特許第6856460号(P6856460)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6856460
(24)【登録日】2021年3月22日
(45)【発行日】2021年4月7日
(54)【発明の名称】制振材
(51)【国際特許分類】
   F16F 15/02 20060101AFI20210329BHJP
   F16B 2/22 20060101ALI20210329BHJP
【FI】
   F16F15/02 C
   F16B2/22 B
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-123714(P2017-123714)
(22)【出願日】2017年6月23日
(65)【公開番号】特開2018-28383(P2018-28383A)
(43)【公開日】2018年2月22日
【審査請求日】2020年5月7日
(31)【優先権主張番号】特願2016-159003(P2016-159003)
(32)【優先日】2016年8月12日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000196107
【氏名又は名称】西川ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】大和 雄一
(72)【発明者】
【氏名】小村 亘
【審査官】 谷口 耕之助
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−122845(JP,A)
【文献】 特開2003−301885(JP,A)
【文献】 特開2004−291878(JP,A)
【文献】 特開2017−81539(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 15/02
F16B 2/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
制振対象部材に取り付けられる制振材であって、
中空部が形成されている質量体収納部を複数備えているとともに、上記制振対象部材を挟み込むことによって上記制振材を上記制振対象部材に固定するためのグリップ部、を備えており、
上記中空部は、質量体を挿入し得る形状に形成されていることを特徴とする制振材。
【請求項2】
上記質量体が挿入された状態における上記複数の質量体収納部のそれぞれの重心から上記グリップ部の重心までの距離が互いに異なっていることを特徴とする請求項1に記載の制振材。
【請求項3】
上記複数の質量体収納部のそれぞれの、上記中空部の周囲の内面と上記質量体収納部の外面との間の断面の厚みが互いに異なっていることを特徴とする請求項1または2に記載の制振材。
【請求項4】
上記複数の質量体収納部のそれぞれに挿入されている上記質量体の、上記質量体収納部に対する挿入方向の長さが互いに異なっていることを特徴とする請求項1から3までの何れか1項に記載の制振材。
【請求項5】
上記複数の質量体収納部のそれぞれに挿入されている上記質量体の重さが互いに異なっていることを特徴とする請求項1から3までの何れか1項に記載の制振材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等のドア部をはじめとする車両部材や建物における天井裏の野縁等の建築資材などの構造物の制振対象部材に取り付けられる制振材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、自動車等のドア部や一般住宅の床等に発生する振動および衝撃音を低減するために、種々の対策が講じられてきた。例えば、特許文献1には、複数の鋼板を、粘弾性樹脂を挟んで層状に接合したものを備え、その中央部分にて被制振対象物上に支持し、複数の鋼板の自由端側に複数の錘を配設した振動抑制装置(制振材)が開示されている。この振動抑制装置は、複数の錘のそれぞれの質量、鋼板の形状、および鋼板に対する複数の錘の設置位置を適宜設定することにより、複数種類の振動抑制モードを実現することができるようになっている。
【0003】
また、特許文献2には、複数の弾性体のそれぞれの一端を動吸振器本体に固定し、弾性体の他端に錘を位置調節可能に取付けた小型動吸振器(制振材)が開示されている。この小型動吸振器は、複数の弾性体の固有振動数を異ならせたり、弾性体に対する錘の配置位置を調整したりすることで、小型動吸振器の固有振動数の調整を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−52237号公報(1993年3月2日公開)
