【文献】
IEEE Transactions on Control Systems Technology, 2012, Vol.20, No.1, pp.11-30
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記コントローラは、前記第1の熱電冷却器の前記アクティブ面を用いた加熱及び冷却が毎秒10℃以内又はそれ未満のランプ速度で発生するように、前記第2の熱電冷却器の動作によって前記第1の熱電冷却器の効率が維持されるように構成された、請求項1に記載の熱制御装置。
反応容器の単一側面上での前記反応容器の熱サイクリングのために前記反応容器と係合して、前記反応容器の反対側の側面からの標的分析物の光学的検出を可能にするように適合された、請求項1に記載の熱制御装置。
サイクリング中の前記第1の熱電冷却器の効率を維持するために、前記第1の熱電冷却器のサイクリング中の前記第2の熱電冷却器の制御された動作によって、前記熱キャパシタの温度を前記第1の熱電冷却器の前記アクティブ面の前記温度から約40℃以内に維持すること、
をさらに含む、請求項17に記載の方法。
前記第1の熱電冷却器の前記効率は、前記第2の熱電冷却器の動作によって、前記第1の熱電冷却器の前記アクティブ面を用いた加熱及び/又は冷却が毎秒10℃以内又はそれ未満のランプ速度で発生するように維持される、請求項20に記載の方法。
熱暴走を防止するために、前記第1及び第2の熱電冷却器を用いたサイクリング中に、前記第2の熱電冷却器の前記リファレンス面と結合されたヒートシンクを動作させること、
をさらに含む、請求項17に記載の方法。
前記熱制御装置を前記反応容器と係合させることは、前記第1の熱電冷却器の前記アクティブ面を前記反応容器の一方の側面に対して係合させることを含み、それにより反対側の側面が前記熱制御装置によって覆われずに存続して、前記反対側の側面からの光学的検出が可能になる、請求項23に記載の方法。
【発明の概要】
【0011】
本発明は、生化学反応容器の熱サイクリングを向上した制御、迅速性、及び効率を有して実行する熱制御装置に関する。第1の態様では、前記熱制御装置は、アクティブ面とリファレンス面とを有する第1の熱電冷却器、アクティブ面とリファレンス面とを有する第2の熱電冷却器、及び熱キャパシタであって、前記第1の熱電冷却器の前記リファレンス面が前記熱キャパシタを介して前記第2の熱電冷却器の前記アクティブ面と熱的に結合するように、前記第1及び第2の熱電冷却器の間に配置された、熱キャパシタ、を含む。いくつかの実施形態では、前記熱制御装置は、前記第1及び第2の熱電冷却器のそれぞれに動作可能に結合されたコントローラを含み、前記コントローラは、前記第1の熱電冷却器の前記アクティブ面の温度が初期温度から所望の目標温度まで変化する際の、前記第1の熱電冷却器の動作における速度及び効率を増加するように、前記第1の熱電冷却器と並行して前記第2の熱電冷却器を動作させるように構成される。
【0012】
いくつかの実施形態では、熱インタポーザが前記第1及び第2の熱電冷却器装置の間に位置付けられ、いくつかの実施形態では、前記熱インタポーザは熱キャパシタとして働く。いくつかの実施形態では、前記熱制御装置は、熱サイクリング中の流体試料の増加した加熱及び冷却速度を促進するために、十分な熱エネルギーを蓄積するための、十分な質量の熱伝導性材料から形成された熱キャパシタを含む。いくつかの実施形態では、前記熱キャパシタは、前記第1及び第2の熱電冷却器の前記アクティブ面及び/又はリファレンス面の熱質量より高い熱質量を有する材料を含み、前記第1及び第2の熱電冷却器の前記アクティブ面及び/又はリファレンス面は、いくつかの実施形態ではセラミック材料から形成される。いくつかの実施形態では、前記熱キャパシタは、約10mm以下(例えば、約10mm、9mm、8mm、7mm、6mm、5mm、4mm、3mm、2mm、又は1mm以下)の厚さを有する銅層から形成される。この構成により、低減されたサイズの核酸分析装置における平面反応容器と共に使用するのに好適であるような、比較的薄い平面構成の熱制御装置が可能になる。
【0013】
いくつかの実施形態では、前記熱制御装置は、前記第1の熱電冷却器の前記アクティブ面の前記温度を感知するように適合された第1の温度センサと、前記熱キャパシタの温度を感知するように適合された第2の温度センサとを含む。いくつかの実施形態では、前記第1及び第2の温度センサは、前記第1及び第2の熱電冷却器の動作がそれぞれ前記第1及び第2の温度センサからの前記コントローラへの入力に少なくとも部分的に基づくように、前記コントローラと結合される。いくつかの実施形態では、前記第2の温度センサは、前記熱キャパシタの前記熱伝導性材料に埋め込まれるか又は少なくともそれと熱的に接触する。本明細書中に記載する任意の実施形態において、前記温度センサは、前記センサがそれぞれの層と、前記層の温度を感知するのに十分なほど熱的に接触している限り、様々なその他の位置に配置されてもよいということが理解される。
【0014】
いくつかの実施形態では、前記熱制御装置は、プライマリ制御ループであってその中に前記第1の温度センサの前記入力が提供されるプライマリ制御ループと、セカンダリ制御ループであってその中に前記第2の温度センサの前記入力が提供されるセカンダリ制御ループとを用いて構成されたコントローラを含む。前記コントローラは、前記プライマリ制御ループの帯域幅応答が前記セカンダリ制御ループの帯域幅応答より高速(又は低速)にタイミング調節されるように構成されてもよい。一般に、前記プライマリ及びセカンダリ制御ループの両方は閉ループである。いくつかの実施形態では、前記制御ループは(並列とは対照的に)直列に接続される。いくつかの実施形態では、前記コントローラは、前記第1の熱電冷却器の前記アクティブ面が高い目標温度まで加熱される加熱サイクルと、前記第1の熱電冷却器の前記アクティブ面が低い目標温度まで冷却される冷却サイクルとの間でサイクリングするように構成される。前記コントローラは、前記第1の制御ループが加熱と冷却との間で切り替えられる前に、前記セカンダリ制御ループが前記第2の熱電冷却器を加熱モードと冷却モードとの間で切り替えて、前記熱キャパシタに熱負荷をかけるように構成されてもよい。いくつかの実施形態では、前記セカンダリ制御ループは、前記熱キャパシタの温度を、前記第1の熱電冷却器の前記アクティブ面の前記温度から約40℃以内に維持する。いくつかの実施形態では、前記セカンダリ制御ループは、前記熱キャパシタの温度を、前記第1の熱電冷却器の前記アクティブ面の前記温度から約5℃、10℃、15℃、20℃、25℃、30℃、35℃、40℃、45℃、又は50℃以内に維持する。前記コントローラは、前記第1の熱電冷却器の前記アクティブ面を用いた加熱及び冷却が毎秒約10℃のランプ速度で発生するように、前記第2の熱電冷却器の動作によって前記第1の熱電冷却器の効率が維持されるように構成されてもよい。本発明を用いて達成可能な非限定的な例示的ランプ速度としては、毎秒20℃、19℃、18℃、17℃、16℃、15℃、14℃、13℃、12℃、11℃、10℃、9℃、8℃、7℃、6℃、5℃、4℃、3℃、2℃、又は1℃が含まれる。いくつかの実施形態では、前記高い目標温度は約90℃以上であり、前記低い目標温度は約40℃以下である。いくつかの実施形態では、前記低い目標温度は約40℃〜約75℃の範囲内である。いくつかの実施形態では、前記低い目標温度は約45℃、50℃、55℃、60℃、65℃、又は約70℃である。
【0015】
いくつかの実施形態では、前記熱制御装置は、サイクリング中の熱暴走を防止するために前記第2の熱電冷却器の前記リファレンス面と結合されたヒートシンクをさらに含む。前記熱制御装置は、概して平面状の構成に構築されてもよく、且つ試料分析装置内の反応容器チューブの平面部分に一致するように寸法決定されてもよい。いくつかの実施形態では、平面サイズは、PCR分析装置内の反応容器と共に使用するのに好適であるように、約45mm以下の長さ及び約20mm以下の幅、又は約40mmの長さ×約12.5mm、例えば約11mm×13mmなどを有する。前記概して平面状の構成は、前記第1の熱電冷却器の前記アクティブ面から前記ヒートシンクの反対側を向いた側面までの、約20mm以下の厚さを有するように構成され寸法決定されてもよい。有利には、いくつかの実施形態では、前記熱制御装置は、反応容器の単一側面上での前記反応容器の熱サイクリングのために前記反応容器と係合して、熱サイクリング中の前記反応容器の反対側の側面からの標的分析物の光学的検出を可能にするように適合されてもよい。いくつかの実施形態では、2つの熱制御装置が、反応容器の対向する平面側面を加熱するために使用される。いくつかの実施形態では、2つの熱制御装置が前記反応容器の対向する側面上で使用される場合(例えば2側面加熱)、光学的検出は前記反応容器の小面積壁を通して光学的エネルギーを送信及び受信することによって実行され、それにより前記反応容器の同時の加熱及び光学的インタロゲーションが可能になる。
【0016】
いくつかの実施形態では、温度を制御する方法が本明細書中で提供される。そのような方法は、アクティブ面とリファレンス面とを有する第1の熱電冷却器を動作させて初期温度から目標温度まで前記アクティブ面を加熱及び/又は冷却する工程、及び前記第1の熱電冷却器の前記アクティブ面の温度が前記初期温度から所望の目標温度まで変化する際の、前記第1の熱電冷却器の効率を増加するように、(アクティブ面とリファレンス面とを有する)第2の熱電冷却器を動作させる工程、を含み、前記第2の熱電冷却器の前記アクティブ面は熱キャパシタを介して前記第1の熱電冷却器の前記リファレンス面に熱的に結合されている。そのような方法は、前記第1の熱電冷却器を動作させることは、前記第1の熱電冷却器の前記アクティブ面における温度センサからの温度入力を有するプライマリ制御ループを動作させることを含む工程、及び前記第2の熱電冷却器を動作させることは、前記熱キャパシタ内の温度センサからの温度入力を有するセカンダリ制御ループを動作させることを含む工程、をさらに含んでもよい。いくつかの実施形態では、前記方法は、前記第1の熱電装置の前記アクティブ面が高い目標温度まで加熱される加熱モードと前記アクティブ面が低い目標温度まで冷却される冷却モードとの間でサイクリングすること、及び前記加熱モードと冷却モードとの間の熱変動からの熱エネルギーを前記熱キャパシタ内に蓄積すること、をさらに含み、前記熱キャパシタは、前記第1及び第2の熱電冷却装置のそれぞれの前記アクティブ面及びリファレンス面に比較して増加した熱伝導度を有する層を含む。
