特許第6856823号(P6856823)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6856823-負極及び亜鉛二次電池 図000005
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6856823
(24)【登録日】2021年3月22日
(45)【発行日】2021年4月14日
(54)【発明の名称】負極及び亜鉛二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/24 20060101AFI20210405BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20210405BHJP
   H01M 4/52 20100101ALI20210405BHJP
   H01M 10/34 20060101ALI20210405BHJP
   H01M 50/409 20210101ALI20210405BHJP
   H01M 50/463 20210101ALI20210405BHJP
   H01M 12/08 20060101ALI20210405BHJP
【FI】
   H01M4/24 H
   H01M4/62 C
   H01M4/52
   H01M10/34
   H01M2/16 M
   H01M2/18 Z
   H01M12/08 K
【請求項の数】15
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2020-541061(P2020-541061)
(86)(22)【出願日】2019年7月30日
(86)【国際出願番号】JP2019029882
(87)【国際公開番号】WO2020049902
(87)【国際公開日】20200312
【審査請求日】2020年11月27日
(31)【優先権主張番号】特願2018-164484(P2018-164484)
(32)【優先日】2018年9月3日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113365
【弁理士】
【氏名又は名称】高村 雅晴
(74)【代理人】
【識別番号】100131842
【弁理士】
【氏名又は名称】加島 広基
(74)【代理人】
【識別番号】100209336
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 悠
(74)【代理人】
【識別番号】100218800
【弁理士】
【氏名又は名称】河内 亮
(72)【発明者】
【氏名】林 洋志
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 直美
(72)【発明者】
【氏名】浅野 恵里
(72)【発明者】
【氏名】松林 央
【審査官】 結城 佐織
(56)【参考文献】
【文献】 特開2017−183110(JP,A)
【文献】 国際公開第2017/047628(WO,A1)
【文献】 国際公開第2018/105178(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/24
H01M 4/52
H01M 4/62
H01M 10/34
H01M 50/409
H01M 12/08
H01M 50/463
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜鉛二次電池に用いられる負極であって、
(A)ZnO粒子と、
(B)以下の群:
(i)平均粒径D50が5〜80μmである金属Zn粒子、
(ii)In及びBiから選択される1種以上の金属元素、及び
(iii)ヒドロキシル基を有するバインダー樹脂
から選択される少なくとも2つと、
を含み、
前記負極がInを含む場合、前記ZnO粒子の含有量を100重量部とした場合に、Inの含有量が酸化物換算で2.4重量部以下であり、
前記負極がBiを含む場合、前記ZnO粒子の含有量を100重量部とした場合に、Biの含有量が酸化物換算で0.6重量部以下であり、
前記負極が前記バインダー樹脂を含む場合、前記ZnO粒子の含有量を100重量部とした場合に、前記バインダー樹脂の含有量が固形分で0.05重量部以下である、負極。
【請求項2】
前記金属Zn粒子と、前記金属元素及び前記バインダー樹脂の少なくとも一方とを含む、請求項1に記載の負極。
【請求項3】
