(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載される方法は、適用対象のフィルムが、樹脂成分に対する微粒子の含有量が0.2重量%以下と、微粒子の含有量が極めて少量であるフィルムに限定される。このため、ある程度多量の微粒子を含むフィルムにおいても、良好な透明性と、貼り付き欠陥の抑制とを両立させつつ、良好にフィルムを製造できる方法が望まれている。
【0009】
本発明は、得られるアクリル系樹脂フィルムにおける、良好な透明性と、貼り付き欠陥の発生の抑制とを両立できるアクリル系樹脂フィルムの製造方法を提供することを目的とする。また本発明は、当該製造方法において好適に使用される、アクリル系樹脂フィルムの製造装置を提供することを目的とする。さらに本発明は、透明性に優れ、貼り付き欠陥が抑制されたアクリル系樹脂フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、キャストロールとタッチロールとによる挟み込み成形を含む方法でアクリル系樹脂フィルムを製造する際に、フィルム両面の算術平均粗さの差を、所定の範囲内とすることにより、上記の課題を解決できることを見出し、本発明の完成に至った。
【0011】
すなわち、本発明は、
(i)アクリル系樹脂とゴム弾性体粒子とを含むアクリル系樹脂組成物を用いるアクリル系樹脂フィルムの製造方法であって、
アクリル系樹脂組成物をダイより押出してフィルム状溶融物とする溶融押出と、
フィルム状溶融物をキャストロールとタッチロールとの間で挟み込みフィルムに成形する挟み込み成形と、を含み、
キャストロールの表面の可とう性が、タッチロールの表面の可とう性よりも低く、
アクリル系樹脂フィルムの算術平均粗さが小さい方の面の算術平均粗さをRa1とし、アクリル系樹脂フィルムの算術平均粗さが大きい方の面の算術平均粗さをRa2とする場合に、挟み込み成形によって、Ra2−Ra1の値を1.0nm以下とする、アクリル系樹脂フィルムの製造方法、
(ii)Ra1と、Ra2との合計が、6.5nm以上8.9nm以下である、(i)に記載のアクリル系樹脂フィルムの製造方法、
(iii)キャストロールの表面の最大高さRyが0.15μm以上0.40μm以下であり、
タッチロールの表面の最大高さRyが0.10μm以下である、(i)又は(ii)に記載のアクリル系樹脂フィルムの製造方法、
(iv)キャストロールの表面の算術平均粗さRaが0.015μm以上0.040μm以下であり、
タッチロールの表面の算術平均粗さRaが0.010μm以下である、(i)又は(ii)に記載のアクリル系樹脂フィルムの製造方法、
(v)フィルム状溶融物における、キャストロールに接触する面の温度が、タッチロールに接触する面の温度よりも低い、(i)〜(v)のいずれか1つに記載のアクリル系樹脂フィルムの製造方法、
(vi)アクリル系樹脂とゴム弾性体粒子とを含むアクリル系樹脂組成物を用いてフィルムを製造する製造装置であって、
押出機とダイとキャストロールとタッチロールとを備え、
キャストロールの表面の可とう性が、タッチロールの表面の可とう性よりも低く、
キャストロールの表面の最大高さRyが0.15μm以上0.40μm以下であり、
タッチロールの表面の最大高さRyが0.10μm以下である、アクリル系樹脂フィルムの製造装置、
(vii)アクリル系樹脂とゴム弾性体粒子とを含むアクリル系樹脂組成物を用いてフィルムを製造する製造装置であって、
押出機とダイとキャストロールとタッチロールとを備え、
キャストロールの表面の可とう性が、タッチロールの表面の可とう性よりも低く、
キャストロールの表面の算術平均粗さRaが0.015μm以上0.040μm以下であり、
タッチロールの表面の算術平均粗さRaが0.010μm以下である、アクリル系樹脂フィルムの製造装置、
(viii)アクリル系樹脂とゴム弾性体粒子とを含むアクリル系樹脂組成物からなるアクリル系樹脂フィルムであって、
アクリル系樹脂算術平均粗さが小さい方の面を第1面とし、算術平均粗さが小さい方の面を第2面とする場合に、第1面の算術平均粗さRa1と、第2面の算術平均粗さRa2との合計が、6.5nm以上8.9nm以下であり、
Ra2−Ra1の値が、1.0nm以下であり、
アクリル系樹脂フィルムのヘイズが、1.0以下である、アクリル系樹脂フィルム、
(ix)第1面と、第2面との間の静摩擦係数が2.0以下である、(viii)に記載のアクリル系樹脂フィルム、
(x)アクリル系樹脂組成物が、アクリル系樹脂組成物の重量に対して5重量%以上20重量%以下のゴム弾性体粒子を含み、
ゴム弾性体粒子の体積平均粒子径が80nm以上450nm以下である、(viii)又は(ix)に記載のアクリル系樹脂フィルム、及び、
(xi)厚さが100μm以下である、(viii)〜(x)のいずれか1つに記載のアクリル系樹脂フィルム、
を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、得られるアクリル系樹脂フィルムにおける、良好な透明性と、貼り付き欠陥の発生の抑制とを両立できるアクリル系樹脂フィルムの製造方法を提供することができる。また本発明によれば、当該製造方法において好適に使用される、アクリル系樹脂フィルムの製造装置を提供することができる。さらに本発明によれば、透明性に優れ、貼り付き欠陥が抑制されたアクリル系樹脂フィルムを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、アクリル系樹脂フィルムの製造方法と、アクリル系樹脂フィルムの製造装置と、アクリル系樹脂フィルムとについて、必要に応じて図面を参照しながら、詳細に説明する。
図1は、アクリル系樹脂フィルムの製造装置の構成の一部を模式的に示す図である。
【0015】
≪アクリル系樹脂フィルムの製造方法≫
アクリル系樹脂フィルムの製造方法では、アクリル系樹脂とゴム弾性体粒子とを含むアクリル系樹脂組成物が用いられる。以下、アクリル系樹脂フィルムについて単に「フィルム」とも記す。
