特許第6856065号(P6856065)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6856065
(24)【登録日】2021年3月22日
(45)【発行日】2021年4月7日
(54)【発明の名称】油圧システム
(51)【国際特許分類】
   F15B 20/00 20060101AFI20210329BHJP
【FI】
   F15B20/00 G
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2018-507440(P2018-507440)
(86)(22)【出願日】2017年3月24日
(86)【国際出願番号】JP2017012021
(87)【国際公開番号】WO2017164371
(87)【国際公開日】20170928
【審査請求日】2019年12月18日
(31)【優先権主張番号】特願2016-60951(P2016-60951)
(32)【優先日】2016年3月24日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000148759
【氏名又は名称】株式会社タダノ
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】特許業務法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川淵 直人
(72)【発明者】
【氏名】吉田 尚史
(72)【発明者】
【氏名】増田 尚隆
(72)【発明者】
【氏名】福森 康裕
【審査官】 北村 一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−184810(JP,A)
【文献】 特開平09−310782(JP,A)
【文献】 特開平07−127608(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F15B 11/00−11/22;21/14
F15B 20/00−21/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
油圧ポンプ、作業機のアクチュエータに対して前記油圧ポンプからの作動圧を供給するコントロールバルブ、及び、前記コントロールバルブに対してパイロット圧を供給するパイロット圧供給部を備える油圧システムであって、
前記パイロット圧供給部は、
パイロット油路を手動で開口可能なディテント式の非常用手動操作機能を有し、前記コントロールバルブへのパイロット圧を生成する電磁比例弁と、
操作レバーの操作に応じて前記電磁比例弁の弁開度を制御するコントローラと、
前記パイロット圧供給部をオンロード状態又はアンロード状態に切り替えるパイロット圧切替部と、を有し、
前記パイロット圧切替部は、前記電磁比例弁を手動開口する際に前記パイロット圧供給部を前記アンロード状態に制御するとともに、運転室外に配置された前記電磁比例弁がオペレータにより手動開口された後に、前記運転室内でのオペレータ操作に基づいて前記パイロット圧供給部を前記オンロード状態に制御することを特徴とする油圧システム。
【請求項2】
前記パイロット圧切替部は、
前記オンロード状態及び前記アンロード状態を通電によって切り替えるパイロット圧アンロード用ソレノイド弁と、
前記コントローラによる前記電磁比例弁の制御が不能である場合に有効化され、前記オペレータ操作に基づいて前記パイロット圧アンロード用ソレノイド弁の通電状態を制御する非常操作作動スイッチと、を含むことを特徴とする請求項1に記載の油圧システム。
【請求項3】
前記非常操作作動スイッチは、モーメンタリ式のスイッチであることを特徴とする請求項2に記載の油圧システム。
【請求項4】
前記油圧ポンプは、前記電磁比例弁が手動開口される非常操作時における作動油の供給量を、前記電磁比例弁が前記コントローラによって制御される通常時における作動油の供給量よりも減少させることを特徴とする請求項1に記載の油圧システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業機の油圧システムに関し、特に、油圧システムのコントロールバルブを電気的に制御する電気操作システムを備える油圧システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、油圧式作業機の操作系には、油圧システムのコントロールバルブを電気的に制御する電気操作システムが用いられるようになってきた。電気操作システムでは、操作レバーからの電気信号がコントローラに入力され、コントローラからの電気信号に従って電磁比例弁が動作する。この電磁比例弁の動作により、油圧システムのコントロールバルブのパイロット圧が制御される。
【0003】
