特許第6856836号(P6856836)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6856836リン酸ジエステル塩、その製造方法、蓄電素子の非水電解液及び蓄電素子
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6856836
(24)【登録日】2021年3月23日
(45)【発行日】2021年4月14日
(54)【発明の名称】リン酸ジエステル塩、その製造方法、蓄電素子の非水電解液及び蓄電素子
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0567 20100101AFI20210405BHJP
   H01M 10/0568 20100101ALI20210405BHJP
   H01M 10/054 20100101ALI20210405BHJP
   C07F 9/09 20060101ALN20210405BHJP
【FI】
   H01M10/0567
   H01M10/0568
   H01M10/054
   !C07F9/09 J
【請求項の数】7
【全頁数】36
(21)【出願番号】特願2016-156542(P2016-156542)
(22)【出願日】2016年8月9日
(65)【公開番号】特開2017-36273(P2017-36273A)
(43)【公開日】2017年2月16日
【審査請求日】2019年5月8日
(31)【優先権主張番号】特願2015-158572(P2015-158572)
(32)【優先日】2015年8月10日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000162847
【氏名又は名称】ステラケミファ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130580
【弁理士】
【氏名又は名称】小山 靖
(72)【発明者】
【氏名】坂口 紀敬
(72)【発明者】
【氏名】近 壮二郎
(72)【発明者】
【氏名】桂 静郁
(72)【発明者】
【氏名】山本 雅士
(72)【発明者】
【氏名】西田 哲郎
【審査官】 伊藤 幸司
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭54−019959(JP,A)
【文献】 特開2013−230660(JP,A)
【文献】 特表2010−535795(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2007/0099018(US,A1)
【文献】 中国特許出願公開第103762334(CN,A)
【文献】 中国特許出願公開第102738503(CN,A)
【文献】 中国特許出願公開第103066324(CN,A)
【文献】 特開2014−012649(JP,A)
【文献】 特開2012−001459(JP,A)
【文献】 特開2014−022333(JP,A)
【文献】 J. Org. Chem.,1993年,58(27),pp.7822-7826
【文献】 FILE REGISTRY ON STN, RN 752175-57-8, Entered STN: 26 Sep 2004
【文献】 FILE REGISTRY ON STN, RN 771448-74-9, Entered STN: 28 Oct 2004
【文献】 Canadian Journal of Spectroscopy,1976年,21(3),pp.75-82
【文献】 ACS SYMPOSIUM SERIES, Cellulose Solvents: For Analysis, Shaping and Chemical Modification,2010年,1033,pp.229-259
【文献】 Langmuir,2004年,20(4),pp.1065-1072
【文献】 Heteroatom Chemistry,1992年,3(3),pp.251-260
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F
H01M
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式(1)で表されるリン酸ジエステル塩が添加剤として含まれる蓄電素子の非水電解液。
【化1】
(前記Mn+は、水素イオン、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、アルミニウムイオン、遷移金属イオン又はオニウムイオンを表す。前記R及びRは相互に異なり、炭素数が1〜10の炭化水素基、又は炭素数が1〜10の範囲であり、ハロゲン原子、ヘテロ原子若しくは不飽和結合の少なくとも何れか1つを有する炭化水素基を表す。前記nは価数を表す。)
【請求項2】
下記化学式(1)で表されるリン酸ジエステル塩が電解質として含まれる蓄電素子の非水電解液。
【化2】
(前記Mn+は、水素イオン、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、アルミニウムイオン、遷移金属イオン又はオニウムイオンを表す。前記R及びRは相互に異なり、炭素数が1〜10の炭化水素基、又は炭素数が1〜10の範囲であり、ハロゲン原子、ヘテロ原子若しくは不飽和結合の少なくとも何れか1つを有する炭化水素基を表す。前記nは価数を表す。)
【請求項3】
前記R及びRの何れか一方は、ハロゲン原子を有する炭素数が1〜10のアルキル基であり、他方は、ハロゲン原子を有しない炭素数が1〜10のアルキル基である請求項又はに記載の蓄電素子の非水電解液。
【請求項4】
前記R及びRの何れか一方は2,2,2−トリフルオロエチル基であり、他方はエチル基である請求項に記載の蓄電素子の非水電解液。
【請求項5】
前記Mがリチウム、ナトリウム、マグネシウム及びカルシウムからなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項の何れか1項に記載の蓄電素子の非水電解液。
【請求項6】
前記Mがトリエチルメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、1−エチル−3−メチルイミダゾリウム又は1−エチル−2メチルピロリジニウムである請求項の何れか1項に記載の蓄電素子の非水電解液。
【請求項7】
請求項の何れか1項に記載の非水電解液を用いた蓄電素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リン酸ジエステル塩、その製造方法、蓄電素子の非水電解液及び蓄電素子に関し、より詳細には、例えば、リン酸ジエステル塩を蓄電素子に適用した場合に、当該蓄電素子の充放電特性を向上させ、かつ、高温保存後の内部抵抗の上昇を抑制することが可能なリン酸ジエステル塩、その製造方法、蓄電素子の非水電解液及び蓄電素子に関する。
【背景技術】
【0002】
非水電解液を用いる蓄電素子としては、リチウムイオン二次電池等の二次電池や、電気二重層キャパシタ等のキャパシタなどが挙げられる。その中でもリチウムイオン二次電池は、携帯電話やノートパソコンの電源として既に幅広く実用化されており、需要が増大しつつある。しかしながら、リチウムイオン二次電池は、リチウム等の高価な金属を含む原料を多く使用するため、当該原料の供給が、需要の増大に対応できるか懸念されている。
【0003】
これに対し、原料の供給懸念を解決する二次電池として、ナトリウムイオン二次電池が注目を集め、検討されている。ナトリウムイオン二次電池は、リチウムよりクラーク数が高く、資源豊富なナトリウムを主たる構成材料にすることから、供給懸念の解消及び低コスト化に寄与すると期待されている。
【0004】
これらの蓄電素子においては、その使用環境温度に関し、高温環境下及び低温環境下の両方で、従来よりも高い耐久性が求められている。特に、高温環境下では、セルが大型化されるため、使用環境のみならず自己発熱によって定常的に比較的高い温度下に置かれるため、高温での耐久性の向上は非常に重要である。さらに、蓄電素子を高温環境下で保存すると、電極や電解液、電解質の劣化に伴いセルの内部抵抗が上昇し、低温環境下での内部抵抗に起因するエネルギーロスが著しくなる。
【0005】
また、蓄電素子のうち、例えば、アルカリ金属イオン二次電池では、電極活物質と電解液の界面において、アルカリ金属イオン伝導性はあるが電子導電性のない安定な皮膜(Solid Electrolyte Interface)が形成される、という解釈が一般的になされている。しかし、アルカリ金属イオン二次電池を高温環境下で保存すると、その安定な皮膜に亀裂が生じたり、溶解や分解が生じる場合がある。その結果、アルカリ金属イオン二次電池の充放電特性の低下やインピーダンスの増加が発生するという問題がある。
【0006】
アルカリ金属イオン電池の中で、例えばナトリウムイオン二次電池としては、電解液として、飽和環状カーボネート又は飽和環状カーボネートと鎖状カーボネートを混合した非水溶媒を用い、負極活物質としてハードカーボンを用いたものがある(下記特許文献1)。このナトリウムイオン二次電池によれば、常温で動作可能であり、負極活物質が原因となる電池性能の低下を抑制可能とされている。しかし、高温環境下におけるナトリウムイオン二次電池の保存特性が不十分であり、保存後の充放電特性も低下し、内部抵抗が上昇するという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】WO2010/109889号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は前記問題点に鑑みなされたものであり、その目的は、例えば、蓄電素子の充放電特性の低下を抑制し、高温保存後の内部抵抗の上昇を抑制することができるリン酸ジエステル塩、その製造方法、蓄電素子の非水電解液及び蓄電素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のリン酸ジエステル塩は、前記の課題を解決する為に、下記化学式(1)で表されるリン酸ジエステル塩であることを特徴とする。
【0010】
【化1】
(前記Mn+は水素イオン、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、アルミニウムイオン、遷移金属イオン又はオニウムイオンを表す。前記R及びRは相互に異なり、炭素数が1〜10の炭化水素基、又は炭素数が1〜10の範囲であり、ハロゲン原子、ヘテロ原子若しくは不飽和結合の少なくとも何れか1つを有する炭化水素基を表す。前記nは価数を表す。)
【0011】
前記の構成に於いて、前記R及びRの何れか一方は、ハロゲン原子を有する炭素数が1〜10のアルキル基であり、他方は、ハロゲン原子を有しない炭素数が1〜10のアルキル基であることが好ましい。
【0012】
さらに、前記の構成に於いて、前記R及びRの何れか一方は2,2,2−トリフルオロエチル基であり、他方はエチル基であることが好ましい。
【0013】
前記の構成に於いては、前記Mがリチウム、ナトリウム、マグネシウム及びカルシウムからなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0014】
さらに、前記の構成に於いては、前記Mがトリエチルメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、1−エチル−3−メチルイミダゾリウム又は1−エチル−2メチルピロリジニウムであることが好ましい。
【0015】
また、本発明のリン酸ジエステル塩の製造方法は、前記の課題を解決する為に、下記化学式(2)で表されるリン酸トリエステルを加水分解し、リン酸ジエステルを生成する工程と、前記リン酸ジエステルと、Mn+(OH)n(前記Mn+は、水素イオン、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、アルミニウムイオン、遷移金属イオン又はオニウムイオンを表す。前記nは価数を表す。)を反応させ、下記化学式(1)で表されるリン酸ジエステル塩を生成する工程とを含み、前記リン酸トリエステルにおける−OR基及び−OR基は脱離基であり、当該−OR基の脱離能が−OR基の脱離能よりも大きいことを特徴とする。
【0016】
【化2】
(前記Mn+は、水素イオン、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、アルミニウムイオン、遷移金属イオン又はオニウムイオンを表す。前記R及びRは相互に異なり、炭素数が1〜10の炭化水素基、又は炭素数が1〜10の範囲であり、ハロゲン原子、ヘテロ原子若しくは不飽和結合の少なくとも何れか1つを有する炭化水素基を表す。前記nは価数を表す。)
【0017】
【化3】
(前記R及びRは相互に異なり、炭素数が1〜10の炭化水素基、又は炭素数が1〜10の範囲であり、ハロゲン原子、ヘテロ原子若しくは不飽和結合の少なくとも何れか1つを有する炭化水素基を表す。)
