l以上のリチウム多硫化物が含まれていたことから、正極中で生成したリチウム多硫化物が正極電解質へ溶出することが抑制されたことによるものと考えられる。実施例1−5の正極合剤層中に硫黄を含まない電池でも、高いサイクル性能が得られたことから、正極電解質に含まれるリチウム多硫化物も充放電反応に寄与していることがわかる。なお、実施例1−5の電池については、正極合剤層に正極活物質が含まれないことから、初期放電容量は算出できなかったが、放電開始から10時間経過後にも、放電終止電圧に至ることなく、放電が可能であった。すなわち、正極電解質に含まれるリチウム多硫化物が反応することにより、高い放電容量が得ることができたといえる。
一方、正極電解質及び負極電解質(非水電解質)に1.0mol/lのリチウム塩と硫黄換算濃度3.0mol/lのリチウム多硫化物を含む溶液を用い、セパレータにカチオン交換膜を用いた比較例1−1は抵抗が高く、充放電開始直後に充放電終止電圧に達してしまったため、充放電することができなかった。これは、リチウムイオンの伝導メカニズムが非水電解質中とカチオン交換膜中とで異なるためと考えられる。つまり、カチオン交換膜中ではアニオン及びリチウム多硫化物は移動しないので、リチウムイオンのみが移動することから、リチウムイオンの輸率は1である。これに対して、正極電解質中及び負極電解質中ではリチウムイオン、アニオン及びリチウム多硫化物の3種が移動するため、リチウムイオンの輸率はカチオン交換膜中に比べて小さい。このようにイオン伝導のメカニズムが異なる領域が存在する場合、その界面では抵抗が増大する。比較例1−1の電池では、このような界面が正極−セパレータ間と負極−セパレータ間の2カ所存在することから、界面抵抗が著しく増大し、充放電ができなかったものと考えられる。
正極電解質にリチウム多硫化物を含まない比較例1−2、1−3の電池は、5サイクル後の容量維持率が低かった。これは、正極で生じたリチウム多硫化物が、正極電解質中に溶出したためと推測される。
また、カチオン交換樹脂層を設けなかった比較例1−4、1−5の電池は、サイクル容量維持率及び5サイクル後のクーロン効率のいずれも低い値であった。カチオン交換樹脂層を設けない場合、セパレータと正極又は負極との間の界面抵抗は小さいが、非水電解質に含まれるリチウム多硫化物が負極で還元されることにより、自己放電が進行するシャトル現象が生じる。これにより、クーロン効率が低下し、サイクル容量維持率も低下したものと推測される。
【0143】
<第二実施例>
(予備実験)
以下の手法により、非水電解質中のアニオンの濃度を変更した時のカチオン交換樹脂層の界面抵抗を測定した。図6に示す電気化学測定用セル41(日本トムセル社製)を用いて、抵抗測定用セル40を作製した。ステンレス鋼板製支持体41aに設けられた内径26mm、外径34mmのO−リング41fの内側に、ステンレス鋼板製電極41e及び多孔質膜(多孔質層)46が、カチオン交換樹脂層45を挟み込む形で積層した。積層体上に、ステンレス鋼板製蓋体41bを重ねてボルト41cとナット41dとを締結することにより、抵抗測定用セル40を組み立てた。多孔質膜46には、種々のリチウム塩濃度の非水電解質を含浸させた、厚み25μmのポリエチレン製微多孔膜を用いた。カチオン交換樹脂層45には、1,2−ジメトキシエタン(DME)と1,3−ジオキソラン(DOL)とを体積比50:50で混合した混合溶媒を含浸させたナフィオン膜(シグマアルドリッチ社製)を用いた。上記溶液を含浸させる前及び後のナフィオン膜の厚みは、それぞれ50及び64μmであった。多孔質膜46に含浸させる非水電解質のリチウム塩濃度は、0.01、0.1、0.5、0.7及び1.0mol/lとし、リチウム塩には、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)を、非水溶媒には、1,2−ジメトキシエタン(DME)と1,3−ジオキソラン(DOL)とを体積比50:50で混合して用いた。
上記抵抗測定用セルを用いて、交流インピーダンス測定により電解質層抵抗Rを測定した。交流インピーダンス測定は、印加電圧振幅5mV、周波数1MHz〜100mHzにて行った。測定結果のナイキスト線図を作製し、等価回路を用いてフィッティングを行った。最も高周波数側に表れる円弧をフィッティングした曲線と実軸との交点のうち、低周波数側の値を読み取り、電解質抵抗Rとした。電解質層抵抗Rは、ポリエチレン製微多孔膜の抵抗である多孔質層抵抗Re、ポリエチレン製微多孔膜と含浸処理後のカチオン交換膜との界面の抵抗である界面抵抗Ri、含浸処理後のカチオン交換膜の抵抗であるカチオン交換樹脂層抵抗Rcが含まれており、次式(1)で表される。
R=2Re+2Ri+Rc (1)
つぎに、上記混合溶媒を、厚み50μmのナフィオン膜に含浸させ、ポリエチレン製微多孔膜は配置せずにステンレス鋼板で挟み込むことにより、抵抗測定用セルを作製し、同様の手法で交流インピーダンス測定を実施した。この測定により求められた抵抗を、カチオン交換樹脂層抵抗Rcとした。
