特許第6856859号(P6856859)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6856859電源装置の劣化検知装置および劣化検知方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6856859
(24)【登録日】2021年3月23日
(45)【発行日】2021年4月14日
(54)【発明の名称】電源装置の劣化検知装置および劣化検知方法
(51)【国際特許分類】
   H02M 3/28 20060101AFI20210405BHJP
【FI】
   H02M3/28 C
   H02M3/28 X
   H02M3/28 B
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-57196(P2017-57196)
(22)【出願日】2017年3月23日
(65)【公開番号】特開2018-160989(P2018-160989A)
(43)【公開日】2018年10月11日
【審査請求日】2020年2月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000221616
【氏名又は名称】東日本旅客鉄道株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】502082144
【氏名又は名称】株式会社トアック
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】特許業務法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】村上 俊介
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 芳光
(72)【発明者】
【氏名】一木 剛
(72)【発明者】
【氏名】森若 正道
(72)【発明者】
【氏名】宮澤 康成
(72)【発明者】
【氏名】濱野 満
(72)【発明者】
【氏名】茅根 寛典
(72)【発明者】
【氏名】山口 貴大
(72)【発明者】
【氏名】曽我 泰士
【審査官】 遠藤 尊志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−201934(JP,A)
【文献】 特開2000−308339(JP,A)
【文献】 特開2012−060814(JP,A)
【文献】 特開2009−027787(JP,A)
【文献】 特開2013−138608(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 3/00−3/44
H02M 1/00−3/44
H02M 7/00−7/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電圧変換用のトランスと、該トランスの一次側巻線に間欠的に電流を流すためのスイッチング素子と、前記トランスの一次側巻線に流れる電流に比例した電圧と前記トランスの二次側からの出力電圧検出信号が入力されることで前記スイッチング素子をオン、オフ制御する駆動パルスを生成し出力する電源制御回路と、平滑用のコンデンサを備え前記トランスの補助巻線に誘起された電圧を整流・平滑して前記電源制御回路の動作電源電圧を生成する補助電源回路とを有する絶縁型の電源装置の劣化を検知する劣化検知装置であって、
前記電源装置の所定部位から取得された電圧が印加されるモニタ端子を備えた端子台と、
前記モニタ端子に印加された電圧が所定の電圧を越えた場合にパルス信号を生成するパルス生成手段と、
前記パルス生成手段により生成されたパルス信号を計数可能なパルス計数手段と、
前記パルス計数手段により計数されたパルス数が所定数に達した場合に前記電源装置の劣化と判定する判定手段と、を備え
前記モニタ端子に印加される電圧は、前記補助電源回路の平滑用のコンデンサの充電電圧であることを特徴とする電源装置の劣化検知装置。
【請求項2】
電圧変換用のトランスと、該トランスの一次側巻線に間欠的に電流を流すためのスイッチング素子と、前記トランスの一次側巻線に流れる電流に比例した電圧と前記トランスの二次側からの出力電圧検出信号が入力されることで前記スイッチング素子をオン、オフ制御する駆動パルスを生成し出力する電源制御回路と、平滑用のコンデンサを備え前記トランスの補助巻線に誘起された電圧を整流・平滑して前記電源制御回路の動作電源電圧を生成する補助電源回路と、前記トランスの一次側巻線が接続される入力端子と前記平滑用のコンデンサとの間に接続され、電源起動時に前記平滑用のコンデンサを充電させる電流が流れる抵抗素子とを有する絶縁型の電源装置の劣化を検知する劣化検知装置であって、
