【文献】
Journal of Vascular and Interventional Radiology,2017年,Vol.28,pp.161-167
【文献】
松丸祐司,脊髄血管の解剖とそこからの塞栓術,Niche Neuro-Angiology Conference 2012,2012年,[online],[検索日 2020.10.19],URL,http://nnac.umin.jp/nnac/di6huipuroguramu_files/Matsumaru.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明はこれに限定されない。
【0012】
<疼痛治療剤>
本発明に係る疼痛治療剤(以下、「本発明の治療剤」ともいう。)は、平均粒径が10μm以上200μm以下である粒子状塞栓物質を含み、疼痛部を栄養する動脈における脊髄動脈の分岐から遠位に経カテーテル投与される。
【0013】
上述のとおり、本発明者は、異常な毛細血管に塞栓物質を注入することで、異常な毛細血管を詰まらせ、血流を正常化させることによる治療方法を開発した。
しかし、この方法においては、種々の合併症(胸及び両側前腕の一時的な強い疼痛、一時的な不随意運動、一時的な違和感、数日から数週間にわたるしびれ症状、数日間の脱力症状等)をともなう可能性があり、安全性の確保に課題があった。
【0014】
そこで、本発明者がさらに検討した結果、塞栓物質の注入部位を脊髄動脈の分岐より遠位にすることで、合併症をともなわずに、安全に疼痛の治療効果を奏することができる点を見出した。
【0015】
本発明において「疼痛の治療」とは、疼痛を緩和、又は完治することを意味する。
【0016】
本発明において「疼痛」とは、生体に生じる任意の痛みを意味し、疼痛の部位や、疼痛の原因疾患は特に限定されない。
本発明における疼痛としては、動脈へのアクセスが可能な位置(橈骨動脈、鼠径動脈、頚横動脈、肩甲上動脈、肩甲回旋動脈、腸腰動脈、外側仙骨動脈、上臀動脈、下臀動脈、閉鎖動脈、大腿深動脈、外側膝動脈、前脛骨反回動脈、及び腓骨動脈等)から、疼痛の原因となる異常血管形成部位までの間に、脊髄動脈の分岐が存在するタイプの疼痛であってよく、典型的には頚部、肩部、腰部、背部(帯状疱疹後神経痛等)、体幹部等に生じた疼痛が挙げられる。
本発明の治療剤による効果を奏しやすいという観点から、疼痛は、慢性頚部痛、有痛性肩こり、慢性腰痛、坐骨神経痛、及び帯状疱疹後神経痛からなる群から選択される1以上であってもよい。疼痛の種類は、医師による診断によって特定することができる。
【0017】
以下、本発明の治療剤の治療剤の構成について詳述する。
【0018】
(塞栓物質)
塞栓物質は、平均粒径が10μm以上200μm以下である粒子状の物質を用いる。
【0019】
本発明において「塞栓物質」としては、動脈内の血流を遮断できる物質を意味する。
【0020】
塞栓物質の平均粒径は、塞栓しようとする動脈の直径等に応じて適宜調整できる。
塞栓物質の平均粒径の下限は、好ましくは2μm以上、より好ましくは5μm以上である。
塞栓物質の平均粒径の上限は、好ましくは100μm以下、より好ましくは30μm以下である。
【0021】
本発明において「平均粒径」とは粒度分布の平均値を意味し、レーザ回折式粒度分布測定装置(例えば、「SALD」シリーズ、株式会社島津製作所製)で特定される。
【0022】
塞栓物質の形状は特に限定されないが、不定形、球形、角形等であり得る。
【0023】
塞栓物質としては、動脈内の血流を遮断可能であり、生体に有害な作用を及ぼさないものであれば特に限定されない。
塞栓物質の材料としては、体温(例えば、35〜39℃)において血液に難溶又は不溶な材料が挙げられ、具体的には、イミペネム・シラスタチン等が挙げられる。
【0024】
(治療剤の形態)
