(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前方から操作可能な押釦および該押釦が操作されたことを検知可能な検知手段が内蔵された本体ケースを有する発信機の一部が嵌合可能な嵌合凹部を備えたパネル部材と、該パネル部材の背面に接合される板状の取付け用プレートと、を有し、前記押釦が操作されたことに応じて信号を発信する前記発信機を所定の取付け面に取り付けるための取付け器具であって、
前記パネル部材には、前記嵌合凹部に前記本体ケースが挿通可能な開口部と固定用のネジが挿通可能なネジ挿通穴とが形成され、背面に位置合わせ用の突起が形成され、
前記取付け用プレートには、前記本体ケースが挿通可能な開口が中央に形成され、前記位置合わせ用の突起に対応する位置に当該突起と対応する形状の切欠きが設けられ、前記ネジ挿通穴に対応する位置にネジ穴が、また該ネジ穴の外側に取付け用のネジが挿通可能なネジ挿通穴が形成され、
前記発信機の前記本体ケースが直方体状であり、前記開口は、各辺が前記本体ケースを垂直面で切断した際に生じる長方形の辺のうち長い辺の長さよりも長い矩形状をなすように形成され、
前記取付け用プレートの前記切欠きおよび前記ネジ挿通穴の形成位置から前記開口を中心として90度回転した位置に、前記切欠きおよび前記ネジ挿通穴と同様な切欠きおよびネジ挿通穴が、また前記取付け用プレートの前記ネジ穴の形成位置から前記開口を中心として90度回転した位置に、第2のネジ挿通穴がそれぞれ形成されていることを特徴とする発信機の取付け器具。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献2に記載されている発信機用アダプタは、発信機が挿入される開口部を有し、該開口部に発信機が挿入されて一体にされる本体部と、該本体部を取付け面に取り付けるための取付部(円形板)とを有するようにしたもので、取付部には、当該取付部を取付け面に固定するためのネジが挿入されるネジ挿通穴と、発信機を本体部と一体にするためのネジが螺合されるネジ穴とが設けられている。
【0007】
しかしながら、特許文献に記載されている発信機用アダプタにあっては、本体部と取付部(円形板)に形成されている発信機挿入用の開口部を利用して本体部と取付部とを位置合わせするようになっている。そのため、固定用のネジをネジ穴に螺合させ易くするにはアダプタの本体部の外形寸法および取付部の挿入用開口部の寸法精度を高める必要がある一方、本体部の外形寸法および開口部の寸法精度を高くすると開口部に本体部を挿入させにくくなるとともに、無理に挿入しようとすると、本体部が損傷してしまうおそれがあるという課題がある。
【0008】
また、特許文献2に記載されている発信機用アダプタにおいては、種々のタイプの取付け面(消火栓箱の扉を含む)に設けられているネジ穴を利用して発信機を取り付けることができるようにするため、取付部(円形板)の複数個所に複数のネジ挿通穴(だるま穴)を形成しておいて、いずれかのネジ挿通穴を選択的に使用して発信機を取り付けられるように構成されている。
【0009】
本発明は上記のような課題に着目してなされたもので、その目的とするところは、発信機の本体部の外面に損傷が発生するおそれを防止しつつ本体部と取付け用プレートとの位置合わせを行い、固定用のネジをネジ穴に螺合させ易くすることができる発信機の取付け器具を提供することにある。
本発明の他の目的は、取付け面のネジ穴を利用して発信機を固定することができる上、取付け用プレートのネジ穴部にバーリング加工を施したとしても、取付け面のネジ穴を利用して発信機を固定する際に取付け用プレートと取付け面との間に隙間が生じてしまうことがない発信機の取付け方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明は、
前方から操作可能な押釦および該押釦が操作されたことを検知可能な検知手段が内蔵された本体ケースを有する発信機の一部が嵌合可能な嵌合凹部を備えたパネル部材と、該パネル部材の背面に接合される板状の取付け用プレートと、を有し、前記押釦が操作されたことに応じて信号を発信する発信機を所定の取付け面に取り付けるための取付け器具において、
前記パネル部材には、前記嵌合凹部に前記本体ケースが挿通可能な開口
部と固定用のネジが挿通可能なネジ挿通穴とが形成され、背面に位置合わせ用の突起が形成され、
前記取付け用プレートには、