アクリル系樹脂フィルムの製造方法は、溶融押出と挟み込み成形とを含む。
図1に示されるように、溶融押出では、アクリル系樹脂組成物が、ダイ5より、フィルム状溶融物10’として押出される。挟み込み成形では、フィルム状溶融物10’が、キャストロール6とタッチロール7との間に挟み込まれてフィルム10に成形される。
【0016】
そして、フィルム10の算術平均粗さが小さい方の面である第1面の算術平均粗さをRa1とし、フィルム10の算術平均粗さが大きい方の面である第2面の算術平均粗さをRa2とする場合に、挟み込み成形によって、Ra1とRa2との差(Ra2−Ra1)の値を1.0nm以下とする。
【0017】
キャストロール6は、ダイ5から吐出されたフィルム状溶融物10’を表面で支持し、フィルム状溶融物10’を冷却する機能を有する。また、キャストロール6は、フィルム状溶融物10’をタッチロール7とともに圧力をかけつつ挟み込んで平滑なフィルム10に製膜する機能も有している。キャストロール6の表面は、通常は、金属等の硬質の材料で構成されている。
タッチロール7は、フィルム状溶融物10’をキャストロール6とともに圧力をかけつつ挟み込んで平滑なフィルム10に製膜する機能を有する。タッチロール7では、通常、ゴム等の弾性体からなるロールの表面が金属膜で覆われている。
【0018】
このように、キャストロール6の表面の可とう性はタッチロール7の表面の可とう性よりも低いことが多い。また、フィルム状溶融物10’がキャストロール6と接触する時間は、フィルム状溶融物10’がタッチロール7と接触する時間よりも長いことが多い。
このような条件下で、キャストロール6とタッチロール7とによるフィルム状溶融物10’の挟み込み成形を行うと、キャストロール6とタッチロール7との表面粗さが同じか近い場合には、フィルム10のキャストロール6と接触する面でのゴム弾性体粒子の突出量は、フィルム10のタッチロール7と接触する面でのゴム弾性体粒子の突出量よりも少ない傾向にある。
以下、フィルム10のキャストロール6と接触する面を「キャストロール面」とも記す。フィルム10のタッチロール7と接触する面を「タッチロール面」とも記す。
【0019】
フィルム10を巻き取り、フィルムロール形態の製品とする場合、フィルムロールにおいて、キャストロール面とタッチロール面とが接触する。
そして、本発明者らの検討の結果、キャストロール面でのゴム弾性体粒子の突出量と、タッチロール面でのゴム弾性体粒子の突出量との和等に起因して、両面間での算術平均粗さの和が大きい場合に、キャストロール面と、タッチロール面とが滑りやすく、貼り付き欠陥が生じにくいことが見出された。
さらに、キャストロール面の算術平均粗さと、タッチロール面の算術平均粗さの差が小さい場合に透明性に優れるフィルムを得やすいことが見出された。フィルム両面において、光線の入射状態、透過状態、散乱状態等の差が小さいためと思われる。
【0020】
具体的には、挟み込み成形によって、Ra2−Ra1の値を1.0nm以下とするような挟み込み成形を行うことにより、透明性が良好なフィルム10を形成できる。Ra2−Ra1の値が1.0nm以下であれば、キャストロール面でのゴム弾性体粒子の突出量と、タッチロール面でのゴム弾性体粒子の突出量との和が大きくても、透明性が良好なフィルム10を形成できる。Ra2−Ra1の値は、0.9μm以下が好ましく、0.5μm以下がより好ましい。
【0021】
Ra1と、Ra2との少なくとも一方を調整して、Ra2−Ra1の値を所定の範囲内に調整する方法は特に限定されない。このような方法の好適な例としては、キャストロール6及び/又はタッチロール7の表面粗さ、具体的には算術平均粗さRa、又は最大高さRyを増減させる方法が好ましい。キャストロール6の表面の算術平均粗さRa、又は最大高さRyの増減に応じて、Ra1又はRa2も増減する。同様に、タッチロール7の表面の算術平均粗さRa、又は最大高さRyの増減に応じて、Ra1又はRa2も増減する。
一般に、キャストロール6及び/又はタッチロール7の表面が平滑であるほど、挟み込み成形時にフィルム10両面において、ゴム弾性体粒子がフィルム10内に埋没しやすい。
【0022】
また、挟み込み成形において、Ra1とRa2との合計が、6.5nm以上8.9nm以下であるように挟み込み成形を行うのが好ましい。Ra1とRa2との合計は、6.9nm以上8.5nm以下がより好ましい。
Ra1とRa2との合計値を上記範囲内とすると、キャストロール面とタッチロール面とでゴム弾性体粒子が、アクリル系樹脂フィルムの透明性を損なわない程度に適度に突出しており、アクリル系樹脂フィルムをロールとする場合でも、キャストロール面とタッチロール面との間の滑り性が良好である。このため、貼り付き欠陥が少なく、透明性が良好なアクリル系樹脂フィルムを製造できる。
【0023】
Ra1とRa2との合計の値は、Ra2−Ra1の値と同様に、Ra1と、Ra2との少なくとも一方を調整することにより調製することができる。
【0024】
ここで、キャストロール6、又はタッチロール7の表面の最大高さRy及び算術平均粗さRaは、表面粗さ測定機により、JIS B 0601−1994に基づいて測定される。フィルム10の算術平均粗さRa1、Ra2は、原子間力顕微鏡により、JIS B 0601−1994に基づいて測定される。
【0025】
前述のRa2−Ra1の値を1.0nm以下とするためには、キャストロール6の表面の最大高さRyは、0.15μm以上0.40μm以下が好ましく、0.16μm以上0.30μm以下がより好ましく、0.16μm以上0.26μm以下が特に好ましい。
【0026】
また、Ra2−Ra1の値を1.0nm以下とするためには、キャストロール6の表面の算術平均粗さRaは、0.015μm以上0.040μm以下が好ましく、0.018μm以上0.035μm以下がより好ましく、0.020μm以上0.030μm以下が特に好ましい。
