(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
端子金具と、導体の外周を絶縁被覆で被覆した電線とが、電気接続部において電気的に接続され、樹脂材料よりなり、前記電気接続部を被覆する樹脂被覆部を有する端子付き電線において、
前記樹脂被覆部は、前記端子金具の表面に接触して設けられた第一の被覆層と、前記第一の被覆層および前記絶縁被覆に接触して設けられた第二の被覆層と、を有し、
前記第一の被覆層と前記端子金具との間の引張せん断接着強度は、1.0MPa以上であり、前記第二の被覆層と前記絶縁被覆との間の引張せん断接着強度は、0.5MPa以上であり、前記第一の被覆層と前記第二の被覆層の間の引張せん断接着強度は、1.0MPa以上であることを特徴とする端子付き電線。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
端子付き電線を自動車等の車両において用いた場合に、端子付き電線は、温度変化に晒されやすくなる。特に、エンジンルーム等の箇所に端子付き電線が配策される場合に、端子付き電線が受ける温度変化は、大きく、また頻繁になる。近年、自動車の軽量化が図られる中で、エンジン周辺においても、導体にアルミニウムやアルミニウム合金を用いた端子付き電線の使用が進められている。エンジンルームは車外環境下にあるため、端子付き電線は、真冬の外気等の低温環境に置かれることがある一方、長時間の運転によってエンジンが高温になった際には、高温環境に置かれることになる。このように、エンジンルーム等に配策された端子付き電線は、低温環境と高温環境を繰り返す温度サイクルに晒されやすくなる。
【0007】
特許文献1に示されるように、端子付き電線の電気接続部を樹脂材料よりなる防食剤で被覆した場合に、電線の絶縁被覆を構成する樹脂材料や、端子金具を構成する金属材料と、防食剤を構成する樹脂材料との間で、温度変化に対する膨張・収縮の挙動が異なっているのが通常である。そのように、温度変化に対する膨張・収縮の挙動の異なる材料が相互に接着された状態で、端子付き電線が温度サイクルに晒されると、接着界面において、剥離応力が発生する。すると、防食剤と絶縁被覆の間の界面や、防食剤と端子金具の界面で、剥離が起こる場合がある。これにより、剥離によって界面に生じた空隙から、防食剤で覆われた領域の内部に腐食因子が侵入し、電気接続部に腐食因子が接触して腐食が発生しやすくなる。すると、防食剤の防食性能を長期にわたって維持することが難しくなる。特許文献1においては、用いられる防食剤について、アルミニウム同士の重ね合わせ引張せん断強度が規定されているが、アルミニウムに対して高い接着性を有する材料であっても、絶縁被覆および端子金具の表面に対して、温度サイクルに晒された際の剥離を防止するのに十分に強固な接着性を示すとは限らない。
【0008】
特許文献2に記載されるように、端子金具の圧着部の内表面に防食剤の層を設け、電線導体を封止する構造を用いれば、圧着部が温度サイクルに晒された場合にも、防食性能が低下しにくい。しかし、内側面に防食剤を配置した特殊な構造の端子金具を形成するためには、従来一般の防食剤を配置しない端子金具と同じ設計を採用することができないため、端子金具の汎用性が低下し、端子金具の製造における経済性も低くなってしまう。
【0009】
本発明の解決しようとする課題は、端子金具と電線の間の電気接続部が樹脂被覆部で被覆された端子付き電線およびワイヤーハーネスにおいて、特殊な構造を用いなくても、端子金具および電線被覆と樹脂被覆部との界面において、温度サイクルによる剥離を抑制することができる端子付き電線およびワイヤーハーネスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明にかかる端子付き電線は、端子金具と、導体の外周を絶縁被覆で被覆した電線とが、電気接続部において電気的に接続され、樹脂材料よりなり、前記電気接続部を被覆する樹脂被覆部を有する端子付き電線において、前記樹脂被覆部は、前記端子金具および前記絶縁被覆に接触しており、前記樹脂被覆部と前記端子金具との間の引張せん断接着強度は、1.0MPa以上であり、前記樹脂被覆部と前記絶縁被覆との間の引張せん断接着強度は、0.5MPa以上である、というものである。
【0011】
ここで、前記樹脂被覆部と前記絶縁被覆との界面において、融着が生じているとよい。
【0012】
また、前記樹脂被覆部は、前記端子金具の表面に接触して設けられた第一の被覆層と、前記第一の被覆層および前記絶縁被覆に接触して設けられた第二の被覆層と、を有し、前記第一の被覆層と前記端子金具との間の引張せん断接着強度は、1.0MPa以上であり、前記第二の被覆層と前記絶縁被覆との間の引張せん断接着強度は、0.5MPa以上であり、前記第一の被覆層と前記第二の被覆層の間の引張せん断接着強度は、1.0MPa以上であるとよい。
【0013】
この場合に、前記第二の被覆層を構成する樹脂材料は、前記第一の被覆層を構成する樹脂材料よりも高い融点を有するとよい。また、前記第一の被覆層と前記第二の被覆層との界面において、融着が生じているとよい。
【0014】
前記第一の被覆層は、ポリエステル系エラストマーおよびポリウレタン系エラストマーの少なくとも一方を含むとよい。前記第二の被覆層は、ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリフェニレンサルファイド系樹脂のいずれか少なくとも1種を含むとよい。
【0015】
本発明にかかるワイヤーハーネスは、上記のような端子付き電線を有するものである。
【発明の効果】
【0016】
上記発明にかかる端子付き電線においては、樹脂被覆部と端子金具との間の引張せん断接着強度が、1.0MPa以上、樹脂被覆部と電線の絶縁被覆との間の引張せん断接着強度が、0.5MPa以上となっている。このように、樹脂被覆部が、端子金具と絶縁被覆のそれぞれに対して、高い接着性を有することにより、端子付き電線が温度サイクルに晒された際にも、樹脂被覆部と端子金具の間の界面、および樹脂被覆部と絶縁被覆の間の界面で、十分な接着性が維持されやすく、樹脂被覆部と端子金具や絶縁被覆との間で、温度変化に対する膨張・収縮の挙動に差があったとしても、それらの界面において、剥離が発生しにくい。その結果、温度サイクルに晒される環境で端子付き電線が使用された場合にも、樹脂被覆部の防食性能を長期にわたって維持しやすい。このような樹脂被覆部の剥離の抑制は、樹脂被覆部を構成する材料の物性によって達成されるものであり、特殊な構造を必要とするものではない。