前記電源装置の所定部位から取得された電圧が印加されるモニタ端子を備えた端子台と、
前記モニタ端子に印加された電圧が所定の電圧を越えた場合にパルス信号を生成するパルス生成手段と、
前記パルス生成手段により生成されたパルス信号を計数可能なパルス計数手段と、
前記パルス計数手段により計数されたパルス数が所定数に達した場合に前記電源装置の劣化と判定する判定手段と、を備え、
前記モニタ端子に印加される電圧は、前記抵抗素子の両端子の電圧であることを特徴とする電源装置の劣化検知装置。
【請求項3】
前記パルス生成手段は、前記モニタ端子に印加される電圧を分圧する分圧手段と、該分圧手段により分圧された電圧に応じた電圧と所定の電圧とを比較する電圧比較回路と、前記分圧手段と前記電圧比較回路との間に設けられ直流成分を遮断する直流遮断手段と、を備えることを特徴とする請求項1または2に記載の電源装置の劣化検知装置。
【請求項4】
前記平滑用のコンデンサと並列に接続された第2の平滑用コンデンサを備え、
前記パルス生成手段と前記パルス計数手段と前記判定手段は、前記第2の平滑用コンデンサの充電電圧を電源として動作するように構成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の電源装置の劣化検知装置。
【請求項5】
電圧変換用のトランスと、該トランスの一次側巻線に間欠的に電流を流すためのスイッチング素子と、前記トランスの一次側巻線に流れる電流に比例した電圧と前記トランスの二次側からの出力電圧検出信号が入力されることで前記スイッチング素子をオン、オフ制御する駆動パルスを生成し出力する電源制御回路と、平滑用のコンデンサを備え前記トランスの補助巻線に誘起された電圧を整流・平滑して前記電源制御回路の動作電源電圧を生成する補助電源回路とを有する絶縁型の電源装置の劣化を検知する劣化検知方法であって、
入力電圧が投入された後、出力電圧が立ち上がる前に前記電源装置から取得された電圧が所定の電圧を繰り返し越えた場合に、その繰り返し回数を計数する繰り返し回数計数ステップと、
前記繰り返し回数計数ステップにより計数された繰り返し回数が予め設定された所定の回数を越えた場合に電源装置の劣化と判定する劣化判定ステップと、
前記劣化判定ステップの判定結果を出力する判定結果出力ステップと、
を有し、前記電源装置から取得された電圧は、前記補助電源回路の平滑用のコンデンサの充電電圧であることを特徴とする電源装置の劣化検知方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トランスを備えた絶縁型の直流電源装置特に定電圧電源装置の劣化を検知するのに利用して有効な技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、鉄道車両には、多種多様な電子機器が搭載されており、これらの電子機器に電力を供給する電源装置として、定電圧電源装置も搭載されている。
電源装置は各種電子機器に電力を安定して供給することが要求される一方、電源装置の劣化状態の把握は困難であり、劣化が進むと電源装置が立ち上がらなくなって、電子機器に電力を供給できない事態が発生するおそれがあるため、電源装置の劣化を検出するための技術の開発が要望されている。
【0003】
ところで、鉄道車両に搭載されている定電圧電源装置の劣化は、電源装置に設けられている補助電源装置を構成するアルミ電解コンデンサに起因することが多い。そこで、従来、電源装置の劣化の検出として、アルミ電解コンデンサの劣化を検出もしくは判別する発明が提案されている。かかる発明としては、例えば特許文献1や特許文献2に開示されているものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭63−165770号公報
【特許文献2】特開2004−320870号公報
【特許文献3】特開2016−201934号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記先願発明のうち、特許文献1に開示されている電解コンデンサの劣化検出回路に関する発明は、電解コンデンサのリップル電圧の振幅が次第に増大することに着目して、電解コンデンサのリップル電圧を比較回路でしきい値と比較することで劣化を検出するというものである。
