(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
熱電変換材料の性能を評価する指数として、パワーファクターPF=S
2σや、無次元性能指数(熱電変換効率ともいう)ZT=(PF/κ)×T(式中、Sは、ゼーベック係数であり、σは、導電率であり、κは、熱伝導率であり、Tは、絶対温度である)が用いられている。熱電変換材料において、良好な熱電特性を得るには、ZTが大きいことが好ましい。すなわち、ゼーベック係数S及び導電率σは高いことが好ましく、熱伝導率κは低いことが好ましい。
【0009】
導電率σを高くするためには、熱電変換材料中の不純物を少なくして、所望の組成比を有する半導体結晶を単相で得ることが好ましい。
【0010】
熱伝導率κを低減するためには、例えば
図2に示すように、結晶粒(結晶子径)を小さくして、熱をナノ結晶界面で遮断できるようにすることが好ましい。
【0011】
このような熱電変換性能を向上させた半導体材料は、生産性、経済性、安全性が高い方法により製造されることが求められる。
【0012】
特許文献1に記載される方法には、ホットソープ法において分散剤として使用する界面活性剤又は界面活性剤に由来する不純物(以下、有機性不純物ともいう)が、生成物であるスクッテルダイト化合物中に残存し、導電率σを低下させるという問題がある。このような問題を解決する方法として、得られたスクッテルダイト化合物を、有機性不純物が分解・揮発する温度、例えば700℃〜800℃の温度で、長時間、例えば3時間〜30時間熱処理する方法がある。しかしながら、この方法は、熱処理によってスクッテルダイト化合物粒子の結晶子径の粗大化を引き起こし、その結果、熱伝導率κの上昇、最終的には熱電変換性能の低下を引き起こす。
【0013】
特許文献2に記載される方法では、高温高圧状態の、亜臨界ないし超臨界の反応溶媒を用いる。反応溶媒を亜臨界ないし超臨界状態にするためには、合成容器を含む設備を高温高圧状態(温度:200℃以上、圧力:4.0MPa以上)に耐え得る仕様にする必要がある。したがって、特許文献2に記載される方法は、設備的に非常に高コストとなるため経済性が低く、且つ、安全性に対しても高い配慮が求められる。さらに、一般的に、高圧を必要とするプロセスは、生産性が低く、大量合成には不向きである。また、連続式(流通式)の方法においても、配管目詰まりを起こしやすいためメンテナンスの頻度を高くしなくてはならず、生産性は低い。
【0014】
さらに、特許文献3の第2工程により製造された化合物中には、各構成元素単体の粒子や所望する組成比とは異なる組成比を有する化合物(以下、無機性不純物ともいう)が含まれる。このような無機性不純物を目的のスクッテルダイト生成物にするためには、得られた無機不純物を熱処理して均質化する処理、いわゆる水熱処理を、高温、例えば240℃〜380℃で、長時間、例えば24時間〜72時間行う必要がある。高温、長時間での水熱処理は均質化と同時に熱拡散によって粒子を粗大化してしまうため、その結果、熱伝導率κの上昇、最終的には熱電変換性能の低下を引き起こす。そのため、非常に小さなナノ粒子をスクッテルダイト母材に均一分散させて複合化するプロセス制御が別途必要となる。
【0015】
したがって、本発明は、簡便な合成法によって、結晶子径が100nm以下の均質なスクッテルダイト化合物CoSb
3、すなわちスクッテルダイト化合物CoSb
3の合金ナノ粒子を製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、前記課題を解決するための手段を種々検討した結果、Co含有化合物及びSb含有化合物を含む溶液から還元剤により各金属イオンを各金属まで還元してCoSb
3を製造する方法において、Co含有化合物及びSb含有化合物の仕込み量を、Co
2+をCo
0に還元する速度とSb
3+をSb
0に還元する速度の比が特定の値に近づくように調整したところ、得られたCoSb
3のX線回折分析において、CoSb
3スクッテルダイト結晶構造が単相で現れること、及び、得られたCoSb
3が100nm以下の結晶子径を有することを見出し、本発明を完成した。
【0017】
すなわち、本発明の要旨は以下の通りである。