【0017】
本発明のいくつかの実施形態は、熱サイクリング反応における温度を制御する方法を提供する。例えばいくつかの実施形態では、本発明は、第1の熱電装置の加熱モードと冷却モードとの間のサイクリングと並行して、第2の熱電装置の加熱モードと冷却モードとの間をサイクリングし、それによりサイクリング中の前記第1の熱電装置の効率を維持すること、を備える。いくつかの実施形態では、前記コントローラは、前記第1の熱電装置の前記プライマリ制御ループの帯域幅応答が前記第2の熱電装置の前記セカンダリ制御ループの帯域幅応答より高速であるように構成される。前記コントローラは、前記第1の熱電装置のモード間の切り替えの前に、前記第2の熱電装置をモード間で切り替えて、前記熱キャパシタに熱負荷をかけるように、前記コントローラによってサイクリングがタイミング調節されるようにさらに構成されてもよい。いくつかの用途では、前記高い目標温度は約90℃以上であり、前記低い目標温度は約75℃以下である。
【0018】
いくつかの実施形態では、温度を制御する方法は、サイクリング中の前記第1の熱電冷却器の効率を維持するために、前記第1の熱電冷却器のサイクリング中の前記第2の熱電冷却器の制御された動作によって、前記熱キャパシタの温度を前記第1の熱電冷却器の前記アクティブ面の前記温度から約40℃以内に維持すること、をさらに含む。いくつかの実施形態では、前記第1の熱電冷却器の前記効率は、前記第2の熱電冷却器の動作によって、前記第1の熱電冷却器の前記アクティブ面を用いた加熱及び/又は冷却が毎秒約10℃以内又はそれ未満のランプ速度で発生するように維持される。そのような方法は、熱暴走を防止するために、前記第1及び第2の熱電冷却器を用いた熱サイクリング中に、前記第2の熱電冷却器の前記リファレンス面と結合されたヒートシンクを動作させること、をさらに含んでもよい。
【0019】
いくつかの実施形態では、ポリメラーゼ連鎖反応プロセスにおける熱サイクリングの方法が本明細書中で提供される。そのような方法は、前記第1の熱電冷却器の前記アクティブ面が反応容器と熱的に係合するように、前記熱制御装置を前記反応容器と係合させる工程であって、前記反応容器はその中に含まれている流体試料を、前記流体試料内に含まれている標的ポリヌクレオチドを増幅するポリメラーゼ連鎖反応を実行するために有する、工程、及び前記熱制御装置を、前記流体試料を前記PCRプロセス中に加熱及び冷却するための特定のプロトコルに従って熱サイクリングする工程、を含んでもよい。いくつかの実施形態では、前記熱制御装置を前記反応容器と係合させることは、前記第1の熱電冷却器の前記アクティブ面を前記反応容器の一方の側面に対して係合させることを含み、それにより反対側の側面が前記熱装置によって覆われずに存続して、前記反対側の側面からの光学的検出が可能になる。いくつかの実施形態では、前記加熱モード及び冷却モードのそれぞれは1又は複数の動作パラメータを有し、前記1又は複数の動作パラメータは前記加熱及び冷却モードの間で非対称である。例えば、前記加熱モード及び冷却モードのそれぞれは帯域幅及びループ利得を有し、前記加熱モード及び冷却モードの前記帯域幅及び前記ループ利得は異なっている。
【0020】
いくつかの実施形態では、熱制御装置を用いて温度を制御する方法が提供される。そのような方法は、第1及び第2の熱電冷却器であってそれらの間に熱キャパシタを有し、前記第1及び第2の熱電冷却器のそれぞれはアクティブ面とリファレンス面とを有する、第1及び第2の熱電冷却器を、熱制御装置に備える工程、前記アクティブ面を加熱する工程、前記アクティブ面を冷却する工程、前記リファレンス面を加熱する工程、及び前記リファレンス面を冷却する工程、を含む。いくつかの実施形態では、各アクティブ加熱面及び各アクティブ冷却面は、1又は複数の動作パラメータによって制御される。いくつかの実施形態では、前記1又は複数の動作パラメータの大きさは、前記アクティブ面を冷却する間に比較して前記アクティブ面を加熱する間は異なっている。
【0021】
第1及び第2の熱電冷却器を含む記載された任意の実施形態において、前記第2の熱電冷却器は、熱操作装置によって取って代わられてもよい。そのような熱操作装置は、加熱器、冷却器、又は温度を調節するのに好適な任意の手段、のうちの任意のものを含む。いくつかの実施形態では、前記熱操作装置は、前記第1の熱電冷却器と共通のミクロ環境内に含まれ、それにより、前記熱操作装置の動作は前記ミクロ環境の温度を周囲温度に比べて変化させる。この態様において、前記装置は、前記第1の熱電冷却器が第1の温度(例えば60℃〜70℃の増幅温度)と第2のより高い温度(例えば約95℃の変性温度)との間でサイクリングし、これらの温度の間でなるべく迅速にサイクリングすることを可能にするように、周囲環境を変化させる。前記第1及び第2の温度の両方が真の周囲温度より高い場合、ミクロ環境内の第2の熱源(例えば熱電冷却器又は加熱器)が前記ミクロ環境内の温度を前記周囲温度より高く上げることがより効率的である。あるいは、前記周囲温度が前記第2のより高い温度を超えている場合、前記熱操作装置は、前記第1及び第2の温度の間の迅速なサイクリングをより効率的に可能にする理想の温度まで、前記ミクロ環境を冷却してもよい。いくつかの実施形態では、前記ミクロ環境は、前記第1の熱電装置と前記熱操作装置との間の熱インタポーザを含む。
【0022】
いくつかの実施形態では、前記熱制御装置は、アクティブ面とリファレンス面とを有する第1の熱電冷却器、熱操作装置、及び前記第1の熱電冷却器と前記熱操作装置とのそれぞれに動作可能に結合されたコントローラ、を含む。前記コントローラは、前記第1の熱電冷却器の前記アクティブ面の温度が初期温度から所望の目標温度まで変化する際の、前記第1の熱電冷却器の効率を増加するように、前記第1の熱電冷却器を前記熱操作装置と協働して動作させるように構成されてもよい。前記熱操作装置は、熱抵抗性加熱要素(thermo−resistive heating element)、又は第2の熱電冷却器、又は温度を調節するための任意の好適な手段を含んでもよい。
【0023】
いくつかの実施形態では、前記熱制御装置は、前記コントローラと結合された1又は複数の温度センサをさらに含み、前記温度センサは、前記第1の熱電冷却器に沿って若しくはその近くに配置され、且つ/又は、前記熱操作装置に沿って若しくはその近くに配置され、且つ/又は、前記第1の熱電冷却器及び前記熱操作装置に共通のミクロ環境に沿って若しくはその近くに配置される。前記熱操作装置は、分析装置内に画定されたミクロ環境(熱キャパシタを含んでもよい)を介して前記第1の熱電冷却器と熱的に結合されてもよく、前記分析装置内には、前記ミクロ環境の温度が前記分析装置の外部の周囲温度から制御及び調節され得るように、前記熱操作装置が配置される。
【0024】
いくつかの実施形態では、前記熱制御装置は、前記熱電冷却器及び前記熱操作装置のそれぞれと結合されたコントローラを含み、前記コントローラは、前記熱制御装置と熱連通した反応容器のチャンバ内の温度を制御するために、温度を制御するように構成される。いくつかの実施形態では、前記コントローラは、前記反応容器内のインサイチュー反応チャンバ温度の熱モデリングに基づいて前記第1の熱電冷却器を動作させるように構成される。前記熱モデリングはリアルタイムで実行されてもよく、且つモデルの精度に応じてカルマンフィルタリングを利用してもよい。
【0025】
いくつかの実施形態では、前記熱制御装置は、分析装置内に配置され、前記分析装置内に配置された試料カートリッジの反応容器と熱連通するように位置付けられる。前記コントローラは、前記反応容器のチャンバ内のポリメラーゼ連鎖反応プロセスにおける熱サイクリングを実行するように構成されてもよい。
【0026】
いくつかの実施形態では、前記熱制御装置は、アクティブ面とリファレンス面とを有する第1の熱電冷却器、熱操作装置、熱インタポーザであって、前記第1の熱電冷却器の前記リファレンス面が前記熱インタポーザを介して前記熱操作装置と熱的に結合するように、前記第1の熱電冷却器と前記熱操作装置との間に配置された、熱インタポーザ、及び前記第1の熱電冷却器の前記アクティブ面の温度を感知するように適合された第1の温度センサ、を含む。前記装置は、前記第1の熱電冷却器及び前記熱操作装置のそれぞれに動作可能に結合されたコントローラをさらに含んでもよい。前記コントローラは、前記第1の熱電冷却器の前記アクティブ面の温度が初期温度から所望の目標温度まで変化される際の、前記第1の熱電冷却器の速度及び効率を増加するように、前記熱操作装置を前記第1の熱電冷却器と協働して動作させるように構成されてもよい。いくつかの実施形態では、前記コントローラは、前記第1の温度センサからの入力を含む熱モデルに基づいて予測される温度のフィードバック入力を有する、閉制御ループを用いて構成される。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明は一般に、化学反応における熱サイクルを制御するシステム、装置、及び方法に関し、特に、核酸増幅反応における熱サイクリングの制御において使用するように適合された熱制御装置モジュールに関する。
【0029】
第1の態様において、本発明は、熱サイクリングにおける向上した制御及び効率を提供する熱制御装置を提供する。いくつかの実施形態では、そのような熱制御装置は、反応容器内の流体試料のポリメラーゼ連鎖反応のための熱サイクリングを実行するように構成されてもよい。そのような装置は、熱電冷却器構成のアクティブ面の温度が流体試料及び反応容器の温度と一致するように、前記反応容器に直接接触して又は直接隣接して位置付けられた、少なくとも1つの熱電冷却器を含んでもよい。このアプローチでは、反応容器内の流体試料の温度を平衡させるために、熱伝導のための十分な時間が想定される。そのような改良された熱制御装置は、既存の熱制御装置に取って代わるために使用されてもよく、それにより、従来の熱サイクリング手順の実行において向上した制御、速度、及び効率が提供される。