【0027】
前述のRa2−Ra1の値を1.0nm以下とするためには、タッチロール7の表面の最大高さRyは、0.10μm以下が好ましく、0.02μm以上0.08μm以下がより好ましく、0.04μm以上0.06μm以下が特に好ましい。
【0028】
また、前述のRa2−Ra1の値を1.0nm以下とするためには、タッチロール7の表面の算術平均粗さRaは、0.010μm以下が好ましく、0.003μm以上0.009μm以下がより好ましく、0.005μm以上0.008μm以下が特に好ましい。
【0029】
キャストロール6及びタッチロール7の表面温度は、アクリル系樹脂組成物のガラス転移温度をTgとして、Tg−70℃以上Tg以下が好ましく、Tg−60℃以上Tg−10℃以下がより好ましく、Tg−50℃以上Tg−20℃以下が特に好ましい。
キャストロール6及びタッチロール7の表面温度がTg以下であると、フィルム状溶融物10’が、キャストロール6及びタッチロール7により挟み込まれると同時に、良好に固化される。その結果、フィルム10の表面粗さを好ましい範囲内に制御することが容易である。
一方、キャストロール6及びタッチロール7の表面温度がTg−70℃以上であると、フィルム10がキャストロール6から下流の冷却ロールに搬送される際に、フィルム10がキャストロール6に粘着することなく、剥離時のフィルム表面欠陥(剥離紋)を抑制できる観点からも好ましい。
【0030】
アクリル系樹脂組成物のガラス転移温度Tgは、以下の測定方法で算出する。セイコーインスツルメンツ製の示差走査熱量分析装置(DSC)SSC−5200を用い、試料(アクリル系樹脂組成物)を一旦200℃まで25℃/分の速度で昇温した後10分間ホールドし、25℃/分の速度で50℃まで温度を下げる予備調整を経て、10℃/分の昇温速度で200℃まで昇温する間の測定を行い、得られたDSC曲線から積分値を求め(DDSC)、その極大点からガラス転移温度を求める。
【0031】
アクリル系樹脂フィルムの製造方法において、キャストロール6の表面の温度をタッチロール7の表面の温度よりも下げることで、前述のRa2−Ra1の値を1.0nm以下に調整してもよい。前述の通りフィルム10のキャストロール面でのゴム弾性体粒子の突出量は、フィルム10のタッチロール面でのゴム弾性体粒子の突出量よりも少ない傾向にある。
しかし、キャストロール6の表面の温度をタッチロール7の表面の温度よりも下げると、フィルム状溶融物10’の挟み込み成形において、フィルム状溶融物10’のキャストロール6側の面が、タッチロール7側の面よりも硬い。このため、キャストロール面におけるゴム弾性体粒子が埋没しにくい。その結果、キャストロール面とタッチロール面とで、ゴム弾性体粒子の突出量が均一化される。
【0032】
また、アクリル系樹脂フィルムの製造方法において、フィルム状溶融物10’のキャストロール6側の面の温度を、フィルム状溶融物10’のタッチロール7側の面の温度よりも下げることで、前述のRa2−Ra1の値を1.0nm以下に調整してもよい。
キャストロール6の表面の温度をタッチロール7の表面の温度よりも下げる場合と同様の理由により、キャストロール面とタッチロール面とで、ゴム弾性体粒子の突出量が均一化される。
フィルム状溶融物10’のキャストロール面の温度、及びタッチロール面の温度の制御は、例えば、ダイ5の出口において、キャストロール面側とタッチロール面側にそれぞれ加熱手段や冷却手段等の温度制御手段を設置することで行ってもよい。
【0033】
≪アクリル系樹脂フィルムの製造装置≫
アクリル系樹脂フィルムの製造装置は、アクリル系樹脂とゴム弾性体粒子とを含むアクリル系樹脂組成物を用いてフィルムを製造する製造装置である。
アクリル系樹脂フィルムの製造装置は、押出機と、ダイと、キャストロールと、タッチロールとを必須に備える。アクリル系樹脂フィルムの製造装置は、これらの必須の構成以外に、アクリル系樹脂フィルムの製造装置に従来適用されている種々の構成を備えていてもよい。
なお、キャストロールの表面の可とう性が、タッチロールの表面の可とう性よりも低い。
【0034】
前述の通り、キャストロールの表面の最大高さRyが0.15μm以上0.40μm以下であり、タッチロールの表面の最大高さRyが0.10μm以下である場合に、透明性に優れ、且つ貼り付き欠陥が抑制されたフィルムを製造できる。
また、キャストロールの表面の算術平均粗さRaが0.015μm以上0.040μm以下であり、且つ、タッチロールの表面の算術平均粗さRaが0.010μm以下である場合に、透明性に優れ、且つ貼り付き欠陥が抑制されたフィルムを製造できる。
【0035】
図2は、アクリル系樹脂フィルムの製造装置の好適な一例を模式的に示す図である。
図2に示されるアクリル系樹脂フィルムの製造装置は、必須の構成として、押出機2と、ダイ5と、キャストロール6と、タッチロール7とを備え、任意の構成として、押出機ホッパー1と、ギアポンプ3と、フィルター装置4と、冷却ロール8とを備える。
図2では、温度調節機能付きの押出機ホッパー1と、押出機2と、ギアポンプ3と、フィルター装置4と、ダイ5と、キャストロール6及びタッチロール7と、冷却ロール8とが、この順に配設されている。
【0036】
アクリル系樹脂とゴム弾性体粒子とを含むアクリル系樹脂組成物は、温度調節機能付きの押出機ホッパー1内で所定樹脂温度に調節された後、押出機2に供給される。アクリル系樹脂組成物は、押出機2にて加熱と混練とにより溶融状態とされる。次いで、溶融したアクリル系樹脂組成物は、ギアポンプ3で計量された後、フィルター4aを含むフィルター装置4で濾過される。濾過後の溶融したアクリル系樹脂組成物は、ダイ5に供給されフィルム状溶融物10’となって吐出される。続いて、フィルム状溶融物10’は、キャストロール6とタッチロール7とにより挟み込まれ、表面が平滑化されると同時に、ガラス転移温度Tg以下の温度に冷却されることにより、フィルム10に成形される。得られたフィルム10は、複数の冷却ロール8によって冷却されながら搬送され、巻き取り機9によって巻き取られ、フィルムロール形態となって取得される。キャストロール6以降の冷却ロール8は、フィルム搬送速度に応じて、フィルムが十分に冷却固化されるように1本から複数本の間で任意に設置することができる。