1,2−ジメトキシエタン(DME)と1,3−ジオキソラン(DOL)とを体積比50:50の割合で含み、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)の濃度がそれぞれ0.01、0.1、0.5、0.7及び1.0mol/lとなるように調整した非水電解質をポリエチレン製微多孔膜に含浸させ、抵抗測定用セルを作製し、同様の手法で交流インピーダンス測定を実施した。この測定により求められた抵抗を、多孔質層抵抗Reとした。
交流インピーダンス測定により求めた電解質層抵抗R、カチオン交換樹脂層抵抗Rc、多孔質層抵抗Reの値から、式(1)を用いて各リチウム塩濃度における界面抵抗Riを算出した。リチウム塩濃度が1.0mol/lのときの界面抵抗Riの値を100%として、各リチウム塩濃度の界面抵抗の比(%)を求めた。結果を表2に示す。
【0144】
【表2】
【0145】
表2に示されるように、リチウム塩濃度が0.7mol/l以下の場合に、カチオン交換樹脂層を介した電極間の抵抗が顕著に低下することがわかった。すなわち、リチウム塩を0.7mol/lより多く含む場合、カチオン交換樹脂層との界面抵抗が増大し、電池の充放電反応に伴う抵抗が大きくなることが予想される。
【0146】
(実施例2−1)
クエン酸マグネシウムを900℃、アルゴン雰囲気下で1時間炭化処理したのち、1mol/lの硫酸水溶液中に浸漬することによって、MgOを抽出した。続いて、洗浄及び乾燥して、多孔性カーボンを得た。この多孔性カーボンと硫黄とを質量比30:70で混合した。この混合物を、アルゴン雰囲気下で密閉容器に封入し、昇温速度5℃/分で150℃まで昇温し、5時間保持した後、80℃まで放冷した。その後、再び昇温速度5℃/分で300℃まで昇温し、2時間保持する熱処理を行い、カーボン−硫黄複合体(以下、「SPC複合体」ともいう。)を得た。
【0147】
シグマアルドリッチ社製のナフィオンの水/アルコール溶液(20%)に、1mol/lの水酸化リチウム水溶液を、溶液のpHが7.35となるまで添加することより、H型ナフィオンをLi型ナフィオンに置換した。この溶液中に含まれるLi型ナフィオンは、16.6質量%であった。このLi型ナフィオンの水/アルコール溶液にNMPを加えて加熱することにより、Li型ナフィオンを5質量%含むNMP溶液を作製した。
上記の方法により作製したカーボン硫黄複合体と、Li型ナフィオンのNMP溶液(固形分5質量%)を用い、正極活物質としてのカーボン−硫黄複合体と、導電助剤としてのアセチレンブラックと、結着剤としてのナフィオンとを、質量比85:5:10の割合で含む正極合剤ペーストを作製した。混合の際には、超音波分散及び真空含浸を行った。得られた正極合剤ペーストをNiメッシュ集電体に充填したのち、乾燥することにより、Li型ナフィオンが混合された正極を作製した。得られた正極の厚みは約80μmであった。
【0148】
負極には厚み10μmの銅箔に金属Liを貼り付けて、厚み310μmとしたものを用いた。正極電解質及び負極電解質には、1,2−ジメトキシエタン(DME)と1,3−ジオキソラン(DOL)とを体積比50:50で混合した溶液を用いた。カチオン交換樹脂層は、H型のナフィオン膜(シグマアルドリッチ社製)をLi型に置換したのち、上記正極電解質で膨潤処理して用いた。この処理により、ナフィオン膜に含浸された正極電解質の量は、ナフィオン膜の質量に対して20質量%であった。膨潤処理前後のナフィオン膜の厚みは、それぞれ50μm、64μmであった。
上記の正極、上記の負極、上記のカチオン交換樹脂層、上記の正極電解質、及び上記の負極電解質を用いて、図5の構成を有する試験用セル(以下、「電池」ともいう。)を作製した。
【0149】
(実施例2−2)
正極活物質であるカーボン−硫黄複合体と、導電助剤であるアセチレンブラックと、結着剤であるPVDFとを、質量比85:5:10で混合し、NMPを溶媒として正極ペーストを作製した。混合の際には、超音波分散及び真空含浸を行った。得られた正極ペーストをNiメッシュ集電体に充填し、乾燥させた。
シグマアルドリッチ社製のナフィオンの水/エタノール溶液(20%)に、1mol/lの水酸化リチウム水溶液を、溶液のpHが7.35となるまで添加することより、H型ナフィオンをLi型ナフィオンに置換した。この溶液中に含まれるLi型ナフィオンは、16.6質量%であった。このLi型ナフィオンイオノマーの水/アルコール溶液を、固形分5質量%となるまで水/アルコール混合液を加えて希釈することにより、Li型ナフィオンイオノマーの水/アルコール溶液を調整した。このLi型ナフィオンイオノマーの水/アルコール溶液を、正極合剤層の質量に対してLi型ナフィオンが112.5質量%となるように滴下し、含浸させた。100℃で12時間乾燥処理することにより、Li型ナフィオンがコートされた正極を得た。得られた正極の厚みは約80μmであった。
