(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6856319
(24)【登録日】2021年3月22日
(45)【発行日】2021年4月7日
(54)【発明の名称】繊維機械の、空気吸込みを要求する作業部へ、空気吸込み量を配分するための方法、装置およびコンピュータプログラム
(51)【国際特許分類】
D01H 13/32 20060101AFI20210329BHJP
G05B 19/418 20060101ALI20210329BHJP
D01H 11/00 20060101ALI20210329BHJP
D01H 4/48 20060101ALI20210329BHJP
【FI】
D01H13/32
G05B19/418 Z
D01H11/00 B
D01H4/48
【請求項の数】10
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2016-55633(P2016-55633)
(22)【出願日】2016年3月18日
(65)【公開番号】特開2016-176174(P2016-176174A)
(43)【公開日】2016年10月6日
【審査請求日】2018年12月20日
(31)【優先権主張番号】10 2015 003 552.5
(32)【優先日】2015年3月19日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】513209338
【氏名又は名称】ザウラー ジャーマニー ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング ウント コンパニー コマンディートゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Saurer Germany GmbH & Co. KG
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ボード ハンゼン
(72)【発明者】
【氏名】ギュンター シェーア
【審査官】
住永 知毅
(56)【参考文献】
【文献】
独国特許出願公開第102006050220(DE,A1)
【文献】
独国特許出願公開第19511960(DE,A1)
【文献】
特開2014−162647(JP,A)
【文献】
特開平11−292399(JP,A)
【文献】
特開平10−194590(JP,A)
【文献】
独国特許出願公開第102007006679(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01H1/00−17/02
B65H54/88
B65H67/08
B65H54/70
G05B 19/418
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維機械(5)の、空気吸込みを要求する作業部(1)へ、当該繊維機械(5)の吸気システム(20)によって調達された空気吸込み量の配分を行う方法であって、
配分を行うと前記吸気システム(20)の最大容量を超えることが予測される空気吸込み要求(SD)を待ち行列に入れ、
前記待ち行列にて待機している空気吸込み要求(SD)に対しては、当該空気吸込み要求に対する配分によって前記吸気システム(20)の最大容量を超えることが予測されなくなった場合に初めて配分を行う方法において、
・前記空気吸込み要求(SD)は、当該空気吸込み要求(SD)の所要空気吸込み量の計画上の推移についての情報を含み、
・前記待ち行列にて待機している空気吸込み要求(SD)に対する配分によって前記吸気システム(20)の最大容量を超えることが予測されるか否かの判定は、当該空気吸込み要求(SD)の所要空気吸込み量の前記計画上の推移と、当該判定の時点において既に配分を受けている空気吸込み要求(SD)の所要空気吸込み量の計画上の推移とを考慮する
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
配分を受ける空気吸込み要求(SD)の処理中に当該空気吸込み要求(SD)をしている作業部(1)において生じた、前記所要空気吸込み量の計画上の推移の変化を、当該空気吸込み要求(SD)の更新のために利用し、
その後、前記更新された空気吸込み要求(SD)を、新規の空気吸込み要求(SD)に対して配分できるか否かの更なる判定の基礎とする、
請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記空気吸込み要求(SD)の所要空気吸込み量と、前記吸気システム(20)の最大容量とを、体積流量単位(VSE)で表す、
請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
配分を受けている空気吸込み要求(SD)の所要空気吸込み量が、計画外のイベントによって、当該空気吸込み要求(SD)の計画上の推移を超える場合、当該空気吸込み要求(SD)に対する配分によって前記吸気システムの最大容量を超える場合であっても、当該空気吸込み要求(SD)に対する配分を維持する、
請求項1または2記載の方法。
【請求項5】
配分を受けている空気吸込み要求(SD)の所要空気吸込み量が、計画外のイベントによって、当該空気吸込み要求(SD)の計画上の推移を超える場合において、当該空気吸込み要求(SD)に対する配分を撤回しなければ前記吸気システムの最大容量を超える場合、当該空気吸込み要求(SD)に対する配分を撤回する、
請求項1または2記載の方法。
【請求項6】
少なくとも前記待ち行列に入っている空気吸込み要求(SD)に対して、優先度が割り当てられており、
