特許第6856713号(P6856713)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6856713合わせガラス用中間膜及び合わせガラスの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6856713
(24)【登録日】2021年3月22日
(45)【発行日】2021年4月7日
(54)【発明の名称】合わせガラス用中間膜及び合わせガラスの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C03C 27/12 20060101AFI20210329BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20210329BHJP
   B32B 17/10 20060101ALI20210329BHJP
【FI】
   C03C27/12 D
   C03C27/12 N
   B32B27/30 102
   B32B17/10
【請求項の数】7
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2019-137705(P2019-137705)
(22)【出願日】2019年7月26日
(62)【分割の表示】特願2014-542421(P2014-542421)の分割
【原出願日】2014年8月1日
(65)【公開番号】特開2020-7220(P2020-7220A)
(43)【公開日】2020年1月16日
【審査請求日】2019年8月9日
(31)【優先権主張番号】特願2013-160502(P2013-160502)
(32)【優先日】2013年8月1日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】北野 紘史
(72)【発明者】
【氏名】乾 浩彰
(72)【発明者】
【氏名】片山 大希
(72)【発明者】
【氏名】松本 学
(72)【発明者】
【氏名】中山 和彦
【審査官】 若土 雅之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−143008(JP,A)
【文献】 特開2011−088783(JP,A)
【文献】 特開平10−045438(JP,A)
【文献】 特開平11−035348(JP,A)
【文献】 特開2000−007390(JP,A)
【文献】 特開平10−231150(JP,A)
【文献】 特開2003−286049(JP,A)
【文献】 特開2000−203900(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 27/00−29/00
B32B 3/30
17/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2層以上の樹脂層が積層された合わせガラス用中間膜であって、
少なくとも一方の表面に、多数の凹部と多数の凸部とを有し、前記凹部は、底部が連続した溝形状を有し、隣接する前記凹部が平行して規則的に並列しており、
前記多数の凹部と多数の凸部とを有する表面は、JIS B−0601(1994)に準拠して測定される凹部の溝深さ(Rzg)が10〜40μmであり、かつ、
前記多数の凹部と多数の凸部とを有する表面を有する樹脂層を、該樹脂層が直接接する樹脂層から剥離した後に、剥離した多数の凹部と多数の凸部とを有する表面を有する樹脂層の前記直接接していた樹脂層側の表面をJIS B 0601(1994)に準拠して測定した十点平均粗さ(Rz)が2.7μm未満である
ことを特徴とする合わせガラス用中間膜。
【請求項2】
隣接する凹部が平行して等間隔に並列していることを特徴とする請求項1記載の合わせガラス用中間膜。
【請求項3】
樹脂層は、ポリビニルアセタールと可塑剤とを含有することを特徴とする請求項1又は2記載の合わせガラス用中間膜。
【請求項4】
少なくとも第1の樹脂層と第2の樹脂層とを有し、前記第1の樹脂層に含まれるポリビニルアセタールの水酸基量が、前記第2の樹脂層に含まれるポリビニルアセタールの水酸基量と異なることを特徴とする請求項3記載の合わせガラス用中間膜。
【請求項5】
第1の樹脂層におけるポリビニルアセタール100質量部に対する可塑剤の含有量が、第2の樹脂層におけるポリビニルアセタール100質量部に対する可塑剤の含有量と異なることを特徴とする請求項3記載の合わせガラス用中間膜。
【請求項6】
遮音層が2層の保護層の間に積層された合わせガラス用中間膜であって、
前記遮音層は、ポリビニルアセタール100質量部に対して可塑剤を45〜80質量部含有し、前記保護層は、ポリビニルアセタール100質量部に対して可塑剤を20〜45質量部含有し、
前記保護層の少なくとも一方の表面に、多数の凹部と多数の凸部とを有し、前記凹部は、底部が連続した溝形状を有し、隣接する前記凹部が平行して規則的に並列しており、
前記保護層の多数の凹部と多数の凸部とを有する表面は、JIS B−0601(1994)に準拠して測定される凹部の溝深さ(Rzg)が10〜40μmであり、かつ、
前記多数の凹部と多数の凸部とを有する表面を有する保護層を遮音層から剥離した後に、剥離した保護層の遮音層側の表面をJIS B 0601(1994)に準拠して測定した十点平均粗さ(Rz)が2.7μm未満である
ことを特徴とする合わせガラス用中間膜。
【請求項7】
少なくとも2枚のガラス板の間に請求項1、2、3、4、5又は6記載の合わせガラス用中間膜が積層された積層体を、ガラス板と中間膜との間に残留する空気を脱気しながら予備圧着する工程と、前記予備圧着後の積層体を、加熱加圧して本圧着する工程を有することを特徴とする合わせガラスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2層以上の樹脂層が積層された合わせガラス用中間膜であって、合わせガラスの製造工程において優れた脱気性を有し、かつ、多重像の発生を防止できる合わせガラス用中間膜、及び、該合わせガラス用中間膜を含む合わせガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
2枚のガラス板の間に、可塑化ポリビニルブチラール等の熱可塑性樹脂を含有する合わせガラス用中間膜を挟み、互いに接着させて得られる合わせガラスは、自動車、航空機、建築物等の窓ガラスに広く使用されている。
【0003】
合わせガラス用中間膜は、ただ1層の樹脂層により構成されているだけではなく、2層以上の樹脂層の積層体により構成されていてもよい。2層以上の樹脂層として、第1の樹脂層と第2の樹脂層とを有し、かつ、第1の樹脂層と第2の樹脂層とが異なる性質を有することにより、1層だけでは実現が困難であった種々の性能を有する合わせガラス用中間膜を提供することができる。
例えば特許文献1には、遮音層と該遮音層を挟持する2層の保護層とからなる3層構造の合わせガラス用中間膜が開示されている。特許文献1の合わせガラス用中間膜では、可塑剤との親和性に優れるポリビニルアセタール樹脂と大量の可塑剤とを含有する遮音層を有することにより優れた遮音性を発揮する。一方、保護層は、遮音層に含まれる大量の可塑剤がブリードアウトして中間膜とガラスとの接着性が低下することを防止している。
【0004】
しかしながら、このような2層以上の樹脂層が積層された合わせガラス用中間膜を用いた合わせガラスでは、合わせガラス越しに外部の光線を視認したときに、像が多重像に見えたり、光学歪みが認められたりすることがあるという問題があった。このような多重像や光学歪みの発生は、とりわけ、特許文献1に記載されたような遮音性に優れた合わせガラス用中間膜の場合に顕著に見られた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−331959号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、2層以上の樹脂層が積層された合わせガラス用中間膜を用いた場合の多重像の発生の原因を検討した。その結果、合わせガラス用中間膜の表面に形成された凹凸に原因があることを見出した。