【0150】
上記の正極を用いたこと以外は、実施例2−1と同様にして、実施例2−2の電池を作製した。
【0151】
(比較例2−1)
結着剤としてナフィオンの代わりにポリフッ化ビニリデン(PVDF)を用いたこと以外は、実施例2−1と同様にして、比較例2−1の電池を作製した。
【0152】
(比較例2−2)
負極とカチオン交換樹脂層との間に、負極電解質として1mol/lのリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)を含むDME:DOL=50:50(体積比)の溶液を含浸させた厚み25μmのポリエチレン製微多孔膜を配置し、正極電解質を負極電解質と同じ組成としたこと以外は、比較例2−1と同様にして、比較例2−2の電池を作製した。
【0153】
(比較例2−3)
正極は、実施例2−2と同様のものを用いた。負極には金属Liを用いた。カチオン交換樹脂層の代わりに、1mol/lのLiTFSIを含むDME:DOL=50:50(体積比)の非水電解質を含浸させた、厚み25μmのポリエチレン製微多孔膜を用いた。なお、含浸させる非水電解質の量は、ポリエチレン製微多孔膜の質量に対して20質量%とした。
上記の正極、上記の負極及び上記のポリエチレン製微多孔膜を用いて、実施例2−1と同様の手法によりリチウムイオン二次電池を作製した。
【0154】
(比較例2−4)
カチオン交換樹脂層としてナフィオン膜を用い、ナフィオン膜の膨潤処理及び正極電解質に1mol/lのLiTFSIを含むDME:DOL=50:50(体積比)溶液を用いたこと以外は、比較例2−1と同様にして、比較例2−4の電池を作製した。
【0155】
次の方法で、実施例2−1及び比較例2−1〜2−4の電池の初期放電容量及び5サイクル目の充放電効率を測定した。
【0156】
25℃で1.0Vまで0.1CAの定電流放電を行った。放電後に10分間の休止を設けた後に、25℃で3.0Vまで0.1CAの定電流充電を行った。充電及び放電の終止条件は、10時間とした。1サイクル目の放電容量を正極活物質の質量で除した値を、初期放電容量とした。1サイクル目の放電時の平均閉回路電圧を、初期平均放電電圧として求めた。
なお、1CAは、正極活物質の容量を硫黄の理論容量である1675mAh/gとしたときに、正極活物質の容量を1時間で放電する電流値とした。
上記の放電及び充電の工程を1サイクルとして、このサイクルを6サイクル繰り返した。6サイクル目の放電容量を5サイクル目の充電容量で除することによって、5サイクル目の充放電効率を算出した。さらに5サイクル目の放電容量を1サイクル目の放電容量で除することにより、サイクル容量維持率を算出した。
【0157】
実施例2−1〜2−2及び比較例2−1〜2−4の各電池の初期放電容量、5サイクル目の充放電効率、及びサイクル容量維持率、並びに実施例2−1、2−2及び比較例2−4の初期平均放電電圧を、表3に示す。
【0158】
【表3】
【0159】
表3に示されるように、正極にカチオン交換樹脂を含み、カチオン交換樹脂層を備える電池は、優れた初期放電容量、5サイクル目の充放電効率、及び初期平均放電電圧を示した。正極にカチオン樹脂をコートした実施例2−2の電池は特に、初期放電容量及びサイクル容量維持率が優れていた。平均放電電圧が高いということは、高いエネルギー密度を有するということである。
これに対し、正極にカチオン交換樹脂を含まない比較例2−1は、初期放電容量及び5サイクル目の充放電効率が低かった。正極にカチオン交換樹脂を含まず、ポリエチレン製微多孔膜に1mol/lのLiTFSIを含む非水電解質を含浸させた比較例2−2の電池は、ほとんど充放電ができなかった。正極にカチオン交換樹脂を含み、カチオン交換樹脂層の代わりに、ポリエチレン製微多孔膜を備えた比較例2−3の電池は、充放電サイクル性能が低く、5サイクル目の充放電効率は66.6%であった。正極にカチオン交換樹脂を含まず、カチオン交換樹脂層に1mol/lのLiTFSIを含む非水電解質を含浸させた比較例2−4の電池は、十分な放電容量が取り出せず、また平均放電電圧も低かった。
【0160】
正極及び負極の少なくとも一方にカチオン交換樹脂を含み、カチオン交換樹脂層を備え、非水電解質に含まれるアニオンの濃度が0.7mol/l以下であることにより、高い初期放電容量及び高い充放電効率が得られるメカニズムは次のように考えられる。
