(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0021】
<<1.本発明の背景>>
<1.1.鏡ボルトの構成>
まず、
図1を参照して、本発明の一実施形態に係る鏡ボルト1の構成について説明する。
図1は、本実施形態に係る鏡ボルト1を示す概要図である。
【0022】
図1に示すように、本実施形態に係る鏡ボルト1は、ケーシングシュー2と、窪み付き鋼管3とを含む。ケーシングシュー2と窪み付き鋼管3とは、摩擦接合によって作製された接合部4を介して接合される。
【0023】
ケーシングシュー2は、中空の管状部材である。ケーシングシュー2は、鏡ボルト1の先端に設けられ、地山の補強に係る施工時において、未掘削の地盤に当接する。これにより、ケーシングシュー2の内部に挿通され、先端に掘削用ビッドを備えるロッドが保護される。掘削用ビッドによる掘削処理の際に、ケーシングシュー2は掘削による衝撃を大きく受けるので、引張強度など、機械的特性に優れた材質により形成されることが好ましい。本実施形態に係るケーシングシュー2は、例えば、SCM435のクロムモリブデン鋼により形成される。
【0024】
窪み付き鋼管3は、管体表面に凹凸を有する鋼管であり、鋼管と土砂との付着力を増加させる目的で使用される。
図1には、窪み付き鋼管3の一例として、ディンプル鋼管が図示されている。この窪み付き鋼管3は、ディンプル鋼管に限定されるものではなく、例えば、段付き鋼管であってもよい。なお、本実施形態に係る窪み付き鋼管3は、例えば、STK400の一般構造用炭素鋼管である。
【0025】
図1の吹き出しは、接合部4近傍におけるケーシングシュー2および窪み付き鋼管3の断面図を示す。摩擦圧接直後は、接合部4の内側面および外側面に、アプセット処理により押し出された酸化物または不純物等を含むバリが生じるが、当該バリは摩擦圧接後に適宜除去される。そのため、吹き出しに示すように、一般的に摩擦圧接後の鏡ボルト1において、ケーシングシュー2の接合側の端面におけるケーシングシュー2の外径と、窪み付き鋼管3の接合側の端面における窪み付き鋼管3の外径とは同一となる。
【0026】
なお、
図1では省略されているが、窪み付き鋼管3のケーシングシュー2との当接面と異なる端部は、他の鋼管と接合されている。他の鋼管との接合には、例えばねじ継手等が用いられる。このようなねじ継手として、例えば、窪み付き鋼管3の端部に直接的にねじを切削加工するピン・ボックスタイプのねじ継手が設けられてもよいが、窪み付き鋼管3の断面は異径であるため、継手強度を確保することが困難となる。そのため、窪み付き鋼管3の端部に取り付けられるねじ継手として、管体とは別途に切削加工された継手部を窪み付き鋼管3の端部に摩擦圧接などで接合して取り付けるタイプのねじ継手を使用することが好ましい。この窪み付き鋼管3へのねじ継手の摩擦圧接については、例えば上記特許文献2に開示されている接合方法が用いられてもよい。
【0027】
本実施形態に係る鏡ボルト1の内部には不図示のロッドが挿通され、当該ロッドの先端に不図示の掘削用ビットが取り付けられる。この鏡ボルト1が地山に打設された状態において掘削用ビットが地山に対して衝撃を加えることにより、掘削が行われる。
【0028】
<1.2.摩擦圧接と接合部の破断に関する問題>
本実施形態に係るケーシングシュー2と窪み付き鋼管3とは、上述したように摩擦圧接により接合される。摩擦圧接では、まず、2つの部材の当接面を高速で擦りあわせ、摩擦熱をケーシングシュー2および窪み付き鋼管3の接合側の端部に生じさせることにより、表層の金属を溶融させる(摩擦発熱処理)。その後、管軸方向にアプセット推力(圧縮力)を加える(アプセット処理)ことにより、当該2つの部材が接合される。この摩擦圧接により、部材間の金属結合が促進され、かつ、金属表面に存在する酸化皮膜、汚れ等の夾雑物、および吸着ガス等が外部に排出される。これにより、摩擦圧接により生成された接合部は、2つの母材と同程度の強度を有し得る。
【0029】
この摩擦圧接は、同種金属の部材を接合させるだけではなく、異種金属の部材を接合させることも可能である。そのため、本発明者らは、摩擦圧接を用いてケーシングシュー2と窪み付き鋼管3とを接合することにより鏡ボルト1を作製し、当該鏡ボルト1をトンネル掘削工事の地盤補強に適用させた。
【0030】
しかしながら、摩擦圧接により得られた鏡ボルト1を用いてトンネル掘削工事の地山の補強工事を行った際に、掘削用ビットによる掘削中の衝撃荷重により、鏡ボルト1の接合部4が破断するという例が散見された。そのため、本発明者らは、接合部4の破断の原因を調べるために、複数の鏡ボルト1について管軸方向への引張試験を行い、窪み付き鋼管3の管体における破断(管体破断)または接合部4における破断(接合部破断)の現象に関する検討を行った。