前記本体ケースが挿通可能な開口が中央に形成され、前記位置合わせ用の突起に対応する位置に当該突起と対応する形状の切欠きが設けられ、前記ネジ挿通穴に対応する位置にネジ穴が、また該ネジ穴の外側に取付け用のネジが挿通可能なネジ挿通穴が形成され
、
前記発信機の前記本体ケースが直方体状であり、前記開口は、各辺が前記本体ケースを垂直面で切断した際に生じる長方形の辺のうち長い辺の長さよりも長い矩形状をなすように形成され、
前記取付け用プレートの前記切欠きおよび前記ネジ挿通穴の形成位置から前記開口を中心として90度回転した位置に、前記切欠きおよび前記ネジ挿通穴と同様な切欠きおよびネジ挿通穴が、また前記取付け用プレートの前記ネジ穴の形成位置から前記開口を中心として90度回転した位置に、第2のネジ挿通穴がそれぞれ形成されているようにしたものである。
【0011】
上記構成によれば、発信機の本体部と取付け用プレートの位置合わせを、発信機の本体部と取付け用プレートに設けられている開口との係合で行うのではなく、パネル部材に設けた突起と取付け用プレートに設けた切欠きとの係合で行うので、発信機の本体部の外面に損傷が発生するおそれを防止しつつ本体部と取付け用プレートとの位置合わせを行うことができる。また、係合爪を設けるのではなく、突起と切欠きとの単なる係合で位置合わせを行うので、発信機の取付け時にパネル部材が締付け方向に歪むのを回避することができる。
また、取付け用プレートには、パネル部材に設けたネジ挿通穴に対応する位置にネジ穴が、また該ネジ穴の外側に取付け用のネジが挿通可能なネジ挿通穴が形成されているので、発信機とパネル部材とを一体化させつつネジ穴の位置が異なる既設の取付け面に対して発信機を取り付けることができる。なお、「ネジ挿通穴」は、円形は勿論のこと、長円形の穴でも、切欠きであっても良い。
【0012】
さらに、上記構成によれば、取付け用プレートを取付け面の形態に応じて90度回転させることで、ネジ穴の位置が異なる既設の複数の取付け面に対して発信機を取り付けることができる。なお、「第2のネジ挿通穴」は、円形は勿論のこと、長円形の穴でも、切欠きであっても良い。
【0013】
また、望ましくは、前記位置合わせ用の突起および前記切欠きは、前記開口の中心線を挟んで同一距離の位置に対称な形状を有し対をなすように形成され、
前記取付け用プレートの前記90度回転した位置に形成される切欠きは、前記対をなす切欠きのうちの一方の切欠きを共有して対をなすように形成されているように構成する。
かかる構成によれば、位置合わせのために取付け用プレートに形成する切欠きの数を少なくすることができ、これによって取付け用プレートの強度が低下するのを回避することができる。
【0014】
さらに、望ましくは、前記ネジ穴はバーリング加工部に設けるようにする。
かかる構成によれば、取付け用プレートのネジ穴が、バーリング加工部に設けられているので、固定用のネジをネジ穴に螺合させ易くすることができるとともに、ネジ穴の有効長さを確保することができる。
【0015】
さらに、望ましくは、前記発信機は正面視で円形の一部が切り欠かれた形状をなし、前記パネル部材は前記発信機の円形の一部が切り欠かれた部位を補完する形状をなすように形成された補形部を備えるようにする。
かかる構成によれば、既設の発信機に代えて新たな発信機を設置する際に、元の発信機と見かけ上ほとんど変わらない発信機を設置することができる。また、発信機が設置される建物の空間デザイン的な調和や兼ね合いの要請等により、パネル部材の形状を変えることで、発信機全体の外観を所望の形状に変えることができる。
【0016】
また、本出願の他の発明は、上記のような構成を有する取付け器具によって、前方から操作可能な押釦および該押釦が操作されたことを検知可能な検知手段が内蔵された本体ケースを有する発信機を、所定の開口を有する取付け面に取り付ける発信機の取付け方法において、
前記取付け用プレートの前記ネジ挿通穴に挿通したネジによって、前記取付け用プレートを前記取付け面に取り付けるとともに、前記パネル部材の前記ネジ挿通穴に挿通したネジを前記ネジ穴に螺合させることにより前記発信機と前記取付け用プレートとを一体にする場合には、前記取付け用プレートの前記バーリング加工部の突出側の面が前記取付け面と対向する側に来るように、前記取付け用プレートの表裏を設定して配設し、
前記パネル部材の前記ネジ挿通穴を貫通しさらに前記取付け用プレートの前記第2のネジ挿通穴に挿通したネジを前記取付け面に設けられているネジ穴に螺合させることにより前記発信機を前記取付け用プレートと一体にしつつ取り付ける場合には、前記取付け用プレートの前記バーリング加工部の突出側の面が前記取付け面と対向しない側に来るように、前記取付け用プレートの表裏を設定して配設するようにしたものである。