第一に、前記待ち行列にて待機している空気吸込み要求(SD)の優先度の順に、当該空気吸込み要求(SD)に対応していく、
請求項1または2記載の方法。
【請求項7】
請求項1記載の方法を実施するための装置(10,25)において、
前記繊維機械(5)の作業部(1)の空気吸込み要求(SD)を生成するかまたは受け取って、請求項1により更に処理するように構成された、1つまたは複数のコントローラ(10,25)を含む
ことを特徴とする装置。
【請求項8】
・前記繊維機械(5)の各作業部(1)に対して設けられた各コントローラ(25)はそれぞれ、当該各作業部(1)の空気吸込み要求(SD)を生成するように構成されており、
・前記繊維機械(5)の中央コントローラ(10)は、前記繊維機械(5)全体の空気吸込み要求(SD)を受け取って、請求項1により更に処理するように構成されている、
請求項7記載の装置(10,25)。
【請求項9】
請求項7記載の装置用のコントローラ(10,25)において、
前記コントローラ(10,25)は、前記繊維機械(5)の作業部(1)の空気吸込み要求(SD)を生成するかまたは受け取って、請求項1により更に処理するように構成されている
ことを特徴とするコントローラ(10,25)。
【請求項10】
プログラム制御される請求項9記載のコントローラ(10,25)用の、コンピュータプログラムにおいて、
前記コンピュータプログラムが前記コントローラ(10,25)上にて実行されるとき、当該コントローラ(10,25)は動作中、前記繊維機械(5)の作業部(1)の空気吸込み要求(SD)を生成するかまたは受け取って、請求項1により更に処理する
ことを特徴とするコンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維機械の、空気吸込み(吸気)を要求する作業部へ、当該繊維機械の吸気システムによって調達された空気吸込み量を配分する方法に関する。本発明はまた、上記方法の少なくとも一部を実施するための装置、コントローラおよびコンピュータプログラムにも関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば自動ワインダや紡績機械等の繊維機械は多数の同様の作業部から成り、これらの作業部は特に、それ自体の作業機構のために少なくとも一時的に空気吸込みを必要とする。この空気吸込みは通常、繊維機械の1つまたは複数の吸気システムによって調達されるものである。以下では常に、簡略化のために、吸気システムが1つのみであるとして説明するが、これは一般化を制限するものではない。
【0003】
たとえば自動ワインダは、典型的にはたとえば糸捕捉クリーニングノズルを備えている。かかるノズルは、巻取工程中にほぐれた粒子のクリーニングを行うためのものであり、かつ、ある程度の糸切れ時には下糸を捕捉する安全機能を果たすものである。よって、少なくとも通常の巻取動作中には、糸捕捉クリーニングノズルに空気吸込みが連続供給される。また、たとえばオープンエンド精紡機のロータカップには、通常の紡糸動作中に、また糸継ぎプロセス中にも、空気吸込みが連続供給される。しかしこの作業部も、少なくとも、たとえばオペレータの介入でしか解消できない障害があるために作業部の停止を行っている間は、空気吸込みを要しない。
【0004】
それに対し、作業部の他の作業部は、そもそも時々しか、しかも比較的短時間しか動作しないので、空気吸込みを要するのはそのときだけである。たとえばワインダや精紡機の吸引ノズルは、糸切れもしくは供給媒体(ボビンないしは紡糸ケンスの交換)の交換または巻取パッケージの交換の際に巻取パッケージから上糸を受け取るためにしか必要とされない。
【0005】
繊維機械により生産される製品の品質、つまり、たとえば巻取パッケージや、当該巻取パッケージに巻き取られた糸の品質に重要なのは、作業部が、必要なときにその都度十分な強度で吸引圧を使用できること、つまり、必要なときに作業部に生じる負圧が所定の範囲内にあることである。さらに、空気吸込みの要求があったときに可能な限り直ちに、必要な空気吸込みが供給されると、機械の生産性が最大限になる。というのも、かかる場合に直ちに空気吸込みの供給がないと、作業部は非生産的な待機時間を費やさなければならないからである。その上、想定し得る最大空気吸込み量に合わせて吸気システムを設計すると、吸気システムのコストが妥当な範囲を超えて増大してしまう。また、実際に適宜ちょうど必要なだけのレベルを上回る空気吸込み強度を準備しておくことも同様に、エネルギー消費を増大させる原因となり、これにより、機械のメンテナンスコストを増大させることにもなる。
【0006】
よって従来技術では、少なくとも極端な状況では空気吸込みが得られるまである程度の待機時間を甘受することと、必要とされる空気吸込み量に可能な限り正確に合わせて、吸気システムの空気吸込み強度を制御することとが定着している。しかし、とりわけ繊維機械内における空気吸込み流路が長いため、空気吸込み強度の制御は比較的緩慢であるから、純粋な追従制御の場合、しばしば、所要空気吸込み強度を満たすことができないことが多い。
【0007】
よって、たとえば独国特許出願公開第19511960号明細書に、作業部が自身の所要空気吸込みを予め通知しておき、つまり空気吸込み要求を送出しておき、これに応じて、この空気吸込み要求に対する配分後であっても、つまり当該要求に応じて空気吸込みが放出された後でも、接続された全ての作業部に対して十分な吸引強度を維持できるように、空気吸込み強度制御部によって空気吸込みの要求前に適時に空気吸込みを十分に増大させることが提案されている。こうするためには実際には、吸引アセンブリの、インバータにより定められる回転数を、相応に増大させ、このことにより、当該吸引アセンブリの消費電流を増大させる。最大許容可能消費電流に達すると、更に他の空気吸込み要求に対して配分されることはなくなり、要求している作業部は待機状態に移行する。待機している作業部は、先行の空気吸込み要求の処理によって吸引アセンブリの消費電流が十分に減少するまで、使用再開されることはない。
