(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記式(1)中のAサイトは、前記Ba以外に、Ca、Mg、Sr、La、Zn、Sbからなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項1に記載の内部電極用ペースト。
前記式(1)中のBサイトは、前記Ti以外に、Zr、Ce、Nb、Y、Dy、Ho、Smからなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項1または請求項2に記載の内部電極用ペースト。
前記共材粉末を水に含浸させた際の単位時間あたりのBa溶出量を、前記共材粉末の比表面積で割った値が10以下である、請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の内部電極用ペースト。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、共材粉末を含む内部電極用ペーストでは、耐熱性の劣化という問題を有していた。具体的には、共材粉末を含む内部電極用ペーストでは、焼成中に過剰なシンタリング(粒成長)が生じ、形成後の内部電極層に種々の不具合を生じさせることがあった。本発明は、かかる問題を解決するためになされたものであり、クラック防止のために共材粉末が添加されているにもかかわらず、焼成中のシンタリングを防止できる内部電極用ペーストを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上述の課題を解決するために、共材粉末を含む内部電極用ペーストにおいて耐熱性が劣化する原因について検討を行った。その結果、誘電体層の誘電体として使用されるセラミック材料(チタン酸バリウム)を、そのまま内部電極層の共材粉末として使用することが耐熱性劣化の原因であることを見出した。
【0008】
具体的には、誘電体層の形成に使用される誘電体には、一般に、ペロブスカイト構造を有するチタン酸バリウムが用いられる。このチタン酸バリウムでは、結晶構造中のAサイトをバリウム(Ba)が占有し、Bサイトをチタン(Ti)が占有する。そして、特許文献1等に開示されている通り、誘電体として使用されるチタン酸バリウムでは、誘電率の向上のために、上記Aサイトを占有する原子(Ba)と、Bサイトを占有する原子(Ti)とのモル比(A/B)がおおよそ1(例えば、1.000以上1.008以下)に制御される。一方、内部電極層に含まれる共材粉末では、上記A/Bについて特に検討されておらず、A/Bが誘電体層側と同程度(すなわちA/B=1程度)の誘電体粒子が使用されていた。この点について、本発明者らが種々の実験と検討を重ねた結果、上記A/Bが高くなるにつれて、焼成中のシンタリングが生じやすくなるという驚くべき知見を発見した。そして、さらに実験と検討を重ねた結果、A/Bが0.99以下の誘電体粒子を共材粉末として使用すると、シンタリングの発生を抑制できることを発見した。
さらに、本発明者らは実験を重ねた結果、共材粉末の平均粒子径も耐熱性に影響することを発見し、「誘電体粒子のA/B」と「共材粉末の平均粒子径」とを適切な範囲に制御することによって、焼成中のシンタリングを適切に防止できることを見出した。
【0009】
ここに開示される内部電極用ペーストは、上述の知見に基づいてなされたものである。かかる内部電極用ペーストは、積層セラミック電子部品の内部電極層の形成に用いられる導電性ペーストであって、導電性粉末と、誘電体粒子から構成された共材粉末と、分散媒とを含む。上記誘電体粒子は、一般式:ABO
3 (1)で示されるペロブスカイト構造を有する金属酸化物粒子である。なお、上記式(1)中のAサイトはBaを少なくとも含み、BサイトはTiを少なくとも含む。そして、ここに開示される内部電極用ペーストは、式(1)中のAサイトを占有する原子とBサイトを占有する原子とのモル比(A/B)が0.89以上0.99以下であり、かつ、共材粉末の平均粒子径が10nm以上50nm以下であることを特徴とする。
このように、ここに開示される内部電極用ペーストでは、「誘電体粒子のA/B」および「共材粉末の平均粒子径」が適切な範囲に制御されているため、クラック防止のために共材粉末が添加されているにもかかわらず、焼成中のシンタリングを防止できる。
【0010】
ここに開示される内部電極用ペーストの好ましい一態様では、式(1)中のAサイトは、Ba以外に、Ca、Mg、Sr、La、Zn、Sbからなる群から選択される少なくとも1種を含む。このような元素がBaの代わりにAサイトに添加されている場合でも、ここに開示される技術によるシンタリング防止効果を適切に発揮できる。
【0011】
ここに開示される内部電極用ペーストの好ましい一態様では、式(1)中のBサイトは、Ti以外に、Zr、Ce、Nb、Y、Dy、Ho、Smからなる群から選択される少なくとも1種を含む。このような元素がTiの代わりにBサイトに添加されている場合でも、ここに開示される技術によるシンタリング防止効果を適切に発揮できる。
【0012】
ここに開示される内部電極用ペーストの好ましい一態様では、上記A/Bが0.96以上である。これにより、焼成中のシンタリングをより好適に防止することができる。