【0031】
本発明者らは、まず、接合部4の破断が生じた鏡ボルト1の接合部4の状態について観察を行った。
図2は、引張試験により接合部破断が生じた鏡ボルト1の接合部4の拡大断面写真である。
図2には、ケーシングシュー2と窪み付き鋼管3との接合部4において、破断面40が生じていることが分かる。
【0032】
次に、本発明者らは、接合部破断が生じた鏡ボルト1と同条件にて摩擦接合された鏡ボルト1の接合部4を観察した。
図3は、
図2に示した鏡ボルト1と同条件にて摩擦圧接により接合された鏡ボルト1の接合部4の拡大断面写真である。
図3に示すように、接合部4には二つの接合面(ケーシングシュー2に近い方から、第1の接合面41、第2の接合面42)が分離して存在することが分かる。また、第1の接合面41が、窪み付き鋼管3の内側面から外側面にかけてケーシングシュー2の本体方向に傾いている状態であることが分かる(本明細書においてこの傾きの状態を「外側に傾いている」状態と定義する)。
【0033】
このような接合面の分離および外側への傾きは、例えば上記特許文献2において開示された窪み付き鋼管と、窪み付き鋼管と同材であるねじ継手との摩擦圧接による接合部においては観察されていない。一方で、単純に窪み付き鋼管3と、窪み付き鋼管と異材であるケーシングシュー2とを摩擦圧接したときに、
図3に示したような接合面の分離、および第1の接合面41の外側への傾きが生じていたことが確認された。このような接合面の分離および外側への傾きがある場合に、接合部4の強度が低くなり、破断が起きやすくなると、本発明者らは推測した。
【0034】
そこで、本発明者らは、上述した2つの接合面の分離および第1の接合面41の傾きについてより定量的に評価し、鏡ボルト1において接合部破断が生じる場合の条件について検証した。
図4は、2つの接合面間距離(二面間距離)D(mm)および第1の接合面41の傾き角θ(°)の定義を説明するための断面写真である。
図4に示すように、二面間距離Dは、窪み付き鋼管3の肉厚中心において、第1の接合面41および第2の接合面42の管軸に平行な距離である。また、傾き角θは、管軸方向に直交する面43に対する、第1の接合面41のケーシングシュー2の本体方向への傾斜角度を示す値である。この傾き角θは、
図4に示すような外側への傾きの場合に正値となり、内側への傾き(外側面から内側面にかけてのケーシングシュー2の本体方向への傾き)の場合に負となる。
【0035】
本発明者らは、複数の鏡ボルト1の供試体について引張試験を行い、引張による各供試体の破断の結果、並びに、
図4に示した定義に基づいて測定された二面間距離Dおよび第1の接合面41の傾き角θの関係について検証した。
図5は、各供試体の破断結果、二面間距離Dおよび傾き角θの関係を示すグラフである。○は窪み付き鋼管3の管体で破断した供試体のプロットを示し、×は接合部4で破断した供試体のプロットを示す。
【0036】
図5に示したように、二面間距離Dが0.5mm以下であり、かつ傾き角θが8°以下である供試体については、全て管体破断である結果が得られた。したがって、接合部4における二面間距離Dが0.5mm以下となり、かつ傾き角θが8°以下となるように、ケーシングシュー2と窪み付き鋼管3とを摩擦圧接させることにより、鏡ボルト1の接合部4における破断をより確実に回避することができると考えられる。
【0037】
そこで本発明者らは、二面間距離Dが0.5mm以下となり、かつ傾き角θが8°以下となる接合部4を作製するための摩擦圧接による接合方法について、FEA(Finite Element Analysis;有限要素解析)を用いて検討した。具体的には、本発明者らは、ケーシングシュー2の接合側の端部における形状について種々の検討を行い、上記条件を満たすための当該形状を見出した。以下、FEAによる解析結果に基づく本実施形態に係る接合方法の条件について説明する。
【0038】
<<2.FEAによる解析結果に基づく本実施形態に係る接合方法の条件>>
<2.1.解析条件>
本発明者らは、FEAによる摩擦圧接シミュレーションモデルを構築して解析を行い、解析結果に基づいて、接合部4における接合面の分離および外側への傾きが生じる理由について検討した。また、本発明者らは、その解析結果に基づいて、摩擦圧接により作製された接合部4での破断の発生を防止することが可能である接合方法の条件について検討した。まず、FEAの解析条件について説明する。
【0039】