【0017】
ここで、樹脂被覆部と絶縁被覆との界面において、融着が生じている場合には、融着により、絶縁被覆に対する樹脂被覆部の接着性を高めやすい。その結果、絶縁被覆と樹脂被覆部の間の界面において、温度サイクルによる防食性能の低下を特に抑制しやすくなる。
【0018】
また、樹脂被覆部が、端子金具の表面に接触して設けられた第一の被覆層と、第一の被覆層および絶縁被覆に接触して設けられた第二の被覆層と、を有し、第一の被覆層と端子金具との間の引張せん断接着強度が、1.0MPa以上であり、第二の被覆層と絶縁被覆との間の引張せん断接着強度が、0.5MPa以上であり、第一の被覆層と第二の被覆層の間の引張せん断接着強度が、1.0MPa以上である場合には、端子金具および樹脂被覆部に対して高い接着性を示す材料として、第一の被覆層および第二の被覆層の構成材料をそれぞれ選定することで、第一の被覆層と第二の被覆層の複合構造よりなる樹脂被覆部全体として、端子金具と樹脂被覆部の両方に対して、高い接着性を確保しやすくなる。また、第一の被覆層と第二の被覆層の間の接着性も高くなっていることで、第一の被覆層と第二の被覆層の間の界面から腐食因子が侵入することによる電気接続部の腐食も抑制され、樹脂被覆部全体として、高い防食性能を確保しやすくなる。また温度サイクルを受けた際にも、その防食性能を維持しやすくなる。
【0019】
この場合に、第二の被覆層を構成する樹脂材料が、第一の被覆層を構成する樹脂材料よりも高い融点を有する構成によれば、第一の被覆層を形成した後に、溶融した樹脂材料を第一の被覆層の表面に接触させて第二の被覆層を形成する際に、溶融した樹脂材料の熱によって、第一の被覆層の表層部に溶融が発生する。そして、その溶融部が固化する際に、第一の被覆層と第二の被覆層の間で、高い接着強度を有する界面が形成されやすい。
【0020】
また、第一の被覆層と第二の被覆層との界面において、融着が生じている場合には、融着により、第一の被覆層と第二の被覆層の間の接着性が高くなり、第一の被覆層と第二の被覆層の界面の剥離による防食性能の低下を、特に抑制しやすくなる。
【0021】
第一の被覆層が、ポリエステル系エラストマーおよびポリウレタン系エラストマーの少なくとも一方を含む場合には、スズめっき銅合金をはじめとして、端子金具を構成する金属材料の表面に対して、高い接着性を示しやすい。
【0022】
第二の被覆層が、ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリフェニレンサルファイド系樹脂のいずれか少なくとも1種を含む場合には、ポリ塩化ビニルやポリプロピレンをはじめとして、絶縁被覆を構成する樹脂材料の表面に対して、高い接着性を示しやすい。それらの樹脂材料よりなる第二の被覆層は、第一の被覆層がポリエステル系エラストマーやポリウレタン系エラストマーよりなる場合に、第一の被覆層に対しても高い接着性を示しやすい。
【0023】
上記発明にかかるワイヤーハーネスは、上記のような端子付き電線を含んでいるため、特殊な構造を用いなくても、温度サイクルに晒された際に、樹脂被覆部と端子金具の間の界面、および樹脂被覆部と電線の絶縁被覆の間の界面において、剥離が起こりにくくなっており、長期にわたって樹脂被覆部の防食性能を維持しやすい。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を用いて本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0026】
[端子付き電線]
<全体の構成>
まず、本発明の一実施形態にかかる端子付き電線1の全体の構成を、
図1,2を参照しながら説明する。本発明の一実施形態にかかる端子付き電線1は、導体3が絶縁被覆4により被覆された電線2と、端子金具5が、電気接続部6において電気的に接続されてなる。そして、電気接続部6を含む部位を被覆して、樹脂材料よりなる樹脂被覆部7が形成されている。本明細書においては、端子付き電線1の長手方向に沿って、端子金具5が配置された側を前方、電線2が配置された側を後方とする。
【0027】
端子金具5は、接続部51を有する。また、接続部51の後端側に一体に延設形成されて、第一のバレル部52と第二のバレル部53とからなるバレル部を有する。接続部51は、雌型嵌合端子の箱型の嵌合接続部として構成されており、雄型接続端子(不図示)と嵌合可能となっている。
【0028】
電気接続部6では、電線2の端末の絶縁被覆4が除去され、導体3が露出されている。この導体3が露出された電線2の端末部が、端子金具5のバレル部52,53の片面側(
図1の上面側)にかしめ固定されて、電線2と端子金具5が接続されている。具体的には、第一のバレル部52が、導体3と端子金具5を電気的に接続するとともに、端子金具5に導体3を物理的に固定している。一方、第二のバレル部53が、第一のバレル部52よりも後方において、第一のバレル部52が導体3を固定しているのよりも弱い力で電線2を固定し、端子金具5への電線2の物理的な固定を補助している。第二のバレル部53は、電線2の端末に露出された導体3を後方でかしめ固定していても、さらに後方の絶縁被覆4に導体3が被覆された箇所において、電線2を絶縁被覆4の外周からかしめ固定していてもよいが、図示した形態では、露出された導体3をかしめ固定している。
【0029】
樹脂被覆部7は、端子付き電線1の長手方向に関して、電線2の端末で露出された導体3の先端3aよりも前方の位置から、電線2の絶縁被覆4の先端よりも後方までの領域にわたり、電気接続部6全体および電線2の絶縁被覆4の端末側の一部の領域を被覆して形成されている。電線2の端末で露出された導体3の先端部3aも、樹脂被覆部7によって完全に覆われており、外部に露出しないようになっている。端子付き電線1の周方向に関して、樹脂被覆部7は、端子金具5の位置においては、底面(
図1下方の、導体3が固定されたのと反対側の面)を除く各面を被覆している。電線2の位置においては、樹脂被覆部7は、電線2の全周を被覆している。