【0037】
アクリル系樹脂フィルムの製造装置では、上述したように、キャストロール6の表面の最大高さRyが0.15μm以上0.40μm以下であり、タッチロール7の表面の最大高さRyが0.10μm以下である。
キャストロール6の表面の最大高さRyは、0.16μm以上0.30μm以下が好ましく、0.16μm以上0.26μm以下がより好ましい。
タッチロール7の表面の最大高さRyは、0.02μm以上0.08μm以下が好ましく、0.04μm以上0.06μm以下がより好ましい。
【0038】
かかる製造装置を用いると、キャストロール6の表面と、タッチロール7の表面とにおける最大高さRyが、それぞれ所定の範囲内であることによって、透明性に優れ、且つ貼り付き欠陥が抑制されたフィルムを製造できる。
【0039】
また、アクリル系樹脂フィルムの製造装置では、上述したように、キャストロール6の表面の算術平均粗さRaが0.015μm以上0.040μm以下であり、タッチロール7の表面の算術平均粗さRaが0.010μm以下であるのも好ましい。
キャストロール6の表面の算術平均粗さRaは、0.018μm以上0.035μm以下が好ましく、0.20μm以上0.30μm以下がより好ましい。
タッチロール7の表面の算術平均粗さRaは、0.003μm以上0.009μm以下が好ましく、0.005μm以上0.008μm以下がより好ましい。
【0040】
押出機2としては、特に限定されず、従来公知の各種押出機を使用できる。例えば、単軸押出機、同方向噛合型2軸押出機、同方向非噛合型2軸押出機、異方向噛合型2軸押出機、異方向非噛合型2軸押出機、多軸押出機等の各種押出機を用いることができる。その中でも、単軸押出機が押出機内における樹脂滞留部が少ないため押出中におけるアクリル系樹脂組成物の熱劣化を抑制しやすいこと、また設備費が安価であることから好ましい。また、アクリル系樹脂組成物中の残存揮発分、押出機2における加熱発生物を除去するためにベント機構を有する押出機を使用することが好ましい。押出機2のサイズ(口径)は所望の吐出量に合わせて選定される。
【0041】
単軸押出機で使用するスクリューとしては、ベント無し又は有り押出機用の圧縮比2以上3以下程度の一般的なフルフライト構成のものを用いることができるが、未溶融物が残存しないように特殊な混練機構(ミキシングエレメント)を持たせてもよい。
【0042】
押出機2内でのアクリル系樹脂組成物の滞留時間は、滞留時間増加による樹脂熱劣化を防止する点から、好ましくは10分以内であり、より好ましくは5分以内であり、特に好ましくは2分以内である。
滞留時間は、押出機2の種類、押出条件にも左右されるが、材料の供給量やL/D、スクリュー回転数、スクリューの溝の深さ等を調整することにより短縮することが可能である。
【0043】
押出機2により得られた溶融したアクリル系樹脂組成物は、次いでダイ5に供給される。溶融したアクリル系樹脂組成物の供給は、
図2に示されるように、ギアポンプ3を用いて行われることが好ましい。ギアポンプ3を用いることで押出機2における吐出量変動が吸収され、供給の定量性が著しく向上し、経時的なフィルム厚さの安定性向上に効果がある。
【0044】
ギアポンプ3より定量的に供給される溶融したアクリル系樹脂組成物、あるいは押出機2から直接供給される溶融したアクリル系樹脂組成物は、例えば管状の流路を通りダイ5に供給され、ダイ出口からフィルム状に吐出される。ギアポンプ3からダイ5までの流路中、あるいはギアポンプ3等を介さない場合は押出機2からダイ5までの流路中に、
図2に示されるように、フィルター装置4を設けることが好ましい。これにより、原料であるアクリル系樹脂組成物中に含まれていた異物や押出機2やギアポンプ3で発生した異物がトラップされ、フィルム10中の異物欠陥の発生を低減しやすい。フィルター装置4のフィルター4aとしては、リーフディスクフィルター、スクリーンメッシュ、プリーツ型フィルター等を用いることができる。
【0045】
ダイ5としては、各種構造のものを使用することができる。ダイ5としては、Tダイが好ましく、例えば一般的なコートハンガーダイを用いることができる。さらに幅方向厚さ調整機構としてボルト等の押し込みによりリップの幅方向任意部分の隙間を調節できるダイが好ましい。
さらに、フィルム10の厚さをオンラインで測定し、任意の厚さプロファイルとの偏差がある部分を自動で調整可能な、熱作動式ボルト等を用いることができる。熱作動式ボルト等を用いて自動で厚さプロファイルの調整をすることは、経時的な変化を人の手を介さずに精度よく行うことができるため好ましい。
【0046】
押出機2からダイ5出口からの吐出までにかかる溶融したアクリル系樹脂組成物の滞留時間は、好ましくは15分以下、より好ましくは10分以下である。アクリル系樹脂組成物の熱劣化を抑制する観点からは、溶融したアクリル系樹脂組成物の滞留時間は短いほどよい。
【0047】
以上説明したアクリル樹脂フィルム製造装置の構成は、
図1及び
図2に示される構成に限定されない。アクリル系樹脂フィルムの製造装置は、例えば、必要に応じて、さらに、フィルム端部にナーリングを行う装置や、保護フィルムの貼り合わせを行う装置、フィルム両端部をスリットし所望の製品幅に裁断する装置、フィルムを延伸する装置を備えていてもよい。
【0048】
≪アクリル系樹脂フィルム≫
以下、アクリル系樹脂フィルムについて説明する。
アクリル系樹脂フィルムは、アクリル系樹脂とゴム弾性体粒子とを含むアクリル系樹脂組成物からなるフィルムである。
