特許第6856613号(P6856613)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6856613
(24)【登録日】2021年3月22日
(45)【発行日】2021年4月7日
(54)【発明の名称】組合せスラストワッシャ
(51)【国際特許分類】
   F16C 17/04 20060101AFI20210329BHJP
   F16C 33/10 20060101ALI20210329BHJP
【FI】
   F16C17/04 Z
   F16C33/10 Z
【請求項の数】10
【全頁数】31
(21)【出願番号】特願2018-240305(P2018-240305)
(22)【出願日】2018年12月21日
(65)【公開番号】特開2020-101239(P2020-101239A)
(43)【公開日】2020年7月2日
【審査請求日】2019年9月20日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000215785
【氏名又は名称】TPR株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000121
【氏名又は名称】アイアット国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】池田 眞樹
(72)【発明者】
【氏名】▲濱▼中 秀一郎
【審査官】 倉田 和博
(56)【参考文献】
【文献】 登録実用新案第3098749(JP,U)
【文献】 特開平11−082487(JP,A)
【文献】 特開2015−152061(JP,A)
【文献】 特開2002−081446(JP,A)
【文献】 特開2007−016931(JP,A)
【文献】 特開2007−023858(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 17/00 − 17/26
F16C 33/00 − 33/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
挿通孔を囲むリング状部を有するスラストワッシャを複数備える組合せスラストワッシャであって、
組合せスラストワッシャには、少なくとも1枚の樹脂を含む材料からなる樹脂製スラストワッシャが設けられていて、
前記樹脂製スラストワッシャには、前記リング状部の表面と裏面に他の部材と摺動する摺動面が設けられ、さらに前記表面と前記裏面の少なくとも一方に前記摺動面から凹むと共に潤滑油が入り込む油溝が設けられていて、
前記油溝には、前記摺動面よりも凹んでいる開口部が前記リング状部の内周端部に存在し、その開口部の存在によって前記挿通孔側から前記潤滑油が入り込むと共に、
前記リング状部の外周端部には、前記油溝と前記リング状部の外側とを隔てる油止壁が設けられていて、該油止壁の厚み方向における位置は前記摺動面と同程度の位置に設けられていて、
前記油止壁の存在により前記油溝に入り込んだ前記潤滑油が前記リング状部の外周側に流出するのを抑制していて、
前記油溝には、前記リング状部の径方向に対して一方側に傾斜している第1油溝と、前記リング状部の径方向に対して前記一方側とは異なる他方側に傾斜している第2油溝とが設けられていて、
前記第1油溝と前記第2油溝は、前記開口部で連結されていて、
前記第1油溝、前記第2油溝、前記開口部および前記リング状部の外周端部で囲まれた包囲部は、前記摺動面よりも厚み方向において凹んでいて、
前記包囲部と前記第1油溝、および前記包囲部と前記第2油溝の間には、これらを隔てる油堤部が設けられていて、該油堤部の厚み方向における位置は、前記摺動面と同程度の位置に設けられている、
ことを特徴とする組合せスラストワッシャ。
【請求項2】
請求項1記載の組合せスラストワッシャであって、
前記樹脂製スラストワッシャの前記油溝が設けられた面には、前記油溝とは別途に、前記摺動面から凹むと共に潤滑油が入り込む連通油溝が設けられていて、
前記リング状部の外周端部は、前記連通油溝と前記リング状部の外側とは隔てられずに凹むと共に、前記リング状部の内周端部も、前記連通油溝と前記リング状部の内側とは隔てられずに凹んでいる、
ことを特徴とする組合せスラストワッシャ。
【請求項3】
請求項1または2に記載の組合せスラストワッシャであって、
組合せスラストワッシャには、少なくとも1枚の金属を材質とする金属製スラストワッシャが設けられている、
ことを特徴とする組合せスラストワッシャ。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の組合せスラストワッシャであって、
前記スラストワッシャは、3枚設けられていて、
3枚の前記スラストワッシャの配列の中央に配置されている前記スラストワッシャの前記リング状部の表面と裏面には、前記油溝が形成されない状態の平滑な摺動面が設けられている、
ことを特徴とする組合せスラストワッシャ。
【請求項5】
挿通孔を囲むリング状部を有する3枚のスラストワッシャを備える組合せスラストワッシャであって、
組合せスラストワッシャには、少なくとも1枚の樹脂を含む材料からなる樹脂製スラストワッシャが設けられていて、
前記樹脂製スラストワッシャには、前記リング状部の表面と裏面に他の部材と摺動する摺動面が設けられ、さらに前記表面と前記裏面の少なくとも一方に前記摺動面から凹むと共に潤滑油が入り込む油溝が設けられていて、
前記油溝には、前記摺動面よりも凹んでいる開口部が前記リング状部の内周端部に存在し、その開口部の存在によって前記挿通孔側から前記潤滑油が入り込むと共に、
前記リング状部の外周端部には、前記油溝と前記リング状部の外側とを隔てる油止壁が設けられていて、該油止壁の厚み方向における位置は前記摺動面と同程度の位置に設けられていて、
前記油止壁の存在により前記油溝に入り込んだ前記潤滑油が前記リング状部の外周側に流出するのを抑制していると共に、
枚の前記スラストワッシャの配列の中央に配置されている前記スラストワッシャの前記リング状部の表面と裏面には、前記油溝が形成されない状態の平滑な摺動面が設けられている、
ことを特徴とする組合せスラストワッシャ。
【請求項6】
請求項4または5記載の組合せスラストワッシャであって、
前記配列の一端側および他端側に配置されている前記スラストワッシャは前記樹脂製スラストワッシャであると共に、
前記配列の一端側および他端側に配置されている前記樹脂製スラストワッシャのうち、前記配列の中央に配置されている前記スラストワッシャと対向する面には、前記油溝が設けられている、
ことを特徴とする組合せスラストワッシャ。
【請求項7】
請求項6記載の組合せスラストワッシャであって、
前記配列の一端側および他端側に配置されている前記樹脂製スラストワッシャのうち、前記配列の中央に配置されている前記スラストワッシャと対向する面と反対側の面には、前記油溝が形成されない状態の平滑な摺動面が設けられている、
ことを特徴とする組合せスラストワッシャ。
【請求項8】
請求項4から7のいずれか1項に記載の組合せスラストワッシャであって、
3枚の前記スラストワッシャの配列の中央に配置されている前記スラストワッシャは、金属を材質とする金属製スラストワッシャである、
ことを特徴とする組合せスラストワッシャ。
【請求項9】
挿通孔を囲むリング状部を有する3枚のスラストワッシャを備える組合せスラストワッシャであって、
組合せスラストワッシャには、少なくとも1枚の樹脂を含む材料からなる樹脂製スラストワッシャが設けられていて、
3枚の前記スラストワッシャの配列の中央には、前記樹脂製スラストワッシャが配置され、
前記配列の中央に配置された前記樹脂製スラストワッシャには、前記リング状部の表面と裏面に他の部材と摺動する摺動面が設けられ、さらに前記表面と前記裏面に前記摺動面から凹むと共に潤滑油が入り込む油溝が設けられていて、
前記油溝には、前記摺動面よりも凹んでいる開口部が前記リング状部の内周端部に存在し、その開口部の存在によって前記挿通孔側から前記潤滑油が入り込むと共に、
前記リング状部の外周端部には、前記油溝と前記リング状部の外側とを隔てる油止壁が設けられていて、該油止壁の厚み方向における位置は前記摺動面と同程度の位置に設けられていて、
前記油止壁の存在により前記油溝に入り込んだ前記潤滑油が前記リング状部の外周側に流出するのを抑制している、
ことを特徴とする組合せスラストワッシャ。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか1項に記載のスラストワッシャであって、
前記リング状部の内周側には、前記開口部へ前記潤滑油をガイドする油掬い面が設けられていて、
前記油掬い面は、前記摺動面に対して傾斜して設けられている、
ことを特徴とする組合せスラストワッシャ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のスラストワッシャから構成される組合せスラストワッシャに関する。
【背景技術】
【0002】
クラッチ装置、歯車機構やコンプレッサ等のような機械装置においては、たとえば特許文献1から特許文献4に示すような、スラストワッシャが取り付けられる場合がある。特許文献1に開示のスラストワッシャには、油溝が挿通孔から外周側に向かうように形成されている。また、特許文献2に開示のスラストワッシャには、スラストワッシャの内周面と外周面とを連通する第1油路と、内周面には開口するものの外周面に開口しない行き止まりの第2油路とが設けられている。
【0003】
また、特許文献3に開示のスラストワッシャには、円弧状の給油溝やV字形の給油溝が設けられている。また、特許文献4に開示のスラストワッシャには、内周縁から外周縁まで延びる第1油溝および第2油溝と、第1油溝と第2油溝とを連通させる連通油溝とを有する構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4370982号公報
【特許文献2】特開2007−16931号公報
【特許文献3】特許第5727909号公報
【特許文献4】特開2015−152061号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
スラストワッシャには、対向する相手材が存在するものの、潤滑油がスラストワッシャと相手材との間に介在する。そのような環境下においては、スラストワッシャの潤滑状態は、ストライベック線図における混合潤滑領域におけるものと想定され、一部は潤滑油の油膜によりスラストワッシャが相手材と隔てられているものの、一部はスラストワッシャが相手材と直接接触していると考えられる。このような混合潤滑領域においては、どのようなスラストワッシャの構成にすれば、摺動負荷の低減が図れるのかは詳しく分かっていない。その一方で、近年、スラストワッシャにおいては、摺動面における摺動負荷の低減の要求が一層求められている。したがって、上述した特許文献1から4に開示のスラストワッシャよりも、一段と高い摺動負荷の低減が要求されている。
【0006】
