【文献】
土屋朋生,化学量論組成のMn2VAl/Fe積層膜における交換磁気異方性の熱処理温度依存性,日本金属学会講演概要集 2016年(第159回)秋期講演大会,公益社団法人日本金属学会,2016年 9月 7日,p.378
【文献】
土屋朋生,Ni2MnAl/X(X:Fe,Co,Co2MnSi)積層膜における交換磁気異方性,日本金属学会講演概要集 2015年(第157回)秋期講演大会,公益社団法人日本金属学会,2015年 9月 2日,p.S4・21
【文献】
間渕博,Al−Ti−X3元系L12型金属間化合物の開発,日本金属学会会報,1991年,第30巻第1号,p.24〜30
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、現状の素子構造でのSOTによる反転電流密度は、STTによる反転電流密度と同程度であるといわれている。スピン流を生み出す電流の流れは、磁気抵抗効果素子にダメージを与えないが、駆動効率の観点から、反転電流密度の低減が求められている。反転電流密度の低減のために、スピン流をより効率的に発生させる必要がある。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、スピン流を効率的に発生できるスピン軌道トルク型磁化回転素子、スピン軌道トルク型磁気抵抗効果素子及び磁気メモリを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を提供する。
【0010】
(1)第1の態様にかかる磁化回転素子は、導電層と、前記導電層に積層された第1強磁性層と、を備え、前記導電層は、化学量論組成においてXYZまたはX
2YZで表現される化合物を含み、前記導電層の主骨格は、
前記化合物がX
2YZの場合、L2
1構造、B2構造、A2構造のいずれかを含む構造であり、前記化合物がXYZの場合、C1
b構造、B2構造、A2構造のいずれかを含む構造である。
(2)第2の態様にかかる磁化回転素子は、導電層と、前記導電層に積層された第1強磁性層と、を備え、前記導電層は、化学量論組成においてXYZまたはX
2YZで表現される化合物を含み、前記Xは、Fe、Co、Ni、Mn、Re、Ru、Os、Rh、Pd、Ir及びPtからなる群から選択される1種以上の元素であり、Yは、Ti、V、Cr、Mo、W、Ta、Mn、Re、Os、Zr、Nb、Hf、Ta、Zn、Cu、Ag、Au、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Fe、Ru、Tm、Yb及びLuからなる群から選択される1種以上の前記Xと異なる元素であり、Zは、Al、Si、Ga、Ge、In、Sn、Sb、Pb、Mg、Sr及びBiからなる群から選択される1種以上の元素である。
【0011】
(3)上記態様にかかる磁化回転素子において、前記導電層の主骨格は、前記化合物がX
2YZの場合、L2
1構造、B2構造、A2構造のいずれかを含む構造であり、前記化合物がXYZの場合、C1
b構造、B2構造、A2構造のいずれかを含む構造であってもよい。
【0012】
(4)上記態様にかかる磁化回転素子において、前記導電層の主骨格は、前記化合物がX
2YZの場合、B2構造、A2構造のいずれかを含む構造であり、前記化合物がXYZの場合、B2構造、A2構造のいずれかを含む構造であってもよい。
【0013】
(5)上記態様にかかる磁化回転素子における前記化合物において、X元素、Y元素及びZ元素の最外殻電子数を足した値が、前記化合物の組成がXYZの場合は21以下であり、前記化合物の組成がX
2YZの場合は27以下であってもよい。
【0014】
(6)上記態様にかかる磁化回転素子において、前記導電層が反強磁性体であってもよい。
【0015】
(7)上記態様にかかる磁化回転素子において、前記化合物におけるX元素、Y元素またはZ元素が、周期表における第5周期以上の元素を含んでもよい。
【0016】
(8)上記態様にかかる磁化回転素子において、前記化合物が化学量論組成においてXYZで表記されてもよい。
【0017】
(9)上記態様にかかる磁化回転素子において、前記第1強磁性層は、化学量論組成においてXYZまたはX
2YZで表現される強磁性体を含み、前記Xは、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、Ir、Pt及びAuからなる群から選択される1種以上の元素であり、前記Yは、Ti、V、Cr、Mn、Y、Zr、Nb、Hf、Ta、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Fe、Tm、Yb及びLuからなる群から選択される1種以上の元素であり、前記Zは、Al、Si、Ga、Ge、As、In、Sn、Sb、Tl、Pb及びBiからなる群から選択される1種以上の元素であってもよい。
【0018】
(10)上記態様にかかる磁化回転素子において、前記第1強磁性層は、化学量論組成においてCo
