(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6856765
(24)【登録日】2021年3月22日
(45)【発行日】2021年4月14日
(54)【発明の名称】レーザ加工用の放射を成形するための方法及び装置
(51)【国際特許分類】
B23K 26/067 20060101AFI20210405BHJP
B23K 26/064 20140101ALI20210405BHJP
【FI】
B23K26/067
B23K26/064 Z
【請求項の数】16
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2019-548706(P2019-548706)
(86)(22)【出願日】2018年3月2日
(65)【公表番号】特表2020-510538(P2020-510538A)
(43)【公表日】2020年4月9日
(86)【国際出願番号】EP2018055206
(87)【国際公開番号】WO2018162356
(87)【国際公開日】20180913
【審査請求日】2019年9月6日
(31)【優先権主張番号】102017203655.9
(32)【優先日】2017年3月7日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】390023711
【氏名又は名称】ローベルト ボツシユ ゲゼルシヤフト ミツト ベシユレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ドミトリー ミハイロフ
(72)【発明者】
【氏名】ローラント ガオホ
(72)【発明者】
【氏名】トビアス グラーフ
【審査官】
正木 裕也
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2005/050286(WO,A1)
【文献】
特開2007−253167(JP,A)
【文献】
特開2015−188900(JP,A)
【文献】
特開2015−221918(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/067
B23K 26/064
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ装置(20)においてレーザビーム(22)を加工/結像平面(29)上に集束させ、少なくとも1つのビームシェイパ(26、30)を用いて前記レーザビーム(22)を当該レーザビーム(22)の強度分布に関して調整可能である、レーザ加工プロセスにおけるビーム成形方法において、
前記加工/結像平面(29)における均一性障害を回避するために、少なくとも1つのビームスプリッタ(23)を用いて前記レーザビーム(22)を少なくとも2つの部分ビーム又は個別ビーム(24、25、35)に分割して前記部分ビーム又は個別ビームをそれぞれ異なるように制御し、又は、前記レーザビーム(22)の各部分ビーム又は個別ビームをそれぞれ異なる波長を有するレーザ源(21)から形成し、前記部分ビーム又は個別ビームが、当該部分ビーム又は個別ビームの合成及び前記加工/結像平面(29)上への集束の後、目標ビーム分布(33)に相当する所定の強度分布(28.1)を有する出力ビーム(28)を形成するようにし、前記所定の強度分布(28.1)の隣り合う強度最大値は、干渉形成を排除するために少なくとも1つ又は複数の光特性に関してそれぞれ異なり、
前記出力ビーム(28)の形成にあたり、前記加工/結像平面(29)における前記部分ビーム又は個別ビームの前記強度分布(24.1、25.1、37.1、37.2、37.3、37.4)を、反復パターンフィールド(MFA、MFB、MFC、MFD)を有する規則的なパターンMとして合成し、直接隣り合うパターンフィールド(MFA、MFB、MFC、MFD)は、それぞれ1つの異なるタイプの部分ビーム又は個別ビームに割り当てられており、前記異なるタイプの部分ビーム又は個別ビームは、少なくとも1つの光特性に関してそれぞれ異なる、
ことを特徴とする、レーザ加工プロセスにおけるビーム成形方法。
【請求項2】
前記部分ビーム又は個別ビーム(24、25、35)を、ビームシェイパ(26、30、37)及び/又は遅延ユニット(36)及び/又は波長操作器(38)を用いて、前記部分ビーム又は個別ビーム(24、25、35)の位相及び/又は強度分布(24.1、25.1、37.1、37.2、37.3、37.4)及び/又は波長に関して、それぞれ異なるように制御する、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記レーザビーム(22)を、それぞれ異なるように偏光された少なくとも2つの部分ビーム又は個別ビームに分割し、前記部分ビーム又は個別ビームをそれぞれビームシェイパ(26、30)を用いて当該部分ビーム又は個別ビームの強度分布(24.1、25.1)に関して変化させ、それぞれ異なるように偏光された前記部分ビーム又は個別ビームの合成後、両方の部分ビーム又は個別ビームの前記強度分布(24.1、25.1)を、前記目標ビーム分布(33)となるように前記加工/結像平面(29)において重畳させ、前記部分ビーム又は個別ビームの前記強度分布(24.1、25.1)の隣り合う強度最大値は、それぞれ異なる偏光を有する、
請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記規則的なパターンMは、チェス盤パターン又はハニカムパターン又は三角形パターン又は菱形パターンを含む、
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記ビームシェイパ(26、30、37)を用いて、所定の時間間隔で前記部分ビーム又は個別ビーム(24、25、35)を相前後して、少なくとも1つの位相マスク及び/又は振幅マスクによって変形させる、
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記目標ビーム分布(33)に応じて、前記レーザ加工のためにそれぞれ異なる位相マスク及び/又は振幅マスクを予め設定する、
請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記部分ビーム又は個別ビームをそれぞれ単独で別個に又は共通に、前記位相マスク及び/又は振幅マスクによって変形させる、
請求項5又は6に記載の方法。
【請求項8】
前記ビーム成形のために、空間光変調器として構成された回折型ディフューザを用いる、
請求項1乃至7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
パルス化された又はパルス化されていない干渉性光源を用いる、
請求項1乃至8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
パルス化されたレーザを用いた場合には、前記レーザビーム(22)を各部分ビーム又は個別ビームについてそれぞれ異なる強度分布(35.1、35.2、35.3、35.4)を有する少なくとも2つの部分ビーム又は個別ビーム(24、25、35)に分割した後、前記遅延ユニット(36)を用いて、前記レーザビーム(22)を各部分ビーム又は個別ビーム(24、25、35)についてそれぞれ異なるように時間的に遅延させ、前記部分ビーム又は個別ビーム(24、25、35)の合成及び前記加工/結像平面(29)上への集束の後、前記レーザビーム(22)は、少なくとも時間的に前記加工/結像平面(29)において重畳することなく、前記所定の強度分布(28.1)を有する出力ビーム(28)を形成し、前記ビームシェイパ(37)は、各部分ビーム又は個別ビームについてそれぞれ異なる強度分布(35.1、35.2、35.3、35.4)を生成するために、前記ビームスプリッタ(23)と組み合わせられており、又は、前記遅延ユニット(36)の下流でビーム合成器(27)の上流に配置されている、
請求項1乃至8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
最小遅延を前記レーザビーム(22)のパルス持続時間以上に選定する、
請求項10に記載の方法。
【請求項12】
1番目の部分ビーム又は個別ビームについては遅延を選定せず、2番目の部分ビーム又は個別ビームについては前記レーザビーム(22)の少なくともパルス持続時間に対応させて遅延を選定し、3番目の部分ビーム又は個別ビームについては前記レーザビーム(22)の少なくとも2倍のパルス持続時間に対応させて遅延を選定し、n番目の部分ビーム又は個別ビームについては前記レーザビーム(22)の少なくとも(n−1)倍のパルス持続時間に対応させて遅延を選定する、