【0007】
合わせガラスの製造では、通常、少なくとも2枚のガラス板の間に合わせガラス用中間膜が積層された積層体を、ニップロールを通して扱くか(扱き脱気法)、又は、ゴムバッグに入れて減圧吸引し(真空脱気法)、ガラス板と中間膜との間に残留する空気を脱気しながら圧着する。次いで、上記積層体を、例えばオートクレーブ内で加熱加圧して圧着することにより合わせガラスが製造される。合わせガラスの製造工程においては、ガラスと合わせガラス用中間膜とを積層する際の脱気性が重要である。合わせガラス用中間膜の少なくとも一方の表面には、合わせガラス製造時の脱気性を確保する目的で、微細な凹凸が形成されている。とりわけ、該凹凸における凹部を、底部が連続した溝形状(以下、「刻線状」ともいう。)を有し、隣接する該刻線状の凹部が平行して規則的に形成される構造とすることにより、極めて優れた脱気性を発揮することができる。
【0008】
合わせガラス用中間膜の表面に形成された凹凸は、通常は合わせガラス製造工程における圧着の際に潰されることから、得られた合わせガラスにおいてはほとんど問題になることはなかった。
しかしながら本発明者らは、2層以上の樹脂層が積層された合わせガラス用中間膜の場合には、合わせガラス製造工程を経て得られた合わせガラスにおいて、凹凸の影響が残存し、多重像の発生の原因になっていたことを見出した。
【0009】
即ち、2層以上の樹脂層が積層された合わせガラス用中間膜の表面にエンボスロール等を用いて凹凸を形成した場合、中間膜の表面にのみ凹凸が形成されるのみならず、加工時の圧力によって樹脂層の層間の界面にまで凹凸が転写され、界面が平滑ではなくなってしまうと考えられる。特に表面に刻線状の凹部を形成すると、該刻線状の凹部が層間の界面にも強く転写されると考えられる。合わせガラス製造工程における圧着の際に中間膜の表面の凹凸は潰されるものの、層間の界面に転写された凹凸は残存することから、該層間界面に形成された凹凸により光干渉現象が発生することが多重像の発生する原因となっていると考えられる。とりわけ、特許文献1に記載されたような遮音性に優れた合わせガラス用中間膜では、硬い保護層の表面に凹凸を形成したときに、該保護層と柔らかい遮音層との層間に凹凸が転写されやすいことから、特に多重像が発生すると考えられる。
【0010】
多重像の発生は、合わせガラス用中間膜の表面に凹凸を形成しなければ防止できる。しかしながら、凹凸を形成しないと、合わせガラスの製造時に充分に脱気することができず、ガラスと中間膜との間に気泡が発生し、合わせガラスの外観を損ねてしまう。
【0011】
本発明は、上記現状に鑑み、2層以上の樹脂層が積層された合わせガラス用中間膜であって、合わせガラスの製造工程において優れた脱気性を有し、かつ、多重像の発生を防止できる合わせガラス用中間膜、及び、該合わせガラス用中間膜を含む合わせガラスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、2層以上の樹脂層が積層された合わせガラス用中間膜であって、少なくとも一方の表面に、多数の凹部と多数の凸部とを有し、前記凹部は、底部が連続した溝形状を有し、隣接する前記凹部が平行して規則的に並列しており、前記多数の凹部と多数の凸部とを有する表面は、JIS B−0601(1994)に準拠して測定される凹部の溝深さ(Rzg)が10〜40μmであり、かつ、前記多数の凹部と多数の凸部とを有する表面を有する樹脂層を、該樹脂層が直接接する樹脂層から剥離した後に、剥離した多数の凹部と多数の凸部とを有する表面を有する樹脂層の前記直接接していた樹脂層側の表面をJIS B 0601(1994)に準拠して測定した十点平均粗さ(Rz)が2.7μm未満である合わせガラス用中間膜である。
なお、本発明において、「少なくとも一方の表面に、多数の凹部と多数の凸部とを有し」とは「少なくとも一方の表面に、多数の凹部と多数の凸部とが形成されている」ことをも意味し、「凹部は、底部が連続した溝形状を有し、隣接する前記凹部が平行して規則的に並列しており」とは「凹部は、底部が連続した溝形状を有し、隣接する前記凹部が平行して規則的に形成されている」ことをも意味する。
以下に本発明を詳述する。
【0013】
本発明者らは、鋭意検討の結果、合わせガラス用中間膜の表面に形成する凹凸を合わせガラスの製造工程において充分な脱気性を発揮できる程度にする一方、凹凸が形成された表面を有する樹脂層と該樹脂層が直接接する樹脂層との界面に転写される凹凸の粗さを一定以下に抑えることにより、2層以上の樹脂層が積層された合わせガラス用中間膜であっても、合わせガラスの製造時における優れた脱気性と、多重像の発生の防止とを両立できることを見出し、本発明を完成した。
【0014】
本発明の合わせガラス用中間膜は、少なくとも一方の表面に、多数の凹部と多数の凸部とを有する。これにより、合わせガラスの製造時における脱気性を確保することができる。
上記凹凸は、一方の表面にのみ有してもよいが、著しく脱気性が向上することから、合わせガラス用中間膜の両面に有することが好ましい。
【0015】
上記凹凸の形状は、少なくとも溝形状を有すればよく、例えば、刻線状、格子状等の、一般的に合わせガラス用中間膜の表面に付与される凹凸の形状を用いることができる。上記凹凸の形状はエンボスロールが転写された形状であってもよい。
また、上記凸部も、図1に示したように頂上部が平面形状であってもよく、図2に示したように平面ではない形状であってもよい。なお、上記凸部の頂上部が平面形状である場合には、該頂上部の平面に更に微細な凹凸が施されていてもよい。
更に、各凹凸の凸部の高さは、同一の高さであってもよいし、異なる高さであってもよく、これらの凸部に対応する凹部の深さも、該凹部の底辺が連続していれば、同一の深さであってもよいし、異なる深さであってもよい。
【0016】
本発明の合わせガラス用中間膜においては、上記少なくとも一方の表面に有する凹凸の凹部は、底部が連続した溝形状(刻線状)を有し、隣接する前記凹部が平行して規則的に並列している。一般に、2枚のガラス板の間に合わせガラス用中間膜が積層された積層体を圧着するときの空気の抜け易さは、上記凹部の底部の連通性及び平滑性と密接な関係がある。中間膜の少なくとも一方の面の凹凸の形状を刻線状の凹部が平行して規則的に並列する形状とすることにより、上記の底部の連通性はより優れ、著しく脱気性が向上する。
なお、「規則的に並列している」とは、隣接する上記刻線状の凹部が平行して等間隔に並列していてもよく、隣接する上記刻線状の凹部が平行して並列しているが、すべての隣接する上記刻線状の凹部の間隔が等間隔でなくともよいことを意味する。
図1及び図2に、刻線状の凹部が等間隔に平行して並列している合わせガラス用中間膜の一例を表す模式図を示した。
図3に、刻線状の凹部が等間隔ではないが平行して並列している合わせガラス用中間膜の一例を表す模式図を示した。図3において、凹部1と凹部2との間隔Aと、凹部1と凹部3との間隔Bとは異なる。
【0017】
上記多数の凹部と多数の凸部とを有する表面は、凹部の溝深さ(Rzg)は10〜40μmである。上記溝深さ(Rzg)を10μm以上とすることにより、極めて優れた脱気性を発揮させることができ、40μm以下とすることにより、合わせガラスを製造する際の温度を低くすることができる。上記溝深さ(Rzg)の好ましい下限は15μm、好ましい上限は35μmであり、より好ましい下限は20μm、より好ましい上限は30μmである。
なお、本明細書において凹部の溝深さ(Rzg)とは、JIS B−0601(1994)「表面粗さ−定義及び表示」に規定される、基準長さを2.5mmとし、粗さ曲線の平均線(粗さ曲線までの偏差の2乗和が最小になるように設定した線)を基準とする溝深さを算出し、測定した溝数の溝深さの平均値を意味する。上記溝数は、基準長さを上記凹部の間隔で割った値の小数点以下を切り上げた整数を溝数とする。溝数が5以上である場合には、基準長さに存在する凹部の最も深い順に5箇所の溝深さを算出し、その平均値を基準長さあたりの溝深さとする。溝数が4以下である場合には、基準長さに存在する凹部の最も深い順に、溝数個の溝深さを算出し、その平均値を基準長さあたりの溝深さとする。上記基準長さあたりの溝深さを少なくとも5箇所測定し、その平均値を凹部の溝深さ(Rzg)とする。また、上記溝深さ(Rzg)は、例えば、表面粗さ測定器(小坂研究所社製、SE1700α)等を用いて測定されるデジタル信号をデータ処理することによって容易に得られる。