【0030】
端子付き電線1は、電気接続部6を含む端子金具5の部分を、ポリブチレンテレフタレート(PBT)等の樹脂材料よりなる中空のコネクタハウジング(不図示)に挿入して、コネクタとしての使用に供することができる。上記のように、端子金具5の底面に樹脂被覆部7が設けられない場合には、小型のコネクタハウジングの中空部へも挿入を行いやすいが、中空部の寸法に余裕がある場合等には、端子金具5の底面に樹脂被覆部7を設けてもよい。
【0031】
<各部の構成>
以下、端子付き電線1を構成する電線2、端子金具5、樹脂被覆部7の具体的構成について説明する。
【0032】
(1)電線
電線2の導体3は、単一の金属線よりなってもよいが、複数の素線が撚り合わされた撚線よりなることが好ましい。この場合、撚線は、1種の金属素線より構成されていてもよいし、2種以上の金属素線より構成されていてもよい。また、撚線は、金属素線以外に、有機繊維よりなる素線などを含んでいてもよい。撚線中には、電線2を補強するための補強線(テンションメンバ)等が含まれていてもよい。
【0033】
上記導体3を構成する金属素線の材料としては、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金、もしくはこれらの材料に各種めっきが施された材料などを例示することができる。また、補強線としての金属素線の材料としては、銅合金、チタン、タングステン、ステンレスなどを例示することができる。また、補強線としての有機繊維としては、ケブラーなどを挙げることができる。
【0034】
絶縁被覆4の材料としては、例えば、ゴム、ポリプロピレン(PP)等のポリオレフィン、ポリ塩化ビニル(PVC)等のハロゲン系ポリマー、熱可塑性エラストマーなどを挙げることができる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上混合して用いてもよい。絶縁被覆4の材料中には、適宜、各種添加剤が添加されていてもよい。添加剤としては、難燃剤、充填剤、着色剤等を挙げることができる。
【0035】
(2)端子金具
端子金具5の材料(母材の材料)としては、一般的に用いられる黄銅の他、各種銅合金、銅などを挙げることができる。端子金具5の表面の一部(例えば接点)もしくは全体には、スズ、ニッケル、金またはそれらを含む合金など、各種金属によりめっきが施されていてもよい。
【0036】
以上のように、導体3および端子金具5は、いかなる金属材料よりなってもよいが、端子金具5が、銅または銅合金よりなる母材にスズめっきを施された一般的な端子材料よりなり、導体3がアルミニウムまたはアルミニウム合金よりなる素線を含んでいる場合のように、電気接続部6において異種金属が接触している場合には、水分等の腐食因子との接触によって電気接続部6に特に腐食が発生しやすい。しかし、次に述べるような樹脂被覆部7が、電気接続部6を被覆していることで、このような異種金属間腐食を抑制することができる。
【0037】
(3)樹脂被覆部
上記のように、樹脂被覆部7は、端子金具5と導体3の間の電気接続部6を被覆することで、外部から電気接続部6への水等の腐食因子の侵入を防止することができる。これにより、樹脂被覆部7は、腐食因子による電気接続部6の腐食を防止する役割を果たす。
【0038】
樹脂被覆部7は、
図1,2に示すように、前方側の部位において、端子金具5の表面に接触し、後方側の部位において、電線2の絶縁被覆4に接触して、電気接続部6を含む領域を被覆している。
図1,2に示した形態では、樹脂被覆部7は、後に詳しく説明するように、第一の被覆層7aと第二の被覆層7bの2層から構成されているが、このような形態に限られるものではなく、樹脂被覆部7全体として、端子金具5および絶縁被覆4に対して以下のような接着性を示すものであれば、1層よりなっても、2層をはじめ、複数の層よりなってもよい。
【0039】
樹脂被覆部7は、端子金具5および絶縁被覆4との接触部において、端子金具5および絶縁被覆4に対して、所定の接着強度を有している。つまり、樹脂被覆部7と端子金具5との間の引張せん断接着強度が、1.0MPa以上であり、樹脂被覆部7と絶縁被覆4との間の引張せん断接着強度が、0.5MPa以上である。
【0040】
なお、端子付き電線1を構成する各材料の間の引張せん断接着強度(以下、単に接着強度と称する場合がある)は、JIS K 6850に準拠して、室温にて、せん断接着試験を行うことで、測定することができる。また、本明細書において、端子付き電線1を構成する各材料の間の接着強度として記載している値は、射出成形等による樹脂被覆部7の製造工程において生じる融着(溶着)等の現象を経て得られる値であり、せん断接着試験も、製造工程を反映した条件で作製した試料に対して行うことが好ましい。
【0041】
樹脂被覆部7と端子金具5との間の接着強度が、1.0MPa以上であり、樹脂被覆部7と絶縁被覆4との間の接着強度が、0.5MPa以上であることにより、樹脂被覆部7と端子金具5との間の界面、および樹脂被覆部7と絶縁被覆4との間の界面において、強固な接着が達成される。これにより、樹脂被覆部7に被覆された領域に、端子金具5側からも電線2側からも腐食因子が侵入しにくくなり、電気接続部6において、異種金属間腐食等の腐食が起こるのを抑制することができる。その結果、樹脂被覆部7によって、高い防食性能が発揮される。そして、端子付き電線1が温度サイクルに晒された場合にも、そのように高い防食性能を有する状態を維持することができる。
【0042】
端子付き電線1が温度サイクルに晒されると、つまり、高温環境に晒される状態と低温環境に晒される状態とが繰り返されると、端子金具5や絶縁被覆4、また樹脂被覆部7において、膨張と収縮が繰り返して起こることになる。すると、樹脂被覆部7を構成する樹脂材料と、端子金具5を構成する金属材料、また絶縁被覆4を構成する樹脂材料との間で、温度変化に対する膨張・収縮の挙動が異なることにより、樹脂被覆部7と端子金具5との間の界面、および樹脂被覆部7と絶縁被覆4との間の界面において、剥離応力が発生する。樹脂被覆部7と端子金具5および絶縁被覆4との間の接着強度が上記のように高くなっていることで、温度変化に対する膨張・収縮の挙動における材料間の差に起因して、各界面に剥離応力が発生したとしても、樹脂被覆部7の強固な接着力により、界面での剥離の発生に至るのを抑制することができる。その結果、端子付き電線1が温度サイクルに晒された場合にも、樹脂被覆部7と端子金具5および電線2との間に、腐食因子が侵入可能な空隙が形成されにくくなり、樹脂被覆部7の防食性能を長期にわたって保つことが可能となる。よって、端子付き電線1は、車載環境等、温度サイクルに晒されやすく、かつ防食性能の長期維持が求められる環境、特にエンジンルーム内のように温度変化が大きくかつ頻繁に起こる環境において、好適に使用することができる。