電気操作システムは、コントローラに制御ロジックを実行させることによる高度な制御が可能であり、近年の油圧式作業機に対する省エネ、低騒音、最適制御などの高度な要求に応えるための重要な技術となってきている。
【0004】
電気操作システムにおいて、電気回路部分が故障すると、コントローラによる電磁比例弁の制御が不能となる。そこで、電気操作システムは、故障時に対応するための非常操作装置を有することが好ましい(例えば、特許文献1)。非常操作装置を備える電気操作システムの一例を図6に示す。
【0005】
図6に示す電気操作システムでは、通常時には、操作ボックス20の操作レバー9が操作されると、その操作に基づく駆動電気信号がコントローラ2から出力され、アンプ3を経て電磁比例弁4に入力される。電磁比例弁4の動作によりパイロット圧が制御され、コントロールバルブ27が切り換えられることで、アクチュエータ5が駆動される。
【0006】
この電気操作システムの電気回路部分に断線等の故障が発生した時は、電源切換スイッチ22が非常操作側に切り換えられる。操作ボックス20に内蔵された非常操作スイッチ21が、操作レバー9の操作に連動して切り替えられ、一方の電磁比例弁4に通電が行われることでコントロールバルブ27にパイロット圧が供給され、アクチュエータ5が駆動される。
【0007】
ところで、図6に示した非常操作装置は、電気回路部分の故障により電磁比例弁4を制御できなくなった場合には対応できるものの、断線あるいはコンタミによる固着が発生して電磁比例弁4自体が機能しなくなった場合に対応することができない。
【0008】
このような電磁比例弁自体の故障時のために、電磁比例弁には、非常用手動操作機能が設けられている。この場合、オペレータは、動かそうとする電磁比例弁の非常用手動操作機能を直接有効化して電磁比例弁の油路を開口させることで、コントロールバルブに所望のパイロット圧を供給し、アクチュエータを駆動することができる。
【0009】
非常用手動操作機能付きの電磁比例弁としては、ディテント式とモーメンタリ式がある。電磁比例弁の流路を開口した状態で固定できるものをディテント式と言い、開口状態を固定できないものをモーメンタリ式と言う。例えば、ディテント式では非常操作ねじが用いられ、モーメンタリ式ではプッシュピン(押し込み方向と逆側に付勢されたピン)が用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2000−344466号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
通常、電磁比例弁は、作業機の運転室外となる、作業機のフレーム上に配置されている。また、作業機での作業中は、電磁比例弁を含むパイロット回路はオンロード状態(パイロット油圧が印加されている状態)となっている。電磁比例弁の非常用手動操作機能を利用する場合、オペレータは運転室外で作業することとなる上、電磁比例弁の油路を直接開口する操作を行うと同時にコントロールバルブにパイロット圧が供給され、アクチュエータが動き出すため、非常に危険である。
【0012】
本発明は、電磁比例弁自体が故障した場合にも、オペレータが安全に非常操作時の作業を行うことができる、油圧システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る油圧システムは、
油圧ポンプ、作業機のアクチュエータに対して前記油圧ポンプからの作動圧を供給するコントロールバルブ、及び、前記コントロールバルブに対してパイロット圧を供給するパイロット圧供給部を備える油圧システムであって、
前記パイロット圧供給部は、
パイロット油路を手動で開口可能なディテント式の非常用手動操作機能を有し、前記コントロールバルブへのパイロット圧を生成する電磁比例弁と、
操作レバーの操作に応じて前記電磁比例弁の弁開度を制御するコントローラと、
前記パイロット圧供給部をオンロード状態又はアンロード状態に切り替えるパイロット圧切替部と、を有し、
前記パイロット圧切替部は、前記電磁比例弁を手動開口する際に前記パイロット圧供給部を前記アンロード状態に制御するとともに、運転室外に配置された前記電磁比例弁がオペレータにより手動開口された後に、前記運転室内でのオペレータ操作に基づいて前記パイロット圧供給部を前記オンロード状態に制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る油圧システムによれば、電磁比例弁自体が故障した場合にも、オペレータは、安全に非常操作時の作業を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施の形態に係る油圧システムの通常時の油圧回路の一例を示す図である。
図2】実施の形態の油圧システムが搭載された移動式クレーンの一例を示す図である。
図3】油圧システムの非常操作時の油圧回路の一例を示す図である。
