【文献】
Bulletin of the Korean Chemical Society,2010年,Vol.31, No.2,p.507-510
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明に係るピロメテン金属錯体、それを含有する発光素子材料、発光素子、表示装置および照明装置の好適な実施の形態を詳細に説明する。ただし、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、目的や用途に応じて種々に変更して実施することができる。
【0022】
<ピロメテン金属錯体>
本発明に係るピロメテン金属錯体は一般式(1)または一般式(2)で表される。
【0024】
Xは、C−R
5またはNである。
R
1〜R
5は、それぞれ同じでも異なっていてもよく、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、複素環基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アルキニル基、アリール基、ヘテロアリール基、水酸基、チオール基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリールエーテル基、アリールチオエーテル基、ハロゲン、シアノ基、アルデヒド基、アシル基、カルボキシル基、エステル基、アミド基、スルホニル基、スルホン酸エステル基、スルホンアミド基、アミノ基、ニトロ基、シリル基、シロキサニル基、ボリル基、ホスフィンオキシド基、および隣接基との間の環構造の中から選ばれる。ただし、R
3とR
4とで環構造が形成される場合、その環構造は単環である。これらの官能基はさらに置換基を有していてもよい。ただしY
1がトリメチレン基である場合、R
1は水素原子およびハロゲンではない。
【0025】
Ar
1およびAr
2は、それぞれ同じでも異なっていてもよく、置換もしくは無置換の芳香族炭化水素環、および置換もしくは無置換の芳香族複素環の中から選ばれる。
【0026】
Y
1は、3個以上の原子が直列に結合した架橋構造であり、前記原子が、置換もしくは無置換の炭素原子、置換もしくは無置換のケイ素原子、置換もしくは無置換の窒素原子、置換もしくは無置換のリン原子、酸素原子、および硫黄原子の中から選ばれる。さらにこれらの原子は隣接原子との間に二重結合を形成してもよい。
【0027】
Z
1は、1個以上の原子が結合した架橋構造であり、前記原子が、置換もしくは無置換の炭素原子、置換もしくは無置換のケイ素原子、置換もしくは無置換の窒素原子、置換もしくは無置換のリン原子、酸素原子、および硫黄原子の中から選ばれる。さらにこれらの原子は隣接原子との間に二重結合を形成してもよい。
【0028】
Mはm価の金属を表し、ホウ素、ベリリウム、マグネシウム、亜鉛、クロム、鉄、コバルト、ニッケル、銅、マンガン、白金から選ばれる少なくとも1種である。
【0029】
Lはそれぞれ同じでも異なっていてもよくアルキル基、シクロアルキル基、複素環基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アルキニル基、水酸基、チオール基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリールエーテル基、アリールチオエーテル基、アリール基、ヘテロアリール基、ハロゲン、およびシアノ基の中から選ばれる。これらの官能基はさらに置換基を有していてもよい。
【0030】
本発明においては、Xが炭素原子である一般式(3)で表されるピロメテン骨格を有するもの、およびXが窒素原子である一般式(4)で表されるアザピロメテン骨格を有するものを合わせて「ピロメテン」と称する。
【0032】
また、ピロメテン骨格またはアザピロメテン骨格の一部に縮環構造を有し、環構造が広がっているものも含めて「ピロメテン」と称する。
【0033】
また、全ての基において、水素は重水素であってもよい。以下に説明する化合物またはその部分構造においても同様である。
【0034】
また、以下の説明において、例えば炭素数6〜40の置換もしくは無置換のアリール基とは、アリール基に結合した置換基に含まれる炭素数も含めて6〜40であり、炭素数を規定している他の置換基もこれと同様である。
【0035】
また、上記の全ての基において、置換される場合における置換基としては、アルキル基、シクロアルキル基、複素環基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アルキニル基、アリール基、ヘテロアリール基、水酸基、チオール基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリールエーテル基、アリールチオエーテル基、ハロゲン、シアノ基、アルデヒド基、アシル基、カルボキシル基、エステル基、アミド基、アシル基、スルホニル基、スルホン酸エステル基、スルホンアミド基、アミノ基、ニトロ基、シリル基、シロキサニル基、ボリル基、ホスフィンオキシド基、オキソ基が好ましく、さらには、各置換基の説明において好ましいとする具体的な置換基が好ましい。また、これらの置換基は、さらに上述の置換基により置換されていてもよい。
【0036】
「置換もしくは無置換の」という場合における「無置換」とは、水素原子または重水素原子が置換したことを意味する。
【0037】
以下に説明する化合物またはその部分構造において、「置換もしくは無置換の」という場合についても、上記と同様である。
【0038】
アルキル基とは、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基などの飽和脂肪族炭化水素基を示し、これは置換基を有していても有していなくてもよい。置換されている場合の追加の置換基には特に制限は無く、例えば、アルキル基、ハロゲン、アリール基、ヘテロアリール基等を挙げることができ、この点は、以下の記載にも共通する。ハロゲンで置換されたアルキル基は、ハロアルキル基とも称される。また、アルキル基の炭素数は特に限定されないが、入手の容易性やコストの点から、好ましくは1以上20以下、より好ましくは1以上8以下の範囲である。
【0039】
シクロアルキル基とは、例えば、シクロプロピル基、シクロヘキシル基、ノルボルニル基、アダマンチル基などの飽和脂環式炭化水素基を示し、これは置換基を有していても有していなくてもよい。ハロゲンで置換されたシクロアルキル基は、シクロハロアルキル基とも称される。アルキル基部分の炭素数は特に限定されないが、好ましくは、3以上20以下の範囲である。
【0040】
複素環基とは、例えば、ピラン環、ピペリジン環、環状アミドなどの炭素以外の原子を環内に有する脂肪族環を示し、これは置換基を有していても有していなくてもよい。複素環基の炭素数は特に限定されないが、好ましくは、2以上20以下の範囲である。
【0041】
アルケニル基とは、例えば、ビニル基、アリル基、ブタジエニル基などの二重結合を含む不飽和脂肪族炭化水素基を示し、これは置換基を有していても有していなくてもよい。アルケニル基の炭素数は特に限定されないが、好ましくは、2以上20以下の範囲である。
【0042】
シクロアルケニル基とは、例えば、シクロペンテニル基、シクロペンタジエニル基、シクロヘキセニル基などの二重結合を含む不飽和脂環式炭化水素基を示し、これは置換基を有していても有していなくてもよい。
【0043】
アルキニル基とは、例えば、エチニル基などの三重結合を含む不飽和脂肪族炭化水素基を示し、これは置換基を有していても有していなくてもよい。アルキニル基の炭素数は特に限定されないが、好ましくは、2以上20以下の範囲である。
【0044】
アリール基とは、例えば、フェニル基、ビフェニル基、ターフェニル基、ナフチル基、フルオレニル基、ベンゾフルオレニル基、ジベンゾフルオレニル基、フェナントリル基、アントラセニル基、ベンゾフェナントリル基、ベンゾアントラセニル基、クリセニル基、ピレニル基、フルオランテニル基、トリフェニレニル基、ベンゾフルオランテニル基、ジベンゾアントラセニル基、ペリレニル基、ヘリセニル基などの芳香族炭化水素基を示す。中でも、フェニル基、ビフェニル基、ターフェニル基、ナフチル基、フルオレニル基、フェナントリル基、アントラセニル基、ピレニル基、フルオランテニル基、トリフェニレニル基が好ましい。アリール基は、置換基を有していても有していなくてもよい。ハロゲンで置換されたアリール基は、ハロアリール基とも称される。アリール基の炭素数は特に限定されないが、好ましくは6以上40以下、より好ましくは6以上30以下の範囲である。
【0045】
また、置換のフェニル基においては、そのフェニル基中の隣接する2つの炭素原子上に各々置換基がある場合、それらの置換基同士で環構造を形成していてもよい。その結果としてできた基は、その構造に応じて、「置換のフェニル基」、「2つ以上の環が縮環した構造を有するアリール基」、「2つ以上の環が縮環した構造を有するヘテロアリール基」のいずれか1つ以上に該当しうる。
【0046】
ヘテロアリール基とは、例えば、ピリジル基、フラニル基、チオフェニル基、キノリニル基、イソキノリニル基、ピラジニル基、ピリミジル基、ピリダジニル基、トリアジニル基、ナフチリジニル基、シンノリニル基、フタラジニル基、キノキサリニル基、キナゾリニル基、ベンゾフラニル基、ベンゾチオフェニル基、インドリル基、ジベンゾフラニル基、ジベンゾチオフェニル基、カルバゾリル基、ベンゾカルバゾリル基、カルボリニル基、インドロカルバゾリル基、ベンゾフロカルバゾリル基、ベンゾチエノカルバゾリル基、ジヒドロインデノカルバゾリル基、ベンゾキノリニル基、アクリジニル基、ジベンゾアクリジニル基、ベンゾイミダゾリル基、イミダゾピリジル基、ベンゾオキサゾリル基、ベンゾチアゾリル基、フェナントロリニル基などの、炭素以外の原子を一個または複数個環内に有する環状芳香族基を示す。ただし、ナフチリジニル基とは、1,5−ナフチリジニル基、1,6−ナフチリジニル基、1,7−ナフチリジニル基、1,8−ナフチリジニル基、2,6−ナフチリジニル基、2,7−ナフチリジニル基のいずれかを示す。ヘテロアリール基は置換基を有していても有していなくてもよい。ヘテロアリール基の炭素数は特に限定されないが、好ましくは、2以上40以下、より好ましくは2以上30以下の範囲である。
【0047】
アルコキシ基とは、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基などのエーテル結合を介して脂肪族炭化水素基が結合した官能基を示し、この脂肪族炭化水素基は置換基を有していても有していなくてもよい。ハロゲンで置換されたアルコキシ基は、ハロアルコキシ基とも称される。アルコキシ基の炭素数は特に限定されないが、好ましくは、1以上20以下の範囲である。
【0048】
アルキルチオ基とは、アルコキシ基のエーテル結合の酸素原子が硫黄原子に置換されたものである。アルキルチオ基の炭化水素基は置換基を有していても有していなくてもよい。アルキルチオ基の炭素数は特に限定されないが、好ましくは、1以上20以下の範囲である。
【0049】
アリールエーテル基とは、例えば、フェノキシ基など、エーテル結合を介して芳香族炭化水素基が結合した官能基を示し、芳香族炭化水素基は置換基を有していても有していなくてもよい。ハロゲンで置換されたアリールエーテル基は、ハロアリールエーテル基とも称される。アリールエーテル基の炭素数は特に限定されないが、好ましくは、6以上40以下の範囲である。
【0050】
アリールチオエーテル基とは、アリールエーテル基のエーテル結合の酸素原子が硫黄原子に置換されたものである。アリールチオエーテル基における芳香族炭化水素基は置換基を有していても有していなくてもよい。アリールチオエーテル基の炭素数は特に限定されないが、好ましくは、6以上40以下の範囲である。
【0051】
ハロゲンとは、フッ素、塩素、臭素およびヨウ素から選ばれる原子を示す。
【0052】
シアノ基とは、構造が−C≡Nで表される官能基である。ここで他の官能基と結合するのは炭素原子である。
【0053】
アルデヒド基とは、構造が−C(=O)Hで表される官能基である。ここで他の官能基と結合するのは炭素原子である
アシル基とは、例えばアセチル基、プロピオニル基、ベンゾイル基、アクリリル基など、カルボニル基を介してアルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、ヘテロアリール基が結合した官能基を示し、これらの置換基はさらに置換されていてもよい。アシル基の炭素数は特に限定されないが、好ましくは、2以上40以下、より好ましくは2以上30以下である。
【0054】
エステル基とは、例えば、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基などがエステル結合を介して結合した官能基を示し、これらの置換基はさらに置換されていてもよい。エステル基の炭素数は特に限定されないが、好ましくは、1以上20以下の範囲である。より具体的には、メトキシカルボニル基などのメチルエステル基、エトキシカルボニル基などのエチルエステル基、プロポキシカルボニル基などのプロピルエステル基、ブトキシカルボニル基などのブチルエステル基、イソプロポキシメトキシカルボニル基などのイソプロピルエステル基、ヘキシロキシカルボニル基などのヘキシルエステル基、フェノキシカルボニル基などのフェニルエステル基などが挙げられる。
【0055】
アミド基とは、例えば、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基などがアミド結合を介して結合した官能基を示し、これらの置換基はさらに置換されていてもよい。アミド基の炭素数は特に限定されないが、好ましくは、1以上20以下の範囲である。より具体的には、メチルアミド基、エチルアミド基、プロピルアミド基、ブチルアミド基、イソプロピルアミド基、ヘキシルアミド基、フェニルアミド基などが挙げられる。
【0056】
スルホニル基とは、例えば、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基などが−S(=O)
