(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
端子金具と、導体の外周を絶縁被覆で被覆した電線とが、電気接続部において電気的に接続され、樹脂材料よりなり、前記電気接続部を被覆する樹脂被覆部を有する端子付き電線において、
前記樹脂被覆部は、前記端子金具の少なくとも一部を被覆する領域に、前記端子金具の表面に接触して設けられた第一の被覆層と前記第一の被覆層の少なくとも一部を被覆する第二の被覆層と、を有し、
前記第一の被覆層は、凹部を有しており、前記凹部は、前記第二の被覆層によって被覆されており、
前記凹部は、前記第一の被覆層を構成する樹脂材料が前記端子金具の表面を被覆していない空隙部であることを特徴とする端子付き電線。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
端子付き電線において、特許文献1に記載されるように、端子金具と電線導体の間の電気接続部の全域を樹脂材料で被覆すれば、電気接続部における腐食を効果的に防止することができる。一方、端子付き電線は、端子金具の部分を樹脂製のコネクタハウジングに挿入した状態で使用に供されることが一般的であるが、コネクタハウジングにおいては、小型化の観点から、端子金具を挿入するキャビティの寸法に、端子金具およびコネクタハウジングの製造公差の範囲程度の余裕しか設けられず、端子金具とコネクタハウジングの間にほぼ隙間がないような場合も多い。電気接続部に樹脂被覆部を設けた端子付き電線の端子金具を、そのような樹脂被覆部を設けた端子付き電線の挿入を想定していない従来一般のコネクタハウジングに挿入しようとすると、樹脂被覆部を構成する樹脂材料の厚さにより、挿入が著しく困難となるか、挿入を行うことができない。樹脂被覆部の寸法に対応させて別途設計したコネクタハウジングを用いることもできるが、その場合には、樹脂被覆部の厚さにより、コネクタハウジング全体が大型化してしまう。特に、特許文献1の防水部のように、樹脂被覆部が所定の厚さを有する筒の形態で設けられている場合には、それらの問題が特に顕著となる。
【0006】
そこで、端子付き電線の電気接続部を被覆する樹脂被覆部を薄く形成することが求められる。薄い樹脂被覆部によって、防食が必要な箇所を確実に被覆するためには、金型を用いた射出成形によって樹脂被覆部を形成する際に、金型と端子付き電線の間で、高い精度の位置決めを行うことが重要となる。特許文献2に記載されるように、端子金具に設けられた突出片を利用して、金型に対する端子金具の位置決めを行うことが可能であるが、この方法は、端子金具が適当な突出片を有さない場合には適用することができない。また、突出片と金型が接触する箇所には、樹脂材料を供給することが難しく、樹脂材料による防食が必要な部位またはその近傍に突出片が設けられている場合には、十分な防食性能を達成しにくい。
【0007】
本発明の解決しようとする課題は、端子金具と電線導体の間の電気接続部が樹脂被覆部で被覆された端子付き電線およびワイヤーハーネスにおいて、樹脂被覆部を構成する樹脂材料の厚さを小さくしたとしても、高い防食性能を確保しやすい端子付き電線およびワイヤーハーネスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明にかかる端子付き電線は、端子金具と、導体の外周を絶縁被覆で被覆した電線とが、電気接続部において電気的に接続され、樹脂材料よりなり、前記電気接続部を被覆する樹脂被覆部を有する端子付き電線において、前記樹脂被覆部は、前記端子金具の少なくとも一部を被覆する領域に、前記端子金具の表面に接触して設けられた第一の被覆層と、前記第一の被覆層の少なくとも一部を被覆する第二の被覆層と、を有し、前記第一の被覆層は、凹部を有しており、前記凹部は、前記第二の被覆層によって被覆されているものである。
【0009】
ここで、前記凹部は、前記第一の被覆層を構成する樹脂材料が前記端子金具の表面を被覆していない空隙部であるとよい。
【0010】
前記端子金具は、前記電線を圧着可能なバレル部を有し、前記凹部は、前記バレル部に対応する位置に設けられているとよい。
【0011】
前記第二の被覆層は、前記端子付き電線の長手方向に沿った端部に、前記第一の被覆層を被覆する被覆端縁を有し、前記長手方向に交差する方向に、前記端子金具に対して前記導体が配置されているのと反対側の方向を底面方向として、前記第二の被覆層の被覆端縁は、少なくとも、前記底面方向以外の全域に設けられているとよい。
【0012】
この場合に、前記第一の被覆層は、前記端子金具の表面に対して、前記第二の被覆層よりも高い接着性を有し、前記被覆端縁は、前記端子付き電線の長手方向に沿って、前記第二の被覆層の前端部に位置するとよい。
【0013】
また、前記第二の被覆層は、前記被覆端縁において、前記第一の被覆層を圧縮する方向の収縮を起こしているとよい。
【0014】
そして、前記第二の被覆層は、少なくとも前記端子金具を被覆する部位において、前記底面方向には設けられないとよい。
【0015】
本発明にかかるワイヤーハーネスは、上記のような端子付き電線を有するものである。
【発明の効果】
【0016】
上記発明にかかる端子付き電線においては、第一の被覆層に、凹部が存在するが、その凹部が第二の被覆層に被覆されている。よって、第一の被覆層の製造工程等に起因して、第一の被覆層に、周囲の部位よりも樹脂材料の層が薄くなった凹部が生じてしまうことがあっても、その凹部の存在が、端子金具自体や電気接続部の腐食につながりにくくなっている。従って、凹部の形成を回避することを目的として、第一の被覆層を過剰に厚く形成するような必要が生じず、樹脂被覆部を薄く形成することが可能となる。
【0017】
例えば、金型を用いた射出成形によって第一の被覆層を形成する際に、端子金具に当接または近接することで金型に対して端子金具を位置決めすることができる位置決め部材を金型に設けておけば、溶融した樹脂材料を金型内に注入した際に、金型に対して端子金具が位置ずれを起こしにくい。よって、位置ずれを考慮して、第一の被覆層を厚く設計しておくようなことは、必要ない。その結果、薄い第一の被覆層を、電気接続部を含む端子金具の表面の防食が必要な箇所に、高精度に形成することができる。この際、位置決め部材が端子金具に当接または近接していた部位には、樹脂材料が配置されにくいので、樹脂材料の層が薄くなった凹部が形成されるが、上記のように、この凹部を第二の被覆層によって被覆することで、樹脂被覆部全体として、水等の腐食因子の侵入による電気接続部の腐食を、効果的に抑制することができる。
【0018】