図4】ディテント式非常用手動操作機能付きの電磁比例弁の要部を示す図である。
図5】運転室内に配置された非常操作作動スイッチの一例を示す図である。
図6】特許文献1に示された非常操作装置の回路を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1は、本発明の実施の形態に係る油圧システム41の通常時の油圧回路を示す図である。
油圧システム41は、アクチュエータ47に作動圧を供給するメイン回路、及び、メイン回路を作動させるためのパイロット回路を備える。メイン回路は、油圧ポンプ46、モーター48、コントロールバルブ45、圧力補償付き流量調整弁52及びリリーフ弁55を含む。パイロット回路は、操作レバー42、コントローラ43、電磁比例弁44、パイロット圧アンロード用ソレノイド弁50及び非常操作作動スイッチ80(図3図5参照)を含む。すなわち、パイロット回路には、電気操作システムが適用されている。
【0017】
油圧システム41において、パイロット回路は、コントロールバルブ45に対してパイロット圧を供給するパイロット圧供給部を構成する。また、パイロット圧アンロード用ソレノイド弁50及び非常操作作動スイッチ80は、パイロット回路をオンロード状態又はアンロード状態に切り替えるパイロット圧切替部を構成する。
【0018】
操作レバー42は、操作方向と操作量を操作電気信号に変換して、コントローラ43に出力する。コントローラ43は、操作レバー42の操作電気信号を受け取り、対応する電磁比例弁44に駆動電気信号を出力する。電磁比例弁44は、コントローラ43からの駆動電気信号を受け取り、駆動電気信号に比例したパイロット圧を生成して、コントロールバルブ45に供給する。パイロット圧アンロード用ソレノイド弁50は、パイロット圧源51からの電磁比例弁供給圧力を、パイロット油路82を介して電磁比例弁44、44に供給する。
【0019】
図1に示すように、電磁比例弁44は、アクチュエータ47の駆動方向に対応して2つ配置されている。それぞれの電磁比例弁44に対して、コントローラ43から駆動電気信号が出力される。電磁比例弁44は、ディテント式の非常用手動操作機能を有しており、手動操作部として、例えば非常操作ねじを備えている。非常操作時には、オペレータは、非常操作部を直接操作することにより、強制的に電磁比例弁44の油路を開口することができる。これにより、コントロールバルブ45にパイロット圧が供給される。
【0020】
コントロールバルブ45は、電磁比例弁44からのパイロット圧によって駆動方向を切り換えられ、油圧ポンプ46からの圧油をコントロールしてアクチュエータ47に供給する。図1に示すように、油圧ポンプ46には可変容量ポンプが採用されている。油圧ポンプ46は、後述するように、非常操作時には、通常時に比較して吐出量が少量となるように制御される。
【0021】
なお、実際の建設機械は、複数のアクチュエータを備えており、それぞれのアクチュエータに対応するコントロールバルブと電磁比例弁を備えている。図1では、非常操作時の動作説明を簡略化するため、1個のアクチュエータ47のみを示している。
【0022】
図1に示すように、通常時には、パイロット圧アンロード用ソレノイド弁50は、コントローラ43からの駆動電気信号により、通電状態が切り換えられる。すなわち、操作レバー42が中立状態であるときは、コントローラ43からパイロット圧アンロード用ソレノイド弁50への通電は行われない。このとき、パイロット圧アンロード用ソレノイド弁50のタンクポートと出力ポートが連通し、パイロット油路82はタンクに接続される。これにより、パイロット回路はアンロード状態となる。
【0023】
一方、操作レバー42が操作されると、コントローラ43からパイロット圧アンロード用ソレノイド弁50への通電が行われる。このとき、パイロット圧アンロード用ソレノイド弁50の供給ポートと出力ポートが連通し、パイロット油路82はパイロット圧源51に接続される。これにより、パイロット回路はオンロード状態となる。すなわち、パイロット油路82を経由して電磁比例弁44に電磁比例弁供給圧力が供給される。
【0024】
圧力補償付き流量調整弁52は、ポンプ油路53とタンク油路54との間に介装され、流通する作動油の流量を制御する。リリーフ弁55は、ポンプ油路53とタンク油路54との間に介装され、油圧が設定圧力を超えたときに作動して圧力の異常上昇を防止する。
【0025】
図2は、上述した油圧システム41が搭載された移動式クレーン60の一例を示す図である。図2では、移動式クレーン60は、下部フレーム61の前後に設けられたアウトリガ62のジャッキシリンダ63が伸長し、全体をジャッキアップしたクレーン作業姿勢となっている。
【0026】