アクリル系樹脂フィルムにおいて、算術平均粗さが小さい方の面を第1面とし、算術平均粗さが大きい方の面を第2面とする場合に、第1面の算術平均粗さRa1と、第2面の算術平均粗さRa2との合計が、6.5nm以上8.9nm以下である。また、Ra1とRa2との差の絶対値が、1.0nm以下である。さらに、アクリル系樹脂フィルムのヘイズは、1.0以下である。
【0049】
上記の通り、アクリル系樹脂フィルムにおいて、Ra1とRa2との合計は、6.5nm以上8.9nm以下であり、6.9nm以上8.5nm以下が好ましい。
Ra1とRa2との合計値が上記範囲であるアクリル系樹脂フィルムでは、第1面と第2面とでゴム弾性体粒子が、アクリル系樹脂フィルムの透明性を損なわない程度に適度に突出しており、アクリル系樹脂フィルムをロールとする場合でも、第1面と第2面との間の滑り性が良好である。このため、かかるアクリル系樹脂フィルムでは、貼り付き欠陥が少なく、透明性が良好である。
【0050】
アクリル系樹脂フィルムにおいて、Ra2−Ra1の値は、1.0nm以下であり、0.9nm以下がより好ましい。
【0051】
アクリル系樹脂フィルムのヘイズは、良好な透明性を得る点から、1.0以下であり、0.8以下であることが好ましい。ここで、ヘイズは、JIS K 7105に準拠して測定される値である。
【0052】
アクリル系樹脂フィルムにおいて、第1面と第2面との間(キャストロール面とタッチロール面との間)の静摩擦係数は、2.0以下が好ましく、1.5以下がより好ましく、1.2以下が特に好ましい。第1面と第2面との間(キャストロール面とタッチロール面との間)の静摩擦係数が2.0以下である場合、フィルム両面の滑り性がそれぞれ良好であり、フィルムロール形態においてフィルム貼り付きが抑制されるため好ましい。
ここで、静摩擦係数は、アクリル系樹脂フィルムの第1面と第2面と(キャストロール面とタッチロール面と)を接触させ、加重500g、接触面積60mm×60mm、測定速度2000mm/min、温度23℃±2℃、湿度50%±5%の条件にて測定される静摩擦係数である。
【0053】
アクリル系樹脂フィルムの厚さは特に限定されない。一般的な傾向として、アクリル系樹脂フィルムの厚さが薄いほど、光学特性等の種々のフィルムの特性に対して貼り付き欠陥が与える悪影響が大きい。しかしながら、アクリル系樹脂フィルムが上記の所定の要件を満たす場合、厚さ30μm以上100μm以下、好ましくは35μm以上70μm以下、より好ましくは40μm以上60μm以下といった極めて薄いアクリル系樹脂フィルムにおいても、貼り付き欠陥の発生を顕著に抑制できる。
【0054】
以上説明したアクリル系樹脂フィルムは、貼り付き欠陥の発生が抑制され、且つ透明性に優れることから、液晶表示装置等の表示装置に用いられる部材、例えば、偏光子保護フィルム、位相差フィルム、輝度向上フィルム、液晶基板、光拡散シート、プリズムシート等に用いることができる。中でも、偏光板保護フィルムや位相差フィルムとして好適に使用される。
【0055】
<アクリル系樹脂組成物>
以下、上記のアクリル系樹脂フィルムの材質であるアクリル系樹脂組成物について説明する。以下、説明するアクリル系樹脂組成物は、前述のアクリル系樹脂フィルムの製造方法においてもアクリル系樹脂フィルムの原料として用いられる。
【0056】
アクリル系樹脂組成物は、ゴム弾性体粒子及びアクリル系樹脂を有する。
ゴム弾性体粒子の体積平均粒子径は、80nm以上450nm以下が好ましく、100nm以上350nm以下がより好ましく、200nm以上300nm以下が特に好ましい。ゴム弾性体粒子の体積平均粒子径が80nm以上である場合、アクリル系樹脂組成物を用いて、十分に強度が高いフィルムを得やすい。ゴム弾性体粒子の体積平均粒子径が450nm以下である場合、透明性に優れるフィルムを得やすい。なお、体積平均粒子径は、動的散乱法により、例えば、MICROTRAC UPA150(日機装株式会社製)を用いることにより測定することができる。
【0057】
アクリル系樹脂組成物中のゴム弾性体粒子の含有量は、アクリル系樹脂組成物の重量に対して5重量%以上20重量%以下が好ましく、10重量%以上15重量%以下がより好ましい。アクリル系樹脂の重量に対するゴム弾性体粒子の配合量が5重量%以上である場合、強度に優れるフィルムを得やすい。また、この場合、フィルム表面に所望する程度にゴム弾性体粒子を突出させることによって所望する表面粗さを有するフィルムを得やすく、その結果、貼り付き欠陥の発生を抑制しやすい。アクリル系樹脂の重量に対するゴム弾性体粒子の配合量が20重量%以下である場合、透明性に優れるフィルムを得やすい。
【0058】
[アクリル系樹脂]
アクリル系樹脂は、フィルムにおけるマトリックス部分を構成する材料であり、優れた光学特性、耐熱性、成形加工性等の面で好ましく用いられる。
【0059】
アクリル系樹脂は、特に制限されないが、メタクリル酸メチルを単量体成分としたメタクリル系樹脂が使用できる。メタクリル系樹脂は、メタクリル酸メチル由来の構成単位を、30重量%以上100重量%以下、好ましくは50重量%以上100重量%以下含有し、メタクリル酸メチルと共重合可能なモノマー由来の構成単位を、0重量%以上70重量%以下、好ましくは0重量%以上50重量%以下含有するのが好ましい。メタクリル酸メチル由来の構成単位の含有量が30重量%以上であれば、良好なアクリル系樹脂特有の光学特性、外観性、耐候性、耐熱性が得られる。
メタクリル酸メチルを単量体成分としたメタクリル系樹脂を用いる場合、メタクリル系樹脂のガラス転移温度は、使用する条件、用途に応じて設定することができる。好ましくはガラス転移温度が100℃以上、より好ましくは110℃以上、さらに好ましくは115℃以上、最も好ましくは120℃以上である。
【0060】
また、耐熱性のアクリル系樹脂としては、例えば、
1)共重合成分としてN−置換マレイミド化合物が共重合されているアクリル系樹脂、
2)無水グルタル酸アクリル系樹脂、
3)ラクトン環構造を有するアクリル系樹脂、
