【実施例】
【0109】
実施例
実施例1:キモシンタンパク質配列及び変異体配列のアラインメント及び番号付け
キモシンタンパク質配列を、EBI(EBI、ツール、複数の配列アラインメント、CLUSTALW”、http://www.ebi.ac.uk/Tools/msa/clustalw2/)によって提供され、Larkin MA、Blackshields G、Brown NP、Chenna R、McGettigan PA、McWilliam H、Valentin F、Wallace IM、Wilm A、Lopez R、Thompson JD、Gibson TJ、Higgins DG(2007).Bioinformatics 23(21)、2947-2948に記載された、ClustalWアルゴリズムを用いてアラインした。
【0110】
複数の配列アラインメントのためのClustalW2設定は、タンパク質重量マトリックス=BLOSUM、GAP open=10、GAP EXTENSION= 0.05、GAP DISTANCES=8、No End Gaps、ITERATION=none、NUMITER=1、CLUSTERING=NJ、であった。
【0111】
参照配列として、ウシキモシンBプレプロキモシンを使用し(Genbank受託番号P00794−配列番号1として本明細書に開示される)、ここで、N−末端メチオニンは番号1を有し(MRCL……)、そしてC−末端イソロイシン(タンパク質配列中…LAKAI)は番号381を有する。
【0112】
実施例2:キモシン変異体の設計
キモシン変異体を異なる戦略を用いて設計した。
【0113】
ラクダキモシンに言及される場合、本明細書における配列番号2の成熟ポリペプチドを含むラクダキモシンに言及される。配列番号2のラクダキモシンは、そのラクダキモシン変異体を作製するために使用される、本明細書で関連するキモシン活性を有する親ポリペプチドとして見られる。
【0114】
ウシキモシンに言及される場合、本明細書における配列番号1のポリペプチドを含むウシキモシンに言及される。配列番号1のウシキモシンは、そのウシキモシン変異体を作製するために使用される、関連するキモシン活性を有する親ポリペプチドとして見られる。
【0115】
ラクダキモシンの変異体1〜269及び367〜461は、ウシキモシンBと比較して25%以上の同一性を有する多くの組の公知のアスパラギン酸プロテアーゼ配列の、アラインメントに基づいて設計された。一般に、変異は、種間で高レベルのアミノ酸変異を有する領域に導入されたが、保存された領域は変更されなかった。アミノ酸置換は、β−カゼイン切断に対して有益な効果を示す可能性が高い変化を同定するために、系統学的、構造的及び実験的情報に基づいて選択された。複数の変異を各変異体構築物に導入して、種々の置換の間の共変動の影響を最小限にするために、各単一突然変異が複数の変異体構築物に存在することを確実にした。実験データの機械学習及び統計分析を使用して、キモシン変異体の測定された凝固性能に対するアミノ酸置換の相対的寄与を決定した(参考文献14、15)。
【0116】
変異体271〜366を、ウシキモシン(PDBコード:4AA8)及びラクダキモシン(PDBコード:4AA9)の詳細な構造分析に基づいて設計した。変異を、それぞれのアミノ酸側鎖の化学的性質、及びカゼイン基質結合又は一般的酵素特性のいずれかに対するその予想される影響に基づいて選択した。変異体271〜346におけるアミノ酸置換の大部分は、基質結合溝内に又はそれに構造的に近接しているいずれかの配列位置で、あるいは結合したカゼイン基質と接触する二次構造要素で、作製された。さらに、変化は、これらの領域の電荷プロファイルを変更する、タンパク質表面上の位置で成され(参考文献5)、それゆえ、酵素性能に影響を及ぼすことが予想される。変異体347〜366は、ウシ及びラクダキモシンにおけるN−末端配列の異なる構造配座に基づいて作製された。アミノ酸置換は、ラクダキモシンのN−末端と相互作用する基質結合溝内の位置で成された。
【0117】
実施例3:キモシン変異体酵素材料の調製
全てのキモシン変異体を、合成遺伝子として合成し、真菌発現ベクター、例えばpGAMpR−Cにクローニングした(国際公開第02/36752A2号に記載)
【0118】
ベクターを大腸菌(E.coli)に形質転換し、プラスミドDNAを当業者に既知の標準的な分子生物学プロトコルを用いて精製した。