【0013】
ここに開示される内部電極用ペーストの好ましい一態様では、共材粉末を水に含浸させた際の単位時間あたりのBa溶出量(Ba溶出速度)を、共材粉末の比表面積で割った値が10以下である。この「Ba溶出速度/比表面積」が高い共材粉末では、誘電体粒子から多量のBaが溶出してシンタリングを促進する焼結助剤になり得る。本態様では、このようなBaの溶出が抑制されているため、シンタリングの発生を好適に防止できる。
【0014】
また、ここに開示される技術の他の側面として積層セラミック電子部品の製造方法が提供される。かかる製造方法は、上述した何れかの態様の内部電極用ペーストを準備する準備工程と、内部電極用ペーストを誘電体グリーンシートの表面に付与する付与工程と、内部電極用ペーストが付与された誘電体グリーンシートを焼成する焼成工程とを包含する。
上述したように、ここに開示される内部電極用ペーストは、焼成中のシンタリングを防止できる。このため、かかる内部電極用ペーストを使用することによって、共材粉末のシンタリングによる種々の不具合が防止された高性能の内部電極層を有する積層セラミック電子部品を製造できる。
【0015】
ここに開示される製造方法の好ましい一態様では、焼成工程において、室温から最高焼成温度までの昇温速度が600℃/hr以上という高速焼成を実施する。A/Bが0.99以下の内部電極用ペーストでは、誘電体粒子のAサイトを占有する原子が少なくなっている。このため、焼成工程において、Aサイトを占有し得る元素(Ba、Ca等)が誘電体層側から内部電極層側に移動し、焼成後の誘電体層の誘電率の低下等の不具合が生じる可能性がある。このため、A/Bが0.99以下の内部電極用ペーストを使用する場合には、本態様のような高速焼成を実施し、誘電体層側から内部電極層側への元素の移動が生じる前に、誘電体層と内部電極層とを焼結させた方が好ましい。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施できる。なお、本明細書において数値範囲を示す「A〜B」との表記は「A以上B以下」を意味するものとする。
【0018】
[内部電極用ペースト]
ここに開示される内部電極用ペーストは、積層セラミック電子部品の内部電極層の形成に用いられる導電性ペーストである。かかる内部電極用ペーストは、主たる構成成分として、(A)導電性粉末と、(B)共材粉末と、(C)分散媒とを含む。そして、かかる内部電極用ペーストの(B)共材粉末は、ABO
3で示されるペロブスカイト構造を有する金属酸化物粒子(典型的には、チタン酸バリウム(BaTiO
3))を誘電体粒子として含んでいる。
【0019】
そして、ここに開示される内部電極用ペーストは、上記誘電体粒子のAサイトを占有する原子とBサイトを占有する原子とのモル比(A/B)が0.89以上0.99以下であり、かつ、共材粉末の平均粒子径が10nm以上50nm以下である。かかる内部電極用ペーストを用いることによって焼成中のシンタリングを防止できることが、本発明者らが実施した実験によって確認されている。以下、ここに開示される内部電極用ペーストについて具体的に説明する。
【0020】
(A)導電性粉末
導電性粉末は、電子素子等における電極、導線や電導膜等の電気伝導性の高い導体物(導体膜であり得る。)の主成分となり得る材料であればよい。すなわち、導電性粉末には、所望の導電性を備える各種の粉末材料を特に制限なく使用できる。かかる導電性粉末の一例として、ニッケル(Ni)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)、アルミニウム(Al)、タングステン(W)等の金属の単体、およびこれらの金属を含む合金等が挙げられる。また、導電性粉末は、上述した金属材料のいずれか1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なお、導電性粉末には、MLCCの誘電体層の焼結温度(例えば約1300℃)よりも低温の融点を有する金属材料が使用されていることが好ましい。このような融点の金属材料の一例として、Rh、Pt、Pd、Cu、Au、Niが挙げられる。これらのなかでもPtやPd等の貴金属は、融点や導電性の観点から好ましい。但し、低価格であることも考慮するとNiが好ましい。なお、導電性粉末は、従来公知の方法によって製造されたものでよく、特別な方法で製造されたものに制限されない。例えば、周知の還元析出法、気相反応法、ガス還元法等によって製造された金属粉末を導電性粉末として使用できる。
【0021】
内部電極用ペーストにおける導電性粉末の含有割合は特に限定されず、必要に応じて適宜調節できる。なお、電気伝導性に優れ、緻密性が高い内部電極層を形成するという観点では、内部電極用ペーストの総重量を100質量%としたときの導電性粉末の含有割合を30質量%以上にすることが好ましく、40質量%以上にすることがより好ましく、45質量%以上にすることがさらに好ましい。一方、導電性粉末の含有割合の上限は、特に限定されず、95質量%以下であってもよい。但し、ペースト粘度を低く抑えて作業性を向上するという点を考慮すると、導電性粉末の含有割合の上限は、80質量%以下が好ましく、70質量%以下がより好ましく、60質量%以下がさらに好ましい。
【0022】