【0017】
上記のような方法によれば、取付け用プレートのネジ穴部にバーリング加工を施したとしても、取付け面のネジ穴を利用して発信機を固定する際に取付け用プレートと取付け面との間に隙間が生じてしまうのを防止することができる。また、取付け用プレートのネジ穴を、バーリング加工部に設けることで、ネジ穴の有効長さを確保しつつ取付け用プレートの板厚を薄くして、パネル部材の取付け面からの突出量を少なくすることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、発信機の本体部の外面に損傷が発生するおそれを防止しつつ本体部と取付け用プレートとの位置合わせを行い、固定用のネジをネジ穴に螺合させ易くすることができる発信機の取付け器具を提供することができる。また、本発明によれば、取付け面のネジ穴を利用して発信機を固定することができる上、取付け用プレートのネジ穴部にバーリング加工を施したとしても、取付け面のネジ穴を利用して発信機を固定する際に取付け用プレートと取付け面との間に隙間が生じてしまうことがない発信機の取付け方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して、本発明に係る取付け器具およびこれを適用して有効な火災発信機の一実施形態について説明する。
本実施形態の火災発信機(以下、単に発信機と記す)10は、火災等の異常が発生した際に押釦を強く押して内部のスイッチをオンさせることにより異常の発生を知らせる信号を受信機に伝送する機能を備え、建造物の壁面あるいは消火栓箱の扉などに設置されて使用されるように構成されている。具体的には、本実施形態の発信機は、押釦スイッチを有する発信機本体と、発信機本体を壁面等に取り付けるためのリング状のナットからなる固定手段と、発信機本体と合体して一体化される表示灯または装飾プレートおよび取付け用プレートなどから構成される。
【0021】
図1〜
図4は、発信機の構成を示す。このうち、
図1(A)は発信機の正面図、
図1(B)は発信機の側面図、
図2は発信機の分解斜視図、
図3は
図1に示す火災発信機を斜め後方から見た斜視図、
図4は
図1に示す火災発信機の中央にて切断して内部構造を示した縦断面図である。
図1に示すように、発信機10は、前面中央に押釦11が設けられており、該発信機10を壁面等に取り付けるための固定手段としてのリング状ナット20を備える。
【0022】
また、発信機10は、前面視小判状(円を2本の平行線で上下に切断し、切断された左右両側の弓状部を除いた形状)をなしほぼ中央に押釦11を有する本体ケース12と、該本体ケース12の前端部と係合する収納枠部13Aを背部に有する取付けベース体13と、を備える。取付けベース体13は、ほぼ平坦な前面パネル部を有し該前面パネル部の縁部に、上フランジ部13B1および下フランジ部13B2と横フランジ部13B3(
図3参照)が設けられているとともに、中央に押釦11の前面が臨む開口部13Cが形成されている。また、取付けベース体13の収納枠部13Aは上面と下面がそれぞれ円筒の一部をなす円弧状に形成され、それらの周面に、リング状ナット20が螺合可能な部分雄ネジ13D1,13D2が形成されている。
【0023】
さらに、取付けベース体13の前面には、上記開口部13Cの上方に、収納凹部13E(
図2参照)が形成され、該収納凹部13Eの前面側を覆うように小扉14が設けられている。小扉14は、両側部に上下方向に沿って所定の高さを有するリブ14a,14aが形成され、該リブ14a,14aの外側面にガイド溝14bが形成されている。そして、該ガイド溝14bが収納凹部13Eの側壁面に形成されている突状部13aに係合されるとともに、ガイド溝14bの一方の端(
図2では上側の端部)が閉塞されている。また、収納凹部13Eの底壁には、突状部13aに対応する高さ位置に、小扉14の断面形状に対応した横長の矩形開口部13bと、取付けベース体13から本体ケース12が外れるのを防止する脱落防止ネジ23が挿通されるネジ挿通孔13eが形成されている。
【0024】
なお、上記収納凹部13Eの底壁には、本体ケース12に内蔵される後述の回路基板上に設けられている電話コネクタに接続された電話ジャックに対応して電話機プラグを挿通可能にするための電話機プラグ差込口13cと、後述の押釦ロック解除用の復旧レバー17の先端が突出するための開口13dが形成されている。
【0025】