変異体プラスミドを個々に、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)又はアスペルギルス・ニデュランス(Aspergillus nidulans)株に形質転換し、タンパク質を本質的に国際公開第02/36752A2号に記載のように産生し、標準的なクロマトグラフィー技法を用いて精製した。
【0119】
当該技術分野において知られているように、当業者は、その共通の一般的知識に基づいて、キモシン及びキモシン変異体−例えば本明細書に記載のウシ及びラクダキモシン変異体を、生成及び精製することができる。
【0120】
実施例4:特定のキモシン活性の決定
4.1 乳凝固活性の決定
乳凝固活性を、国際酪農連盟によって開発された標準的な方法(IDF法)である、REMCAT法を用いて決定した。
乳凝固活性を、0.5g/L(pH≒6.5)の塩化カルシウム溶液での、低温、低脂肪乳粉末から調製された標準乳基質の目視可能な凝集に必要とされる時間から決定する。レンネット試料の凝固時間を、既知の凝乳活性を有し、かつIDF標準110Bによって当該試料と同じ酵素組成を有する、参照標準の凝固時間と比較する。試料及び参照標準を、同一の化学的及び物理的条件下で測定した。変異体試料を、84mMの酢酸緩衝液pH5.5を用いて約3IMCU/mlに調整した。その後、200μlの酵素調製物を、一定の攪拌下で32℃±1℃の一定温度を維持することができる水浴中に配置した、ガラス試験管中の10mlの予熱した乳(32℃)に加えた。あるいは、20μLの酵素調製物を、上記のように1mLの予熱した乳に加えた。
レンネットの総凝乳活性(強度)を、以下の式に従って、試料と同じ酵素組成を有する標準に対して国際凝乳単位(IMCU)/mlで計算した:
IMCU/mlでの強度=
S標準 x T標準 x D試料
D標準 x T試料
S標準:レンネットについての国際参照標準の凝乳活性
T標準:標準希釈について得られた秒での凝固時間
D試料:試料についての希釈係数
D標準:標準についての希釈係数
T試料:酵素の添加から凝集の時間までの希釈されたレンネット試料について得られた秒での凝固時間
【0121】
ライブラリ1、3、4及び6変異体、並びに構造設計による変異体の凝固活性決定のために、μIMCU法を、REMCAT法の代わりに使用した。REMCATと比較して、μIMCUアッセイにおけるキモシン変異体の凝集時間を、UV/VISプレートリーダーで800nmにおける96−ウェルマイクロタイタープレートでのOD測定によって決定した。既知の凝固強度を有する参照標準の種々の希釈の標準曲線を、各プレートに対して記録した。84mMの酢酸緩衝液、0.1%のtriton X−100(pH5.5)により酵素を希釈することによって、試料を調製した。32℃での反応を、4%(w/w)低温、低脂肪乳粉末及び7.5%(w/w)塩化カルシウム(pH≒6.5)を含有する標準乳基質の250μLを、25μLの酵素試料に添加することによって、開始した。国際凝乳単位(IMCU)/mlでのキモシン変異体の乳凝固活性を、標準曲線に対する試料の凝集時間に基づいて決定した。
【0122】
4.2 総タンパク質含有量の決定
総タンパク質含有量を、Thermo ScientificからのPierce BCA Protein Assay Kitを使用し、提供者の支持に従って決定した。
【0123】
4.3 凝固比活性の計算
凝固比活性(IMCU/mg総タンパク質)を、凝固活性(IMCU/ml)を総タンパク質含有量(mg総タンパク質/ml)で割ることによって決定した。
【0124】
実施例5:β−カゼイン切断の決定
β−カゼイン加水分解活性の決定
乳タンパク質のキモシン媒介タンパク質分解を、pH4.6で抽出した水溶性ペプチドのプロファイルを決定することによって特徴づけた。96ウェルプレートで作製された無培養(culture free)チーズモデルを研究に使用した。簡潔には、グルコノ−デルタ−ラクトン(GDL)及び塩化カルシウムを添加した、Ollingegard、Denmarkからの750μlのスキムミルクを、96ディープウェルプレートのウェルに等分した。乳へのGDLの添加から10分後に、キモシンの変異体をプレートの個々のウェルに添加して、0.05IMCU/mlの最終活性とした。形成した凝塊を、ピペットチップで凝塊を十分に攪拌することによって、レンネットの添加から30分後に切断した;各ウェルに新しいチップを使用した。