【0008】
独国特許出願公開第102006050220号明細書では、上記の独国特許出願公開第19511960号明細書の解決手段を、優先順位制御される待ち行列の点で改良している。生産性において決定的に重要な空気吸込み要求には、重要でないものよりも高い優先度を与え、待ち行列に並んで空気吸込みを待っている作業部には、まず第一に当該作業部の優先度に応じて、かつ、第二にたとえば当該作業部の要求到着の順序に応じて、空気吸込みが配分される。このようにして特に、少ないリソースの待機時間を、たとえば、複数の作業部を担当するサービスユニットやオペレータ等の待機時間を短縮することができる。
【0009】
こうするために独国特許出願公開第102006050220号明細書では、各作業部の空気吸込み要求を作業部レベルで管理する。同刊行物は具体的には、空気吸込み配分を行える作業部の最大数を定めたものである。この最大数に達すると、他の作業部の空気吸込み要求は待ち行列に入れられる。待機している作業部には、現在供給を受けている作業部のうちいずれかが、要求した空気吸込みを使用する自身の作業を終了するまで、つまり、当該作業部が自身の先行の空気吸込み要求の終了を通知するまで、空気吸込み量を配分することができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】独国特許出願公開第19511960号明細書
【特許文献2】独国特許出願公開第102006050220号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述のことを背景として、本発明の課題は、繊維機械の、空気吸込みを要求する作業部へ、当該繊維機械の吸気システムによって調達された空気吸込みのより効率的な配分であって、従来技術より多数の作業部へ、好適にはより多数の作業部へ、空気吸込みを同時に供給できる配分を実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題は、繊維機械の、空気吸込みを要求する作業部へ、当該繊維機械の吸気システムによって調達された空気吸込み量を配分する方法であって、配分すると当該吸気システムの最大容量を超えることが予測される空気吸込み要求を待ち行列に入れ、当該待ち行列にて待機している当該空気吸込み要求に対しては、当該空気吸込み要求に対する配分によって当該吸気システムの最大容量を超えることが予測されなくなった場合に初めて配分する方法であって、以下のことを特徴とする方法により解決される:
・前記空気吸込み要求は、当該空気吸込み要求の所要空気吸込みの計画上の推移についての情報を含み、
・空気吸込み要求に対する配分によって前記吸気システムの最大容量を超えることが予測されるか否かの判定は、当該空気吸込み要求の所要空気吸込みの前記計画上の推移と、当該判定の時点において既に配分を受けている空気吸込み要求の所要空気吸込みの計画上の推移とを考慮する。
【0013】
また前記課題は、前記方法を実施するための装置であって、
前記繊維機械の作業部の空気吸込み要求を生成するかまたは受け取って、前記方法により更に処理するように構成された、1つまたは複数のコントローラを含む
ことを特徴とする装置によっても解決される。
【0014】
よって、前記課題の解決にあたっては、特に、とりわけプログラム制御されるコントローラであって、その他の点では従来技術において公知のコントローラとして構成し得る上掲の各コントローラが寄与する。この場合、本発明は、当該コントローラを制御するコンピュータプログラムとなっている。
【0015】
よって、上述の解決手段および当該解決手段の構成要件は全て、本願特許請求の範囲に属する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の方法を適用できる繊維機械の概略的な正面図であり、同図では、当該繊維機械はオープンエンド精紡機である。
【
図2】
図1のオープンエンド精紡機の作業部、具体的にはスピニングユニットの斜視図である。
【
図3】空気吸込み要求および空気吸込み更新に対応するする3つのCAN電文の構成を示す概略図である。
【
図4】空気吸込み要求と、その配分ないしは拒絶との可能な順序、および、各時期の待ち行列の状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本願発明者は、空気吸込み要求を未だ吸気システムの最大容量以内で扱うことができるか否かの判断については、現時点でどれくらいの数の作業部が空気吸込みの配分を受けたかは重要ではないとの認識を得た。というのも、1つの作業部の所要空気吸込みは、当該作業部が現時点でどの工程を処理しようとしているかによって大きく異なるからである。しかしこれについては、所要空気吸込みは1工程の処理の間にも常時変化し、増大し得ることもあることを考慮しなければならない。よって空気吸込み配分では、1工程全体にわたって、当該工程を完全に処理できるようにするために十分な空気吸込みを確実に使用できるようにしなければならない。というのも、そうしないと、空気吸込み不足のために1工程を途中で中断し、その後に当該工程全部を繰り返さなければならず、このことは、遅延および重複作業になってしまうからである。
【0018】
