特許第6856530号(P6856530)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6856530調整可能な抵抗を有するコロナシールド材
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6856530
(24)【登録日】2021年3月22日
(45)【発行日】2021年4月7日
(54)【発明の名称】調整可能な抵抗を有するコロナシールド材
(51)【国際特許分類】
   H02K 3/40 20060101AFI20210329BHJP
   H01B 3/12 20060101ALI20210329BHJP
   H01B 7/00 20060101ALN20210329BHJP
【FI】
   H02K3/40
   H01B3/12 336
   !H01B7/00 303
【請求項の数】9
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2017-532985(P2017-532985)
(86)(22)【出願日】2015年11月25日
(65)【公表番号】特表2018-508927(P2018-508927A)
(43)【公表日】2018年3月29日
(86)【国際出願番号】EP2015077609
(87)【国際公開番号】WO2016096342
(87)【国際公開日】20160623
【審査請求日】2017年8月16日
【審判番号】不服2019-16911(P2019-16911/J1)
【審判請求日】2019年12月13日
(31)【優先権主張番号】102014226097.3
(32)【優先日】2014年12月16日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】390039413
【氏名又は名称】シーメンス アクチエンゲゼルシヤフト
【氏名又は名称原語表記】Siemens Aktiengesellschaft
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】シュテフェン ラング
(72)【発明者】
【氏名】クリスティアン シュタウバッハ
(72)【発明者】
【氏名】バスティアン プロホマン
(72)【発明者】
【氏名】フリートへルム ポールマン
【合議体】
【審判長】 加藤 友也
【審判官】 大畑 通隆
【審判官】 細井 龍史
(56)【参考文献】
【文献】 欧州特許出願公開第2645540(EP,A1)
【文献】 米国特許第6645886(US,B1)
【文献】 特表2007−503101(JP,A)
【文献】 特表平11−317113(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B3/00-3/14
H02K3/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
母材と充填物質とを含むコロナシールド材であって、
前記充填物質は同じ単一粒子径分布のドープされたSiC粒子と非ドープのSiC粒子の混合物として存在しており、
前記コロナシールド材内の抵抗値は、前記混合物おけるドープされたSiC粒子によって調整可能である、
コロナシールド材。
【請求項2】
前記SiC粒子は、SiC1000,SiC800,SiC600またはSiC400の粒子径で存在している、
請求項記載のコロナシールド材。
【請求項3】
前記母材として、ポリマー樹脂母材が存在している
請求項1または2記載のコロナシールド材。
【請求項4】
前記充填物質は、40重量%超の濃度で存在している、
請求項1からまでのいずれか1項記載のコロナシールド材。
【請求項5】
前記充填物質は、球状で存在している、
請求項1からまでのいずれか1項記載のコロナシールド材。
【請求項6】
前記コロナシールド材は、端部コロナシールド装置の一部である、
請求項1からまでのいずれか1項記載のコロナシールド材。
【請求項7】
請求項1からまでのいずれか1項記載のコロナシールド材を含むコロナシールド装置を備えた電気機械。
【請求項8】
高電圧機械である、
請求項記載の電気機械。
【請求項9】
部分放電を回避するためのコロナシールド装置を備え、
該コロナシールド装置は、内部の電位調整部、および/または、端部コロナシールドが組み合わされた外部コロナシールドを有する、
請求項または記載の電気機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は特に、端部コロナシールド装置(EGS)を含むコロナシールド装置用の、調整可能な抵抗を有するコロナシールド材に関する。
【0002】
部分放電を回避するために、発電機巻線ロッドまたは類似の駆動手段の主絶縁部は、内部および外部の導体層によって、中空室および分離部に対して遮蔽されている。当該部分放電は、高い使用電圧を有するあらゆる電気機械で、すなわち、動作電圧が例えばキロボルト領域、特に3.3kV領域を上回る場合に発生する。こうしたコロナシールド装置は、少なくとも、外部コロナシールド(AGS)および内部の電位調整部(IPS)を含む。主絶縁部における電界強度は、IPSから出発して半径方向でAGSへ向かって低下する。AGSは、発電機巻線ロッドの端部、すなわち、固定子コアパケットから成る巻線ロッドの出口部分の領域で終端するが、主絶縁部は、ロッド端部へ向かってさらに案内される。