【0030】
第2の態様において、本明細書中に記載する熱制御装置によって可能になる向上した制御及び効率により、そのような装置が、最適化熱サイクリング手順(optimized thermal cycling procedure)を実行するように構成されることが可能になる。いくつかの実施形態では、そのような熱制御装置は、反応容器のチャンバ内の温度の熱モデルを利用した熱サイクリングを実行して、反応容器内の流体試料のポリメラーゼ連鎖反応を実行するように構成されてもよい。この熱モデリングは、熱制御装置のコントローラ内に実装されてもよい。そのような熱モデリングは、理論値及び/又は経験値に基づいたモデルを利用してもよく、又はリアルタイムモデリングを利用してもよい。そのようなモデリングは、反応容器内の温度のより正確な推定値を提供するために、カルマンフィルタリングをさらに使用してもよい。このアプローチにより、従来の熱サイクリング手順よりも高速且つ効率的な熱サイクリングが可能になる。
【0031】
熱サイクリングのための上記のアプローチのいずれも、本明細書中に記載する熱制御装置によって実行可能である。いくつかの実施形態では、前記熱制御装置は、生体試料分析装置内の反応容器と熱的に係合したアクティブ面を有する第1の熱電冷却器を利用し、且つ、前記第1の熱電冷却器の反対側のリファレンス面の温度を制御するための別の熱操作装置(例えば、第2の熱電冷却器、加熱器、冷却器)を利用する。いくつかの実施形態では、前記熱制御装置は、熱エネルギーを伝達及び蓄積するための十分な熱伝導度及び熱質量を有する熱キャパシタを介して熱的に結合された第1及び第2の熱電冷却器を含み、それにより、加熱と冷却との間で切り替える際の時間が低減し、結果として、より高速且つより効率的な熱サイクリングが提供される。いくつかの実施形態では、前記装置は、第1の熱電冷却器装置内のサーミスタと、熱キャパシタ層内の別のサーミスタとを利用し、第1及び第2のサーミスタのそれぞれの温度に基づいて、第1及び第2の閉制御ループを使用して動作する。熱キャパシタ層内の蓄積された熱エネルギーを利用するために、第2の制御ループは、第1の制御ループよりも進むか又は遅れるように構成されてもよい。本明細書中に記載するこれらの態様のうちの1又は複数を使用することにより、本発明の実施形態は、上に記載した問題となる高温環境においてさえ迅速な熱サイクリングを好ましくは約2時間以下で実行するための、より高速でより堅牢な熱制御装置を提供する。
【0032】
I.例示的システムの概要
A.生体試料分析装置
いくつかの実施形態では、本発明は、試料分析装置内の反応容器と共に使用するように適合された、且つ核酸増幅反応を行うために前記反応容器内の熱サイクリングを制御するように構成された、熱制御装置に関する。いくつかの実施形態では、前記熱制御装置は、特定の分析のための必要に応じた熱サイクリングを可能にするため、例えば前記反応容器内に配置された流体試料内の標的分析物の増幅を可能にするために、前記反応容器と結合し、且つ/又は前記反応容器との接触を維持する、取り外し可能モジュールとして構成される。いくつかの実施形態では、前記熱制御装置は、平面構成を有し、反応容器であってその熱サイクリングが所望される反応容器の平面部分に一致するようにサイズ決定及び寸法決定される。いくつかの実施形態では、前記熱制御装置は、結合部分又は結合機構であってそれによって前記熱制御装置が反応容器の少なくとも一方の側面に接触し、且つ/又は極めて近接して維持され、それによりその中に含まれる流体試料の加熱及び冷却が促進される、結合部分又は結合機構を含む。他の実施形態では、前記熱制御装置は、反応容器内の熱サイクリングを制御するための好適な位置において、固定具又はその他の手段によって固定される。例えば、前記熱制御装置は、試料分析装置であってその中に使い捨て試料カートリッジが置かれる試料分析装置内に取り付けられてもよく、その取り付けは、前記試料カートリッジが標的分析物の検査を行うための所定の位置にある場合に前記熱制御装置が前記試料カートリッジ内の熱サイクリングを制御するための好適な位置にあるようになされてもよい。
【0033】
いくつかの実施形態では、前記熱制御装置は、例えばポリメラーゼ連鎖反応(PCR)分析などの核酸増幅検査(NAAT)における核酸標的の検出のために構成された試料分析カートリッジから延在する反応容器又は反応チューブと結合可能な、取り外し可能モジュールとして構成される。そのようなカートリッジ内の流体試料の調製は一般に、特定のプロトコルに従った化学的、電気的、機械的、熱的、光学的、又は音響学的処理工程を含んでもよい一連の処理工程を含む。そのような工程は、細胞捕獲、細胞溶解、精製、分析物の結合、及び/又は不要物質の結合などの様々な試料調製機能を実行するために使用されてもよい。そのような試料処理カートリッジは、試料調製工程の実行に適した1又は複数のチャンバを含んでもよい。本発明と共に使用するのに好適な試料カートリッジは、2000年8月25日出願の「流体制御処理システム(Fluid Control and Processing System)」と題された米国特許第6,374,684号明細書、及び2002年2月25日出願の「流体の処理および制御(Fluid Processing and Control)」と題された米国特許第8,048,386号明細書において示され説明されており、当該特許の全内容は全ての目的のためにそれらの全体が参照によって本明細書中に援用される。
【0034】
一態様では、前記熱制御装置は、反応容器を含む使い捨て分析カートリッジと共に使用するように構成される。いくつかの実施形態では、前記熱制御装置は、複雑な流体管理及び処理タスクを容易にする非取り付け使い捨てアセンブリ(non−instrumented disposable assembly)と共に使用するように構成される。反応容器を含むこの使い捨てアセンブリにより、試薬及び試料の混合、溶解、及び最終的な検出送達先である反応容器内のオンボードチャンバへの多重送達の、複雑なしかし協調的な取り組みが可能になる。この反応チャンバの内側は入り組んだ生化学プロセスが行われる場所であり、したがって、反応が成功し且つ効率的であるためには、正確な環境条件を維持することが重要である。PCR及びrtPCR反応のためには温度を迅速かつ正確にサイクリングすることが特に重要であり、反応サイトにおける物理的センサなしにこれを行うことは、不可能ではないにしても困難であることがわかっている。現在のアプローチでは、反応チャンバの内部の温度がどれだけになるかを推定するために、近くに位置する温度センサからの温度オフセット(キャリブレーション)が使用される。このアプローチにはかなりの欠点がある。温度センサと反応容器との間の物理的分離が小さい場合でもオフセットは定常状態と判定され、ほとんどの反応は、反応の迅速な温度サイクリング時間と結び付いた熱システムの物理的動態に起因して、真の定常状態には決して到達しない。したがって、反応容器内の温度は決して正確には知られない。この課題に対処するために、現在のアプローチでは一般に、最適化熱サイクリングにより、成功を収めるまで連続的に熱的条件を反復することによって「理想的な」反応温度と熱設定点保持時間とを見出す。このプロセスは時間がかかり、また、分析の間にチャンバの実際の反応温度がどれだけであるかを分析デザイナーが正確に知ることは決してないため、最適化されたアッセイ性能は決して実現され得ない。このプロセスでは多くの場合、流体試料の温度が所望の温度に到達することを保証するために、必要以上に長い設定点保持時間がもたらされる。
【0035】
熱モデリングは異なるアプローチであり、本明細書に記載する改良された熱制御装置の使用により分析システム内に実装可能である。モデリングにより、インサイチュー反応チャンバ温度の正確且つ精密なリアルタイム予測が可能になる。加えて、熱モデリングにより動態の解明も可能になり、これは速度(サイクリング時間)をより良好に制御するために、及び将来の分析開発のためのより強力なシステムの基礎を設定するために使用可能である。より重要なことに、これらのモデルは、あたかも反応チャンバが物理的センサを実際に備えているかのように、実世界の温度を正確に反映するように、検証及び調整可能である。最後に、熱モデリングは、周囲温度の変化を考慮に入れることが可能であり、これは高い(又は低い)周囲温度が反応チャンバ温度に影響を及ぼすポイントオブケアシステム配備において極めて重要であり、これについては他の場合には考慮に入れられない。したがって分析デザイナーは、反応チャンバの内部の温度が所望のレベルに常に正確に制御されることを保証され得る。
【0036】
カルマンフィルタリングは、システムモデルと、オフラインで取得された測定データ(例えば、システム要素の効率、材料特性、適切な入力電力など)と、リアルタイムで測定された温度とを使用することによって、最適な推定値に到達可能な制御方法である。本質的にこのアルゴリズムは、モデルがその全ての状態(例えば温度)について予測するものを、実世界の測定された状態(例えば1又は複数の温度センサ)と組み合わせる。適切なモデルは、それらの測定値(センサ)におけるノイズ、及び固有のプロセスにおけるノイズも考慮に入れる。前記アルゴリズムは、この情報の全てを取り込み、動的加重アプローチを適用し、前記動的加重アプローチでは、現在の測定値とそれらの以前の値との比較に応じて、測定値よりもモデル予測の方が強化されるか、又はその逆が行われる。カルマンフィルタリングを使用して最適な予測を行うためには、前記モデルは物理的システムの正確な表現でなければならない。
【0037】
図1Aは、例示的試料分析装置100であって前記装置100内に受け入れられた使い捨て試料カートリッジ110内で調製された流体試料内の標的分析物を検査するための、例示的試料分析装置100を示す。前記カートリッジは反応容器20を含み、調製された流体試料は、標的分析物のPCR分析中の増幅、励起、及び光学的検出のために、前記反応容器20を通して流れる。いくつかの実施形態では、前記反応容器は、複数の個別の反応ウェルを、及び/又は
