特許第6856896号(P6856896)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 北海道電力株式会社の特許一覧 ▶ 大東電材株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6856896-支線張力調整器 図000002
  • 特許6856896-支線張力調整器 図000003
  • 特許6856896-支線張力調整器 図000004
  • 特許6856896-支線張力調整器 図000005
  • 特許6856896-支線張力調整器 図000006
  • 特許6856896-支線張力調整器 図000007
  • 特許6856896-支線張力調整器 図000008
  • 特許6856896-支線張力調整器 図000009
  • 特許6856896-支線張力調整器 図000010
  • 特許6856896-支線張力調整器 図000011
  • 特許6856896-支線張力調整器 図000012
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6856896
(24)【登録日】2021年3月23日
(45)【発行日】2021年4月14日
(54)【発明の名称】支線張力調整器
(51)【国際特許分類】
   H02G 7/02 20060101AFI20210405BHJP
   H02G 7/04 20060101ALI20210405BHJP
【FI】
   H02G7/02
   H02G7/04
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-3699(P2017-3699)
(22)【出願日】2017年1月12日
(65)【公開番号】特開2018-113805(P2018-113805A)
(43)【公開日】2018年7月19日
【審査請求日】2019年12月9日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成28年12月14日北海道古平郡古平町大字浜町にて本願発明に係る支線張力調整器を電柱に取り付けたことによる公開
(73)【特許権者】
【識別番号】000241957
【氏名又は名称】北海道電力株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000207311
【氏名又は名称】大東電材株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001553
【氏名又は名称】アセンド特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】福地 政弘
(72)【発明者】
【氏名】柳原 正
(72)【発明者】
【氏名】福本 宏樹
【審査官】 木村 励
(56)【参考文献】
【文献】 実公平3−14539(JP,Y2)
【文献】 実開昭60−95240(JP,U)
【文献】 特許第103382(JP,C2)
【文献】 実開昭57−143829(JP,U)
【文献】 特開2000−156927(JP,A)
【文献】 特開平8−163760(JP,A)
【文献】 実公平3−22444(JP,Y2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02G 7/02
H02G 7/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電柱と支線とを連結する支線張力調整器であって、
前記支線及び前記電柱のうちの一方と連結可能な第1部材と、
前記支線及び前記電柱のうちの他方と連結可能な第2部材であって、前記第1部材を長手方向にスライド可能に支持する第2部材と、
自然長よりも伸びた状態で前記第1部材と前記第2部材に引っ掛けられた引張コイルばねと、
前記引張コイルばねが自然長よりも伸びた状態から縮まないように、前記第2部材に対する前記第1部材のスライドを制限するスライド制限機構と、を備え
前記第2部材は、長手方向に沿った筒部を含み、
前記第1部材は、前記筒部にスライド可能に挿入された棒部を含む、支線張力調整器。
【請求項2】
請求項に記載の支線張力調整器であって、
