(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記処理システムは、大動脈弁の開弁により引き起こされるAOピークから大動脈弁のその後の閉弁により引き起こされるACピークまでの時間間隔の長さを心臓の運動に関する信号から検出して、前記一つ以上の指標量及び前記検出された時間間隔の長さに基づいて、心臓状態の指標を形成するように構成される、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の装置。
前記処理システムは、該装置のユーザ・インタフェースからのユーザ制御信号の受信に応じて、前記一つ以上の指標量に基づいて、前記予め定められた規則の一つ以上のパラメータを決定するように構成される、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の装置。
前記処理システムは、心臓の作動に関する信号から心拍動速度を検出して、前記一つ以上の指標量及び前記検出された心拍動速度に基づいて、前記心臓状態の指標を形成するように構成される、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の装置。
前記処理システムは、前記検出された心拍動速度から心拍動速度変動を検出して、前記検出された心拍動速度変動から、前記頻脈が心室頻脈であるか心房頻脈であるかを表す前記心臓状態の指標を形成するように構成される、請求項15に記載の装置。
該装置は無線送信器(303)を具備し、且つ、前記処理システムは、前記心臓状態の指標が心臓異常を表現するという状況に応じて前記無線送信器を制御して警報信号を送信するように構成される、請求項1乃至17のいずれか一項に記載の装置。
【背景技術】
【0002】
心臓において生じ得る多くの異常は、診断されて適切に治療及び/又は救済されなければ深刻な結果に繋がり得る。例えば心筋梗塞“MI”は、冠状動脈の閉塞に起因して生ずる最も深刻な心臓血管疾患の一つである。MIには、ST上昇心筋梗塞を指すSTEMI、及び非ST上昇心筋梗塞を指すNSTEMIの2つの種類が在る。夫々の名称は、心電図“ECG”の出力波形における相違を反映している。STEMI心臓発作は、血栓が、突然に形成されて心臓における動脈を完全に遮断したときに引き起こされる。このことは、心臓の大きな領域に及ぶと共に心筋内へと深く広がる損傷に到ることがある。NSTEMI心臓発作は、幾つかの点でSTEMI心臓発作と異なる。NSTEMIによると、心臓発作による損傷は通常、心筋の完全な奥行きを貫通して広がることはない。STEMI梗塞は、心筋梗塞の発生から充分に短時間内に、例えばバルーン式血管形成術などのような閉塞血管を開くための適切な処置が実施されなければ、非常に危険な状況に繋がり得る。心筋梗塞、ならびに、他の幾つかの心臓異常に関する特有の問題は、心筋梗塞及び他の心臓異常に関する症状は、しばしば、単純な胸焼けの症状に似ていることである。このことは、自身の心臓において心筋梗塞又は他の幾つかの心臓異常が進展しつつある個人が、単純な胸焼けであると誤って考えることがあることから、考察下にある個人が、充分に早期の段階において当該状況の深刻さを認識しないという状況に導くかもしれない。必要とされる治療が相当に遅れるならば、結果は深刻であろう。他方、例えば、単純な胸焼けの症例であると後で判明する多くの場合において、心臓手術のチームが警戒態勢をとらされて準備されるならば、保健医療費は非常に過剰負担となるだろう。
【0003】
現在、種々の心臓異常を識別かつ評価する上では、心臓活動に関する電磁的現象に基づく心拍動記録法、心エコー検査法、及び心臓血管運動に基づく心拍動記録法のような方法が使用されている。心臓活動に関する電磁的現象に基づく心拍動記録法の公知例は、心電図“ECG”であり、且つ、心臓血管運動に基づく心拍動記録法の例は、心弾動記録法 “BCG”及び心振動記録法“SCG”である。心エコー検査法は、心臓の各区画の画像を提供すると共に、心臓の構造及び機能に関する総括的な情報を提供し得るが、高価な機器及び専門の操作人員を必要とする。ECGは、心臓に関する充分に迅速な電気的評価を提供するが、収縮の力に関する情報は一切提供しない。心臓血管運動に基づく心拍動記録法は、心臓血管運動を表す信号の測定を伴う。以前には、信号は、運動を測定する装置を備えるか、又は脚部の向こう脛の領域に亙り取付けられた促進装置を備えるベッド上に対象者が横たわる間に獲得された。現在、信号は、例えば心臓の運動を表す微小運動を測定するのに適した加速度計などの小さなセンサ要素を用いて獲得され得る。しかし、上述の方法は、自宅に居るか、もしくは専門の医療関係者が居ない他のどこかに居る対象者であって、少なくとも、胸部における症状が、単純な胸焼けにより引き起こされたのか、或いは、例えば心筋梗塞、心室頻脈のような心臓虚血、又は心筋炎、心膜炎、筋周膜炎、もしくは心筋心膜炎のような心臓炎により引き起こされたのかどうかを表す信号を必要とする対象者に対してはうまく適さない。
【0004】
特許文献1は、心臓の電気機械的パラメータを測定する埋め込み可能な遠隔測定デバイスを記載している。遠隔測定デバイスは、心臓の回転と、第1心音“FHS”及び第2心音“SHS”に対応する機械的振動との両方に関するデータを検出するセンサ及び対応処理手段を具備する。遠隔測定デバイスは更に、診断及び/又は治療及び/又は監視の目的でこれらのデータを使用する手段を具備する。
【0005】
特許文献2は、患者における心臓機能を監視するシステムを記載している。そのシステムは、心臓に位置されて心臓の尖部の動きを検知するように構成された運動センサを具備する。システムは、運動センサと作用的に通信する運動解析要素を具備する。運動解析要素は、運動センサからの心臓の運動を表す信号を受信すると共に、受信信号が少なくとも一つの所定基準値に対して比較される様に受信信号を処理するように構成される。
【0006】
特許文献3は、対象者の生理学的状態を表す情報を決定する装置を記載している。装置は、a)複数の空間軸線に沿って測定された対象者の心臓運動を表す心弾動記録データを獲得するように構成されたセンサ・デバイスと、b)センサ・デバイスに通信接続されると共に、心弾動記録データを受信するように構成された演算デバイスとを具備する。演算デバイスは、心弾動記録データに基づいて、対象者の心臓運動を表す処理済みデータを決定するように構成される。演算デバイスは更に、処理済みデータに基づいて、対象者の生理学的状態の一つ以上の徴侯を決定するように構成される。
