特許第6856540号(P6856540)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6856540核生成剤の使用による微孔性PMMA発泡体の製造
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6856540
(24)【登録日】2021年3月22日
(45)【発行日】2021年4月7日
(54)【発明の名称】核生成剤の使用による微孔性PMMA発泡体の製造
(51)【国際特許分類】
   C08J 9/06 20060101AFI20210329BHJP
【FI】
   C08J9/06CEY
【請求項の数】8
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-551148(P2017-551148)
(86)(22)【出願日】2016年3月24日
(65)【公表番号】特表2018-510248(P2018-510248A)
(43)【公表日】2018年4月12日
(86)【国際出願番号】EP2016056477
(87)【国際公開番号】WO2016156172
(87)【国際公開日】20161006
【審査請求日】2019年1月31日
(31)【優先権主張番号】15161905.3
(32)【優先日】2015年3月31日
(33)【優先権主張国】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】519414848
【氏名又は名称】エボニック オペレーションズ ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】トーマス リヒター
(72)【発明者】
【氏名】クリストフ ザイペル
(72)【発明者】
【氏名】カイ ベアンハート
(72)【発明者】
【氏名】シヴァクマラ ケイ. クリシュナムアジー
(72)【発明者】
【氏名】ゼバスティアン ビューラー
【審査官】 大▲わき▼ 弘子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−018647(JP,A)
【文献】 特表2013−512307(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J9/00−9/42
B29C44/00−44/60;67/20−67/20
C08F2/00−2/60
C08C19/00−19/44;C08F6/00−246/00;301/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
開始剤を0.01〜2.0質量%、発泡剤を2〜20質量%、4〜1000nmの直径を有する酸化ケイ素粒子を0.2〜10質量%およびポリマー形成混合物を70〜97.79質量%、含有する組成物を、20℃〜100℃の温度で重合させ、引き続き130℃〜250℃で発泡させる、ポリメタクリレート発泡材の製造方法であって、
前記ポリマー形成混合物の少なくとも75mol%が、MMAまたはMMA繰り返し単位から成り、かつ0〜80質量%がポリマーおよび/またはオリゴマーとして存在でき、
前記発泡剤が、tert−ブチル(メタ)アクリレート、イソ−プロピル(メタ)アクリレート、tert−ブタノール、tert−ブチルメチルエーテル、イソ−プロパノールおよびポリ(tert−ブチル(メタ)アクリレート)からなる群から選択される少なくとも一種の発泡剤であり、ここでイソ−プロピル(メタ)アクリレートおよび/またはtert−ブチル(メタ)アクリレートが、同時にモノマー組成物の構成要素であり、かつそこから形成されたポリマー中に、完全にまたは部分的に重合導入されることを特徴とするポリメタクリレート発泡材の製造方法。
【請求項2】
前記組成物が、5〜500nmの直径を有するSiO粒子を0.5〜8質量%含有することを特徴とする、請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
前記組成物が、開始剤を0.2〜1.5質量%、発泡剤を3〜15質量%、SiO粒子を0.5〜8質量%およびポリマー形成混合物を75〜97.8質量%を含有し、ここで前記ポリマー形成混合物の少なくとも75mol%が、MMAから成り、かつ0〜50質量%がポリマーおよび/またはオリゴマーとして存在することを特徴とする、請求項1または2記載の製造方法。
【請求項4】
重合を30℃〜70℃の温度で、発泡を150℃〜230℃の温度で行うことを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項記載の製造方法。
【請求項5】