2−結合を介して結合した官能基を示し、これらの置換基はさらに置換されていてもよい。スルホニル基の炭素数は特に限定されないが、好ましくは、1以上20以下の範囲である。
【0057】
スルホン酸エステル基とは、例えば、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基などがスルホン酸エステル結合を介して結合した官能基を示す。ここでスルホン酸エステル結合とは、エステル結合のカルボニル部、すなわち−C(=O)−がスルホニル部、すなわち−S(=O)
2−に置換されたものを指す。また、これらの置換基はさらに置換されていてもよい。スルホン酸エステル基の炭素数は特に限定されないが、好ましくは、1以上20以下の範囲である。
【0058】
スルホンアミド基とは、例えば、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基などがスルホンアミド結合を介して結合した官能基を示す。ここでスルホンアミド結合とは、エステル結合のカルボニル部、すなわち−C(=O)−がスルホニル部、すなわち−S(=O)
2−に置換されたものを指す。また、これらの置換基はさらに置換されていてもよい。スルホンアミド基の炭素数は特に限定されないが、好ましくは、1以上20以下の範囲である。
【0059】
アミノ基とは、置換もしくは無置換のアミノ基である。置換する場合の置換基としては、例えば、アリール基、ヘテロアリール基、直鎖アルキル基、分岐アルキル基が挙げられる。アリール基、ヘテロアリール基としては、フェニル基、ナフチル基、ピリジル基、キノリニル基が好ましい。これら置換基はさらに置換されてもよい。炭素数は特に限定されないが、好ましくは、2以上50以下、より好ましくは6以上40以下、特に好ましくは6以上30以下の範囲である。
【0060】
シリル基とは、置換もしくは無置換のケイ素原子が結合した官能基を示し、例えば、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、tert−ブチルジメチルシリル基、プロピルジメチルシリル基、ビニルジメチルシリル基などのアルキルシリル基や、フェニルジメチルシリル基、tert−ブチルジフェニルシリル基、トリフェニルシリル基、トリナフチルシリル基などのアリールシリル基を示す。ケイ素上の置換基はさらに置換されてもよい。シリル基の炭素数は特に限定されないが、好ましくは、1以上30以下の範囲である。
【0061】
シロキサニル基とは、例えばトリメチルシロキサニル基などのエーテル結合を介したケイ素化合物基を示す。ケイ素上の置換基はさらに置換されてもよい。
【0062】
ボリル基とは、置換もしくは無置換のボリル基である。置換する場合の置換基としては、例えば、アリール基、ヘテロアリール基、直鎖アルキル基、分岐アルキル基、アリールエーテル基、アルコキシ基、ヒドロキシル基が挙げられ、中でもアリール基、アリールエーテル基が好ましい。
【0063】
ホスフィンオキシド基とは、−P(=O)R
60R
61で表される基である。R
60R
61はそれぞれ同じでも異なっていてもよく、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、複素環基、アリール基、ヘテロアリール基、水酸基、チオール基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリールエーテル基、アリールチオエーテル基、ハロゲン、シアノ基、アシル基、エステル基、アミド基および隣接基との間の環構造の中から選ばれる。
【0064】
オキソ基とは、炭素原子に対し酸素原子が二重結合で結合、すなわち=Oの構造となる官能基である。
【0065】
一般式(1)または一般式(2)で表される化合物は、ピロメテン化合物がm価の金属Mに配位した錯体である。金属の原子価mはそれぞれの金属原子が取り得る原子価であれば特に限定されないが、安定した配位状態が形成できる観点から、mの値は2〜4であることが好ましく、3であることがさらに好ましい。また、金属Mは上記の中から選ばれるが、色度や発光効率などの発光特性、昇華精製や蒸着における熱的安定性、素子の耐久性、および合成の容易さの観点から、Mはホウ素であることが好ましい。
【0066】
Lは金属Mに対するピロメテン以外の配位子を示す。Lは上記の中から選ばれるが、発光特性と熱的安定性の観点から、アルコキシ基、アリールエーテル基、ハロゲン、シアノ基であることが好ましい。また、励起状態が安定でより高い蛍光量子収率が得られる観点、および耐久性を向上させることができる観点から、フッ素原子、含フッ素アルキル基、含フッ素アルコキシ基、含フッ素アリール基、シアノ基であることがより好ましく、フッ素原子またはシアノ基であることがさらに好ましく、フッ素原子であることが最も好ましい。これらは電子求引性基であり、ピロメテン骨格の電子密度を下げ化合物の安定性を増すことができる。
【0067】
また、mが3以上である場合、すなわち2つ以上のLがMに結合している場合、それぞれのLは同一でも異なっていてもよいが、合成の容易さの観点から、同一であることが好ましい。
【0068】
ピロメテン金属錯体は、強固で平面性の高い骨格を有するため、高い蛍光量子収率を示す。また、発光スペクトルのピーク半値幅が小さいため、効率的な発光と高い色純度を達成することができる。
【0069】
このようなピロメテン金属錯体を赤色発光させるには、芳香族炭化水素環または芳香族複素環をピロメテン金属錯体骨格に直接結合させることにより、共役を拡張させ、発光を長波長化する方法が挙げられる。しかし、それらの環が単にピロメテン金属錯体骨格に結合しているだけでは、励起状態において複数の安定な構造へ変化する(以下、構造緩和)ため、様々なエネルギー状態からの発光を伴い失活する。この場合、発光スペクトルはブロードとなって半値幅が大きくなり、色純度が低下するという問題があった。このように、ピロメテン金属錯体により赤色発光材料を得る場合、特性向上のためには分子設計上の工夫が必要である。
【0070】
そこで、本発明では一般式(1)または一般式(2)で示すように、ピロメテン骨格のピロール環とAr
1との間に架橋構造Y
1を導入している。Ar
1は上記で説明した芳香族炭化水素環または芳香族複素環であり、ピロメテン金属錯体骨格に直接結合している。一般式(1)または一般式(2)においてAr
1の一部として示される二重結合は、芳香環の一部を表しており、ピロメテン骨格に直接結合している炭素原子と、架橋構造Y
1が結合している炭素原子とが隣接していることを示している。
【0071】
架橋構造の導入により芳香族炭化水素環または芳香族複素環の回転および振動が制限され、これにより、ピロメテン金属錯体の励起状態での過度な構造緩和を抑制することができるため、発光スペクトルがシャープになる(発光スペクトルの半値幅は小さくなる)。これを発光材料に用いた場合、色純度の良い発光を得ることができる。
【0072】
しかしながら、架橋構造が1個の原子または直列する2個の原子で構成されている場合、ピロメテン金属錯体骨格と芳香族炭化水素環または芳香族複素環の平面性が高くなりすぎるため、共役が広がって発光ピーク波長が過度に長くなり、狙いとする色度を達成することが困難となる。発光スペクトルの狭幅化と発光ピーク波長の調整を両立するためには、ピロメテン金属錯体骨格と芳香族炭化水素環または芳香族複素環とが、ややねじれた状態で固定されることが好ましい。この理由により、Y
1は3個以上の原子が直列に結合した架橋構造である。一方、架橋構造が長すぎると分子内の回転や振動の制限が緩くなり構造緩和が起きやすくなるため、色純度が低下する。また、歪みの大きい構造であるため合成が困難になる。この観点から、当該直列に結合する原子の数は、5個以下であることが好ましく、さらにY
1は3個の原子が直列に結合した架橋構造であることが好ましい。
【0073】
Y
1を構成する原子は上記で説明したとおりであるが、これらのうち、熱的安定性および合成の容易さの観点から、置換もしくは無置換の炭素原子、酸素原子、および硫黄原子の中から選ばれることが好ましく、置換もしくは無置換の炭素原子であることがより好ましい。
【0074】
さらに、発光特性の観点から、Y
1は一般式(5A)または一般式(5B)で表される構造であることが好ましい。
【0076】
*はピロール環との連結部を示し、**はAr
1との連結部を示す。R
11〜R
16は、それぞれ同じでも異なっていてもよく、一般式(1)または一般式(2)におけるR
1〜R
5と同じ官能基群およびオキソ基の中から選ばれる。特に、熱的安定性、または合成の容易さの観点から、R
11〜R
16は、水素原子、アルキル基およびオキソ基の中から選ばれることが好ましい。
【0077】
一般式(2)におけるZ
1は、ピロメテン骨格において、Y
1が連結しているピロール環ではないもう一方のピロール環とAr
2との間で連結している架橋構造である。Ar
2は上記で説明した芳香族炭化水素環または芳香族複素環であり、ピロメテン金属錯体骨格に直接結合している。一般式(2)においてAr
2の一部として示される二重結合は、芳香環の一部を表しており、ピロメテン骨格に直接結合している炭素原子と架橋構造Z
1が結合している炭素原子が隣接していることを示している。
【0078】
Z
1は1個以上の原子が結合した架橋構造であり、色純度および合成の容易さの観点から1〜3個の原子が直列に結合していることが好ましい。
【0079】
Z
1を構成する原子は上記で説明したとおりであるが、これらのうち、熱的安定性および合成の容易さの観点から、置換もしくは無置換の炭素原子、酸素原子、および硫黄原子の中から選ばれることが好ましく、置換もしくは無置換の炭素原子であることがより好ましい。
【0080】
Xは前記のようにC−R
5またはNの中から選ばれる。ここで表示装置や照明装置として本発明の発光材料を使用する場合には、赤色発光として適切な色度に制御しやすい、という観点から、XはC−R
5であることが好ましい。
【0081】
R
5は前記の官能基群の中から選ばれるが、電気的安定性または熱的安定性の観点から、水素原子、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換のヘテロアリール基が好ましく、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換のヘテロアリール基がより好ましい。具体的には、置換もしくは無置換のフェニル基、置換もしくは無置換のナフチル基、置換もしくは無置換のフェナントリル基、置換もしくは無置換のアントリル基、または置換もしくは無置換のジベンゾフラニル基が挙げられ、置換もしくは無置換のフェニル基、置換もしくは無置換のナフチル基がより好ましい。
【0082】
また、発光効率向上のためにはピロメテンホウ素錯体の橋頭位にある置換基の回転・振動を抑制し、エネルギー損失を減少させて蛍光量子収率を向上させることが有効である。この観点から、R
5は一般式(6)で表される基であることが好ましい。
【0084】
***は炭素原子との結合部を示す。R
51およびR
52はそれぞれ同じでも異なっていてもよく、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基または置換もしくは無置換のヘテロアリール基の群の中から選ばれ、製造の容易さの観点から置換もしくは無置換のアルキル基であることが好ましく、メチル基であることがより好ましい。一方、回転抑制効果がより大きく蛍光量子収率向上に有利であることから、R
51またはR
52の少なくとも一方が置換もしくは無置換のアリール基または置換もしくは無置換のヘテロアリール基であることが好ましい。R
53〜R
55はそれぞれ同じでも異なっていてもよく、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、複素環基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アルキニル基、アリール基、ヘテロアリール基、水酸基、チオール基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリールエーテル基、アリールチオエーテル基、ハロゲン、シアノ基、アルデヒド基、アシル基、カルボキシル基、エステル基、アミド基、スルホニル基、スルホン酸エステル基、スルホンアミド基、アミノ基、ニトロ基、シリル基、および隣接基との間の環構造の中から選ばれる。これらの官能基はさらに置換基を有していてもよい。特に発光ピーク波長に影響を与えるのはR
54であり、R
54が電子供与性基であれば発光ピーク波長は短波長側にシフトし、電子求引性基であれば発光ピーク波長は長波長側にシフトする。具体的には電子供与性基としてメチル基、エチル基、tert−ブチル基、シクロヘキシル基、メトキシ基、エトキシ基、フェニル基、トリル基、ナフチル基、フラニル基、ジベンゾフラニル基などが例示され、電子求引性基としてフッ素原子、トリフルオロメチル基、シアノ基、ピリジル基、ピリミジル基などが例示されるが、これらに限定されるものではない。
【0085】
一般式(1)および一般式(2)のR
1は、ピロメテン金属錯体化合物の安定性および発光効率に寄与する置換基である。ここで安定性とは電気的安定性および熱的安定性を指す。電気的安定性は素子に連続通電した状態で分解などの化合物の変質が起こらないことであり、熱的安定性は昇華精製や蒸着などの加熱工程や素子周辺の環境温度により化合物の変質が起こらないことである。化合物が変質すると発光効率が低下するため、化合物の安定性は発光素子の耐久性向上にとって重要である。Y
1がトリメチレンであって、かつR
1が水素原子またはハロゲンである場合、化合物の安定性と発光効率が大きく低下するため、本発明のピロメテン金属錯体はそのような場合を含まない。
【0086】
R
1は上記の官能基群の中から選ばれるが、化合物の安定性の観点から、R
1は置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換のヘテロアリール基が好ましい。化合物の安定性と発光効率の観点から、R
1は置換もしくは無置換のアリール基であることがより好ましい。R
1の具体例としては、置換もしくは無置換のフェニル基、置換もしくは無置換のナフチル基が例示される。