2YZで表現される強磁性体を含み、前記Yは、Mn、Feの少なくとも一方であり、前記Zは、Al、Si、Ga及びGeからなる群から選択される1種以上の元素であってもよい。
【0019】
(11)第3の態様にかかる磁気抵抗効果素子は、上記態様にかかる磁化回転素子と、前記第1強磁性層の前記導電層と反対側の位置で、前記第1強磁性層と対向する第2強磁性層と、前記第1強磁性層と前記第2強磁性層との間に挟まれた非磁性層と、を備える。
【0020】
(12)第4の態様にかかる磁気メモリは、上記態様にかかる磁気抵抗効果素子を複数備える。
【発明の効果】
【0021】
スピン流を効率的に発生できるスピン軌道トルク型磁化回転素子、スピン軌道トルク型磁気抵抗効果素子及び磁気メモリを提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本実施形態について、図を適宜参照しながら詳細に説明する。以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などは実際とは異なっていることがある。以下の説明において例示される材料、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、本発明の効果を奏する範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0024】
「第1実施形態」
図1は、第1実施形態にかかるスピン軌道トルク型磁化回転素子を模式的に示した断面図である。第1実施形態にかかるスピン軌道トルク型磁化回転素子10は、第1強磁性層1とスピン軌道トルク配線2とを有する。
以下、スピン軌道トルク配線2が延びる第1の方向をx方向、スピン軌道トルク配線2が存在する面内で第1の方向と直交する方向をy方向、x方向及びy方向のいずれにも直交する方向をz方向と規定して説明する。
図1においてz方向は、第1強磁性層1の積層方向及びスピン軌道トルク配線2の厚み方向と一致する。
【0025】
<スピン軌道トルク配線>
スピン軌道トルク配線2は、x方向に延在する。スピン軌道トルク配線2は、電流が流れるとスピンホール効果によってスピン流を生成する。スピンホール効果とは、配線に電流を流した場合にスピン軌道相互作用に基づき、電流の向きに直交する方向にスピン流が誘起される現象である。スピンホール効果によりスピン流が生み出されるメカニズムについて説明する。
【0026】
図1に示すように、スピン軌道トルク配線2のx方向の両端に電位差を与えるとx方向に沿って電流Iが流れる。電流Iが流れると、y方向に配向した第1スピンS1と−y方向に配向した第2スピンS2はそれぞれ電流と直交する方向に曲げられる。通常のホール効果とスピンホール効果とは運動(移動)する電荷(電子)が運動(移動)方向を曲げられる点で共通するが、通常のホール効果は磁場中で運動する荷電粒子がローレンツ力を受けて運動方向を曲げられるのに対して、スピンホール効果では磁場が存在しないのに電子が移動するだけ(電流が流れるだけ)で移動方向が曲げられる点で大きく異なる。
【0027】
スピン軌道トルク配線2が非磁性体(強磁性体ではない材料)の場合、第1スピンS1の電子数と第2スピンS2の電子数とが等しい。つまり、図中で上方向に向かう第1スピンS1の電子数と下方向に向かう第2スピンS2の電子数が等しい。この場合、電荷の正味の流れとしての電流はゼロである。この電流を伴わないスピン流は特に純スピン流と呼ばれる。
【0028】
ここで、第1スピンS1の電子の流れをJ↑、第2スピンS2の電子の流れをJ↓、スピン流をJSと表すと、JS=J↑−J↓で定義される。
図1においては、純スピン流としてJSが図中のz方向に流れる。ここで、JSは分極率が100%の電子の流れである。
図1において、スピン軌道トルク配線2の上面に強磁性体を接触させると、スピン流は強磁性体中に拡散して流れ込む。すなわち、第1強磁性層1にスピンが注入される。
【0029】
本実施形態にかかるスピン軌道トルク配線2は、化学量論組成においてXYZまたはX
2YZで表現される化合物を含む。組成式において、Xは、Fe、Co、Ni、Mn,Re、Ru、Os、Rh、Pd、Ir及びPtからなる群から選択される1種以上の元素であり、Yは、Ti、V、Cr、Mo、W、Ta、Mn、Re、Os、Zr、Nb、Hf、Ta、Zn、Cu、Ag、Au、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Fe、Ru、Tm、Yb及びLuからなる群から選択される1種以上のXと異なる元素であり、Zは、Al、Si、Ga、Ge、In、Sn、Sb、Pb、Mg、Sr及びBiからなる群から選択される1種以上の元素である。
【0030】
ここで「化学量論組成においてXYZまたはX
2YZで表現される」とは、化合物が化学量論組成である場合に限られず、非化学量論組成でもよいことを意味する。すなわち、組成式がXYZの場合、X元素とY元素とZ元素の比が厳密に1:1:1である必要はなく、組成式がX
2YZの場合、X元素とY元素とZ元素の比が厳密に2:1:1である必要はない。