また、導電性粉末を構成する粒子(以下「導電性粒子」ともいう)の寸法(粒子径)は、特に限定されず、この種の内部電極用ペーストにおいて適用され得る寸法を制限なく適用できる。例えば、導電性粉末の平均粒子径は、数nm〜数十μm程度であってもよい。なお、本明細書において「平均粒子径」とは、当該粉末材料の粒度分布におけるD
50(メジアン径)をいう。かかるD
50は、例えば従来公知のレーザー回折方式、光散乱方式等に基づく粒度分布測定装置によって測定できる。
【0023】
なお、小型MLCCの作製のために内部電極層を薄膜化する場合には、内部電極層の厚み(積層方向の寸法)よりも、導電性粉末の寸法を小さくすることが求められる。例えば、小型MLCCの作製時の導電性粉末の累積90%粒子径(D
90)は、3μm未満であることが好ましく、2μm未満であることがより好ましく、1.5μm未満であることがさらに好ましく、1.2μm未満であることが特に好ましく、例えば1μm未満である。また、小型MLCCの内部電極層を安定して形成するという観点から、導電性粉末の平均粒子径(D
50)は、通常1μm以下に設定され、0.8μm以下が好ましく、0.6μm以下がより好ましく、0.5μm以下がさらに好ましく、0.4μm以下が特に好ましく、例えば0.3μm以下である。また、このような平均粒子径が小さい導電性粉末を用いると、表面が平滑な(典型的には算術平均粗さRaが5nm以下の)内部電極層を形成することもできる。一方、導電性粉末の平均粒子径(D
50)の下限は、特に制限されず、0.005μm以上であってもよく、0.01μm以上であってもよい。但し、表面活性の上昇による導電性粒子の凝集を防止するという点を考慮すると、導電性粉末の平均粒子径の下限は、0.05μm以上が好ましく、0.1μm以上がより好ましく、0.12μm以上がさらに好ましい。
【0024】
また、導電性粒子の凝集を抑制し、調製後のペーストの均質性、分散性、保存安定性等を改善するという観点から、導電性粉末の比表面積は、10m
2/g以下(典型的には1m
2/g〜8m
2/g、例えば2m
2/g〜6m
2/g)が好ましい。また、このような比表面積を有する導電性粉末は、焼成後の内部電極層の電気伝導性を向上させることにも貢献できる。なお、本明細書において「比表面積」とは、吸着質として窒素(N
2)ガスを用いたガス吸着法(定容量吸着法)によって測定されたガス吸着量に基づき、BET法(例えばBET一点法)により算出された値(BET比表面積)をいう。
【0025】
導電性粒子の形状は、特に限定されず、球形であってもよいし、非球形(例えばラグビーボール形状)であってもよい。なお、ペーストの粘度上昇を抑制するという観点から、導電性粒子の形状は、真球状または略球状であることが好ましい。例えば、導電性粒子の平均アスペクト比は、典型的には1〜2、好ましくは1〜1.5であるとよい。なお、本明細書における「アスペクト比」は、電子顕微鏡観察に基づいて算出され、粉末を構成する粒子に外接する矩形を描いたときの、短辺の長さ(a)に対する長辺の長さ(b)の比(b/a)を意味する。平均アスペクト比は、100個の粒子について得られたアスペクト比の算術平均値である。
【0026】
(B)共材粉末
ここに開示される内部電極用ペーストは、共材粉末を含有する。かかる共材粉末は、MLCCの誘電体層と類似の組成を有した誘電体粒子(金属酸化物粒子)によって構成されている。この誘電体粒子を導電性粒子の間に分散させることによって、内部電極用ペーストと誘電体グリーンシートの焼成挙動(熱収縮率、焼成収縮履歴、熱膨張係数)を近似させ、焼成後のクラック等の発生を防止できる。
【0027】
ここに開示される内部電極用ペーストでは、共材粉末を構成する誘電体粒子として、下記の式(1)で示されるペロブスカイト構造を有する金属酸化物粒子が用いられる。
ABO
3 (1)
【0028】
上記式(1)で示される誘電体粒子は、チタン酸バリウム(BaTiO
3)をベースにした金属酸化物粒子である。すなわち、上記式(1)中のAサイトは、バリウム(Ba)を少なくとも含み、Bサイトはチタン(Ti)を少なくとも含む。
なお、上記式(1)中のAサイトには、Ba以外の元素が添加されていてもよい。Ba以外にAサイトを占有し得る元素としては、カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)、ストロンチウム(Sr)、ランタン(La)、亜鉛(Zn)、アンチモン(Sb)等が挙げられる。一方、Bサイトも同様に、Ti以外の元素が添加されていてもよい。Ti以外にBサイトを占有し得る元素としては、ジルコニウム(Zr)、セリウム(Ce)、ニオブ(Nb)、イットリウム(Y)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、サマリウム(Sm)等が挙げられる。
【0029】
そして、ここに開示される内部電極用ペーストでは、「(1)Aサイトを占有する原子(以下「Aサイト原子」という)とBサイトを占有する原子(以下「Bサイト原子」という)とのモル比(A/B)」および「(2)共材粉末の平均粒子径」が所定の範囲内に制御されている。これにより、焼成工程におけるネッキングの発生を防止できる。以下、ここに開示される内部電極用ペーストにおいて制御される各要素を具体的に説明する。
