特許第6856537号(P6856537)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社メガカリオンの特許一覧 ▶ 佐竹化学機械工業株式会社の特許一覧

特許6856537往復動撹拌装置を用いた血小板の製造方法および血小板の製造に用いられる培養容器
<>
  • 特許6856537-往復動撹拌装置を用いた血小板の製造方法および血小板の製造に用いられる培養容器 図000002
  • 特許6856537-往復動撹拌装置を用いた血小板の製造方法および血小板の製造に用いられる培養容器 図000003
  • 特許6856537-往復動撹拌装置を用いた血小板の製造方法および血小板の製造に用いられる培養容器 図000004
  • 特許6856537-往復動撹拌装置を用いた血小板の製造方法および血小板の製造に用いられる培養容器 図000005
  • 特許6856537-往復動撹拌装置を用いた血小板の製造方法および血小板の製造に用いられる培養容器 図000006
  • 特許6856537-往復動撹拌装置を用いた血小板の製造方法および血小板の製造に用いられる培養容器 図000007
  • 特許6856537-往復動撹拌装置を用いた血小板の製造方法および血小板の製造に用いられる培養容器 図000008
  • 特許6856537-往復動撹拌装置を用いた血小板の製造方法および血小板の製造に用いられる培養容器 図000009
  • 特許6856537-往復動撹拌装置を用いた血小板の製造方法および血小板の製造に用いられる培養容器 図000010
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6856537
(24)【登録日】2021年3月22日
(45)【発行日】2021年4月7日
(54)【発明の名称】往復動撹拌装置を用いた血小板の製造方法および血小板の製造に用いられる培養容器
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/078 20100101AFI20210329BHJP
   C12N 1/00 20060101ALI20210329BHJP
   A61K 35/19 20150101ALI20210329BHJP
   A61P 7/04 20060101ALI20210329BHJP
   C12M 1/02 20060101ALN20210329BHJP
【FI】
   C12N5/078
   C12N1/00 B
   A61K35/19 Z
   A61P7/04
   !C12M1/02 A
【請求項の数】11
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2017-548743(P2017-548743)
(86)(22)【出願日】2016年10月31日
(86)【国際出願番号】JP2016082206
(87)【国際公開番号】WO2017077964
(87)【国際公開日】20170511
【審査請求日】2019年10月18日
(31)【優先権主張番号】特願2015-215936(P2015-215936)
(32)【優先日】2015年11月2日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】515062289
【氏名又は名称】株式会社メガカリオン
(73)【特許権者】
【識別番号】000171919
【氏名又は名称】佐竹化学機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】重盛 智大
(72)【発明者】
【氏名】岡本 陽己
(72)【発明者】
【氏名】加藤 好一
【審査官】 太田 雄三
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−297023(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/123242(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/157586(WO,A1)
【文献】 国際公開第2009/122747(WO,A1)
【文献】 NAKAMURA S. et al.,Expandable Megakaryocyte Cell Lines Enable Clinically Applicable Generation of Platelets from human Induced Pluripotent Stem Cells,Cell Stem Cell,2014年,Vol.14, p.535-548
【文献】 HARIMOTO K. et al.,Towards Industrialization: Development of Ips cell-derived Platelet Production System,Tissue Eng., Part A,2015年 9月 1日,Vol.21, Suppl.1,S-15
【文献】 佐竹化学機械工業株式会社ホームページ, SATAKE VMOVE MIXER[オンライン],2015年 9月23日,[検索日 2017.01.10],URL,http://web.archive.org/web/20150923175757/https://www.satake.co.jp/index_versus.html
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 5/00
C12N 1/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
WPIDS/WPIX(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
血小板の製造方法であって、
培養容器内の培養液中で巨核球細胞を培養する培養工程を含み、
前記培養工程において、前記培養液を、上下方向、若しくは左右方向、若しくは正逆回転方向に往復動してその主面に前記培養液からの抵抗を受ける撹拌羽根で非定常撹拌する、方法。
【請求項2】
