特許第6856314号(P6856314)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6856314
(24)【登録日】2021年3月22日
(45)【発行日】2021年4月7日
(54)【発明の名称】樹脂成形金型
(51)【国際特許分類】
   B29C 43/36 20060101AFI20210329BHJP
   B29C 43/18 20060101ALI20210329BHJP
【FI】
   B29C43/36
   B29C43/18
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-229951(P2015-229951)
(22)【出願日】2015年11月25日
(65)【公開番号】特開2017-94619(P2017-94619A)
(43)【公開日】2017年6月1日
【審査請求日】2017年12月8日
【審判番号】不服2020-6570(P2020-6570/J1)
【審判請求日】2020年5月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000144821
【氏名又は名称】アピックヤマダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001726
【氏名又は名称】特許業務法人綿貫国際特許・商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】中沢 英明
(72)【発明者】
【氏名】中島 謙二
(72)【発明者】
【氏名】岡本 雅志
【合議体】
【審判長】 大島 祥吾
【審判官】 神田 和輝
【審判官】 大畑 通隆
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭60−89311(JP,A)
【文献】 特開2001−176902(JP,A)
【文献】 特開2004−90580(JP,A)
【文献】 特開2007−152845(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 43/00-43/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベースと、
前記ベースに対して固定して組み付けられ、樹脂を加熱するキャビティ駒と、
前記キャビティ駒と隣接し外周を囲って配置されて、前記ベースに対して離隔して組み付けられるクランパと、
前記ベースに内蔵されるベースヒータと、
前記クランパに内蔵されて、前記キャビティ駒に対する前記クランパの摺動抵抗が高い場合に前記クランパの温度を上昇させるように前記クランパを加熱するクランパヒータと、
前記キャビティ駒と前記クランパとの隙間を介してリリースフィルムをパーティング面に吸着するフィルム吸引機構と、
バネ部材と、を備え、
前記バネ部材を介して前記ベースに対し、前記クランパが可動するように組み付けられていること
を特徴とする樹脂成形金型。
【請求項2】
ベースと、
前記ベースに対して固定して組み付けられ、樹脂を加熱するキャビティ駒と、
前記キャビティ駒と隣接し外周を囲って配置されて、前記ベースに対して離隔して組み付けられるクランパと、
前記ベースに内蔵されるベースヒータと、
前記クランパに内蔵されて、前記キャビティ駒に対する前記クランパの摺動抵抗が高い場合に前記クランパの温度を上昇させるように前記クランパを加熱するクランパヒータと、
前記キャビティ駒と前記クランパとの隙間を介してリリースフィルムをパーティング面に吸着するフィルム吸引機構と、
モータ、油圧又は空気圧のいずれかの動力源と、を備え、
前記動力源により、前記ベースに対し、前記クランパが可動するように組み付けられ、前記パーティング面に対して凹むように構成されるキャビティの深さが可変となる構成であること
を特徴とする樹脂成形金型。
【請求項3】
請求項1または2記載の樹脂成形金型において、
前記キャビティ駒と前記クランパとはチェイスに組み付けられ、前記チェイスが前記ベースに組みつけられていること
を特徴とする樹脂成形金型。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の樹脂成形金型において、
前記キャビティ駒が、環状に形成された前記クランパによって囲まれ、
前記クランパには、線状の前記クランパヒータが前記キャビティ駒を囲む環状に設けられることを特徴とする樹脂成形金型。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の樹脂成形金型において、