【0031】
この化合物は、広義のホイスラー合金である。強磁性体のホイスラー合金は室温で100%のスピン分極率を達成する可能性が高い材料として検討されている。XYZで表記される強磁性のホイスラー合金はハーフホイスラー合金として知られ、X
2YZで表記される強磁性のホイスラー合金はフルホイスラー合金として知られている。本明細書における「広義のホイスラー合金」とは、XYZまたはX
2YZで示されるbcc構造を基本とした典型的な金属間化合物を意味する。すなわち、「広義のホイスラー合金」は非磁性体でも、強磁性体でも、反強磁性体でもよい。
【0032】
スピン軌道トルク配線2が上記化合物を含むと、スピン軌道トルク配線2においてスピンホール効果が強く生じ、スピン軌道トルク配線2から第1強磁性層1中に注入されるスピン量が増える。注入されたスピンは、第1強磁性層1の磁化にスピン軌道トルクを与え、磁化回転(磁化反転)を起こす。
【0033】
スピン軌道トルク配線2でスピン流を効率的に生み出す(スピンホール効果が強く働く)と、第1強磁性層1に注入されスピン量が増える。スピン流は、スピン軌道トルク配線2の構成に伴う内因性の理由と、スピン軌道トルク配線2に外から加えることができる外因性の理由とによって生じる。
【0034】
内因性の理由として、スピン軌道トルク配線2を構成する材料による影響、結晶構造等の対称性の崩れにより生じる内場による影響等がある。スピン軌道トルク配線2を構成する材料としてスピン軌道相互作用の強い材料を用いると、スピン流が効率的に発生する。スピン軌道トルク配線2を構成する結晶を反転対称性の崩れたものとすると、スピンホール効果を促す内場が生じ、スピン流が効率的に発生する。
【0035】
他方、外因性の理由として、スピン軌道トルク配線2内に含まれる散乱因子による影響、積層界面の歪みによる影響、界面ラシュバ効果等がある。不純物等がスピンを散乱すると、スピン軌道相互作用が増強され、スピン軌道トルク配線2に流す電流に対するスピン流の生成効率が高まる。スピン軌道トルク配線2と他の層との積層界面がゆがむと、スピンホール効果を促す内場が生じ、スピン流が効率的に発生する。また積層界面が異種材料により構成されていると、界面ラシュバ効果によりスピン流が効率的に発生する。
【0036】
図2Aから
図2Fは、XYZまたはX
2YZの組成式で表される化合物が選択しやすい結晶構造を模式的に示した図である。
図2Aから
図2Cは、X
2YZの組成式で表される化合物が選択しやすい結晶構造であり、
図2Dから
図2Fは、XYZの組成式で表される化合物が選択しやすい結晶構造である。
【0037】
図2AはL2
1構造であり、
図2DはC1
b構造であり、X原子、Y原子、Z原子は所定のサイトに収まっている。L2
1構造の単位格子は4つの面心立方格子(fcc)からなり、そのうちの1つのX原子を取り除いた構造がC1
b構造である。
【0038】
図2BはL2
1構造由来のB2構造であり、
図2EはC1
b構造由来のB2構造である。これらの結晶構造では、X原子は所定のサイトに収まっているが、Y原子とZ原子との間で乱れが生じている。
図2CはL2
1構造由来のA2構造であり、
図2FはC1
b構造由来のA2構造である。これらの結晶構造では、X原子とY原子とZ原子との間で乱れが生じている。したがって、X
2YZの組成式で表される化合物においてはL2
1構造>B2構造>A2構造の順に、XYZの組成式で表される化合物においてはC1
b構造>B2構造>A2構造の順に結晶性が高い。
【0039】
スピン軌道トルク配線2の主骨格は、化合物がX
2YZの場合、L2
1構造、B2構造、A2構造のいずれかを含む構造であり、化合物がXYZの場合、C1
b構造、B2構造、A2構造のいずれかを含む構造であることが好ましい。ここで「を含む構造」とは、例えばL2
1構造またはC1
b構造の一部がA2構造またはB2構造になっている場合も含むことを意味する。
【0040】
図2Aから
図2Fは図示の関係上、X原子、Y原子、Z原子の大きさをほぼ同一として図示しているが、実際にはX原子、Y原子、Z原子の原子半径は異なる。X原子、Y原子、Z原子の電子雲の広がりまでを含めると、それぞれの原子が生み出すスピン相互作用の大きさは異なる。したがって、電流Iを流すことによってスピン軌道トルク配線2内を流れる電子(スピン)の立場から見ると、相互作用を受けるベクトルの向き、大きさが場所によって非対称になっている。
【0041】
またXYZ、X
2YZで表記される化合物は、3元系以上の化合物であり、結晶構造の乱れ(ディスオーダー)を生じやすい。X原子、Y原子、Z原子のそれぞれが互いに影響し、所定の位置へのマイグレーションを阻害するためである。実際に、強磁性のホイスラー合金は理論的には100%のスピン分極率を達成できるといわれているが、100%まで至らないのはこの結晶構造の乱れの影響といわれており、この化合物はディスオーダーが生じやすい化合物である。
【0042】
