(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
被検眼を照明する照明光学系と、前記照明光学系で照明された前記被検眼を観察するための左眼用観察光学系と右眼用観察光学系を有する観察光学系と、光コヒーレンストモグラフィにより前記被検眼を検査するための測定光の光路と参照光の光路を有するOCT光学系と、前記被検眼と前記対物レンズの間の光路上に挿脱可能な前置レンズとを備える眼科用顕微鏡において、
前記眼科用顕微鏡内において、前記左眼用観察光学系の光軸と前記右眼用観察光学系の光軸が略平行であり、
前記左眼用観察光学系と前記右眼用観察光学系がそれぞれ対物レンズを有しており、
前記対物レンズが、第1のレンズと、光軸の向きを変更する光学素子と、第2のレンズとを少なくとも有するレンズ群からなり、
前記対物レンズによって、前記左眼用観察光学系の光軸の向きと前記右眼用観察光学系の光軸の向きが、前記被検眼の側で互いに交差する方向に変更され、
前記左眼用観察光学系と前記右眼用観察光学系の間の領域に、前記OCT光学系が配置され、前記対物レンズとは別に、前記OCT光学系の光軸が透過するOCT用対物レンズを有しており、
前記被検眼と前記対物レンズの間の光路上に前記前置レンズが挿入された時に、前記観察光学系の光軸と前記OCT光学系の光軸とが前記前置レンズを透過し、
前記被検眼と前記対物レンズの間の光路上に挿入される前記前置レンズの焦点距離に応じて、次の1)又は2)の距離が自動的に変化し、
1)前記対物レンズと前記前置レンズの間の距離
2)前記OCT用対物レンズと前記前置レンズの間の距離
前記被検眼と前記対物レンズの間の光路上で前記前置レンズが挿脱される時に、前記前置レンズの焦点距離に応じて、前記OCT光学系の参照光の光路の長さが自動的に変化することを特徴とする眼科用顕微鏡。
前記第1のレンズが負のパワーを有する凹レンズであり、前記第2のレンズが正のパワーを有する凸レンズであることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の眼科用顕微鏡。
【発明を実施するための形態】
【0017】
1. 本発明の眼科用顕微鏡の概要
本発明の眼科用顕微鏡は、被検眼を照明する照明光学系と、照明光学系で照明された被検眼を観察するための左眼用観察光学系と右眼用観察光学系を有する観察光学系と、光コヒーレンストモグラフィにより前記被検眼を検査するための測定光の光路と参照光の光路を有するOCT光学系と、前記被検眼と前記対物レンズの間の光路上に挿脱可能な前置レンズとを備える眼科用顕微鏡に関するものである。
本発明の眼科用顕微鏡は、左眼用観察光学系と右眼用観察光学系にそれぞれ小口径化された対物レンズを有しているため、左眼用観察光学系と右眼用観察光学系が共通して透過する大口径の対物レンズを使用する必要がない。このため、対物レンズの光軸とその前にあるレンズの光軸との偏心が小さくなり、残存収差の補正が可能である。また、本発明の眼科用顕微鏡は、大口径の対物レンズを使用する必要がなく、対物レンズを小口径化できるので、OCT光学系等の別の光学系を容易に設置することができる。
本発明の眼科用顕微鏡は、第1のレンズと、光軸の向きを変更する光学素子と、第2のレンズとを少なくとも有するレンズ群を、対物レンズとして使用する。かかる対物レンズにより、左眼用観察光学系の光軸と右眼用観察光学系の光軸の向きが、被検眼の側で互いにに交差する方向に変更されている。したがって、本発明の眼科用顕微鏡は、眼科用顕微鏡内において、左眼用観察光学系の光軸と右眼用観察光学系の光軸を略平行としながら、対物レンズよりも被検眼側で2つの光軸を交差させることができ、グリノー式実体顕微鏡のように左右の観察光学系を斜交して配置する複雑な機構とする必要がない。
【0018】
本発明において「眼科用顕微鏡」とは、被検眼を拡大して観察することができる医療用又は検査用の機器をいい、ヒト用のみならず動物用のものも含む。「眼科用顕微鏡」には、これらに限定されるわけではないが、例えば、眼底カメラ、スリットランプ、眼科手術用顕微鏡等が含まれる。
本発明の眼科用顕微鏡は、眼科分野における診療や手術において被検眼の拡大像を観察(撮影)するために使用される。観察対象部位は、患者眼の任意の部位であってよく、たとえば、前眼部においては角膜や隅角や硝子体や水晶体や毛様体などであってよく、後眼部においては網膜や脈絡膜や硝子体であってよい。また、観察対象部位は、瞼や眼窩など眼の周辺部位であってもよい。
【0019】
本発明の眼科用顕微鏡は、被検眼を拡大観察するための顕微鏡としての機能に加え、光コヒーレンストモグラフィにより被検眼を検査するためのOCT光学系を有するとともに、他の眼科装置としての機能を有することができる。他の眼科装置としての機能の例として、レーザ治療、眼軸長測定、屈折力測定、高次収差測定などがある。他の眼科装置としての機能は、被検眼の検査や測定や画像化を光学的手法で行うことが可能な任意の構成を備える。
本発明の眼科用顕微鏡は、各レンズの位置や傾き等の制御や光源の制御を行うための制御部や、撮像した画像を表示する表示部等を含ませることができる。また、これらの制御部や表示部は、眼科用顕微鏡とは別のものとしてもよい。
【0020】
本発明において、「照明光学系」とは、被検眼を照明するための光学素子を含んで構成されるものである。照明光学系には、さらに光源を含ませることができるが、自然光を被検眼に導くものであってもよい。
【0021】
本発明において、「観察光学系」とは、照明光学系によって照明された被検眼において反射・散乱された戻り光により、被検眼を観察することを可能とする光学素子を含んで構成されるものである。本発明において、観察光学系は、左眼用観察光学系と右眼用観察光学系を有しており、左右の観察光学系により得られる像に視差を生じさせた場合には、双眼視により立体的に観察することも可能となる。
また、本発明の「観察光学系」は、アイピースや接眼レンズ等を通じて観察者の肉眼により被検眼を観察できるものであってもよく、また、撮像素子等により受光して画像化することにより観察できるものであってもよく、あるいは、両方の機能を備えるものであってもよい。
【0022】
本発明において、「OCT光学系」とは、OCTの測定光と参照光を経由させる光学素子を含んで構成されるものである。OCT光学系には、さらにOCT光源を含ませることができる。
本発明において、「照明光学系」、「観察光学系」、「OCT光学系」に使用される光学素子としては、これらに限定されるわけではないが、例えば、レンズ、プリズム、ミラー、光フィルタ、絞り、回折格子、偏光素子等を用いることができる。
【0023】
