(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記末端に存在する炭素数5〜14の鎖状脂肪族基の含有量が、ポリイミド樹脂中の全繰り返し構成単位の合計100モル%に対し0.01モル%以上、10モル%以下である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の難燃性ポリイミド成形材料。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[難燃性ポリイミド成形材料]
本発明の難燃性ポリイミド成形材料は、半芳香族ポリイミド樹脂(A)及び炭素繊維(B)を含有し、該(B)成分の含有量が15〜80質量%である。
本発明の難燃性ポリイミド成形材料は、半芳香族ポリイミド樹脂(A)を含有することで熱可塑性と比較的高い耐熱性とを発現し、成形加工性に優れる材料となる。また半芳香族ポリイミド樹脂(A)と特定量の炭素繊維(B)とを組み合わせることで、高難燃性及び長期耐熱性を有するポリイミド成形材料及び成形体が得られる。
【0013】
本発明の難燃性ポリイミド成形材料において上記効果が得られる理由は定かではないが、以下のように考えられる。
樹脂材料の一般的な燃焼機構は以下の通りである。まず、燃焼雰囲気(気相)中の可燃性ガスが燃焼して輻射熱が発生し、これにより樹脂材料表面の温度が上昇する。次に、熱伝導により樹脂材料全体の温度が上昇し、有機物である樹脂材料の熱分解が起こって可燃性ガスが発生する。発生した可燃性ガスは樹脂材料の内部から表面(固相)、次いで気相中に拡散されて酸素と結合し、燃焼が継続する。
樹脂材料を難燃化する機構の一つとして、その燃焼過程において材料表面に炭化膜(チャー)を形成させる方法が挙げられる。材料表面に炭化膜が形成されると、該炭化膜が燃焼バリア層となり、燃焼過程において樹脂材料の熱分解により発生した可燃性ガスの気相中への拡散、及び、気相中の酸素の侵入を遮断し、難燃化される。この難燃化機構は、一般には例えば難燃剤の添加により達成される。
【0014】
ポリイミド樹脂は、樹脂単独でも比較的高い難燃性が得られることが知られており、その難燃化機構については以下のように考えられている。
ポリイミド樹脂の燃焼過程において、500〜650℃付近ではポリイミド樹脂中のイミド環のラジカル的な開裂反応が起こり、CO及びCO
2の発生と共にラジカル中間体が形成される。この段階で形成されるラジカル中間体は、ポリイミド樹脂のイミド環は開裂しているが主鎖部分は切断されておらず、高分子鎖の状態を維持していると考えられている。次いで、当該ラジカル中間体同士でのC−C結合形成反応が進行し、高分子量の炭素前駆体が形成される。
本発明で用いる半芳香族ポリイミド樹脂(A)から形成される炭素前駆体は芳香環を含むことから、グラファイト構造を取りやすく、燃焼過程で炭化膜(チャー)に変換されやすいと考えられる。さらに本発明では、半芳香族ポリイミド樹脂(A)に対し所定量の炭素繊維(B)を配合することで、半芳香族ポリイミド樹脂(A)と熱伝導性の高い炭素繊維(B)との相互作用により炭化膜の形成が効率よく進行し、これにより高難燃性及び長期耐熱性が発現すると推察される。
【0015】
一般的に、ガラス繊維等の充填材を樹脂に配合すると、機械的特性を向上させるものの、難燃性が低下しやすいことが知られている。これは、着火時に熱が充填材を伝わり充填材近傍の樹脂の粘度が低下し、樹脂の分解の進行とともに燃焼ガスが発生しやすくなり燃焼が継続するためである。例えば半芳香族ポリイミド樹脂(A)に対し、炭素繊維(B)に代えてガラス繊維を配合した場合、得られる成形材料及び成形体は長期耐熱性には優れるが高難燃性は発現しない。
しかしながら本発明においては、驚くべきことに、半芳香族ポリイミド樹脂(A)と特定量の炭素繊維(B)とを組み合わせることで高難燃性を達成でき、ひいては長期耐熱性も得られることを見出したものである。
【0016】
<半芳香族ポリイミド樹脂(A)>
本発明に用いる半芳香族ポリイミド樹脂(A)(以下、単に「(A)成分」ともいう)としては、芳香族テトラカルボン酸成分及び脂肪族ジアミン成分に由来する繰り返し構成単位を主として含むポリイミド樹脂、並びに、脂肪族テトラカルボン酸成分及び芳香族ジアミン成分に由来する繰り返し構成単位を主として含むポリイミド樹脂が挙げられる。ここでいう「主として含む」とは、ポリイミド樹脂の主鎖を構成する、テトラカルボン酸成分及びジアミン成分に由来する繰り返し構成単位の合計に対し、好ましくは50〜100モル%、より好ましくは75〜100モル%、更に好ましくは80〜100モル%、より更に好ましくは85〜100モル%含むことをいう。
【0017】
本発明に用いる(A)成分は熱可塑性樹脂であり、その形態としては粉末又はペレットであることが好ましい。熱可塑性の半芳香族ポリイミド樹脂は、例えばポリアミド酸等のポリイミド前駆体の状態で成形した後にイミド環を閉環して形成される、ガラス転移温度(Tg)を持たないポリイミド樹脂、あるいはガラス転移温度よりも低い温度で分解してしまうポリイミド樹脂とは区別される。
【0018】
本発明に用いる(A)成分としては、耐熱性及び成形加工性の観点から、芳香族テトラカルボン成分及び脂肪族ジアミン成分に由来する繰り返し構成単位を主として含む半芳香族ポリイミド樹脂が好ましい。より好ましくは、下記式(1)で示される繰り返し構成単位及び下記式(2)で示される繰り返し構成単位を含み、該式(1)の繰り返し構成単位と該式(2)の繰り返し構成単位の合計に対する該式(1)の繰り返し構成単位の含有比が20〜70モル%のポリイミド樹脂(A1)である。
【化1】
(R
1は少なくとも1つの脂環式炭化水素構造を含む炭素数6〜22の2価の脂肪族基である。R
2は炭素数5〜16の2価の鎖状脂肪族基である。X
1及びX
2は、それぞれ独立に、炭素数6〜22の4価の芳香族基である。)
以下、当該ポリイミド樹脂を単に「ポリイミド樹脂(A1)」ともいい、ポリイミド樹脂(A1)を例として詳細を説明する。
【0019】
まず、式(1)の繰り返し構成単位について、以下に詳述する。
R
1は少なくとも1つの脂環式炭化水素構造を含む炭素数6〜22の2価の脂肪族基である。ここで、脂環式炭化水素構造とは、脂環式炭化水素化合物から誘導される環を意味し、該脂環式炭化水素化合物は、飽和であっても不飽和であってもよく、単環であっても多環であってもよい。
脂環式炭化水素構造としては、シクロヘキサン環等のシクロアルカン環、シクロヘキセン等のシクロアルケン環、ノルボルナン環等のビシクロアルカン環、及びノルボルネン等のビシクロアルケン環が例示されるが、これらに限定されるわけではない。これらの中でも、好ましくはシクロアルカン環、より好ましくは炭素数4〜7のシクロアルカン環、さらに好ましくはシクロヘキサン環である。
R
1の炭素数は6〜22であり、好ましくは8〜17である。
R
1は脂環式炭化水素構造を少なくとも1つ含み、好ましくは1〜3個含む。
【0020】
R
1は、好ましくは下記式(R1−1)又は(R1−2)で表される2価の基である。
【化2】
(m
11及びm
12は、それぞれ独立に、0〜2の整数であり、好ましくは0又は1である。m
13〜m
15は、それぞれ独立に、0〜2の整数であり、好ましくは0又は1である。)
【0021】
R
1は、特に好ましくは下記式(R1−3)で表される2価の基である。
【化3】
なお、上記の式(R1−3)で表される2価の基において、2つのメチレン基のシクロヘキサン環に対する位置関係はシスであってもトランスであってもよく、またシスとトランスの比は如何なる値でもよい。
【0022】
X
1は炭素数6〜22の4価の芳香族基である。前記芳香族基における芳香環は単環でも縮合環でもよく、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、及びテトラセン環が例示されるが、これらに限定されるわけではない。これらの中でも、好ましくはベンゼン環及びナフタレン環であり、より好ましくはベンゼン環である。
X
1の炭素数は6〜22であり、好ましくは6〜18である。
X
1は芳香環を少なくとも1つ含み、好ましくは1〜3個含む。
【0023】
X
1は、好ましくは下記式(X−1)〜(X−4)のいずれかで表される4価の基である。
【化4】
(R
11〜R
18は、それぞれ独立に、炭素数1〜4のアルキル基である。p
11〜p
13は、それぞれ独立に、0〜2の整数であり、好ましくは0である。p
14、p
15、p
16及びp
18は、それぞれ独立に、0〜3の整数であり、好ましくは0である。p