ポリマー形成組成物が、架橋剤を0.5質量%まで、および/または調整剤を1.5質量%まで含有することを特徴とする、請求項1から4までのいずれか1項記載の製造方法。
【請求項6】
前記ポリマー形成混合物が、MMAと共重合可能なコモノマーおよび/または重合導入されたコモノマーをポリマーおよび/またはオリゴマー中に含有し、前記コモノマーが、(メタ)アクリル酸、メチルアクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリル、n−ブチル(メタ)アクリレート、tert−ブチル(メタ)アクリレート、イソ−プロピル(メタ)アクリレート、イソ−ブチル(メタ)アクリレート、スチレン、(メタ)アクリルアミド、1〜12個の炭素原子をアルキル基中に有するN−アルキル(メタ)アクリルアミド、1〜4個の炭素原子をアルキル基中に有するヒドロキシルアルキル(メタ)アクリレートまたはこれらのコモノマー少なくとも2種からの混合物であることを特徴とする、請求項1から5までのいずれか1項記載の製造方法。
【請求項7】
重合および/または発泡を、段階的に様々な温度で行うことを特徴とする、請求項1から6までのいずれか1項記載の製造方法。
【請求項8】
重合および発泡を、少なくとも部分的に同時に行うことを特徴とする、請求項1から7までのいずれか1項記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規の微孔性PMMA発泡体およびその製造に関する。その際、製造時に、適切な発泡剤の他に、核生成剤を有する調製物を使用する。ここで驚くべきことに、本発明によって、非常に微細な細孔および非常に良好な特性を有する、安定した、容易に製造可能なPMMA発泡体を得ることが可能であると確認できた。
【0002】
従来技術
ポリマー硬質発泡材は広く知られており、様々な分野において、例えば絶縁材料として、包装において、および軽量構造物において適用されている。特に軽量構造物の分野において、発泡材は、高い強度を低密度で有することが望ましい。ここで特に、PVC発泡材、PET発泡材、特定のPU発泡材およびP(M)I発泡材、(ポリ(メタ)アクリルイミド)発泡材が使用されており、これらは特に、サンドイッチ状複合材におけるコア材料として適用される。
【0003】
PMMA発泡材は、しばしば文献に記載されているが、今日まで、あまり産業的な意義を獲得しない、乃至全く産業的な意義を獲得してこなかった。その理由は、頻繁に記載されてはいるが、オートクレーブ法による非常に複雑な製造であり、この方法では、PMMAに、気体状の発泡剤、例えばCOまたはNを用いて、高圧下にて、オートクレーブ内で負荷をかけ、その後、これを放圧して膨張させる。それに対して、重合前にモノマーに添加され、重合後はポリマー中に溶解して存在する発泡剤によって発泡されるPMMA硬質発泡材はあまり記載されていない。とはいえ、PMMA発泡体は、その強度および高い耐候性を理由として、非常に興味深い軽量構造物用部材であろう。ここで殊に、非常に微孔性であるPMMA発泡材に対する関心がもたれる。そのような材料は、優れた強度と同時に、僅かな質量およびその他の良好な機械的特性を有することが望ましい。
【0004】
Sekisuiは、一連の出願において、いわゆる「アクリルフォーム」の製造を記載している(例えば、特開48043054号公報(JP48043054)、特開2002003635号公報(JP2002003635)、特開2006045256号公報(JP2006045256)、特開2012201704号公報(JP2012201704)、特開2012201705号公報(JP2012201705)、特開2013075935号公報(JP2013075935))。しかしながら、これらの出願では、MMAに加えて、著しい量のスチレンおよび/またはメタクリルアミドがコモノマーとして記載されている。発泡剤としては特に、尿素が利用される。しかしながら、発泡剤としての尿素は、モノマー混合物中での不良な溶解性を原因として問題を起こすことがあり、このことがまた、発泡体において不均質性を引き起こす可能性があり、小さな細孔の形成を排除する。特開2010018647号公報(JP2010018647)では、先に挙げた出願における唯一の参照として、1〜2mmの細孔径が記載されている。発泡剤としての尿素のさらなる欠点は、これが分解してCOおよびNHになることによって、発泡剤として働くことである。これは、発泡温度が常に尿素の分解温度を上回る必要があり、そのため非常に不良な発泡温度の調整性しかないことを意味する。さらに、NHおよびCOは有毒である。そのうえ、これらの発泡材は基本的に、製造時に多量のスチレンおよび/またはメタクリルアミドをコモノマーとして有する。
【0005】