【0018】
前記の構成に於いて、前記R及びRの何れか一方は、ハロゲン原子を有する炭素数が1〜10のアルキル基であり、他方は、ハロゲン原子を有しない炭素数が1〜10のアルキル基であることが好ましい。
【0019】
さらに、前記R及びRの何れか一方は2,2,2−トリフルオロエチル基であり、他方はエチル基であることが好ましい。
【0020】
また、本発明の蓄電素子の非水電解液は、前記の課題を解決する為に、下記化学式(1)で表されるリン酸ジエステル塩が添加剤として含まれることを特徴とする。
【0021】
【化4】
(前記Mn+は、水素イオン、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、アルミニウムイオン、遷移金属イオン又はオニウムイオンを表す。前記R及びRは相互に異なり、炭素数が1〜10の炭化水素基、又は炭素数が1〜10の範囲であり、ハロゲン原子、ヘテロ原子若しくは不飽和結合の少なくとも何れか1つを有する炭化水素基を表す。前記nは価数を表す。)
【0022】
また、本発明の蓄電素子の非水電解液は、前記の課題を解決する為に、下記化学式(1)で表されるリン酸ジエステル塩が電解質として含まれることを特徴とする。
【0023】
【化5】
(前記Mn+は、水素イオン、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、アルミニウムイオン、遷移金属イオン又はオニウムイオンを表す。前記R及びRは相互に異なり、炭素数が1〜10の炭化水素基、又は炭素数が1〜10の範囲であり、ハロゲン原子、ヘテロ原子若しくは不飽和結合の少なくとも何れか1つを有する炭化水素基を表す。前記nは価数を表す。)
【0024】
前記の構成に於いて、前記R及びRの何れか一方は、ハロゲン原子を有する炭素数が1〜10のアルキル基であり、他方は、ハロゲン原子を有しない炭素数が1〜10のアルキル基であることが好ましい。
【0025】
前記の構成に於いて、前記R及びRの何れか一方は2,2,2−トリフルオロエチル基であり、他方はエチル基であることが好ましい。
【0026】
前記の構成に於いては、前記Mがリチウム、ナトリウム、マグネシウム及びカルシウムからなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0027】
さらに、前記の構成に於いては、前記Mがトリエチルメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、1−エチル−3−メチルイミダゾリウム又は1−エチル−2メチルピロリジニウムであることが好ましい。
【0028】
また、本発明の蓄電素子は、前記の課題を解決する為に、前記に記載の非水電解液を用いたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、前記化学式(1)で表されるリン酸ジエステル塩を、例えば、非水電解液における電解質又は添加剤に用いた場合には、当該非水電解液を用いた蓄電素子において、その充放電特性を向上させ、かつ、高温下での保存後においても内部抵抗の上昇も抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】本発明の実施の一形態に係るナトリウムイオン二次電池の概略を表す断面模式図であって、非水電解液用電解液に本実施の形態の添加剤が添加されたものを表す。
図2】本発明の非水電解液用添加剤が添加された非水電解液を備える、電気化学特性評価セルの概略を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
(リン酸ジエステル塩)
先ず、本実施の形態に係るリン酸ジエステル塩について、以下に説明する。当該リン酸ジエステル塩は、下記化学式(1)で表される。
【0032】
【化6】
【0033】
前記化学式(1)において、前記Mn+は水素イオン、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、アルミニウムイオン、遷移金属イオン又はオニウムイオンを表す。
【0034】
前記アルカリ金属イオンとしては特に限定されず、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、ルビジウムイオン、セシウムイオン等が挙げられる。
【0035】
前記アルカリ土類金属イオンとしては、マグネシウムイオン、カルシウムイオン、ストロンチウムイオン、バリウムイオン等が挙げられる。
【0036】
前記遷移金属イオンとしては特に限定されず、例えば、マンガンイオン、コバルトイオン、ニッケルイオン、クロムイオン、銅イオン、モリブデンイオン、タングステンイオン、バナジウムイオン等が挙げられる。
【0037】
前記オニウムイオンとしては、アンモニウムイオン(NH4+)、第1級アンモニウムイオン、第2級アンモニウムイオン、第3級アンモニウムイオン、第4級アンモニウムイオン、第4級ホスホニウムイオン、スルホニウムイオン等が挙げられる。
【0038】
前記第1級アンモニウムイオンとしては特に限定されず、例えば、メチルアンモニウムイオン、エチルアンモニウムイオン、プロピルアンモニウムイオン、イソプロピルアンモニウムイオン等が挙げられる。
【0039】
前記第2級アンモニウムイオンとしては特に限定されず、例えば、ジメチルアンモニウムイオン、ジエチルアンモニウムイオン、ジプロピルアンモニウムイオン、ジブチルアンモニウムイオン、エチルメチルアンモニウムイオン、メチルプロピルアンモニウムイオン、メチルブチルアンモニウムイオン、プロピルブチルアンモニウムイオン、ジイソプロピルアンモニウムイオン等が挙げられる。
【0040】
前記第3級アンモニウムイオンをなす第3級アンモニウムとしては特に限定されず、例えば、トリメチルアンモニウムイオン、トリエチルアンモニウムイオン、トリプロピルアンモニウムアンモニウムイオン、トリブチルアンモニウムイオン、エチルジメチルアンモニウムイオン、ジエチルメチルアンモニウムイオン、トリイソプロピルアンモニウムイオン、ジメチルイソプロピルアンモニウムイオン、ジエチルイソプロピルアンモニウムイオン、ジメチルプロピルアンモニウムイオン、ブチルジメチルアンモニウムイオン、1−メチルピロリジニウムイオン、1−エチルピロリジニウムイオン、1−プロピルピロリジニウムイオン、1−ブチルプロピルピロリジニウムイオン、1−メチルイミダゾリウムイオン、1−エチルイミダゾリウムイオン、1−プロピルイミダゾリウムイオン、1−ブチルイミダゾリウムイオン、ピラゾリウムイオン、1−メチルピラゾリウムイオン、1−エチルピラゾリウムイオン、1−プロピルピラゾリウムイオン、1−ブチルピラゾリウムイオン、ピリジニウムイオン等が挙げられる。
【0041】
前記第4級アンモニウムイオンをなす第4級アンモニウムとしては特に限定されず、例えば、脂肪族4級アンモニウム類、イミダゾリウム類、ピリジニウム類、ピラゾリウム類、ピリダジニウム類等が挙げられる。
【0042】
さらに、前記脂肪族4級アンモニウム類としては特に限定されず、例えば、テトラエチルアンモニウム、テトラプロピルアンモニウム、テトライソプロピルアンモニウム、トリメチルエチルアンモニウム、ジメチルジエチルアンモニウム、メチルトリエチルアンモニウム、トリメチルプロピルアンモニウム、トリメチルイソプロピルアンモニウム、テトラブチルアンモニウム、トリメチルブチルアンモニウム、トリメチルペンチルアンモニウム、トリメチルヘキシルアンモニウム、1−エチル−1−メチル−ピロリジニウム、1−ブチル−1−メチルピロリジニウム、1−エチル−1−メチル−ピペリジニウム、1−ブチル−1−メチルピペリジニウム等が挙げられる。
【0043】
前記イミダゾリウム類としては特に限定されず、例えば、1,3ジメチル−イミダゾリウム、1−エチル−3−メチルイミダゾリウム、1−n−プロピル−3−メチルイミダゾリウム、1−n−ブチル−3−メチルイミダゾリウム、1−n−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウム等が挙げられる。
【0044】
前記ピリジニウム類としては特に限定されず、例えば、1−メチルピリジニウム、1−エチルピリジニウム、1−n−プロピルピリジニウム等が挙げられる。
【0045】
前記ピラゾリウム類としては特に限定されず、例えば、1,2−ジメチルピラゾリウム、1−メチル−2−エチルピラゾリウム、1−プロピル−2−メチルピラゾリウム、1−メチル−2−ブチルピラゾリウム、1−メチルピラゾリウム、3−メチルピラゾリウム、4−メチルピラゾリウム、4−ヨードピラゾリウム、4−ブロモピラゾリウム、4−ヨードー3−メチルピラゾリウム、4−ブロモー3−メチルピラゾリウム、3−トリフルオロメチルピラゾリウムが挙げられる。
【0046】
前記ピリダジニウム類としては特に限定されず、例えば、1−メチルピリダジニウム、1−エチルピリダジニウム、1−プロピルピリダジニウム、1−ブチルピリダジニウム、3−メチルピリダジニウム、4−メチルピリダジニウム、3−メトキシピリダジニウム、3,6−ジクロロピリダジニウム、3,6−ジクロ−4−メチルピリダジニウム、3−クロロ−6−メチルピリダジニウム、3−クロロー6−メトキシピリダジニウムが挙げられる。
【0047】
前記第4級ホスホニウムイオンをなす第4級ホスホニウムとしては特に限定されず、例えば、ベンジルトリフェニルホスホニウム、テトラエチルホスホニウム、テトラフェニルホスホニウム等が挙げられる。
【0048】
前記スルホニウムイオンとしては特に限定されず、例えば、トリメチルスルホニウム、トリフェニルスルホニウム、トリエチルスルホニウム等が挙げられる。
【0049】
前記Mn+の例示として列挙したもののうち、入手容易性の観点からは、リチウムイオン、ナトリウムイオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオン、テトラアルキルアンモニウムイオン、アルキルイミダゾリウムイオン、アルキルピロリジニウムイオンが好ましい。
【0050】
前記化学式(1)において、前記R及びRは、相互に異なる官能基である。前記R及びRは、炭化水素基、又はハロゲン原子、ヘテロ原子若しくは不飽和結合の少なくとも何れか1つを有する炭化水素基(以下、「ハロゲン原子等を有する炭化水素基」という。)を表す。前記炭化水素基の炭素数は1〜10であり、好ましくは1〜4である。また、ハロゲン原子等を有する炭化水素基の炭素数は1〜10であり、好ましくは1〜4である。また、不飽和結合の数は1〜10の範囲が好ましく、1〜5の範囲がより好ましく、1〜3の範囲が特に好ましい。
【0051】
前記炭化水素基又はハロゲン原子等を有する炭化水素基としては、具体的には、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、イソプロピル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基等の鎖状アルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等の環状アルキル基、2−ヨードエチル基、2−ブロモエチル基、2−クロロエチル基、2−フルオロエチル基、1,2−ジヨードエチル基、1,2−ジブロモエチル基、1,2−ジクロロエチル基、1,2−ジフルオロエチル基、2,2−ジヨードエチル基、2,2−ジブロモエチル基、2,2−ジクロロエチル基、2,2−ジフルオロエチル基、2,2,2−トリブロモエチル基、2,2,2−トリクロロエチル基、2,2,2−トリフルオロエチル基、ヘキサフルオロー2−プロピル基等の鎖状含ハロゲンアルキル基、2−ヨードシクロヘキシル基、2−ブロモシクロヘキシル基、2−クロロシクロヘキシル基、2−フルオロシクロヘキシル基等の環状含ハロゲンアルキル基、2−プロペニル基、イソプロペニル基、2−ブテニル基、3−ブテニル基等の鎖状アルケニル基、2−シクロペンテニル基、2−シクロヘキセニル基、3−シクロヘキセニル基等の環状アルケニル基、2−プロピニル基、1−ブチニル基、2−ブチニル基、3−ブチニル基、1−ペンチニル基、2−ペンチニル基、3−ペンチニル基、4−ペンチニル基等の鎖状アルキニル基、フェニル基、3−メトキシフェニル基、4−メトキシフェニル基、3,5−ジメトキシフェニル基、4−フェノキシフェニル基等のフェニル基、2−ヨードフェニル基、2−ブロモフェニル基、2−クロロフェニル基、2−フルオロフェニル基、3−ヨードフェニル基、3−ブロモフェニル基、3−クロロフェニル基、3−フルオロフェニル基、4−ヨードフェニル基、4−ブロモフェニル基、4−クロロフェニル基、4−フルオロフェニル基、3,5−ジヨードフェニル基、3,5−ジブロモフェニル基、3,5−ジクロロフェニル基、3,5−ジフルオロフェニル基等の含ハロゲンフェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、3−アミノ−2−ナフチル基等のナフチル基等が挙げられる。
【0052】