図4Bに示す前置増幅チャンバなどの追加のチャンバを含んでもよい。このシステムは、反応容器20内の流体試料の熱サイクリングを分析中に制御するための、反応容器20に隣接して配置された熱制御装置10をさらに含む。
図1Bは、取り外し可能モジュールとしての熱制御装置10を示し、取り外し可能モジュールであることにより、熱制御装置10は、後続の分析において他の試料カートリッジに対して使用されることが可能である。熱制御装置10は、熱サイクリング中に前記熱制御装置に電力を供給するために、試料分析装置100内の電気的接点と接続するように構成されてもよい。
【0038】
いくつかの実施形態では、前記熱制御装置は、
図4A〜
図4Bに示すものなどの反応容器と共に使用するように構成されてもよく、
図4A〜
図4Bは、試料調製並びに分析物の検出及び分析を実行する試料分析装置100内での、試料調製及び分析を可能にする、例示的試料カートリッジ110及び関連する反応容器20を示す。
図4Aからわかるように、例示的試料カートリッジ110は、試料調製のための1又は複数のチャンバを有する主ハウジングを含む様々な構成要素を含み、
図4Bに示す反応容器20がこれに取り付けられる。試料カートリッジ110と反応容器20とが(
図4Aに示すように)組み立てられた後で、流体試料が前記カートリッジのチャンバ内に入れられ、前記カートリッジは試料分析装置内に挿入される。前記装置は次に、試料調製を実行するために必要な処理工程を実行し、調製された試料は、カートリッジハウジングに取り付けられた反応容器の流体導管内に、一対の移送ポートのうちの1つを通して移送される。調製された流体試料は、反応容器20のチャンバ内に輸送され、同時に、励起手段及び光学的検出手段を使用して1又は複数の対象標的核酸分析物(例えば、バクテリア、ウィルス、病原体、毒素、又はその他の標的)の存在又は欠如が光学的に感知される。そのような反応容器は、標的分析物(1又は複数)の検出において使用するための様々な異なるチャンバ、導管、処理領域、及び/又はマイクロウェルを含み得ることが理解される。流体試料を分析するためのそのような反応容器の例示的使用は、本発明の譲受人に譲渡された2000年5月30日出願の「化学反応を行うためのカートリッジ(Cartridge for Conducting a Chemical Reaction)」と題された米国特許出願第6,818,185号明細書に記載されており、当該特許の全内容は全ての目的のために参照によって本明細書中に援用される。
【0039】
本発明と共に使用するのに好適な非限定的な例示的核酸増幅方法としては、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、逆転写酵素PCR(RT−PCR)、リガーゼ連鎖反応(LCR)、転写媒介増幅(TMA)、及び核酸配列ベースの増幅(NASBA)が含まれる。本発明と共に使用するのに好適な追加の核酸試験は当業者に周知である。流体試料の分析は一般に、特定のプロトコルに従った光学的又は化学的検出を含んでもよい一連の工程を含む。いくつかの実施形態では、第2の試料処理装置が、先に引用した米国特許出願第6,818,185号明細書に記載された標的の分析及び検出に関連する態様のうちの任意のものを実行するために使用されてもよく、当該特許はその全体が参照によって本明細書中に援用される。
【0040】
B.熱制御装置
一態様では、本発明は、向上した温度制御を提供すると同時に少なくとも2つの異なる温度帯の間の急速且つ効率的なサイクリングも提供するように適合された、熱制御装置を提供する。そのような熱制御装置は、熱電冷却器であって別の熱操作装置と協働して制御される熱電冷却器を含んでもよい。前記熱操作装置は、加熱器、冷却器、別の熱電冷却器、又は温度を変更するための任意の好適な手段を含んでもよい。いくつかの実施形態では、前記装置は、前記装置の絶縁部分を通した光学的検出を可能にするための透明絶縁材料の使用を含む。前記熱制御装置は、1又は複数の熱センサ(例えば熱電対)、熱キャパシタ、熱バッファ、熱絶縁体、又はこれらの要素の任意の組み合わせの使用をさらに含んでもよい。いくつかの実施形態では、前記熱操作装置は、熱抵抗性加熱器(thermal−resistive heater)を含む。いくつかの実施形態では、前記熱制御装置は、反応容器の一側面加熱のために適合され、他の実施形態では、前記装置は二側面加熱(例えば対向する大面積面)のために適合される。本明細書中に記載する任意の特徴は、いずれのアプローチにも適用可能であってもよく、前記特徴が記載された特定の実施形態に限定されない、ということが理解される。
【0041】
いくつかの実施形態では、本発明の実施形態による熱制御装置は、熱キャパシタによって分離された第1の熱電冷却器と第2の熱電冷却器とを含む。前記熱キャパシタは、熱エネルギーを伝導及び蓄積するための十分な熱伝導度及び熱質量を有する材料を含み、それにより、第1及び第2の熱電冷却器を用いて熱加熱サイクルと熱冷却サイクルとの間で切り替える際の熱加熱及び/又は熱冷却の効率及び速度が増加する。いくつかの実施形態では、第1及び第2の熱電冷却器のそれぞれはアクティブ面とリファレンス面とを有し、前記熱キャパシタは、第1の熱電冷却器のリファレンス面が前記熱キャパシタを介して第2の熱電冷却器のアクティブ面と熱的に結合するように、第1及び第2の熱電冷却器の間に配置される。いくつかの実施形態では、前記熱キャパシタは第1及び第2の熱電冷却器のそれぞれと直接接触する。
【0042】
いくつかの実施形態では、前記熱制御装置は、熱サイクリング中の第1の熱電冷却器の効率を維持及び/又は向上するように、第1及び第2の熱電冷却器のそれぞれに動作可能に結合されて第1及び第2の熱電冷却器を並行して動作させる、コントローラを含む。そのような熱サイクリングは、アクティブ面を初期温度から所望の目標温度まで加熱すること、及び/又は、アクティブ面を初期温度からより低い所望の目標温度まで冷却することを含む。
【0043】
いくつかの実施形態では、前記熱キャパシタは、熱エネルギーを十分に吸収及び蓄積して第1の熱電冷却器の効率を向上するための十分な熱質量及び熱伝導度の材料層を含み、それにより、第1の熱電冷却器を用いて加熱及び/又は冷却する際の、特に、熱サイクリング中に加熱と冷却との間で切り替える際の効率が維持されるか又は増加する。いくつかの実施形態では、熱キャパシタ層は、第1及び第2の熱電冷却器のいずれよりも薄く、且つ単位厚さ当たりの熱質量は第1又は第2の熱電冷却器のいずれよりも高い。例えば、前記熱キャパシタは銅などの金属を含んでもよく、銅は、十分な熱伝導度と、第1及び第2の熱電冷却器のセラミック層に比較してより高い、単位厚さ当たりの熱質量とを有する。より厚い、より低い熱質量の材料が熱伝導層として使用されてもよいが、熱キャパシタ層に比べてより高い熱質量を有する材料を利用することは、それにより熱制御装置全体を、低減されたサイズの化学分析システムと共に使用するのに好適なサイズ及び厚さのものにすることが可能になるため、有利である。銅は、比較的高い熱伝導度と、熱キャパシタ層が熱エネルギーを蓄積することを可能にするための比較的高い熱質量とを有するため、熱キャパシタとして特に有用である。いくつかの実施形態では、銅層は約5mm以下の、一般に約1mm以下の厚さを有する。本発明と共に熱キャパシタとして使用するのに好適な非限定的な例示的材料としては、アルミニウム、銀、金、スチール、鉄、亜鉛、コバルト、真鍮、ニッケル、及び様々な非金属の選択肢(例えば、グラファイト、高導電性炭素、導電性セラミクス)が含まれる。本発明と共に使用するのに好適な追加の材料は当業者に周知である。
【0044】
いくつかの実施形態では、前記熱制御装置は、第1の熱電冷却器、及び熱抵抗性加熱要素を含む熱操作装置、を含む。この熱操作装置は、本明細書中の任意の実施形態において記載された第2の熱電冷却器装置に取って代わってもよい、ということが理解される。
【0045】
II.熱制御装置プロトタイプ
このセクションでは、本発明のいくつかの実施形態による非限定的な例示的プロトタイプ熱制御装置の初期設計、構成、及び性能特徴付けについて説明し要約する。この例示的プロトタイプは、流体試料に対してPCR分析を実行するための低減されたサイズの試料分析機器において使用するように構成された一体型加熱/冷却モジュールである。
【0046】
試料分析装置であって前記プロトタイプが構成された試料分析装置の機器仕様によって要求される空間的制約及び材料コストの制限により、対象の反応容器を加熱及び冷却するための代替の方法(alternate methods)が実現される。2つの熱電冷却器(2つのペルティエモジュール)と、駆動電子回路と、試料分析機器内にパッケージングするのに適切なサイズのヒートシンクシステムと、機器ハードウェア内に実装されたデュアル制御ループとからなる一体型の全固体加熱及び冷却モジュールが開発された。このプロトタイプでは、熱制御装置モジュールは、反応容器の一方の側面のみに接触し、他方の側面はPCR産物の光学的インタロゲーションのために利用可能なまま残すように設計された。この設計の他の変形が実現されてもよく、例えば、熱制御装置は反応容器の大面積面のそれぞれに対するデュアル加熱のために配置され、光学的検出は反応容器の小面積面を通して行われてもよい、ということが理解される。このプロトタイプシステムによって検査され満たされた主な仕様を以下の表1にまとめる。
【0048】
A.基本設計原理
いくつかの実施形態では、本発明の熱制御装置モジュールは、ペルティエ冷却器としても知られている熱電冷却器(TEC)を利用する。TECは、チェッカーボード様パターンに配置され直列に配線され熱的に並列に接続されたp及びnドープされた半導体ピラーの交互のスタックを挟む2つのセラミック板からなる固体電子装置である。半導体の端に電圧が印加された場合、前記装置を通って流れる電流は、2つのセラミック板の間の著しい温度差をもたらす。順方向電圧バイアスの場合、上板が底板より冷たくなり(慣例では電気リード線を有する面の反対側の面が「低温」面とみなされる)、固体冷却装置として使用される。電圧を逆にすると、「低温」面が次に底面より著しく熱くなることがもたらされる。したがって、TEC装置は長い間、熱サイクリング用途のための一般的な選択肢であり続けている。TEC加熱/冷却効率は、より小さい低パワー装置の場合に劇的に増加する。