記撹拌羽根を往復動して培養液を非定常撹拌するバイオリアクターを用いる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記培養工程に用いられる前記撹拌羽根は楕円形状であって、前記培養工程において前記撹拌羽根を上下に往復して培養液を撹拌するバイオリアクターを用いる、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記培養工程に用いられる前記撹拌羽根は楕円形状折り曲げ構造であって、前記培養工程において前記撹拌羽根を上下に往復して培養液を撹拌するバイオリアクターを用いる、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記培養工程に用いられる前記撹拌羽根は折り曲げ楕円形状であって、平板楕円形状の撹拌羽根と直交して撹拌軸に1段以上取り付けられており、前記培養工程において前記撹拌羽根を上下に往復して培養液を撹拌するバイオリアクターを用いる、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記撹拌羽根として、抜き穴が設けられたものを用いる請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記培養容器が、密閉型バイオリアクターである、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記巨核球細胞が、
巨核球細胞より未分化な細胞において、癌遺伝子、ポリコーム遺伝子、及びアポトーシス抑制遺伝子からなる群より選択される遺伝子の少なくとも1つを強制発現した後、当該強制発現を解除した細胞である、請求項1から7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
血小板製剤の製造方法であって、
請求項1から8のいずれか1項に記載の方法で巨核球細胞に血小板を産生させ、培養物から血小板を回収する工程と、
前記血小板から血小板以外の血球系細胞成分を除去する工程と、を含む方法。
【請求項10】
血液製剤の製造方法であって、
請求項9に記載の方法で血小板製剤を製造する工程と、
前記血小板製剤を他の成分と混合して血液製剤を得る工程と、を含む方法。
【請求項11】
培養容器であって、
容器内の培養液中で巨核球細胞を培養する培養工程において、前記容器内で上下方向、若しくは左右方向、若しくは正逆回転方向に往復動して前記培養液を非定常撹拌する撹拌羽根を含み、血小板の製造に用いられる、培養容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撹拌羽根が往復動する撹拌装置を用いた血小板の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
血小板製剤は、手術時や傷害時の大量出血、或いは、抗がん剤治療後の血小板減少に伴う出血傾向を呈する患者に対して、その症状の治療および予防を目的として投与される。現在、血小板製剤の製造は、健常ボランティアによる献血に依存している。しかし、日本では人口構成に起因して献血者数が減少しており、2027年には約100万人分の献血が不足すると推測されている。そこで、本発明の技術分野の目的の一つとして、血小板の安定供給が挙げられる。
【0003】
また、従来の血小板製剤は、細菌汚染によるリスクが高いため、血小板製剤の移植後に重篤な感染症を引き起こす可能性がある。そのため、臨床現場では、常に、より安全な血小板製剤が求められている。そのニーズに応えるべく、今日では、in vitroで培養した巨核球細胞から血小板を生産する方法が開発されている。
【0004】
従来、培養細胞からの血小板生産は、ディッシュを用いた静置培養系で行われていた(WO2014/100779A1、Qiang Feng, et al., Stem Cell Reports)。しかし、静置培養系は非常に手間がかかるものであり、大量培養には適さなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2014/1007791号パンフレット
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Qiang Feng, et al., Stem Cell Reports 3 1-15 (2014)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは、シェーカーフラスコを用いた振とう培養系、すなわち培養容器自体を振とうする培養方法を用いることにより、高い生理活性を有する血小板を生産することに成功した。しかし、シェーカーフラスコ培養系では、培地量のスケールアップに従い、血小板(CD41a+CD42b+)生産量と血小板の生理活性(PAC1結合性、P-selectin陽性)の低下が起きることが判明した。
【0008】
更に、シェーカーフラスコ培養系では、シェディング反応などに起因すると考えられる血小板の劣化反応(CD42b陽性率の低下)が起きることが発見された。その上、生体への移植に適さない異常な血小板(アネキシンV陽性の血小板)がより多く含まれることもわかった。
【0009】
そこで、本発明は、生体へ移植可能な高品質の血小板を大規模な量で生産する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために検討を重ねた結果、培養容器を振とうするのではなく、培養容器内に配置した撹拌羽根を往復動させて培養液を撹拌しながら巨核球細胞を培養することによって、血小板の生産効率および生理活性を高くすることができるとともに、血小板の劣化を低く抑えること、異常血小板を減少させることができることを見出した。更に、往復動撹拌装置を用いた撹拌培養時の細胞密度、その他の条件を検討して本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、血小板の製造方法であって、培養容器内の培養液中で巨核球細胞を培養する工程を含み、前記培養工程において、撹拌羽根が一方向ではなく往復動もしくは反転する非定常撹拌装置を用いて前記培養液を撹拌する、方法である。
【0012】