本発明は上記の事情にもとづきなされたもので、その目的は、摺動負荷の低減を図ることが可能な組合せスラストワッシャを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の第1の観点によると、挿通孔を囲むリング状部を有するスラストワッシャを複数備える組合せスラストワッシャであって、組合せスラストワッシャには、少なくとも1枚の樹脂を含む材料からなる樹脂製スラストワッシャが設けられていて、樹脂製スラストワッシャには、リング状部の表面と裏面に他の部材と摺動する摺動面が設けられ、さらに表面と裏面の少なくとも一方に摺動面から凹むと共に潤滑油が入り込む油溝が設けられていて、油溝には、摺動面よりも凹んでいる開口部がリング状部の内周端部に存在し、その開口部の存在によって挿通孔側から潤滑油が入り込むと共に、リング状部の外周端部には、油溝とリング状部の外側とを隔てる油止壁が設けられていて、該油止壁の厚み方向における位置は摺動面と同程度の位置に設けられていて、油止壁の存在により油溝に入り込んだ潤滑油がリング状部の外周側に流出するのを抑制していて、油溝には、リング状部の径方向に対して一方側に傾斜している第1油溝と、リング状部の径方向に対して一方側とは異なる他方側に傾斜している第2油溝とが設けられていて、第1油溝と第2油溝は、開口部で連結されていて、第1油溝、第2油溝、開口部およびリング状部の外周端部で囲まれた包囲部は、摺動面よりも厚み方向において凹んでいて、包囲部と第1油溝、および包囲部と第2油溝の間には、これらを隔てる油堤部が設けられていて、該油堤部の厚み方向における位置は、摺動面と同程度の位置に設けられている、ことを特徴とする組合せスラストワッシャが提供される。
【0009】
また、本発明の他の側面は、上述の発明において、樹脂製スラストワッシャの油溝が設けられた面には、油溝とは別途に、摺動面から凹むと共に潤滑油が入り込む連通油溝が設けられていて、リング状部の外周端部は、連通油溝とリング状部の外側とは隔てられずに凹むと共に、リング状部の内周端部も、連通油溝とリング状部の内側とは隔てられずに凹んでいる、ことを特徴とする組合せスラストワッシャが提供される。
【0010】
また、上記課題を解決するために、本発明の第2の観点によると、挿通孔を囲むリング状部を有する3枚のスラストワッシャを備える組合せスラストワッシャであって、組合せスラストワッシャには、少なくとも1枚の樹脂を含む材料からなる樹脂製スラストワッシャが設けられていて、樹脂製スラストワッシャには、リング状部の表面と裏面に他の部材と摺動する摺動面が設けられ、さらに表面と裏面の少なくとも一方に摺動面から凹むと共に潤滑油が入り込む油溝が設けられていて、油溝には、摺動面よりも凹んでいる開口部がリング状部の内周端部に存在し、その開口部の存在によって挿通孔側から潤滑油が入り込むと共に、リング状部の外周端部には、油溝とリング状部の外側とを隔てる油止壁が設けられていて、該油止壁の厚み方向における位置は摺動面と同程度の位置に設けられていて、油止壁の存在により油溝に入り込んだ潤滑油がリング状部の外周側に流出するのを抑制していると共に、3枚のスラストワッシャの配列の中央に配置されているスラストワッシャのリング状部の表面と裏面には、油溝が形成されない状態の平滑な摺動面が設けられている、ことを特徴とする組合せスラストワッシャが提供される。
【0011】
また、本発明の他の側面は、上述の発明において、組合せスラストワッシャには、少なくとも1枚の金属を材質とする金属製スラストワッシャが設けられている、ことが好ましい。
また、本発明の他の側面は、上述の発明において、スラストワッシャは、3枚設けられていて、3枚のスラストワッシャの配列の中央に配置されているスラストワッシャのリング状部の表面と裏面には、油溝が形成されない状態の平滑な摺動面が設けられている、ことが好ましい。
【0012】
また、本発明の他の側面は、上述の発明において、配列の一端側および他端側に配置されているスラストワッシャは樹脂製スラストワッシャであると共に、配列の一端側および他端側に配置されている樹脂製スラストワッシャのうち、配列の中央に配置されているスラストワッシャと対向する面には、油溝が設けられている、ことが好ましい。
【0013】
また、本発明の他の側面は、上述の発明において、配列の一端側および他端側に配置されている樹脂製スラストワッシャのうち、配列の中央に配置されているスラストワッシャと対向する面と反対側の面には、油溝が形成されない状態の平滑な摺動面が設けられている、ことが好ましい。
【0014】
また、本発明の他の側面は、上述の発明において、3枚の前記スラストワッシャの配列の中央に配置されている前記スラストワッシャは、金属を材質とする金属製スラストワッシャである、ことが好ましい。
また、上記課題を解決するために、本発明の第3の観点によると、挿通孔を囲むリング状部を有する3枚のスラストワッシャを備える組合せスラストワッシャであって、組合せスラストワッシャには、少なくとも1枚の樹脂を含む材料からなる樹脂製スラストワッシャが設けられていて、3枚のスラストワッシャの配列の中央には、樹脂製スラストワッシャが配置され、配列の中央に配置された樹脂製スラストワッシャには、リング状部の表面と裏面に他の部材と摺動する摺動面が設けられ、さらに表面と裏面に摺動面から凹むと共に潤滑油が入り込む油溝が設けられていて、油溝には、摺動面よりも凹んでいる開口部がリング状部の内周端部に存在し、その開口部の存在によって挿通孔側から潤滑油が入り込むと共に、リング状部の外周端部には、油溝とリング状部の外側とを隔てる油止壁が設けられていて、該油止壁の厚み方向における位置は摺動面と同程度の位置に設けられていて、油止壁の存在により油溝に入り込んだ潤滑油がリング状部の外周側に流出するのを抑制している、ことを特徴とする組合せスラストワッシャが提供される。
また、本発明の他の側面は、上述の発明において、リング状部の内周側には、開口部へ潤滑油をガイドする油掬い面が設けられていて、油掬い面は、摺動面に対して傾斜して設けられている、ことが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によると、摺動負荷の低減を図ることが可能な組合せスラストワッシャを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の一実施の形態に係る組合せスラストワッシャの構成を示す斜視図である。
図2図1に示す組合せスラストワッシャを構成する樹脂製スラストワッシャの構成を示す平面図である。
図3】第1構成例に係る樹脂製スラストワッシャの構成を示す部分的な平面図である。
図4図3に示す油溝を幅方向に沿って切断した状態を示す断面図である。
図5】第2構成例に係る樹脂製スラストワッシャの構成を示す部分的な平面図である。
図6図5に示す油溝を幅方向に沿って切断した状態を示す断面図である。
図7】第3構成例に係る樹脂製スラストワッシャの構成を示す部分的な平面図である。
図8図7に示す油溝を幅方向に沿って切断した状態を示す断面図である。
図9】第4構成例に係る樹脂製スラストワッシャの構成を示す部分的な平面図である。
図10図9に示す油溝を幅方向に沿って切断した状態を示す断面図である。
図11】第5構成例に係る樹脂製スラストワッシャの構成を示す部分的な平面図である。
図12図11に示す油溝を幅方向に沿って切断した状態を示す断面図である。
図13】第6構成例に係る樹脂製スラストワッシャの構成を示す部分的な平面図である。
図14図13に示す油溝を幅方向に沿って切断した状態を示す断面図である。
図15】第8構成例に係る樹脂製スラストワッシャの構成を示す部分的な平面図である。
図16図15に示す油溝を幅方向に沿って切断した状態を示す断面図である。
図17】負荷測定装置の概略的な構成を示す断面図である。
図18】第1〜第8構成例に係る樹脂製スラストワッシャを負荷測定装置にそれぞれ取り付けて行った実験結果を示す図である。
図19】金属製スラストワッシャの構成を示す平面図である。
図20】第1組み合わせパターンに係る組合せスラストワッシャを示す模式図である。
図21】第2組み合わせパターンに係る組合せスラストワッシャを示す模式図である。
図22】第3組み合わせパターンに係る組合せスラストワッシャを示す模式図である。
図23】第4組み合わせパターンに係る組合せスラストワッシャを示す模式図である。
図24】第5組み合わせパターンに係る組合せスラストワッシャを示す模式図である。
図25】第1〜第5組み合わせパターンに係る組合せスラストワッシャを負荷測定装置にそれぞれセットして行った実験結果を示す図である。
図26】第6組み合わせパターンおよび第7組み合わせパターンに係る組合せスラストワッシャを示す模式図である。
図27】第6、第7組み合わせパターンに係る組合せスラストワッシャを負荷測定装置にそれぞれセットして行った実験結果を示す図である。
図28】本発明の変形例に係り、連通油溝を有する樹脂製スラストワッシャの構成を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の一実施の形態に係る組合せスラストワッシャ10について、図面に基づいて説明する。
【0018】
[1.組合せスラストワッシャ10の全体的な構成について]
組合せスラストワッシャ10は、たとえば車両のトランスミッション装置、車両のエアーコンディショナ装置のコンプレッサに組み込まれるものである。この組合せスラストワッシャ10の構成を、図1に示す。図1は、組合せスラストワッシャ10の構成を示す斜視図である。
【0019】
図1に示すように、本実施の形態の組合せスラストワッシャ10は、3枚のスラストワッシャS1,S2,S3を備えている。3枚のスラストワッシャS1,S2,S3を備える組合せスラストワッシャ10は、相手材C1,C2の間に位置していて、スラスト方向の荷重を受ける状態となっている。
【0020】
なお、組合せスラストワッシャ10と相手材C1,C2とが設けられる環境は、潤滑油が供給される環境下ではある。しかしながら、本実施の形態に係る組合せスラストワッシャ10に辿り着くまでの各種の実験結果等におけるスラストワッシャの摺動痕や各種の実験結果等で測定された摺動負荷から推定すると、組合せスラストワッシャ10が使用される環境の潤滑状態は、ストライベック線図における混合潤滑領域におけるものと想定される。したがって、スラストワッシャと相手材との間の一部には油膜が介在すると共に、スラストワッシャの一部は相手材と直接接触していると推測される。
【0021】
上述のスラストワッシャS1,S2,S3は、(1)樹脂を含む材料からなる樹脂製スラストワッシャ20(図2参照)、(2)金属を材質とする金属製スラストワッシャ50(図19参照)の中から、少なくとも1枚の樹脂製スラストワッシャ20を備えるように構成される。具体的には、図1に示す組合せスラストワッシャ10において、相手材C1側と相手材C2側に樹脂製スラストワッシャ20を配置して中央に金属製スラストワッシャ50を配置しても良く、相手材C1側のみに樹脂製スラストワッシャ20を配置して残りを金属製スラストワッシャ50としても良く、相手材C2側のみに樹脂製スラストワッシャ20を配置して残りを金属製スラストワッシャ50としても良い。また、相手材C1側のみに金属製スラストワッシャ50を配置して残り2枚を樹脂製スラストワッシャ20としても良く、相手材C2側のみに金属製スラストワッシャ50を配置して残り2枚を樹脂製スラストワッシャ20としても良く、相手材C1側と相手材C2側の両方に金属製スラストワッシャ50をそれぞれ配置して中央に樹脂製スラストワッシャ20を配置しても良い。また、3枚の上述のスラストワッシャS1,S2,S3を全て樹脂製スラストワッシャ20としても良い。