前記クランパは、型開閉方向に分割される第1分割部および第2分割部を備え、
前記第2分割部に対して前記第1分割部が前記ベース側に設けられ、
前記第1分割部に前記クランパヒータが収められることを特徴とする樹脂成形金型。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の樹脂成形金型において、
前記ベースの温度を測定する温度センサ、及び前記クランパの温度を測定する温度センサを更に備えることを特徴とする樹脂成形金型。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂成形金型に適用して有効な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2010−179507号公報(特許文献1)には、上型の加圧ブロックおよび下型のベースのそれぞれに内蔵されるヒータが記載されている(特にその段落[0016]、[0018]参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−179507号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
樹脂成形金型は、型閉じされた状態でキャビティ(樹脂成形空間)を有するよう、複数の金型ブロック(金型プレートともいう)が組み付けられて構成される。樹脂成形金型では、例えば、ベースにチェイスやクランパなどの着脱(交換)可能な金型ブロックが組み付けられる。また、樹脂成形金型にはヒータが内蔵され、キャビティ内で充填された樹脂に熱が加えられるよう、チェイスなどの着脱可能な金型ブロックも含めて金型全体がヒータによって加熱される。
【0005】
ところで、樹脂成形金型には、ヒータを内蔵するベースに保持されるチェイスに対して、キャビティ駒が固定して保持される一方、クランパが可動するようバネ部材を介して離隔して保持されるものがある(例えば、特許文献1参照)。この樹脂成形金型ではベースからの熱が直接クランパへ伝わる構成ではないため、クランパはヒータからの熱を受け難く、クランパとキャビティ駒との温度差が生じてしまう。すなわち、熱膨張によってクランパに対してキャビティ駒が大きくなる。特に、WLP(Wafer Level Package)用のキャビティ駒は大きいものであるが、熱膨張によってクランパに対してより大きくなってしまう。このため、キャビティ駒とクランパとの隙間が所望の寸法で確保されずに小さくなってしまう。これにより、例えば、クランパの摺動抵抗が増加して、クランパの可動不良が引き起こされてしまうおそれがある。
【0006】
本発明の目的は、金型ブロック間の隙間を確保することのできる技術を提供することにある。本発明の前記ならびにその他の目的と新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一解決手段に係る樹脂成形金型は、第1金型ブロック(例えば、ベース)と、前記ベースに対して固定して組み付けられ、樹脂を加熱する第2金型ブロック(例えば、キャビティ駒)と、前記キャビティ駒と隣接し外周を囲って配置されて、前記ベースに対して離隔して組み付けられる第3金型ブロック(例えば、クランパ)と、前記ベースに内蔵されるベースヒータと、前記クランパに内蔵されて、前記キャビティ駒に対する前記クランパの摺動抵抗が高い場合に前記クランパの温度を上昇させるように前記クランパを加熱するクランパヒータと、前記キャビティ駒と前記クランパとの隙間を介してリリースフィルムをパーティング面に吸着するフィルム吸引機構と、バネ部材と、を備え、前記バネ部材を介して前記ベースに対し、前記クランパが可動するように組み付けられていることを特徴とする。
【0008】
これによれば、第3金型ブロックが熱を受け易くなって第2金型ブロックと共に熱膨張されるため、第2金型ブロックと第3金型ブロックの隙間を確保することができる。
【0009】
前記一解決手段に係る樹脂成形金型において、前記第2金型ブロックが、環状に形成された前記第3金型ブロックによって囲まれ、前記第3金型ブロックには、線状の前記第2ヒータが前記第2金型ブロックを囲む環状に設けられることが好ましい。これによれば、第2金型ブロックの周りで第3金型ブロック全体を加熱することができる。
【0010】