しかしながら、電解コンデンサの寿命は温度、湿度、振動など電気的条件(使用環境)に依存することが知られているが、各電源装置は使用状況がそれぞれ異なるため、特許文献1に開示されている電解コンデンサの劣化検出回路のように、一律に同一のしきい値で判定する方式では、各コンデンサの特性に応じた最適な劣化判定が困難であるという課題がある。
【0006】
一方、特許文献2に開示されている電解コンデンサの劣化判定装置は、使用周囲温度に対応した累積稼働時間をカウントして、このカウント値により寿命を判定するというものである。
この特許文献2に開示されている発明の判定方式は、電源装置の使用状況に応じた判定が行なえるという利点があるものの、累積稼働時間をカウントする回路や判別回路およびカウント値を記憶する記憶装置が必要であるため、装置を構成する部品点数が多くコストアップを招くとともに、記憶装置に記憶されているカウント値が何らかの原因で失われると、正確な寿命判定が行なえなくなるという課題がある。
【0007】
本発明者らは、特許文献1や2に開示されている発明の有する上記課題を解決するために、電源装置が立ち上がらなくなるという事態が発生する前に、補助電源回路の平滑用コンデンサの劣化の予兆を捉えて電源装置の劣化を確実に検知するようにした劣化検知装置および劣化検知方法の発明をなし、先に出願した(特許文献3)。
特許文献3の発明は、補助電源回路の平滑用コンデンサが劣化すると電源起動遅れ時間や電源装置が立ち上がるまでの制御回路動作繰返し時間が変化することに着目し、これらの時間を監視することで、電源装置の劣化を検知するようにしたものである。
【0008】
しかしながら、電源起動遅れ時間および制御回路動作繰返し時間は、使用する電子部品(IC,コンデンサ,抵抗等)の個体差によるばらつきがある。また、電源装置の起動開始電圧は、制御用ICによってばらつきがある。そのため、特許文献3の発明にあっては、検知精度を高めるには劣化を判別するための判定値(しきい値)を電源装置ごとに変える必要があり、判定値の設定が面倒であるという不具合がある。
本発明は、上記のような背景の下になされたもので、個体差によるばらつきの影響を受けることなく、かつ電源装置が立ち上がらなくなるという事態が発生する前に、補助電源回路の平滑用コンデンサの劣化の予兆を捉えて電源装置の劣化を確実に検知することができる劣化検知装置および劣化検知方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明は、
電圧変換用のトランスと、該トランスの一次側巻線に間欠的に電流を流すためのスイッチング素子と、前記トランスの一次側巻線に流れる電流に比例した電圧と前記トランスの二次側からの出力電圧検出信号が入力されることで前記スイッチング素子をオン、オフ制御する駆動パルスを生成し出力する電源制御回路と、平滑用のコンデンサを備え前記トランスの補助巻線に誘起された電圧を整流・平滑して前記電源制御回路の動作電源電圧を生成する補助電源回路とを有する絶縁型の電源装置の劣化を検知する劣化検知装置であって、
前記電源装置の所定部位から取得された電圧が印加されるモニタ端子を備えた端子台と、
前記モニタ端子に印加された電圧が所定の電圧を越えた場合にパルス信号を生成するパルス生成手段と、
前記パルス生成手段により生成されたパルス信号を計数可能なパルス計数手段と、
前記計数手段により計数されたパルス数が所定数に達した場合に前記電源装置の劣化と判定する判定手段と、を備えるようにしたものである。
【0010】
上記構成の劣化検知装置によれば、電源装置から取得された電圧が所定の電圧を超えた場合に生成されるパルスの数により劣化を判定するため、個体差によるばらつきの影響を受けることなく、かつ電源装置が立ち上がらなくなるという事態が発生する前に、補助電源回路の平滑用コンデンサの劣化の予兆を捉えて電源装置の劣化を検知することができる。また、累積稼働時間を記憶する記憶装置を設けることなく劣化を検知することができるため、記憶装置に記憶されているカウント値が何らかの原因で失われて正確な寿命判定が行なえなくなるという事態が発生するのを回避して電源装置の劣化を確実に検知することができるとともに、劣化検知装置を安価に構成することができる。
【0011】
ここで、望ましくは、
前記補助電源回路は平滑用のコンデンサを備え、
前記モニタ端子に印加される電圧は、前記補助電源回路の平滑用のコンデンサの充電電圧であるように構成する。
かかる構成によれば、補助電源回路の平滑用コンデンサの充電電圧を監視して所定の電圧を越えた場合に電源装置の劣化と判定するので、監視対象の電圧およびそれを入力するためのモニタ端子の数を少なくすることでき、これにより比較的簡単な回路で検知機能を実現することができ、劣化検知装置の低コスト化を図ることができる。