押釦11は、下方へ向かって伸びる2本の脚部11a,11aを有し、該脚部11a,11aの先端(図では下端)には、外側方へ向って突出する突起が形成されており、該突起が本体ケース12の前面下部に設けられている一対の支承部12b,12b(
図4参照)に係合されることで、突起を支点にして前後に回動可能に構成されている。また、押釦11の背部と本体ケース12との間には、圧縮バネ15および押釦スイッチ16が配設され、押釦11が圧縮バネ15のバネ力に抗して後方へ押圧されると、押釦スイッチ16がオンされるように構成されている。
【0026】
さらに、押釦11の上端には係止片11cが形成されているとともに、本体ケース12の前面の収容凹部12A内に収容され先端が上下動可能にされた復旧レバー17および該復旧レバー17を下方へ向かって押圧する圧縮バネ18が設けられており、押釦11が押圧されると上端の係止片11cが復旧レバー17の先端の爪17aに係合することで押圧された状態が保持される。また、この状態で、復旧レバー17の先端が圧縮バネ18のバネ力に抗して上方へ持ち上げられると、係止片11cと復旧レバー17の爪17aとの係合が外れ、圧縮バネ15のバネ力によって押釦11が前方へ押されて元の位置に復帰するように構成されている。
【0027】
また、本体ケース12の背部には、発光素子L1が実装された回路基板19および該回路基板19を覆う背面カバー21が、ネジ22によって装着されるように構成されている。本体ケース12には、押釦11の背部に相当する位置に発光素子L1の先端が突出する孔12dが形成されているとともに、押釦11が半透明な樹脂で形成されることで、押釦11を押すことにより押釦スイッチ16がオンされて火災発生を知らせる信号が受信機に伝送され、火災発信機からの信号で発光素子L1が点灯され、その光が半透明な押釦11を通して視認できるように構成されている。
【0028】
回路基板19上には、押釦スイッチ16がオンされたことを検知して火災発生信号を生成する信号生成回路や生成された信号火災受信機へ送信する信号出力回路、火災発信機からの信号を受信する信号受信回路、受信した信号に応じて発光素子L1を点灯させる駆動回路、電話ジャックに接続され火災発信機の電話機との間で通話信号を送受信する送受信回路などを構成する抵抗やコンデンサ、ICなどの電子部品が実装され、基板にはこれらの電子部品間を電気的に接続する配線パターンが形成されている。
【0029】
上記本体ケース12と取付けベース体13とは、取付けベース体13背部の収納枠部13Aと本体ケース12の前端部(小判状部分)との嵌め合いにより一体化され、取付けベース体13の収納枠部13Aの底壁に設けられているネジ挿通孔13eに挿通されるネジ23と、本体ケース12の収容凹部12A内に設けられたボス部12B内に埋設されたナット(図示省略)とによって結合されるように構成されている。
また、背面カバー21には、一対の固定用のネジ22が挿通される一対のネジ挿通孔21aと、上記回路基板19上の回路と火災受信機とを接続するリード線が結合される端子台19Aを露出させたりリード線を引き出したりするための開口部21bが設けられている。
【0030】
上記のような構成を有する火災発信機10は、例えば
図5に示すように、本体ケース12の外形に対応した形状の開口30Aを有する消火栓箱や各種機器収容箱の扉のパネルあるいは建物の壁面に設けられている取付けパネルのようなパネル30を挟むようにして、火災発信機10とリング状のナット20を対向させ、火災発信機10の本体ケース12をパネル30の開口30A内に挿入して、背部に突出した取付けベース体13の外周面の部分雄ネジ13D1と13D2に、リング状のナット20の雌ネジ部20Aを螺合させることで、取付けベース体13とナット20とでパネル30を挟み込むことでパネル30に取り付けられる。
【0031】
次に、
図6〜
図10を用いて、上記のように構成された発信機の取付け器具(発信機カバー)の実施例について説明する。
図6〜
図10に示す発信機の取付け器具は、既設の旧型発信機を
図1〜
図4に示す構成を有する発信機に置き換える場合に利用して好適な器具である。
具体的には、既設の火災発信機は、外形がほぼ円盤状をなし
図1〜
図4の発信機に比べて大型である。本実施例の取付け器具(発信機カバー)は、
図6に示すように、上述の発信機10が嵌合される凹部および開口部を有する装飾パネル40と該装飾パネル40の背面に接合される金属製の取付け用プレート44とを備え、