【特許文献2】特開平4−151043号公報(1992年5月25日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来の制振材は、被制振対象物に対する取り付けおよび取り外しの作業に手間がかかるという問題点がある。例えば、上記特許文献1に開示された振動抑制装置は、鋼板の中央部分にて制振材を支持台によって支持する構造であるため、被制振対象物に対する取り付けおよび取り外しの作業に手間がかかる。また、上記特許文献2に開示された小型動吸振器では、被制振対象物に対してどのように取り付けおよび取り外しを行うのかについて具体的な開示はないものの、動吸振器本体を被制振対象物に対してネジ等で取付けるものと考えられる。このため、上記特許文献2に開示された小型動吸振器についても、上記特許文献1に開示された振動抑制装置と同様に、被制振対象物に対する取り付けおよび取り外しの作業に手間がかかる。
【0006】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、簡易な構成で制振効果を得ることができ、かつ簡易な作業で様々な制振対象部材に取り付けることができる制振材を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る制振材は、制振対象部材に取り付けられる制振材であって、中空部が形成されている質量体収納部を複数備えているとともに、上記制振対象部材を挟み込むことによって上記制振材を上記制振対象部材に固定するためのグリップ部、を備えており、上記中空部は、質量体を挿入し得る形状に形成されている構成である。
【0008】
上記構成によれば、中空部が形成されている質量体収納部と制振材を制振対象部材に固定するためのグリップ部とを備えている。また、質量体収納部は、中空部に質量体を挿入することによって質量体を収納する。したがって、本発明に係る制振材を制振対象部材に取り付けた場合、制振対象部材に生じた振動または衝撃音は、グリップ部を経由して質量体収納部まで伝播する。それゆえ、質量体収納部に収納された質量体が振動または衝撃音を吸収して、制振対象部材の代わりに振動する。以上より、本発明に係る制振材は、ばね等の弾性部を別途設けることなく、簡易な構成で制振効果を得ることができる。
【0009】
また、上記構成によれば、制振対象部材を挟み込むことによって制振材を制振対象部材に固定するためのグリップ部を備えている。それゆえ、制振対象部材への取り付けに際してリベット留め、溶接またはビス固定等を行う必要がなく、簡易な作業で制振対象部材に取り付けることができる。また、本発明に係る制振材は、グリップ部で制振対象部材を挟み込むだけで固定できることから、様々な形状および大きさの制振対象部材に取り付けることができる。以上により、本発明に係る制振材によれば、簡易な作業で様々な制振対象部材に取り付けることができる。また、上記構成によれば、質量体を挿入し得る中空部が形成された質量体収納部を複数備えているため、各質量体収納部に挿入する質量体の寸法、又は重量を適宜調整することにより、共振周波数の調整が容易になる。これにより、様々な制振対象部材に対する制振効果を得ることができる。
【0010】
また、本発明の一態様に係る制振材は、上記質量体が挿入された状態における上記複数の質量体収納部のそれぞれの重心から上記グリップ部の重心までの距離が互いに異なっていても良い。上記構成によれば、質量体が挿入された状態における複数の質量体収納部のそれぞれの重心からグリップ部の重心までの距離を異ならせることにより、複数種類の共振周波数を持たせることが可能になり、1部品の制振材で複数の共振周波数に対応させることができる。
【0011】
また、本発明の一態様に係る制振材は、上記複数の質量体収納部のそれぞれの、上記中空部の周囲の内面と上記質量体収納部の外面との間の断面の厚みが互いに異なっていても良い。上記構成によれば、複数の質量体収納部のそれぞれの断面の厚みを適宜設定することにより、共振周波数を調整することができる。
【0012】
また、本発明の一態様に係る制振材は、上記複数の質量体収納部のそれぞれに挿入されている上記質量体の、上記質量体収納部に対する挿入方向の長さが互いに異なっていても良い。上記構成によれば、複数の質量体収納部のそれぞれに挿入されている質量体の長さを適宜調整することにより、共振周波数を調整することができる。
【0013】