前記筒部が角筒状であり、前記棒部が板状である、支線張力調整器。
【請求項3】
請求項に記載の支線張力調整器であって、
前記スライド制限機構は、
前記棒部に長手方向に沿って設けられた長穴と、
前記棒部を挟むように前記筒部の端部から突出する2つの板部と、
前記2つの板部に固定され前記長穴を貫通する軸部と、を含む、支線張力調整器。
【請求項4】
請求項に記載の支線張力調整器であって、
前記2つの板部が前記筒部に着脱可能に取り付けられている、支線張力調整器。
【請求項5】
請求項1〜のいずれか1項に記載の支線張力調整器であって、
前記第1部材に対する前記第2部材のスライド量を表示する表示機構を備える、支線張力調整器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電柱と支線とを連結する支線張力調整器に関する。
【背景技術】
【0002】
傾斜地や、地盤が不安定な場所に設置された電柱には、電柱の転倒を防止するため支線が取り付けられる。支線の一方の端部は電柱に連結され、他方の端部は地面に固定されたアンカーに連結される。
【0003】
支線は、屋外に設置されるため雪等の影響を受け、支線の張力が大きくなることがある。たとえば、降雪量の多い山間地では支線が積雪に埋まる。この場合、積雪が傾斜面を滑ることにより支線に圧力(以下、積雪移動圧という)が負荷される。これにより、支線の張力が大きくなる。支線の張力が過剰に大きくなると、電柱に負荷される力が過剰に大きくなり、電柱のひび割れ又は折損が生じる。このような事態を防止するため、支線と電柱とを連結する部分に支線張力調整器を設けることが知られている。
【0004】
支線張力調整器はたとえば、実公平3−14539号公報(特許文献1)及び特許第2867115号公報(特許文献2)に開示されている。
【0005】
特許文献1に記載された支線張力調整器は、スライド可能な二対の押さえ板に取り付けられた引張コイルばねと、警告表示部を含むスライド部材とを備える。支線の張力が大きくなるにつれ、引張コイルばねが伸び始め、二対の押さえ板の間隔が広がる。二対の押さえ板の間隔が所定以上になると、スライド部材の警告表示部が現れ、支線の張力の危険状態を示す、と特許文献1には記載されている。
【0006】
特許文献2に記載された支線張力調整器は、ケースと、ケース内に収容された圧縮コイルばねと、圧力調整ナットとを備える。特許文献2の支線張力調整器は、圧力調整ナットにより圧縮コイルばねを圧縮した状態で電柱に取り付けられる。この支線張力調整器に外力が加わったとき、圧縮コイルばねの縮みしろがある状態では、圧縮コイルばねが次第に反発力を増しながら圧縮され、圧縮コイルばねが縮みきった後には、単一の剛体として機能する。これにより、支線の切断、電柱の転倒等を未然に防止することができる、と特許文献2には記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】実公平3−14539号公報
【特許文献2】特許第2867115号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1の支線張力調整器では、支線張力調整器を取り付ける際、支線に適正な張力を負荷するために引張コイルばねを所定の長さまで伸ばす必要がある。しかしながら、特許文献1の支線張力調整器では、支線張力調整器が電柱に取り付けられる前の状態(以下、初期状態ともいう)において引張コイルばねは自然長である。そのため、支線に適正な張力が負荷されるまでに、地上の作業者が引っ張らなければならない支線の長さが長い。そのため、支線に適正な張力を負荷しにくい。また、特許文献1の支線張力調整器を電柱及び支線に取り付ける際、支線に適正な張力を負荷しようとすれば、作業者が支線を引っ張りながら支線の長さを調整してアンカーに固定するか、アンカーを電柱からより遠い場所に固定して支線に張力を負荷する等しなければならない。このような施工作業は、地盤が不安定な場所や、傾斜地等では多大な労力を要する。さらに、特許文献1の支線張力調整器の初期状態では、引張コイルばねが自然長であるため支線張力調整器から外れやすい。そのため、支線張力調整器を運搬しにくい。
【0009】