ここで、凹部が、第一の被覆層を構成する樹脂材料が端子金具の表面を被覆していない空隙部である場合には、第一の被覆層を形成する際に、端子金具の位置決めを高精度に行うために、端子金具に位置決め部材を当接させることで、第一の被覆層に空隙部が生じたとしても、その空隙部を第二の被覆層によって被覆することで、樹脂被覆部全体として、高い防食性能を確保することができる。その結果、高い位置決め精度による樹脂被覆層の薄層化と、防食性能の確保とを両立しやすくなる。
【0019】
端子金具が、電線を圧着可能なバレル部を有し、凹部が、バレル部に対応する位置に設けられている場合には、樹脂被覆部の防食性能を確保しながら、特に樹脂被覆部を薄く形成しやすい。バレル部は、別部材である電線と端子金具を接続する箇所であることから、製造公差が小さく、凹部を与えるような位置決め部材を金型に設けて端子金具の位置決めを行う場合に、その位置決め部材を確実に端子金具に当接または近接させることができるからである。その結果、薄い第一の被覆層を、電気接続部を含む端子金具の表面の防食が必要な箇所に、特に高精度に形成することができる。
【0020】
第二の被覆層が、端子付き電線の長手方向に沿った端部に、第一の被覆層を被覆する被覆端縁を有し、長手方向に交差する方向に、端子金具に対して導体が配置されているのと反対側の方向を底面方向として、第二の被覆層の被覆端縁が、少なくとも、底面方向以外の全域に設けられている場合には、第一の被覆層と第二の被覆層の間で、長手方向端縁における剥離が発生しにくい。その結果、第一の被覆層と第二の被覆層の間の界面から、凹部等を介して、塩水等の腐食因子が電気接続部に侵入し、電気接続部の腐食を引き起こす事態が起こりにくくなる。
【0021】
この場合に、第一の被覆層が、端子金具の表面に対して、第二の被覆層よりも高い接着性を有し、被覆端縁が、端子付き電線の長手方向に沿って、第二の被覆層の前端部に位置する構成によれば、第一の被覆層の端子金具への密着によって、樹脂被覆部と端子金具の間の界面から腐食因子が侵入するのを防止しやすい。そして、端子金具の表面に対して密着した第一の被覆層の表面から第二の被覆層が剥離しにくいので、樹脂被覆部の前端部において、第一の被覆層と第二の被覆層の間の界面からの腐食因子の侵入も防止しやすくなっている。このように、樹脂被覆部の端子金具側の端部からの腐食因子の侵入に起因する電気接続部の腐食を、特に効果的に抑制することができる。
【0022】
また、第二の被覆層が、被覆端縁において、第一の被覆層を圧縮する方向の収縮を起こしている構成によれば、第二の被覆層の圧縮により、第二の被覆層が第一の被覆層に強固に密着することになる。これにより、第一の被覆層と第二の被覆層の間の界面からの腐食因子の侵入の抑制を、高度に達成することが可能となる。
【0023】
そして、第二の被覆層が、少なくとも端子金具を被覆する部位において、底面方向には設けられない構成によれば、端子金具をコネクタハウジングに挿入して用いる際に、端子金具の底面方向とコネクタハウジングの内壁面との間の距離を小さくすることができる。よって、コネクタハウジングが小型に設計されている場合でも、端子金具に対して導体が配置された側の部位を被覆する樹脂被覆部を厚く形成することが可能となる。これにより、コネクタハウジングを全体として大型させることなく、特に高い防食性能を達成する必要のある端子金具と導体の接触箇所の防食を、効果的に行うことが可能となる。
【0024】
上記発明にかかるワイヤーハーネスは、上記のような端子付き電線を含んでおり、端子金具と電線導体の間の電気接続部において、薄い第一の被覆層を形成するための位置決め部材等によって生じた凹部が、第二の被覆層に覆われていることから、電気接続部を覆う樹脂被覆部を薄く形成したとしても、高い防食性能を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を用いて本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0027】
[端子付き電線]
<全体の構成>
まず、本発明の一実施形態にかかる端子付き電線1の全体の構成を、
図1〜3に示す。本発明の一実施形態にかかる端子付き電線1は、導体3が絶縁被覆4により被覆された電線2の導体3と、端子金具5が、電気接続部6(
図7参照)において電気的に接続されてなる。そして、電気接続部6を含む部位を被覆して、樹脂材料よりなる樹脂被覆部7が形成されている。
【0028】
本明細書においては、
図1における端子付き電線1の長手方向、つまり電線2の軸線方向を、y方向と定義する。電線2が配置された後方を+y方向、端子金具5が配置された前方を−y方向とする。そして、端子金具5の高さ方向に対応する上下方向を、z方向と定義する。端子金具5に対して電線2が配置される上方(上面方向)を+z方向、その反対側の下方(底面方向)を−z方向とする。さらに、y方向およびz方向と交差する端子金具5の幅方向をx方向とする。
【0029】
端子金具5は、接続部51を有する。また、接続部51の後端側に一体に延設形成されて、第一のバレル部(導体固定部)52と第二のバレル部53とからなるバレル部を有する。接続部51は、雌型嵌合端子の嵌合接続部として構成されており、雄型接続端子(不図示)と嵌合可能な形状を有している。第一のバレル部52は、接続部51の底面から連続した平板状の底板部52aと、底板部52aから幅方向両側(±x方向)に延出した第一の圧着片52b,52bとによって、一体に形成されている(
図7参照)。第二のバレル部53も同様に、第一のバレル部の底板部52aから連続した底板部と、第二の圧着片とによって、一体に形成されている。
【0030】
電気接続部6では、電線2の端末の絶縁被覆4が除去され、導体3が露出されている。この導体3が露出された電線2の端末部が、端子金具5の上面側(+z側)にかしめ固定されて、電線2と端子金具5が接続されている。電線2の端末部は、底板面52aの上側(+z側)の面に配置された状態で、第一の圧着片52b,52bおよび第二の圧着片で包囲されて、外周からかしめて固定されている。第一のバレル部52は、導体3と端子金具5を電気的に接続するとともに、端子金具5に導体3を物理的に固定している。一方、第二のバレル部53は、第一のバレル部52よりも後方(+y側)において、第一のバレル部52が導体3を固定しているのよりも弱い力で電線2を固定し、端子金具5への電線2の物理的な固定を補助する。第二のバレル部53は、電線2の端末に露出された導体3を後方でかしめ固定していても、さらに後方の絶縁被覆4に導体3が被覆された箇所において、電線2を絶縁被覆4の外周からかしめ固定していてもよいが、図示した形態では、露出された導体3をかしめ固定している。
【0031】