前記金属Zn粒子、前記金属元素及び前記バインダー樹脂の全てを含む、請求項1又は2に記載の負極。
【請求項4】
前記ヒドロキシ基を有するバインダー樹脂が水溶性ポリマーである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の負極。
【請求項5】
前記水溶性ポリマーがポリビニルアルコール(PVA)である、請求項4に記載の負極。
【請求項6】
前記ZnO粒子の含有量を100重量部とした場合に、前記金属Zn粒子を10〜90重量部含む、請求項1〜5のいずれか一項に記載の負極。
【請求項7】
前記ZnO粒子の含有量を100重量部とした場合に、Inの含有量が酸化物換算で0.3〜2.4重量部であり、かつ、Biの含有量が酸化物換算で0〜0.6重量部である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の負極。
【請求項8】
前記ZnO粒子の含有量を100重量部とした場合に、前記バインダー樹脂を固形分で0.01〜0.05重量部含む、請求項1〜7のいずれか一項に記載の負極。
【請求項9】
前記金属元素が酸化物粒子の形態で含まれる、請求項1〜8のいずれか一項に記載の負極。
【請求項10】
前記負極がシート状のプレス成形体である、請求項1〜9のいずれか一項に記載の負極。
【請求項11】
正極と、
請求項1〜10のいずれか一項に記載の負極と、
前記正極と前記負極とを水酸化物イオン伝導可能に隔離するセパレータと、
電解液と、
を含む、亜鉛二次電池。
【請求項12】
前記セパレータが層状複水酸化物(LDH)セパレータである、請求項11に記載の亜鉛二次電池。
【請求項13】
前記LDHセパレータが多孔質基材と複合化されている、請求項11又は12に記載の亜鉛二次電池。
【請求項14】
前記正極が水酸化ニッケル及び/又はオキシ水酸化ニッケルを含み、それにより前記亜鉛二次電池がニッケル亜鉛二次電池をなす、請求項11〜13のいずれか一項に記載の亜鉛二次電池。
【請求項15】
前記正極が空気極であり、それにより前記亜鉛二次電池が亜鉛空気二次電池をなす、請求項11〜13のいずれか一項に記載の亜鉛二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、負極及び亜鉛二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ニッケル亜鉛二次電池、空気亜鉛二次電池等の亜鉛二次電池では、充電時に負極から金属亜鉛がデンドライト状に析出し、不織布等のセパレータの空隙を貫通して正極に到達し、その結果、短絡を引き起こすことが知られている。このような亜鉛デンドライトに起因する短絡は繰り返し充放電寿命の短縮を招く。
【0003】
上記問題に対処すべく、水酸化物イオンを選択的に透過させながら、亜鉛デンドライトの貫通を阻止する、層状複水酸化物(LDH)セパレータを備えた電池が提案されている。例えば、特許文献1(国際公開第2013/118561号)には、ニッケル亜鉛二次電池においてLDHセパレータを正極及び負極間に設けることが開示されている。また、特許文献2(国際公開第2016/076047号)には、樹脂製外枠に嵌合又は接合されたLDHセパレータを備えたセパレータ構造体が開示されており、LDHセパレータがガス不透過性及び/又は水不透過性を有する程の高い緻密性を有することが開示されている。また、この文献にはLDHセパレータが多孔質基材と複合化されうることも開示されている。さらに、特許文献3(国際公開第2016/067884号)には多孔質基材の表面にLDH緻密膜を形成して複合材料を得るための様々な方法が開示されている。この方法は、多孔質基材にLDHの結晶成長の起点を与えうる起点物質を均一に付着させ、原料水溶液中で多孔質基材に水熱処理を施してLDH緻密膜を多孔質基材の表面に形成させる工程を含むものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2013/118561号
【特許文献2】国際公開第2016/076047号
【特許文献3】国際公開第2016/067884号
【発明の概要】
【0005】
ところで、亜鉛二次電池の短寿命化を招く別の要因として、負極活物質である亜鉛の形態変化が挙げられる。すなわち、充放電の繰り返しにより亜鉛が溶解及び析出を繰り返すにつれて、負極が形態変化して、気孔の閉塞、亜鉛の孤立化等を生じ、その結果、高抵抗化して充放電が困難になるとの問題がある。
【0006】