図6は、FEAによる摩擦圧接に関するシミュレーションモデル10の一例を示す図である。シミュレーションモデル10は、ケーシングシューモデル20(以下、単にケーシングシュー20と呼称する)、鋼管モデル30(以下、単に鋼管30と呼称する)、およびクランプモデル90を備える。ケーシングシュー20の管軸方向における一の端面は鋼管30の管軸方向における一の端面と当接している。この当接面の近傍の領域は当接部50と定義される。また、鋼管30の外側面は、クランプモデル90の内側面と当接している。これらのモデルは、管軸対称のソリッドモデルであり、ケーシングシュー20と鋼管30との当接部50以外の部位においては、それぞれ均一のソリッドにより構成されている。また、当接部50に含まれるケーシングシュー20および鋼管30の部位は、後図で示すように、ケーシングシュー20と鋼管30との摩擦圧接により生じ得る熱および応力の解析をより詳細に行うために、より細かいソリッドにより構成される。
【0040】
なお、以下のFEAを用いたシミュレーションにおいて用いられる寸法に関する定数は以下の通りである。
ケーシングシュー20の管軸方向の長さL
S(mm)=84mm。
鋼管30の管軸方向の長さL
P(mm)=500mm。
ケーシングシュー20の接合側の端面から管軸方向に長さL
A(mm)以上離れた位置におけるケーシングシュー20の外径D
SO(mm)=82.6mm。
ケーシングシュー20の接合側の端面における内径D
SI(mm)=62.56mm。
鋼管30の外径D
PO(mm)=76.3mm。
鋼管30の肉厚t
P(mm)=4.5mm。
【0041】
以下のFEAを用いた解析では、解析対象に応じて、ケーシングシュー20の接合側の端面から管軸方向に長さL
A(mm)以内における外径D
SA(mm)および肉厚t
SA(mm)、並びにケーシングシュー20の接合側の端面からの管軸方向における長さL
Aがパラメータとして適宜変更された。なお、ケーシングシュー20の接合側の端面における肉厚t
SAは、鋼管30の肉厚t
Pよりも大きいことが要求される。これは、鋼管30が窪み付き鋼管である場合において、鋼管30の外径および内径が窪み面の有無に応じて変化する場合においても、鋼管30の接合側の端面をケーシングシューの接合側の端面により確実に当接させるためである。
【0042】
本実施形態に係るFEAでは、摩擦圧接に関して温度応力連成解析が行われた。摩擦圧接による摩擦発熱は、当接面(衝合面)の節点における反力に比例する。具体的には、摩擦圧接により発生するジュール熱は27J/(sec・mm
2)である。また、ケーシングシュー20の材質はSCM435であり、鋼管30の材質はSTK400であることが想定されている。本実施形態に係るFEAでは、これらの材質の有する引張強度、降伏応力、破壊靱性および比熱等の公知の物性値が解析パラメータとして入力される。
【0043】
FEAにおける摩擦圧接の工程は、摩擦発熱工程とアプセット工程からなる。摩擦発熱工程では、ケーシングシュー20または鋼管30のいずれかを回転させることにより、ケーシングシュー20と鋼管30との当接面における摺動に基づく摩擦発熱が生じ、当該摩擦発熱により2つの部材の当接面近傍の部位が軟化する。その際、管軸方向には圧縮力が付与されている。なお、当該FEAでは、回転摺動による摩擦発熱による各部材の熱に関する挙動は模擬的に解析される。摩擦発熱工程は所定時間(例えば5秒〜15秒)行われる。摩擦発熱工程の終了時において相対回転が急停止し、インターバル(摩擦発熱工程の終了時点である回転の停止から、アプセット工程が開始されるまでの時間)が設けられた後にアプセット工程が実行される。アプセット工程では、摩擦発熱工程時において付与された圧縮力よりも高い圧縮力が2つの部材に管軸方向に付与される。なお、摩擦発熱工程とアプセット工程のインターバルは、本実施形態に係るFEAでは0.55秒とした。
【0044】
<2.2.従来モデルの解析>
まず、従来モデルのケーシングシューを用いた摩擦圧接の解析結果について説明する。
図7は、従来の形状を有するケーシングシュー51aおよび鋼管52aの各モデル構成の一例を示す図である。
図7に示したケーシングシュー51aを「従来モデル」と呼称する。
図7に示すように、ケーシングシュー51aの接合側の端面501aと鋼管52aの接合側の端面502aとが当接している。また、ケーシングシュー51aは、接合側の端面501aにおいて、鋼管52aと同一の外径を有している。すなわち、ケーシングシュー51aの外周面と鋼管52aの外周面とが、当接面において管軸方向に連続している。この従来モデルのケーシングシュー51aを用いた摩擦圧接の解析が行われた。本解析において、D
SA=76.3mm、t
SA=6.87mm、およびL
A=16mmとした。
【0045】