【0022】
[2.樹脂製スラストワッシャ20の構成について]
まず、組合せスラストワッシャ10を構成する樹脂製スラストワッシャ20の構成について説明する。図2は、図1に示す組合せスラストワッシャ10を構成する樹脂製スラストワッシャ20の構成を示す平面図である。なお、図2は、後述する構成例1に係る樹脂製スラストワッシャ20の構成を示す平面図である。
【0023】
樹脂製スラストワッシャ20は、その材質を(1)樹脂基材単独、(2)樹脂基材に繊維材を混合したもの、(3)樹脂基材に充填材を混合したもの、(4)樹脂基材に繊維材と充填材を混合したもの、のいずれかとしている。以下、樹脂基材、繊維材、充填材について、それぞれ述べる。
【0024】
[2.1.樹脂基材について]
樹脂基材は、4フッ化エチレン樹脂(PTFE)、ポリアミド樹脂(PA)、ポリアミドイミド樹脂(PAI)、ポリイミド樹脂(PI)、ポリベンゾイミダゾール樹脂(PBI)、芳香族ポリエーテルケトン類(PAEK)、変性ポリエーテルケトン樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)、液晶ポリマー、フェノール樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリル樹脂、アクリロニトリルブタジエン・スチレン樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテルサルフォン樹脂(PES)、ポリエーテルイミド樹脂(PEI)のいずれか、またはこれらの中から複数を選択して混合した混合物(ポリマーアロイや共重合が含まれる)となっている。
【0025】
[2.2.繊維材について]
繊維材は、平均繊維長がたとえば0.0001mm〜5mm程度の長さの補強繊維であり、その繊維物は、炭素繊維、ガラス繊維、チタン酸カリウム繊維等のような無機繊維を素材とするもの、アラミド繊維、フッ素繊維等のような有機繊維を素材とするものがあるが、これらに限らない。また、上述の繊維材の中から少なくとも1つの繊維材を選択すると共に、その他の材質の繊維材を選択して混合しても良い。
【0026】
なお、繊維材がガラス繊維の場合には、その製品当たりの混合率の重量割合は1〜40重量%が好適である。また、繊維材が炭素繊維またはアラミド繊維の場合には、その製品当たりの混合率の重量割合は1〜45重量%が好適である。また、繊維材がフッ素繊維の場合には、その製品当たりの混合率の重量割合は5〜55重量%が好適である。また、繊維材がチタン酸カリウムの場合には、その製品当たりの混合率の重量割合は0.1〜5重量%が好適である。
【0027】
[2.3.充填材について]
充填材は、4フッ化エチレン樹脂(PTFE)、硫化マンガン(MnS)、二硫化モリブデン(MoS)、グラファイト、炭酸カルシウム(CaCo)、酸化チタン、メラミンシアヌレート(MCA)のうちのいずれか、またはこれらの中から複数を選択して混合されたものである。
【0028】
[2.4.樹脂製スラストワッシャ20の表面処理について]
樹脂製スラストワッシャ20の表面処理(ここでの表面処理は、表面改質処理も含む)は、エポキシシラン(信越シリコーン社製)を用いた表面改質処理、チタネート系・アルミネート系カップリング剤(具体的には、ビスー(ジオクチルパイロホスフェート)イソプロポキシチタネート;味の素ファインテクノ社製:商品名38S)を用いた表面改質処理、ビスー(ジオクチルパイロホスフェート)オキシアセテートチタネート;商品名138S;味の素ファインテクノ社製)を用いた表面改質処理、商品名55(味の素ファインテクノ社製)、アセトアルコキシアルミニウムジイソプロピレート商品名AL−M;味の物ファインテクノ社製)を用いた表面改質処理が挙げられるが、これらのうちのいずれか、またはこれらの中から複数を選択して表面処理(表面改質処理)を行っても良い。また、上記の表面処理(表面改質処理)に代えて、コロナ放電またはイオンプラズマ放電を用いたカップリング処理を行うようにしても良く、上記の表面改質処理に代えてDLC処理またはMoコーティングを行うようにしても良い。特に、DLC処理は、摺動部位において、低摩擦化および耐摩耗性の向上を図ることが可能であり、好ましい。
【0029】
[2.5.樹脂製スラストワッシャ20の具体的構成について]
(1)樹脂製スラストワッシャ20の第1構成例について
以下、樹脂製スラストワッシャ20の具体的構成について説明する。まず、第1構成例に係る樹脂製スラストワッシャ20について説明する。図2に示すように、樹脂製スラストワッシャ20には、挿通孔22を覆うように、リング状部21が設けられている。このリング状部21の内周側(挿通孔22側)には、潤滑油を油溝25に導入するための油導入溝23が設けられていて、その油導入溝23は、挿通孔22側から外径側に向かうように内周壁を凹ませた形状に設けられている。すなわち、挿通孔22には、不図示の回転シャフトが配置されるが、油導入溝23が存在しないと、回転シャフトに沿った潤滑油の供給が阻害され、それによって油溝25に潤滑油が十分に供給されない虞がある。しかしながら、油導入溝23が存在することで、潤滑油を油溝25に良好に導入することが可能となっている。
【0030】
また、リング状部21の内周側(挿通孔22側)には、油掬い面24が設けられている。油掬い面24は、油導入溝23から導入された潤滑油を、リング状部21の周方向にガイドする部分である。この油掬い面24は、リング状部21の内周側を、たとえばテーパ状や曲面状に加工することで形成される。
【0031】
また、リング状部21には、油溝25が設けられている。図3は、第1構成例に係る樹脂製スラストワッシャ20の構成を示す平面図である。図2および図3に示すように、油溝25は、リング状部21のうち、他の部材(相手材C1,C2、他の樹脂製スラストワッシャ20や金属製スラストワッシャ50;以下、単に他の部材とする)と向かい合う表面や裏面から凹むように設けられている。以下の説明は、リング状部21の表面や裏面を摺動面26と称呼する。図2に示す構成では、油溝25の内径側には、挿通孔22側に開口する開口部27が設けられている。したがって、油溝25には、挿通孔22側から潤滑油が供給される。
【0032】
一方、油溝25の外径側は、樹脂製スラストワッシャ20(リング状部21)の外周側とは連通していない。すなわち、油溝25の外径側には、潤滑油が外周側に流れ出るのを抑制する油止壁28が配置されている。なお、油止壁28は、摺動面26と面一であるが、油止壁28は摺動面26に対して多少の高低差があるように設けられていても良い。
【0033】
ここで、図2および図3に示す構成では、2つの油溝25が開口部27側で連結され、これら2つの油溝25がV字を描くように配置されている。以下の説明では、V字を描く油溝25の一方を第1油溝25a、残りの他方を第2油溝25bと称呼する。図2および図3においては、第1油溝25aは、その内径側から外径側に向かうにつれて、時計回りに進行するように設けられている。一方、第2油溝25bは、その内径側から外径側に向かうにつれて、反時計回りに進行するように設けられている。なお、第1油溝25aと第2油溝25bとを区別する必要がない場合には、単に油溝25と称呼する。
【0034】
ここで、第1油溝25aと第2油溝25bとは、開口部27側において完全に連結されていても良いが、両者が僅かに離れていても良い。
【0035】
また、図3において、リング状部21の径方向(幅方向)における中央線L1が、第1油溝25aおよび第2油溝25bの中心線L2と交差する交差位置P1において、その交差位置P1を通ると共に径方向に沿う径方向線L3に対して中心線L2がなす角度を傾斜角度α1とする。図2において、傾斜角度α1は、30度〜55度の範囲内であることが好ましい。また、油溝25の溝幅は、1.8mm〜2.8mmの範囲内であることが好ましい。また、油溝25の溝深さは、0.5mm〜1.0mmの範囲内であることが好ましい。なお、図2および図3においては、第1油溝25c側の傾斜角度と、第2油溝25d側の側の傾斜角度とが、異なる値であっても良い。
【0036】
また、油止壁28の幅は、0.01mm〜0.1mmの範囲内であることが好ましい。0.01mmよりも油止壁28の幅を小さくすることは、加工精度上、困難であるのと共に、0.1mmよりも油止壁28の幅を大きくする場合、その油止壁28での摺動負荷により樹脂製スラストワッシャ20に与える影響が大きくなるためである。
【0037】
また、油溝25の断面形状は、第1構成例においては、図4に示すように形成されている。図4に示す構成では、油溝25の底部251から摺動面26側に向かうように、略S字形状の湾曲壁面252が一対設けられている。そのため、一対の湾曲壁面252のいずれにおいても、油溝25の内部に入り込んだ潤滑油を摺動面26に良好に供給可能となっている。
【0038】
また、図4に示すように、他方側(図4ではX2側)の湾曲壁面252には、動圧用ガイド壁面254が連続するように設けられている。動圧用ガイド壁面254は、油溝25に入り込んだ潤滑油が摺動面26にガイドされ易くするための部分である。そのため、動圧用ガイド壁面254の摺動面26に対する傾斜角度θ1(図4参照)は、湾曲壁面252の摺動面26に対する傾斜角度よりも大幅に小さく設けられている。かかる動圧用ガイド壁面254で潤滑油を摺動面26に向けてガイドすることにより、摺動面26と他の部材との間に潤滑油による圧力(動圧)を生じさせることができ、その圧力(動圧)によって、他の部材との間の摺動負荷を低減することが可能となる。なお、動圧用ガイド壁面254は、直線状以外に、曲線状に傾斜する部分が存在していても良い。
【0039】
ここで、第1構成例においては、V字を描く第1油溝25aと第2油溝25bのセットは、合計12個設けられている。なお、後述する第3構成例、第4構成例、第5構成例、第6構成例、第8構成例においても、第1構成例と同様に、V字を描く第1油溝25aと第2油溝25bのセットは、合計12個設けられている。
【0040】
ここで、図3においては、二点鎖線は、樹脂製スラストワッシャ20の回転方向が時計回りである場合を示すと共に、そのときの潤滑油の流れも示している。挿通孔22側に存在する潤滑油に対して、樹脂製スラストワッシャ20が時計回りに回転する場合、開口部27から油溝25内に流入する潤滑油は、遠心力の作用により、第1油溝25aではなく主として第2油溝25bから摺動面26へと供給される。また、図3においては、破線は、樹脂製スラストワッシャ20の回転方向が反時計回りである場合を示すと共に、そのときの潤滑油の流れも示している。樹脂製スラストワッシャ20が反時計回りに回転する場合、潤滑油に作用する遠心力により、潤滑油は第2油溝25bではなく主として第1油溝25aから摺動面26へと供給される。