カチオン交換樹脂は、カチオンのみを通過させ、アニオンの通過を阻害する。したがって、カチオン交換樹脂中のリチウムイオンの輸率はほぼ1である。すなわち、カチオン交換樹脂は、シングルイオン伝導体となっている。一方、リチウム塩を含む非水電解質中では、リチウムイオンと対アニオンの双方が移動するため、リチウムイオンの輸率は1ではなく、非水電解質はシングルイオン伝導体となっていない。予備実験において示されたように、リチウム塩濃度が低い場合、すなわちアニオン濃度が低い場合には、カチオン交換膜とセパレータ間の抵抗は低い。これは、シングルイオン伝導体であるカチオン樹脂中と、非水電解質を含むポリエチレン製微多孔膜中とで、リチウムイオンの輸率が大きく異ならないためであると推測される。一方、リチウム塩濃度が0.7mol/lより高い場合、非水電解質を含むポリエチレン製微多孔膜中でのリチウムイオンの輸率が低下するため、リチウムイオンの輸率の異なる領域が生じたことにより、抵抗が上昇したものと推測される。
実施例2−1及び実施例2−2においては、正極及び負極の少なくとも一方とセパレータとにカチオン交換樹脂を含み、非水電解質中のアニオン濃度が0.7mol/l以下と低いため、正負極間はほぼシングルイオン伝導体とみなすことができ、リチウムイオンの輸率が一定して高い状態となったため、高い充放電効率及び放電容量が得ることが可能であった。一方、比較例2−2〜2−4の電池では、正極と負極との間に、リチウムイオンの輸率が高い領域と低い領域とが存在したため、リチウムイオンの授受を行う界面での抵抗が増大し、高い初期放電容量及び充放電効率が両立できなかったと推測される。
【0161】
<第三実施例>
(予備実験)
以下の手法により、多孔質膜に含浸させる非水電解質中のリチウム多硫化物の濃度を変更した時の、多孔質膜とカチオン交換樹脂層の界面抵抗を測定した。測定には、図6に示す抵抗測定用セル40を用いた。多孔質膜46には、種々の硫黄換算濃度のリチウム多硫化物溶液を含浸させた、厚み25μmのポリエチレン製微多孔膜を用いた。カチオン交換樹脂層45には、1,2−ジメトキシエタン(DME)と1,3−ジオキソラン(DOL)との混合溶媒(体積比50:50)を含浸させたナフィオン膜(シグマアルドリッチ社製)を用いた。前記混合溶媒を含浸させる前及び後のナフィオン膜の厚みは、それぞれ50及び64μmであった。リチウム多硫化物溶液の硫黄換算濃度は、3.0、6.0、12.0及び18.0mol/lとした。リチウム多硫化物溶液に含まれる非水溶媒には、1,2−ジメトキシエタン(DME)と1,3−ジオキソラン(DOL)との混合物(体積比50:50)を用いた。
多孔質膜に含浸させる非水電解質の組成を表4のように変更した場合についても、同様に抵抗測定用セルを作製した。
これらの抵抗測定用セルの交流インピーダンス測定を行った。測定は、印加電圧振幅5mV、周波数1MHz〜100mHzにて行った。第二実施例の予備実験と同様に、界面抵抗を算出した。算出結果を表4に示す。
【0162】
【表4】
【0163】
表4より、リチウム多硫化物溶液の硫黄換算濃度が12.0mol/lを超えると、界面抵抗が顕著に大きくなることがわかる。硫黄換算濃度が12mol/l以下では、LiTFSIを含まない方が界面抵抗は小さいが、硫黄換算濃度が12mol/lを超える場合には、LiTFSIを含むことで界面抵抗が低減されることも明らかとなった。
【0164】
(実施例3−1)
クエン酸マグネシウムを900℃、アルゴン雰囲気下で1時間炭化処理したのち、1mol/lの硫酸水溶液中に浸漬することによって、MgOを抽出した。残留物を、洗浄及び乾燥して、多孔性カーボンを得た。この多孔性カーボンと硫黄とを質量比30:70で混合した。この混合物を、アルゴン雰囲気下で密閉容器に封入し、昇温速度5℃/分で150℃まで昇温し、5時間保持した後、80℃まで放冷した。その後、再び昇温速度5℃/分で300℃まで昇温し、2時間保持する熱処理を行い、カーボン−硫黄複合体(以下、SPC複合体ともいう)を得た。
【0165】
正極活物質としてSPC複合体、導電剤としてアセチレンブラック、及び結着剤としてポリフッ化ビニリデン(PVDF)を質量比85:5:10で含み、溶媒としてN−メチルピロリドン(NMP)を用いた正極合剤ペーストを作製した。得られた正極合剤ペーストをニッケルメッシュ集電体に充填したのち、乾燥することにより、正極を作製した。
【0166】
カチオン交換樹脂層には、シグマアルドリッチ社製ナフィオン膜をH型からLi型に置換して用いた。すなわち、H型ナフィオン膜を、1mol/lの水酸化リチウムの水/アルコール溶液に浸漬し、80℃で12時間撹拌することによりプロトンをリチウムイオンに交換した。撹拌後のナフィオン膜は、脱イオン水で洗浄し120℃の真空下で乾燥することにより、水酸化リチウム及び溶媒の除去を行った。
得られたLi型ナフィオン膜を、1,2−ジメトキシエタン(DME)と1,3−ジオキソラン(DOL)とを体積比50:50で混合した溶液に浸漬することにより、膨潤処理した。この処理により、膨潤処理後のナフィオン膜には、膨潤処理前のナフィオン膜の質量に対して20質量%の非水電解質が含浸された。膨潤処理前後のナフィオン膜の厚みは、それぞれ50μm、64μmであった。