図8は、FEAによる摩擦圧接解析後の、従来モデルのケーシングシュー51aおよび鋼管52aの接合部における形状変化およびアプセット時の最高温度分布の一例を示す図である。
図8を参照すると、まず、衝合面(当接面)53aが外側に傾いていることが分かる。また、温度分布の稜線54aが、衝合面53aよりも鋼管52a側に位置していることが分かる。この温度分布の稜線54aは、摩擦熱による金属部材の軟化が最も促進されていると考えられるため、アプセット処理時において径方向へのせん断が生じるアプセット面に相当すると考えられる。つまり、温度分布の稜線54aは、アプセット面54aに相当する。この衝合面53aおよびアプセット面54aは、例えば、
図3に示した接合部4の第1の接合面41および第2の接合面42にそれぞれ相当すると考えられる。つまり、これらの結果は、例えば
図3に示したような鏡ボルト1の接合部4の状態を再現している。本発明者らは、まず、
図8に示された解析結果から、衝合面53aの傾きについて検討した。
【0046】
図8に示したように、衝合面53aの外側への傾きは、鋼管52aの端面502aがケーシングシュー51aの端面501aに乗り上げることにより生じると考えられる。本発明者らは、外側への傾きが生じる原因として、摩擦圧接時において管軸方向に圧縮荷重が与えられる場合、鋼管52aの端面502aが内径方向よりも外径方向にすべりが生じやすいためであると思案した。これは、ケーシングシュー51aの外径方向への変形抵抗が内径方向への変形抵抗と比較して小さいからである。鋼管52aの端面502aが外径方向にすべることにより、管軸方向に対して面圧がかかりにくくなるので、摩擦圧接による接合強度が十分に得られないと考えられる。
【0047】
<2.3.全厚モデルの解析>
上記の検討結果を受けて、本発明者らは、上記の解析結果に基づいて、衝合面の傾きを生じさせないためのケーシングシューの形状について検討した。
図9は、接合側の端部において全厚の形状を有するケーシングシュー51bおよび鋼管52bの各モデル構成の一例を示す図である。
図9に示したケーシングシュー51bを「全厚モデル」と呼称する。全厚モデルのケーシングシュー51bの接合側の端面501bにおける外径は、
図7の従来のモデルとは異なり、ケーシングシュー51bの他の部位における外径と同一であり、鋼管52bの外径よりも大きい。本発明者らは、接合側の端面501bにおけるケーシングシュー51bの肉厚を外径方向に増すことにより、摩擦圧接時における鋼管52bの端面502bの外径方向へのすべりを抑制できると思案した。この全厚モデルのケーシングシュー51bを用いた摩擦圧接の解析が行われた。本解析において、D
SA=82.6mm(=D
SO)、およびt
SA=10.02mmとした。なお、全厚モデルでは、L
A=0である。
【0048】
図10は、FEAによる摩擦圧接解析後の、全厚モデルのケーシングシュー51bおよび鋼管52bの接合部における形状変化およびアプセット時の最高温度分布の一例を示す図である。
図10を参照すると、衝合面53bは管軸方向に略直交しており、外側への傾きは見られない。そのため、全厚モデルにおいては鋼管52bの端面502bの外径方向へのすべりが抑制されていることが明らかとなった。一方で、アプセット面54bは、
図8で示した例と同じように、衝合面53bよりも鋼管52b側に位置していることが分かる。すなわち、衝合面53bとアプセット面54bは分離している。
【0049】
本発明者らは、衝合面53bとアプセット面54bとが分離する原因として、ケーシングシュー51bと鋼管52bとの熱容量の違いにあると思案した。部材の熱容量の大きさは、熱が拡散される領域の大きさ、すなわち熱が拡散される体積の大きさに比例する。摺動面である当接面において発生する摩擦熱は、ケーシングシュー51bおよび鋼管52bのそれぞれに拡散する。ここで全厚モデルの場合、接合側の端部近傍におけるケーシングシュー51b側の体積が鋼管52b側の体積よりも大きい。この場合、ケーシングシュー51b側の熱容量も、鋼管52b側の熱容量よりも大きくなる。そうすると、摩擦熱の抜熱は、ケーシングシュー51b側が鋼管52b側よりも顕著となる。よって、アプセット時の最高温度の分布が鋼管52b側に位置し得る。この温度分布を有した接合部においてアプセット処理がなされると、上述したように温度分布の稜線に沿ってせん断が生じるので、アプセット面54bが鋼管52b側で形成されることとなる。
【0050】