【0007】
特許文献4は、心臓能力を監視するシステムを記載している。システムは、(a)心臓の動きを検知する運動センサ、(b)心臓の電気的活動を検知する電気的センサ、及び(c)運動センサ及び電気的センサから受信した情報を処理する処理ユニットを具備する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、上述の公報に記載されたシステム及びデバイスは、自宅に居るか、もしくは専門の医療関係者が居ない他の場所に居る対象者であって、少なくとも、胸部における症状が、単純な胸焼けにより引き起こされたのか、或いは、例えば心筋梗塞、心室頻脈のような心臓虚血、又は心筋炎、心膜炎、筋周膜炎、もしくは心筋心膜炎のような心臓炎により引き起こされたのかに関する表示信号を必要とする対象者に対してはうまく適さない。
【課題を解決するための手段】
【0011】
以下の内容は、種々の発明実施例の幾つかの様態の基本的理解を提供するために、簡素化された概要を提供する。この概要は本発明の広範囲な全体像ではない。また、本発明の重要なもしくは決定的な要素を特定することも、本発明の有効範囲を線引きすることも意図されない。以下の概要は、本発明の代表的実施例のより詳細な説明に対する前置きとして簡素化された形態で本発明の幾つかの概念を提示するにすぎない。
【0012】
本発明に依れば、心臓状態を表す情報を生成する新規な方法が提供される。本発明に係る方法は、
対象者の胸部の回転運動を表す回転信号であって、少なくとも部分的に心臓回転を表す回転信号を受信する段階と、
各サンプルが非ゼロの時間的存続期間を有する様に各々が時間長を有する回転信号の一つ以上のサンプルに基づくエネルギ・スペクトル密度“ESD”から各々が導出可能な一つ以上の指標量を形成する段階と、
予め定められた規則に従い、一つ以上の指標量に基づいて、心臓状態の指標を形成する段階であって、心臓状態の指標は、心臓の状態を表し、即ち、心臓が、正常状態に在るのか、或いは、例えば心筋梗塞、心室頻脈のような心臓虚血、又は心筋炎、心膜炎、筋周膜炎、もしくは心筋心膜炎のような心臓炎に対応する異常状態に在るのかを表す、という段階と、
を含む。
【0013】
心筋梗塞“MI”、ならびに、他の多くの心臓異常は、回転信号の一つ以上のサンプルのエネルギが種々の周波数に亙り如何に分布されているかを記述する上述のエネルギ・スペクトル密度における変化を引き起こすことが認められている。心筋梗塞、及び他の多くの心臓異常が心筋の捻り及び捻り戻しの性能を変化させ、これに対応して、心室筋は正常に動作しない。故に、一つ以上の指標量を用いて、例えば心筋梗塞と胸焼けとを区別することが可能である。
【0014】
上述の回転信号は、例えばジャイロスコープにより、又はジャイロ拍動図“GCG”、即ち、心臓の回転運動により引き起こされた胸部の回転に比例する信号を求める別の回転センサにより生成され得る。回転は好適には、典型的にx、y及びz軸と呼ばれる3本の互いに直交する幾何学的軸線に関して測定される。この場合、回転信号は、各々がそれ自体のエネルギ・スペクトル密度を有すると共に心臓状態の指標を決定するために使用され得る3つの成分を有する。
【0015】
心臓回転は、心臓により生み出される一回拍出量の約60%を担う臨床的パラメータ、即ち、主たる心臓機能である。上述のエネルギ・スペクトル密度から導出可能な指標量の変化は、起こり得る心臓の問題に対する警告を提供することが認められている。上述のエネルギ・スペクトル密度から導出可能な指標量は、例えば回転信号のサンプルのエネルギであり得る。上述のエネルギがエネルギ・スペクトル密度から導出可能であるが、エネルギは、時間領域におけるサンプルに基づいても算出可能であることが注目に値する。故に、エネルギを求めるために、エネルギ・スペクトル密度を算出することは必要でない。
【0016】
本発明に関し、例えばSTEMI梗塞は、胸部の回転に関する上述のエネルギにおける増大を引き起こすことが認められている。これは、非特許文献1により報告された結果と異なる。非特許文献1は、直接的に心臓の表面上にあるジャイロスコープにより得られた結果を提示している。これらの結果に依れば、急性の虚血は、測定された最大角度、及び角速度の最大値の両方における相当の減少を引き起こす。故に、例えばSTEMI梗塞が胸部の回転に関する上述のエネルギにおける増大を引き起こす状況は、非特許文献1により報告された結果からは予測され得ない。
【0017】
多くのジャイロスコープの利点は、動作が重力により影響されないことである。故に、測定は実用的には、監視される対象者の位置又は姿勢に依存しない。胸部の外的角度運動は、単なる心臓回転の程度、及び心臓のサイズと人間の胸部の直径との間の比率から予期し得るよりも大きい規模であることは認められている。角度運動の方向もまた、心臓に関するセンサの姿勢に非感応的であることも認められている。故に、例えば考察下にある対象者の胸部に機械的に接続されると共に、一本の幾何学的軸線に関して回転信号を測定するように構成された超小型電気機械的ジャイロスコープなどの一つのジャイロスコープによってさえも、比較的に正確な測定が行われ得る。超小型電気機械的ジャイロスコープは、正確であり、サイズが小さく、且つ市販されている。
【0018】
回転信号を測定するセンサ要素は、考察下にある対象者の胸部の皮膚の下に配置されたときに上述の回転信号を測定するのに適した埋め込み可能要素であることも可能である。
【0019】
本発明に依れば、心臓状態を表す情報を生成する新規な装置も提供される。本発明に係る装置は、対象者の胸部の回転運動を表す回転信号であって、少なくとも部分的に心臓回転を表す回転信号を受信する処理システムを具備する。処理システムは、
各々が時間長を有する回転信号の一つ以上のサンプルに基づくエネルギ・スペクトル密度から各々が導出可能な一つ以上の指標量を形成し、且つ、
予め定められた規則に従い、一つ以上の指標量に基づいて、心臓状態の指標を形成する、
ように構成される。
【0020】
装置は更に、例えば回転信号を測定するジャイロスコープなどのセンサ要素を具備し得る。但し、装置は必ずしも何らかのセンサ要素を具備する必要はなく、該装置は、外部センサ要素に接続するための信号インタフェースを具備し得ることが強調される。