【0041】
(2)樹脂製スラストワッシャ20の第2構成例について
次に、第2構成例に係る樹脂製スラストワッシャ20について説明する。図5は、第2構成例に係る樹脂製スラストワッシャ20の構成を示す平面図である。図6は、図5に示す油溝25を幅方向に沿って切断した状態を示す断面図である。なお、第2構成例に係る油溝25は、幅方向に沿った断面形状が第1構成例に係る油溝25とは異なるが、第2構成例に係る樹脂製スラストワッシャ20では、油溝25の断面形状以外の構成は、第1構成例に係る樹脂製スラストワッシャ20と共通となっている。
【0042】
図5および図6に示す、第2構成例に係る油溝25においては、油溝25の底部251から一方側(図6ではX1側)に向かうと、テーパ壁面255に差し掛かる。すなわち、底部251の一方側には、テーパ壁面255が連続している。テーパ壁面255は、摺動面26に対して所定の傾斜角度を有した状態で直線状に傾斜している部分である。なお、テーパ壁面255は、直線状以外に、曲線状に傾斜する部分が存在していても良い。これに対し、底部251から他方側(図6ではX2側)に向かうと、上述した図4に示す油溝25と同様に、湾曲壁面252に差し掛かる。すなわち、底部251の他方側には、湾曲壁面252が連続している。なお、テーパ壁面255の幅方向の長さ(寸法c2)は、寸法a2に対して概ね4倍となるように寸法が設定されている。
【0043】
ここで、2つの油溝25がV字を描くように配置された構成では、図5に示すように、テーパ壁面255は、油溝25の幅方向において湾曲壁面252よりも内径側に位置するように設けられている。それにより、樹脂製スラストワッシャ20の回転時に、潤滑油が2つの油溝25で囲まれていない部位の摺動面26に供給される。しかしながら、テーパ壁面255は、油溝25の幅方向において湾曲壁面252よりも外径側に位置するように設けても良い。
【0044】
なお、第2構成例においては、V字を描く第1油溝25aと第2油溝25bのセットは、リング状部21の周方向において均等となる間隔で合計6つ設けられている。しかしながら、V字を描く第1油溝25aと第2油溝25bのセットは幾つ設けられていても良い。
【0045】
(3)樹脂製スラストワッシャ20の第3構成例について
次に、第3構成例に係る樹脂製スラストワッシャ20について説明する。図7は、第3構成例に係る樹脂製スラストワッシャ20の構成を示す平面図である。図8は、図7に示す油溝25を幅方向に沿って切断した状態を示す断面図である。なお、第3構成例に係る油溝25は、その平面形状が第1構成例に係る油溝25とは異なるが、第3構成例に係る樹脂製スラストワッシャ20では、油溝25の断面形状は、第1構成例に係る樹脂製スラストワッシャ20と共通となっている。すなわち、第3構成例に係る油溝25では、第1構成例に係る油溝25と同様に、底部251と、その底部251から摺動面26側に向かうように、略S字形状の湾曲壁面252が一対設けられている。また、第3構成例に係る油溝25においても、他方側(図8ではX2側)の湾曲壁面252には、直線状に傾斜する動圧用ガイド壁面254が連続するように設けられている。
【0046】
図7に示すように、油溝25には、V字を描くように連結されている第1油溝25aと第2油溝25b以外に、分岐油溝110が設けられている。分岐油溝110は、第1油溝25aおよび第2油溝25bのそれぞれから分岐するように連結されている油溝である。図7に示す構成では、分岐油溝110は、小文字の「y」を描く、またはその反対となるように、第1油溝25aおよび第2油溝25bにそれぞれ連結されている。なお、分岐油溝110の外径側は、樹脂製スラストワッシャ20(リング状部21)の外周側とは連通していなく、油溝25と同様に分岐油溝110の外径側に油止壁110aが配置されている。
【0047】
また、図7に示す構成では、第1油溝25aに連結される分岐油溝110と、第2油溝25bに連結される分岐油溝110とでは、それらの幅が等しく設けられている。しかしながら、2つの分岐油溝110のそれぞれの幅が異なるように設けられていても良い。たとえば、第1油溝25aに連結される分岐油溝110の方が、第2油溝25bに連結される分岐油溝110よりも幅よりも広く設けられていても良く、その逆に狭く設けられていても良い。また、分岐油溝110の外径側には、潤滑油が分岐油溝110から外周側から流れ出るのを抑制する油止壁110aが設けられている。なお、油止壁110aの幅は、上述した油止壁28の幅と同様に設定することが可能である。
【0048】
(4)樹脂製スラストワッシャ20の第4構成例について
次に、第4構成例に係る樹脂製スラストワッシャ20について説明する。図9は、第4構成例に係る樹脂製スラストワッシャ20の構成を示す平面図である。図10は、図9に示す油溝25を幅方向に沿って切断した状態を示す断面図である。なお、第4構成例に係る油溝25は、その平面形状が第1構成例に係る油溝25とは異なるが、第4構成例に係る樹脂製スラストワッシャ20では、油溝25の断面形状付近を除いた構成は、第1構成例に係る樹脂製スラストワッシャ20と共通となっている。
【0049】
具体的には、図10に示すように、油溝25の底部251から一方側(図10ではX1側)に向かうと、テーパ壁面255に差し掛かる。すなわち、底部251の一方側には、テーパ壁面255が連続している。これに対し、底部251から他方側(図10ではX2側)に向かうと、油堤部109の傾斜壁部109aに差し掛かる。すなわち、底部251の他方側には、傾斜壁部109aが連続している。ここで、図10に示す構成では、テーパ壁面255の幅方向の長さ(寸法c4)は、寸法a4に対して概ね2倍となるように寸法が設定されている。
【0050】
また、油堤部109は、底部251からの高さH41が、底部251からの摺動面26の高さH42と同程度となるように設けられている。この油堤部109には、頂部109cを挟んで、一対の傾斜壁部109a,109bが設けられている。傾斜壁部109aは、上述したように、油溝25の他方側(X2側)に位置する傾斜壁であり、直線状に傾斜している。また、傾斜壁部109bは、頂部109cを挟んで、傾斜壁部109aとは反対側に位置する傾斜壁であり、傾斜壁部109aと同様に直線状に傾斜している。図10に示すように、頂部109cの一方側(X1側)には傾斜壁部109aが配置されると共に、頂部109cの他方側(X2側)には傾斜壁部109bが配置されている。なお、傾斜壁部109a,109bは、直線状には限られず、曲線状に設けられていても良い。
【0051】
なお、傾斜壁部109aの底部251側、および傾斜壁部109bの包囲部111(後述)側は、直線状に設けられている。しかしながら、傾斜壁部109a,109bの頂部109c側は、曲線状に設けられている。
【0052】
また、頂部109cは平坦となるように設けられているが、その頂部109cの幅は底部251や湾曲壁面252等と比較して非常に狭いものとなっている。このように、頂部109cの幅が非常に狭いので、頂部109cは、他の部材(他の樹脂製スラストワッシャ20、金属製スラストワッシャ50、相手材C1,C2等)に対して接触する場合でも、線接触状に接触するように設けられている。この点について詳述すると、図9および図10に示すように、第1油溝25aと第2油溝25bとの間には、これら2つの油溝25(2つの油止壁28)で囲まれた包囲部111が設けられている。この包囲部111の高さは、図10に示すように、頂部109cの高さよりも低く設けられている。したがって、樹脂製スラストワッシャ20の回転時には、頂部109cが他の部材に接触することがあっても、包囲部111は他の部材に接触しない構成となっている。
【0053】
なお、樹脂製スラストワッシャ20の回転時には、頂部109cを乗り越えた潤滑油が包囲部111を覆う状態となる。かかる潤滑油が包囲部111を覆うことによっても、包囲部111は他の部材に対して接触しない状態となっている。
【0054】
このように、樹脂製スラストワッシャ20の回転時に、高さの低い包囲部111が他の部材に接触しない一方で、頂部109cが他の部材に接触することがある構成とすることで、包囲部111が存在しない構成と比較して、摺動負荷を低減することが可能となる。なお、包囲部111の高さは、底部251と同程度としても良く、底部251よりも若干高くても低くても良い。また、樹脂製スラストワッシャ20の回転時には、頂部109cが他の部材に対して接触する場合もあるものの、潤滑油の存在によって頂部109cが他の部材に接触しない場合が存在するのは勿論である。
【0055】
(5)樹脂製スラストワッシャ20の第5構成例について
次に、第5構成例に係る樹脂製スラストワッシャ20について説明する。図11は、第5構成例に係る樹脂製スラストワッシャ20の構成を示す平面図である。図12は、図11に示す油溝25を幅方向に沿って切断した状態を示す断面図である。なお、第5構成例に係る油溝25は、その平面形状が第1構成例に係る油溝25とは異なるが、第5構成例に係る樹脂製スラストワッシャ20では、油溝25は、第1構成例と同様に、底部251を有している。以下、第5構成例に係る樹脂製スラストワッシャ20が第1構成例〜第4構成例に係る樹脂製スラストワッシャ20と相違する点について説明する。
【0056】
図12に示すように、第5構成例に係る樹脂製スラストワッシャ20には、略S字形状の湾曲壁面252に類似する凸曲面部256が設けられている。凸曲面部256は、底部251と摺動面26とを結ぶ凸状の曲面であるが、略S字形状の湾曲壁面252とは異なり、変曲点が存在しない断面形状である。図12に示す構成では、凸曲面部256は、たとえば丸く面取りしたのと同等の形状に設けられている。しかしながら、凸曲面部256は、凸状の曲面状の部分以外に、たとえば一部に直線的な部分が存在しても良く、一部に凹状の曲面状の部分が存在しても良い。また、凸曲面部256に代えて、テーパ壁面255と同等の直線状の傾斜面を設けるようにしても良い。
【0057】
図11に示す構成では、油溝25は、幅広溝部257と幅狭溝部258とを有している。これら幅広溝部257と幅狭溝部258とは同一直線上で連続するように設けられている。図11に示すように、幅広溝部257は、幅狭溝部258よりも幅が広くなるように設けられている。また、幅狭溝部258は、開口部27に接続されている一方、幅広溝部257の奥側には油止壁28が存在している。なお、図11に示す構成では、幅広溝部257の幅は、幅狭溝部258の幅に対して、概ね2倍〜2.5倍となるように寸法が設定されている。
【0058】
(6)樹脂製スラストワッシャ20の第6構成例について