樹脂被覆部7は、端子付き電線1の長手方向に関して、電線2の端末で露出された導体3の先端よりも前方(−y側)の位置から、電線2の絶縁被覆4の先端よりも後方(+y側)までの領域にわたり、電気接続部6全体および電線2の絶縁被覆4の端末側の一部の領域を被覆して形成されている。電線2の端末で露出された導体3も、樹脂被覆部7によって完全に覆われており、外部に露出しないようになっている。樹脂被覆部7は、構成材料の異なる第一の被覆層8と第二の被覆層9よりなっており、それらの形状や配置の詳細については後述する。
【0032】
端子付き電線1は、電気接続部6を含む端子金具5の部分を、ポリブチレンテレフタレート(PBT)等の樹脂材料よりなる中空のコネクタハウジング(不図示)に挿入して、コネクタとしての使用に供することができる。
【0033】
<各部の構成>
以下、端子付き電線1を構成する電線2、端子金具5、樹脂被覆部7の具体的構成について説明する。
【0034】
(1)電線
電線2の導体3は、単一の金属線よりなってもよいが、複数の素線が撚り合わされた撚線よりなることが好ましい。この場合、撚線は、1種の金属素線より構成されていてもよいし、2種以上の金属素線より構成されていてもよい。また、撚線は、金属素線以外に、有機繊維よりなる素線などを含んでいてもよい。撚線中には、電線2を補強するための補強線(テンションメンバ)等が含まれていてもよい。
【0035】
上記導体3を構成する金属素線の材料としては、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金、もしくはこれらの材料に各種めっきが施された材料などを例示することができる。また、補強線としての金属素線の材料としては、銅合金、チタン、タングステン、ステンレスなどを例示することができる。また、補強線としての有機繊維としては、ケブラーなどを挙げることができる。
【0036】
絶縁被覆4の材料としては、例えば、ゴム、ポリオレフィン、PVC等のハロゲン系ポリマー、熱可塑性エラストマーなどを挙げることができる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上混合して用いてもよい。絶縁被覆4の材料中には、適宜、各種添加剤が添加されていてもよい。添加剤としては、難燃剤、充填剤、着色剤等を挙げることができる。
【0037】
(2)端子金具
端子金具5の材料(母材の材料)としては、一般的に用いられる黄銅の他、各種銅合金、銅などを挙げることができる。端子金具5の表面の一部(例えば接点)もしくは全体には、スズ、ニッケル、金またはそれらを含む合金など、各種金属によりめっきが施されていてもよい。
【0038】
以上のように、導体3および端子金具5は、いかなる金属材料よりなってもよいが、端子金具5が、銅または銅合金よりなる母材にスズめっきを施された一般的な端子材料よりなり、導体3がアルミニウムまたはアルミニウム合金よりなる素線を含んでなる場合のように、電気接続部6において異種金属が接触している場合には、水分等の腐食因子との接触によって電気接続部6に特に腐食が発生しやすい。しかし、次に述べるような樹脂被覆部7が、電気接続部6を被覆していることで、このような異種金属間腐食を抑制することができる。
【0039】
(3)樹脂被覆部
上記のように、樹脂被覆部7は、端子金具5と導体3の間の電気接続部6を被覆することで、外部から電気接続部6への水等の腐食因子の侵入を防止する。これにより、樹脂被覆部7は、腐食因子による電気接続部6の腐食を防止する役割を果たす。上記のように、樹脂被覆部7は、構成材料の異なる第一の被覆層8と第二の被覆層9よりなっている。
図1〜6に基づき、樹脂被覆部7の構成について説明する。
【0040】
(3−1)第一の被覆層の被覆部位
図4〜6に示すように、第一の被覆層8は、樹脂被覆部7の前端部(−y側の端部)から、長手方向(y方向)に沿って、樹脂被覆部7の一部の部位を占めて形成されている。第一の被覆層8は、端子金具5の表面に直接接触して形成されている。
【0041】
具体的には、第一の被覆層8は、長手方向(y方向)に関しては、樹脂被覆部7全体の前端縁に相当する、露出した導体3よりも前方(−y側)の部位から、端子金具5の第二のバレル部53の中途部位までにわたって、端子金具5および導体3の外周を連続的に被覆している。長手方向に交差する周方向に関しては、第一の被覆層8は、端子金具5の底面5a(−z方向の表面;底板部52aの外表面)を除く表面、つまり、側面5b,5b(±x方向の表面)および上面5c(+z方向の表面)を被覆している。なお、底面5aにおいても、側面5b,5bから回り込んだ樹脂材料がある程度付着していてもよい。
【0042】
第一の被覆層8に被覆された領域において、長手方向(y方向)中途部には、空隙部82が設けられている。空隙部82においては、第一の被覆層8を構成する第一の樹脂材料が端子金具5の表面を被覆しておらず、端子金具5の金属材料が露出している。具体的には、空隙部82は、端子金具5の第一のバレル部52の長手方向中途部に、略長方形の窓形状に形成されており、端子金具5の第一のバレル部52の上面(+z側の表面)を、長手方向(y方向)に沿って一部の領域において、幅方向(±x方向)のほぼ全域にわたって露出させている。空隙部82は、後述するように、金型を用いた成形によって第一の被覆層8を構成する際に、金型に設けられたピンPが端子金具5に当接することによって形成されるものである。
【0043】
(3−2)第二の被覆層の被覆部位
図1〜3に示すように、第二の被覆層9は、長手方向(y方向)に沿って、樹脂被覆部7の後端部(+y側の端部)までに及ぶ、樹脂被覆部7の一部の部位を占めて形成されている。
【0044】
具体的には、第二の被覆層9は、長手方向(y方向)に関しては、第一の被覆層8の前端縁81よりも後方(+y側)の領域から、樹脂被覆部7全体の後端に相当する、電線2の絶縁被覆4の先端よりも後方(−y側)の領域までにわたって、第一の被覆層8および端子金具5、電線2の表面を被覆して形成されている。第二の被覆層9は、第一の被覆層8が形成されている領域においては、第一の被覆層8の表面に接触している。一方、第一の被覆層8が形成されていない領域においては、端子金具5および導体3の表面、そして絶縁被覆4の表面に接触している。
【0045】
長手方向に交差する周方向に関しては、第二の被覆層9は、端子金具5を被覆する前方側(−y側)の領域においては、端子金具5の底面5aの外側に相当する底面方向以外の全域、つまり側面5b,5bおよび上面5cの外側を、第一の被覆層8を介して、あるいは直接被覆している。一方、第二の被覆層9が絶縁被覆4を被覆する後方側(+y側)の領域においては、第二の被覆層9は、電線2の全周にわたって形成されている。
【0046】