図8に示すように、装飾パネル40に発信機10を嵌合させて合体させると、円盤状をなす既設の旧型発信機と外観が似ている発信機に変身可能に構成されている。
【0032】
なお、既設の旧型発信機が取り付けられている取付け面(壁面パネルや消火栓箱の扉)には、円盤状の旧型発信機の外径よりも一回り小さな径を有する円形の開口が形成され、その開口の縁部に固定用のネジが螺合されるネジ穴が形成された構成を有している。
そのため、本実施例の取付け器具(発信機カバー)を使用せずに、
図1〜
図4に示す発信機を直接取付け面に取り付けると、発信機の両側方に開口の一部がはみ出して見えてしまい、見た目が悪くなる。
【0033】
そこで、本発明では、以下に詳しく説明するような装飾パネル40および取付け用プレート44を有する取付け器具(発信機カバー)を用いて発信機を取付け面に取り付けるようにしている。また、
図1〜
図4に示す発信機を取り付ける際に、取付け面側に新たにネジ穴の形成等の加工作業を実施することなく取付けを行えるようにするため、開口の縁部のネジ穴を利用することとした。そして、そのために、取付け用プレート44には、取付け面側に既に形成されているネジ穴と対応する位置にネジ挿通穴を設けることとした。なお、装飾パネル40と取付け用プレート44には、発信機10の本体部が嵌合される開口がそれぞれ形成される。
【0034】
本実施例の取付け器具を構成する装飾パネル40は、
図7(A)に示すように、前面側に、発信機10の左右両側方に位置する一対の弓形の補形部41A,41Bと、発信機10の取付けベース体13が嵌合可能な嵌合凹部42aを有する台座部42と、を備え、全体として円盤状をなすように構成されている。そして、台座部42の底壁中央には、発信機10の本体ケース12が挿通可能な開口43が形成され、該開口43の上縁および下縁には、装飾パネル40を壁面等の取付け面に固定するためのネジを挿通させる切欠き43a,43bが設けられている。切欠き43a,43bの代わりに、ネジ挿通穴を設けても良い。
【0035】
上記台座部42の底壁は、発信機10の本体ケース12の部分ネジ周辺部後面12C(収容凹部12Aの裏面)が接触可能に、本体ケース12の後壁と対応する形状(実施例では平坦面)に形成されている。また、嵌合凹部42aの縁部には、取付けベース体13の上フランジ部13B1および下フランジ部13B2と横フランジ部13B3,13B4が接合される段差部42bが形成されている。これにより、装飾パネル40の開口43に発信機10の本体部12を挿入して取付けベース体13を嵌合凹部42aに収納させると、
図8に示すように、装飾パネル40と発信機10とが一体となり、旧型発信機と外観が似ている発信機に変身することとなる。
【0036】
ここで、上記のような構成を有する本実施例の取付け器具を用いて発信機10を取付け面に設置する方法について説明する。
図6に示すように、装飾パネル40と一体の火災発信機10は、装飾パネル40の裏面側に取付け用プレート44を配設し、取付け用プレート44を、消火栓箱や各種機器収容箱の扉のパネルあるいは建物の壁面に設けられている取付けパネルのようなパネルの前面に図示しないネジにて取り付ける(取付けパネルに既設のネジ穴がある場合は、取付け用プレートの対応する穴を利用する)。
【0037】
その後、発信機10を取付けベース体13と本体ケース12に分けて、本体ケース12と取付け用プレート44で、装飾パネル40を挟むようにして、ネジ45A,45Bを本体ケース12より切欠き43a,43bに挿通して、取付け用プレート44の対応する位置に形成されているネジ穴(雌ネジ)46a,46bに螺合させることで取り付けられる。
図6では、ネジ45A,45Bが本体ケース12の外側に示されているが、取付け時には、本体ケース12の前方から本体ケース12の収容凹部12Aに設けられているネジ挿通孔12c,12d(
図2、
図3参照)に挿入されてから切欠き43a,43bに挿通される。
【0038】
次に、本実施形態における発信器の取付け器具の詳細について説明する。
本実施形態においては、装飾パネル40の背面側に、
図7(B)に示すように、リング状をなす周壁40Aの内周面の上部であって台座部42のやや外側寄り位置に、一対の位置合わせ用の山形突起40a,40bが形成されている。山形突起40a,40bはほぼ直角三角形状をなし、一方の辺は垂直方向すなわち開口43の両側縁と平行となるように形成され、他方の辺は水平方向すなわち開口43の上下縁と平行となるように形成されている。
【0039】
一方、取付け用プレート44には、