尚、前記ハロゲン原子とは、フッ素、塩素、臭素又はヨウ素の原子を意味する。ハロゲン原子を有する炭化水素基とは、当該炭化水素基中の水素の一部または全部がこれらのハロゲン原子の何れかで置換されていてもよいことを意味する。また、ヘテロ原子とは、酸素、窒素又は硫黄等の原子を意味する。ヘテロ原子を有する炭化水素基とは、当該炭化水素基中の水素及び炭素の一部または全部がこれらのヘテロ原子の何れかで置換されていてもよいことを意味する。
【0053】
ヘテロ原子を有する炭化水素基としては、具体的には、例えば、2−メトキシエチル基、2−(2−メトキシエトキシ)エチル基、2−(2−(2−メトキシエトキシ)エトキシ)エチル基、2−(2−(2−(2−メトキシエトキシ)エトキシ)エトキシ)エチル基等が挙げられる。
【0054】
さらに、極性が高い有機溶媒(例えば、プロピレンカーボネートやエチレンカーボネート等の非水溶媒。詳細については、本実施の形態に係る蓄電素子の非水電解液用添加剤の説明において述べる。)に対する溶解性の観点から、アニオン構造が分極しており、その分極度合いである双極子モーメントがより高いものほど当該リン酸ジエステルアニオンとしては好ましい。そのような観点から前記R及びRの何れか一方は、ハロゲン原子を有し、炭素数が1〜10のアルキル基であり、他方はハロゲン原子を有しておらず、炭素数が1〜10のアルキル基であることが好ましい。前記ハロゲン原子を有し、炭素数が1〜10のするアルキル基としては、含フッ素アルキル基が挙げられる。さらに、前記含フッ素アルキル基としては特に限定されず、直鎖状、分岐鎖状又は環状のものが挙げられる。具体的には、例えば、トリフルオロメチル基、2−フルオロエチル基、2,2−ジフルオロエチル基、2,2,2−トリフルオロエチル基、2,2,3,3−テトラフルオロプロピル基、2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピル基、ヘキサフルオロイソプロピル基、2,2,3,3,4,4,5,5−オクタフルオロペンチル基、2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7−ドデカフルオロヘプチル基、3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10,10−ヘプタデカフルオロデシル基等が挙げられる。これらの含フッ素アルキル基のうち、原料の入手容易性の観点からは、2,2,2−トリフルオロエチル基が好ましい。また、含フッ素アルキル基が2,2,2−トリフルオロエチル基である場合、前記ハロゲン原子を有しておらず、炭素数が1〜10のアルキル基としては、原料の入手容易性からエチル基であることが好ましい。前記ハロゲン原子を有するアルキル基の炭素数は、より好ましくは1〜4である。また、前記ハロゲン原子を有しないアルキル基の炭素数は、より好ましくは1〜4である。
【0055】
前記R及びRが相互に異なるアルキル基のみで構成されたリン酸ジエステルアニオンの具体例としては、例えば、エチルメチルリン酸アニオン、エチルプロピルリン酸アニオン、メチルプロピルリン酸アニオン等が挙げられる。
【0056】
前記R及びRの何れか一方がハロゲン原子を有するアルキル基であり、他方がハロゲン原子を有していないアルキル基で構成されたリン酸ジエステルアニオンの具体例としては、例えば、(2,2,2-トリクロロエチル)エチルリン酸アニオン、(2,2,2-トリクロロエチル)メチルリン酸アニオン、ヘキサクロロイソプロピルエチルリン酸アニオン、ヘキサクロロイソプロピルメチルリン酸アニオン、(2,2,2−トリフルオロエチル)エチルリン酸アニオン、(2,2,2−トリフルオロエチル)メチルリン酸アニオン、ヘキサフルオロイソプロピルエチルリン酸アニオン、ヘキサフルオロイソプロピルメチルリン酸アニオン等が挙げられる。
【0057】
前記R、Rの何れか一方がヘテロ原子を有するアルキル基であり、他方がアルキル基で構成されたリン酸ジエステルの具体例としては、例えば、メチル(2−メトキシエチル)リン酸アニオン、メチル(2−(2−メトキシエトキシ)エチル)リン酸アニオン、メチル(2−(2−(2−メトキシエトキシ)エトキシ)エチル)リン酸アニオン、メチル(2−(2−(2−(2−メトキシエトキシ)エトキシ)エトキシ)エチル)リン酸アニオン等が挙げられる。
【0058】
尚、前記化学式(1)に於いて、前記nは価数を表す。例えば、前記Mが1価のカチオンである場合はn=1であり、2価のカチオンである場合はn=2であり、3価のカチオンである場合はn=3である。
【0059】
前記化学式(1)で表されるリン酸ジエステル塩の具体例としては、例えば、エチルメチルリン酸ナトリウム、エチルプロピルリン酸ナトリウム、エチル(2,2,2−トリクロロエチル)リン酸ナトリウム、メチル(2,2,2−トリクロロエチル)リン酸ナトリウム、エチルヘキサクロロイソプロピルリン酸ナトリウム、エチル(2,2,2−トリフルオロエチル)リン酸ナトリウム、メチル(2,2,2−トリフルオロエチル)リン酸ナトリウム、エチル(2,2,2−トリフルオロエチル)リン酸ナトリウム、エチルヘキサフルオロイソプロピルリン酸ナトリウム、メチル(2−メトキシエチル)リン酸ナトリウム、メチル(2−(2−メトキシエトキシ)エチル)リン酸ナトリウム、メチル(2−(2−(2−メトキシエトキシ)エトキシ)エチル)リン酸ナトリウム、メチル(2−(2−(2−(2−メトキシエトキシ)エトキシ)エトキシ)エチル)リン酸ナトリウム、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムエチルメチルリン酸、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムエチルプロピルリン酸、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムエチル(2,2,2−トリクロロエチル)リン酸、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムメチル(2,2,2−トリクロロエチル)リン酸、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムエチルヘキサクロロイソプロピルリン酸、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムエチル(2,2,2−トリフルオロエチル)リン酸、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムメチル(2,2,2−トリフルオロエチル)リン酸、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムエチル(2,2,2−トリフルオロエチル)リン酸、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムエチルヘキサフルオロイソプロピルリン酸、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムメチル(2−メトキシエチル)リン酸、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムメチル(2−(2−メトキシエトキシ)エチル)リン酸、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムメチルメチル(2−(2−(2−メトキシエトキシ)エトキシ)エチル)リン酸、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムメチル(2−(2−(2−(2−メトキシエトキシ)エトキシ)エトキシ)エチル)リン酸、トリエチルメチルアンモニウムエチルメチルリン酸、トリエチルメチルアンモニウムエチルプロピルリン酸、トリエチルメチルアンモニウムエチル(2,2,2−トリクロロエチル)リン酸、トリエチルメチルアンモニウムメチル(2,2,2−トリクロロエチル)リン酸、トリエチルメチルアンモニウムエチルヘキサクロロイソプロピルリン酸、トリエチルメチルアンモニウムエチル(2,2,2−トリフルオロエチル)リン酸、トリエチルメチルアンモニウムメチル(2,2,2−トリフルオロエチル)リン酸、トリエチルメチルアンモニウムエチル(2,2,2−トリフルオロエチル)リン酸、トリエチルメチルアンモニウムエチルヘキサフルオロイソプロピルリン酸、トリエチルメチルアンモニウムメチル(2−メトキシエチル)リン酸、トリエチルメチルアンモニウムメチル(2−(2−メトキシエトキシ)エチル)リン酸、トリエチルメチルアンモニウムメチル(2−(2−(2−メトキシエトキシ)エトキシ)エチル)リン酸、トリエチルメチルアンモニウムメチル(2−(2−(2−(2−メトキシエトキシ)エトキシ)エトキシ)エチル)リン酸等が挙げられる。
【0060】
(リン酸ジエステル塩の製造方法)
次に、本実施の形態に係るリン酸ジエステル塩の製造方法について、以下に説明する。
本実施の形態のリン酸ジエステル塩の製造方法は、下記化学式(2)で表されるリン酸トリエステルを加水分解し、リン酸ジエステルを生成する工程Aと、前記リン酸ジエステルと、Mn+(OH)n(前記Mn+は、水素イオン、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、アルミニウムイオン、遷移金属イオン又はオニウムイオンを表す。前記nは価数を表す。以下、「水酸化物」という。)を反応させ、リン酸ジエステル塩を生成する工程Bとを少なくとも含む。
【0061】
【化7】
【0062】
また、前記化学式(2)において、前記R及びRは、すでに説明した通りであり、前記化学式(1)中のR及びRと同様である。従って、これらの詳細な説明は省略する。
【0063】
前記リン酸トリエステルの加水分解は、例えば、水の存在下で行うことができる。これにより、下記化学反応式(1)で示されるような反応が起こり、リン酸ジエステルが生成する。
【0064】
【化8】
【0065】
さらに、リン酸ジエステルと前記水酸化物とを反応させることにより、下記化学反応式(2)で示されるような反応が起こり、リン酸ジエステル塩が生成する。
【0066】
【化9】
【0067】
前記工程A及び工程Bは、前記水酸化物と前記リン酸トリエステルを水存在下で反応させることにより、一度に行うことができる。この場合も、先ず、前記化学反応式(1)で示されるように、リン酸トリエステルと水の加水分解が起こり、リン酸ジエステルが生成する。その後、前記化学反応式(2)で示されるように、リン酸ジエステルと水酸化物が反応し、リン酸ジエステル塩が生成すると推測される。すなわち、水がリン酸トリエステルのリン原子に求核攻撃を行うことで、最初にリン酸ジエステルが生成し、その後、水酸化物との中和反応で塩が得られると考えられる。
【0068】
前記水酸化物とリン酸トリエステルを水の存在下で反応させ、一度にリン酸ジエステル塩を製造する場合、原料であるリン酸トリエステルの−OR基の脱離能が−OR基の脱離能よりも大きいことを要する。リン酸トリエステルの−OR基が加水分解により最初に脱離される必要があるからである。これにより、RとRが相互に異なっており、非対称となっている本実施の形態のリン酸ジエステル塩を得ることができる。
【0069】
脱離基である−OR基と−OR基の脱離能は、例えば、それぞれのプロトン体のpKa値によりおおよそ推測される。すなわち、H−ORのpKa値がH−ORより小さい方が好ましい。pKa値は、例えば、Bordwell pKa Table等から見積もることができる。あるいは、脱離基に電子求引基を含むようなものは脱離能が高いと推定することができる。
【0070】
前記水酸化物とリン酸トリエステルを水の存在下で反応させ、一度にリン酸ジエステル塩を製造する場合、当該水酸化物とリン酸トリエステルの反応比は、リン酸トリエステル1当量に対して水酸化物が、0.5当量以上が好ましく、0.5当量〜1当量がより好ましく、0.8当量〜1当量がさらに好ましく、0.9当量〜0.95当量が特に好ましい。水酸化物の使用量を0.5当量以上にすることにより、リン酸トリエステルと水酸化物との反応性が悪化するのを防止し、未反応の水酸化物が残存するのを抑制することができる。その結果、リン酸ジエステル塩の純度の低下を抑制することができる。尚、前記リン酸トリエステルの使用量の上限については特に限定されないが、当該リン酸トリエステルを過剰に使用すると、これを留去する際に必要以上の製造時間とエネルギーが必要となり、工業的に不利となる場合がある。従って、リン酸トリエステルの使用量の上限については、反応種や反応スケールに応じて適宜設定するのが好ましい。
【0071】