第二の被覆層9は、第一の被覆層8によって端子金具5の表面が被覆されていない空隙部82の表面も被覆している。ここで、第二の被覆層9が空隙部82の表面を被覆している状態には、第二の被覆層9を構成する第二の樹脂材料が空隙部82を閉塞している状態も含む。後述するように、空隙部82を有する第一の被覆層8を形成した後、第二の樹脂材料の射出成形によって第二の被覆層9を形成する場合には、空隙部82の表面のみならず、内部にも、第二の樹脂材料が充填されることになり、第二の樹脂材料が空隙部82を閉塞する。その結果、空隙部82において、第一の被覆層8に覆われていない端子金具5の第一のバレル部52の表面に、第二の被覆層9を構成する第二の樹脂材料が直接接触する。第二の被覆層9の外表面は、空隙部82に相当する部分とその周囲の部分とで、滑らかに連続している。
【0047】
第二の被覆層9が電線2の絶縁被覆4の外周を被覆している部位の長手方向中途部には、肉抜き部92が設けられている。肉抜き部92は、断面略長方形の第二の被覆層9に対して、4つの角部を除去した形状を有している。肉抜き部92においては、電線2の径方向内側の部位に、第二の被覆層9を構成する第二の樹脂材料が配置されず、絶縁被覆4が露出した被覆露出部92aが設けられている。このような被覆露出部92aを有する肉抜き部92は、後述するように、金型を用いた射出成形によって第二の被覆層9を構成する際に、金型の内側に突出して設けられ、電線2の絶縁被覆4の表面に当接する凸部によって形成されるものである。
【0048】
第二の被覆層9の前端部に位置する端縁である前端縁91は、第一の被覆層8の表面を被覆する被覆端縁となっており、底面方向以外の全域、つまり端子金具5の側面5b,5bおよび上面5cに相当する領域の全体において、第一の被覆層8の表面を被覆して設けられている。図示した形態では、第二の被覆層9の前端縁91は、略長方形のうち、底面5a側に相当する長辺が欠損し、1対の短辺が1つの長辺を挟んで設けられた形状となっている。なお、第二の被覆層9の前端縁91の下端(−z側の端部)と端子金具5の底面5aとの間には、第二の被覆層9を射出成形によって製造する際の成形収縮に起因する前端縁91の下端の位置の上昇のように、製造上の理由等により不可避的に形成される空隙が存在してもよい(例えば前端縁91の高さ方向の寸法の1%以内)。
【0049】
なお、本実施形態においては、上記のように、第一の被覆層8の長手方向中途部に、第一の樹脂材料に被覆されず、端子金具5の金属材料が露出した空隙部82が形成される形態を扱っているが、そのような空隙部82に限らず、凹部が第一の被覆層8に設けられ、その凹部が第二の被覆層9に被覆されるものであればよい。凹部とは、端子金具5の金属材料の表面を被覆する第一の樹脂材料の厚さが、周囲の部位よりも薄くなった部位であり、第一の樹脂材料の厚さがゼロになった場合が、空隙部82に相当する。以下、空隙部82について記載される各構成は、周囲の部位よりも薄い第一の樹脂材料の層によって端子金具5の金属材料の表面が被覆された凹部にも、同様に適用しうる。
【0050】
(3−3)第一の被覆層および第二の被覆層の構成材料
第一の被覆層8を構成する第一の樹脂材料および第二の被覆層9を構成する第二の樹脂材料は、特に限定されるものではなく、それぞれに要求される防食性をはじめとする特性や、それぞれが被覆する部位等に応じて、適宜選択すればよい。第一の樹脂材料と第二の樹脂材料は、相互に同じであっても、異なっていてもよい。しかし、相互に異なっている場合の方が、第一の被覆層8と第二の被覆層9がそれぞれ被覆する部位等に応じて、好適な物性を有する樹脂材料を独立に選択することができ、好ましい。なお、第一の樹脂材料と第二の樹脂材料が相互に同じである場合に、第一の被覆層8と第二の被覆層9の界面は、射出成形によって両被覆層8,9を形成する際の樹脂材料の凝固にかかる条件の違い等に起因して生じる膜構造の不連続性によって、認識することができる。
【0051】
樹脂被覆部7の防食性能を確保する観点から、第一の被覆層8および第二の被覆層9は、それぞれ下層の材料に対して、高い密着性を示すことが好ましい。例えば、上記で説明したように、第一の被覆層8が、樹脂被覆部7の前方側(−y側)の部位に、端子金具5の表面に接触して形成され、第二の被覆層9が、前端縁91において第一の被覆層8に接触し、樹脂被覆部7の後方側(+y側)の部位において、絶縁被覆4に接触して形成されている場合には、端子金具5の表面に対する第一の被覆層8の接着性、絶縁被覆4の表面に対する第二の被覆層9の接着性、第一の被覆層8に対する第二の被覆層9の接着性が、それぞれ高いほど好ましい。例えば、第一の被覆層8が、端子金具5に対して、第二の被覆層9よりも高い接着性(引張せん断接着強度)を示し、第二の被覆層9が、絶縁被覆4に対して、第一の被覆層8よりも高い接着性を示すことが好ましい。
【0052】
具体的には、端子金具5を構成する金属材料と第一の被覆層8の間の引張せん断接着強度、および絶縁被覆4を構成する樹脂材料と第二の被覆層9の間の引張せん断接着強度が、それぞれ1.0MPa以上であるとよい。また、第一の被覆層8と第二の被覆層9の間の引張せん断接着強度が1.3MPa以上であるとよい。それらの接着強度を与える樹脂材料の組み合わせとして、第一の被覆層8が、ポリエステルエラストマーをはじめとする熱可塑性エラストマーよりなり、第二の被覆層9がポリブチレンテレフタレートをはじめとするポリエステル樹脂よりなる形態を例示することができる。各被覆層8,9は、樹脂材料に加えて、各種添加剤を含有してもよい。
【0053】
<端子付き電線の製造方法>
上記のような端子付き電線1を製造するためには、最初に、電線2の端末に、端子金具5を接続し、
図7に示すような電気接続部6を有する接続構造を作製する。この際、電線2の端末部の絶縁被覆4を除去して導体3を露出させておき、その導体3を露出させた部分を、端子金具5の底板面52aの上面に載置して、導体3の前方側を第一のバレル部52でかしめ固定するとともに、導体3の後方側を第二のバレル部53でかしめ固定する。
【0054】
そして、第一の被覆層8および第二の被覆層9を、電気接続部6の表面に順次形成する。各被覆層8,9の形成は、金型を用いた射出成形によって行うことができる。
【0055】
第一の被覆層8を形成する際に使用する金型の内部には、位置決め部材としてのピンPを設けておく。ピンPは、上型と下型よりなる金型のうちの上型の上面から下方に向けて突出して設けられる。
図8に示すように、ピンPは、端子金具5の幅方向(x方向)に対応する方向に、導体3をかしめ固定した端子金具5の第一のバレル部52の上面(第一の圧着片52b,52bの外表面)の形状に沿って、第一のバレル部52に当接することができる形状と寸法を有している。具体的には、