請求項10又は11に記載の方法。
【請求項13】
前記レーザビーム(22)をn個の部分ビーム又は個別ビーム(35)に分割し、当該n個の部分ビーム又は個別ビーム(35)のうち一部の少なくとも1つの部分ビーム又は個別ビームを、ビームシェイパ(26、30、37)を用いて当該少なくとも1つの部分ビーム又は個別ビームのビーム形状に関して変化させ、前記n個の部分ビーム又は個別ビーム(35)のうち残余の1つ又は複数の部分ビーム又は個別ビーム(35)をビーム成形することなく、前記加工/結像平面(29)内の被加工ワークピース上で1つの照射フィールドとなるように、ビーム成形された前記少なくとも1つの部分ビーム又は個別ビームと合成し、又は、前記複数の他の部分ビーム又は個別ビーム(35)を目標とする干渉状態に至らしめる、
請求項1乃至12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
レーザ切削、レーザ穿孔、レーザマーキング、レーザはんだ付け若しくはレーザ溶接、レーザ切断、レーザ焼結及び肉盛溶接、レーザ洗浄、レーザ硬化、レーザ再溶解、レーザ合金化及び分散のための、又は、レーザ研磨のための、レーザ加工装置における請求項1乃至13のいずれか一項に記載の方法の使用。
【請求項15】
少なくとも1つの計算ユニット(34)、レーザ源(21)及びビームシェイパ(26、30、37)を含む、レーザ装置(20)であって、
前記レーザ源(21)からのレーザビーム(22)を、加工/結像平面(29)上に集束可能であり、前記レーザビーム(22)を前記ビームシェイパ(26、30、37)により当該レーザビーム(22)の強度分布に関して調整可能であるレーザ装置(20)において、
前記レーザ装置(20)及び前記計算ユニット(34)は、請求項1乃至13のいずれか一項に記載の方法を実施するための制御装置を備えており、
少なくとも1つのビームスプリッタ(23)により前記レーザビーム(22)を部分ビーム又は個別ビーム(24、25、35)に分割可能であり、又は、各部分ビーム又は個別ビーム(24、25、35)を、それぞれ異なる波長を有するレーザ源(21)から生成可能であり、
前記計算ユニット(34)により制御可能であるビームシェイパ(26、30、37)及び/又は遅延ユニット(36)及び/又は波長操作器(38)によって、前記部分ビーム又は個別ビームを、当該部分ビーム又は個別ビームの位相、偏光、波長及び/又は強度分布(24.1、25.1、37.1、37.2、37.3、37.4)に関して、それぞれ異なるように制御可能であり、
ビーム合成器(27)による前記部分ビーム又は個別ビームの合成及び前記加工/結像平面(29)上への集束の後、目標分布(33)に相当する所定の強度分布(28.1)を有する出力ビーム(28)を形成可能であり、前記所定の強度分布(28.1)の隣り合う強度最大値は、干渉形成を排除するために少なくとも1つ又は複数の光特性に関してそれぞれ異なる、
ことを特徴とするレーザ装置(20)。
【請求項16】
前記レーザ装置(20)は、材料加工のためのレーザ装置(20)である、
請求項15に記載のレーザ装置(20)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ加工プロセスにおけるビーム成形方法であって、レーザ装置においてレーザビームを加工/結像平面上に集束させ、少なくとも1つのビームシェイパを用いてレーザビームをその強度分布に関して調整可能である、ビーム成形方法に関する。
【0002】
本発明はさらに、装置、特に本発明に係る方法を実施するための計算ユニットを備えたレーザ装置に関する。
【背景技術】
【0003】
レーザ材料加工(レーザ切削、レーザ溶接、レーザはんだ付け、レーザ洗浄、レーザ穿孔、レーザ焼結、レーザ溶融等)の場合、多くのケースでは、ガウス状の強度分布を有する集束されたレーザビームを用いて作業が行われる。ただし、これらのプロセスの多くのために非常に有利であるのは、加工平面における強度分布をプロセスに整合させることである。この場合、加工平面におけるビーム成形は、レーザプロセスの発展にとって非常に大きな最適化の可能性をもたらすものである。
【0004】
レーザビームをその強度分布について成形できるようにするには、レーザビームの位相、振幅又はこれら双方を共に変調しなければならない。従って、位相変調器、振幅変調器、又は、位相及び振幅変調器が設けられている。振幅変調器(例えば、DMDマイクロミラーアレイ)の重大な欠点は、ビーム成形のためにこれを使用した場合に、元のビームのレーザ放射の少なくとも一部分が弱まり、これに伴ってシステム全体のエネルギー効率が低下してしまうことである。位相変調器の利点は、これが元のビームの振幅に影響を及ぼさず、従って、(ほぼ)すべてのエネルギーをレーザ加工プロセスのために利用できることである。他方、位相変調器は、2つの異なる方式、即ち、屈折(refraction)方式と回折(diffraction)方式とに基づく。従って、屈折型ビームシェイパと回折型のビームシェイパとが存在する。前者のビームシェイパは、そのビーム成形の可能性においてかなり制約されており、即ち、主として、いわゆるトップハットビーム、ベッセルビーム、エアリービーム、ドーナツ等のように、単純で通常は軸対称でもあるビーム形状だけしか生成できない。複雑な幾何学的形状、特に回転対称又は矩形対称ではない幾何学的形状のためには、任意形状面の使用が必要とされる。これに対応する設計手法及び製造手法がすでに開発されているが、まだ産業における標準ではない。これに対して、回折型ビームシェイパによれば、ビーム成形及びビーム分割のためにこれよりもかなり多くの可能性がもたらされる。なぜならば、対応する微小光学的構造を、例えば、リソグラフィ法、射出成形、又は、刻印などによって製造することができ、確立された位相回復アルゴリズムを用いて計算することができるからである。しかも、例えば、液晶技術又はマイクロミラーアレイなどをベースとする切り替え可能なビームシェイパが、ますます市場で入手できるようになってきている。
【0005】
回折型ビームシェイパは少なくとも、1次元アレイ又は2次元アレイの構造であって、これらは離散化された位相遅延(位相分布)の形状を(未成形の)入射レーザビームに与える。入射レーザビームの位相分布を変化させることによって、フーリエ平面(焦点平面)におけるこのビームの強度分布も同様に変化させられる/変調される。公知の回折型ビームシェイパは、例えば、いわゆる回折光学素子(DOE)であって、これらはガラス又はプラスチックから構築されており、固定的な非可変の回折構造を組み込んでいる。さらに、例えば、空間光変調器(SLM)、好ましくは複屈折液晶を備えた液晶ベースの位相変調器などのように、フレキシブルな/プログラミング可能なビームシェイパも公知である。
【0006】
DOEに組み込まれた又はSLMにおいてプログラミングされた回折構造は、位相マスクと呼ばれる。この位相マスクを設計するために、ビーム形状に対する要求に応じて選定される種々のアルゴリズムが用いられる。広く普及しているのは、反復フーリエ変換アルゴリズム(IFTA)をベースとするいわゆる回折型ディフューザアルゴリズムである。このアルゴリズムの課題は、位相マスクの形状設定により未成形の入射ビームから、加工平面において所望のビーム分布又は所望の強度分布を生じさせる所定数の回折次数を生成することである。この場合、回折型ディフューザアルゴリズム(以下IFTA)を、ビーム分割及びビーム成形のために用いることができる。生成された個々の回折次数が互いに十分な間隔をおいて位置しており、ほぼオーバラップしていない場合には、これをビーム分割と称する。また、個々の回折次数が互いに近くに位置しており、それらの局所的な重畳によって、フラットな強度分布として形づくられた所望のビーム分布が生じる場合には、これをビーム成形と称する。
【0007】
IFTAを用いて形成された位相マスクは、他のアルゴリズムと比べて複数の利点をもたらし、それゆえレーザ材料加工において優先的に用いられる。回折型ディフューザアルゴリズムIFTAは、
・著しく高いレーザ放射エネルギー活用効率をもたらす(ほとんど拡散放射がない)。
・ビームシェイパにおけるレーザビーム位置に対し低いアライメント感度を有する位相マスクを形成する。
・入射ビームの個々の回折次数から所望のビーム分布を合成し、これに伴い生成されるビーム分布の焦点深度が、未成形の集束された入射ビームの焦点深度と同等になる。