4)グルタルイミドアクリル系樹脂、
5)水酸基及び/又はカルボキシル基を含有するアクリル系樹脂、
6)芳香族ビニル単量体及びそれと共重合可能な他の単量体を重合して得られる芳香族ビニル含有アクリル系重合体(例えば、スチレン単量体及びそれと共重合可能な他の単量体を重合して得られるスチレン含有アクリル系重合体)、
7)上記6)の芳香族環を部分的に又は全て水素添加して得られる水添芳香族ビニル含有アクリル系重合体(例えば、スチレン単量体及びそれと共重合可能な他の単量体を重合して得られるスチレン含有アクリル系重合体の芳香族環を部分水素添加して得られる部分水添スチレン含有アクリル系重合体)、及び、
8)環状酸無水物繰り返し単位を含有するアクリル系重合体、
を挙げることができる。
【0061】
特に、耐熱性及び光学特性の観点から、メタクリル酸メチル97重量%以上100重量%以下及びアクリル酸メチル0重量%以上3重量%以下で構成されるアクリル系重合体や、4)グルタルイミドアクリル系樹脂をより好ましく用いることができる。
【0062】
[ゴム弾性体粒子]
ゴム弾性体粒子を構成する樹脂は、特に限定されない。樹脂としては、例えば、ガラス転移温度が20℃未満である重合体が挙げられ、具体的には、例えば、ブタジエン系架橋重合体、(メタ)アクリル系架橋重合体、オルガノシロキサン系架橋重合体等のゴム状重合体が挙げられる。なかでも、フィルムの耐候性、透明性の面で、(メタ)アクリル系架橋重合体(以下、単に「アクリル系ゴム状重合体」ということがある。)が特に好ましい。
【0063】
アクリル系ゴム状重合体としては、例えばABS樹脂ゴム、ASA樹脂ゴムが挙げられる。透明性等の観点から、以下に示すアクリル酸エステル系ゴム状重合体を含むアクリル系グラフト共重合体(以下、単に「アクリル系グラフト共重合体」ということがある。)を好ましく用いることができる。アクリル系グラフト共重合体は、アクリル酸エステル系ゴム状重合体の存在下に、メタクリル酸エステルを主成分とする単量体混合物を少なくとも1段以上重合して得ることができる。
【0064】
アクリル酸エステル系ゴム状重合体は、アクリル酸エステルを主成分としたゴム状重合体である。具体的には、アクリル酸エステル50重量%以上100重量%以下、及び共重合可能な他のビニル系単量体0重量%以上50重量%以下からなる単量体混合物(100重量%)並びに、1分子あたり2個以上の非共役な反応性二重結合を有する多官能性単量体0.05重量部以上10重量部以下(単量体混合物100重量部に対して)を重合させてなる、アクリル酸エステル系ゴム状重合体が好ましい。単量体を全部混合して使用してもよく、また単量体組成を変化させて2段以上で使用してもよい。
【0065】
アクリル酸エステルがアクリル酸と、R−OH(Rは炭化水素基)で表されるアルコールとのエステルである場合、Rとしての炭化水素基の炭素数は、重合性やコストの点より、1以上12以下が好ましい。このようなアクリル酸エステルとしては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸2−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸ベンジル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸2−エチルヘキシル、及びアクリル酸n−オクチル等が挙げられる。これらのアクリル酸エステルは2種以上併用してもよい。
【0066】
共重合可能な他のビニル系単量体としては、耐候性、透明性の点より、(メタ)アクリル酸エステル類が特に好ましく、例えばメタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸2−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸フェノキシエチル、(メタ)アクリル酸フェニル等が挙げられる。また、芳香族ビニル類及びその誘導体、及びシアン化ビニル類も好ましく、例えば、スチレン、メチルスチレン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等が挙げられる。その他、無置換及び/又は置換無水マレイン酸類、(メタ)アクリルアミド類、ビニルエステル、ハロゲン化ビニリデン、(メタ)アクリル酸及びその塩、(ヒドロキシアルキル)アクリル酸エステル等が挙げられる。
【0067】
多官能性単量体は、通常使用されるものでよい。多官能性単量としては、例えばアリルメタクリレート、アリルアクリレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、ジアリルフタレート、ジアリルマレート、ジビニルアジペート、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、トリメチルロールプロパントリメタクリレート、テトラメチロールメタンテトラメタクリレート、ジプロピレングリコールジメタクリレート及びこれらのアクリレート類等を使用することができる。これらの多官能性単量体は2種以上併用してもよい。
【0068】
アクリル酸エステル系ゴム状重合体へのメタクリル酸エステルを主成分とする単量体混合物の重合、つまり、グラフト共重合に用いられる単量体としては、前述のメタクリル酸エステル、アクリル酸エステル、これらを共重合可能なビニル系単量体を同様に使用でき、メタクリル酸エステル、アクリル酸エステルが好適に使用される。アクリル系樹脂との相溶性の観点からメタクリル酸メチル、ジッパー解重合を抑制する点からアクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチルが好ましい。
【0069】
アクリル系グラフト共重合体は、一般的な乳化重合法によって製造できる。具体的には、水溶性重合開始剤の存在下、乳化剤を用いてアクリル酸エステル単量体を連続的に重合させる方法を例示できる。
