(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の好適な一実施形態について説明する。
【0013】
本実施形態における製造方法は、オレフィンを含む原料ガスを脱水素触媒に接触させて、共役ジエンを含む生成ガスを得る工程(以下、「脱水素工程」ともいう。)を備える。本実施形態において、脱水素触媒は、Si、第14属金属元素及びPtを含有しており、脱水素触媒におけるPtに対する第14属金属元素のモル比は、1.3以上3以下である。
【0014】
本実施形態に係る製造方法によれば、特定の触媒を用いることで、触媒上へのコークの堆積が少なくなり、良好な反応効率を長時間維持でき、優れた製造効率で共役ジエンを得ることができる。このような効果が奏される理由は必ずしも明らかではないが、例えば以下のように推測される。
【0015】
本実施形態では、脱水素触媒がSiを含有するため、従来のアルミナ担体等を用いた触媒と比較して、触媒上の酸点が少なくなり、当該酸点に起因する副反応が抑制され、コーク量が低減されると考えられる。本実施形態では、脱水素触媒中の第14属金属元素とPtとがバイメタリック粒子を形成することで、Pt粒子同士の凝集が抑制されると共に、第14族金属元素からPtへの電子供与が起こると考えられる。これにより、脱水素活性が向上すると考えられる。さらに、上記バイメタリック粒子中でPt原子が希釈され、炭化水素1分子にPt原子が多点で作用することによるC−C結合の開裂反応が抑制されると考えられる。これらの理由から、本実施形態では、コーク量の抑制、高いオレフィン転化率及び高い反応選択率が実現されると考えられる。
【0016】
なお、本明細書においてオレフィンの転化率、共役ジエンの選択率及び共役ジエンの収率は、下記式(1)、式(2)及び式(3)で定義される。
r
C={1−(m
1/m
0)}×100 (1)
r
S={m
2/(m
0−m
1)}×100 (2)
r
Y=(m
2/m
0)×100 (3)
式中、r
Cはオレフィンの転化率(%)であり、m
0は、原料ガスに含まれるオレフィンのモル数であり、m
1は、生成ガス中に残存するオレフィンのモル数であり、r
Sは共役ジエンの選択率(%)であり、m
2は生成ガスに含まれる共役ジエンのモル数であり、r
Yは共役ジエンの収率(%)である。
【0017】
本実施形態において、原料ガスはオレフィンを含む。オレフィンの炭素数は、目的とする共役ジエンの炭素数と同じであってよい。すなわち、オレフィンは、生成物として想定される共役ジエン中に存在する二重結合の一つを水素化した場合に得られる炭化水素化合物であってよい。オレフィンの炭素数は、4〜10であってよく、4〜6であってよい。
【0018】
オレフィンは、例えば、鎖状であってよく、環状であってもよい。鎖状のオレフィンとしては、例えば、ブテン、ペンテン、ヘキセン、ヘプテン、オクテン、ノネン及びデセンであってよい。鎖状のオレフィンは、直鎖であってもよいし、分岐状であってもよい。直鎖状のオレフィンとしては、例えば、n−ブテン、n−ペンテン、n−ヘキセン、n−ヘプテン、n−オクテン、n−ノネン、n−デセン等が挙げられる。分岐状のオレフィンとしては、例えば、イソペンテン、2−メチルペンテン、3−メチルペンテン、2、3−ジメチルペンテン、イソヘプテン、イソオクテン、イソノネン、イソデセン等が挙げられる。原料ガスは、オレフィンを一種含むものであってよく、二種以上含むものであってもよい。
【0019】
原料ガスにおいて、オレフィンの分圧は1.0MPa以下としてよく、0.1MPa以下としてもよく、0.01MPa以下としてもよい。原料ガスのオレフィン分圧を小さくすることで、オレフィンの転化率が一層向上し易くなる。
【0020】
また、原料ガスにおけるオレフィンの分圧は、原料流量に対する反応器サイズを小さくする観点から、0.001MPa以上とすることが好ましく、0.005MPa以上とすることがより好ましい。
【0021】
原料ガスは、窒素、アルゴン等の不活性ガスを更に含有していてもよく、スチームを更に含有していてもよい。
【0022】
原料ガスがスチームを含有するとき、スチームの含有量は、オレフィンに対して1.0倍モル以上とすることが好ましく、1.5倍モル以上とすることがより好ましい。スチームを原料ガスに含有させることで、触媒の活性低下がより顕著に抑制される場合がある。なお、スチームの含有量は、例えば、オレフィンに対して50倍モル以下であってよく、好ましくは10倍モル以下である。