【0043】
樹脂被覆部7と絶縁被覆4との間の接着強度が、上記のように0.5MPa以上となっていれば、樹脂被覆部7および絶縁被覆4としての使用を想定しうる種々の樹脂種の組み合わせにおいて、温度変化に対する膨張・収縮の挙動の差による界面の剥離を、効果的に抑制することができる。特に剥離を強固に防止する観点からは、樹脂被覆部7と絶縁被覆4の線膨張係数の比が、一方が他方に対して3倍以内となっていることが好ましい。
【0044】
温度サイクルに晒された際に、防食性能の維持を特に効果的に達成する観点から、樹脂被覆部7と端子金具5との間の接着強度は、1.5MPa以上、さらには1.8MPa以上であることが、特に好ましい。また、樹脂被覆部7と絶縁被覆4との間の接着強度は、0.7MPa以上であることが、特に好ましい。
【0045】
また、樹脂被覆部7と端子金具5との間の接着強度は、樹脂被覆部7と絶縁被覆4との間の接着強度よりも大きいことが好ましい。樹脂被覆部7と絶縁被覆4はともに樹脂材料よりなり、温度変化に対する膨張・収縮の挙動が大きくは異ならないことが多いのに対し、金属材料よりなる端子金具5の温度変化に対する膨張・収縮の挙動は、樹脂材料よりなる樹脂被覆部7と大きく異なる場合が多く、樹脂被覆部7と端子金具5との間の界面において、膨張・収縮の挙動の差に起因して温度サイクルによって発生する剥離応力に対抗するために、樹脂被覆部7と絶縁被覆4との間の界面よりも、高い接着強度が必要となるからである。樹脂被覆部7と絶縁被覆4の間の接着強度が0.5MPa以上であればよいのに対し、樹脂被覆部7と端子金具5の間の接着強度が1.0MPa以上必要であるのも、同じ理由による。例えば、樹脂被覆部7と端子金具5との間の接着強度が、樹脂被覆部7と絶縁被覆4との間の接着強度の1.3倍以上、さらには2.0倍以上である形態を好ましいものとして例示することができる。
【0046】
樹脂被覆部7と絶縁被覆4との間の接着強度は、樹脂被覆部7と絶縁被覆4との間に融着(溶着)が生じている場合に、高くなりやすい。融着は、樹脂被覆部7を構成する樹脂材料と絶縁被覆4を構成する樹脂材料が、界面において、ともに溶融し、相互拡散して固化した状態であり、樹脂被覆部7と絶縁被覆4の界面に、相互の樹脂材料が混和または化学反応した融着層(接着層)が形成される。
図3について後の実施例で説明するように、通常は、融着層の厚さは、ナノメートル〜サブミクロンオーダーである。また、融着層は、ナノメートル〜サブミクロンオーダーの高さの滑らかな凹凸構造を有する界面層として形成されやすい。融着層が形成されると、樹脂被覆部7と絶縁被覆4とが、融着層を介して強固に密着するようになる。融着層の形成は、例えば、射出成形等によって樹脂被覆部7を形成する際に、樹脂被覆部7となる樹脂を、絶縁被覆4の融点以上の温度に加熱した状態で、絶縁被覆4の表面に接触させることで、行うことができる。
【0047】
また、樹脂被覆部7と端子金具5との間の接着強度は、端子金具5を構成する金属材料の表面に存在する水酸基と、樹脂被覆部7に含まれる官能基との間における化学結合の形成をはじめとして、樹脂被覆部7と端子金具5の表面との間に相互作用が起こる場合に、高くなりやすい。端子金具5の表面の水酸基と、化学結合形成等、相互作用しうる官能基としては、エステル基、アミド基、水酸基、アミノ基、カルボキシル基のような極性官能基を挙げることができる。
【0048】
温度サイクルを経た際の樹脂被覆部7の剥離の防止は、樹脂被覆部7の特定の構造によって達成されるものではなく、構成材料の物性によって達成されるものであるので、樹脂被覆部7は、端子金具5および絶縁被覆4に対して所定の接着強度を示すものであれば、具体的な形状は特に限定されない。例えば、樹脂被覆部7は、上記のように、厚み方向に複数の層よりなってもよく、また、長手方向に複数の部位よりなってもよい。樹脂被覆部7が、端子金具5および絶縁被覆4の両方に対して、所定の接着強度を有するように構成しやすい形態の例として、樹脂被覆部7が、第一の被覆層7aと第二の被覆層7bの2層よりなる形態について、次に詳しく説明する。
【0049】
(4)樹脂被覆部が2層よりなる形態
図1,2に示す形態においては、樹脂被覆部7が、第一の被覆層7aと第二の被覆層7bの2層からなっている。第一の被覆層7aと第二の被覆層7bは、相互に異なる樹脂材料よりなっている。
【0050】
第一の被覆層7aは、端子金具5の表面に接触して設けられている。第一の被覆層7aの具体的な形状および被覆部位は、特に限定されるものではないが、図示した形態では、第一の被覆層7aは、樹脂被覆部7全体としての先端から、長手方向に樹脂被覆部7の一部を占めて形成されており、底面を除く端子金具5の各面を被覆している。第一の被覆層7aの後端部は、第二のバレル部53の中途部に位置しており、第一の被覆層7aは、電線2の絶縁被覆4には接触していない。
【0051】
第二の被覆層7bは、第一の被覆層7aおよび電線2の絶縁被覆4に接触して設けられている。第二の被覆層7bの具体的な形状および被覆部位も、特に限定されるものではないが、図示した形態では、長手方向に関しては、第一の被覆層7aの前方の端縁よりも後方の位置から、絶縁被覆4の先端よりも後方側の、樹脂被覆部7全体の後端にあたる位置までを被覆している。つまり、第二の被覆層7bは、前方側の部位において、第一の被覆層7aの外表面と接触し、後方側の部位において、絶縁被覆4の表面と接触している。周方向に関しては、第二の被覆層7bは、端子金具5の位置においては、底面以外の全面を被覆し、電線2の位置においては、電線2の全周を被覆している。そして、第二の被覆層7bは、第一の被覆層7aの前端近傍を除く表面全体を被覆している。