本発明において、左眼用観察光学系の光軸と右眼用観察光学系の光軸が、眼科用顕微鏡内で「略平行」であるとは、左右眼の観光学系の光軸が眼科用顕微鏡内の主要な経路でほぼ平行となっていることをいい、光軸の一部が非平行となっていてもよく、また、主要な経路では5°以下の範囲で平行となっていればよい。しかしながら、光学系のレンズを配置しやすくするためには、できるだけ0°に近づけて平行とするのがよく、3°以下の範囲で平行とするのが好ましい。
【0024】
本発明において、「対物レンズ」とは、眼科用顕微鏡において、被検眼の側に設けられたレンズ又はレンズ群をいう。例えば、対物レンズが3つのレンズ群からなる場合、被検眼の側から3つ目までのレンズが対物レンズとなる。また、対物レンズが4つのレンズ群からなる場合、被検眼の側から4つ目までのレンズが対物レンズとなる。ただし、対物レンズと被検眼の間に一時的に挿入して使用する前置レンズ(ルーペ)は、本発明でいう「対物レンズ」には含まれない。
【0025】
本発明において、「光軸の向きを変更させる光学素子」は、光路の方向を変更することができる光学素子であればよく、これらに限定されるわけではないが、屈折・反射により光路を変更するプリズムを用いることができ、ウェッジプリズムや、光軸の位置と向きを変更することができるロンボイド型のプリズム等を用いることができる。
【0026】
本発明の眼科用顕微鏡においては、左眼用観察光学系と右眼用観察光学系の間の領域にOCT光学系が配置され、観察光学系の対物レンズとは別に、OCT光学系の光軸が透過するOCT用対物レンズを有している。
そして、被検眼と対物レンズの間の光路上に前置レンズが挿入された場合に、観察光学系の光軸とOCT光学系の光軸が前置レンズを透過することから、前置レンズの焦点距離(パワー)に応じて、OCT走査面位置や観察焦点面位置が変化してしまう。
しかしながら、本発明の眼科用顕微鏡においては、被検眼と対物レンズの間の光路上に挿入される前置レンズの焦点距離に応じて、次の1)又は2)の距離が自動的に変化する。
1)対物レンズと前置レンズの間の距離
2)OCT用対物レンズと前置レンズの間の距離
このため、本発明の眼科用顕微鏡では、OCT走査面位置や観察焦点面位置を観察対象に合わせるための手動による面倒な調整を軽減することができる。
【0027】
ここで、対物レンズと前置レンズの間の距離を変化させるためには、眼科用顕微鏡本体に対して、対物レンズと前置レンズの双方又はいずれかを移動させればよく、また、OCT用対物レンズと前置レンズの間の距離を移動させるためには、眼科用顕微鏡本体に対して、OCT用対物レンズと前置レンズの双方又はいずれかを移動させればよい。好ましくは、顕微鏡本体に対して前置レンズを移動させることにより、対物レンズに対する距離とOCT用対物レンズに対する距離の双方を変化させることができる。
【0028】
また、本発明の眼科用顕微鏡においては、被検眼と対物レンズの間の光路上で前置レンズが挿脱されると、OCT光学系の測定光の光路長が変化して、測定光の光路長と参照光の光路長の差が変化してしまい、正しく干渉させることができない。
しかしながら、本発明の眼科用顕微鏡においては、被検眼と対物レンズの間の光路上で前置レンズが挿脱される時に、前置レンズの焦点距離に応じて、OCT光学系の参照光の光路の長さが自動的に変化する。
このため、本発明の眼科用顕微鏡では、OCTによる断層像を正しく得ることができる。
【0029】
ここで、「前置レンズが挿脱される」とは、被検眼と対物レンズの間の光路上に一つの種類の前置レンズが挿入され、離脱することのみならず、光路上の前置レンズが他の種類の前置レンズに置き換わることを含む。
OCT光学系の参照光の光路の長さを変化させるためには、光学素子を用いることができ、例えば、これらに限定されるわけではないが、参照光の光路の折り返し点にあるミラーを移動させることにより光路長を変化させることができ、また、参照光の光路上で光路長補正部材を挿脱して、当該部材と大気との屈折率の違いにより光路長を変化させることもできる。
【0030】
本発明において、「左眼用観察光学系と右眼用観察光学系の間の領域にOCT光学系が配置され」とは、ある一つの方向から見た場合に、左眼用観察光学系と右眼用観察光学系の間にOCT光学系が存在することをいう。
本発明において「自動的に変化する」とは、手動によらず、機械的及び/又は電気的な機構により、前記1)若しくは2)の距離、又はOCT光学系の参照光の光路の長さが変化することをいう。
【0031】
2. 第1の実施形態
以下、本発明の実施形態の例を、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1〜9は、本発明の眼科用顕微鏡の一例である第1の実施形態を模式的に示す図面である。これらの図面のうち、
図1は、第1の実施形態の眼科用顕微鏡の光学系の構成を模式的に示す正面図であり、
図2は、光学系の構成の側面図である。また、
図3は、OCTユニットの光学構成を模式的に示す図面であり、
図4は、対物レンズ周辺での光路の配置を模式的に示す断面図である。
【0032】
図1の正面図に示されるように、眼科用顕微鏡(1)の光学系は、観察者の左眼用の観察光学系(400L)と右眼用の観察光学系(400R)からなる観察光学系と、OCT光学系(500)を有している。
また、
図2の側面図に示されるように、眼科用顕微鏡(1)の光学系は、さらに照明光学系(300)を有している。観察光学系(400)は、照明光学系(300)により照明されている被検眼(8)を、拡大して観察するために用いられる。
図1及び
図2に示されるように、観察光学系(400)と、OCT光学系(500)と、照明光学系(300)は、一点鎖線で示される眼科用顕微鏡本体(6)に収納されている。
【0033】
図1において、左眼用の観察光学系(400L)の光軸を点線(O−400L)で示し、右眼用の観察光学系(400R)の光軸を点線(O−400R)で示す。また、OCT光学系の光軸を点線(O−500)で示す。
【0034】
図1に示されるように、左眼用観察光学系の光軸(O−400L)と、右眼用観察光学系の光軸(O−400R)は、眼科用顕微鏡本体(6)内において、平行となっている。
したがって、第1の実施形態の眼科用顕微鏡(1)は、グリノー式実体顕微鏡のように左右の観察光学系を交差して配置する複雑な機構とする必要がない。
【0035】
図1に示されるように、左右の観察光学系(400L,400R)は、それぞれ、対物レンズ(401)を有している。対物レンズ(401)は、レンズ群からなる対物レンズであり、第1のレンズ(401a)、光軸の向きを変更する光学素子(401b)、及び第2のレンズ(401c)を含んで構成されている。
第1の実施形態においては、光軸の向きを変更する光学素子(401b)として、ウェッジプリズムが用いられ、基底方向は内側(ベースイン)である。ウェッジプリズムにより、左右の観察光学系の光軸(O−400L,O−400R)は、被検眼の側で互いに交差する方向に向きが変更される。