たとえばオープンエンド精紡機の場合には、たとえば断糸の後の糸継ぎプロセスが1工程となる。かかるプロセスを行うためには、まず最初に吸引ノズルが巻取パッケージの上糸を探し出して、紡糸ロータ内に突出している引出管内と、その上方に位置する、糸引出装置の引出ローラとに引き込まなければならない。その後は吸引ノズルは必要なくなるが、貯蔵ノズルが必要となる。これは、糸ホース内の余剰糸を空気吸引することによって、初めは比較的高速である引出ローラと巻取パッケージとの間に初期の回転立上がり中に生じる速度差を補償するものである。回転立上がりの終了時には、貯蔵ノズルによって引出ローラの速度と巻取パッケージの速度とは均衡になり、糸ホースは、その間に回転速度を上昇させた巻取パッケージによって貯蔵ノズルから引き戻され、これにより、貯蔵ノズルも空気吸込みを必要とすることがなくなり、糸継ぎのプロセスは終了する。
【0019】
つまり本発明は、作業部が単にデジタル要求方式で空気吸込みを要求したりしなかったりするだけではなく、当該作業部の空気吸込み要求を、当該作業部の所要空気吸込みの計画上の推移に関して数値化する、というものである。つまり、空気吸込みを必要とする工程の処理中に所要空気吸込みがどのように展開していくかを予測して計画する。この所要空気吸込みの計画上の推移に関する情報は、たとえば、未だ処理しなければならない工程中に必要とされる最大所要空気吸込みの表示値のみから構成することができる。上述の糸継ぎプロセスの場合、たとえば吸引ノズルは、貯蔵ノズルが必要とする空気吸込み量の約4倍の空気吸込み量を要するので、かかる場合、初期には所要最大値は等しいが、それ以降の、吸引ノズル遮断後の所要値は、約1/4にまで減少する。
【0020】
その場合、空気吸込み要求に対する配分について決定する主体は、吸気システムが当該空気吸込み要求を、既に配分を受けている空気吸込み要求と同時に、当該吸気システムの最大容量以内で対応することができるか否かを判定するために、上記の所要空気吸込みについての情報を使用する。所要空気吸込みの計画上の推移についての情報が、計画上の最大所要値のみから構成される場合、かかる判定はたとえば、新規の空気吸込み要求の最大所要値を、既に対応されている空気吸込み要求の最大所要値の和に加算し、その総和が未だ吸気システムの最大容量以内である場合にのみ、当該空気吸込み要求に配分する、というものになる。
【0021】
しかし、吸込み所要値についてより高度に数値化された情報も、本発明の請求の範囲に属する。たとえばかかる情報を、工程時間にわたる所要空気吸込みより詳細に表示すること、つまり、最初の空気吸込み要求の際に既に、配分からどの程度の時間が経過したら所要空気吸込みがどの程度になるか、特に、当該工程が終了する時期を、具体的に指定することも可能である。このような詳細な所要値予測により、配分について決定を下す主体は、吸気システムの最大容量以内でどの空気吸込み要求に対して並列配分できるかを、非常に細かく計画することができる。このようにして特に、当該主体は空気吸込み要求の優先度および到着順の他に更に、どのような配分順序が、繊維機械の全体的に最大限の生産性を引き出せるかも考慮することができる。
【0022】
空気吸込み要求の所要空気吸込みの計画上の推移についての情報は、当該空気吸込み要求において適切な態様で符号化することができる。たとえば、各工程個別の所要空気吸込みの計画上の推移を、空気吸込み配分主体がアクセスできる1つまたは複数の中央メモリに記憶すること、または、複数の分散メモリに分散して記憶することも可能である。その際には、空気吸込み要求にて、要求している工程をたとえば短い符号によって識別するだけで十分であり、これによって配分主体は、当該工程の所要空気吸込みの計画上の推移を、対応するメモリから呼び出す。
【0023】
また特殊な事例として、空気吸込み要求がその所要空気吸込みの計画上の推移を示すために、プロセス工程処理時に初めて作業開始する作業部の所要空気吸込みのみの通知だけをすることも、本発明に属する。かかる作業部の、当該工程の進行において生じる所要空気吸込みが最大である場合、つまり、初期において当該作業部の所要空気吸込みが当該工程の最大所要空気吸込みである場合、上述の通知は、既に上記にて述べた指定の最大所要値と一致する。しかしそうでないと、本発明の上述の実施形態では、工程中における所要空気吸込みの増大によって、計画外のイベントが生じたときに起こり得るような、吸気システムの最大容量を超過することとなり得る。これについては、以下の説明を参照されたい。しかし、かかる超過は適用事例に応じて、特に、当該超過が僅かまたは短時間である場合には許容することができ、このことは本発明の請求の範囲に属する。
【0024】
上述の動作態様から、空気吸込み要求への配分は、同時に配分を受ける作業部の予め定められた数に限定されることはなく、実施中の作業工程の、差分が生じる所要空気吸込み次第で変わり得ることが明らかである。具体的にはたとえば、配分を受ける2つの糸継ぎプロセスが既に、貯蔵ノズルのみが実施中となっている段階に入っている場合、当該2つの糸継ぎプロセスの所要空気吸込みは合わせて、糸継ぎを始めたばかりの作業部の吸引ノズルを動作させるため当該作業部が必要とする所要空気吸込みの半分のみである。よって配分主体は、これら2つの先に進行した糸継ぎプロセスの作業部に対し、糸継ぎを始めたばかりの作業部の2倍ではなく1/2の重み付けをし、これにより未割当状態とみなされることとなった3/2はたとえば、糸継ぎを開始しようとしている作業部の空気吸込み要求への配分のために使用することができる。これにより、空気吸込みが同時に供給される、作業工程に関与している作業部の数を、従来技術において可能であった数より多くし、糸継ぎプロセスの場合には、空気吸込みが同時に供給される糸継ぎ中の作業部の数を多くするという、本発明の目的を達成することができる。