旋回フレーム64は、下部フレーム61の上面に搭載される。旋回フレーム64は、下部フレーム61に対して、旋回自在となっている。伸縮ブーム65は、ピン66によって旋回フレーム64と連結されている。伸縮ブーム65は、旋回フレーム64に対して、起伏自在となっている。伸縮ブーム65は、内部に配置された伸縮シリンダにより伸縮駆動される。また、伸縮ブーム65は、旋回フレーム64と伸縮ブーム65との間に介装された起伏シリンダ67により起伏駆動される。
【0027】
ワイヤーロープ68は、旋回フレーム64に配置されたウインチ(図示しない)から繰り出され、伸縮ブーム65の背面に沿って伸縮ブーム先端69に導かれている。さらに、ワイヤーロープ68は、伸縮ブーム先端69のシーブ70に掛け回され、その先端にはフック71が吊り下げられている。フック71には吊り荷72が吊り下げられている。
【0028】
移動式クレーン60において、クレーン作業中に突然、起伏シリンダ67の下げ側の電磁比例弁(起伏シリンダ67を縮小させるための電磁比例弁)が断線あるいはコンタミによる固着により動かなくなったと仮定する。この状況でもウインチを巻き下げることにより、吊り荷72を下に降ろすことは可能である。しかし、図2に示すクレーン姿勢では運転室73に吊り荷72がぶつかってしまう。また、吊り荷72を吊り下げたままで放置することは危険なため、非常操作により起伏シリンダ67の下げ操作を行い、吊り荷72を地面に降ろす必要がある。
【0029】
図3は、油圧システム41の非常操作時の油圧回路の一例を示す図である。油圧システム41は、運転室73内部に配置された非常操作選択スイッチ74(図5参照)を操作することにより、通常時の油圧回路(図1参照)から非常操作時の油圧回路(図3参照)に切り替えられる。
【0030】
なお、非常操作選択スイッチ74には、ディテントタイプのスイッチが使われている。すなわち、油圧システム41において、非常操作選択スイッチ74が操作されると、非常操作時の油圧回路が保持される。
【0031】
図3に示すように、油圧システム41では、非常操作時には、コントローラ43(図1参照)に代えて、非常操作作動スイッチ80によってパイロット圧アンロード用ソレノイド弁50の通電状態が切り替えられる。すなわち、非常操作作動スイッチ80は、コントローラ43による電磁比例弁44の制御が不能である場合に有効化される。非常操作作動スイッチ80は、運転室73内に配置される。非常操作作動スイッチ80は、容易に操作ができるよう、運転室73の前面操作パネル上に配置されている。
【0032】
なお、非常操作作動スイッチ80には、モーメンタリタイプのスイッチが使われている。すなわち、非常操作作動スイッチ80が操作されているときだけ、パイロット圧アンロード用ソレノイド弁50に通電が行われ、パイロット回路はオンロード状態となる。
【0033】
油圧システム41の非常操作は、以下の手順で行われる。ここでは、非常操作により、起伏シリンダ67の下げ操作を行う場合について説明する。
【0034】
まず初めに、オペレータは、運転室73内部の非常操作選択スイッチ74を操作することにより、油圧システム41を、通常時の油圧回路(図1参照)から非常操作時の油圧回路(図3参照)に切り換える。これにより、コントローラ43は、油圧システム41から電気的に切り離される。
【0035】
この時、非常操作選択スイッチ74の操作に伴い、油圧ポンプ46の吐出量は少量側に切り換わる。すなわち、油圧ポンプ46は、電磁比例弁44が手動開口される非常操作時における作動油の供給量を、電磁比例弁44がコントローラ43によって制御される通常時における作動油の供給量よりも減少させる。
【0036】
次に、オペレータは、起伏シリンダ67の下げ側の電磁比例弁44dを、非常用手動操作機能により開口する。図4には、ディテント式非常用手動操作機能付きの電磁比例弁の一例として、非常操作用ねじ81を有する電磁比例弁44dを示している。オペレータは、非常操作用ねじ81を直接操作することにより、電磁比例弁44d内部の油路を開口した状態で固定することができる。電磁比例弁44dは、旋回フレーム64上に配置されているため、オペレータは運転室73から旋回フレーム64に出てディテント操作(手動開口操作)を行う必要がある。
【0037】
この時、パイロット圧アンロード用ソレノイド弁50は、非常操作作動スイッチ80が操作されていないため非通電状態であり、遮断側(出力ポートとタンクポートが連通している状態)となっている。そのため、パイロット圧源51の電磁比例弁供給圧力は電磁比例弁44dには来ていない。すなわち、パイロット回路はアンロード状態となっている。したがって、旋回フレーム64上でオペレータが直接電磁比例弁44dのディテント操作を行っても、コントロールバルブ45が切り換わることは無く、起伏シリンダ67が下げ側に動くこともないので、オペレータの安全性が確保される。
【0038】