また本発明に係る血小板の製造方法では、前記培養容器が、密閉型バイオリアクターである、ことも好ましい。
【0013】
また本発明に係る血小板の製造方法では、前記巨核球細胞が、巨核球細胞より未分化な細胞において、癌遺伝子、ポリコーム遺伝子、及びアポトーシス抑制遺伝子からなる群より選択される遺伝子の少なくとも1つを強制発現した後、当該強制発現を解除した細胞である、ことも好ましい。
【0014】
また本発明は、血小板製剤の製造方法であって、以上に記載の方法で巨核球細胞に血小板を産生させ、培養物から血小板を回収する工程と、前記血小板から血小板以外の血球系細胞成分を除去する工程と、を含む方法である。
【0015】
また本発明は、血液製剤の製造方法であって、以上に記載の方法で血小板製剤を製造する工程と、前記血小板製剤を他の成分と混合して血液製剤を得る工程と、を含む方法である。
【0016】
また本発明は、上記いずれかの方法で製造された血小板である。
【0017】
また本発明は、上記いずれかの方法で製造された血小板製剤、又は上記血小板を含む、血小板製剤である。
【0018】
また本発明は、上記方法で製造された血液製剤、又は上記血小板を含む、血液製剤である。
【発明の効果】
【0019】
本発明の方法によれば、従来の振とう培養よりも血小板の生産効率を向上させることができる。さらに、生産された血小板は、従来の振とう培養で生産される血小板よりも高い生理活性を有する。
【0020】
また、本発明の方法によれば、血小板の劣化反応(CD42b陽性率の減少)を抑えることができるとともに、異常血小板(アネキシンV陽性血小板)の産生を抑制することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は、本発明の実施形態例であるバイオリアクターを示す。
図2図2は、本発明の実施形態例であるバイオリアクターにおける、シール、駆動軸、及び撹拌羽根の設置例を示す。
図3図3は、本発明の実施形態例であるバイオリアクターにおける、撹拌羽根の構造を示す。
図4図4は、本発明の実施例で用いたVMF培養装置の構造を示す。
図5図5は、巨核球細胞の撹拌培養又は振とう培養を行って得られた血小板について、抗CD42b抗体及び抗CD41a抗体を用いてフローサイトメトリーを行った結果を示す。
図6図6は、巨核球細胞の撹拌培養又は振とう培養を行って得られた血小板について、PMA又はADPの刺激の前後に、抗CD42b抗体及び抗PAC-1抗体を用いてフローサイトメトリーを行った結果を示す。
図7図7は、PMA又はADPの刺激の前後に、巨核球細胞の撹拌培養又は振とう培養を行って得られた血小板について、抗CD42b抗体及び抗CD62p抗体を用いてフローサイトメトリーを行った結果を示す。
図8図8は、巨核球細胞の撹拌培養又は振とう培養を行って得られた血小板について、アネキシンVが結合する割合をフローサイトメトリーで測定した結果を示す。
図9】複数段の撹拌羽根が設けられたバイオリアクターの構成例を概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明に係る血小板の製造方法は、培養容器内の培養液中で巨核球細胞を培養する工程を含み、当該培養工程において、撹拌羽根が一方向ではなく往復動もしくは反転する非定常撹拌装置を用いて培養液を撹拌することを特徴とする。例えば、撹拌羽根がその主面に流体から抵抗を受けるように、前記撹拌羽根を往復動させることで培養液を撹拌してもよい。好ましくは、撹拌羽根を支持軸方向に往復動させる。より好ましくは、培養容器を静置させ、撹拌羽根を支持する支持軸をその軸延在方向に往復動させ、撹拌羽根を上下方向に動かす。
【0023】
本明細書において、「培養容器」は、往復動撹拌装置で培養液を撹拌しながら巨核球細胞を培養できる容器であれば特に限定されない。培養容器は、例えば、開放系の培養ディッシュ、閉鎖系のスクリューキャップ付きフラスコ、バイオリアクター(密閉型バイオリアクターを含む)などが挙げられる。
【0024】
本明細書において、「撹拌羽根」は、培養液内に配置して培養液を直接撹拌できるものであればよい。撹拌羽根は、例えば、平板状、もしくは折り曲げ構造のものが用いられる。
【0025】
以下、本発明の一態様として、撹拌羽根を備えたバイオリアクター10を用いる例を説明する。
本実施形態のバイオリアクター10は、図1に示す通り、培養槽11と、シール12と、駆動軸(撹拌軸)13と、撹拌羽根14と、を有する。培養槽11に対する駆動軸13等の設置条件は、図2に示す通り、培養槽11の底部に取り付けるボトム取付、若しくは培養槽11の側部に取り付けるサイド取付でもよい。培養槽11は、円若しくは角等の平面形を縦方向に伸ばした3次元の胴部を有している。シール12は、駆動軸13の動きに追従するゴム等のフレキシブルな材料の膜状体、又は、金属若しくはテフロン(登録商標)等の素材のベローズ構造からなり、培養槽11の上端開口部を覆って気密に設けられている。駆動軸13は、その上部において上下動装置例えば往復駆動式モータ15に連結されていて、尚かつ、駆動軸13の中間部でシール12を貫通すると共に、シール12に気密に固定されている。撹拌羽根14は、平板状、若しくは折り曲げ構造で、平面形状は、図3に示す通り、円形(図3(A))に対して直交する面積を減じた、例えば、楕円(図3(B))、矩形(図3(C))、若しくは円盤に抜き穴16が設けられた抜き穴構造(図3(D))を有しており、駆動軸13に1段以上の撹拌羽根14が固定される。撹拌羽根14を穴あきとすることで、該抜き穴16を通過する流体や細胞への剪断作用が強まる(図9参照)。抜き穴16は撹拌羽根14に大きく設けられた穴で構成されていてもよいし(図3(D))、所定の領域に設けられた複数の小さな穴で構成されていてもよい(図9)。
【0026】
撹拌羽根14は複数段であってもよい。例えば、図9に示すバイオリアクター10は、駆動軸13に取り付けられた上段の撹拌羽根14と、抜き穴16が設けられた下段の撹拌羽根14を備えた2段羽根の構成があり、特に下段の撹拌羽根14における剪断効果をより向上させている。
【0027】