【0018】
本発明において合わせガラス用中間膜の少なくとも一方の表面に多数の凹部と多数の凸部とを形成する方法としては、例えば、エンボスロール法、カレンダーロール法、異形押出法、メルトフラクチャーを利用した押出リップエンボス法等が挙げられる。なかでも、隣接する該刻線状の凹部が平行して規則的に並列している形状が容易に得られることから、エンボスロール法が好適である。
【0019】
上記エンボスロール法で用いられるエンボスロールとしては、例えば、金属ロール表面に酸化アルミニウムや酸化珪素等の研削材を用いてブラスト処理を行い、次いで表面の過大ピークを減少させるためにバーチカル研削などを用いてラッピングを行うことにより、ロール表面にエンボス模様(凹凸模様)を有するエンボスロールが挙げられる。他にも、彫刻ミル(マザーミル)を用い、この彫刻ミルのエンボス模様(凹凸模様)を金属ロール表面に転写することにより、ロール表面にエンボス模様(凹凸模様)を有するエンボスロールが挙げられる。更に、エッチング(蝕刻)によりロール表面にエンボス模様(凹凸模様)を有するエンボスロール等が挙げられる。
【0020】
本発明の合わせガラス用中間膜は、上記多数の凹部と多数の凸部とを有する表面を有する樹脂層(以下、「表面凹凸樹脂層」ともいう。)を、該表面凹凸樹脂層が直接接する樹脂層から剥離した後に、剥離した表面凹凸樹脂層の樹脂層と接していた側の表面をJIS B 0601(1994)に準拠して測定した十点平均粗さ(Rz)が2.7μm未満である。
上述のように、多重像の発生等の原因は樹脂層間の界面に転写された凹凸にあるが、樹脂層間の界面の凹凸を直接観察することは極めて困難である。樹脂層間の界面の凹凸を直接観察する代わりに、直接接する樹脂層を剥離し、剥離後の樹脂層の表面の十点平均粗さを測定することで、樹脂層間の界面に転写された凹凸を間接的に評価することができ、この凹凸の粗さを一定未満とすることにより、転写された凹凸に起因する多重像の発生を抑制できる。
図4の合わせガラス用中間膜は、多数の凹部と多数の凸部とを有する表面21を有する樹脂層20と樹脂層10が積層された2層構造の合わせガラス用中間膜である。本発明では、この2層構造の合わせガラス用中間膜の樹脂層10から樹脂層20を剥離した後に、剥離した樹脂層20の樹脂層10と接していた側の表面22の表面の十点平均粗さ(Rz)を測定する。
図5の合わせガラス用中間膜は、多数の凹部と多数の凸部とを有する表面21を有する樹脂層20と樹脂層10と樹脂層30がこの順に積層された3層構造の合わせガラス用中間膜である。本発明では、この3層構造の合わせガラス用中間膜の樹脂層10から樹脂層20を剥離した後に、剥離した樹脂層20の樹脂層10と接していた側の表面22の表面の十点平均粗さ(Rz)を測定する。
【0021】
上記直接接する樹脂層の剥離は、温度25℃、湿度30%の環境下で速度10〜15cm/sの条件で行う。温度、湿度及び剥離速度を一定とすることにより、測定値のバラツキを抑えることができる。剥離は、この条件を満たす限り機械を用いて行ってもよいし、指を使って手動で行ってもよい。
上記直接接する樹脂層の剥離を行った直後に十点平均粗さを測定すると、測定値にバラツキが発生することがある。従って、十点平均粗さの測定は、温度25℃、湿度30%の環境下に2時間静置した後に行うことが好ましい。
このように一定の条件下で上記表面凹凸樹脂層を剥離し、静置した後に、剥離した表面凹凸樹脂層の樹脂層と接していた側の表面の十点平均粗さを測定する。
なお、本明細書において十点平均粗さとは、JIS B 0601(1994)「表面粗さ−定義及び表示」に規定に準拠して測定されるものである。また、上記十点平均粗さは、例えば、高精度形状測定システム(キーエンス社製「KS−1100」、先端ヘッド型番「LT−9510VM」)等を用いて容易に測定することができる。
【0022】
上記剥離した表面凹凸樹脂層の樹脂層と接していた側の表面の十点平均粗さは、2.7μm未満である。十点平均粗さを2.7μm未満とすることにより、多重像の発生を抑制することができる。十点平均粗さは、2.3μm以下であることが好ましく、1.9μm以下であることがより好ましく、1.7μm以下であることが更に好ましい。十点平均粗さが上記好ましい上限以下であることにより、多重像の発生をより一層抑制することができる。また、十点平均粗さの下限は特に限定されないが、0.001μm以上であることが好ましい。
【0023】
上記剥離した表面凹凸樹脂層の樹脂層と接していた側の表面の十点平均粗さを2.7μm未満とするには、例えば、(1)表面凹凸樹脂層の厚みを厚くする、(2)表面に有する溝深さ(Rzg)を浅くする、(3)表面に有する隣接する刻線状の凹部の間隔(以下、「凹部の間隔」ともいう。)を狭くすることにより、凹部形成時の圧力を分散する、(4)表面に凹凸を形成する際のプレス圧又はプレス線圧を低くする、等を組み合わせることが挙げられる。
【0024】
上記表面凹凸樹脂層の厚みを厚くすることにより、エンボスロール等を用いて表面に凹凸を形成する際に、直接接する樹脂層への圧力が軽減し、界面への凹凸の転写を抑制することができる。即ち、上記剥離した表面凹凸樹脂層の樹脂層と接していた側の表面の十点平均粗さを2.7μm未満とするためには、上記表面凹凸樹脂層の厚みも、多層構造とする目的を損ねない範囲で、できる限り厚くすることが好ましい。
上記剥離した表面凹凸樹脂層の樹脂層と接していた側の表面の十点平均粗さを2.7μm未満とするための上記表面凹凸樹脂層の厚みは、上記表面凹凸樹脂層やこれに直接接する樹脂層の材質等によって決まり特に限定されないが、一般的な合わせガラス用中間膜においては100〜500μmが好ましく、300〜500μmがより好ましい。例えば、後述する遮音中間膜において保護層の表面に凹凸を形成する場合においては、該保護層の厚さを100μm以上とすることが好ましい。保護層の厚さを100μm以上とすることにより、界面への凹凸の転写を抑制することができる。上記保護層の厚さは300μm以上であることがより好ましく、400μm以上であることが更に好ましく、450μm以上であることが特に好ましい。上記保護層の厚さの上限については特に限定されないが、充分な遮音性を達成できる程度に遮音層の厚さを確保するためには、実質的には500μmが上限である。
【0025】
上記剥離した表面凹凸樹脂層の樹脂層と接していた側の表面の十点平均粗さは、溝深さ(Rzg)を浅くすることによっても低減させることができる。上述のように圧着の際に優れた脱気性を発揮するためには、上記溝深さ(Rzg)を10μm以上とする必要があるが、これを満たす範囲においてできる限り上記溝深さを浅くすることにより、樹脂層間の界面への凹凸の転写を抑制できる。
【0026】
上記剥離した表面凹凸樹脂層の樹脂層と接していた側の表面の十点平均粗さは、刻線状の凹部の間隔を狭くすることによっても低減させることができる。
上記剥離した表面凹凸樹脂層の樹脂層と接していた側の表面の十点平均粗さを2.7μm未満とするための上記刻線状の凹部の間隔は、上記表面凹凸樹脂層やこれに直接接する樹脂層の材質等によって決まり特に限定されないが、一般的な合わせガラス用中間膜においては500μm以下が好ましい。例えば、後述する遮音中間膜において保護層の表面に凹凸を形成する場合において、刻線状の凹部の間隔を500μm以下とすることが好ましい。刻線状の凹部の間隔を500μm以下とすることにより、樹脂層間の界面への凹凸の転写を抑制することができる。上記刻線状の凹部の間隔は、400μm以下であることがより好ましく、300μm以下であることが更に好ましく、250μm以下であることが最も好ましい。上記刻線状の凹部の間隔の下限については特に限定されないが、合わせガラス製造時の作業性の観点から実質的には10μmが下限である。
【0027】