【0049】
材料の進歩により、著しく増加した冷却/加熱効率と、GX反応容器(10mm×10mm)に匹敵するアクティブ面積とを有する非常に薄い(〜3mm)TECの生産が可能になった。市販の小さなTECは一般に〜60%の効率を有し、廃熱の低減と小さなサイズとにより、PCRのために必要な反復サイクリングに伴う主な故障モードである熱応力損傷が減少する。小さなTECは、小さくて安価な一体型加熱/冷却ソリューションであり、周囲温度が高くなるにつれて効率が悪化する強制空冷とは異なり、広い周囲温度範囲にわたって効率的な冷却性能をもたらすため、低減されたサイズの核酸分析検査システムのために魅力的である。
【0050】
効率的なTEC加熱/冷却は、3つの要因に依存する。第1に、TEC装置にかけられる熱負荷を制限するよう注意を払わねばならない。反応容器の小さなサイズと、一般的な小さな反応容器容積(<100μl)とにより、熱負荷は重大な懸念事項ではないが、装置は、緩衝液が充填された検査用反応容器を用いて適切に負荷をかけられなければならない。第2に、高温及び低温熱交換器性能は、反復サイクリングに伴う廃熱(入力システム電力の約40%)を放散するのに十分でなければならない。廃熱を管理しない場合、熱効率が著しく低下する可能性があり、最悪の場合にはTECアセンブリ全体内のシステム熱暴走が誘発される可能性がある。実際には、熱暴走は数分のうちに発生する可能性があり、その場合、高温面及び低温面の温度は両方共、装置内の電気的接続の半田を除去するのに十分なほど高温になる。低減されたサイズの分析システム内の空間的制約により、ヒートシンクのサイズは制限される。したがって、最大化された表面積(フィン)を有するアルミニウムヒートシンク(その高い熱伝導度及び熱キャパシティのため選択される)が、高温空気をヒートシンクのアルミニウム/空気インタフェースから離れるようにさらに分散させるための小さなファンと共に組み込まれる。このユニットは、携帯型の低減されたサイズの核酸分析システムのために空間的に適切であるようにサイズ決定される。
【0051】
正常に動作するTECシステムの場合、ペルティエ装置の高温面と低温面との間の達成可能な温度差(dT)には物理的制限があり、市販の最も効率的なTECについて、最大のdTは〜70℃である。必要な熱サイクリング温度は一般に45℃〜95℃の範囲であるため、このdTはPCRのために十分である。したがって、ほとんどのペルティエベースのPCRシステムは、周囲温度のわずかに上(〜30℃)においてヒートシンクを有し、反対側の面をそのベース温度からサイクリングする。しかし、最大のdTに近付くにつれて熱効率は低下し始める。加熱/冷却速度を維持し、システム効率を最大化し、システム応力を最小化するために、
図2に示す例示的実施形態におけるものなどの、本発明の実施形態による複数のTEC装置を使用した熱管理が開発された。
【0052】
図2は、熱キャパシタ層13を介して熱的に結合された第1のTEC11(プライマリTEC)と第2のTEC12(セカンダリTEC)とを含む例示的熱制御装置を示す。TECは、PCR反応容器20内の熱サイクリングの制御を促進するために、第1のTEC11のアクティブ面11aがPCR反応容器20と熱的に結合されるように構成される。前記装置は、前記反応容器上に前記装置を装着するための結合固定具19を所望により含んでもよい。いくつかの実施形態では、前記装置は、前記装置を前記反応容器に隣接して位置付ける固定具に固定されてもよい。第1のTECの反対側のリファレンス面11bは、前記熱キャパシタ層を介して第2のTEC12のアクティブ面12aと熱的に結合される。この構成は、リファレンス面11bが熱キャパシタ層13の一方の側面と直接接触しており、アクティブ面12aが熱キャパシタ層13の反対側の側面と直接接触しているとして記載されてもよい。いくつかの実施形態では、第2のTECのリファレンス面12bは、
図3の実施形態に示すものなどのヒートシンク17及び/又は冷却ファン18と熱的に結合される。この実施形態では、熱制御装置10は、反応容器20の平面部分のうちの一方の側面に沿って熱的に結合されるように構成され、それにより、レーザなどの光学的励起手段30を用いた別の方向(例えば前記反応容器の一側面)からの光学的励起と、光学的検出手段31を用いた別の方向(例えば前記反応容器の反対側の側面)からの光学的検出とが可能になる。そのような構成の別の図が、
図5及び
図6に示されている。
【0053】
反応容器の温度の正確な制御を可能にするために、サーミスタ16が第1のTEC11内に、アクティブ面11aにおいて又はその近くで含まれる。このサーミスタの温度出力は、アクティブ面11aを用いた加熱及び冷却を制御するプライマリ制御ループ15において使用される。第2のサーミスタ16’が前記熱キャパシタ層内に又はその近くに含まれ、関連する温度出力は、第2のTECのアクティブ面12aを用いた加熱及び冷却を制御する第2の制御ループ15’において使用される。一態様では、第1の制御ループは第2の制御ループより高速であり(例えば、第2の制御ループは第1の制御ループより遅れ)、これにより、前記熱キャパシタ層内に伝達及び蓄積される熱エネルギーが考慮に入れられる。これらの2つの制御ループの使用により、第1のTEC11のアクティブ面11aとリファレンス面11bとの間の温度差を、第1のTECの効率が最適化され向上するように制御でき、これにより、本明細書中に記載し以下に示す実験結果において実証されるように、第1のTECを用いたより高速且つより安定した加熱及び冷却が可能になり、同時に、加熱と冷却との間のより迅速な切り替えが前記熱キャパシタにより可能になる。
【0054】
標準的なヒートシンクを反応容器とは反対側のセラミック板に接合する代わりに、別の(セカンダリ)TECが、プライマリTECのアクティブ面の約40℃以内に温度を維持するために使用される。いくつかの実施形態では、この動作を維持するために2つのPID(比例積分微分ゲイン)制御ループが使用される。いくつかの実施形態では、非PID制御ループが、プライマリTECのアクティブ面の温度を維持するために使用される。一般に、高速なPID制御ループが、反応容器と接触したセラミック板の下面に装着されたサーミスタによって監視されて、プライマリTECを所定の温度設定点まで駆動する。制御温度に急速且つ正確に到達できることを保証するために、このループは最大速度で動作する。いくつかの実施形態では、第2のより低速なPID制御ループが、熱効率を最大化するようにプライマリTECの底面の温度を維持する(アクティブ面の温度から〜40℃以内にすることが実験的に決定された)。上述のように、非PID制御ループが、TECの温度を維持して熱効率を最大化するためにやはり使用されてもよい。いくつかの実施形態では、2つの制御ループの間の相互作用を緩衝して、一方のループが他方を制御することをなくすことが有利である。前記熱キャパシタ層の使用により第1及び/又は第2のTECからの熱エネルギーを吸収及び蓄積して、加熱と冷却との間の迅速な切り替えを促進することがさらに有利である。
【0055】
本発明のいくつかの実施形態において使用される、加熱と冷却との間の迅速且つ効率的な切り替えを達成するための2つの非限定的な例示的方法について、ここで詳細に説明する。第1に、セカンダリ制御ループの帯域幅応答は高速なプライマリループよりはるかに低いように意図的に制限され、これはいわゆる「レイジーループ(lazy loop)」である。第2に、熱キャパシタは2つのTECの間に挟まれる。熱制御装置全体が比較的薄いことが、PCRプロセスにおいて一般に使用される小さな反応容器に対する前記装置の使用を可能にするために望ましいが、熱キャパシタの両方の側面上のTECのための熱キャパシタとして機能するための十分な質量及び伝導度を提供する限り、熱キャパシタ層はより厚くてもよいということが理解される。いくつかの実施形態では、熱キャパシタ層は厚さ約1mm以下の薄い銅板である。銅はその非常に高い熱伝導度のため有利であり、1mmの厚さは、2つのTECを十分に緩衝し、同時に、この薄層が熱エネルギーを蓄積して熱キャパシタとして働くための十分な質量を提供するように、実験的に決定された。銅はその熱伝導度及び高質量のため特に有用であるが、同様の熱伝導度特性と高質量とを有する様々なその他の金属又は材料、好ましくは、熱伝導性(いずれかのTECより仮に低くても)であり且ついずれかのTECと同じか又はそれより高い質量を有して、前記層が熱エネルギーを蓄積することにおいて熱キャパシタとして働くことを可能にする材料が使用されてもよいということが理解される。別の態様では、前記熱キャパシタ層は、セカンダリPID制御ループによって使用される「裏面」温度(例えばリファレンス面)を監視するために使用される第2のサーミスタを含んでもよい。両方の制御ループは、2つのバイポーラペルティエ電流源に制御信号を送信する単一のPSoC(プログラマブルシステムチップ、Programmable System on Chip)チップ内にデジタル的に実装される。いくつかの実施形態では非PSOCチップが制御のために使用されてもよく、例えばフィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)などが本発明と共に使用するのに好適である、ということが当業者によって理解される。いくつかの実施形態では、このデュアルTECモジュールは、熱暴走を防止するためのヒートシンクを含み、前記ヒートシンクは、例えば熱伝導性の銀エポキシを使用して、セカンダリTECの裏面に接合されてもよい。本発明と共に使用するのに好適な代替の接合方法及び材料は当業者に周知である。
【0056】
図2は、デュアルTEC設計の概略図を示す。(影付き楕円のサーミスタ(16)によって測定される)PCR反応容器の温度は、プライマリTECによって支配され、PSoCファームウェア内のループによって制御される。プライマリTECの最適な熱効率は、銅層と熱的に接触した第2のサーミスタ(16’)(影付き楕円)によって維持され、前記第2のサーミスタ(16’)は、セカンダリPSoCループ内に入力し、第2のTECを制御する。