また、本実施形態のバイオリアクター10では、駆動軸(撹拌軸)13に垂直に取り付けた撹拌羽根を回転させ、サーボモータによる制御で撹拌羽根を正逆回転としてもよい。また、このサーボモータをドライバで正逆回転制御して正逆駆動式モータ15を構成し、サーボモータによる正逆制御(加速度・波形・速度などの制御)を可能としている。
【0028】
バイオリアクター10は、至適な細胞増殖、細胞代謝、巨核球細胞の分化成熟、巨核球細胞の多核化、プロプレイトレットの形成、血小板生産、血小板の生理活性の維持、などに好適な物理化学的環境を提供する。そのため、通気装置、排気装置、温度調節装置、pH制御装置、溶存酸素圧(DOT)調節装置、バッフル、スパージャ、ポート等を備えていてもよい。
【0029】
バイオリアクター10の培養槽11の形状も特に限定されないが、例えば、縦長の管状の形態とすることができ、タンクの頂部と底部に平坦な面を有するものであってもよい。
【0030】
培養槽11の容積は、少なくとも300mL、好ましくは少なくとも1L、50L、より好ましくは少なくとも200L、より好ましくは少なくとも500L、さらにより好ましくは少なくとも1000L、さらにより好ましくは少なくとも2000Lである。
【0031】
本明細書において「巨核球細胞」とは、生体内においては骨髄中に存在する最大の細胞であり、血小板を放出することを特徴とする。また、細胞表面マーカーCD41a、CD42a、及びCD42b陽性で特徴づけられ、他に、CD9、CD61、CD62p、CD42c、CD42d、CD49f、CD51、CD110、CD123、CD131、及びCD203cからなる群より選択されるマーカーをさらに発現していることもある。「巨核球細胞」は、多核化(多倍体化)すると、通常の細胞の16〜32倍のゲノムを有するが、本明細書において、単に「巨核球細胞」という場合、上記の特徴を備えている限り、多核化した巨核球細胞と多核化前の巨核球細胞の双方を含む。「多核化前の巨核球細胞」は、「未熟な巨核球細胞」、又は「増殖期の巨核球細胞」とも同義である。
【0032】
巨核球細胞は、公知の様々な方法で得ることができる。巨核球細胞の製造方法の非限定的な例として、国際公開第2011/034073号に記載された方法が挙げられる。同方法では、「巨核球細胞より未分化な細胞」において、癌遺伝子とポリコーム遺伝子を強制発現させることにより、無限に増殖する不死化巨核球細胞株を得ることができる。また、国際公開第2012/157586号に記載された方法に従って、「巨核球細胞より未分化な細胞」において、アポトーシス抑制遺伝子を強制発現させることによっても、不死化巨核球細胞を得ることができる。これらの不死化巨核球細胞は、遺伝子の強制発現を解除することにより、多核化が進み、血小板を放出するようになる。
【0033】
巨核球細胞を得るために、上記の文献に記載された方法を組み合わせてもよい。その場合、癌遺伝子、ポリコーム遺伝子、及びアポトーシス抑制遺伝子の強制発現は、同時に行ってもよく、順次行ってもよい。例えば、癌遺伝子とポリコーム遺伝子を強制発現させ、当該強制発現を抑制し、次にアポトーシス抑制遺伝子を強制発現させ、当該強制発現を抑制して、多核化巨核球細胞を得てもよい。また、癌遺伝子とポリコーム遺伝子とアポトーシス抑制遺伝子を同時に強制発現させ、当該強制発現を同時に抑制して、多核化巨核球細胞を得ることもできる。まず、癌遺伝子とポリコーム遺伝子を強制発現させ、続いてアポトーシス抑制遺伝子を強制発現させ、当該強制発現を同時に抑制して、多核化巨核球細胞を得ることもできる。
【0034】
本明細書において「巨核球細胞より未分化な細胞」とは、巨核球への分化能を有する細胞であって、造血幹細胞系から巨核球細胞に至る様々な分化段階の細胞を意味する。巨核球より未分化な細胞の非限定的な例としては、造血幹細胞、造血前駆細胞、CD34陽性細胞、巨核球・赤芽球系前駆細胞(MEP)が挙げられる。これらの細胞は、例えば、骨髄、臍帯血、末梢血から単離して得ることもできるし、さらにより未分化な細胞であるES細胞、iPS細胞等の多能性幹細胞から分化誘導して得ることもできる。
【0035】
本明細書において「癌遺伝子」とは、生体内において細胞の癌化を誘導する遺伝子のことをいい、例えば、MYCファミリー遺伝子(例えば、c-MYC、N-MYC、L-MYC)、SRCファミリー遺伝子、RASファミリー遺伝子、RAFファミリー遺伝子、c-Kit、PDGFR、Ablなどのプロテインキナーゼファミリー遺伝子が挙げられる。
【0036】
本明細書において「ポリコーム遺伝子」とは、CDKN2a(INK4a/ARF)遺伝子を負に制御し、細胞老化を回避するために機能する遺伝子として知られている(小倉ら, 再生医療 vol.6, No.4, pp26-32;Jseus et al., Jseus et al., Nature Reviews Molecular Cell Biology vol.7, pp667-677, 2006;Proc. Natl. Acad. Sci. USA vol.100, pp211-216, 2003)。ポリコーム遺伝子の非限定的な例として、BMI1、Mel18、Ring1a/b、Phc1/2/3、Cbx2/4/6/7/8、Ezh2、Eed、Suz12、HADC、Dnmt1/3a/3bが挙げられる。
【0037】
本明細書において「アポトーシス抑制遺伝子」とは、細胞のアポトーシスを抑制する機能を有する遺伝子をいい、例えば、BCL2遺伝子、BCL−xL遺伝子、Survivin遺伝子、MCL1遺伝子などが挙げられる。
【0038】
遺伝子の強制発現及び強制発現の解除は、国際公開第2011/034073号、国際公開第2012/157586号、国際公開第2014/123242またはNakamura S et al, Cell Stem Cell. 14, 535-548, 2014に記載された方法、その他の公知の方法又はそれに準ずる方法で行うことができる。
【0039】
本明細書において「血小板」は、血液中の細胞成分の一つであり、CD41a陽性及びCD42b陽性で特徴づけられる。血小板は、血栓形成と止血において重要な役割を果たすとともに、損傷後の組織再生や炎症の病態生理にも関与する。出血等により血小板が活性化されると、その膜上にIntegrin αIIBβ3(glycoprotein IIb/IIIa; CD41aとCD61の複合体)などの細胞接着因子の受容体が発現する。その結果、血小板同士が凝集し、血小板から放出される各種の血液凝固因子によってフィブリンが凝固することにより、血栓が形成され、止血が進む。