図7(b)および
図8に示すように、第一のバレル部52においては、端子金具5の底板面52aに載置された導体3の外周を、一対の第一の圧着片52b,52bが幅方向両側から包囲しており、第一のバレル部52の上面(+z側の外表面)は、幅方向(x方向)両端より中央に向かって膨出した曲面形状を有し、略中央部が窪んでいる。そして、金型に設けられたピンPの下面P1が、この第一のバレル部52の上面の曲面形状に沿う形状を有している。
【0056】
電線2を固定した端子金具5を下型の所定の位置に配置したうえで、端子金具5の第一のバレル部52の中途部の所定の箇所にピンPが配置されるように、上型を配置する。すると、ピンPが第一のバレル部52の上面に、曲面形状に沿って当接する。そして、ピンPによって、端子金具5が、下型に向かって押し付けられ、端子金具5が、上型および下型に対して、幅方向(x方向)および高さ方向(z方向)に位置決めされる。ピンPの下面P1が、第一のバレル部52の上面に沿う形状を有していることにより、下型に端子金具5を配置した状態において、端子金具5の位置にある程度のずれがあったとしても、上型を配置する際に、そのずれも補正される。上型と下型の間に端子金具5を位置決めした状態で、ピンPが端子金具5の第一のバレル部52に当接している部位を除いて、端子金具5の底面5a以外の各表面と金型の内壁面の間には、樹脂材料を所定の厚さで充填できる空隙が設けられた状態となる。
【0057】
この状態で、金型のキャビティに、第一の被覆層8となる第一の樹脂材料を、流動性を有する状態で注入して、その後固化させる。これにより、
図4〜6のように、第一の被覆層8が端子金具5の表面の所定の箇所を被覆した状態を得ることができる。端子金具5の第一のバレル部52の上面に金型のピンPが当接していた部位には、第一の樹脂材料が配置されず、空隙部82が形成される。
【0058】
このように、第一の被覆層8が形成された状態の端子付き電線に対して、さらに、別の金型を用いた射出成形により、第二の被覆層9を形成する。この際、金型には、端子付き電線1において、導体3が絶縁被覆4に被覆された部位に相当する位置に、内側に向かって突出した凸部を設けておき、凸部の頂部が絶縁被覆4の外周に当接するようにしておく。また、電気接続部6において、端子金具5の底面5aが、金型の内壁面に当接するようにし、端子金具5の底面5aと金型の間に樹脂材料が侵入可能な空隙が生じないようにしておく。端子金具5の底面5aの部位と、金型に凸部が設けられた位置に相当する部位を除いて、端子付き電線1と金型の間には、樹脂材料を所定の厚さで充填できる空隙が設けられた状態となる。
【0059】
この状態で、金型のキャビティに、第二の被覆層9となる第二の樹脂材料を、流動性を有する状態で注入して、その後固化させる。これにより、
図1〜3のように、第二の被覆層9が、第一の被覆層8および端子金具5、電線2の表面の所定の箇所を被覆した状態を得ることができる。電線2の絶縁被覆4に金型の凸部が当接していた部位には、被覆露出部92aを有する肉抜き部92が形成される。
【0060】
<端子付き電線の特性>
(1)樹脂被覆部の積層構造および空隙部の構成について
本実施形態にかかる端子付き電線1においては、樹脂被覆部7が、第一の被覆層8と第二の被覆層9の2層よりなり、第一の被覆層8の長手方向中途部に形成された空隙部82が、第二の被覆層9によって被覆されている。これにより、電線導体3と端子金具5を電気的に接続する電気接続部6が、長手方向に沿って全域で、樹脂材料によって被覆された状態となっている。
【0061】
上記のように、空隙部82は、第一の被覆層8を射出成形によって作製する際に、金型に位置決め部材として設けられたピンPが端子金具5の第一のバレル部52の表面に当接していたことによって形成される。このように、ピンPによって金型に対して端子金具5を位置決めした状態で、第一の樹脂材料を金型内に導入し、第一の被覆層8を形成することで、第一の被覆層8を、高い位置精度で形成することができる。導入する樹脂材料の流動性が高い場合や、射出圧が高い場合にも、ピンPによる位置決めの効果により、樹脂材料の衝突によって端子金具5が金型内で位置ずれを起こすのが抑制される。それらの結果、所定の厚さの第一の被覆層8を、端子金具5の表面の所定の箇所に高精度に形成することができるので、第一の被覆層8を薄くした場合にも、意図しない箇所で端子金具5の表面が第一の被覆層8から露出する事態が起こりにくい。よって、第一の被覆層8を薄く設定することが可能となる。
【0062】
このように、第一の被覆層8を薄く形成することを目的として、ピンPのような位置決め部材を利用した際に、その位置決め部材の存在に起因して、空隙部82のように、第一の被覆層8に被覆されない部位が生じたとしても、第二の被覆層9でその部位を被覆することで、樹脂被覆部7全体としては、端子金具5や導体3の露出のない連続的な皮膜を形成することができる。その結果、空隙部82等の第一の被覆層8に被覆されない部位から塩水等の腐食因子が電気接続部6に侵入し、異種金属間腐食をはじめとする腐食を引き起こすのを、抑制することができる。
【0063】
ピンPのように、空隙部82を与える位置決め部材を用いて位置決めを行って、第一の被覆層8を薄く形成することで、第二の被覆層9を合わせた樹脂被覆部7全体として、樹脂材料の厚さを小さく抑えることができる。その結果、端子付き電線1において、樹脂被覆部7に被覆された状態の電気接続部6を小型に形成することができ、電気接続部6を含む端子金具5を、小型のコネクタハウジングに収容することも可能となる。
【0064】
なお、上記のように、樹脂被覆層7においては、空隙部82に限らず、周囲の部位より第一の樹脂材料の層が薄くなった凹部が、第一の被覆層8に形成され、第二の被覆層9に被覆されていればよい。周囲の部位よりも薄い第一の樹脂材料の層で端子金具5の表面が覆われた凹部は、例えば、第一の樹脂材料の射出成形時に、第一のバレル部52と金型のピンPが当接している箇所に、周囲の部位から第一の樹脂材料が回り込むことにより、形成されうる。また、第一のバレル部52に、ピンPが当接することなく近接している場合にも、ピンPが端子金具5に対して、ある程度の位置決め効果を発揮することができる。この場合に、相互に近接したピンPと第一のバレル部52の間の狭い空隙に供給された第一の樹脂材料が、薄い層を形成し、凹部を構成する。端子金具5に対する位置決めの効果を十分に得る観点から、凹部における第一の樹脂材料の厚さは、小さい方が好ましく、例えば、凹部に隣接する部位における厚さの10%以下であるとよい。周囲の部位よりも第一の樹脂材料の層が薄くなった凹部を第二の被覆層9で被覆することで、第一の樹脂材料の薄さに起因して、凹部から腐食因子が侵入し、腐食を引き起こすのを、抑制することができる。