特許第55139433号公報(JP55139433)では、コモノマーとして4〜35質量%のアクリル酸またはメタクリル酸、ならびに発泡剤として尿素および水を含有する発泡材の製造が記載されている。これは、本来の意味でのPMMA発泡体ではない。細孔径に関する記載はないが、使用される尿素を理由として、同様にかなり大きいと予測される。
【0006】
米国特許第4816492号明細書(US4,816,492)では、(メタ)アクリレート系発泡体の製造が記載されており、ここでモノマー混合物は、発泡剤の存在下で重合される。発泡剤としては、ハロゲン化炭化水素が使用される。しかしながら、ハロゲン化炭化水素を用いた作業には、これらがオゾン層に非常に不利な影響を及ぼし、そのため著しく制限されるという問題がある。その上、発泡プロセスの自由度は制限されており、その結果、制限的にかつそれぞれ相互に依存してでしか、細孔径、細孔分布および発泡体密度を調整することができない。細孔径は、1mm超で記載される。
【0007】
イスラエル国特許出願公開第62693号明細書(IL62693A)および欧州特許第0032720号明細書(EP0032720)では、意図的に非常に粗い細孔を有する発泡されたPMMAの製造が記載されている。この製造は、MMA中で発泡剤含有PMMAビーズ重合体を膨らませ、引き続き、膨張および重合させることによって行われ、ここで膨張は、硬化前に起こる。発泡剤は、まだ液状である反応樹脂の重合につながる温度未満の温度で、発泡剤が負荷されたPMMAビーズが発泡するように選択されている。ここで焦点は、透明な発泡プラスチックの製造にある。この方法における問題は、重合が発泡時点ではまだ完了しておらず、そのため細孔の安定化が非常に狭いプロセスパラメーター限度でしか可能でないことである。そのことから、数ミリメートルの直径および大きな細孔径分布を有する非常に粗い細孔が生じる。
【0008】
欧州特許第0068439号明細書(EP0068439)では、発泡剤の存在下でのMMAの重合および引き続く発泡による、PMMA系発泡体の製造が開示されている。ここで特筆すべきは、明らかに、可塑化剤、殊に、少なくとも3個の炭素原子をアルキル基中に有するメタクリル酸エステルを、MMAを基準として5〜40質量部の量で使用して、発泡体を得ることである。発泡剤としては、炭化水素および/またはフッ化炭化水素が記載されている。例えば直径約5mmの大きな細孔を有する発泡材を製造することが目的であり、それによって、より微孔性の発泡体とは違ってベースポリマーの透明性が維持される。しかしながら、比較的長鎖のアルキル基は、殊に硬質発泡体適用には機械的な理由から所望されないマトリックスポリマーに対して可塑化作用を及ぼす。さらに、ハロゲン化炭化水素も発泡剤として記載されている。また、欧州特許第0068439号明細書(EP0068439)の教示も、発泡体マトリックスにおける非常に大きなセルだけに限定されている。
【0009】
仏国特許発明第1423844号明細書(FR1423844)ではまた、泡沫を含有するPMMAの製造が記載されており、ここで発泡剤としては、同時に重合用の開始剤であるAIBNが利用される。これにより理由付けられる高い濃度の開始剤によって、発泡体中のマトリックスポリマーのモル質量は非常に低い。これはまた、発泡体の機械的特性に対して不利に影響する。しかしながら、実施例で言及される発泡体は、僅かな数の不均一に分布した細孔しか有しない。また、得られる密度も明示されていない。
【0010】
PMMA発泡材の微孔性は、様々な適用について大いに意味のあるものであろう。絶縁適用では一般的に、密度が同じで、気泡ガスが同じである場合、絶縁作用は、発泡材の細孔径が下がるほど上がる。樹脂を含浸させた被覆層が発泡体コアに施与される軽量構造適用では、発泡体コアの樹脂吸収量が僅かであることが、質量削減のために意味がある。このために使用される独立気泡型発泡材の細孔が微細であるほど、より少ない樹脂が吸収され得る。しかしながら、従来技術では、明らかに1mm未満の細孔径を有するPMMA発泡材が実現可能であろう手法が知られていない。
【0011】
発泡剤を特別に添加することなく、オートクレーブ法だけで、1mm未満の小さな細孔径が考えられる。しかしながら、そのような方法は、装置面で非常に煩雑であり、大きな製造処理量にはほぼ適していない。
【0012】
その他の発泡材、例えばPMI発泡体、PVC発泡体またはPP発泡体の製造からは、微細な細孔を、発泡の間に、
a)高い核生成速度、つまり発泡剤による迅速かつ高い過飽和、または
b)いわゆる核生成剤(不均質核生成)
によって得られることが知られている。
【0013】