本発明の治療剤は、動脈内投与製剤である。したがって、本発明の治療剤には、塞栓物質による塞栓作用を損なわない範囲で、塞栓物質とともに、生体に投与可能な媒体(生理緩衝液、滅菌水、生理食塩水、培地、造影剤)や、動脈内投与製剤に含まれ得る任意の成分等が必要に応じて配合されていてもよい。
【0025】
また、本発明の治療剤の投与の際には、治療剤の投与部位の特定のために、血管撮影を行ってもよい。また、このような撮影等のために、本発明の塞栓物質とともに造影剤を併用してもよい。
造影剤の種類としては特に限定されないが、イオヘキソール等が挙げられる。
なお、造影剤は、本発明の治療剤に配合してもよいし(すなわち、塞栓物質と同時に投与してもよいし)、本発明の治療剤とは別個に投与してもよい。造影剤と本発明の治療剤とを別個に投与する場合、その順序は特に限定されないが、造影剤を先に投与すると、投与部位の特定がより容易になる観点から好ましい。
また、本発明の治療剤に配合することは、塞栓物質がバックフロー等で脊髄動脈に迷入する現象の有無を視認的に推認できる点で好ましい。
【0026】
(カテーテル)
本発明の治療剤は、カテーテルを用いて投与される。
【0027】
カテーテルの径や形状等は、動脈内に挿入でき、塞栓物質を注入できる、管腔構造を有するチューブであれば特に限定されない。通常、外径0.6〜1mmのカテーテル(いわゆるマイクロカテーテル)を好適に用いることができる。
【0028】
カテーテルの操作にあたっては、ガイドワイヤーやポンプ等、経カテーテル投与において通常採用される装置や手法を用いることができる。
【0029】
カテーテルからの投与の際には、投与部位等に応じて、圧入やフリーフローを適宜選択できる。
例えば、動脈同士の交通がある場所では、圧入による投与が好ましい。この場合、脊髄動脈と距離(例えば、2cm以上)が保たれていることを確認することが望ましい。
例えば、圧入によるバックフローで塞栓物質が脊髄動脈へ流入するリスクを減らす観点からは、フリーフローが好ましい。
【0030】
本発明において、カテーテルからの投与の際にバックフローを避ける方法としては、テスト注入した造影剤が自然と末梢血管へと流れること(ウォッシュアウトとも呼ばれる。)が確認された箇所に、塞栓物質を投与する方法が挙げられる。
【0031】
(投与部位)
本発明の治療剤は、疼痛部を栄養する動脈における脊髄動脈の分岐から遠位に投与される。
【0032】
上述のとおり、本発明者は、異常な毛細血管に塞栓物質を注入することで、異常な毛細血管を詰まらせ、血流を正常化させることによる治療方法を見出した(非特許文献2)。
しかし、異常な毛細血管への塞栓物質の投与のためには、脊髄の血管を含む体幹の動脈を介して投与する方法が考えられるものの、この方法では、合併症を生じる等の安全性に関する課題があった。
他方で、安全性を確保しつつ、充分な治療効果を奏することができる投与部位は不明であった。
【0033】
そこで、本発明者が検討した結果、上記のような安全性の問題は、注入された塞栓物質が、脊髄栄養血管や中枢神経の栄養血管に迷入することが原因であることを見出した。
そして、投与部位として脊髄動脈そのものを避け、脊髄動脈の分岐から遠位を選択することで、安全性を損なわずに、効果的な治療を行えることを見出した。
【0034】
本発明において「疼痛部を栄養する動脈における脊髄動脈の分岐から遠位」は以下のように特定される。特定された分岐の遠位(心臓から遠い側)が本発明の治療剤の投与部位として設定される。
まず、体幹部の疼痛部を栄養する動脈内にカテーテルを挿入し、その際に分節動脈(頸椎、胸椎、腰椎等を栄養する動脈)を血管撮影する。
血管撮影による描出に基づき、脊髄動脈(前脊髄動脈及び/又は後脊髄動脈)の分岐の位置を特定する。
描出された分岐の位置に基づき、その分岐を遠位側に超えた位置を、疼痛部を栄養する動脈における脊髄動脈の分岐から遠位として特定し、特定された位置へ、カテーテルの開口部を配置することで本発明の治療剤を投与することができる。この際に、投与部位は、脊髄動脈が描出されない程度に脊髄動脈から離れていることが好ましい。