・(数学的見地から)比較的に簡単に実装できる。
・(計算時間技術的見地から)高速なアルゴリズムである。
【0008】
特に、回折型ディフューザをビームスプリッタとして用いると、この場合には各回折次数が入射ビームの1つの結像を表すが、このアルゴリズムにより、ポジション及び個々のポイント出力の設定において高い精度がもたらされる。現在のところ、加工平面における個々の回折次数の出力変動が±0.5%の範囲内にあるビームスプリッタ位相マスクを形成することができる。
【0009】
列挙したこれらの利点ゆえに、ビーム分割が問題になるときには、しばしば既述のIFTAを用いてDOE及びSLMのための位相マスクが計算される。ビーム成形の場合、このアルゴリズムは1つの重大な欠点を有する。即ち、個々の回折次数が互いに近くに並んで配置されているので、特定のケースでは(例えば、隣り合う回折次数において位相が跳躍的に変化した場合には)、隣り合うそれらの回折次数間で不所望な干渉が引き起こされる。強め合う干渉と弱め合う干渉が交互に生じることで、100%に至るまでのコントラスト比が引き起こされる。このような干渉現象は、又は、スペックルパターンも、レーザ加工において妨害を及ぼす。従って、回折型ディフューザアルゴリズムIFTAを用いたビーム成形の場合には、このアルゴリズムの数多くの利点を活用できるようにするために取り除かなければならない重大な欠点がある。
【0010】
米国特許第6,717,104号明細書(US6,717,104B2)には一例として、レーザ放射を用いた材料加工用システムが記載されており、このシステムは、ワークピースへ案内されるレーザビームを生成するレーザ源と、ワークピースにおいて対応する強度分布を生成する目的で、レーザビームの位相特性に作用を与えるために個別に制御可能な素子を備えた空間光変調器SLMと、SLMと接続されて個別に制御可能なそれらの素子を制御するための制御ユニットとから成り、これにより意図する材料加工に適した望ましい強度分布がワークピースにおいて達成されるように、レーザビームの位相特性を設定することができる。さらにSLMの上流側でワークピースに向けてセンサが配向されており、これらのセンサは強度分布を捕捉してデータを制御ユニットへ送信し、それらのデータに基づき位相分布における偏差が補正される。
【0011】
欧州特許出願公開第000000540759号明細書(EP000000540759A1)から、空間内にパターンを生成するための光学機器が公知である。この機器は、少なくとも1つの干渉性光源と、干渉性光源の光の波頭を成形するためのフラットな光変調器(空間光変調器SLM)と、この光変調器における複合的な振幅分布を記録するための装置とを備えている。この光学機器は、(構造化された)パターンを対象に取り付けるのに適している。特にこの場合、構造化すべき対象の多重露光について述べられ、これによれば光変調器へ時間的に相前後して種々のデータセットが供給され、それらのデータセットによって、構造化すべき対象に同等のパターンがもたらされる。これによって、スペックルパターンが対象上で平均化される。
【0012】
国際公開第00206104704号(WO00206104704A1)には、所定のピクセルレートを有する空間光変調器(SLM)を用いたレーザプロジェクタにおいてスペックルパターンを低減するための装置が記載されている。この装置によれば、レーザビームがビームスプリッタにより2つのビームに分割され、その際に第1のビームは第1の半波プレートによりs偏光されたビームとなるように成形され、第2のビームは第2の半波プレートによりp偏光されたビームとなるように成形される。これらのビームは、スペックルパターンを低減する目的で、SLMに従って合成される。この文献に記載された装置は、プロジェクションスクリーンにイメージを再生するためのレーザプロジェクタに関するものであり、従って、いわゆる主観的スペックルの発生に関するものである。
【0013】
米国特許第6,577,429号明細書(US6,577,429B1)には、スペックルパターン形成が低減された表示装置が記載されており、これは例えば、プロジェクション装置であって、この装置は実質的に、パルス化レーザと、それぞれ互いに時間的に遅延された部分レーザビームを生成するためのビームスプリッタ装置と(ただし、この時間遅延はレーザの干渉長以上)、部分レーザビームの干渉を低減するディフューザと、照射均等性を改善してスペックルパターン形成をさらに低減するハニカムインテグレータと、面光変調器と、イメージを表示させるためのプロジェクションレンズとから構成されている。
【0014】
特にレーザ材料加工の場合には、客観的スペックルパターン、即ち、被加工材料表面上の加工平面内に直接形成されるスペックルが、例えば、レーザ溶接、切削、はんだ付け等において、加工品質に悪影響を及ぼす可能性がある。本出願人によるまだ公開されていない複数の並行出願には、どのようにしてビーム品質を改善できるのかについての様々なアプローチが記載されている。即ち、特にこれらの出願には、冒頭で述べた妨害を及ぼすスペックルパターンをどのようにして補償できるのかについてのアプローチも記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】米国特許第6,717,104号明細書
【特許文献2】欧州特許出願公開第000000540759号明細書
【特許文献3】国際公開第00206104704号
【特許文献4】米国特許第6,577,429号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明の課題は、任意の干渉性の成形された放射による加工品質を向上させる目的で、回折型ディフューザアルゴリズムを用いて生成/成形されたビーム分布において、個々の隣り合う回折次数間の不所望な干渉の発生を抑圧することにある。
【0017】
さらに本発明の課題は、これに対応する装置を、特に上述の方法を実施するための計算ユニットを備えたレーザ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
発明の開示
方法に関する課題は、請求項1乃至13に記載の特徴によって解決される。
【0019】
この場合、本発明によれば以下のように構成されている。即ち、加工/結像平面における均一性障害を回避するために、少なくとも1つのビームスプリッタを用いて、レーザビームを少なくとも2つの部分ビーム又は個別ビームに分割し、これらの部分ビーム又は個別ビームをそれぞれ異なるように制御して、又は、各部分ビーム又は個別ビームをそれぞれ異なる波長を有するレーザ源から形成して、これらの部分ビーム又は個別ビームが、これらのビームの合成及び加工/結像平面上への集束の後、所定の強度分布を有する出力ビームを形成するようにし、ただし、出力ビームの強度分布の隣り合う強度最大値は、干渉形成を排除するために少なくとも1つ又は複数の光特性に関してそれぞれ異なる。従って、この光特性とは、物理的に処理されるべき少なくとも1つの同等の光特性を有する少なくとも2つの光ビームの合成にあたり、干渉の形成に対する判定基準となる光特性のことを意味している。この場合、隣り合う強度最大値は、それぞれ1つの部分ビーム又は個別ビームに対応づけられている。その際に個々の強度最大値は、部分ビーム又は個別ビームの設定されたビーム分布の結果として生じる。かくして有利には、干渉性のレーザ放射であるにもかかわらず、隣り合う回折次数間で不所望な干渉を阻止することができ、このことは加工/結像平面におけるビーム品質を著しく高め、ひいてはレーザ加工プロセスの改善に役立つ。よって、特に冒頭で述べたスペックルパターンを回避することができる。
【0020】
少なくとも1つ又は複数のそれぞれ区別されるべき上述の光特性に関して、種々の選択の可能性がある。この場合、方法に関する好ましい変形実施形態によれば、部分ビーム又は個別ビームを、ビームシェイパ及び/又は遅延ユニット及び/又は波長操作器を用いて、それらの部分ビーム又は個別ビームの位相及び/又は強度分布及び/又は波長に関して、それぞれ異なるように制御する。従って、1つのケースによれば、直接隣り合うサブ部分ビームの干渉を排除することができる。その理由は、それらのサブ部分ビームは、それぞれ異なる遅延を予め設定すれば、加工/結像平面において時間的にそれぞれ異なるように発生するからであり、即ち、それらのサブ部分ビームは、レーザ放射の干渉長よりも時間的に長く、又は、パルス化された放射の場合にはパルス持続時間よりも長く、互いに離れており、そのため干渉する可能性がないからである。他のケースによれば、個別ビーム又はサブ部分ビームが干渉する可能性がないようにする目的で、それらのビームの相応のビーム成形及び生成によって、1つの部分ビームの複数のサブ部分ビームが、位置に関して十分に隔たって分離されて加工/結像平面上に投影されるようにすることができる。直接隣り合う強度最大値がそれぞれ僅かに異なる波長を有する場合には、妨害を及ぼす干渉を同様に阻止することができる。よって、方法に関するこれらすべてのアプローチが互いに補完され合い、これらのアプローチの組み合わせによれば、冒頭で述べたような隣り合う回折次数間の不所望な干渉及びその結果として生じる強度コントラスト(均一性障害)を回避する、1つの理想的な方法が形成される。