【0023】
原料ガスは、上記以外に、水素、酸素、一酸化炭素、炭酸ガス、アルカン類、ジエン類等の他の成分を更に含有していてもよい。
【0024】
本実施形態に係る製造方法において、生成ガスは、共役ジエンを含む。本実施形態に係る製造方法により得られる共役ジエンとしては、例えば、ブタジエン(1,3−ブタジエン)、1,3−ペンタジエン、イソプレン、1,3−ヘキサジエン、1,3−ヘプタジエン、1,3−オクタジエン、1,3−ノナジエン及び1,3−デカジエン等が挙げられる。生成ガスは、共役ジエンを一種含むものであってよく、二種以上の共役ジエンを含むものであってよい。
【0025】
本実施形態に係る製造方法は、上記の中でも、オレフィンとしてブテンを含む原料ガスを用いる方法、すなわち、1,3−ブタジエンを製造する方法に、特に好適に利用することができる。1,3−ブタジエンの製造に用いるブテンは、1−ブテン又は2−ブテンであってよい。ブテンは、1−ブテン及び2−ブテンの混合物であってよい。2−ブテンは、cis−2−ブテン及びtrans−2−ブテンのうち一方又は両方であってよい。
【0026】
以下、本実施形態における脱水素触媒について詳述する。
【0027】
脱水素触媒は、オレフィンの脱水素反応を触媒する固体触媒であり、Si、第14属金属元素及びPtを含有する。ここで、第14族金属元素とは、IUPAC(国際純正応用化学連合)の規定に基づく長周期型の元素の周期表における周期表第14族に属する金属元素を意味する。
【0028】
第14族金属元素は、例えば、ゲルマニウム(Ge)、スズ(Sn)及び鉛(Pb)からなる群より選択される少なくとも一種であってよい。これらの中でも、第14族金属元素がSnである場合、上述の効果が一層顕著に奏される。
【0029】
脱水素触媒において、Siの含有量は、脱水素触媒の全量基準で、例えば30質量%以上であってよく、40質量%以上であることが好ましい。また、Siの含有量は、脱水素触媒の全量基準で、例えば80質量%以下であってよく、60質量%以下であることが好ましい。
【0030】
脱水素触媒において、第14属金属元素の含有量は、脱水素触媒の全量基準で、例えば0.1質量%以上であってよく、0.5質量%以上であることが好ましい。また、第14属金属元素の含有量は、例えば4質量%以下であってよく、2質量%以下であることが好ましい。
【0031】
脱水素触媒において、Ptの含有量は、脱水素触媒の全量基準で、例えば0.05質量%以上であってよく、0.1質量%以上であることが好ましく、0.5質量%以上であることがより好ましい。Ptの含有量が多いと、触媒量当たりの白金量が多くなり、反応器サイズを小さくできる。また、Ptの含有量は、例えば5質量%以下であってよく、3質量%以下であることが好ましい。これにより、触媒上で形成されるPt粒子が脱水素反応に好適なサイズとなり、単位白金重量あたりの白金表面積が大きくなるため、より効率的な反応系が実現できる。
【0032】
脱水素触媒において、Ptに対する第14族金属元素のモル比(第14族金属元素のモル数/Ptのモル数)は、1.3以上であり、副反応がより抑制され、共役ジエンの製造効率が一層向上する観点からは1.5以上であることが好ましい。また、Ptに対する第14属金属元素のモル比は、3以下であり、第14属金属元素によるPt粒子の過剰な被覆を防ぎ、共役ジエンの製造効率を一層向上させる観点からは2.5以下であることが好ましい。
【0033】
なお、脱水素触媒における各金属元素の含有量は、下記実施例に記載の方法により測定できる。
【0034】
好適な一態様において、脱水素触媒は、Siを含有する担体に、第14属金属元素及びPtを担持させた触媒であってよい。
【0035】
本態様において、担体は、シリカ(SiO
2)を含む担体であってよい。
【0036】
担体におけるシリカの含有量は、担体の全量基準で90質量%以上であってよく、95質量%以上であってよく、100質量%であってもよい。
【0037】
担体は、Si以外の他の金属元素を更に含んでいてよい。他の金属元素は酸化物として存在していてもよいし、Siとの複合酸化物として存在していてもよい。
【0038】