【0065】
樹脂被覆部7の厚さは、要求される防食性能や用いるコネクタハウジングの寸法等に応じて適宜選択すればよい。例えば、樹脂被覆部7全体としての厚さを、0.1mm以上とすれば、製造誤差等の影響があっても、電気接続部6の露出を避けて、十分な防食性能を確保しやすい。一方、樹脂被覆部7全体としての厚さを、0.2mm以下とすれば、樹脂被覆部7に被覆された状態の電気接続部6を十分に小型に形成しやすい。また、第一の被覆層8として使用するのに好適な金属材料に対する密着性の高い樹脂材料には、流動性が良いものが多く、薄肉成形に適しており、特に第一の被覆層8を薄く形成することで、樹脂被覆部7全体としての厚さを小さくしやすい。第一の被覆層8と第二の被覆層9の厚さの比率として、第一の被覆層:第二の被覆層で、1:1〜1:2の範囲を例示することができる。また、端子金具5の表面に接触して設けられる第一の被覆層8の中途部に形成された空隙部82の全域が、第一の被覆層8よりも外側に設けられる第二の被覆層9によって被覆されていれば、第一の被覆層8と第二の被覆層9の間、あるいは第二の被覆層9の外側に、別の樹脂材料よりなる層が設けられていてもよい。ただし、樹脂被覆部7の厚さを小さく抑える観点からは、樹脂被覆部7が、第一の被覆層8と第二の被覆層9のみからなることが好ましい。
【0066】
第一の被覆層8において、空隙部82を設ける位置および数は、特に限定されるものではない。上記で説明した端子付き電線1においては、端子金具5を、第一のバレル部52において、ピンPで位置決めすることを想定し、第一の被覆層8が第一のバレル部52を被覆する部位に空隙部82を設けているが、このように、第一のバレル部52をはじめとするバレル部に対応する位置において、ピンPによる位置決めを行うことで、第一の被覆層8を成形する際の位置決めを、高精度に達成することができる。通常、端子付き電線1においては、端子金具5と電線2の導体3の間における電気的接続の管理等の観点から、
図7のように端子金具5に電線2を接続した状態において、第一のバレル部52を含むバレル部は、別部材である電線2と端子金具5を接続する箇所であることから、第一の被覆層8で被覆されるべき領域の中で、他の部位に比べて、製造公差が小さくなっている。このように、製造公差が小さく、精密に形状や寸法が管理された部位をピンPで押さえて位置決めを行うことで、他の部位で位置決めを行う場合よりも、高い位置決め精度を達成し、電気接続部6を含む端子金具5の表面の防食が必要な箇所に、第一の被覆層8を高精度に形成することができる。
【0067】
バレル部のうち、導体3が接続される第一のバレル部52において、特に製造公差が小さくなっており、第一のバレル部52に対応する位置においてピンPによる固定を行うことで、第一の被覆層8を特に高精度に形成することができる。さらに、第一のバレル部52の上面は、幅方向両端より中央に向かって膨出した曲面形状を有し、略中央部が窪んでいる。その曲面形状に沿ったピンPが第一のバレル部52に当接することにより、流動性を有する樹脂材料が端子金具5に衝突した際にも、x方向およびz方向へと端子金具5が揺動するのを、阻止しやすい。また、第一のバレル部52は、第一の被覆層8で被覆されるべき領域において、長手方向の中ほどに位置しており、この位置をピンPで抑えることで、1箇所のみのピンPでも、端子金具5全体の位置決めを効果的に行うことができる。空隙部82を1箇所に抑えることで、樹脂被覆部7の防食性を高く維持しやすくなる。
【0068】
なお、第一の被覆層8が高精度に成形され、被覆が必要な端子金具5の表面を露出させることなく被覆できていれば、第二の被覆層9については、第一の被覆層8ほどは、成形時の位置決め精度が求められない。よって、第二の被覆層9を形成する際には、上記ピンPのように、端子金具5の位置で端子付き電線1を位置決めするような部材を用いなくても、薄く形成することができる。端子金具5よりも後方の、導体3が絶縁被覆4によって被覆された部位で位置決めを行っておけば、第二の被覆層9を十分に高精度に形成することができる。上記のように、そのような位置決めのために金型に設けられた凸部によって形成されるのが、被覆露出部92aを有する肉抜き部92である。肉抜き部92は、製造された端子付き電線1において、電線2を曲げる方向の力が働いた際に、樹脂被覆部7をその曲げに追従させやすくするという効果も有する。
【0069】
第一の被覆層8が、端子金具5の少なくとも一部を被覆する領域に設けられ、長手方向に沿った中途部に空隙部82を有するとともに、第二の被覆層9が、空隙部82が設けられた部位を含む第一の被覆層8の少なくとも一部を被覆していれば、第一の被覆層8および第二の被覆層9の具体的な配置および形状は特に限定されるものではない。本実施形態にかかる端子付き電線1においては、第二の被覆層9が端子金具5の底面5aに相当する領域を被覆しておらず、第一の被覆層8も、側面5b,5bから回り込んだ第一の樹脂材料によって形成される皮膜を除いて、端子金具5の底面5aには形成されていない。このように、少なくとも端子金具5を被覆する部位において、底面5aの外側に樹脂の層を設けない、あるいは薄くのみ設けることで、端子金具5をコネクタハウジングに挿入した際に、端子金具5の底面5aとコネクタハウジングの内壁面の間の距離を小さくすることができ、端子金具5のコネクタハウジングへの挿入が容易となる。また、高い防食性能を達成することが重要な電気接続部6の上方(+x側)に、厚い樹脂層を形成する余裕を確保しやすくなる。しかし、コネクタハウジングと端子金具5の間の余裕が比較的大きい場合や、端子金具5の底面5aにも防食性を付与したい場合等には、底面方向にも、第一の被覆層8および第二の被覆層9を設ける構成としてもよい。
【0070】
(2)第二の被覆層の前端縁について
上記のように、第二の被覆層9は、空隙部82が設けられた部位を含む第一の被覆層8の少なくとも一部を被覆していれば、いかなる形状をとっていてもよいが、第二の被覆層9の前端縁91は、上記で本実施形態にかかる端子付き電線1について説明したように、底面方向以外の全域に、第一の被覆層8を被覆する被覆端縁として形成されていることが好ましい。つまり、第二の被覆層9の最前部を通って端子付き電線1の長手方向に交差する断面(xz平面)において、底面方向以外の全域に、第二の被覆層9の端縁が第一の被覆層8を被覆した状態で形成されており、
図9に例示する形態のように、底面方向以外の領域に、第二の被覆層9の最前部を通って端子付き電線1の長手方向に交差する断面(xz平面)に含まれずに、後方(+y方向)に退避した、退避端縁91bを有さないことが好ましい。
【0071】