【0052】
第一の被覆層7aと端子金具5との間の接着強度は、1.0MPa以上となっている。この接着強度は、1.5MPa以上、さらには1.8MPa以上であると、好ましい。そして、第一の被覆層7aを構成する樹脂材料に含まれる極性官能基が、端子金具5の表面の水酸基と、化学結合の形成をはじめとする相互作用を起こしていることが好ましい。
【0053】
第二の被覆層7bと絶縁被覆4との間の接着強度は、0.5MPa以上となっている。この接着強度は、0.7MPa以上であるとさらに好ましい。また、第二の被覆層7bと絶縁被覆4との間に、融着が生じていることが好ましい。そして、第一の被覆層7aと端子金具5の間の接着強度が、第二の被覆層7bと絶縁被覆4との間の接着強度よりも大きいことが好ましく、第一の被覆層7aと端子金具5との間の接着強度が、第二の被覆層7bと絶縁被覆4との間の接着強度の1.3倍以上、さらには2.0倍以上である形態を、好ましいものとして例示することができる。
【0054】
樹脂被覆部7を、第一の被覆層7aと第二の被覆層7bから構成することにより、単一の層で構成する場合よりも、樹脂被覆部7を構成する材料を、高い自由度で選択することができる。第一の被覆層7aとして、端子金具5を構成する金属材料に対して高い接着性を示す材料を選択し、第二の被覆層7bとして、絶縁被覆4を構成する樹脂材料に対して高い接着性を示す材料を選択することで、樹脂被覆部7が端子金具5に接触する界面と絶縁被覆4に接触する界面の両方からの腐食因子の侵入を抑制し、高い防食性能を達成することができる。さらに、温度サイクルを経てもその高い防食性能を維持しやすくなる。
【0055】
さらに、樹脂被覆部7においては、第一の被覆層7aと第二の被覆層7bの間の引張せん断接着強度が、1.0MPa以上であることが好ましい。これにより、第一の被覆層7aと第二の被覆層7bの間の界面の接着が強固になる。その結果、樹脂被覆部7と端子金具5および絶縁被覆4との間の界面のみならず、樹脂被覆部7を構成する2つの被覆層7a,7bの間の界面から腐食因子が侵入するのも、効果的に抑制し、樹脂被覆部7全体として、高い防食性能を達成することができる。そして、樹脂被覆部7が温度サイクルに晒された際に、第一の被覆層7aと第二の被覆層7bの間の界面においても、剥離の発生を抑制することができるので、高い防食性能を長期にわたって維持しやすくなる。第一の被覆層7aと第二の被覆層7bの間の接着強度は、1.3MP以上、さらには2.0MPa以上であると、特に好ましい。
【0056】
第二の被覆層7bと絶縁被覆4の間、および第一の被覆層7aと第二の被覆層7bの間の接着強度が、上記のようであれば、第一の被覆層7aおよび第二の被覆層7b、また絶縁被覆4としての使用を想定しうる種々の樹脂種の組み合わせにおいて、温度変化に対する膨張・収縮の挙動の差による界面の剥離を、効果的に抑制することができる。特に剥離を強固に防止する観点からは、第二の被覆層7bと絶縁被覆4の線膨張係数の比が、一方が他方に対して3倍以内、また第一の被覆層7aと第二の被覆層7bの間の線膨張係数の比が、一方が他方に対して5倍以内となっていることが好ましい。
【0057】
第一の被覆層7aを構成する具体的な樹脂材料は、特に限定されるものではなく、高分子材料を主成分としてなる。高分子材料には、適宜、各種添加剤が添加されてもよい。スズめっき表面をはじめとして、端子金具5を構成する金属材料に対して高い接着性を示す好適な高分子材料として、熱可塑性エラストマーを挙げることができる。熱可塑性エラストマーは通常、ハードセグメントとソフトセグメントとを有し、ソフトセグメントを有することの効果により、端子金具5の表面を構成するスズめっき表面をはじめとする金属面に対して、高い接着性を示す。
【0058】
第一の被覆層7aを構成する熱可塑性エラストマーの具体的な例として、ハードセグメントがポリエステル単位よりなるポリエステル系エラストマーや、ハードセグメントがポリアミド単位よりなるポリアミド系エラストマー、ハードセグメントがポリウレタン単位よりなるポリウレタン系エラストマー等を例示することができる。
【0059】
熱可塑性エラストマーとしては、上記で挙げたうち、ポリエステル系エラストマーおよびポリウレタン系エラストマーの少なくとも一方、中でもポリエステル系エラストマーを用いることが特に好適である。ポリエステル系エラストマーやポリウレタン系エラストマー、特にポリエステル系エラストマーは、スズめっき銅合金等よりなる端子金具5の表面に対して高い密着性を示す。
【0060】
熱可塑性エラストマーを構成するソフトセグメントは、側鎖に極性官能基を有していることが好ましい。極性官能基としては、エステル基、アミド基、水酸基、アミノ基、カルボキシル基を挙げることができる。極性官能基を有することで、ソフトセグメントが、極性官能基を介して、金属表面の水酸基との化学結合の形成をはじめとして、端子金具5の表面と相互作用することができるので、端子金具5の表面への第一の被覆層7aの接着性を高めることができる。
【0061】
エステル基、アミド基、水酸基、アミノ基、カルボキシル基等の極性官能基が、熱可塑性エラストマー等の高分子材料ではなく、高分子材料に混合される添加剤に含有される場合にも、極性官能基と端子金具5の表面との相互作用によって、第一の被覆層7aの端子金具5の表面に対する接着強度を高めることができる。そのような添加剤としては、粘着剤を挙げることができる。粘着剤が、第一の被覆層7aから、端子金具5を構成する金属材料との界面に徐々に放出され、極性官能基と端子金具5の表面の水酸基との間に、化学結合を形成する。ポリアミド系粘着剤やポリエステル系粘着剤等、極性が高く、融点が低い樹脂よりなる粘着剤を、好適に用いることができる。
【0062】
端子金具5の表面および第二の被覆層7bに対する第一の被覆層7aの接着強度は、第一の被覆層7aを構成する高分子材料や添加剤の種類および配合量によって調整することができる。高分子材料が熱可塑性エラストマーである場合には、熱可塑性エラストマーを構成するハードセグメントおよびソフトセグメントの種類、極性官能基の有無および種類、ハードセグメントとソフトセグメントの比率、重合度等によって、接着強度を調整することもできる。また、端子金具5の表面に対する接着強度は、後述するように、第一の被覆層7aを形成する際の条件によっても、調整することができる。