本態様では、第14属金属元素及びPtを含む担持金属が担体に担持されている。担持金属は、酸化物又は複合酸化物として担体に担持されていてよく、単体の金属として担体に担持されていてもよい。
【0039】
担体には、第14属金属元素及びPt以外の他の金属元素が更に担持されていてもよい。他の金属元素は、単体の金属として担体に担持されていてもよいし、酸化物として担持されていてもよいし、第14属金属元素又はPtとの複合酸化物として担持されていてもよい。
【0040】
担体に担持される第14族金属元素の量は、担体100質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上であり、より好ましくは0.5質量部以上である。また、担体に担持される第14族金属元素の量は、担体100質量部に対して、4質量部以下であってよく、2質量部以下であってもよい。第14族金属元素の量が上記範囲であると、触媒劣化が一層抑制され、高い活性がより長期間にわたり維持される傾向がある。
【0041】
担体に担持されるPtの量は、担体100質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上であり、より好ましくは0.5質量部以上である。また、担体に担持されるPtの量は、担体100質量部に対して、5質量部以下であってよく、3質量部以下であってもよい。このようなPt量であると、触媒上で形成されるPt粒子が脱水素反応により好適なサイズとなり、単位白金重量あたりの白金表面積が大きくなるため、より効率的な反応系が実現できる。また、このようなPt量であると触媒コストを抑制しながら、高い活性をより長期間にわたり維持できる。
【0042】
担体に担持される他の金属元素の量は、担体100質量部に対して、例えば10質量部以下であってよく、5質量部以下であってもよく、0質量部であってもよい。
【0043】
担体に金属を担持する方法は特に限定されず、例えば、含浸法、沈着法、共沈法、混練法、イオン交換法、ポアフィリング法が挙げられる。本態様では、複数種の担持金属を一種ずつ担体に担持してよく、複数種の担持金属を同時に担体に担持してもよい。
【0044】
担体への担持方法の一態様を以下に示す。まず、担持金属の前駆体を溶解させた溶液に、担体を加え、溶液を撹拌する。その後、減圧下で溶媒を除去し、得られた固体を乾燥させる。乾燥後の固体を焼成することで、担持金属を担体に担持させることができる。
【0045】
上記の担持方法において、担持金属の前駆体は、例えば、担持金属を含む塩又は錯体であってよい。担持金属を含む塩は、例えば、無機塩、有機酸塩又はこれらの水和物であってよい。無機塩は、例えば、硫酸塩、硝酸塩、塩化物、リン酸塩、炭酸塩等であってよい。有機塩は、例えば、酢酸塩、しゅう酸塩等であってよい。担持金属を含む錯体は、例えば、アルコキシド錯体、アンミン錯体等であってよい。
【0046】
担持金属の前駆体を溶解する溶媒は、当該前駆体を溶解でき、減圧下で除去可能なものであればよい。当該溶媒としては、例えば、水、エタノール、アセトン等が挙げられる。
【0047】
上記の担持方法において、撹拌時の条件としては、例えば撹拌温度0〜60℃、撹拌時間10分〜24時間とすることができる。また、乾燥時の条件としては、例えば乾燥温度100〜250℃、乾燥時間3時間〜24時間とすることができる。
【0048】
上記の担持方法において、焼成は、例えば、空気雰囲気下又は酸素雰囲気下で行うことができる。焼成は一段階で行ってもよく、二段階以上の多段階で行ってもよい。焼成温度は、例えば担体金属の前駆体を分解可能な温度であってよい。焼成温度は、例えば200〜1000℃であってよく、400〜800℃であってもよい。なお、多段階の焼成を行う場合、少なくともその一段階が上記焼成温度であればよい。他の段階での焼成温度は、例えば上記と同じ範囲であってよく、100〜200℃であってもよい。
【0049】
脱水素触媒におけるPtの分散度は、例えば10%以上であってよく、好ましくは15%以上であってよい。このようなPt分散度を有する脱水素触媒によれば、高い活性がより長期間にわたり維持される傾向がある。なお、Ptの分散度は、吸着種としてCOを用いた、金属分散度測定法で測定される値を示す。具体的には、以下の装置及び測定条件で測定される。