第二の被覆層9の前端縁91が、底面方向以外の全域にわたる広い領域おいて、第一の被覆層8を被覆する被覆端縁として設けられていることで、第一の被覆層8から第二の被覆層9が剥離するのを抑制することができる。その結果、第二の被覆層9の剥離によって、第一の被覆層8と第二の被覆層9の間から腐食因子が侵入し、樹脂被覆部7の防食性能が低下する事態が発生しにくくなる。また、第一の被覆層8と第二の被覆層9の間の接着が強固になるため、樹脂被覆部7に被覆された端子金具5から電線2を引き抜くような力が印加されても、第一の被覆層8と第二の被覆層9の間で剥離を起こしにくくなり、第一の被覆層8と第二の被覆層9の間での剥離を伴う引き抜きに耐えやすくなる。
【0072】
第一の被覆層8の外側に、射出成形によって第二の被覆層9を形成するに際し、流動性を有する状態の第二の樹脂材料を金型内に導入した後、第二の樹脂材料が固化する際に、成形収縮が発生しやすい。後の実施例において示すとおり、
図1〜3のように、第二の被覆層9の前端縁91aが底面方向以外の全域に設けられる場合には、前端縁91における成形収縮が、第一の被覆層8を圧縮する方向、つまり第二の被覆層9によって第一の被覆層8を端子金具5に向かって押し付ける方向に起こる。この圧縮方向の収縮により、第一の被覆層8に対する第二の被覆層9の密着性が高められる。これに対し、
図9のように、第二の被覆層9の前端縁91aが底面方向以外の全域には設けられておらず、退避端縁91bを有する場合には、前端縁91a、および前端縁91aと退避端縁91bをつなぐ長手方向(y方向)に沿った端縁である長手端縁91cにおいて、成形収縮が、第一の被覆層8から剥離する方向、つまり第二の被覆層9が第一の被覆層8の面から離れる方向に発生しやすい。この剥離方向の収縮により、第一の被覆層8に対する第二の被覆層9の密着性が低くなってしまう。このような、第二の被覆層9の前端縁91の形状による収縮方向の差異は、以下のように説明することができる。
【0073】
通常、樹脂材料の成形収縮は、材料の厚みが大きい部分に向かって起こる。
図1〜3や
図9の端子付き電線1,1’の第二の被覆層9の前端縁91,91a近傍の領域では、そのような成形収縮は、長手方向後方(+y方向)に向かって起こる。一方、筒状に成形された樹脂材料は、筒形状を締め付けるように、筒形状の内側に向かって起こる。従って、第二の被覆層9の前端縁91が、端子金具5の底面方向以外の全域を被覆している
図1〜3の端子付き電線1の場合のように、第二の被覆層9の前端縁91および近傍の部位が角筒に近い形状を有することで、角筒形状の内側に向かって起こる収縮の効果が大きくなり、第二の被覆層9の前端縁91において、下層の第一の被覆層8を圧縮する方向に成形収縮が作用しやすくなる。一方、第二の被覆層9の前端縁91aが、上面方向(+z方向)と、幅方向(±x方向)の一部のみを被覆して形成されている
図9の端子付き電線1’の場合のように、第二の被覆層9の前端縁91aおよび近傍の部位が角筒から遠い形状を有している場合には、材料の厚みの大きい長手方向後方(+y方向)に向かって起こる収縮の効果が大きくなり、第二の被覆層9の前端縁91a,退避端縁91b,長手端縁91cにおいて、下層の第一の被覆層8から剥離する方向に成形収縮が作用しやすくなる。
【0074】
このように、第二の被覆層9の前端縁91は、
図1〜3に示すように、少なくとも、底面方向以外の全域において、第一の被覆層8を被覆する被覆端縁として設けられていることが好ましい。図示した形態では、端子金具5が平坦な底板面52aを有し、第一の被覆層8の前方部分のうち第二の被覆層9によって被覆された部分が、略直方体状のブロック形状の領域として形成されている。よって、第二の被覆層9の前端縁91の形状について、「底面方向以外の全域」とは、略長方形の4辺のうち、端子金具5の底面5a側(−z側)の1つの長辺を除く3辺の全域を指す。しかし、端子金具5が平坦な底板面52aを有さない場合や、第一の被覆層8の当該部位が略直方体の形状を有さない場合等にも、端子金具5に対して導体3が配置されているのと反対の方向である底面方向(概ね、法線が−z方向を中心に±20°以内を向く方向)を除く全方向に面した第一の被覆層8の外表面を少なくとも被覆して、第二の被覆層9の前端縁91が設けられればよい。
【0075】
被覆端縁としての第二の被覆層9の前端縁91は、少なくとも、底面方向以外の全域に設けられていれば、上記のように、底面方向以外の全域には設けられない場合と比較して、第一の被覆層8からの第二の被覆層9の剥離を抑制する効果を享受することができ、底面方向については、第一の被覆層8を被覆する被覆端縁として、第二の被覆層9の前端縁91が設けられていても、設けられていなくても、いずれでもよい。端子金具5の底面5aとコネクタハウジングとの間の距離を短くする観点等から、
図1〜3および
図9に示すように、底面方向に、被覆端縁としての第二の被覆層9の前端縁91,91aが設けられていない場合には、
図9のように、底面5aを除く全域に被覆端縁としての前端縁91aが設けられないことによる第二の被覆層9の剥離方向への成形収縮が、顕著になるため、
図1〜3のように、底面5aを除く全域に、被覆端縁としての前端縁91を設けておくことによる剥離抑制の効果が、相対的に大きくなる。
【0076】
一方、防食性の強化等の観点から、端子金具5の底面5aにも第一の被覆層8および第二の被覆層9を形成する場合には、
図1〜3および
図9のように底面5aにそれら被覆層8,9を形成しない場合と比べて、第二の被覆層9の前端縁91が筒形状に近づくこととなるので、第二の被覆層9の前端縁91において、剥離方向への成形収縮が起こりにくくなり、逆に圧縮方向への成形収縮が起こりやすくなる。この場合には、被覆端縁としての第二の被覆層9の前端縁91を、底面方向を除く全域に設けるか否かによる成形収縮の方向および程度の差異は、小さくなる。
【0077】
また、被覆端縁としての前端縁91の部位における第二の被覆層9の厚さが、底面方向を除く全域にわたって、高い均一性を有しているほど、各方向において、圧縮方向への成形収縮が起こりやすくなる。さらに、前端縁91によって囲まれる領域の面積が小さいほど、圧縮方向への成形収縮が起こりやすくなる。例えば、前端縁91の上方の辺(
図1中の辺A2)の位置が、第二の被覆層9全体の高さ方向(z方向)の中央の位置よりも下方(−z側)に位置することが好ましい。前端縁91の圧縮方向への成形収縮の量、つまり、前端縁91が、それよりも後方の第二の被覆層9の面の位置を基準として、第一の被覆層8側に変形する量は、大きい方が好ましい。例えば、前端縁91における第二の被覆層9の厚さの10%以上とする形態を例示することができる。成形収縮の量および方向は、上記に説明したような前端縁91をはじめとする第二の被覆層9の具体的な形状に加え、第二の被覆層9の材質や射出成形時の諸条件(樹脂材料および金型の温度、射出圧等)によって、変化しうる。