【0025】
ここで、上記および下記においては簡略化のために常に、繊維機械の1つの作業部の1つの空気吸込み要求について説明した又は説明することを述べておく。かかる説明の仕方は、現在通常の繊維機械が、1つの作業部の複数の作業部を協調制御する1つの作業部コントローラを有することを考慮したものである。よって、かかる1つの作業部に関連する、空気吸込みに関する制御プロセスはすべて、通常は当該1つの作業部コントローラを用いて実施される。
【0026】
しかし当業者であれば、本発明が取り組んでいるのは、各々一続きの作業工程によってトリガされる複数の空気吸込み要求への配分、たとえば上述の糸継ぎプロセスによってトリガされる複数の空気吸込み要求への配分であることが明らかである。よって最終的には、かかる工程に対応する空気吸込み要求を生成し、当該空気吸込み要求への配分を決定することを対象とするものである。これを実現するため、どの主体がかかる工程を制御し、どの主体が当該工程の空気吸込み要求を生成し、その後、どの主体が当該要求を受け取って配分まで更に処理するか、また、その後にどの主体が最終的に当該工程自体を処理し、所要空気吸込みの変化が生じた場合にはどの主体が当該変化を更に通知するのかについては、当業者が採用し得る手段は多岐にわたる。したがって、現在普及している繊維機械の場合、上述の主体として繊維機械の作業部コントローラおよび中央コントローラが好適な選択肢であるとしても、本発明はこれに限定されることはない。
【0027】
未だ配分を受けていない空気吸込み要求に対して更に対応することができるか否かの判定は、既に配分を受けている空気吸込み要求が更に必要とする空気吸込み量に依存するので、現在対応を受けている空気吸込み要求全体の最新情報を常に把握していることが有利である。というのも、1つの作業部の、空気吸込みを必要とする工程の処理中には、通常、当該工程の進行と共に所要空気吸込みが変化するからである。よって、上記にて挙げた糸継ぎプロセスの事例では、吸引ノズルの動作から貯蔵ノズルの動作への移行時には、所要空気吸込みは、当初必要とされていた所要量の約1/4に減少する。
【0028】
よって、上述のような所要空気吸込みの変化は、当該所要空気吸込みの計画上の推移において既に生じ得る、ということになる。空気吸込み要求において与えられる所要値情報が十分に詳細である場合には、配分主体はもちろん、全工程処理時間において、かかる所要値情報を考慮することができる。しかし、所要値情報が最大所要値のみを含む場合には、工程処理の残りの部分について計画されている最大所要値のいかなる低下についても配分主体に通知するのが好適である。このことは、計画外のイベントの場合の方がより当てはまる。というのも、かかるイベントは、所要空気吸込みの計画上の推移についての情報が上述のように更に詳細になっていても予測できないからである。
【0029】
よって本発明の1つの発展形態では、配分を受ける空気吸込み要求の処理中にその要求している作業部において生じた、所要空気吸込みの計画上の推移の変化を、当該空気吸込み要求の更新について使用する。このように更新された空気吸込み要求はその後、新規の空気吸込み要求に対して配分できるか否かの更なる判定の基礎となる。よってたとえば、空気吸込みの供給を受ける工程の処理を制御する作業部コントローラは、計画されたものであるか又は計画外で発生したものであるかにかかわらず、たとえばエラー状況で発生したものであるかにかかわらず、各部分作業の各終了を監視し、当該各部分作業の各終了によって将来的に引き起こされる他の所要空気吸込みの変化を全て、配分主体へ通知する。非常に簡単な事例では、このことはたとえば、更に後の工程処理に必要とされる、変化した最大所要空気吸込みの通知によって行われる。
【0030】
糸継ぎプロセスの例における詳細な所要値情報の場合、たとえば、計画された時間内では上糸を巻取パッケージから受け取れなかったので、再度の受け取りの試行をしなければならないが、そのためには更に強い空気吸込みを要する場合に、上述の更新が必要となる。というのも、かかる更新を用いないと配分主体は、吸引ノズルがもはや動作しておらず貯蔵ノズルが動作開始したと判断してしまい、また、必要な空気吸込みは元の空気吸込みの1/4だけになったと判断してしまうからである。従って、更に他の空気吸込み要求に対して配分する場合に、吸気システムの最大容量を超過する可能性がある。糸継ぎ中の作業部の空気吸込み要求を、所要空気吸込みが引き続き高い状態が続くと適時に更新することにより、上述の誤判定を回避することができる。
【0031】
空気吸込み要求の所要空気吸込みと、吸気システムの空き容量とを、可能な限り簡単に相互に比較できるようにするため、本発明の特定の実施形態では、所要空気吸込みと、吸気システムの最大容量とを、体積流量単位で表すことを提案する。この体積流量単位(「VSE」と省略する)は、実用上の取り扱いに有利な大きさに数値を選択した無次元値である。糸継ぎプロセスの例では、吸引ノズルはたとえば80VSEを要し、それに対して貯蔵ノズルは20VSEのみを要する。具体的な特定の型式の繊維機械の吸気システムは、最大容量として、拡張レベルに応じてたとえば600VSEまたは1200VSEという性能を発揮し得る。
【0032】