(1)Co含有化合物及びSb含有化合物を含む溶液から還元剤によりCo
2+及びSb
3+をそれぞれCo
0及びSb
0まで還元してCoSb
3を製造する方法であって、Co含有化合物及びSb含有化合物の仕込み量を、Co
2+をCo
0に還元する速度とSb
3+をSb
0に還元する速度の比が1:2.9〜1:3.1になるように調整する、前記方法。
(2)Co含有化合物及びSb含有化合物の仕込み量を、Co
2+をCo
0に還元する速度とSb
3+をSb
0に還元する速度の比が1:3になるように調整する、(1)に記載の方法。
(3)Co
2+及びSb
3+をそれぞれCo
0及びSb
0まで還元する還元剤として、シュウ酸、アスコルビン酸、及びクエン酸からなる群から選択される少なくとも1種の弱還元剤を使用する、(1)又は(2)に記載の方法。
(4)250℃〜320℃の反応温度、1時間〜10時間の反応時間で実施する、(1)〜(3)のいずれか一つに記載の方法。
(5)[Co
2+]と[Sb
3+]の合計濃度が、0.140mol/l〜0.770mol/lである、(1)〜(4)のいずれか一つに記載の方法。
(6)[Co
2+]と[Sb
3+]の合計濃度が、0.350mol/l〜0.770mol/lである、(5)に記載の方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明の方法では、得られる粒子中に各構成元素単体の粒子や目的とは異なる組成の粒子が生成しないか、又は生成したとしても従来と比較して少なく、各粒子間の構成元素の組成が均一であるため、製造時に有機性不純物の原因となり得る分散剤を使用する必要がない。したがって、本発明では、高温、長時間での有機性不純物除去処理及び/又は水熱処理を行う必要がない。その結果、本発明の方法によって得られるCoSb
3は、有機性不純物及び無機性不純物を実質的に含まず、単相のスクッテルダイト結晶構造を有し、さらにCoSb
3粒子の結晶子径は、100nm以下に維持され得る。また、CoSb
3粒子の結晶子径は、[Co
2+]と[Sb
3+]の合計濃度が大きくなるほど、小さくなる。
【0019】
また、本発明の方法では、水熱処理を行う必要がない、つまり、高圧に耐え得る仕様の合成設備を用いる必要もない。したがって、本発明は、簡易な合成設備及び方法を用いて実施することができ、生産性、経済性、安全性に優れている。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の好ましい実施形態について詳細に説明する。
本明細書では、適宜図面を参照して本発明の特徴を説明する。図面では、明確化のために各部の寸法及び形状を誇張しており、実際の寸法及び形状を正確に描写してはいない。それ故、本発明の技術的範囲は、これら図面に表された各部の寸法及び形状に限定されるものではない。なお、本発明のスクッテルダイト化合物CoSb
3の合金ナノ粒子の製造方法は、下記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、当業者が行い得る変更、改良などを施した種々の形態にて実施することができる。
【0022】
本発明は、
図3に示すように、Co含有化合物及びSb含有化合物を含む溶液から還元剤により各金属イオンを各金属まで還元してCoSb
3を製造する方法であって、Co含有化合物及びSb含有化合物の仕込み量を、Co
2+をCo
0に還元する速度(以下、R
Coともいう)とSb
3+をSb
0に還元する速度(以下、R
Sbともいう)の比(以下、R
Co:R
Sbともいう)が特定の値に近づくように調整する、前記方法に関する。
【0023】
本発明において、Co含有化合物としては、Co
2+を形成して溶媒中に溶解する化合物、例えば、以下に限定されないが、塩化コバルト(II)、コバルトの有機酸塩、例えば酒石酸コバルト、クエン酸コバルト、酢酸コバルトなどがあり、溶媒に不溶性の化合物は、適宜酸などにより溶解して使用することができる。本発明に用いられるCo含有化合物としては、スクッテルダイト化合物CoSb
3以外の副産物が生成しにくい、酢酸コバルトが好ましい。
【0024】
本発明において、Sb含有化合物としては、Sb