【0040】
血小板の機能は、公知の方法により測定し評価することができる。例えば、活性化した血小板膜上のIntegrin αIIBβ3に特異的に結合するPAC-1に対する抗体を用いて、活性化した血小板量を測定することができる。また、同様に血小板の活性化マーカーであるCD62P(P-selectin)を抗体で検出し、活性化した血小板量を測定してもよい。例えば、フローサイトメトリーを用い、活性化非依存性の血小板マーカーCD61又はCD41に対する抗体でゲーティングを行い、その後、抗PAC-1抗体や抗CD62P抗体の結合を検出することにより行うことができる。これらの工程は、アデノシン二リン酸(ADP)存在下で行ってもよい。
【0041】
また、血小板の機能の評価は、ADP存在下でフィブリノーゲンと結合するか否かを見て行うこともできる。血小板がフィブリノーゲンと結合することにより、血栓形成の初期に必要なインテグリンの活性化が生じる。
【0042】
さらに、血小板の機能の評価は、国際公開第2011/034073号の図6に示されるように、in vivoでの血栓形成能を可視化して観察する方法で行うこともできる。
【0043】
一方、血小板のCD42bの発現率が低い場合や、アネキシンV陽性率が低い場合は、血小板が劣化又は異常であると評価される。これらの血小板は、血栓形成や止血機能を十分に有さず、臨床的に有用でない。
【0044】
本明細書において「血小板の劣化」とは、血小板表面のCD42b(GPIbα)が減少することをいう。したがって、劣化した血小板には、CD42bの発現が低下した血小板や、シェディング反応によってCD42bの細胞外領域が切断された血小板が含まれる。血小板表面のCD42bがなくなると、フォン・ウィルブランド因子(von Willebrand factor:VWF)との会合ができなくなり、結果的に、血小板の血液凝固機能が失われる。血小板の劣化は、血小板分画中のCD42b陽性率(又はCD42b陽性粒子数)に対するCD42b陰性率(又はCD42b陰性粒子数)を指標として評価することができる。CD42b陽性率に対するCD42b陰性率が高いほど、又は、CD42b陽性粒子数に対するCD42b陰性粒子数が多いほど、血小板は劣化している。CD42b陽性率とは、血小板分画に含まれる血小板のうち、抗CD42b抗体が結合できる血小板の割合を意味し、CD42b陰性率とは、血小板分画に含まれる血小板のうち、抗CD42b抗体が結合しない血小板の割合を意味する。
【0045】
本明細書において「異常な血小板」とは、陰性電荷リン脂質であるホスファチジルセリンが脂質二重層の内側から外側に露出した血小板を言う。生体内においては、ホスファチジルセリンは血小板の活性化に伴って表面に露出し、そこに多くの血液凝固因子が結合することによって、血液凝固カスケード反応が増幅されることが知られている。一方、異常な血小板では、常に多くのホスファチジルセリンが表面に露出しており、かかる血小板が患者に投与されると、過剰な血液凝固反応を引き起こし、播種性血管内凝固症候群などの重篤な病態に繋がる可能性がある。ホスファチジルセリンにはアネキシンVが結合するので、血小板表面上のホスファチジルセリンは、蛍光標識したアネキシンVの結合量を指標にしてフローサイトメーターを用いて検出することができる。よって、異常な血小板の量は、血小板分画中のアネキシンV陽性率、すなわちアネキシンが結合する血小板の割合又は数で評価することができる。アネキシンV陽性率が高いほど、又はアネキシンV粒子数が多いほど、異常な血小板は多い。
【0046】
本発明における巨核球細胞の培養条件は、通常の条件とすることができる。例えば、温度は約35℃〜約42℃、約36℃〜約40℃、又は約37℃〜約39℃とすることができ、5〜15%CO2及び/又は20%O2としてもよい。
【0047】
巨核球細胞を培養する際の培地は特に限定されず、巨核球細胞から血小板が産生されるのに好適な公知の培地やそれに準ずる培地を適宜使用することができる。例えば、動物細胞の培養に用いられる培地を基礎培地として調製することができる。基礎培地としては、例えばIMDM培地、Medium 199培地、Eagle's Minimum Essential Medium (EMEM)培地、αMEM培地、Dulbecco's modified Eagle's Medium (DMEM)培地、Ham's F12培地、RPMI 1640培地、Fischer's培地、Neurobasal Medium(ライフテクノロジーズ)およびこれらの混合培地が挙げられる。
【0048】
培地には、血清又は血漿が含有されていてもよいし、あるいは無血清でもよい。必要に応じて、培地は、例えば、アルブミン、インスリン、トランスフェリン、セレン、脂肪酸、微量元素、2-メルカプトエタノール、チオールグリセロール、モノチオグリセロール(MTG)、脂質、アミノ酸(例えばL-グルタミン)、アスコルビン酸、ヘパリン、非必須アミノ酸、ビタミン、増殖因子、低分子化合物、抗生物質、抗酸化剤、ピルビン酸、緩衝剤、無機塩類、サイトカインなどの1つ以上の物質も含有し得る。サイトカインとは、血球系分化を促進するタンパク質であり、例えば、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)、トロンボポエチン(TPO)、各種TPO様作用物質、Stem Cell Factor(SCF)、ITS(インスリン−トランスフェリン−セレナイト)サプリメント、ADAM阻害剤、などが例示される。本発明において好ましい培地は、血清、インスリン、トランスフェリン、セリン、チオールグリセロール、アスコルビン酸、TPOを含むIMDM培地である。さらにSCFを含んでいてもよく、さらにヘパリンを含んでいてもよい。それぞれの濃度も特に限定されないが、例えば、TPOは、約10ng/mL〜約200ng/mL、又は約50ng/mL〜約100ng/mLとすることができ、SCFは、約10ng/mL〜約200ng/mL、又は約50ng/mLとすることができ、ヘパリンは、約10U/mL〜約100U/mL、又は約25U/mLとすることができる。ホルボールエステル(例えば、ホルボール-12-ミリスタート-13-アセタート;PMA)を加えてもよい。