前記リン酸トリエステルと水酸化物が、水存在下で反応を開始する際の反応開始温度は、当該反応が進行する限りにおいて特に限定されず、反応種に応じて適宜設定すればよい。通常は、0℃〜200℃の範囲内であり、反応性の観点からは20〜150℃が好ましく、40℃〜120℃がより好ましい。反応開始温度を0℃以上にすることにより、反応速度が著しく減衰するのを防止することができる。また、反応開始温度を200℃以下にすることにより、過剰なエネルギーを使用することによるエネルギーロスを抑制することができる。反応開始温度の調整方法としては特に限定されず、前記温度範囲内となる様に冷却して制御する場合には、前記リン酸トリエステルと水酸化物が投入された反応容器を氷冷等することにより行うことができる。また、反応開始温度を前記温度範囲内となる様に加熱して制御する場合には、任意の温度に設定された油浴等することにより行うことができる。
【0072】
前記リン酸トリエステルと水酸化物を、水存在下で反応させる際の反応時間は特に限定されず、反応種に応じて適宜設定すればよい。通常は、30分〜10時間の範囲内であり、工業的生産の観点からは30分〜5時間が好ましく、30分〜3時間がより好ましい。
【0073】
前記リン酸トリエステルと水酸化物との反応においては、反応溶媒として水、有機溶媒又は当該リン酸トリエステルを用いることができる。反応溶媒として有機溶媒又はリン酸トリエステルを用いる場合、当該有機溶媒又はリン酸トリエステル中に水を存在させた状態で、リン酸トリエステルと水酸化物の反応を行わせる。
【0074】
前記有機溶媒としては、他の反応物や生成物と反応するような支障が生じない限り、特に限定されない。具体的には、例えば、アルコール類、ニトリル類、エステル類、ケトン類、エーテル類、ハロゲン化炭化水素類等が挙げられる。これらは、一種単独、又は二種類以上を使用することができる。
【0075】
前記アルコール類としては、特に限定されず、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、イソプロピルアルコール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、2−ヨードエタノール、2−ブロモエタノール、2−クロロエタノール、2−フルオロエタノール、1,2−ジヨードエタノール、1,2−ジブロモエタノール、1,2−ジクロロエタノール、1,2−ジフルオロエタノール、2,2−ジヨードエタノール、2,2−ジブロモエタノール、2,2−ジクロロエタノール、2,2−ジフルオロエタノール、2,2,2−トリブロモエタノール、2,2,2−トリクロロエタノール、2,2,2−トリフルオロエタノール、ヘキサフルオロイソプロピルアルコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテルなどが挙げられる。これらは、一種単独、又は二種類以上を使用することができる。
【0076】
前記ニトリル類としては特に限定されず、例えば、アセトニトリル、プロピオ二トリル等が挙げられる。これらは一種単独で、又は二種以上を併用することができる。
【0077】
前記エステル類としては特に限定されず、例えば、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、酢酸エチル、酢酸メチル、酢酸ブチル等が挙げられる。これらは一種単独で、又は二種以上を併用することができる。
【0078】
前記ケトン類としては特に限定されず、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等が挙げられる。これらは一種単独で、又は二種以上を併用することができる。
【0079】
前記エーテル類としては特に限定されず、例えば、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン等が挙げられる。これらは一種単独で、又は二種以上を併用することができる。
【0080】
前記ハロゲン化炭化水素としは特に限定されず、例えば、ジクロロメタン、クロロホルム等が挙げられる。これらは一種単独で、又は二種以上を併用することができる。
【0081】
また、前記有機溶媒のその他の例として、ニトロメタン、ニトロエタン、ジメチルホルムアミド等も挙げられる。
【0082】
前記有機溶媒の使用量は、前記リン酸トリエステルの質量に対し1倍量以上が好ましく、1倍量〜200倍量がより好ましく、1倍量〜100倍量がさらに好ましく、1倍量〜50倍量が特に好ましい。有機溶媒の使用量を1倍量以上にすることにより、リン酸トリエステルと水酸化物との反応性が悪化するのを防止し、リン酸ジエステル塩の収率やその純度の低下を抑制することができる。尚、有機溶媒の使用量の上限については特に限定されないが、リン酸トリエステルに対し過剰に有機溶媒を用いると、これを留去する際に必要以上のエネルギーが必要となり、工業的に不利となる場合がある。従って、有機溶媒の使用量の上限については、反応種に応じて適宜設定するのが好ましい。
【0083】
反応溶媒としての水の使用量は、リン酸トリエステル1当量に対し、0.5当量以上が好ましく、1当量以上がより好ましい。水の使用量を0.5当量以上にすることにより、リン酸トリエステルと水酸化物との反応性が悪化するのを防止し、未反応のリン酸トリエステルが残存するのを抑制することができる。その結果、リン酸ジエステル塩の純度の低下を抑制することができる。尚、水の使用量の上限については特に限定されないが、過剰に水を使用すると、これを留去する際に必要以上の製造時間とエネルギーが必要となり、工業的に不利となる場合がある。従って、水の使用量の上限については、反応種や反応スケールに応じて適宜設定するのがこのましい。
【0084】
反応溶媒としての有機溶媒又はリン酸トリエステル中に水を含有させる場合、当該水の含有量は、リン酸トリエステル1当量に対し、0.5当量〜100当量の範囲内が好ましく、1当量〜50当量の範囲内がより好ましく、1当量〜10当量の範囲内がさらに好ましい。水の含有量を0.5当量以上にすることにより、リン酸トリエステルと水酸化物との反応性が悪化するのを防止し、未反応のリン酸トリエステルが残存するのを抑制することができる。その結果、リン酸ジエステル塩の純度の低下を抑制することができる。その一方、水の含有量を100当量以下にすることにより、過剰な水を除去するのに必要なエネルギーを抑制することができる。
【0085】
反応溶媒として有機溶媒を用いる場合、リン酸トリエステル、水酸化物及び水の添加順序は、特に限定されない。また、反応溶媒として水を用いる場合、リン酸トリエステル及び水酸化物の添加順序は、特に限定されない。さらに、反応溶媒としてリン酸トリエステルを用いる場合、水及び水酸化物の添加順序は、特に限定されない。
【0086】
本実施の形態の方法で得られたリン酸ジエステル塩は、溶解度を利用したカチオン交換、又はイオン交換樹脂等を用いたカチオン交換を行うことにより、所望の別種のカチオンを有するリン酸ジエステル塩を製造することもできる。
【0087】
また、本実施の形態の方法で得られたリン酸ジエステル塩を、硫酸又は塩酸等のアレニウス酸と反応させることで、リン酸ジエステルを製造することもできる。また、イオン交換樹脂を用いてプロトン交換を行うことでも、リン酸ジエステルを得ることができる。さらに、これらの方法で得られたリン酸ジエステルを、ハロゲン化物又は水酸化物と反応させることで、リン酸ジエステル塩を製造することもできる。
【0088】
尚、本実施の形態においては、リン酸ジエステル塩を生成する工程の直後に、当該リン酸ジエステル塩を精製する工程を行ってもよい。また、リン酸ジエステル塩に対しカチオン交換を行うことにより、別種のカチオンを有するリン酸ジエステル塩を製造する工程の直後においても精製を行うことができる。さらに、前記リン酸ジエステルを前記ハロゲン化物等と反応させてリン酸ジエステル塩を生成した直後においても、精製を行うことができる。精製方法としては特に限定されず、例えば、蒸留、乾燥等の操作による方法や、活性炭又はイオン交換樹脂等の吸着剤等を使用する方法を採用することができる。これらの精製を行うことにより、リン酸ジエステル塩の純度を高めることができる。
【0089】
(リン酸トリエステルの製造方法)
本実施の形態のリン酸ジエステル塩の出発原料となる前記化学式(2)で表されるリン酸トリエステルは、種々の方法により製造可能である。
例えば、リン酸トリエステルは、下記化学式(3)で表されるモノハロリン酸ジエステルとヒドロキシ化合物を、他の有機溶媒中で、又は無溶媒下で反応させることにより製造することができる。
【0090】
【化10】
(前記Rは、前記化学式(1)中で表されるものと同様である。前記XはI、Br、Cl等を表す。)
【0091】
前記ヒドロキシ化合物としては特に限定されず、例えば、アルコール類、フェノール類、ナフトール類、糖類等が挙げられる。例示したこれらのヒドロキシ化合物は、製造目的であるリン酸ジエステル塩の用途等に応じて適宜選定すればよい。前記ヒドロキシ化合物のうち、入手の容易さの観点からは、アルコール類を好適に用いることができる。
【0092】
前記アルコール類としては特に限定されず、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、イソプロピルアルコール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール等の鎖状アルキルアルコール類、シクロペンタノールやシクロヘキサノール等の環状アルキルアルコール類、2−ヨードエタノール、2−ブロモエタノール、2−クロロエタノール、2−フルオロエタノール、1,2−ジヨードエタノール、1,2−ジブロモエタノール、1,2−ジクロロエタノール、1,2−ジフルオロエタノール、2,2−ジヨードエタノール、2,2−ジブロモエタノール、2,2−ジクロロエタノール、2,2−ジフルオロエタノール、2,2,2−トリブロモエタノール、2,2,2−トリクロロエタノール、2,2,2−トリフルオロエタノール、ヘキサフルオロイソプロピルアルコール等の鎖状含ハロゲンアルコール類、2−ヨードシクロヘキサノール、2−ブロモシクロヘキサノール、2−クロロシクロヘキサノール、2−フルオロシクロヘキサノール等の環状含ハロゲンアルキルアルコール類、2−プロペノール、イソプロペノール、2−ブテニルアルコール、3−ブテニルアルコール等の鎖状アルケニルアルコール類、2−シクロペンテン−1−オール、2−シクロヘキセン−1−オール、3−シクロヘキセン−1−オール等の環状アルケニルアルコール類、2−プロピニルアルコール、1−ブチニルアルコール、2−ブチニルアルコール、3−ブチニルアルコール、1−ペンチニルアルコール、2−ペンチニルアルコール、3−ペンチニルアルコール、4−ペンチニルアルコール等の鎖状アルキニルアルコール類、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテルなどのヘテロ元素を有するアルコール類等が挙げられる。これらのアルコール類の中から、−OR基の脱離能が−OR基の脱離能よりも大きくなるように適宜選択するのが好ましい。また、これらは、一種単独、又は二種類以上を使用することができる。
【0093】
前記他の有機溶媒としては特に限定されないが、前記ヒドロキシ化合物又は非プロトン性有機溶媒を用いるのが好ましい。他の有機溶媒として、ヒドロキシ化合物を用いる場合、原料としてのヒドロキシ化合物と同種のものを用いるのが好ましい。原料としてのヒドロキシ化合物と異種のヒドロキシ化合物を他の有機溶媒として用いた場合、副反応により所望のリン酸トリエステル以外の生成を伴う可能性があり、収率低下を招くおそれがある。
【0094】
また、前記非プロトン性有機溶媒としては特に限定されず、例えば、ニトリル類、エステル類、ケトン類、エーテル類、ハロゲン化炭化水素類等が挙げられる。これらは一種単独で、又は二種以上を併用することができる。
【0095】
前記他の有機溶媒の使用量としては、前記モノハロリン酸ジエステルの質量に対し 2倍量以上が好ましく、2倍量〜100倍量がより好ましく、2倍量〜50倍量がさらに好ましい。前記他の有機溶媒の使用量を、2倍量以上にすることにより、前記モノハロリン酸エステルとヒドロキシ化合物の反応を効率よく行うことができる。尚、前記他の有機溶媒の使用量の上限については特に限定されないが、当該他の有機溶媒を過剰に用いると、これを留去する際に必要以上のエネルギーが必要となり、工業的に不利となる場合がある。従って、他の有機溶媒の使用量の上限については、反応種に応じて適宜設定するのが好ましい。
【0096】
原料としての前記ヒドロキシ化合物の使用量は、モノハロリン酸ジエステル1当量に対して1当量〜5当量であることが好ましく、1当量〜3当量がより好ましく、1.05当量〜1.1当量がさらに好ましい。前記ヒドロキシ化合物の使用量を1当量以上にすることにより、原料のモノハロリン酸ジエステルが残存するのを防止することができる。前記ヒドロキシ化合物の使用量の上限は特に限定されないが、ヒドロキシ化合物を5当量を超えて使用した場合、余剰のヒドロキシ化合物を留去する際に必要以上のエネルギーが必要となる場合がある。従って、ヒドロキシ化合物の使用量の上限については、反応種に応じて適宜設定するのが好ましい。
【0097】