3+を形成して溶媒中に溶解する化合物、例えば、以下に限定されないが、塩化アンチモン(III)、アンチモンの有機酸塩、例えば、酢酸アンチモン、酒石酸アンチモンカリウムなどがあり、溶媒に不溶性の化合物は、適宜酸などにより溶解して使用することができる。本発明に用いられるSb含有化合物としては、スクッテルダイト化合物CoSb
3以外の副産物が生成しにくい、酢酸アンチモンが好ましい。
【0025】
本発明において、Co含有化合物及びSb含有化合物を含む溶液を調製するために用いる溶媒としては、Co
2+及びSb
3+を安定化する溶媒であり、例えば、以下に限定されないが、極性溶媒、例えばプロトン性溶媒、例えば水、アルコール、多価アルコール、それらの混合物などを使用することができる。本発明に用いる溶媒としては、テトラエチレングリコールが好ましい。
【0026】
本発明のCo含有化合物及びSb含有化合物を含む溶液を調製する方法において、各化合物の添加順序、添加温度、混合方法、混合時間などは限定されず、溶媒中に各化合物が溶解して、均一になるよう混合される。例えば、本発明のCo含有化合物及びSb含有化合物を含む溶液を調製する方法では、1℃〜30℃の室温において、反応容器中に溶媒となるテトラエチレングリコールを加え、その後、撹拌機により撹拌しながら、Co含有化合物として酢酸コバルト、Sb含有化合物として酢酸アンチモンを順に加え、各化合物がテトラエチレングリコール中に溶解し、溶液が均質になるまで、例えば0.2時間〜1時間混合して、調製してもよい。
【0027】
本発明において、溶媒及び溶液中の溶存酸素濃度は、限定されないが、低いことが好ましく、例えば、通常10mg/l以下、より好ましくは5mg/l以下に調整される。
【0028】
ここで、溶存酸素濃度を低くするためには、従来の脱気方法などを使用することができ、例えば限定されないが、従来の脱気方法の場合、対象となる溶液又は溶媒中に、窒素ガスやアルゴンガスなどの不活性ガスを、1℃〜30℃で、通常50ml/分〜500ml/分、好ましくは50ml/分〜100ml/分の流量でバブリングすることができる。
【0029】
本発明では、Co含有化合物及びSb含有化合物の仕込み量を、R
Co:R
Sbが特定の値に近づくように調整する。
【0030】
ここで、特定の値とは、本発明において所望する半導体であるスクッテルダイト化合物CoSb
3のCoとSbの組成比(モル比)(Co:Sb)のことであり、すなわち1:3である。
【0031】
したがって、本発明では、Co含有化合物及びSb含有化合物の仕込み量を、R
Co:R
Sbが1:2.9〜1:3.1、好ましくは1:2.93〜1:3.07、より好ましくは1:2.96〜1:3.04、特に好ましくは1:3になるように調整する。
【0032】
本発明において、R
Coは、以下の式により表すことができる。
R
Co=k
Co[Co
2+]
式中、k
Coは、Co
2+をCo
0に還元する反応における反応速度定数であり、[Co
2+]は、溶液中のCo
2+の濃度である。
【0033】
本発明において、R
Sbは、以下の式により表すことができる。
R
Sb=k
Sb[Sb
3+]
式中、k
Sbは、Sb
3+をSb
0に還元する反応における反応速度定数であり、[Sb
3+]は、溶液中のSb
3+の濃度である。
【0034】
以上により、R
Co:R
Sbは、
R
Co:R
Sb=k
Co[Co
2+]:k
Sb[Sb
3+]
と表すことができる。
【0035】
したがって、本発明では、Co含有化合物及びSb含有化合物の仕込み量は、上記R
Co:R
Sbの関係から、k
Co[Co
2+]:k
Sb[Sb
3+]が1:2.9〜1:3.1、好ましくは1:2.93〜1:3.07、より好ましくは1:2.96〜1:3.04、特に好ましくは1:3になるように調整される。
【0036】
本発明では、k
Co及びk
Sbの値は、それぞれの仕込み金属イオン濃度と還元速度の関係を予め測定して、計算により求めておく。そして、この値を用いて、所望の還元速度となる仕込み金属イオン濃度を求める。
【0037】
本発明では、[Sb
3+]は、通常0.015mol/l〜0.1mol/l、好ましくは0.03mol/l〜0.1mol/l、より好ましくは0.06mol/l〜0.1mol/lであり、[Co