本発明者らは、今般、ZnO粒子と、(i)所定粒径の金属Zn粒子、(ii)所定の金属元素及び(iii)所定のバインダー樹脂から選択される少なくとも2つとを組み合わせて負極に用いることにより、亜鉛二次電池において、充放電の繰り返しに伴う負極の劣化を抑制して耐久性を向上し、それによりサイクル寿命を長くすることができるとの知見を得た。
【0007】
したがって、本発明の目的は、亜鉛二次電池において、充放電の繰り返しに伴う負極の劣化を抑制して耐久性を向上し、それによりサイクル寿命を長くすることを可能とする負極を提供することにある。
【0008】
本発明の一態様によれば、亜鉛二次電池に用いられる負極であって、
(A)ZnO粒子と、
(B)以下の群:
(i)平均粒径D50が5〜80μmである金属Zn粒子、
(ii)In及びBiから選択される1種以上の金属元素、及び
(iii)ヒドロキシル基を有するバインダー樹脂
から選択される少なくとも2つと、
を含み、
前記負極がInを含む場合、前記ZnO粒子の含有量を100重量部とした場合に、Inの含有量が酸化物換算で2.4重量部以下であり、
前記負極がBiを含む場合、前記ZnO粒子の含有量を100重量部とした場合に、Biの含有量が酸化物換算で0.6重量部以下であり、
前記負極が前記バインダー樹脂を含む場合、前記ZnO粒子の含有量を100重量部とした場合に、前記バインダー樹脂の含有量が固形分で0.05重量部以下である、負極が提供される。
【0009】
本発明の他の一態様によれば、
正極と、
前記負極と、
前記正極と前記負極とを水酸化物イオン伝導可能に隔離するセパレータと、
電解液と、
を含む、亜鉛二次電池が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】例7において作製した負極の断面SEM像である。
図2】例33〜36で測定された、様々なロイシン添加量の電解液を用いたセルにおける、充放電サイクルに伴う負極の残存面積率変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
負極
本発明の負極は亜鉛二次電池に用いられる負極である。この負極は、(A)ZnO粒子と、(B)以下の群:(i)平均粒径D50が5〜80μmである金属Zn粒子、(ii)In及びBiから選択される1種以上の金属元素、及び(iii)ヒドロキシル基を有するバインダー樹脂から選択される少なくとも2つとを含む。但し、負極がInを含む場合、ZnO粒子の含有量を100重量部とした場合に、Inの含有量が酸化物換算で2.4重量部以下である。また、負極がBiを含む場合、ZnO粒子の含有量を100重量部とした場合に、Biの含有量が酸化物換算で0.6重量部以下である。さらに、負極がバインダー樹脂を含む場合、ZnO粒子の含有量を100重量部とした場合に、バインダー樹脂の含有量が固形分で0.05重量部以下である。このようにZnO粒子と、(i)所定粒径の金属Zn粒子、(ii)所定の金属元素及び(iii)所定のバインダー樹脂から選択される少なくとも2つとを組み合わせて負極に用いることにより、亜鉛二次電池において、充放電の繰り返しに伴う負極の劣化を抑制して耐久性を向上し、それにより多数回の充放電サイクル後も良好な電池性能を維持できる。つまり、電池のサイクル寿命を、従来型のZnO/Zn含有負極と比べて、長くすることができる。例えば、従来型のZnO/Zn含有負極と比較して約1.5〜3倍の回数の充放電を実施することができる。その理由は定かではないが、多数回の充放電サイクルを経ても負極のミクロな形態変化(典型的にはZnO粒子や金属Zn粒子によってもたされる微細構造ないし微多孔構造の緻密化)が起こりにくくなり、その結果、負極に対する電解液の良好な浸透が維持されるためではないかと考えられる。つまり、こうした負極のミクロ形態変化抑制によって高抵抗化が抑制され、それにより多数回の充放電サイクル後における電池性能が向上するものと考えられる。
【0012】
本発明の負極は、成分(A)として、ZnO粒子を含む。ZnO粒子は亜鉛二次電池に用いられる市販の酸化亜鉛粉末、もしくはそれらを出発原料として用いて固相反応等により粒成長させた酸化亜鉛粉末を用いればよく特に限定されない。ZnO粒子のD50粒径は、好ましくは0.1〜20μmであり、より好ましくは0.1〜10μm、さらに好ましくは0.1〜5μmである。
【0013】