17は0〜4の整数であり、好ましくは0である。L
11〜L
13は、それぞれ独立に、単結合、エーテル基、カルボニル基又は炭素数1〜4のアルキレン基である。)
なお、X
1は炭素数6〜22の4価の芳香族基であるので、式(X−2)におけるR
12、R
13、p
12及びp
13は、式(X−2)で表される4価の芳香族基の炭素数が10〜22の範囲に入るように選択される。
同様に、式(X−3)におけるL
11、R
14、R
15、p
14及びp
15は、式(X−3)で表される4価の芳香族基の炭素数が12〜22の範囲に入るように選択され、式(X−4)におけるL
12、L
13、R
16、R
17、R
18、p
16、p
17及びp
18は、式(X−4)で表される4価の芳香族基の炭素数が18〜22の範囲に入るように選択される。
【0024】
X
1は、特に好ましくは下記式(X−5)又は(X−6)で表される4価の基である。
【化5】
【0025】
次に、式(2)の繰り返し構成単位について、以下に詳述する。
R
2は炭素数5〜16の2価の鎖状脂肪族基であり、好ましくは炭素数6〜14、より好ましくは炭素数7〜12、更に好ましくは炭素数8〜10である。ここで、鎖状脂肪族基とは、鎖状脂肪族化合物から誘導される基を意味し、該鎖状脂肪族化合物は、飽和であっても不飽和であってもよく、直鎖状であっても分岐状であってもよく、酸素原子等のヘテロ原子を含んでいてもよい。
R
2は、好ましくは炭素数5〜16のアルキレン基であり、より好ましくは炭素数6〜14、更に好ましくは炭素数7〜12のアルキレン基であり、なかでも好ましくは炭素数8〜10のアルキレン基である。前記アルキレン基は、直鎖アルキレン基であっても分岐アルキレン基であってもよいが、好ましくは直鎖アルキレン基である。
R
2は、好ましくはオクタメチレン基及びデカメチレン基からなる群から選ばれる少なくとも1種であり、特に好ましくはオクタメチレン基である。
【0026】
また、R
2の別の好適な様態として、エーテル基を含む炭素数5〜16の2価の鎖状脂肪族基が挙げられる。該炭素数は、好ましくは炭素数6〜14、より好ましくは炭素数7〜12、更に好ましくは炭素数8〜10である。その中でも好ましくは下記式(R2−1)又は(R2−2)で表される2価の基である。
【化6】
(m
21及びm
22は、それぞれ独立に、1〜15の整数であり、好ましくは1〜13、より好ましくは1〜11、更に好ましくは1〜9である。m
23〜m
25は、それぞれ独立に、1〜14の整数であり、好ましくは1〜12、より好ましくは1〜10、更に好ましくは1〜8である。)
なお、R
2は炭素数5〜16(好ましくは炭素数6〜14、より好ましくは炭素数7〜12、更に好ましくは炭素数8〜10)の2価の鎖状脂肪族基であるので、式(R2−1)におけるm
21及びm
22は、式(R2−1)で表される2価の基の炭素数が5〜16(好ましくは炭素数6〜14、より好ましくは炭素数7〜12、更に好ましくは炭素数8〜10)の範囲に入るように選択される。すなわち、m
21+m
22は5〜16(好ましくは6〜14、より好ましくは7〜12、更に好ましくは8〜10)である。
同様に、式(R2−2)におけるm
23〜m
25は、式(R2−2)で表される2価の基の炭素数が5〜16(好ましくは炭素数6〜14、より好ましくは炭素数7〜12、更に好ましくは炭素数8〜10)の範囲に入るように選択される。すなわち、m
23+m
24+m
25は5〜16(好ましくは炭素数6〜14、より好ましくは炭素数7〜12、更に好ましくは炭素数8〜10)である。
【0027】
X
2は、式(1)におけるX
1と同様に定義され、好ましい様態も同様である。
【0028】
式(1)の繰り返し構成単位と式(2)の繰り返し構成単位の合計に対する、式(1)の繰り返し構成単位の含有比は20〜70モル%である。式(1)の繰り返し構成単位の含有比が上記範囲である場合、一般的な射出成型サイクルにおいても、ポリイミド樹脂を十分に結晶化させ得ることが可能となる。該含有量比が20モル%未満であると成形加工性が低下し、70モル%を超えると結晶性が低下するため、耐熱性が低下する。
式(1)の繰り返し構成単位と式(2)の繰り返し構成単位の合計に対する、式(1)の繰り返し構成単位の含有比は、高い結晶性を発現する観点から、好ましくは65モル%以下、より好ましくは60モル%以下、更に好ましくは50モル%以下である。
中でも、式(1)の繰り返し構成単位と式(2)の繰り返し構成単位の合計に対する式(1)の繰り返し構成単位の含有比は20モル%以上、40モル%未満であることが好ましい。この範囲であるとポリイミド樹脂(A1)の結晶性が高くなり、より耐熱性に優れる成形材料を得ることができる。
上記含有比は、成形加工性の観点からは、好ましくは25モル%以上、より好ましくは30モル%以上、更に好ましくは32モル%以上であり、高い結晶性を発現する観点から、より更に好ましくは35モル%以下である。
【0029】
ポリイミド樹脂(A1)を構成する全繰り返し構成単位に対する、式(1)の繰り返し構成単位と式(2)の繰り返し構成単位の合計の含有比は、好ましくは50〜100モル%、より好ましくは75〜100モル%、更に好ましくは80〜100モル%、より更に好ましくは85〜100モル%である。
【0030】
ポリイミド樹脂(A1)は、さらに、下記式(3)の繰り返し構成単位を含有してもよい。その場合、式(1)の繰り返し構成単位と式(2)の繰り返し構成単位の合計に対する、式(3)の繰り返し構成単位の含有比は、好ましくは25モル%以下である。一方で、下限は特に限定されず、0モル%を超えていればよい。
前記含有比は、耐熱性の向上という観点からは、好ましくは5モル%以上、より好ましくは10モル%以上であり、一方で結晶性を維持する観点からは、好ましくは20モル%以下、より好ましくは15モル%以下である。
【化7】
(R
3は少なくとも1つの芳香環を含む炭素数6〜22の2価の基である。X
3は少なくとも1つの芳香環を含む炭素数6〜22の4価の基である。)
【0031】
R
3は少なくとも1つの芳香環を含む炭素数6〜22の2価の基である。前記芳香環は単環でも縮合環でもよく、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、及びテトラセン環が例示されるが、これらに限定されるわけではない。これらの中でも、好ましくはベンゼン環及びナフタレン環であり、より好ましくはベンゼン環である。
R
3の炭素数は6〜22であり、好ましくは6〜18である。
R
3は芳香環を少なくとも1つ含み、好ましくは1〜3個含む。
また、前記芳香環には1価もしくは2価の電子求引性基が結合していてもよい。1価の電子求引性基としてはニトロ基、シアノ基、p−トルエンスルホニル基、ハロゲン、ハロゲン化アルキル基、フェニル基、アシル基などが挙げられる。2価の電子求引性基としては、フッ化アルキレン基(例えば−C(CF
3)
2−、−(CF
2)
p−(ここで、pは1〜10の整数である))のようなハロゲン化アルキレン基のほかに、−CO−、−SO
2−、−SO−、−CONH−、−COO−などが挙げられる。
【0032】
R
3は、好ましくは下記式(R3−1)又は(R3−2)で表される2価の基である。
【化8】
(m
31及びm
32は、それぞれ独立に、0〜2の整数であり、好ましくは0又は1である。m
33及びm
34は、それぞれ独立に、0〜2の整数であり、好ましくは0又は1である。R
21、R
22、及びR
23は、それぞれ独立に、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数2〜4のアルケニル基、又は炭素数2〜4のアルキニル基である。p
21、p
22及びp
23は0〜4の整数であり、好ましくは0である。L
21は、単結合、エーテル基、カルボニル基又は炭素数1〜4のアルキレン基である。)
なお、R
3は少なくとも1つの芳香環を含む炭素数6〜22の2価の基であるので、式(R3−1)におけるm
31、m
32、R
21及びp
21は、式(R3−1)で表される2価の基の炭素数が6〜22の範囲に入るように選択される。
同様に、式(R3−2)におけるL
21、m
33、m
34、R
22、R
23、p
22及びp
23は、式(R3−2)で表される2価の基の炭素数が12〜22の範囲に入るように選択される。
【0033】
X
3は、式(1)におけるX
1と同様に定義され、好ましい様態も同様である。
【0034】
ポリイミド樹脂(A1)は、さらに、下記式(4)で示される繰り返し構成単位を含有してもよい。
【化9】
(R
4は−SO
2−又は−Si(R