また、本発明の一態様に係る制振材は、上記複数の質量体収納部のそれぞれに挿入されている上記質量体の重さが互いに異なっていても良い。上記構成によれば、複数の質量体収納部のそれぞれに挿入されている質量体の重さを適宜調整することにより、共振周波数を調整することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の一態様に係る制振材は、簡易な構成で制振効果を得ることができ、かつ簡易な作業で様々な制振対象部材に取り付けることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】(a)は、本発明の一実施形態に係る制振材の構成を示す断面図であり、(b)は、上記制振材が取り付けられた自動車用ドアの構造を概略的に示す断面図である。
図2】(a)は、本発明の一実施形態に係る制振材の変形例1の構成を示す断面図であり、(b)は、本発明の一実施形態に係る制振材の変形例2の構成を示す断面図である。
図3】(a)は、本発明の一実施形態に係る制振材の変形例3の構成を示す断面図であり、(b)は、本発明の一実施形態に係る制振材の変形例4の構成を示す斜視図である。
図4】本発明の一実施形態に係る制振材の共振周波数を確認する試験方法を説明するための図である。
図5】(a)〜(d)は、形態の異なる4種類の制振材のそれぞれの共振結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<制振材の構造>
まず、図1を参照して、本発明の一実施形態に係る制振材1aの構造について説明する。図1の(a)は、制振材1aをX軸に直交する平面で切断した断面図である。
【0017】
制振材1aは、図1の(a)に示すような、フランジ部材(制振対象部材)100に設けられた水平な平板状の突出部に取り付けられる。図1の(a)は、建物の天井裏構造の野縁へ取り付けた状態を示している。なお、フランジ部材100は、後述するような自動車における各種フランジであってもよく、つまりは、構造物へ組み付けられる。
【0018】
図1の(b)は、図1の(a)と同様な制振材1a(後述する制振材1b〜1fも同様)が取り付けられた自動車用ドア500の構造を示す。同図に示すように、制振材1aは、自動車用ドア500のドアアウターパネル501に設けられた補強フレーム(車両部材)110に取り付けることによって、自動車用ドア500に発生した振動および衝撃音を低減する。より具体的には図1の(b)に示すように、制振材1aは、補強フレーム110に設けられた水平な平板状の3つの突出部のうちの、最も鉛直下側に配置された突出部111に取り付けられる。なお、制振材1aは、突出部111以外の2つの突出部のいずれかに取り付けられてもよい。また、図1の(b)に示す制振材1aの取り付け態様はあくまで一例であり、制振材1aは、補強フレーム110の他、自動車(図示せず)を構成する様々な車両部材の突出部等にも取り付けることができる。
【0019】
図1の(a)を用いて制振材1aを説明すると、制振材1aは、弾性体で形成された2つの質量体収納部11a,11b、およびグリップ部12、円柱形状の鉄芯(質量体)13a,13b、芯材14を備えている。グリップ部12は図1の(a)に示すように、フランジ部材100における接触平板部100bと対向するY軸方向(略水平)に延びる平板部100aの端部を挟み込むことによって制振材1aをフランジ部材100に固定している。そして、このグリップ部12のY軸方向(略水平)の延長には、質量体収納部11a、11bを弾性的に支持する支持部21が連続して設けられ、その支持部21の先端に、Z軸方向(略上下方向)に並んだ2つの質量体収納部11a,11bが設けられている。2つの質量体収納部11a,11bは、それぞれが対向する側面の一部が連結した共有部を持った状態で支持部21と連結して形成されている。質量体収納部11a,11bとグリップ部12の間に上記支持部21を設けることにより、フランジ部材100に振動が発生した場合、主として支持部21がばねとしての役割を果たす。なお、支持部21を形成する材料は、質量体収納部11a,11bおよびグリップ部12を形成する弾性体(材料の詳細は後述する)と同一の弾性体であって良いが、両者を異なる材質の弾性体で形成してもよい。また、以下では、制振材が2つの質量体収納部を備える場合を例にとって説明するが、この例に限定されず、制振材は3つ以上の質量体収納部を備えても良い。
【0020】