【0035】
上記のように特定された脊髄動脈の分岐から遠位からの投与であれば、仮に投与部位が潜在的に脊髄の動脈網につながっていたとしても、脊髄動脈からの動脈圧が高いため、脊髄内に塞栓物質が迷入しない。
したがって、疼痛部を栄養する動脈における脊髄動脈の分岐から遠位からの投与を行うことで、本発明によれば、より安全に、異常な毛細血管を塞栓させることによる効果的な疼痛治療を行うことができる。
【0036】
脊髄動脈の分岐と、本発明の治療剤の投与箇所(カテーテルの開口部)との距離(脊髄動脈の分岐からどれくらい遠位であるか)は、特に限定されないが、バックフローによって塞栓物質が脊髄動脈へ流入しないように、10mm以上であることが好ましい。
一方、上記距離が多すぎると、分岐と痛みの原因である異常血管の間隔が狭い場合に塞栓物質を投与しづらくなり得るため、50mm以下であってよい。
【0037】
本発明においては、「疼痛部を栄養する動脈における脊髄動脈の分岐」に相当する血管の全てよりも遠位に疼痛治療剤を投与することが好ましい。
ただし、本発明において、「疼痛部を栄養する動脈における脊髄動脈の分岐」に相当する血管であっても、造影剤で充分に描出されない血管(例えば、血管径0.5mm未満である血管)よりも近位に投与する態様は排除されない。このような細い分岐血管より近位に投与したとしても、患者への悪影響は限定的であるためである。
【0038】
本発明の治療剤の具体的な投与部位は、疼痛の部位に応じて適宜設定できる。以下に、疼痛の具体例ごとに、投与部位の特定方法の例を示す。
なお、以下に挙げる投与部位である各種動脈には、該動脈から分岐する枝も含まれる。
【0039】
[慢性頚部痛]
疼痛が慢性頚部痛である場合、動脈へのアクセスが可能な位置(橈骨動脈、鼠径動脈等)からカテーテルを挿入し、鎖骨下動脈まで進め、肋頚動脈の起始部において適宜血管撮影する。
脊髄を栄養する前脊髄動脈の分岐を回避して、深頚動脈、及び最上肋間動脈にマイクロカテーテルを進め、疼痛部への血流がそれぞれ確認できれば、その部位を投与部位として設定できる。
ただし、深頚動脈が低発達の場合、頚部痛を訴える部位を栄養していないことがある。このような場合には、甲状頚動脈の枝である上行頚動脈の遠位から頚部を栄養する枝が出ているため、該枝まで挿入した部位を投与部位として設定できる。
上記のほか、頚横動脈も投与部位として設定できる。
【0040】
[有痛性肩こり(肩甲骨周囲の痛み)]
疼痛が有痛性肩こりである場合、動脈へのアクセスが可能な位置(橈骨動脈、鼠径動脈等)からカテーテルを挿入し、鎖骨下動脈まで進め、肋頚動脈の起始部において血管撮影する。
脊髄を栄養する前脊髄動脈の分岐を回避して、深頚動脈、及び最上肋間動脈にマイクロカテーテルを進め、疼痛部への血流をそれぞれ確認できれば、その部位を投与部位として設定できる。
上記のほか、頚横動脈、肩甲上動脈、及び肩甲回旋動脈も投与部位として設定できる。
【0041】
[慢性腰痛]
疼痛が慢性腰痛である場合、動脈へのアクセスが可能な位置(鼠径動脈等)からカテーテルを挿入し、腹部大動脈まで進め、第1〜4腰動脈において左右それぞれ血管撮影する。
脊髄を栄養する脊髄枝の分岐を回避して、第1〜第4腰動脈のほか、腸腰動脈、正中仙骨動脈、外側仙骨動脈、及び上殿動脈も投与部位として設定できる。
【0042】
[坐骨神経痛]
疼痛が坐骨神経痛である場合、動脈へのアクセスが可能な位置(鼠径動脈等)からカテーテルを挿入し、腹部大動脈まで進め、第4腰動脈において左右それぞれ血管撮影する。
脊髄を栄養する脊髄枝の分岐を回避して、本幹を投与部位として設定できる。
上記のほか、腸腰動脈、外側仙骨動脈、上臀動脈、下臀動脈、閉鎖動脈、大腿深動脈、外側膝動脈、前脛骨反回動脈、及び腓骨動脈も投与部位として設定できる。