前記一解決手段に係る樹脂成形金型において、前記第3金型ブロックは、型開閉方向に分割される第1分割部および第2分割部を備え、前記第2分割部に対して前記第1分割部が前記第1金型ブロック側に設けられ、前記第1分割部に前記第2ヒータが収められることがより好ましい。これによれば、第2ヒータを容易に着脱させることができる。
【0011】
上記のようなバネ部材を備え、前記バネ部材を介して前記第1金型ブロック(ベース)に前記第3金型ブロック(クランパ)が可動するよう離隔して組み付けられる構成によれば、第1金型ブロック(ベース)と第3金型ブロック(クランパ)の両方から熱が伝わり、バネ部材を安定させることができる。
【発明の効果】
【0012】
本願において開示される発明のうち、代表的なものによって得られる効果を簡単に説明すれば、次のとおりである。本発明の一解決手段に係る樹脂成形金型によれば、第2金型ブロック(キャビティ駒)と、第3金型ブロック(クランパ)との隙間を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施形態における樹脂成形金型の模式的断面図である。
図2図1に続く動作における樹脂成形金型の模式的断面図である。
図3図2に続く動作における樹脂成形金型の模式的断面図である。
図4図3に続く動作における樹脂成形金型の模式的断面図である。
図5図1に示す樹脂成形金型のヒータおよび補助ヒータの説明図である。
図6図1に示す樹脂成形金型のヒータおよび補助ヒータの説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下の本発明における実施形態では、必要な場合に複数のセクションなどに分けて説明するが、原則、それらはお互いに無関係ではなく、一方は他方の一部または全部の変形例、詳細などの関係にある。このため、全図において、同一の機能を有する部材には同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。また、構成要素の数(個数、数値、量、範囲などを含む)については、特に明示した場合や原理的に明らかに特定の数に限定される場合などを除き、その特定の数に限定されるものではなく、特定の数以上でも以下でも良い。また、構成要素などの形状に言及するときは、特に明示した場合および原理的に明らかにそうではないと考えられる場合などを除き、実質的にその形状などに近似または類似するものなどを含むものとする。
【0015】
本実施形態に係る樹脂成形金型10(樹脂成形金型機構ともいう)について図1図7を参照して説明する。図1図4は、樹脂成形金型10の模式的断面図であり、一連の動作状態を示している。この樹脂成形金型10の動作によれば、ワークWは被成形品の状態から樹脂成形されて成形品100(図4参照)の状態となる。また、図5は、樹脂成形金型10のヒータ20および補助ヒータ50の説明図であり、下型14のパーティング面視(平面視)における模式的平面図である。また、図6は、樹脂成形金型10のヒータ20および補助ヒータ50の説明図であり、下型14の模式的断面図である。
【0016】
樹脂成形金型10は、キャビティCを有する型開閉される一対の金型(例えば、合金工具鋼からなる複数の金型ブロックが組み付けられたもの)を備える。本実施形態では、一対の金型のうち、鉛直方向において上方側の一方の金型を上型12とし、下方側の他方の金型を下型14とする。この樹脂成形金型10は、上型12と下型14とが離れたり、近づいたりすることで型開閉される。このため、鉛直方向が型開閉方向でもある。樹脂成形金型10におけるキャビティCは、型閉じされた状態では樹脂成形空間(図4参照)であり、型開きされた状態では下型14のパーティング面14aに凹んで設けられた凹部(このときをキャビティ凹部C’という)で構成される(図1参照)。すなわち、樹脂成形金型10では、型閉じされた状態においてキャビティ凹部C’の開口が塞がれてキャビティCが構成される。
【0017】
また、樹脂成形金型10は、型開閉を行う公知の型開閉機構(不図示)を備える。例えば、型開閉機構は、一対のプラテンと、一対のプラテンが架けられる複数のタイバーと、プラテンを可動(昇降)させる駆動源(例えば、電動モータ)および駆動伝達機構(例えば、トグルリンク)とを備える。この型開閉機構では、一対のプラテンの間に樹脂成形金型10が設けられる。本実施形態では、固定型となる上型12が固定プラテン(タイバーに固定されるプラテン)に組み付けられ、可動型となる下型14が可動プラテン52(タイバーに沿って昇降するプラテン)に組み付けられる。なお、樹脂成形金型10の型開閉においては、上型12を可動型、下型14を固定型としたり、上型12と下型14とも可動型としたりしてもよいし、型開閉機構を用いずに手動としてもよい。