【0021】
装置は、例えば携帯電話、又はタブレット・コンピュータ、又は上述の処理システム、及び恐らくセンサ要素も具備する装身具、即ち、ウェアラブル電子機器、又は少なくとも、自身の胸部における症状が深刻な状況であるか否かを表す情報を必要とする対象者により使用され得る別のデバイスであり得るか、又はそれを更に具備し得る。幾つかの場合、装置は、例えば上述の処理システムを構築するように構成された単一の集積回路“IC”であり得ることが注目に値する。
【0022】
本発明に依れば、心臓状態を表す情報を生成する新規なコンピュータ・プログラムも提供される。コンピュータ・プログラムは、プログラム可能な処理システムを制御して、
対象者の胸部の回転運動を表す回転信号の一つ以上のサンプルに基づくエネルギ・スペクトル密度から各々が導出可能な一つ以上の指標量を形成させ、回転信号は少なくとも部分的に心臓回転を表すと共に、一つ以上のサンプルの各々は時間長を有しており、且つ
予め定められた規則に従い、一つ以上の指標量に基づいて、心臓状態の指標を形成させる、
コンピュータ実行可能命令を具備する。
【0023】
本発明に依れば、新規なコンピュータ・プログラム製品も提供される。コンピュータ・プログラム製品は、本発明に係るコンピュータ・プログラムによりコード化された、例えばコンパクト・ディスク“CD”などの不揮発性のコンピュータ可読媒体を具備する。
【0024】
本発明の多数の非限定的で代表的な実施例は、付随する従属請求項に記載される。
【0025】
本発明の種々の代表的で非限定的な実施例は、構成と動作の方法との両者に関し、その付加的な目的及び利点と併せて、特定の代表的実施例に関する以下の説明が添付図面と共に読まれたときに最適に理解されよう。
【0026】
本出願において、“具備する”及び“含む”という動詞は、記載されない特徴の存在を除外しないが必要ともしない開放的な限定として使用される。付随する各従属請求項中に記載された特徴は、明示的に述べられるのでなければ、互いに自由に組み合わせ可能である。更に、本出願の全体に亙る“一つの(a)”又は“一つの(an)”という語句、即ち単数形の使用は、複数を除外しないことが理解されるべきである。
【0027】
本発明の代表的で非限定的な実施例及びその利点は、添付図面を参照して以下に相当に詳細に説明される。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下の説明において提供される特定の例は、添付の請求項の有効範囲及び/又は適用可能性を制限すると解釈されるべきでない。説明において提供される複数の例のリスト及び群は、明示的に述べられていなければ網羅的ではない。
【0030】
図1は、心臓状態を表す情報を生成する本発明の代表的で非限定的な実施例に係る方法のフローチャートを示している。該方法は、以下の作用を含む:
作用101:対象者の胸部の回転運動を表す回転信号であって、少なくとも部分的に心臓回転を表す回転信号を受信する段階;
作用102:各々が時間長を有する回転信号の一つ以上のサンプルに基づくエネルギ・スペクトル密度“ESD”から各々が導出可能な一つ以上の指標量を形成する段階;及び
作用103:予め定められた規則に従い、一つ以上の指標量に基づいて、心臓状態の指標を形成する段階。
【0031】
心臓状態の指標は、心臓異常及び/又は心臓異常のリスクを表現し得る。心臓異常は、例えば心筋梗塞のような心臓虚血、又は心筋炎、心膜炎、筋周膜炎、もしくは心筋心膜炎のような心臓炎であり得る。
【0032】
心臓状態の指標は、例えば各指標量を、一つ以上の閾値と比較することにより形成され得る。一つのみの閾値に対して比較される場合、心臓状態の指標は、yes/no型の2値データ要素である。少なくとも2つの指標量が在り、及び/又は一つの指標量に対して少なくとも2つの閾値が在る場合、心臓状態の指標は、心臓異常のリスクの異なるレベルを表現し得る。与えられた指標量に関する閾値は、各閾値が、心筋梗塞及び/又は他の幾つかの心臓異常の特定の確率を表す様に、一連の閾値を構成し得る。対応して、多数の指標量に関する閾値は、一連の閾値群であって、各群が、各閾値群が心筋梗塞及び/又は他の幾つかの心臓異常の特定の確率を表す様に、各指標量に対する閾値を含む一連の閾値群を構成し得る。各閾値は、単一の対象者、又は一群の対象者から収集されたデータに基づいて決定され得る。閾値は必ずしも一定ではなく、閾値は、考察下にある対象者に依り、時間に依り、及び/又は他の幾つかの要因に依り変化し得る。
【0033】
心臓状態の指標は、必ずしも上述された種類の閾値に基づくものでないことが注目に値する。心臓状態の指標は、数学的計算式の入力が一つ以上の指標量であり、且つ数学的計算式の出力が心臓異常の確率である数学的計算式により形成されることも可能である。
【0034】
上述の回転信号は、例えば心臓の回転運動により引き起こされた胸部の回転に比例する信号を胸部の外部から測定するジャイロスコープ又は他の回転センサにより生成され得る。回転信号は、胸部の皮膚の下に配置されたインプラント要素により生成されることも可能である。
【0035】
回転信号は、与えられた幾何学的軸線に関する時間依存的な角速度として表現され得る。心臓状態の検出の信頼性を高めるために、回転は好適には、典型的にはx、y及びz軸と呼ばれる3本の互いに直交する幾何学的軸線に関して測定される。対象者の身体に関するx、y及びz軸の方向は
図3に示される。この場合、回転信号は、各々が自身のエネルギ・スペクトル密度を有する3つの成分を有する。
【0036】
図2は、正常な場合及びSTEMI梗塞の場合において3本の互いに直交する幾何学的軸線に関して測定された回転信号の一つ以上のサンプルに基づく代表的なエネルギ・スペクトル密度を示している。正常な場合においてx、y及びz軸に関するエネルギ・スペクトル密度は、参照番号201x、201y、201zにより表される。対応して、STEMI梗塞の場合においてx、y及びz軸に関するエネルギ・スペクトル密度は、参照番号202x、202y、202zにより表される。正常な場合に対し、当該組合わせエネルギ・スペクトル密度が、エネルギ・スペクトル密度201x、201y及び201zの合計である様に、組合わせエネルギ・スペクトル密度を算出することが可能である。対応して、STEMI梗塞の場合に対し、当該組合わせエネルギ・スペクトル密度が、エネルギ・スペクトル密度202x、202y及び202zの合計である様に、組合わせエネルギ・スペクトル密度を算出することが可能である。