・装置:株式会社大倉理研製金属分散度測定装置R−6011
・ガス流速:30mL/分(ヘリウム、水素)
・試料量:約0.1g(小数点以下4桁目まで精秤する)
・前処理:水素気流下で400℃まで1時間かけて昇温し、400℃で60分間還元処理を行う。その後、ガスを水素からヘリウムに切り替えて400℃で30分間パージした後、ヘリウム気流下で室温まで冷却する。室温で検出器が安定するまで待った後、COパルスを行う。
・測定条件:常圧ヘリウムガス流通下、室温(27℃)で一酸化炭素を0.0929cm
3ずつパルス注入し、吸着量を測定する。吸着回数は、吸着が飽和するまで行う(最低3回、最大15回)。
【0050】
脱水素触媒は押出成形法、打錠成型法等の方法で成形されていてよい。
【0051】
脱水素触媒は、成形工程における成形性を向上させる観点から、触媒の物性や触媒性能を損なわない範囲において、成形助剤を含有してよい。成型助剤は、例えば、増粘剤、界面活性剤、保水剤、可塑剤、バインダー原料等からなる群より選択される少なくとも一種であってよい。脱水素触媒を成形する成形工程は、成形助剤の反応性を考慮して脱水素触媒の製造工程の適切な段階で行ってよい。
【0052】
成形された脱水素触媒の形状は、特に限定されるものではなく、触媒を使用する形態により適宜選択することができる。例えば、脱水素触媒の形状は、ペレット状、顆粒状、ハニカム状、スポンジ状等の形状であってよい。
【0053】
脱水素触媒は、前処理として還元処理が行われたものを用いてもよい。還元処理は、例えば、還元性ガスの雰囲気下、40〜600℃で脱水素触媒を保持することで行うことができる。保持時間は、例えば0.05〜24時間であってよい。還元性ガスは、例えば、水素、一酸化炭素等であってよい。
【0054】
還元処理を行った脱水素触媒を用いることにより、脱水素反応の初期の誘導期を短くすることができる。反応初期の誘導期とは、触媒が含有する活性金属のうち、還元されて活性状態にあるものが非常に少なく、触媒の活性が低い状態をいう。
【0055】
次いで、本実施形態における脱水素工程について詳述する。
【0056】
脱水素工程は、原料ガスを脱水素触媒に接触させてオレフィンの脱水素反応を行い、共役ジエンを得る工程である。
【0057】
脱水素工程は、例えば、脱水素触媒を充填した反応器を用い、当該反応器に原料ガスを流通させることにより実施してよい。反応器としては、固体触媒による気相反応に用いられる種々の反応器を用いることができる。反応器としては、例えば、固定床断熱型反応器、ラジアルフロー型反応器、管型反応器等が挙げられる。
【0058】
脱水素反応の反応形式は、例えば、固定床式、移動床式又は流動床式であってよい。これらのうち、設備コストの観点から固定床式が好ましい。
【0059】
脱水素反応の反応温度、すなわち反応器内の温度は、反応効率の観点から300〜800℃であってよく、400〜700℃であってよく、500〜650℃であってよい。反応温度が300℃以上であれば、オレフィンの平衡転化率が低くなりすぎないため、共役ジエンの収率が一層向上する傾向がある。反応温度が800℃以下であれば、コーキング速度が大きくなりすぎないため、脱水素触媒の高い活性がより長期にわたって維持される傾向がある。
【0060】
反応圧力、すなわち反応器内の気圧は0.01〜1MPaであってよく、0.05〜0.8MPaであってよく、0.1〜0.5MPaであってよい。反応圧力が上記範囲にあれば脱水素反応が進行し易くなり、一層優れた反応効率が得られる傾向がある。
【0061】
脱水素工程を、原料ガスを連続的に供給する連続式の反応形式で行う場合、WHSVは、例えば0.1h
−1以上であってよく、0.5h
−1以上であってもよい。また、WHSVは、20h
−1以下であってよく、10h
−1以下であってもよい。ここで、WHSVは、脱水素触媒の質量Wに対する原料ガスの供給速度(供給量/時間)Fの比(F/W)である。WHSVが0.1h
−1以上であると、反応器サイズをより小さくできる。WHSVが20h
−1以下であると、オレフィンの転化率をより高くすることができる。なお、原料ガス及び触媒の使用量は、反応条件、触媒の活性等に応じて更に好ましい範囲を適宜選定してよく、WHSVは上記範囲に限定されるものではない。
【0062】