上述のように、スピン軌道トルク配線2内における対称性の崩れは、スピン流を生み出す内因性の原因の一つである。スピン軌道トルク配線2内における対称性の崩れは、スピンホール効果を促す内場を生み出し、スピン流の発生効率が高まる。したがって、スピン軌道トルク配線2が上記化合物を含むと、スピン軌道トルク配線2から第1強磁性層1中に拡散するスピン量が増え、第1強磁性層1の磁化に大きなスピン軌道トルクを与えることができる。
【0043】
結晶構造の非対称性をより促すためには、スピン軌道トルク配線2の主骨格は、化合物がX
2YZの場合、B2構造、A2構造のいずれかを含む構造であり、化合物がXYZの場合、B2構造、A2構造のいずれかを含む構造であることが好ましい。
【0044】
化合物におけるX元素、Y元素またはZ元素は、周期表における第5周期以上の元素を含むことが好ましく、最外殻にd電子又はf電子を有する原子番号39以上の原子番号が大きい非磁性金属元素であることが好ましい。これを満たす化合物として、例えば、Fe
2TiSn、NiZrSn等が挙げられる。
【0045】
通常、金属に電流を流すとすべての電子はそのスピンの向きにかかわりなく、電流とは逆向きに動く。これに対して、最外殻にd電子又はf電子を有する原子番号が大きい非磁性金属はスピン軌道相互作用が大きいためにスピンホール効果によって電子の動く方向が電子のスピンの向きに依存し、スピン流が発生しやすい。
【0046】
スピン軌道トルク配線2を構成する化合物において、X元素、Y元素及びZ元素の最外殻電子数を足した値は、化合物の組成がXYZの場合は21以下であり、化合物の組成がX
2YZの場合は27以下であることが好ましい。またこの値は、化合物の組成がXYZの場合は、15以上21以下であることがより好ましく、16以上20以下であることがさらに好ましく、17以上19以下であることが特に好ましく、18であることが最も好ましい。またこの値は、化合物の組成がX
2YZの場合は、21以上27以下であることがより好ましく、22以上26以下であることがさらに好ましく、23以上25以下であることが特に好ましく、24であることが最も好ましい。
【0047】
化合物の組成がXYZで最外殻電子数が18を満たすものとしては、例えば、XYZ(X=Mn、Re:Y=Cr、Mo、W:Z=Sb、Bi)、XYZ(X=Fe、Ru、Os:Y=Mn、Re:Z=Al、Ga、In)、XYZ(X=Fe、Ru、Os:Y=Cr、Mo、W:Z=Si、Ge、Sn、Pb)、XYZ(X=Fe、Ru、Os:Y=V、Nb、Ta:Z=Sb、Bi)、XYZ(X=Co、Rh、Ir:Y=Mn、Re:Z=Mg、Sr)、XYZ(X=Co、Rh、Ir:Y=Cr、Mo、W:Z=Al、Ga、In)、XYZ(X=Co、Rh、Ir:Y=V、Ta、Nb:Z=Si、Ge、Sn、Pb)、XYZ(X=Co、Rh、Ir:Y=Ti、Zr、Hf:Z=Sb、Bi)、XYZ(X=Ni、Pd、Pt:Y=Cr、Mo、W:Z=Mg、Sr)、XYZ(X=Ni、Pd、Pt:Y=V、Nb、Ta:Z=Al、Ga、In)、XYZ(X=Ni、Pd、Pt:Y=Ti、Zr、Hf:Z=Si、Ge、Sn、Pb)、XYZ(X=Ni、Pd、Pt:Y=Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu:Z=Sb、Bi)が挙げられる。また、これらの材料に、スピンホール効果を損なわない程度に少なくとも1種、もしくは2種以上の元素を加えても良い。尚、上述した組合せはYXZでも良い。この場合、B2構造のときには、XとZが不規則に配列される。
【0048】
化合物の組成がX
2YZで最外殻電子数が24を満たすものとしては、例えば、X
2YZ(X=Fe、Ru、Os:Y=Cr、Mo、W:Z=Mg、Sr)、X
2YZ(X=Fe、Ru、Os:Y=V、Nb、Ta:Z=Al、Ga、In)、X
2YZ(X=Fe、Ru、Os:Y=Ti、Zr、Hf:Z=Si、Ge、Sn、Pb)、X
2YZ(X=Fe、Ru、Os:Y=Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu:Z=Sb、Bi)、X
2YZ(X=Co、Rh、Ir:Y=Zn:Z=Si、Ge、Sn、Pb)、X
2YZ(X=Co、Rh、Ir:Y=Cu、Ag、Au:Z=Sb、Bi)、X
2YZ(X=Co、Rh、Ir:Y=Ti、Zr、Hf:Z=Mg、Sr)、X
2YZ(X=Co、Rh、Ir:Y=Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu:Z=Al、Ga、In)、X
2YZ(X=Mn、Re:Y=Fe、Ru、Os:Z=Mg、Sr)、X
2YZ(X=Mn、Re:Y=Cr、Mo、W:Z=Si、Ge、Sn、Pb)、X
2YZ(X=Mn、Re:Y=V、Nb、Ta:Z=Sb、Bi)、X
2YZ(X=Ni、Pd、Pt:Y=Zn:Z=Mg、Sr)、X
2YZ(X=Ni、Pd、Pt:Y=Cu、Ag、Au:Z=Al、Ga、In)、が挙げられる。また、これらの材料に、スピンホール効果を損なわない程度に少なくとも1種、もしくは2種以上の元素を加えても良い。