【0057】
B.初期プロトタイプ製造
図3は、プロトタイプデュアルTEC加熱/冷却モジュールの写真を示す。プライマリTEC及びセカンダリTECの両方(レアード(Laird)、OptoTEC HOT20,65,F2A,1312、データシートは下記)は、寸法13(w)×13(I)×2.2(t)mmであり、最大熱効率〜60%を有する。
図4はTECの平面寸法をGX反応容器と比較するものである。いくつかの実施形態では、TECモジュールによって影響を及ぼされる平面領域は、GX反応容器に一致する。約25μl(図示)〜約100μlの範囲の流体容積を有する反応容器が収容される。
【0058】
図3は、化学分析システム内の反応容器の単一側面加熱及び冷却のための例示的プロトタイプデュアルTECモジュールを示す。図からわかるように、ヒートシンクは、熱を流し去りTEC効率を維持するためのミニファンを含む。プライマリTEC(上)は反応容器内の温度をサイクリングし、前記温度は、チューブと接触したセラミックの下面に装着されたサーミスタによって監視される。「裏面」TECは、介在する銅層の温度を(サーミスタの使用により)維持して、プライマリTECの最適な熱効率を保証する。一体型のミニファンを有するヒートシンクにより、モジュール全体の熱平衡が保たれる。
【0059】
いくつかの実施形態では、+/−0.1℃の温度許容差を有する小さなサーミスタが、プライマリTECの最上部面の下面に銀エポキシを使用して接合される。このサーミスタは、反応容器に適用された温度を探ってPSoC内のプライマリ制御ループに入力し、それによりプライマリTECへの駆動電流が制御される。プライマリTECの底面は、厚さ1mmの銅板に銀エポキシを用いて接合される。前記銅板は、「裏面温度」を監視するために銀エポキシを用いて埋め込まれた第2のTR136−170サーミスタを含むスロットを有し、このサーミスタの信号はPSoC内のセカンダリ制御ループに入力される。前記セカンダリ制御ループによって制御されるセカンダリTECは、この場合、前記銅板とアルミニウムヒートシンクとの間に挟まれる。前記ヒートシンクは、全厚6.5mmに機械加工されてパッケージ全体の厚さを13mm未満に保ち、且つ、低減されたサイズの機器内の空間的制約によって必要とされる平面サイズ40.0(l)×12.5(w)mmに機械加工される。12mm×12mmのサンオン(Sunon)マイティーミニファン(Mighty Mini Fan)が、前記ヒートシンク内に機械加工されたインセット(inset)内に接着され、TECは前記ヒートシンクと相互作用する。ミニファンは前記ヒートシンクを直接冷却する必要はないことに留意されたい。(GX又はその他のそのような装置などの、いくつかの従来の分析装置におけるような)直接空気冷却とは対照的に、せん断流を使用してアルミニウム/空気インタフェースから高温表面空気を除去することによってヒートシンク性能を維持するには、静かで耐久性があり廉価な低電圧(最大3.3V)ブラシレスモータで十分である。
【0060】
プロトタイプユニットの検査により、加熱/冷却速度、熱的安定性、周囲温度の増加に伴う堅牢性、及び全体的なシステム信頼性が、工学的要求仕様を満たすのに十分かどうかが判定される。熱的性能は、(二側面加熱/冷却の場合よりも少ない部品が必要とされる)サイズがより小さく堅牢で安価な例示的な低減されたサイズのプロトタイプシステムについて設計目標が満たされるような、許容できるものであることが示された。さらに、単一側面加熱/冷却により、反応容器の側面を通したより効率的な光学的検出が可能である。
図5は、例示的プロトタイプシステム内のデュアルTECモジュール、LED励起及び検出ブロック、並びに反応容器のCAD図を示す。
【0061】
図5は、デュアルTEC加熱/冷却モジュールのCADモデルを示す。反応容器は一方の側面(前記反応容器の第1の大面積面)上で熱サイクリングされ、反対側の側面(前記反応容器の第2の大面積面)を通して蛍光検出される。LED照射は前記反応容器の縁(小面積面)を通して存続する。
【0062】
C.初期加熱/冷却性能
例示的プロトタイプTECアセンブリの加熱及び冷却性能が、反応容器の一方の表面に対して前記TECアセンブリを確実に圧締めするカスタム固定具を使用して測定された(
図6)。前記固定具をデルリンなどの断熱材料で作ることによってTECアセンブリを前記固定具から熱的に分離するよう注意が払われた。熱負荷を模倣するために、前記反応容器は流体試料で充填され、前記TECアセンブリとは反対側の反応容器表面上の蛍光検出ブロックプロトタイプと確実に接触して配置された。この幾何学的配置において前記反応容器と接触している最上部TEC表面上の温度は、プライマリTECサーミスタ上で測定される温度と等しいか又はそれよりも高いように、独立して測定されたことに留意されたい。したがって、デュアルTEC加熱/冷却システムの熱的性能を最初に特徴付けるためにプライマリTECサーミスタの読み取り温度を使用することは妥当である。サーミスタと反応容器温度との間のいかなる不一致も、プライマリTECサーミスタと前記反応容器内の前記流体試料の温度との間にフィードバックループを使用するために特徴付けられ調節されることが可能である。
【0063】
図6は、熱的特徴付けのために熱制御装置をPCRチューブに固定するための例示的圧締め固定具を示す。一例では、反応容器は、流体試料で充填されてもよく、且つ加熱/冷却モジュールと前記反応容器の一方の面との間の熱的接触を作るために固定されてもよい。前記反応容器の他方の面は、蛍光検出ブロックに対して圧締めされる。LED励起ブロックが、前記反応容器の小面積面(例えば縁)を通して溶液を照射する。
【0064】
プロトタイプPSoC制御ボードでは、プライマリTECサーミスタの温度設定点を維持するために、及びTEC装置にデュアル極性駆動電流(加熱時は正電圧、冷却時は負電圧)を提供するために、及びミニファンに電力を供給するために、PID制御が採用された。このPIDループはプライマリTECの性能を最大化するように調整された。PCR熱サイクリングに特徴的な高温及び低温の両極端の間で反応容器の設定点をサイクリングするためのスクリプトが書かれた。具体的には、低温設定点は50℃であり、保持時間は、測定温度が1秒間にわたって+/−0.1℃以内となってから開始して12秒間である。同様に、高温設定点は95℃であり、保持時間は、温度が1秒間にわたって前記設定点から+/−0.1℃に維持されてから開始して12秒間である。前記スクリプトは50℃と95℃との間を無限にサイクリングした。
【0065】
セカンダリ制御ループも同じPSoCチップ内に維持され、これは、銅緩衝/熱キャパシタ層(
図2を参照)と熱的に接触したセカンダリサーミスタの温度を読み取り、セカンダリTECに作用するものである。PID調整パラメータの様々なセットが、この銅層の温度、いわゆる「裏面」温度を制御することによってシステムの熱的性能を適切に維持することが見出された。この制御ループは、期待された通りに、プライマリTEC制御ループより著しく低い帯域幅を有した。PSoC及び関連するプログラムはまた、裏面温度の複数の設定点を可能にし、これは、プライマリTECが最適効率の熱的条件下で動作するよう保つことによってランプ速度性能を最大化することにおいて有用である。
【0066】
図7は、反応容器温度からの例示的熱サイクルを示し、このトレースは、閉ループ制御下での50℃→95℃→50℃の熱サイクルについて測定されたものである。閉ループ加熱及び冷却速度は〜7℃/秒である。方形のトレースは所望の温度設定点であり、その他のトレースは前記反応容器の測定温度である。PCRチューブと裏面との間の温度差が30℃以下の場合にプライマリTECの熱効率は最高であることが判定されたため、最大温度(PCRチューブ95℃)まで加熱する際には裏面温度は65℃に、PCRチューブを50℃まで冷却する際には45℃に制御された(トレースを参照)。プライマリTECが高い方の温度まで加熱されたら、裏面温度は、次の熱サイクルを見越して、ゆっくりと且つ制御可能に低い方の温度まで駆動可能であった(曲線を参照)。この手法は、裏面TECを使用して、プライマリTECに作用する「熱的スプリング(thermal spring)」を適切に付勢することに類似しており、特定のPCR分析に適用される熱的プロファイルは分析デザイナーによってアプリオリに知られているため、この手法はPCRシステムと共に使用するために適用可能である。10回の連続した熱サイクルについて
図8に示すように、安定した且つ反復可能な加熱及び冷却のための閉ループランプ速度は45℃の範囲について〜6.5秒であり、これは加熱及び冷却の両方について、真の閉ループランプ速度〜7℃/秒に対応しているということに留意されたい。熱サイクリングの全範囲にわたって複数のサイクルを通して性能が維持されている。
【0067】
D.初期及びニアタームの(Early and Near−term)信頼性実験
一般的なPCR分析は、アニール温度(〜65℃)からDNA変性温度(〜95℃)まで、そしてアニール温度まで戻る、約40の熱サイクルを有する。信頼性を評価するために、プロトタイプモジュールは、50℃(PCR実験に使用される最小温度と同等)と95℃との間で、システムが熱平衡に達することを可能にするための各温度における10秒の待ち時間を伴ってサイクリングされた。
【0068】
図9は、5,000サイクルの検査の最初及び最後の5サイクルの比較を示す。右側のトレースの時間軸は小さなデータサンプリング範囲からのものであり、5,000サイクルには約2日を要したということに留意されたい。このモジュールはそれ以来10,000回を超えて、性能を維持してサイクリングされた。図からわかるように、サイクル1〜5についての熱サイクリング性能(左)は、5,000サイクル後(右のサイクル4,995〜5,000)も一定のままであり、初期サイクルと終期サイクルとの間で熱的性能における変化はない。これは2つの理由から有望である。第1に、迅速な加熱/冷却のための閉ループパラメータは、反復される熱サイクリングに対して極めて安定している。小さな熱的不安定性でさえ、プライマリTEC及び裏面TECの両方についての測定温度曲線におけるドリフトをもたらし、急速に熱暴走に拡大する(これはファームウェアにおける過電流シャットダウン障害を誘発する)。適切に調整されたシステムはこの挙動を示さず、システムの堅牢性が実証された。第2に、モジュールの熱効率は5,000サイクルを超えて安定している。実際にこのユニットは、破局的故障も漸進的な性能低下もなしに、その後10,000回を超えてサイクリングされた。