【0030】
(1)Aサイト原子とBサイト原子とのモル比(A/B)
一般的なMLCCの誘電体層側では、誘電率の向上のために誘電体粒子のA/Bが1以上に制御されている。しかしながら、本発明者らの検討の結果、内部電極層の共材粉末として添加される誘電体粒子のA/Bが大きくなると、焼成中のシンタリングが生じやすくなることが判明した。本発明を限定することを意図したものではないが、このような現象が生じる理由は、誘電体粒子中のAサイト原子の割合が多くなると、Aサイト原子(典型的にはBa)が結晶構造の外部に溶出しやすくなり、当該溶出したAサイト原子が焼結助剤として作用するためと推測される。
これに対して、ここに開示される内部電極用ペーストでは、誘電体粒子を構成するAサイト原子とBサイト原子(典型的にはTi)とのモル比(A/B)が0.99以下に制御されている。このため、Aサイト原子が溶出して焼結助剤として機能することを抑制し、焼成中のシンタリングを抑制することができる。なお、焼成中のシンタリングをより好適に抑制するという観点から、上記A/Bの上限は、0.98以下が好ましく、0.975以下がより好ましく、0.97以下がさらに好ましい。一方、ここに開示される内部電極用ペーストは、A/Bの下限が0.89以上に設定されているため、焼成時にペースト中の誘電体粒子が、MLCCの誘電体層と反応しづらいという効果を有している。かかる効果をより好適に発揮させるという観点から、上記A/Bの下限は、0.90以上が好ましく、0.91以上がより好ましく、0.92以上がさらに好ましく、0.96以上が特に好ましい。
【0031】
なお、「Aサイト原子とBサイト原子とのモル比(A/B)」は、ガラスビート法を用いた蛍光X線分析を共材粉末に対して実施することによって求めることができる。この蛍光X線分析において、BaとTiの組成の異なる標準資料を用いて検量線を準備し、その検量線を用いることでモル比を求めることができる。なお、後述の実施例についても同様である。
【0032】
また、ここに開示される内部電極用ペーストでは、共材粉末を水に含浸させた際の単位時間あたりのBa溶出量(ppm/hr)を共材粉末の比表面積(m
2/g)で割った値(Ba溶出速度/比表面積)が低くなるに従って、シンタリング抑制効果が向上する傾向があることが確認されている。なお、より好適にシンタリング抑制効果を発揮させるという観点から、上述の「Ba溶出速度/比表面積」は、10以下が適当であり、8以下が好ましく、7以下がより好ましく、6.6以下がさらに好ましく、6.3以下が特に好ましく、例えば4.8以下である。一方、「Ba溶出速度/比表面積」の下限値は、特に限定されず、0(Baが溶出していない)であってもよく、0.5以上であってもよく、1以上であってもよい。
なお、上述した「単位時間あたりのBa溶出量」は、次の手順で測定できる。先ず、内部電極用ペーストにアルコール(例えばエタノール)を添加して液状にした後に超音波分散を1時間実施し、容器の底面に磁石を配置して導電性粉末を沈降させた状態で共材粉末と上澄み液を回収する。この工程を3回繰り返して得られた共材粉末と上澄み液を90℃の温度条件下で乾燥させる。そして、乾燥後の試料を0.5g採取し、250mlの水に含浸させた状態で少なくとも100時間以上(例えば、120時間、150時間、250時間)保持する。そして、保持開始から20時間以上経過した後、一定の含浸時間(例えば、含浸後から24時間後、48時間後、72時間後、96時間後、120時間後)における3点以上のBaの溶出量(ppm)をICP(Inductively Coupled Plasma)分析に基づいて測定する。そして、含浸時間に対するBa溶出量をプロットし、その傾きを「単位時間あたりのBa溶出量」として算出する。なお、傾きを求めるにあたっては、最小二乗法を用いることが好ましい。また、詳しくは後述するが、内部電極用ペーストには、バインダ等の樹脂成分が添加されていることがある。このような樹脂成分が添加されている場合には、乾燥後の試料に脱脂処理(例えば、430℃、大気雰囲気の加熱処理)を実施した方が好ましい。
また、共材粉末の比表面積は、上述した導電性粉末の比表面積と同じ手順で測定できる。なお、誘電体粒子からのBaの溶出を抑制するという観点から、共材粉末の比表面積は、80m
2/g以下が好ましく、50m
2/g以下が好ましく、30m
2/g以下が好ましく、20m
2/g以下が好ましい。
【0033】
(2)共材粉末の平均粒子径
さらに、ここに開示される内部電極用ペーストでは、共材粉末の平均粒子径(D
50)が10nm以上50nm以下に制御されている。共材粉末の平均粒子径が小さくなるにつれて誘電体粒子の表面活性が高くなって凝集しやすくなる。このため、誘電体粒子のA/Bが0.99以下に制御されていたとしても、共材粉末の平均粒子径が大きくなり過ぎると焼成中にネッキングが発生するおそれがある。この点を考慮し、ここに開示される内部電極用ペーストでは、共材粉末の平均粒子径が10nm以上に制御されている。一方、共材粉末の平均粒子径が大きくなり過ぎると、ネッキングの有無に関わらず、内部電極層中の誘電体が大きくなり、MLCCの性能を低下させる可能性がある。このため、ここに開示される内部電極用ペーストでは、共材粉末の平均粒子径が50nm以下に制御されている。なお、焼成中のネッキングをより好適に防止し、内部電極層の性能低下を防止するという観点から、共材粉末の平均粒子径は、20nm以上50nm以下が好ましく、30nm以上50nm以下がより好ましく、35nm以上50nm以下がさらに好ましい。