本発明の負極は、成分(B)として、平均粒径D50が5〜80μmである金属Zn粒子(以下、成分(i))、In及びBiから選択される1種以上の金属元素(以下、成分(ii))、及びヒドロキシル基を有するバインダー樹脂(以下、成分(iii))から選択される少なくとも2つを含む。ここで「少なくとも2つ」とは、成分(i)及び成分(ii)の組合せ、成分(ii)及び成分(iii)の組合せ、又は成分(i)及び成分(iii)の組合せを少なくとも含むことを意味する。好ましくは、成分(B)は、成分(i)と、成分(ii)及び成分(iii)の少なくとも一方とを含む。特に好ましくは、成分(B)は、成分(i)、成分(ii)及び成分(iii)の全てを含む。
【0014】
成分(i)は、金属Zn粒子である。金属Zn粒子は、亜鉛二次電池に一般的に使用される金属Zn粒子が使用可能であるが、それよりも小さい金属Zn粒子の使用が電池のサイクル寿命を長くする観点からより好ましい。具体的には、金属Zn粒子のD50粒径は、5〜80μmであり、好ましくは8〜60μmであり、より好ましくは10〜50μmである。負極における金属Zn粒子の好ましい含有量は、ZnO粒子の含有量を100重量部とした場合に、10〜90重量部であるのが好ましく、より好ましくは15〜50重量部、さらに好ましくは20〜45重量部、特に好ましくは25〜35重量部である。後述するように金属Zn粒子には成分(ii)のIn及び/又はBiがドープされていてもよい。
【0015】
成分(ii)は、In及びBiから選択される1種以上の金属元素である。これらの金属元素は、金属、酸化物、水酸化物、その他の化合物等のいかなる形態で負極に含まれてもよいが、酸化物又は水酸化物の形態で含まれるのが好ましく、より好ましくは酸化物の形態で含まれる。上記金属元素の酸化物の例としては、In、Bi等が挙げられる。上記金属元素の水酸化物の例としては、In(OH)、Bi(OH)等が挙げられる。負極がInを含む場合、ZnO粒子の含有量を100重量部とした場合に、Inの含有量が酸化物換算で2.4重量部以下であるのが好ましく、より好ましくは0.3〜2.4重量部、さらに好ましくは0.6〜2.0重量部、特に好ましくは0.8〜1.5重量部、最も好ましくは0.9〜1.2重量部である。また、負極がBiを含む場合、ZnO粒子の含有量を100重量部とした場合に、Biの含有量が酸化物換算で0.6重量部以下であり、より好ましくは0.006〜0.3重量部、さらに好ましくは0.01〜0.1重量部である。本発明の典型的な態様においては、ZnO粒子の含有量を100重量部とした場合に、Inの含有量が酸化物換算で0.3〜2.4重量部であり、かつ、Biの含有量が酸化物換算で0〜0.6重量部である。
【0016】
成分(ii)が酸化物又は水酸化物の形態で負極に含まれる場合、In及び/又はBiの全てが酸化物又は水酸化物の形態である必要は無く、それらの一部が金属又は他の化合物等の他の形態で負極に含まれていてもよい。例えば、上記金属元素が成分(i)の金属Zn粒子に微量元素としてドープされていてもよい。この場合、金属Zn粒子中のIn濃度は好ましくは50〜2000重量ppm、より好ましくは200〜1500重量ppm、金属Zn粒子中のBi濃度は好ましくは50〜2000重量ppm、より好ましくは100〜1300重量ppmである。例えば、上記金属元素の一部が成分(i)の金属Zn粒子に含まれていて、上記金属元素の残りが酸化物及び/又は水酸化物の形態で負極に含まれもよい。成分(ii)は粉末形態であるのが好ましい。粉末形態の成分(ii)(例えば酸化物又は水酸化物)のD50粒径は、好ましくは0.1〜5μmであり、より好ましくは0.2〜3μm、さらに好ましくは0.5〜2μmである。
【0017】
成分(iii)は、ヒドロキシル基を有するバインダー樹脂である。ヒドロキシル基を有するバインダー樹脂は水溶性ポリマーであるのが好ましい。水溶性ポリマーは冷水溶解性のものであってもよいが、温水溶解性や熱水溶解性のものでもよい。もっとも、必ずしも水溶性とまではいえないヒドロキシル基含有樹脂(例えば膨潤はするが水に溶解しない樹脂)も、所望の効果が得られるかぎり成分(iii)として使用可能である。水溶性ポリマーの好ましい例としては、ポリビニルアルコール(PVA)、ビニロン(PVA繊維)、ポリビニルアセタール樹脂が挙げられ、より好ましくはPVA、ビニロン及びポリビニルアセタール樹脂、特に好ましくはPVAである。負極が成分(iii)を含む場合、ZnO粒子の含有量を100重量部とした場合に、成分(iii)の含有量が固形分で0.05重量部以下であるのが好ましく、より好ましくは固形分で0.01〜0.05重量部、さらに好ましくは0.01〜0.04重量部である。
【0018】