なお、本明細書において刻線状の凹部の間隔とは、隣接する刻線状の凹部において該2つの凹部の最底部間の最短距離を意味する。具体的には、上記凹部の間隔は、光学顕微鏡(例えば、SONIC社製、BS−8000III)を用いて、合わせガラス用中間膜の表面(観察範囲20mm×20mm)を観察し、観察された隣接する凹部の最底部間の最短距離をすべて測定する。次いで、測定された最短距離の平均値を算出することにより、凹部の間隔が得られる。また、測定された最短距離の最大値を凹部の間隔としてもよい。凹部の間隔は最短距離の平均値であってもよく、最短距離の最大値であってもよいが、最短距離の平均値であることが好ましい。
【0028】
上記剥離した表面凹凸樹脂層の樹脂層と接していた側の表面の十点平均粗さは、表面に凹凸の形成する際のプレス圧又はプレス線圧を調整することによっても低減させることができる。
例えばエンボスロールを用いて表面に凹凸を形成する場合、転写条件として合わせガラス用中間膜の温度、ロール温度、線速、プレス圧又はプレス線圧を調整する。この際のプレス圧又はプレス線圧等の転写条件を調整することによっても樹脂層間の界面への凹凸の転写を抑制できる。
【0029】
本発明の合わせガラス用中間膜は、2層以上の樹脂層が積層されている。例えば、2層以上の樹脂層として、第1の樹脂層と第2の樹脂層とを有し、かつ、第1の樹脂層と第2の樹脂層とが異なる性質を有することにより、1層だけでは実現が困難であった種々の性能を有する合わせガラス用中間膜を提供することができる。一方、2層以上の樹脂層が積層されている場合、多重像の問題が発生する。
【0030】
上記樹脂層は熱可塑性樹脂を含むことが好ましい。
上記熱可塑性樹脂として、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、フッ化ビニリデン−六フッ化プロピレン共重合体、ポリ三フッ化エチレン、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、ポリエステル、ポリエーテル、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリビニルアセタール、エチレン−酢酸ビニル共重合体等が挙げられる。なかでも、上記樹脂層はポリビニルアセタール、又は、エチレン−酢酸ビニル共重合体を含有することが好ましく、ポリビニルアセタールを含有することがより好ましい。
【0031】
上記樹脂層は、ポリビニルアセタールと可塑剤とを含むことが好ましい。
上記可塑剤としては、合わせガラス用中間膜に一般的に用いられる可塑剤であれば特に限定されず、例えば、一塩基性有機酸エステル、多塩基性有機酸エステル等の有機可塑剤や、有機リン酸化合物、有機亜リン酸化合物等のリン酸可塑剤等が挙げられる。
上記有機可塑剤として、例えば、トリエチレングリコール−ジ−2−エチルヘキサノエート、トリエチレングリコール−ジ−2−エチルブチレート、トリエチレングリコール−ジ−n−ヘプタノエート、テトラエチレングリコール−ジ−2−エチルヘキサノエート、テトラエチレングリコール−ジ−2−エチルブチレート、テトラエチレングリコール−ジ−n−ヘプタノエート、ジエチレングリコール−ジ−2−エチルヘキサノエート、ジエチレングリコール−ジ−2−エチルブチレート、ジエチレングリコール−ジ−n−ヘプタノエート等が挙げられる。なかでも、上記樹脂層はトリエチレングリコール−ジ−2−エチルヘキサノエート、トリエチレングリコール−ジ−2−エチルブチレート、又は、トリエチレングリコール−ジ−n−ヘプタノエートを含むことが好ましく、トリエチレングリコール−ジ−2−エチルヘキサノエートを含むことがより好ましい。
【0032】
上記樹脂層は、接着力調整剤を含有することが好ましい。特に、合わせガラスを製造するときに、ガラスと接触する樹脂層は、上記接着力調整剤を含有することが好ましい。
上記接着力調整剤としては、例えば、アルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩が好適に用いられる。上記接着力調整剤として、例えば、カリウム、ナトリウム、マグネシウム等の塩が挙げられる。
上記塩を構成する酸としては、例えば、オクチル酸、ヘキシル酸、2−エチル酪酸、酪酸、酢酸、蟻酸等のカルボン酸の有機酸、又は、塩酸、硝酸等の無機酸が挙げられる。合わせガラスを製造するときに、ガラスと樹脂層との接着力を容易に調製できることから、ガラスと接触する樹脂層は、接着力調整剤として、マグネシウム塩を含むことが好ましい。
【0033】
上記樹脂層は、必要に応じて、酸化防止剤、光安定剤、接着力調整剤として変成シリコーンオイル、難燃剤、帯電防止剤、耐湿剤、熱線反射剤、熱線吸収剤等の添加剤を含有してもよい。
【0034】
本発明の合わせガラス用中間膜では、2層以上の樹脂層として、少なくとも第1の樹脂層と第2の樹脂層とを有し、上記第1の樹脂層に含まれるポリビニルアセタール(以下、ポリビニルアセタールAという。)の水酸基量が、上記第2の樹脂層に含まれるポリビニルアセタール(以下、ポリビニルアセタールBという。)の水酸基量と異なることが好ましい。
ポリビニルアセタールAとポリビニルアセタールBとの性質が異なるため、1層だけでは実現が困難であった種々の性能を有する合わせガラス用中間膜を提供することができる。例えば、2層の上記第2の樹脂層の間に、上記第1の樹脂層が積層されており、かつ、ポリビニルアセタールAの水酸基量がポリビニルアセタールBの水酸基量より低い場合、上記第1の樹脂層は上記第2の樹脂層と比較してガラス転移温度が低くなる傾向にある。結果として、上記第1の樹脂層が上記第2の樹脂層より軟らかくなり、合わせガラス用中間膜の遮音性が高くなる。また、2層の上記第2の樹脂層の間に、上記第1の樹脂層が積層されており、かつ、ポリビニルアセタールAの水酸基量がポリビニルアセタールBの水酸基量より高い場合、上記第1の樹脂層は上記第2の樹脂層と比較してガラス転移温度が高くなる傾向にある。結果として、上記第1の樹脂層が上記第2の樹脂層より硬くなり、合わせガラス用中間膜の耐貫通性が高くなる。
【0035】
更に、上記第1の樹脂層及び上記第2の樹脂層が可塑剤を含む場合、上記第1の樹脂層におけるポリビニルアセタール100質量部に対する可塑剤の含有量(以下、含有量Aという。)が、上記第2の樹脂層におけるポリビニルアセタール100質量部に対する可塑剤の含有量(以下、含有量Bという。)と異なることが好ましい。例えば、2層の上記第2の樹脂層の間に、上記第1の樹脂層が積層されており、かつ、上記含有量Aが上記含有量Bより多い場合、上記第1の樹脂層は上記第2の樹脂層と比較してガラス転移温度が低くなる傾向にある。結果として、上記第1の樹脂層が上記第2の樹脂層より軟らかくなり、合わせガラス用中間膜の遮音性が高くなる。また、2層の上記第2の樹脂層の間に、上記第1の樹脂層が積層されており、かつ、上記含有量Aが上記含有量Bより少ない場合、上記第1の樹脂層は上記第2の樹脂層と比較してガラス転移温度が高くなる傾向にある。結果として、上記第1の樹脂層が上記第2の樹脂層より硬くなり、合わせガラス用中間膜の耐貫通性が高くなる。
【0036】
本発明の合わせガラス用中間膜を構成する2層以上の樹脂層の組み合わせとしては、例えば、合わせガラスの遮音性を向上させるために、上記第1の樹脂層として遮音層と、上記第2の樹脂層として保護層との組み合わせが挙げられる。合わせガラスの遮音性が向上することから、上記遮音層はポリビニルアセタールXと可塑剤とを含み、上記保護層はポリビニルアセタールYと可塑剤とを含むことが好ましい。更に、2層の上記保護層の間に、上記遮音層が積層されている場合、優れた遮音性を有する合わせガラス用中間膜(以下、遮音中間膜ともいう。)を得ることができる。本願発明では、上記遮音層と上記保護層のように、性質が異なる樹脂層が積層されていても、多重像の発生を防止できる合わせガラス用中間膜を得ることができる。以下、遮音中間膜について、より具体的に説明する。
【0037】
上記遮音中間膜において、上記遮音層は遮音性を付与する役割を有する。
上記遮音層は、ポリビニルアセタールXと可塑剤とを含有することが好ましい。