x)(R
y)O−を含む2価の基であり、R
x及びR
yはそれぞれ独立に、炭素数1〜3の鎖状脂肪族基又はフェニル基を表す。X
4は少なくとも1つの芳香環を含む炭素数6〜22の4価の基である。)
X
4は、式(1)におけるX
1と同様に定義され、好ましい様態も同様である。
【0035】
ポリイミド樹脂(A1)の末端構造には特に制限はないが、炭素数5〜14の鎖状脂肪族基を末端に有することが好ましい。
該鎖状脂肪族基は、飽和であっても不飽和であってもよく、直鎖状であっても分岐状であってもよい。ポリイミド樹脂(A1)が上記特定の基を末端に有すると、耐熱老化性に優れる成形体を得ることができる。
炭素数5〜14の飽和鎖状脂肪族基としては、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基、n−ウンデシル基、ラウリル基、n−トリデシル基、n−テトラデシル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、2−メチルペンチル基、2−メチルヘキシル基、2−エチルペンチル基、3−エチルペンチル基、イソオクチル基、2−エチルヘキシル基、3−エチルヘキシル基、イソノニル基、2−エチルオクチル基、イソデシル基、イソドデシル基、イソトリデシル基、イソテトラデシル基等が挙げられる。
炭素数5〜14の不飽和鎖状脂肪族基としては、1−ペンテニル基、2−ペンテニル基、1−へキセニル基、2−へキセニル基、1−ヘプテニル基、2−ヘプテニル基、1−オクテニル基、2−オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ドデセニル基、トリデセニル基、テトラデセニル基等が挙げられる。
中でも、上記鎖状脂肪族基は飽和鎖状脂肪族基であることが好ましく、飽和直鎖状脂肪族基であることがより好ましい。また耐熱老化性を得る観点から、上記鎖状脂肪族基は好ましくは炭素数6以上、より好ましくは炭素数7以上、更に好ましくは炭素数8以上であり、好ましくは炭素数12以下、より好ましくは炭素数10以下、更に好ましくは炭素数9以下である。上記鎖状脂肪族基は1種のみでもよく、2種以上でもよい。
上記鎖状脂肪族基は、特に好ましくはn−オクチル基、イソオクチル基、2−エチルヘキシル基、n−ノニル基、イソノニル基、n−デシル基、及びイソデシル基からなる群から選ばれる少なくとも1種であり、更に好ましくはn−オクチル基、イソオクチル基、2−エチルヘキシル基、n−ノニル基、及びイソノニル基からなる群から選ばれる少なくとも1種であり、最も好ましくはn−オクチル基、イソオクチル基、及び2−エチルヘキシル基からなる群から選ばれる少なくとも1種である。
またポリイミド樹脂(A1)は、耐熱老化性の観点から、末端アミノ基及び末端カルボキシ基以外に、炭素数5〜14の鎖状脂肪族基のみを末端に有することが好ましい。上記以外の基を末端に有する場合、その含有量は、好ましくは炭素数5〜14の鎖状脂肪族基に対し10モル%以下、より好ましくは5モル%以下である。
【0036】
ポリイミド樹脂(A1)中の上記炭素数5〜14の鎖状脂肪族基の含有量は、優れた耐熱老化性を発現する観点から、ポリイミド樹脂(A1)を構成する全繰り返し構成単位の合計100モル%に対し、好ましくは0.01モル%以上、より好ましくは0.1モル%以上、更に好ましくは0.2モル%以上である。また、十分な分子量を確保し良好な機械的物性を得るためには、ポリイミド樹脂(A1)中の上記炭素数5〜14の鎖状脂肪族基の含有量は、ポリイミド樹脂(A1)を構成する全繰り返し構成単位の合計100モル%に対し、好ましくは10モル%以下、より好ましくは6モル%以下、更に好ましくは3.5モル%以下である。
ポリイミド樹脂(A1)中の上記炭素数5〜14の鎖状脂肪族基の含有量は、ポリイミド樹脂(A1)を解重合することにより求めることができる。
【0037】
ポリイミド樹脂(A1)は、360℃以下の融点を有し、かつ150℃以上のガラス転移温度を有することが好ましい。ポリイミド樹脂(A1)の融点は、耐熱性の観点から、より好ましくは280℃以上、更に好ましくは290℃以上であり、高い成形加工性を発現する観点からは、好ましくは345℃以下、より好ましくは340℃以下、更に好ましくは335℃以下である。また、ポリイミド樹脂(A1)のガラス転移温度は、耐熱性の観点から、より好ましくは160℃以上、より好ましくは170℃以上であり、高い成形加工性を発現する観点からは、好ましくは250℃以下、より好ましくは230℃以下、更に好ましくは200℃以下である。
ポリイミド樹脂(A1)の融点、ガラス転移温度は、いずれも示差走査型熱量計により測定することができる。
またポリイミド樹脂(A1)は、結晶性、耐熱性、機械的強度、耐薬品性を向上させる観点から、示差走査型熱量計測定により、該ポリイミド樹脂(A1)を溶融後、降温速度20℃/分で冷却した際に観測される結晶化発熱ピークの熱量(以下、単に「結晶化発熱量」ともいう)が、5.0mJ/mg以上であることが好ましく、10.0mJ/mg以上であることがより好ましく、17.0mJ/mg以上であることが更に好ましい。ポリイミド樹脂(A1)の結晶化発熱量の上限値は特に限定されないが、通常、45.0mJ/mg以下である。
ポリイミド樹脂(A1)の融点、ガラス転移温度、結晶化発熱量は、具体的には実施例に記載の方法で測定できる。
【0038】
ポリイミド樹脂(A1)の5質量%濃硫酸溶液の30℃における対数粘度は、好ましくは0.2〜2.0dL/g、より好ましくは0.3〜1.8dL/gの範囲である。対数粘度が0.2dL/g以上であれば、得られるポリイミド成形材料を成形体とした際に十分な機械的強度が得られ、2.0dL/g以下であると、成形加工性及び取り扱い性が良好になる。対数粘度μは、キャノンフェンスケ粘度計を使用して、30℃において濃硫酸及び上記ポリイミド樹脂溶液の流れる時間をそれぞれ測定し、下記式から求められる。
μ=ln(ts/t
0)/C
t
0:濃硫酸の流れる時間
ts:ポリイミド樹脂溶液の流れる時間
C:0.5(g/dL)
【0039】
ポリイミド樹脂(A1)の重量平均分子量Mwは、好ましくは10,000〜150,000、より好ましくは15,000〜100,000、更に好ましくは20,000〜80,000、より更に好ましくは30,000〜70,000、より更に好ましくは35,000〜65,000の範囲である。ポリイミド樹脂(A1)の重量平均分子量Mwが10,000以上であれば機械的強度が良好になり、150,000以下であれば成形加工性が良好である。
ポリイミド樹脂(A1)の重量平均分子量Mwは、ポリメチルメタクリレート(PMMA)を標準試料としてゲルろ過クロマトグラフィー(GPC)法により測定することができる。
【0040】
(半芳香族ポリイミド樹脂(A)の製造方法)
半芳香族ポリイミド樹脂(A)は、テトラカルボン酸成分とジアミン成分とを反応させることにより製造することができる。以下、ポリイミド樹脂(A1)の製造方法を例として説明する。
ポリイミド樹脂(A1)の製造においては、該テトラカルボン酸成分は芳香族テトラカルボン酸及び/又はその誘導体を含有し、該ジアミン成分は少なくとも1つの脂環式炭化水素構造を含む脂肪族ジアミン及び鎖状脂肪族ジアミンを含有する。
【0041】
芳香族テトラカルボン酸は4つのカルボキシ基が直接芳香環に結合した化合物であることが好ましく、構造中にアルキル基を含んでいてもよい。また前記芳香族テトラカルボン酸は、炭素数6〜26であるものが好ましい。芳香族テトラカルボン酸としては、ピロメリット酸、2,3,5,6−トルエンテトラカルボン酸、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸等が好ましい。これらの中でもピロメリット酸がより好ましい。
【0042】
芳香族テトラカルボン酸の誘導体としては、芳香族テトラカルボン酸の無水物又はアルキルエステル体が挙げられる。前記テトラカルボン酸誘導体は、炭素数6〜38であるものが好ましい。芳香族テトラカルボン酸の無水物としては、ピロメリット酸一無水物、ピロメリット酸二無水物、2,3,5,6−トルエンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。芳香族テトラカルボン酸のアルキルエステル体としては、ピロメリット酸ジメチル、ピロメリット酸ジエチル、ピロメリット酸ジプロピル、ピロメリット酸ジイソプロピル、2,3,5,6−トルエンテトラカルボン酸ジメチル、3,3’,4,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸ジメチル、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸ジメチル、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸ジメチル、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸ジメチル等が挙げられる。上記芳香族テトラカルボン酸のアルキルエステル体において、アルキル基の炭素数は1〜3が好ましい。