その後、プレートをさらに60分間放置した後、2500gで10分間プレートを遠心分離することによって、カード及びホエーを分離した。乳を、レンネッティング(renneting)、切断及び離水(syneresis)の間、30℃に保った。最後に、ホエーをプレートからデカントし、プレートに残ったレンネットカードのペレットを4日間室温で保存した。各ウェルに0.5Mのクエン酸三ナトリウムの500μlを添加し、プレートを37℃で24時間穏やかに振とうすることによって、ペプチドを抽出した。次に、ここで完全に溶解したレンネットカードを、4.4〜4.5の最終pHまで塩酸を添加することによって沈殿させた。プレートを遠心分離機でスピンダウンし、pH4.5可溶性ペプチドのさらなる分析のために上清を回収した。
【0125】
pH4.5可溶性ペプチドのプロファイルを、ESI−Q−TOF質量分析計に接続したRP−HPLCを用いて決定した。質量分析計(G6540A Q−TOF、Agilent Technologies A/S、サンタクララ、カリフォルニア、USA)に接続された、液体クロマトグラフィーシステム(Agilent 1290 infinity、Agilent Technologies A/S、サンタクララ、カリフォルニア、USA)を用いて、分析を行った。LCシステムにおけるカラムは、Ascentis Express Peptide ES−C18m、2.7μm、100x2.1mm(Supelco、Sigma-Aldrich、セントルイス、USA)であった。移動相は、溶離液A(水中の0.1%ギ酸)、及び溶離液B(アセトニトリル:水中の0.1%ギ酸、9:1)からなる。2%Bでのカラムの平衡化後、10μLの試料容量を注入した。溶離液Bを15カラム容量にわたって2%から50%まで増加させることによって生成した勾配溶離によって、ペプチドを分離した。流速は0.44mL/分であった。214nmでのUV吸光度を連続的に測定することにより、ペプチドを検出した。100〜2000m/zのMSスキャンを実行することによって、質量スペクトルを収集した。各スキャンからの2つの最も強いイオンに対して、MS/MS分析を実施した。分析された全ての試料の等量からなる混合試料を調製し、この試料を各12試料について分析した。MSデータを、Agilent .dフォーマットから、MSConvert ver.3.0.6618を用いて.mzmlファイルに変換した。全てのさらなるデータ分析はR3.1.3を用いて行った。ペプチドを、Rパッケージ「MSGFplus」バージョン1.05を用いてMS/MSスペクトルから同定した。ペプチド同定のための検索データベースは、ウシの乳タンパク質:αs1−カゼイン、αs2−カゼイン、β−カゼイン、κ−カゼイン、β−ラクトグロブリン、α−ラクトアルブミン、ラクトペルオキシダーゼ及びラクトフェリン、に限定された。セリンのリン酸化及びメチオニンの酸化が、可変修飾として含まれた。Rパッケージ「xcms」v.1.42.0を、Smithら(2006)に従って試料セットにおける試料にわたってピークを検出及びグループ化するために使用した。Massifquant法をピーク検出のために使用し、ピークのグループ化は密度法に基づいて行った。同一性は、β−カゼイン193−209を含む同定されたペプチドの定量的表をもたらす、グループ化されたピークに割り当てられた。
【0126】
β−カゼイン切断に対する位置及び突然変異の影響の統計分析
統計的機械学習アプローチ及びPCAに基づく分析を用いて、位置192/193でのβ−カゼインの切断に対する、マルチ置換ライブラリ1〜3、4及び6の変異体に存在する全ての単一突然変異の影響を決定した。
【0127】
結果
マルチ置換ライブラリ1
野生型と比較して複数の置換をそれぞれ有するラクダキモシンの変異体を生成し、上記のように分析した。全ての変異体は、表に記載された変異を除いて、ラクダキモシン(配列番号2の成熟ポリペプチド)と同一のアミノ酸配列を有する。ウシ及びラクダキモシンのいずれも、参照として含まれた。
【0128】
凝固活性は、μIMCU法を用いて決定した。
【0129】
【表2-1】
【表2-2】
【表2-3】
【0130】
表1には、位置192/193でのβ−カゼインの切断に関するデータを有するラクダキモシン変異体が示されている。全ての酵素変異体は、実験において0.05IMCU/mLの正規化された濃度で使用されたため、低いβ−カゼイン切断は、低い一般的酵素活性よりもむしろ、β−カゼイン192/193を超えるκ−カゼイン104/105の切断についてのそれぞれの変異体の高い特異性を示す。