高い核生成速度は、ポリマーマトリックス中で発泡剤を迅速に過飽和させることによって、例えば、発泡温度において、発泡剤の蒸気圧をはるかに下回るように周囲圧力を準瞬時に低下させることによって、または発泡剤の沸点をはるかに上回るように非常に迅速に温度を上昇させることによって達成される。しかしながら、そのどちらも、PMMAに関しては、発泡剤が重合前に添加される方法において、所望の細孔径が得られる程度で可能ではない。このことは、とりわけPMMAの溶融粘度およびPMMAの低い天井温度に帰因する。さらに、これらのアプローチは、装置面で非常に要求が高く、最も良い場合でも、僅かな処理量を有する小規模製造しか可能にならない。
【0014】
不均質核生成のための核生成剤として、例えば微粉化した物質を使用することができる。これらの粒子は、細孔の形成を容易にする。しかしながらここで、これらの粒子が逆効果も有し得ることに注意する必要がある。というのも、これらの粒子は形成される気泡壁を発泡の際に破壊、いわば「貫通」し、そのようにして、気泡は一体化により大きくなるからである。さらに、これらの微粉化した粒子は、マトリックスポリマーの流動性を悪化させることがあり、このことは発泡を打ち消す作用をもたらす。よって、殊にPMMAについては、適切な核生成剤が知られていない。
【0015】
課題
よって本発明の課題は、ASTM D 3576により特定される500μm未満の平均細孔径を有する微孔性PMMA発泡体を製造するための、従来技術で論じられた欠点を有しない新たな方法を提供することであった。
【0016】
ここで本発明の主な目的は、これらの非常に微孔性であるPMMA発泡体の製造に適したPMMA発泡用核生成剤をつきとめることであった。つまり目的は、発泡プロセスを妨害せず、バッチ溶液中でなるべく良好に均質かつ安定に分散することができ、かつ上記の細孔径をもたらす適切な核生成剤を発見することであった。
【0017】
殊にそれに加えて、本発明の課題は、一方で良好に発泡することができ、その際に、小細孔領域内の細孔径、細孔分布および発泡体密度の調整に関して高い自由度を可能にするPMMA調製物を提供することであった。他方で、この材料は、発泡体として機械的に非常に耐久性があることが望ましい。
【0018】
ここで殊に、本発明の課題は、500μm未満の合計細孔径および250kg/m未満の発泡材密度を有するPMMA発泡材を提供することであった。
【0019】
さらにこの方法では、例えばたいていのハロゲン化炭化水素の場合のように、環境に有害もしくは有毒である、または高いODP(オゾン破壊係数)を有する発泡剤を回避することが望ましい。
【0020】
明記されていないさらなる課題は、本発明の文脈全体、請求項、明細書または実施例から明らかにすることができる。
【0021】
解決策
これらの課題は、PMMA発泡材の新たな製造方法によって解決され、この製造方法では、発泡材の製造が、主にMMAを含有するモノマー混合物を、または主にもしくは完全にMMAから成るポリマーと、主にもしくは完全にMMAから構成されるモノマー混合物とからのシロップを、重合条件において非気体状の発泡剤の存在下で、および核生成剤の存在下で、重合、例えばプレート重合させることによって行われる。その後、第二工程では、そのように得られ、完全に重合され、かつ発泡剤が負荷されたPMMAプレートを加熱によって発泡させるが、ここで核生成剤を添加することによって、小さな均一の細孔が形成される。
【0022】
この方法は殊に、核生成剤が、4〜1000nmの直径を有する酸化ケイ素粒子であることを特徴とする。ここでこの組成物は、1つまたは複数の開始剤を0.01〜2.0質量%、好ましくは0.2〜1.5質量%、1つまたは複数の発泡剤を2〜20質量%、好ましくは3〜15質量%、4〜1000nm、好ましくは5〜500nmの直径を有する酸化ケイ素粒子を0.2〜10質量%、好ましくは0.5〜8質量%およびポリマー形成混合物を70〜97.79質量%、好ましくは75〜97.8質量%を含有し、ここでこのポリマー形成混合物の少なくとも75mol%が、MMAまたはMMA繰り返し単位から成り、かつ0〜80質量%、好ましくは0〜50質量%がポリマーおよび/またはオリゴマーとして存在できる。この組成物をまず、20℃〜100℃、好ましくは30℃〜70℃の温度で重合させ、引き続き130℃〜250℃、好ましくは150℃〜230℃の温度で発泡させる。先に挙げた成分の他に、この組成物は、さらなる成分を27.79質量%まで含有することができる。これらのさらなる成分についての例は殊に、MMA含有ポリマーではないさらなるポリマー成分、紫外線安定剤、フィラーおよび顔料である。
【0023】
酸化ケイ素粒子は、好ましくはSiO粒子である。しかしながら、また、これらの粒子が1:2ちょうどの化学量論を示さないこともあり得る。よって、殊に粒子が非常に小さい場合、化学量論からのずれは30%まで存在してよい。またケイ素は、20%までが、その他の金属イオン、例えばアルミニウムによって交換されていてよい。本発明によると重要なことは、酸素に対するケイ素の化学量論比が0.7〜1.3:2にあること、および粒子中の非酸素原子の少なくとも80mol%がケイ素であることだけである。