【0078】
第二の被覆層9の前端縁91において、成形収縮の方向および程度は、後述する実施例のように、樹脂流動解析によるコンピュータシミュレーションを用いて見積もることができる。あるいは、顕微鏡観察等により、実測することができる。第二の被覆層9の前端縁91の全域において、圧縮方向の成形収縮が起こっていることが好ましいが、後の実施例のように、前端縁91の相互に離れた3箇所以上で、圧縮方向の成形収縮が起こっていることが確認できればよい。
【0079】
第二の被覆層9の前端縁91が、少なくとも、底面方向以外の全領域で、第一の被覆層8を被覆する被覆端縁となっていれば、
図1〜3の形態のように、第一の被覆層8の面が第二の被覆層9の前端縁91よりも前方(−y側)に露出されていても、第一の被覆層8の前端縁81の位置が第二の被覆層9の前端縁91の位置と略一致していても、第二の被覆層9の剥離を抑制する効果が得られる。また、
図1〜3に示した形態では、第二の被覆層9が第一の被覆層8よりも後方(+y側)まで設けられており、第二の被覆層9の後端縁が第一の被覆層8を被覆する形態は想定されないが、第一の被覆層8が、第二の被覆層9の後端縁よりも後方まで、あるいは第二の被覆層9の後端縁と略一致する位置まで設けられている場合には、第二の被覆層9の後端縁についても、底面方向以外の全領域で、第一の被覆層8を被覆する被覆端縁として設けられることで、第二の被覆層9の剥離を抑制する効果が得られる。
【0080】
[ワイヤーハーネス]
本発明の実施形態にかかるワイヤーハーネスは、上記本発明の実施形態にかかる端子付き電線1(1’)を含む複数の電線よりなる。ワイヤーハーネスを構成する電線の全てが本発明の実施形態にかかる端子付き電線1(1’)であってもよいし、その一部のみが本発明の実施形態にかかる端子付き電線1(1’)であってもよい。
【0081】
図11に、ワイヤーハーネスの一例を示す。ワイヤーハーネス10は、メインハーネス部11の先端部から、3つの分岐ハーネス部12が分岐した構成を有している。メインハーネス部11において、複数の端子付き電線が束ねられている。それらの端子付き電線は、3つの群に分けられて、それぞれの群が、各分岐ハーネス12において束ねられている。メインハーネス部11および分岐ハーネス部12において、粘着テープ14を用いて、複数の端子付き電線を束ねるとともに、曲げ形状を保持している。メインハーネス部11の基端部と各分岐ハーネス部12の先端部には、コネクタ13が設けられている。コネクタ13は、各端子付き電線の端末に取り付けられた端子金具を収容している。
【0082】
上記ワイヤーハーネス10を構成する複数の端子付き電線のうち、少なくとも1本が、上記本発明の実施形態にかかる端子付き電線1(1’)よりなっている。その端子付き電線1(1’)の端子金具5、および樹脂被覆部7に被覆された電気接続部6が、コネクタハウジングに収容され、コネクタ13を構成している。
【実施例】
【0083】
以下に、本発明の実施例を示す。なお、本発明は以下の実施例によって限定されるものではない。
【0084】
<試験方法>
コンピュータシミュレーションによって、第二の被覆層の前端縁の形状による、成形収縮への影響を調べた。シミュレーションには、有限要素法による樹脂流動解析を用いた(ソフトウェア:Autodesk Moldflow Insight)。
【0085】
具体的には、モデル1として、
図1〜3に示した第二の被覆層の形状を有する樹脂層を採用した。ここでは、樹脂層の前端縁は、底面方向を除く全領域にわたって設けられている。前端縁における樹脂層の厚さは、0.4mmとした。
【0086】
一方、モデル2として、
図9に示した第二の被覆層の形状を有する樹脂層を採用した。ここでは、樹脂層の前端縁は、上面方向全域と、側面方向の上側の一部の領域にのみ設けられている。前端縁および退避端縁、長手端縁における樹脂層の厚さは、0.5mmとした。
【0087】
シミュレーションに際し、樹脂としてPBTを用いる場合を想定し、樹脂の物性にかかる各種パラメータを設定した。また、金型表面温度を60℃とし、樹脂温度を260℃とした。
【0088】
シミュレーションによって得られた各モデルの樹脂層の形状を解析し、各モデルについて、以下に示す3箇所における成形収縮の方向と収縮量を求めた。
・モデル1(
図1参照)
解析箇所A1:前端縁の−x側の辺
解析箇所A2:前端縁の+z側の辺
解析箇所A3:前端縁の+x側の辺
(解析箇所A1と解析箇所A3は、解析箇所A2を挟んで対称に配置されている)
・モデル2(
図9参照)
解析箇所B1:−x側の長手端縁
解析箇所B2:前端縁の+z側の辺
解析箇所B3:+x側の長手端縁
(解析箇所B1と解析箇所B3は、解析箇所B2を挟んで対称に配置されている)
【0089】
<試験結果>
図10に、上記シミュレーションによって得られた、モデル1,2の各解析箇所における成形収縮量の分布を示す。横軸は、それぞれの解析箇所の辺に沿った位置を示している。縦軸は、成形収縮の方向と量を示しており、+側が、下層の第一の被覆層を圧縮する方向、−側が、下層の第一の被覆層から剥離する方向を表している。
【0090】
図10によると、モデル2においては、いずれの解析箇所においても、剥離方向の成形収縮が生じている。これに対し、モデル1においては、いずれの解析箇所においても、圧縮方向の成形収縮が生じている。これより、モデル1のように、第一の被覆層を被覆する被覆端縁としての第二の被覆層の前端縁を、底面方向以外の全領域に設けることで、第二の被覆層が第一の被覆層を圧縮する方向に成形収縮が起こり、第一の被覆層に対して第二の被覆層が密着しやすくなることが分かる。
【0091】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。
【0092】
また、上記本発明の実施形態においては、第一の被覆層の長手方向中途部に設けられた空隙部を被覆する第二の被覆層が、少なくとも底面方向以外の全領域に、第一の被覆層を被覆する被覆端縁としての前端縁を有する構成としている。しかし、第一の被覆層に空隙部をはじめとする凹部が設けられない場合についても、第一の被覆層と第二の被覆層を積層して樹脂被覆部を構成するに際し、第一の被覆層と第二の被覆層の界面からの腐食因子の侵入を抑制し、樹脂被覆部の防食性能を確保することを課題として、第一の被覆層を被覆する第二の被覆層が、上記被覆端縁としての前端縁を、少なくとも、底面方向以外の全領域に有する構成とすることにより、上記課題を解決することができる。