β−カゼインに対する野生型タンパク質分解活性の半分以下を有する変異体は、太字で強調されている(変異体9、16、26、39、47、51、60、68、78、84、95)。それらにおいて、示された変異体セット全体に存在する突然変異のパターンと比較して、突然変異V32L、L130I、及びS132Aが過剰に出現している。突然変異V32Lを有する6つの変異体のうち4つ、突然変異L130Iを有する6つの変異体のうち4つ、及び突然変異S132Aを有する5つの変異体のうち3つが、野生型ラクダキモシンの50%と等しいかそれ未満のβ−カゼイン192/193切断を示している。
【0131】
ラクダキモシンの三次元構造において、位置V32は基質ペプチド配列のP1残基と相互作用しており(
図2)、一方で、位置L130及びS132はそれぞれ、P5´(L130)並びにP2´及びP6´(S132)と相互作用している(
図3;参考文献5〜10)。キモシン基質結合部位における3つの位置の配置は、突然変異V32L、L130I、及びS132Aが、より低いβ−カゼイン192/193切断を引き起こし、したがって、κ−及びβ−カゼインとの直接的な相互作用によって、一定の凝固強度でβ−カゼインフラグメントβ(193−209)のより低い生成を引き起こすことを示唆している。変異体セットを通して最も低いβ−カゼイン192/193切断を示している、変異体95は、突然変異V32L及びL130Iの両方を含んでいる。これは、カゼイン基質特異性に対する突然変異の影響の加法性を示唆している。
【0132】
マルチ置換ライブラリ2
野生型と比較して複数の置換をそれぞれ有するラクダキモシン変異体の別のセットを生成し、上述のように分析した。全ての変異体は、表に記載された変異を除いて、ラクダキモシンと同一のアミノ酸配列を有する。ウシ及びラクダキモシンのいずれも、参照として含まれた。凝固活性は、REMCAT法を用いて決定した。
【0133】
【表3-1】
【表3-2】
【0134】
表2には、位置192/193でのβ−カゼインの切断に関するデータを有するラクダキモシン変異体が示されている。全ての酵素変異体は、実験において0.05IMCU/mLの正規化された濃度で使用されたため、低いβ−カゼイン切断は、低い一般的酵素活性よりもむしろ、β−カゼイン192/193切断を超えるκ−カゼイン104/105の切断についてのそれぞれの変異体の高い特異性を示す。
【0135】
β−カゼインに対する野生型タンパク質分解活性の25%未満を有する変異体は、太字で強調されている(変異体110、112、122、125、132)。それらにおいて、示された変異体セット全体に存在する突然変異のパターンと比較して、突然変異V32Lが過剰に出現している。突然変異V32Lを有する6つの変異体のうち5つが、野生型ラクダキモシンの25%と等しいかそれ未満のβ−カゼイン192/193切断を示している。これらの結果は、先の変異体セットの所見及び結論を支持する。
【0136】
マルチ置換ライブラリ3
野生型と比較して複数の置換をそれぞれ有するラクダキモシン変異体の第3のセットを生成し、上述のように分析した。全ての変異体は、表に記載された変異を除いて、ラクダキモシンと同一のアミノ酸配列を有する。ウシ及びラクダキモシンのいずれも、参照として含まれた。凝固活性は、μIMCU法を用いて決定した。
【0137】
【表4】
【0138】
表3には、位置192/193でのβ−カゼインの切断に関するデータを有するラクダキモシン変異体が示されている。全ての酵素変異体は、実験において0.05IMCU/mLの正規化された濃度で使用されたため、低いβ−カゼイン切断は、低い一般的酵素活性よりもむしろ、β−カゼイン192/193を超えるκ−カゼイン104/105の切断についてのそれぞれの変異体の高い特異性を示す。
β−カゼインに対する野生型タンパク質分解活性の10%未満を有する変異体は、太字で強調されている(変異体150、161、165)。それらにおいて、示された変異体セット全体に存在する突然変異パターンと比較して、突然変異V32Lが過剰に出現している。突然変異V32Lを有する3つ全ての変異体が、野生型ラクダキモシンの10%未満のβ−カゼイン192/193切断を示している。
この変異体セットからの1つの変異体のみ(変異体176)が、野生型ラクダキモシンと比較して50%を超えるβ−カゼイン192/193切断を示している。これはまた、突然変異L12Mを欠いているこのセットからの唯一の変異体である。