【0036】
第1の実施形態においては、第1のレンズ(401a)は、負のパワーを有する凹レンズである。左右の第1のレンズの光軸は、内側(互いに被検眼の側で交差する方向)に傾斜している。
また、第2のレンズ(401c)は、正のパワーを有する凸レンズである。
【0037】
第1の実施形態の眼科用顕微鏡で使用する対物レンズ(401)は、従来のガリレオ式実体顕微境のような、左右の観察光学系の光軸が共通して透過する一枚の大口径のレンズではなく、左右の観察光学系が独立して有している対物レンズである。したがって、
図1に示されるように、対物レンズ(401)を小口径とすることができ、左右の観察光学系(400L,400R)の間に、OCT光学系(500)を容易に設置することができる。
また、
図1に示されるように、左右の対物レンズ(401)は、左右の観察光学系の光軸(O−400L,O−400R)を、被検眼の側で交差するように向きを変更できるので、被検眼の同一の箇所を左右眼により両眼観察することを可能としている。
【0038】
以下、第1の実施形態の眼科用顕微鏡について、さらに詳細に説明する。
図2に示されるように、照明光学系(300)は、被検眼(8)を照明するものであり、照明光源(9)、光ファイバ(301)、出射口絞り(302)、コンデンサレンズ(303)、照明野絞り(304)、コリメートレンズ(305)、及び反射ミラー(306)を含んで構成されている。これらの照明光学系(300)の光軸を、
図2において点線(O−300)で示す。
【0039】
照明光源(9)は、眼科用顕微鏡本体(6)の外部に設けられている。照明光源(9)には光ファイバ(301)の一端が接続されている。光ファイバの他端は、眼科用顕微鏡本体(6)の内部のコンデンサレンズ(303)に臨む位置に配置されている。照明光源(9)から出力された照明光は、光ファイバ(301)により導光されてコンデンサレンズ(303)に入射する。
光ファイバ(301)の出射口(コンデンサレンズ(303)側のファイバ端)に臨む位置には、出射口絞り(302)が設けられている。出射口絞り(302)は、光ファイバ(301)の出射口の一部領域を遮断するように作用する。出射口絞り(302)による遮断領域が変更されると、照明光の出射領域が変更される。それにより、照明光による照射角度、つまり被検眼(8)に対する照明光の入射方向と対物レンズ(401)の光軸とがなす角度を変更することができる。
【0040】
照明野絞り(304)は、対物レンズ(401)の前側焦点位置(U0)と光学的に共役な位置(×の位置)に設けられている。コリメートレンズ(305)は、照明野絞り(304)を通過した照明光を平行光束にする。反射ミラー(306)は、コリメートレンズ(305)によって平行光束にされた照明光を対物レンズ(401)に向けて反射する。反射された光は、被検眼(8)に照射される。
被検眼(8)に照射された照明光(の一部)は、角膜や網膜等の被検眼の組織で反射・散乱される。その反射・散乱した戻り光(「観察光」とも呼ばれる)は、観察光学系(400)に入射する。
【0041】
図1に示されるように、左右の観察光学系(400L,400R)は、それぞれ、対物レンズ(401)、変倍レンズ(402)、ビームスプリッタ(403)、結像レンズ(404)、像正立プリズム(405)、眼幅調整プリズム(406)、視野絞り(407)、及び接眼レンズ(408)を含んで構成されている。ビームスプリッタ(403)は、右眼用の観察光学系(400R)のみ有している。
変倍レンズ(402)は、複数のズームレンズ(402a,402b,402c)を含んだレンズ群となっている。各ズームレンズ(402a,402b,402c)は、図示しない変倍機構によって左右の観察光学系の光軸(O−400L,O−400R)に沿って移動可能となっている。これにより、被検眼(8)を観察又は撮影する際の拡大倍率が変更される。
【0042】
図1に示されるように、右眼用の観察光学系(400R)のビームスプリッタ(403)は、被検眼(8)から右眼用観察光路に沿って導光された観察光の一部を分離して撮影光学系に導く。撮影光学系は、結像レンズ(1101)、及びテレビカメラ(1102)を含んで構成されている。
テレビカメラ(1102)は、撮像素子(1102a)を備えている。撮像素子(1102a)は、例えば、CCD(Charge Coupled Devices)イメージセンサや、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)イメージセンサ等によって構成される。撮像素子(1102a)としては2次元の受光面を有するもの(エリアセンサ)が用いられる。
眼科用顕微鏡(1)の使用時には、撮像素子(1102a)の受光面は、例えば、被検眼(8)の角膜若しくは網膜の表面と光学的に共役な位置に配置される。
【0043】
像正立プリズム(405)は、倒像を正立像に変換する。眼幅調整プリズム(406)は、観察者の眼幅(左眼と右眼の間の距離)に応じて左右の観察光路の間の距離を調整するための光学素子である。視野絞り(407)は、観察光の断面における周辺領域を遮断して観察者の視野を制限するものである。視野絞り(407)は、対物レンズ(401)の前側焦点位置(U0)と共役な位置(×の位置)に設けられている。
観察光学系(400L,400R)は、観察光学系の光路から挿脱可能に構成されたステレオバリエータを含んで構成されてもよい。ステレオバリエータは、左右の変倍レンズ系(402)によってそれぞれ案内される左右の観察光学系の光軸(O−400L,O−400R)の相対的位置を変更するための光軸位置変更素子である。ステレオバリエータは、例えば、観察光学系の光路に対して観察者側に設けられた退避位置に退避される。
【0044】
図1に示されるように、眼底の網膜等の後眼部を観察するときは、図示しない移動手段により、前置レンズ(14)が被検眼の眼前の光軸O−400L、O−400R、O−500上に挿入される。この場合には、対物レンズ(401)の前側焦点位置(U0)は、眼底の網膜と共役となる。
また、角膜、虹彩等の前眼部を観察するときには、前置レンズを被検眼の眼前から脱離させて観察を行う。
【0045】
図1に示されるように、OCT光学系(500)は、OCTユニット(10)、光ファイバ(501)、コリメートレンズ(502)、照明野絞り(503)、スキャナ(504a,504b)、リレー光学系(505)、第1レンズ群(506)、第2レンズ群(507)、反射ミラー(508)及びOCT用対物レンズ(509)を含んで構成されている。
【0046】