アプセット面が衝合面と分離して形成される場合、2つの問題が生じ得る。一つは、アプセット面が鋼管側で形成されるので、アプセット推力が相手部材に伝達されず、各々の部材間の金属結合が十分に促進されないため、アプセット面において欠陥が生じやすいことである。もう一つは、アプセット処理によるせん断による、衝合面に存在する酸化皮膜等の夾雑物が外部に排出されないことである。つまり、アプセット面が衝合面と分離して形成される場合は、ケーシングシューと鋼管との接合強度が劣化し得る。
【0051】
以上まとめると、FEAによる解析の結果から、ケーシングシューと鋼管の摩擦圧接において、衝合面が外側に傾くこと、および衝合面とアプセット面が分離して形成されることにより、接合強度が十分に得られなくなるというメカニズムを本発明者らは見出した。すなわち、高い接合強度を確保することが可能な摩擦圧接を行うためには、衝合面の外側の傾き、および、衝合面とアプセット面の分離を同時に抑制することが求められる。本発明者らは、FEAによる解析の結果、衝合面の外側の傾きを抑制するためには、鋼管の端部の外径方向への変形抵抗を高めることが求められることを見出した。また、本発明者らは、衝合面とアプセット面の分離を抑制するためには、ケーシングシューと鋼管との間の熱容量の差を低減させることが求められることを見出した。
【0052】
本発明者らは上記課題について鋭意検討し、鋼管の端部の外径方向への変形抵抗を高めつつ、熱容量の差を低減させることが可能なケーシングシューの端部の形状を開発した。以下、本実施形態にかかる接合方法に用いられるケーシングシューの改良モデルの形状について説明する。
【0053】
<2.4.改良モデルの解析>
図11は、接合側の端部の形状が改良されたケーシングシュー51cおよび鋼管52cの各モデル構成の一例を示す図である。
図11に示したケーシングシュー51cを「改良モデル」と呼称する。改良モデルのケーシングシュー51cは、
図11に示したように、接合側の端面501cから管軸方向に長さL
Aにわたって外径の大きさがD
SAであるように形成される。この改良モデルにおいて、この外径D
SAは、鋼管52cの端面502cにおける外径D
POよりも大きく設定される。この改良モデルのケーシングシュー51cを用いた摩擦圧接の解析が行われた。本解析において、D
SA=77.3mm(=D
PO+1mm)、t
SA=7.37mm、およびL
A=16mmとした。
【0054】
図12は、FEAによる摩擦圧接解析後の、改良モデルのケーシングシュー51cおよび鋼管52cの接合部における形状変化およびアプセット時の最高温度分布の一例を示す図である。
図12を参照すると、衝合面53cは管軸方向に略直交しており、外側への傾きは見られない。また、衝合面53cとアプセット面54cとの二面間距離は、
図10に示した全厚モデルのケーシングシューを用いた二面間距離と比較しても短くなっていることが分かる。
【0055】
このように、ケーシングシューの接合側の端面から管軸方向の長さL
Aにわたって外径の大きさがD
SAとなるようにケーシングシューの端部の形状を加工することにより、衝合面の外側への傾き、および衝合面とアプセット面との分離を抑制することが可能であることが示唆された。本発明者らは、上述した3つのモデルのケーシングシューを用いた摩擦圧接の解析結果から得られた知見に基づいて、傾き角θおよび二面間距離Dが所定の条件を満たすためのケーシングシューの形状について、さらに検討を進めた。
【0056】
<2.5.傾き角θの検討>
本発明者らは、まず、傾き角θが8°以下となるための摩擦圧接の条件について検討した。上述したように、摩擦圧接後の接合部における鋼管の端部の外側への傾きは、ケーシングシューとの衝合面における変形抵抗の低さに起因すると考えられる。そのため、ケーシングシューの接合側の端面における外径D
SAを鋼管の外径D
POよりも大きくすることで、当該変形抵抗を高めることができると考えられる。そこで、本発明者らは、鋼管の外径D
POに対するケーシングシューの接合側の端面における外径D
SAの比(外径比D
SA/D
PO)をパラメータとして、外径が接合側の端面から管軸方向の長さL
Aに渡ってD
SAであるケーシングシューを用いて摩擦圧接した場合の、衝合面の傾き角θについて解析した。
【0057】
本実施形態に係る傾き角θについての解析条件として、外径比D
SA/D
POの範囲は1.00〜1.08とし、長さL
Aは、4mm、または16mmとした。これらの値を用いてFEAを行い、解析結果を得た。
【0058】
図13は、外径比D
SA/D
POと傾き角θの関係を示すグラフである。
図13のグラフに示すように、長さL
Aが4mmおよび16mmのいずれの場合においても、外径比D
SA/D
PO≧1.02において、傾き角θが8°以下となることが示された。外径比D
SA/D