【0034】
以上のように、ここに開示される内部電極用ペーストによると、誘電体粒子のA/Bが0.89以上0.99以下に制御されており、かつ、共材粉末の平均粒子径が10nm以上50nm以下に制御されているため、クラック防止のために共材粉末が添加されているにもかかわらず、焼成中のシンタリングを防止できる。
【0035】
(C)分散媒
分散媒は、粉体材料(導電性粉末、共材粉末等)を分散状態にする液状媒体である。かかる分散媒の詳細な成分は、特に限定されず、この種の内部電極用ペーストに用いられ得る有機溶剤を適宜用いることができる。また、この分散媒は、乾燥および焼成によって消失することを前提とした成分であるため、沸点が約180℃以上300℃以下程度(例えば、200℃以上250℃以下程度)の高沸点有機溶剤を主成分として含んでいることが好ましい。なお、ここでの「主成分」とは、分散媒の総体積を100vol%としたときに50vol%以上を占める成分をいう。
【0036】
なお、成膜安定性等の観点から、分散媒は、粉体材料の分散性を保ったまま優れた流動性を付与するできるものであると好ましい。このような分散媒としては、例えば、スクラレオール、シトロネロール、フィトール、ゲラニルリナロオール、テキサノール、ベンジルアルコール、フェノキシエタノール、1−フェノキシ−2−プロパノール、ターピネオール、ジヒドロターピネオール、イソボルネオール、ブチルカルビトール、ジエチレングリコール等のアルコール系溶剤;ターピネオールアセテート、ジヒドロターピネオールアセテート、イソボルニルアセテート、カルビトールアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセタート等のエステル系溶剤;ミネラルスピリット等が挙げられる。なかでも、アルコール系溶剤やエステル系溶剤を好ましく用いることができる。
【0037】
なお、内部電極用ペーストにおける分散媒の含有割合は、誘電体グリーンシートの表面に付与する際の作業性を考慮して適宜調整されていることが好ましい。かかる表面付与(印刷)時の作業性は、他の成分によっても変動し得るため特に限定されないが、例えば、ペーストの総重量を100質量%としたときの分散媒の含有量が70質量%以下(好ましくは5質量%〜60質量%、より好ましくは30質量%〜50質量%)であるとよい。これにより、ペーストに好適な流動性を付与し、表面付与時の作業性を向上できると共に、ペーストのセルフレベリング性を高めて、より滑らかな表面の内部電極層を形成できる。
【0038】
(D)他の成分
ここに開示される内部電極用ペーストは、上述したシンタリング防止効果を損なわない限りにおいて、この種の内部電極用ペーストに使用され得る成分を特に制限なく使用できる。以下、ここに開示される内部電極用ペーストに使用され得る他の成分の一例を説明する。
【0039】
(1)バインダ
バインダ(結着剤)は、誘電体グリーンシート表面への定着性と、ペースト中の粒子同士の結合性の向上に寄与する有機成分である。また、バインダは、上述した分散媒に溶解された際にビヒクル(液相媒体であり得る)として機能し得る。また、上述の分散媒と同様に、バインダは、焼成により消失することを前提とした成分である。したがって、バインダは、焼成時に容易に焼失する有機化合物(典型的には、焼失温度が500℃以下の有機化合物)であることが好ましい。具体的なバインダの成分は、特に限定されず、内部電極用ペーストに使用され得る公知の有機化合物を特に制限なく使用できる。かかるバインダとしては、例えば、ロジン系樹脂、セルロース系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリビニルアセタール系樹脂、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、フェノール系樹脂、ポリエステル系樹脂、エチレン系樹脂等の有機高分子化合物が挙げられる。上述の分散媒との組み合わせにもよるため一概には言えないが、これらの有機化合物の中でも、セルロース系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリビニルアセタール系樹脂、アクリル系樹脂等がバインダとして好適である。また、バインダは、上述の有機化合物のいずれか1種を用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また明示的に記載していないが、上記のいずれか2以上の樹脂のモノマー成分を共重合させた共重合体、ブロック共重合体などを用いてもよい。
【0040】
また、内部電極用ペーストにおけるバインダの含有割合は、特に制限されないが、導電性粉末の含有量を考慮し、好適な定着性が発揮できるように適宜調節されていることが好ましい。例えば、導電性粉末の含有量を100質量部とした場合、バインダの含有量は、0.5質量部以上が好ましく、1質量部以上がより好ましく、1.5質量部以上がさらに好ましく、2質量部以上が特に好ましい。一方、焼成工程後のバインダ残留による内部電極層の性能低下を防止するという観点から、バインダの含有量は、導電性粉末100質量部に対して、10質量部以下が好ましく、7質量部以下がより好ましく、5質量部以下がさらに好ましく、4質量部以下が特に好ましい。