2+]は、通常0.006mol/l〜0.04mol/l、好ましくは0.012mol/l〜0.04mol/l、より好ましくは0.024mol/l〜0.04mol/lである。
【0038】
本発明では、[Co
2+]と[Sb
3+]の合計濃度の上限は、Co含有化合物及びSb含有化合物の溶解度の上限である。[Co
2+]と[Sb
3+]の合計濃度は、好ましくは0.140mol/l〜0.770mol/l、より好ましくは0.350mol/l〜0.770mol/lである。また、[Co
2+]と[Sb
3+]の合計濃度は、0.020mol/l超、例えば0.030mol/l以上に調整することが好ましい。
【0039】
Co含有化合物及びSb含有化合物の仕込み量を上記のように調節することによって、得られるCoSb
3粒子中には、各構成元素単体の粒子や目的とは異なる組成の粒子が生成しないか、又は生成したとしても従来と比較して少なく、各粒子間の構成元素の組成は均一になる。また、[Co
2+]と[Sb
3+]の合計濃度を0.020mol/l超に調整することによって、希薄化による反応性低下のために起こり得る、各構成元素単体の粒子や目的とは異なる組成の粒子の生成を抑制することができる。
【0040】
また、得られるCoSb
3粒子は、単相のスクッテルダイト結晶構造を有し、さらにCoSb
3粒子の結晶子径は、100nm以下である。さらに、Co含有化合物及びSb含有化合物の仕込み量、すなわち[Co
2+]と[Sb
3+]の合計濃度を上げることによって、得られるCoSb
3粒子の結晶子径をさらに小さくすることができる。[Co
2+]と[Sb
3+]の合計濃度を0.140mol/l〜0.770mol/lにすることで、75nm以下の結晶子径を有するCoSb
3粒子を得ることができ、さらに、[Co
2+]と[Sb
3+]の合計濃度を0.350mol/l〜0.770mol/lにすることで、50nm以下の結晶子径を有するCoSb
3粒子を得ることができる。
【0041】
本発明では、Co含有化合物及びSb含有化合物の仕込み量を上げることで、R
Co及びR
Sbを大きくし、生産性を高くすることができる。また、仕込み量を上げることで、CoSb
3粒子の結晶子径をさらに小さくすることができるので、良好な熱電特性を有する材料を得ることができる。
【0042】
本発明において、Co含有化合物及びSb含有化合物を含む溶液からCo
2+及びSb
3+をそれぞれCo
0及びSb
0まで還元するための還元剤としては、Co
2+及びSb
3+を、同じ溶液中で、それぞれCo
0及びSb
0まで還元することができる還元剤であれば限定されず、例えば、シュウ酸、アスコルビン酸、クエン酸、それらの混合物などの弱還元剤が挙げられる。
【0043】
還元剤の量は、使用するCo含有化合物と還元剤との酸化還元反応の反応式及び使用するSb含有化合物と還元剤との酸化還元反応の反応式において、金属イオンに対してモル当量以上、好ましくはモル当量の2倍以上である。
【0044】
還元剤の種類及び量を上記のように調節することによって、
図4に示すように、Sb
3+が、Sb
3−にまで過還元されることはなく、効率的にスクッテルダイト化合物CoSb
3の合金ナノ粒子を形成することができる(例えば、Sb
3−にまで過還元された場合、プロトンと結合してガス化し、組成ずれが発生する)。
【0045】
本発明において、Co含有化合物及びSb含有化合物を含む溶液からCo
2+及びSb
3+をそれぞれCo
0及びSb
0まで還元する反応の反応温度は、通常250℃〜320℃、好ましくは270℃〜320℃、より好ましくは280℃〜320℃である。
【0046】
本発明において、Co含有化合物及びSb含有化合物を含む溶液からCo
2+及びSb
3+をそれぞれCo
0及びSb
0まで還元する反応の反応時間は、通常1時間〜10時間、好ましくは1時間〜6時間である。
【0047】
上記のように反応の温度及び時間を調節することによって、Co
2+及びSb
3+をそれぞれCo
0及びSb
0まで還元する反応を効率的に促進することができる。
【0048】
本発明では、Co含有化合物及びSb含有化合物を含む溶液からCo
2+及びSb
3+をそれぞれCo
0及びSb