【0049】
血清を用いる場合はヒト血清が望ましい。また、血清に代えて、ヒト血漿等を用いてもよい。本発明に係る方法によれば、これらの成分を用いても、血清を用いたときと同等の血小板が得られうる。
【0050】
遺伝子の強制発現及びその解除のためにTet-On(登録商標)又はTet-Off(登録商標)
システムのような薬剤応答性の遺伝子発現誘導システムを用いる場合、強制発現する工程においては、対応する薬剤、例えば、テトラサイクリンまたはドキシサイクリンを培地に含有させ、これらを培地から除くことによって強制発現を抑制してもよい。
【0051】
本発明における巨核球細胞の培養工程は浮遊培養によって行われるので、フィーダー細胞なしで実施することができる。
【0052】
本発明は、本発明に係る方法で製造した血小板も包含する。
【0053】
本発明に係る血小板製剤の製造方法は、本発明に係る方法により巨核球細胞を培養して血小板を産生させ、培養物から血小板が豊富に存在する画分を回収する工程と、当該血小板画分から血小板以外の血球系細胞成分を除去する工程と、を含む。血球系細胞成分を除去する工程は、白血球除去フィルター(例えば、テルモ社製、旭化成メディカル社製)などを使用して、巨核球細胞を含む血小板以外の血球系細胞成分を除去することによって行うことができる。血小板製剤のより具体的な製造方法は、例えば、国際公開第2011/034073号に記載されている。
【0054】
本発明に係る血液製剤の製造方法は、本発明に係る方法で血小板製剤を製造する工程と、当該血小板製剤を他の成分と混合する工程と、を含む。他の成分としては、例えば赤血球細胞が挙げられる。
【0055】
血小板製剤及び血液製剤には、その他、細胞の安定化に資する他の成分を加えてもよい。
【0056】
本明細書において引用されるすべての特許文献及び非特許文献の開示は、全体として本明細書に参照により組み込まれる。
【実施例1】
【0057】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明は何らこれに限定されるものではない。当業者は、本発明の意義を逸脱することなく様々な態様に本発明を変更することができ、かかる変更も本発明の範囲に含まれる。
【0058】
1.不死化巨核球細胞の作製
1−1.iPS細胞からの造血前駆細胞の調製
ヒトiPS細胞(TKDN SeV2:センダイウイルスを用いて樹立されたヒト胎児皮膚繊維芽細胞由来iPS細胞)から、Takayama N., et al. J Exp Med. 2817-2830 (2010)に記載の方法に従って、血球細胞への分化培養を実施した。即ち、ヒトES/iPS細胞コロニーを20ng/mL VEGF (R&D SYSTEMS)存在下でC3H10T1/2フィーダー細胞と14日間共培養して造血前駆細胞(Hematopoietic Progenitor Cells;HPC)を作製した。培養条件は20% O2、5% CO2で実施した(特に記載がない限り、以下同条件)。
【0059】
1−2.遺伝子導入システム
遺伝子導入システムは、レンチウイルスベクターシステムを利用した。レンチウイルスベクターは、Tetracycline制御性のTet-On(登録商標)遺伝子発現誘導システムベクターである。LV-TRE-mOKS-Ubc-tTA-I2G(Kobayashi, T., et al. Cell 142, 787-799 (2010))のmOKSカセットをc-MYC、BMI1、BCL-xLに組み替えることで作製した。それぞれ、LV-TRE-c-Myc-Ubc-tTA-I2G、LV-TRE-BMI1-Ubc-tTA-I2G、およびLV-TRE-BCL-xL-Ubc-tTA-I2Gとした。
【0060】
ウイルス粒子は、293T細胞へ上記レンチウイルスベクターを任意の方法で遺伝子導入することにより作成した。
【0061】
かかるウイルス粒子を目的の細胞に感染させることによって、BMI1、MYC、及びBCL-xLの遺伝子が目的の細胞のゲノム配列に導入される。安定的にゲノム配列に導入されたこれらの遺伝子は、培地にドキシサイクリン (clontech #631311)を加えることによって強制発現させることができる。
【0062】
1−3.造血前駆細胞へのc-MYC及びBMI1ウイルス感染
予めC3H10T1/2フィーダー細胞を播種した6 well plate上に、上記の方法で得られたHPCを5x104cells/wellずつ播種し、レンチウイルス法にてc-MYCおよびBMI1を強制発現させた。このとき、細胞株1種類につき6 wellずつ使用した。即ち、それぞれMOI 20になるように培地中にウイルス粒子を添加し、スピンインフェクション(32℃ 900rpm、60分間遠心)で感染させた。本操作は、12時間おきに2回実施した。
【0063】
培地は、基本培地(15% Fetal Bovine Serum (GIBCO)、1% Penicillin-Streptomycin-Glutamine (GIBCO)、1% Insulin, Transferrin, Selenium Solution (ITS-G) (GIBCO)、0.45mM 1-Thioglycerol (Sigma-Aldrich)、50μg/mL L-Ascorbic Acid (Sigma-Aldrich)を含有するIMDM (Iscove’s Modified Dulbecco’s Medium) (Sigma-Aldrich))に50ng/mL Human thrombopoietin (TPO) (R&D SYSTEMS)、50ng/mL Human Stem Cell Factor (SCF) (R&D SYSTEMS)および2μg/mL Doxycycline (Dox)を添加した培地(以下、分化培地)に、更に、Protamineを最終濃度10μg/mL加えたものを使用した。
【0064】
1−4.巨核球自己増殖株の作製および維持培養