【0024】
ポリマー形成混合物は、MMAの他に、25質量%までのさらなる成分を有することができる。これらのさらなる成分は、MMAと共重合可能なモノマー、調整剤および/または架橋剤であり得る。ここで、MMAおよび共重合可能なモノマーを、完全にモノマーとして使用することができる。ポリマー形成組成物は殊に、架橋剤を0.5質量%まで、および/または調整剤を1.5質量%まで含有することができる。
【0025】
しかしながら、より良好に取り扱い可能な本発明の実施形態では、MMAおよび共重合可能なモノマーは、80質量%まで、好ましくは最大50質量%の割合でも、ポリマーおよび/またはオリゴマーとして存在できる。モノマーおよびポリマーまたはオリゴマーから成るシロップの利点は、このシロップが、純粋なモノマー混合物より高い粘度を有し、重合時に、より低い蒸気圧を生み出すということである。
【0026】
MMAと共重合可能なモノマーは殊に、アクリレート、例えば殊に、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレートまたはn−ブチルアクリレートであってよい。アクリレートの共重合によって、発泡材が、殊に高い発泡温度の場合にさらに安定化される。というのも、これらの発泡温度は、純粋なMMAの天井温度を上回っていてよいからである。安定化をもたらすコモノマーが組み込まれていない場合、比較的短い発泡時間または相応して比較的低い発泡温度が好ましい。
【0027】
適切なコモノマーについてのさらなる例は、(メタ)アクリル酸、メタクリレート、例えばエチルメタクリレート、プロピルメタクリル、n−ブチルメタクリレート、tert−ブチル(メタ)アクリレート、イソ−プロピル(メタ)アクリレート、イソ−ブチル(メタ)アクリレート、スチレン、(メタ)アクリルアミド、1〜12個の炭素原子をアルキル基中に有するN−アルキル(メタ)アクリルアミド、1〜4個の炭素原子をアルキル基中に有するヒドロキシルアルキル(メタ)アクリレート、ポリエーテル(メタ)アクリレートであり、ここでポリエーテルは、200〜5000の分子量を有することができる。ここでコモノマーは、これらのコモノマー少なくとも2種からの混合物としても存在できる。これらのコモノマーが、n−ブチル(メタ)アクリレートおよび/またはn−プロピル(メタ)アクリレートである場合、組成物全体に対するその割合は、合計3質量%を上回ることはできない。
【0028】
架橋剤を使用する場合、これらは好ましくは、ジ(メタ)アクリレート、トリ(メタ)アクリレートもしくはテトラ(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレートまたはこれらの架橋剤を少なくとも2種含有する混合物である。
【0029】
調整剤を使用する場合、これらは好ましくは、1〜5個のメルカプタン基を有する化合物、γ−テルピネンまたはこれらの調整剤少なくとも2種からの混合物である。特に好ましくは、調整剤は、ペンタ−エリトリット−テトラ−チオグリコレート、2−メルカプトエタノール、2〜12個の炭素原子を有するアルキルメルカプタン、チオグリコール酸、チオグリコレート、γ−テルピネンまたはこれらの調整剤少なくとも2種からの混合物である。
【0030】
本発明の特に重要な態様は、発泡させるべき組成物における核生成剤の使用である。驚くべきことに、PMMA発泡材の製造における、従来技術に対して新規な、核生成剤の使用によって、特に小さく均一で、かつ均一に分布した細孔を有するPMMA発泡体が得られる。そのようにして得られる微孔性は、様々な適用について大いに意味のあるものである。絶縁適用では一般的に、密度が同じで、気泡ガスが同じである場合、絶縁作用は、発泡材の細孔径が下がるほど上がる。樹脂を含浸させた被覆層が発泡体コアに施与される軽量構造適用では、発泡体コアの樹脂吸収量が僅かであることが、質量削減のために意味がある。このために使用される独立気泡型発泡材の細孔が微細であるほど、より少ない樹脂が吸収され得る。
【0031】