上記ポリビニルアセタールXは、ポリビニルアルコールをアルデヒドによりアセタール化することにより調製することができる。上記ポリビニルアルコールは、通常、ポリ酢酸ビニルをけん化することにより得られる。
上記ポリビニルアルコールの平均重合度の好ましい下限は200、好ましい上限5000である。上記ポリビニルアルコールの平均重合度を200以上とすることにより、得られる遮音中間膜の耐貫通性を向上させることができ、5000以下とすることにより、遮音層の成形性を確保することができる。上記ポリビニルアルコールの平均重合度のより好ましい下限は500、より好ましい上限は4000である。
なお、上記ポリビニルアルコールの平均重合度は、JIS K6726「ポリビニルアルコール試験方法」に準拠した方法により求められる。
【0038】
上記ポリビニルアルコールをアセタール化するためのアルデヒドの炭素数の好ましい下限は4、好ましい上限は6である。アルデヒドの炭素数を4以上とすることにより、充分な量の可塑剤を安定して含有させることができ、優れた遮音性能を発揮することができる。また、可塑剤のブリードアウトを防止することができる。アルデヒドの炭素数を6以下とすることにより、ポリビニルアセタールXの合成を容易にし、生産性を確保できる。
上記炭素数が4〜6のアルデヒドとしては、直鎖状のアルデヒドであってもよいし、分枝状のアルデヒドであってもよく、例えば、n−ブチルアルデヒド、n−バレルアルデヒド等が挙げられる。
【0039】
上記ポリビニルアセタールXの水酸基量の好ましい上限は30モル%である。上記ポリビニルアセタールXの水酸基量を30モル%以下とすることにより、遮音性を発揮するのに必要な量の可塑剤を含有させることができ、可塑剤のブリードアウトを防止することができる。上記ポリビニルアセタールXの水酸基量のより好ましい上限は28モル%、更に好ましい上限は26モル%、特に好ましい上限は24モル%、好ましい下限は10モル%、より好ましい下限は15モル%、更に好ましい下限は20モル%である。
上記ポリビニルアセタールXの水酸基量は、水酸基が結合しているエチレン基量を、主鎖の全エチレン基量で除算して求めたモル分率を百分率(モル%)で表した値である。上記水酸基が結合しているエチレン基量は、例えば、JIS K6728「ポリビニルブチラール試験方法」に準拠した方法により、上記ポリビニルアセタールXの水酸基が結合しているエチレン基量を測定することにより求めることができる。
【0040】
上記ポリビニルアセタールXのアセタール基量の好ましい下限は60モル%、好ましい上限は85モル%である。上記ポリビニルアセタールXのアセタール基量を60モル%以上とすることにより、遮音層の疎水性を高くして、遮音性を発揮するのに必要な量の可塑剤を含有させることができ、可塑剤のブリードアウトや白化を防止することができる。上記ポリビニルアセタールXのアセタール基量を85モル%以下とすることにより、ポリビニルアセタールXの合成を容易にし、生産性を確保することができる。上記ポリビニルアセタールXのアセタール基量の下限は65モル%がより好ましく、68モル%以上が更に好ましい。
上記アセタール基量は、JIS K6728「ポリビニルブチラール試験方法」に準拠した方法により、上記ポリビニルアセタールXのアセタール基が結合しているエチレン基量を測定することにより求めることができる。
【0041】
上記ポリビニルアセタールXのアセチル基量の好ましい下限は0.1モル%、好ましい上限は30モル%である。上記ポリビニルアセタールXのアセチル基量を0.1モル%以上とすることにより、遮音性を発揮するのに必要な量の可塑剤を含有させることができ、ブリードアウトを防止することができる。また、上記ポリビニルアセタールXのアセチル基量を30モル%以下とすることにより、遮音層の疎水性を高くして、白化を防止することができる。上記アセチル基量のより好ましい下限は1モル%、更に好ましい下限は5モル%、特に好ましい下限は8モル%、より好ましい上限は25モル%、更に好ましい上限は20モル%である。上記アセチル基量は、主鎖の全エチレン基量から、アセタール基が結合しているエチレン基量と、水酸基が結合しているエチレン基量とを差し引いた値を、主鎖の全エチレン基量で除算して求めたモル分率を百分率(モル%)で表した値である。
【0042】
特に、上記遮音層に遮音性を発揮するのに必要な量の可塑剤を容易に含有させることができることから、上記ポリビニルアセタールXは、上記アセチル基量が8モル%以上のポリビニルアセタール、又は、上記アセチル基量が8モル%未満、かつ、アセタール基量が65モル%以上のポリビニルアセタールであることが好ましい。また、上記ポリビニルアセタールXは、上記アセチル基量が8モル%以上のポリビニルアセタール、又は、上記アセチル基量が8モル%未満、かつ、アセタール基量が68モル%以上のポリビニルアセタールであることが、より好ましい。
【0043】
上記遮音層における可塑剤の含有量は、上記ポリビニルアセタールX100質量部に対する好ましい下限が45質量部、好ましい上限が80質量部である。上記可塑剤の含有量を45質量部以上とすることにより、高い遮音性を発揮することができ、80質量部以下とすることにより、可塑剤のブリードアウトが生じて、合わせガラス用中間膜の透明性や接着性の低下を防止することができる。上記可塑剤の含有量のより好ましい下限は50質量部、更に好ましい下限は55質量部、より好ましい上限は75質量部、更に好ましい上限は70質量部である。
【0044】
上記遮音層の厚さの好ましい下限は50μmである。上記遮音層の厚さを50μm以上とすることにより、充分な遮音性を発揮することができる。上記遮音層の厚さのより好ましい下限は80μmである。なお、上限は特に限定されないが、合わせガラス用中間膜としての厚さを考慮すると、好ましい上限は300μmである。
【0045】
上記保護層は、遮音層に含まれる大量の可塑剤がブリードアウトして、合わせガラス用中間膜とガラスとの接着性が低下するのを防止し、また、合わせガラス用中間膜に耐貫通性を付与する役割を有する。
上記保護層は、例えば、ポリビニルアセタールYと可塑剤とを含有することが好ましく、ポリビニルアセタールXより水酸基量が大きいポリビニルアセタールYと可塑剤とを含有することがより好ましい。
【0046】
上記ポリビニルアセタールYは、ポリビニルアルコールをアルデヒドによりアセタール化することにより調製することができる。
上記ポリビニルアルコールは、通常、ポリ酢酸ビニルをけん化することにより得られる。
また、上記ポリビニルアルコールの平均重合度の好ましい下限は200、好ましい上限は5000である。上記ポリビニルアルコールの平均重合度を200以上とすることにより、合わせガラス用中間膜の耐貫通性を向上させることができ、5000以下とすることにより、保護層の成形性を確保することができる。上記ポリビニルアルコールの平均重合度のより好ましい下限は500、より好ましい上限は4000である。
【0047】
上記ポリビニルアルコールをアセタール化するためのアルデヒドの炭素数の好ましい下限は3、好ましい上限は4である。アルデヒドの炭素数を3以上とすることにより、合わせガラス用中間膜の耐貫通性が高くなる。アルデヒドの炭素数を4以下とすることにより、ポリビニルアセタールYの生産性が向上する。
上記炭素数が3〜4のアルデヒドとしては、直鎖状のアルデヒドであってもよいし、分枝状のアルデヒドであってもよく、例えば、n−ブチルアルデヒド等が挙げられる。
【0048】
上記ポリビニルアセタールYの水酸基量の好ましい上限は33モル%、好ましい下限は28モル%である。上記ポリビニルアセタールYの水酸基量を33モル%以下とすることにより、合わせガラス用中間膜の白化を防止することができる。上記ポリビニルアセタールYの水酸基量を28モル%以上とすることにより、合わせガラス用中間膜の耐貫通性が高くなる。
【0049】
上記ポリビニルアセタールYは、アセタール基量の好ましい下限が60モル%、好ましい上限が80モル%である。上記アセタール基量を60モル%以上とすることにより、充分な耐貫通性を発揮するのに必要な量の可塑剤を含有させることができる。上記アセタール基量を80モル%以下とすることにより、上記保護層とガラスとの接着力を確保することができる。上記アセタール基量のより好ましい下限は65モル%、より好ましい上限は69モル%である。