本発明の方法の1つの特殊な状況は、既に配分を受けている空気吸込み要求の所要空気吸込みが計画外のイベントによって、当該所要空気吸込みの計画上の元の推移を上回る場合に生じる。詳細な所要空気吸込み情報の場合については、当該事項は上記にて説明した通りであり、60VSEが放棄されることを配分主体が予測して、既に見込み的に、この60VSEを他の空気吸込み要求に対して付与してしまったにもかかわらず、巻取パッケージの上糸を受け取る試行が繰り返されることによって、たとえば80VSEの比較的高い所要空気吸込みが計画よりも長時間存在することとなった場合である。しかし、計画された最大所要値についてのみの情報の場合にも、かかる状況は生じ得る。たとえば糸継ぎプロセスの際には、回転立上がり中に糸が再び切れることがあり、または、引出管内に入った糸をロータカップ内にある糸リングに糸継ぎするのが既に失敗してしまう。これらのいずれのケースでも吸引ノズルを再始動させなければならず、かかる計画外のイベントにより、糸継ぎプロセスの所要空気吸込みは再び20VSEから80VSEにまで増大する。このような状況を解消するため、本発明は2つの実施態様を提案する。
【0033】
1つは、いかなる場合であっても、吸気システムの最大容量を超過することとなる場合であっても、空気吸込み要求への配分を継続できる、というものである。というのも、かかる超過は通常、比較的短時間かつ比較的小規模なので、吸気システムにおいて空気吸込み強度が低下することにより、繊維機械によって製造される製品の品質に及ぼされる影響は僅かのみだからである。他方、一度開始された工程を続行することは、典型的には、繊維機械の生産性に好影響を及ぼすことにもなる。というのも、1つの工程を再開することにより、通常は著しい遅延が生じ、また一部では、かかる場合でなければ既に処理完了していた部分工程の繰り返しも必要となるからである。
【0034】
しかし多くの繊維機械では、上述の方法により、認容できないほどの品質低下が生じ得る。よって、上記態様に代わる本発明の他の1つの実施態様では、既に配分を受けている空気吸込み要求の所要空気吸込みの計画上の元の推移を、計画外のイベントに起因して超過する場合において、配分を撤回しなければ吸気システムの最大容量を超過してしまう場合には、当該配分を撤回することを提案する。つまり、計画より高い所要空気吸込みで当該作業工程を継続すると、吸気システムの最大容量を超過することになってしまう場合には、当該作業工程を中断し、配分後に初めから開始するために、当該作業工程はその空気吸込み要求を配分主体へ再送しなければならない。
【0035】
しかし、上述の態様の他に、具体的事例において繊維機械の生産性を増大させるものである場合には、更に他の択一的態様を採用することもできる。たとえば、既に配分を受けている多くの作業工程については、計画外の妨害を受けた作業工程の所要空気吸込みの増加に対応して十分な空き容量を確保するため、かかる作業工程への空気吸込み供給を適宜、問題なく低減することができ、または事情によっては、ある程度の時間にわたって空気吸込み供給を完全に禁止することも可能である。計画外で増大した所要値が処理された後は、上述の低減した空気吸込み要求全体を再開させることができる。上述の一時的な禁止の一例は、吸引ノズルが未だ巻取パッケージ付近にあるときの糸継ぎプロセスの開始時である。かかる場合には空気吸込みを完全に停止することができ、吸引ノズルが動作しないで当該吸引ノズルの受け取り位置において空気吸込みを待っている間は、糸端部は巻取パッケージに留まり続ける。空気吸込み供給が再開すると、更に時間損失を生じることなく、上述の受け取りプロセスが再開される。というのも、吸引ノズルは依然として、糸受け取り位置に留まっているからである。糸継ぎプロセス時に利用できる他の1つの停止点であって、更に時間を損失することなく空気吸込み供給を中断できる停止点は、吸引ノズルの空気吸込み供給の終了時と、貯蔵ノズルに対する空気吸込み供給の開始時との間である。というのも、ここで糸は確実に引出ローラと引出管とに保持されているからである。
【0036】
既に上記記載から分かるように、本発明は、冒頭に挙げたDE102006050220A1の、まず第一に優先順位制御される待ち行列と、併用することができる。具体的には、空気吸込み容量が放棄された場合、未だ配分を受けていない空気吸込み要求のうち、次にどの空気吸込み要求に対応するかの決定に際しては、空気吸込み要求の優先度も一緒に考慮し、特に、当該優先度を第1の決定基準として使用することができる。つまり、たとえば待ち行列では、最高優先度クラスの空気吸込み要求に最初に配分することができ、このクラスの全ての空気吸込み要求に対して配分できない場合には、当該クラスの空気吸込み要求にはたとえば、第2として当該空気吸込み要求の到着順に配分する。
【0037】
既に述べたように、有利には、空気吸込み要求の生成を作業部コントローラに任せ、当該作業部コントローラが繊維機械の中央コントローラへ当該空気吸込み要求の送信も行い、これに応答して、当該中央コントローラは、配分までの後続の処理を行うことにより、本発明を、現在広く普及している繊維機械上にて実現することができる。こうするために、本発明では好適には、かかるコントローラがプログラミング可能であることを利用して、本発明を上述のコントローラ用の適切なコンピュータプログラムで実現することを提案する。
【0038】
しかし、中央コントローラを使用する代わりに、たとえば純粋な分散型の制御ネットワークで実現することも、本発明の請求の範囲に属する。よって基本的には、互いに各自の所要空気吸込みについて通知し合う複数の作業部コントローラであって、空気吸込み要求に対して配分準備が完了している、本発明の方法の各処理ごとに統一された作業部コントローラを用いても十分である。しかし、かかる作業部コントローラ自体は必須ではなく、情報処理部は極端な事例では、各作業部に直接備えつけることも可能である。また、1つの工程内での前後の繋がりのため、ある程度まとめることも確実に有意義であり、また、空気吸込みの中央リソースの割当てのため、ある程度の集中化も確実に有意義である。ここで、比較的大型の繊維機械の場合において、複数の吸気システムを使用する場合には、これらの中央情報処理部を吸気システムごとに重複して設け、そのコントローラと一緒にまとめることができる。