【0139】
位置L12は、酵素の基質結合溝に結合しているラクダキモシンのN−末端の近くの配列ストレッチに位置している(
図4)。ラクダキモシンにおいて、N−末端配列は、基質が結合していない時に、酵素の基質結合溝をブロックしていることが記載されている(参考文献5)。カゼイン基質分子は、活性部位に結合するためにこのN−末端配列を置き換える必要があり、続いて切断される。酵素のこの不活性形態を安定化しているキモシンにおける突然変異は、結果として基質結合を減少させ、したがって、カゼイン切断特異性に影響を与え得る。本発明者らは、この作用のモードを突然変異L12Mに結論付けた。ラクダキモシンの三次元構造において、位置L12及びV32は互いに直接接触している。β−カゼイン結合に対するその直接的な影響に加えて、V32Lが同様に酵素の不活性形態を安定化し得る。両方の突然変異を含む変異体(150、161、165)は、このセットの全ての変異体の中で最も低いβ−カゼイン192/193切断を示したので、カゼイン基質特異性に対するそれらの影響は加法的であると思われる。
【0140】
マルチ置換ライブラリ1〜3の突然変異分析
β−カゼイン切断に対する位置及び突然変異の影響の統計分析を、ライブラリ1〜3のタンパク質分解データに基づいて行った。減少したβ−カゼイン切断に最も有益な突然変異を、表4に示す。
【0141】
【表5】
【0142】
得られた結果に基づいて、表4に示された突然変異がβ−カゼイン192/193切断を減少させ、上述の突然変異L130I、S132A、V32L、及びL12Mが突然変異の中で最も強い影響を有すると結論付けられる(表4に太字で強調されている)。表4に示された突然変異は、β−カゼインのC−末端フラグメント、β(193−209)のより少ない生成を引き起こすため、それらは、β−カゼインの切断を減少させることによる、より苦味の少ないチーズを製造するためのキモシン変異体における好ましい突然変異を表す。
【0143】
マルチ置換ライブラリ4
野生型と比較して複数の置換をそれぞれ有するラクダキモシン変異体の別のセットを生成し、上述のように分析した。全ての変異体は、表に記載された変異を除いて、ラクダキモシン(配列番号2の成熟ポリペプチド)と同一のアミノ酸配列を有する。ラクダキモシン(CHY−MAX M)が参照として含まれる。
【0144】
凝固活性は、μIMCU法を用いて決定した。
【0145】
【表6】
【0146】
表5には、β−カゼイン192/193の切断に関するデータを有するラクダキモシン変異体が示されている。全ての変異体は、野生型ラクダキモシンと比較して、44%〜93%減少したタンパク質分解活性を明らかにしている。
【0147】
マルチ置換ライブラリ4の突然変異分析
β−カゼイン切断に対する位置及び突然変異の影響の統計分析を、ライブラリ4変異体のタンパク質分解データに基づいて行った。減少したβ−カゼイン切断に最も有益な突然変異を表6に示す。
【0148】
【表7】
【0149】
得られた結果に基づいて、表6に示された突然変異がβ−カゼイン192/193切断を減少させることが結論付けられる。
これらの突然変異は、β−カゼインのC−末端フラグメント、β(193−209)のより少ない生成を引き起こすため、それらは、β−カゼインの切断を減少させることによる、より苦味の少ないチーズを製造するためのキモシン変異体における好ましい突然変異を表す。
【0150】
マルチ置換ライブラリ5
野生型と比較して複数の置換をそれぞれ有するラクダキモシン変異体の別のセットを生成し、上述のように分析した。全ての変異体は、表に記載された変異を除いて、ラクダキモシン(配列番号2の成熟ポリペプチド)と同一のアミノ酸配列を有する。ラクダキモシン(CHY−MAX M)が参照として含まれる。
【0151】
凝固活性をREMCAT法を用いて決定した。
【0152】
【表8】
【0153】
表7には、β−カゼイン192/193の切断に関するデータを有するラクダキモシン変異体が示されている。47個の変異体のうち、46個が野生型ラクダキモシンと比較して、16%〜83%減少したタンパク質分解活性を明らかにしている。
【0154】
マルチ置換ライブラリ5の突然変異分析
β−カゼイン切断に対する位置及び突然変異の影響の統計分析を、ライブラリ5変異体のタンパク質分解データに基づいて行った。減少したβ−カゼイン切断に最も有益な突然変異を、表8に示す。