【0050】
上記ポリビニルアセタールYのアセチル基量の好ましい上限は7モル%である。上記ポリビニルアセタールYのアセチル基量を7モル%以下とすることにより、保護層の疎水性を高くして、白化を防止することができる。上記アセチル基量のより好ましい上限は2モル%であり、好ましい下限は0.1モル%である。なお、ポリビニルアセタールA、B、及び、Yの水酸基量、アセタール基量、及び、アセチル基量は、ポリビニルアセタールXと同様の方法で測定できる。
【0051】
上記保護層における可塑剤の含有量は、上記ポリビニルアセタールY100質量部に対する好ましい下限が20質量部、好ましい上限が45質量部である。上記可塑剤の含有量を20質量部以上とすることにより、耐貫通性を確保することができ、45質量部以下とすることにより、可塑剤のブリードアウトを防止して、合わせガラス用中間膜の透明性や接着性の低下を防止することができる。上記可塑剤の含有量のより好ましい下限は30質量部、更に好ましい下限は35質量部、より好ましい上限は43質量部、更に好ましい上限は41質量部である。合わせガラスの遮音性がよりいっそう向上することから、上記保護層における可塑剤の含有量は、上記遮音層における可塑剤の含有量よりも少ないことが好ましい。
【0052】
合わせガラスの遮音性がより一層向上することから、ポリビニルアセタールYの水酸基量はポリビニルアセタールXの水酸基量より大きいことが好ましく、1モル%以上大きいことがより好ましく、5モル%以上大きいことが更に好ましく、8モル%以上大きいことが特に好ましい。ポリビニルアセタールX及びポリビニルアセタールYの水酸基量を調整することにより、上記遮音層及び上記保護層における可塑剤の含有量を制御することができ、上記遮音層のガラス転移温度が低くなる。結果として、合わせガラスの遮音性がより一層向上する。
また、合わせガラスの遮音性がより一層向上することから、上記遮音層におけるポリビニルアセタールX100質量部に対する、可塑剤の含有量(以下、含有量Xともいう。)は、上記保護層におけるポリビニルアセタールY100質量部に対する、可塑剤の含有量(以下、含有量Yともいう。)より多いことが好ましく、5質量部以上多いことがより好ましく、15質量部以上多いことが更に好ましく、20質量部以上多いことが特に好ましい。含有量X及び含有量Yを調整することにより、上記遮音層のガラス転移温度が低くなる。結果として、合わせガラスの遮音性がより一層向上する。
【0053】
上記保護層の厚さは、上記保護層の役割を果たし得る範囲に調整すればよく、特に限定されない。ただし、上記保護層上に凹凸を有する場合には、直接接する上記遮音層との界面への凹凸の転写を抑えられるように、可能な範囲で厚くすることが好ましい。具体的には、上記保護層の厚さの好ましい下限は100μm、より好ましい下限は300μm、更に好ましい下限は400μm、特に好ましい下限は450μmである。上記保護層の厚さの上限については特に限定されないが、充分な遮音性を達成できる程度に遮音層の厚さを確保するためには、実質的には500μm程度が上限である。
【0054】
上記遮音中間膜を製造する方法としては特に限定されず、例えば、上記遮音層と保護層とを、押し出し法、カレンダー法、プレス法等の通常の製膜法によりシート状に製膜した後、積層する方法等が挙げられる。
【0055】
遮音層が2層の保護層の間に積層された合わせガラス用中間膜であって、上記遮音層は、ポリビニルアセタール100質量部に対して可塑剤を45〜80質量部含有し、上記保護層は、ポリビニルアセタール100質量部に対して可塑剤を20〜45質量部含有し、上記保護層の少なくとも一方の表面に、多数の凹部と多数の凸部とを有し、上記凹部は、底部が連続した溝形状を有し、隣接する上記凹部が平行して規則的に並列しており、上記保護層の多数の凹部と多数の凸部とを有する表面は、JIS B−0601(1994)に準拠して測定される凹部の溝深さ(Rzg)が10〜40μmであり、かつ、上記多数の凹部と多数の凸部とを有する表面を有する保護層を遮音層から剥離した後に、剥離した保護層の遮音層側の表面をJIS B 0601(1994)に準拠して測定した十点平均粗さが2.7μm未満である合わせガラス用中間膜もまた、本発明の1つである。
なお、本発明において、「少少なくとも一方の保護層の表面に、多数の凹部と多数の凸部とを有し」とは「少なくとも一方の保護層の表面に、多数の凹部と多数の凸部とが形成されている」ことをも意味し、「凹部は、底部が連続した溝形状を有し、隣接する前記凹部が平行して規則的に並列しており」とは「凹部は、底部が連続した溝形状を有し、隣接する前記凹部が平行して規則的に形成されている」ことをも意味する。
【0056】
本発明の合わせガラス用中間膜が、一対のガラス板の間に積層されている合わせガラスもまた、本発明の1つである。
上記ガラス板は、一般に使用されている透明板ガラスを使用することができる。例えば、フロート板ガラス、磨き板ガラス、型板ガラス、網入りガラス、線入り板ガラス、着色された板ガラス、熱線吸収ガラス、熱線反射ガラス、グリーンガラス等の無機ガラスが挙げられる。また、ガラスの表面に紫外線遮蔽コート層を有する紫外線遮蔽ガラスも用いることができる。更に、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリアクリレート等の有機プラスチックス板を用いることもできる。
上記ガラス板として、2種類以上のガラス板を用いてもよい。例えば、透明フロート板ガラスと、グリーンガラスのような着色されたガラス板との間に、本発明の合わせガラス用中間膜を積層した合わせガラスが挙げられる。また、上記ガラス板として、2種以上の厚さの異なるガラス板を用いてもよい。
【0057】
本発明の合わせガラスの製造方法としては特に限定されず、従来公知の製造方法を用いることができる。
【発明の効果】
【0058】
本発明によれば、2層以上の樹脂層が積層された合わせガラス用中間膜であって、合わせガラスの製造工程において優れた脱気性を有し、かつ、多重像の発生を防止できる合わせガラス用中間膜、及び、該合わせガラス用中間膜を含む合わせガラスを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
図1】表面に底部が連続した溝形状である凹部が等間隔、かつ、隣接する凹部が平行して並列している合わせガラス用中間膜の一例を表す模式図である。
図2】表面に底部が連続した溝形状である凹部が等間隔、かつ、隣接する凹部が平行して並列している合わせガラス用中間膜の一例を表す模式図である。
図3】表面に底部が連続した溝形状である凹部が等間隔ではないが、隣接する凹部が平行して並列している合わせガラス用中間膜の一例を表す模式図である。
図4】2層構造の合わせガラス用中間膜において、十点平均粗さ(Rz)を測定する表面を説明する模式図である。
図5】3層構造の合わせガラス用中間膜において、十点平均粗さ(Rz)を測定する表面を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0060】
以下に実施例を挙げて本発明の態様を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例にのみ限定されない。
【0061】
(実施例1)
(1)遮音層用樹脂組成物の調製
平均重合度が2400のポリビニルアルコールをn−ブチルアルデヒドでアセタール化することにより得られたポリビニルブチラール(アセチル基量12モル%、ブチラール基量66モル%、水酸基量22モル%)100質量部に対して、可塑剤としてトリエチレングリコール−ジ−2−エチルヘキサノエート(3GO)60質量部を添加し、ミキシングロールで充分に混練し、遮音層用樹脂組成物を得た。
【0062】
(2)保護層用樹脂組成物の調製