0まで還元する反応における溶液中の溶存酸素濃度は、低いことが好ましく、例えば10mg/l以下、より好ましくは5mg/l以下に調整される。
【0049】
溶存酸素濃度を低くすることによって、還元されたCo
0及びSb
0が、再度酸化されることを抑えることができる。
【0050】
本発明において、Co含有化合物及びSb含有化合物を含む溶液と還元剤とを混合し、反応する方法では、当該溶液と還元剤の添加順序は限定されず、溶液中、還元剤が均質に混合されるように混合される。本発明では、Co含有化合物及びSb含有化合物を含む溶液と還元剤との混合を、還元反応を実施する温度において実施することが好ましい。本発明では、例えば、Co含有化合物及びSb含有化合物を含む溶液を、アルゴンガスなどでバブリングし、撹拌機により撹拌しながら反応温度まで上昇させ、反応温度に達してから、ゆっくりと還元剤を添加し、反応を実施する。
【0051】
反応後に得られたスクッテルダイト化合物CoSb
3の合金ナノ粒子は、その後、ろ過され、水、アルコールなどの洗浄用溶媒により洗浄されて、原材料などが十分に除去される。その後、当該合金ナノ粒子は、不活性ガスによる風乾や、不活性ガス雰囲気による乾燥又は真空乾燥などにより乾燥され、場合により粉砕される。粉砕には、従来の粉砕技術、例えば乳鉢、ハンマーミル、ボールミル、ビーズミル、ジェットミル、ローラーミルなど、乾式、湿式を問わず用いることができる。
【0052】
なお、本発明において製造されたスクッテルダイト化合物CoSb
3の合金ナノ粒子について、当該合金ナノ粒子は、製造時に分散剤、例えば界面活性剤を使用しないので、有機性不純物を実質的に含まず、また、当該合金ナノ粒子中には各構成元素単体の粒子や目的とは異なる組成の粒子が生成しないか、又は生成したとしても従来と比較して少なく、各粒子間の構成元素の組成が均一であるため、高温、長時間での有機性不純物除去処理及び/又は水熱処理を行う必要はない。
【0053】
本発明は、バッチ式でも、連続式でも実施することができる。
【0054】
本発明では、Co含有化合物とSb含有化合物の仕込み量のモル比は、必ずしも所望する半導体であるスクッテルダイト化合物CoSb
3のCoとSbの組成比(モル比)である1:3にならないので、反応後にCo含有化合物又はSb含有化合物が残存する場合がある。残存したCo含有化合物又はSb含有化合物は、次の反応に使用することができる。
【0055】
本発明において製造されたスクッテルダイト化合物CoSb
3の合金ナノ粒子は、
図1において示すようなスクッテルダイト結晶構造であって、MがCoであり、ZがSbである前記結晶構造を有する。当該合金ナノ粒子は、X線回折分析(XRD分析:Ultima IV(RIGAKU製)で測定した時に、CoSb
3スクッテルダイト結晶構造のみのピークを有すること(すなわち、XRD分析において、CoSb
3スクッテルダイト結晶構造が単相で現れること)が好ましい。
【0056】
本発明において製造されたスクッテルダイト化合物CoSb
3の合金ナノ粒子は、上記XRD分析条件で観測された2θ=31.3°(013)のピークにおいて、シェラー(Scherrer)の式を使用して結晶子径を測定した時に、100nm以下、好ましくは90nm〜75nm、より好ましくは80nm〜75nmの結晶子径を有する。また、本発明において、[Co
2+]と[Sb
3+]の合計濃度を上げることによって製造されたスクッテルダイト化合物CoSb
3の合金ナノ粒子は、上記XRD分析条件で観測された2θ=31.3°(013)のピークにおいて、Scherrerの式を使用して結晶子径を測定した時に、100nm以下、好ましくは90nm〜40nm、より好ましくは80nm〜40nm、さらにより好ましくは75nm〜40nm、特に50nm〜40nmの結晶子径を有する。
【0057】
ここで、Scherrerの式とは、結晶子径(D)を求めるために使用される式であり、以下のように表すことができる:
D=Kλ/(βcosθ)
[式中、Kは、Scherrer定数であり、λは、特性X線波長(CuKα)であり、βは、半値幅であり、θは、回折角である]。
【0058】
本発明において製造されたスクッテルダイト化合物CoSb