【0087】
また、ピロメテン金属錯体同士の凝集を防ぎ、濃度消光を回避する観点から、R
1はアルキル基またはアリール基を置換基として有することが好ましい。置換基の具体例としては、メチル基、エチル基、イソプロピル基、tert−ブチル基、フェニル基が例示される。
【0088】
また、R
1と同様の理由から、一般式(1)および一般式(2)におけるR
2は、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換のヘテロアリール基が好ましく、置換もしくは無置換のアリール基がより好ましい。R
2の具体例としては、置換もしくは無置換のフェニル基、置換もしくは無置換のナフチル基が例示される。また、R
2はアルキル基またはアリール基を置換基として有することが好ましい。置換基の具体例としては、メチル基、エチル基、イソプロピル基、tert−ブチル基、フェニル基が例示される。
【0089】
一般式(1)におけるR
3は、色度などの光学的特性または合成容易性の観点から、水素原子、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基であることが好ましい。
【0090】
一般式(1)におけるR
4は、色度などの光学的特性の観点から、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換のヘテロアリール基であることが好ましい。
【0091】
また、発光スペクトルを長波長化し、かつ色純度のより高い赤色発光を得る観点から、別の好ましい例として、一般式(1)において、R
2とR
3との間、またはR
3とR
4との間で環構造を形成することが挙げられる。ただし、発光スペクトルが過度に長波長化することを防ぐため、R
3とR
4との間で形成される環構造は単環である。特にこれらの環構造とピロールが縮合芳香環を形成することがより好ましい。縮合芳香環の具体例として、インドール環、イソインドール環、ピロロピロール環、フロピロール環、チエノピロール環が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0092】
一般式(1)または一般式(2)で表されるピロメテン金属錯体の分子量は特に限定されないが、発光素子材料として使用する場合には蒸着工程が容易になる範囲内にあることが好ましい。具体的には、安定な蒸着レートが得られる観点から、一般式(1)または一般式(2)で表されるピロメテン金属錯体の分子量は500以上であることが好ましく、600以上であることがより好ましく、700以上であることがさらに好ましい。また蒸着温度が高くなり過ぎて分解するのを防ぐ観点から、分子量は1200以下であることが好ましく、1000以下であることがより好ましい。
【0093】
また、本発明のピロメテン金属錯体は、よりシャープな発光スペクトルが得られ、色純度および発光効率をより向上できる観点から、一般式(2)で表されるピロメテン金属錯体であることが好ましい。
【0094】
本発明のピロメテン金属錯体として、例えば下記一般式(7A)〜(7M)のいずれかで表される化合物であることが好ましい。
【0097】
R
21〜R
25は、それぞれ同じでも異なっていてもよく、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、複素環基、アリール基、およびヘテロアリール基の中から選ばれる。これらの官能基はさらに置換基を有していてもよい。ただしR
101〜R
106がすべて水素原子である場合、R
21は水素原子ではない。
【0098】
これらのうち、R
21およびR
23は、電気的安定性または熱的安定性の観点から、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換のヘテロアリール基が好ましく、置換もしくは無置換のアリール基がより好ましい。R
22は電気的安定性または熱的安定性の観点から、水素原子、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換のヘテロアリール基が好ましく、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換のヘテロアリール基がより好ましい。R
24およびR
25は、色度などの光学的特性または合成容易性の観点から、水素原子、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基が好ましい。
【0099】
R
31〜R
39は、それぞれ同じでも異なっていてもよく、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、複素環基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アルキニル基、アリール基、ヘテロアリール基、水酸基、チオール基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリールエーテル基、アリールチオエーテル基、ハロゲン、シアノ基、アルデヒド基、アシル基、カルボキシル基、エステル基、アミド基、スルホニル基、スルホン酸エステル基、スルホンアミド基、アミノ基、ニトロ基、シリル基、シロキサニル基、ボリル基、ホスフィンオキシド基、および隣接基との間の環構造の中から選ばれる。これらの官能基はさらに置換基を有していてもよい。またこれらの官能基は、蒸着特性や発光効率の観点から、水素原子、アルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、アルコキシ基が好ましい。
【0100】
R
101〜R
118は、それぞれ同じでも異なっていてもよく、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、複素環基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アルキニル基、アリール基、ヘテロアリール基、水酸基、チオール基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリールエーテル基、アリールチオエーテル基、ハロゲン、シアノ基、アルデヒド基、アシル基、カルボキシル基、エステル基、アミド基、スルホニル基、スルホン酸エステル基、スルホンアミド基、アミノ基、ニトロ基、シリル基、シロキサニル基、ボリル基、ホスフィンオキシド基、オキソ基の中から選ばれる。これらの官能基はさらに置換基を有していてもよい。また、R
101〜R
106の中から選ばれる任意の2個の置換基の間、またはR
107〜R
112の中から選ばれる任意の2個の置換基の間、またはR
113〜R
116の中から選ばれる任意の2個の置換基の間、またはR
117とR
118の間で環構造を形成してもよい。これらの中では、熱的安定性および合成の容易さの観点から、水素原子、アルキル基、オキソ基の中から選ばれることが好ましい。
【0101】
R
201〜R
202は、それぞれ同じでも異なっていてもよく、アルキル基、シクロアルキル基、複素環基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アルキニル基、水酸基、チオール基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリールエーテル基、アリールチオエーテル基、アリール基、ヘテロアリール基、ハロゲン、およびシアノ基の中から選ばれる。これらの官能基はさらに置換基を有していてもよい。
【0102】
これらの中では発光特性と熱的安定性の観点から、アルコキシ基、アリールエーテル基、ハロゲン、シアノ基であることが好ましい。また、励起状態が安定でより高い蛍光量子収率が得られる観点、および耐久性を向上させることができる観点から、フッ素原子、含フッ素アルキル基、含フッ素アルコキシ基、含フッ素アリール基、シアノ基であることがより好ましく、フッ素原子またはシアノ基であることがさらに好ましく、フッ素原子であることが最も好ましい。
【0103】
Ar
3およびAr
4は、それぞれ同じでも異なっていてもよく、置換もしくは無置換の芳香族炭化水素環、および置換もしくは無置換の芳香族複素環の中から選ばれる。
【0104】
一般式(1)または一般式(2)で表される化合物の一例を以下に示すが、これらに限定されるものではない。
【0119】
<ピロメテン化合物>
一般式(1)および一般式(2)で表されるピロメテン金属錯体の錯形成前の化合物として、それぞれ一般式(8)および一般式(9)で表されるピロメテン化合物が挙げられる。
【0121】
一般式(8)および一般式(9)は、錯体を形成していない点を除いて一般式(1)および一般式(2)とそれぞれ共通する。X、R
1〜R
5、Ar
1〜Ar
2、Y
1およびZ
1の詳細な説明は、一般式(1)および一般式(2)におけるものと同様である。
【0122】
一般式(1)または一般式(2)で表されるピロメテン金属錯体は、J. Org. Chem., vol.64, No.21, pp.7813-7819 (1999)、Angew. Chem., Int. Ed. Engl., vol.36, pp.1333-1335 (1997)、Org. Lett., vol.12, pp.296 (2010)などに記載されている方法を参考に製造することができる。
【0123】
以下にピロメテン金属錯体の製造方法の具体例を挙げるが、これに限定されるものではない。
【0124】
下記一般式(10)で表される化合物と、一般式(11A)または一般式(11B)で表される化合物とを、オキシ塩化リン存在下、1,2−ジクロロエタン中で加熱することによって、錯形成前の化合物であるピロメテン化合物を得ることができる。次に、得られたピロメテン化合物に、下記一般式(12)で表される金属化合物をトリエチルアミン存在下、1,2−ジクロロエタン中で反応させることにより、目的のピロメテン金属錯体を得ることができる。ここで、R
1〜R
5、Ar
1、Ar
2、Y
1、Z
1、M、L、mは前記と同様である。Jはハロゲンを表す。
【0126】
さらに、ピロメテン骨格にアリール基やヘテロアリール基を導入するには、例えば、パラジウムなどの金属触媒下で、ピロメテン化合物のハロゲン化誘導体とボロン酸あるいはボロン酸エステル誘導体とのカップリング反応を用いて炭素−炭素結合を生成する方法が挙げられるが、これに限定されるものではない。同様に、ピロメテン骨格にアミノ基やカルバゾリル基を導入するには、例えば、パラジウムなどの金属触媒下で、ピロメテン化合物のハロゲン化誘導体とアミンあるいはカルバゾール誘導体とのカップリング反応を用いて炭素−窒素結合を生成する方法が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0127】
一般式(1)または一般式(2)で表されるピロメテン金属錯体は上記のピロメテン化合物にハロゲン化金属を反応させることなどにより製造される。得られたピロメテン金属錯体は、再結晶やカラムクロマトグラフィーなどの有機合成的な精製を行ったのち、さらに一般的に昇華精製と呼ばれる減圧加熱による精製により低沸点成分を除去し、純度を向上させることが好ましい。昇華精製における加熱温度は特に限定されないが、ピロメテン金属錯体の熱分解を防ぐ観点から330℃以下が好ましく、300℃以下がより好ましい。また蒸着時に蒸着レートを管理しやすくする観点から230℃以上が好ましく、250℃以上がより好ましい。
【0128】
この様にして製造されたピロメテン金属錯体の純度は、発光素子が安定した特性を示すことが可能となる観点から99重量%以上であることが好ましい。
【0129】
一般式(1)または一般式(2)で表されるピロメテン金属錯体の光学特性は希釈溶液の吸収スペクトルおよび発光スペクトルを測定することで得られる。溶媒としてはピロメテン金属錯体を溶解し、かつ溶媒の吸収スペクトルがピロメテン金属錯体の吸収スペクトルと重ならない透明なものであれば特に限定されず、具体的にはトルエンなどが例示される。溶液の濃度は十分な吸光度があり、かつ濃度消光が起きない濃度範囲であれば特に限定されないが、1×10−
4mol/L〜1×10
−7mol/Lの範囲であることが好ましく、1×10−
5mol/L〜1×10
−6mol/Lの範囲であることがより好ましい。吸収スペクトルは一般的な紫外可視分光光度計により測定できる。また発光スペクトルは一般的な蛍光分光光度計により測定できる。さらに蛍光量子収率の測定には積分球を用いた絶対量子収率測定装置を利用することが好ましい。
【0130】
一般式(1)または一般式(2)で表されるピロメテン金属錯体は、励起光を用いることによりピーク波長が580nm以上750nm以下の領域に観測される発光を呈することが好ましい。以後、ピーク波長が580nm以上750nm以下の領域に観測される発光を「赤色の発光」という。
【0131】
本発明のピロメテン金属錯体を表示装置または照明装置に使用する場合には、色域を拡大し色再現性を向上させる観点から、ピーク波長は600nm以上640nm以下の領域であることが好ましく、600nm以上630nm以下の領域であることがより好ましい。
【0132】
一方、本発明のピロメテン金属錯体を蛍光プローブとしてバイオイメージングに使用する場合には、生体内での吸収が小さく透過性が高くなる観点から発光スペクトルのピーク波長が650〜750nmであることが好ましく、700〜750nmであることがより好ましい。
【0133】
一般式(1)または一般式(2)で表されるピロメテン金属錯体は、波長430nm以上600nm以下の範囲の励起光を用いることにより赤色の発光を呈することが好ましい。一般式(1)または一般式(2)で表されるピロメテン金属錯体を発光素子のドーパント材料として用いた場合、ホスト材料からの発光を吸収することでピロメテン金属錯体が赤く発光する。一般的なホスト材料は波長430nm以上580nm以下の範囲に発光をもつため、この励起光で赤色の発光を示すことができれば、発光素子の高効率化に寄与する。
【0134】