次に、第6構成例に係る樹脂製スラストワッシャ20について説明する。図13は、第6構成例に係る樹脂製スラストワッシャ20の構成を示す平面図である。図14は、図13に示す油溝25を幅方向に沿って切断した状態を示す断面図である。なお、第6構成例に係る樹脂製スラストワッシャ20では、油溝25は、第1構成例〜第5構成例に係る樹脂製スラストワッシャ20とは異なり、2つの油溝25がV字を描くようには配置されておらず、単独の油溝25が径方向に対して傾斜する方向に延伸する配置となっている。しかしながら、第6構成例に係る樹脂製スラストワッシャ20においても、2つの油溝25がV字を描くように配置されていても良い。
【0059】
第6構成例に係る油溝25は、第2構成例に係る油溝25と同様に、底部251および動圧用ガイド壁面254を備えている。また、第6構成例に係る油溝25は、第5構成例に係る油溝25と同様に、凸曲面部256を備えている。しかしながら、第6構成例に係る樹脂製スラストワッシャ20には、底部251から他方側(図13および図14ではX2側)に向かうと、油堤部109と類似する摺動用突起112が設けられている。摺動用突起112は、相手材C1またはC2に接触して、その相手材C1またはC2の表面における粗さを滑らかにするための部分である。したがって、摺動用突起112は、摺動面26と同程度の高さであるか、または摺動面26よりも若干突出して設けられている。なお、凸曲面部256に代えて、テーパ壁面255と同等の直線状の傾斜面を設けるようにしても良い。また、摺動用突起112は、摺動面26よりも若干低く設けられていても良い。
【0060】
なお、図13および図14に示すように、底部251から他方側(図13および図14ではX2側)に向かうと、摺動用突起112の傾斜壁部112aに差し掛かる。すなわち、底部251の他方側には、傾斜壁部112aが連続している。また、傾斜壁部112aには、摺動用突起112の頂面部112bが連続している。頂面部112bは、頂部109cと同様に、平坦となるように設けられている。また、頂面部112bには、後述する凹曲面部113bが連続している。
【0061】
また、第6構成例に係る樹脂製スラストワッシャ20には、摺動用突起112から他方側(図13および図14ではX2側)に向かうと、連通油溝113が設けられている。連通油溝113は、リング状部21の外径側に油止壁28が存在せず、潤滑油が挿通孔22から外径側に流通自在となっている。図13および図14に示す構成では、連通油溝113は、油溝25と共に摺動面26から凹むように設けられている。また、図13および図14に示す構成では、連通油溝113は、油溝25と平行となるような直線状に設けられている。ただし、連通油溝113は、油溝25とは平行でなくても良く、たとえば樹脂製スラストワッシャ20の径方向に沿うように設けられていても良い。また、連通油溝113は、直線状ではなく、曲線状に設けられていても良い。
【0062】
なお、連通油溝113の底部113aは、底部251と同等の高さに設けられているが、底部113aの高さは、底部251の高さに対して多少の高低差が存在しても良い。また、図14に示すように、底部113aは、一対の凹曲面部113b,113cに連続的に設けられている。これらのうち、底部113aの一方側(図14ではX1側)には、凹曲面部113bが設けられていて、底部113aの他方側(図14ではX2側)には凹曲面部113cが設けられている。これら凹曲面部113b,113cは、底部113aと摺動面26とを結ぶ凹状の曲面であり、略S字形状の湾曲壁面252とは異なり、変曲点が存在しない断面形状である。なお、図14に示す構成では、凹曲面部113b,113cは、たとえば丸く面取りしたのと同等の形状に設けられている。しかしながら、凹曲面部113b,113cは、曲面状の部分以外に、たとえば直線状の部分が存在していても良い。また、底部113aには、曲面状の部分が存在していても良く、存在していなくても良い。
【0063】
このような連通油溝113を設ける場合、連通油溝113を外径側に向かって通過する潤滑油の流量を多くすることが可能となる。したがって、樹脂製スラストワッシャ20の放熱性を良好にすることが可能となる。
【0064】
(7)樹脂製スラストワッシャ20の第7構成例について
次に、第7構成例に係る樹脂製スラストワッシャ20について説明する。第7構成例に係る樹脂製スラストワッシャ20は、上述した第2構成例に係る樹脂製スラストワッシャ20と同様の油溝25が設けられていて、その同様の油溝25には、底部251、略S字形状の湾曲壁面252およびテーパ壁面255が存在している。したがって、その図示は省略する。しかしながら、第7構成例では、V字を描く第1油溝25aと第2油溝25bのセットは、リング状部21の周方向において均等となる間隔で合計8つ設けられている。この点で、合計6つの第1油溝25aと第2油溝25bのセットがリング状部21に設けられている第2構成例とは相違している。
【0065】
(8)樹脂製スラストワッシャ20の第8構成例について
次に、第8構成例に係る樹脂製スラストワッシャ20について説明する。図15は、第8構成例に係る樹脂製スラストワッシャ20の構成を示す平面図である。図16は、図15に示す油溝25を幅方向に沿って切断した状態を示す断面図である。
【0066】
第8構成例に係る樹脂製スラストワッシャ20では、第1油溝25aおよび第2油溝25bは、その長さが短く設けられている。したがって、第1油溝25aおよび第2油溝25bの奥側(開口部27から離れる側)と、樹脂製スラストワッシャ20の外周縁部との間には、十分な距離が存在している。
【0067】
また、第8構成例に係る樹脂製スラストワッシャ20には、油溝25の他に、油溜まり溝114が設けられている。油溜まり溝114は、その内径側に開口部27が存在しない凹状の部分である。図15に示す構成では、油溜まり溝114は2つ設けられている。これら2つの油溜まり溝114は、V字を描くように内径側で連結されている。しかしながら、油溜まり溝114はV字を描くように配置されていなくても良い。以下の説明では、V字を描く油溜まり溝114の一方を第1油溜まり溝114a、残りの他方を第2油溜まり溝114bと称呼する。第1油溜まり溝114aは、その内径側から外径側に向かうにつれて、時計回りに進行するように設けられている。一方、第2油溜まり溝114bは、その内径側から外径側に向かうにつれて、反時計回りに進行するように設けられている。
【0068】
また、第8構成例では、油溝25と油溜まり溝114の断面形状は、同様となっている。具体的には、油溝25の底部251から一方側(図16ではX1側)に向かうと、略S字形状の湾曲壁面252に差し掛かる。すなわち、底部251の一方側には、略S字形状の湾曲壁面252が連続している。この湾曲壁面252は、凹状の曲面である凹曲面部259が底部251に連続して設けられていて、さらに凹曲面部259に対して、凸状の曲面である凸曲面部256が連続して設けられている。また、凸曲面部256と摺動面26の間には、これらに連続するように動圧用ガイド壁面254が設けられている。なお、凸曲面部256に代えて、テーパ壁面255と同等の直線状の傾斜面を設けるようにしても良い。
【0069】
これに対し、底部251から他方側(図16ではX2側)に向かうと、凹曲面部260が底部251に連続して設けられている。さらに、この凹曲面部260には、直線状に傾斜している傾斜壁部261が連続して設けられている。なお、傾斜壁部261から他方側(図16においてX2側)に向かうと、摺動面26に差し掛かる。また、傾斜壁部261は、曲面状に設けられていても良い。また、傾斜壁部261には、曲面状の部分が存在していても良い。
【0070】
また、上記の油溝25と同様に、油溜まり溝114の底部115(図15参照)から幅方向の一方側に向かうと、凹曲面部259と同様の凹曲面部(図示省略)、凸曲面部256と同様の凸曲面部(図示省略)および動圧用ガイド壁面254と同様の動圧用ガイド壁面116(図15参照)を経て、摺動面26に差し掛かる。また、底部115から幅方向の他方側に向かうと、凹曲面部260と同様の凹曲面部(図示省略)、傾斜壁部261と同様の傾斜壁部(図示省略)を経て、摺動面26に差し掛かる。なお、凸曲面部256と同様の凸曲面部に代えて、傾斜壁部109a,109bと同等の直線状の傾斜面を設けるようにしても良い。
【0071】
[2.6.第1〜第8構成例に係る樹脂製スラストワッシャ20の油溝25の形状に関する評価(実験結果)について]
次に、上述した第1〜第8構成例に係る樹脂製スラストワッシャ20の摺動負荷に関して実験を行った。すなわち、いずれの樹脂製スラストワッシャ20を用いた場合に、摺動負荷が小さくなるのかにつき、実験を行った。その実験結果について、以下に述べる。
【0072】
なお、第1構成例(図4参照)においては、底部251の幅に対応した寸法a1は0.5mm、油溝25の幅に対応した寸法b1は1.0mm、動圧用ガイド壁面254の幅に対応した寸法c1は0.5mm、動圧用ガイド壁面254の摺動面26に対する傾斜角度θ1は3度、底部251から摺動面26までの高さH1は0.25mmとなっている。また、第2構成例(図6参照)においては、底部251の幅に対応した寸法a2は0.5mm、テーパ壁面255の幅に対応した寸法c2は2.25mm、他方側(図6ではX2側)の湾曲壁面252の幅に対応した寸法d2は0.2mm、底部251から摺動面26までの高さH2は0.25mmとなっている。また、第3構成例(図8参照)においては、底部251の幅に対応した寸法a3は1.0mm、油溝25の幅に対応した寸法b3は1.5mm、動圧用ガイド壁面254の幅に対応した寸法c3は0.5mm、動圧用ガイド壁面254の摺動面26に対する傾斜角度θ3は3度、底部251から摺動面26までの高さH3は0.25mmとなっている。
【0073】
また、第4構成例(図10参照)においては、底部251の幅に対応した寸法a4は0.5mm、テーパ壁面255の幅に対応した寸法c4は1.0mm、頂部109cの幅に対応した寸法f4は0.05mm、底部251から頂部109cまでの高さH41は0.25mm、底部251から摺動面26までの高さH42は0.25mm、傾斜壁部109aおよび109bの底部251に対する傾斜角度θ41,θ42は45度、傾斜壁部109a,109bと頂部109cとの間の曲面はR0.3となっている。また、第5構成例(図12参照)においては、底部251の幅に対応した寸法a5は0.5mm、油溝25の幅に対応した寸法b5は2.0mm、底部251から摺動面26までの高さH5は0.25mm、凸曲面部256の曲面はR2となっている。
【0074】
また、第6構成例(図14参照)においては、底部251の幅に対応した寸法a6は0.5mm、油溝25の幅に対応した寸法b6は1.8mm、動圧用ガイド壁面254の幅に対応した寸法c6は2.0mm、頂面部112bの幅に対応した寸法e6は0.2mm、連通油溝113の幅に対応した寸法f6は0.7mm、傾斜壁部112aの幅方向(X方向)における寸法g6は0.2mm、底部251および底部113aから摺動面26および頂面部112bまでの高さH6は0.2mm、動圧用ガイド壁面254の摺動面26に対する傾斜角度θ6は3度、凸曲面部256の曲面はR0.7、凹曲面部113b,113cの曲面はR0.2となっている。