【0155】
【表9】
【0156】
得られた結果に基づいて、表8に示された突然変異がβ−カゼイン192/193切断を減少させることが結論付けられる。
これらの突然変異は、β−カゼインのC−末端フラグメント、β(193−209)のより少ない生成を引き起こすため、それらは、β−カゼインの切断を減少させることによる、より苦味の少ないチーズを製造するためのキモシン変異体における好ましい突然変異を表す。
【0157】
ラクダキモシンにおける構造に基づく変異
ラクダキモシン(配列番号2)の変異体を、タンパク質構造分析によって決定された位置におけるアミノ酸変化により作製した(表9)。突然変異N100Q及びN291Qを、これらの変異体及び参照ラクダキモシン(CamUGly)の両方のN−グリコシル化部位に導入して、非グリコシル化された均質なタンパク質試料を得た。
【0158】
凝固活性は、μIMCU法を用いて決定した。
【0159】
【表10】
【0160】
表9に示された結果に基づいて、突然変異K19T、Y21S、V32L、D59N、H76Q、I96L、L130I、S132A、Y190A、L222I、S226T、D290E、D290L、R242E、R242Q、Y243E、G251D、R254S、S273D、S273Y、Q280E、F282E、G289S、及びV309Iが、β−カゼイン192/193の切断を10%超減少させることが結論付けられる。
これらの突然変異は、β−カゼインのC−末端フラグメント、β(193−209)のより少ない生成を引き起こすため、それらは、β−カゼインの切断を減少させることによる、より苦味の少ないチーズを製造するためのキモシン変異体における好ましい突然変異を表す。
【0161】
表9に示された減少したβ−カゼイン192/193の切断を有する24個の変異体のうち10個が、基質結合溝内に又はその構造的近接に突然変異(V32L、H76Q、L130I、S132A、Y190A、L222I、S226T、G289S、D290E、D290L)を有し(
図5)、β−カゼイン結合に対するそれらの突然変異の直接的な影響を示唆している。
【0162】
表9に示された減少したβ−カゼイン192/193の切断を有する24個の変異体のうち9個が、
図6に見られるように結合溝に近接して位置するタンパク質表面上の明確な領域に、突然変異(R242E、R242Q、Y243E、G251D、R254S、S273D、S273Y、Q280E、F282E)を有する。この領域は、位置P10〜P4(参考文献10)においてその正に荷電した配列Arg96〜His102(参考文献5、16〜18)と相互作用することによって、κ−カゼイン基質の結合を支持することが示唆されている。導入された突然変異は、タンパク質表面上のこの領域の正味の電荷を減少させることによって、それらの相互作用を強化し得る。κ−カゼインの結合の増加は最終的に、他の基質、例えばβ−カゼインの結合及び加水分解を阻害することになる。結果は、この領域における単一アミノ酸置換がC/Pを有意に増加させることができることを示す。
【0163】
ラクダキモシンにおける負電荷の組み合わせ
ラクダキモシン(配列番号2)のより多くの変異体を、上記の表面領域(R242E、Y243E、G251D、N252D、R254E、S273D、Q280E)に、負電荷を導入する突然変異の組み合わせにより作製した。突然変異N100Q及びN291Qを、これらの変異体及び参照ラクダキモシン(CamUGly)の両方のN−グリコシル化部位に導入して、非グリコシル化された均質なタンパク質試料を得た(表10)。
【0164】
凝固活性は、μIMCU法を用いて決定した。
【0165】
【表11】
【0166】
表10に示された全ての変異体が、非グリコシル化ラクダキモシンと比較して、減少したβ−カゼイン切断を明らかにしている。キモシン構造上の領域と相互作用するP10−P4に負電荷を導入することによるβ−カゼイン切断の阻害は、それぞれの突然変異の組み合わせによってさらに増強され得ると結論付けられる。
【0167】
ウシキモシンにおける構造に基づく変異
ウシキモシン(配列番号1)の変異体を、タンパク質構造解析によって決定された位置におけるアミノ酸変化により作製した(表11)。突然変異N252Q及びN291Qを、これらの変異体及び参照ウシキモシン(BovUGly)の両方のN−グリコシル化部位に導入して、非グリコシル化された均質なタンパク質試料を得た。