【0069】
E.代替設計
モジュール構成における可変性により、装置性能のわずかな差がもたらされ得る。例えば、現在のモジュールは、機械加工されたヒートシンクと介在する銅層とを用いて手作業で組み立てられており、全ての構成要素は伝導性エポキシを使用して手作業で一緒に接合されている。エポキシの厚さの変化によって、又はモジュールのサンドイッチ構成内の構成要素間に小さな角度を作ることによって、様々な熱的性能がもたらされる。最も重要なことに、サーミスタも熱エポキシを使用してセラミックに取り付けられている。サーミスタとセラミックとの間の小さな間隙により、制御温度と測定温度との間の誤差がもたらされる。
【0070】
いくつかの実施形態では、熱装置は、反応容器の各大面積面(対向する側面)上に、加熱及び冷却表面(例えば本明細書中に記載したTEC装置)を含む。そのような実施形態では、光学的検出は小面積面(例えば縁)に沿って実行されてもよい。いくつかの実施形態では、光学的検出は第1の小面積面に沿って実行され、光学的励起は第1の小面積面に直交する第2の小面積面に沿って実行される。そのような実施形態は、より大きな流体容積(25μlを超える流体試料)の加熱及び冷却が必要とされる場合に特に有用であり得る。
【0071】
いくつかの実施形態では、熱制御装置モジュールは、反応容器と接触しているセラミック板の下面上に装着された一体型表面装着サーミスタを含むカスタムペルティエ装置を使用する。小さな0201パッケージサーミスタ(0.60(l)×0.30(w)×0.23(t)mm)が、温度変化をもたらすペルティエ装置内部の対流を、部品の厚さを制限することによって最小化するために使用されてもよい。また、表面装着サーミスタの熱的接触及び位置を正確に制御可能なため、これらの部品により、測定されるセラミック温度と実際のセラミック温度との間の非常に一貫した、特徴付け可能な差が得られる。
【0072】
いくつかの実施形態では、熱制御装置は、半導体大量生産技術(「ピックアンドプレース」マシン及びリフローソルダリング)を使用して加熱/冷却モジュール内に完全に一体化されるように設計されたカスタムペルティエを含んでもよい。介在する銅基板は、正確に制御される銅厚さ及びパッド寸法を有するバークィスト(Bergquist)サーマルインタフェースPCボード(厚さ1mmの銅基板)に置換されてもよい。バークィスト基板はまた、裏面サーミスタのための、並びにモジュール内への及びモジュールからの全ての電気的接続のためのパッドリード線も備える。裏面ペルティエは現在使用されているものと同様の装置のままとなる。最後に、TECアセンブリ全体をシリコン内に封入して耐水性にすることが可能である。いくつかの実施形態では、アルミニウム装着ブラケットがヒートシンクとしての役割も果たしてもよい。
【0073】
F.プロトタイプを用いた熱サイクリングを制御するための例示的コマンド
1.概要
本システムは、本明細書中に記載した原理に従って熱制御装置を動作させるために前記システム内で実行可能なコマンドのリストを、前記システムの追記型メモリ上などに含んでもよい。これらのコマンドは基本機能であり、反応容器内の加熱/冷却及び光学的検出を実行するための最終的機能を構築するためにブロックにまとめられてもよい。光学的ブロックは、5つの異なるLED及び6つの光検出器(色により区別される)を、LED温度を維持するための小さな熱電冷却器(TEC)と共に有してもよい。熱サイクリングハードウェアは、デュアルTECモジュールである。コマンドは機能により熱サイクリングと光学的インタロゲーションとに分類される。
【0074】
2.熱サイクリングコマンド
明確にするために、PCRのために使用されるデュアルTECアセンブリの概略図を
図1に示す。プライマリTECは反応容器と相互作用し、セカンダリTECは性能を最適化するためにシステムの全体的な熱効率を管理することに留意されたい。プライマリTECの温度はプライマリサーミスタを使用して監視され、セカンダリサーミスタはセカンダリTECを監視する。
【0075】
図2は、本発明のいくつかの実施形態による熱制御装置、特に本明細書中に記載するプロトタイプのデュアルTEC設計の概略図を示す。(影付き楕円のサーミスタ(16)によって測定される)PCR反応容器の温度は、プライマリTECによって支配され、PSoCファームウェア内のループによって制御される。プライマリTECの最適な熱効率は、銅層と熱的に接触した第2のサーミスタ(16’)(影付き楕円)によって維持され、前記第2のサーミスタ(16’)は、セカンダリPSoCループ内に入力し、第2のTECを制御する。
図11は、第1及び第2のサーミスタに関連する設定点の上昇及び下降を示す。
SETPOINT1:プライマリTECの温度設定点(1/100℃単位)、フォーマットXXXX。
SETPOINT2:セカンダリTECの温度設定点(1/100℃単位)、フォーマットXXXX。
PGAINR1:INCREASING温度のためのプライマリTECの制御ループPゲイン設定。有効数字4桁。
IGAINR1:INCREASING温度のためのプライマリTECの制御ループIゲイン設定。有効数字4桁。
DGAINR1:INCREASING温度のためのプライマリTECの制御ループDゲイン設定。有効数字4桁。
PGAINR2:INCREASING温度のためのセカンダリTECの制御ループPゲイン設定。有効数字4桁。
IGAINR2:INCREASING温度のためのセカンダリTECの制御ループIゲイン設定。有効数字4桁。
DGAINR2:INCREASING温度のためのセカンダリTECの制御ループDゲイン設定。有効数字4桁。
PGAINF1:DECREASING温度のためのプライマリTECの制御ループPゲイン設定。有効数字4桁。
IGAINF1:DECREASING温度のためのプライマリTECの制御ループIゲイン設定。有効数字4桁。
DGAINF1:DECREASING温度のためのプライマリTECの制御ループDゲイン設定。有効数字4桁。
PGAINF2:DECREASING温度のためのセカンダリTECの制御ループPゲイン設定。有効数字4桁。
IGAINF2:DECREASING温度のためのセカンダリTECの制御ループIゲイン設定。有効数字4桁。
DGAINF2:DECREASING温度のためのセカンダリTECの制御ループDゲイン設定。有効数字4桁。
DELTARISE:上に示したINCREASING温度のためのプライマリTEC及びセカンダリTECの温度設定点の間の時間差(ms単位)。正のDELTARISE値の場合、セカンダリTECのアクティブ化される設定点が、プライマリTECの温度ステップに先行するように、ユーザ入力値によって増加する。負のDELTARISE値では、プライマリTECがアクティブになった後のセカンダリTEC設定点が増加する。フォーマットXXXX。
DELTAFALL:上に示したDECREASING温度のためのプライマリTEC及びセカンダリTECの温度設定点の間の時間差(ms単位)。正のDELTAFALL値の場合、セカンダリTECのアクティブ化される設定点が、プライマリTECの温度ステップに先行するように、ユーザ入力値によって増加する。負のDELTAFALL値では、プライマリTECがアクティブになった後のセカンダリTEC設定点が増加する。フォーマットXXXX。
SOAKTIME:反応容器がTECモジュールと熱平衡することを可能にするために指定される時間(ms単位)。ソーク中は、光学的読み取りは実行されない。フォーマットXXXXX。
HOLDTIME:標準的な熱サイクリング中に光学的読み取りを行うために割り当てられる、各温度ステップの後に指定される時間(ms単位)。フォーマットXXXXXX。
RAMPPOS:ユーザによって指定される定常状態ランプ速度(10分の1度/秒単位)。これはランプアップ速度を標準的なPID制御の下で達成可能な最大未満の速度まで減速するために、レガシーアッセイのためにのみ使用される。フォーマットXXX。
RAMPNEG:ユーザによって指定される定常状態ランプ速度(10分の1度/秒単位)。これはランプダウン速度を標準的なPID制御の下で達成可能な最大未満の速度まで減速するために、レガシーアッセイのためにのみ使用される。フォーマットXXX。
WAITTRIGGER:外部トリガパルスが受信されるまでICOREをアイドル状態にする。
ADDTRIGGER:ステップが完了した後に外部トリガパルスを追加する。
MANUAL TRIGGER:手動トリガパルスを実行する。
FANPCR:PCRのためのデュアルTECモジュール上のヒートシンクを支援するファン(1又は複数)のオン/オフビット。
3.光学的コマンド
SETPOINT3:光学ブロックTECの温度設定点(1/100℃単位)、フォーマットXXXX。
PGAIN3:光学TECの制御ループPゲイン設定。有効数字4桁。
IGAIN3:光学TECの制御ループIゲイン設定。有効数字4桁。
DGAIN3:光学TECの制御ループDゲイン設定。有効数字4桁。
FANOPTICS:光学ブロックTEC上のヒートシンクを支援するファンのオン/オフビット。
各LED/検出器ペアについての光学的読み取りのためのマトリクス値。有効な蛍光チャネルが適切なLEDについて各色で示されている。さらなる詳細については以下の表2を参照されたい。
【0076】
表2:光学的検出のための蛍光チャネル
【表2】
READCHANNEL:各光学的読み取りについてどのLED/検出器ペア(1又は複数)が読み取られるかを指定する。空白で区切られた1〜30のマトリクスペアの文字列を収容。例えば、深紅及びIR検出器を、赤LED照射を用いて読み取るには、このコマンドは「READCHANNEL 44 45」となる。蛍光信号は、励起色より長い波長においてのみ生成される。有効な信号は上の表で各LEDについて色で示されている。