【0167】
負極には、厚さ10μmの銅箔に金属Liを貼り付けて、負極全体の厚みを310μmとしたものを用いた。
【0168】
正極電解質は次のようにして作製した。
露点−80℃以下のグローブボックス内で、リチウム多硫化物(LiS)と硫黄(S)をLiが生成し得る量論比(モル比8:5)にて、DMEとDOLとを体積比50:50で混合した非水電解質に投入し、撹拌した。この溶液を密閉容器に封入し、80℃の恒温槽内に4日間静置することにより、LiSとSとを反応させた。得られたリチウム多硫化物溶液を正極電解質として用いた。このリチウム多硫化物溶液には、硫黄に換算した場合3.0mol/lに相当するリチウム多硫化物が溶解している。
【0169】
負極電解質は、0.3mol/lのLiTFSIを含むDMEとDOLとの混合溶液(体積比50:50)を用いた。
【0170】
図7に示す電気化学測定用セル51(日本トムセル社製)を用いて、試験用セル50を作製した。まず、ステンレス鋼板製支持体51aに設けられた内径26mm、外径34mmのO−リング51fの内側に、上記のようにして作製した正極53を配置する。正極電解質を含浸させた多孔質膜(多孔質層)56aを積層したのち、O−リングの内径よりも大きなサイズとしたカチオン交換樹脂層35を配置した。その上に、負極電解質を含浸させた多孔質膜56bを配置し、負極54を積層した。ステンレス鋼板製の電極51eを負極54上に配置し、ステンレス鋼板製蓋体51bを重ねてボルト51cとナット51dとを締結することにより、試験用セル50(以下、「電池」ともいう。)を組み立てた。多孔質膜56a、56bには、厚み25μmのポリエチレン製微多孔膜を用いた。
【0171】
(実施例3−2〜実施例3−6)
正極電解質の硫黄換算濃度及びLiTFSIの濃度を、表5に示すように変更したこと以外は、実施例3−1と同様にして、実施例3−2〜実施例3−6の電池を作製した。
【0172】
(比較例3−1)
正極電解質の硫黄換算濃度を0mol/lとし、LiTFSIの濃度を0.3mol/lとしたこと以外は、実施例3−1と同様にして、比較例3−1の電池を作製した。
【0173】
次の方法で、実施例3−1〜3−6及び比較例3−1の電池の初期放電容量、並びに5サイクル目の容量維持率及び充放電効率を測定した。
25℃で放電終止電圧1.0V、放電電流0.1CAの定電流放電を行った。放電後に10分間の休止を設けた後に、25℃で充電終止電圧3.0、充電電流0.1CAの定電流充電を行った。この1サイクル目の放電容量を正極合剤層に含まれる正極活物質の質量で除した値を、初期放電容量とした。また、1サイクル目の放電容量を、正極合剤層及び正極電解質に含まれる硫黄の質量で除したのち、硫黄の理論容量である1675mAh/gで除した値を、初期硫黄利用率として算出した。
なお、1CAは、正極合剤層に含まれる正極活物質の質量あたりの容量を硫黄の質量あたりの理論容量である1675mAh/gとしたときに、正極合剤層に含まれる正極活物質の容量を1時間で放電する電流値とした。
上記の放電及び充電の工程を1サイクルとして、このサイクルを6サイクル繰り返す充放電サイクル試験を行った。5サイクル目の放電容量を1サイクル目の放電容量で除することによって、サイクル容量維持率を算出した。なお、実施例3−4、3−6及び比較例3−1については、充放電サイクル試験は行っていない。測定結果を表5に示す。
【0174】
【表5】
【0175】
表5に示すように、正極電解質の硫黄換算濃度を高くするにしたがって、初期放電容量は増大した。しかしながら、正極合剤層及び正極電解質に含まれる硫黄の利用率を示す初期硫黄利用率は、正極電解質の硫黄換算濃度が6.0mol/lのときに最大となるが、それ以上硫黄換算濃度を高くすると、逆に低下した。サイクル容量維持率は、硫黄換算濃度が12.0mol/lの場合にも高い値を示した。正極電解質が0.3mol/lのLiTFSIを含む実施例3−4〜3−6においては、LiTFSIを含まない実施例3−1〜3−3に比べて、初期放電容量及び初期硫黄利用率のいずれもが低い値となった。これは、表4に示す界面抵抗の傾向とよく一致する。以上の結果から、正極電解質にリチウム多硫化物を含む場合、リチウム塩濃度は0.3mol/l未満が好ましく、硫黄換算濃度は3.0〜12.0mol/lが好ましいことがわかる。
【0176】
(第四実施例)
(実施例4−1)
カチオン交換樹脂層の一例であるカチオン交換膜として、厚み50μmのナフィオン膜(シグマアルドリッチ社製)の両面を、JIS R 6010:2000に規定される研磨布紙用研磨剤の粒度が320μmであるP320番のサンドペーパーを用いて粗面化処理した。サンドペーパーによる研磨回数は片面あたり80回とした。この膜を実施例4−1のカチオン交換膜とする。
【0177】
(実施例4−2)