脱水素工程では、反応器に上記脱水素触媒(以下、「第一の脱水素触媒」ともいう。)以外の触媒を更に充填してもよい。
【0063】
例えば、本実施形態では、反応器の第一の脱水素触媒より前段に、アルカンからオレフィンへの脱水素反応を触媒する固体触媒(以下、「第二の脱水素触媒」ともいう。)を更に充填することにより、反応器内で原料ガスを得てもよい。換言すれば、脱水素工程は、第一の脱水素触媒及び第二の脱水素触媒が充填された反応器を用い、当該反応器に、アルカンを含むガスを流通させることにより実施してもよい。また、脱水素工程は、アルカンを含むガスを、第二の脱水素触媒が充填された反応器と第一の脱水素触媒が充填された反応器に順々に流通させることにより実施してもよい。
【0064】
以上説明したように、本実施形態に係る製造方法によれば、触媒上のコークの堆積を抑制しつつ、オレフィンから共役ジエンを効率良く製造することができる。そのため、本実施形態に係る製造方法によれば、触媒再生の頻度を少なくすることができる。このような理由から、本実施形態に係る製造方法は、共役ジエンを工業的に製造する場合に、非常に有用である。
【0065】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。
【実施例】
【0066】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0067】
(実施例A−1)
<触媒の調製>
20−60meshに分級されたシリカ担体3.0g(CARiACT Q−15、富士シリシア化学(株)製)に、59.0mgのSnCl
2・2H
2Oを10mLのEtOHに溶解させた溶液を加えた。得られた混合液を、ロータリーエバポレーターを用いて、40℃で1時間撹拌し、その後減圧下でEtOHを除去した。得られた固体を130℃のオーブン中で一晩乾燥させた。次に、乾燥後の固体を、空気流通下、130℃で30分、550℃で3時間焼成し、シリカ担体にSnが担持された触媒前駆体A−1を得た。次いで、得られた触媒前駆体A−1の全量と、79.6mgのH
2PtCl
6・2H
2Oを15mLの水に溶解させた水溶液とを混合した。得られた混合液を、ロータリーエバポレーターを用いて40℃で1時間撹拌し、その後、混合液を撹拌しながら減圧下で水を除去した。得られた固体を130℃のオーブン中で一晩乾燥させた。次に、乾燥後の固体に還元処理を行い、触媒A−1を得た。還元処理は、乾燥後の固体に対し、水素及びHeの混合ガス(水素:He=4:6(モル比))を50mL/minで流通させながら反応器を550℃まで昇温し、当該温度で3時間保持することにより行った。
【0068】
本実施例において、触媒におけるPtの含有量、Snの含有量、及びSiの含有量は、蛍光X線分析法(XRF)により測定した。蛍光X線分析法は、測定装置PW2400(PANalytical製)を用いて行い、含有量の定量はスタンダードレス定量計算プログラム UniQuant4を用いて行った。また、XRFの測定試料の調製は、以下のように行った。メノウ乳鉢に試料(例えば触媒A−1)125mg、セルロース(バインダー)125mgを量り取り、15分混合した後、20mmΦの錠剤成形器に入れ、10分間、300kgf・cm
−2の条件で加圧成形した。
【0069】
測定の結果、触媒A−1において、Ptの含有量は1質量%、Snの含有量は1質量%、Siの含有量は46質量%、Ptに対するSnのモル比(Sn/Pt)は1.7であった。
【0070】
<共役ジエンの製造>
0.5gの触媒A−1を管型反応器に充填し、反応器を固定床流通式反応装置に接続した。次に、水素及びHeの混合ガス(水素:He=4:6(モル比))を50mL/minで流通させながら反応器を600℃まで昇温し、当該温度で1時間保持した。次に、He及び水の混合ガスを反応器に供給して30分保持し、触媒のスチーミングを行った。ここで、混合ガスにおけるHe及び水のモル比は、4:3に調整した。反応器への混合ガスの供給速度は、87mL/minに調整した。続いて、1−ブテン、He及び水の混合ガス(原料ガス)を反応器に供給し、1−ブテンの脱水素反応を行った。ここで、原料ガスにおける1−ブテン、He及び水のモル比は、1:4:3に調整した。反応器への原料ガスの供給速度は、99mL/minに調整した。WHSVは3.8h
−1に調整した。反応器の原料ガスの圧力は大気圧に調整した。