特許文献2の支線張力調整器は、ケースに収容された圧縮コイルばねを備える。そのため、支線張力調整器の組立時に、非常に長い自然長の圧縮コイルばねを圧縮してケースに収容するという作業が必要となり、組立性が低い。また、圧縮コイルばねがケース内に収容されているため、外部から圧縮コイルばねの状態を確認できない。
【0010】
本発明の目的は、基本性能を維持しつつ、容易に支線に適正な張力を負荷することができる支線張力調整器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本実施形態の支線張力調整器は電柱と支線とを連結する。支線張力調整器は、第1部材と、第2部材と、引張コイルばねと、スライド制限機構と、を備える。第1部材は、支線及び電柱のうちの一方と連結可能である。第2部材は、支線及び電柱のうちの他方と連結可能であって、第1部材を長手方向にスライド可能に支持する。引張コイルばねは、自然長よりも伸びた状態で第1部材と第2部材に引っ掛けられる。スライド制限機構は、引張コイルばねが自然長よりも伸びた状態から縮まないように、第2部材に対する第1部材のスライドを制限する。
【発明の効果】
【0012】
本発明による支線張力調整器は、容易に支線に適正な張力を負荷することができ、かつ、支線の張力が過剰に大きくなることを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、支線張力調整器が取り付けられた電柱を示す概略図である。
図2図2は、本実施形態の支線張力調整器を示す斜視図である。
図3図3は、支線張力調整器を示す正面図である。
図4図4は、支線張力調整器を示す平面図である。
図5図5は、支線張力調整器を示す斜視図である。
図6図6は、支線張力調整器の分解図である。
図7図7は、初期状態のスライド制限機構を示す正面図である。
図8図8は、施工後のスライド制限機構を示す正面図である。
図9図9は、支線張力調整器が図8に示す状態から伸ばされた状態を示す正面図である。
図10図10は、スライド制限機構の他の実施形態を示す正面図である。
図11図11は、スライド制限機構の他の実施形態を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本実施形態の支線張力調整器は電柱と支線とを連結する。支線張力調整器は、第1部材と、第2部材と、引張コイルばねと、スライド制限機構と、を備える。第1部材は、支線及び電柱のうちの一方と連結可能である。第2部材は、支線及び電柱のうちの他方と連結可能であって、第1部材を長手方向にスライド可能に支持する。引張コイルばねは、自然長よりも伸びた状態で第1部材と第2部材に引っ掛けられる。スライド制限機構は、引張コイルばねが自然長よりも伸びた状態から縮まないように、第2部材に対する第1部材のスライドを制限する。
【0015】
本実施形態の支線張力調整器では、引張コイルばねは予め所定の長さに伸びた状態である。すなわち、引張コイルばねは予め所定の復元力をもっている。そのため、支線を取り付ける際、支線に撓みがない(張力が0)状態から支線を僅かな長さ分引っ張るだけで、支線に適正な張力を負荷することができる。したがって、支線に適正な張力が負荷されるまでに作業者が引っ張らなければならない支線の長さ分は短くて済み、施工性がよい。したがって、容易に支線に適正な張力を負荷することができ、かつ、引張コイルばねのばね定数が小さくてすむため、積雪移動圧により支線が撓んでも急激に電柱に負荷される力は大きくならない。さらに、引張コイルばねが予め適正な長さに伸びた状態であるため引張コイルばねは復元力をもっており、引張コイルばねが支線張力調整器から外れにくく、支線張力調整器の運搬が容易である。
【0016】
上記の支線張力調整器において、第2部材は長手方向に沿った筒部を含み、第1部材は筒部にスライド可能に挿入された棒部を含むのが好ましい。また、筒部は角筒状であり、棒部は板状であるのが好ましい。
【0017】
このような構成によれば、簡素な構成で、第2部材が第1部材をスライド可能に支持できる。
【0018】
上記の支線張力調整器において、スライド制限機構は、棒部に長手方向に沿って設けられた長穴と、棒部を挟むように筒部の端部から突出する2つの板部と、2つの板部に固定され長穴を貫通する軸部と、を含むのが好ましい。また、2つの板部は筒部に着脱可能に取り付けられているのが好ましい。
【0019】