POが大きくなるにつれて傾き角θは減少する傾向にある。これは、外径方向への鋼管の端面のすべりに対するケーシングシューの端面の変形抵抗が、外径比D
SA/D
POの増加につれて大きくなるためと考えられる。
【0059】
<2.6.二面間距離Dの検討>
続いて、本発明者らは、二面間距離Dが0.5mm以下となるための摩擦圧接の条件に付いて検討した。上述したように、衝合面とアプセット面の分離は、ケーシングシューの端部近傍と鋼管の端部近傍との熱容量の差に起因すると考えられる。そのため、ケーシングシューの端部近傍と鋼管の端部近傍との熱容量の差を可能な限り小さくするように、ケーシングシューの端部の形状を設定することが求められる。種々の検討の結果、熱容量の差を小さくするためには、ケーシングシューの端部近傍の体積と鋼管の端部近傍の体積との関係が主に影響することが明らかとなった。つまり、鋼管の接合側の端部近傍の体積に対するケーシングシューの接合側の端部近傍の体積の比率が所定の比率以下となるようにケーシングシューの形状を設定することにより、二面間距離Dを小さくすることができると、本発明者らは思案した。
【0060】
図14は、当接部50dにおけるケーシングシューの端部近傍および鋼管の端部近傍の体積の定義を説明するための図である。なお、
図14に示すケーシングシュー51dおよび鋼管52dは、径方向の断面図である。
図14を参照すると、ケーシングシュー51dの接合側の端面501dから管軸方向に15mmの位置までにおけるケーシングシューの領域をS、および、鋼管52dの接合側の端面502dから管軸方向に15mmの位置までにおける鋼管の領域をPとして、各々が定義されている。
図14では領域Sおよび領域Pは2次元断面で示されているが、領域Sおよび領域Pは、管軸周りに形成される円筒状の領域である。なお上記の2つの領域を定義する「15mm」の値は、摩擦圧接により生じる摩擦熱がケーシングシュー51dおよび鋼管52dの接合側の端面501d(502d)から管軸方向に及ぶ範囲であり、FEAの種々の解析結果に基づく値である。つまり、接合側の端面501d(502d)から15mm以内の領域について上記の体積の比率が低くなるようにケーシングシューの形状を設定することにより、熱容量の差を小さくし、二面間距離Dを小さくすることができると考えられる。
【0061】
領域Sおよび領域Pの体積をそれぞれV
S、V
Pとし、体積比V
S/V
Pをパラメータとして、二面間距離Dとの関係を評価した。本実施形態に係る二面間距離Dについての解析条件として、外径比D
SA/D
POは1.02、1.04、1.06、および全厚(1.085)とした。また、長さL
Aは、4mm、8mm、16mm、および32mmとした。なお、体積比V
S/V
Pは、上記の外径比D
SA/D
PO、および長さL
Aの値により決定される。
【0062】
なお、FEAにおいて、二面間距離Dは、鋼管の肉厚中心での接合面とアプセット時における温度分布と稜線との管軸方向の距離とした。
【0063】
図15は、体積比V
S/V
Pと二面間距離Dの関係を示すグラフである。
図15のグラフに示すように、体積比V
S/V
P≦2.05となる場合において、二面間距離Dが0.5mm以下となることが示された。また、体積比V
S/V
Pが減少するにつれて、二面間距離Dが減少する傾向にある。これは、ケーシングシューの端部近傍と鋼管の端部近傍との熱容量の差が、体積比V
S/V
Pの減少につれて小さくなるためと考えられる。
【0064】
<2.7.ケーシングシューの形状のまとめ>
以上、
図6〜
図15に示されたFEAの解析条件および解析結果を参照しながら、接合部における破断を防止するためのケーシングシューと窪み付き鋼管との接合条件について説明した。上述したFEAの解析結果から、以下に記載する式(1)〜(3)を満たすケーシングシューおよび窪み付き鋼管を摩擦圧接することにより、衝合面の傾き角θが8°以下であり、かつ、二面間距離Dが0.5mm以下である接合部を有する鏡ボルトを確実に作製することができる。これにより、鏡ボルトの接合部の引張強度を確保することができる。したがって、鏡ボルトに衝撃力が加わった場合において、管体破断よりも先に接合部の破断が生じることを防止することができる。なお、
図16は、本実施形態に係る接合方法が満たす条件を示すための図である。
図16に示すように、本実施形態に係る接合方法において用いられるケーシングシューおよび窪み付き鋼管について、外径比D
SA/D
PO≧1.02(式(2))であり、かつ、体積比V
S/V
P<2.05(式(3))の条件を満たすこと(
図16中の領域100が示す範囲)により、接合部における破断を防止することができる。
【0065】
t
SA>t
A ・・・(1)
D
SA/D