OCTユニット(10)は、コヒーレンスが低い(可干渉距離が短い)OCT光源からの光を測定光と参照光に分割する。測定光はOCT光学系(500)により導かれて被検眼(8)に照射され、被検眼の組織において反射・散乱し、それが戻り光となってOCTユニット(10)に導かれる。OCTユニット(10)では、測定光の戻り光と参照光との干渉を検出する。これにより、被検眼の組織の断層像を得ることができる。
【0047】
図1に示されるように、OCTユニット(10)は、眼科用顕微鏡本体(6)の外部に設けられているが、光ファイバ(501)の一端が接続されており、これにより眼科用顕微鏡本体(6)と連結している。OCTユニット(10)により生成された測定光は、光ファイバ(501)の他端から出射する。出射した測定光は、コリメートレンズ(502)、照明野絞り(503)、スキャナ(504a,504b)、リレー光学系(505)、第1レンズ群(506)、第2レンズ群(507)、反射ミラー(508)、OCT用対物レンズ(509)を経由して被検眼(8)に照射され、被検眼(8)の組織で反射・散乱した測定光の戻り光は、同じ経路を逆向きに進行して光ファイバ(501)の他端に入射する。
【0048】
図1に示されるように、コリメートレンズ(502)は、光ファイバ(501)の他端から出射した測定光を平行光束にする。コリメートレンズ(502)と光ファイバ(501)の他端とは測定光の光軸に沿って相対的に移動可能に構成されている。第1の実施形態では、コリメートレンズ(502)が移動可能に構成されているが、光ファイバ(501)の他端が測定光の光軸に沿って移動可能に構成されていてもよい。
照明野絞り(503)は、対物レンズ(401)の前側焦点位置(U0)と共役である。
【0049】
OCT光学系におけるスキャナ(504a,504b)は、コリメートレンズ(502)により平行光束とされた測定光の向きを2次元的に変更する。スキャナ(504a,504b)には、互いに交差する2軸のそれぞれの軸を中心に回動可能に構成された反射部材が用いられる。反射部材の例として、ガルバノミラー、ポリゴンミラー、回転ミラー、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)ミラー等がある。第1の実施形態では、スキャナ(504a,504b)は、ガルバノミラーを含んで構成されている。すなわち、スキャナは、第1軸を中心に回動可能な反射面を有する第1スキャナ(504a)と、第1軸に直交する第2軸を中心に回動可能な反射面を有する第2スキャナ(504b)を含む。第1スキャナ(504a)と第2スキャナ(504b)との間には、リレー光学系(505)が設けられている。
第1レンズ群(506)は、1以上のレンズを含んで構成され、第2レンズ群(507)も、1以上のレンズを含んで構成されている。
OCT用対物レンズ(509)は、ガルバノミラー等の部材と光学的に共役な関係にしても良く、その場合、OCT用対物レンズ(509)の口径を小さくすることができる。
OCT光学系におけるスキャナには、観察用の可視光も追加することができる。
【0050】
図3は、第1の実施形態の眼科用顕微鏡で用いられるOCTユニット(10)の光学構成を模式的に示す図面である。
図3に示されるように、OCTユニット(10)は、OCT光源ユニット(1001)から出射された光を測定光(LS)と参照光(LR)に分割し、別の光路を経た測定光(LS)と参照光(LR)の干渉を検出する干渉計を構成している。
OCT光源ユニット(1001)は、一般的なスウェプトソースタイプのOCT装置と同様に、出射光の波長を走査(掃引)可能な波長走査型(波長掃引型)光源を含んで構成される。OCT光源ユニット(1001)は、人の眼では視認できない近赤外の波長において、出力波長を時間的に変化させる。OCT光源ユニット(1001)から出力された光を符号L0で示す。
【0051】
OCT光源ユニット(1001)から出力された光L0は、光ファイバ(1002)により偏波コントローラ(1003)に導かれてその偏光状態が調整される。偏波コントローラ(1003)は、たとえばループ状にされた光ファイバ(1002)に対して外部から応力を与えることで、光ファイバ(1002)内を導かれる光L0の偏光状態を調整する。
偏波コントローラ(1003)により偏光状態が調整された光L0は、光ファイバ(1004)によりファイバカプラ(1005)に導かれて測定光(LS)と参照光(LR)とに分割される。
【0052】
図3に示されるように、参照光(LR)は、光ファイバ(1006)によりコリメータ(1007)に導かれて平行光束となる。平行光束となった参照光LRは、光路長補正部材(1008)及び分散補償部材(1009)を経由し、コーナーキューブ(1010)に導かれる。光路長補正部材(1008)は、参照光(LR)と測定光(LS)の光路長(光学距離)を合わせるための遅延手段として作用する。分散補償部材(1009)は、参照光(LR)と測定光(LS)の分散特性を合わせるための分散補償手段として作用する。
コーナーキューブ(1010)は、コリメータ(1007)により平行光束となった参照光(LR)の進行方向を逆方向に折り返す。コーナーキューブ(1010)に入射する参照光(LR)の光路と、コーナーキューブ(1010)から出射する参照光(LR)の光路とは平行である。また、コーナーキューブ(1010)は、参照光(LR)の入射光路及び出射光路に沿う方向に移動可能とされている。この移動により参照光(LR)の光路(参照光路)の長さが変更される。
【0053】
図3に示されるように、コーナーキューブ(1010)を経由した参照光(LR)は、分散補償部材(1009)及び光路長補正部材(1008)を経由し、コリメータ(1011)によって平行光束から集束光束に変換されて光ファイバ(1012)に入射し、偏波コントローラ(1013)に導かれて参照光(LR)の偏光状態が調整される。
偏波コントローラ(1013)は、例えば、偏波コントローラ(1003)と同様の構成を有する。偏波コントローラ(1013)により偏光状態が調整された参照光LRは、光ファイバ(1014)によりアッテネータ(1015)に導かれて、制御ユニット(12)の制御の下で光量が調整される。アッテネータ(1015)により光量が調整された参照光(LR)は、光ファイバ(1016)によりファイバカプラ(1017)に導かれる。
【0054】
図3に示されるように、ファイバカプラ(1005)により生成された測定光(LS)は、光ファイバ(501)に導かれるが、光ファイバ(501)から出射した測定光は、
図1に示されるように、コリメートレンズ(502)に導かれる。そして、