このような構成によれば、2つの板部が着脱可能であるため、適切な長さの板部を適宜選択して筒部に取り付けることができる。そのため、引張コイルばねの長さを調整しやすい。
【0020】
上記の支線張力調整器において、第1部材に対する第2部材のスライド量を表示する表示機構を備えるのが好ましい。
【0021】
第1部材に対する第2部材のスライド量は、引張コイルばねの復元力に相当するため、このような構成によれば、支線張力調整器を組み立てる際、引張コイルばねが所定の復元力をもって取り付けられているかを確認できる。また、支線に負荷されている張力を施工後に確認することもできる。
【0022】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を詳しく説明する。図中同一又は相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0023】
図1は、支線張力調整器が取り付けられた電柱を示す概略図である。図1を参照して、支線張力調整器1は、支線2と電柱3とを連結する。電柱3には、電線4が取り付けられているため、電線4の張力が電柱3には負荷される。この電線4の張力と釣り合いを取るため、支線2が取り付けられる。また、傾斜地や地盤が不安定な場所に設置された電柱3が転倒するのを防止するために、支線2が取り付けられる。したがって、支線2は、ある程度の張力が負荷された状態で電柱3に取り付けられる。
【0024】
降雪量の多い山間地では、支線2の一方の端部は地面5に固定されるため、支線2が積雪6に埋まる。傾斜地等の積雪6がその重みにより移動すると(図1中の矢印参照)、支線2が撓み、引張コイルばねが伸ばされ、引張コイルばねの復元力が大きくなる。そのため、支線2の張力が大きくなる。支線2の張力が過剰に大きくなると、電柱3に負荷される力が大きくなり、電柱3がひび割れ又は折損することがある。したがって、支線2には電柱3の転倒を防止するためにある程度の張力を負荷して取り付けるのが望ましいが、電柱のひび割れ等を抑制するために支線2の張力は過剰に大きくならない方が望ましい。なお、電柱3に負荷される積雪移動圧が5000N程度になると、電柱3がひび割れ又は折損する。
【0025】
本実施形態の支線張力調整器1は、電柱3に負荷される力が過剰に大きくなることを抑制できるのに加えて、支線2に容易に適正な張力を負荷することができる。以下、本実施形態の支線張力調整器1について詳述する。
【0026】
図2は、本実施形態の支線張力調整器を示す斜視図である。図2を参照して、支線張力調整器1は、第1部材7と、第2部材8と、引張コイルばね9と、スライド制限機構10とを備える。図2では、例として、第1部材7が電柱3と連結され、第2部材8が支線2と連結されている場合を示す。
【0027】
図3は、支線張力調整器を示す正面図である。図4は、支線張力調整器を示す平面図である。図5は、支線張力調整器を示す斜視図である。図6は、支線張力調整器の分解図である。図3図6では、引張コイルばねの図示は省略している。図3図6を参照して、支線張力調整器1の構成を説明する。
【0028】
[第1部材]
第1部材7は、電柱3と連結可能である。第1部材7は、板状の棒部11と、第1連結部14とを含む。後述するように、棒部11には、スライド制限機構10に含まれる長穴12が設けられる。棒部11は、第1連結部14に固定される。第1連結部14は、電柱3が取り付けられる第1取付部15と、引張コイルばね9が引っ掛けられる第1引掛部16とを含む。
【0029】
[第2部材]
第2部材8は、支線2と連結可能である。第2部材8は、角筒状の筒部13と、第2連結部17とを含む。筒部13は、長手方向に沿い、棒部11をスライド可能に収容する。これにより、第2部材8は第1部材7をスライド可能に支持できる。筒部13は、第2連結部17に固定される。第2連結部17は、支線2に取り付けられる第2取付部18と、引張コイルばね9が引っ掛けられる第2引掛部19とを含む。
【0030】
[引張コイルばね]
引張コイルばね9は、初期状態において、自然長よりも伸びた状態で第1部材7と第2部材8に引っ掛けられている。したがって、引張コイルばね9は自然長よりも伸びた分の復元力をもっており、第1部材7及び第2部材8の双方が近づく方向に力を加えている。引張コイルばね9の伸びは、支線2に負荷する張力に応じて適宜設定される。後述するように、支線張力調整器1が電柱に取り付けられる際、支線2を引っ張るため支線張力調整器1は初期状態から僅かに伸ばされる。この際の引張コイルばね9の復元力は、支線2の張力に相当する。したがって、初期状態における引張コイルばね9の伸びは、支線2に負荷する張力に応じて設定される。