【0043】
芳香族テトラカルボン酸及び/又はその誘導体は、上記から選ばれる少なくとも1つの化合物を単独で用いてもよく、2つ以上の化合物を組み合わせて用いてもよい。
【0044】
少なくとも1つの脂環式炭化水素構造を含む脂肪族ジアミンの炭素数は6〜22が好ましく、例えば、1,2−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,2−シクロヘキサンジアミン、1,3−シクロヘキサンジアミン、1,4−シクロヘキサンジアミン、4,4’−ジアミノジシクロヘキシルメタン、4,4’−メチレンビス(2−メチルシクロヘキシルアミン)、カルボンジアミン、リモネンジアミン、イソフォロンジアミン、ノルボルナンジアミン、ビス(アミノメチル)トリシクロ[5.2.1.0
2,6]デカン、3,3’−ジメチル−4,4’−ジアミノジシクロヘキシルメタン、4,4’−ジアミノジシクロヘキシルプロパン等が好ましい。これらの化合物を単独で用いてもよく、これらから選ばれる2つ以上の化合物を組み合わせて用いてもよい。これらのうち、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサンが好適に使用できる。なお、脂環式炭化水素構造を含む脂肪族ジアミンは一般的には構造異性体を持つが、シス体/トランス体の比率は限定されない。
【0045】
鎖状脂肪族ジアミンは、直鎖状であっても分岐状であってもよく、炭素数は5〜16が好ましく、6〜14がより好ましく、7〜12が更に好ましい。また、鎖部分の炭素数が5〜16であれば、その間にエーテル結合を含んでいてもよい。鎖状脂肪族ジアミンとして例えば1,5−ペンタメチレンジアミン、2−メチルペンタン−1,5−ジアミン、3−メチルペンタン−1,5−ジアミン、1,6−ヘキサメチレンジアミン、1,7−ヘプタメチレンジアミン、1,8−オクタメチレンジアミン、1,9−ノナメチレンジアミン、1,10−デカメチレンジアミン、1,11−ウンデカメチレンジアミン、1,12−ドデカメチレンジアミン、1,13−トリデカメチレンジアミン、1,14−テトラデカメチレンジアミン、1,16−ヘキサデカメチレンジアミン、2,2’−(エチレンジオキシ)ビス(エチレンアミン)等が好ましい。
鎖状脂肪族ジアミンは1種類あるいは複数を混合して使用してもよい。これらのうち、炭素数が8〜10の鎖状脂肪族ジアミンが好適に使用でき、特に1,8−オクタメチレンジアミン及び1,10−デカメチレンジアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種が好適に使用できる。
【0046】
ポリイミド樹脂(A1)を製造する際、少なくとも1つの脂環式炭化水素構造を含む脂肪族ジアミンと鎖状脂肪族ジアミンの合計量に対する、少なくとも1つの脂環式炭化水素構造を含む脂肪族ジアミンの仕込み量のモル比は20〜70モル%であることが好ましい。該モル量は、好ましくは25モル%以上、より好ましくは30モル%以上、更に好ましくは32モル%以上であり、高い結晶性を発現する観点から、好ましくは60モル%以下、より好ましくは50モル%以下、更に好ましくは40モル%未満、更に好ましくは35モル%以下である。
【0047】
また、上記ジアミン成分中に、少なくとも1つの芳香環を含むジアミンを含有してもよい。少なくとも1つの芳香環を含むジアミンの炭素数は6〜22が好ましく、例えば、オルトキシリレンジアミン、メタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミン、1,2−ジエチニルベンゼンジアミン、1,3−ジエチニルベンゼンジアミン、1,4−ジエチニルベンゼンジアミン、1,2−ジアミノベンゼン、1,3−ジアミノベンゼン、1,4−ジアミノベンゼン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、α,α’−ビス(4−アミノフェニル)1,4−ジイソプロピルベンゼン、α,α’−ビス(3−アミノフェニル)−1,4−ジイソプロピルベンゼン、2,2−ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、2,6−ジアミノナフタレン、1,5−ジアミノナフタレン等が挙げられる。
【0048】
上記において、少なくとも1つの脂環式炭化水素構造を含む脂肪族ジアミンと鎖状脂肪族ジアミンの合計量に対する、少なくとも1つの芳香環を含むジアミンの仕込み量のモル比は、25モル%以下であることが好ましい。一方で、下限は特に限定されず、0モル%を超えていればよい。
前記モル比は、耐熱性の向上という観点からは、好ましくは5モル%以上、より好ましくは10モル%以上であり、一方で結晶性を維持する観点からは、好ましくは20モル%以下、より好ましくは15モル%以下である。
また、前記モル比は、ポリイミド樹脂(A1)の着色を少なくする観点からは、好ましくは12モル%以下、より好ましくは10モル%以下、更に好ましくは5モル%以下、より更に好ましくは0モル%である。
【0049】
ポリイミド樹脂(A1)を製造する際、前記テトラカルボン酸成分と前記ジアミン成分の仕込み量比は、テトラカルボン酸成分1モルに対してジアミン成分が0.9〜1.1モルであることが好ましい。
【0050】
またポリイミド樹脂(A1)を製造する際、前記テトラカルボン酸成分、前記ジアミン成分の他に、末端封止剤を混合してもよい。末端封止剤としては、モノアミン類及びジカルボン酸類からなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましい。末端封止剤の使用量は、ポリイミド樹脂(A1)中に所望量の末端基を導入できる量であればよく、前記テトラカルボン酸及び/又はその誘導体1モルに対して0.0001〜0.1モルが好ましく、0.001〜0.06モルがより好ましく、0.002〜0.035モルが更に好ましい。
中でも、末端封止剤としてはモノアミン類末端封止剤が好ましく、ポリイミド樹脂(A1)の末端に前述した炭素数5〜14の鎖状脂肪族基を導入して耐熱老化性を向上させる観点から、炭素数5〜14の鎖状脂肪族基を有するモノアミンがより好ましく、炭素数5〜14の飽和直鎖状脂肪族基を有するモノアミンが更に好ましい。
末端封止剤は、特に好ましくはn−オクチルアミン、イソオクチルアミン、2−エチルヘキシルアミン、n−ノニルアミン、イソノニルアミン、n−デシルアミン、及びイソデシルアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種であり、更に好ましくはn−オクチルアミン、イソオクチルアミン、2−エチルヘキシルアミン、n−ノニルアミン、及びイソノニルアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種であり、最も好ましくはn−オクチルアミン、イソオクチルアミン、及び2−エチルヘキシルアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種である。
【0051】
半芳香族ポリイミド樹脂(A)を製造するための重合方法としては、公知の重合方法が適用でき、国際公開第2016/147996号に記載の方法を用いることができる。
【0052】
<炭素繊維(B)>
本発明の難燃性ポリイミド成形材料は、半芳香族ポリイミド樹脂(A)と、炭素繊維(B)とを含有する。半芳香族ポリイミド樹脂(A)に対し所定量の炭素繊維(B)を配合すると、前述の作用機構により高難燃性及び長期耐熱性を付与することができ、機械特性にも優れる成形体が得られる。
炭素繊維(B)としては、ポリアクリロニトリル系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維を好ましく用いることができる。
【0053】
炭素繊維(B)の形態には特に制限はなく、得られる難燃性ポリイミド成形材料及び成形体の形態に応じて、連続繊維、短繊維のいずれも用いることができ、両者を併用してもよい。