【図面の簡単な説明】
【0003】
図1】従来技術による、EGS無しの発電機巻線ロッドの端部のスライド装置の断面図である。
図2】EGSを有する発電機巻線ロッドの端部のスライド装置の断面図である。
図3】抵抗値[Ω]に対する、コロナシールド材の粒子混合物にドープされたSiCの重量割合の曲線を示すグラフである。
【0004】
ここで、例えば、変圧器および/またはリードおよび/またはケーブルなどのスライド装置は、低い部分放電使用電圧を有するように構成されている。図1には、こうした従来技術の、EGS無しの発電機巻線ロッドの端部のスライド装置が、非線形の電圧降下の略示とともに、断面図で概略的に示されている。図の下方には、銅導体1が主絶縁部2に接続される場合の電位特性のグラフが見て取れる。主絶縁部2とアースされたコアパケット4との間には、外部コロナシールド(AGS)3が存在している。各曲線6は、AGS3のエッジ5での電界線特性を示している。最大電界強度はAGSの端部/エッジ5に発生する。
【0005】
また、主絶縁部の表面の電位特性が、端部コロナシールド無しの銅導体1の長さに沿って、ラジアル成分のほか、絶縁物質表面/界面に対して平行な、強度に非線形のタンジェント成分を有することも見て取れる。
【0006】
電界は、図示されているように、当該領域で、ラジアル成分のほか、絶縁物質表面/界面に対して平行な、強度に非線形のタンジェント成分を有する。当該電界成分の最大電界強度は、AGS3の端部および/またはエッジの箇所で、または一般に外側の導体層の端部で発生する。したがって、最適なコロナシールドのためには、AGSのエッジでの電界調整と露出した主絶縁部の周囲の耐性の増大とを制御することが必須である。
【0007】
このことは、通常、端部コロナシールド(EGS)の形成によって達成される。
【0008】
コロナシールドとして、従来技術では一般に、充填物質を含む結合剤を浸み込ませた、ガラスもしくは例えばポリエステルなどのポリマー材料から形成されるテキスタイルバンドまたはフリースバンドが使用される。
【0009】
個々のロッドへ浸透させる際には、部分的に、充填物質を含む塗料が使用される。AGSすなわち例えばノッチ領域では、導電性の充填物質として一般にカーボンブラックもしくはグラファイトが用いられ、EGSすなわち例えば巻線頂部領域では、半導電性の炭化ケイ素が充填物質として用いられる。
【0010】
最近では、部分放電の抑制のために、主として炭化ケイ素もしくは他の半導電性の充填物質をベースとした半導体コーティングまたは半導体バンドによる抵抗性の電位調整部が使用されている。端部コロナシールドにより、絶縁物質表面に沿った電圧降下のタンジェント成分は均等化される。理想的には、EGSによる電圧降下も線形化される。このことは、長さの単位当たりでつねに等しい電圧値が降下する場合に、達成される。このために、軸線方向での位置と電圧とに依存する抵抗薄層が、図2に示されているように使用される。
【0011】
図2には、発電機巻線ロッドの端部に端部コロナシールド(EGS)7を有する図1と同じスライド装置が示されている。ここでも、図の下方に、銅導体の長さに沿った主絶縁部の表面の電位特性が見て取れる。電位特性も電界強度特性も、EGSによって均等化されている。
【0012】
EGSでの電圧依存性の抵抗薄層の大きさは複数の要素に依存しており、例えば発電機の使用電圧を挙げることができる。個々の機械に適応化されたそれぞれの抵抗領域を実現するためには、部分的に手間のかかる方法ではあるが、EGSの電気抵抗薄層がそれぞれの形成位置にできるだけ正確に適合する抵抗を有するよう、化学プロセスによって炭化ケイ素がドープされる。
【0013】
欠点となるのは、第1に、電気抵抗を調整するためのドープが煩雑であること、第2に、EGSにおいて所望の抵抗を調整するための粒子径が種々に異なることである。また、種々に異なる粒子径を有する粒子混合物は、その粒子径が種々に異なることによって容易に脱混合を起こすため、保管の点で特に安定というわけでもない。よって、混合物を安定して保管しようとすると手間がかかるために費用が嵩むので、実用上、混合物は用いられない。例えば4種の充填物質がそれぞれ異なる粒子径およびそれぞれのドープ濃度で用いられる。これにより、関連領域をカバーする抵抗薄層を正確に形成することができる。
【0014】
したがって、本発明の課題は、抵抗を正確に、コスト効率良くかつ容易に調整可能な、充填物質を含むコロナシールド装置用の抵抗薄層を提供することである。
【0015】
この課題は、発明の詳細な説明および図面および特許請求の範囲に開示されている本発明の対象によって解決される。
【0016】
したがって、本発明の対象は、母材と、1グループすなわち1つの粒子径分布の充填物質粒子とを含むコロナシールド材である。ここで、コロナシールド材内の抵抗は、充填物質の粒子グループ内にドープされた粒子の濃度によって調整可能である。
【0017】
本発明の一般的知識としてあるのは、コロナシールド材の抵抗が充填物質によって制御され、ここで、従来、所望の抵抗が、一方では種々の粒子径によって、他方ではコロナシールド材中にドープされた粒子の種々の濃度によって形成されたということである。本発明によれば、充填物質粒子の粒子径によるのみで、つまり、グループ内部にドープされた粒子の濃度変化によるのみで、コロナシールド材の抵抗を調整できることが判明した。