【0021】
妨害を及ぼすスペックルパターンを回避するための、方法に関する1つの特に有利な変形実施形態によれば、レーザビームを、それぞれ異なるように偏光された少なくとも2つの部分ビームに分割し、それらの部分ビームをそれぞれビームシェイパを用いてそれらの部分ビームの強度分布に関して変化させ、それぞれ異なるように偏光された部分ビームの合成後、両方の部分ビームの強度分布を、目標分布となるように加工/結像平面において重畳させ、強度分布の隣り合う強度最大値は、それぞれ異なる偏光を有し、かつ、それぞれ1つの部分ビームに対応づけられている。このケースでは、隣り合う強度最大値が、加工平面又は結像平面においてそれぞれ異なるように偏光されているので、それらが互いに干渉する可能性はなく、従って、スペックル作用を著しく低減することができ、レーザ加工品質を高めることができる。旋回された偏光を有する2つの強度分布をここで提案したようにインタリーブすることによって、スペックルパターンとして妨害作用を及ぼす上述の不所望な強度変動又は上述の均一性障害を回避することができ、それにもかかわらず上述の高度にフレキシブルなビーム成形手法を利用することができる。これに関連して述べておくと、レーザビームを最初に相応に成形し、その後、それに続いてビーム分割及び偏光旋回を部分ビーム合成前に行う方法も考えられる。
【0022】
加工/結像平面における部分ビーム又は個別ビーム(又はサブ部分ビーム)の強度分布を、反復パターンフィールドを有する規則的なパターンとして合成すれば、コンピュータベースの位相マスク及び/又は振幅マスクの生成に関して有利である。このようにすれば、個々のパターンフィールドを全体として単純な幾何学的形状となるように配置することができ、従って、この場合には、規則的なパターンが例えば、チェス盤パターン、ハニカムパターン、三角形パターン、菱形パターン、又は、他の規則的なパターンとして得られるようになる。従って、出力ビームの強度分布は、1つの部分ビーム又は個別ビームの個々の強度分布により形成される隣り合うパターンフィールドから成る。この場合、直接隣り合うパターンフィールド自体は、上述の光特性のうち少なくとも1つ又は複数においてそれぞれ異なる部分ビーム又は個別ビームによって形成される。
【0023】
この場合に好ましくは、少なくとも1つの第1のタイプ(例えば、タイプA)の少なくとも複数の部分ビームが、第1のマトリックスアレイにおいて互いに離間されて配置されており、かつ、少なくとも第2のタイプ(例えば、タイプB)の少なくとも複数の部分ビームが、第2のマトリックスアレイにおいて互いに離間されて配置されており、その際に複数の部分ビームから成る少なくとも第1及び第2のマトリックスアレイは、加工/結像平面において規則的なパターンを形成しながら、直接隣り合うパターンフィールドがそれぞれ異なるタイプの部分ビームに対応づけられているように、互いにインタリーブされて配置される(例えば、規則的なパターンがABABA等の部分ビームタイプの配置として存在する)。2つよりも多くの部分ビームタイプの場合には、加工/結像平面において形成された規則的なパターンのパターンフィールドに対するそれらの部分ビームタイプの対応づけを、それぞれ同一の順序で反復させることができる(3つの部分ビームタイプの場合であれば、例えば、規則的なパターンがABCABCABC等の部分ビームタイプの配置として存在する)。ただし、この反復を、特定の適用事例において他の反復パターンに従って配向することもでき、例えば、ABCABABABCABABABC等の部分ビームタイプの配置として1つのパターンが形成されるように、配向することもできる。個々のタイプのマトリックスアレイ内の個々の部分ビームは、好ましい実施形態によれば、少なくともこれらの部分ビーム間で干渉現象が発生しない程度に、互いに離間されて配置されている。
【0024】
ここで出力ビームの強度分布を加工/結像平面において、以下で示すようにパターン形成に応じて著しく変化させやすくかつ固有に設定することができる。
【0025】
a)少なくとも1つの第1のタイプの部分ビームと他のタイプの部分ビームとが、特にすべてのタイプの部分ビームが、互いに離間されて配置されていることによって、1つのパターン形状が現れ、これによって特に、加工/結像平面内で対応して形成される直接隣り合うパターンフィールドが、互いに非照射間隔領域を有する。他の選択肢として、又は、これに加えて、少なくとも第1のタイプの部分ビームと他のタイプの部分ビーム又はさらに異なるタイプの部分ビームとが、特にすべてのタイプの部分ビームが、直接隣接して及び/又は互いにオーバラップして配置されており、これによって特に、加工/結像平面内で対応して形成される互いに直接隣り合うパターンフィールドが、ギャップなく互いに隣接し及び/又はオーバラップする。
【0026】
b)少なくとも1つのタイプの部分ビーム又は複数のタイプ特にすべてのタイプの部分ビームが、それらの部分ビームの個々のマトリックスアレイ内において、同等のビーム分布又は同等の強度値、同等の断面サイズ及び/又は同等の断面形状を有することによって、他のパターン形状が現れる。他の選択肢として、又は、これに加えて、少なくとも1つのタイプ又は複数のタイプ特にすべてのタイプの部分ビームが、それらの部分ビームのビーム分布又は強度値、断面サイズ及び/又は断面形状に関して、それぞれ異なっている。このようにすれば、1つのパターンフィールドの断面形状を、例えば、円形として、矩形又は正方形として、三角形として、菱形として、又は、n角形(ただし、n>5)として、作り上げることができる。この場合、基本的に、それぞれ異なるタイプの個々のマトリックスアレイ内において局所的にゼロの強度値が生じるようにしてもよく、その結果、局所的に部分ビームが有効ではなくなる。従って、このようにすれば、加工/結像平面における規則的なパターンを、照射パターンフィールドと非照射パターンフィールドとによって生じさせることもできる。いずれのパターンフィールドが部分ビーム又は個別ビームによって照射されるのか又は非照射のままにされるのかの設定に従い、多種多様な断面形状を有する出力ビームを加工/結像平面に形成することができ、その際に断面形状は照射されるすべてのパターンフィールドから生じる。
【0027】
c)少なくとも1つのタイプの部分ビーム又は複数のタイプ特にすべてのタイプの部分ビームが、それらの部分ビームの個々のマトリックスアレイ内において、同一の焦点平面に結像されることによって、さらに他のパターン形状が現れる。他の選択肢として、又は、これに加えて、少なくとも1つのタイプ又は複数のタイプ特にすべてのタイプの部分ビームが、それらの部分ビームがそれぞれ結像するそれらの部分ビームの結像平面に関して、それぞれ異なっている。これによって、加工/結像平面の任意の平面推移に合わせて、パターン形成を整合させることができる。
【0028】
この場合、方法に関する1つの好ましい変形実施形態によれば、さらにビームシェイパも用いることで、短い時間間隔で複数の部分ビームが相前後して、同等の所望の強度分布を加工/結像平面に生じさせる少なくとも1つの位相マスク及び/又は振幅マスクによって変形されるように構成されている。この場合、これらの位相マスク及び/又は振幅マスク各々によって、それぞれ異なるスペックルパターンが生じる。それぞれ異なる位相マスク及び/又は振幅マスクが、ビームシェイパによって相前後して表されれば、種々の強度コントラスト又はスペックルパターンが加工/結像平面において、時間的に即ち非干渉に重畳させられ、これによって強度コントラスト又はスペックルコントラストの低減をもたらす時間的な平均化が生じるようになる。交番するスペックルパターン間の間隔が十分に短ければ、加工品質を付加的に高めることができる。この場合に前提となるのは、ビーム成形に使用されるシステムが、種々の位相マスク及び/又は振幅マスクを描くために十分に高いイメージ繰り返し周波数を使用できることである。
【0029】