図1に示されるように、コリメートレンズ(502)に入射した測定光は、照明野絞り(503)、スキャナ(504a,504b)、リレー光学系(505)、第1レンズ群(506)、第2レンズ群(507)、反射ミラー(508)、及びOCT用対物レンズ(509)を経由して、被検眼(8)に照射される。測定光は、被検眼(8)の様々な深さ位置において反射・散乱される。被検眼(8)による測定光の後方散乱光は、往路と同じ経路を逆向きに進行して、
図3に示されるように、ファイバカプラ(1005)に導かれ、光ファイバ(1018)を経由してファイバカプラ(1017)に到達する。
【0055】
ファイバカプラ(1017)は、光ファイバ(1018)を介して入射された測定光(LS)と、光ファイバ(1016)を介して入射された参照光(LR)とを合成して(干渉させて)干渉光を生成する。ファイバカプラ(1017)は、所定の分岐比(例えば50:50)で、測定光(LS)と参照光(LR)との干渉光を分岐することにより、一対の干渉光(LC)を生成する。ファイバカプラ(1017)から出射した一対の干渉光(LC)は、それぞれ2つの光ファイバ(1019,1020)により検出器(1021)に導かれる。
【0056】
検出器(1021)は、例えば一対の干渉光(LC)をそれぞれ検出する一対のフォトディテクタを有し、これらにより検出結果の差分を出力するバランスドフォトダイオード(Balanced Photo Diode:以下、「BPD」という)である。検出器(1021)は、その検出結果(検出信号)を制御ユニット(12)に送る。制御ユニット(12)は、例えば、一連の波長走査毎に(Aライン毎に)、検出器(1021)により得られた検出結果に基づくスペクトル分布にフーリエ変換等を施すことで断面像を形成する。制御ユニット(12)は、形成された画像を表示部(13)に表示させる。
【0057】
この実施形態では、マイケルソン型の干渉計を採用しているが、例えば、マッハツェンダー型等の任意のタイプの干渉計を適宜に採用することが可能である。
【0058】
図4は、第1の実施形態の眼科用顕微鏡における、対物レンズ周辺での光路の配置を模式的に示す断面図である。
図4に示されるように、眼科用顕微鏡本体(6)の鏡筒内に、左眼用観察光学系の光路(P−400L)、右眼用観察光学系の光路(P−400R)、照明光学系の光路(P−300)、及びOCT光学系の光路(P−500)が配置されている。
本発明の眼科用顕微鏡においては、大口径の対物レンズを使用しないため、それぞれの光学系の光路を独立させて、独立に制御することも可能となる。
【0059】
図5は、第1の実施形態の眼科用顕微鏡における、対物レンズの光学構成を模式的に示す正面図である。
図5(A)は、第1の実施形態の眼科用顕微鏡で使用される対物レンズの構成を示し、
図5(B)は、対物レンズを構成する各レンズの光軸の向きを示す。
【0060】
図5(A)に示されるように、第1の実施形態の眼科用顕微鏡で使用される対物レンズ(401)は、第1のレンズ(401a)、光軸の向きを変更する光学素子(401b)、及び第2のレンズ(401c)を含んで構成されている。そして、第1のレンズ(401a)は、負のパワーを有する凹レンズであり、光軸の向きを変更する光学素子(401b)は、ウェッジプリズムであり、第2のレンズ(401c)は、正のパワーを有する凸レンズである。
図5(B)に示されるように、第1のレンズの光軸(A−401a)は、内側(互いに被検眼の側で交差する方向)に傾斜している。
【0061】
図1を用いて説明したように、眼底の網膜等の後眼部を観察するときには、被検眼と対物レンズの間の光路上に前置レンズを挿入し、角膜、虹彩等の前眼部を観察するときには、前置レンズを光路上から脱離させる。
図6は、本発明の第1の実施形態の眼科用顕微鏡において、前置レンズを被検眼と対物レンズの間の光路上に挿入した場合を示す模式図である。本発明の眼科用顕微鏡においては、少なくとも3つの光学素子からなるレンズ群を対物レンズとして用いるが、
図6においてはこれを一つのレンズとして模式的に示す。
図6に示されるように、対物レンズ(401)の焦点距離はF1であり、対物レンズからF1の距離にある位置が対物レンズの前側焦点位置(u0)となる。照明光学系からの光束は、対物レンズ(401)と前置レンズ(14)を透過して、被検眼(8)の内部を照明する。被検眼内の網膜(8a)で反射された反射光は、前置レンズ(14)の後側焦点位置で像を形成する。前置レンズ(14)の後側焦点位置を、対物レンズ(401)の前側焦点位置であるu0に一致させることにより、観察光学系の焦点(観察焦点面)が網膜(8a)に合わされて、ピントの合った状態で網膜を観察することができる。
【0062】
ここで、前置レンズ(14)としてパワー(屈折力)がDであるレンズを光路上に挿入した場合を
図6(A)に示し、Dよりも大きなD´のパワー(屈折力)を有する前置レンズ(14´)を光路上に挿入した場合を
図6(B)に示す。前置レンズ(14,14´)の焦点距離は、レンズのパワー(屈折力)の逆数から求めることができるから、
図6(A)における前置レンズの焦点距離(F2)よりも、
図6(B)における前置レンズの焦点距離(F2´)の方が短くなる。
図6(A)と
図6(B)を比較すれば明らかなように、対物レンズ(401)と前置レンズ(14,14´)の間の距離(H1,H1´)は、焦点距離の長い(パワーの小さい)前置レンズ(14)を用いた
図6(A)の場合の方が、
図6(B)の場合よりも長くする必要がある。また、対物レンズ(401)と被検眼(8)の間の距離(H2,H2´)も、焦点距離の長い(パワーの小さい)前置レンズ(14)を用いた
図6(A)の場合の方が、
図6(B)の場合よりも長くする必要がある。
【0063】
以上のような
図6(A)と
図6(B)の比較からも明らかなように、観察光学系の焦点(観察焦点面)を網膜に合わせるためには、前置レンズの焦点距離(パワー)に応じて、対物レンズと被検眼の間の距離を変更し、また、対物レンズと前置レンズの間の距離を変更する必要がある。
【0064】
これは、観察光学系の焦点のみならず、OCT光学系の焦点についても同じことがいえる。すなわち、
図6における対物レンズ(401)をOCT用対物レンズ(509)に置き換えると、前置レンズ(14)の後側焦点位置を、OCT用対物レンズ(509)の前側焦点位置であるu0に一致させることにより、OCT光学系の焦点(OCT走査面)が網膜(8a)に合わされて、焦点の合った状態で網膜をスキャンし断層像を得ることができる。
ここで、
図6(A)及び
図6(B)の比較から明らかなように、OCT用対物レンズ(509)と前置レンズ(14)の間の距離(H1,H1´)は、焦点距離の長い(パワーの小さい)前置レンズ(14)を用いた
図6(A)の場合の方が、
図6(B)の場合よりも長くする必要がある。また、OCT用対物レンズ(509)と被検眼(8)の間の距離(H2,H2´)も、焦点距離の長い(パワーの小さい)前置レンズ(14)を用いた