【0075】
また、第8構成例(図16参照)においては、底部251の幅に対応した寸法a8は0.8mm、油溝25の幅に対応した寸法b8は1.3mm、動圧用ガイド壁面254の幅に対応した寸法c8は1.0mm、動圧用ガイド壁面254の摺動面26に対する傾斜角度θ8は6度、底部251から摺動面26までの高さH8は0.25mmとなっている。また、凹曲面部259の曲面はR0.3、凸曲面部256の曲面はR0.3、凹曲面部260の曲面はR0.3となっている。
【0076】
かかる寸法の第1〜第8構成例に係る全ての樹脂製スラストワッシャ20においては、その外径が73mm、内径が59mm、厚みが1.5mmとなっている。また、樹脂製スラストワッシャ20はポリエーテルケトン樹脂(PEK)を材質とする商品名150FC30(ビクトレックス社製)を用いて製作している。また、樹脂製スラストワッシャ20については、表面処理を行っていない。また、相手材C1,C2は高張力鋼であるS45C(JIS規格)を用いており、その直径は73mmであり、その表面粗さはRz6μmとしている。また、潤滑油の油種はATFを用い、実験を行った際の油温は120度となっている。また、実験時においては、荷重を360N、回転数を5200rpm、油流量を1000cc/minとした。
【0077】
また、上述の樹脂製スラストワッシャ20は、図17に示すような負荷測定装置300を用いて、摺動負荷の測定を行った。この負荷測定装置300は、円筒状のオイルパン301を備え、そのオイルパン301の内筒部301aには上述の潤滑油が供給されている。また、オイルパン301には、油排出口301bも設けられている。油排出口301bは、内筒部301aに存在する潤滑油を外部に排出するための開口部分である。
【0078】
また、負荷測定装置300は、固定軸302と、回転軸303とを備えている。固定軸302は、オイルパン301に対して相対的に回転しない軸である。ただし、固定軸302には、図示を省略する負荷供給手段から、押圧方向の負荷が与えられる。また、固定軸302には、相手材C2が固定軸302に対して非回転の状態で取り付けられている。
【0079】
また、回転軸303は、オイルパン301に対して回転する軸である。したがって、回転軸303には、図示を省略する回転力供給手段から回転する駆動力が与えられる。また、回転軸303には、相手材C1が回転軸303に対して非回転の状態で取り付けられている。なお、一方の相手材C1には、樹脂製スラストワッシャ20を取り付けるための軸状部C1aが設けられている。一方、他方の相手材C2は、円盤状に設けられている。そのため、軸状部C1aが存在する分だけ、一方の相手材C1の軸方向の寸法は、他方の相手材C2よりも大きく設けられている。
【0080】
なお、図17に示すように、固定軸302、相手材C1および他方の相手材C2のそれぞれを貫くように中心孔が設けられている(符号は省略)。そして、これらの中心孔が軸方向において連続することで、潤滑油を流通させる油供給路304が形成される。なお、固定軸302には、油供給路304に潤滑油を供給するための開口部位である油供給口302aが形成されている。また、相手材C2には、熱電対305が取り付けられている。熱電対305は、相手材C2の摺動面温度を測定する部分である。なお、オイルパン301において固定軸302を内筒部301aに挿通させるための開口部位(符号省略)にはオイルシール306が設けられている。また、オイルパン301において回転軸303を内筒部301aに挿通させるための開口部位にもオイルシール307が設けられている。
【0081】
上記の負荷測定装置300に、第1〜第8構成例に係る樹脂製スラストワッシャ20をそれぞれ取り付けて行った実験結果を、図18に示す。図18においては、第1構成例に係る樹脂製スラストワッシャ20では平均トルク(摺動負荷;以下同様)が0.35N・m、第2構成例に係る樹脂製スラストワッシャ20では平均トルクが0.3N・m、第3構成例に係る樹脂製スラストワッシャ20では平均トルクが0.33N・m、第4構成例に係る樹脂製スラストワッシャ20では平均トルクが0.27N・m、第5構成例に係る樹脂製スラストワッシャ20では平均トルクが0.27N・m、第6構成例に係る樹脂製スラストワッシャ20では平均トルクが0.37N・m、第7構成例に係る樹脂製スラストワッシャ20では平均トルクが0.34N・m、第8構成例に係る樹脂製スラストワッシャ20では平均トルクが0.37N・mであった。
【0082】
この実験結果から、最も摺動負荷が小さい樹脂製スラストワッシャ20は、図9および図10に示すような第4構成例に係る樹脂製スラストワッシャ20である、という結果となった。
【0083】
[3.金属製スラストワッシャ50の具体的構成について]
次に、金属製スラストワッシャ50の構成について述べる。図19は、金属製スラストワッシャ50の構成を示す平面図である。図19に示すように、金属製スラストワッシャ50にも、上述した樹脂製スラストワッシャ20と同様に、挿通孔202を覆うように、リング状部201が設けられている。しかしながら、リング状部201には、樹脂製スラストワッシャ20に存在する油溝25のような部分を有していない。すなわち、金属製スラストワッシャ50のリング状部201の表面や裏面といった摺動面203は、油溝等のような溝が存在せずに平滑に設けられている。
【0084】
なお、金属製スラストワッシャ50の内周側には、上述した樹脂製スラストワッシャ20と同様に、油導入溝と油掬い面のうちの少なくとも一方が存在していても良く、いずれも存在していなくても良い。
【0085】
また、金属製スラストワッシャ50は、樹脂製スラストワッシャ20と比較して、厚みを薄くしている。それにより、金属製スラストワッシャ50を備える3枚のスラストワッシャから構成される組合せスラストワッシャ10の全体的な厚みを薄くすることが可能となっている。しかしながら、金属製スラストワッシャ50の厚みは、樹脂製スラストワッシャ20の厚みと同程度としても良い。
【0086】
かかる金属製スラストワッシャ50の材質としては、銅、鉄といった熱伝導率の良いものが挙げられる。なお、金属製スラストワッシャ50は、摺動させる(組み合わせる)樹脂(たとえばポリアミドイミド樹脂(PAI)やポリエーテルイミド樹脂(PEI)等)によっては、アルミニウム合金を材質とすることが考えられる。また、金属製スラストワッシャ50に対しては、たとえばDLCまたはMoコーティングといった表面処理を施すようにしても良い。
【0087】
[4.スラストワッシャS1の組み合わせについて]
次に、上述した第1〜第8構成例に係る樹脂製スラストワッシャ20を少なくとも1枚有する、組合せスラストワッシャ10について説明する。
【0088】
[4.1.組合せの原則]
まず、組合せスラストワッシャ10を構成する、基本的な原則について説明する。具体的には、組合せスラストワッシャ10を構成するスラストワッシャS1は2枚以上であれば、幾つ用いても良い。ただし、2枚以上のスラストワッシャS1には、少なくとも1枚の樹脂製スラストワッシャ20が存在することが必要である。
【0089】
たとえば、組合せスラストワッシャ10が2枚以上のスラストワッシャS1から構成される場合において、一方の相手材C1側にスラストワッシャS1が配置されると共に、他方の相手材C2側にスラストワッシャS2が配置される場合を考える。このとき、一方の相手材C1と他方の相手材C2とは、相対的に回転する状態であるとする。この場合、一方の相手材C1に対して、スラストワッシャS1は、相対的に回転するか、または相対的に回転しない状態となる。また、他方の相手材C2に対して、スラストワッシャS2は、相対的に回転するか、または相対的に回転しない状態となる。
【0090】
この状態において、スラストワッシャS1とスラストワッシャS2のうちの少なくとも一方が、樹脂製スラストワッシャ20であり、その樹脂製スラストワッシャ20の表面と裏面のうちの少なくとも一方の面に油溝25が形成されている、とする。すると、油溝25が存在する摺動面26と対向する部材(相手材C1,C2、スラストワッシャS1,S2のうちのいずれか)の間には、潤滑油が供給される。
【0091】
なお、対向部位への潤滑油の供給態様は、具体的な油溝25の形状等により異なる。しかしながら、その潤滑油の供給の一つの参考例としては、図3に示すものがある。図3においては、潤滑油が開口部27から油溝25内に導入され、その油溝25から摺動面26を含む対向部位へと潤滑油が供給される。
【0092】
一方、比較対象として、相手材C1,C2の間に、1枚の樹脂製スラストワッシャ20のみが配置される場合を考える。この場合においても、樹脂製スラストワッシャ20が相手材C1,C2の間に配置されない場合と比較して、大幅に摺動負荷を低減可能である。ここで、1枚の樹脂製スラストワッシャ20のみを用いた場合において、相手材C1と相手材C2との間の回転差をNとし、樹脂製スラストワッシャ20の表面と相手材C1の間の回転差をN11とする。また、樹脂製スラストワッシャ20の裏面と相手材C2との間の回転差をN21とする。なお、以下の説明では、N11とN21とは、分配項とも表記される。
この場合、回転差Nは次の式で表される。
N=N11+N21 …(式1)
【0093】
これに対し、2枚のスラストワッシャS1,S2のうちスラストワッシャS1が樹脂製スラストワッシャ20であり、その樹脂製スラストワッシャ20が相手材C1と対向している場合を考える。この場合、相手材C1と相手材C2との間の回転差をNとし、樹脂製スラストワッシャ20の表面と相手材C1の間の回転差をN12とする。また、樹脂製スラストワッシャ20の裏面とスラストワッシャS2の表面との間の回転差をN22とし、スラストワッシャS2の裏面と相手材C2との間の回転差をN32とする。この場合、回転差Nは次の式で表される。なお、以下の説明では、N12とN22とN32とは、分配項とも表記される。
N=N12+N22+N32 …(式2)
【0094】
上記の(式1)と(式2)の比較から明らかなように、相手材C1と相手材C2の回転差Nが『N11+N21』のように2つの分配項に分配される場合よりも、相手材C1と相手材C2の回転差Nが『N12+N22+N32』のように3つの分配項に分配される方が、1つ当たりの分配項が受け持つ回転差を小さくすることができる。そのため、(式1)よりも(式2)の方が、1つ当たりの分配項に基づく摺動負荷を低減できる。
【0095】
しかも、相手材C1,C2は、所定の表面処理を施していない場合には、スラストワッシャS1,S2(樹脂製スラストワッシャ20を含む)よりも表面粗さが大きくなっている。この場合、(式1)においては、(式2)における分配項N12,N22,N32に基づく摺動負荷を合算した値(摺動負荷の合計)は、(式1)における分配項N11,N21に基づく摺動負荷を合算した値(摺動負荷の合計)よりも低減することが可能となる。いわば、表面粗さの大きな面に対して対向している面の相対的な回転差を小さくすることができ、それによって全体的な摺動負荷を低減することができる。