この場合、目標ビーム分布に応じて、レーザ加工のためにそれぞれ異なる位相マスク及び/又は振幅マスクを予め設定すると有利である。それらをレーザ加工装置のための計算ユニットに記憶しておくことができ、又は、目標ビーム分布に応じて生成することができる。
【0030】
同様に、方法に関する1つの有利な変形実施形態によれば、部分ビームをそれぞれ単独で別個に又は共通に、位相マスク及び/又は振幅マスクによって変形させる。
【0031】
方法に関する1つの好ましい変形実施形態によれば、ビーム成形のために回折型ディフューザが用いられ、これは空間光変調器(SLM)として構成されている。位相変調によるビーム成形を、有利にはLCoS−SLMユニット(
Liquid
Crystal
on
Silicon)を用いて行うことができ、これによれば複屈折液晶アレイを用いて、各ピクセルがそれぞれ異なるように制御可能な液晶角度配向を有するようにすることで、入射レーザビームの位相を離散化することができる。このようにすれば、高分解能の高速かつフレキシブルな位相変化を、未処理のビームにおいて実現することができ、加工平面又は投影平面におけるレーザ出力密度分布の変化を、フーリエ変換に従いレンズ系を用いて整合させることができる。基本的にはビーム成形を、振幅変調を用いビーム成形モジュール内のDMDユニット(
Digital
Micromirror
Device)によって行うこともできる。この場合、個別に制御可能な複数のマイクロミラーから成るアレイが、入射レーザビームを多数の小さい部分ビームに分割することによって離散化し、これと共に個別ビームをそれぞれ異なるように偏向することによって、加工平面におけるレーザビームの強度分布を整合させることができる。この場合、入射光が部分的に再びそのまま反射して戻され、このことは水平方向のミラー位置において行われ、又は、部分的にマイクロミラーの傾斜によりビーム束からカットされる。ただし、これによってエネルギー効率が低下し、このことはビームシェイパとしてSLMユニットを用いることに比べて、1つの欠点を成す可能性がある。
【0032】
本発明に係る方法のために、レーザ材料加工において用いられるように、パルス化された又はパルス化されていない干渉性光源(レーザ)を用いることができる。
【0033】
パルス化されたレーザを使用する場合、各部分ビームについて強度分布がそれぞれ異なる少なくとも2つの部分ビーム又は個別ビームにレーザビームを分割した後、遅延ユニットを用いてこのレーザビームを、各部分ビーム又は個別ビームについてそれぞれ異なるように時間的に遅延させることができ、その結果、これらのビームの合成及び加工/結像平面への集束の後、少なくとも時間的に加工/結像平面において重畳することなく、所定の強度分布を有する出力ビームが形成される。この場合、各部分ビームについてそれぞれ異なる強度分布を生成するためのビームシェイパを、ビームスプリッタと組み合わせて、又は、遅延ユニットの下流においてビーム合成器の上流に配置することができる。方法に関するこの変形実施形態は特に有利には、短パルスレーザ又は超短パルスレーザ、例えば、ピコ秒レーザ又はフェムト秒レーザ(psレーザ又はfsレーザ)の場合に、加工/結像平面において不所望なビーム干渉を回避するために適用することができる。
【0034】
部分ビーム合成後の時間的な重畳を完全に回避する目的で、方法に関する好ましい変形実施形態によれば、最小遅延がレーザビームのパルス持続時間以上に選定される。
【0035】
方向に関する1つの好ましい変形実施形態によれば、1番目の部分ビームについては遅延を選定せず、2番目の部分ビームについてはレーザビームの少なくともパルス持続時間に対応させて遅延を選定し、3番目の部分ビームについてはレーザビームの少なくとも2倍のパルス持続時間に対応させて選定し、n番目の部分ビームについてはレーザビームの少なくとも(n−1)倍のパルス持続時間に対応させて選定する。このようにすれば、最も速い部分ビームと最も遅い部分ビームとができるかぎり短い時間間隔で加工平面に入射し、その結果、ビーム分布全体が最小限にしか時間的に歪まされない。
【0036】
方法に関するさらに他の変形実施形態によれば、レーザビームをn個の部分ビームに分割し、これらn個の部分ビームのうち少なくとも1つの部分ビームを、ビームシェイパを用いてこの少なくとも1つの部分ビームのビーム形状に関して変化させ、1つ又は複数の他の部分ビームをビーム成形することなく、加工/結像平面内の被加工ワークピース上で1つの照射フィールドとなるように、ビーム成形された少なくとも1つの部分ビームと合成し、又は、複数の他の部分ビームを目標とする干渉状態に至らしめ、これによって種々の照射タスクを同時に処理できるようになる。一方ではこのようにすることで、レーザ出力全体をビーム成形しなくてもよいことから、ビームシェイパユニットの加熱を低減することができ、他方ではこのようにすることで、種々の照射タスクを1つのステップで実施することもできる。従って、例えば、レーザ切削プロセス又はレーザ干渉により支援される構造化プロセスを実現することができる。前述の均一性障害の回避を、このアプローチによっても保証することができる。ここで述べておくと、まだ公開されていない並行出願には、方法に関するこの変形実施形態についてさらに詳しく述べられている。
【0037】
方法の好ましい使用によれば、方法の変形実施形態と共にすでに述べたように、レーザ切削、レーザ穿孔、レーザマーキング、レーザはんだ付け若しくはレーザ溶接、レーザ切断、レーザ焼結及び肉盛溶接、レーザ洗浄、レーザ硬化、レーザ再溶解、レーザ合金化及び分散のための、又は、レーザ研磨のための、レーザ加工装置における使用が考えられる。これらの場合には、均質なビーム形状を有する完全なビーム品質が重要である。特に、ビーム成形時に妨害を及ぼす冒頭で述べたスペックル形成は、不正確さを引き起こすおそれがあり、このようなスペックル形成をここで呈示した方法によって補償することができる。
【0038】
装置に関する課題は、以下のことにより解決される。即ち、レーザ装置及び計算ユニットは、これまで述べてきたように方法を実施するための機構を備えており、レーザビームを少なくとも1つのビームスプリッタにより部分ビーム又は個別ビームに分割可能であり、又は、各部分ビーム又は個別ビームを、それぞれ異なる波長を有するレーザ源から生成可能であり、計算ユニットにより制御可能であるビームシェイパ及び/又は遅延ユニット及び/又は波長操作器によって、部分ビーム又は個別ビームを、それらのビームの位相、偏光、波長及び/又は強度分布に関して、それぞれ異なるように制御可能であり、ビーム合成器によるそれらのビームの合成及び加工/結像平面上への集束の後、所定の強度分布を有する出力ビームを形成可能であり、ただし、この強度分布の隣り合う強度最大値は、干渉形成を排除するためにその光特性に関してそれぞれ異なる。基本的に、隣り合う回折次数間の不所望な干渉現象を回避するためのこれまで述べてきたアプローチ/原理又はこの種のレーザ装置(偏光、波長、干渉長又はパルス持続時間よりも大きい遅延)を、場合によっては少なくとも部分的に組み合わせて、既存のレーザ加工装置に組み込むことができる。
【0039】
これらの組み合わせによれば、装置の構造スペースの小型化、回折次数のタイプの個数の増大に関して、ひいては干渉現象のさらなる低減に関しても、多くのケースにおいて利点をもたらすことができる。
【0040】
次に、図面に描かれた実施例に基づき本発明について詳しく説明する。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【
図1】回折型ディフューザを用い複数の個別ビーム分布を1つの目標分布となるように重畳させることに関するグラフを示す概略図である。
【
図2】
図2a及び
図2bは、客観的スペックルと主観的スペックルとの相違を示す概略図である。
【
図3】
図3a乃至
図3dは、本発明による原理を示す概略図である。
【
図4】それぞれ異なるようにビーム分割された4つの分布を1つの矩形トップハットとなるようにした例示的なインタリーブについて示す概略図である。
【
図5】ワークピースを加工するためのレーザ装置を示す概略図である。
【
図6】それぞれ異なるように偏光された複数の部分ビーム分布を1つの目標分布となるように重畳させることについて示すさらに他のグラフである。
【
図7】それぞれ異なる波長を有する2つのレーザ源を用いてワークピースを加工するためのレーザ装置を示す概略図である。
【
図8】それぞれ異なる波長の部分ビームを用いた選択的なレーザ装置を示すさらに他の概略図である。
【