P400番のサンドペーパーを用いたこと以外は、実施例4−1と同様にしてナフィオン膜の粗面化処理を行った。この膜を実施例4−2のカチオン交換膜とする。
【0178】
(実施例4−3)
P1000番のサンドペーパーを用いたこと以外は、実施例4−1と同様にしてナフィオン膜の粗面化処理を行った。この膜を実施例4−3のカチオン交換膜とする。
【0179】
(実施例4−4)〜(実施例4−6)
サンドペーパーによる研磨回数を変更し、ラフネスファクター、算術平均粗さRa及び最大高さ粗さRzを表6に示す値としたこと以外は、実施例4−3と同様にして実施例4−4〜4−6のカチオン交換膜を作製した。
【0180】
(比較例4−1)
粗面化処理を行わなかったナフィオン膜を、比較例4−1のカチオン交換膜とする。
【0181】
[1.表面形態観察]
次の条件で、実施例4−1〜4−6、及び比較例4−1のカチオン交換膜の表面形態観察を行い、ラフネスファクター、算術平均粗さRa、及び最大高さ粗さRzを算出した。
・測定機器:超深度形状測定顕微鏡VK−8500(キーエンス社製)
・測定範囲:1.04×10−3 cm
・形状解析アプリケーション:VK−H1A9(キーエンス社製)
【0182】
[2.界面抵抗測定]
[2−1.カチオン交換膜の含浸処理]
実施例4−1〜4−6、及び比較例4−1のカチオン交換膜を、1mol/lの水酸化リチウムの水/アルコール溶液に浸漬し、80℃で12時間撹拌することにより、カチオン交換膜中のプロトンをリチウムイオンに交換した。撹拌後の各実施例及び比較例のカチオン交換膜は、脱イオン水で洗浄し、120℃の脱気下で乾燥することにより、水酸化リチウム及び溶媒の除去を行った。
得られたLi型カチオン交換膜を、1,2−ジメトキシエタン(DME)と1,3−ジオキソラン(DOL)とを体積比50:50で混合した溶液に、25℃環境下で12時間浸漬することにより、含浸処理を行った。この処理により、含浸処理後のカチオン交換膜には、含浸処理前のカチオン交換膜の質量に対して20質量%の非水溶媒が含浸された。含浸処理前後のカチオン交換膜の厚みは、それぞれ50μm、64μmであった。
【0183】
[2−2.電解質層抵抗Rの測定]
含浸処理後の各実施例及び比較例のカチオン交換膜をカチオン交換樹脂層として、及び図6に示す電気化学測定用セル41(日本トムセル社製)を用いて、抵抗測定用セル40を作製した。なお、多孔質膜46には、0.3mol/lのLiTFSIを含み、DMEとDOLとを50:50(体積比)で混合した非水電解質が含浸された、厚み25μmのポリエチレン製微多孔膜を用いた。カチオン交換樹脂層45には、DMEとDOLとの混合溶媒(体積比50:50)を含浸させて用いた。
【0184】
上記抵抗測定用セルを用いて、交流インピーダンス測定により電解質層抵抗Rを測定した。交流インピーダンス測定は、印加電圧振幅5mV、周波数1MHz〜100mHzにて行った。測定結果のナイキスト線図を作製し、等価回路を用いてフィッティングを行った。最も高周波数側に表れる円弧をフィッティングした曲線と実軸との交点のうち、低周波数側の値を読み取り、電解質抵抗Rとした。電解質層抵抗Rは、ポリエチレン製微多孔膜の抵抗である多孔質層抵抗Re、ポリエチレン製微多孔膜と含浸処理後のカチオン交換膜との界面の抵抗である界面抵抗Ri、含浸処理後のカチオン交換膜の抵抗であるカチオン交換樹脂層抵抗Rcが含まれており、次式(2)で表される。
R=2Re+2Ri+Rc (2)
【0185】
[2−3.カチオン交換樹脂層抵抗Rcの測定]
0.3mol/lのLiTFSIを含むDME:DOL=50:50(体積比)の非水電解質が含浸されたポリエチレン製微多孔膜を配置しないこと以外は[2−2.電解質層抵抗Rの測定]と同様にして、交流インピーダンス測定を行った。この測定により求められた抵抗を、カチオン交換樹脂層抵抗Rcとした。
【0186】
[2−4.多孔質層抵抗Reの測定]
含浸処理後のカチオン交換膜の代わりに0.3mol/lのLiTFSIを含むDME:DOL=50:50(体積比)の非水電解質が含浸されたポリエチレン製微多孔膜を配置したこと以外は[2−3.カチオン交換樹脂層抵抗Rcの測定]と同様にして、交流インピーダンス測定を行った。この測定により求められた抵抗を、多孔質層抵抗Reとした。
【0187】
交流インピーダンス測定により求めた電解質層抵抗R、カチオン交換樹脂層抵抗Rc、多孔質層抵抗Reの値から、式(1)を用いて界面抵抗Riを算出した。
【0188】
ポリエチレン製微多孔膜に含浸した非水電解質中のLiTFSIの濃度を表7に示す値に変更し、含浸処理後の各実施例及び比較例のカチオン交換膜を用いて、交流インピーダンス測定を行い、界面抵抗Riを算出した。なお、LiTFSIの濃度が0.5mol/lの場合は、実施例4−1〜4−3及び比較例4−1のみ測定を行った。
【0189】