一般式(1)または一般式(2)で表されるピロメテン金属錯体を表示装置または照明装置に使用する場合、励起光の照射により発せられる光は、高色純度を実現するため発光スペクトルがシャープであることが好ましい。この観点から、発光スペクトルの半値幅は40nm以下であることが好ましい。
【0135】
一方、本発明のピロメテン金属錯体を蛍光プローブとしてバイオイメージングに使用する場合、発光スペクトルの半値幅が狭いと蛍光プローブ種の分離が容易になるため、複数種の蛍光プローブを同時に評価することができる。この観点から発光スペクトルの半値幅は上記と同様、40nm以下であることが好ましい。
【0136】
発光素子の発光効率は、発光材自身の蛍光量子収率に依存する。そのため可能な限り100%に近い蛍光量子収率であることが望まれる。以上の観点から、本発明のピロメテン金属錯体の蛍光量子収率は90%以上であることが好ましく、95%以上であることがより好ましい。ただし、ここで示す蛍光量子収率はトルエンを溶媒とした希釈溶液を絶対量子収率測定装置で測定したものである。
【0137】
一般式(1)または一般式(2)で表されるピロメテン金属錯体は、発光素子において薄膜形式で使用されること、特にドーパントとして使用されることが想定されている。以上より一般式(1)または一般式(2)で表されるピロメテン金属錯体をドープした薄膜(以下、ドープ薄膜とする)における光学特性を評価することが好ましい。
【0138】
ドープ薄膜は可視領域に吸収のない透明基板上に、マトリクス材料と、一般式(1)または一般式(2)で表されるピロメテン金属錯体を共蒸着して形成される。ここでマトリクス材料としては、励起光の吸収がないワイドバンドギャップ材料が用いられ、具体的にはmCBPが例示される。一般式(1)または一般式(2)で表されるピロメテン金属錯体のドープ濃度は発光素子におけるドープ濃度と同等であることが好ましく、0.1〜20重量%の範囲から選ばれることが好ましい。ドープ薄膜の膜厚は、励起光を十分吸収しかつ製造が容易であれば特に限定されないが、100〜1000nmの範囲内であることが好ましい。またドープ薄膜を形成後に透明封止樹脂で封止してもよい。
【0139】
ドープ薄膜からの発光波長は、溶液状態と同等かもしくはより長波長になる傾向が一般的に見られる。そのため一般式(1)または一般式(2)で表されるピロメテン金属錯体を含むドープ薄膜の発光ピーク波長は580nm以上750nm以下の領域であることが好ましく、600nm以上650nm以下の領域であることがより好ましく、600nm以上640nm以下の領域であることがさらに好ましい。
【0140】
ドープ薄膜の発光スペクトルの半値幅は、溶液状態と同等かもしくはより大きくなる傾向が一般的に見られる。そのため一般式(1)または一般式(2)で表されるピロメテン金属錯体を含むドープ薄膜の発光スペクトルの半値幅は50nm以下であることが好ましく、45nm以下であることがより好ましく、40nm以下であることがさらに好ましい。
【0141】
ドープ薄膜の蛍光量子収率は絶対量子収率測定装置を用いて測定できるが、ドープ薄膜の形成状態、マトリクス材料との組合せ、または励起光波長などの影響を受けて変動するため、絶対値での比較は困難である。従ってある一定の条件の下で各材料のドープ薄膜の蛍光量子収率を測定し、それらの相対比較により評価を行うことが好ましい。またドープ薄膜において、ドープ濃度が高くなるにつれて濃度消光により蛍光量子収率が低くなる負の相関が見られるが、この負の相関が大きいと、発光素子の製造においてドープ濃度の許容範囲が小さくなるため不利である。よって蛍光量子収率とドープ濃度との負の相関が小さい材料が好ましい。
【0142】
ここで一般式(1)または一般式(2)で表されるピロメテン金属錯体のうち、R
5が上記一般式(6)で表されるピロメテン金属錯体を含むドープ薄膜では、橋頭位置換基の立体障害により、分子の回転・振動が抑制され熱失活が減少するため、高い蛍光量子収率を得ることができる。また橋頭位置換基の立体障害の影響で分子の凝集が抑制されること、およびピロメテンホウ素錯体自身の蛍光量子収率が高いため発光の自己吸収が起きても無放射失活が小さいことから、濃度消光が起きにくく、よって蛍光量子収率とドープ濃度の負の相関を小さくすることができる。
【0143】
また、ドープ薄膜の発光スペクトルの角度依存性を調べることにより、分子配向性を測定することができる。ドーパント分子自身からの発光に角度依存性があるため、ドープ薄膜において、ドーパント分子がランダムな向きに存在している場合よりも、一定方向に整列して存在、すなわち配向している場合にある一定の角度への光の放射強度が強くなる。このようなドープ薄膜を有する発光素子について考えると、放射強度が強くなる角度と光取り出し方向を一致させることで外部に取り出す光を多くすることができ、素子の発光効率が向上する。特に共振効果を利用するトップエミッション素子では光取り出し方向が限定されているため、発光効率向上の観点からドープ薄膜の分子配向性を高くすることが好ましい。一般式(1)または一般式(2)で表されるピロメテン金属錯体のうち、R
5が上記一般式(6)で表されるピロメテン金属錯体は、橋頭位置換基の立体障害によりそれぞれの回転・振動が抑制され剛直な構造をとるため、柔軟構造の分子に比べて整列しやすくドープ薄膜の分子配向性を高くすることができる。
【0144】
<発光素子材料>
一般式(1)または一般式(2)で表されるピロメテン金属錯体は、高発光効率と高色純度を両立できることから、電子デバイスにおいて、電子デバイス材料として用いることが好ましく、特に、発光素子において、発光素子材料として用いられることが好ましい。ここで本発明における発光素子材料とは、発光素子のいずれかの層に使用される材料を表し、後述するように、正孔注入層、正孔輸送層、発光層および/または電子輸送層に使用される材料であるほか、電極の保護膜(キャップ層)に使用される材料も含む。
【0145】
一般式(1)または一般式(2)で表されるピロメテン金属錯体は、高い発光性能を有することから、発光層に使用される材料であることが好ましい。一般式(1)または一般式(2)で表されるピロメテン金属錯体は、特に赤色領域に強い発光を示すことから、赤色発光材料として好適に用いられる。
【0146】
また、一般式(1)または一般式(2)で表されるピロメテン金属錯体を含む発光層と、青色発光材料を含む発光層と、緑色発光材料を含む発光層とを積層することにより、白色発光素子とすることができる。
【0147】
本発明の発光素子材料は一般式(1)または一般式(2)で表されるピロメテン金属錯体単独で構成されていても、当該のピロメテン金属錯体と他の複数の化合物を含んだ混合物として構成されていてもよいが、発光素子が安定して製造できる観点から、一般式(1)または一般式(2)で表されるピロメテン金属錯体単独で構成されることが好ましい。ここで、一般式(1)または一般式(2)で表されるピロメテン金属錯体単独とは、当該化合物が99重量%以上含まれていることを指す。
【0148】
<発光素子>
次に、本発明の発光素子の実施の形態について説明する。本発明の発光素子は、陽極と陰極、および該陽極と該陰極との間に存在する有機層を有し、該有機層は少なくとも発光層を含み、該発光層が電気エネルギーにより発光する。本発明の発光素子は、発光層に一般式(1)または一般式(2)で表されるピロメテン金属錯体を含有する。
【0149】
本発明の発光素子は、ボトムエミッション型、またはトップエミッション型のいずれであってもよい。
【0150】
このような発光素子における陽極と陰極の間の層構成は、発光層のみからなる構成の他に、1)発光層/電子輸送層、2)正孔輸送層/発光層、3)正孔輸送層/発光層/電子輸送層、4)正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層、5)正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層、6)正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層、7)正孔注入層/正孔輸送層/発光層/正孔阻止層/電子輸送層/電子注入層、8)正孔注入層/正孔輸送層/電子阻止層/発光層/正孔阻止層/電子輸送層/電子注入層といった積層構成が挙げられる。
【0151】
さらに、上記の積層構成を、中間層を介して複数積層したタンデム型であってもよい。つまり、陽極と陰極の間に少なくとも2つ以上の発光層を有し、それぞれの発光層と発光層の間には少なくとも1層以上の電荷発生層を有することが好ましい。ここで、一般式(1)または一般式(2)で表されるピロメテン金属錯体は、2つ以上の発光層を有する場合は、そのうち少なくとも1つの発光層に含まれる。すなわち、一般式(1)または一般式(2)で表されるピロメテン金属錯体は、複数の発光層を有する場合は、そのうち全てに含まれていてもよく、また一部のみに含まれていてもよい。タンデム型素子は複数の発光層を有することにより低電流で高輝度が達成できるため、高効率、長寿命という特徴がある。また、R、G、Bの三色の発光層で構成される場合は、高効率の白色光素子となり、主にテレビや照明分野で使用されている。この方式はRGB塗り分け方式に比べ工程簡略化できるメリットもある。中間層としては、一般的に、中間電極、中間導電層、電荷発生層、電子引抜層、接続層、中間絶縁層などが挙げられ、公知の材料構成を用いることができる。タンデム型の好ましい具体例として、9)正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電荷発生層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層、10)正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層/電荷発生層/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層といった、陽極と陰極の間に中間層として電荷発生層を含む積層構成が挙げられる。中間層を構成する材料としては、具体的にはピリジン誘導体、フェナントロリン誘導体が好ましく用いられる。
【0152】
また、上記各層は、それぞれ単一層、複数層のいずれでもよく、ドーピングされていてもよい。さらに上記各層は、陽極、発光層を含む一以上の有機層、陰極を含み、さらに光学干渉効果に起因して発光効率を向上させるためのキャッピング材料を用いた層を含む素子構成も挙げられる。
【0153】
一般式(1)または一般式(2)で表されるピロメテン金属錯体は、上記の素子構成において、いずれの層に用いられてもよいが、蛍光量子収率が高く、薄膜安定性を有しているため、発光層に用いることが好ましい。
【0154】
本発明の発光素子は、トップエミッション型の有機電界発光素子であることが好ましい。トップエミッション型の有機電界発光素子の場合、例えば、陽極を、反射電極層と透明電極層との積層構造とし、反射電極層上の透明電極層の膜厚を変える方法が挙げられる。陽極の上に有機層を適宜積層した後、陰極に、半透明電極として、例えば薄膜にした半透明の銀等を用いることで、有機電界発光素子にマイクロキャビティ構造を導入することができる。このように、有機電界発光素子にマイクロキャビティ構造を導入すると、有機層から発光され、陰極を通して射出された光のスペクトルは、有機電界発光素子がマイクロキャビティ構造を有していない場合よりも急峻になり、また、正面への射出強度が大きく増大する。このようなトップエミッション型の素子では、マイクロキャビティ効果により発光材料の発光スペクトルがシャープであればより発光効率を上げることができるため、本発明の発光材料では特に効果が大きい。これをディスプレイに用いた場合、色域向上と、輝度向上に寄与することができる。
【0155】
以下に発光素子の構成の具体例を挙げるが、本発明の構成はこれらに限定されるものではない。
【0156】
(基板)
発光素子の機械的強度を保つために、発光素子を基板上に形成することが好ましい。基板としては、ソーダガラスや無アルカリガラスなどのガラス基板が好適に用いられる。ガラス基板の厚みは、機械的強度を保つのに十分な厚みがあればよいので、0.5mm以上あれば十分である。ガラスの材質については、ガラスからの溶出イオンが少ない方がよいので無アルカリガラスの方が好ましい。また、SiO
2などのバリアコートを施したソーダライムガラスも市販されており、これを使用することもできる。また、基板上に形成される第一電極が安定に機能するのであれば、基板はガラスである必要はなく、例えば、プラスチック基板であってもよい。このようなプラスチック基板としては樹脂製フィルムやワニスを効果した樹脂薄膜が例示され、主にスマートフォンなどのモバイル機器のフレキシブルディスプレイやフォルダブルディスプレイ用途で用いられる。
【0157】
(陽極)
陽極に用いる材料は、正孔を有機層に効率よく注入できる材料、かつ光を取り出すために透明または半透明であれば、酸化亜鉛、酸化錫、酸化インジウム、酸化錫インジウム(ITO)、酸化亜鉛インジウム(IZO)などの導電性金属酸化物、あるいは、金、銀、クロムなどの金属、ヨウ化銅、硫化銅などの無機導電性物質、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリアニリンなどの導電性ポリマーなど特に限定されるものでないが、ITOガラスやネサガラスを用いることが特に望ましい。これらの電極材料は、単独で用いてもよいが、複数の材料を積層または混合して用いてもよい。
【0158】
(陰極)
陰極に用いる材料は、電子を効率よく発光層に注入できる物質であれば特に限定されない。一般的には白金、金、銀、銅、鉄、錫、アルミニウム、インジウムなどの金属、またはこれらの金属とリチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウムなどの低仕事関数金属との合金や多層積層などが好ましい。中でも、主成分としてはアルミニウム、銀、マグネシウムが電気抵抗値や製膜しやすさ、膜の安定性、発光効率などの面から好ましい。特にマグネシウムと銀で構成されると、本発明における電子輸送層および電子注入層への電子注入が容易になり、低電圧駆動が可能になるため好ましい。
【0159】
(保護層)