前記モノハロリン酸ジエステルとヒドロキシ化合物の反応を開始する際の反応開始温度は、当該反応が進行する限りにおいて特に限定されないが、通常は、−20℃以上200℃以下の範囲内であり、好ましくは15℃以上100℃以下、より好ましくは0℃以上50℃未満である。反応開始温度を200℃以下にすることにより、ヒドロキシ化合物の蒸発による収率の低下を抑制し、生成物であるリン酸トリエステルの純度が低くなるのを防止することができる。その一方、反応開始温度を−20℃以上にすることにより、モノハロリン酸ジエステルが凝固するのを防ぐことができる。反応開始温度の調整方法としては特に限定されず、前記温度範囲内となる様に冷却して制御する場合には、前記モノハロリン酸エスエルとヒドロキシ化合物が投入された反応容器を氷冷等することにより行うことができる。また、反応開始温度を前記温度範囲内となる様に加熱して制御する場合には、任意の温度に設定された油浴等することにより行うことができる。尚、前記モノハロリン酸エステルとヒドロキシ化合物の反応終了後は、室温程度にまで下がる。
【0098】
また、前記リン酸トリエステルは、前記ハロリン酸ジエステルに代えて、下記化学式(4)で示されるジハロリン酸モノエステルを用いても製造可能である。この場合も、前記他の有機溶媒中で、又は無溶媒下で反応させることができる。
【0099】
【化11】
(前記Rは、前記化学式(1)中で表されるものと同様である。前記XはI、Br、Cl等を表す。)
【0100】
この場合、前記他の有機溶媒の使用量としては、前記ジハロリン酸モノエステルの質量に対し2倍量以上が好ましく、2倍量〜100倍量がより好ましく、2倍量〜50倍量がさらに好ましい。前記他の有機溶媒の使用量を、前記ジハロリン酸モノエステルの質量の2倍量以上にすることにより、前記ジハロリン酸モノエステルとヒドロキシ化合物の反応を効率よく行うことができる。尚、前記他の有機溶媒の使用量の上限については特に限定されないが、当該他の有機溶媒を過剰に用いると、これを留去する際に必要以上のエネルギーが必要となり、工業的に不利となる場合がある。従って、他の有機溶媒の使用量の上限については、反応種に応じて適宜設定するのが好ましい。
【0101】
前記ヒドロキシ化合物の使用量は、ジハロリン酸モノエステル1当量に対して2当量〜10当量であることが好ましく、より好ましくは2当量〜6当量、特に好ましくは2.05当量〜3当量である。前記ヒドロキシ化合物の使用量を2当量以上にすることにより、原料のジハロリン酸モノエステルが残存するのを防止することができる。前記ヒドロキシ化合物の使用量の上限は特に限定されないが、ヒドロキシ化合物を10当量を超えて使用した場合、余剰のヒドロキシ化合物を留去する際に必要以上のエネルギーが必要となる場合がある。従って、ヒドロキシ化合物の使用量の上限については、反応種に応じて適宜設定するのが好ましい。
【0102】
前記ジハロリン酸モノエステルとヒドロキシ化合物の反応を開始する際の反応開始温度の数値範囲は、前述のモノハロリン酸ジエステルとヒドロキシ化合物を反応させる場合と同様である。
【0103】
尚、モノハロリン酸ジエステル又はジハロリン酸モノエステルと、ヒドロキシ化合物との反応は、前記他の有機溶媒に代えて、当該ヒドロキシ化合物中において、塩基の存在下で行うことも可能である。この場合、反応溶媒としてのヒドロキシ化合物の使用量は、前記他の有機溶媒の使用量と同様である。また、前記塩基としては特に限定されず、例えば、トリエチルアミン等が挙げられる。
【0104】
さらに、前記塩基の含有量は、モノハロリン酸ジエステルの場合、1当量〜5当量の範囲内が好ましく、1当量〜3当量の範囲内がより好ましく、1.05当量〜2当量の範囲内がさらに好ましい。塩基の含有量を1当量以上にすることによりモノハロリン酸ジエステルとヒドロキシ化合物との反応性が悪化するのを防止し、未反応のモノハロリン酸ジエステル又はジハロリン酸モノエステルが残存するのを抑制することができる。その結果、リン酸トリエステルの純度の低下を抑制することができる。その一方、塩基の含有量を5当量以下にすることにより、過剰な塩基を除去するエネルギーの消費を抑制することができる。
【0105】
さらに、前記塩基の含有量は、ジハロリン酸モノエステルの場合、2当量〜10当量の範囲内が好ましく、4当量〜6当量の範囲内がより好ましく、2.1当量〜4当量の範囲内がさらに好ましい。塩基の含有量を1当量以上にすることによりモノハロリン酸ジエステルとヒドロキシ化合物との反応性が悪化するのを防止し、未反応のモノハロリン酸ジエステル又はジハロリン酸モノエステルが残存するのを抑制することができる。その結果、リン酸トリエステルの純度の低下を抑制することができる。その一方、塩基の含有量を10当量以下にすることにより、過剰な塩基を除去するエネルギーの消費を抑制することができる。
【0106】
また、モノハロリン酸ジエステル又はジハロリン酸モノエステルと、ヒドロキシ化合物との反応は、金属ハロゲン化物の触媒下又は無触媒下で行うことも可能である。この場合、還流条件下行うのが好ましい。また、反応を開始する際の反応開始温度は、当該反応が進行する限りにおいて特に限定されないが、通常は、40℃以上300℃以下の範囲内であり、60℃以上250℃以下が好ましく、80℃以上200℃未満がより好ましい。反応開始温度を40℃以上にすることにより、副生するハロゲン化水素を効率よく除外するこができる。その一方、反応開始温度を300℃以下にすることにより、反応に使用する過剰なエネルギーを抑制することができる。反応開始温度の調整方法としては特に限定されず、前記温度範囲内となる様に冷却して制御する場合には、モノハロリン酸ジエステル又はジハロリン酸モノエステルとヒドロキシ化合物が投入された反応容器を氷冷等することにより行うことができる。また、反応開始温度を前記温度範囲内となる様に加熱して制御する場合には、任意の温度に設定された油浴等することにより行うことができる。尚、前記モノハロリン酸ジエステル又はジハロリン酸モノエステルとヒドロキシ化合物の反応終了後は、室温程度にまで下がる。
【0107】
前記金属ハロゲン化物としては特に限定されず、例えば、塩化ナトリウムや塩化マグネシウム等を用いることができる。前記金属ハロゲン化物の触媒を用いる場合、当該金属ハロゲン化物の使用量は、前記モノハロリン酸ジエステルもしくはジハロリン酸モノエステルに対し、0.01当量〜0.5当量の範囲内が好ましく、0.01当量〜0.2当量の範囲内がより好ましく、0.01〜0.1当量の範囲内がさらに好ましい。
【0108】
(蓄電素子の非水電解液用添加剤)
本実施の形態のリン酸ジエステル塩は、例えば、蓄電素子の非水電解液において、添加剤として用いることが可能である。この場合、非水電解液は、電解質を溶解させた有機溶媒(非水溶媒)に、少なくとも1種の添加剤としてのリン酸ジエステル塩を含む構成となる。
【0109】
例えば、蓄電素子の一種であるナトリウムイオン二次電池においては、初期の充電の際に非水電解液の分解という不可逆反応が、電極と非水電解液の界面で生じる。電極活物質、非水電解液中の非水溶媒や電解質および添加剤の種類、充放電条件に応じて形成される皮膜の性質、例えば熱安定性やイオン伝導性、モフォロジー、緻密さなどの性質は大きく変化すると考えられる。本実施の形態に於いても、非水電解液に前記リン酸ジエステル塩を添加剤として添加することで、電極活物質の表面に皮膜が形成され、この皮膜の性質、すなわち、熱安定性や膜質等の効能に起因して、ナトリウムイオン二次電池の充放電特性の低下を抑制し、高温環境下(例えば、40℃〜100℃)に保存した後も内部抵抗の上昇の抑制が図れると考えられる。
【0110】
ここで、本実施の形態の蓄電素子の非水電解液が「リン酸ジエステル塩を添加剤として含む」とは、当該蓄電素子の非水電解液において、主たる電解質と共にリン酸ジエステル塩が用いられ、蓄電素子の充放電特性の低下を抑制し、高温保存後の内部抵抗の上昇を抑制して、電池特性を向上させることを目的に添加される化合物を意味する。
【0111】
添加剤としてのリン酸ジエステル塩の添加量は、非水電解液の全質量に対し0.005質量%〜5質量%の範囲内であることが好ましく、0.01質量%〜3質量%の範囲内であることがより好ましく、0.15質量%〜1.5質量%の範囲内であることがさらに好ましい。前記添加量を0.005質量%以上にすることにより、充放電特性の低下を抑制できるとともに二次電池を高温環境下に暴露した後も、内部抵抗の上昇も抑制することができる。一方、前記添加量を5質量%以下にすることにより、非水電解液中の電解質の非水電解液溶媒に対する溶解性が低下するのを抑制することができる。
【0112】
<電解質>
前記電解質としては、各種の蓄電素子に用いられる従来公知のものを採用することができる。例えば、蓄電素子がナトリウムイオン二次電池の場合、ナトリウム塩を用いることができる。
【0113】
また、前記電解質としては、フッ素を含有するアニオンを含有するものが好ましい。その様なフッ素含有のアニオンの具体例としては、例えばBF、PF、BFCF、BF、CFSO、CSO、CSO、CSO、N(SOF)、N(CFSO、N(CSO、N(CFSO)(CFCO)、N(CFSO)(CSO、C(CFSO等が挙げられる。これらは一種単独で、又は二種以上を併用することができる。フッ素含有アニオンのうち、非水電解液の安全性・安定性、電気伝導率やサイクル特性の向上の観点からは、BF、PF、N(CFSOが好ましく、BF、PFが特に好ましい。
【0114】
前記電解質の前記有機溶媒に対する濃度は特に限定されず、通常は0.1〜2M、好ましくは0.15〜1.8M、より好ましくは0.2〜1.5M、特に好ましくは0.3〜1.2Mである。濃度を0.1M以上にすることにより、非水電解液の電気伝導率が不十分となるのを防止することができる。その一方、濃度を2M以下にすることにより、非水電解液の粘度上昇により電気伝導率が低下するのを抑制し、二次電池性能が低下するのを防止することができる。
【0115】
<有機溶媒>
前記非水電解液に用いられる前記有機溶媒(非水溶媒)としては特に限定されず、例えば、環状炭酸エステル、鎖状炭酸エステル、リン酸エステル、環状エーテル、鎖状エーテル、ラクトン化合物、鎖状エステル、ニトリル化合物、アミド化合物、スルホン化合物等が挙げられる。これらの有機溶媒のうち、二次電池用有機溶媒として一般的に使用される点からは、炭酸エステルが好ましい。
【0116】
前記環状炭酸エステルとしては特に限定されず、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート等が挙げられる。これらのうち、ナトリウムイオン二次電池の充電効率を向上させる点からは、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等の環状カーボネートが好ましい。前記鎖状炭酸エステルとしては特に限定されず、例えば、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等が挙げられる。これらのうち、ナトリウムイオン二次電池の充電効率を向上させる点からは、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネートが好ましい。前記リン酸エステルとしては特に限定されず、例えば、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、リン酸エチルジメチル、リン酸ジエチルメチル等が挙げられる。前記環状エーテルとしては特に限定されず、例えば、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン等が挙げられる。前記鎖状エーテルとしては特に限定されず、例えば、ジメトキシエタン等が挙げられる。前記ラクトン化合物としては特に限定されず、例えば、γ−ブチロラクトン等が挙げられる。前記鎖状エステルとしては特に限定されず、例えば、メチルプロピオネート、メチルアセテート、エチルアセテート、メチルホルメート等が挙げられる。前記ニトリル化合物としては特に限定されず、例えば、アセトニトリル等が挙げられる。前記アミド化合物としては特に限定されず、例えば、ジメチルホルムアミド等が挙げられる。前記スルホン化合物としては特に限定されず、例えば、スルホラン、メチルスルホラン等が挙げられる。また、前記有機溶媒分子中に含まれる炭化水素基の水素を少なくとも一部フッ素で置換したものも好適に用いることができる。これらの有機溶媒は一種単独で又は二種以上を混合して用いてもよい。また、前記有機溶媒としては、入手の容易さや性能の観点から、炭酸エステルを用いるのが好ましい。
【0117】
<非水電解液の製造方法>
本実施の形態の非水電解液は、例えば、前記の有機溶媒(非水溶媒)に前記電解質の塩を加え、さらに添加剤としてのリン酸ジエステル塩を添加して調製することにより得られる。この際、前記有機溶媒、電解質の塩、リン酸ジエステル塩及び必要に応じて加えるその他の添加剤等は、非水電解液の生産性を低下させない範囲内で、予め精製等して、不純物が極力少ないものを用いることが好ましい。
【0118】
<その他>