驚くべきことに、酸化ケイ素粒子を使用する場合、核生成剤なしのベース調製物に基づく発泡体に比べて、明らかにより微孔性の発泡体を得られると判明した。よって、例えばAEROSIL OX50(EVONIK Industries AG社)によって、非常に微孔性の発泡体を得ることができる。驚くべきことに、核生成作用ももたらし得るその他の添加剤、例えばタルク粉末によっては、そのような効果は得られないことがさらに判明した。反対に、タルクを使用することによって、発泡がかなり難しくなり、非常に不均質な発泡体が得られた。また、Al粒子(EVONIK Industries AG社のAEROXIDE ALU C)を使用しても成功しなかった。というのも、ここでは発泡が可能でなかったからである。このことが示すのは、ここで示されるPMMA発泡体の製造方法において任意の粒子を導入するだけでは、細孔の微細化が望ましい程度ではもたらされず、驚くべきことに、まず酸化ケイ素粒子だけが細孔の微細化に適しているように思われることである。
【0032】
さらに、本発明により製造されるPMMA発泡材は、驚くほど高い強度および同時に驚くほど低い脆性を有し、そのため、例えば軽量構造物において適用することが可能である。さらに、材料特性が良好であるため、これまでの知見によると流動性または発泡性に対して有利に影響を及ぼすものの、同時にPMMA発泡材の機械的特性、殊に強度に対して不利に影響を及ぼす可塑剤、例えば長鎖状のアルキル(メタ)アクリレートもしくはフタレートの使用を省略することができる。
【0033】
殊に適切な発泡剤は、tert−ブタノール、n−ヘプタン、MTBE、メチルエチルケトン、1〜4個の炭素原子を有するアルコール、水、メチラール、尿素、イソ−プロピル(メタ)アクリレートおよび/またはtert−ブチル(メタ)アクリレートである。ここで、イソ−プロピル(メタ)アクリレートおよび/またはtert−ブチル(メタ)アクリレートを使用する場合、これらは同時に上記モノマー組成物の構成要素であり、かつ、重合で形成されたポリマー中に、まず完全にまたは部分的に重合導入される。その後、発泡時に、プロペンまたはイソ−ブテンを脱離しながら、ポリマー中で(メタ)アクリル酸繰り返し単位が形成される。優れた実施形態では、大きな割合のこれらのモノマーから、または完全にこれらのモノマーから製造されたポリマーも使用することができる。そのような重合導入可能なまたは重合された、発泡剤を放出するコモノマーを使用することによって例えば、特に小さく、規則的な細孔を得ることが可能である。
【0034】
特に適切な発泡剤は、tert−ブチル(メタ)アクリレート、イソ−プロピル(メタ)アクリレート、tert−ブタノール、イソ−プロパノール、tert−ブチルメチルエーテルおよびポリ(tert−ブチル(メタ)アクリレート)である。
【0035】
重合は、好ましくは成形容器内で、殊にチャンバ重合の型内で、2枚のプレート、例えばガラスプレートの間で行われる。これは例えば、最も単純な場合、長方形の槽であってよい。そのような槽内で重合することによって、後にプレートが得られ、その厚さは、槽の充填度またはプレート幅によって決定された。しかしながら、さらには、より複雑な型も容器として考えられる。好ましくは、重合を30〜70℃の温度で行う。ここで、開始剤としては、一般的に知られているラジカル開始剤、例えば過酸化物またはアゾ開始剤の他に、レドックス系または紫外線開始剤も使用することができる。ここで、40℃未満の重合温度は、殊にこれらのレドックス系および紫外線開始剤に関係する。紫外線開始剤は、相応する紫外光で照射することによって開始し、その一方でレドックス開始剤は二成分系であり、これは、両成分およびモノマーを混合することによって開始する。
【0036】
発泡は引き続き、同じ容器内で行うことができ、ここで、この場合の体積増加は、一方向、つまり容器の開いた側に制限される。しかしながら、重合させた材料は、どこであっても発泡させることができる。好ましくは、発泡は炉内で行われる。あるいは、赤外線、殊に0.78〜2.20μm、好ましくは1.20〜1.40μmの波長を有するもので照射することによって発泡を起こすことも可能である。さらなる変法は、マイクロ波による発泡である。また、様々な手法、例えば赤外線、マイクロ波および/または炉内加熱からの組み合わせも考えられる。
【0037】
発泡および事前に行われる重合のどちらも、それぞれ複数の温度段階で行うことができる。重合では、温度を後に上昇させることによって、さらに転化率を上げることができ、延いては残留モノマー含分を低減することができる。発泡では、発泡温度を段階的に上昇させることによって、細孔分布、細孔径および細孔数に影響を及ぼすことができる。
【0038】
任意で本方法は、重合が不完全にのみ、この場合、好ましくは少なくとも80%の転化率で実施され、最終的な完全重合が発泡時に起こるように実施することもできる。そのような方法には、発泡プロセス開始時に、比較的短いポリマー鎖および残留しているモノマーが可塑化作用を有するという利点があるが、完成した発泡材中に、可塑化化合物が残留することはないだろう。よって、そのような実施形態では、重合および発泡が、部分的に発泡温度で同時に行われるであろう。
【0039】