【0070】
乳化重合法においては、通常の重合開始剤を使用できる。例えば過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム等の無機過酸化物や、クメンハイドロパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド等の有機過酸化物、さらにアゾビスイソブチロニトリル等の油溶性開始剤も使用される。これらは単独又は2種以上併用してもよい。これらの開始剤は亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、ナトリウムホルムアルデヒド、スルフォキシレート、アスコルビン酸、硫酸第一鉄とエチレンジアミン四酢酸二ナトリウム錯体なとの還元剤と併用した通常のレドックス型重合開始剤として使用してもよい。
【0071】
重合開始剤と合わせて連鎖移動剤を併用してもよい。連鎖移動剤としては、炭素数2以上20以下のアルキルメルカプタン、メルカプト酸類、チオフェノール、四塩化炭素等が挙げられる。これらは単独又は2種以上併用してもよい。
【0072】
乳化重合法にて使用する乳化剤に関して特に制限はなく、通常の乳化重合用の乳化剤であれば使用することが出来る。例えば、アルキル硫酸ナトリウム等の硫酸エステル塩系界面活性剤、アルキルベンゼンスルフォン酸ナトリウム、アルキルスルフォン酸ナトリウム、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム等のスルホン酸塩系界面活性剤、アルキルリン酸ナトリウムエステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸ナトリウムエステル等のリン酸塩系界面活性剤といったアニオン系界面活性剤が挙げられる。また上記ナトリウム塩は、カリウム塩等の他のアルカリ金属塩やアンモニウム塩でもよい。これらの乳化剤は、単独で用いてもよく、2種以上併用してもよい。さらに、ポリオキシアルキレン類又はその末端水酸基のアルキル置換体又はアリール置換体に代表される、非イオン性界面活性剤を使用又は一部併用しても差し支えない。その中でも、重合反応安定性、粒子系制御性の点から、スルホン酸塩系界面活性剤、又はリン酸塩系界面活性剤が好ましく、中でも、ジオクチルスルホコハク酸塩、又はポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル塩がより好ましく用いることができる。
【0073】
なお、ゴム弾性体粒子を含有するアクリル系樹脂組成物には、熱や光に対する安定性を向上させるための酸化防止剤、紫外線吸収剤、紫外線安定剤等を添加してもよい。これらの添加剤は、単独で、又は2種以上を組み合わせて使用されてもよい。
【実施例】
【0074】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によってなんら限定されない。
【0075】
実施例及び比較例で使用したキャストロール及びタッチロールの表面粗さ(Ry、Ra)、フィルムのキャストロール面及びフィルムのタッチロール面の表面粗さ(Ra1、Ra2)を以下の方法に従って測定した。また、実施例及び比較例で得られたフィルムについて、静摩擦係数、貼り付き欠陥、透明性を、以下の基準に従って評価した。
【0076】
(表面粗さ)
フィルムのキャストロール面及びフィルムのタッチロール面の表面粗さ(算術平均粗さRa1、Ra2)は、原子間力顕微鏡((株)日立ハイテクサイエンス製、NanoCute SII)を使用して、視野サイズ5μm×5μmにおいて、JIS B 0601−1994に準拠して測定した。
キャストロール及びタッチロールの表面粗さ(最大高さRy、算術平均粗さRa)は、表面粗さ・輪郭形状測定機((株)東京精密製、サーフコム130A)を使用して、JIS B 0601−1994に準拠して測定した。
【0077】
(フィルム静摩擦係数)
フィルムロールからカットしたフィルムを試料として用いた。表面性測定機(新東科学株式会社製、14DR)を使用して、試料フィルムのキャストロール面とタッチロール面とを接触させ、静摩擦係数を測定した。測定条件は、加重500g、接触面積60mm×60mm、測定速度2000mm/min、温度23℃±2℃、湿度50%±5%であった。
【0078】
(フィルム貼り付き欠陥)
黒色の板上に、フィルムロールからカットしたフィルムを載せ、照度4000luxの光源下でフィルム全幅を目視観察し、凹凸欠陥の有無によりフィルム貼り付き欠陥を評価した。以下の基準に従い、フィルム貼り付き欠陥を評価した。
A:フィルム表面に凹凸欠陥が視認されない
B:フィルム表面に凹凸欠陥が視認される
【0079】
(フィルム透明性)
フィルムロールからカットしたフィルム片のヘイズを、ヘイズメーター(日本電色工業株式会社製、NDH2000)を使用して、JIS K 7136(ISO 14782)に準拠して測定した。測定条件は、温度23℃±2℃、湿度50%±5%であった。以下の基準に従い、フィルム透明性を評価した。
A:ヘイズ1.0未満
B:ヘイズ1.0以上
【0080】
[実施例1]
(製造例1:ゴム弾性体粒子(アクリル系グラフト共重合体)の調製)
撹拌機付き8L重合装置に、以下の物質を仕込んだ。
脱イオン水 180重量部
ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸(乳化剤) 0.031重量部
ホウ酸 0.4725重量部
炭酸ナトリウム 0.04725重量部
水酸化ナトリウム 0.0098重量部