【0018】
また、樹脂成形金型10は、ワークWおよび樹脂Rがそれぞれセット(配置)されるワークセット部16および樹脂セット部(本実施形態ではキャビティ凹部C’が兼用する)を備える。ワークWは、基板102(例えば、配線基板)と、複数の実装部品104(例えば、半導体チップ)とを備える。例えば、複数の実装部品104が基板102上にマトリクス状に整列して表面実装(搭載)される。このワークWは、例えば、基板102が平面視円形状である場合、全体として平面視円形状の板状体となり、複数の実装部品104を有しているともいえる。樹脂Rは、例えば、熱硬化性樹脂(例えば、フィラー含有のエポキシ系樹脂)であり、その状態としては液状、粉状、シート状、顆粒状であってもよい。
【0019】
ワークセット部16は、下型14のキャビティ凹部C’と対向して上型12のパーティング面12aに設けられる。ワークセット部16は、不図示の吸引路(通気路)およびこれに通じる吸引装置(例えば、真空ポンプ)を備える。この吸引路の一端が上型12のパーティング面12aに通じ、他端が上型12外に設けられる吸引装置と接続される。このワークセット部16によれば、金型外にある吸引装置を駆動させて吸引路からワークWを吸引し、ワークWをパーティング面12aに吸着して保持することができる。また、ワークセット部16は、ワークWを把持する把持部18を備える。把持部18がワークWの外周側面を挟み込んでワークWを把持することで、ワークWの落下を防止して上型12のパーティング面12aにワークWを保持することができる。
【0020】
また、樹脂成形金型10は、公知の減圧機構(不図示)を備える。この減圧機構は、例えば、上型12および下型14を内包するチャンバと、このチャンバに通じる減圧装置(例えば、真空ポンプ)とを備える。減圧機構により、チャンバ外にある減圧装置を駆動させてチャンバ内を減圧することができる。これにより、型閉じされた状態(図3参照)であっても、下型14のパーティング面14aに形成されるエアベント溝(不図示)を介してキャビティCの脱気を行うことができる。
【0021】
また、樹脂成形金型10は、ヒータ20(例えば、電気ヒータ)を備える。ヒータ20は、上型12および下型14のそれぞれに内蔵される。樹脂成形金型10は、ヒータ20によって所定温度(例えば、180℃)に調整されて加熱される。また、樹脂成形金型10は、ヒータ20の他に補助ヒータ50(例えば、電気ヒータ)を備えるが、この点については後述する。
【0022】
また、樹脂成形金型10は、フィルムF(リリースフィルムともいう)を備える(図2参照)。このフィルムFは、キャビティ凹部C’の内面を含む下型14のパーティング面14aを覆うよう設けられる。フィルムFを設けることで、成形品100(ワークW)を樹脂成形金型10から容易に取り出すことができる。フィルムFは、樹脂成形金型10の加熱温度に耐えられる耐熱性を有し、下型14のパーティング面14aから容易に剥離するものであって、柔軟性、伸展性を有するフィルム材である。フィルムFとしては、例えば、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、ETFE(ポリテトラフルオロエチレン重合体)などの樹脂フィルムを用いることができる。
【0023】
また、樹脂成形金型10は、フィルムFを下型14のパーティング面14a側から吸引するフィルム吸引機構を備える。このフィルム吸引機構は、クランパ28を貫通するような吸引路14b、14c(通気路)およびこれに通じる不図示の吸引装置(例えば、真空ポンプ)を備える。吸引路14b、14cの一端が下型14のパーティング面14aに通じ、他端が下型14外に設けられる吸引装置と接続される。このフィルム吸引機構によれば、金型外にある吸引装置を駆動させて吸引路14b、14cからフィルムFを吸引し、キャビティ凹部C’の内面を含むパーティング面14aにフィルムFを吸着して保持する(張り付ける)ことができる。
【0024】
次に、樹脂成形金型10の下型14について具体的に説明する。下型14は、ベース22と、チェイス24と、キャビティ駒26と、クランパ28と、ホルダ30とを備え、これら金型ブロックが組み付けられて構成される。
【0025】
キャビティ駒26は、チェイス24の上面(上型12側の表面)に対して固定して組み付けられる。また、クランパ28は、キャビティ駒26を囲うように環状に構成され、キャビティ駒26と隣接してチェイス24の上面に対して離隔(フローティング)して組み付けられる。