READFLUORESCENCE0:UV励起についての全ての適切な検出器を読み取る(00、01、02、03、04、及びOS)。
READFLUORESCENCE1:青励起についての全ての適切な検出器を読み取る(11、12、13、14、及び15)。
READFLUORESCENCE2:緑励起についての全ての適切な検出器を読み取る(22、23、24、及び25)。
READFLUORESCENCE3:黄励起についての全ての適切な検出器を読み取る(33、34、及び35)。
READFLUORESCENCE4:赤励起についての全ての適切な検出器を読み取る(44及び45)。
LEDWU:光学的読み取りを開始する前のLEDのウォームアップ時間(ms単位)。フォーマットXXXX。
OPTICINST:光学的読み取りについての積分時間(ms単位)。フォーマットXXXX。
PLL:フェーズロックループ検出モード(別名ACモードとして知られている)のオン/オフビット。ACモードでは、(PSoC内で生成された)固定周波数でLEDにパルスが送られ、フェーズロックループ手法を使用して検出器が読み取られる。
LEDCURRENTX:LED電流を設定する(mA単位)、XXXX。フォーマットの例:LEDCURRENT 0 300:UV LEDを300mAに設定する。ACモードが有効(PLLオン)にされている場合、LEDCURRENTはLED電流のDCオフセットレベルを設定し、その上にパルスが重畳される。
LEDSLEWDEPTHX:ACモードについてのみ、LEDSLEWDEPTHはLED駆動信号のAC成分の大きさを設定する(mA単位)。スリューデップスは、LEDに印加される平均電流と最大電流との間の大きさとして指定され、LEDCURRENTコマンドと組み合わせて使用される。例えば、赤LEDを0mA〜100mAの範囲の対称パルスを用いて駆動するには、50mAのDCオフセット(LEDCURRRENT 4 SO)と、+/−50mAのパルス(LEDSLEWDEPTH 4 50)とが存在する。
LEDPULSESHAPEX:ACモードにおけるLEDに対する入力駆動電流の形状を指定する(正弦、三角、デルタ関数、その他の形状)。
【0077】
G.熱サイクリングを制御するための熱モデリングアプローチ
別の態様では、熱制御装置は、熱モデリングに基づいて温度を制御するように構成されてもよい。この態様は、一側面加熱又は二側面加熱のために構成された熱制御装置において使用可能である。いくつかの実施形態では、そのような装置は、第1の熱電冷却器及び別の熱操作装置であってそれぞれがコントローラに結合された第1の熱電冷却器及び別の熱操作装置を含み、前記コントローラは、前記第1の熱電冷却器を前記熱操作装置と協働して制御して、前記第1の熱電冷却器を用いた加熱及び/又は冷却における制御、速度、及び効率を向上する。ただし、この熱モデリング態様は、本明細書中に記載した任意の構成の制御内に組み込まれてもよいということが理解される。
【0078】
そのようなアプローチの一例が、
図11に示す状態モデル図に示されている。この図は、前記熱制御装置の一側面バージョンと共に使用するための7状態モデルを示す。このモデルは、熱電冷却器面、反応容器、及び前記反応容器内の流体試料の温度を含む、温度の実世界熱システムをモデリングするために電気理論を適用する。この図は、反応容器内容が水であると仮定した場合の前記反応容器内容の最適な推定値に到達するために、カルマンアルゴリズムにおいて使用される、モデルの7つの状態と、3つの測定される状態とを示す。
【0079】
図11の回路モデルにおいて、キャパシタは材料の熱キャパシタンスを表し、抵抗器は材料の熱伝導度を表し、各キャパシタ及び電源における電圧は温度を表し、電流源は、反応容器の面に隣接する前面熱電冷却器(TEC)からの熱的パワー入力を表す。この実施形態において、モデルへの入力は、モデルT1〜T7から予測可能な裏面TEC温度と、前面熱電冷却器の熱入力(ワット)と、反対側の容器面に隣接して位置する「ブロック」温度とである。これによりアルゴリズムのモデル部分が完成する。前述のように、カルマンアルゴリズムは一般に、モデルを、モデル出力の部分でもある測定されたセンサ信号(1又は複数)と組み合わせて使用する。ここで、温度に変換される測定されたサーミスタ信号が、前面熱電冷却器について、及び裏面熱電冷却器についても使用される。裏面測定温度の場合、これはモデルの出力ではなく、しかしそれらは同じであると仮定される。この仮定の1つの理由は、全体的な熱伝導度の観点からR1は無視できるということである。
【0080】
図12は、最適推定技術と結合された場合のこのモデルの高レベルの精度を実証する、一側面加熱及び冷却システムを示す。モデル入力(T1測定、ブロック温度、及び前面熱電冷却器からの入力ワット)は、実際の測定値(T1測定、T3測定、T5測定、及びブロック温度)と共に示されており、これらは、モデルの実行時に全ての予測及び測定曲線がオーバーラップするようにR及びCパラメータを微調整するために使用される。
【0081】
このグラフから明らかなように、非常に正確かつ現実的な予測された反応容器温度を得ることが可能であり、これは次に、閉ループ熱制御におけるフィードバックとして使用可能である。このデータはまた、プロセスの加熱及び冷却フェーズの間に温度がいかにダイナミックに変化しているかを、及び特定の反応容器温度を作るために必要な熱制御設定点に対する周囲温度の影響を、知る能力を示す。これらの特徴は、将来の分析及び機器開発努力のための強力なツールであることがわかる。さらに、ここに示されたモデルは一側面加熱/冷却システムのために有効であるが、この概念は、二側面アクティブ加熱/冷却モジュールを考慮に入れるように拡張可能である。
【0082】
検証のために、機器を装備した反応容器が使用可能であり、ここで、熱電対が容器の反応チャンバ内に挿入された。検証は、C及びR値の初期条件が既知の物理的材料特性から取られた、一連の実験を実行することによって行われてもよい。
【0083】
図13〜
図15の例に示す、本発明の実施形態による熱サイクリングの方法も本明細書中で提供される。
図13に示す方法は、アクティブ面とリファレンス面とを有する第1の熱電冷却器を動作させて初期温度から目標温度まで前記アクティブ面を加熱及び/又は冷却すること、前記第1の熱電冷却器の前記アクティブ面の温度が前記初期温度から所望の目標温度まで変化する際の、前記第1の熱電冷却器の効率を増加するように、別の熱操作装置(例えば、熱電冷却器、加熱器、冷却器)を動作させること、前記第1の熱電装置の前記アクティブ面が高い目標温度まで加熱される加熱モードと前記アクティブ面が低い目標温度まで冷却される冷却モードとの間で熱サイクリングすること、を含む。前記方法は、2つのアプローチのうちの1つによって熱サイクリングを制御することをさらに含む。第1のアプローチでは、少なくとも部分的に、前記第1の熱電冷却器のアクティブ面において又はその近くで得られた温度に基づいて熱サイクリングを制御する。第2のアプローチでは、前記第1の熱電冷却器の前記アクティブ面に沿って又はその近くに配置された反応容器の中の流体試料の温度の熱モデルに少なくとも部分的に基づいて熱サイクリングを制御する。
【0084】
図14は、アクティブ面とリファレンス面とを有する第1の熱電冷却器を動作させて初期温度から目標温度まで前記アクティブ面を加熱及び/又は冷却すること、及び前記第1の熱電冷却器と熱的に結合されたアクティブ面を有する第2の熱電冷却器を、前記第1の熱電冷却器の前記アクティブ面の温度が前記初期温度から所望の目標温度まで変化する際の、前記第1の熱電冷却器の効率を増加するように動作させること、を含む方法を示す。前述のように、熱抵抗性加熱器などの熱操作装置が、第2の熱電冷却器の代わりに使用されてもよい。一般に、そのような方法は、前記第1の熱電装置の前記アクティブ面が高い目標温度まで加熱される加熱モードと前記アクティブ面が低い目標温度まで冷却される冷却モードとの間でサイクリングすること、をさらに含む。いくつかの実施形態では、方法は、前記加熱モードと冷却モードとの間の熱変動を緩衝し、熱キャパシタ又は熱インタポーザを用いて熱エネルギーを蓄積すること、を含み、前記熱キャパシタ又は熱インタポーザは、前記第1及び第2の熱電冷却装置のそれぞれの前記アクティブ面及びリファレンス面に比較して増加した熱伝導度を有する層を含む。そのような方法は、前記アクティブ面及び/又は前記熱インタポーザからの温度センサ入力を使用してサイクリング時の速度及び効率をさらに向上する、制御ループの使用をさらに含んでもよい。
【0085】
図15は、第1及び第2の熱電冷却器であってそれらの間に熱キャパシタを有し、前記第1及び第2の熱電冷却器のそれぞれはアクティブ面とリファレンス面とを有する、第1及び第2の熱電冷却器を、熱制御装置に動作させること、及び前記第1の熱電冷却器の前記アクティブ面を加熱すること、を含む方法を示す。そのような方法はさらに、熱抵抗性加熱器などの熱操作装置を、前記第2の熱電冷却器に取って代わるために利用してもよい。前記方法は次に、前記第1の熱電冷却の前記リファレンス面を前記第2の熱電冷却器及び熱キャパシタを用いて冷却すること、及び前記第1の熱電冷却器の前記アクティブ面を冷却すること、次に、前記第1の熱電冷却器の前記リファレンス面を前記第2の熱電冷却器及び熱キャパシタを用いて加熱すること、を含む。そのような方法はさらに、前記熱電冷却器の間の熱キャパシタ又は熱インタポーザを、熱サイクリング時の速度及び効率をさらに向上するために利用してもよい。
【0086】
前述の明細書において、本発明についてその特定の実施形態を参照して説明したが、本発明はそれに限定されないことを当業者は認識するであろう。上述の発明の様々な特徴、実施形態、及び態様が別個に又は共同で使用されてもよい。さらに本発明は、本明細書中に記載したものを超える任意の数の環境及び用途において、本明細書のより広範な精神及び範囲から逸脱することなく利用されてもよい。本明細書及び図面はしたがって、限定的ではなく例示的なものとみなされるべきである。本明細書中で使用される用語「含む(comprising)」、「含む(including)」、及び「有する(having)」は、オープンエンドな技術用語として読まれることを特に意図するものであることが認識される。