質量体収納部11a,11bのそれぞれは、図1の(a)中のX軸に直交する平面で切断した断面形状が略円形状であり、鉄芯13a,13bを収納するための中空部11p,11qが形成されている。中空部11p,11qは、X軸に直交する平面で切断した断面形状が略円形状であり、鉄芯13a,13bを挿入し得る形状に形成されている。また、質量体収納部11a,11bは、中空部11p,11qに鉄芯13a,13bを挿入することによって中空部11p,11qを収納する。
【0021】
なお、質量体収納部11a,11bの上記断面形状は略円形状に限定される訳ではなく、例えば、略矩形状となる、例えば略正方形状、長方形および略ひし形状等の様々な断面形状を採用することができる。また、中空部11p,11qの上記断面形状も略円形状に限定される訳ではなく、図1中のX軸に直交する平面で切断した鉄芯13a,13bの断面の形状および大きさに応じて、又は、質量体収納部11a,11bの形状に応じて変化させることができ、鉄芯13a,13bを質量体収納部11a,11bに収納できるような断面形状になっていればよい。
【0022】
ここで、鉄芯13aが挿入された状態における一方の質量体収納部11aの重心とグリップ部12の重心との間の一方の距離をd1とする。その一方、鉄芯13bが挿入された状態における他方の質量体収納部11bの重心とグリップ部12の重心との間の他方の距離をd2とする。ここで、グリップ部12の重心とは、後述するグリップ部12に備わっている複数の突起部12aの内、最も質量体収納部11a,11bに近い位置の突起部12aとしている。突起部12aが存在しない場合はグリップ部12の固定位置となる。このとき、本実施形態では、図1に示すように距離d1と距離d2とはほぼ等しくなっている。また、Z軸方向に並んだ2つの質量体収納部11a,11bの重心を結んだ直線上まで、2つの質量体収納部11a,11bの対向する側面が連結した状態になっている。
【0023】
グリップ部12には、制振材1aをフランジ部材100に固定するための突起部12aが、グリップ部12における互いに対向する2つの内面12bのそれぞれから2つずつ(合計4つ)、図1中のX軸に略沿って突出するように設けられている。
【0024】
なお、突起部12aの個数、形状および配置等は、フランジ部材100の平板部100aの厚さ、フランジ部材100以外の構造物に取り付ける場合における当該構造物の形状および大きさ等に応じて、任意に設計することができる。例えば、図示しないものの、突起部12aをグリップ部12における2つの内面12bの片側のみから突出させてもよいし、1つの内面12bにつき3つ以上の突起部12aを設けてもよい。また、突起部12aが内面12bに対して傾斜する角度についても、取り付けのし易さ、および固定がより確実になるか等を考慮して適宜設計することができる。
【0025】
また、グリップ部12における2つの内面12bの離間幅と平板部100aの厚さとが略同一になるようなグリップ部12の形状にすることで、突起部12aを設けることなく制振材1aをフランジ部材100に固定することができる。したがって、グリップ部12に突起部12aを設けることは必須ではない。
【0026】
質量体収納部11a,11b、グリップ部12および突起部12aは、全て同一の弾性体で形成されている。これらの形成に用いられる弾性体としては、例えば、EPDM(エチレン・プロピレン・ジエンゴム)、天然ゴムまたはCR(クロロプレンゴム)を主体とするゴム材料、様々な熱可塑性エラストマー、ウレタン、PVC(ポリ塩化ビニル)等がある。
【0027】
なお、質量体収納部11a,11bの材料とグリップ部12の材料とが同一である必要はなく、両者の材料を異ならせてもよい。また、突起部12aの材料とグリップ部12の材料とが同一である必要はなく、両者の材料を異ならせてもよい。すなわち、突起部12aは、制振材1aのフランジ部材100への固定がより確実となるような弾性体で形成されていればよい。
【0028】
鉄芯13a,13bは、フランジ部材100に発生した振動を吸収して自ら振動する質量体である。なお、鉄芯13a,13b以外にも、例えば鉄以外の金属で製造された質量体等を用いてもよい。また、鉄芯13a,13bの形状も円柱形状に限定されず、例えば、直方体形状をはじめとする角柱形状等であってもよい。
【0029】
芯材14は、グリップ部12に埋め込むことによってグリップ部12の剛性を高くし、グリップ部12の固定力を向上させるための部材である。芯材14は、図1の(a)中のX軸に直交する平面で切断した断面形状がグリップ部12と同一の略コ字形状となっている。また、芯材14には、鉄をはじめとする各種金属または硬質樹脂等の、グリップ部12の剛性が高くなるような材料が用いられる。