【0168】
凝固活性は、μIMCU法を用いて決定した。
【0169】
【表12】
【0170】
I136Vを除いて、全ての突然変異が、表11に示された変異体においてβ−カゼイン192/193の切断の増加を引き起こした。特に、置換I136V、Q242R、D251G、S289G、及びE290Dは、ウシキモシンのβ−カゼイン切断を増加させたが、減少したβ−カゼイン切断が、ラクダキモシンにおけるそれぞれの逆突然変異V136I、R242Q、G251D、G289S、及びD290Eによって観察された(表9)。同様の影響が位置32に見られる。V32Lはラクダキモシンのβ−カゼイン切断の減少を引き起こしたが、Vに構造的に類似したβ分岐疎水性アミノ酸である、IへのL32の突然変異は、ウシキモシンのβ−カゼイン切断の増加をもたらした。これは、これらのアミノ酸変化が種を超えて、キモシン特異性に同様の効果を発揮することを実証している。
【0171】
ラクダキモシンN−末端の変異
ラクダキモシン(配列番号2)の変異体を、基質結合溝内のN−末端配列Y11−D13の分子相互作用のタンパク質構造解析によって決定された位置におけるアミノ酸変化により作製した(表12)。突然変異N100Q及びN291Qを、これらの変異体及び参照ラクダキモシン(CamUGly)の両方のN−グリコシル化部位に導入して、非グリコシル化された均質なタンパク質試料を得た。
【0172】
凝固活性は、μIMCU法を用いて決定した。
【0173】
【表13】
【0174】
ラクダキモシン構造の分析は、N−末端配列Y11−D13、並びにY11の潜在的な相互作用パートナーである位置D290における変異を導いた(
図7)。カゼイン基質は、結合溝内に結合するためにN−末端キモシン配列と競合するので、結合溝とモチーフY11−D13との相互作用を変化させるアミノ酸置換は、種々のカゼイン基質に対する酵素活性に、したがって、β−カゼイン192/193の切断に、影響を与えることが期待される。それぞれの変異体347〜366の結果は、β−カゼイン切断の強い変異を示す(表12)。特に、変異体353及び355は、いずれも突然変異D290Eを有し、β−カゼイン切断の減少を明らかにしている。
【0175】
マルチ置換ライブラリ6
野生型と比較して複数の置換をそれぞれ有するラクダキモシン変異体の別のセットを生成し、上述のように分析した。全ての変異体は、表に記載された変異を除いて、ラクダキモシン(配列番号2の成熟ポリペプチド)と同一のアミノ酸配列を有する。ラクダキモシン(CHY−MAX M)が参照として含まれる。
【0176】
凝固活性は、μIMCU法を用いて決定した。
【0177】
【表14】
【0178】
表13には、β−カゼイン192/193の切断に関するデータを有するラクダキモシン変異体が示されている。50個全ての変異体は、野生型ラクダキモシンと比較して、19%〜97%減少したタンパク質分解活性を明らかにしている。
【0179】
マルチ置換ライブラリ6の突然変異分析
β−カゼイン切断に対する位置及び突然変異の影響の統計分析を、ライブラリ6変異体のタンパク質分解データに基づいて行った。減少したβ−カゼイン切断に最も有益な突然変異を、表14に示す。
【0180】
【表15】
【0181】
得られた結果に基づいて、表14に示された突然変異がβ−カゼイン192/193切断を減少させることが結論付けられる。
これらの突然変異は、β−カゼインのC−末端フラグメント、β(193−209)のより少ない生成を引き起こすため、それらは、β−カゼインの切断を減少させることによる、より苦味の少ないチーズを製造するためのキモシン変異体における好ましい突然変異を表す。
【0182】
野生型と比較して複数の置換をそれぞれ有するラクダキモシン変異体の別のセットを生成し、上述のように分析した。全ての変異体は、表に記載された変異を除いて、ラクダキモシン(配列番号2の成熟ポリペプチド)と同一のアミノ酸配列を有する。ラクダキモシン(CHY−MAX M)が参照として含まれる。
【0183】
凝固活性は、μIMCU法を用いて決定した。
【0184】
【表16】
【0185】
表15には、β−カゼイン192/193の切断に関するデータを有するラクダキモシン変異体が示されている。45個全ての変異体は、野生型ラクダキモシンと比較して減少したタンパク質分解活性を示す。
【0186】
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