PO≧1.02 ・・・(2)
V
S/V
P≦2.05・・・(3)
【0066】
図17は、式(1)〜(3)を満たすケーシングシュー61および窪み付き鋼管62を摩擦圧接により接合させて作製された鏡ボルト1の接合部63の拡大断面写真である。なお、ケーシングシュー61の摩擦圧接前の接合側の端面の外径D
SAは77.3mm(D
PO+1mm)であり、長さL
Aは16mmである。
図17に示したケーシングシュー61の接合側の端面の外周部は、摩擦圧接により生じたバリの除去とともに切除されているが、摩擦圧接前においては、ケーシングシュー61は、
図11で示したような端部形状を有する。
図17に示すように、衝合面64は外側に大きくは傾いておらず、また、衝合面64およびアプセット面65の距離(二面間距離D)は、
図3に示した例と比較して短くなっている。具体的には、衝合面64の傾き角θ=4.8°であり、二面間距離D=3.2mmである。よって、
図17に示した鏡ボルト1の接合部の傾き角θおよび二面間距離Dは、接合部破断を生じさせないための傾き角θおよび二面間距離Dの条件を両方とも満たしている。
【0067】
なお、
図11および
図14に示した例では、ケーシングシューの接合側の端部の形状が、接合側の端面から管軸方向に長さL
Aにわたって、ケーシングシューの外径が式(2)を満たすD
SAであるような形状であるとしたが、本発明はかかる例に限定されない。例えば、ケーシングシューの接合側の端部の形状のうち、端面の外径が式(2)を満たすD
SAであれば、当該端面からケーシングシューの本体側にかけての形状は、式(3)を満たす場合において特に限定されない。例えば、ケーシングシューの端部の形状は、当該端部から本体側にかけて管軸方向に沿って拡張されるテーパ形状であってもよい。また、ケーシングシューの端部は、外径方向に延びるフランジ形状を有してもよい。また、ケーシングシューの端面の外周部は、曲率が設けられてもよい。その他、式(3)を満たす限りにおいて、ケーシングシューは、端部から本体側にかけて種々の形状を取り得る。
【0068】
ただし、ケーシングシューはSCM435のような高硬度を有する部材であるため、加工の難易度によっては割れ等の品質低下が生じ得る。そのため、式(3)を満たすためのケーシングシューの端部の形状は、ケーシングシューの接合側の端面から管軸方向に長さL
Aにわたってケーシングシューの外径が式(2)を満たすD
SAである形状であることが好ましい。
【0069】
<<3.他の接合条件>>
次に、本実施形態に係る摩擦圧接による接合方法のさらなる接合条件について説明する。
【0070】
<3.1.窪み付き鋼管の内径の条件>
本実施形態に係る接合方法において、ケーシングシューの接合側の端部の内径D
SI[mm]は、窪み付き鋼管の窪みの最深部における内径D
PD[mm]以下であることが好ましい。
図18は、ケーシングシューの接合側の端部の内径D
SIと窪み付き鋼管の窪みの最深部における内径D
PDの関係を説明するための接合部の断面図である。
図18を参照すると、ケーシングシュー71の端面701は、窪み付き鋼管72の窪み部73の端面702と当接している。このとき、D
SI≦D
PDであれば、窪み付き鋼管72の窪み部73の端面702が、ケーシングシュー71の端面701と確実に当接する。これにより、任意の位置で切断されて生成された端面を有する窪み付き鋼管について、ケーシングシュー端面との摩擦圧接を確実に行うことができる。また、ケーシングシュー71および窪み付き鋼管72の内部を挿通するロッド等が窪み部73と物理的に干渉してしまうことを防止することができる。
【0071】
<3.2.摩擦発熱工程とアプセット工程とのインターバルの短縮>
また、本実施形態に係る接合方法において、摩擦発熱工程とアプセット工程とのインターバルをより短縮することがさらに好ましい。これにより、摩擦発熱処理後の衝合面における接合部の温度が大きく減少しないうちにアプセット処理が行われるので、アプセット処理による金属の流動が大きくなる。これにより、アプセット面をより衝合面に近づけることが可能となる。つまり、接合部の強度をさらに高めることが可能となる。
【0072】
本発明者らは、インターバルを0.05秒とした場合についてFEAを用いて解析を行い、摩擦圧接後の接合部の状態について評価した。
図19は、インターバルを短縮させた場合における、FEAによる摩擦圧接解析後の、改良モデルのケーシングシューおよび鋼管の接合部における形状変化およびアプセット時の最高温度分布の一例を示す図である。
図19に示したように、衝合面53eおよびアプセット面54eについて、