難燃性ポリイミド成形材料の形態については後述するが、例えば難燃性ポリイミド成形材料がペレットである場合は、押出成形性等の観点から、炭素繊維(B)は平均繊維長10mm未満の短繊維であることが好ましい。また難燃性ポリイミド成形材料は、半芳香族ポリイミド樹脂(A)を含むバインダー樹脂を炭素繊維(B)に含浸させたプリプレグの形態であってもよく、この場合の炭素繊維(B)は連続繊維であることが好ましい。
【0054】
炭素繊維(B)が短繊維である場合、その平均繊維長は、好ましくは10mm未満であり、より好ましくは0.5〜8mm、さらに好ましくは2〜8mmである。
炭素繊維(B)が連続繊維である場合、例えば単にモノフィラメント又はマルチフィラメントを一方向又は交互の交差するように並べたもの、編織物等の布帛、不織布あるいはマット等の種々の形態が挙げられる。これらのうち、モノフィラメント、布帛、不織布あるいはマットの形態が好ましく、布帛の形態がより好ましい。
炭素繊維(B)が連続繊維である場合、その繊度は、20〜4,500texが好ましく、50〜4,000texがより好ましい。繊度がこの範囲であると、半芳香族ポリイミド樹脂(A)の含浸が容易であり、得られる成形体の弾性率及び強度が優れたものとなる。なお、繊度は任意の長さの連続繊維の重量を求めて、1,000m当たりの重量に換算して求めることができる。
【0055】
炭素繊維(B)の平均繊維径は、1〜100μmであることが好ましく、3〜50μmがより好ましく、4〜20μmであることが更に好ましい。平均繊維径がこの範囲であると、加工が容易であり、得られる成形体の弾性率及び強度が優れたものとなる。
なお、炭素繊維(短繊維)の平均繊維長、及び炭素繊維の平均繊維径は、走査型電子顕微鏡(SEM)等により50本以上の繊維を無作為に選んで観察、計測し、個数平均を算出することにより求められる。
【0056】
炭素繊維(B)のフィラメント数は通常、500〜100,000の範囲であり、好ましくは5,000〜80,000、より好ましくは10,000〜70,000である。
【0057】
半芳香族ポリイミド樹脂(A)との濡れ性、界面密着性を向上させるために、炭素繊維(B)は表面処理剤で表面処理されたものであることが好ましい。当該表面処理剤は、収束剤、サイジング剤も含む概念である。
表面処理剤としては、例えば、エポキシ系材料、ウレタン系材料、アクリル系材料、ポリアミド系材料、ポリエステル系材料、ビニルエステル系材料、ポリオレフィン系材料、及びポリエーテル系材料が挙げられ、これらのうち1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。より高い機械特性と高難燃性とを両立する観点からは、表面処理剤としてはエポキシ系材料が好ましい。
【0058】
炭素繊維(B)の表面処理剤による処理量は、表面処理剤の種類、炭素繊維の形態等により適宜選択することができる。例えば炭素繊維(B)として短繊維を用いる場合、半芳香族ポリイミド樹脂(A)への分散性を向上させ、より高い難燃性を得る観点から、サイジング剤により表面処理されているものが好ましく、該サイジング剤の付着量は、好ましくは1.5〜10質量%、より好ましくは2〜5質量%の範囲である。
【0059】
炭素繊維(B)として、市販品を用いることもできる。市販の炭素繊維(短繊維)としては、例えば、日本ポリマー産業(株)製のチョップドファイバー「CFUW」、「CFEPP」、「CFEPU」、「CFA4」、「FX1」、「EX1」、「BF−WS」、「CF−N」、「VX1」シリーズ;三菱ケミカル(株)製のパイロフィル チョップドファイバー「TR06U」、「TR06NE」、「TR066A」、「TR06UL」シリーズ;帝人(株)製の「IM−C702」、「HT C702」、「HT P722」が挙げられる。
【0060】
難燃性ポリイミド成形材料中の炭素繊維(B)の含有量は、15〜80質量%であり、好ましくは20〜70質量%、より好ましくは25〜65質量%、更に好ましくは25〜60質量%、より更に好ましくは30〜55質量%、より更に好ましくは30〜50質量%である。難燃性ポリイミド成形材料中の炭素繊維(B)の含有量が15質量%以上であれば高難燃性、長期耐熱性及び機械特性が良好な成形体が得られ、80質量%以下であれば成形加工性が良好である。
【0061】
<添加剤等>
本発明の難燃性ポリイミド成形材料には、艶消剤、核剤、可塑剤、帯電防止剤、着色防止剤、ゲル化防止剤、着色剤、摺動性改良剤、酸化防止剤、導電剤、樹脂改質剤、炭素繊維(B)以外の充填材等の添加剤を、必要に応じて配合することができる。
上記添加剤の配合量には特に制限はないが、本発明の効果を損ねることなく添加剤の効果を発現させる観点から、難燃性ポリイミド成形材料中、通常、50質量%以下であり、好ましくは0.0001〜30質量%、より好ましくは0.001〜15質量%、更に好ましくは0.01〜10質量%である。
【0062】
本発明の難燃性ポリイミド成形材料は、既存の難燃剤を含有しなくても高難燃性及び長期耐熱性が得られることから、難燃剤の含有量が少ない方が好ましい。例えば本発明の難燃性ポリイミド成形材料中の難燃剤の含有量は、好ましくは5質量%以下、より好ましくは2質量%以下、更に好ましくは1質量%以下、より更に好ましくは0.1質量%以下である。
既存の難燃剤としては、ハロゲン系難燃剤、リン系難燃剤、金属酸化物系難燃剤、金属水酸化物系難燃剤、金属塩系難燃剤、窒素系難燃剤、シリコーン系難燃剤、及びホウ素化合物系難燃剤等が挙げられる。
難燃剤のブリードアウトによる成形体の外観低下、高温下でのアウトガスの増大、機械強度の低下、金型等の装置汚染等を避ける観点からは、本発明の難燃性ポリイミド成形材料は、上記難燃剤を含有しないことがより好ましい。
【0063】
また本発明の難燃性ポリイミド樹脂成形材料には、その特性が阻害されない範囲で、半芳香族ポリイミド樹脂(A)以外の樹脂を配合することができる。当該樹脂としては、例えばポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂(A)以外のポリイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリフェニレンエーテルイミド樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリアリレート樹脂、液晶ポリマー、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリエーテルケトンケトン樹脂、ポリエーテルエーテルケトンケトン樹脂、ポリベンゾイミダゾール樹脂等が挙げられる。この中でも、ポリエーテルイミド樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、及びポリエーテルエーテルケトン樹脂からなる群から選ばれる1種以上の難燃性の熱可塑性樹脂が好ましく、高い難燃性を得る観点からはポリフェニレンサルファイド樹脂がより好ましい。半芳香族ポリイミド樹脂(A)以外の樹脂を併用する場合、難燃性ポリイミド樹脂成形材料の特性が阻害されない範囲であれば、その配合比率には特に制限はない。
但し本発明の難燃性ポリイミド成形材料中の半芳香族ポリイミド樹脂(A)及び炭素繊維(B)の合計含有量は、本発明の効果を得る観点から、好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上、更に好ましくは80質量%以上、より更に好ましくは90質量%以上である。また、上限は100質量%である。
【0064】
本発明の難燃性ポリイミド成形材料は任意の形態をとることができ、例えば半芳香族ポリイミド樹脂(A)と炭素繊維(B)とを含有するペレットであってもよく、半芳香族ポリイミド樹脂(A)を含むバインダー樹脂を炭素繊維(B)に含浸させたプリプレグの形態であってもよい。
本発明の難燃性ポリイミド成形材料を押出成形に供して成形体を製造する観点からは、本発明の難燃性ポリイミド成形材料はペレットであることが好ましい。
難燃性ポリイミド成形材料からなるペレットは、例えば半芳香族ポリイミド樹脂(A)、炭素繊維(B)、及び必要に応じて各種任意成分を添加してドライブレンドした後、押出機内で溶融混練してストランドを押出し、ストランドをカットすることにより得ることができる。当該ペレットを各種成形機に導入して後述の方法で熱成形することにより、所望の形状を有する成形体を容易に製造することができる。
【0065】
<難燃性>
本発明の難燃性ポリイミド成形材料は高い難燃性を有する。具体的には、本発明において、難燃性ポリイミド成形材料からなる厚さ4mmの成形体が、UL94規格に準拠した難燃性試験においてV−0に相当する難燃性を有するものとすることができる。当該難燃性は、具体的には実施例に記載の方法により評価することができる。