陰極保護のために、陰極上に保護層(キャップ層)を積層することが好ましい。保護層を構成する材料としては、特に限定されないが、例えば、白金、金、銀、銅、鉄、錫、アルミニウムおよびインジウムなどの金属、これら金属を用いた合金、シリカ、チタニアおよび窒化ケイ素などの無機物、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、炭化水素系高分子化合物などの有機高分子化合物などが挙げられる。ただし、発光素子が、陰極側から光を取り出す素子構造(トップエミッション構造)である場合は、保護層に用いられる材料は、可視光領域で光透過性のある材料から選択される。
【0160】
(正孔注入層)
正孔注入層は陽極と正孔輸送層の間に挿入される層である。正孔注入層は1層であっても複数の層が積層されていてもどちらでもよい。正孔輸送層と陽極の間に正孔注入層が存在すると、より低電圧駆動し、耐久寿命も向上するだけでなく、さらに素子のキャリアバランスが向上して発光効率も向上するため好ましい。
【0161】
正孔注入層に用いられる材料は特に限定されないが、例えば、ベンジジン誘導体、4,4’,4”−トリス(3−メチルフェニル(フェニル)アミノ)トリフェニルアミン(m−MTDATA)、4,4’,4”−トリス(1−ナフチル(フェニル)アミノ)トリフェニルアミン(1−TNATA)などのスターバーストアリールアミンと呼ばれる材料群、ビスカルバゾール誘導体、ピラゾリン誘導体、スチルベン系化合物、ヒドラゾン系化合物、ベンゾフラン誘導体、チオフェン誘導体、オキサジアゾール誘導体、フタロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体などの複素環化合物、ポリマー系では前記単量体を側鎖に有するポリカーボネートやスチレン誘導体、ポリチオフェン、ポリアニリン、ポリフルオレン、ポリビニルカルバゾールおよびポリシランなどが用いられる。中でも正孔輸送層に用いられる化合物より浅いHOMO準位を有し、陽極から正孔輸送層へ円滑に正孔を注入輸送するという観点からベンジジン誘導体、スターバーストアリールアミン系材料群がより好ましく用いられる。
【0162】
これらの材料は単独で用いてもよいし、2種以上の材料を混合して用いてもよい。また、複数の材料を積層して正孔注入層としてもよい。
【0163】
さらにこの正孔注入層が、アクセプター性化合物単独で構成されているか、または上記のような正孔注入材料にアクセプター性化合物をドープして用いると、上述した効果がより顕著に得られるのでより好ましい。アクセプター性化合物とは、単層膜として用いる場合は接している正孔輸送層と、ドープして用いる場合は正孔注入層を構成する材料と電荷移動錯体を形成する材料である。このような材料を用いると正孔注入層の導電性が向上し、より素子の駆動電圧低下に寄与し、発光効率の向上、耐久寿命向上といった効果が得られる。
【0164】
アクセプター性化合物の例としては、塩化鉄(III)、塩化アルミニウム、塩化ガリウム、塩化インジウム、塩化アンチモンのような金属塩化物、酸化モリブデン、酸化バナジウム、酸化タングステン、酸化ルテニウムのような金属酸化物、トリス(4−ブロモフェニル)アミニウムヘキサクロロアンチモネート(TBPAH)のような電荷移動錯体が挙げられる。また1,4,5,8,9,11−ヘキサアザトリフェニレン−ヘキサカルボニトリル(HAT−CN6)、2,3,5,6−テトラフルオロ−7,7,8,8−テトラシアノキノジメタン(F4−TCNQ)、フッ素化銅フタロシアニンのように分子内にニトロ基、シアノ基、ハロゲンまたはトリフルオロメチル基を有する有機化合物や、キノン系化合物、酸無水物系化合物、フラーレンなども好適に用いられる。
【0165】
これらの中でも、金属酸化物やシアノ基含有化合物が取り扱いやすく、蒸着もしやすいことから、容易に上述した効果が得られるので好ましい。正孔注入層がアクセプター性化合物単独で構成される場合、または正孔注入層にアクセプター性化合物がドープされている場合のいずれの場合も、正孔注入層は1層であってもよいし、複数の層が積層されて構成されていてもよい。
【0166】
(正孔輸送層)
正孔輸送層は、陽極から注入された正孔を発光層まで輸送する層である。正孔輸送層は単層であっても複数の層が積層されて構成されていてもどちらでもよい。
【0167】
正孔輸送層は、正孔輸送材料の一種または二種以上を積層または混合する方法、もしくは、正孔輸送材料と高分子結着剤の混合物を用いる方法により形成される。また、正孔輸送材料は、電界を与えられた電極間において陽極からの正孔を効率良く輸送することが必要で、正孔注入効率が高く、注入された正孔を効率良く輸送することが好ましい。そのためには適切なイオン化ポテンシャルを持ち、しかも正孔移動度が大きく、さらに安定性に優れ、トラップとなる不純物が製造時および使用時に発生しにくい物質であることが要求される。
【0168】
このような条件を満たす物質として、特に限定されるものではないが、例えば、ベンジジン誘導体、スターバーストアリールアミンと呼ばれる材料群、ビスカルバゾール誘導体、ピラゾリン誘導体、スチルベン系化合物、ヒドラゾン系化合物、ベンゾフラン誘導体、チオフェン誘導体、オキサジアゾール誘導体、フタロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体などの複素環化合物、ポリマー系では前記単量体を側鎖に有するポリカーボネートやスチレン誘導体、ポリチオフェン、ポリアニリン、ポリフルオレン、ポリビニルカルバゾールおよびポリシランなどが挙げられる。
【0169】
(発光層)
発光層は、単一の材料で構成されていてもよいが、第一の化合物と、強い発光を示すドーパントである第二の化合物とを有することが好ましい。第一の化合物として、例えば電荷移動を担うホスト材料や、熱活性化遅延蛍光性の化合物が好適な例として挙げられる。また一般式(1)または一般式(2)で表されるピロメテン金属錯体は、特に優れた蛍光量子収率を有していること、および発光スペクトルの半値幅が狭いことから、発光層のドーパントである第二の化合物として用いることが好ましい。
【0170】
第二の化合物のドープ量は、多すぎると濃度消光現象が起きるため、ホスト材料に対して20重量%以下で用いることが好ましく、10重量%以下がより好ましく、5重量%以下がさらに好ましい。またドープ濃度が低すぎると十分なエネルギー移動が起きにくいことから、ホスト材料に対して0.1重量%以上で用いることが好ましく、0.5重量%以上がより好ましい。
【0171】
発光層は、第一の化合物および第二の化合物以外の化合物を発光材料(ホスト材料またはドーパント材料)として含んでいてもよい。このような化合物を、他の発光材料と称する。
【0172】
ホスト材料は、化合物一種のみに限る必要はなく、本発明の複数の化合物を混合して用いたり、その他のホスト材料の一種類以上を混合して用いたりしてもよい。また、積層して用いてもよい。ホスト材料としては、特に限定されないが、縮合アリール環を有する化合物やその誘導体、N,N’−ジナフチル−N,N’−ジフェニル−4,4’−ジフェニル−1,1’−ジアミンなどの芳香族アミン誘導体、トリス(8−キノリナート)アルミニウム(III)をはじめとする金属キレート化オキシノイド化合物、ジスチリルベンゼン誘導体などのビススチリル誘導体、テトラフェニルブタジエン誘導体、インデン誘導体、クマリン誘導体、オキサジアゾール誘導体、ピロロピリジン誘導体、ペリノン誘導体、シクロペンタジエン誘導体、ピロロピロール誘導体、チアジアゾロピリジン誘導体、ジベンゾフラン誘導体、カルバゾール誘導体、インドロカルバゾール誘導体、トリアジン誘導体、ポリマー系では、ポリフェニレンビニレン誘導体、ポリパラフェニレン誘導体、ポリフルオレン誘導体、ポリビニルカルバゾール誘導体、ポリチオフェン誘導体などが使用できるが特に限定されるものではない。
【0173】
ホスト材料として特に好ましいものは、アントラセン誘導体またはナフタセン誘導体である。
【0174】
ドーパント材料は、一般式(1)または一般式(2)で表されるピロメテン金属錯体以外の化合物を含んでいてもよい。このような化合物としては特に限定されないが、縮合アリール環を有する化合物やその誘導体、ヘテロアリール環を有する化合物やその誘導体、ジスチリルベンゼン誘導体、アミノスチリル誘導体、芳香族アセチレン誘導体、テトラフェニルブタジエン誘導体、スチルベン誘導体、アルダジン誘導体、ピロメテン誘導体、ジケトピロロ[3,4−c]ピロール誘導体、クマリン誘導体、アゾール誘導体およびその金属錯体、ならびに芳香族アミン誘導体などが挙げられる。それらの中でも、ジアミン骨格を含むドーパントや、フルオランテン骨格を含むドーパントが、高効率発光を得られやすいことから、好ましい。ジアミン骨格を含むドーパントは正孔トラップ性が高く、フルオランテン骨格を含むドーパントは電子トラップ性が高い。
【0175】
また発光層にリン光発光材料が含まれていてもよい。リン光発光材料とは、室温でもリン光発光を示す材料である。リン光発光を行うドーパントとしては、イリジウム(Ir)、ルテニウム(Ru)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、オスミウム(Os)、及びレニウム(Re)からなる群から選択される少なくとも一つの金属を含む金属錯体化合物であることが好ましい。配位子は、フェニルピリジン骨格またはフェニルキノリン骨格またはカルベン骨格などの含窒素芳香族複素環を有することが好ましい。しかしながら、これらに限定されるものではなく、要求される発光色、素子性能、ホスト化合物との関係から適切な錯体が選ばれる。高効率発光が得られやすいことから、イリジウム錯体または白金錯体が好ましく用いられる。
【0176】
ただし色純度を高くする観点から、ドーパント材料は1種類の一般式(1)または一般式(2)で表されるピロメテン金属錯体であることが好ましい。
【0177】
発光層には上記ホスト材料およびリン光発光材料の他に、発光層内のキャリアバランスを調整するためや発光層の層構造を安定化させるための第3成分を更に含んでいてもよい。但し、第3成分としては、ホスト材料およびドーパント材料との間で相互作用を起こさないような材料を選択する。
【0178】
熱活性化遅延蛍光材料は、一般的に、TADF材料とも呼ばれ、一重項励起状態のエネルギー準位と三重項励起状態エネルギー準位のエネルギーギャップを小さくすることで、三重項励起状態から一重項励起状態への逆項間交差を促進し、一重項励起子の生成確率を向上させた材料である。熱活性化遅延蛍光性を有する第一の化合物の一重項励起子から第二の化合物の一重項励起子へフェルスター型のエネルギー移動が起こることにより、第二の化合物の一重項励起子からの蛍光発光が観測される。このTADF機構による遅延蛍光を利用することにより、理論的内部効率を100%まで高めることができる。このように、発光層が熱活性化遅延蛍光材料を含有すると、さらに高効率発光が可能となり、ディスプレイの低消費電力化に寄与する。熱活性化遅延蛍光材料は、単一の材料で熱活性化遅延蛍光を示す材料であってもいいし、複数の材料で熱活性化遅延蛍光を示す材料であってもよい。
【0179】
熱活性化遅延蛍光性の化合物としては、単一でも複数の材料でもよく、公知の材料を用いることができる。具体的には、例えば、ベンゾニトリル誘導体、トリアジン誘導体、ジスルホキシド誘導体、カルバゾール誘導体、インドロカルバゾール誘導体、ジヒドロフェナジン誘導体、チアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体などが挙げられる。特に同一分子内に電子供与性部(ドナー部)と電子求引性部(アクセプター部)を有する化合物であることが好ましい。
【0180】
ここで電子供与性部(ドナー部)としては、芳香族アミノ基やπ電子過剰型複素環官能基が挙げられる。具体的にはジアリールアミノ基、カルバゾリル基、ベンゾカルバゾリル基、ジベンゾカルバゾリル基、インドロカルバゾリル基、ジヒドロアクリジニル基、フェノキサジニル基およびジヒドロフェナジニル基などが例示される。また電子求引性部(アクセプター部)としては、電子求引性基を置換基として有するフェニル基やπ電子不足型複素環官能基が挙げられる。具体的には、カルボニル基、スルホニル基、シアノ基から選択される電子求引性基を置換基として有するフェニル基やトリアジニル基が例示される。これらの官能基はそれぞれ置換されていても置換されていなくてもよい。
【0181】
このような熱活性化遅延蛍光性化合物として、特に限定されるものではないが、以下のような例が挙げられる。
【0184】
また、複数の材料により熱活性化遅延蛍光性を示す場合には、電子輸送性の材料(アクセプター)と、正孔輸送性の材料(ドナー)の組み合わせにより励起錯体(エキサイプレックス)を形成することが好ましい。励起錯体は一重項励起状態の準位と三重項励起状態の準位の差が小さくなるため、三重項励起状態の準位から一重項励起状態の準位へのエネルギー移動が起こりやすくなり、発光効率が向上する。また、電子輸送性の材料と正孔輸送性の材料の混合比を調節することで、励起錯体の発光波長を調節し、エネルギー移動の効率を上げることができる。このような電子輸送性の材料としてはπ電子不足型複素芳香環を含む化合物または金属錯体が挙げられる。具体的には、ビス(2−メチル−8−キノリノラート)(4−フェニルフェノラト)アルミニウム(III)、ビス(8−キノリノラート)亜鉛(II)、ビス[2−(2−ベンゾオキサゾリル)フェノラト]亜鉛(II)などの金属錯体や、2−(4−ビフェニリル)−5−(4−tert−ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール、3−(4−ビフェニリル)−4−フェニル−5−(4−tert−ブチルフェニル)−1,2,4−トリアゾール、2−[3−(ジベンゾチオフェン−4−イル)フェニル]−1−フェニル−1H−ベンゾイミダゾールなどのポリアゾール骨格を有する複素環化合物や、2−[3’−(ジベンゾチオフェン−4−イル)ビフェニル−3−イル]ジベンゾ[f、h]キノキサリン、4,6−ビス[3−(フェナントレン−9−イル)フェニル]ピリミジン、などのジアジン骨格を有する複素環化合物や、3,5−ビス[3−(9H−カルバゾール−9−イル)フェニル]ピリジンなどのピリジン骨格を有する複素環化合物が例示される。一方、正孔輸送性の材料としてはπ電子過剰型複素芳香環を含む化合物や芳香族アミン化合物が挙げられる。