【0043】
[帯状疱疹後神経痛]
疼痛が帯状疱疹後神経痛である場合、動脈へのアクセスが可能な位置(鼠径動脈等)からカテーテルを挿入し、疼痛部を栄養する動脈を血管撮影する。
脊髄を栄養する脊髄枝の分岐を回避して、各分節動脈(腰動脈、肋間動脈)を投与部位として設定できる。
【0044】
(投与量等)
本発明の治療剤の投与量や、投与頻度は、患者の状態(年齢、体重、症状の重篤性等)に応じて適宜設定できる。
【0045】
<本発明の治療剤による治療効果>
本発明の治療剤によれば、より安全に、異常な毛細血管を塞栓させることによって疼痛治療を行うことができる。
例えば、本発明の治療剤によれば、異常な毛細血管を塞栓させる方法において従来懸念されていた種々の合併症(胸及び両側前腕の一時的な強い疼痛、一時的な不随意運動、一時的な違和感、数日から数週間にわたるしびれ症状、数日間の脱力症状等)を生じることなく、疼痛を治療することができる。
【0046】
本発明の治療剤による治療効果は、痛みを評価する任意の方法によって評価できる。このような方法として、実施例に示した方法(「NRS(Numerical Rating Scale)スコア」に基づく方法)、痛みの改善の度合いを患者の主観で答える方法(「Patients Global Impression of Change」)等が挙げられる。
【実施例】
【0047】
以下に、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0048】
<材料等の準備>
本例では以下の各種材料を用いた。
【0049】
(塞栓物質)
本例では、塞栓物質としてイミペネム・シラスタチン(商品名「プリマキシン」、メルク・アンド・カンパニー社製)を用いた。この塞栓物質の平均粒径は、レーザ回折式粒度分布測定装置(「SALD」シリーズ、株式会社島津製作所製)を用いて測定した値が70μm以下だった。
【0050】
(カテーテル)
本例では、血管造影カテーテル(外径1mm、メディキット株式会社製)及びマイクロカテーテル(外形0.6mm朝日インテック社製)を用いた。
【0051】
(造影剤)
本例では、イオパーク(富士製薬社製)を用いた。造影剤は塞栓物質と混合して用いた。混合比(有効成分の質量比)は塞栓物質:造影剤=0.5gに対して造影剤10ccと設定した。
【0052】
<塞栓物質の投与方法>
以下の各疼痛を有する患者に対して、カテーテルを用いて、血管内への塞栓物質の投与を行った。塞栓物質は、塞栓物質単体、又は、塞栓物質及び造影剤の混合液として投与した。
なお、塞栓物質は、0.5g/10mlの水溶液として調製し、患者1人あたりの総投与量が塞栓物質の量として0.5〜2gとなるように投与した。
【0053】
(1)慢性頚部痛
慢性頚部痛を有する42名の患者に対して投与を行った。
まず、動脈へのアクセスが可能な位置(橈骨動脈、鼠径動脈等)からカテーテルを挿入し、鎖骨下動脈まで進め、肋頚動脈の起始部において血管撮影した。
脊髄を栄養する前脊髄動脈の分岐を回避して、深頚動脈、及び最上肋間動脈にマイクロカテーテルを進め、疼痛部への血流をそれぞれ確認しつつ、前脊髄動脈にバックフローしないように注意しながらフリーフローの状態で塞栓物質を投与した。
ただし、深頚動脈が低発達の場合、頚部痛を訴える部位を栄養していないことがある。このような場合には、甲状頚動脈の枝である上行頚動脈の遠位から頚部を栄養する枝が出ているため、該枝まで挿入して投与した。さらに、頚横動脈にもカテーテルを挿入して塞栓物質を投与した。
本例においては、塞栓物質の投与回数を1回に設定した。
【0054】
(2)有痛性肩こり(肩甲骨周囲の痛み)
有痛性肩こりを有する42名の患者に対して投与を行った。
まず、動脈へのアクセスが可能な位置(橈骨動脈、鼠径動脈等)からカテーテルを挿入し、鎖骨下動脈まで進め、肋頚動脈の起始部において血管撮影した。