実施例4−2及び比較例4−1のカチオン交換膜を用い、ポリエチレン製微多孔膜に含浸した非水電解質中のリチウム多硫化物の硫黄換算濃度を3.0mol/lとし、LiTFSIの濃度を表8に示す値に変更して、交流インピーダンス測定を行い、界面抵抗Riを算出した。
なお、リチウム多硫化物を含む非水電解質は次のようにして作製した。露点−80℃以下のグローブボックス内で、リチウム多硫化物(LiS)と硫黄(S)をLiが生成し得る量論比(モル比8:5)にて、DMEとDOLとを体積比50:50で混合した非水溶媒に投入し、撹拌した。この溶液を密閉容器に封入し、80℃の恒温槽内に4日間静置することにより、LiSとSとを反応させ、リチウム多硫化物を含む溶液を作製した。このリチウム多硫化物溶液には、硫黄に換算した場合3.0mol/lに相当するリチウム多硫化物が溶解している。この溶液に、LiTFSIの濃度が0、0.3、0.5又は1.0mol/lとなるようにLiTFSIを溶解させて、リチウム多硫化物を含む非水電解質を作製した。
【0190】
各実施例及び比較例のカチオン交換膜のラフネスファクター、算術平均粗さRa、最大高さ粗さRzを表6に、含浸処理後のカチオン交換膜とLiTFSI及びリチウム多硫化物の濃度を変更した時の、非水電解質を含むポリエチレン製微多孔膜との界面抵抗Riを表7、表8に示す。実施例4−1〜4−6の界面抵抗の値を、比較例4−1の界面抵抗の値で除することにより、相対界面抵抗比(%)を算出し、ラフネスファクター、算術平均粗さRa及び最大高さ粗さRzに対して、プロットしたグラフを図9〜11に示す。
【0191】
【表6】
【0192】
【表7】
【0193】
【表8】
【0194】
表6に示すように、サンドペーパーによる粗面化処理を行うことにより、ラフネスファクター、算術平均粗さRa、最大高さ粗さRzのいずれもが増加することがわかった。また、表7、表8及び図9〜11に示すように、LiTFSIの濃度又はリチウム多硫化物の有無によらず、粗面化処理を行った実施例4−1〜4−6のカチオン交換膜は、粗面化処理を行っていない比較例4−1のカチオン交換膜に比べて、界面抵抗Riが減少することが明らかとなった。さらに、LiTFSIの濃度が0.3mol/lと低い場合には、カチオン交換膜表面の最大高さ粗さが10μm以上である実施例4−1〜4−4では、最大高さ粗さが10μm未満である実施例4−5、4−6に比べて、界面抵抗が低下することがわかった。また、LiTFSIの濃度が1.0mol/lと高い場合には、算術平均粗さRaが0.5μm以上である実施例4−1〜4−3及び実施例4−5、4−6は、算術平均粗さRaが0.5μm未満である実施例4−4に比べて、低い界面抵抗を示した。
表8に示した通り、リチウム多硫化物を含む場合であっても、カチオン交換膜表面を粗面化することにより、界面抵抗は低下することがわかった。
【0195】
[3.高率放電試験]
(実施例5−1)
クエン酸マグネシウムを900℃、アルゴン雰囲気下で1時間炭化処理したのち、1mol/lの硫酸水溶液中に浸漬することによって、MgOを抽出した。続いて、洗浄及び乾燥して、多孔性カーボンを得た。この多孔性カーボンと硫黄とを質量比30:70で混合した。この混合物を、アルゴン雰囲気下で密閉容器に封入し、昇温速度5℃/分で150℃まで昇温し、5時間保持した後、80℃まで放冷した。その後、再び昇温速度5℃/分で300℃まで昇温し、2時間保持する熱処理を行い、カーボン−硫黄複合体(以下、「SPC複合体」ともいう)を得た。
【0196】
正極活物質としてSPC複合体、導電剤としてアセチレンブラック、及び結着剤としてポリフッ化ビニリデン(PVDF)を質量比85:5:10で含み、溶媒としてN−メチルピロリドン(NMP)を用いた正極合剤ペーストを作製した。得られた正極合剤ペーストをニッケルメッシュ集電体に充填したのち、乾燥することにより、正極を作製した。なお、正極合剤ペーストの塗工量は、1.2mg/cmとした。
【0197】
負極板には、厚さ10μmの銅箔に金属Liを貼り付けて、負極全体の厚みを310μmとしたものを用いた。
【0198】
カチオン交換膜としては、P400番のサンドペーパーを用いて、片面のみ粗面化処理を行ったナフィオン膜を用いた。
【0199】
正極電解質は、リチウム多硫化物を硫黄換算濃度で3.0mol/l含み、DMEとDOLとを体積比50:50で混合した溶液を用いた。
【0200】
負極電解質としては、DMEとDOLとを体積比50:50で混合した溶媒を用いた。
【0201】