【0018】
好適には、充填物質は、少なくとも(特に算術)平均で、すなわち1粒子径分布で、最大1mm、好ましくは少なくとも(特に算術)平均で最大100μmの寸法を有する粒子を含むように形成される。
【0019】
充填物質が部分負荷耐性および導電性および/または半導電性を有する粒子、例えば炭化ケイ素などを含むと好都合である。好適には、当該粒子は、部分負荷耐性を有するコアと、部分負荷耐性を有する導電性のコーティングとを含む。
【0020】
好適には、本発明のコロナシールド装置では、充填物質が球状の粒子および/またはプレーナ状の粒子を含む。特には、球状の粒子とは、種々の空間方向における寸法が最大3、好ましくは最大1.5より小さい係数しか異ならない粒子であると理解されたい。好都合には、プレーナ状の粒子とは、少なくとも1つの空間方向における寸法が、これに対して垂直な1方向、好ましくは2方向における寸法に対して、少なくとも係数3、好ましくは少なくとも係数5だけ異なる粒子であると理解されたい。
【0021】
ドープされた充填物質粒子と非ドープの充填物質粒子とを意図的に混合することにより、粒子混合物が相応の母材内に導入される場合、1*10(one decade)を上回る抵抗値領域をカバーすることができる。
【0022】
ここで、有利には、コロナシールド材中の充填物質が40重量%超の量、特には50重量%超の量、好ましくは70重量%超の量、特に好ましくは80重量%超の量で存在すると有利である。
【0023】
コロナシールド材の抵抗は、ドープされた充填物質粒子の量が増大するにつれて低下する。ドープされた充填物質粒子と非ドープの充填物質粒子とを混合することにより、電気機械の電界制御に対して適応化された抵抗を調整することができる。
【0024】
充填物質グループとして、例えばSiC400,SiC600,SiC800,SiC1000として扱われている市販の通常の粒子径が使用される。この場合、炭化ケイ素を表す材料表記“SiC”の後方の数字は、面積単位当たりの粒子数を意味している。ここから、SiC400はSiC1000より大きな粒子を有することが表されているとわかる。
【0025】
粒子グループのサイズが大きくなると、すなわち、平均して大きい粒子が用いられると、コロナシールド材の抵抗が低くなり、また逆に、粒子グループのサイズが小さくなると、コロナシールド材の抵抗が高くなる。このことは、2つの粒子間の接触抵抗の数によって説明される。ここで、当該接触抵抗の数は、粒子が小さくなるにつれて上昇し、これにより、生じる抵抗も大きくなる。
【0026】
端部コロナシールド装置などのコロナシールド装置に要求される抵抗領域をカバーするために、例えば、SiC400,SiC600,SiC800,SiC1000などの粒子径が使用される。例えば、SiC1000では、粒子の寸法は平均値で約40μm、最小約4μm、最大約50μmである。
【0027】
始動領域では、抵抗を低下させるため、SiCに例えば部分的にカーボンブラックを混合することもできる。
【0028】
粒子のドープは、例えばアルミニウムもしくはホウ素によって行われる。
【0029】
コロナシールド装置は、例えばコロナシールド材のほか、バンドおよび/またはテキスタイルなどの支持体も含む。本発明の特に好ましい実施形態では、コロナシールド装置において、コロナシールド材の少なくとも一部がバンドおよび/またはコーティングを形成する。
【0030】
コロナシールド装置は、母材、例えばポリマー母材、特にプラスチック母材および/または樹脂を含む。ポリマー母材がサーモプラストおよび/またはデュロマーおよび/またはエラストマーであると好都合である。
【0031】
本発明のコロナシールド装置の好ましい実施形態では、コロナシールド材は、コロナシールド材が存在している、特に動作中の電気機械の動作電界が強くなるにつれて小さくなる電気抵抗を有する。
【0032】
本発明によれば、2*10(two decades)の抵抗値をカバーするEGSコロナシールド材は、2つの充填物質グループのみによって製造できる。
【0033】
図3として、コロナシールド材の粒子混合物におけるドープされたSiCの重量割合を、2乗(平方)抵抗値[Ω](the square resistance in ohms)に対してプロットした曲線が示されている。測定精度の範囲内で線形の特性は、粒子混合物における非ドープのSiCの割合が増大するにつれて増大し、また、抵抗値[Ω]も増大することが示されている。ここでは、本発明の電気抵抗が微差についても正確に調整可能となることが一義的に示されている。
【0034】
有利には、特に、電気的な微差での抵抗の調整を行うことができる。つまり例えば、ドープされた粒子の量の変化によって、実際に、コロナシールド材の所望のあらゆる抵抗値を調整することができる。
【0035】
また、調整された混合物は、実用上、保管につき無制限に安定である。なぜなら、粒子径が基本的に均一であることにより、長い保管期間中、大粒子グループおよび小粒子グループへの脱混合が起こりえないからである。したがって、再現可能な電気抵抗薄層が得られる。
【0036】
本発明は、特に端部コロナシールド装置(EGS)を含むコロナシールド装置用の、コロナシールド材に関する。ここでは、充填物質が単独の粒子径グループで母材に埋め込まれて存在するにもかかわらず、所望の電気抵抗の調整を実現可能なコロナシールド材が提案される。
図1
図2
図3