本発明による方法の他に、そのような方法によって例えば製造可能なPMMA発泡材も本発明の構成要素である。ここで、そのようなPMMA発泡材は、この発泡体の固体割合が、少なくとも75mol%のMMA繰り返し単位を有するポリマーを72〜98質量%含み、かつ酸化ケイ素粒子を0.2〜12.5質量%含むことを特徴とする。さらに、発泡材は、25〜250kg/m、好ましくは40〜250kg/mの密度、および500μm未満の平均細孔径を有する。500μm未満の合計細孔径が好ましい。このことは、500μm超の直径を有する細孔が存在しないことを意味する。
【0040】
細孔径をASTM D 3576標準に準拠して特定するが、ただしこの標準から以下のように異なる:まず、PMMA発泡材のカッターによる断面ではなく、PMMA発泡材の破断した端部を観察する。さらに、評価は、細孔が比較的小さいため、光学顕微鏡ではなく、REM測定によって行う。ただしここで、得られる画像からの細孔径の算出は標準に従う。
【0041】
殊に、ポリマーが、MMA、開始剤、ジ(メタ)アクリレート、トリ(メタ)アクリレートもしくはテトラ(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、トリアリルシアヌレートおよび/またはトリアリルイソシアヌレートから選択される1種または複数の架橋剤、ならびに1〜5個のメルカプタン基を有する化合物および/またはγ−テルピネンから選択される、好ましくはペンタ−エリトリット−テトラ−チオグリコレート、2−メルカプトエタノール、2〜12個の炭素原子を有するアルキルメルカプタン、チオグリコール酸、チオグリコレートおよび/またはγ−テルピネンから選択される1種または複数の調整剤のみから形成されたPMMA発泡材が好ましい。
【0042】
本発明により製造されるPMMA発泡材、および本発明によるPMMA発泡材を、様々に使用することができる。そのような使用の例は、軽量構造物における、包装材料としての、衝撃要素内のエネルギー吸収体としての、建築的な構造要素における、光技術適用における拡散体としての、家具構造における、ボート構造における、乗り物構造における、航空産業における、または模型製作における、耐候性絶縁材料、サンドイッチ状複合材用コア材料である。
【0043】
実施例
実施例1
この実施例では、重合導入された発泡剤を用いて発泡させた。
【0044】
MMAのみから製造されたポリメタクリレート266.25g、MMA1065.00g、2,2´−アゾビス−(2,4−ジメチルバレロニトリル)0.75g、調整剤としてのペンタエリトリットテトラチオグリコレート0.60g、n−ブチルアクリレート15.00g、tert−ブチルメタクリレート105.00g、離型剤としてのRewopol SB−DO75 1.50gおよび架橋剤としてのエチレングリコールジメタクリレート0.90gからの混合物を調製した。引き続き、この混合物に、核生成剤としてのAEROSIL OX50 45.00gを攪拌導入し、ここで添加完了後に、さらに20分間にわたり攪拌し、その後、UltraTurraxを用いて分散させた(3000rpmで2分間、5000rpmで1分間)。引き続き、この混合物を、側面をラバーストリップで封止した、寸法400mm*300mmの、互いに10mmの間隔を空けた2つのガラスプレートの間で、24時間にわたり42℃で重合させた。その後、4時間にわたり115℃で温度処理した。最後に、ガラスプレートを取り出した後、得られたPMMAプレートを、1.5時間にわたり215℃で、炉内にて発泡させた。この混合物は非常に良好に発泡し、細孔は均一に分布していた。得られた発泡体は、約100kg/mの密度で、250μmの平均直径を有する非常に微細な細孔を有していた。
【0045】
本発明によると、離型剤は、重合または発泡プロセスに対して影響を及ぼさず、ガラスプレートをポリマーブロックからより簡単に取り外すためだけに用いられる。
【0046】
実施例2
この実施例では、重合導入されていない発泡剤を用いて発泡させ、核生成剤の量を倍にした。
【0047】
MMAのみから製造されたポリメタクリレート257.25g、MMA1029.00g、2,2´−アゾビス−(2,4−ジメチルバレロニトリル)0.75g、調整剤としてのペンタエリトリットテトラチオグリコレート0.60g、n−ブチルアクリレート15.00g、tert−ブチルメチルエーテル(MTBE)105.00g、離型剤としてのRewopol SB−DO75 1.50gおよび架橋剤としてのエチレングリコールジメタクリレート0.90gからの混合物を調製した。引き続き、この混合物に、核生成剤としてのAEROSIL OX50 90.00gを攪拌導入し、ここで添加完了後に、さらに20分間にわたり攪拌し、その後、UltraTurraxを用いて分散させた(3000rpmで2分間、5000rpmで1分間)。引き続き、この混合物を、側面をラバーストリップで封止した、寸法400mm*300mmの、互いに10mmの間隔を空けた2つのガラスプレートの間で、24時間にわたり42℃で重合させた。その後、4時間にわたり115℃で温度処理した。最後に、ガラスプレートを取り出した後、得られたPMMAプレートを、20分間にわたり200℃で、炉内にて発泡させた。この混合物は非常に良好に発泡し、細孔は均一に分布していた。得られた発泡体は、約100kg/mの密度で、100μmの平均直径を有する非常に微細な細孔を有していた。