【0037】
図2に示された代表的なエネルギ・スペクトル密度は、先ず、考察下にある時間領域信号が複数の重複サンプルへと分割され、重複サンプルは次に、適切な窓関数によりウィンドウ化され、各ウィンドウ化サンプルに対して離散フーリエ変換が算出され、離散フーリエ変換の結果が二乗され、そして二乗された結果が、ノイズの効果を低減するために平均される、というウェルチ法により算出される。この場合、各サンプルの時間長は好適には、一つの心拍動期間、又は2つ以上の連続する心拍動期間である。算出されたエネルギ・スペクトル密度は、エネルギ・スペクトル密度の値をサンプルの時間長で除算することによりパワースペクトル密度“PSD”へと変換され得る。離散フーリエ変換は、例えば高速フーリエ変換“FFT”であり得る。
【0038】
図2から理解され得る如く、正常な場合におけるエネルギ・スペクトル密度201x、201y及び201zは、心筋梗塞の場合におけるエネルギ・スペクトル密度202x、202y及び202zと相当に異なる。
【0039】
本発明の代表的で非限定的な実施例に係る方法は、急性心筋梗塞“AMI”の一つ以上の指標を検出する段階を含む。急性心筋梗塞は、最も深刻な心臓疾患の一つであり、それは、臨床的介入を可能にするように、できるだけ早期に高精度に検出されるべきである。心臓の回転及び加速度を表す測定済みデータは好適には、非重複である連続する複数の時間間隔の一つの時間間隔を各々が表す複数の非重複のデータ・セグメントへと分割される。各時間間隔の時間長は、例えば10秒、又は別の適切な時間長であり得る。測定済みデータは、例えばフィルタリング及び潜在的ノイズ排除を行う高速フーリエ変換“FFT”により前処理され得る。前処理されたデータからは複数の特徴が検出され得る。検出される特徴は、例えば以下の一つ以上を含み得る:心拍動速度変動、心拍動速度、ターニング・ポイント・レシオ(turning point ratio)、スペクトル・エントロピ、これらの改変物、及び/又は信号の形状を記載するローカル・バイナリ・パターン“LBP”。例えば支配的LBP(Dominant LBP)、及び前処理段階としてGaborフィルタリングを備えるLBPのような、LBPの複数の変化形が在る。上述の特徴に加え、モーメント、スペクトログラム、ウェーブレット、又は例えば短時間フーリエ変換などのフーリエ変換系の特徴のような、他の特徴を使用することが可能である。
【0040】
上述のデータ・セグメントの各々は、以下の6つの成分へと分割され得る:Accelerometer X、即ち、x方向における加速度、Accelerometer Y、Accelerometer Z、Gyro X、即ち、x軸の回りにおける回転、Gyro Y、及びGyro Z。x、y及びz方向の各々に対し、考察下にある方向に関するデータ・セグメント成分から、方向特有加速度特徴ベクトル“ACC_FV”及び方向特有回転特徴ベクトル“GYRO_FV”が抽出され得る。その後、結果的な6個の特徴ベクトルは、各々の個別的な特徴ベクトルの長さの6倍の長さを有する連結特徴ベクトルへの分類のために、結合される。x、y及びz方向に関する個別的な特徴ベクトルが、ACC_FV_x、ACC_FV_y、ACC_FV_z、GYRO_FV_x、GYRO_FV_y及びGYRO_FV_zならば、連結特徴ベクトルは、[ACC_FV_x,ACC_FV_y,ACC_FV_z,GYRO_FV_x,GYRO_FV_y,GYRO_FV_z]である。
【0041】
本発明の代表的で非限定的な実施例に係る方法においては、例えば10回相互検証を用いる二分類器が、連結特徴ベクトルの少なくとも一部分を含むデータを、以下の2つのクラスへと分類すべく調整される:AMI及びNON_AMI。二分類器の調整データは、該調整データが、AMI状況に対応するデータ部分と、AMIのない状況に対応する他のデータ部分とを具備する様に、例えば複数の患者の術前及び術後の状態に対応し得る。分類は、例えばサポート・ベクトル・マシン“SVM”、カーネルSVM“KSVM”、及びランダムフォレスト“RF”などの適切な機械学習分類器により実施され得る。また、畳み込みニューラル・ネットワーク、深層畳み込みニューラル・ネットワーク、ベイズ分類器、及び他の監視付き又は監視なしの分類器のような他の多くの適切な分類器も在る。クラスタリングのような監視なし分類は、例えば監視付き分類器の設計を支援すべく使用され得る。AMI検出の分類結果は、ユーザ・インタフェースを介して報告され、及び/又はメモリ内に記録され得る。単純な上述のAMI及びNON_AMI以外のクラスを検出し得る分類器を使用することも可能である。例えば分類器は、ノイズを第3クラスとして分離するように、又は心房細動のような完全に異なる心臓疾患を付加的なクラスとして、あるいは任意数Nの心臓異常、即ち、N個のクラスとして分離するように調整され得る。更に、分類器の各クラスは厳密である必要はなく、即ち、分類器は、更なる処理のために複数のクラスの確率を返答してもよい。時には、連結特徴ベクトルの長さは非常に長くなることがあり、その場合には、主成分分析“PCA”、又は独立成分分析“ICA”、又は他の任意で適切な方法のような特徴ベクトル長減少方法により長さを減少させることが有用であり得る。これにより機械学習アルゴリズムの能率が高められる。
【0042】
本発明の代表的で非限定的な実施例に係る装置は、胸部の回転運動を表す回転信号と、胸部の加速度を表す加速度信号とを受信する処理システムを具備し、そこでは、回転信号及び加速度信号は少なくとも部分的に、心臓の回転及び加速度を表す。処理システムは、急性心筋梗塞“AMI”の一つ以上の徴侯を検出する上述の方法を実施するように構成される。
【0043】
本発明の代表的で非限定的な実施例に係る装置は、スマートフォン、又は加速度計及びジャイロスコープを具備する別のデバイスである。AMIの徴侯を検出するために、人は、患者が仰臥姿勢に在るときに、患者の胸部上にスマートフォンを配置し得る。次に、患者からの測定値記録が獲得される。この手順は、非侵襲的であると共に、医療スタッフ、及び/又は他の同様の人員からの支援なしで実施され得る。本発明の代表的で非限定的な実施例に係る装置は、ウェアラブル・デバイス、又は埋め込み可能デバイスである。本発明の代表的で非限定的な実施例に係る装置は、病院の救急診療室もしくは同等物のような遠隔箇所へと患者に関する情報を送信するか、又はユーザに対して単に自身の状態を伝えるべく構成される。加速度計及びジャイロスコープは、例えば超小型電気機械的システム“MEMS”であり得る。