3の合金ナノ粒子は、製造時に分散剤、例えば界面活性剤を使用しないので、有機性不純物を実質的に含まない。また、当該合金ナノ粒子のXRD分析の結果から、当該合金ナノ粒子中には各構成元素単体の粒子や目的とは異なる組成の粒子が生成しないか、又は生成したとしても従来と比較して少なく、各粒子間の構成元素の組成が均一であるので、無機性不純物を実質的に含まない。したがって、当該合金ナノ粒子では、不純物由来の電気特性(出力PF)の低下を抑えることができ、高い出力PFを実現することができる。
【0059】
また、本発明では、高温、長時間での有機性不純物除去処理及び/又は水熱処理を実施しないので、得られる合金ナノ粒子中の粒子の結晶子径は小さいまま維持される。したがって、当該合金ナノ粒子では、結晶子径の粗大化による熱伝導率の上昇を抑えることができ、より高い出力PFを実現できる。
【0060】
したがって、本発明において製造されたスクッテルダイト化合物CoSb
3の合金ナノ粒子は、大幅に向上した熱電変換効率ZTを有するため、熱電変換材料として有用である。
【0061】
さらに、本発明は、安価な器具(例えば、ガラス器具)により構成される小型で簡易な設備を使用して、大気圧系で実施することができる。したがって、本発明は、生産性、経済性、安全性に優れている。
【0062】
本発明の方法は、スクッテルダイト化合物CoSb
3(含(Co,Ni)Sb
3、(Co,Fe)Sb
3)系だけでなく、Bi
2Te
3(含(Bi,Sb)
2(Te、Se)
3)系、PbTe系、Zn
4Sb
3系などの熱電変換材料の製造に応用することもできる。
【実施例】
【0063】
以下、本発明に関するいくつかの実施例につき説明するが、本発明をかかる実施例に示すものに限定することを意図したものではない。
I.試料調製
【0064】
比較例1 Co含有化合物とSb含有化合物の仕込み量のモル比を1:2.0にし、Co2+をCo0に還元する速度とSb3+をSb0に還元する速度の比が1:2.2になるよう調整した粉末の製造
(1)ビーカーにテトラエチレングリコール(Tetra−EG)0.017Lを添加し、30℃で、撹拌しながら、さらに、Co含有化合物として酢酸コバルト(Co(CH
3COO)
2)0.14g、Sb含有化合物として酢酸アンチモン(Sb(CH
3COO)
3)0.49gを添加した。各原材料が均一に溶解するまで、0.5時間撹拌を続け、混合溶液を調製した。
(2)(1)で調製した混合溶液中に、アルゴンを、20℃で、50ml/分の流量でバブリングし、混合液中の酸素を脱気した。
(3)(2)で得られた酸素脱気した混合液を、アルゴンガスでバブリングしながら、300℃まで昇温し、還元剤としてシュウ酸((COOH)
2)0.36gをテトラエチレングリコール0.003Lに溶解したものを添加した。
(4)(3)において還元剤を添加した混合液を、アルゴンでバブリングしながら、300℃で360分間反応させ、合金化を促進させた結晶性の高い粒子を形成させた。
(5)(4)で形成させた粒子を含む反応物をろ過し、エタノールで洗浄後、溶媒を乾燥させて、粉末を得た。
【0065】
比較例2 Co含有化合物とSb含有化合物の仕込み量のモル比を1:3.0にし、Co2+をCo0に還元する速度とSb3+をSb0に還元する速度の比が1:3.8になるよう調整した粉末の製造
比較例1の(1)において、Co含有化合物及びSb含有化合物の仕込み量を変更した以外は、比較例1と同様にして粉末を製造した。
【0066】
実施例1 Co含有化合物とSb含有化合物の仕込み量のモル比を1:2.5にし、[Co2+]と[Sb3+]の合計濃度を0.140mol/lにし、Co2+をCo0に還元する速度とSb3+をSb0に還元する速度の比が1:3.0になるよう調整した粉末の製造
比較例1の(1)において、Co含有化合物及びSb含有化合物の仕込み量を変更した以外は、比較例1と同様にして粉末を製造した。
【0067】
実施例2 Co含有化合物とSb含有化合物の仕込み量のモル比を1:2.5にし、[Co2+]と[Sb3+]の合計濃度を0.210mol/lにし、Co2+をCo0に還元する速度とSb3+をSb0に還元する速度の比が1:3.0になるよう調整した粉末の製造