【0096】
なお、3枚のスラストワッシャS1〜S3を用いる場合には、上述の分配項は4つになる。この場合、表面粗さの大きな面に対して対向している面の相対的な回転差をより小さくすることができ、それによって全体的な摺動負荷をより低減することができる。また、4つ以上のP枚のスラストワッシャを用いる場合には、分配項の数はP+1となる。この場合、表面粗さの大きな面に対して対向している面の相対的な回転差を一層小さくすることができ、それによって全体的な摺動負荷を一層低減することができる。
【0097】
[4.2.組合せスラストワッシャ10が3枚のスラストワッシャS1〜S3から構成される場合における、油溝25が存在する摺動面26の組み合わせの概要]
組合せスラストワッシャ10が3枚のスラストワッシャS1〜S3から構成される場合、その全てを樹脂製スラストワッシャ20とすることも可能であり、また2枚を樹脂製スラストワッシャ20とすることも可能であり、1枚のみを樹脂製スラストワッシャ20とすることも可能である。また、樹脂製スラストワッシャ20においては、その表面および裏面の両方に油溝25を形成することも可能であり、樹脂製スラストワッシャ20の表面と裏面のうちのいずれかのみに油溝25を形成することも可能である。
【0098】
また、組合せスラストワッシャ10を構成する樹脂製スラストワッシャ20は、上述した第1構成例〜第8構成例のいずれのものを用いても良い。
【0099】
ここで、3枚の樹脂製スラストワッシャ20を用いる場合、表面と裏面は合計6つ存在する。したがって、少なくとも1つの油溝25が少なくとも1枚の樹脂製スラストワッシャ20に存在し、しかもその樹脂製スラストワッシャ20を含めた表面と裏面の少なくとも1つに存在する組み合わせは、合計63通り存在する。したがって、組合せスラストワッシャ10は、上述の63通りの組み合わせのいずれであっても良い。
【0100】
[4.3.組合せスラストワッシャ10が3枚の樹脂製スラストワッシャ20から構成される場合について]
以下に、組合せスラストワッシャ10が3枚の樹脂製スラストワッシャ20から構成される場合において、油溝25が存在する摺動面26の好適な組み合わせについて、実験を行った。以下、その実験結果について述べる。
【0101】
すなわち、3枚の樹脂製スラストワッシャ20から構成される組合せスラストワッシャ10について、上述した合計63通りの組み合わせの中で、組合せスラストワッシャ10として好ましいものの候補を選択し、それらの候補について実験を行った。その結果について以下に述べる。なお、この実験では、油溝25は全て同じ形状(同一の構成例)に統一している。全て同じ形状で実験を行わないと、3枚の樹脂製スラストワッシャ20およびそれらの表面・裏面に、どのように油溝25を配置した方が好ましいのかが不明確となるためである。具体的には、油溝25を樹脂製スラストワッシャ20に設ける場合、第1構成例に係る樹脂製スラストワッシャ20の油溝25を設けるようにした。かかる油溝25の配置の様子を、図20から図24に示す。
【0102】
なお、図20から図24においては、油溝25を設ける面に符号「Y」を付記すると共にハッチングを施している。一方、油溝25を設けない面に符号「N」を付記するがハッチングは施していない。また、図20から図24においては、相手材C1側を上側(Z1側)、相手材C2側を下側(Z2側)として説明する。
【0103】
また、この実験において用いられる第1構成例に係る樹脂製スラストワッシャ20は、図18に示す実験を行ったものと同一の寸法のものを用いている。また、この実験における実験条件は、上述した図18に示す実験を行ったのと同一となっている。また、負荷測定装置300も図17に示すものを用いている。ただし、樹脂製スラストワッシャ20は、図17においては1枚の樹脂製スラストワッシャ20が負荷測定装置300にセットされているが、今回の実験では3枚の樹脂製スラストワッシャ20が負荷測定装置300にセットされている。
【0104】
(1)第1組み合わせパターンに係る組合せスラストワッシャ10における油溝25の配置
図20に、第1組み合わせパターンに係る組合せスラストワッシャ10の模式図を示す。第1組み合わせパターンに係る組合せスラストワッシャ10では、3枚の樹脂製スラストワッシャ20の表面および裏面の全てに、油溝25を配置した。
【0105】
(2)第2組み合わせパターンに係る組合せスラストワッシャ10における油溝25の配置
図21に、第2組み合わせパターンに係る組合せスラストワッシャ10の模式図を示す。第2組み合わせパターンに係る組合せスラストワッシャ10では、3枚の樹脂製スラストワッシャ20のうち、中央の樹脂製スラストワッシャ20の表面および裏面には、油溝25を配置せず、その他の2枚の樹脂製スラストワッシャ20の表面と裏面には、油溝25を配置した。
【0106】
(3)第3組み合わせパターンに係る組合せスラストワッシャ10における油溝25の配置
図22に、第3組み合わせパターンに係る組合せスラストワッシャ10の模式図を示す。第3組み合わせパターンに係る組合せスラストワッシャ10では、3枚の樹脂製スラストワッシャ20のうち、中央の樹脂製スラストワッシャ20の表面および裏面には、油溝25を配置せずとした。また、上側(Z1側;相手材C1側)の樹脂製スラストワッシャ20の表面(Z1側の面)には油溝25を配置せず、裏面(Z2側の面)に油溝25を配置した。また、下側(Z2側;相手材C2側)の樹脂製スラストワッシャ20の表面(Z1側の面)に油溝25を配置し、裏面(Z2側の面)には油溝25を配置せずとした。
【0107】
(4)第4組み合わせパターンに係る組合せスラストワッシャ10における油溝25の配置
図23に、第4組み合わせパターンに係る組合せスラストワッシャ10の模式図を示す。第4組み合わせパターンに係る組合せスラストワッシャ10では、3枚の樹脂製スラストワッシャ20のうち、中央の樹脂製スラストワッシャ20の表面および裏面に、油溝25を配置した。また、上側(Z1側;相手材C1側)の樹脂製スラストワッシャ20の表面(Z1側の面)に油溝25を配置し、裏面(Z2側の面)には油溝25を配置せずとした。また、下側(Z2側;相手材C2側)の樹脂製スラストワッシャ20の表面(Z1側の面)には油溝25を配置せず、裏面(Z2側の面)に油溝25を配置した。
【0108】
(5)第5組み合わせパターンに係る組合せスラストワッシャ10における油溝25の配置
図24に、第5組み合わせパターンに係る組合せスラストワッシャ10の模式図を示す。第5組み合わせパターンに係る組合せスラストワッシャ10では、3枚の樹脂製スラストワッシャ20のうち、中央の樹脂製スラストワッシャ20の表面および裏面に、油溝25を配置した。また、上側(Z1側;相手材C1側)の樹脂製スラストワッシャ20の表面(Z1側の面)および裏面(Z2側の面)には油溝25を配置せずとした。また、下側(Z2側;相手材C2側)の樹脂製スラストワッシャ20の表面(Z1側の面)および裏面(Z2側の面)には油溝25を配置せずとした。
【0109】
[4.4.第1〜第5組み合わせパターンに係る組合せスラストワッシャ10に関する評価(実験結果)について]
上記の負荷測定装置300に、第1〜第5組み合わせパターンに係る組合せスラストワッシャ10をそれぞれセットして行った実験結果を、図25に示す。図25においては、第1組み合わせパターンに係る組合せスラストワッシャ10では平均トルク(摺動負荷;以下同様)が0.34N・m、第2組み合わせパターンに係る組合せスラストワッシャ10ではでは平均トルクが0.32N・m、第3組み合わせパターンに係る組合せスラストワッシャ10では平均トルクが0.28N・m、第4組み合わせパターンに係る組合せスラストワッシャ10では平均トルクが0.26N・m、第5組み合わせパターンに係る組合せスラストワッシャ10では平均トルクが0.35N・mであった。
【0110】
この実験結果から、3枚の樹脂製スラストワッシャ20を用いた場合、最も摺動負荷が小さい組合せスラストワッシャ10は、図23に示すような第4組み合わせパターンに係る組合せスラストワッシャ10である、という結果となった。
【0111】
なお、上記の実験は、同一形状の油溝25(第1構成例に係る油溝25)が設けられている樹脂製スラストワッシャ20について実施している。したがって、上記の第1〜第5組み合わせパターンにおいて、第2〜第8構成例に係る油溝25を各樹脂製スラストワッシャ20で同一形状となるように適用しても、同様の結果が得られると思料される。
【0112】
[4.5.3枚のスラストワッシャS1〜S2から組合せスラストワッシャ10が構成される場合において、中央のスラストワッシャS2を金属製スラストワッシャ50とした場合について]
次に、3枚の樹脂製スラストワッシャ20を組み合わせた場合に対し、中央の樹脂製スラストワッシャ20を金属製スラストワッシャ50に代えたものの摺動負荷に関して実験を行った。その実験結果を以下に述べる。
【0113】
(1)第6組み合わせパターンに係る組合せスラストワッシャ10における油溝25の配置
図26に、第6組み合わせパターンに係る組合せスラストワッシャ10の模式図を示す。第6組み合わせパターンに係る組合せスラストワッシャ10では、配列の中央に金属製スラストワッシャ50を配置した。また、上側(Z1側;相手材C1側)の樹脂製スラストワッシャ20の表面(Z1側の面)には油溝25を配置せず、裏面(Z2側の面)に油溝25を配置した。また、下側(Z2側;相手材C2側)の樹脂製スラストワッシャ20の表面(Z1側の面)に油溝25を配置し、裏面(Z2側の面)には油溝25を配置せずとした。このとき、2枚の樹脂製スラストワッシャ20には、図3および図4に示すような、第1構成例に係る形状の油溝25が設けられている。
【0114】
(2)第7組み合わせパターンに係る組合せスラストワッシャ10における油溝25の配置
第7組み合わせパターンに係る組合せスラストワッシャ10においては、第6組み合わせパターンに係る組合せスラストワッシャ10に対し、油溝25の形状のみを変更したものである。具体的には、第7組み合わせパターンに係る組合せスラストワッシャ10では、樹脂製スラストワッシャ20には、図9および図10に示すような、第4構成例に係る形状の油溝25が設けられている。
【0115】
なお、第7組み合わせパターンに係る組合せスラストワッシャ10においては、樹脂製スラストワッシャ20および金属製スラストワッシャ50は、上述した第6組み合わせパターンに係る組合せスラストワッシャ10と同様の配置である。また、2枚の樹脂製スラストワッシャ20において、油溝25が形成されている面も、図26に示すような樹脂製スラストワッシャ20と同様である。したがって、第7組み合わせパターン単独の図示を省略する。
【0116】
[4.6.第6、第7組み合わせパターンに係る組合せスラストワッシャ10に関する評価(実験結果)について]