平均重合度が1700のポリビニルアルコールをn−ブチルアルデヒドでアセタール化することにより得られたポリビニルブチラール(アセチル基量1モル%、ブチラール基量69モル%、水酸基量30モル%)100質量部に対して、可塑剤としてトリエチレングリコール−ジ−2−エチルヘキサノエート(3GO)40質量部を添加し、ミキシングロールで充分に混練し、保護層用樹脂組成物を得た。
【0063】
(3)合わせガラス用中間膜の作製
得られた遮音層用樹脂組成物と保護層用樹脂組成物を、共押出機を用いて共押出することにより、保護層用樹脂組成物からなる厚さ450μmのA層(保護層)、遮音層用樹脂組成物からなる厚さ100μmのB層(遮音層)及び保護層用樹脂組成物からなる厚さ450μmのC層(保護層)がこの順に積層された3層構造の合わせガラス用中間膜(遮音中間膜)を得た。
【0064】
(4)凹凸の付与
第1の工程として、下記の手順により合わせガラス用中間膜の両面にランダムな凹凸形状を転写した。まず、鉄ロール表面に、ブラスト剤を用いてランダムな凹凸を施した後、該鉄ロールをバーチカル研削し、更に、より微細なブラスト剤を用いて研削後の平坦部に微細な凹凸を施すことにより、粗大なメインエンボスと微細なサブエンボスをもつ同形状の1対のロールを得た。該1対のロールを凹凸形状転写装置として用い、得られた合わせガラス用中間膜の両面にランダムな凹凸形状を転写した。この時の転写条件として、合わせガラス用中間膜の温度を80℃、上記ロールの温度を145℃、線速を10m/min、プレス線圧を10〜200kN/mとした。賦型後の合わせガラス用中間膜の表面粗さはJIS B 0601(1994)の十点平均粗さRzで測定した結果、16μmであった。測定は表面粗さ測定器(小坂研究所社製、SE1700α)を用いて測定されるデジタル信号をデータ処理することによって得た。測定方向は刻線に対して垂直方向とし、カットオフ値=2.5mm、基準長さ=2.5mm、評価長さ=12.5mm、触針の先端半径=2μm、先端角度=60°、測定速度=0.5mm/sの条件で測定を行った。
【0065】
第2の工程として、下記の手順により合わせガラス用中間膜の表面に底部が連続した溝形状(刻線状)の凹凸を付与した。三角形斜線型ミルを用いて表面にミル加工を施した金属ロールと45〜75のJIS硬度を有するゴムロールとからなる一対のロールを凹凸形状転写装置として用い、第1の工程でランダムな凹凸形状を転写した合わせガラス用中間膜をこの凹凸形状転写装置に通し、合わせガラス用中間膜のA層の表面に底部が連続した溝形状(刻線状)である凹部が平行して等間隔に並列した凹凸を付与した。このときの転写条件として、合わせガラス用中間膜の温度を常温、ロール温度を130℃、線速を10m/min、膜幅を1.5m、プレス圧を500kPaとした。
次いで、合わせガラス用中間膜のC層の表面に、凹凸形状の異なる金属ロールを用いた以外は上記と同様の操作を施し、底部が連続した溝形状(刻線状)の凹部を付与した。その際、A層の表面に付与した底部が連続した溝形状(刻線状)の凹部と、C層の表面に付与した底部が連続した溝形状(刻線状)の凹部との交差角度が10°となるようにした。
【0066】
(5)A層及びC層表面の凹凸の測定
光学顕微鏡(SONIC社製、BS−8000III)を用いて、得られた合わせガラス用中間膜のA層及びC層の表面(観察範囲20mm×20mm)を観察し、隣接する凹部の間隔を測定したうえで、隣接する凹部の最底部間の最短距離の平均値を算出することにより、凹部の間隔を得た。A層の表面の凹部の間隔は500μm、C層の表面の凹部の間隔は750μmであった。なお、上記最短距離の平均値及び最大値はいずれも同一であった。
また、得られた合わせガラス用中間膜のA層及びC層の表面の凹部の溝深さ(Rzg)は、JIS B−0601(1994)「表面粗さ−定義及び表示」に規定される、基準長さを2.5mmとし、粗さ曲線の平均線(粗さ曲線までの偏差の2乗和が最小になるように設定した線)を基準とする溝深さを算出し、測定した溝数の溝深さの平均値を基準長さあたりの溝深さとし、基準長さあたりの溝深さの5箇所の平均値とした。上記A層の溝数は5、上記C層の溝数は4であった。また、A層及びC層の表面の上記凹部の溝深さ(Rzg)は、表面粗さ測定器(小坂研究所社製、SE1700α)を用いて測定されるデジタル信号をデータ処理することによって得た。測定方向は刻線に対して垂直方向とし、触針の先端半径=2μm、先端角度=60°、測定速度=0.5mm/sの条件で測定を行った。
A層の表面の凹部の溝深さ(Rzg)は21μm、C層の表面の凹部の溝深さ(Rzg)は19μmであった。
更に、得られた合わせガラス用中間膜のA層及びC層の表面を、表面粗さ測定器(小坂研究所社製、SE1700α)を用いて測定し、十点平均粗さ(Rz)を得た。A層の表面の十点平均粗さ(Rz)は51μm、C層の表面の十点平均粗さ(Rz)は50μmであった。
【0067】
(6)界面の凹凸の測定
得られた合わせガラス用中間膜を、縦5cm×横5cmに切り出し、温度25℃、湿度30%の環境下に2時間静置した。
A層とB層との間に指を入れ、10〜15cm/sの速度で剥離した。剥離後、更に温度25℃、湿度30%の環境下に2時間静置した。その後、剥離したA層のB層側の表面を、JIS B 0601(1994)に準拠し、高精度形状測定システム(キーエンス社製、「KS−1100」先端ヘッド型番「LT−9510VM」)を用いて測定し、十点平均粗さ(Rz)を得た。剥離したA層のB層側の表面の十点平均粗さ(Rz)は1.7μmであった。測定条件は、ステージ移動速度は100.0μm/s、X軸の測定ピッチを2.0μm、Y軸の測定ピッチを2.0μmに設定する。
B層とC層の間についても同様の方法により剥離し、剥離したC層のB層側の表面の十点平均粗さ(Rz)を得た。剥離したC層のB層側の表面の十点平均粗さ(Rz)は1.9μmであった。
【0068】
(実施例2〜5、比較例1)
各層の厚さと、A層及びC層表面の凹部の間隔、凹部の溝深さ(Rzg)、十点平均粗さ(Rz)と、剥離したA層のB層側の表面及び剥離したC層のB層側の表面の十点平均粗さ(Rz)とを表1に示したようにした以外は、実施例1と同様の方法により合わせガラス用中間膜を作製した。
実施例2においては、凹凸の付与時の転写条件を、合わせガラス用中間膜の温度を常温、ロール温度を130℃、線速を10m/分、膜幅を1.5m、プレス圧を200kPaとした。
実施例3においては、凹凸の付与時の転写条件を、合わせガラス用中間膜の温度を常温、ロール温度を130℃、線速を10m/分、膜幅を1.5m、プレス圧を400kPaとした。
実施例4においては、凹凸の付与時の転写条件を、合わせガラス用中間膜の温度を常温、ロール温度を130℃、線速を10m/分、膜幅を1.5m、プレス圧を500kPaとした。
実施例5においては、凹凸の付与時の転写条件を、合わせガラス用中間膜の温度を常温、ロール温度を130℃、線速を10m/分、膜幅を1.5m、プレス圧を500kPaとした。
比較例1においては、凹凸の付与時の転写条件を、合わせガラス用中間膜の温度を常温、ロール温度を130℃、線速を10m/分、膜幅を1.5m、プレス圧を200kPaとした。
なお、実施例2〜5及び比較例1の凹部の間隔の測定において、上記凹部の最短距離の平均値及び最大値はいずれも同一であった。
【0069】
(実施例6、7、比較例2)
各層の厚さと、A層及びC層表面の凹部の間隔、凹部の溝深さ(Rzg)、十点平均粗さ(Rz)と、剥離したA層のB層側の表面及び剥離したC層のB層側の表面の十点平均粗さ(Rz)とを表1に示したようにし、凹凸の付与時の転写条件を変更したこと以外は、実施例1と同様の方法により合わせガラス用中間膜を作製した。
実施例6においては、凹凸の付与時の転写条件を、合わせガラス用中間膜の温度を常温、ロール温度を130℃、線速を10m/分、膜幅を1.5m、プレス圧を700kPaとした。
実施例7においては、凹凸の付与時の転写条件を、合わせガラス用中間膜の温度を常温、ロール温度を130℃、線速を10m/分、膜幅を1.5m、プレス圧を200kPaとした。
比較例2においては、凹凸の付与時の転写条件を、合わせガラス用中間膜の温度を常温、ロール温度を130℃、線速を10m/分、膜幅を1.5m、プレス圧を100kPaとした。