【0031】
好ましくは、初期状態の引張コイルばね9の伸びは、支線2に負荷する張力を僅かに下回る復元力をもつように設定される。上述したように、支線張力調整器1を電柱に取り付ける際、支線張力調整器1は僅かに伸ばされる。したがって、初期状態において、その取り付け時に伸ばされる分を差し引いて引張コイルばね9の伸びを設定しておけば、電柱に取り付けた際に所定の張力が支線2に作用する。
【0032】
引張コイルばね9のコイル内側には、第1部材7及び第2部材8が通される。このような構成にすれば、引張コイルばね9の状態が目視で確認することができる。したがって、引張コイルばね9の腐食、異物の混入等を目視で確認することができる。
【0033】
[スライド制限機構]
スライド制限機構10は、長穴12と、2つの板部20と、軸部21とを含む。長穴12は、棒部11に長手方向に沿って設けられる。2つの板部20は、棒部11を挟むように筒部13の端部から突出する。軸部21は、2つの板部20に固定され、長穴12を貫通する。続いて、スライド制限機構10の動作について説明する。
【0034】
図7は、初期状態のスライド制限機構を示す正面図である。図8は、施工後のスライド制限機構を示す正面図である。図9は、支線張力調整器が図8に示す状態から伸ばされた状態を示す正面図である。図7図9では、引張コイルばねの図示は省略している。
【0035】
[初期状態のスライド制限機構]
図7を参照して、支線張力調整器1が電柱に取り付けられる前では、引張コイルばね9の復元力により、第1部材7及び第2部材8は互いに近づく方向に力を受ける。したがって、棒部11が筒部13に挿入される方向にスライドする。しかしながら、軸部21が長穴12を貫通しているため、棒部11のスライドにより軸部21が長穴12の端部に到達すると、棒部11の筒部13に挿入される方向のスライドは制限される。すなわち、第2部材8に対する第1部材7のスライドが制限される。これにより、初期状態において、引張コイルばね9は自然長よりも伸びた状態が維持される。
【0036】
[施工後のスライド制限機構]
図8を参照して、支線張力調整器1が電柱及び支線に連結された後、支線2に適正な張力を負荷するために、地上の作業員が支線2を引っ張る。これにより、第1部材7及び第2部材8は互いに離れる方向に力を受ける。そして、軸部21が長穴12の端部から僅かに離れると、第2部材8に対する第1部材7のスライドの制限が解除される。これにより、引張コイルばね9の復元力が、支線2に負荷され、支線2に適正な張力が負荷される。
【0037】
[積雪移動圧等が負荷されたときのスライド制限機構]
図9を参照して、支線2が積雪移動圧を受けると、第1部材7及び第2部材8は互いに離れる方向に力を受ける。上述したように、施工後、第2部材8に対する第1部材7のスライドは制限されていないため、第1部材7は第2部材8に対してさらに離れる方向にスライドする。これにより、支線2が積雪移動圧等を受けても、支線張力調整器1は支線2に張力を負荷することができる。
【0038】
軸部21の位置は特に限定されるものではなく、初期状態において、引張コイルばね9が自然長よりも伸びた状態となるように軸部21の位置は適宜決めればよい。たとえば、軸部21を固定する位置を調整すれば、初期状態における引張コイルばね9の長さを調整できる。また、長穴12の長手方向の長さを調整しても、初期状態における引張コイルばね9の長さを調整できる。また、軸部21が2つの板部20に固定されている場合、板部20の長手方向の長さを調整すれば、支線張力調整器1の初期状態における引張コイルばね9の長さを調整できる。
【0039】
図6を参照して、2つの板部20は筒部13に着脱可能に取り付けられている。具体的には、2つの板部20はボルト25によって筒部13に取り付けられている。この場合、異なる長さの板部20を適宜選択して筒部13に取り付けることができる。そのため、引張コイルばね9の長さを調整しやすい。
【0040】
このように、本実施形態の支線張力調整器1は、初期状態において、引張コイルばね9が自然長よりも伸びた状態である。この支線張力調整器1を電柱に設置したときの状況について説明する。