【0044】
本発明の代表的で非限定的な実施例に係る方法は、心室及び/又は心房の頻脈の一つ以上の徴侯を検出する段階を含む。頻脈とは、対象者の心拍数が、不規則的に、即ち、一切の身体活動もしくは外部ストレスなしで、例えば>100拍動/分など、正常割合を超える様な、静止時の心拍数の急激な増大である。通常、心室又は心房における異常な電気インパルスは、急激な心拍数に帰着すると共に、対象者の心臓の圧送作用鼓動を支配する。本発明の代表的で非限定的な実施例に係る方法は、ジャイロスコープ信号が心房及び心室の頻脈の両方である頻脈のような心臓の異なる状態を表し、その結果、ジャイロスコープ信号の幾つかの特徴を考慮することにより頻脈を正常鼓動から分類し得る、という仮説に基づいている。頻脈の特徴を考慮すると、突然死に繋がる可能性のある非常に危険な状態の心室頻脈から心房頻脈を区別することも可能である。以下の内容は、ジャイロスコープを用いて心室及び心房の頻脈を検出する簡単な概要を提供する。その方法は、心臓回転を測定する段階、及びジャイロ拍動図のエネルギ/パワースペクトル密度に直接的もしくは間接的に関連する一つ以上の特徴及び/又は指標量を考察する段階に基づいている。頻脈、ならびに、心筋梗塞“MI”は、心筋の全体的な、即ち絶対的な回転における変化を引き起こすことが認められている。頻脈は、心筋の捻り及び捻り戻しの性能に影響し、それに対応して心室及び心房の筋肉が正常に機能しない。適切な特徴及び/又は指標量を用いて、頻脈を正常鼓動から区別することが可能である。更に、心房頻脈を心室頻脈から区別することが可能である。
【0045】
心室及び/又は心房の頻脈の一つ以上の徴侯を検出する上記方法は、一般的な頻脈状態において、心拍数、及び回転信号、即ちGCGのピーク間振幅が突然に増大して正常レベルを超過するという認識に基づいている。より厳密には、心拍数は、静止状態において100を超える拍動/分“bpm”まで急激に増大し、これは頻脈と診断する基本的な徴侯である。同様に、振幅は典型的には正常鼓動よりも少なくとも2倍大きくなる。回転信号の振幅におけるこの変化は、その信号において頻脈の症状発現を認識する固有の特徴である。
【0046】
頻脈の症状発現を検出した後は、頻脈の種類を診断することが重要である。心室頻脈“VT”における拍動間期間には、変動する不規則さが認められており、VTは、相当の心拍動速度変動“HRV”、即ち、連続的な心拍動期間の間における時間逸脱を引き起こすことが意味されるが、心房頻脈においては、心拍動速度の変動は無いか、無視可能である。故に、心室及び心房の頻脈を分類するために、HRV指標の評価が使用され得る。頻脈状況における全体的又は絶対的な心臓回転は、正常鼓動のそれと相当に異なることも認められている。正常鼓動の回転を基準として考えると、心室頻脈は、より少ない心筋回転、即ち、より少ない捻り+捻り戻しに該当する一方、心房頻脈は、更なる回転を心筋に対して強制する。故に、心臓回転が上述の基準より少ない症状発現は、心室頻脈と考えられ得ると共に、より大きな回転値を有する症状発現は、心房頻脈と考えられ得る。故に、全体的な心筋回転の変化が考慮され得る、というのも回転情報は心臓状態の指標として取り扱われ得るからである。
【0047】
各指標は、周波数領域においても考慮され得る。上述された如く、心拍動速度の変動は心室頻脈の間において相当であることから、心室頻脈が存在する間は、ジャイロスコープ信号のエネルギ/パワースペクトル密度上に単一の顕著な周波数成分は見出され得ない。別の例に対し、自己相関手法を用いると、ジャイロスコープ信号に顕著な周波数成分が在るか否かを容易に決定し得る。自己相関プロット図における顕著なサイドピークの欠如は、心室頻脈の指標として取り扱われ得る一方、自己相関プロット図における顕著なサイドピークは、考慮された症状発現が心房もしくは洞の頻脈であり得ることを意味する。上述の手法は、頻脈を表すべく使用され得る。更に、上述の手法は、検出された頻脈の種類、即ち、心室もしくは心房の頻脈を表すべく使用され得る。心臓状態の識別のために、幾つかの異なる時間及び周波数領域の特徴及び指標が記載され得る。
【0048】
本発明の代表的で非限定的な実施例に係る装置は、対象者の胸部の回転運動を表す回転信号を受信する処理システムを具備しており、そこでは回転信号は少なくとも部分的に心臓回転を表す。処理システムは、心室及び/又は心房の頻脈の一つ以上の徴侯を検出する上述の方法を実施するように構成される。本発明の代表的で非限定的な実施例に係る装置は、スマートフォン、又はジャイロスコープを具備する他の適切なデバイスである。
【0049】
各々がエネルギ・スペクトル密度から導出可能な一つ以上の指標量を定義する多くの手法が在る。幾つかの代表的手法が以下に示される。
【0050】
本発明の代表的で非限定的な実施例に係る方法において、少なくとも一つの指標量は、例えば一つ以上の心拍動期間であり得る演算時間間隔における回転信号のエネルギであると定義される。エネルギの増大は、例えば心筋梗塞のような心臓虚血、又は心筋炎、心膜炎、筋周膜炎、もしくは心筋心膜炎のような心臓炎などの心臓異常の大きなリスクを表す。エネルギの評価値は、以下の式に従って算出され得る:
【数1】
式中、Eはエネルギの評価値であり、ω(t)は回転信号であり、Tは演算時間間隔であり、tは時間である。2次元又は3次元の場合、信号ω(t)は、例えばx、y又はz軸などの一本の幾何学的軸線に関する回転信号の成分である。回転信号の他の成分に対しても、エネルギの対応評価値が算出され得る。エネルギの上述の評価値は、以下の式に従っても算出され得る:
【数2】
式中、ESD(f)はエネルギ・スペクトル密度であり、Bはエネルギ・スペクトル密度の周波数領域であり、fは周波数である。式1から理解され得る如く、エネルギ・スペクトル密度から導出可能な指標量を形成する段階は、必ずしも、エネルギ・スペクトル密度を算出する段階を必要としない。
【0051】