【0185】
具体的には、4,4’−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ]ビフェニル(略称:NPB)、N,N’−ビス(3−メチルフェニル)−N,N’−ジフェニル−[1,1’−ビフェニル]−4,4’−ジアミン(略称:TPD)、4−フェニル−4’−(9−フェニル−9H−カルバゾール−3−イル)トリフェニルアミン、4−(1−ナフチル)−4’−(9−フェニル−9H−カルバゾール−3−イル)トリフェニルアミン、N−フェニル−N−[4−(9−フェニル−9H−カルバゾール−3−イル)フェニル]−スピロ−9,9’−ビフルオレン−2−アミンなどの芳香族アミン骨格を有する化合物や、1,3−ビス(N−カルバゾリル)ベンゼン、4,4’−ジ(N−カルバゾリル)ビフェニル(CBP)、3,3’−ジ(N−カルバゾリル)ビフェニル(mCBP)、1,3,5−トリス[4−(N−カルバゾリル)フェニル]ベンゼン(TCPB)、9−[4−(10−フェニル−9−アントラセニル)フェニル]−9H−カルバゾール(CzPA)、1,4−ビス[4−(N−カルバゾリル)フェニル]−2,3,5,6−テトラフェニルベンゼン、9−フェニル−9H−3−(9−フェニル−9H−カルバゾール−3−イル)カルバゾール、3,6−ビス[N−(9−フェニルカルバゾール−3−イル)−N−フェニルアミノ]−9−フェニルカルバゾール(PCzPCA2)、3−[N−(1−ナフチル)−N−(9−フェニルカルバゾール−3−イル)アミノ]−9−フェニルカルバゾール(PCzPCN1)、9−([1,1-ビフェニル]−4−イル)−9’−([1,1’:4’、1”-ターフェニル]-4-イル)−9H,9’H-3,3’-ビカルバゾール、9-([1,1’:4’、1”−ターフェニル]−4−イル)−9’−(ナフタレンー2−イル)−9H,9’H-3,3’-ビカルバゾール、9,9’、9”−トリフェニルー9H,9’H,9”H−3,3’:6’、3”−トリカルバゾールなどのカルバゾール骨格を有する化合物や、4,4’,4’’−(ベンゼン−1,3,5−トリイル)トリ(ジベンゾチオフェン)、2,8−ジフェニル−4−[4−(9−フェニル−9H−フルオレン−9−イル)フェニル]ジベンゾチオフェンなどのチオフェン骨格を有する化合物や、4,4’,4’’−(ベンゼン−1,3,5−トリイル)トリ(ジベンゾフラン)、4−{3−[3−(9−フェニル−9H−フルオレン−9−イル)フェニル]フェニル}ジベンゾフランなどのフラン骨格を有する化合物が例示される。
【0186】
第一の化合物が熱活性化遅延蛍光性の化合物である場合、第一の化合物および第二の化合物以外の化合物、すなわち他の発光材料をさらに含む場合、その発光材料(ホスト材料またはドーパント材料)を第三の化合物という。言い換えれば、発光層が第三の化合物を含む場合は、第一の化合物は熱活性化遅延蛍光性の化合物である。
【0187】
第一の化合物が熱活性化遅延蛍光性の化合物であって、発光層がさらに第三の化合物を含み、かつ第三の化合物の励起一重項エネルギーが第一の化合物の励起一重項エネルギーよりも大きいことが好ましい。また、第三の化合物の励起三重項エネルギーが第一の化合物の励起三重項エネルギーよりも大きいことがさらに好ましい。これらにより、第三の化合物は発光材料のエネルギーを発光層内に閉じ込める機能を有することができ、効率よく発光させることが可能となる。
【0188】
第三の化合物としては、例えばホスト材料としての機能が求められ、電荷輸送能が高く、かつガラス転移温度が高い有機化合物であることが好ましい。第三の化合物として、特に限定されるものではないが、以下のような例が挙げられる。
【0191】
また第三の化合物としては単一でも複数種の材料でもよい。第三の化合物が2種類以上の材料により構成されていることが好ましい。第三の化合物として複数種の材料を用いる場合には、電子輸送性の第三の化合物と正孔輸送性の第三の化合物の組み合わせであることが好ましい。電子輸送性の第三の化合物と正孔輸送性の第三の化合物を適切な混合比で組み合わせることにより、発光層内の電荷バランスを調整し、発光領域の偏りを抑制することで発光素子の信頼性を向上させ、耐久性を上げることができる。また電子輸送性の第三の化合物と正孔輸送性の第三の化合物との間で励起錯体を形成してもよい。以上の観点から式1〜式4の関係式をそれぞれ満たすことが好ましい。式1および式2を満たすことがより好ましく、式3および式4を満たすことがさらに好ましい。また、式1〜式4を全て満たすことがよりさらに好ましい。
【0192】
S
1(電子輸送性の第三の化合物)>S
1(第一の化合物)(式1)
S
1(正孔輸送性の第三の化合物)>S
1(第一の化合物)(式2)
T
1(電子輸送性の第三の化合物)>T
1(第一の化合物)(式3)
T
1(正孔輸送性の第三の化合物)>T
1(第一の化合物)(式4)
ここで、S
1はそれぞれの化合物の励起一重項状態のエネルギー準位、T
1はそれぞれの化合物の励起三重項状態のエネルギー準位を表している。
【0193】
電子輸送性の第三の化合物としては、π電子不足型複素芳香環を含む化合物などが挙げられる。具体的には2−(4−ビフェニリル)−5−(4−tert−ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール(PBD)、3−(4−ビフェニリル)−4−フェニル−5−(4−tert−ブチルフェニル)−1,2,4−トリアゾール(TAZ)、1,3−ビス[5−(p−tert−ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール−2−イル]ベンゼン(OXD−7)、9−[4−(5
−フェニル−1,3,4−オキサジアゾール−2−イル)フェニル]−9H−カルバゾー
ル(CO11)、2,2’,2’’−(1,3,5−ベンゼントリイル)トリス(1−フェニル−1H−ベンゾイミダゾール)(TPBI)、2−[3−(ジベンゾチオフェン−4−イル)フェニル]−1−フェニル−1H−ベンゾイミダゾール(mDBTBIm−II)などのポリアゾール骨格を有する複素環化合物、2−[3−(ジベンゾチオフェン−4−イル)フェニル]ジベンゾ[f,h]キノキサリン(2mDBTPDBq−II)、2−[3’−(ジベンゾチオフェン−4−イル)ビフェニル−3−イル]ジベンゾ[f,h]キノキサリン(2mDBTBPDBq−II)、2−[4−(3,6−ジフェニル−9H−カルバゾール−9−イル)フェニル]ジベンゾ[f,h]キノキサリン(2CzPDBq−III)、7−[3−(ジベンゾチオフェン−4−イル)フェニル]ジベンゾ[f,h]キノキサリン(7mDBTPDBq−II)、及び6−[3−(ジベンゾチオフェン−4−イル)フェニル]ジベンゾ[f,h]キノキサリン(6mDBTPDBq−II)、2−[3’−(9H−カルバゾール−9−イル)ビフェニル−3−イル]ジベンゾ[f,h]キノキサリン(2mCzBPDBq)などのキノキサリン骨格又はジベンゾキノキサリン骨格を有する複素環化合物、4,6−ビス[3−(フェナントレン−9−イル)フェニル]ピリミジン(4,6mPnP2Pm)、4,6−ビス[3−(9H−カルバゾール−9−イル)フ
ェニル]ピリミジン(4,6mCzP2Pm)、4,6−ビス[3−(4−ジベンゾチエニル)フェニル]ピリミジン(4,6mDBTP2Pm−II)などのジアジン骨格(ピリミジン骨格やピラジン骨格)を有する複素環化合物、3,5−ビス[3−(9H−カルバゾール−9−イル)フェニル]ピリジン(3,5DCzPPy)、1,3,5−トリ[3−(3−ピリジル)フェニル]ベンゼン(TmPyPB)、3,3’,5,5’−テトラ[(m−ピリジル)−フェン−3−イル]ビフェニル(BP4mPy)などのピリジン骨格を有する複素環化合物が例示される。
【0194】
また上記の正孔輸送性の第三の化合物としてはπ電子過剰型複素芳香環を含む化合物などが挙げられる。具体的には1,3−ビス(N−カルバゾリル)ベンゼン、4,4’−ジ(N−カルバゾリル)ビフェニル(CBP)、3,3’−ジ(N−カルバゾリル)ビフェニル(mCBP)、1,3,5−トリス[4−(N−カルバゾリル)フェニル]ベンゼン(TCPB)、9−[4−(10−フェニル−9−アントラセニル)フェニル]−9H−カルバゾール(CzPA)、1,4−ビス[4−(N−カルバゾリル)フェニル]−2,3,5,6−テトラフェニルベンゼン、9−フェニル−9H−3−(9−フェニル−9H−カルバゾール−3−イル)カルバゾール、3,6−ビス[N−(9−フェニルカルバゾール−3−イル)−N−フェニルアミノ]−9−フェニルカルバゾール(PCzPCA2)、3−[N−(1−ナフチル)−N−(9−フェニルカルバゾール−3−イル)アミノ]−9−フェニルカルバゾール(PCzPCN1)、9−([1,1-ビフェニル]−4−イル)−9’−([1,1’:4’、1”-ターフェニル]-4-イル)−9H,9’H-3,3’-ビカルバゾール、9-([1,1’:4’、1”−ターフェニル]−4−イル)−9’−(ナフタレンー2−イル)−9H,9’H-3,3’-ビカルバゾール、9,9’、9”−トリフェニルー9H,9’H,9”H−3,3’:6’、3”−トリカルバゾールなどのカルバゾール骨格を有する化合物が例示される。
【0195】
(電子輸送層)
本発明において、電子輸送層とは、陰極から電子が注入され、さらに電子を輸送する層である。電子輸送層には、電子注入効率が高く、注入された電子を効率良く輸送することが望まれる。そのため電子輸送層に用いられる材料には、電子親和力が大きく、しかも電子移動度が大きく、さらに安定性に優れ、トラップとなる不純物が製造時および使用時に発生しにくい物質であることが要求される。特に膜厚を厚く積層する場合には、低分子量の化合物は結晶化するなどして膜質が劣化しやすいため、安定な膜質を保つ分子量400以上の化合物が好ましい。
【0196】
本発明における電子輸送層には、正孔の移動を効率よく阻止できる正孔阻止層も同義のものとして含まれ、正孔阻止層および電子輸送層は単独でも複数の材料が積層されて構成されていてもよい。
【0197】
電子輸送層に用いられる電子輸送材料としては、縮合多環芳香族誘導体、スチリル系芳香環誘導体、キノン誘導体、リンオキサイド誘導体、トリス(8−キノリノラート)アルミニウム(III)などのキノリノール錯体、ベンゾキノリノール錯体、ヒドロキシアゾール錯体、アゾメチン錯体、トロポロン金属錯体およびフラボノール金属錯体などの各種金属錯体が挙げられる。駆動電圧を低減し、高効率発光が得られることから、炭素、水素、窒素、酸素、ケイ素、リンの中から選ばれる元素で構成され、電子受容性窒素を含むヘテロアリール環構造を有する化合物を用いることが好ましい。
【0198】
ここで言う電子受容性窒素とは、隣接原子との間に多重結合を形成している窒素原子を表す。窒素原子が高い電子陰性度を有することから、該多重結合は電子受容的な性質を有する。それゆえ、電子受容性窒素を含む芳香族複素環は、高い電子親和性を有する。電子受容性窒素を有する電子輸送材料は、高い電子親和力を有する陰極からの電子を受け取りやすくし、より低電圧駆動が可能となる。また、発光層への電子の供給が多くなり、再結合確率が高くなるので発光効率が向上する。
【0199】
電子受容性窒素を含むヘテロアリール環としては、例えば、トリアジン環、ピリジン環、ピラジン環、ピリミジン環、キノリン環、キノキサリン環、キナゾリン環、ナフチリジン環、ピリミドピリミジン環、ベンゾキノリン環、フェナントロリン環、イミダゾール環、オキサゾール環、オキサジアゾール環、トリアゾール環、チアゾール環、チアジアゾール環、ベンゾオキサゾール環、ベンゾチアゾール環、ベンズイミダゾール環、フェナンスロイミダゾール環などが挙げられる。
【0200】
これらのヘテロアリール環構造を有する化合物としては、例えば、ピリジン誘導体、トリアジン誘導体、キナゾリン誘導体、ピリミジン誘導体、ベンズイミダゾール誘導体、ベンズオキサゾール誘導体、ベンズチアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、チアジアゾール誘導体、トリアゾール誘導体、ピラジン誘導体、フェナントロリン誘導体、キノキサリン誘導体、キノリン誘導体、ベンゾキノリン誘導体、ビピリジンやターピリジンなどのオリゴピリジン誘導体、キノキサリン誘導体およびナフチリジン誘導体などが好ましい化合物として挙げられる。中でも、トリス(N−フェニルベンズイミダゾール−2−イル)ベンゼンなどのイミダゾール誘導体、1,3−ビス[(4−tert−ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾリル]フェニレンなどのオキサジアゾール誘導体、N−ナフチル−2,5−ジフェニル−1,3,4−トリアゾールなどのトリアゾール誘導体、バソクプロインや1,3−ビス(1,10−フェナントロリン−9−イル)ベンゼンなどのフェナントロリン誘導体、2,2’−ビス(ベンゾ[h]キノリン−2−イル)−9,9’−スピロビフルオレンなどのベンゾキノリン誘導体、2,5−ビス(6’−(2’,2”−ビピリジル))−1,1−ジメチル−3,4−ジフェニルシロールなどのビピリジン誘導体、1,3−ビス(4’−(2,2’:6’2”−ターピリジニル))ベンゼンなどのターピリジン誘導体、ビス(1−ナフチル)−4−(1,8−ナフチリジン−2−イル)フェニルホスフィンオキサイドなどのナフチリジン誘導体が、電子輸送能の観点から好ましく用いられる。
【0201】
また、これらの誘導体が、縮合多環芳香族骨格を有していると、ガラス転移温度が向上すると共に、電子移動度も大きくなり発光素子の低電圧化の効果が大きいのでより好ましい。さらに、素子耐久寿命が向上し、合成のし易さ、原料入手が容易であることを考慮すると、縮合多環芳香族骨格はフルオランテン骨格、アントラセン骨格、ピレン骨格またはフェナントロリン骨格であることがより好ましく、フルオランテン骨格またはフェナントロリン骨格であることが特に好ましい。
【0202】