図9】レーザビームがそれぞれ異なる部分ビーム及び個別ビームに分割されるレーザ装置を示すさらに他の概略図である。
【
図10】パルス化レーザ源を備えたレーザ装置を示すさらに他の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
図1には、回折型ディフューザ16を使用した場合の冒頭で述べた欠点がグラフ10に概略的に示されている。間隔12に依存する強度11の推移として概略的に示された目標分布13の強度分布が、ディフューザ16を用いて複数の回折次数14の重畳により合成される。これらの回折次数14が過度に近くに隣り合って位置し、かつ、強い位相変動を有すると、これらが干渉し、スペックル15とも呼ばれる不所望な干渉現象が形成される。これらの均一性障害又はスペックルパターンは、強め合う干渉と弱め合う干渉とが交互に生じることに起因して、目標分布13の結像を妨害する。
【0043】
これに加えて、用いられる結像システムに応じて、通常、英語の文献では「主観的(“subjective”)スペックル」と「客観的(“objective”)スペックル」とが区別される。主観的スペックルは、例えば、表面が粗い画面を見ることにより発生し、例えば、見る角度によって変化する。その理由は、位相シフト及びその結果として生じる干渉パターンは、画面において初めて(又は光学系における表面によっても)、例えば、表面の粗さによって形作られるからである。客観的スペックルは、回折光学素子(DOE)における位相の跳躍的変化の結果として生じ、従って、位相マスクのフーリエ変換によって規定される。
【0044】
図2a及び
図2bには、この相違が概略的に説明されている。客観的スペックルは、回折光学素子(DOE)又は空間光変調器(SLM)(ここではビームシェイパ26、30として略示、
図3参照)による意図的なビーム成形後、焦点平面において、又は、加工/結像平面29(
図3参照)において発生する。即ち、干渉パターンは、レーザビーム22の干渉性放射の位相変調として用いられるビーム成形のやり方ゆえに発生する。これらの干渉パターンは、観察者の眼の中で発生するのではなく、すでに焦点平面又は加工/結像平面29において、スペックル15として存在している。本発明が呈示した課題によれば、これらの客観的スペックル15を回避することが必要である。
【0045】
これに対して、
図2bには、干渉性放射(レーザビーム22)により照射された拡散性表面18に「主観的スペックル」が微光として発生することが、概略的に描かれている。この場合、拡散性表面18は、実際には任意の粗い表面である。特に、干渉性放射の波長のオーダで粗さを有する表面における作用がわかるように示されている。これらのスペックルは、表面18における回折に起因して発生する干渉である。ただし、これらのスペックル15は、観察者の眼19の中又はカメラにおいて初めて見ることができる。結像平面には、これらのスペックルパターンは存在しない。
【0046】
本発明の核となる着想は、干渉性放射のビーム分割のための位相マスクを計算するための回折型ディフューザアルゴリズムのすべての利点を活用し、それによってひいては隣り合う回折次数間で不所望な干渉が発生することなく、ビーム成形も実施できるようにすることである。この場合、以下の原理が利用される。即ち、
1)上述のように、回折型ディフューザアルゴリズムIFTAを用いて、簡単かつ正確にビーム分割用の位相マスクを計算することができる。
2)IFTAによるビーム成形の場合、レーザ光が干渉性であることから、重畳させた回折次数間において妨害を及ぼすアーチファクト/干渉(スペックル)が発生する。
3)局所的にオーバラップ/重畳させた2つのレーザビームは、以下の場合には干渉する可能性がない。即ち、
i.それらがそれぞれ異なる偏光であるとき、
ii.それらがそれぞれ異なる波長であるとき、
iii.それらがレーザ放射の干渉長よりも時間的に長く互いに隔たって位置しているとき、
iv.それらが時間的にオーバラップしていないとき(例えば、パルス化レーザにおいて、ある1つのパルスが他のパルスと同時には到来せず、そのあとで初めて到来する場合)。
【0047】
i乃至ivの原理は、
図3a乃至
図3dに概略的に示されているように、それらを以下の着想と組み合わせれば、隣り合ってオーバラップした回折次数間の不所望な干渉の形成を回避するための解決の余地を成すものである。
【0048】
図3aには、目標ビーム分布33が例示的に描かれており(ここでは矩形)、この場合、2つの回折次数がオーバラップしており、従って、干渉する可能性があり、その結果、強度の過剰上昇及び過剰減少が引き起こされ、このことは妨害を及ぼすスペックルパターンとして現れる。
図3b及び
図3cには、部分ビーム35の2つのタイプA及びタイプBについて、第1の部分ビーム(タイプA)に関する出力強度分布37.1及び第2の部分ビーム(タイプB)に関する出力強度分布37.2がそれぞれ示されている。この場合、
図3cに示されているパターンは、
図3bに示されているパターンに対し相補的なものである。タイプAの部分ビーム35及びタイプBの部分ビーム35は、それぞれ1つのマトリックスアレイMA及びMB内にあり、これらのアレイによれば、強度値37.1又は37.2を有する部分ビーム35が、個々の格子網の仮想の交差点上に配置されている。ここでこの格子網は例えば、互いに直交して又は所定の角度で延びる主格子線を有することができる。個々のタイプのマトリックスアレイMA、MB内の個々の部分ビーム35は好ましくは少なくとも、これらの部分ビーム35間で干渉現象が発生しない程度に、互いに離間されて配置されている。
図3dには、これら両方の部分ビーム35から合成された出力ビーム28に関する強度分布28.1が示されており、この場合、2つの回折次数がオーバラップしているが、干渉する可能性はない。その理由は、回折次数“A”及び“B”は、まったく特有にそれぞれ異なる光特性を有するからである。出力ビーム28は、循環パターンフィールドMFA、MFBから成る規則的なパターンMとして形成されており、この場合、規則的なパターンMは、直接隣り合うパターンフィールドMFA、MFBがそれぞれ異なるタイプの部分ビーム35に割り当てられるように、加工/結像平面における部分ビーム35の第1及び第2のマトリックスアレイMA、MBの相補的なインタリーブに基づき形成されている。本発明の核心となる着想は、隣り合う回折次数がIFTAベースのビーム成形において消去され、従って、IFTAは実際にはビーム分割のために1つの位相マスクを計算することになる(ステップ1、
図3a乃至
図3b)、ということである。かかる計算から生じるであろうイメージは、ギャップを有することになる(
図3b参照、ここではチェス盤パターンとして形成されている)。ステップ3においてそれらのギャップを再び塞ぐ必要があり(
図3d)、詳しくはステップ2において生成された相補的なイメージが用いられ、これは第1の回折次数とは干渉する可能性がない個々の回折次数から成る(原理i乃至ivによる、
図3c参照)。
【0049】
図3a乃至
図3dは、この着想を概略的に表したものを示しているにすぎず、この場合、形成された規則的なパターンMのパターン形状を、すでに一般的な説明の個所でまえもって言及したように、多種多様な手法で形作ることができ、特に少なくとも1つの可能な変形実施形態a)乃至c)に従い、又は、これらの組み合わせによって、形作ることができる。同等のタイプの回折次数間の間隔を拡げ、干渉をさらに最小化し又はまったく排除する目的で、同等の手法又は類似の手法によって、それぞれ異なる2つの回折次数タイプ“A”及び“B”を1つの所望のビーム分布となるように合成するだけでなく、(以下では“C”、“D”等と称する)さらにもっと多くの回折次数タイプを用いることが考えられる(
図4)。ここでは4つの部分ビーム35が概略的に描かれており、これらはそれぞれ異なる出力強度分布37.1乃至37.4を有しており、合成された強度分布28.1を有する1つの出力ビーム28となるように合成される。出力ビーム28は全体で、隣り合うフィールドパターンMFA、MFB、MFC、MFDの1つの規則的なパターンMとして形成されており、これは強度分布37.1、37.2、37.3、37.4を有する個々の部分ビーム35の4つのマトリックスアレイMA、MB、MC、MDが、ABCDアレイとして互いにインタリーブされるようにして行われる。他の選択肢として、パターンフィールドMFA、MFB、MFC、MFDの反復パターンをこれとは異なるように形成することもでき、例えば、ABACADアレイ、ABCABDアレイ、ABABCABCDアレイ、又は、他のアレイとして形成することもできる。