【0048】
比較例1
この比較例では、実施例1との直接の比較において、核生成剤を省略した。
【0049】
MMAのみから製造されたポリメタクリレート281.25g、MMA1125.00g、2,2´−アゾビス−(2,4−ジメチルバレロニトリル)0.75g、調整剤としてのペンタエリトリットテトラチオグリコレート0.60g、n−ブチルアクリレート15.00g、tert−ブチルメタクリレート75.00g、離型剤としてのRewopol SB−DO75 1.50gおよび架橋剤としてのエチレングリコールジメタクリレート0.90gからの混合物を調製した。引き続き、この混合物を20分間にわたり攪拌した。その後、この混合物を、側面をラバーストリップで封止した、寸法400mm*300mmの、互いに10mmの間隔を空けた2つのガラスプレートの間で、24時間にわたり42℃で重合させた。その後、4時間にわたり115℃で温度処理した。最後に、ガラスプレートを取り出した後、得られたPMMAプレートを、1時間にわたり215℃で、炉内にて発泡させた。この混合物は非常に良好に発泡した。しかしながら、細孔は不均一に分布しており、粗かった。得られた発泡体における細孔の平均直径は、約2000μmであった。
【0050】
比較例2
この比較例では、実施例2との直接の比較において、核生成剤を省略した。
【0051】
MMAのみから製造されたポリメタクリレート281.25g、MMA1125.00g、2,2´−アゾビス−(2,4−ジメチルバレロニトリル)0.75g、調整剤としてのペンタエリトリットテトラチオグリコレート0.60g、n−ブチルアクリレート15.00g、tert−ブチルメチルエーテル(MTBE)75.00g、離型剤としてのRewopol SB−DO75 1.50gおよび架橋剤としてのエチレングリコールジメタクリレート0.90gからの混合物を調製した。引き続き、この混合物を20分間にわたり攪拌した。その後、この混合物を、側面をラバーストリップで封止した、寸法400mm*300mmの、互いに10mmの間隔を空けた2つのガラスプレートの間で、24時間にわたり42℃で重合させた。その後、4時間にわたり115℃で温度処理した。最後に、ガラスプレートを取り出した後、得られたPMMAプレートを、1時間にわたり215℃で、炉内にて発泡させた。この混合物は非常に良好に発泡した。しかしながら、細孔は不均一に分布しており、発泡体は、極めて不均質であり、細孔が粗かった。得られた発泡体における細孔の平均直径は、2000μmを大幅に上回っていた。
【0052】
比較例3
この比較例では、実施例2との直接の比較において、本発明によるものではない核生成剤を使用した。
【0053】
MMAのみから製造されたポリメタクリレート272.25g、MMA1089.00g、2,2´−アゾビス−(2,4−ジメチルバレロニトリル)0.75g、調整剤としてのペンタエリトリットテトラチオグリコレート0.60g、n−ブチルアクリレート15.00g、tert−ブチルメチルエーテル(MTBE)75.00g、離型剤としてのRewopol SB−DO75 1.50gおよび架橋剤としてのエチレングリコールジメタクリレート0.90gからの混合物を調製した。引き続き、この混合物に、核生成剤としてのFinntalc M03−AW(タルク粉末)45.00gを攪拌導入し、ここで添加完了後に、さらに20分間にわたり攪拌し、その後、UltraTurraxを用いて分散させた(3000rpmで2分間、5000rpmで1分間)。引き続き、この混合物を、側面をラバーストリップで封止した、寸法400mm*300mmの、互いに10mmの間隔を空けた2つのガラスプレートの間で、24時間にわたり42℃で重合させた。その後、4時間にわたり115℃で温度処理した。最後に、ガラスプレートを取り出した後、得られたPMMAプレートを、1時間にわたり215℃で、炉内にて発泡させた。この混合物は、極めてゆっくりかつ不均質に発泡した。さらに、細孔は不均一に分布しており、発泡体は、極めて不均質であり、細孔が粗かった。得られた発泡体における細孔の平均直径は、約2000μmであった。