本実施の形態に係る非水電解液には、従来公知のその他の添加剤が添加されていてもよい。
【0119】
(蓄電素子の非水電解液用電解質)
本実施の形態のリン酸ジエステル塩は、例えば、蓄電素子の非水電解液において、電解質としても用いることが可能である。この場合、非水電解液は、電解質を溶解させた有機溶媒(非水溶媒)に、必要に応じて公知の添加剤及び公知の電解質を含む構成となる。
【0120】
電解質として用いる場合、有機溶媒に対するリン酸ジエステル塩の濃度は特に限定されないが、通常は0.1〜2M、好ましくは0.15〜1.8M、より好ましくは0.2〜1.5M、特に好ましくは0.3〜1.2Mである。濃度を0.1M以上にすることにより、非水電解液の電気伝導率が不十分となるのを防止し、充放電特性の低下を抑制できると共に、蓄電素子を高温環境下に暴露した後も、内部抵抗の上昇も抑制することができる。その一方、濃度を2M以下にすることにより、非水溶媒に対する溶解性の低下や非水電解液の粘度上昇により電気伝導率が低下するのを抑制し、蓄電素子の性能が低下するのを防止することができる。
【0121】
<有機溶媒>
有機溶媒としては、本実施の形態のリン酸ジエステル塩を添加剤として用いる場合に説明したのと同様のものを、特に限定なく用いることができる。
【0122】
<非水電解液の製造>
リン酸ジエステル塩を電解質として用いた場合、非水電解液は、例えば、前記の有機溶媒(非水溶媒)にリン酸ジエステル塩を加え、さらに必要に応じて公知の添加剤および公知の電解質を添加して調製することにより得られる。この際、前記有機溶媒、リン酸ジエステル塩及び必要に応じて加えるその他の添加剤等は、非水電解液の生産性を低下させない範囲内で、予め精製等して、不純物が極力少ないものを用いることが好ましい。
【0123】
(蓄電素子)
本実施の形態の蓄電素子としては、例えば、ナトリウムイオン二次電池やリチウムイオン二次電池、電気二重層キャパシタ等が挙げられる。本実施の形態のリン酸ジエステル塩は、これらの各種蓄電素子に対して、非水電解液用の添加剤や電解質として好適に用いることができる。
【0124】
<ナトリウムイオン二次電池>
蓄電素子が、例えばナトリウムイオン二次電池の場合、以下に述べる構成を採用することができる。図1は、前記非水電解液を備えたナトリウムイオン二次電池の概略を示す断面模式図である。
【0125】
本実施の形態に係るナトリウムイオン二次電池は、図1に示すように、正極缶4と負極缶5とで形成される内部空間に、正極缶4側から正極1、セパレータ3、負極2、スペーサー7の順に積層された積層体が収納された構造を有している。負極缶5とスペーサー7との間にスプリング8を介在させることによって、正極1と負極2を適度に圧着固定している。本実施の形態のリン酸ジエステル塩を含有する非水電解液は、正極1、セパレータ3及び負極2の間に含浸されている。正極缶4及び負極缶5の間にガスケット6を介在させた状態で、正極缶4及び負極缶5を挟持させることによって両者を結合し、前記積層体を密閉状態にしている。
【0126】
ナトリウムイオン二次電池の場合、前記正極1における正極活物質層の材料としては特に限定されず、例えば、ナトリムイオンが拡散可能な構造を持つ遷移金属化合物、又はその遷移金属化合物とナトリウムの酸化物が挙げられる。具体的には、NaFeO、NaNiO、NaCoO、NaMnO、NaVO、NaCrO、Na0.7(MnNiCo)O(x+y+z=1、0<x≦1、0<y≦1、0<z≦1)、Na2/3(NiMn)O(x+y=1、0<x≦1、0<y≦1)、Na2/3(FeMn)O(x+y=1、0<x≦1、0<y≦1)、Na2/3(NiMnMg)O(x+y+z=1、0<x≦1、0<y≦1、0<z≦1)、Na2/3(NiMnAl)O(x+y+z=1、0<x≦1、0<y≦1、0<z≦1)、NaFe、Na(PO、NaNi(PO、NaCo(PO、NaFe(SO等が挙げられる。
【0127】
正極1は、前記に列挙した正極活物質を、公知の導電助剤や結着剤と共に加圧成型することにより、又は正極活物質を公知の導電助剤や結着剤と共にピロリドン等の有機溶剤に混合し、ペースト状にしたものをアルミニウム箔等の集電体に塗工後、乾燥することにより得ることができる。
【0128】
また、ナトリウムイオン二次電池の場合、前記負極2における負極活物質層の材料としては、ナトリウムを吸蔵、放出することが可能な材料であれば特に限定されず、例えば、ナトリウム金属、NaTi13等の金属酸化物、天然黒鉛、人造黒鉛、ホウ素化黒鉛、ハードカーボン、メソカーボンマイクロビーズ、ピッチ系炭素繊維黒鉛化物又はカーボンナノチューブ等の炭素材料等が挙げられる。
【0129】
負極2は、前記電極材料の箔状のものや粉末状のものを使用できる。粉末状の場合は、公知の導電助剤及び結着剤と共に加圧成型することにより、又は公知の導電助剤及び結着剤と共にピロリドン等の有機溶剤に混合し、ペースト状にしたものを銅箔等の集電体に塗工後、乾燥することにより得ることができる。
【0130】
本実施の形態に係るナトリウムイオン二次電池には、正極1と負極2の短絡を防止するために、両者の間に通常、セパレータ3が介在される。セパレータ3の材質や形状は特に制限されないが、上述の非水電解液が通過しやすく、絶縁体で、化学的に安定な材質であるものが好ましい。例えば、各種の高分子材料からなる微多孔性のフィルム、シート等が挙げられる。高分子材料の具体例としては、ナイロン(登録商標)、ニトロセルロース、ポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン高分子が用いられる。電気化学的な安定性・化学的安定性の観点からは、ポリオレフィン系高分子が好ましい。
【0131】
本実施の形態のナトリウムイオン二次電池の最適な使用電圧は、正極1と負極2の組み合わせによって限定されない。通常は、2.4〜4.5Vの範囲内の平均放電電圧にて使用可能である。
【0132】
本実施の形態のナトリウムイオン二次電池の形状に特に限定はないが、図1に示すコイン型セルの他に、例えば、円筒型、角型、ラミネート型等が挙げられる。
【0133】
本実施の形態に係るナトリウムイオン二次電池であると、温度負荷環境下で保存後の充放電特性の低下と内部抵抗の上昇を抑制することができ、本実施の形態の非水電解液は、ナトリウムイオン二次電池に好適に用いることができる。但し、図1に示すナトリウムイオン二次電池は本発明の蓄電素子の一態様を例示的に示したものであり、本発明の蓄電素子はこれに限定されるものではない。
【0134】
<電気二重層キャパシタ>
蓄電素子が電気二重層キャパシタの場合についても、基本的には、ナトリウムイオン二次電池と同様の構成を採用することができる。具体的には、電気二重層キャパシタは、図1に示すように、正極缶4と負極缶5とで形成される内部空間に、正極缶4側から正極1、セパレータ3、負極2、スペーサー7の順に積層された積層体が収納された構造を採用することができる。また、本実施の形態のリン酸ジエステル塩を含有する非水電解液は、正極1、負極2及びセパレータ3の間に含浸される。
【0135】
正極1及び負極2は、後述の活性炭を、公知の導電助剤や結着剤と共に加圧成型することにより得ることができる。また、正極1及び負極2は、前記に列挙した正極活物質を公知の導電助剤や結着剤と共にピロリドン等の有機溶剤に混合し、ペースト状にしたものをアルミニウム箔等の集電体に塗工後、乾燥することによっても得ることができる。
【0136】
前記活性炭としては特に限定されず、通常使用されている公知の活性炭を使用することができる。活性炭の比表面積としては特に限定されないが、通常は、1000m/g〜3000m/gの範囲であり、好ましくは1000m/g〜2000m/gの範囲である。
【0137】
活性炭の材料としては特に限定されず、例えば、木材、ヤシ殻、のこくず、石炭、ピッチ、コークス、フェノール樹脂、フラン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカルボジイミド樹脂、廃プラスチック、廃タイヤ等の炭素質の原料が挙げられる。
【0138】
前記活性炭は、前記列挙した炭素質の原料を900℃以下の温度で炭化し、その後、賦活処理することにより得られる。賦活方法としては特に限定されず、例えば、ガス賦活法、薬品賦活法等が挙げられる。ガス賦活法の場合、活性炭は、炭化された原料を、600℃〜1000℃の範囲の高温で、水蒸気、炭酸ガス又は酸素等の酸化ガスと接触反応させることにより得られる。また、薬品賦活法の場合、活性炭は、炭化された原料に、塩化亜鉛、リン酸、リン酸ナトリウム、塩化カルシウム、硫化カリウム、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、炭酸カルシウム、ホウ酸、硝酸等の薬品を混合し、不活性雰囲気中で任意の温度に加熱し、薬品の脱水及び酸化反応をさせることにより得られる。これらの賦活処理を行うことにより、多数の細孔が形成された活性炭を得ることができ、その比表面積を増大させることができる。
【実施例】
【0139】
以下に、この発明の好適な実施例を例示的に詳しく説明する。但し、この実施例に記載されている材料や配合量等は、特に限定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれらのみに限定するものではない。
【0140】
(実施例1)
<リン酸エチルビス(2,2,2−トリフルオロエチル)の合成>
2,2,2−トリフルオロエタノール15g、トリエチルアミン14g及びジメトキシエタン100gを200mLビーカーに投入した。さらに、撹拌しながら、10gのジクロロリン酸エチルをジメトキシエタン10gで50%に希釈した溶液を、室温下でゆっくりと滴下した。滴下中、徐々に発熱し白色の沈澱が系内に析出するのが確認された。その後、室温下で1時間撹拌した。さらに、減圧濾過を行い、白色固体とろ液とを分離した。その後、減圧下でろ液からジメトキシエタンを留去した。続いて、得られた液体に水を加えて洗浄を3回繰り返し行い、下層の液体を分取することにより、無色透明の液体であるリン酸エチルビス(2,2,2−トリフルオロエチル)14gを得た。
【0141】
<エチル(2,2,2−トリフルオロエチル)リン酸ナトリウムの合成>
前記リン酸エチルビス(2,2,2−トリフルオロエチル)4.2gを50mLナスフラスコに投入し、続いて水酸化ナトリウム水溶液を投入した。水酸化ナトリウム水溶液は、0.56gの水酸化ナトリウムを5.0gの水に溶解させて調製したものである。その後、撹拌しながら、100℃〜110℃で1時間加熱還流を行った。さらに、減圧下、80℃で溶媒等を留去することにより、白色の固体2.6gを得た。
【0142】
得られた白色固体を、イオンクロマトグラフィー〈メトローム社製IC−850〉にてアニオン分析を行ったところ、新規のピークが一本検出された。これにより、新規アニオンが生成していることを確認した。さらに、得られた白色固体をLC/MS(Waters社製)にて負イオン分析を行ったところ、m/z=207.1にマスピークが見られた。これは、エチル(2,2,2−トリフルオロエチル)リン酸アニオンの分子量とほぼ一致したことから、得られた白色固体がエチル(2,2,2−トリフルオロエチル)リン酸ナトリウムであることを確認した。尚、前記m/zは質量電荷比を意味し、mはイオンの質量、zはイオンの電荷数を表す。
【0143】
<ナトリウムイオン二次電池用非水電解液の作製>
露点が−70℃以下のアルゴン雰囲気ドライボックス内で、プロピレンカーボネート(PC)(キシダ化学株式会社製、ナトリウムバッテリーグレード)に対し、NaPFの濃度が1.0モル/リットルとなる様に調製した。併せて、前記エチル(2,2,2−トリフルオロエチル)リン酸ナトリウムを、その添加量が非水電解液の全質量に対し0.5質量%となる様に調製した。これにより、エチル(2,2,2−トリフルオロエチル)リン酸ナトリウムが添加剤として含有する本実施例のナトリウムイオン二次電池用非水電解液を作製した。
【0144】
(実施例2)
<リン酸エチルビス(2,2,2−トリフルオロエチル)の合成>
前記実施例1と同様にして、リン酸エチルビス(2,2,2−トリフルオロエチル)を合成した。
【0145】
<エチル(2,2,2−トリフルオロエチル)リン酸カリウムの合成>
前記リン酸エチルビス(2,2,2−トリフルオロエチル)10.0gを50mLナスフラスコに投入し、続いて1.8gの水酸化カリウムを5.0gの水に溶解させて調製した水溶液を投入した。その後、撹拌しながら、100℃〜110℃で1時間加熱還流を行った。さらに、減圧下、80℃で溶媒等を留去することにより、白色の固体7.2gを得た。
【0146】
得られた白色固体を、イオンクロマトグラフィー〈メトローム社製IC−850〉にてアニオン分析を行ったところ、前記エチル(2,2,2−トリフルオロエチル)リン酸ナトリウムと同様の検出時間で新規のピークが一本検出された。これにより、生成した新規アニオンがエチル(2,2,2−トリフルオロエチル)リン酸アニオンであり、得られた白色固体がエチル(2,2,2−トリフルオロエチル)リン酸カリウムであることを確認した。