【0050】
この例について、以下でさらに詳しく取り扱う。イメージ3d、ステップ3に描かれているように、かかる回折次数アレイの場合、所望のビーム分布(矩形のトップハット)の均一性は、ビーム分割を行うIFTAにより生成される隣り合う回折次数間の間隔に左右される。このため、IFTA計算のための回折次数間の間隔sを、ビーム成形における所望の強度分布の均一性に対する要求から決定することができ、次いでIFTAを用いて設定することができる。一例としてトップハットの場合には、通常、0%乃至10%の範囲内のビーム分布の均一性が必要とされる。概算及び強度グラフに基づき、このケースでは隣り合う回折次数間の距離sが、個別回折直径Dの半分から全体の範囲内にあるのが望ましい、ということを確認することができる。プログラミング可能な回折型ビームシェイパ(例えば、リキッド・クリスタル・オン・シリコンの空間光変調器LCoS SLM)であれば、隣り合う回折次数間の間隔sを著しくフレキシブルに設定することができる。
【0051】
図5乃至
図10には、このコンセプトを技術的に実現するための具体的なレーザ装置20が示されている。
【0052】
図5には、ワークピースを加工するための本発明に係るレーザ装置20が概略的に示されている。
【0053】
1つのレーザ源21から出てレーザビーム22のところでビームスプリッタ23によって、2つのビーム路、即ち、p偏光された部分ビーム24とs偏光された部分ビーム25とに分割される。これを例えば、偏光ビームスプリッタを用いて行うことができる。各ビーム路におけるレーザ出力は、例えば、出力放射の偏光設定などによって設定可能であるのが望ましい。s偏光された部分ビーム25は、入射平面に対し垂直に(添え字s)直線偏光されたビーム成分である。このビーム成分は、文献では横方向電界(TE)成分とも呼ばれる。他方のケースであるp偏光されたビーム24の場合、入射面において平行に(添え字p)直線偏光された波の振幅が考察される。このビーム成分は、文献では横方向磁界(TM)成分とも呼ばれる。
【0054】
この場合の課題は、例えば、計算ユニット34内に材料加工のために記憶されている予め設定可能な目標ビーム分布33(I
0)を、加工/結像平面29に理想的に投影することである。ただし、システム誤差及びスペックル15(
図1参照)に起因して、偏差のあるビーム分布が生じる。
【0055】
それゆえ本発明によれば、p偏光された部分ビーム24及びs偏光された部分ビーム25の双方が、ビームシェイパ26、30によってそれぞれ、各部分ビームについてそれぞれ異なる強度分布24.1 I
(p)及び25.1 I
(s)が生じるように変形され、その後、これらはついでビーム合成器27によって合成され、1つの共通の強度分布28.1 I
(a)を有する出力ビーム28として、加工/結像平面29に投影される。この場合、強度分布24.1 I
(p)及び25.1 I
(s)は、一方では互いに干渉せず妨害を及ぼさないスペックル15をこれらが生成できるように、空間的に予め設定される。他方、強度分布24.1 I
(p)及び25.1 I
(s)は、加工/結像平面29で重畳したものである出力ビーム28が、理想的には所定の目標ビーム分布33(I
0)と一致する強度分布28.1 I
(a)を有し、かつ、隣り合う個別ビームがそれぞれ異なるように偏光されるように、空間的に予め設定される。この場合、好ましい強度分布をチェス盤パターンに対応させることができ、その際にチェス盤の白色フィールドは例えば、p偏光された部分ビーム24の個別強度分布に対応し、黒色フィールドは、s偏光された部分ビーム25の個別強度分布に対応する。偏光が異なる放射は干渉しないので、このような配置によってスペックル作用を著しく低減することができる。同様に、ハニカム形状の六角形の幾何学的形状も考えられる。
【0056】
元のレーザビームの適切な偏光を、例えば、ビームスプリッタの上流で遅延プレートを用いることによって設定することができる(
図5には描かれていない)。ビームスプリッタを、偏光ビームスプリッタキューブとして、又は、薄膜偏光子として構成することができる。
【0057】
方法に関するさらに他の変形実施形態によれば、これらの方法の既述の組み合わせ、それぞれ異なるように偏光された部分ビームの重畳、及び、スペックル15のさらなる低減に関してスペックルパターンを時間的に平均化するための方法が有利である。
【0058】
計算ユニット34において、ビームシェイパ26、30の制御を行うことができるように、対応する強度分布24.1及び25.1が計算される。ビームを案内するために特に、種々の偏向ミラー31、32並びにミラー及び/又はレンズ系のような他の光学系を用いることができ、ただし、それらの光学系は、見やすさを確保するため
図5及び他の図面には描かれていない。
【0059】
図6には、間隔12に依存する強度11の推移として描かれたグラフ10において、強度分布24.1 I
(p)及び25.1 I
(s)を有しそれぞれ異なるように偏光された部分ビームから、
図1による目標分布13が合成されることが、概略的に示されている。この場合、隣接ビームは、それらの偏光がそれぞれ異なることから干渉せず、このため妨害を及ぼす干渉現象又はスペックルパターンを生成する可能性がない。
【0060】
ビーム分割されたこれら両方の強度分布を1つの共通のイメージとなるように合成する場合、高精度の調節を行う必要がある。例えば、40μmのサイズのシングルスポットの場合、両方のビーム分布を数μmだけ互いにシフトすることによって、大きい不都合な強度変動が引き起こされる可能性がある。
【0061】
図5に描かれている構造に対しいくらか簡単にされた代替案として、個々の回折次数から成るチェス盤パターンを生成するただ1つのビームシェイパ又はビームスプリッタが用いられる構造を適用することができる。このチェス盤パターンは2つのビーム路に分割され、その際、両方のビームが次いで合成されたときにもはや干渉する可能性がないように、個々のビーム路の偏光が操作される。この合成がずれて生じると、両方のチェス盤パターンの個々の回折次数が互いに重なり合う。その際にこの構造の1つの欠点がはっきりとする。即ち、ビーム分布の2つの側にギャップが発生し、これらのギャップはレーザ加工プロセスにとって妨害を及ぼす可能性があるが、必ずしもそうなるわけではない。1つの利点は、第2のビームスプリッタ/ビームシェイパが節約されることであり、従って、システム全体の複雑さがそれに関連して低減されることである。
【0062】
周知のように、それぞれ異なる波長の干渉性のレーザ放射は、波長差が僅か数ピコメータを超えていれば干渉しない。そこで、2つの回折型ビームシェイパ(好ましくはSLM又はDOE)によりイメージ3a乃至3dに描かれた原理に従いビーム分割され、加工平面において再び合成された、それぞれ異なる波長の2つのレーザビームを、十分なスペクトル間隔と共に用いれば、同等のタイプの個々の回折次数は局所的に僅かにしかオーバラップしない。それぞれ異なるタイプ(A及びB)の回折次数がオーバラップしても、Aの回折次数とBの回折次数の波長がそれぞれ異なることから、まったく干渉するには至らない。それぞれ異なるタイプの回折次数のチェス盤パターンをインタリーブするという核心を成す原理が、前述の実施例のようにここでも適用される。相違点は、ここでは両方のビーム路の偏光ではなく波長が操作される、ということである。
【0063】
図7には、λ
1及びλ
2の放射を放出する2つのレーザ源21を備えた相応のレーザ装置20が示されており、この場合、これら両方の波長は僅かにしか異なっていない。第1のレーザ源21のレーザビーム22は、第1のビームシェイパ26によって成形される。第2のレーザ源21のレーザビーム22は、第2のビームシェイパ30によって成形される。次いでこれら両方のビームの両方の出力強度分布37.1及び37.2が、ビーム合成器27によって、重畳した強度分布28.1を有する1つの出力ビーム28となるように合成され、加工/結像平面29上に集束される。直接隣り合う個別回折イメージはそれぞれ異なる波長を有するので、これらは干渉する可能性がなく、これに伴い妨害を及ぼす干渉、即ち、妨害を及ぼすスペックルパターンが回避される。
【0064】
代替案として
図8に描かれているように、(
図7による)2つのレーザ源21の代わりに、ただ1つのレーザ源21を用いることもでき、この場合にはレーザビーム22を2つに分割した後、一方の部分ビームの波長が波長操作器38によって操作される。具体的に波長をどのように操作できるのかは、ここでは重要ではなく、あらゆる公知の方法を実施することができる。ただ1つのビームシェイパだけしか用いない実施形態も考えられる。