上記の方法でcMYC及びBMI1ウイルス感染を実施した日を感染0日目として、以下の通り、cMYC及びBMI1遺伝子導入型巨核球細胞を培養することで、巨核球自己増殖株をそれぞれ作製した。BMI1遺伝子、c-MYC遺伝子の強制発現は、培地にドキシサイクリン (clontech #631311) 1μg/mLを加えることにより行った。
【0065】
・感染2日目〜感染11日目
ピペッティングにて上記の方法で得られたウイルス感染済み血球細胞を回収し、1200rpm、5分間遠心操作を行って上清を除去した後、新しい分化培地で懸濁して新しいC3H10T1/2フィーダー細胞上に播種した(6well plate)。感染9日目に同様の操作をすることによって継代を実施した。細胞数を計測後1×105 cells/2mL/wellでC3H10T1/2フィーダー細胞上に播種した(6well plate)。
【0066】
・感染12日目〜感染13日目
感染2日目と同様の操作を実施した。細胞数を計測後3×105cells/10mL/100mm dishでC3H10T1/2フィーダー細胞上に播種した(100mm dish)。
【0067】
・感染14日目
ウイルス感染済み血球細胞を回収し、細胞1.0×105個あたり、抗ヒトCD41a-APC抗体(BioLegend)、抗ヒトCD42b-PE抗体(eBioscience)、抗ヒトCD235ab-pacific blue(BioLegend)抗体をそれぞれ2μL、1μL、1μLずつを用いて抗体反応した。反応後に、FACS Verse(BD)を用いて解析した。感染14日目において、CD41a陽性率が50%以上であった細胞を、巨核球自己増殖株とした。
【0068】
1−5.巨核球自己増殖株へのBCL-xLウイルス感染
前記感染14日目の巨核球自己増殖株に、レンチウイルス法にてBCL-xLを遺伝子導入した。MOI 10になるように培地中にウイルス粒子を添加し、スピンインフェクション(32℃ 900rpm、60分間遠心)で感染させた。BCL-xL遺伝子の強制発現は、培地にドキシサイクリン (clontech #631311) 1μg/mLを加えることにより行った。
【0069】
1−6.巨核球不死化株の作成及び維持培養
・感染14目〜感染18日目
前述の方法で得られたBCL-xLを遺伝子導入した巨核球自己増殖株を回収し、1200rpm、5分間遠心操作を行った。遠心後、沈殿した細胞を新しい分化培地で懸濁した後、新しいC3H10T1/2フィーダー細胞上に2×105cells/2mL/wellで播種した(6well plate)。
【0070】
・感染18日目:継代
細胞数を計測後、3×105 cells/10mL/100mm dishで播種した。
【0071】
・感染24日目:継代
細胞数を計測後、1×105 cells/10mL/100mm dishで播種した。以後、4-7日毎に継代を行い、維持培養を行った。
【0072】
感染24日目にBCL-xLを遺伝子導入した巨核球自己増殖株を回収し、細胞1.0×105個あたり、抗ヒトCD41a-APC抗体(BioLegend)、抗ヒトCD42b-PE抗体(eBioscience)、抗ヒトCD235ab-Pacific Blue(Anti-CD235ab-PB; BioLegend)抗体をそれぞれ2μL、1μL、1μLずつを用いて免疫染色した後にFACS Verse(BD)を用いて解析して、感染24日目においても、CD41a陽性率が50%以上である株を不死化巨核球細胞株とした。感染後24日以上増殖することができたこれらの細胞を、不死化巨核球細胞株SeV2-MKCLとした。
【0073】
得られたSeV2-MKCLを、10cmディッシュ(10mL/ディッシュ)で静置培養した。培地は、IMDMを基本培地として、以下の成分を加えた(濃度は終濃度)。
FBS(シグマ#172012 lot.12E261)15%
L-Glutamin (Gibco #25030-081) 2mM
ITS (Gibco #41400-045) 100倍希釈
MTG (monothioglycerol, sigma #M6145-25ML) 450μM
アスコルビン酸 (sigma #A4544) 50μg/mL
Puromycin (sigma #P8833-100MG) 2μg/mL
SCF (和光純薬 #193-15513) 50ng/mL
TPO様作用物質 200ng/mL
培養条件は、37℃、5%CO2とした。
【0074】
2.血小板の生産
次に、ドキシサイクリンを含まない培地で培養することで強制発現を解除した。具体的には、1.の方法で得た不死化巨核球細胞株(SeV2-MKCL)を、PBS(-)で2度洗浄し、1.0x105 cells/mLの播種密度で次の培地に懸濁した。
【0075】
培地は、IMDMに以下の成分が含まれたものである(濃度は終濃度)。
FBS 15%
L-Glutamine (Gibco #25030-081) 2mM
ITS (Gibco #41400-045) 100倍希釈
【0076】
MTG (monothioglycerol, sigma #M6145-25ML) 450μM
アスコルビン酸 (sigma #A4544) 50μg/mL
SCF (和光純薬 #193-15513) 50ng/mL
TPO様作用物質 200ng/mL
ADAM阻害剤 15μM
SR1 750nM
ROCK阻害剤 10μM
【0077】
前述の1.の方法で得た不死化巨核球細胞株(SeV2-MKCL)を上記培地に懸濁して細胞懸濁液を調整した。当該細胞懸濁液2.4Lをバイオリアクター10に添加し、当該細胞懸濁液25mLを125 mL容積シェーカーフラスコに添加した。バイオリアクター10は、少なくとも1段以上の撹拌羽根14を有し、同撹拌羽根14を上下方向に往復動させることが出来る3.0L容積のVMF培養装置(以下、VMFと記載する)を用いた。
VMFの仕様は、次のとおりである。本体外寸法(mm):300W×485D×890H、培養槽11の寸法(mm):内径140×深さ203、培養槽11の液量:3.0 L、撹拌羽根14:下段楕円形状折り曲げ構造+上段平板楕円形状 2段取付、直動伝達方式:リニアシャフトドライブノンシール式、温度調節範囲:室温+5〜20℃、上下動振幅:10〜30 mm、上下動最大翼速度:80〜150 mm/s、計測制御:撹拌, 温度, pH, 溶存酸素, レベル, フィード。図4にVMFを示す。
【0078】