【0041】
(2)分散剤
分散剤は、ペースト中の無機粒子(導電性粒子、誘電体粒子等)の凝集を抑制する。具体的には、分散剤には、無機粒子と分散媒との間の固液界面を安定化させ、無機粒子の凝集を防止する機能を備えた有機化合物が用いられ得る。なお、上述したように、内部電極層の薄膜化に伴って無機粉末が小径化する傾向がある。分散剤は、このような粒径が小さな無機粉末(典型的には、平均粒子径が1μm以下の無機粉末)を用いた場合に好適に使用される。分散剤の種類等は、特に限定されず、公知の各種の分散剤の中から必要に応じて1種または2種以上を選択できる。分散剤の具体例としては、界面活性剤型分散剤(低分子型分散剤ともいう。)、高分子型分散剤、無機型分散剤等が挙げられる。
【0042】
なお、界面活性剤型分散剤としては、例えば、アルキルスルホン酸塩を主体とする分散剤、第四級アンモニウム塩を主体とする分散剤、高級アルコールのアルキレンオキサイド化合物を主体とする分散剤、多価アルコールエステル化合物を主体とする分散剤、アルキルポリアミン系化合物を主体とする分散剤等が挙げられる。
また、高分子型分散剤としては、例えば、カルボン酸あるいはポリカルボン酸等の脂肪酸塩を主体とする分散剤、およびその一部のカルボン酸基における水素原子がアルキル基によって置換されたポリカルボン酸部分アルキルエステル化合物を主体とする分散剤、ポリカルボン酸アルキルアミン塩を主体とする分散剤、ポリカルボン酸の一部にアルキルエステル結合を有するポリカルボン酸部分アルキルエステル化合物を主体とする分散剤、ポリスチレンスルホン酸塩、ポリイソプレンスルホン酸塩、ポリアルキレンポリアミン化合物を主体とする分散剤、ナフタレンスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物塩等のスルホン酸系化合物を主体とする分散剤、ポリエチレングリコール等の親水性ポリマーを主体とする分散剤、ポリエーテル化合物を主体とする分散剤、ポリ(メタ)アクリル酸塩、ポリ(メタ)アクリルアミドなどのポリ(メタ)アクリル系化合物を主体とする分散剤、等を挙げることができる。なお、分散剤の中でも、高分子型分散剤は、立体障害による反発効果を発現し、無機粉末を長期にわたって効果的に分散させることができるため好適である。なお、このような高分子型分散剤の重量平均分子量は、特に制限されないが、好適な一例として、300〜50000程度(例えば500〜20000)である。
また、無機型分散剤としては、例えば、オルトリン酸塩、メタリン酸塩、ポリリン酸塩、ピロリン酸塩、トリポリリン酸塩、ヘキサメタリン酸塩、および有機リン酸塩等のリン酸塩、硫酸第二鉄、硫酸第一鉄、塩化第二鉄、および塩化第一鉄等の鉄塩、硫酸アルミニウム、ポリ塩化アルミニウム、およびアルミン酸ナトリウム等のアルミニウム塩、硫酸カルシウム、水酸化カルシウム、および第二リン酸カルシウム等のカルシウム塩を主体とする分散剤等が挙げられる。
ここに開示される内部電極用ペーストでは、上述の成分のいずれか1種が単独で含まれていてもよく、2種以上が組み合わせたものが分散剤として含まれていてもよい。
【0043】
(3)添加剤
ここに開示される内部電極用ペーストには、上述したバインダや分散剤の他に、増粘剤、可塑剤、pH調整剤、安定剤、レベリング剤、消泡剤、酸化防止剤、防腐剤、着色剤(顔料、染料等)等が添加されていてもよい。これらについては、一般的な内部電極用ペーストに使用され得るものを特に制限なく使用できるため詳細な説明を省略する。
【0044】
なお、共材粉末のシンタリングを防止するという目的を考慮すると、ここに開示される内部電極用ペーストには、焼結助剤が実質的に添加されていないことが好ましい。かかる焼結助剤としては、炭酸バリウム(BaCO
3)、炭酸カルシウム(CaCO
3)、炭酸ストロンチウム(SrCO
3)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化ランタン(La
2O
3)等が挙げられる。なお、本明細書において「焼結助剤が実質的に添加されていない」とは、焼結助剤と解釈され得る成分が意図的に添加されていないことを指す。したがって、焼結助剤と解釈され得る成分が原料や製造工程等に由来して微量に含まれるような場合は、本明細書における「焼結助剤が実質的に添加されていない」の概念に包含される。例えば、共材粉末100mol%に対して、焼結助剤と解釈され得る成分の含有量が0.01mol%以下(好ましくは0.005mol%以下、より好ましくは0.001mol%以下、さらに好ましくは0.0005mol%以下、特に好ましくは0.0001mol%以下)である場合、「実質的に添加されていない」ということができる。
【0045】
[用途]
以上、ここに開示される内部電極用ペーストについて説明した。ここで開示される内部電極用ペーストは、積層セラミック電子部品(例えば、積層セラミックコンデンサ(MLCC))の製造に用いられる。次に、ここに開示される製造方法について説明する。かかる製造方法は、(A)準備工程と、(B)付与工程と、(C)焼成工程とを少なくとも含む。