【実施例】
【0039】
上記にて記載した実施形態と、当業者が当該実施形態から導き出せる変形態様および組合せは全て、本発明の請求の範囲に属するが、以下、図面に示された実施例と、かかる変形態様のうち一部の複数の態様とを参照して、本発明を詳細に説明する。
【0040】
同一の構成部分には、全図において同一の符号を付している。
【0041】
本願の
図1,2は基本的に、DE102006050220A1から引き継いだものであり、同文献においても図番号を1および2としている。本願の
図1は、紡績機械全体の、具体的にはオープンエンド精紡機全体の概略的な正面図であり、本願の
図2はその作業部のうち1つの作業部、すなわち1つの紡糸ユニットの斜視図である。たとえばコンピュータプログラムで具現化される本発明は、この紡績機械の作業部コントローラや中央コントローラにおいて使用することができる。
【0042】
オープンエンド精紡機と、その作業部は、従来技術において周知であり、その動作方式の詳細についてもDE102006050220A1から読み取ることができるので、
図1および
図2についての記載は、両図の符号の説明、および、DE102006050220A1との相違点の説明に留める。
【0043】
図1に示されたオープンエンドロータ精紡機5は、複数の作業部1と、エンドフレーム31および32と、クリーナ交換台車7として構成されたサービスユニットと、中央制御ユニット10と、負圧源30を備えた吸気システム20と、各作業部1の制御装置25(
図1中には示されていない)を接続するためのCANバス28とを有し、前記負圧源30の電気的駆動装置29、より正確にはそのインバータは、制御線路33を介して前記中央制御ユニット10により制御される。
【0044】
図2には、
図1にて既に述べた幾つかの構成要素の他に更に、以下のものを備えた紡糸ユニット1を示している:
オープンエンド精紡装置2
糸引出管21
糸継ぎ部16
断糸検出器26
糸引出装置27
ステップモータ6により旋回可能な吸引ノズル4
糸9
空気力が供給される貯蔵ノズル60
ワキシング(パラフィン塗布)装置17
綾巻パッケージ8
巻取フレーム22を備えた巻取装置3
可逆の単独駆動装置56を介して駆動される駆動ドラム23
ステップモータ57によって駆動される糸綾振り装置24、および、
遮断手段14および15を介して中央吸気システム20に接続された空気力学的接続管路11,12および13を備えた装置35。
同図では、作業部コントローラ25はとりわけ、CANバス28を介して空気吸込み要求SDを中央制御ユニット10へ送信するように、また、線路18ないしは19を介して前記遮断手段14および15を制御するように構成されている。
【0045】
空気吸込み供給のフレキシビリティをより高くするため、本実施例では遮断手段15はDE102006050220A1と異なり、吸引ノズル4および貯蔵ノズル60に共用される接続管路13内に設けられるのではなく、貯蔵ノズル60専用の接続管路11内に設けられる。かかる構成により、貯蔵ノズル60が遮断手段15によって中央吸気システム20から切り離された状態で、吸引ノズル4にのみ空気吸込み供給を行うことも可能となる。
【0046】
図3に、作業部コントローラ25がCANバス28を介して中央コントローラ10へ送信する3つのCAN電文の構成を概略的に示す。
図3の上部分に、1工程の開始前の元の空気吸込み要求に対応するCAN電文を示しており、中間部分および下部分はそれぞれ、当該作業部において変化が生じた後の空気吸込み要求の更新を示している。これらの電文は、まず最初に、要求している作業部を識別し、かつ、当該作業部内部において、要求している工程を識別している。その後、元の要求であるかまたは更新であるかを判別し、工程の経過において予測される最大所要空気吸込み量を、より具体的には、先行の予測結果に対する所要空気吸込み量の変化を特定する。元の要求は更に、当該元の要求の優先度も示している。というのも本実施例では、優先順位制御される待ち行列が使用されるからである。
【0047】
同図中に示された、特に要求更新の電文構成の場合、中央コントローラ10は、既に付与されたVSE全ての総和(および待機中の工程)のみを保存すればよい。というのも、各更新は各自の所要空気吸込み量の変化分を直接示しており、本実施例では更新に対しては常に配分することとなっているので、中央コントローラ10はこれをその都度、記憶されているVSE総和によって精算するだけで、付与されたVSEの現在の状態を常時把握することができるからである。これは実際には、元の空気吸込み要求に対するVSE(本実施例では80)の割当てについては、全所要空気吸込み量の変化分にもなる。これについても、中央コントローラ10はこの80のVSEを加えて、記憶されているVSEを精算するだけでよい。
【0048】
本実施例については、空気吸込み配分は従来技術と異なり、同時に空気吸込みの供給を受ける作業部1の数に応じて行われるものではないことが、特に明らかである。というのも、中央コントローラ10は当該数を全く把握しておらず、同時に付与されるVSEの総和のみを保存するからである。よって中央コントローラ10は、糸継ぎプロセスに基づく