【0026】
本実施形態では、下型14がパーティング面14aから凹むキャビティ凹部C’を有するが、キャビティ駒26がキャビティ凹部C’の奥部(底部)を構成し、クランパ28がキャビティ凹部C’の側部を構成する。具体的には、クランパ28の中央部にはパーティング面視(平面視)円形状の貫通孔28aが厚み方向(型開閉方向)に形成される。このクランパ28の貫通孔28aにキャビティ駒26が挿入されて組み付けられることで、キャビティ凹部C’が構成される。
【0027】
また、樹脂成形金型10は可動部材(弾性部材)としてバネ部材32(例えば、コイルスプリング)を備える。このバネ部材32は、チェイス24とクランパ28との間に設けられる。このバネ部材32を介してチェイス24にクランパ28が可動に組み付けられる。すなわち、キャビティ駒26がクランパ28によって囲まれ、キャビティ駒26とクランパ28とが型開閉方向に相対的に可動(往復動)される。このとき、クランパ28の貫通孔28aの内周面とキャビティ駒26の外周面との隙間g(図6参照)が所定の寸法で確保されることで、クランパ28が円滑に可動する。このように、樹脂成形金型10では、チェイス24に対して、キャビティ駒26が固定して保持される一方、クランパ28が可動するようバネ部材32を介して離隔(フローティング)して保持される。
【0028】
ところで、隙間gは、前述のフィルム吸引機構の吸引路14cに含まれ、キャビティ駒26とクランパ28との境界(キャビティ凹部C’のコーナ部)でフィルムFを吸引する。このため、フィルム吸引機構は、シール部材34(例えば、Oリング)を備える。シール部材34は、隙間gが吸引路14cとして空気漏れがないようキャビティ駒26とクランパ28(の下部)との間に設けられてシールを行う。
【0029】
下型14において、チェイス24、キャビティ駒26およびクランパ28は、一組の交換ブロックとしてベース22に対して交換(着脱)が容易な構成である。具体的には、ベース22の上面(上型12側の表面)にホルダ30が設けられ、このホルダ30によってチェイス24などの交換ブロックが容易に交換される。ホルダ30は、チェイス24の外周縁をベース22側へ押さえ込むようにしてチェイス24(交換ブロック)を固定(保持)したり、解放したりすることができる。ベース22にチェイス24が固定された状態では、キャビティ駒26がベース22に対してチェイス24を介して固定して組み付けられ、クランパ28がチェイス24を介してベース22に対して離隔して組み付けられる。
【0030】
ところで、図5および図6に示すように、樹脂成形金型10の下型14は、ヒータ20と、補助ヒータ50と、温度センサ54、56と、制御部58と、電源60とを備える。下型14のヒータ20(例えば、電気ヒータ)は、下型14のベース22に内蔵され、主に下型14全体に熱を加える。また、補助ヒータ50(例えば、電気ヒータ)は、クランパ28に内蔵され、下型14のヒータ20からの熱が伝わりにくいクランパ28に補助的に熱を加える。これら下型14のヒータ20および補助ヒータ50は、電源60によって電力供給を受けて発熱する。
【0031】
このような下型14の構成によれば、クランパ28が熱を受け易くなって、キャビティ駒26とクランパ28の温度差が小さくなりつつキャビティ駒26と共に熱膨張される。このため、キャビティ駒26とクランパ28の隙間gを確保する(狭くなりすぎなくする)ことができる。したがって、クランパ28の可動不良を防止することができる。また、補助ヒータ50を設けない構成と比較して、クランパ28を下型14のヒータ20とは別に補助ヒータ50で加熱する構成とすることで、クランパ28の温度を上げるためにヒータ20を必要以上に高温にする必要がなく、また昇温に時間がかかってしまうこともない。
【0032】
また、キャビティ駒26とクランパ28の隙間g(吸引路14c)が適切に確保されることにより、キャビティ駒26とクランパ28との境界(キャビティ凹部C’のコーナ部)でフィルムFが吸引されないことを防止することができる。したがって、フィルムFをパーティング面14aに安定して吸着させることができる。
【0033】