【0012】
また、前記トランスの一次側巻線が接続される入力端子と前記平滑用のコンデンサとの間に接続され、電源起動時に前記平滑用のコンデンサを充電させる電流が流れる抵抗素子を備え、前記モニタ端子に印加される電圧は、前記抵抗素子の両端子の電圧であるように構成してもよい。
【0013】
さらに、望ましくは、前記パルス生成手段は、前記モニタ端子に印加される電圧を分圧する分圧手段と、該分圧手段により分圧された電圧に応じた電圧と所定の電圧とを比較する電圧比較回路と、前記分圧手段と前記電圧比較回路との間に設けられ直流成分を遮断する直流遮断手段と、を備えるように構成する。
かかる構成によれば、分圧された電圧と基準となる電圧とを比較するため、測定電圧レンジの広い回路が不要となり回路をシンプルにすることができるとともに、直流成分を遮断する直流遮断手段(カップリングコンデンサ)を設けているため、劣化検知装置が電圧の高い電源装置から影響を受けるのを防止することができる。
【0014】
また、本出願の他の発明は、
電圧変換用のトランスと、該トランスの一次側巻線に間欠的に電流を流すためのスイッチング素子と、前記トランスの一次側巻線に流れる電流に比例した電圧と前記トランスの二次側からの出力電圧検出信号が入力されることで前記スイッチング素子をオン、オフ制御する駆動パルスを生成し出力する電源制御回路と、平滑用のコンデンサを備え前記トランスの補助巻線に誘起された電圧を整流・平滑して前記電源制御回路の動作電源電圧を生成する補助電源回路とを有する絶縁型の電源装置の劣化を検知する劣化検知方法であって、
入力電圧が投入された後、出力電圧が立ち上がる前に前記電源装置から取得された電圧が所定の電圧を繰り返し越えた場合に、その繰り返し数を計数する繰り返し数計数ステップと、
前記繰り返し数計数ステップにより計数された繰り返し数が予め設定された所定の数を越えた場合に電源装置の劣化と判定する劣化判定ステップと、
前記劣化判定ステップの判定結果を出力する判定結果出力ステップと、
を有し、前記電源装置から取得された電圧は、前記補助電源回路の平滑用のコンデンサの充電電圧であるようにしたものである。
【0015】
上記した方法によれば、電源起動後に電源装置から取得された電圧が所定の電圧を繰り返し越えた場合に、その繰り返し数を計数することにより劣化を判定するため、電源装置が立ち上がらなくなるという事態が発生する前に、補助電源回路の平滑用コンデンサの劣化の予兆を捉えて電源装置の劣化を検知することができる。また、複雑な劣化検知回路を設けたり大規模なプログラムを開発することなく越えたという現象と、電源装置の劣化を検知することができるため、装置もしくはシステムの低コスト化を図ることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、個体差によるばらつきの影響を受けることなく、かつ電源装置が立ち上がらなくなるという事態が発生する前に、補助電源回路の平滑用コンデンサの劣化の予兆を捉えて電源装置の劣化を確実に検知することができるという効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明に係る直流電源装置の劣化検知装置および劣化検知方法を適用して好適な直流電源装置の一例としての定電圧電源装置の構成例を示す回路構成図である。
図2】入力電圧投入時の入力電圧と出力電圧と平滑用コンデンサの充電電圧の変化の様子を示すもので、(A)は新しい定電圧電源装置における各電圧の変化、(B)は長期間稼働した定電圧電源装置における各電圧の変化を示す図である。
図3】本発明に係る電源装置の劣化検知装置の第1実施例を示すブロック図である。
図4】本発明に係る電源装置の劣化検知装置の第2実施例を示すブロック図である。
図5】第2実施例の劣化検知装置を構成するパルス生成回路の具体的な回路例を示す回路構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る電源装置の劣化検知装置および劣化検知方法の実施形態について、図面を参照して説明する。
先ず、図1を用いて、本発明に係る電源装置の劣化検知装置および劣化検知方法を適用して好適な電源装置の一例としての定電圧電源装置の構成について説明する。
図1に示すように、本実施形態の定電圧電源装置は、例えばDC100Vのような入力電圧Vinが印加される入力端子INに接続され入力電圧Vinに含まれるノイズを遮断する共通のフィルタ回路11と、フィルタ回路11の後段に接続された複数の絶縁型の直流電源装置として2つのDC−DCコンバータ10A,10Bとを備える。DC−DCコンバータは、3つ以上設けられていても良い。