【0049】
化合物の組成がXYZの場合はフントの規則によって求められる原子当たりの磁気モーメントの大きさは、最外殻電子数が22で4μBとなる。また化合物の組成がX
2YZの場合はフントの規則によって求められる原子当たりの磁気モーメントの大きさは、最外殻電子数が28で4μBとなる。原子当たりの磁気モーメントの大きさが、4μBを超えると強い強磁性を示すといわれている。一方で、化合物の組成がXYZで最外殻電子数が18の場合、化合物は完全非磁性体となり、化合物の組成がX
2YZで最外殻電子数が24の場合、化合物は完全非磁性体となる。最外殻電子数による磁性、非磁性の特定は、軌道相互作用まで含めた第1原理計算の結果とも概ね一致する。
【0050】
スピン軌道トルク配線2が非磁性体の場合、上述のように、第1スピンS1の電子数と第2スピンS2の電子数とは等しく、電荷の正味の流れとしての電流はゼロとなる。すなわち、最外殻電子数が上記の範囲内であれば、スピン軌道トルク配線2内でスピン流に伴う意図しない電流の発生を抑制できる。また、最外殻電子数が上記の範囲内であれば、スピン軌道トルク配線2が強い磁性を示さない。すなわち、スピン軌道トルク配線2が生み出す磁場が、第1強磁性層1の磁化の向きに影響を及ぼすことを抑制できる。
【0051】
またスピン軌道トルク配線2は反強磁性体でもよい。例えば、Ni
2MnAl、Ru
2MnX(X=Ge、Sn、Sb、Ga、Si)、Pd
2MnX(X=Al、In)、Ir
2MnX(X=Al、Ga)、Pt
2MnX(X=Al、Ga)、Mn
2VX(X=Al、Si)等が挙げられる。また、これらの材料に反強磁性特性を損なわない程度に少なくとも1種、もしくは2種以上の元素を加えても良い。
【0052】
スピン軌道トルク配線2が反強磁性体の場合、スピン軌道トルク配線2と第1強磁性層1との界面で交換磁気結合を誘起することができ、スピンホール効果を強めることができる。その結果、スピン流が効率的に発生する。
【0053】
化合物の組成は、スピン軌道トルク配線2において更なる強いスピンホール効果を誘起するためには、XYZであることが好ましく、スピン軌道トルク配線2における発熱を低減するためにはX
2YZであることが好ましい。
【0054】
L2
1構造(X
2YZ:
図2A)の単位格子の1つのX原子を取り除いた構造がC1
b構造(XYZ:
図2D)である。そのため、C1
b構造はL2
1構造と比較して、空格子点を有する。空格子点を有するC1
b構造は、空格子点を有さないL2
1構造より電子が移動しにくく、高比抵抗材料となる。高比抵抗材料はスピン軌道相互作用が強い材料であり、スピン流が効率的に発生する。また空格子点を有するC1
b構造は、結晶構造の安定性が低い。結晶構造が安定化しないと、非対称な結晶構造になりやすくなる。非対称性の乱れに伴う内場は、スピンホール効果を促し、スピン流が効率的に発生する。
【0055】
スピン軌道トルク配線2は、主構成として上記化合物を有していれば、他の材料を同時に含んでいてもよい。
【0056】
例えばスピン軌道トルク配線2は、磁性金属を含んでもよい。磁性金属とは、強磁性金属、あるいは、反強磁性金属を指す。スピン軌道トルク配線2に微量な磁性金属が含まれるとスピンの散乱因子となる。すなわち、スピン軌道相互作用が増強され、スピン軌道トルク配線2に流す電流に対するスピン流の生成効率が高くなる。
【0057】
一方で、磁性金属の添加量が増大し過ぎると、発生したスピン流が添加された磁性金属によって散乱され、結果としてスピン流が減少する作用が強くなる場合がある。そのため、添加される磁性金属のモル比はスピン軌道トルク配線2を構成する元素の総モル比よりも十分小さい方が好ましい。目安で言えば、添加される磁性金属のモル比は3%以下であることが好ましい。
【0058】
また例えばスピン軌道トルク配線2は、トポロジカル絶縁体を含んでもよい。スピン軌道トルク配線2の主構成は、トポロジカル絶縁体でもよい。トポロジカル絶縁体とは、物質内部が絶縁体、あるいは、高抵抗体であるが、その表面にスピン偏極した金属状態が生じている物質である。この物質にはスピン軌道相互作用という内部磁場のようなものがある。そこで外部磁場が無くてもスピン軌道相互作用の効果で新たなトポロジカル相が発現する。これがトポロジカル絶縁体であり、強いスピン軌道相互作用とエッジにおける反転対称性の破れによりスピン流を高効率に生成できる。
【0059】
トポロジカル絶縁体としては例えば、SnTe,Bi
1.5Sb
0.5Te
1.7Se
1.3,TlBiSe
2,Bi
2Te
3,Bi
1−xSb
x,(Bi
1−xSb
x)
2Te
3などが好ましい。これらのトポロジカル絶縁体は、高効率にスピン流を生成することが可能である。
【0060】
また例えばスピン軌道トルク配線2は、複数層の積層構造となっていてもよい。例えば、スピンホール効果を誘起しやすい組成式XYZで表記される第1層と、放熱性に優れる組成式X