また、ヒータ20を内蔵するベース22と、補助ヒータ50を内蔵するクランパ28との間にはバネ部材32が設けられ、バネ部材32によって型の開閉のみでクランパ28を昇降可能に構成となっている。このため、型締めしていくことでバネ部材32が縮められ、キャビティCの深さを可変に構成される。このような構成では、隙間gが適切な幅になっていないと型面間の摺動抵抗が増大し、規定の型閉じ力でキャビティC内の樹脂Rへの適切な樹脂圧を加えることができないことも考えられる。このように、バネ部材32の伸縮によりキャビティCの深さを可変とするような圧縮成形金型においても、隙間gが適切に維持されることで、樹脂圧を適切にすることができ生産品質を維持することができる。なお、キャビティCの深さを可変とする構成としては、バネ部材32によるもののみならず、型開閉機構とは別のモータ、油圧又は空気圧などの動力によってキャビティ駒26とクランパ28とを相対的に位置を可変とする構成としてもよい。
【0034】
また、キャビティ凹部C’の側部を構成するクランパ28に熱源である補助ヒータ50が内蔵されるため、キャビティ駒26からの放熱による、キャビティC面における温度ばらつき(温度低下)を抑制することができる。本実施形態のようなキャビティCを下型14に設ける構成では、キャビティ駒26の面の熱が上方に拡散するため放熱しやすくい。また、クランパ28に補助ヒータ50を設けない構成を想定した場合には、キャビティ駒26の中央よりも外側のほうがより放熱しやすいため、キャビティ駒26の中央の温度が高く、その外側の温度が低くなるような偏りのある状態となりやすい。これに対し、補助ヒータ50を設けることで、キャビティ駒26の外側における放熱を抑制して、キャビティCにおける中央の温度と外側の温度の差を小さくすることができる。これにより、キャビティC内で充填される熱硬化性の樹脂Rを最適に熱硬化させることができる。すなわち、成形品質の優れた成形品100(ワークW)を製造することができる。
【0035】
また、温度センサ54(例えば、熱電対)は、下型14のチェイス24に設けた穴部に差し込まれるよう設けられ、下型14のヒータ20により加熱されるベース22の温度が測定される。これにより、ベース22から受熱する下型14のチェイス24の温度を間接的に測定可能となる。また、温度センサ56(例えば、熱電対)は、クランパ28に設けた穴部に差し込まれるよう設けられ、補助ヒータ50からも加熱されるクランパ28の温度を測定する。これら温度センサ54、56は、適宜の変換機能部(図示せず)を経て制御部58に接続されている。また、制御部58は、ヒータ20及び補助ヒータ50を動作させる電源60を制御する。制御部58は、温度センサ54、56の測定データを基に下型14のヒータ20および補助ヒータ50への電力供給を制御する。なお、制御部58は、キャビティ駒26に対してクランパ28の摺動が渋い(摺動抵抗が高い)場合には、クランパ28の温度を上昇させるために、補助ヒータ50の温度を上昇させるように電源60を制御してもよい。
【0036】
補助ヒータ50(図5では破線で示す)は、形状が比較的自由(フレキシブル)に変形できる線状(細い管状)のヒータを用いることができる。このような補助ヒータ50は、キャビティ駒26から所定距離となるように巻きつけるように配置することで、キャビティ駒26を囲む環状にクランパ28に設けられる。線状のヒータを巻きつけることで環状とする場合には、平面視で渦巻き状となるように複数回巻きつけてもよいし、一巻きだけ巻きつけてもよい。ヒータ線が鉛直方向に重なるように巻きつけてもよい。このように環状の補助ヒータ50を用いることで、キャビティ駒26の周りでクランパ28全体を均一に加熱することができる。この場合、キャビティ凹部C’の周りの温度が均等になるように調整することができ、これにより、熱硬化性の樹脂Rに対して均一に加熱することができる。すなわち、成形品質の優れた成形品100(ワークW)を製造することができる。
【0037】
また、補助ヒータ50を内蔵するクランパ28は、型開閉方向に分割される分割部28Aおよび分割部28Bを備え、これらによって構成される。換言すれば、クランパ28は上下2つの部材に分割可能に構成される。分割部28Bに対して分割部28Aがベース22側に設けられる。分割部28Bには吸引路14b、14cを構成する貫通孔が形成される。他方、分割部28Aには補助ヒータ50が収められる。具体的には、分割部28Aと分割部28Bとの分離面に溝が形成され、その溝に補助ヒータ50が収められる。このようにクランパ28が分割可能な構成であるため、補助ヒータ50を容易に着脱(交換)させることもできる。また、分割部28Aと分割部28Bとの分離面の位置は、クランパ28自体を均一に加熱するためにクランパ28の全体としては高さ方向の中心よりも下側に配置するのが好ましい。
【0038】