図6(A)の場合の方が、
図6(B)の場合よりも長くする必要がある。
したがって、OCT光学系の焦点(OCT走査面)を網膜に合わせるためには、前置レンズの焦点距離(パワー)に応じて、OCT用対物レンズと被検眼の間の距離を変更し、また、OCT用対物レンズと前置レンズの間の距離を変更する必要がある。
【0065】
対物レンズと被検眼との間の距離を変更するには、眼科用顕微鏡を位置決め装置により保持し、上下に移動させることで変更することが可能である。
図7は、本発明の第1の実施形態の眼科用顕微鏡と、それを保持する位置決め装置を示す模式図である。
図7に示されるように、位置決め装置は、支柱(15)、アーム(16)、X−Y微動装置(17)等を含み、これらにより眼科用顕微鏡を保持している。位置決め装置に保持された眼科用顕微鏡の3次元位置は、手動により又は位置決め装置に内在するアクチュエータにより移動させることができ、また、移動しないように位置決め装置に内在する電磁ロック等で固定することができる。これらのアクチュエータや電磁ロックは眼科用顕微鏡の制御ユニットによって制御されている。
眼科用顕微鏡は、被検眼(8)を手術する眼科の執刀医が使用する術者用顕微鏡(18)と、その手術助手が使用する助手用顕微鏡(19)を有しており、両者が被検眼を観察しながら手術できるようになっている。眼科用顕微鏡の3次元位置は、フットスイッチ(21)でも操作できるようになっており、執刀医は、手術器具を両手に持ちながら、眼科用顕微鏡の位置を足による操作で調整することが可能である。眼科用顕微鏡の鏡筒(22)の内部の下端には、図示しない対物レンズが設けられている。また、対物レンズと被検眼(8)の間には、保持アーム(23)により前置レンズ(14)を挿入することができる。
【0066】
対物レンズと被検眼(8)との間の距離は、位置決め装置によって眼科用顕微鏡を上下に移動させることにより、変更することができる。
また、
図7において眼科用顕微鏡の鏡筒(22)内にある図示しないOCT用対物レンズについても、位置決め装置により眼科用顕微鏡を上下に移動させることにより、被検眼(8)との間の距離を変更することができる。
【0067】
例えば、
図6(B)に示されるパワーがD´である前置レンズ(14´)を光路上に挿入した状態から、前置レンズを挿脱して、
図6(A)に示されるパワーがDである前置レンズ(14)に置き換えた場合には、眼科用顕微鏡を上方向に移動させて、対物レンズ(401)と被検眼(8)との間の距離を、H2´からH2に変化させればよい。
この場合、眼科用顕微鏡の上方向への移動にあわせて、前置レンズ(14)も同じ距離だけ上方向に移動するため、対物レンズ(401)と前置レンズ(14)との間の距離は、H1´のままである。そこで、対物レンズ(401)に対して前置レンズ(14)を下方向に移動させて、対物レンズ(401)と前置レンズ(14)との間の距離をH1とする必要がある。
【0068】
図7に示されるように、対物レンズと前置レンズ(14)との間の距離は、前置レンズ位置調整機構(20)により変更することができる。
前置レンズ位置調整機構について、以下、
図8を用いて説明する。
【0069】
図8は、本発明の第1の実施形態の眼科用顕微鏡における前置レンズ位置調整機構の周辺部分を示す模式図である。眼科用顕微鏡の鏡筒(22)の内部の下端には、図示しない対物レンズが設けられている。そして、対物レンズと被検眼の間の光路には、保持アーム(23)により前置レンズ(14)を挿入することができる。前置レンズ(14)は、保持アーム(23)の先端に設けられた保持板(24)に着脱可能であり、パワーの異なる様々な種類の前置レンズ(14)を取り替えて使用することができる。前置レンズ(14)にはタグが付けられており、タグ検出器(25)でその情報が読み取られて制御ユニットに伝えられると、制御ユニットは、前置レンズ(14)の種類を判別することができる。
制御ユニットは、前置レンズ(14)の種類を判別するとともに、前置レンズの種類に応じた焦点距離に関する情報を記憶した記憶媒体の情報を参照して、光路に挿入される前置レンズ(14)の焦点距離に関する情報を取得する。制御ユニットは、取得した情報に基づいて、観察対象に焦点を合わせるための対物レンズと前置レンズ(14)の間の距離を算出し、前置レンズ位置調整機構(20)を制御して、前置レンズ(14)の位置を調整する。
【0070】
図8に示されるように、前置レンズ位置調整機構(20)は、支持ブラケット(2001)を有しており、支持ブラケット(2001)に設けられたねじ穴を貫通して、上下方向に延びる回動ネジ(2002)が嵌められている。回動ネジ(2002)には、可動板(2003)が結合しており、可動板(2003)と保持アーム(23)とは、連結アーム(2004)により連結されている。
回動ネジ(2002)は、微動調整ノブ(2005)をつまんで手動で回転させることができ、これにより、可動板(2003)を上下に移動させることができる。そして、可動板(2003)の上下の動きと連動して、連結アーム(2004)と保持アーム(23)を介して可動板(2003)と連結した前置レンズ(14)を上下に移動させることが可能となる。
【0071】
回動ネジ(2002)は、制御ユニットによって回転を制御されるモータ(2006)によっても回転させることができ、これにより、前置レンズ(14)を自動制御で上下に移動させることが可能である。
制御ユニットは、前置レンズ(14)の種類を判別して、前置レンズ(14)の焦点距離(パワー)に基づいて、観察対象に焦点を合わせるための対物レンズと前置レンズ(14)の間の距離を算出する。そして、制御ユニットは、対物レンズと前置レンズ(14)の間の距離が算出した距離となるように、前置レンズ位置調整機構(20)を制御して前置レンズ(14)の位置を自動的に調整することができる。
【0072】
例えば、
図6(B)に示されるパワーがD´である前置レンズ(14´)を
図6(A)に示されるパワーがDである前置レンズ(14)に交換した場合には、制御ユニットが、前置レンズ(14)の種類を判別して、前置レンズ位置調整機構を制御して、対物レンズ(401)と前置レンズ(14)の間の距離がH1となるように自動的に変更する。
その後、
図7に示される位置決め装置を用いて、執刀医又は手術助手は、手動により又はフットスイッチ(21)等を操作することにより、眼科用顕微鏡の位置を上方向に移動させる。このとき、執刀医又は手術助手は、顕微鏡観察をしながら眼底にピントが合うまで、眼科用顕微鏡の位置を上方向に移動させる。そして、ピントが合った位置で、対物レンズと被検眼(8)との間の距離は
図6(A)に示すH2となる。