負極活物質はゲル状に構成してもよいし、電解液と混合して負極合材としてもよい。例えば、負極活物質に電解液及び増粘剤を添加することにより容易にゲル化した負極を得ることができる。増粘剤の例としては、ポリアクリル酸塩、CMC、アルギン酸等が挙げられるが、ポリアクリル酸が強アルカリに対する耐薬品性に優れているため好ましい。
【0019】
負極材料の形状は特に限定されないが、粉末状とすることが好ましく、それにより表面積が増大して大電流放電に対応可能となる。このように負極材料の表面積が大きいと、大電流放電への対応に適するとともに、電解液及びゲル化剤と均一に混合しやすく、電池組み立て時の取り扱い性も良い。
【0020】
負極は成分(iii)以外に他のバインダーをさらに含んでいてもよい。負極がバインダーを含むことで、負極形状を保持しやすくなる。バインダーは公知の様々なバインダーが使用可能であるが、好ましい例としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)が挙げられる。PVA(成分(iii))とPTFEの両方を組み合わせてバインダーとして用いるのが特に好ましい。
【0021】
負極はシート状のプレス成形体であるのが好ましい。こうすることで、電極活物質の脱落防止や電極密度の向上を図ることができ、負極の形態変化をより効果的に抑制することができる。かかるシート状のプレス成形体の作製は、負極材料にバインダーを加えて混練し、得られた混練物にロールプレス等のプレス成形を施してシート状に成形すればよい。
【0022】
負極には集電体が設けられるのが好ましい。集電体の好ましい例としては、銅パンチングメタルや銅エキスパンドメタルが挙げられる。この場合、例えば、銅パンチングメタルや銅エキスパンドメタル上に、Zn化合物、金属亜鉛及び酸化亜鉛粉末、並びに所望によりバインダー(例えばポリテトラフルオロエチレン粒子)を含む混合物を塗布して負極/負極集電体からなる負極板を好ましく作製することができる。その際、乾燥後の負極板(すなわち負極/負極集電体)にプレス処理を施して、電極活物質の脱落防止や電極密度の向上を図ることも好ましい。あるいは、上述したようなシート状のプレス成形体を銅エキスパンドメタル等の集電体に圧着してもよい。
【0023】
亜鉛二次電池
本発明の負極は亜鉛二次電池に適用されるのが好ましい。したがって、本発明の好ましい態様によれば、正極と、負極と、正極と負極とを水酸化物イオン伝導可能に隔離するセパレータと、電解液とを含む、亜鉛二次電池が提供される。本発明の亜鉛二次電池は、亜鉛を負極として用い、かつ、電解液(典型的にはアルカリ金属水酸化物水溶液)を用いた二次電池であれば特に限定されない。したがって、ニッケル亜鉛二次電池、酸化銀亜鉛二次電池、酸化マンガン亜鉛二次電池、亜鉛空気二次電池、その他各種のアルカリ亜鉛二次電池であることができる。例えば、正極が水酸化ニッケル及び/又はオキシ水酸化ニッケルを含み、それにより亜鉛二次電池がニッケル亜鉛二次電池をなすのが好ましい。あるいは、正極が空気極であり、それにより亜鉛二次電池が亜鉛空気二次電池をなしてもよい。
【0024】
セパレータは層状複水酸化物(LDH)セパレータであるのが好ましい。すなわち、前述したように、ニッケル亜鉛二次電池や空気亜鉛二次電池の分野において、LDHセパレータが知られており(特許文献1〜3を参照)、このLDHセパレータを本発明の亜鉛二次電池にも好ましく使用することができる。LDHセパレータは、水酸化物イオンを選択的に透過させながら、亜鉛デンドライトの貫通を阻止することができる。本発明の負極の採用による効果と相まって、亜鉛二次電池の耐久性をより一層向上することができる。
【0025】
LDHセパレータは、特許文献1〜3に開示されるように多孔質基材と複合化されたものであってもよい。多孔質基材はセラミックス材料、金属材料、及び高分子材料のいずれで構成されてもよいが、高分子材料で構成されるのが特に好ましい。高分子多孔質基材には、1)フレキシブル性を有する(それ故薄くしても割れにくい)、2)気孔率を高くしやすい、3)伝導率を高くしやすい(気孔率を高めながら厚さを薄くできるため)、4)製造及びハンドリングしやすいといった利点がある。特に好ましい高分子材料は、耐熱水性、耐酸性及び耐アルカリ性に優れ、しかも低コストである点から、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィンであり、最も好ましくはポリプロピレンである。多孔質基材が高分子材料で構成される場合、機能層が多孔質基材の厚さ方向の全域にわたって組み込まれている(例えば多孔質基材内部の大半又はほぼ全部の孔がLDHで埋まっている)のが特に好ましい。この場合における高分子多孔質基材の好ましい厚さは、5〜200μmであり、より好ましくは5〜100μm、さらに好ましくは5〜30μmである。このような高分子多孔質基材として、リチウム電池用セパレータとして市販されているような微多孔膜を好ましく用いることができる。