【0030】
なお、芯材14の厚さは、ユーザが求めるグリップ部の固定力、コストおよび制振材1aの重量等に応じて任意に設計してもよい。また、芯材14は、あくまでグリップ部12の固定力を強化するための部材であることから、制振材1aに必須の構成要素ではない。
【0031】
(制振材1aの効果)
上述した制振材1aは、中空部11p,11qが形成されている質量体収納部11a,11bと、支持部21をフランジ部材100に固定するためのグリップ部12と、を備えている。また、質量体収納部11a,11bは、中空部11p,11qに鉄芯13a,13bを挿入することによって鉄芯13a,13bを収納する。したがって、制振材1aをフランジ部材100に取り付けた場合、フランジ部材100に生じた振動または衝撃音は、グリップ部12および支持部21を経由して質量体収納部11a,11bまで伝播する。それゆえ、質量体収納部11a,11bに収納されている鉄芯13a,13bが振動または衝撃音を吸収して、フランジ部材100の代わりに振動する。以上より、制振材1aは、ばね等の弾性部を別途設けることなく、簡易な構成で制振効果を得ることができる。
【0032】
また、制振材1aによれば、フランジ部材100を挟み込むことによって制振材1aをフランジ部材100に固定するためのグリップ部12を備えている。それゆえ、フランジ部材100への取り付けに際してリベット留め、溶接またはビス固定等を行う必要がなく、簡易な作業でフランジ部材100に取り付けることができる。また、制振材1aは、グリップ部12でフランジ部材100を挟み込むだけで固定できることから、様々な形状および大きさの制振対象部材に取り付けることができる。以上により、制振材1aによれば、簡易な作業で様々な制振対象部材に取り付けることができる。また、制振材1aによれば、質量体を挿入し得る中空部が形成された質量体収納部を複数備えているため、各質量体収納部に挿入する質量体の寸法、又は重量を適宜調整することにより、共振周波数の調整が容易になる。これにより、様々な制振対象部材に対する制振効果を得ることができる。
【0033】
<制振材の変形例1>
次に、図2の(a)に基づき、本発明の一実施形態に係る制振材の変形例1について説明する。図2の(a)は、変形例1に係る制振材1bを、X軸に直交する平面で切断した断面図である。
【0034】
本変形例の制振材1bでは、距離d1と距離d2とが異なっている点で、上述した制振材1aと異なっている。このように、距離d1と距離d2とを異ならせることにより、2種類の共振周波数を持たせることが可能になり、1部品の制振材で2種類の共振周波数に対応させることができる。なお、本変形例では、他方の距離d2の方が一方の距離d1よりも小さくなっているが、逆に一方の距離d1の方が他方の距離d2よりも小さくなっていても良い。
【0035】
<制振材の変形例2>
次に、図2の(b)に基づき、本発明の一実施形態に係る制振材の変形例2について説明する。図2の(b)は、変形例2に係る制振材1cを、X軸に直交する平面で切断した断面図である。
【0036】
本変形例の制振材1cでは、質量体収納部11a,11bのそれぞれの重心、およびグリップ部12の重心のすべてがほぼ同一直線上に配置された構造となっている点で、上述した制振材1aと異なっている。また、一方の質量体収納部11aが他方の質量体収納部11bのY軸方向の先端から、さらにY軸方向に延長するよう連結されている。そして、本変形例では、一方の距離d1と他方の距離d2とが異なっており、これにより、2種類の共振周波数を持たせることが可能になり、1部品の制振材で2種類の共振周波数に対応させることができるようになっている点で、上述した変形例1の制振材1bと類似している。なお、質量体収納部11a,11bのそれぞれの重心、およびグリップ部12の重心が同一直線上にない形態を採用することもできる。
【0037】
<制振材の変形例3>
次に、図3の(a)に基づき、本発明の一実施形態に係る制振材の変形例3について説明する。図3の(a)は、変形例3に係る制振材1dを、X軸に直交する平面で切断した断面図である。
【0038】