図12と比較して、さらに二面間の距離が短縮したと言える。よって、摩擦発熱工程とアプセット工程のインターバルをさらに短縮することにより、さらに接合部を強固なものとすることが可能であると考えられる。
【0073】
<<4.まとめ>>
以上、本実施形態に係るケーシングシューと窪み付き鋼管との接合方法について説明した。上述したように、単純にケーシングシューと窪み付き鋼管とを摩擦圧接により接合するだけでは、接合により得られた鏡ボルトを地盤補強の施工時に打設した際に、摩擦圧接後の接合部において破断が生じることがあった。この接合部の破断の原因として、接合部における摩擦圧接の衝合面の外側への傾き、および衝合面とアプセット面との分離が挙げられる。
【0074】
そこで、本実施形態では、まず、衝合面の傾き角θが8°以下であり、かつ、衝合面とアプセット面との距離(二面間距離D)が0.5mm以下となる場合に、接合部における破断が生じないことを明らかにした。
【0075】
次に、ケーシングシューの端部による鋼管の端部の変形抵抗を増加させれば、衝合面の傾き角θを抑制することができることを明らかにした。そして、鋼管の外径D
POに対するケーシングシューの接合側の端面における外径D
SAの比(外径比D
SA/D
PO)が式(2)を満たすことで、衝合面の傾き角θを8°以下とすることができることを明らかにした。
【0076】
次に、ケーシングシューの端部の熱容量を低くすることにより、衝合面とアプセット面の分離を抑制できることができることを明らかにした。そして、鋼管の接合側の端部近傍の体積に対するケーシングシューの接合側の端部近傍の体積の比率(体積比V
S/V
P)が式(3)を満たすことで、二面間距離Dを0.5mm以下とすることができることを明らかにした。
【0077】
すなわち、式(1)〜(3)の条件を満たす端部構造を有するケーシングシューを摩擦圧接に用いることにより、接合部における破断を防止することができ、接合部での破断より先に管体破断を実現することができる。よって、本実施形態によれば、接合部での破断が生じない鏡ボルトを提供することが可能となる。上記実施形態で示した発明は、式(1)〜(3)の条件を満たしている限り、種々の管径および肉厚を有するケーシングシューおよび窪み付き鋼管に適用することが可能である。
【実施例】
【0078】
次に、本発明の実施例について説明する。なお、以下の実施例は、本発明の実施可能性及び効果を確認するために採用した条件例にすぎず、本発明が以下の実施例の条件に限定されるものではない。
【0079】
複数種類のケーシングシューの供試体を窪み付き鋼管(この際、式(1)を満たす窪み付き鋼管が使用される)に接合し、各供試体が式(2)および式(3)の条件を満たすか否かを判定するとともに、各供試体に対して管軸方向に引張荷重を付与した際の破断形態を確認するための引張試験を行った。
【0080】
表1は、本発明の実施例および比較例に係る各供試体の条件、外径比D
SA/D
PO、体積比V
S/V
P、傾き角θ、二面間距離D、および管軸方向に引張荷重を付与したときの破断形態を示す。
【0081】
【表1】
【0082】
なお、例えば、比較例3は、
図7に示した従来モデルのケーシングシューを用いた場合に相当し、比較例1は、
図9に示した全厚モデルのケーシングシューを用いた場合に相当する。
【0083】
表1に示すように、本発明の実施例1〜15は、式(1)〜(3)の条件を満足している。その結果、実施例1〜15のいずれの供試体も、接合部ではなく管体で破断した。したがって、接合部が管体の引張強度以上の強度を確保できていると言える。一方で、比較例1〜21は、式(2)または(3)の少なくともいずれかの条件を満たしていない。例えば、比較例1、3、4、9、10、17および18は、式(2)を満たしていない。また、比較例2、5〜8、11〜17、19〜21は、式(3)を満たしていない。その結果、いずれも接合部による破断が生じた。
【0084】
上記試験結果から、式(1)〜(3)の条件を満たすことにより、接合部における衝合面の外側への傾き、および衝合面とアプセット面の分離が所定の閾値以下に抑制されるので、接合部の強度が確保され、接合部での破断より先に管体での破断を実現できることが実証されたと言える。
【0085】
さらに、実施例13〜15は、摩擦発熱工程とアプセット工程とのインターバルが0.1秒以下であるという条件を満たしているため、二面間距離Dが他の実施例と比較して全体的に短くなったと言える。そのため、インターバルを0.1秒以下とすることにより、接合部の強度の低減をより抑制し、接合部の破断をより確実に防止することができると考えられる。
【0086】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。