2YZで表記される第2層と、の積層構造としてもよい。この場合、スピンホール効果を誘起しやすい第1層を第1強磁性層1側に配置する。
【0061】
<第1強磁性層>
第1強磁性層1はその磁化M1の向きが変化することで機能する。
図1では、第1強磁性層1を磁化M1がz方向に配向した垂直磁化膜としたが、xy面内方向に配向した面内磁化膜としてもよい。
【0062】
第1強磁性層1には、強磁性材料、特に軟磁性材料を適用できる。例えば、Cr、Mn、Co、Fe及びNiからなる群から選択される金属、これらの金属を1種以上含む合金、これらの金属とB、C、及びNの少なくとも1種以上の元素とが含まれる合金等を用いることができる。具体的には、Co−Fe、Co−Fe−B、Ni−Feを例示できる。
【0063】
また第1強磁性層1には、強磁性のホイスラー合金を用いてもよい。具体的には、第1強磁性層は、化学量論組成においてXYZまたはX
2YZで表現される強磁性体であることが好ましい。ここでXは、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、Ir、Pt及びAuからなる群から選択される1種以上の元素であり、Yは、Ti、V、Cr、Mn、Y、Zr、Nb、Hf、Ta、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Fe、Tm、Yb及びLuからなる群から選択される1種以上の元素であり、Zは、Al、Si、Ga、Ge、As、In、Sn、Sb、Tl、Pb及びBiからなる群から選択される1種以上の元素である。例えば、Co
2FeSi、Co
2FeGe、Co
2FeGa、Co
2MnSi、Co
2Mn
1−aFe
aAl
bSi
1−b、Co
2FeGe
1−cGa
c等が挙げられる。
【0064】
また第1強磁性層1は、化学量論組成においてCo
2YZで表現される強磁性体を含み、Yは、Mn、Feの少なくとも一方であり、Zは、Al、Si、Ga及びGeからなる群から選択される1種以上の元素であることが好ましい。
【0065】
スピン軌道トルク配線2と第1強磁性層1との結晶構造が一致または類似すると、エピタキシャル成長により高品質な第1強磁性層1を作製できる。第1強磁性層1の結晶性が高まることで、高いスピン分極率を実現できる。
【0066】
上述のように、本実施形態にかかるスピン軌道トルク型磁化回転素子10は、スピン軌道トルク配線2が広義のホイスラー合金であることで、スピン軌道トルク配線2内の対称性が崩れる。対称性の崩れは内場を誘起し、この内場によりスピンホール効果が強く働く。その結果、スピン分極が促され、第1強磁性層1に注入されるスピン量が増える。つまり本実施形態にかかるスピン軌道トルク型磁化回転素子によれば、第1強磁性層1の磁化M1を回転させるために必要な電流密度を低減することができる。
【0067】
本実施形態にかかるスピン流磁化回転素子は後述するように磁気抵抗効果素子に適用することができる。しかしながら、用途としては磁気抵抗効果素子に限られず、他の用途にも適用できる。他の用途としては、例えば、上記のスピン流磁化回転素子を各画素に配設して、磁気光学効果を利用して入射光を空間的に変調する空間光変調器においても用いることができるし、磁気センサにおいて磁石の保磁力によるヒステリシスの効果を避けるために磁石の磁化容易軸に印加する磁場をSOTに置き換えてもよい。スピン流磁化回転素子は、磁化が反転する場合に、特にスピン流磁化反転素子と呼ぶことができる。
【0068】
<製造方法>
スピン軌道トルク型磁化回転素子10の製造方法の一例について説明する。まず基板(図視略)上にスピン軌道トルク配線の基となる層を積層する。スピン軌道トルク配線は、X元素、Y元素及びZ元素を含む。そのため、それぞれの元素を含む母材を用いて、スピン軌道トルク配線の基となる層を積層する。積層方法は、スパッタリング法、化学気相成長(CVD)法、分子線エピタキシー(MBE)法等の公知の方法を用いることができる。
【0069】
次いで、スピン軌道トルク配線の基となる層をアニールする。化合物の組成がXYZの場合は、アニール温度が高くなるに従い、A2構造、B2構造、C1
b構造となり、化合物の組成がX
2YZの場合は、アニール温度が高くなるに従い、A2構造、B2構造、L2
1構造となる。
【0070】
次いで、スピン軌道トルク配線の基となる層を、フォトリソグラフィー等の技術を用いて、スピン軌道トルク配線2に加工する。そして、スピン軌道トルク配線2の周囲を囲むように、絶縁層を被覆する。絶縁層には、酸化膜、窒化膜等を用いることができる。
【0071】
次いで、必要に応じて絶縁層とスピン軌道トルク配線の表面を、CMP研磨(chemical mechanical polishing)により平坦化する。そして、平坦化された表面に第1強磁性層の基となる層を積層する。最後に、フォトリソグラフィー等の技術を用い、第1強磁性層の基となる層を加工することで、スピン軌道トルク型磁化回転素子10が得られる。
【0072】
「第2実施形態」
<スピン軌道トルク型磁気抵抗効果素子>