このように、対物レンズと前置レンズの間の距離を自動的に変更した後に、顕微鏡観察でピントが合うまで眼科用顕微鏡を上方方向に移動させることもできるが、自動制御でピントを合わせることもできる。例えば、眼科用顕微鏡の制御ユニットが、前置レンズ(14)の焦点距離(パワー)に応じて、観察対象にピントを合わせるための
図6(A)に示す対物レンズ(401)と被検眼(8)の間の距離(H2)を算出し、
図7に示す位置決め装置のアクチュエータを制御して、自動で眼科用顕微鏡を上方向へ移動させることもできる。
【0073】
図8において、眼科用顕微鏡の鏡筒(22)の内部にある図示しないOCT用対物レンズと、前置レンズ(14)との間の距離についても、前置レンズ位置調整機構(20)により自動的に調整することができる。
すなわち、制御ユニットは、前置レンズ(14)の種類を判別して、前置レンズ(14)の焦点距離(パワー)に基づいて、観察対象にOCT光学系の焦点(OCT走査面)を合わせるための、OCT用対物レンズと前置レンズ(14)の間の距離を算出する。そして、制御ユニットは、OCT用対物レンズと前置レンズ(14)の間の距離が算出した距離となるように、前置レンズ位置調整機構(20)を制御して前置レンズ(14)の位置を自動的に調整することができる。
【0074】
図8に示されるように、保持アーム(23)と前置レンズ位置調整機構(20)は、鏡筒(22)と連結した固定ブラケット(26)により保持されている。そして、保持アーム(23)と前置レンズ位置調整機構(20)は、固定ブラケット(26)の軸中心に対して回転運動できるようになっており、これにより、対物レンズと被検眼との間の光路上に前置レンズ(14)を挿脱できるようになっている。
前置レンズ(14)を光路上に挿入すると、被検眼の像が反転して逆像となるため、これを正像に戻すためのレンズユニットがインバータ部(27)に設けられている。このインバータ部(27)に設けられるレンズユニットの光学系には、例えば、特公平7−48091号公報に開示のものを用いることができる。レンズユニットは、前置レンズの挿脱に連動して手動により切り替えレバー(28)で鏡筒内の光路上に挿脱することができ、また、前置レンズの挿脱と連動してアクチュエータを作動させることにより自動的に鏡筒内の光路上に挿脱することもできる。
【0075】
図9は、対物レンズと被検眼の間の光路上に前置レンズを挿入した場合と、前置レンズを脱離させた場合の光路長の違いを比較する模式図である。
図9(A)は、対物レンズと被検眼の間に前置レンズを挿入させずに、角膜や虹彩等の前眼部を観察する場合を示し、
図9(B)は、対物レンズと被検眼の間に前置レンズを挿入して、眼底の網膜等の後眼部を観察する場合を示す。
図9(A)と
図9(B)の比較から明らかなように、対物レンズと被検眼との間の光路上に前置レンズを挿入して後眼部を観察する
図9(B)の場合には、前置レンズを挿入せずに前眼部を観察する
図9(A)の場合と比較して、OCT光学系の測定光の光路長が長くなる。その差は、片側方向の光路長で、F2(前置レンズの焦点距離)×2+眼軸長(角膜頂点から眼底までの距離)となる。
【0076】
前記のとおり、OCTにおいては、測定光と参照光を干渉させるにあたり、測定光と参照光を同じ距離だけ経由させる必要があるため、測定光の光路長と参照光の光路長は一致させる必要がある。したがって、前置レンズを光路上に挿入することにより、測定光の光路長が長くなると、それに応じて参照光の光路長を長くする必要がある。
第1の実施形態の眼科用顕微鏡においては、光路上への前置レンズの挿脱と連動して、
図3に示されるOCTユニット内のコーナーキューブ(1010)を移動させることで、参照光の光路の長さを一定の値だけ自動的に長くすることができる。
前記とおり、前置レンズを光路に挿入しない
図9(A)の場合と比較して、前置レンズを光路に挿入する
図9(B)の場合には、測定光の光路長が、片側方向の光路長で「F2×2+眼軸長」だけ長くなる。したがって、前置レンズの挿入と連動して、
図3に示されるコーナーキューブ(1010)の基準位置を「F2×2+眼軸長」だけ自動的に移動させることにより、参照光の光路の長さを、片側方向の光路長で「F2×2+眼軸長」だけ長くすることができる。ここで、「眼軸長」はヒトの平均的な眼軸長を用いるが、眼軸長には個人差があるため、第1の実施形態の眼科用顕微鏡では、参照光の光路長の微調整を可能としている。
【0077】
3. 制御機構
本発明の眼科用顕微鏡においては、a)被検眼と対物レンズの間の光路上に挿入される前置レンズの焦点距離に関する情報を取得するレンズ判別機構と、b)対物レンズと前置レンズの間の距離及び/又はOCT用対物レンズと前置レンズの間の距離を調整する位置調整機構と、c)レンズ判別機構により取得される前置レンズの焦点距離に関する情報に基づき位置調整機構を制御する制御機構とを有することが好ましい。
【0078】
ここで、「焦点距離に関する情報」とは、前置レンズの焦点距離の値そのもののみならず、前置レンズの焦点距離に対応する情報であればいかなるものであってもよく、例えば、これらに限定されるわけではないが、焦点距離の逆数である前置レンズのパワー(屈折力)に関する値や、前置レンズのID情報であってもよい。
また、前記a)のレンズ判別機構については、光路に挿入される前置レンズの焦点距離に関する情報を取得して、制御機構に伝えることができる機構であればどのようなものであってもよい。例えば、これらに限定されるわけではないが、前置レンズに焦点距離の値を含むタグを付して、タグ読み取り機により前置レンズの焦点距離の値を取得して、制御機構に伝えるものであってもよい。また、前置レンズにIDタグを付して、タグ読み取り機により前置レンズのID情報が取得できる態様であってもよい。この場合には、制御機構は、前置レンズのID情報を取得するとともに、記憶媒体の情報にアクセスして、前置レンズのIDに応じた焦点距離の値を取得し、これにより光路に挿入される前置レンズの焦点距離の値を得ることができる。
ここで使用されるタグとしては、これらに限定されるわけではないが、例えば、RFIDタグやICタグのような無線タグ、磁気により情報を記録したタグ、バーコードにより情報を記録したタグ等を用いることができる。
【0079】
前記b)の位置調整機構としては、対物レンズと前置レンズの間の距離及び/又はOCT用対物レンズと前置レンズの間の距離を調整することができるものであれば、どのようなものであってもよい。例えば、これらに限定されるわけではないが、眼科用顕微鏡本体に対して、対物レンズとOCT用対物レンズと前置レンズの全てをアクチュエータの動力により移動させることができる機械的な機構とすることができる。また、眼科用顕微鏡本体に対して前置レンズのみをアクチュエータの動力により移動させることにより、対物レンズに対する距離とOCT用対物レンズに対する距離の双方を同時に変化させる機械的な機構であってもよい。