【0063】
第二の被覆層7bを構成する具体的な樹脂材料も、特に限定されるものではなく、高分子材料を主成分としてなる。高分子材料には、適宜、各種添加剤が添加されてもよい。電線2の絶縁被覆4を構成するPPやPVCをはじめとする樹脂材料に対して高い接着性を示す好適な高分子材料として、ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリフェニレンサルファイド系樹脂のいずれか少なくとも1種、特にポリエステル系樹脂およびポリカーボネート系樹脂の少なくとも一方を含むことが好ましい。
【0064】
特にポリエステル系樹脂は、PPやPVC等よりなる絶縁被覆4への接着性が高いため、第二の被覆層7bを構成する高分子材料として好適に用いることができる。具体的なポリエステル系樹脂としては、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂等を例示することができ、中でもPBT樹脂が好適である。第一の被覆層7aが熱可塑性エラストマーよりなる場合には、ポリエステル系エラストマーを含む第二の被覆層7bは、第一の被覆層7aに対しても高い接着強度を示しやすい。特に、第一の被覆層7aが、ハードセグメントにポリエステル単位を有するポリエステルエラストマーを含む場合に、第二の被覆層7bがポリエステル系樹脂を含むものであれば、第一の被覆層7aと第二の被覆層7bがともにポリエステル構造を含むことで、第一の被覆層7aと第二の被覆層7bの間で、とりわけ高い接着強度が得られやすい。
【0065】
絶縁被覆4および第一の被覆層7aに対する第二の被覆層7bの接着強度は、第二の被覆層7bを構成する高分子材料の種類や重合度、また添加剤の種類や配合量によって調整することができる。また、絶縁被覆4の表面および第一の被覆層7aに対する接着強度は、後述するように、第二の被覆層7bを形成する際の条件によっても調整することができる。
【0066】
本端子付き電線1を製造する方法としては、最初に、絶縁被覆4を皮剥した電線2の端末に、端子金具5のバレル部52,53をかしめて固定すればよい。そして、電線導体3と端子金具5の間の圧着部である電気接続部6に、射出成形、塗布等によって、第一の被覆層7aを所定の位置に形成する。その後、同様に、射出成形、塗布等によって、第二の被覆層7bを所定の位置に形成する。なお、第一の被覆層7aが端子金具5の表面にのみ形成される場合には、第一の被覆層7aは、電線2を端子金具5に接続する前に、端子金具5の表面の所定の位置に形成しておいてもよい。
【0067】
第一の被覆層7aと端子金具5の間、第二の被覆層7bと絶縁被覆4の間、第一の被覆層7aと第二の被覆層7bの間の各界面における接着強度は、第一の被覆層7aおよび第二の被覆層7bを形成する際の条件の設定によって、調整することができる。第一の被覆層7aおよび第二の被覆層7bを、射出成形によって形成する場合には、射出成形にかかる各種パラメータを調整すればよい。例えば、射出成形時の樹脂温度、金型温度、保持圧をそれぞれ上げることで、各界面における接着強度を高めることができる。なお、樹脂温度に関しては、高くするほど、各界面における接着強度を上げることができるが、射出成形する樹脂材料、およびその樹脂材料と接触する材料において、熱による変性が起こらない程度の温度に留めておくことが好ましい。
【0068】
特に、第一の被覆層7aを形成した後、第二の被覆層7bを形成する際に、樹脂材料の温度を、絶縁被覆4を構成する高分子の融点以上としておけば、樹脂材料の熱によって絶縁被覆4の表層部が溶融し、第二の被覆層7bとともに固化する際に、絶縁被覆4と第二の被覆層7bの間の界面に融着層が形成され、強固な接着が達成される。第二の被覆層7bを構成する高分子の融点が絶縁被覆4を構成する高分子の融点よりも高い場合には、絶縁被覆4の融点以上に加熱された溶融樹脂が、絶縁被覆4に接触することになり、第二の被覆層7bの形成時に絶縁被覆4の表層部の溶融が起こりやすいため、融着層の形成による強固な接着が達成されやすい。
【0069】
同様に、第二の被覆層7bを構成する樹脂材料の温度を、第一の被覆層7aを構成する高分子の融点以上としておけば、樹脂材料の熱によって第一の被覆層7aの表層部が溶融し、第二の被覆層7bとともに固化する際に、第一の被覆層7aと第二の被覆層7bの間の界面に融着層が形成され、強固な接着が達成される。第二の被覆層7bを構成する高分子の融点が第一の被覆層7aを構成する高分子の融点よりも高い場合には、第二の被覆層7bの形成時に、第一の被覆層7aの融点以上に加熱された溶融樹脂が、第一の被覆層7aに接触することになり、第一の被覆層7aの表層部の溶融が起こりやすいため、融着層の形成による強固な接着が達成されやすい。第二の被覆層7bとして好適に用いられるポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリフェニレンサルファイド系樹脂は、第一の被覆層7aとして好適に用いられる熱可塑性エラストマーよりも高い融点を有する場合が多い。
【0070】
[ワイヤーハーネス]
本発明の実施形態にかかるワイヤーハーネスは、上記本発明の実施形態にかかる端子付き電線1を含む複数の電線よりなる。ワイヤーハーネスを構成する電線の全てが本発明の実施形態にかかる端子付き電線1であってもよいし、その一部のみが本発明の実施形態にかかる端子付き電線1であってもよい。
【0071】
図5に、ワイヤーハーネスの一例を示す。ワイヤーハーネス10は、メインハーネス部11の先端部から、3つの分岐ハーネス部12が分岐した構成を有している。メインハーネス部11において、複数の端子付き電線が束ねられている。それらの端子付き電線は、3つの群に分けられて、それぞれの群が、各分岐ハーネス12において束ねられている。メインハーネス部11および分岐ハーネス部12において、粘着テープ14を用いて、複数の端子付き電線を束ねるとともに、曲げ形状を保持している。メインハーネス部11の基端部と各分岐ハーネス部12の先端部には、コネクタ13が設けられている。コネクタ13は、各端子付き電線の端末に取り付けられた端子金具を収容している。
【0072】