【0041】
[電柱への取り付け]
図1を参照して、支線張力調整器1によって支線2と電柱3を連結した際、電柱3の転倒等を防止するため、支線2には所定の張力が負荷される。この際、地上の作業者が支線2を引っ張ることで長さを調整し、支線2をアンカー26に固定する。これにより、支線2に張力が負荷される。
【0042】
支線張力調整器の引張コイルばねが自然長である場合、初期状態では引張コイルばねの復元力は0であるため、支線2に適正な張力が負荷されるまで引張コイルばねを伸ばさなければならない。すなわち、支線2に適正な張力が負荷されるまでに作業者が引っ張らなければならない支線2の長さ分が長い。したがって、支線2を取り付ける際の施工性が低い。この不都合を解消するには、引張コイルばね9のばね定数を大きくすることが考えられる。
【0043】
引張コイルばね9のばね定数が大きい場合、支線2に適正な張力が負荷されるまでに引っ張らなければならない支線2の長さ分は短くて済む。しかしながら、引張コイルばね9のばね定数が大きいと、積雪移動圧により支線2が撓んだ際、急激に電柱3に負荷される力が大きくなるため、過剰に大きなばね定数の引張コイルばねを用いるのは好ましくない。
【0044】
一方、本実施形態の支線張力調整器1では、引張コイルばね9は予め所定の長さに伸びた状態である。すなわち、引張コイルばね9は予め所定の復元力をもっている。そのため、支線2を取り付ける際、支線2に撓みがない(張力が0)状態から支線2を僅かな長さ分引っ張るだけで、支線2に適正な張力を負荷することができる。したがって、支線2に適正な張力が負荷されるまでに作業者が引っ張らなければならない支線2の長さ分は短くて済み、施工性がよい。したがって、引張コイルばね9のばね定数を大きくしなくても容易に支線に適正な張力を負荷することができ、かつ、引張コイルばね9のばね定数が小さくてすむため、積雪移動圧により支線が撓んでも急激に電柱に負荷される力は大きくならない。さらに、引張コイルばね9が予め適正な長さに伸びた状態であるため引張コイルばね9は復元力をもっており、引張コイルばね9が支線張力調整器1から外れにくく、支線張力調整器1の運搬が容易である。
【0045】
[表示機構]
図3を参照して、支線張力調整器1は、第1部材7に対する第2部材8のスライド量を表示する表示機構22を備えていてもよい。表示機構22はたとえば、板状の棒である。表示機構22は、第2部材8に固定される。より具体的には、表示機構22は、筒部13に固定されてもよいし、板部20に取り付けられてもよい。
【0046】
表示機構22は目盛23を含む。目盛23は、第1部材7及び第2部材8のスライド方向に沿った目盛である。したがって、目盛23は、第2部材8に対する第1部材7の位置を示す。引張コイルばね9は、第1部材7及び第2部材8に引っ掛けられていることから、目盛23は引張コイルばね9の復元力を示すことに相当する。これにより、支線張力調整器1を組み立てる際、引張コイルばね9が所定の復元力をもって取り付けられているかを確認できる。また、支線張力調整器1が電柱に取り付けられ初期状態から伸びた状態において、引張コイルばね9の復元力は支線2の張力に相当する。したがって、施工後に支線2に負荷されている張力を確認することもできる。
【0047】
[支線張力調整器の組立]
支線張力調整器1の組立について簡単に説明する。支線張力調整器1は、治具を用いて組み立てられる。まず、引張コイルばね9及び軸部21を除いた他の部品を組み立てる。次に、自然長の引張コイルばね9を第1部材7及び第2部材8に引っ掛ける。そして、第1部材7及び第2部材8のうちの一方を固定し、他方を治具に取り付ける。治具はたとえば、油圧シリンダ、空気圧シリンダ等を備える。この治具を第1部材7及び第2部材8のスライド方向に移動させ、支線張力調整器1を所定の長さまで伸ばす。支線張力調整器1が表示機構22を備える場合、表示機構22の目盛23を確認すれば所定の長さが確認できる。最後に、支線張力調整器1が所定の長さまで伸ばされた後、軸部21を長穴12に通し、固定する。
【0048】
[スライド制限機構の他の実施形態]
上述の実施形態では、スライド制限機構10が、長穴12と、2つの板部20と、軸部21とを含む場合について説明した。しかしながら、スライド制限機構10の構成はこの場合に限定されない。