次に、樹脂成形金型10の上型12について具体的に説明する。上型12は、ベース22と、チェイス24と、インサート36と、ホルダ30とを備え、これら金型ブロックが組み付けられて構成される。この上型12では、前述した下型14のベース22(チェイス24)に固定のキャビティ駒26および可動のクランパ28の代わりに、インサート36が用いられる。このインサート36は、チェイス24の下面(下型14側の表面)に対して固定して組み付けられる。そして、上型12において、チェイス24およびインサート36は、一組の交換ブロックとして、ベース22に対してホルダ30によって交換(着脱)が容易な構成である。
【0039】
次に、本実施形態に係る圧縮成形としての樹脂成形金型10の動作(樹脂成形方法の工程)について説明する。
【0040】
まず、図1に示すように、前述した型開閉可能な一対の金型(上型12および下型14)を備える樹脂成形金型10を準備する。この樹脂成形金型10では、ヒータ20や補助ヒータ50によって、上型12および下型14が所定の温度(例えば、150℃程度)となるように加熱される。ここで、樹脂成形金型10を型開させた状態で、キャビティ駒26の上面(上型12側の表面)における数カ所の温度を測定する。例えば、キャビティ駒26の上面の中央部より外縁部の温度が低い場合、即ち、対面するキャビティ駒26とクランパ28とで温度差が大きくなってしまうときには、クランパ28に内蔵の補助ヒータ50の出力を上げて温度の調整を行うことで、隙間gが狭くなるのを防止することができる。ここで、例えば隙間gを介して吸引路14cからエア吸引することで、吸引装置のポンプを駆動するモータの抵抗(出力)を測定することで隙間gを算出し、隙間gが適切か否かを判断してもよい。
【0041】
また、樹脂成形金型10を型開きさせた状態において、ワークセット部16にワークWをセットする。具体的には、ワークWは、例えば、不図示のローダ(搬送機構)によって、上型12のパーティング面12aまで搬送される。そして、ワークWは、実装部品104を下型14側に向けた状態で、不図示の吸引路で吸引され、また、把持部18によって把持されて、ワークセット部16にセットされる。
【0042】
続いて、図2に示すように、樹脂成形金型10を型開きさせた状態において、キャビティ凹部C’の内面を含む下型14のパーティング面14aを覆うようフィルムFをセットする。具体的には、下型14では、フィルムFが、ロール状に巻き取られた繰出しロールから引き出されて下型14のパーティング面14aを通過して巻取りロールへ巻き取られるようにして設けられる。そして、フィルムFは、フィルム吸引機構の吸引路14b、14cに吸引されてキャビティ凹部C’の内面を含む下型14のパーティング面14aに吸着保持される(張り付けられる)。
【0043】
前述したように、キャビティ駒26とクランパ28との温度差が小さくなるよう補助ヒータ50によって調整されているので、吸引路14cを構成する隙間gが所定の寸法で確保される。したがって、フィルム吸引機構は、吸引路14b、14cを通じてフィルムFを吸引して、パーティング面14aに安定して吸着させることができる。
【0044】
また、樹脂成形金型10を型開きさせた状態において、樹脂セット部であるキャビティ凹部C’に樹脂Rをセットする。例えば、樹脂Rが顆粒状の場合、不図示のディスペンサによって、キャビティ凹部C’内に樹脂Rを投下する。このとき、キャビティ凹部C’の内面を覆うようにフィルムFが吸着されているので、隙間gから樹脂Rが漏れることはない。また、フィルムFと樹脂Rとは一体的に供給することもできる。即ち、樹脂成形金型10外でフィルムFを準備し、その上に樹脂Rを供給する。次いで、樹脂Rが供給されたフィルムFを保持して搬送し、これを下型14上に配置すればフィルムFと樹脂Rとの一体的な供給が可能である。
【0045】
続いて、樹脂成形金型10を型閉じしていき(上型12と下型14とを近づけていき)、図3に示すように、上型12のパーティング面12aにクランパ28の上面(すなわち、下型14のパーティング面14a)を当てて、金型クランプさせる。これにより、下型14のパーティング面14aから凹むキャビティ凹部C’の開口が塞がれてキャビティCが構成される。なお、キャビティ凹部C’の開口が塞がれる前から減圧機構を駆動させておくことで、キャビティCの脱気を円滑に行うことができる。
【0046】
ところで、上型12のパーティング面12aにはワークWが設けられ、下型14のパーティング面14aにはフィルムFが設けられているので、金型クランプの際にはフィルムFを介してワークW(基板102)がクランパ28によってクランプされる。このため、実際には、下型14のキャビティ凹部C’の開口がワークWの基板102によって塞がれ、キャビティC内にワークWの実装部品104が収められる。