図3は、第2実施形態に係るスピン軌道トルク型磁気抵抗効果素子20の断面模式図である。
図3に示すスピン軌道トルク型磁気抵抗効果素子20は、スピン軌道トルク型磁化回転素子10と、非磁性層5と、第2強磁性層6とを備える。第1実施形態のスピン軌道トルク型磁化回転素子10と同等の構成については、説明を省く。
【0073】
第1強磁性層1と非磁性層5と第2強磁性層6とが積層された積層体(機能部)は、通常の磁気抵抗効果素子と同様に機能する。機能部は、第2強磁性層6の磁化M6が一方向(z方向)に固定され、第1強磁性層1の磁化M1の向きが相対的に変化することで機能する。保磁力差型(擬似スピンバルブ型;Pseudo spin valve 型)のMRAMに適用する場合には、第2強磁性層6の保磁力を第1強磁性層1の保磁力よりも大きくする。交換バイアス型(スピンバルブ;spin valve型)のMRAMに適用する場合には、第2強磁性層6の磁化M6を反強磁性層との交換結合によって固定する。
【0074】
また機能部において、非磁性層5が絶縁体からなる場合は、機能部はトンネル磁気抵抗(TMR:Tunneling Magnetoresistance)素子と同様の構成であり、機能部が金属からなる場合は巨大磁気抵抗(GMR:Giant Magnetoresistance)素子と同様の構成である。
【0075】
機能部の積層構成は、公知の磁気抵抗効果素子の積層構成を採用できる。例えば、各層は複数の層からなるものでもよいし、第2強磁性層6の磁化方向を固定するための反強磁性層等の他の層を備えてもよい。第2強磁性層6は固定層や参照層、第1強磁性層1は自由層や記憶層などと呼ばれる。
【0076】
第2強磁性層6の材料には、公知の材料を用いることができる。例えば、Cr、Mn、Co、Fe及びNiからなる群から選択される金属及びこれらの金属を1種以上含み強磁性を示す合金を用いることができる。これらの金属と、B、C、及びNの少なくとも1種以上の元素とを含む合金を用いることもできる。具体的には、Co−FeやCo−Fe−Bが挙げられる。
【0077】
また、より高い出力を得るためには第2強磁性層6の材料にCo
2FeSiなどのホイスラー合金を用いることが好ましい。ホイスラー合金は、XYZまたはX
2YZの化学組成をもつ金属間化合物を含み、Xは、周期表上でCo、Fe、Ni、あるいはCu族の遷移金属元素または貴金属元素であり、Yは、Mn、V、CrあるいはTi族の遷移金属またはXの元素種であり、Zは、III族からV族の典型元素である。例えば、Co
2FeSi、Co
2MnSiやCo
2Mn
1−aFe
aAl
bSi
1−bなどが挙げられる。
【0078】
第2強磁性層6の第1強磁性層1に対する保磁力をより大きくするために、第2強磁性層6と接する材料としてIrMn,PtMnなどの反強磁性材料を用いてもよい。さらに、第2強磁性層6の漏れ磁場を第1強磁性層1に影響させないようにするため、シンセティック強磁性結合の構造としてもよい。
【0079】
非磁性層5には、公知の材料を用いることができる。
例えば、非磁性層5が絶縁体からなる場合(トンネルバリア層である場合)、その材料としては、Al
2O
3、SiO
2、MgO、及び、MgAl
2O
4等を用いることができる。また、これらの他にも、Al、Si、Mgの一部が、Zn、Be等に置換された材料等も用いることができる。これらの中でも、MgOやMgAl
2O
4はコヒーレントトンネルが実現できる材料であるため、スピンを効率よく注入できる。非磁性層5が金属からなる場合、その材料としては、Cu、Au、Ag等を用いることができる。さらに、非磁性層5が半導体からなる場合、その材料としてはSi、Ge、CuInSe
2、CuGaSe
2、Cu(In,Ga)Se
2などを用いることができる。
【0080】
機能部は、その他の層を有していてもよい。例えば、第1強磁性層1の非磁性層5と反対側の面に下地層を有していてもよいし、第2強磁性層6の非磁性層5と反対側の面にキャップ層を有していてもよい。
【0081】
スピン軌道トルク配線2と第1強磁性層1との間に配設される層は、スピン軌道トルク配線2から伝播するスピンを散逸しないことが好ましい。例えば、銀、銅、マグネシウム、及び、アルミニウム等は、スピン拡散長が100nm以上と長く、スピンが散逸しにくいことが知られている。
また、この層の厚みは、層を構成する物質のスピン拡散長以下であることが好ましい。層の厚みがスピン拡散長以下であれば、スピン軌道トルク配線2から伝播するスピンを第1強磁性層1に十分伝えることができる。
【0082】
第2実施形態に係るスピン軌道トルク型磁気抵抗効果素子は、第1強磁性層1の磁化M1と第2強磁性層6の磁化M6の相対角の違いにより生じる機能部の抵抗値変化を用いてデータの記録、読出しを行うことができる。第2実施形態にかかるスピン軌道トルク型磁気抵抗効果素子20においても、スピン軌道トルク配線2において効率的にスピン流を生み出すことができるため、第1強磁性層1の磁化M1を回転(反転)させるために必要な電流密度を低減できる。