比較例1の(1)において、Co含有化合物及びSb含有化合物の仕込み量を変更した以外は、比較例1と同様にして粉末を製造した。
【0068】
実施例3 Co含有化合物とSb含有化合物の仕込み量のモル比を1:2.5にし、[Co2+]と[Sb3+]の合計濃度を0.350mol/lにし、Co2+をCo0に還元する速度とSb3+をSb0に還元する速度の比が1:3.0になるよう調整した粉末の製造
比較例1の(1)において、Co含有化合物及びSb含有化合物の仕込み量を変更した以外は、比較例1と同様にして粉末を製造した。
【0069】
実施例4 Co含有化合物とSb含有化合物の仕込み量のモル比を1:2.5にし、[Co2+]と[Sb3+]の合計濃度を0.490mol/lにし、Co2+をCo0に還元する速度とSb3+をSb0に還元する速度の比が1:3.0になるよう調整した粉末の製造
比較例1の(1)において、Co含有化合物及びSb含有化合物の仕込み量を変更した以外は、比較例1と同様にして粉末を製造した。
【0070】
実施例5 Co含有化合物とSb含有化合物の仕込み量のモル比を1:2.5にし、[Co2+]と[Sb3+]の合計濃度を0.630mol/lにし、Co2+をCo0に還元する速度とSb3+をSb0に還元する速度の比が1:3.0になるよう調整した粉末の製造
比較例1の(1)において、Co含有化合物及びSb含有化合物の仕込み量を変更した以外は、比較例1と同様にして粉末を製造した。
【0071】
実施例6 Co含有化合物とSb含有化合物の仕込み量のモル比を1:2.5にし、[Co2+]と[Sb3+]の合計濃度を0.770mol/lにし、Co2+をCo0に還元する速度とSb3+をSb0に還元する速度の比が1:3.0になるよう調整した粉末の製造
比較例1の(1)において、Co含有化合物及びSb含有化合物の仕込み量を変更した以外は、比較例1と同様にして粉末を製造した。
【0072】
II.試料測定
I.試料調製における比較例1及び2並びに実施例1〜6において調製した粉末それぞれについて、XRD分析(装置:Ultima IV(RIGAKU製))により結晶状態を測定した。なお、実施例1〜6において調製した粉末については、2θ=31.3°(013)のピークにおいて、Scherrerの式を使用して結晶子径を測定した。
【0073】
III.結果
結果を表1並びに
図5及び6に示す。
【0074】
【表1】
【0075】
図5において、(a)は、比較例1において調製した粉末のXRD回折パターンであり、(b)は、比較例2において調製した粉末のXRD回折パターンであり、(c)は、実施例1において調製した粉末のXRD回折パターンであり、(d)は、実施例6において調製した粉末のXRD回折パターンである。表1及び
図5より、比較例1において調製した粉末のXRD回折パターンには、スクッテルダイト化合物CoSb
3だけでなく、CoSb
2のピークも含まれており、比較例2において調製した粉末のXRD回折パターンには、スクッテルダイト化合物CoSb
3だけでなく、Sbのピークが含まれているのに対し、実施例1〜6において調製した粉末のXRD回折パターンには、スクッテルダイト化合物CoSb
3のピークのみが観測された。
【0076】
図6は、実施例1〜6において調製した粉末における、[Co
2+]と[Sb
3+]の合計濃度に対する得られたCoSb
3粒子の結晶子径の関係を示す。
【0077】
表1及び
図6より、実施例1において調製した粉末の結晶子径は75nmであり、100nm以下であることが分かった。さらに、[Co
2+]と[Sb
3+]の合計濃度が大きくなり、R
Co及びR
Sbが大きくなると、得られるCoSb
3粒子の結晶子径が小さくなることが分かった。詳細には、[Co
2+]と[Sb
3+]の合計濃度が0.140mol/lから0.350mol/lになるにつれて、得られたCoSb
3粒子の結晶子径は75nmから徐々に小さくなり、[Co
2+]と[Sb
3+]の合計濃度が0.350mol/l〜0.770mol/lでは、得られたCoSb
3粒子の結晶子径はほぼ一定になり、その結晶子径は50nm以下であった。これは、合金ナノ粒子の生成過程において、[Co
2+]と[Sb
3+]の合計濃度が大きくなることにより、多量の核生成が促進されるためであると考えられる。