図9(A)に示すように、中央に発信機10の本体ケース12が嵌合される開口44Aが形成されている。開口44Aは、一辺の長さが、発信機10の本体ケース12の外形を形成する辺のうち大きい方の辺(実施例では縦の辺)よりも僅かに大きなほぼ正方形状をなすように形成される。これにより、取付け用プレート44は、
図6に示す向きと、この向きから垂直面内で90度回転させた向きで、発信機10の本体ケース12と開口44Aとが嵌合可能となる。
【0040】
また、本実施例の取付け用プレート44には、上記装飾パネル40の背面の上記山形突起40a,40bと対応する位置に、山形突起40a,40bと係合可能な切欠き44a,44bが形成されている。また、取付け用プレート44の開口44Aの上縁および下縁には、装飾パネル40を壁面等の取付け面に固定するためのネジ45A,45B(
図6参照)が螺合されるネジ穴46a,46bが設けられている。しかも、このネジ穴46a,46bは、バーリング加工を施した穴の内側に雌ネジを形成してなるもので、これにより取付け用プレート44の板厚が薄くても充分なネジ長さが得られるようになっている。
【0041】
さらに、取付け用プレート44の上縁および下縁には、ネジ挿通穴47a,47bが形成されている。このネジ挿通穴47a,47bは、
図10に示すような機器収容箱の前面パネル60の開口部60Aの縁部に、旧型発信機を取り付けるために形成されているネジ穴60a,60bに対応して設けられたもので、ネジ挿通穴47a,47bにネジ48A,48B(
図6参照)を挿通してから先端を機器収容箱前面パネル60のネジ穴60a,60bに螺合させることで、機器収容箱の前面パネル60に取付け用プレート44を固定することができるようになっている。
【0042】
また、
図9(A)に示すように、取付け用プレート44の縁部には、上記ネジ挿通穴47a,47bと同一の半径位置で90度離れた位置にネジ挿通穴47c,47dが形成されている。
既存の機器収容箱の前面パネル60は、
図10に示すように、発信機を取り付けるための上記開口部60Aの他、表示灯を取り付けるための開口部60Bおよび電子ベルのような発音器の音を発散させる音孔60Cが設けられており、
図10の機器収容箱の前面パネル60はこれらが縦方向に並んだ状態で配設されている。
【0043】
一方、
図10に示す機器収容箱の前面パネル60を横向きにして配設したい場合がある。この場合、発信機を取り付ける開口部60A、表示灯を取り付けるための開口部60Bおよび音孔60Cは横方向に並んだ状態となるが、この横向きの前面パネル60に発信機を取り付ける場合、発信機は前面パネル60に対して90度回転させた状態で取り付ける必要がある。そのため、縦型と横型とで前面パネルの共通化を図りたい場合には、
図10に示すように、前面パネル60の開口部60Aの周囲に90度おきに4個のネジ穴60a〜60dを形成しなければならなくなる。
【0044】
これに対し、本実施例の取付け用プレート44においては、ネジ挿通穴47a,47bと90度離れた位置にネジ挿通穴47c,47dが形成されているため、このネジ挿通穴47c,47dを利用して取付け用プレート44を機器収容箱の前面パネル60に固定することにより、縦型の機器収容箱と横型の機器収容箱とで、前面パネル60に形成するネジ穴60a,60bの位置を同じにすることができる(ネジ穴60c,60dが不要となる)。これにより、製造ラインでのネジ穴形成個数が増加するのを回避することができるとともに、縦型と横型とで前面パネルの共通化を図ることが可能となる。なお、表示灯には上下の向きがないので、表示灯を取り付けるための開口部60Bの縁に形成されるネジ穴60e,60fは縦に並んでいても横に並んでいても構わない。
【0045】
また、従来、配線と器具の取り出し線との接合や他のボックスへの配線の接続等を行うため建物の壁面に埋設されるスイッチボックスが知られており、既存のスイッチボックスの前面に発信機等の電子機器を取り付けるための部品として、
図11(A),(B)に示すようなスイッチボックスカバー61A,61Bがある。なお、
図11(A),(B)のうち(A)は1個用、(B)は2個用のものである。スイッチボックスカバー61A(61B)には、発信機取付け用のネジ穴61a,61b(61a〜61d)が形成されており、その高さ方向の間隔Lは、本実施例の取付け用プレート44に形成されているネジ穴46a,46bの間隔と同一である。
【0046】