【0083】
「第3実施形態」
<磁気メモリ>
図4は、複数のスピン軌道トルク型磁気抵抗効果素子20(
図3参照)を備える磁気メモリ30の平面図である。
図3は、
図4におけるA−A面に沿ってスピン軌道トルク型磁気抵抗効果素子20を切断した断面図に対応する。
図4に示す磁気メモリ30は、スピン軌道トルク型磁気抵抗効果素子20が3×3のマトリックス配置をしている。
図4は、磁気メモリの一例であり、スピン軌道トルク型磁気抵抗効果素子20の数及び配置は任意である。
【0084】
スピン軌道トルク型磁気抵抗効果素子20には、それぞれ1本のワードラインWL1〜WL3と、1本のビットラインBL1〜BL3、1本のリードラインRL1〜RL3が接続されている。
【0085】
電流を印加するワードラインWL1〜WL3及びビットラインBL1〜BL3を選択することで、任意のスピン軌道トルク型磁気抵抗効果素子20のスピン軌道トルク配線2に電流を流し、書き込み動作を行う。また電流を印加するリードラインRL1〜RL3及びビットラインBL1〜BL3を選択することで、任意のスピン軌道トルク型磁気抵抗効果素子20の積層方向に電流を流し、読み込み動作を行う。電流を印加するワードラインWL1〜WL3、ビットラインBL1〜BL3、及びリードラインRL1〜RL3はトランジスタ等により選択できる。すなわち、これらの複数のスピン軌道トルク型磁気抵抗効果素子20から任意の素子のデータを読み出すことで磁気メモリとしての活用ができる。
【0086】
以上、本発明の好ましい実施の形態について詳述したが、本発明は特定の実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲内に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【実施例】
【0087】
(実施例1)
図3に示すスピン軌道トルク型磁気抵抗効果素子20と同様の構成の素子を作製した。
スピン軌道トルク配線2の構成材料:Fe
2TiSn
スピン軌道トルク配線2の主骨格の結晶構造:L2
1
スピン軌道トルク配線2の断面積:膜厚5nm×線幅250nm
第1強磁性層1の構成:CoFe
第1強磁性層1の厚み:3nm
非磁性層5の構成材料:MgO
非磁性層5の厚み:2nm
第2強磁性層6の構成:CoFe
第2強磁性層6の厚み:3nm
機能部の平面視形状:100nm×200nmの短軸を第1方向とした楕円形
なお、熱安定性向上のために、第2強磁性層6の上部にRu(0.42nm)/CoFe(3nm)/IrMn(10nm)を積層したシンセティック構造とした。
【0088】
そしてスピン軌道トルク配線2に5nsecのパルス幅の電流を印加し、第1強磁性層1の磁化を反転させるのに必要な電流密度(反転電流密度)を求めた。その結果、実施例1にかかる素子の反転電流密度は、9.2×107A/cm2であった。
【0089】
(実施例2)
実施例2は、スピン軌道トルク配線2の主骨格の結晶構造をB2構造とした点が実施例1と異なる。スピン軌道トルク配線2の結晶構造は、作製時のアニール温度を変えることで変更できる。実施例2にかかる素子の反転電流密度は、8.4×107A/cm2であった。
【0090】
(実施例3)
実施例3は、スピン軌道トルク配線2の主骨格の結晶構造をA2構造とした点が実施例1と異なる。スピン軌道トルク配線2の結晶構造は、作製時のアニール温度を変えることで変更できる。実施例3にかかる素子の反転電流密度は、7.6×107A/cm2であった。
【0091】
(実施例4)
実施例4は、スピン軌道トルク配線2を構成する材料をNiZrSnとし、スピン軌道トルク配線2の主骨格の結晶構造をC1
b構造とした点が実施例1と異なる。実施例4にかかる素子の反転電流密度は、6.9×107A/cm2であった。
【0092】
(実施例5)
実施例5は、スピン軌道トルク配線2の主骨格の結晶構造をB2構造とした点が実施例4と異なる。スピン軌道トルク配線2の結晶構造は、作製時のアニール温度を変えることで変更できる。実施例5にかかる素子の反転電流密度は、6.0×107A/cm2であった。
【0093】
(実施例6)
実施例6は、スピン軌道トルク配線2の主骨格の結晶構造をA2構造とした点が実施例4と異なる。スピン軌道トルク配線2の結晶構造は、作製時のアニール温度を変えることで変更できる。実施例3にかかる素子の反転電流密度は、5.2×107A/cm2であった。
【0094】
(比較例1)
比較例1は、スピン軌道トルク配線2を構成する材料をタングステンにした点が、実施例1と異なる。比較例1にかかる素子の反転電流密度は、1.1×108A/cm2であった。
【0095】
XYZで表現される化合物をスピン軌道トルク配線に用いた実施例1〜3及びX
2YZで表現される化合物をスピン軌道トルク配線に用いた実施例4〜6はいずれも、比較例1よりも反転電流密度が低減した。上記の結果を以下の表1にまとめる。なお表1においてSOT配線とは、スピン軌道トルク配線を意味する。
【0096】
【表1】