【0147】
(実施例3)
<エチル(2,2,2−トリフルオロエチル)リン酸の合成>
前記実施例2で合成したエチル(2,2,2−トリフルオロエチル)リン酸カリウム4.0gを50mLナスフラスコに投入し、続いて塩酸を投入した。投入した塩酸は、濃度37%の塩酸2.7gを、10.0gの水に混和させて調製したものである。その後、室温下で15分間撹拌を行った。続いて、抽出溶媒として25mLのジエチルエーテルを用い、溶媒抽出を行った。当該溶媒抽出は4回行った。その後、減圧下、40℃でジエチルエーテルを留去することにより、無色透明の液体3.3gを得た。
【0148】
得られた無色透明液体を、イオンクロマトグラフィー〈メトローム社製IC−850〉にてアニオン分析を行ったところ、前記エチル(2,2,2−トリフルオロエチル)リン酸ナトリウムと同様の検出時間で新規のピークが一本検出された。これにより、生成した新規アニオンがエチル(2,2,2−トリフルオロエチル)リン酸アニオンであり、得られた無色透明液体がエチル(2,2,2−トリフルオロエチル)リン酸であることを確認した。
【0149】
(実施例4)
<リン酸エチルビス(2,2,2−トリフルオロエチル)の合成>
前記実施例1と同様にして、リン酸エチルビス(2,2,2−トリフルオロエチル)を合成した。
【0150】
<エチル(2,2,2−トリフルオロエチル)リン酸カルシウムの合成>
前記リン酸エチルビス(2,2,2−トリフルオロエチル)1.0gを50mLナスフラスコに投入し、続いて、水酸化カルシウム水溶液を投入した。水酸化ナトリウム水溶液は、0.1gの水酸化カルシウムに10.0gの水を加えて調製した懸濁液からなるものである。その後、撹拌しながら、100℃〜110℃で2時間加熱還流を行った。さらに、減圧下、80℃で溶媒等を留去することにより、白色の固体0.6gを得た。
【0151】
得られた白色固体を、イオンクロマトグラフィー〈メトローム社製IC−850〉にてアニオン分析を行ったところ、前記エチル(2,2,2−トリフルオロエチル)リン酸ナトリウムと同様の検出時間で新規のピークが一本検出された。これにより、生成した新規アニオンがエチル(2,2,2−トリフルオロエチル)リン酸アニオンであり、得られた白色固体がエチル(2,2,2−トリフルオロエチル)リン酸カルシウムであることを確認した。
【0152】
(実施例5)
<リン酸エチルビス(2,2,2−トリフルオロエチル)の合成>
前記実施例1と同様にして、リン酸エチルビス(2,2,2−トリフルオロエチル)を合成した。
【0153】
<エチル(2,2,2−トリフルオロエチル)リン酸マグネシウムの合成>
前記リン酸エチルビス(2,2,2−トリフルオロエチル)6.0gを50mLナスフラスコに投入し、続いて水酸化マグネシウム水溶液を投入した。水酸化マグネシウム水溶液は、0.6gの水酸化マグネシウムに15.0gの水を加えて調製した懸濁液からなるものである。その後、撹拌しながら、100℃〜110℃で10時間加熱還流を行った。さらに、減圧下、80℃で溶媒等を留去することにより、白色の固体4.2gを得た。
【0154】
得られた白色固体を、イオンクロマトグラフィー〈メトローム社製IC−850〉にてアニオン分析を行ったところ、前記エチル(2,2,2−トリフルオロエチル)リン酸ナトリウムと同様の検出時間で新規のピークが一本検出された。これにより、生成した新規アニオンがエチル(2,2,2−トリフルオロエチル)リン酸アニオンであり、得られた白色固体がエチル(2,2,2−トリフルオロエチル)リン酸マグネシウムであることを確認した。
【0155】
(実施例6)
<リン酸エチルビス(2−(2−(2−メトキシエトキシ)エトキシ))の合成>
トリエチレングリコールモノメチルエーテル20.6g、トリエチルアミン12.4g及びジメトキシエタン100gを200mLビーカーに投入した。撹拌しながら、10gのジクロロリン酸エチルをジメトキシエタン10gで50%に希釈した溶液を、室温下でゆっくりと滴下した。滴下中、徐々に発熱し白色の沈澱が系内に析出するのが確認された。その後、室温下で1時間撹拌した。さらに、減圧濾過を行い、白色固体とろ液とを分離した。その後、減圧下でろ液からジメトキシエタンを留去した。続いて、得られた液体にジメトキシエタンを加えて溶解させ、シリカゲルを用いたフラッシュクロマトグラフィーにより精製し、無色透明の液体であるリン酸エチルビス(2−(2−(2−メトキシエトキシ)エトキシ))20.5gを得た。
【0156】
<エチル(2−(2−(2−メトキシエトキシ)エトキシ))リン酸ナトリウムの合成>
前記リン酸エチルビス(2−(2−(2−メトキシエトキシ)エトキシ))10gを50mLナスフラスコに投入し、続いて水酸化ナトリウム水溶液を投入した。水酸化ナトリウム水溶液は、0.91gの水酸化ナトリウムを10gの水に溶解させて調製したものである。その後、撹拌しながら、100℃〜110℃で1時間加熱還流を行った。さらに、減圧下、80℃で溶媒等を留去することにより、白色のゲル状固体6.7gを得た。
【0157】
得られた白色固体を、イオンクロマトグラフィー〈メトローム社製IC−850〉にてアニオン分析を行ったところ、新規のピークが一本検出された。これにより、新規アニオンが生成していることを確認した。さらに、得られた白色固体をLC/MS(Waters社製)にて負イオン分析を行ったところ、m/z=271.1にマスピークが見られた。マスピークは、エチル(2−(2−(2−メトキシエトキシ)エトキシ))リン酸アニオンの分子量とほぼ一致したことから、得られた白色固体がエチル(2−(2−(2−メトキシエトキシ)エトキシ))リン酸ナトリウムであることを確認した。
【0158】
<ナトリウムイオン二次電池用非水電解液の作製>
前記実施例1と同様にして、本実施例に係るナトリウムイオン二次電池用非水電解液を作製した。
【0159】
(実施例7)
<リン酸エチルビス(2,2,2−トリフルオロエチル)の合成>
前記実施例1と同様にして、リン酸エチルビス(2,2,2−トリフルオロエチル)を合成した。
【0160】
<1−エチル−3−メチルイミダゾリウムエチル(2,2,2−トリフルオロエチル)リン酸の合成>
前記リン酸エチルビス(2,2,2−トリフルオロエチル)20.0gを200mLナスフラスコに投入し、続いて83.9gの10%1−エチル−3−メチルイミダゾリウムヒドロキシド水溶液を投入した。その後、撹拌しながら、100℃〜110℃で1時間加熱還流を行った。さらに、減圧下、80℃で溶媒等を留去することにより、オイル状の微黄色透明液体19.5gを得た。
【0161】
得られた微黄色透明液体を、イオンクロマトグラフィー〈メトローム社製IC−850〉にてアニオン分析を行ったところ、前記エチル(2,2,2−トリフルオロエチル)リン酸ナトリウムと同様の検出時間で新規のピークが一本検出された。これにより、生成した新規アニオンがエチル(2,2,2−トリフルオロエチル)リン酸アニオンであり、得られた微黄色透明液体が1−エチル−3−メチルイミダゾリウムエチル(2,2,2−トリフルオロエチル)リン酸であることを確認した。
【0162】
(実施例8)
<リン酸エチルビスヘキサフルオロイソプロピルの合成>
ヘキサフルオロイソプロピルアルコール9.9g、トリエチルアミン5.5g及びジメトキシエタン100gを200mLビーカーに投入した。撹拌しながら、4.0gのジクロロリン酸エチルを、室温下でゆっくりと滴下した。滴下中、徐々に発熱し白色の沈澱が系内に析出するのが確認された。その後、室温下で1時間撹拌した。さらに、減圧濾過を行い、白色固体とろ液とを分離した。その後、減圧下でろ液からジメトキシエタンを留去した。続いて、得られた液体に水を加えて洗浄を3回繰り返し行い、下層の液体を分取することにより、無色透明の液体であるリン酸エチルビス(1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロイソプロピル)9.1gを得た。
【0163】
<エチルヘキサフルオロイソプロピルリン酸ナトリウムの合成>
前記リン酸エチルビスヘキサフルオロイソプロピル5.0gを50mLナスフラスコに投入し、続いて水酸化ナトリウム水溶液を投入した。水酸化ナトリウム水溶液は、0.46gの水酸化ナトリウムを5.0gの水に溶解させて調製したものである。その後、撹拌しながら、100℃〜110℃で1時間加熱還流を行った。さらに、減圧下、80℃で溶媒等を留去することにより、白色の固体2.5gを得た。
【0164】
得られた白色固体を、イオンクロマトグラフィー〈メトローム社製IC−850〉にてアニオン分析を行ったところ、新規のピークが一本検出された。これにより、新規アニオンが生成していることを確認した。さらに、得られた白色固体をLC/MS(Waters社製)にて負イオン分析を行ったところ、m/z=274.9にマスピークが見られた。これは、エチルヘキサフルオロイソプロピルリン酸アニオンの分子量とほぼ一致したことから、得られた白色固体がエチルヘキサフルオロイソプロピルリン酸ナトリウムであることを確認した。
【0165】
<ナトリウムイオン二次電池用非水電解液の作製>
前記実施例1と同様にして、本実施例に係るナトリウムイオン二次電池用非水電解液を作製した。
【0166】
(実施例9)
<リン酸エチルジメチルの合成>
メタノール7.4g、トリエチルアミン20.5g及びジメトキシエタン200gを500mLビーカーに投入した。撹拌しながら、15.0gのジクロロリン酸エチルを、室温下でゆっくりと滴下した。滴下中、徐々に発熱し白色の沈澱が系内に析出するのが確認された。その後、室温下で1時間撹拌した。さらに、減圧濾過を行い、白色固体とろ液とを分離した。その後、減圧下でろ液からジメトキシエタンを留去した。続いて、得られた液体に酢酸エチルを加えて溶解させ、酢酸エチルとシリカゲルを用いたフラッシュクロマトグラフィーにより精製し、無色透明の液体であるリン酸エチルジメチル10.0gを得た。
【0167】
<エチルメチルリン酸ナトリウムの合成>
前記リン酸エチルジメチル4.0gを50mLナスフラスコに投入し、続いて水酸化ナトリウム水溶液を投入した。水酸化ナトリウム水溶液は、1.0gの水酸化ナトリウムを5.0gの水に溶解させて調製したものである。その後、撹拌しながら、100℃〜110℃で1時間加熱還流を行った。さらに、減圧下、80℃で溶媒等を留去することにより、白色の固体3.8gを得た。
【0168】
得られた白色固体を、イオンクロマトグラフィー〈メトローム社製IC−850〉にてアニオン分析を行ったところ、新規のピークが一本検出された。これにより、新規アニオンが生成していることを確認した。さらに、得られた白色固体をLC/MS(Waters社製)にて負イオン分析を行ったところ、m/z=138.9にマスピークが見られた。これは、エチルメチルリン酸アニオンの分子量とほぼ一致したことから、得られた白色固体がエチルジメチルリン酸ナトリウムであることを確認した。
【0169】
<ナトリウムイオン二次電池用非水電解液の作製>
前記実施例1と同様にして、本実施例に係るナトリウムイオン二次電池用非水電解液を作製した。
【0170】
(実施例10)
<エチルメチルリン酸リチウムの合成>
前記リン酸エチルジメチル5.0gを50mLナスフラスコに投入し、続いて1.3gの水酸化リチウム一水和物を15.0gの水に溶解させて調製した水溶液を投入した。その後、撹拌しながら、100℃〜110℃で1時間加熱還流を行った。さらに、減圧下、80℃で溶媒等を留去することにより、白色の固体3.0gを得た。
【0171】
得られた白色固体を、イオンクロマトグラフィー〈メトローム社製IC−850〉にてアニオン分析を行ったところ、新規のピークが一本検出された。これにより、新規アニオンが生成していることを確認した。さらに、得られた白色固体をLC/MS(Waters社製)にて負イオン分析を行ったところ、m/z=138.9にマスピークが見られた。これは、エチルジメチルリン酸アニオンの分子量とほぼ一致したことから、得られた白色固体がエチルジメチルリン酸リチウムであることを確認した。
【0172】
(実施例11)
本実施例においては、実施例1のエチル(2,2,2−トリフルオロエチル)リン酸ナトリウムの添加量を、非水電解液の全質量に対し0.1質量%に変更した。それ以外は、実施例1と同様にしてナトリウムイオン二次電池用非水電解液を調製した。
【0173】
(実施例12)
本実施例においては、実施例1のエチル(2,2,2−トリフルオロエチル)リン酸ナトリウムの添加量を、非水電解液の全質量に対し5.0質量%に変更した。それ以外は、実施例1と同様にしてナトリウムイオン二次電池用非水電解液を調製した。
【0174】
(実施例13)
本実施例においては、実施例3のエチル(2,2,2−トリフルオロエチル)リン酸の添加量を、非水電解液の全質量に対し0.1質量%に変更した。それ以外は、実施例3と同様にしてナトリウムイオン二次電池用非水電解液を調製した。
【0175】
(実施例14)
<リン酸エチルビス(2,2,2−トリフルオロエチル)の合成>