エネルギの評価値は、心臓状態の指標を獲得するために、一つ以上の閾値と比較され得る。心臓状態の指標は、入力がエネルギの評価値である数学的計算式により形成されることも可能である。数学的計算式は、例えばエネルギ・スペクトル密度201x、201y及び201zに対応するエネルギ評価値の合計が心臓異常のゼロの確率をもたらし、エネルギ・スペクトル密度202x、202y及び202zに対応するエネルギ評価値の合計が心臓異常の100%の確率をもたらし、またエネルギ・スペクトル密度が
図2に示された正常な場合及び心筋梗塞の場合の夫々のエネルギ・スペクトル密度の間にあるときには、対応する合計がゼロと100%との間の確率をもたらすようなものであり得る。
【0052】
本発明の代表的で非限定的な実施例に係る方法において、少なくとも一つの指標量は、エネルギ・スペクトル密度ESD(f)の重心に対応する平均周波数であると定義される。平均周波数における増大は、例えば心筋梗塞のような心臓虚血、又は心筋炎、心膜炎、筋周膜炎、もしくは心筋心膜炎のような心臓炎などの心臓異常の大きなリスクを表す。平均周波数は、次式に従って算出され得る:
【数3】
式中、f
avは、エネルギ・スペクトル密度の重心に対応する上述の平均周波数である。
【0053】
本発明の代表的で非限定的な実施例に係る方法において、少なくとも一つの指標量は、エネルギ・スペクトル密度ESD(f)の中央周波数であると定義される。中央周波数の増大は、例えば心筋梗塞のような心臓虚血、又は心筋炎、心膜炎、筋周膜炎、もしくは心筋心膜炎のような心臓炎などの心臓異常の大きなリスクを表す。中央周波数は、次式に従って算出され得る:
【数4】
式中、f
mは中央周波数であり、f
minはエネルギ・スペクトル密度の周波数領域の下限値であり、f
maxはエネルギ・スペクトル密度の周波数領域の上限値である。
【0054】
上述された如く、心臓状態の指標は、予め定められた規則に従い、一つ以上の指標量に基づいて形成される。本発明の代表的で非限定的な実施例に係る方法は、対象者が正常状態に在るときに該対象者から測定された回転信号の一つ以上のサンプルに基づいて、予め定められた規則の一つ以上のパラメータを決定する段階を含む。予め定められた規則の一つ以上のパラメータは、例えば一つ以上の指標量と比較される一つ以上の閾値であり得る。この場合、方法は、正常な場合に対応する一つ以上の正常状態指標量を形成する段階と、一つ以上の正常状態指標量に基づいて一つ以上の閾値を決定する段階とを含む。各閾値は、例えば対応する正常状態指標量よりも、例えば25%などの所定割合だけ大きい値であり得る。
【0055】
本発明の代表的で非限定的な実施例に係る方法は、大動脈弁の開弁により引き起こされるAOピークから、大動脈弁のその後の閉弁により引き起こされるACピークまでの時間間隔の長さを検出する段階と、一つ以上の指標量、及び検出されたAO−AC時間間隔の長さに基づいて、心臓状態の指標を形成する段階とを含む。AO−AC時間間隔の長さは、例えば上述の回転信号から、及び/又は心臓の運動に関する別の信号から検出され得る。他の信号は、例えば1軸、2軸、又は3軸の加速度センサにより生成され得る。
【0056】
検出されたAO−AC時間間隔の長さは、心臓異常の検出の信頼性を高めるために使用され得る。正常状態において、AO−AC時間間隔の長さは典型的に、心拍動期間の約30%である。心筋梗塞の間において、AO−AC時間間隔の長さは典型的に、心拍動期間の約50%まで増大する。パニック障害の間において、心臓の捻りに関するエネルギは、正常状態と比較して増大し得るが、AO−AC時間間隔の長さは、心筋梗塞の間におけるのと同一の様式では増大しない。故に、AO−AC時間間隔の長さは、心筋梗塞とパニック障害を区別するために使用され得る。
【0057】
本発明の代表的で非限定的な実施例に係る方法は、心臓の作動に関する信号から、心拍動速度を検出する段階と、上述の一つ以上の指標量、及び検出された心拍動速度に基づいて、心臓状態の指標を形成する段階とを含む。心拍動速度は、例えば上述の回転信号から、及び/又は心臓の運動に関する別の信号、及び/又は心電図“ECG”信号から検出され得る。心臓の運動に関する他の信号は、例えば1軸、2軸、又は3軸の加速度センサにより生成され得る。
【0058】
回転信号に関するエネルギ/振幅の増大と共に、典型的には>100拍動/分、且つ、300拍動/分までにも至る高い心拍動速度は、適切に治療及び/又は救済されなければ非常に深刻な結果となり得る心室頻脈を表す。
【0059】
本発明の代表的で非限定的な実施例に係る方法は:
心電図“ECG”信号を受信する段階と、
心電図信号のRピークと、同一の心拍動期間に対応する回転信号の最高ピークとの間の時間間隔の長さを検出する段階であって、好適には、信頼性を高めるために多数の心拍動期間に対して行われる、検出する段階と、
上述の一つ以上の指標量、検出された心拍動速度、及び検出された時間間隔の長さに基づいて、心臓状態の指標を形成する段階と、
を含む。
【0060】
検出された時間間隔の長さの増大は、心室頻脈を表す要因であることから、検出された時間間隔の長さは、心室頻脈の検出の信頼性を高めるために使用され得る。
【0061】
本発明の代表的で非限定的な実施例に係る方法は、収縮期間隔(STI)及び拡張期間隔(DTI)のような血行力学的測定値を含む。本発明の代表的で非限定的な実施例に係る方法は、例えば僧帽弁閉弁(MC)、大動脈弁開弁(AO)、僧帽弁開弁(MO)、及び大動脈弁閉弁(AC)の瞬間などの、特に物理的な心臓事象を検出する段階を含む。電気機械的全収縮期(QS2)、左心室駆出時間(LVET)/AO−AC時間間隔、及び前駆出期(PEP)を含む収縮期間隔(STI)は、例えば心臓状態を吟味する心電図(ECG)信号を組み合わせることにより測定され得る。QS2は、ECGにおけるQRS群のQ波から、回転信号における大動脈弁閉弁(AC)の時点まで、測定される。QS2に加え、PEP及びLVETは、心臓の収縮性、及び対応して心臓状態を評価するための2つの重要な指標である。PEPは、Q波から、AOピークの開始まで、即ち、回転信号の第1の高振幅成分までの時間間隔である。LVETは、心周期における大動脈弁の開弁の瞬間と閉弁の瞬間との間における時間間隔である。回転信号に関するエネルギ/振幅の増大と共に、回転STI、即ちPEP及びLVETの正常値における大きな変化は、心臓不整脈のような心臓異常を表している。
【0062】