電子輸送材料は単独でも用いられるが、2種以上を混合して用いても構わない。また、電子輸送層はドナー性材料を含有してもよい。ここで、ドナー性材料とは電子注入障壁の改善により、陰極または電子注入層からの電子輸送層への電子注入を容易にし、さらに電子輸送層の電気伝導性を向上させる化合物である。
【0203】
ドナー性材料の好ましい例としては、アルカリ金属、アルカリ金属を含有する無機塩、アルカリ金属と有機物との錯体、アルカリ土類金属、アルカリ土類金属を含有する無機塩またはアルカリ土類金属と有機物との錯体、EuやYbなどの希土類金属、希土類金属を含有する無機塩、希土類金属と有機物との錯体などが挙げられる。ドナー性材料としては、金属リチウム、希土類金属、フッ化リチウムまたはリチウムキノリノール(Liq)が特に好ましい。
【0204】
(電子注入層)
本発明において、陰極と電子輸送層の間に電子注入層を設けてもよい。一般的に電子注入層は陰極から電子輸送層への電子の注入を助ける目的で挿入されるが、挿入する場合は、電子受容性窒素を含むヘテロアリール環構造を有する化合物を用いてもよいし、上記のドナー性材料を含有する層を用いてもよい。
【0205】
また電子注入層に絶縁体や半導体の無機物を用いることもできる。これらの材料を用いることで発光素子の短絡を防止して、かつ電子注入性を向上させることができるので好ましい。
【0206】
このような絶縁体としては、アルカリ金属カルコゲナイド、アルカリ土類金属カルコゲナイド、アルカリ金属のハロゲン化物およびアルカリ土類金属のハロゲン化物からなる群から選択される少なくとも一つの金属化合物を使用するのが好ましい。
【0207】
(電荷発生層)
本発明における電荷発生層は、一つの層で形成されていてもよく、複数の層が積層されて形成されていてもよい。また一般的に電荷として電子を発生しやすいものはn型電荷発生層と呼ばれ、正孔を発生しやすいものはp型電荷発生層と呼ばれる。電荷発生層は二重層からなることが好ましい。具体的には、n型電荷発生層およびp型電荷発生層からなるpn接合電荷発生層として用いることが好ましい。上記pn接合型電荷発生層は発光素子中で電圧が印加されることにより電荷を発生、または電荷を正孔および電子に分離し、これらの正孔および電子を正孔輸送層および電子輸送層を経由して発光層に注入する。具体的には、発光層が積層された発光素子において中間層の電荷発生層として機能する。n型電荷発生層は陽極側に存在する第一発光層に電子を供給し、p型電荷発生層は陰極側に存在する第二発光層に正孔を供給する。そのため、複数の発光層を積層した発光素子における発光効率を改善でき、駆動電圧を下げることができ、素子の耐久性も向上する。
【0208】
上記n型電荷発生層は、n型ドーパントおよびn型ホストからなり、これらは従来の材料を用いることができる。例えば、n型ドーパントとして、上記のドナー性材料が好適に用いられ、具体的にはアルカリ金属もしくはその塩、アルカリ土類金属もしくはその塩、または希土類金属を用いることができる。中でもアルカリ金属もしくはその塩、または希土類金属が好ましく、金属リチウム、フッ化リチウム(LiF)、リチウムキノリノール(Liq)または金属イッテルビウムがさらに好ましい。また、n型ホストとしては、上記の電子輸送層に用いられる電子輸送材料が好適に用いられ、中でもトリアジン誘導体、フェナントロリン誘導体またはオリゴピリジン誘導体を用いることができる。n型ホストとしては上記の電子輸送層に用いられる電子輸送材料が好適に用いられる。中でもフェナントロリン誘導体またはターピリジン誘導体が好ましい。一般式(13)で表されるフェナントロリン誘導体がさらに好ましい。すなわち、本発明の発光素子は、電荷発生層に一般式(13)で表されるフェナントロリン誘導体を含有することが好ましい。一般式(13)で表されるフェナントロリン誘導体はn型電荷発生層に含まれることが好ましい。
【0210】
Ar
5は、2個のフェナントロリル基で置換されているアリール基である。置換位置は任意の位置である。このアリール基はその他の位置で別の置換基を有していてもよい。このようなアリール基としては、合成容易性、昇華性の観点から、フェニル基、ナフチル基、フェナントリル基、ピレニル基、フルオレニル基から選ばれることが好ましい。
【0211】
R
71〜R
77は、それぞれ同じでも異なっていてもよく、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、複素環基、アリール基、ヘテロアリール基の中から選ばれる。特に化合物の安定性および電荷移動容易性の観点から、水素原子、アルキル基、アリール基、ヘテロアリール基の中から選ばれることが好ましい。
【0212】
一般式(13)で表されるフェナントロリン誘導体としては下記のものが例示される。
【0214】
上記p型電荷発生層は、p型ドーパントおよびp型ホストからなり、これらは従来の材料を用いることができる。例えば、p型ドーパントとして、上記の正孔注入層で用いる
アクセプター性化合物が好適に用いられ、具体的には1,4,5,8,9,11−ヘキサアザトリフェニレン−ヘキサカルボニトリル(HAT−CN6)、テトラフルオレ−7,7,8,8−テトラシアノキノジメタン(F4−TCNQ)、テトラシアノキノジメタン誘導体、ラジアレン誘導体、ヨウ素、FeCl
3、FeF
3、およびSbCl
5などを用いることができる。特に好ましくは、1,4,5,8,9,11−ヘキサアザトリフェニレン−ヘキサカルボニトリル(HAT−CN6)、または(2E,2’E,2’’E)−2,2’,2’’−(シクロプロパン−1,2,3−トリイリデン)トリス(2−(ペルフルオロフェニル)−アセトニトリル)、(2E,2’E,2’’E)−2,2’,2’’−(シクロプロパン−1,2,3−トリイリデン)トリス(2−(4−シアノペルフルオロフェニル)−アセトニトリル)などのラジアレン誘導体である。上記アクセプター性化合物は単独で薄膜を形成してもよい。この場合、アクセプター性化合物の薄膜は膜厚10nm以下であることがより好ましい。p型ホストとして好ましくはアリールアミン誘導体である。
【0215】
発光素子を構成する上記各層の形成方法は、ドライプロセスまたはウェットプロセスのいずれでもよく、抵抗加熱蒸着、電子ビーム蒸着、スパッタリング、分子積層法、コーティング法、インクジェット法、印刷法など特に限定されないが、通常は、素子特性の点から抵抗加熱蒸着または電子ビーム蒸着が好ましい。
【0216】
有機層の厚みは、発光物質の抵抗値にもよるので限定することはできないが、1〜1000nmであることが好ましい。発光層、電子輸送層、正孔輸送層の膜厚はそれぞれ、好ましくは1nm以上200nm以下であり、さらに好ましくは5nm以上100nm以下である。
【0217】
本発明の実施の形態に係る発光素子は、電気エネルギーを光に変換できる機能を有する。ここで電気エネルギーとしては主に直流電流が使用されるが、パルス電流や交流電流を用いることも可能である。電流値および電圧値は特に制限はないが、素子の消費電力や寿命を考慮すると、できるだけ低いエネルギーで最大の輝度が得られることが好ましい。
【0218】
本発明の実施の形態に係る発光素子は、通電によりピーク波長が580nm以上750nm以下の赤色発光を呈することが好ましい。色域を拡大し色再現性を向上させる観点から、ピーク波長は600nm以上640nm以下の領域であることが好ましく、600nm以上630nm以下の領域であることがより好ましい。
【0219】
また本発明の実施の形態に係る発光素子は、色純度を高める観点から、通電による発光スペクトルの半値幅が45nm以下であることが好ましく、40nm以下であることがより好ましい。
【0220】
本発明の実施の形態に係る発光素子は、例えば、マトリクスおよび/またはセグメント方式で表示するディスプレイ等の表示装置として好適に用いられる。
【0221】
本発明の実施の形態に係る発光素子は、各種機器等のバックライトとしても好ましく用いられる。バックライトは、主に自発光しないディスプレイ等の表示装置の視認性を向上させる目的に使用され、液晶ディスプレイ、時計、オーディオ装置、自動車パネル、表示板および標識などの表示装置に使用される。特に、液晶ディスプレイ、中でも薄型化が検討されているパソコン用途のバックライトに本発明の発光素子は好ましく用いられ、従来のものより薄型で軽量なバックライトを提供できる。
【0222】
本発明の実施の形態に係る発光素子は、各種照明装置としても好ましく用いられる。本発明の実施の形態に係る発光素子は、高い発光効率と高色純度との両立が可能であり、さらに、薄型化や軽量化が可能であることから、低消費電力と鮮やかな発光色、高いデザイン性を合わせ持った照明装置が実現できる。
【実施例】
【0223】
以下、実施例をあげて本発明を説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
【0224】
合成例1
化合物D−1の合成方法
3−(4−tert−ブチルフェニル)−1,4,5,6−テトラヒドロベンゾ[6,7]シクロヘプタ[1,2−b]ピロール4.50gと、1−ナフトイルクロリド3.25gと、o−キシレン70mlとの混合溶液を、窒素気流下、130℃で5時間加熱攪拌した。室温に冷却後、メタノールを添加し、析出した固体をろ過し、真空乾燥して、2−(1−ナフトイル)−3−(4−tert−ブチルフェニル)−1,4,5,6−テトラヒドロベンゾ[6,7]シクロヘプタ[1,2−b]ピロール5.60gを得た。
【0225】
次に、2−(1−ナフトイル)−3−(4−tert−ブチルフェニル)−1,4,5,6−テトラヒドロベンゾ[6,7]シクロヘプタ[1,2−b]ピロール1.35gと、3−(4−tert−ブチルフェニル)−1,4,5,6−テトラヒドロベンゾ[6,7]シクロヘプタ[1,2−b]ピロール0.95gとトリフルオロメタンスルホン酸無水物1.63gと、トルエン30mlとの混合溶液を、窒素気流下、110℃で6時間加熱攪拌した。室温に冷却後、水50mlを注入し、酢酸エチル50mlで抽出した。有機層を水50mlで洗浄した後、硫酸マグネシウムを添加し、ろ過した。ろ液をエバポレーターにより溶媒を除去し、残留物であるピロメテン体を得た。
【0226】
続いて、得られたピロメテン体とトルエン60mlとの混合溶液に、窒素気流下、ジイソプロピルエチルアミン3.0mlと、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体2.2mlとを加え、80℃で1時間攪拌した。続いて水50mlを注入し、酢酸エチル50mlで抽出した。有機層を水50mlで洗浄した後、硫酸マグネシウムを添加し、ろ過した。ろ液からエバポレーターにより溶媒を除去し、続いて残留物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘプタン/トルエン=1/2)により精製した。さらに濃縮した精製物にメタノール50mlを加え60℃で10分間加熱攪拌したのち放冷し、析出した固体を濾過し、真空乾燥して、赤紫色粉末1.56gを得た。得られた粉末をLC−MSにより分析し、赤紫色粉末がピロメテン金属錯体である化合物D−1であることを確認した。
【0227】
化合物D−1:MS(m/z) 815[M+H]
+
化合物D−1は、油拡散ポンプを用いて1×10
−3Paの圧力下、270℃で昇華精製を行ってから発光素子材料として使用した。
【0228】
化合物D−1の溶液中の発光特性を以下に示す。
吸収スペクトル(溶媒:トルエン):λmax 584nm
蛍光スペクトル(溶媒:トルエン):λmax 607nm、半値幅 35nm。
【0229】
【化30】
【0230】
合成例2
化合物D−2の合成方法
3−(4−tert−ブチルフェニル)−1,4,5,6−テトラヒドロベンゾ[6,7]シクロヘプタ[1,2−b]ピロール0.36gと、2,4,6−トリメチルベンズアルデヒド0.09gと、ジクロロメタン30mlとの混合溶液に、トリフルオロ酢酸2滴を加え、窒素気流下、室温で2時間撹拌した。その後、水50mlを添加し、ジクロロメタン50mlで抽出した。有機層を水50mlで洗浄した後、硫酸マグネシウムを添加し、ろ過した。ろ液をエバポレーターにより溶媒を除去し、ピロメタン体0.38gを得た。
【0231】
続いて、得られたピロメタン体0.38gにDDQ0.15gとジクロロメタン20mlを加え、室温で4時間攪拌した。LC−MSでピロメタン体の消失を確認後、N,N−ジイソプロピルエチルアミン0.75mlと、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体0.60mlとを加えて、室温で8時間攪拌した。その後、水50mlを添加し、ジクロロメタン50mlで抽出した。有機層を水50mlで洗浄した後、硫酸マグネシウムを添加し、ろ過した。ろ液からエバポレーターにより溶媒を除去し、続いて残留物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘプタン/トルエン=1/2)により精製した。さらに濃縮した精製物にメタノール50mlを加え、60℃で10分間加熱攪拌したのち放冷した。析出した固体を濾過し、真空乾燥して、赤紫色粉末0.26gを得た。得られた粉末をLC−MSにより分析し、赤紫色粉末がピロメテン金属錯体である化合物D−2であることを確認した。
【0232】
化合物D−2:MS(m/z) 723[M+H]
+
化合物D−2は、油拡散ポンプを用いて1×10
−3Paの圧力下、270℃で昇華精製を行ってから発光素子材料として使用した。
【0233】
化合物D−2の溶液中の発光特性を以下に示す。
【0234】
吸収スペクトル(溶媒:トルエン):λmax 582nm
蛍光スペクトル(溶媒:トルエン):λmax 605nm、半値幅 35nm。
【0235】
【化31】
【0236】
下記の実施例および比較例において使用されるピロメテン金属錯体は以下に示す化合物である。また、これらピロメテン金属錯体化合物のトルエン溶液における発光特性を表1に示す。
【0237】
【化32】
【0238】
【化33】
【0239】
【化34】
【0240】
【化35】
【0241】
【表1-1】
【0242】
【表1-2】
【0243】
実施例1
(蛍光ボトムエミッション型発光素子評価)