【0071】
反応開始時から20分が経過した時点で、脱水素反応の生成物(生成ガス)を管型反応器から採取した。また、反応開始時から360分が経過した時点で、脱水素反応の生成物(生成ガス)を管型反応器から採取した。なお、反応開始時とは、原料ガスの供給が開始された時間である。各時点において採取された生成ガスを、熱伝導度検出器を備えたガスクロマトグラフ(TCD−GC)を用いて分析した。分析の結果、生成ガスが1,3−ブタジエンを含有することが確認された。上記ガスクロマトグラフに基づき、各時点において採取された生成ガス中の1−ブテンの濃度(単位:質量%)、2−ブテンの濃度(単位:質量%)及び1,3−ブタジエンの濃度(単位:質量%)を定量した。
【0072】
生成ガス中の1−ブテン、2−ブテン及び1,3−ブタジエンの濃度から、各時点における原料転化率(ブテン転化率)、1,3−ブタジエンの選択率(ブタジエン選択率)及び1,3−ブタジエンの収率(ブタジエン収率)を算出した。なお、ブテン転化率は下記式(4)により定義され、ブタジエン選択率は下記式(5)により定義され、ブタジエン収率は下記式(6)により定義される。
Rc=(1−M
P/M
0)×100 (4)
R
S=M
b/(M
0−M
P)×100 (5)
R
Y=M
b/M
0×100 (6)
式中、Rcは、ブテン転化率であり、R
Sは、ブタジエン選択率であり、R
Yはブタジエン収率であり、M
0は、原料ガス中の1−ブテンのモル数であり、M
Pは、生成ガス中の1−ブテン、t−2−ブテン及びc−2−ブテンのモル数の合計であり、M
bは、生成ガス中の1,3−ブタジエンのモル数である。
【0073】
分析の結果、20分経過時の1−ブテン転化率は42.0%、ブタジエン選択率は91.8%、ブタジエン収率は38.6%であり、360分経過時の1−ブテン転化率は34.7%、ブタジエン選択率は92.1%、ブタジエン収率は32.0%であり、20分経過時のブタジエン収率に対する360分経過時のブタジエン収率の比は、0.83であった。
【0074】
(実施例A−2)
SnCl
2・2H
2Oの量を79.8mgに変更したこと以外は、実施例A−1と同様にして触媒の調製を行い、触媒A−2を得た。得られた触媒A−2について分析したところ、Ptの含有量は1質量%、Snの含有量は1.4質量%、Siの含有量は46質量%、Ptに対するSnのモル比(Sn/Pt)は2.3であった。
【0075】
また、触媒A−1に代えて触媒A−2を用いたこと以外は実施例A−1と同様にして、共役ジエンの製造を行い、生成ガスの分析を行った。その結果、20分経過時の1−ブテン転化率は41.3%、ブタジエン選択率は88.6%、ブタジエン収率は36.6%であり、360分経過時の1−ブテン転化率は35.7%、ブタジエン選択率は88.6%、ブタジエン収率は31.6%であり、20分経過時のブタジエン収率に対する360分経過時のブタジエン収率の比は、0.86であった。
【0076】
(比較例a−1)
SnCl
2・2H
2Oの量を20.8mgに変更したこと以外は、実施例A−1と同様にして触媒の調製を行い、触媒a−1を得た。得られた触媒a−1について分析したところ、Ptの含有量は1質量%、Snの含有量は0.37質量%、Siの含有量は46質量%、Ptに対するSnのモル比(Sn/Pt)は0.6であった。
【0077】
また、触媒A−1に代えて触媒a−1を用いたこと以外は実施例A−1と同様にして、共役ジエンの製造を行い、生成ガスの分析を行った。その結果、20分経過時の1−ブテン転化率は38.4%、ブタジエン選択率は92.7%、ブタジエン収率は35.6%であり、360分経過時の1−ブテン転化率は9.3%、ブタジエン選択率は77.1%、ブタジエン収率は7.2%であり、20分経過時のブタジエン収率に対する360分経過時のブタジエン収率の比は、0.20であった。
【0078】
(比較例a−2)
SnCl
2・2H
2Oの量を38.2mgに変更したこと以外は、実施例A−1と同様にして触媒の調製を行い、触媒a−2を得た。得られた触媒a−2について分析したところ、Ptの含有量は1質量%、Snの含有量は0.67質量%、Siの含有量は46質量%、Ptに対するSnのモル比(Sn/Pt)は1.1であった。
【0079】