【0065】
さらに他の代替案として、2つよりも多くのタイプの回折次数を用いることが考えられる。即ち、最終的なビーム分布を、2つよりも多くの回折パターンから合成してもよい(
図4に描かれているような回折パターンA、B、C、D等を参照)。このためには、すべてのビーム路における波長がそれぞれ異なっている必要がある。
【0066】
隣り合う回折次数がもはや互いに干渉性でなければ、それらはやはり干渉しない。これは、
図7の場合のような構造が適用される場合に該当する可能性があり、この場合、両方のレーザ源21の波長は同等でよい。ただし、2つの異なるレーザ源21の適用によりすでに、両方のビームはもはや互いに干渉性ではなく、そのためそれらの回折次数が干渉する可能性がない。1つの代替案として考えられるのは、波長操作器38の代わりに時間遅延器を第2のビーム路に組み込んだとしても、
図8の場合のように1つのレーザ源を用いるようにすることである。この遅延器によって、又は、遅延線によっても、第2のビームが第1のビームとはもはや干渉性ではなくなるまで、第2のビームを遅延させることになる。時間遅延に対する要求は、ビーム源の干渉長を把握することから得られる。即ち、干渉長が例えばXmであれば、空間的な遅延も少なくともXmでなければならず、又は、時間領域に変換するとΔt=Xm/cでなければならない。ここで、cは光速である。50mである場合には、1.67*10
−7sの時間遅延が必要となるであろう。ビーム遅延を、例えば、その光学的経路の延長(ビームを行き来させて反射する複数のミラーから成る構造)によって行うことができ、又は、光速が周囲の媒体よりも遅くなる光学的に密な媒体(例えば、ガラスブロック)の組み込みによって行うことができる。
【0067】
さらに他の代替案として、2つよりも多くのタイプの回折次数を用いることが考えられる。即ち、
図4に描かれているように、最終的なビーム分布を2つよりも多くの回折パターンから合成してもよい(回折パターンA、B、C、D等)。このためにはすべての部分ビームを、干渉長のn倍だけ遅延させる必要があり、ただし、nは個々の部分ビームの番号を表す。
【0068】
図9には、さらに他のレーザ装置20が概略的に示されており、この場合、強度分布22.1を有するレーザビーム22が、図示の例によればパルス化レーザとして構成された1つのレーザ源21から出て、ビームスプリッタ23によってそれぞれ異なる部分ビーム35に分割される。図示の例では4つであるこれらの部分ビーム35各々は、固有の強度分布35.1乃至35.4を有しており、これらを遅延ユニット36を用いてそれぞれ異なるように遅延させることができる。しかもこれらの部分ビーム35各々は、各部分ビームに固有のビームシェイパ37によって、それぞれ出力強度分布37.1乃至37.4を有するさらなるサブ部分ビームに分割される。ビームシェイパ37は、例えば、SLM又はDOEとして構成されており、遅延ユニット36のように、ここには描かれてない計算ユニット34によって制御される。この最終的な分割はスペックル形成に関して問題とはならず、その理由は、サブ部分ビームは局所的にオーバラップしていないからである。次いで、複数のサブ部分ビームから成る部分ビーム35が、ビーム合成器27により合成されて、出力ビーム28として加工/結像平面29上に集束される。各部分ビーム35は、加工/結像平面29において、一種のピクセルフィールドを成し、この場合、1つのサブ部分ビームのサイズは、出力ビーム28の合成された強度分布28.1により形成されているイメージ全体の分解能限界も表す。それぞれ異なる部分ビーム35から結果として生じたサブ部分ビームは、局所的にオーバラップしている可能性があるが、それらは時間的にずらされて発生するため、干渉することはない。レーザビーム22から部分ビーム35及びサブ部分ビームへのこのような多段階の分割、部分ビーム35のそれぞれ異なる時間遅延、及び、複数のサブ部分ビームから1つのイメージへの合成によって、スペックルのないイメージが生じる。
【0069】
方法に関する既述の変形実施形態又は装置に関する既述の実施例は、パルス化された干渉性放射によっても、パルス化されていない干渉性放射によっても、機能する。
【0070】
パルス化された短パルスレーザ又は超短パルスレーザの場合、パルス持続時間は典型的には数マイクロ秒乃至数フェムト秒である。個々のパルス間の時間間隔は多くの場合、パルス長自体よりも著しく長い。この状況を、ビーム成形においてスペックルパターンを回避するために用いることができる。パルス化レーザビームが複数のビームに分割され、その際にそれら複数のビーム各々が1つの部分ビーム分布となるように成形される。分割され成形されたすべてのビームが再び合成され、その際に複数の部分ビーム分布によって1つの共通の所望のビーム分布がもたらされる。すべての部分ビームの光学的経路が同一であれば、これらの部分ビーム分布が1つの全体ビーム分布となるように局所的にオーバラップしたときに、干渉が発生することになる。しかしながら、これらの部分ビームがそれぞれ異なるように遅延させられれば、時間的な重畳が存在することにはならないことから、局所的にオーバラップしても干渉には至らない。このことの前提となるのは、遅延がパルス長よりも長く、かつ、部分ビームが少なくともパルス長の時間間隔を互いに有する、ということである。ただし、この場合、全体的なビーム分布を時間的に歪ませないようにするためには、加工平面に当射する最も速い部分ビームと最も遅い部分ビームとの間の時間間隔をできるかぎり小さく保持するように試みるのが望ましい。
【0071】
方法に関するこのような変形実施形態の構造及び機能について、
図10に描かれたレーザ装置20を用いて説明する。パルス化レーザビーム22が、例えば、ピコ秒レーザ又はフェムト秒レーザとして構成された1つのレーザ源21から出て、ビームスプリッタ23及びビームシェイパ37という構成要素において、例えば、4つの部分ビーム35に分割される。これらの部分ビーム自体はディフューザによって、各部分ビームについてそれぞれ異なる強度分布35.1、35.2、35.3、35.4を有する種々のビームパターンとなるように成形される。これらのビームパターン各々は、ユニークなものである。加工/結像平面29における個々のビームパターンすべてを、ビーム合成器27を用いて合成すると、例えば、正方形(即ち、正方形のトップハット)の形状の強度分布28.1を備えた全体ビーム分布を有する出力ビーム28が生じる。部分ビームの合成に至るまでに、各部分ビーム35は遅延ユニット36(遅延線)によって、それぞれ異なるように遅延させられる。すでに述べたように、最小遅延は1つのパルス持続時間以上であるのが望ましい。例えば、パルス持続時間が1psであれば、Δt
1=0sでありかつΔt
2≧1psであるのが望ましい。n番目の部分ビームの遅延であるとした場合には、このときはΔt
n=(n−1)*1psとなる。このようにすれば、ディフューザにより成形されたビームパターンが局所的にオーバラップしないので、それらのビームパターンが互いに干渉し合う可能性がない。オーバラップした領域は、それぞれ異なる部分ビーム35に位置しており、これらの部分ビーム自体は時間的に互いに分離されており、従って、干渉し合う可能性がない。このため加工平面29におけるスペックル形成が阻止され、成形されたレーザビームによる加工品質が保証される。
【0072】
他の選択肢として、方法に関するさらに他のここには描かれていない変形実施形態又はレーザ装置20において、遅延ユニット36の下流でありかつビーム合成器27の上流でも、ビーム成形37を実施することができる。
【0073】
隣り合う回折次数間の不所望な干渉現象を回避するためのこれまで述べてきたアプローチ/原理(偏光、波長、干渉長又はパルス持続時間よりも大きい遅延)を、1つの装置において組み合わせることもできる。これらの組み合わせによれば多くのケースにおいて、装置の構造スペースの小型化、回折次数タイプの個数の増大に関して、ひいては干渉現象のさらなる低減に関しても、利点をもたらすことができる。
【0074】
ここで呈示した方法を、ビームシェイパ26、30、37を装備したレーザ加工装置において使用することができる。スペックルパターンを回避するための又は時間的に平均化するための、既述のコンセプトに関する適用分野は、多種多様である。基本的にこれらの方法を、公知のすべてのレーザ加工プロセスにおいて、特に微細加工において、適用することができ、即ち、レーザ溶接、レーザ研磨、レーザ切削、マーキング、穿孔、レーザ洗浄等などである。