【0026】
電解液は、アルカリ金属水酸化物水溶液を含むのが好ましい。アルカリ金属水酸化物の例としては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化アンモニウム等が挙げられるが、水酸化カリウムがより好ましい。亜鉛含有材料の自己溶解を抑制するために、電解液中に酸化亜鉛、水酸化亜鉛等を添加してもよい。
【0027】
電解液は、アルカリ金属水酸化物水溶液(典型的には水酸化カリウム水溶液)に加えて、アミノ酸をさらに含むのが、サイクル寿命を長くする観点から好ましい。アミノ酸の例としては、グルタミン酸、アスパラギン酸、ロイシン、イソロイシン、トリプトファン、ヒスチジン、メチオニン、グリシン、プロリン、チロシン、リシン等が挙げられ、好ましくはロイシン及びイソロイシン、より好ましくはロイシンが挙げられる。電解液がロイシン等のアミノ酸を含むとサイクル寿命が長くなるメカニズムは定かではないが、i)アミノ酸がZnイオンを捕獲して錯体を形成することでZnイオンの移動を抑制し、それにより負極のマクロな形態変化を抑制しうること、及びii)ロイシン等のアミノ酸が上記Znイオンの捕獲に加え、ZnO等の負極活物質表面に吸着されて立体障害をもたらすことで、負極のミクロな形態変化をより効果的に抑制しうることが考えられる。電解液がアミノ酸(例えばロイシン)を含む場合、電解液におけるアミノ酸(例えばロイシン)の濃度は、好ましくは0.1〜80g/L、より好ましくは1〜70g/L、さらに好ましくは5〜60g/L、特に好ましくは10〜50g/L、最も好ましくは20〜50g/Lである。
【0028】
電解液は、アルカリ金属水酸化物水溶液(典型的には水酸化カリウム水溶液)に加えて、ホウ酸をさらに含むのがサイクル寿命を長くする観点から好ましい。すなわち、充放電中は、電気化学反応により負極の周囲及び正極の周囲で水酸化物イオンが増減するため、局所的に電解液のpHが変化しうる。この点、ホウ酸が緩衝液として機能することで、充放電による電解液のpH変化が抑制され、電解液の伝導度を一定に保つことができ、それにより多数回の充放電サイクル後における電池性能が向上するものと考えられる。
【0029】
電解液は、水酸化カリウム水溶液に加えて、水酸化ナトリウムをさらに含むのがサイクル寿命を長くする観点から好ましい。電解液が水酸化ナトリウムを含むことで、酸素発生過電圧を高くし、過充電に伴う正極からの酸素発生を抑制しうるため、多数回の充放電サイクル後における電池性能が向上するものと考えられる。なお、電解液は、水酸化カリウム水溶液に加えて、ホウ酸及び水酸化ナトリウムの両方を含むのがサイクル寿命を長くする観点からより好ましい。
【実施例】
【0030】
本発明を以下の例によってさらに具体的に説明する。
【0031】
例1〜32
(1)正極の用意
ペースト式水酸化ニッケル正極(容量密度:約700mAh/cm)を用意した。
【0032】
(2)負極の作製
以下に示される各種原料粉末を用意した。
<成分A>
・ZnO粉末(正同化学工業株式会社製、JIS規格1種グレード、平均粒径D50:0.2μm)
<成分B>
成分(i)
・金属Zn粉末(三井金属鉱業株式会社製、Bi及びInがドープされたもの、Bi:1000重量ppm、In:1000重量ppm、平均粒径D50は表1及び2に示されるとおり)
成分(ii)
・In粉末(株式会社高純度化学研究所製、純度:99.99%)、平均粒径D50:1.0μmに調整
・In(OH)粉末(株式会社高純度化学研究所製、純度:99.99%)、平均粒径D50:1.0μmに調整)
・Bi粉末(株式会社高純度化学研究所製、純度:99.99%、平均粒径D50:1.0μmに調整)
成分(iii)
・ポリビニルアルコール(PVA)(和光純薬工業株式会社製)
・ビニロン(PVA繊維)(株式会社クラレ社製、銘柄:VPB041)
・ポリビニルアセタール樹脂(積水化学工業株式会社製、エスレックB、品種:BL−S)
【0033】