上記の負荷測定装置300に、第6、第7組み合わせパターンに係る組合せスラストワッシャ10をそれぞれセットして行った実験結果を、図27に示す。なお、図27においては、第6組み合わせパターンおよび第7組み合わせパターンに係る組合せスラストワッシャ10の比較対象として、第3組み合わせパターンおよび第4組み合わせパターンに係る組合せスラストワッシャ10も載せている。
【0117】
図27においては、第6組み合わせパターンに係る組合せスラストワッシャ10では平均トルク(摺動負荷;以下同様)が0.27N・m、第7組み合わせパターンに係る組合せスラストワッシャ10ではでは平均トルクが0.23N・mであった。
【0118】
この実験結果から、3枚のスラストワッシャS1〜S3を用いた場合、最も摺動負荷が小さい組合せスラストワッシャ10は、第7パターンに係る組合せスラストワッシャ10である、という結果となった。
【0119】
[5.作用効果]
以上のような構成の組合せスラストワッシャ10においては、スラストワッシャには、少なくとも1枚の樹脂を材質とする樹脂製スラストワッシャ20が設けられていて、樹脂製スラストワッシャ20には、リング状部21の表面と裏面に他の部材(相手材C1,C2や他のスラストワッシャ)と摺動する摺動面26が設けられ、さらに表面と裏面の少なくとも一方に摺動面26から凹むと共に潤滑油が入り込む油溝25が設けられている。油溝25には、摺動面26よりも凹んでいる開口部27がリング状部21の内周端部に存在し、その開口部27の存在によって挿通孔22側から潤滑油が入り込むと共に、リング状部21の外周端部には、油溝25とリング状部21の外側とを隔てる油止壁28が設けられている。この油止壁28の厚み方向における位置は摺動面26と同程度の位置に設けられていて、油止壁28の存在により油溝25に入り込んだ潤滑油がリング状部21の外周側に流出するのを抑制している。
【0120】
このため、油溝25に入り込んだ潤滑油は、油止壁28によって樹脂製スラストワッシャ20の外周側に流出するのが抑制される。したがって、樹脂製スラストワッシャ20のうち油溝25が存在する面側では、他の部材(相手材C1,C2や他のスラストワッシャ)との間に、潤滑油による油膜を容易に形成することが可能となる。そのため、樹脂製スラストワッシャ20のうち油溝25が存在する面側と他の部材(相手材C1,C2や他のスラストワッシャ)との間では、摺動負荷を低減することが可能となる。
【0121】
また、スラストワッシャが複数設けられることにより、それらスラストワッシャの間で、摺動させることが可能となる。そのため、スラストワッシャと相手材C1,C2との間の回転差を相対的に少なくすること、または回転差がない状態とすることが可能となり、それによっても摺動負荷を低減することが可能となる。
【0122】
また、本実施の形態では、油溝25には、リング状部21の径方向に対して一方側に傾斜している第1油溝25aと、リング状部21の径方向に対して一方側とは異なる他方側に傾斜している第2油溝25bとが設けられていて、第1油溝25aと第2油溝25bは、開口部27で連結されている。
【0123】
このように、第1油溝25aと第2油溝25bとは、径方向を挟んで、一方側と他方側にそれぞれ傾斜している。したがって、樹脂製スラストワッシャ20のうち油溝25が存在する面側では、樹脂製スラストワッシャ20が時計回りおよび反時計回りのいずれに回転しても、他の部材(相手材C1,C2や他のスラストワッシャ)との間に、潤滑油による油膜を容易に形成することが可能となる。そのため、樹脂製スラストワッシャ20のうち油溝25が存在する面側と他の部材(相手材C1,C2や他のスラストワッシャ)との間では、樹脂製スラストワッシャ20の回転方向を問わずに摺動負荷を低減することが可能となる。
【0124】
また、本実施の形態では、スラストワッシャには、少なくとも1枚の金属を材質とする金属製スラストワッシャ50が設けられている。ここで、金属製スラストワッシャ50は、樹脂製スラストワッシャ20よりも厚みを薄くすることができる。したがって、組合せスラストワッシャ10の全体的な厚みを低減することが可能となる。
【0125】
また、本実施の形態では、スラストワッシャは、3枚設けられていて、3枚のスラストワッシャの配列の中央に配置されているスラストワッシャのリング状部21の表面と裏面には、油溝25が形成されない状態の平滑な摺動面26,203が設けられている。
【0126】
このように構成する場合でも、摺動負荷を低減することが可能となる。
【0127】
また、本実施の形態では、スラストワッシャの配列の一端側および他端側に配置されているスラストワッシャは樹脂製スラストワッシャ20である。これと共に、スラストワッシャの配列の一端側および他端側に配置されている樹脂製スラストワッシャ20のうち、配列の中央に配置されているスラストワッシャと対向する面には、油溝25が設けられている。
【0128】
このため、樹脂製スラストワッシャ20のうち油溝25が存在する面と、スラストワッシャのうち油溝25が形成されていない平滑な摺動面26,203とを対向させる構成となるので、油溝25から潤滑油を供給し、平滑な摺動面26,203の表面に油膜を良好に形成することが可能となる。それにより、樹脂製スラストワッシャ20のうち油溝25が存在する面と、スラストワッシャのうち油溝25が形成されていない平滑な摺動面26,203との間の摺動負荷を低減することが可能となる。
【0129】
また、本実施の形態では、スラストワッシャの配列の一端側および他端側に配置されている樹脂製スラストワッシャ20のうち、該配列の中央に配置されているスラストワッシャと対向する面と反対側の面には、油溝25が形成されない状態の平滑な摺動面26,203が設けられている。
【0130】
このため、相手材C1,C2とスラストワッシャの配列の一端側および他端側に配置されている樹脂製スラストワッシャ20との間には、油溝25が存在しない。したがって、相手材C1,C2のうち、スラストワッシャの配列の一端側および他端側に配置されている樹脂製スラストワッシャ20と対向する面の粗さが粗い場合には、一端側および他端側の樹脂製スラストワッシャ20は、相手材C1,C2に対しては摺動せずに、共に回転する状態となる。このため、一端側および他端側の樹脂製スラストワッシャ20のうち油溝25が存在する面側と、中央に配置されているスラストワッシャの平滑な摺動面26,203との間には、油溝25から潤滑油が供給される。それにより、平滑な摺動面26の表面に油膜を良好に形成することが可能となる。したがって、これらの面の間で、摺動負荷を低減することが可能となる。
【0131】
また、本実施の形態では、3枚のスラストワッシャの配列の中央に配置されているスラストワッシャは、金属を材質とする金属製スラストワッシャ50である。したがって、組合せスラストワッシャ10の全体的な厚みを低減することが可能となる。また、金属製スラストワッシャ50の摺動面203と、端側および他端側の樹脂製スラストワッシャ20のうち油溝25が存在する面側との間には、油溝25から潤滑油が供給される。それにより、平滑な摺動面26の表面に油膜を良好に形成することが可能となる。したがって、これらの面の間で、摺動負荷を低減することが可能となる。
【0132】
また、本実施の形態では、第1油溝25a、第2油溝25bおよび開口部27で囲まれた包囲部111は、摺動面26よりも厚み方向において凹んでいる。また、包囲部111と第1油溝25a、および包囲部111と第2油溝25bの間には、これらを隔てる油堤部109が設けられていて、該油堤部109の厚み方向における位置は、摺動面26と同程度の位置に設けられている。
【0133】
このため、包囲部111は、油堤部109よりも凹んでいる。このため、他の部材(相手材C1,C2や他のスラストワッシャ)に対し、油堤部109は直接摺動する可能性があるが、包囲部111は他の部材(相手材C1,C2や他のスラストワッシャ)に対して、直接摺動しない。一方、包囲部111には、油溝25を介して潤滑油が流入して、その潤滑油が包囲部111に蓄えられる。したがって、樹脂製スラストワッシャ20と他の部材(相手材C1,C2や他のスラストワッシャ)との間の摺動負荷を一層低減することが可能となる。
【0134】
[6.変形例]
以上、本発明の各実施の形態について説明したが、本発明はこれ以外にも種々変形可能となっている。以下、それについて述べる。
【0135】
上述の実施の形態では、1枚の樹脂製スラストワッシャ20の表面と裏面では、同じ形状の油溝25が設けられている。しかしながら、1枚の樹脂製スラストワッシャ20の表面と裏面に形成する油溝25が異なる形状であっても良い。また、組合せスラストワッシャ10を構成する樹脂製スラストワッシャ20に形成される油溝25の少なくとも1つが、他とは異なる形状であっても良い。たとえば、樹脂製スラストワッシャ20、金属製スラストワッシャ50や相手材C1,C2といった、油溝25が存在する摺動面26と対向する面の表面粗さに応じて、適切な量の潤滑油が供給されるように、油溝25の形状を変更するようにしても良い。
【0136】
また、上述した第1〜第5構成例、第7構成例および第8構成例に係る樹脂製スラストワッシャ20においては、第6構成例に係る樹脂製スラストワッシャ20の連通油溝113と同様に、摺動面26から凹む連通油溝113を設ける構成を採用しても良い。このような構成の一例を、図28に示す。図28では、連通油溝113は、V字を描く第1油溝25aと第2油溝25bのセットと同じ数だけ設けられている。しかしながら、連通油溝113の個数は、V字を描く第1油溝25aと第2油溝25bのセットよりも多くても良く、少なくても良い。なお、図28に示す構成では、連通油溝113は、径方向に沿うように直線状に設けられている。ただし、連通油溝113は、径方向に沿わずに、径方向に対して傾斜するように設けられていても良い。また、連通油溝113は、直線状ではなく、曲線状に設けられていても良い。
【0137】
このような連通油溝113を設ける場合、連通油溝113を外径側に向かって通過する潤滑油の流量を多くすることが可能となる。したがって、樹脂製スラストワッシャ20の放熱性を良好にすることが可能となる。
【符号の説明】
【0138】
10…組合せスラストワッシャ、20…樹脂製スラストワッシャ、21…リング状部、22…挿通孔、23…油導入溝、24…油掬い面、25…油溝、25a…第1油溝、25b…第2油溝、26…摺動面、27…開口部、28,110a…油止壁、50…金属製スラストワッシャ、109…油堤部、110…分岐油溝、111…包囲部、112…摺動用突起、113…連通油溝、114…油溜まり溝、114a…第1油溜まり溝、114b…第2油溜まり溝、115…底部、116…動圧用ガイド壁面、251…底部、252…湾曲壁面、254…動圧用ガイド壁面、255…テーパ壁面、256…凸曲面部、257…幅広溝部、258…幅狭溝部、259,260…凹曲面部、261…傾斜壁部、300…負荷測定装置、301…オイルパン、301a…内筒部、301b…油排出口、302…固定軸、303…回転軸、304…油供給路、305…熱電対、306,307…オイルシール、S1〜S3…スラストワッシャ
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