また、触媒A−1に代えて触媒a−2を用いたこと以外は実施例A−1と同様にして、共役ジエンの製造を行い、生成ガスの分析を行った。その結果、20分経過時の1−ブテン転化率は38.1%、ブタジエン選択率は91.1%、ブタジエン収率は34.7%であり、360分経過時の1−ブテン転化率は18.5%、ブタジエン選択率は85.2%、ブタジエン収率は15.8%であり、20分経過時のブタジエン収率に対する360分経過時のブタジエン収率の比は、0.45であった。
【0080】
(比較例a−3)
SnCl
2・2H
2Oの量を114.5mgに変更したこと以外は、実施例A−1と同様にして触媒の調製を行い、触媒a−3を得た。得られた触媒a−3について分析したところ、Ptの含有量は1質量%、Snの含有量は2質量%、Siの含有量は45質量%、Ptに対するSnのモル比(Sn/Pt)は3.3であった。
【0081】
また、触媒A−1に代えて触媒a−3を用いたこと以外は実施例A−1と同様にして、共役ジエンの製造を行い、生成ガスの分析を行った。その結果、20分経過時の1−ブテン転化率は25.9%、ブタジエン選択率は89.8%、ブタジエン収率は23.3%であり、360分経過時の1−ブテン転化率は4.7%、ブタジエン選択率は59.2%、ブタジエン収率は2.8%であり、20分経過時のブタジエン収率に対する360分経過時のブタジエン収率の比は、0.12であった。
【0082】
(比較例a−4)
SnCl
2・2H
2Oの量を156.1mgに変更したこと以外は、実施例A−1と同様にして触媒の調製を行い、触媒a−4を得た。得られた触媒a−4について分析したところ、Ptの含有量は1質量%、Snの含有量は2.7質量%、Siの含有量は45質量%、Ptに対するSnのモル比(Sn/Pt)は4.5であった。
【0083】
また、触媒A−1に代えて触媒a−4を用いたこと以外は実施例A−1と同様にして、共役ジエンの製造を行い、生成ガスの分析を行った。その結果、20分経過時の1−ブテン転化率は4.9%、ブタジエン選択率は64.2%、ブタジエン収率は3.1%であり、360分経過時の1−ブテン転化率は3.6%、ブタジエン選択率は51.6%、ブタジエン収率は1.9%であり、20分経過時のブタジエン収率に対する360分経過時のブタジエン収率の比は、0.59であった。
【0084】
実施例A−1及びA−2並びに比較例a−1〜a−4の結果を表1に示す。
【0085】
【表1】
【0086】
(実施例B−1)
1−ブテンに代えて2−ブテンを用い、2−ブテン、He及び水のモル比を1:5:3に調整し、WHSVを1.0h
−1に変更し、触媒のSn/Pt比を2.2としたことこと以外は、実施例A−1と同様にして共役ジエンの製造を行い、反応開始時から1時間経過時及び10時間経過時の生成ガスを分析した。
【0087】
また、反応開始時から10時間が経過した時点で、管型反応器から使用済み触媒を取出し、以下に示す方法により触媒上に堆積したコーク量(使用済み触媒全量に対するコーク量(質量%))を測定した。
使用済み触媒20mg程度を、熱重量分析(TGA)装置のサンプルホルダーの中に入れた。窒素流中において、サンプル温度を1分あたり50℃ の加熱速度で、室温から200℃まで上昇させた後、10分間保持した。この時のサンプルの重量をG1とする。次に、空気流中において、サンプル温度を1分あたり15℃ の加熱速度で、200℃から700℃まで上昇させた後、5分間保持した。この時のサンプルの重量をG2とする。以下に示す式(3)を用いて触媒上に堆積したコーク量C(単位:質量%)を求めた。
C=(G1−G2)/G2×100 (3)
【0088】
分析の結果、1時間経過時の2−ブテン転化率は42.9%、ブタジエン選択率は92.3%、ブタジエン収率は39.6%であり、10時間経過時の2−ブテン転化率は41.4%、ブタジエン選択率は94.6%、ブタジエン収率は39.1%であり、1時間経過時のブタジエン収率に対する10時間経過時のブタジエン収率の比は0.99であった。また、10時間経過時のコーク量は1.4質量%であった。
【0089】
(比較例b−1)
MgAl
2O
4担体にSn及びPtを担持させた触媒b−1を準備した。触媒b−1において、Ptの含有量は1質量%、Snの含有量は12.2質量%、Mgの含有量は14質量%、Alの含有量は32質量%であり、触媒b−1のSn/Pt比は、MgAl
2O