本変形例の制振材1dでは、一方の質量体収納部11aの、中空部11pの周囲の内面と質量体収納部11aの外面との間の厚み(収納部肉厚)t1が、他方の質量体収納部11bの、中空部11qの周囲の内面と質量体収納部11bの外面との間の厚み(収納部肉厚)t2と異なっている点で、上述した制振材1aと異なっている。このように、収納部肉厚t1,t2を適宜設定することにより、共振周波数を調整することができる。なお、本変形例では、一方の距離d1と他方の距離d2とがほぼ等しくなっているが、一方の距離d1と他方の距離d2とは互いに異なっていても良い。また、上記した変形例2の形態において、2つある質量体収納部11a,11bの収納部肉厚を、この変形例3のように相違させることも可能である。
【0039】
<制振材の変形例4>
次に、図3の(b)に基づき、本発明の一実施形態に係る制振材の変形例4について説明する。図3の(b)は、変形例4に係る制振材1eの構成を示す斜視図である。
【0040】
本変形例の制振材1eでは、一方の質量体収納部11aの中空部11pに挿入されている鉄芯13aの、質量体収納部11aに対する挿入方向の長さl1と、他方の質量体収納部11bの中空部11qに挿入されている鉄芯13bの、質量体収納部11bに対する挿入方向の長さl2とが異なっている点で、上述した制振材1aと異なっている。このように、鉄芯13aの長さl1と鉄芯13bの長さl2とを相違させるといった適宜調整により、共振周波数を調整することができる。
【0041】
なお、本変形例では、同一材質の鉄芯の長さl1と長さl2とを異ならせることにより、質量体である鉄芯13a,13bのそれぞれの重さを異ならせている。しかしながら、2つの質量体の長さが同じであっても、2つの質量体の材質を異ならせる、又は太さを相違させることで、2つの質量体のそれぞれの重さを互いに異ならせても良い。このように、複数の質量体収納部のそれぞれに挿入されている質量体の重さを相違させて調整することにより、共振周波数を調整することができる。
【0042】
<制振材の共振周波数の確認試験について>
次に、図4に基づき、本発明の一実施形態に係る制振材の共振周波数を確認する試験方法について説明する。本方法では、JIS K7391の非拘束形制振複合はりの振動減衰特性試験方法のうち、中央加振法に用いる装置を使用し、周波数特性を測定した。同図に示すように、当該装置のインピーダンスヘッドに厚み1.6mm鉄板をコの字形(各辺30mm)に加工した治具を取付け、コの字の下部をインピーダンスヘッドに、コの字の上部に例えば制振材1aを水平方向に取付け、加振器で加振して、周波数応答関数のグラフより共振周波数を求めた。
【0043】
図5の(a)〜図5の(d)に、形態の異なる4種類の制振材のそれぞれの共振結果を示す。各グラフの右端には、試験に使用した制振材の構成を模式的に示す模式図を付している。この模式図において円形の部位は、質量体収納部を示し、略四角の部位は、グリップ部を示している。この模式図は、質量体収納部およびグリップ部のそれぞれの配置関係を模式的に示している。
【0044】
図5の(a)は、参考例として質量体収納部を1つ備えた制振材1の共振結果を示している。このグラフでは、41Hzの1箇所のみに共振点が存在している様子が示されている。
【0045】
次に、図5の(b)は、本発明の一実施形態に係る制振材の変形例である制振材1b(図2の(a))の共振結果を示している。このグラフでは、20Hzおよび54Hzの2箇所に共振点が存在している様子が示されている。
【0046】
次に、図5の(c)は、本発明の一実施形態に係る制振材1a(図1の(a))の共振結果を示している。このグラフでは、41Hzおよび107Hzの2箇所に共振点が存在している様子が示されている。
【0047】
次に、図5の(d)は、本発明の一実施形態に係る制振材の変形例である制振材1c(図2の(b))の共振結果を示している。このグラフでは、21Hzおよび78Hzの2箇所に共振点が存在している様子が示されている。以上の結果より、制振材に2つの質量体収納部を設けることによって、制振材に2種類の共振周波数を持たせることが可能であることが示された。
【0048】
〔付記事項〕
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。さらに、各実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を組み合わせることにより、新しい技術的特徴を形成することができる。
【符号の説明】
【0049】
1a〜1e 制振材 11a,11b 質量体収納部 11p,11q 中空部
12 グリップ部 13a,13b 鉄芯(質量体) 14 芯材
100 フランジ部材(制振対象部材)110 補強フレーム(制振対象部材)
d1,d2 距離 t1,t2 厚み l1,l2 長さ
図1
図2
図3
図4
図5