図3の実施例では、その終了時において、当該作業部1においてかかるプロセスが終了したことを知ることは全くない。というのも、中央コントローラ10はVSEの総和を精算するのみであって、工程レベルや作業部レベルでのVSEの部分総和を精算することはなく、また、途中で上述の具体的な糸継ぎプロセスのVSEが0になること、つまり、かかる糸継ぎプロセスが所要空気吸込み量を待つことがなくなり、それゆえ、空気吸込み付与については終了したとみなすことができることを知らないからである。
【0049】
確かに、中央コントローラ10には作業部IDおよび工程IDを通知しなければならない。というのも中央コントローラ10は、空気吸込み配分時には空気吸込み配分することを応答CAN電文によって通知するために上述のIDを要し、また、空気吸込みを拒絶する場合にその空気吸込み要求を待ち行列に入れるためにも、上述のIDを要するからである。しかし、要求された所要空気吸込み量の記憶は、後者の場合すなわち配分拒絶の場合にのみ行われ、その際にも、元の通知された所要空気吸込み量のみが、ここでは80VSEの空気吸込み要求のみが待ち行列に入れられるが、作業部レベルおよび工程レベルでの所要空気吸込み量の精算は、中央コントローラ10では全く行われない。
【0050】
最後に、本発明の実施態様によっては、更に工程IDを省略することによってCAN電文を簡略化することもできる。かかる簡略化はたとえば、作業部1において一度に実施される工程が、本来的に常に1つのみである場合、または、最初の空気吸込み配分が行われなかった場合において作業部1がそれ自体の他の工程について更に空気吸込み要求を出すことがない場合に行うことができる。というのもかかる場合には、作業部1の工程のうちどれが空気吸込みの配分を未だ待っているかを、当該作業部1は明確に把握することが常にできるからであり、中央コントローラ10は待ち行列の作業ステーションIDを用いるだけで、未だ配分準備ができていない空気吸込み要求を管理することができるからである。
【0051】
図4に、空気吸込み配分方法を詳解するため、空気吸込み要求の可能な順序例を示しており、これと共に、対応を受けている作業部と、待ち行列の各時点の状態とを示している。最大VSEが600という性能の吸気システムを備えたオープンエンド精紡機の場合、第1行の時点1において、配分されるVSEが540である初期状況から開始する。このVSEのうち、優先度が高いクリーナ交換台車RWWに対して2×100VSEが配分され、自動糸継ぎプロセスにおいて優先度が低い吸引ノズルSDに対し4×80VSEが配分され、自動糸継ぎプロセスにおいて同様に優先度が低い貯蔵ノズルに対して1×20VSEが配分される。当該時点1では、待ち行列は未だ空である。
【0052】
第2行において、空気吸込み要求が100VSEである高優先度の第3のクリーナ交換台車RWWが追加される。しかし、この第3のクリーナ交換台車RWWの空気吸込み要求に対応すると600VSEの最大容量を超えてしまうので、当該空気吸込み要求には対応せずに、これを待ち行列に入れる。その後、第3行において、オペレータが手動で糸継ぎをしているので優先度が高い、吸引ノズルの80VSEの要求が後から到着したので、当該要求も同様に待ち行列に入れなければならない。
【0053】
しかし、時点4において貯蔵ノズルは自身の作業を終了し、自身の20VSEを放棄する。この放棄されたVSEは、第3行の、待機中である高優先度の手動吸引ノズル要求に対し、総じて80となった未割当てのVSEを与えるために使用される。よってここでは、同一の優先度クラス内では空気吸込み要求の到着時期に厳密に従うのではなく、まず第一に、吸気システムの容量を可能な限り有効活用しようと試みる付与方法論が用いられる。というのもそうしないと、時点2において既に早期に到着してしまった第2行の第3のクリーナ交換台車RWWの要求自体には、600VSEの最大容量を超えてしまうため(540−20+100=620>600)全く配分できないにもかかわらず、当該第3のクリーナ交換台車RWWの要求が時点2という早期の時点に既に到着してしまったことにより、その後の時点3の手動吸引ノズル要求SDへの対応を阻害してしまうからである。
【0054】
以降の時点5から7までの流れも、上述のパターンに従っている。斜体の字体により、第8行および第9行において更にもう1つの付与方法論を示している。これは、吸気システムの最大容量以内では高優先度の空気吸込み要求自体に配分できない場合に限り、少なくとも到着時期がより早いが優先度が低い空気吸込み要求を、高優先度の空気吸込み要求より優先させる、というものである。しかしこれについては、当業者であれば他にも数多くの択一的態様を追加することができる。かかる択一的態様はいずれも、それぞれ固有の利点および欠点を有する。
【0055】
上記にて特定の実施態様のみを参照して、本発明の空気吸込み配分を説明したが、当業者であれば、各実施形態の大部分を自由に互いに組み合わせることも、また単独で用いることも可能であることは明らかであり、また、他の変形態様も可能であることも明らかである。同様のことが、ここで単に例として挙げた、オープンエンド精紡機の糸継ぎプロセスおよびクリーナ交換台車作業についても当てはまる。よって、本発明の空気吸込み配分はたとえば、吸引ノズル、把持管、開糸管、接合路および糸捕捉クリーニングノズルが同様に異なる時点においてそれぞれ異なる所要空気吸込み量を要求する、ワインダの接合工程にも、同様に適用できる。
【0056】
さらに、完全な理解のために述べておきたい点としては、不定冠詞は、当該不定冠詞を伴って記載された構成部分が複数存在し得る可能性を除外するものではないことである。また、特定の構成部分についての記載は、必ずしも、当該特定の構成部分の機能を複数の他の択一的な構成分に分散できないことを意味するものではなく、また、ここで記載されている複数の構成部分の機能を1つの構成部分にまとめることができないことを意味するものでもない。