上記ワイヤーハーネス10を構成する複数の端子付き電線のうち、少なくとも1本が、上記本発明の実施形態にかかる端子付き電線1よりなっている。その端子付き電線1の端子金具5、および樹脂被覆部7に被覆された電気接続部6が、コネクタハウジングに収容され、コネクタ13を構成している。
【実施例】
【0073】
以下に、本発明の実施例および比較例を示す。なお、本発明は以下の実施例によって限定されるものではない。
【0074】
<防食性能に対する温度サイクルの影響の評価>
樹脂被覆部が第一の被覆層と第二の被覆層の2層よりなる場合について、各界面の接着強度と、防食性能に対する温度サイクルの影響との関係を評価した。
【0075】
(使用材料)
樹脂被覆部を構成する材料として、以下のような樹脂材料を用いた。
【0076】
(1)第一の被覆層
・樹脂A1:ポリエステル系エラストマー樹脂(東レ・デュポン社製「ハイトレルHTD−741H」)
・樹脂A2:ポリウレタン系エラストマー樹脂(BASF社製「エラストランET580」)
・樹脂A3:ポリオレフィン系エラストマー樹脂(住友化学社製「エスポレックス3675」)
・樹脂A4:ポリウレタン系エラストマー樹脂(BASF社製「S60D」)
(2)第二の被覆層
・樹脂B1:ポリエステル系樹脂(ポリプラ社製「C7000NY」)
・樹脂B2:ポリカーボネート系樹脂(三菱化学社製「H−4000」)
・樹脂B3:ポリプロピレン系樹脂(ダイセルポリマー社製「ダイセルPP PT3F1」)
・樹脂B4:ナイロン系樹脂(東レ社製「アラミンU121」)
・樹脂B5:ポリフェニレンサルファイド系樹脂(DIC社製「FZ−2100」)
【0077】
(接着性試験)
第一の被覆層の端子金具表面に対する接着強度を評価するために、端子金具材料のモデルとしてのスズめっき銅合金板の表面に、上記第一の被覆層を構成する樹脂材料をそれぞれ射出成形した。また、第二の被覆層の絶縁被覆に対する接着強度を評価するために、絶縁被覆のモデルとしてのPVCシートの表面に、上記第二の被覆層を構成する樹脂材料をそれぞれ射出成形した。さらに、第一の被覆層と第二の被覆層の間の接着性を評価するために、スズめっき銅合金板の表面に、第一の被覆層を構成する樹脂材料を射出成形し、さらにその表面に第二の被覆層を構成する樹脂材料を射出成形した。なお、各樹脂材料を射出成形する際の条件は、後述する防食性能評価において、各実施例および比較例にかかる端子付き電線について、第一の被覆層および第二の被覆層を形成する際の条件に合わせた。
【0078】
上記で作製した各試験片に対して、接着強度を評価した。接着強度は、室温にて、JIS K 6850に準拠してせん断接着試験を行うことで、引張せん断接着強度として測定した。
【0079】
(防食性能評価)
(1)試料の作製
端子付き電線における防食性能を評価するために、まず、電線を作製した。つまり、ポリ塩化ビニル(重合度1300)100質量部に対して、可塑剤としてジイソノニルフタレート40質量部、充填剤として重炭酸カルシウム20質量部、安定剤としてカルシウム亜鉛系安定剤5質量部を180℃で混合し、ポリ塩化ビニル組成物を調製した。次いで、得られたポリ塩化ビニル組成物を、アルミニウム合金線を7本撚り合わせたアルミニウム合金撚線よりなる導体(断面積0.75mm
2)の周囲に0.28mm厚で押出被覆した。これにより電線(PVC電線)を作製した。
【0080】
上記で作製した電線の端末を皮剥して電線導体を露出させた後、自動車用として汎用されているスズめっきされた黄銅よりなるメス形状の圧着端子金具を、電線の端末に加締め圧着した。
【0081】
次いで、各実施例および比較例にかかる端子付き電線を作成した。つまり、表1に示した各材料を用いて、第一の被覆層を射出成形によって形成した。そして、さらに第二の被覆層を射出成形によって形成した。この際、第一の被覆層および第二の被覆層によって被覆する部位は、
図1,2に示したとおりとした。また、第一の被覆層の厚さは0.4mm、第二の被覆層の厚さは0.4mmとした。射出成形時の条件(樹脂温度、金型温度、射出圧力、保持圧、冷却時間)は、各材料の界面において、表1に示した各接着強度が得られるように設定した。
【0082】
(2)温度サイクル後塩水噴霧試験
上記で作製した各実施例および比較例にかかる端子付き電線に対して、JIS C 60068−2−14に準拠した温度サイクル試験を行った。この際、端子付き電線を125℃に30分間保持したのち、−40℃に30分間保持する工程を、1サイクルとして、1000サイクルの温度サイクル試験を実施した。
【0083】
上記の温度サイクル試験において、1000サイクルの温度サイクルを経た試料に対して、JIS Z 2371に準拠した塩水噴霧試験を実施して、防食性能を評価した。室温にて100時間の塩水噴霧を行った後に、樹脂被覆部を除去して電気接続部の外観を目視観察した。アルミニウム導体の表面に腐食生成物が確認されなかった場合には、防食性能が高い「A」と判定した。腐食生成物が確認された場合には、防食性能が低い「B」と判定した。
【0084】
(試験結果)
下の表1に、第一の被覆層(第一層)および第二の被覆層(第二層)を構成する樹脂材料の種類とともに、各界面における材料間の接着強度の測定結果を示す。そして、温度サイクル実施後の塩水噴霧による防食試験について、評価結果を示す。
【0085】
【表1】
【0086】
表1によると、第一の被覆層と端子金具の間の界面で1.0MPa以上、第二の被覆層と絶縁被覆の間の界面で0.5MPa以上、さらに第一の被覆層と第二の被覆層の間の界面で1.0MPa以上の接着強度が得られている各実施例においては、温度サイクル実施後に防食試験を行った際に、塩水噴霧による防食試験において、高い防食性能が得られている。このことは、各界面において所定以上の接着強度が確保されていることで、温度サイクルを経ても、各界面で剥離が発生しにくくなっていることを示している。
【0087】