【0066】
また本発明の難燃性ポリイミド成形材料からなる100mm×100mm×厚さ3mmの成形体は、ISO5660−1規格に準拠して、コーンカロリーメータにより輻射熱量50kW/m
2にて測定される最大発熱速度が450kW/m
2以下であることが好ましい。当該最大発熱速度は、前記成形体をコーンカロリーメータにより輻射熱量50kW/m
2で加熱し、測定開始後0〜5分までに観測された発熱速度の最大値を意味する。
前記最大発熱速度の値が450kW/m
2以下であると、高難燃性が得られる。当該最大発熱速度は、より好ましくは420kW/m
2以下、更に好ましくは400kW/m
2以下である。
また本発明の難燃性ポリイミド成形材料からなる100mm×100mm×厚さ3mmの成形体は、高難燃性を得る観点から、上記条件にてコーンカロリーメータにより測定される、測定開始後0〜5分までの総発熱量が好ましくは70MJ/m
2以下、より好ましくは65MJ/m
2以下、更に好ましくは60MJ/m
2以下である。
当該最大発熱速度及び総発熱量は、具体的には実施例に記載の方法により測定できる。
【0067】
<その他の特性>
本発明の難燃性ポリイミド成形材料及びこれを含む成形体は、高い難燃性及び長期耐熱性を有するほか、高強度及び高弾性率を有する。
さらに、本発明の難燃性ポリイミド成形材料及びこれを含む成形体は、樹脂含有系の成形材料及び成形体としては極めて低い体積抵抗率を示す。具体的には、ASTM D991(四端子法)に準拠して23℃、50%R.H.条件下で測定される、本発明の難燃性ポリイミド成形材料からなる厚さ4mmの成形体の体積抵抗率を、例えば1×10
3Ω・cm以下、好ましくは5×10
2Ω・cm以下、より好ましくは1×10
−3〜1×10
2Ω・cm、さらに好ましくは1×10
−3〜1×10
1Ω・cmの範囲とすることができる。
当該体積抵抗率は、具体的には実施例に記載の方法により測定できる。
【0068】
[成形体]
本発明は、前記難燃性ポリイミド成形材料を含む成形体を提供する。
本発明の難燃性ポリイミド成形材料は、半芳香族ポリイミド樹脂(A)に由来する熱可塑性を有するため、熱成形することにより容易に本発明の成形体を製造できる。熱成形方法としては射出成形、押出成形、シート押出成形、ブロー成形、熱プレス成形、真空成形、圧空成形、レーザー成形、インサート成形、溶接、溶着等が挙げられ、熱溶融工程を経る成形方法であればいずれの方法でも成形が可能である。中でも射出成形は、成形温度を例えば400℃を超える高温に設定することなく成形可能であるため好ましい。
【0069】
成形体を製造する方法としては、難燃性ポリイミド成形材料を熱成形する工程を有することが好ましい。炭素繊維(B)として短繊維を用いる場合の具体的な手順としては、例えば以下の方法が挙げられる。
まず、半芳香族ポリイミド樹脂(A)に、必要に応じて各種任意成分を添加してドライブレンドした後、これを押出機内に導入して溶融し、ここに炭素繊維(B)をサイドフィードして押出機内で溶融混練及び押出し、ペレットを作製する。あるいは、半芳香族ポリイミド樹脂(A)を押出機内に導入して溶融し、ここに炭素繊維(B)及び各種任意成分をサイドフィードして押出機内で半芳香族ポリイミド樹脂(A)と溶融混練し、押出すことで前述のペレットを作製してもよい。
上記ペレットを乾燥させた後、各種成形機に導入して熱成形し、所望の形状を有する成形体を製造することができる。
本発明の難燃性ポリイミド成形材料は400℃以下の温度で押出成形等の熱成形を行うことが可能であるため、成形加工性に優れ、所望の形状を有する成形品を容易に製造することができる。
【0070】
本発明の成形体には、その一部が本発明の難燃性ポリイミド成形材料により構成されたものも含まれる。本発明の成形体の好ましい態様として、少なくとも成形体表面が本発明の難燃性ポリイミド成形材料から構成されていることが難燃性の観点から好ましい。したがって例えば、本発明の難燃性ポリイミド成形材料と、それ以外の熱可塑性樹脂とを用いてインサート成形等により成形体を製造してもよい。
【0071】
本発明の難燃性ポリイミド成形材料は成形加工性に優れると共に、高い難燃性及び長期耐熱性を有する成形体を作製できる。当該成形体は、例えば各種産業部材、産業機械用筐体、通信機器用部材、ギア、軸受、ネジ、ナット、パッキン、検査用ICソケット、ベルトや筐体等の家電製品用部材、電線等の被覆材、カバーレイフィルム、自動車用部材、鉄道用部材、半導体製造装置用部材、航空用途、医療用器具、釣り竿やリール等の筐体、文房具、カーボンUDテープ等に適用できる。また当該成形体は非常に高い強度及び弾性率を有することから、アルミ合金やマグネシウム合金を始めとした各種金属代替にも適用できる。さらに、当該成形体は樹脂含有系の成形体としては極めて低い体積抵抗率を示すため、例えば帯電防止材、静電気拡散材、電磁波シールド材にも適用できる。
【実施例】
【0072】
次に実施例を挙げて本発明をより詳しく説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。また、各製造例、実施例及び比較例における各種測定、評価は以下のように行った。
【0073】
<赤外線分光分析(IR測定)>
ポリイミド樹脂のIR測定は日本電子(株)製「JIR−WINSPEC50」を用いて行った。
【0074】
<対数粘度μ>
ポリイミド樹脂を190〜200℃で2時間乾燥した後、該ポリイミド樹脂0.100gを濃硫酸(96%、関東化学(株)製)20mLに溶解したポリイミド樹脂溶液を測定試料とし、キャノンフェンスケ粘度計を使用して30℃において測定を行った。対数粘度μは下記式により求めた。
μ=ln(ts/t
0)/C
t
0:濃硫酸の流れる時間
ts:ポリイミド樹脂溶液の流れる時間
C:0.5g/dL
【0075】
<融点、ガラス転移温度、結晶化温度、結晶化発熱量>
ポリイミド樹脂の融点Tm、ガラス転移温度Tg、結晶化温度Tc、及び結晶化発熱量ΔHmは、示差走査熱量計装置(エスアイアイ・ナノテクノロジー(株)製「DSC−6220」)を用いて測定した。
窒素雰囲気下、ポリイミド樹脂に下記条件の熱履歴を課した。熱履歴の条件は、昇温1度目(昇温速度10℃/分)、その後冷却(降温速度20℃/分)、その後昇温2度目(昇温速度10℃/分)である。
融点Tmは昇温2度目で観測された吸熱ピークのピークトップ値を読み取り決定した。ガラス転移温度Tgは昇温2度目で観測された値を読み取り決定した。結晶化温度Tcは冷却時に観測された発熱ピークのピークトップ値を読み取り決定した。
また結晶化発熱量ΔHm(mJ/mg)は冷却時に観測された発熱ピークの面積から算出した。
【0076】
<半結晶化時間>
ポリイミド樹脂の半結晶化時間は、示差走査熱量計装置(エスアイアイ・ナノテクノロジー(株)製「DSC−6220」)を用いて測定した。
窒素雰囲気下、420℃で10分保持し、ポリイミド樹脂を完全に溶融させたのち、冷却速度70℃/分の急冷操作を行った際に、観測される結晶化ピークの出現時からピークトップに達するまでにかかった時間を計算した。なお、表1中、半結晶化時間が20秒以下である場合は「<20」と表記した。
【0077】
<重量平均分子量>
ポリイミド樹脂の重量平均分子量(Mw)は、昭和電工(株)製のゲルろ過クロマトグラフィー(GPC)測定装置「Shodex GPC−101」を用いて下記条件にて測定した。
カラム:Shodex HFIP−806M
移動相溶媒:トリフルオロ酢酸ナトリウム2mM含有HFIP
カラム温度:40℃
移動相流速:1.0mL/min
試料濃度:約0.1質量%
検出器:IR検出器
注入量:100μm
検量線:標準PMMA
【0078】
<曲げ強度及び曲げ弾性率>
各例で製造したポリイミド成形材料を用いて、後述する方法によりISO316で規定される80mm×10mm×厚さ4mmの成形体を作製し、測定に使用した。ベンドグラフ((株)東洋精機製作所製)を用いて、ISO178に準拠して、温度23℃、試験速度2mm/分で曲げ試験を行い、曲げ強度及び曲げ弾性率を測定した。
【0079】
<引張強度及び引張弾性率>
各例で製造したポリイミド成形材料を用いて、後述する方法によりJIS K7161−2:2014で規定される1A型試験片を作製し、測定に使用した。引張試験機(東洋精機株式会社製「ストログラフVG−1E」)を用いて、JIS K7161−1:2014及びK7161−2:2014に準拠して、温度23℃、つかみ具間距離50mm、試験速度20mm/分で引張試験を行い、引張強度及び引張弾性率を測定した。