【0046】
(A)準備工程
本工程では、ここに開示される内部電極用ペーストを準備する。一般に、内部電極用ペーストは、導電性粉末と共材粉末とを分散媒に分散させることによって調製される。特に限定されるものではないが、導電性粉末が分散媒に分散された導電性粉末スラリーと、共材粉末が分散媒に分散された共材粉末スラリーとを別途調製し、これらを混合させることによって内部電極用ペーストを調製すると好ましい。これによって、導電性粉末と共材粉末とが高度に分散したペーストを容易に得ることができる。なお、材料の撹拌混合は、従来公知の種々の攪拌混合装置、例えばロールミル、マグネチックスターラー、プラネタリーミキサー、ディスパー等を用いて行うことができる。
【0047】
そして、ここに開示される製造方法では、本工程において、誘電体粒子のA/Bが0.89以上0.99以下であり、かつ、共材粉末の平均粒子径を10nm以上50nm以下である内部電極用ペーストを準備する。
【0048】
また、平均粒子径が10nm以上50nm以下の共材粉末を準備する手段は、従来公知の手段を採用できるため特に限定されない。例えば、所定の平均粒子径を有した共材粉末に対して粉砕・分級を実施することによって、共材粉末の平均粒子径を10nm以上50nm以下に調節することができる。
【0049】
(B)付与工程
付与工程では、内部電極用ペーストを誘電体グリーンシートの表面に付与する。内部電極用ペーストを付与する方法としては、例えばスクリーン印刷、グラビア印刷、オフセット印刷およびインクジェット印刷等の印刷法や、スプレー塗布法、ディップコーティング法等の塗布法を採用できる。これらの中でも、精密なペーストの付与を高速で実施できるグラビア印刷法、スクリーン印刷法、インクジェット印刷等を好適に採用できる。
【0050】
(C)焼成工程
焼成工程では、内部電極用ペーストが付与された誘電体グリーンシートを所定の温度で焼成する。これによって、表面に内部電極層が形成された誘電体層を得ることができる。なお、本工程における焼成温度(最高焼成温度)は、500℃〜1500℃程度が好ましく、1000℃〜1500℃程度がより好ましい。
【0051】
なお、ここに開示される内部電極用ペーストを使用する場合には、焼成工程において高速焼成を実施した方が好ましい。本明細書における「高速焼成」とは、焼成工程初期における昇温速度を高くして最高焼成温度に到達するまでの時間を短くすることを指す。ここに開示される内部電極用ペーストを使用すると、焼成工程において、Aサイトを占有し得る元素(Ba、Ca等)が誘電体層側から内部電極層側に移動し、焼成後の誘電体層の誘電率が低下する可能性がある。この点を考慮すると、高速焼成を実施して焼成工程の初期で誘電体層と内部電極層とを焼結させ、誘電体層から内部電極層へのAサイト原子の移動を抑制した方が好ましい。なお、かかる高速焼成における昇温速度は、600℃/hr以上が好ましく、1000℃/hr以上がより好ましく、2500℃/hr以上がさらに好ましく、5000℃/hr以上が特に好ましい。また、高速焼成を実施した場合の焼成時間(最高温度での保持時間)は、20分以下(典型的には5分〜20分、例えば10分程度)が好ましい。
【0052】
(D)脱脂工程
なお、ここに開示される製造方法では、上述した(B)印刷工程と(C)焼成工程との間に、(D)脱脂工程が設けられていると好ましい。この脱脂工程では、焼成工程よりも低い温度で内部電極用ペーストを加熱し、ペースト中の有機材料(分散媒やバインダ等)を除去する。これによって、有機材料の残留による焼成不良を適切に防止できる。なお、かかる脱脂工程における最高温度は、100℃〜1000℃程度が好ましく、300℃〜800℃程度がより好ましい。また、脱脂工程における昇温速度は、100℃/hr〜400℃/hrが好ましく、加熱時間(最高温度での保持時間)は1時間以上(例えば6時間以上)が好ましい。
【0053】
[積層セラミックコンデンサ]
次に、ここに開示される内部電極用ペーストを用いて製造された積層セラミック電子部品の一例として、積層セラミックコンデンサ(MLCC)を説明する。
図1は、MLCCの構成を概略的に説明する断面模式図である。
【0054】
図1に示すように、積層セラミックコンデンサ(MLCC)1は、多数の誘電体層20と内部電極層30とが、交互にかつ一体的に積層されて構成された、チップタイプのコンデンサである。誘電体層20と内部電極層30とからなる積層チップ10の側面に、一対の外部電極40が設けられている。一例として、内部電極層30は、積層順で交互に異なる外部電極40に接続される。これにより、誘電体層20と、当該誘電体層20を挟む一対の内部電極層30とからなるコンデンサ構造が並列に接続された、小型大容量のMLCCが構築される。そして、このMLCC1の内部電極層30は、ここに開示される内部電極用ペーストを焼成することによって形成される。上述したように、ここに開示される内部電極用ペーストは、焼成中のシンタリングを防止できるため、共材粉末のシンタリングによる種々の不具合が防止された高性能の内部電極層30を形成できる。
【0055】
[試験例]