一方、各比較例においては、3つの界面のうち少なくとも1箇所において、上記所定値以上の接着強度が得られていない。具体的には、比較例1,5では、第二の被覆層と絶縁被覆の間、および第一の被覆層と第二の被覆層の間の界面で、比較例2では、第一の被覆層と端子金具の間、および第一の被覆層と第二の被覆層の間の界面で、比較例3,6では、3箇所全ての界面で、比較例4では、第一の被覆層と端子金具の間の界面で、上記所定値以上の接着強度が得られていない。これらに対応し、いずれの比較例においても、温度サイクル実施後の塩水噴霧による防食試験において、防食性能が低いという結果になっている。これは、少なくとも1箇所の界面の接着強度が十分でないことにより、温度サイクルを経て、その界面において、材料の熱膨張・熱収縮による剥離が発生し、塩水の侵入を許す空隙が生じてしまっていることを示している。
【0088】
<界面の状態の観察>
次に、樹脂材料同士が接触している第二の被覆層と絶縁被覆の間の界面、および第一の被覆層と第二の被覆層の間の界面の状態を、断面の顕微鏡観察によって確認した。
【0089】
(試料の作製)
第二の被覆層と絶縁被覆の間の接着部に対応する試料として、PVCシートの表面に、PBT(上記樹脂B1)を射出成形し、試料1とした。また、第一の被覆層と第二の被覆層の間の接着部に対応する試料として、スズめっき銅合金板の表面に、ポリエステル系エラストマー樹脂(上記樹脂A1)を射出成形し、さらにその表面にPBT(上記樹脂B1)を射出成形し、試料2とした。各射出成形時の条件を、下の表2にまとめる。なお、試料2の射出成形の条件は、上記防食性能試験における実施例1に対応するものとなっている。
【0090】
【表2】
【0091】
(顕微鏡観察)
上記試料1および試料2の断面の薄片試料を作製し、透過型電子顕微鏡(TEM)による観察を行った。この際、加速電圧は100kVとした。観察倍率は、8000倍および40000倍とした。
【0092】
(観察結果)
図3に、試料1のPVC/PBT界面のTEM像を示す。(a)が倍率8000倍、(b)が倍率40000倍の像である。画像上方の比較的明るいグレーの層がPBT、下方の比較的暗いグレーの層がPVCに対応している。画像中に白線で囲んで示すように、PVCとPBTの界面に、PBTの層およびPVCの層よりも暗く、厚さ100nm以下程度の、滑らかな凹凸を有する層が観察されている。この層は、PBTとPVCがともに溶融し、相互拡散した状態で固化して形成された融着層であると解釈できる。PVC層と融着層、またPBT層と融着層は、相互に密着しており、PVCとPBTの界面において、融着層を介した強固な接着が達成されていることが確認できる。
【0093】
図4に、試料2のエラストマー/PBT界面のTEM像を示す。(a)が倍率8000倍、(b)が倍率40000倍の像である。画像上方の層がPBT、下方の層がエラストマーに対応している。この試料2においても、試料1の融着層と類似した像を与える融着層が、エラストマーとPBTの界面に形成されており、融着層を介して、強固な接着が達成されていることが確認できる。
【0094】
<樹脂被覆層の形成条件と接着強度の関係の評価>
樹脂被覆部を構成する樹脂被覆層の接着強度と、その樹脂被覆層を形成する際の条件との関係を評価した。
【0095】
(試料の作製)
PVCシートの表面に、PBT(上記樹脂B1)を射出成形し、試料を作製した。射出成形を行う際、表3に示すように、樹脂温度、金型温度、保持圧、接着強度の各条件を変化させて、複数の試料を作製した。いずれの試料においても、射出圧力は120MPaとし、冷却時間は10秒とした。また、PBT層の厚さは2.0mmとした。
【0096】
(接着強度の測定)
上記接着性試験と同様に、室温にて、JIS K 6850に準拠してせん断接着試験を行うことで、各条件で作製した試料の引張せん断接着強度を測定した。
【0097】
(試験結果)
下の表3に、PBT樹脂の成形条件と、測定された接着強度を示す。
【0098】
【表3】
【0099】
表3によると、同じ樹脂材料を用いていても、射出成形時の条件により、接着強度が大きく変化しているのが分かる。条件1〜3では、樹脂温度が相互に異なっており、樹脂温度が高くなるほど、接着強度が上がっている。これは、樹脂温度が高いほど、溶融したPBTの熱によって、PVCとの界面における融着層の形成が起こりやすくなるためであると考えられる。ただし、条件3においては、樹脂温度が高すぎることにより、樹脂被覆部において劣化が発生することが確認されており、条件2のように、樹脂温度を250℃程度に留めておくことが好ましい。
【0100】
条件2,4,5では、金型温度が相互に異なっている。条件4の30℃から条件2の40℃に金型温度を上昇させると、接着強度が上がっている。これは、金型温度が十分に高温になっていることで、射出されたPBTが、十分に高温の状態を維持したままでPVCの表面に到達し、融着層を形成することができるためであると解釈される。一方、さらに条件5の50℃に金型温度を上げても、接着強度は向上していない。これは、PBTを高温に維持した状態でPVC表面に到達させる効果が、飽和に達しているためであると考えられる。
【0101】
条件2,6,7では、保持圧が相互に異なっており、保持圧が高くなるほど、接着強度が上がっている。これは、保持圧が高いほど、PBTがPVCに高圧で押付けられた状態で樹脂材料の固化が進行し、界面における密着性が高くなるためであると考えられる。条件6の保持圧を印加しない状態では、PBTがPVCに対して実質的に接着されない状態となっている。
【0102】
この試験において採用した各条件の中では、第二の被覆層を絶縁被覆に強固に接着させ、かつ材料の変性を防止するという観点から、条件2が最も好ましいと言える。条件2は、上記防食性能試験における実施例1、および顕微鏡観察における試料2の成形条件に対応するものとなっている。
【0103】
以上の結果から、第二の被覆層と絶縁被覆との界面における接着強度が、第二の被覆層を射出成形によって形成する際の条件によって、広範囲で制御できることが分かる。同様に樹脂材料同士が接触する界面である、第一の被覆層と第二の被覆層の間の界面においても、第二の被覆層を射出成形によって形成する際の各条件によって、接着強度を制御できると考えられる。また、第一の被覆層と端子金具の間の界面においても、樹脂材料同士の界面のような融着層は起こらないものの、第一の被覆層を射出成形によって形成する際の各条件によって、接着強度をある程度の範囲で制御できると考えられる。
【0104】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。