4担体を用いた場合の好適なSn/Pt比である20とした。触媒A−1に代えて触媒b−1を用いたこと以外は、実施例B−1と同様にして共役ジエンの製造を行い、生成ガスの分析及びコーク量の測定を行った。
【0090】
その結果、1時間経過時の2−ブテン転化率は41.0%、ブタジエン選択率は86.3%、ブタジエン収率は35.4%であり、10時間経過時の2−ブテン転化率は31.6%、ブタジエン選択率は90.1%、ブタジエン収率は28.5%であり、1時間経過時のブタジエン収率に対する10時間経過時のブタジエン収率の比は0.80であった。また、10時間経過時のコーク量は7.6質量%であった。
【0091】
(比較例b−2)
Al
2O
3担体にSn及びPtを担持させた触媒b−2を準備した。触媒b−2において、Ptの含有量は1質量%、Snの含有量は18.3質量%、Alの含有量は40質量%であり、触媒b−2のSn/Pt比は、Al
2O
3担体を用いた場合の好適なSn/Pt比である30とした。触媒A−1に代えて触媒b−2を用いたこと以外は、実施例B−1と同様にして共役ジエンの製造を行い、生成ガスの分析及びコーク量の測定を行った。
【0092】
その結果、1時間経過時の2−ブテン転化率は37.2%、ブタジエン選択率は86.6%、ブタジエン収率は32.2%であり、10時間経過時の2−ブテン転化率は26.2%、ブタジエン選択率は90.9%、ブタジエン収率は23.8%であり、1時間経過時のブタジエン収率に対する10時間経過時のブタジエン収率の比は0.74であった。また、10時間経過時のコーク量は5.2質量%であった。
【0093】
実施例B−1、比較例b−1及び比較例b−2の結果を表2に示す。
【0094】
【表2】
【0095】
表2に示すとおり、実施例B−1では、比較例b−1及びb−2と比較して触媒上へのコークの堆積が少なく、良好な反応効率が長時間維持された。なお、比較例b−1及びb−2において、Sn/Pt比を実施例B−1と同程度にした場合は、触媒活性が著しく低下した。
【0096】
(参考例1)
<ブタンを原料とする脱水素反応>
1−ブテンの代わりにn−ブタンを用い、反応器温度を600℃から550℃に変更し、n−ブタン、H2及びHeのモル比を1:1:6に調整し、触媒のSn/Pt比を0.3としたこと以外は、実施例A−1と同様にして脱水素反応を行い、反応開始時から20分経過時及び360分経過時の生成ガスを採取した。
【0097】
採取した生成ガスを熱伝導度検出器を備えたガスクロマトグラフ(TCD−GC)を用いて分析した。分析の結果、生成ガスがn−ブテン(1−ブテン、t−2−ブテン及びc−2−ブテン)並びに1,3−ブタジエンを含有することが確認された。上記ガスクロマトグラフに基づき、各時点において採取された生成ガス中のn−ブタンの濃度(単位:質量%)、n−ブテンの濃度(単位:質量%)及び1,3−ブタジエンの濃度(単位:質量%)を定量した。
【0098】
生成ガス中のn−ブタン、n−ブテン及び1,3−ブタジエンの濃度から、各時点における原料転化率(ブタン転化率)と、ブテン及び1,3−ブタジエンの選択率(ブテン+ブタジエン選択率)を算出した。結果を表3に示す。なお、ブタン転化率は下記式(7)により定義され、ブテン+ブタジエン選択率は下記式(8)により定義される。
R
c=(1−M
P/M
0)×100 (7)
R
S=(M
b+M
c)/(M
0−M
P)×100 (8)
式中、R
cは、ブタン転化率であり、R
sは、ブテン+ブタジエン選択率であり、M
0は、原料ガス中のn−ブタンのモル数であり、M
Pは、生成ガス中のn−ブタンのモル数であり、M
bは、生成ガス中のn−ブテン(1−ブテン、t−2−ブテン及びc−2−ブテン)のモル数であり、M
cは、生成ガス中の1,3−ブタジエンのモル数である。
【0099】
(参考例2〜6)
触媒のSn/Pt比をそれぞれ0.7、1.2、2.3、3.3及び5.3としたこと以外は参考例1と同様にして脱水素反応を行い、生成ガスを分析した。結果を表3に示す。
【0100】
【表3】
【0101】
参考例1〜6に示すとおり、原料にブタン(アルカン)を用いた脱水素反応では、原料にブテン(オレフィン)を用いた脱水素反応とは最適なSn/Pt比が異なっていた。このことから、最適なSn/Pt比の範囲は、触媒を適用する反応によって異なることが確認された。