VMFでは、2.4Lの不死化巨核球細胞株懸濁液の培養を行った。培養環境は、37℃および5%CO2とした。撹拌速度は、1.6 Hzとして、撹拌ストローク長は3 cmとした。
【0079】
125 mL容積シェーカーフラスコでは、25mLの不死化巨核球細胞株懸濁液の培養を行った。振とう培養器(N-BIOTEK, AniCell)を用いて、37℃および5%CO2環境下、100 rpm速度で振とう培養した。
【0080】
3.血小板の測定
上記2.の方法で生産された血小板を測定するために、強制発現解除後、培養6日後の培養上清サンプルを回収し、各種抗体による染色と共に、フローサイトメーターを用いた分析を行った。CD41a陽性CD42b陽性の粒子数を正常血小板数とし、CD41a陽性CD42b陰性の粒子数を劣化血小板数とした。アネキシンV陽性の粒子数を異常血小板数とした。また、サンプルをPMA又はADP/Thrombinで刺激し、刺激前後のPAC-1およびCD62pの陽性率を算出して生理活性を測定した。
【0081】
詳しい測定方法と結果は以下のとおりである。
3−1.血小板の測定
正常血小板、劣化血小板、血小板の生理活性の測定のために、1.5 mLマイクロチューブに希釈液 900 mLを添加し、そこに培養上清100 mLを添加し、混合した。希釈混合した培養上清200 mLをFACSチューブに分注し、以下の標識抗体或はタンパク質を添加して染色を行った。異常血小板の測定のために、培養上清 100 mLをFACSチューブに分注し、以下の標識抗体或はタンパク質を添加して染色を行い、フローサイトメーター分析直前にアネキシン V binding buffer(BD)で5倍希釈し、分析した。
使用した抗体は以下のとおりである。
正常血小板および劣化血小板の測定
0.5μL 抗CD41抗体 APC標識(Bio Legend 303710)
0.5μL 抗CD42a抗体PB標識(eBioscience 48-0428-42)
0.5μL 抗CD42b抗体PE標識(eBioscience 12-0428-42)
血小板の生理活性の測定
0.5μL 抗CD42a抗体PB標識(eBioscience 48-0428-42)
0.5μL 抗CD42b抗体PE標識(eBioscience 12-0428-42)
0.5μL 抗CD62p抗体APC標識(Bio Legend 304910)
10μL 抗PAC-1抗体FITC標識(BD 303704)
異常血小板数の測定
0.5μL 抗CD41抗体 APC標識(Bio Legend 303710)
0.5μL 抗CD42a抗体PB標識(eBioscience 48-0428-42)
5 (L Annexin V FITC標識(BD, 556419)
【0082】
3−2.正常血小板生産量の測定
結果を図5に示す。正常血小板生産量は、VMFによる培養では、シェーカーフラスコによる培養に比較して高かった(図5(B))。また、巨核球細胞数当たりの正常血小板数を正常血小板生産効率として算出した場合、シェーカーフラスコによる培養に比べて、VMFによる培養では、当該正常血小板生産効率が約6.0〜7.7倍高かった(図5(C))。つまり、VMFによる培養によって、従来のシェーカーフラスコによる培養よりも、巨核球細胞数当たりの正常血小板生産量を増加させることができた。
【0083】
3−3.劣化血小板の測定
劣化血小板を測定するとき、前記3−1.の方法によって、各処理サンプルをフローサイトメーターを用いて分析し、CD41a陽性CD42b陽性、及び、CD41a陽性CD42b陰性、それぞれの粒子数を測定した。そして、CD41a陽性CD42b陽性の粒子数を正常血小板数、並びに、CD41a陽性CD42b陰性の粒子数劣化血小板数として、正常血小板数に対する劣化血小板数の割合を算出した。
結果を図5に示す。VMFによる培養での正常血小板数に対する劣化血小板数の割合は、シェーカーフラスコによる培養での正常血小板数に対する劣化血小板数の割合の約0.31〜0.39倍に減少した(図5(A))。つまり、VMFによる培養によって、従来のシェーカーフラスコによる培養よりも、劣化血小板の生産量を低く抑えることができた。
【0084】
3−3.血小板生理活性の測定
血小板の刺激は、PMA 0.2 mM (Phorbol 12-myristate 13-acetate, sigma #P1585-1MG)、又は、ADP 100 μM(sigma #A2754)およびThrombin 0.5 U/mL(sigma)で室温にて行った。刺激30分後にBD社FACSverceにて測定を実施した。CD42a陽性の血小板画分における、刺激前後のPAC-1陽性率及びCD62p陽性率を測定し、比較評価した。
結果を図6、及び図7に示す。VMFによる培養では、シェーカーフラスコによる培養に比較して、PMAもしくはADP/Thrombin刺激時のPAC-1陽性率が約1.9〜3.1倍高かった(図6)。また、VMFによる培養では、シェーカーフラスコによる培養に比較して、CD62p陽性率が約1.8〜2.7倍以上高かった(図7)。つまり、VMFによる培養によって、従来のシェーカーフラスコによる培養よりも、生理活性の高い血小板の生産量を増加させることができた。
【0085】
3−4.異常血小板の測定
前記3−1.の方法によって、各処理サンプルをフローサイトメーターを用いて分析し、アネキシンV陽性の粒子数を測定した。CD42b陽性アネキシンV陽性の粒子数を異常血小板数とした。
結果を図8に示す。VMFによる培養では、シェーカーフラスコによる培養に比較して、CD42b陽性アネキシンV陽性の粒子数が約0.31〜0.34倍未満に減少した(図8)。つまり、 VMFによる培養によって、従来のシェーカーフラスコによる培養よりも、異常血小板の生産量を低く抑えることができた。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明によって、シェーカーフラスコによる振とう培養では達成し得ない高品質な血小板を得ることができるのは明白である。故に、本発明は、血小板の工業レベルの大量生産の実現に貢献し得るものである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9