【0080】
<熱変形温度(HDT)>
各例で製造したポリイミド成形材料を用いて、後述する方法により80mm×10mm×厚さ4mmの成形体を作製し、測定に使用した。HDT試験装置「Auto−HDT3D−2」((株)東洋精機製作所製)を用いて、支点間距離64mm、荷重1.80MPa、昇温速度120℃/時間の条件にて熱変形温度を測定した。
【0081】
<メルトフローレート(MFR)>
各例で製造したポリイミド成形材料を用いて、JIS K7210−1:2014に準拠して、温度360℃、荷重2.16kgfでMFR(g/10min)を測定した。
ポリエーテルエーテルケトン樹脂(Victrex製「PEEK450」)に炭素繊維を30質量%充填させた、市販の射出成形用の炭素繊維強化樹脂(Victrex製「PEEK450CA30」)の同条件で測定されるMFRは0.23g/10minであり、これよりも値が大きければ、射出成形に適した良好な流動性を有すると判定した。
【0082】
<スパイラルフロー長さ>
各例で製造したポリイミド成形材料からなるペレットを150℃で8時間乾燥し、評価に用いた。スパイラルフロー金型(スパイラル幅:5mm、スパイラル厚み:3mm)を用い、日精樹脂工業(株)製のハイブリッド式射出成形機「PNX60」にて、バレル温度355℃、金型温度180℃、射出圧力100MPa及び150MPaで射出成形した際のスパイラルフロー長さを計測した。
なお、上記市販の炭素繊維強化樹脂(住友化学(株)製「スミプロイCK4600」)の同条件で測定されるスパイラルフロー長さは、射出圧力100MPaで6.4cm、150MPaで7.5cmであり、これよりも値が大きければ、射出成形に適した良好な流動性を有すると判定した。
【0083】
<UL94燃焼試験>
各例で製造したポリイミド成形材料を用いて、後述する方法により80mm×10mm×厚さ4mmの成形体を作製した。アンダーライターズラボラトリーズ社発行のプラスチック材料の難燃性試験規格であるUL94規格に準拠し、上記成形体を用いて垂直燃焼試験方法により燃焼試験を行い(n=5)、難燃性のランク(V−0、V−1、V−2)を判定した。難燃性のランクがV−0、V−1、V−2の順に難燃性が高いことを意味する。また難燃性がV−2に達しない場合は「規格外」とした。
【0084】
<合計有炎燃焼時間>
上記UL94燃焼試験において、n=5のうち1回目と2回目の燃焼試験における有炎燃焼時間の合計(単位:秒)を表2に示した。合計有炎燃焼時間が30秒を超えるものは「>30」と表記した。
【0085】
<最大発熱速度、総発熱量、着火時間>
各例で製造したポリイミド成形材料を用いて、後述する方法により100mm×100mm×厚さ3mmの成形体を作製し、測定に使用した。ISO5660−1規格に準拠して、(株)東洋精機製作所製のコーンカロリーメータ「コーンカロリーメータ C4」を用い、輻射熱量50kW/m
2にて測定を行い、測定開始後0〜5分までに観測された発熱速度の最大値、測定開始後0〜5分までの総発熱量、及び着火時間を測定した。
【0086】
<曲げ強度保持率及び曲げ弾性率保持率>
各例で製造したポリイミド成形材料を用いて、後述する方法によりISO316で規定される80mm×10mm×厚さ4mmの成形体を作製し、200℃の恒温機(エスペック(株)製「SPHH−101」)内で2週間保存した後、前記と同様の方法で曲げ強度及び曲げ弾性率を測定した。
曲げ強度保持率及び曲げ弾性率保持率は下記式より求めた。保持率が高いほど長期耐熱性に優れることを意味する。
曲げ強度保持率(%)=(200℃2週間保存後の成形体の曲げ強度/作製直後の成形体の曲げ強度)×100
曲げ弾性率保持率(%)=(200℃2週間保存後の成形体の曲げ弾性率/作製直後の成形体の曲げ弾性率)×100
【0087】
<長期耐熱性:引張強度、引張弾性率、引張強度保持率>
実施例2,4及び比較例1,3で製造したポリイミド成形材料を用いて、後述する方法によりJIS K7161−2:2014で規定される1A型試験片を作製し、180℃又は200℃の恒温機(エスペック(株)製「SPHH−101」)内で表3に示す期間(1週間、2週間、4週間、125日間)保存した後、前記と同様の方法で引張強度、及び引張弾性率を測定した。
引張強度保持率は下記式より求めた。保持率が高いほど長期耐熱性に優れることを意味する。
引張強度保持率(%)=(所定温度で所定期間保存後の試験片の引張強度/作製直後の試験片の引張強度)×100
【0088】
<熱伝導率>
(25℃測定)
各例で製造したポリイミド成形材料を用いて、後述する方法により70mm×70mm×厚さ3mmの成形体を作製し、中央部より切削加工してΦ50mmの試料を作製して測定に使用した。ASTM E1530(円板熱流計法)に準拠して、熱伝導率測定装置(ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン(株)製「DTC−300」)を用い、25℃における熱伝導率を測定した。
(150℃測定)
各例で製造したポリイミド成形材料からなるペレットを測定に使用した。熱伝導率測定装置((株)東洋精機製作所製「LS−1」)を用い、150℃における熱伝導率を測定した。
【0089】
<体積抵抗率>
実施例1〜5においては、各例で製造したポリイミド成形材料を用いて、後述する方法により175mm×10mm×厚さ4mmの成形体を作製し、23℃、50%R.H.で48時間以上調湿した後、測定に使用した。ASTM D991(四端子法)に準拠して、(株)川口電機製作所製「デジタルオームメーターR−506」を用い、23℃、50%R.H.における体積抵抗率を測定した。
比較例1,3においては、各例で製造したポリイミド成形材料を用いて、後述する方法により70mm×70mm×厚さ3mmの成形体を作製し、150℃で3時間乾燥させた後、測定に使用した。IEC:60093に準拠して、アジレント・テクノロジー(株)製「ハイレジスタンスメータ 4339B」を用い、印加電圧500V×1分で、23℃、50%R.H.における体積抵抗率を測定した。なお、いずれもn=2の平均値を測定値とした。
【0090】
[製造例1]ポリイミド樹脂1の製造
ディーンスターク装置、リービッヒ冷却管、熱電対、4枚パドル翼を設置した2Lセパラブルフラスコ中に2−(2−メトキシエトキシ)エタノール(日本乳化剤(株)製)500gとピロメリット酸二無水物(三菱ガス化学(株)製)218.12g(1.00mol)を導入し、窒素フローした後、均一な懸濁溶液になるように150rpmで撹拌した。一方で、500mLビーカーを用いて、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン(三菱ガス化学(株)製、シス/トランス比=7/3)49.79g(0.35mol)、1,8−オクタメチレンジアミン(関東化学(株)製)93.77g(0.65mol)を2−(2−メトキシエトキシ)エタノール250gに溶解させ、混合ジアミン溶液を調製した。この混合ジアミン溶液を、プランジャーポンプを使用して徐々に加えた。滴下により発熱が起こるが、内温は40〜80℃に収まるよう調整した。混合ジアミン溶液の滴下中はすべて窒素フロー状態とし、撹拌翼回転数は250rpmとした。滴下が終わったのちに、2−(2−メトキシエトキシ)エタノール130gと、末端封止剤であるn−オクチルアミン(関東化学(株)製)1.284g(0.010mol)を加えさらに撹拌した。この段階で、淡黄色のポリアミド酸溶液が得られた。次に、撹拌速度を200rpmとした後に、2Lセパラブルフラスコ中のポリアミド酸溶液を190℃まで昇温した。昇温を行っていく過程において、液温度が120〜140℃の間にポリイミド樹脂粉末の析出と、イミド化に伴う脱水が確認された。190℃で30分保持した後、室温まで放冷を行い、濾過を行った。得られたポリイミド樹脂粉末は2−(2−メトキシエトキシ)エタノール300gとメタノール300gにより洗浄、濾過を行った後、乾燥機で180℃、10時間乾燥を行い、317gのポリイミド樹脂1の粉末を得た。
ポリイミド樹脂1のIRスペクトルを測定したところ、ν(C=O)1768、1697(cm
−1)にイミド環の特性吸収が認められた。対数粘度は1.30dL/g、Tmは323℃、Tgは184℃、Tcは266℃、結晶化発熱量は21.0mJ/mg、半結晶化時間は20秒以下、Mwは55,000であった。
【0091】
製造例1におけるポリイミド樹脂の組成及び評価結果を表1に示す。なお、表1中のテトラカルボン酸成分及びジアミン成分のモル%は、ポリイミド樹脂製造時の各成分の仕込み量から算出した値である。