【0019】
本実施形態の定電圧電源装置においては、DC−DCコンバータ10A,10Bは同一の構成である。DC−DCコンバータ10A,10Bはそれぞれ、図1に示すように、一次側巻線Npと二次側巻線Nsおよび補助巻線Nbとを有し上記フィルタ回路11を介して入力される入力電圧Vinを異なる電圧に変換する電圧変換用のトランス12と、このトランス12の一次側巻線Npと直列に接続されたFET(電界効果トランジスタ)からなるスイッチング素子SWと、該スイッチングSWをオン、オフさせる信号GTを生成し出力する電源制御回路13とを有する。電源制御回路13は、半導体集積回路(以下、電源制御用ICと称する)として形成されている。
【0020】
上記トランス12の二次側には、二次側巻線Nsと直列に接続された整流用ダイオードD2と、このダイオードD2のカソード端子と二次側巻線Nsの他方の端子との間に接続された平滑用コンデンサC2とが設けられ、一次側のスイッチング素子SWをオン、オフさせて一次側巻線Npに間欠的に電流を流すことで二次側巻線Nsに誘起される交流電圧を整流し平滑することによって、一次側巻線Npと二次側巻線Nsとの巻線比に応じた直流電圧Vout1を出力する。鉄道車両搭載用の電源装置では、出力電圧Vout1として5Vまたは12Vや24Vのような電圧を出力するように構成される。DC−DCコンバータ10Aが出力電圧Vout1として5Vを出力し、DC−DCコンバータ10Bが出力電圧Vout2として24V(あるいは12V)を出力するように構成されても良い。
【0021】
さらに、本実施形態の定電圧電源装置においては、各DC−DCコンバータ10A,10Bのトランス12の二次側に、出力電圧Vout1,Vout2……の電圧値を検出するための出力電圧検出回路14と、該出力電圧検出回路14に接続され検出電圧に応じた信号を一次側の電源制御用IC13へ伝達するフォトカプラの発光側素子としてのフォトダイオード15aが設けられている。そして、一次側には、上記電源制御用IC13のフィードバック端子FBに接続され、上記出力電圧検出回路14によって駆動されフィードバック端子FBに信号を伝達するフォトカプラの受光側素子としてのフォトトランジスタ15bが設けられており、電源制御用IC13はフォトカプラを介して上記出力電圧検出回路14からフィードバックされる電圧に基づいて、出力電圧Voutが一定となるようにスイッチングSWをオン、オフさせる信号GTを生成する。
【0022】
また、この実施形態の定電圧電源装置においては、トランス12の一次側に、上記補助巻線Nbと直列に接続された整流用ダイオードD0と、このダイオードD0のカソード端子と接地点GNDとの間に接続された平滑用コンデンサC0とからなる補助電源回路16が設けられ、該補助電源回路16で整流、平滑された電圧Vsubが上記電源制御用IC13の電源電圧端子VCCに印加されている。
これとともに、入力端子INと電源制御用IC13の電源電圧端子VCCとの間に、ダイオードD1および起動抵抗R1が直列に接続されており、電源が投入されると入力電圧VinからダイオードD1および起動抵抗R1を介して電源電圧端子VCCに接続されている平滑用コンデンサC0に電荷が供給されて充電されることで、補助巻線Nbに電圧が誘起される前の電源起動時においても電源制御用IC13を動作させることができるように構成されている。
【0023】
そして、コンデンサC0が充電されると電源制御用IC13がスイッチング動作を開始して、トランス12で変換された電圧が出力される。また、スイッチングが開始されると、補助巻線に電圧が誘起され、以降、補助電源回路16によって電源制御用IC13へ動作電圧が供給される。
上記ダイオードD1は補助巻線Nbに誘起された電圧により入力端子INへ電流が逆流するのを防止する。また、起動抵抗R1は高抵抗の素子で構成され、補助電源回路16から電源制御用IC13の電源電圧端子VCCへ電圧が供給され始めると、入力端子INから電源電圧端子VCCへ電流が流れないようにする働きをする。
【0024】
図1の定電圧電源装置においては、上記補助電源回路16を構成する平滑用コンデンサC0としてアルミ電解コンデンサが使用されており、このアルミ電解コンデンサの劣化(寿命)が電源装置の劣化を判定する上で大きな要因となっている。具体的には、定電圧電源装置の繰り返し稼働でアルミ電解コンデンサが劣化すると、次第に容量値が低下し、入力電圧投入後、補助電源の出力電圧が立ち上がるまでの時間が長くなり、最終的には出力電圧が立ち上がらなくなってしまう。従って、そのような事態が発生する前にアルミ電解コンデンサを新しいものと交換する必要があり、本実施形態のように劣化の予兆を捉えて判定するのが有効である。