重合機内を窒素ガスで充分に置換した後、内温を80℃にし、重合開始剤である過硫酸カリウム0.027重量部を2重量%水溶液の形態で添加した。次いで、単量体混合物27重量部(メタクリル酸メチル93.2重量%、アクリル酸ブチル6重量%、スチレン0.8重量%)、多官能性単量体であるメタクリル酸アリル0.135重量部、連鎖移動剤であるn−オクチルメルカプタン0.3重量部、乳化剤であるポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸0.0934重量部を81分かけて連続的に添加した。さらに60分重合を継続することにより、重合物(I)を得た。
【0081】
その後、重合物(I)に、水酸化ナトリウム0.0267重量部を2重量%水溶液の形態で添加し、過硫酸カリウム0.08重量部を2重量%水溶液の形態で添加した。次いで、単量体混合物(アクリル酸ブチル82重量%、スチレン18重量%)、メタクリル酸アリル0.75重量部、ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸0.2328重量部を150分かけて連続的に添加した。添加終了後、開始剤である過硫酸カリウム0.015重量部を2%水溶液の形態で添加し、120分重合を継続し、重合物(II)を得た。
【0082】
その後、重合物(II)に、過硫酸カリウム0.023重量部を2重量%水溶液の形態で添加した。次いで、単量体混合物15重量部(メタクリル酸メチル95重量%、アクリル酸ブチル5重量%)を45分かけて連続的に添加し、さらに30分間重合を継続した。
次いで、単量体混合物8重量部(メタクリル酸メチル52重量%、アクリル酸ブチル48重量%)を25分かけて連続的に添加し、さらに60分重合を継続することにより、多段重合グラフト共重合体ラテックスを得た。
得られたラテックスを硫酸マグネシウムで塩析、凝固し、水洗、乾燥を行い、白色粉末状の多段重合アクリル系グラフト重合体を得た。得られたアクリル系グラフト共重合体の平均粒子径は221nmであった。
【0083】
(製造例2:アクリル系樹脂組成物の調製)
製造例1で得られたゴム弾性体粒子(アクリル系グラフト共重合体)と、ポリメタクリル酸メチル構造単位100%のアクリル系樹脂(Mw:10.5万)とを15:85の重量比にて混合した。続いて、この混合物を、φ58mmベント式二軸押出機にて、溶融押出を行い、押出機出口に設けられたダイスからストランドとして出てきた樹脂を水槽で冷却し、ペレタイザでペレット化したアクリル系樹脂組成物を得た。得られたアクリル系樹脂組成物のガラス転移温度Tgは、120℃であった。
【0084】
(フィルム製造装置)
上流側から順に、φ90mmベント式単軸押出機、ギアポンプ、Tダイ、キャストロールと、タッチロールとが配列された、フィルム製造装置を用いた。キャストロール表面について、最大高さRyは0.260μmであり、算術平均粗さRaは0.030μmであった。タッチロール表面について、最大高さRyは0.050μmであり、算術平均粗さRaは0.07μmであった。
【0085】
上述したフィルム製造装置を用いて、製造例2で得られたアクリル系樹脂組成物を溶融押出し、フィルム状溶融物を形成した。95℃に加温されたタッチロールとキャストロールを用いて、フィルム状溶融物を挟み込み成形し、厚さ80μm、幅1500mm、長さ1000mのフィルムロール形態のアクリル系樹脂フィルムを取得した。取得したアクリル系樹脂フィルムの評価結果を表1に記す。
【0086】
[実施例2]
キャストロール表面について、最大高さRyを0.166μmに変更し、算術平均粗さRaを0.020μmに変更したこと以外は、実施例1と同様の方法により、アクリル系樹脂フィルムを取得した。取得したアクリル系樹脂フィルムの評価結果を表1に記す。
【0087】
[比較例1]
キャストロール表面について、最大高さRyを0.104μmに変更し、算術平均粗さRaを0.012μmに変更したこと以外は、実施例1と同様の方法により、アクリル系樹脂フィルムを取得した。取得したアクリル系樹脂フィルムの評価結果を表1に記す。
【0088】
[比較例2]
キャストロール表面について、最大高さRyを0.070μmに変更し、算術平均粗さRaを0.010μmに変更したこと以外は、実施例1と同様の方法により、アクリル系樹脂フィルムを取得した。取得したアクリル系樹脂フィルムの評価結果を表1に記す。
【0089】
[比較例3]
キャストロール表面について、最大高さRyを0.070μmに変更し、算術平均粗さRaを0.010μmに変更したことと、タッチロール表面について、最大高さRyを0.280μmに変更し、算術平均粗さRaを0.030μmに変更したことと、以外は、実施例1と同様の方法により、アクリル系樹脂フィルムを取得した。取得したアクリル系樹脂フィルムの評価結果を表1に示した。
【0090】
[比較例4]
キャストロール表面について、最大高さRyを0.500μmに変更し、算術平均粗さRaを0.050μmに変更したこと以外は、実施例1と同様の方法によりアクリル系樹脂フィルムを取得した。取得したアクリル系樹脂フィルムの評価結果を表1に示した。
【0091】
[比較例5]
挟み込み成形を実施しないこと以外は、実施例1と同様の方法によりアクリル系樹脂フィルムを取得した。取得したアクリル系樹脂フィルムの評価結果を表1に示した。
【0092】
【表1】
【0093】
表1の結果からわかるように、Ra2−Ra1の値を1.0nm以下にできる条件で製造された実施例1及び2のアクリル系樹脂フィルムは、貼り付き欠陥の発生が抑制されており、透明性が良好であった。
比較例1及び2から、Ra2−Ra1の値が1.0nmを超え、且つ、Ra1+Ra2の値が6.5nm未満と低い条件で製造されたアクリル系樹脂フィルムでは、貼り付き欠陥の発生を抑制しにくいことが分かる。
比較例3及び4から、Ra2−Ra1の値が1.0nmを超え、且つ、Ra1+Ra2の値が8.9nm超と高い条件で製造されたアクリル系樹脂フィルムでは、透明性が損なわれやすいことが分かる。
比較例5から、Ra2−Ra1の値を1.0nm以下にできる条件でアクリル系樹脂フィルムを製造しても、フィルム状溶融物に対して挟み込み成形を行わない場合、透明性に優れるフィルムを得にくいことが分かる。