図8に示すような電気化学測定用セル61(日本トムセル社製)を用いて、試験用セル60を作製した。まず、ステンレス鋼板製支持体61aに設けられた内径26mm、外径34mmのO−リング61fの内側に、上記のようにして作製した正極63を配置する。正極電解質を含浸させた多孔質膜(多孔質層)66を積層したのち、O−リングの内径よりも大きなサイズとしたカチオン交換樹脂層65を配置した。このとき、上記粗面化処理を行った第一面65aが、多孔質膜66と接するようにカチオン交換樹脂層65を配置した。その上に、負極電解質を含浸させた負極64を積層した。ステンレス鋼板製の電極61eを負極64上に配置し、ステンレス鋼板製蓋体61bを重ねてボルト61cとナット61dとを締結することにより、試験用セル60(以下、「電池」ともいう。)を組み立てた。これを、実施例電池5−1とする。
【0202】
(比較例5−1)
カチオン交換膜として粗面化処理を行っていないナフィオン膜を用いたこと以外は、実施例5−1と同様にして比較例5−1に係る試験用セルを作製した。これを、比較例電池5−1とする。
【0203】
次の方法で、実施例電池5−1及び比較例電池5−1の0.1C放電容量、及び0.2C放電容量を測定し、0.2C放電容量を0.1C放電容量で除することにより、0.2C/0.1C比(%)を算出した。
25℃で1.5Vまでの0.1C定電流放電、及び3.0Vまでの0.1C定電流充電を行った。充電及び放電の終止条件は、設定電圧に到達するか10時間経過するまでとした。上記0.1Cの放電及び充電の工程を1サイクルとして、このサイクルを3サイクル繰り返した。3サイクル目の放電容量をSPC複合体の質量で除した値を、0.1C放電容量(mAh/g)とした。
なお、1Cは、正極活物質として用いたSPC複合体の質量あたりの容量を、理論容量である1675mAh/gとしたときに、正極活物質の容量を1時間で放電する電流値とした。
次に、25℃で1.5Vまでの0.2C定電流放電、及び3.0Vまでの0.2C定電流充電を行った。充電及び放電の終止条件は、設定電圧に到達するか5時間経過するまでとした。上記0.2Cの放電及び充電の工程を1サイクルとして、このサイクルを3サイクル繰り返した。3サイクル目の放電容量をSPC複合体の質量で除した値を、0.2C放電容量(mAh/g)とした。0.2C放電容量を0.1C放電容量で除することにより、0.2C/0.1C比(%)を算出した。
【0204】
実施例電池5−1及び比較例電池5−1の0.1C放電容量、0.2C放電容量及び0.2C/0.1C比(%)を表9に示す。また、実施例電池5−1及び比較例電池5−1の0.1C及び0.2Cの放電カーブを図12に示す。
【0205】
【表9】
【0206】
実施例電池5−1は、0.1C、0.2Cどちらの放電電流でも1150mAh/gという高い放電容量を示し、0.2C/0.1C比は100%であった。一方、比較例電池5−1は、0.1C放電容量は、実施例電池5−1と同等であったものの、0.2C放電容量は低く、0.2C/0.1C比は71.7%であった。これは、実施例電池5−1では、カチオン交換樹脂層として、表面を粗面化処理したカチオン交換膜を用いたために、界面抵抗が低下し、高率放電性能が向上したものと考えられる。
なお、実施例電池5−1では、図12(a)に示したように、正極活物質層中の硫黄の容量に相当する1150mAh/g放電後にも、放電電位は低下しなかった。一方、比較例電池5−1では、図12(b)に示したように、放電末期に放電電位が低下する現象が観測された。これは、粗面化処理によってカチオン交換樹脂層の界面抵抗が低下したことに起因して、正極表面の電流分布がより均一になったためと考えられる。また、粗面化処理により、正極表面でのリチウム多硫化物の保持性が向上したことに起因して、正極非水電解質中に含有されるリチウム多硫化物の充放電反応への寄与が高まったためと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0207】
本発明は、パーソナルコンピュータ、通信端末等の電子機器、自動車などの電源として使用される非水電界二次電池をはじめとした非水電解質蓄電素子、及びこれに備わる負極などに適用できる。
【符号の説明】
【0208】
1 非水電解質二次電池
2 電極群
3 電池容器
4 正極端子
4’ 正極リード
5 負極端子
5’ 負極リード
11、21、33、53、63 正極
12、22 正極電解質
13、23、34、54、64 負極
14、24 負極電解質
15、25a、35、45、55、65 カチオン交換樹脂層
20 蓄電ユニット
25 セパレータ
25b、46、56a、56b、66 多孔質膜(多孔質層)
25c、65a 第一面
25d 第二面
30、50、60 試験用セル
31、41、51、61 電気化学測定用セル
31a、41a、51a、61a 支持体
31b、41b、51b、61b 蓋体
31c、41c、51c、61c ボルト
31d、41d、51d、61d ナット
31e、41e、51e、61e 電極
31f、41f、51f、61f O−リング
40 抵抗測定用セル
100 蓄電装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12