【0025】
本実施形態の定電圧電源装置においては、上記補助電源回路16を構成する平滑用コンデンサC0の劣化の予兆を捉えるため、図3に示すような劣化検知装置20が設けられ、各DC−DCコンバータ10A,10Bの補助電源回路16で生成される電圧Vsubが劣化検知装置20に入力されている。なお、補助電源回路16の生成電圧Vsubの代わりに、起動抵抗R1の両端子の電圧を取り出して劣化検知装置20へ入力させるように構成しても良い。
また、図1に示す本実施形態の定電圧電源装置は、入力端子INにDC100Vのような直流電圧が入力され、直流−直流変換回路として構成されているが、フィルタ回路11の後段にダイオードブリッジからなる整流回路を接続することで、入力端子INにAC100Vのような交流電圧が入力されるAC−DCコンバータとして構成することも可能である。その場合、DC−DCコンバータ10A,10Bは整流回路の後段に接続される。
【0026】
次に、本実施形態の定電圧電源装置における劣化検知装置20による劣化検知の動作原理について説明する。
本発明者らは、本発明を開発するに当たって、定電圧電源装置の繰り返し稼働で、入力電圧投入後出力電圧が立ち上がるまでの現象にどのような変化が生じているのか詳しく調べるために、定電圧電源装置に対して加速度試験を行なうとともに、入力電圧投入直後における入力電圧Vinと出力電圧Voutと平滑用コンデンサ(アルミ電解コンデンサ)C0の充電電圧(補助電源回路の出力)Vsubの変化の様子を観察した。
【0027】
図2(A)は新しい定電圧電源装置におけるVinと出力電圧Voutと補助電源回路の出力電圧(平滑用コンデンサC0の充電電圧)Vsubの変化の様子を示す波形図、図2(B)は長期間使用した定電圧電源装置におけるVinと出力電圧Voutと補助電源回路の出力電圧Vsubの変化の様子を示す波形図である。なお、図2(A),(B)において、Tdは出力電圧Voutが所定の電圧Vh以上に立ち上がるのに要する電源起動遅れ時間である。
図2(A)と図2(B)とを比較すると分かるように、図2(A)の新しい定電圧電源装置の場合、平滑用コンデンサC0が所定の電圧まで充電されて電源制御用IC13が動作を開始するとしばらくして出力電圧Voutが立ち上がり、その後Voutは一定の電圧に維持される。
【0028】
一方、図2(B)の古い定電圧電源装置の場合、平滑用コンデンサC0が所定の電圧まで充電されて電源制御用IC13が動作を開始しても補助電源回路の出力電圧Vsubが低下することで起動に失敗して、これを何度か繰り返した後に出力電圧Voutが立ち上がり、その後Voutは一定の電圧に維持されることが明らかとなった。これは、平滑用コンデンサC0が劣化すると充電電荷量が減少するため、補助電源回路の出力電圧Vsubが比較的短い時間(Ts)で立ち上がり電源制御用IC13が一度動作を開始しても、充電電荷を消費することでコンデンサの電圧が下がり電源制御用IC13がスイッチング制御を開始できないためである。図2(B)の期間Trは電源制御用IC13の起動時動作繰返し時間であり、図2(A)ではこの時間がほぼゼロである。また、平滑用コンデンサC0が劣化すると、電源起動遅れ時間Tdが短くなる傾向があることを見出した。
【0029】
そこで、本発明者らは、電源制御用IC13が起動時に起動動作を繰返し期間Trにおける補助電源回路の出力電圧Vsubを監視し、Vsubの変動の繰り返し回数を計数することで、平滑用コンデンサC0の劣化を検出することとした。なお、入力電圧Vinが投入され電圧Vsubが上昇する期間Tsにおける平滑用コンデンサC0の充電は、起動抵抗R1を介して流れ込む電流によって行われるとともに、電圧Vsubが変動を繰り返す期間Trにおける平滑用コンデンサC0の繰り返し充電も起動抵抗R1を介して間欠的に流れ込む電流Irによって行われる。そのため、期間Trにおいては、起動抵抗R1の端子間電圧(=Ir×R1)も電圧Vsubと同様に変動することとなるので、起動抵抗R1の端子間電圧の変動回数を計数することによっても、平滑用コンデンサC0の劣化を検出することができる。
【0030】
本発明は、上記の知見に基づいてなされたものである。以下、本発明に係る電源装置の劣化検知装置および劣化検知方法の実施例について説明する。
(第1実施例)
図3には、本発明に係る電源装置の劣化検知装置の第1実施例が示されている。