脊髄を栄養する前脊髄動脈の分岐を回避して、深頚動脈、及び最上肋間動脈にマイクロカテーテルを進め、疼痛部への血流をそれぞれ確認しつつ、前脊髄動脈にバックフローしないように注意しながら、フリーフローの状態で、塞栓物質及び造影剤の混合液を投与した。
さらに、頚横動脈、肩甲上動脈、及び肩甲回旋動脈にもそれぞれカテーテルを挿入して同様に投与を行った。
本例においては、塞栓物質の投与回数を1回に設定した。
【0055】
(3)慢性腰痛
慢性腰痛を有する13名の患者に対して投与を行った。
まず、動脈へのアクセスが可能な位置(鼠径動脈等)からカテーテルを挿入し、腹部大動脈まで進め、第1〜4腰動脈において左右それぞれ血管撮影した。
脊髄を栄養する脊髄枝の分岐を回避して、フリーフローの状態で、左右の腰動脈に塞栓物質及び造影剤の混合液を投与した。
さらに、腸腰動脈、正中仙骨動脈、外側仙骨動脈、及び上殿動脈にもそれぞれカテーテルを挿入して同様に投与を行った。
本例においては、塞栓物質の投与回数を1回に設定した。
【0056】
(4)坐骨神経痛
坐骨神経痛を有する10名の患者に対して投与を行った。
まず、動脈へのアクセスが可能な位置(鼠径動脈等)からカテーテルを挿入し、腹部大動脈まで進め、第4腰動脈において左右それぞれ血管撮影した。
脊髄を栄養する脊髄枝の分岐を回避して、本幹で、フリーフローの状態で塞栓物質を投与した。
さらに、腸腰動脈、外側仙骨動脈、上臀動脈、下臀動脈、閉鎖動脈、大腿深動脈、外側膝動脈、前脛骨反回動脈、及び腓骨動脈にもそれぞれカテーテルを挿入して同様に投与を行った。
本例においては、塞栓物質の投与回数を1回に設定した。
【0057】
(5)帯状疱疹後神経痛
帯状疱疹後神経痛を有する3名の患者に対して投与を行った。
まず、動脈へのアクセスが可能な位置(鼠径動脈等)からカテーテルを挿入し、疼痛部を栄養する動脈を血管撮影した。
脊髄を栄養する脊髄枝の分岐を回避して、フリーフローの状態で、疼痛部位を栄養する動脈に塞栓物質及び造影剤の混合液を投与した。
本例においては、塞栓物質の投与回数を1回に設定した。
【0058】
<治療効果の評価方法>
塞栓物質の投与後、各患者における治療効果を以下のように評価した。
【0059】
本例では、治療効果の評価基準として、一般的な痛みの評価基準の1つである「NRS(Numerical Rating Scale)スコア」を採用した。該スコアにおいては、治療前を「10」とした場合の、整数(0以上10以下)の数値として回答された治療後の痛みに基づき、痛みを評価する。なお、回答された数値が低いほど、治療後の痛みが軽減したことを意味する。
【0060】
<結果>
慢性頚部痛の患者について、投与期間の終了後2ヶ月経過した時点で70%以上の患者が、スコアが5以下であると回答した。
有痛性肩こりの患者について、投与期間の終了後2ヶ月経過した時点で70%以上の患者が、スコアが5以下であると回答した。
慢性腰痛の患者について、投与期間の終了後3ヶ月経過した時点で70%以上の患者が、スコアが5以下であると回答した。
坐骨神経痛の患者について、投与期間の終了後2ヶ月経過した時点で80%以上の患者が、スコアが5以下であると回答した。
帯状疱疹後神経痛の患者について、投与期間の終了後3ヶ月経過した時点で全ての患者が、スコアが7以下であると回答した。
【0061】
上記のとおり、本発明の治療剤により、各種疼痛について大幅な改善が認められた。さらに、投与期間の終了後において、本発明の治療剤による有害事象(合併症等)は認められず、本発明の治療剤の安全性が確認された。
【0062】
なお、慢性頚部痛の患者に対し、脊髄動脈に対して上述のように塞栓物質の投与を行ったところ、疼痛の緩和が認められたものの、合併症(しびれ)が生じた。
【解決手段】本発明は、平均粒径が10μm以上200μm以下である粒子状塞栓物質を含み、疼痛部を栄養する動脈における脊髄動脈の分岐から遠位に経カテーテル投与される、疼痛治療剤を提供する。