なお、実施例6、7及び比較例2の凹部の間隔の測定において、上記凹部の最短距離の平均値及び最大値はいずれも同一であった。
【0070】
(比較例3、4)
酸化アルミニウム(#36:飽和条件で65μm粗さとなる条件)からなるブラスト材を吐出圧力50×10Paで吐出してブラスト処理を行った2本一対のロールを、ゆず肌状(オレンジピール状)のエンボス転写装置として用いた。実施例1で得られた合わせガラス用中間膜をこのゆず肌状(オレンジピール状)のエンボス転写装置に通し、合わせガラス用中間膜のA層及びC層の表面にゆず肌状(オレンジピール状)のエンボスを形成した。
このときの転写条件として、合わせガラス用中間膜の温度を常温、ロール温度を130℃、線速を10m/分、膜幅を1.5m、プレス圧を500kPaとした。
なお、比較例3及び4で得られた合わせガラス用中間膜については、溝深さ(Rzg)を測定することができなかった。
【0071】
(実施例8〜10)
各層の厚さと、A層及びC層表面の凹部の間隔、凹部の溝深さ(Rzg)、十点平均粗さ(Rz)と、剥離したA層のB層側の表面及び剥離したC層のB層側の表面の十点平均粗さ(Rz)とを表1に示したようにした以外は、実施例1と同様の方法により合わせガラス用中間膜を作製した。
実施例8においては、凹凸の付与時の転写条件を、合わせガラス用中間膜の温度を常温、ロール温度を130℃、線速を10m/分、膜幅を1.5m、プレス圧を200kPaとした。
実施例9においては、凹凸の付与時の転写条件を、合わせガラス用中間膜の温度を常温、ロール温度を130℃、線速を10m/分、膜幅を1.5m、プレス圧を500kPaとした。
実施例10においては、凹凸の付与時の転写条件を、合わせガラス用中間膜の温度を常温、ロール温度を130℃、線速を10m/分、膜幅を1.5m、プレス圧を500kPaとした。
なお、実施例8〜10の凹部の間隔の測定において、上記凹部の最短距離の平均値及び最大値はいずれも同一であった。
【0072】
(実施例11〜14)
保護層及び遮音層に用いられるポリビニルブチラールのアセチル基量、ブチラール基量及び水酸基量と、可塑剤の含有量とを表1に示すように変更し、各層の厚さと、A層及びC層表面の凹部の間隔、凹部の溝深さ(Rzg)、十点平均粗さ(Rz)と、剥離したA層のB層側の表面及び剥離したC層のB層側の表面の十点平均粗さ(Rz)とを表1に示したようにし、凹凸の付与時の転写条件を変更したこと以外は、実施例1と同様の方法により合わせガラス用中間膜を作製した。なお、保護層及び遮音層に用いられるポリビニルブチラールは、平均重合度が1700のポリビニルアルコールをn−ブチルアルデヒドでアセタール化することにより得た。
実施例11においては、凹凸の付与時の転写条件を、合わせガラス用中間膜の温度を常温、ロール温度を130℃、線速を10m/分、膜幅を1.5m、プレス線圧を200kPaとした。
実施例12においては、凹凸の付与時の転写条件を、合わせガラス用中間膜の温度を常温、ロール温度を130℃、線速を10m/分、膜幅を1.5m、プレス線圧を500kPaとした。
実施例13においては、凹凸の付与時の転写条件を、合わせガラス用中間膜の温度を常温、ロール温度を130℃、線速を10m/分、膜幅を1.5m、プレス線圧を500kPaとした。
実施例14においては、凹凸の付与時の転写条件を、合わせガラス用中間膜の温度を常温、ロール温度を130℃、線速を10m/分、膜幅を1.5m、プレス線圧を550kPaとした。
なお、実施例11〜14の凹部の間隔の測定において、上記凹部の最短距離の平均値及び最大値はいずれも同一であった。
【0073】
(評価)
実施例及び比較例で得られた合わせガラス用中間膜について、以下の方法により評価を行った。
結果を表1に示した。なお、表中のBu化度はブチラール基量を、OH化度は水酸基量を、Ac化度はアセチル基量を、可塑剤部数はポリビニルブチラール100質量部に対する可塑剤の含有量を、それぞれ示す。
【0074】
(1)脱気性の評価
得られた表面に凹凸を有する合わせガラス用中間膜を用いて、以下に示すように、減圧脱気法で予備圧着を行い、次いで本圧着を行って、合わせガラスを作製した。
【0075】
(減圧脱気法)
中間膜を二枚のクリアガラス板(縦30cm×横30cm×厚さ2.5mm)の間に挟み、はみ出た部分を切り取り、こうして得られた合わせガラス構成体(積層体)をゴムバッグ内に移し、ゴムバッグを吸引減圧機に接続し、加熱すると同時に−60kPa(絶対圧力16kPa)の減圧下で10分間保持し、合わせガラス構成体(積層体)の温度(予備圧着温度)が70℃となるように加熱した後、大気圧に戻して予備圧着を終了した。尚、上記予備圧着時の脱気開始温度は40℃、50℃及び60℃の3条件で行った。
【0076】
(本圧着)
上記方法で予備圧着された合わせガラス構成体(積層体)をオートクレーブ中に入れ、温度140℃、圧力1300kPaの条件下で10分間保持した後、50℃まで温度を下げ大気圧に戻すことにより本圧着を終了して、合わせガラスを作製した。
【0077】
(合わせガラスのベークテスト)
得られた合わせガラスを140℃のオーブン中で2時間加熱した。次いで、オーブンから取り出して3時間放冷した後、合わせガラスの外観を目視で観察した。各20枚についてガラス板と合わせガラス用中間膜との間に発泡(気泡)が生じた枚数を調べて、全ての条件下において発泡枚数が5枚以下であった場合を「○」と、発泡枚数が6枚以上であった場合を「×」と評価した。
【0078】
(2)光学歪みの評価
観測者から7m離れた地点に蛍光灯(パナソニック社製 FL32S.D)を置き、蛍光灯と観測者を結んだ直線上の観測者から40cm離れた地点に、得られた合わせガラスを水平面に対して20°になるように、傾けて設置した。合わせガラスを通して、蛍光灯が歪んで見えた場合を×、見えない場合を〇とした。
【0079】
(3)多重像発生の評価
輝度の異なる2種類の光源1及び光源2を用いて、多重像の発生の有無を評価した。ここで光源1は、10Wシリカ電球(旭光電機社製、PS55 E 26 110V−10W、全光束70lm)であり、自動車、航空機、建築 物等の窓ガラスに入射し得る一般的な輝度の光源を想定したものである。また、光源2は、40Wシリカ電球(朝日電器社製、LW100V38W−W 、全光束440lm)であり、自動車、航空機、建築物等の窓ガラスに入射 し得る光の中でも特に高輝度の光源を想定したものである。JIS R 3212(2008)に準拠する方法により、得られた合わせガラスの多重像の発生の有無を評価した。その結果、光源1、光源2のいずれを用いたときにでも、単一像が観察されるか、又は、15分以内の2重像が発生した場合を「○○」と、光源2を用いたときには多重像が発生するものの、光源1を用いたときには、単一像が観察されるか、又は、15分以内の2重像が発生した場合を「○」と、光源1、光源2のいずれを用いたときにでも、3重像が発生した場合を「×」と評価した。
なお、実車取付角度は30°に設定し測定を行った。また、A層の表面に付与した刻線状の凹部と、水平方向とが成す角を5°となるように配置し、C層の表面に付与した刻線状の凹部と、水平方向とが成す角を−5°となるように配置した。
また、15分以内の2重像とは中間膜に起因する像ではなく、ガラスに起因する像であった。
【0080】
【表1】
【0081】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明によれば、2層以上の樹脂層が積層された合わせガラス用中間膜であって、合わせガラスの製造工程において優れた脱気性を有し、かつ、多重像の発生を防止できる合わせガラス用中間膜、及び、該合わせガラス用中間膜を含む合わせガラスを提供することができる。
【符号の説明】
【0083】
1 任意に選択した一の凹部
2 任意に選択した一の凹部に隣接する凹部
3 任意に選択した一の凹部に隣接する凹部
A 凹部1と凹部2との間隔
B 凹部1と凹部3との間隔
10 樹脂層
20 多数の凹部と多数の凸部とを有する表面を有する樹脂層
21 樹脂層20の多数の凹部と多数の凸部とを有する表面
22 樹脂層20の樹脂層10と接していた側の表面
30 樹脂層
図1
図2
図3
図4
図5