次に、本発明に関するいくつかの試験例を説明するが、本発明を係る試験例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0056】
[1]第1の試験
本試験では、誘電体粒子のA/Bが異なる2種類の内部電極用ペーストを準備し、各々の内部電極用ペーストを焼成した。
【0057】
(1)サンプルの準備
導電性粉末と、共材粉末と、バインダ(エチルセルロース)とが、分散媒(イソボルニルアセテート)に分散された内部電極用ペーストを調製した(サンプル1、2)。ここで、導電性粉末には、平均粒子径が0.2μmのNi粉末を使用した。また、共材粉末には、平均粒子径50nmのBaTiO
3粉末を使用した。また、共材粉末(BaTiO
3粉末)の添加量は、導電性粉末(Ni粉末)の15wt%に設定した。そして、本試験では、共材粉末を構成する誘電体粒子(BaTiO
3)のA/Bをサンプル1、2の各々で異ならせた。各サンプルのA/Bを表1に示す。
【0058】
(2)耐熱性評価
サンプル1、2の各々に対して、昇温速度200℃/hで600℃まで昇温させた脱脂工程(加熱時間:20分、加熱雰囲気:N
2ガス)を実施してバインダを除去した。その後、昇温速度7000℃/hで1250℃まで昇温させた焼成工程(加熱時間:10分、加熱雰囲気:1%H
2ガス混合N
2ガス)を実施した。そして、焼成後の各サンプルのSEM写真を撮影すると共に、粒度分布を分析してD
10、D
50、D
90を求めた。サンプル1のSEM写真を
図2に示し、サンプル2のSEM写真を
図3に示す。また、各サンプルのD
10、D
50、D
90を表1に示す。そして、SEM写真と粒度分布の分析結果に基づいて、誘電体粒子にシンタリングが生じたと判断されたものを耐熱性「×」と評価し、シンタリングが抑制されたと判断できるものを耐熱性「○」と評価した。
【0060】
A/Bが1.000のサンプル1では、粒径が大きなBaTiO
3粒子がNi粒子の表面に付着していた(
図2参照)。一方、A/Bが0.96のサンプル2では、Ni粒子表面のBaTiO
3粒子の粒径が比較的に小さくなっていた(
図3参照)。そして、表1に示すように、サンプル1では、D
10、D
50、D
90の何れもが全体的に大粒径化しているのに対して、サンプル2では大粒径化が抑制されていた。これらの結果から、誘電体粒子のA/Bが内部電極用ペーストの耐熱性に影響しており、当該A/Bが低下するにつれてシンタリングが抑制される傾向があることが分かった。
【0061】
[2]第2の試験
次に、本試験では、シンタリングの発生を適切に防止できる内部電極用ペーストの具体的な成分条件を調べた。
【0062】
(1)サンプルの準備
本試験では、上述したサンプル1、2に加え、誘電体粒子のA/Bおよび平均粒子径(D
50)が異なる7種類の共材粉末(BaTiO
3粉末)を準備し、これらの共材粉末を使用して内部電極用ペーストを調製した(サンプル1〜9)。なお、サンプル3〜9における共材粉末を除く他の成分は、サンプル1と同じにした。
【0063】
(2)耐熱性評価
第1の試験と同じ手順に従って、各サンプルの耐熱性を評価した。すなわち、各サンプルの内部電極用ペーストに脱脂工程と焼成工程を実施した後、表面SEM観察と粒度分布の分析を行い、これらの結果に基づいて耐熱性を評価した。結果を表2に示す。
【0065】
表2に示すように、試験対象の中では、サンプル2、4、9の耐熱性が高く、焼成中のシンタリングが防止されていた。このことから、誘電体粒子のA/Bが0.89〜0.99であり、かつ、平均粒子径が10nm以上50nm以下の共材粉末を使用すれば、焼成中のシンタリングを適切に防止できることが分かった。
【0066】
[3]第3の試験
本試験では、上記第2の試験で使用したサンプル1〜9のBa溶出量を調べた。
【0067】
(1)比表面積の測定
本試験では、先ず、サンプル1〜9のBET比表面積(m
2/g)を測定した。なお、比表面積を測定する具体的な手順は、既に説明したため、ここでは詳しい説明を省略する。測定結果を表3に示す。
【0068】
(2)Ba溶出量の測定
次に、各サンプルの内部電極用ペーストから共材粉末を抽出し、抽出した共材粉末を水に含浸させ、「単位時間あたりのBa溶出量(ppm/hr)」を求めた。そして、「単位時間あたりのBa溶出量」を上記「比表面積」で割った値(Ba溶出速度/比表面積)を算出した。なお、「単位時間あたりのBa溶出量」を測定する具体的な手順は、既に説明したため、ここでは詳しい説明を省略する。測定結果を表3に示す。
【0070】
上述したように、上述の第2の試験において、高い耐熱性が確認されたサンプル2、4、9では、「Ba溶出速度/比表面積」が他のサンプルよりも低くなる傾向があった。この結果より、誘電体粒子のA/Bが0.99以下の共材粉末では、誘電体粒子からのBaの溶出が抑制されており、このことがシンタリングの抑制に影響していると解される。このことから、誘電体粒子のA/Bが0.99以下の内部電極用ペーストにおいてシンタリングを防止できた理由は、焼結助剤として機能し得るBaの溶出が抑制されたためと推測される。
【0071】
以上、本発明を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、本発明はその主旨を逸脱しない範囲で種々変更を加え得るものである。