【0049】
図10は、スライド制限機構の他の実施形態を示す正面図である。図10に示すスライド制限機構10は、2つの板部20を含まない点で上述の実施形態のスライド制限機構と異なる。図10に示す場合、軸部21は、筒部13に固定され、棒部11の長穴12を貫通する。この場合であっても、軸部21及び長穴12によって第2部材8に対する第1部材7のスライドを制限することができる。
【0050】
図11は、スライド制限機構の他の実施形態を示す平面図である。図11に示すスライド制限機構10は、軸部21及び長穴12を含まない点で上述の実施形態のスライド制限機構と異なる。図11に示すスライド制限機構10は、2つの板部20の端部及び第1部材7の第1連結部14の端部それぞれに設けられたストッパ部24を含む。各ストッパ部24同士が当たることにより、第2部材8に対する第1部材7のスライドを制限することができる。ストッパ部24は、筒部13の端部に設けられてもよいし、棒部11に設けられてもよい。
【0051】
要するに、スライド制限機構10は、第2部材8に対する第1部材7のスライドを制限する構成であればよく、その構成は特に限定されない。
【0052】
以上、本発明の実施の形態を説明した。しかしながら、上述した実施の形態は本発明を実施するための例示に過ぎない。したがって、本発明は上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変更して実施することができる。
【0053】
上述の説明では、第2部材8が筒部13を含む場合について説明した。しかしながら、第2部材8は筒部13を含まなくてもよい。第2部材8は、第1部材7をスライド可能にするレール状の部品を含んでいればよく、その構成は特に限定されない。
【0054】
上述の説明では、第1部材7が棒部11を含む場合について説明した。しかしながら、第1部材7は棒部11を含まなくてもよい。第1部材7は、第2部材8にスライド可能に挿入されればよく、その構成は特に限定されない。
【0055】
上述の説明では、筒部13が角筒状であり、棒部11が板状である場合について説明した。しかしながら、筒部13の形状及び棒部11の形状はこの場合に限定されない。筒部13の形状は、断面が円、楕円、多角形状の筒部であってもよい。
【0056】
上述の説明では、2つの板部20が筒部13に固定される場合について説明したが、2つの板部20は筒部13と一体化されていてもよいし、着脱可能に取り付けられてもよい。
【0057】
上述の説明では、スライド制限機構10は、2つの板部20を含む場合について説明した。しかしながら、スライド制限機構10の構成はこの場合に限定されない。スライド制限機構10は、1つの板部を含んでいてもよい。この場合、軸部21は1つの板部に固定される。
【0058】
第1部材7、第2部材8、及びスライド制限機構10の材質は、特に限定されない。第1部材7、第2部材8、及びスライド制限機構10の材質はたとえば、鋼、樹脂等である。しかしながら、支線張力調整器1が屋外に設置されることから、第1部材7、第2部材8、及びスライド制限機構10の材質は、耐食性を有する鋼であるのが好ましい。
【0059】
本明細書において、「初期状態」とは、支線張力調整器を支線に取り付ける前に自然長より張力をかけて伸ばした状態を意味する。すなわち、初期状態とは、支線張力調整器が電柱に取り付けられる前の状態に相当する。
【0060】
上述の説明では、第1部材7が電柱3と連結され、第2部材8が支線2と連結されている場合について説明した。しかしながら、支線2と電柱3との連結はこの場合に限定されない。第1部材7が支線2と連結され、第2部材8が電柱3と連結されてもよい。
【符号の説明】
【0061】
1:支線張力調整器
2:支線
3:電柱
4:電線
5:地面
6:積雪
7:第1部材
8:第2部材
9:引張コイルばね
10:スライド制限機構
11:棒部
12:長穴
13:筒部
14:第1連結部
15:第1取付部
16:第1引掛部
17:第2連結部
18:第2取付部
19:第2引掛部
20:板部
21:軸部
22:表示機構
23:目盛
24:ストッパ部
25:ボルト
26:アンカー
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11