本発明者は、ネジ穴46a,46bを利用して上記スイッチボックスカバー61A,61Bに対して、前記実施例で説明した発信機10を取り付けることを検討した。しかし、ネジ穴46a,46bをスイッチボックスカバー61Aのネジ穴61a,61bと重ねると、ネジ(螺旋)の連続性が保証されないため、両方のネジ穴に1つのネジを螺合させて締め付けると、取付け用プレート44とスイッチボックスカバー61Aの前面との間に隙間が生じたりネジ山が潰れたりしてしまう。そこで、取付け用プレート44の開口44Aの縁部のネジ穴46a,46bから90度円周方向に離れた位置に、一対の切欠き(挿通穴でも可)を形成し、取付け用プレート44を90度円周方向に回転させた向きで設置することとした。
【0047】
さらに、本実施例の取付け器具を構成する取付け用プレート44には、
図11(A),(B)に示すスイッチボックスカバー61Aと61Bのいずれに対しても取り付け可能にするため、
図9(A)に示すように、開口44Aの両側縁部に切欠き49a,49b,49cと長穴49Aを、また開口44Aの上縁部に長穴49B、開口44Aの下縁部に切欠き49dを設けることとした。切欠き49a,49b,49c,49dは、ネジを挿通可能な貫通穴であっても良い。
さらに、取付け用プレート44の外周部には、前記位置合わせ用の切欠き44a,44bから90度円周方向に離れた位置に、同じく位置合わせ用の切欠き44c,44dが設けられている。これにより、取付け用プレート44を90度円周方向に回転させた向きで設置する際に、取付け用プレート44と装飾パネル40とを正確に位置合わせすることができる。
【0048】
なお、
図11(A)のスイッチボックスカバー61Aに発信機10を取り付ける際には、取付け用プレート44の切欠き49a,49bをスイッチボックスカバー61Aのネジ穴61a,61bに合致させた状態で、ネジ45A,45B(
図6)をネジ穴61a,61bに螺合させることで固定する。一方、
図11(B)のスイッチボックスカバー61Bに発信機10を取り付ける際には、取付け用プレート44の切欠き49cと長穴49Aをスイッチボックスカバー61Aのネジ穴61bと61cに合致させた状態、または取付け用プレート44の切欠き49dと長穴49Bをスイッチボックスカバー61Aのネジ穴61a,61dに合致させた状態で、ネジ45A,45Bをネジ穴61a,61dに螺合させることで固定する。
【0049】
さらに、本発明者は、当初、発信機を取り付ける際に単に取付け用プレート44を90度回転させて取り付けることを考えた。しかし、より詳細に検討したところ、取付け用プレート44のネジ穴46a,46bをバーリング加工で形成していると、
図9(C)に示すように、ネジ穴46a,46bの縁部が取付け用プレート44の表面から突出するため、取付け用プレート44を90度回転させた際に、ネジ穴46a,46bの縁部がスイッチボックスカバー61Aの前面と干渉して隙間が生じてしまうことが明らかとなった。
【0050】
そこで、スイッチボックスカバー等取付け面側に既に設けられているネジ穴を利用して発信機を取り付ける際には、取付け用プレート44の表裏を逆にする、すなわちバーリング加工に伴い生じる突出部がある取付け用プレート44の表面が前面側に来るようにして設置することにした。なお、以下の説明では、ネジ穴46a,46bの縁部が突出している側の面を取付け用プレート44の表面、反対側の面を取付け用プレート44の裏面と称する。
取付け面側に既に設けられているネジ穴(例えば61a〜61d)を利用して発信機10を取り付ける際には、発信機を固定するためのネジ45A,45B(
図6参照)を取付け面(例えばスイッチボックスカバー)のネジ穴に螺合させることによって、発信機10とスイッチボックスカバーとの間に装飾パネル40と取付け用プレート44とが同時に挟み込まれるため、取付け用プレート44のネジ穴46a,46bは使用しないので、何ら支障はない。
【0051】
ここで、従来型の発信機に替えて単に上記実施例の発信機10をスイッチボックスカバーに取り付けることだけを考えると、装飾パネル40のみ挟み込めばよく、取付け用プレート44を用いなくても取り付けることは可能である。ただし、装飾パネル40が合成樹脂で形成されている場合、取り付けのためにネジ45A,45Bを締め付けた際に装飾パネル40が変形してしまうおそれがある。しかるに、装飾パネル40の裏面に前記取付け用プレート44を介在させると、ネジ45A,45Bを締め付けた際に装飾パネル40に作用する力を取付け用プレート44が分散させることで、装飾パネル40が変形したり破損したりするのを防止することができるという利点がある。