次に、オペレータは、運転室73に戻って、非常操作作動スイッチ80を操作する。すると、非常操作作動スイッチ80を介して電源からパイロット圧アンロード用ソレノイド弁50に通電が行われる。パイロット圧アンロード用ソレノイド弁50は、連通側(出力ポートと供給ポートが連通している状態)に切り換わり、パイロット回路はオンロード状態となる。これにより、パイロット圧源51の電磁比例弁供給圧力がパイロット油路82を通って下げ側の電磁比例弁44dに加えられる。
【0039】
下げ側の電磁比例弁44dの流路は既に手動で開口されているので、電磁比例弁供給圧力はコントロールバルブ45に直接作用して、コントロールバルブ45を下げ側に切り換える。すると、油圧ポンプ46から吐出された作動油がコントロールバルブ45を経由して起伏シリンダ67の縮小側油室83に入り、起伏シリンダ67は縮小動作を開始する。この時、油圧ポンプ46の吐出量は少量側に切り換わっており、起伏シリンダ67の縮小動作は低速で行われるので、起伏シリンダ67を安全に駆動することができる。
【0040】
移動式クレーン60において、起伏シリンダ67が縮小すると、伸縮ブーム65が倒伏する。オペレータは、吊り荷72が運転室73あるいは下部フレーム61の上方から十分に離れるまで非常操作作動スイッチ80を操作し、伸縮ブーム65を倒伏させる。その後、オペレータは、電磁比例弁44dの非常操作ねじ81を復帰させ、油路を閉じる。そして、運転室73内の非常操作選択スイッチ74を通常側に戻し、通常操作可能なウインチを下げ操作することにより、吊り荷72を地面まで降ろすことができる。
【0041】
すなわち、オペレータは、非常操作時には、パイロット回路をアンロード状態に制御した上で、アクチュエータ47の動かそうとする方向に対応する電磁比例弁44dを手動により開口させる。その後、クレーン運転室73内で非常操作作動スイッチ80を操作することにより、パイロット圧アンロード用ソレノイド弁50を制御してパイロット回路をオンロード状態とし、パイロット圧をコントロールバルブ45に加えることでコントロールバルブ45を切換える。これにより、油圧ポンプ46の作動油がアクチュエータ47に供給され、アクチュエータ47が動かそうとする方向へ駆動される。
【0042】
このように、実施の形態に係る油圧システム41は、油圧ポンプ46、作業機のアクチュエータ47に対して油圧ポンプ46からの作動圧を供給するコントロールバルブ45、及び、コントロールバルブ45に対してパイロット圧を供給する電気操作システム(パイロット圧供給部)を備える。電気操作システムは、パイロット油路82を手動で開口可能なディテント式の非常用手動操作機能を有し、コントロールバルブ45へのパイロット圧を生成する電磁比例弁44と、操作レバー42の操作に応じて電磁比例弁44の弁開度を制御するコントローラ43と、パイロット圧供給部における油圧状態をオンロード状態又はアンロード状態に切り替えるパイロット圧切替部と、を有する。パイロット圧切替部は、電磁比例弁44を手動開口する際にアンロード状態に制御するとともに、電磁比例弁44が手動開口された後にオンロード状態に制御する。
【0043】
具体的には、パイロット圧切替部は、オンロード状態及びアンロード状態を通電によって切り替えるパイロット圧アンロード用ソレノイド弁50と、コントローラ43による電磁比例弁44の制御が不能である場合に有効化され、パイロット圧アンロード用ソレノイド弁50の通電状態を制御する非常操作作動スイッチ80と、を含む。
【0044】
本実施の形態に係る油圧システム41によれば、断線あるいはコンタミによる固着等により電磁比例弁44自体が故障して動かなくなった場合でも、オペレータは安全に非常操作時の作業を行うことができる。したがって、作業機の安全性が格段に向上する。
【0045】
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づいて具体的に説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で変更可能である。
【0046】
例えば、実施の形態では、移動式クレーンのアクチュエータ47(起伏シリンダ67)を駆動する油圧システムについて説明したが、本発明は、その他のアクチュエータ(例えば、伸縮シリンダ)の油圧システムに適用することもできる。また、本発明は、移動式クレーン以外の作業機の油圧システムに適用することもできる。
【0047】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0048】
2016年3月24日出願の特願2016−060951の日本出願に含まれる明細書、図面および要約書の開示内容は、すべて本願に援用される。
【符号の説明】
【0049】
41 油圧システム
42 操作レバー
43 コントローラ
44 電磁比例弁
45 コントロールバルブ
46 油圧ポンプ
47 アクチュエータ
50 パイロット圧アンロード用ソレノイド弁(パイロット圧切替部)
80 非常操作作動スイッチ(パイロット圧切替部)
図1
図2
図3
図4
図5
図6