この実施例の劣化検知装置20は、検知対象の定電圧電源装置(AVR)と接続するためのケーブルの端子が接続されるモニタ端子としてのコネクタ(端子台)21と、劣化検知のプログラムに従って動作し検知対象の定電圧電源装置からコネクタ21を介して入力される電圧に基づいて劣化の判定を行うワンチップマイコンのようなデータ処理装置25と、不揮発性メモリなどからなるデータ記憶媒体26と、外部のパソコンや表示装置との間でデータの送受信を行う外部インタフェース(I/F)27などを備えている。
【0031】
上記データ処理装置25を構成するワンチップマイコンはROM(リード・オンリ・メモリ:読出し専用メモリ)を内蔵しており、このROMに劣化検知のプログラムが格納され、該プログラムに従って動作する。
また、劣化検知装置20は、上記コネクタ21を介して検知対象の定電圧電源装置内のDC−DCコンバータ10A,10Bから取得した入力電圧Vin,出力電圧Vout1,Vout2を受けて絶縁を確保しつつこれらの電圧の立ち上がりを示す信号に変換してデータ処理装置25へ入力するフォトカプラ22、DC−DCコンバータ10A,10Bの補助電源回路16(または起動抵抗R1)から取得した電圧Vsub(またはVres)をデータ処理装置25内のAD変換回路の入力可能電圧範囲内の電圧に変換するオペアンプ(増幅器)などからなる信号変換器23A,23Bを備える。
【0032】
なお、起動抵抗R1の端子間電圧Vresを検知する場合には、コネクタ(端子台)21に、検知対象の電圧を入力するためのモニタ端子が各DC−DCコンバータに対してそれぞれ2個設けられる。
また、劣化検知装置20は、装置内部の回路や電子デバイスに動作電源電圧を供給するバッテリ28、電源のオン、オフスイッチ29を備えている。内蔵バッテリ28を設ける代わりに外部から電源を供給するようにしてもよい。
【0033】
本実施例の劣化検知装置20は、検知対象の定電圧電源装置の各DC−DCコンバータから取得された補助電源回路の出力電圧Vsub(または起動抵抗R1の端子間電圧Vres)が、電源起動後、最初に電源制御用IC13の動作開始電圧Vonに達してから、起動に失敗して動作開始電圧Vonよりも低くなり、再び動作開始電圧Vonまで上昇した回数をデータ処理装置25が計数することができるように構成されている。
具体的には、オン、オフスイッチ29がオンされると、データ処理装置25は定電圧電源装置(AVR)の入力電圧Vinの立ち上がりをトリガとして、プログラムに従って劣化検知処理を開始する。
【0034】
劣化検知処理においては、AD変換回路の出力に基づいて補助電源回路16(または起動抵抗R1)の電圧波形の波の数をカウントし、所定回数を超えたら劣化と判定する。判定結果情報は、記録媒体26に記録される。また、図示しないが、データ処理装置25内には、時計機能(TRC)が内蔵されており、判定結果情報と共に劣化と判定した時刻情報が記録媒体26に記録される。記録媒体26に記録された情報は、外部インタフェース(I/F)27外部のパソコンにより読み出したり、表示装置へ出力して表示させたりすることができるように構成されている。
【0035】
劣化検知処理においては、データ処理装置25は、電源起動遅れ時間Tdの短縮の程度から劣化の傾向を把握しつつ、起動繰返しを1回でも検知したら、すなわち起動時に電圧VsubがVonを続けて2回以上越えたのを検知したら、定電圧電源装置の劣化と判定しても良いし、起動繰返し数が予め設定した所定回数に達したら定電圧電源装置の劣化と判定しても良い。また、ノイズによる誤検知を防止するため、起動繰返しを続けて2回検知したらアラームを出力するように構成しても良い。なお、5回とか10回のような所定回数以上検知したらアラームを出力することも考えられるが、本発明者らが対象としている定電圧電源装置では、劣化の進み方が装置によって異なっており、起動繰返しの挙動にばらつきがあった。従って、起動繰返しを1回あるいは2回検知したら劣化と判定するように構成するのが望ましい。
【0036】
(第2実施例)
図4には、本発明に係る電源装置の劣化検知装置の第2実施例が示されている。
この実施例の劣化検知装置20は、図3に示す劣化検知装置20における上記信号変換器23A,23Bの代わりに、コネクタ21を介して検知対象の定電圧電源装置内のDC−DCコンバータ10A,10Bから取得した補助電源回路の出力電圧Vsub(または起動抵抗R1の端子間電圧Vres)のDC成分を遮断しつつ入力電圧波形からパルス信号を生成してデータ処理装置25へ入力するパルス生成回路24A,24Bを設けたものである。データ処理装置25は入力されたパルス信号を計数する機能を備えるように構成される。
この実施例の劣化検知装置においては、入力されたパルス信号を計数して、パルスを2個もしくは所定個数検知したら、定電圧電源装置の劣化と判定される。