【0092】
【表1】
【0093】
表1中の略号は下記の通りである。
・PMDA;ピロメリット酸二無水物
・1,3−BAC;1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン
・OMDA;1,8−オクタメチレンジアミン
【0094】
実施例1〜13、比較例1〜3(ポリイミド成形材料の製造及び評価)
<実施例1〜13及び比較例2、3>
製造例1で得られたポリイミド樹脂1と、表2に示す量のタルクをドライブレンドにより十分混合した。得られた混合粉末を、同方向回転二軸混錬押出機((株)パーカーコーポレーション製「HK−25D」、スクリュー径25mmΦ、L/D=41)のホッパーから供給量3.5kg/時間で投入し、一方で、表2に示す割合となる量の炭素繊維(B)又はガラス繊維をサイドフィーダーから投入して、バレル温度330〜335℃、スクリュー回転数150rpmで押し出した。押出機より押し出されたストランドを空冷後、ペレタイザー((株)星プラスチック製「ファンカッターFC−Mini−4/N」)によってペレット化した。得られたペレットは150℃、12時間乾燥を行った後、射出成形に使用した。
射出成形機(ファナック(株)製「ROBOSHOT α−S30iA」)を使用して、バレル温度385℃、金型温度200℃、成形サイクル60秒として射出成形を行い、各種評価に用いる所定の形状の成形体を作製した。
得られたペレット又は成形体を用いて、前述した各種評価を行った。結果を表2、表3に示す。
<比較例1>
製造例1で得られたポリイミド樹脂1をラボプラストミル((株)東洋精機製作所製)を用いてバレル温度350℃、スクリュー回転数70rpmで押し出した。押出機より押し出されたストランドを空冷後、ペレタイザー((株)星プラスチック製「ファンカッターFC−Mini−4/N」)によってペレット化した。得られたペレットは150℃、12時間乾燥を行った後、射出成形に使用した。
射出成形機(ファナック(株)製「ROBOSHOT α−S30iA」)を使用して、バレル温度350℃、金型温度200℃、成形サイクル50秒として射出成形を行い、各種評価に用いる所定の形状の成形体を作製した。
得られたペレット又は成形体を用いて、前述した各種評価を行った。結果を表2、表3に示す。
【0095】
【表2】
【0096】
【表3】
【0097】
表2、表3に示した各成分の詳細は下記の通りである。
<半芳香族ポリイミド樹脂(A)>
(A1)製造例1で得られたポリイミド樹脂1、Mw:55,000
<炭素繊維(B)>
(B1)EX1−MC:日本ポリマー産業(株)製、サイジング剤:エポキシ系、サイジング剤量:3.0質量%、平均繊維長:6mm、平均繊維径:7μm、フィラメント数:12,000
(B2)CFUW−MC:日本ポリマー産業(株)製、サイジング剤:ウレタン系、サイジング剤量:3質量%、平均繊維長:3mm、平均繊維径:7μm、フィラメント数:24,000
(B3)TR06U B4E:三菱ケミカル(株)製、サイジング剤:ウレタン系、サイジング剤量:2.5質量%、平均繊維長:6mm、平均繊維径:7μm、フィラメント数:15,000
(B4)TR06NE B4E:三菱ケミカル(株)製、サイジング剤:ポリアミド系、サイジング剤量:3.0質量%、平均繊維長:6mm、平均繊維径:7μm、フィラメント数:15,000
(B5)TR066A B4E:三菱ケミカル(株)製、サイジング剤:特殊エポキシ系、サイジング剤量:3質量%、平均繊維長:6mm、平均繊維径:7μm、フィラメント数:15,000
(B6)TR06UL B6R:三菱ケミカル(株)製、サイジング剤:ウレタン系、サイジング剤量:2.5質量%、平均繊維長:6mm、平均繊維径:6μm、フィラメント数:60,000
(B7)TR06UL B5R:三菱ケミカル(株)製、サイジング剤:ウレタン系、サイジング剤量:2.5質量%、平均繊維長:6mm、平均繊維径:7μm、フィラメント数:50,000
(B8)CF−N:日本ポリマー産業(株)製、サイジング剤量:1質量%以下、平均繊維長:6mm、平均繊維径:7〜7.5μm、フィラメント数:12,000と24,000の混合
<その他>
タルク D−800:日本タルク(株)製「ナノエースD−800」、平均粒径(D50):0.8μm
ガラス繊維 T−786H:日本電気硝子(株)製「T−786H」、平均繊維径:10.5μm、平均繊維長:3mm
【0098】
表2に示すように、半芳香族ポリイミド樹脂(A)及び所定量の炭素繊維(B)を含有する実施例1〜13のポリイミド成形材料からなる成形体は難燃性に優れ、機械物性、各種熱特性、流動性も良好であった。また、200℃で2週間保存後の曲げ強度保持率が80%以上であり長期耐熱性にも優れていた。
これに対し、炭素繊維を含有しない比較例1、炭素繊維の含有量が本発明の規定範囲外である比較例2、及び、炭素繊維に代えてガラス繊維を用いた比較例3の成形体では、いずれもV−1以上の難燃性が得られなかった。また、比較例1の成形体では200℃で2週間保存後の曲げ強度保持率が著しく低下し、長期耐熱性にも劣っていた。
さらに表2より、炭素繊維を含有しない比較例1の成形体、及び炭素繊維に代えてガラス繊維を用いた比較例3の成形材料からなる厚さ4mmの成形体は、体積抵抗率が10
16〜10
17Ω・cmオーダーであるのに対し、実施例1〜5のポリイミド成形材料からなる厚さ4mmの成形体の体積抵抗率は10
−1〜10
1Ω・cmオーダーであり、体積抵抗率を大幅に低減できたことがわかる。
なお、市販のポリエーテルエーテルケトン樹脂(Victrex製「PEEK450G」)の、IEC:60093に準拠して測定される体積抵抗率(文献値)は10
16Ω・cmであり、本実施例で使用する半芳香族ポリイミド樹脂(A1)と同程度であるが、該ポリエーテルエーテルケトン樹脂に炭素繊維を30質量%充填させた、市販の射出成形用の炭素繊維強化樹脂(Victrex製「PEEK450CA30」)の同条件で測定される体積抵抗率(文献値)は10
5Ω・cmである。この値と比較しても、本発明の難燃性ポリイミド成形材料からなる成形体は体積抵抗率が極めて低いことが示唆される。
さらに表3より、半芳香族ポリイミド樹脂(A)及び所定量の炭素繊維(B)を含有する実施例2,4のポリイミド成形材料からなる成形体では、180℃で125日間保存後の引張強度保持率が80%以上であり、200℃で125日間保存後の引張強度保持率も80%以上であり、長期耐熱性に優れていた。
これに対し、炭素繊維を含有しない比較例1の成形体では、180℃で4週間保存後の引張強度保持率が41%であり、200℃で2週間保存後の引張強度保持率も27%であり、長期耐熱性に劣っていた。また、炭素繊維に代えてガラス繊維を用いた比較例3の成形体では、180℃で125日保存後の引張強度保持率が65%であり、長期耐熱性に劣っていた。
【0099】
コーンカロリーメータによる測定結果の一例を
図1及び
図2に示した。
図1は実施例4、
図2は比較例1の成形体のコーンカロリーメータによる測定チャートであり、
図1の1a及び
図2の2aは発熱速度、
図1の1b及び
図2の2bは総発熱量を示す。横軸は測定時間であり、縦軸は発熱速度(kW/m
2)及び総発熱量(MJ/m
2、×10)である。
図1と
図2の発熱速度のチャート(1a及び2a)を比較すると、
図1の実施例4の成形体と比較して、
図2の比較例1の成形体は、測定開始後、より早い段階で発熱速度の急激な上昇が見られ、且つ最大発熱速度の値も高く、燃焼しやすい(すなわち、難燃性が低い)ことがわかる。
【0100】
実施例14(ポリイミド成形材料の製造及び評価)
製造例1で得られたポリイミド樹脂1を、10mm幅の連続繊維である炭素繊維(帝人(株)製「テナックスフィラメント HTS40/24K」、平均繊維径:7μm、織度:1,600tex、フィラメント数:24,000)に、炭素繊維含有量が70質量%となるように均一にまぶした。同様の操作を繰り返し、合計12層を積層させた。これを真空プレス装置((株)小平製作所製)を使用して、プレス機温度370℃、プレス圧10kN、プレス時間600秒で熱プレス成形した。プレスの際には成形後の搬送を容易にするため、25cm×25cm×0.5mm厚のアルミ板をプレス機の上下に設置した。冷却後、アルミ板を取り除き、厚み2.4mmの平板を得た。平板を電動ノコギリにより切断し、80mm×10mm×厚さ2.4mmの成形体を作製して、前記方法でUL94燃焼試験を行った。難燃性はV−0相当と評価された。