【0052】
一方、取付け用プレート44へバーリング加工を施すのを止めることも考えられる。しかし、バーリング加工を止めると代わりに取付け用プレート44の板厚を厚くしなければならず、取付け用プレート44の板厚を厚くすると、装飾パネル40に接合した際に装飾パネル40の裏面からの突出量が多くなってしまう。従って、取付け用プレート44の装飾パネル40の裏面からの突出量を少なくするため板厚を薄くする必要があるので、取付け用プレートのネジ穴部にはバーリング加工を施すのが望ましい。
【0053】
また、本実施例の取付け用プレート44は、装飾パネル40の裏面に接合されるため、発信機10と装飾パネル40を一体化するために取付け用プレート44のネジ穴にネジを螺合させる際に、装飾パネル40によってネジ穴の位置が見えなくなり、作業がやりにくいという不具合がある。この場合、バーリング加工が施されていると、表側のネジ穴の入り口が傾斜して凹んでいるため、ネジ穴の入り口の傾斜によってネジが誘導され、ネジ穴が見えなくても作業がやり易くなるという利点がある。従って、取付け用プレート44のネジ穴46a,46bを利用して発信機10と装飾パネル40を一体化させる際には、バーリング加工による表側のネジ穴が前に来て、ネジ穴の突出側が取付け面側に来るように、取付け用プレート44の表面が装飾パネル40の裏面に接合するように表裏を設定するのが良い。
【0054】
(変形例)
次に、
図12を用いて、本発明に係る発信機の取付け器具の変形例について説明する。
上記実施例の取付け器具においては、装飾パネル40と取付け用プレート44との位置合わせのため、取付け用プレート44に、装飾パネル40の一対の山形突起40a,40bと係合する切欠きとして、円周方向に90度離れた位置にて、それぞれ対をなすように切欠き44a,44bと切欠き44c,44dを設けている。
【0055】
これに対し、
図12の変形例においては、各切欠きを垂直方向の中心線と水平方向の中心線に対して中心角で45度の位置に形成することで、3個の切欠き44a,44b,44dを設け、取付け用プレート44を装飾パネル40の裏面に位置合わせして接合する際には、切欠き44a,44bを山形突起40a,40bに係合させるか、切欠き44b,44dを山形突起40a,40bに係合させるようにしたものである。このような配置で切欠きを形成すれば、何ら機能を損なうことなく、切欠きの数を4個から3個に減らすことができる。
【0056】
なお、上記実施例では、取付け用プレート44のバーリング加工した部位にネジ穴46a,46bを形成したものについて説明したが、取付け用プレート44として例えば炭素鋼等の強度の高い金属からなる板を使用すれば、バーリング加工せずに薄いままの板にネジ山を一回りでも形成することでネジ固定することができる。また、取付け用プレート44を樹脂で形成しても良く、その場合には、プレートを厚くしてタップを切ったりあるいは金属ナットを埋め込んだりするようにしても良い。さらに、取付け用プレート44が金属製の場合、バーリング加工をするかわりにプレートにナットを溶接、またはカシメナット加工するようにしても良い。
【0057】
以上、本発明を実施形態に基づいて説明したが、本発明は上記実施形態のものに限定されるものではない。例えば、装飾パネル40の上部と下部にそれぞれ対をなす山形突起を形成するとともに、取付け用プレート44には上下対称位置および左右対称位置にそれぞれ対をなす切欠きを形成する変形例も考えられるが、
図7の実施例や
図12の変形例のように、対称位置の一方に山形突起と切欠きをそれぞれ形成することで、取付け作業の際に取付け用プレート44の上下の取り違えを防止することができる。
【0058】
また、上記実施形態では、小判形の発信機10と嵌合凹部を有する装飾パネル40とを一体化して旧型の円盤状発信機と類似の外観を有する発信機を構成可能にしたものについて説明したが、上記実施例における装飾パネル40として、内部にランプを内蔵し発信機の左右に配置される表示部を有するパネルとすることで発信機と表示灯とが一体になったものを、既存の取付け面に取り付ける際に使用する取付け器具として構成することも可能である。
さらに、上記実施形態では、本発明を、火災報知システムを構成する火災発信機および該発信機と合体可能な装飾パネルを組み合わせた機器に適用したものを説明したが、本発明は火災発信機に限定されず、駅のプラットホームや踏切に設置される列車緊急報知用の発信機、トイレや浴室など設置される緊急呼出し用の発信機に広く利用することができる。