本発明の代表的で非限定的な実施例に係る方法は、センサ要素により、対象者の身体から回転信号を選択的に測定する段階を含む。本発明の別の代表的で非限定的な実施例に係る方法は、メモリから回転信号を読取る段階を含み、その場合、回転信号は、先に測定されてメモリに記録される。本発明の代表的で非限定的な実施例に係る方法は、外部データ転送システムから回転信号を受信する段階を含む。故に、測定段階は、本発明の多くの実施例に係る方法の本質的で必要な段階ではないが、回転信号は、前記方法の入力量として理解されるべきである。
【0063】
本発明の代表的で非限定的な実施例に係るコンピュータ・プログラムは、本発明の上述の好適実施例の内の任意のものに係る方法に関する作用を実施するプログラム可能な処理システムを制御するコンピュータ実行可能命令を含む。
【0064】
本発明の代表的で非限定的な実施例に係るコンピュータ・プログラムは、心臓状態を表す信号を生成するソフトウェア・モジュールを具備する。そのソフトウェア・モジュールは、プログラム可能な処理システムを制御して、
胸部の回転運動を表す回転信号の一つ以上のサンプルに基づくエネルギ・スペクトル密度から各々が導出可能な一つ以上の指標量を形成させ、回転信号は少なくとも部分的に心臓回転を表すと共に、一つ以上のサンプルの各々は時間長を有しており、且つ、
予め定められた規則に従い、一つ以上の指標量に基づいて、心臓状態の指標を形成させる、
コンピュータ実行可能命令を含む。
【0065】
ソフトウェア・モジュールは、例えば適切なプログラミング言語と、該プログラミング言語及び考察下にあるプログラム可能な処理システムに適したコンパイラとにより実現されるサブルーチンもしくは関数であり得る。適切なプログラミング言語に対応するソースコードもまた、コンピュータ実行可能ソフトウェア・モジュールを表すことが注目に値する、というのも、ソースコードは、上に示された作用を実施すべくプログラム可能な処理システムを制御し、且つ、情報の形態で変更のみをコンパイルするために必要な情報を含むからである。更に、プログラム可能な処理システムは、適切なプログラミング言語により実現されたソースコードが、実行に先立ちコンパイルされる必要がない様に、インタプリタを備えることも可能である。
【0066】
本発明の代表的で非限定的な実施例に係るコンピュータ・プログラム製品は、本発明の実施例に係るコンピュータ・プログラムによりコード化された、例えばコンパクト・ディスク“CD”などのコンピュータ可読媒体を具備する。
【0067】
本発明の代表的で非限定的な実施例に係る信号は、本発明の実施例に係るコンピュータ・プログラムを定義する情報を保持すべくコード化される。信号は、例えば携帯電話、タブレット・コンピュータ、ウェアラブル電子機器、又は適切な処理システムと、回転信号を測定するセンサ要素とを具備する別のデバイスを構成するために使用され得る。信号、即ち、コンピュータ・プログラムは、多くの異なる様式で、携帯電話、タブレット・コンピュータ、ウェアラブル電子機器、又は他のデバイスに供与され得る。例えば信号、即ち、コンピュータ・プログラムは、インターネットからダウンロードされ得る。例えば信号、即ち、コンピュータ・プログラムの供与のために、及び/又は医療関係者に対する検出結果の供与のために、クラウド・サービスなどが利用され得る。
【0068】
図3は、本発明の代表的で非限定的な実施例に係る、心臓状態を表す情報を生成する装置300の概略図を示している。装置は、対象者の胸部の回転運動を表す回転信号を受信する処理システム301を具備し、該回転信号は、少なくとも部分的に心臓回転を表している。処理システム301は、回転信号の一つ以上のサンプルに基づくエネルギ・スペクトル密度から各々が導出可能な一つ以上の指標量を形成するように構成され、その場合、各サンプルは、一つ以上の心拍動期間であり得る時間長を有している。処理システム301は、予め定められた規則に従い、一つ以上の指標量に基づいて、心臓状態の指標を形成するように構成される。処理システム301は好適には、装置300のディスプレイを制御して、心臓状態の指標を示すように構成される。
【0069】
処理システム301は、一つ以上のプロセッサ回路により実現され得ると共に、その各々は、適切なソフトウェアを備えたプログラム可能なプロセッサ回路、例えば特定用途集積回路“ASIC”などのような専用のハードウェア・プロセッサ、又は例えばフィールド・プログラマブル・ゲート・アレイ“FPGA”などのような設定可能なハードウェア・プロセッサであり得る。
【0070】
図3に示された代表的な場合では、装置300は、上述の回転信号を測定するセンサ要素302を具備する。センサ要素は処理システム301に通信接続される。センサ要素302は、胸部の外側で胸部に直接的もしくは間接的に機械的に接触しているとき、回転信号を測定するのに適している。センサ要素302は、例えば心臓の回転運動により引き起こされた胸部の回転に比例する信号を測定するジャイロスコープであるか又は別の回転センサであり得る。ジャイロスコープは、例えば圧電フォーク型の小型ジャイロスコープ・センサであり得る。
【0071】
本発明の代表的で非限定的な別の実施例に係る装置は、センサ要素ではなく、外部センサ要素に接続するための有線又は無線の信号インタフェースを具備する。この場合、センサ要素は、例えば考察下にある対象者の胸部の皮膚の下に配置されたときに上述の回転信号を測定するのに適した埋め込み可能要素であり得る。
【0072】
図3に示された代表的な場合において、装置300は無線送信器303を具備し、処理システム301は、心臓状態の指標が心臓異常を表す状況に応じて、無線送信器を制御して警報信号を送信するように構成される。装置300は、例えば携帯電話、タブレット・コンピュータ、装身具、又は別の可搬式デバイスであり得る。
図3に示された代表的な場合において、装置300は、例えばセル式ネットワークなどのデータ通信ネットワーク305を介して、監視システム304に警報信号を送信するように構成される。監視システム304は、例えば病院内、又は専門の医療関係者が存在する他の施設内に配置され得る。警報信号に加え、装置300は、監視システム304及び医療関係者が測定済み回転信号を解析し得る様に、回転信号を監視システムに送信するように構成され得る。回転信号を測定するセンサ要素302に加え、装置300は、対象者306から他の情報を測定する一つ以上の他のセンサ要素を更に具備し得る。処理システム301は、無線送信器303を制御して他の情報を監視システム304に送信するように構成され得る。一つ以上の他のセンサ要素は、例えば