前記実施例1と同様にして、リン酸エチルビス(2,2,2−トリフルオロエチル)を合成した。
【0176】
<エチル(2,2,2−トリフルオロエチル)リン酸ナトリウムの合成>
前記リン酸エチルビス(2,2,2−トリフルオロエチル)5.0gを50mLナスフラスコに投入し、続いて水酸化ナトリウム水溶液を投入した。水酸化ナトリウム水溶液は、0.3gの水酸化ナトリウムを5.0gの水に溶解させて調製したものである。その後、撹拌しながら、100℃〜110℃で1時間加熱還流を行った。さらに、減圧下、80℃で溶媒等を留去することにより、白色の固体を得た。つづいて得られた白色固体をジメチルカーボネート10.0gに懸濁させ、濾別することにより1.6gの白色固体を得た。
【0177】
得られた白色固体を、イオンクロマトグラフィー〈メトローム社製IC−850〉にてアニオン分析を行ったところ、前記エチル(2,2,2−トリフルオロエチル)リン酸ナトリウムと同様の検出時間で新規のピークが一本検出された。これにより、生成した新規アニオンはエチル(2,2,2−トリフルオロエチル)リン酸アニオンであり、得られた白色固体がエチル(2,2,2−トリフルオロエチル)リン酸ナトリウムであることを確認した。
【0178】
<ナトリウムイオン二次電池用非水電解液の作製>
前記実施例1と同様にして、本実施例に係るナトリウムイオン二次電池用非水電解液を作製した。
【0179】
(実施例15)
<リン酸エチルビス(2,2,2−トリフルオロエチル)の合成>
前記実施例1と同様にして、リン酸エチルビス(2,2,2−トリフルオロエチル)を合成した。
【0180】
<エチル(2,2,2−トリフルオロエチル)リン酸ナトリウムの合成>
前記リン酸エチルビス(2,2,2−トリフルオロエチル)5.0gを50mLナスフラスコに投入し、続いて0.7gの水酸化ナトリウムを5.0gの水に溶解させて調製した水溶液を投入した。その後、撹拌しながら、100℃〜110℃で1時間加熱還流を行った。減圧下、80℃で溶媒等を留去することにより、白色の固体3.9gを得た。
【0181】
得られた白色固体を、イオンクロマトグラフィー〈メトローム社製IC−850〉にてアニオン分析を行ったところ、前記エチル(2,2,2−トリフルオロエチル)リン酸ナトリウムと同様の検出時間で新規のピークが一本検出された。これにより、生成した新規アニオンはエチル(2,2,2−トリフルオロエチル)リン酸アニオンであり、得られた白色固体がエチル(2,2,2−トリフルオロエチル)リン酸ナトリウムであることを確認した。
【0182】
<ナトリウムイオン二次電池用非水電解液の作製>
前記実施例1と同様にして、本実施例に係るナトリウムイオン二次電池用非水電解液を作製した。
【0183】
(実施例16)
<リン酸エチルビス(2,2,2−トリフルオロエチル)の合成>
前記実施例1と同様にして、リン酸エチルビス(2,2,2−トリフルオロエチル)を合成した。
【0184】
<エチル(2,2,2−トリフルオロエチル)リン酸ナトリウムの合成>
前記リン酸エチルビス(2,2,2−トリフルオロエチル)5.0gを50mLナスフラスコに投入し、続いて反応溶媒として、ジメトキシエタン30.0gを投入した。その後、0.7gの水酸化ナトリウムを1.2gの水に溶解させて調製した水溶液を投入した。その後、撹拌しながら、100℃〜110℃で1時間加熱還流を行った。減圧下、80℃で溶媒等を留去することにより、白色の固体3.9gを得た。
【0185】
得られた白色固体を、イオンクロマトグラフィー〈メトローム社製IC−850〉にてアニオン分析を行ったところ、前記エチル(2,2,2−トリフルオロエチル)リン酸ナトリウムと同様の検出時間で新規のピークが一本検出された。これにより、生成した新規アニオンはエチル(2,2,2−トリフルオロエチル)リン酸アニオンであり、得られた白色固体がエチル(2,2,2−トリフルオロエチル)リン酸ナトリウムであることを確認した。
【0186】
<ナトリウムイオン二次電池用非水電解液の作製>
前記実施例1と同様にして、本実施例に係るナトリウムイオン二次電池用非水電解液を作製した。
【0187】
(実施例17)
<リン酸エチルビス(2,2,2−トリフルオロエチル)の合成>
前記実施例1と同様にして、リン酸エチルビス(2,2,2−トリフルオロエチル)を合成した。
【0188】
<エチル(2,2,2−トリフルオロエチル)リン酸ナトリウムの合成>
前記リン酸エチルビス(2,2,2−トリフルオロエチル)20.0gを50mLナスフラスコに投入し、続いて、0.6gの水酸化ナトリウムを1.2gの水に溶解させて調製した水溶液を投入した。その後、撹拌しながら、100℃〜110℃で1時間加熱還流を行った。さらに、溶媒と固体をろ別することにより、白色固体を得た。得られた白色固体を減圧下、80℃で溶媒等を留去することにより、白色の固体2.2gを得た。
【0189】
得られた白色固体を、イオンクロマトグラフィー〈メトローム社製IC−850〉にてアニオン分析を行ったところ、前記エチル(2,2,2−トリフルオロエチル)リン酸ナトリウムと同様の検出時間で新規のピークが一本検出された。これにより、生成した新規アニオンはエチル(2,2,2−トリフルオロエチル)リン酸アニオンであり、得られた白色固体がエチル(2,2,2−トリフルオロエチル)リン酸ナトリウムであることを確認した。
【0190】
<ナトリウムイオン二次電池用非水電解液の作製>
前記実施例1と同様にして、本実施例に係るナトリウムイオン二次電池用非水電解液を作製した。
【0191】
(比較例1)
本比較例においては、実施例1のエチル(2,2,2−トリフルオロエチル)リン酸ナトリウムを添加しなかったこと以外は、実施例1と同様にしてナトリウムイオン二次電池用非水電解液を調製した。
【0192】
(ナトリウムイオン二次電池の電気化学特性の評価)
実施例1、6、8、9、11〜17及び比較例1の非水電解液を用いたナトリウムイオン二次電池の電気化学特性の評価を行った。当該評価においては、図2に示す3電極式の評価セルを用いた。
【0193】
<ナトリウムイオン二次電池の組立て>
図2に示す評価セルにおけるテフロン(登録商標)製蓋14を備えたガラス製容器15には、実施例および比較例1で得られた非水電解液を満たした。作用極17は作用極用のステンレス製支持棒11、参照極18は参照極用のステンレス製支持棒12、対極19は対極用のステンレス製支持棒13によって支持させた。
【0194】
作用極17としては、次のものを用いた。すなわち、NaCrOを、活物質及び導電助剤や結着剤と共にペースト状に、これをアルミニウム箔の集電体上に塗工して乾燥させた。このようにしてシート化したものを、1cm角に切り出し、作用極17として用いた。また、参照極18及び対極19は、正負極材料評価の違いにかかわらずナトリウム箔を用いた。
【0195】
作用極用のステンレス製支持棒11、参照極用のステンレス製支持棒12および対極用のステンレス製支持棒13は、テフロン製蓋14を介して固定し、非水電解液16をいれたガラス製容器15にテフロン製蓋をとりつけると同時に、当該非水電解液16に作用極17、参照極18、対極19をそれぞれ同時に浸漬させた。
【0196】
また、ガラス製容器15を、温度制御可能なアルミニウム製ブロック10の内部に嵌挿することにより、当該ガラス製容器15の内部の温度を調整した。
【0197】
電気化学測定装置としてはメトロームオートラボ社製PGSTAT302Nを使用し、サイクリックボルタンメトリ測定および交流インピーダンス測定を実施した。尚、評価セルの組み立てから測定までは、全て露点−70℃以下のアルゴングローブボックス内で行った。
【0198】
<ナトリウムイオン二次電池の正極材料の評価>
非水電解液を25℃の恒温状態にし、浸漬電位から3400mVの間を1mV/秒の挿引速度にて、前記のサイクリックボルタンメトリ測定を行った。比較例1の非水電解液を用いたときの5サイクル目の放電容量を100として、実施例1、6、8、9、11〜17の非水電解液を用いたときの5サイクル目における放電容量の比率を下記表1に示す。
【0199】
【表1】
【0200】
<ナトリウムイオン二次電池の正極内部抵抗の評価>
続いて、非水電解液を25℃の恒温に保持したまま、0.7mAの充電電流で3400mVまで充電し、その後3400mVで3時間保持した。その後、3400mVを印加したまま60℃まで昇温させ、60℃で5時間保持した。その後、0℃まで段階的に温度を下げ、交流インピーダンス測定により電極の抵抗を比較評価した。下記表2に、0℃における比較例1の非水電解液を用いたときの抵抗を100として、実施例1の各非水電解液における正極の内部抵抗比を示す。
【0201】
【表2】
【0202】
(実施例18)
<リン酸エチルビス(2,2,2−トリフルオロエチル)の合成>
前記実施例1と同様にして、リン酸エチルビス(2,2,2−トリフルオロエチル)を合成した。
【0203】
<トリエチルメチルアンモニウムエチル(2,2,2−トリフルオロエチル)リン酸の合成>
前記リン酸エチルビス(2,2,2−トリフルオロエチル)20.0gを100mLナスフラスコに投入し、続いて24.9gの35%トリエチルメチルアンモニウムヒドロキシド水溶液を投入した。その後、撹拌しながら、100℃〜110℃で1時間加熱還流を行った。減圧下、80℃で溶媒等を留去することにより、オイル状の無色透明液体20.8gを得た。
【0204】
得られた無色透明液体を、イオンクロマトグラフィー〈メトローム社製IC−850〉にてアニオン分析を行ったところ、前記エチル(2,2,2−トリフルオロエチル)リン酸ナトリウムと同様の検出時間で新規のピークが一本検出された。これにより、生成した新規アニオンがエチル(2,2,2−トリフルオロエチル)リン酸アニオンであり、得られた無色透明液体がトリエチルメチルアンモニウムエチル(2,2,2−トリフルオロエチル)リン酸であることを確認した。
【0205】
<電気二重層キャパシタ用非水電解液の作製>
露点が−70℃以下のアルゴン雰囲気ドライボックス内で、プロピレンカーボネート(PC)(キシダ化学株式会社製、ナトリウムバッテリーグレード)に対し、実施例5で合成したトリエチルメチルアンモニウムエチル(2,2,2−トリフルオロエチル)リン酸の濃度が1.0モル/リットルとなる様に調製した。これにより、トリエチルメチルアンモニウムエチル(2,2,2−トリフルオロエチル)リン酸が電解質として含有する、本実施例の電気二重層キャパシタ用非水電解液を作製した。
【0206】
(比較例2)
本比較例においては、実施例18のトリエチルメチルアンモニウムエチル(2,2,2−トリフルオロエチル)リン酸を添加せずに、テトラエチルアンモニウムテトラフルオロボレートの濃度が1.0モル/リットルとなるように添加したこと以外は、実施例18と同様にして電気二重層キャパシタ用非水電解液を調製した。
【0207】
(電気二重層キャパシタの電気化学特性の評価)
実施例18及び比較例2の非水電解液を用いた電気二重層キャパシタの電気化学特性の評価を行った。当該評価においては、図1に示すコイン型セルを用いた。
【0208】
<電気二重層キャパシタの組立て>
コイン型セルにおける正極1及び負極2としては、次の様にして作製したものを用いた。すなわち、水蒸気による賦活処理により得られた活性炭であって、比表面積が2000m/gのものを、導電助剤及び結着剤と共にペースト状にし、これをアルミニウム箔の集電体上に塗工して乾燥させた。このようにしてシート化したものを、直径1cmの円形状に切り出し、正極1及び負極2として用いた。
【0209】
また、コイン型セルの組立ては、図1に示すように、正極缶4と負極缶5とで形成される内部空間に、正極缶4側から正極1、セパレータ3、負極2、スペーサー7の順に積層された積層体が収納されるように行った。さらに、非水電解液は、正極1、負極2及びセパレータ3の間に含浸させた。
【0210】
また、電気化学測定装置としてはメトロームオートラボ社製PGSTAT302Nを使用し、交流インピーダンス測定を実施した。尚、コイン型セルの組み立てから測定までは、全て露点−70℃以下のアルゴングローブボックス内で行った。
【0211】
<電気二重層キャパシタの正極内部抵抗の評価>
それぞれのコイン型セルを25℃の恒温状態にし、1.0mAの充電電流で3000mVまで充電し、3000mVで10分間定電位保持した。その後、1.0mAの放電電流で0mVまで放電し、さらに0mVで10分間定電位保持した。この充放電条件にて5サイクルを実施した後、交流インピーダンス測定によりキャパシタの内部抵抗を比較評価した。下記表3に、比較例2の非水電解液を用いたときの抵抗を100として、実施例18の非水電解液における正極1の内部抵抗比を示す。
【0212】
【表3】
【符号の説明】
【0213】
1 正極
2 負極
3 セパレータ
4 正極缶
5 負極缶
6 ガスケット
7 スペーサー
8 スプリング
10 アルミニウム製ブロック
11 ステンレス製支持棒
12 ステンレス製支持棒
13 ステンレス製支持棒
14 テフロン製蓋
15 ガラス製容器
16 非水電解液
17 作用極
18 参照極
19 対極
図1
図2