表1及び2に示される配合割合に従い、ZnO粉末に、成分i(金属Zn粉末)、成分ii(In粉末、In(OH)粉末又はBi粉末)及び/又は成分iii(PVA、ビニロン又はBL−S)を加え、さらにポリテトラフルオロエチレン(PTFE)分散水溶液(ダイキン工業株式会社製、固形分60%)を固形分換算で1.26重量部添加し、プロピレングリコールと共に混練した。得られた混練物をロールプレスで圧延して、負極活物質シートを得た。負極活物質シートを、錫メッキが施された銅エキスパンドメタルに圧着して、負極を得た。図1に例7において作製した負極の断面SEM像を示す。
【0034】
(3)電解液の作製
48%水酸化カリウム水溶液(関東化学株式会社製、特級)にイオン交換水を加えてKOH濃度を5.4mol%に調整した後、酸化亜鉛を0.42mol/L加熱攪拌により溶解させて、電解液を得た。
【0035】
(4)評価セルの作製
正極と負極の各々を不織布で包むとともに、電流取り出し端子を溶接した。こうして準備された正極及び負極を、LDHセパレータを介して対向させ、電流取り出し口が設けられたラミネートフィルムに挟んで、ラミネートフィルムの3辺を熱融着した。こうして得られた上部開放されたセル容器に電解液を加え、真空引き等により電解液を十分に正極及び負極に浸透させた。その後、ラミネートフィルムの残りの1辺も熱融着して、簡易密閉セルとした。
【0036】
(5)評価
充放電装置(東洋システム株式会社製、TOSCAT3100)を用いて、簡易密閉セルに対し、0.1C充電及び0.2C放電で化成を実施した。その後、1C充放電サイクルを実施した。同一条件で繰り返し充放電サイクルを実施し、試作電池の1サイクル目の放電容量の70%まで放電容量が低下するまでの充放電回数を記録した。各例の充放電回数を、例23における充放電回数を1.0とした場合の相対値として、下記基準に基づく評価結果とともに表1及び2に示す。
<評価基準>
評価A:充放電回数(例23の回数に対する相対値)が2.2以上
評価B:充放電回数(例23の回数に対する相対値)が1.7以上2.2未満
評価C:充放電回数(例23の回数に対する相対値)が1.7未満
【0037】
【表1】
【0038】
【表2】
【0039】
例33〜43
例33については例7と全く同様にして、例34〜43については上記(3)において表3に示される種類及び量の添加物(アミノ酸、ホウ酸(HBO)及び/又は水酸化ナトリウム(NaOH))を電解液にさらに溶解させたこと以外は例7と同様にして、評価セルを作製し、以下の評価を行った。
【0040】
(充放電評価)
充放電装置(東洋システム株式会社製、TOSCAT3100)を用いて、簡易密閉セルに対し、0.1C充電及び0.2C放電で化成を実施した。その後、1C充放電サイクルを実施した。同一条件で繰り返し充放電サイクルを実施し、試作電池の1サイクル目の放電容量の70%まで放電容量が低下するまでの充放電回数を記録した。各例の充放電回数を、例33における充放電回数を1.0とした場合の相対値として、下記基準に基づく評価結果とともに表3に示す。
<評価基準>
評価A:充放電回数(例33の回数に対する相対値)が1.4以上
評価B:充放電回数(例33の回数に対する相対値)が1.1以上1.4未満
評価C:充放電回数(例33の回数に対する相対値)が1.1未満
【0041】
(負極の残存面積率評価(例33〜36のみ))
充放電装置(東洋システム株式会社製、TOSCAT3100)を用いて、簡易密閉セルに対し、0.1C充電及び0.2C放電で化成を実施した。その後、1C充放電サイクルを繰り返し実施した。負極の残存面積率を、X線による簡易密閉セルの透過像に基づき算出した。具体的には、三次元計測X線CT装置(ヤマト科学株式会社製、TDW1300−IW/TDW1000−IW切替式)を用いて、電圧80kV、電流100μAにて簡易密閉セルの透過X線像を取得した。得られた透過像を縦20マス×横20マスの400マスに分割し、負極活物質がマス内全面に存在するマスの総数をA、マス内に全く存在しないマスの総数をB、A及びB以外のマスの総数をCとして以下の式:
残存面積率(%)=[(A+0.5×C)/400]×100
に基づき負極の残存面積率(%)を算出した。図2に、ロイシン無添加の例33、ロイシン添加量20.0g/Lの例34、ロイシン添加量40.0g/Lの例35、及びロイシン添加量60.0g/Lの例36の各電解液を用いたセルにおける、負極の残存面積率のサイクル回数に応じた変化を示す。図2に示される結果から分かるように、ロイシンを電解液に添加することにより、充放電回数がさらに増加するだけでなく、負極の形態変化抑制効果も得ることができる。
【0042】
【表3】
図1
図2