【0037】
次に、劣化検知装置20を構成するパルス生成回路24A,24Bの具体的な回路例を、図5を用いて説明する。
図5に示すパルス生成回路24A(24B)は、補助電源回路の出力電圧Vsubが入力されるコネクタ21上のモニタ端子MTと接地点との間に直列に接続された抵抗R2,R3からなる分圧回路41と、抵抗R2とR3との接続ノードに接続されたDC成分を遮断するためのカップリングコンデンサ42と、振幅を制限したり信号の急峻な変化を抑制したりするためのダイオードD3,D4および抵抗R4,R5と、ボルテージフォロワなどからなるバッファアンプ43と、電圧比較用のコンパレータ44と、電源電圧VDDを抵抗R6とR7で分圧してコンパレータ44における比較電圧としての参照電圧Vrefを生成する分圧回路45などを備える。
【0038】
カップリングコンデンサ42を設けることで、電源装置(DC−DCコンバータ)の接地電位とパルス生成回路24の接地電位を分離することができる。また、分圧回路41を設けているのは、平滑用コンデンサC0の電圧は、起動時に起動抵抗R1から流れ込む電流により50Vを超えるピーク値があり、電圧変動幅が大きいためである。監視する電圧が起動抵抗R1の端子電圧Vresである場合には、バッファアンプ33の代わりに差動アンプを用いるようにすればよい。
分圧回路41と45の分圧比を適宜設定して、参照電圧Vrefが電源制御用IC13の動作開始電圧Vonに対応する電圧になるように構成することで、電圧VsubがVonを越えるとコンパレータ44の出力がローレベルからハイレベルに反転し、起動の繰り返しが発生するとパルス信号が生成され、データ処理装置25へ供給されて、パルス数が計数される。
【0039】
上記の説明から分かるように、第1および第2の実施例の劣化検知装置20によれば、検知対象の定電圧電源装置(AVR)に対して特別な追加や変更をすることなく、補助電源回路の出力電圧Vsub(または起動抵抗R1の端子間電圧Vres)を外部からモニタすることで、劣化検知を実現できる。
なお、図3および図4においては、2つのDC−DCコンバータの劣化を検知するものを示したが、コネクタ21に補助電源回路の出力電圧Vsub(または起動抵抗R1の端子間電圧Vres)を入力する3個以上の端子を設けるとともに、各端子に対応してパルス生成回路24を設けて、3個以上のDC−DCコンバータの劣化を同時に検知することも可能である。
【0040】
また、上記第1および第2の実施例の劣化検知装置では、バッテリ28を設けているが、本発明に係る劣化検知装置は、電源装置が立ち上がらなくなる事態が発生する前に、劣化の予兆を捉えて劣化を検出するものであるので、内蔵式の場合、検知対象の電源装置から電源電圧の供給を受けるように構成することで、バッテリ28を省略することも可能である。この場合、例えば、トランス12の補助巻線に接続される電解コンデンサを検知装置用に別個設けることによって、トランスの一次側から電源の供給を受けて動作するように構成することができる。
【0041】
以上、本発明を実施例に基づいて説明したが、本発明は上記実施例に限定されるものではない。例えば上記実施例では、データ処理装置がソフトウェア処理によってパルス数を計数するようにしているが、コンパレータの44の後段にカウンタ回路を設けて、データ処理装置がカウンタ回路の値を読み込む構成であっても良い。また、図5の回路において、バッファアンプ43を省略した回路や、コンパレータ44の代わりにインバータを用いた回路に置き換えることも可能である。
【0042】
さらに、上記実施例では、補助電源回路を構成する平滑用コンデンサとしてアルミ電解コンデンサを使用している電源装置について説明したが、アルミ電解コンデンサ以外のコンデンサを使用する電源装置に適用するようにしても良い。また、上記実施例では、鉄道車両に搭載される定電圧電源装置に適用した場合について説明したが、アルミ電解コンデンサを使用する電源装置であれば、鉄道車両搭載用以外の一般的な定電圧電源装置やAC−DCコンバータにも適用することができる。
【符号の説明】
【0043】
10A,10B DC−DCコンバータ
11 フィルタ回路
12 トランス
13 電源制御回路(電源制御用IC)
14 出力電圧検出回路
16 補助電源回路
20 劣化検知装置
21 コネクタ(端子台)
23A,23B 信号変換器
24A,24B パルス生成回路
25 データ処理装置
41 分圧回路(分圧手段)
42 カップリングコンデンサ(直流遮断手段)
44 コンパレータ(電圧比較回路)
図1
図2
図3
図4
図5