図3に示された座標系399などの3本の互いに直交する方向x、y及びzにおいて独立に並進移動を測定し得る3軸加速度計を具備し得る。
【0073】
装置300が監視システム304に回転信号を送信する場合、一つ以上の指標量を形成し且つ心臓状態の指標を形成する機能性は、監視システム304においても、又は監視システム304においてのみ実現され得ることに注目されたい。この場合、監視システム304は実際には、本発明の実施例に係る装置である。故に、本発明の異なる実施例に係る装置は、種々の様式で構成され得る。
【0074】
本発明の代表的で非限定的な実施例に係る装置において、処理システム301は、例えば一つ以上の心拍動期間であり得る演算時間間隔における回転信号のエネルギの評価値を算出するように構成される。エネルギの評価値は、指標量を表すと共に、次式により定義される:
【数5】
式中、Eはエネルギの評価値であり、ω(t)は回転信号であり、Tは演算時間間隔であり、tは時間であり、ESD(f)はエネルギ・スペクトル密度であり、Bはエネルギ・スペクトル密度の周波数領域であり、fは周波数である。本発明の代表的で非限定的な実施例に係る装置において、処理システム301は、エネルギの評価値が閾値を超過したときに心臓異常を表現すべく心臓状態の指標を設定するように構成される。
【0075】
本発明の代表的で非限定的な実施例に係る装置において、処理システム301は、エネルギ・スペクトル密度を算出して、エネルギ・スペクトル密度の重心に対応する平均周波数を算出するように構成される。平均周波数は、指標量を表し、次式により定義される:
【数6】
式中、f
avは平均周波数である。本発明の代表的で非限定的な実施例に係る装置において、処理システム301は、平均周波数f
avが閾値を超過したときに心臓異常を表現すべく心臓状態の指標を設定するように構成される。
【0076】
本発明の代表的で非限定的な実施例に係る装置において、処理システム301は、エネルギ・スペクトル密度を算出して、エネルギ・スペクトル密度の中央周波数を算出するように構成される。中央周波数は指標量を表すと共に、次式により定義される:
【数7】
式中、f
mは中央周波数であり、f
minはエネルギ・スペクトル密度の周波数領域の下限値であり、f
maxはエネルギ・スペクトル密度の周波数領域の上限値である。本発明の代表的で非限定的な実施例に係る装置において、処理システム301は、中央周波数f
mが閾値を超過したときに心臓異常を表現すべく心臓状態の指標を設定するように構成される。
【0077】
上述された如く、処理システム301は、予め定められた規則に従い、一つ以上の指標量に基づいて心臓状態の指標を形成するように構成される。本発明の代表的で非限定的な実施例に係る装置において、処理システム301は、装置のユーザ・インタフェースからのユーザ制御信号の受信に応じて、一つ以上の指標量に基づいて予め定められた規則の一つ以上のパラメータを決定するように構成される。予め定められた規則の一つ以上のパラメータは、例えば一つ以上の指標量と比較される一つ以上の閾値であり得る。ユーザ制御信号を用いて、対象者306は、例えば一つ以上の閾値などの、予め定められた規則の一つ以上のパラメータが、対象者306に対して適切であるべく調節される様に、装置を調整し得る。調整は、装置300を制御し、対象者306の正常状態に対応するような一つ以上の指標量の単一もしくは複数の値に基づいて一つ以上のパラメータを決定することにより実施される。例えば閾値は、正常状態に関する対応する指標量よりも、例えば25%などの所定割合だけ大きい値であり得る。別の例に対し、上述の予め定められた規則は、数学的計算式であり得、数学的計算式の一つ以上のパラメータは、正常状態に対応する一つ以上の指標量が数学的計算式に対して入力されたときに、数学的計算式により与えられる心臓異常の確率がゼロである様に調節され得る。
【0078】
本発明の代表的で非限定的な実施例に係る装置において、処理システム301は、回転信号、及び/又は心臓の運動に関する別の信号から、大動脈弁の開弁により引き起こされたAOピークから大動脈弁のその後の閉弁により引き起こされたACピークまでの時間間隔の長さを検出し、一つ以上の指標と、検出された時間間隔の長さとに基づいて心臓状態の指標を形成するように構成される。
【0079】
本発明の代表的で非限定的な実施例に係る装置において、心臓状態の指標は、心臓虚血の指標である。
【0080】
本発明の代表的で非限定的な実施例に係る装置において、心臓状態の指標は、心筋梗塞の指標である。
【0081】
本発明の代表的で非限定的な実施例に係る装置において、心臓状態の指標は、心臓炎の指標である。
【0082】
本発明の代表的で非限定的な実施例に係る装置において、心臓状態の指標は、心筋炎の指標である。
【0083】
本発明の代表的で非限定的な実施例に係る装置において、心臓状態の指標は、心膜炎の指標である。
【0084】
本発明の代表的で非限定的な実施例に係る装置において、心臓状態の指標は、筋周膜炎の指標である。
【0085】
本発明の代表的で非限定的な実施例に係る装置において、心臓状態の指標は、心筋心膜炎の指標である。
【0086】
本発明の代表的で非限定的な実施例に係る装置において、処理システム301は、心臓の作動に関する適切な信号から、心拍動速度を検出し、且つ、上述の一つ以上の指標量と、検出された心拍動速度とに基づいて、心臓状態の指標を形成するように構成される。この場合、心臓状態の指標は、心室頻脈の指標である。
【0087】
本発明の代表的で非限定的な実施例に係る装置において、処理システム301は、
心電図“ECG”信号を受信し、
心電図信号のRピークと、同一の心拍動期間に対応する回転信号の最高ピークとの間の時間間隔の長さを検出し、且つ、
一つ以上の指標量と、検出された心拍動速度と、検出された時間間隔の長さとに基づいて、心室頻脈の指標を形成する、
ように構成される。
【0088】
上で与えられた説明において提示された特定の例は、添付の請求項の有効範囲及び/又は適用可能性を制限すると解釈されるべきではない。上で与えられた説明において提供された例のリスト及び群は、明示的に述べられるのでなければ、網羅的ではない。