ITO透明導電膜を165nm堆積させたガラス基板(ジオマテック(株)製、11Ω/□、スパッタ品)を38×46mmに切断し、エッチングを行った。得られた基板を“セミコクリーン56”(商品名、フルウチ化学(株)製)で15分間超音波洗浄してから、超純水で洗浄した。この基板を素子作製の直前に1時間UV−オゾン処理し、真空蒸着装置内に設置して、装置内の真空度が5×10
−4Pa以下になるまで排気した。抵抗加熱法によって、まず正孔注入層として、HAT−CN6を5nm、続いて正孔輸送層として、HT−1を50nm蒸着した。次に、発光層として、ホスト材料としてH−1(第一の化合物)を、またドーパント材料として化合物D−1(第二の化合物)をドープ濃度が0.5重量%になるようにして20nmの厚さに蒸着した。さらに電子輸送層としてET−1を、ドナー性材料として2E−1を用い、ET−1と2E−1の蒸着速度比が1:1になるようにして35nmの厚さに積層した。次に、電子注入層として2E−1を0.5nm蒸着した後、マグネシウムと銀を1000nm共蒸着して陰極とし、5×5mm角のボトムエミッション型発光素子を作製した。
【0244】
この発光素子を1000cd/m
2で発光させた時の発光特性は、発光ピーク波長611nm、半値幅38nm、外部量子効率5.8%であった。また耐久性は、初期輝度を1000cd/m
2となる電流で連続通電し、初期輝度の90%の輝度となる時間(以下、LT90とする)で評価を行った。その結果、この発光素子のLT90は245時間であった。なお、HAT−CN6、HT−1、H−1、ET−1、2E−1は下記に示す化合物である。
【0245】
【化36】
【0246】
実施例2〜46、比較例1〜4
ドーパント材料として表1に記載した化合物を用いた以外は実施例1と同様にして発光素子を作製し、評価した。結果を表2に示す。
【0247】
【表2-1】
【0248】
【表2-2】
【0249】
表2を参照して分かるように、実施例1〜46は非架橋型の比較例1に比べていずれも半値幅が狭い発光を得ることができた。比較例2〜3では半値幅は狭いものの、ピーク波長が650nm以上と深い赤色となり、表示装置や照明装置用途としての色度の達成が困難であった。また、比較例4では半値幅は狭いものの、外部量子効率と耐久性が低かった。
【0250】
実施例47
(TADFボトムエミッション型発光素子評価)
ITO透明導電膜を165nm堆積させたガラス基板(ジオマテック(株)製、11Ω/□、スパッタ品)を38×46mmに切断し、エッチングを行った。得られた基板を“セミコクリーン56”(商品名、フルウチ化学(株)製)で15分間超音波洗浄してから、超純水で洗浄した。この基板を、素子を作製する直前に1時間UV−オゾン処理し、真空蒸着装置内に設置して、装置内の真空度が5×10
−4Pa以下になるまで排気した。抵抗加熱法によって、まず正孔注入層として、HAT−CN6を10nm、続いて正孔輸送層として、HT−1を180nm蒸着した。次に、発光層として、ホスト材料H−2(第三の化合物)と、化合物D−1(第二の化合物)と、TADF材料である化合物H−3(第一の化合物)とを、重量比で80:0.5:19.5になるようにして、40nmの厚さに蒸着した。さらに電子輸送層として、電子輸送材料に化合物ET−1を、ドナー性材料として2E−1を用い、化合物ET−1と2E−1の蒸着速度比が1:1になるようにして35nmの厚さに積層した。次に、電子注入層として2E−1を0.5nm蒸着した後、マグネシウムと銀を1000nm共蒸着して陰極とし、5×5mm角のボトムエミッション型発光素子を作製した。
【0251】
この発光素子を1000cd/m
2で発光させた時の発光特性は、発光ピーク波長612nm、半値幅38nm、外部量子効率13.2%、LT90は172時間であった。なお、H−2、H−3は下記に示す化合物である。
【0252】
【化37】
【0253】
また、H−2、H−3それぞれの化合物の励起一重項エネルギー準位:S
1、励起三重項エネルギー準位:T
1は以下の通りである。
S
1(H−2):3.4eV
T
1(H−2):2.6eV
S
1(H−3):2.3eV
T
1(H−3):2.2eV。
【0254】
実施例48〜72、比較例5〜6
ドーパント材料として表3に記載した化合物を用いた以外は実施例47と同様にして発光素子を作製し、評価した。結果を表3に示す。
【0255】
【表3】
【0256】
表3を参照して分かるように、実施例47〜72および比較例5〜6は、発光層にTADF材料を用いているため、1〜46および比較例1〜4と比べて外部量子効率が大幅に向上した。これらの中でも、実施例47〜72はいずれも半値幅が狭く、高効率な発光を得ることができた。一方で、比較例5は外部量子効率が高いものの、半値幅が広かった。また比較例6は、半値幅は狭いものの、外部量子効率が低かった。
【0257】
実施例73
(TADFトップエミッション型発光素子評価)
金属アルミニウムによる反射膜100nmとITO透明導電膜50nmを順に堆積させたガラス基板(ジオマテック(株)製、11Ω/□、スパッタ品)を38×46mmに切断し、エッチングを行った。得られた基板を“セミコクリーン56”(商品名、フルウチ化学(株)製)で15分間超音波洗浄してから、超純水で洗浄した。この基板を、素子を作製する直前に1時間UV−オゾン処理し、真空蒸着装置内に設置して、装置内の真空度が5×10
−4Pa以下になるまで排気した。抵抗加熱法によって、ITO導電膜上に、まず正孔注入層としてHAT−CN6を10nm、続いて正孔輸送層としてHT−1を125nm蒸着した。次に、発光層として、ホスト材料H−2(第三の化合物)と、化合物D−1(第二の化合物)と、TADF材料である化合物H−3(第一の化合物)とを、重量比で80:0.5:19.5になるようにして、20nmの厚さに蒸着した。さらに電子輸送層として、電子輸送材料に化合物ET−1を、ドナー性材料として2E−1を用い、化合物ET−1と2E−1の蒸着速度比が1:1になるようにして30nmの厚さに積層した。次に、電子注入層として2E−1を1nm蒸着した後、マグネシウムと銀を20nm共蒸着して陰極とし、5×5mm角のトップエミッション型発光素子を作製した。
【0258】
この発光素子を1000cd/m
2で発光させた時の発光特性は、発光ピーク波長615nm、半値幅33nm、CIE色度(x,y=0.66,0.34)、電流効率42cd/A、LT90は172時間であった。
【0259】
実施例74〜81、比較例7
ドーパント材料として表4に記載した化合物を用いた以外は実施例73と同様にして発光素子を作製し、評価した。結果を表4に示す。
【0260】
【表4】
【0261】
表4を参照して分かるように、実施例73〜81および比較例7はいずれも半値幅の狭い発光スペクトルが得られた。一方、実施例73〜81は比較例7に比べ高い電流効率を得ることができた。トップエミッション型発光素子ではキャビティ効果により共振する波長領域の光は強め合うが、この領域から外れた波長の光は弱め合う。そのため半値幅が狭い発光スペクトルを有する発光材料を使用した発光素子で電流効率が高くなるが、その効果を確認することができた。
【0262】
実施例82
(ドープ薄膜の発光特性測定)
石英ガラス板(10×10mm)を“セミコクリーン56”(商品名、フルウチ化学(株)製)で15分間超音波洗浄してから、超純水で洗浄し、乾燥した。このガラス板を素子作製の直前に1時間UV−オゾン処理し、真空蒸着装置内に設置して装置内の真空度が5×10
−4Pa以下になるまで排気した。抵抗加熱法によって、ホスト材料としてmCBPを、またドーパント材料として化合物D−1をドープ濃度が1重量%になるようにして500nmの厚さに蒸着し、1重量%ドープ薄膜を得た。同様の方法により、2重量%ドープ薄膜と4重量%ドープ薄膜を得た。
【0263】
1重量%ドープ薄膜の発光特性を示す。
【0264】
発光ピーク波長 :λmax 611nm、半値幅 38nm
また、1重量%、2重量%、4重量%のそれぞれのドープ薄膜について、蛍光量子収率測定装置C11347−01(浜松ホトニクス(株)製)を用いて、励起光540nmにおける蛍光量子収率を求めた。またドープ濃度1%のときの蛍光量子収率を1とした時の各ドープ濃度における蛍光量子収率の比率をQY比として、以下の式により求めた。
【0265】
QY比=(ドープ濃度x重量%の薄膜の蛍光量子収率)/(ドープ濃度1重量%の薄膜の蛍光量子収率)
[x=1、2、または4]
以下に結果を示す。
ドープ濃度 1重量%; 蛍光量子収率 70%、QY比=1
ドープ濃度 2重量%; 蛍光量子収率 59%、QY比=0.84
ドープ濃度 4重量%; 蛍光量子収率 49%、QY比=0.70。
【0266】
実施例83〜99
ドーパント材料として表5に記載の化合物を用いた以外は実施例82と同様にしてドープ薄膜の蛍光量子収率およびQY比を求めた。結果を表5に示す。
【0267】
【表5】
【0268】
表5のQY比の比較より、橋頭位のフェニル基がピロメテン骨格との結合部に対し2位および6位の両方に置換基を有するピロメテン金属錯体を用いた実施例83、実施例86、実施例88、実施例89、実施例91、実施例93、実施例98、実施例99は、それ以外のピロメテン金属錯体を用いた場合に比べて、いずれもドープ濃度増加による蛍光量子収率の低下が小さい、すなわち濃度消光が小さくなっていることが分かった。
【0269】
以上のように、本発明のピロメテン金属錯体を用いることにより、外部量子効率が高く、発光スペクトルの半値幅が狭い発光素子の作製ができることが示された。またトップエミッション型発光素子では電流効率が大きく向上することが分かった。さらに従来困難であった発光ピーク波長が640nm以下の赤色発光を得ることが可能となるため、波長の設計範囲を広くできることが分かった。これにより、ディスプレイなどの表示装置や照明装置の製造において、色制御が容易となり、また色純度と発光効率を高くできることが示された。
【0270】
実施例100
(2種のホスト材料を用いたTADFボトムエミッション型発光素子評価)
ITO透明導電膜を165nm堆積させたガラス基板(ジオマテック(株)製、11Ω/□、スパッタ品)を38×46mmに切断し、エッチングを行った。得られた基板を“セミコクリーン56”(商品名、フルウチ化学(株)製)で15分間超音波洗浄してから、超純水で洗浄した。この基板を、素子を作製する直前に1時間UV−オゾン処理し、真空蒸着装置内に設置して、装置内の真空度が5×10
−4Pa以下になるまで排気した。抵抗加熱法によって、まず正孔注入層として、HAT−CN6を10nm、続いて正孔輸送層として、HT−1を180nm蒸着した。次に、発光層として、第一のホスト材料H−2(正孔輸送性の第三の化合物)と、第二のホスト材料H−4(電子輸送性の第三の化合物)と、化合物D−1(第二の化合物)と、TADF材料である化合物H−3(第一の化合物)とを、重量比で40:40:0.5:19.5になるようにして、40nmの厚さに蒸着した。さらに電子輸送層として、電子輸送材料に化合物ET−1を、ドナー性材料として2E−1を用い、化合物ET−1と2E−1の蒸着速度比が1:1になるようにして35nmの厚さに積層した。次に、電子注入層として2E−1を0.5nm蒸着した後、マグネシウムと銀を1000nm共蒸着して陰極とし、5×5mm角のボトムエミッション型発光素子を作製した。
【0271】
この発光素子を1000cd/m
2で発光させた時の発光特性は、発光ピーク波長612nm、半値幅38nm、外部量子効率13.0%、LT90は255時間であった。1種のホスト材料を用いた実施例47と比べ、発光ピーク波長、半値幅、外部量子効率は同等であり、LT90が約1.5倍に大きくなっており、耐久性が向上していることが確認された。なお、H−4は下記に示す化合物である。
【0272】
【化38】
【0273】
また、H−2、H−4の励起一重項エネルギー準位:S
1、励起三重項エネルギー準位:T
1は以下の通りである。
S
1(H−2):3.4eV
T
1(H−2):2.6eV
S
1(H−4):3.9eV
T
1(H−4):2.8eV。
【0274】
実施例101
(タンデム型蛍光発光素子評価)
ITO透明導電膜を165nm堆積させたガラス基板(ジオマテック(株)製、11Ω/□、スパッタ品)を38×46mmに切断し、エッチングを行った。得られた基板を“セミコクリーン56”(商品名、フルウチ化学(株)製)で15分間超音波洗浄してから、超純水で洗浄した。この基板を、素子を作製する直前に1時間UV−オゾン処理し、真空蒸着装置内に設置して、装置内の真空度が5×10
−4Pa以下になるまで排気した。抵抗加熱法によって、まず正孔注入層として、HAT−CN6を5nm、続いて正孔輸送層として、HT−1を50nm蒸着した。次に、発光層として、ホスト材料としてH−1(第一の化合物)を、またドーパント材料として化合物D−1(第二の化合物)をドープ濃度が0.5重量%になるようにして20nmの厚さに蒸着した。さらに電子輸送層として、電子輸送材料に化合物ET−1を、ドナー性材料として2E−1を用い、化合物ET−1と2E−1の蒸着速度比が1:1になるようにして35nmの厚さに積層した。続いてn型電荷発生層としてn型ホストに化合物ET−2を、n型ドーパントに金属リチウムを用い、化合物ET−2と金属リチウムの蒸着速度比が99:1になるようにして10nm積層した。さらにp型電荷発光層としてHAT−CN6を10nm積層した。その上に上記と同様に正孔輸送層としてHT−1を50nm、発光層としてホスト材料H−1に化合物D−1が0.5重量%ドープされた薄膜を20nm、電子輸送層としてET−1と2E−1の比率が1:1となる薄膜35nmを順に蒸着した。次に、電子注入層として2E−1を0.5nm蒸着した後、マグネシウムと銀を1000nm共蒸着して陰極とし、5×5mm角のタンデム型蛍光発光素子を作製した。
【0275】
この発光素子を1000cd/m
2で発光させた時の発光特性は、発光ピーク波長611nm、半値幅38nm、外部量子効率10.9%、LT90は511時間であった。発光層が1層のみの実施例1と比べ、外部量子効率とLT90がどちらも約2倍に大きくなっており、発光効率と耐久性が向上していることが確認された。なお、ET−2は下記に示す化合物である。
【0276】
【化39】