【0047】
続いて、樹脂成形金型10を更に型閉じしていき、図4に示すように、キャビティCが樹脂Rで充填されるように樹脂Rを加圧(圧縮)する。具体的には、上型12のパーティング面12aに対して、下型14のクランパ28の上面(下型14のパーティング面14a)が当てられた状態で、下型14のベース22に固定されたキャビティ駒26が近づくことで樹脂Rが加圧される。このとき、ベース22にバネ部材32を介して保持されるクランパ28は、バネ部材32が付勢される(押し縮められる)ことでキャビティ駒26に対して相対的に可動(摺動)することとなる。
【0048】
前述したように、キャビティ駒26とクランパ28との温度差が小さくなるよう補助ヒータ50によって調整されているので、キャビティ駒26とクランパ28との隙間gが所定の寸法で確保される。したがって、クランパ28は、円滑に可動(キャビティ駒26に対して摺動)することができる。
【0049】
次いで、キャビティC内で充填された樹脂Rを保圧した状態で熱硬化させた後、型開きしてワークWを樹脂成形金型10から取り出す。その後、ワークWを更に熱硬化(ポストキュア)させることによって、実装部品104が樹脂Rによって封止された成形品100が略完成する。樹脂成形金型10によれば、クランパ28を安定して可動させることができるので、適切な圧力で樹脂Rを圧縮して樹脂成形することができる。
【0050】
以上、本発明を実施形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。
【0051】
前記実施形態では、クランパに補助ヒータを内蔵する場合について説明した。これに限らず、チェイスにも補助ヒータ(熱源)を内蔵させてもよい。これによれば、昇温時間を短縮したり、チェイスの温度ばらつきを低減したりすることができる。
【0052】
前記実施形態では、ワークの平面視形状が円形状としたが、矩形状や多角形状であってもよい。また、基板は、配線基板の他に、例えば、WLPなどの製造に用いられるウエハや、例えば、eWLB(embeded Wafer Level Ball Grid Array)のようなFOWLP(Fan-Out Wafer Level Package)の製造に用いられる半導体チップを搭載する板状のキャリア(金属、ガラス)であってもよい。このような場合に、キャビティ駒26の外形を矩形状とし、クランパ28を矩形環状としてもよい。この場合、補助ヒータ50もクランパ28内において線状のヒータが矩形環状に配置されることになる。また、実装部品は、半導体チップの他に、例えば、電子部品などの能動部品や受動部品、リードフレームなど露出端子を必要とする配線パターン、配線ブロック体(例えば、ポスト)であってもよい。
【0053】
前記実施形態では、ベースに対して、キャビティ駒が固定して組み付けられ、クランパがバネ部材によって可動するよう離隔して組み付けられた場合について説明した。これに限らず、ベースに対して、クランパが固定して組み付けられ、キャビティ駒がバネ部材によって可動するよう離隔して組み付けられる場合であってもよい。また、バネ部材を用いずに、例えばボールネジなどの駆動機構によってクランパなどが可動されてもよい。
【0054】
また、前記実施形態では、下型14において金型間の所定の隙間gを確保できる構成について説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば上型12においてキャビティCの深さを可変に構成する同様とした場合に、所定の隙間gを確保するような構成としてもよく、上型12及び下型14の両方においてそれぞれ隙間gを任意に確保するような構成とすることもできる。
【0055】
また、前記実施形態では、樹脂成形金型10を圧縮成形として構成する例について説明した。しかしながら、本発明を適用する樹脂成形用金型はトランスファ成形用の金型であってもよい。即ち、ポットに供給した樹脂をキャビティCに注入するトランスファ成形金型においても、キャビティ駒26とクランパ28を備えてキャビティCの深さを可変に構成される場合がある。このような場合にも、これらの隙間gを適切に保って、円滑な摺動を可能な構成とすることができる。
【符号の説明】
【0056】
10 樹脂成形金型
20 ヒータ
22 ベース
26 キャビティ駒
28 クランパ
50 補助ヒータ
図1
図2
図3
図4
図5
図6