【0080】
前記c)の制御機構としては、レンズ判別機構により取得される前置レンズの焦点距離に関する情報に基づき位置調整機構を制御するものであれば、どのようなものであってもよい。例えば、これらに限定されるわけではないが、
図6(A)に示される対物レンズ(401)の焦点距離の値(F1)と、前置レンズ(14)の焦点距離の値(F2)を加算してH1を算出し、対物レンズ(401)と前置レンズ(14)の間の距離がH1となるように、
図8に示される前置レンズ位置制御機構(20)のモータ(2006)を制御する電子回路とすることができる。
【0081】
4. 第2及び第3の実施形態
次に、本発明の他の実施形態の例を、図面を参照しながら説明する。
図10は、本発明の眼科用顕微鏡の他の一例である第2の実施形態の眼科用顕微鏡及び第3の実施形態の眼科用顕微鏡における、対物レンズ周辺での光路の配置を模式的に示す断面図である。
図10(A)は、第2の実施形態の眼科用顕微鏡の対物レンズ周辺での光路の配置を示し、
図10(B)は、第3の実施形態の眼科用顕微鏡の対物レンズ周辺の光路の配置を示す。
【0082】
図10(A)に示されるように、第2の実施形態の眼科用顕微鏡では、眼科用顕微鏡本体(6)の鏡筒内に、左眼用観察光学系の光路(P−400L)と、右眼用観察光学系の光路(P−400R)と、照明光学系の光路(P−300)、OCT光学系の光路(P−500)に加えて、副観察光学系の左眼用の光路(P−400SL)と右眼用の光路(P−400SR)が配置されている。
副観察光学系は、主となる観察者(術者)以外の助手となる観察者が被検眼を観察するために用いられる。
本発明の眼科用顕微鏡においては、大口径の対物レンズを使用しないため、このように多くの光学系の光路を独立させて配置することも可能である。
【0083】
図10(B)に示されるように、第3の実施形態の眼科用顕微鏡では、眼科用顕微鏡本体(6)の鏡筒の中心付近に、左眼用観察光学系の光路(P−400L)と、右眼用観察光学系の光路(P−400R)と、照明光学系の光路(P−300)と、OCT光学系の光路(P−500)を集中するように配置している。これにより、観察光学系の光路とOCT光学系の光路を重ならせることなく、それぞれの光路のなす角度を小さくすることができるため、顕微鏡による形状観察とOCTによる断層観察を同時にできる範囲を広げることができる。
【0084】
5. 対物レンズの構成
本発明の眼科用顕微鏡で使用する対物レンズは、少なくとも、第1のレンズ、光軸の向きを変更する光学素子、及び第2のレンズを含んで構成されるレンズ群からなる対物レンズである。
ここで、第1のレンズと、光軸の向きを変更する光学素子と、第2のレンズは、どのような順序により並んでいてもよい。
また、これらのレンズにさらに他レンズや光学素子を加えて、対物レンズとして用いるレンズ群とすることもできる。
【0085】
また、第1のレンズと、第2のレンズは、いかなるレンズを用いることもでき、焦点を合わせて被検眼を拡大することができるように、適宜設計することができる。好ましくは、第1のレンズと第2のレンズのいずれか一方を、正のパワーを有する凸レンズとし、もう一方を負のパワーを有する凹レンズとするのがよい。
【0086】
光軸の向きを変更させる光学素子としては、光路の方向を変更することができる光学素子であればいかなるものでも使用することができ、これらに限定されるわけではないが、例えば、屈折・反射により光路を変更するプリズムを用いることができる。このようなプリズムとしては、例えば、ウェッジプリズムや、光軸の位置を向きと変更することができるロンボイド型のプリズム等を用いることができる。
【0087】
被検眼の側から、第1のレンズと、光軸の向きを変更する光学素子と、第2のレンズとを、この順に並べた場合には、光軸の向きを変更する光学素子によって、左右の観察光学系の光軸の向きが被検眼の側で交差するように変更される。このため、左眼用観察光学系の第1のレンズの光軸と、右眼用観察光学系の第1のレンズの光軸が、互いに被検眼の側で交差する方向に傾斜していることが好ましい。ここで、「レンズの光軸」とは、「光学系の光軸」とは異なり、レンズ単体の光軸を意味する。
【0088】
また、被検眼の側から、第1のレンズと、光軸の向きを変更する光学素子と、第2のレンズとを、この順に並べた場合には、左眼用観察光学系の第2のレンズの光軸と、右眼用観察光学系の第2のレンズの光軸が、互いに被検眼の側で離れる方向に傾斜していることが好ましい。
このような構成とすることにより、
図14に示したような、周辺のピント差が左右眼の像で逆になるという問題を大きく改善することができる。
【0089】
6. 第4の実施形態
図11は、本発明の眼科用顕微鏡の他の一例である第4の実施形態の眼科用顕微鏡における、対物レンズの光学構成を模式的に示す正面図である。
図11(A)は、第4の実施形態の眼科用顕微鏡で使用される対物レンズの構成を示し、
図11(B)は、対物レンズを構成する各レンズの光軸の向きを示す。
【0090】
図11(A)に示されるように、第4の実施形態の眼科用顕微鏡で使用される対物レンズ(401)は、第1のレンズ(401a)、光軸の向きを変更する光学素子(401b)、及び第2のレンズ(401c)を含んで構成されている。そして、第1のレンズ(401a)は、負のパワーを有する凹レンズであり、光軸の向きを変更する光学素子(401b)は、ウェッジプリズムであり、第2のレンズ(401c)は、正のパワーを有する凸レンズである。
【0091】
図11(B)に示されるように、第2のレンズの光軸(A−401c)は、互いに被検眼の側で離れる方向に傾斜している。
このような構成とすることにより、
図14に示したような、周辺のピント差が左右眼の像で逆になるという問題を大きく改善することができる。
【0092】
7. 第5の実施形態
図12は、本発明の眼科用顕微鏡の他の一例である第5の実施形態の眼科用顕微鏡における、対物レンズの光学構成を模式的に示す正面図である。
図12(A)は、第5の実施形態の眼科用顕微鏡で使用される対物レンズの構成を示し、
図12(B)は、対物レンズを構成する各レンズの光軸の向きを示す。
【0093】
図12(A)及び(B)に示されるように、第5の実施形態の眼科用顕微鏡で使用される対物レンズ(401)は、被検眼の側から、ウェッジプリズム(401b)、負のパワーを有する凹レンズ(401a)、及び正のパワーを有する凸レンズ(401c)がこの順に並んでいる。
【0094】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は、上記した実施形態に限定されるものでなく、要旨を逸脱しない条件の変更等は、全て本発明の適用範囲である。