【実施例】
【0022】
以下、本発明の発明者らが行った各種試験の結果を、本発明の実施例として説明する。
【0023】
まず、下記の表1に示すような配合により、6種類のコンクリートの供試体(比較例1,2、本発明1、比較例3,4、本発明2)を製作した。具体的には、比較例1は、普通コンクリートのプレストレストコンクリート(プレテンション方式)用の標準的な配合であり、比較例2〜4、及び、本発明1,2は、粗骨材として人工軽量骨材を用いた軽量コンクリートのプレストレストコンクリート用の配合となっている。
【0024】
尚、6種類のコンクリートのすべてにおいて、セメントとして密度3.13g/cm
3の早強ポルトランドセメントを使用し、また、細骨材として表乾密度2.64g/cm
3の砕砂を使用した。粗骨材としては、比較例1においては、表乾密度2.66g/cm
3の砕石を使用し、比較例2〜4、及び、本発明1,2においては、絶乾密度1.29g/cm
3、含水率2%以下の人工軽量骨材を使用した。水セメント比は、比較例1〜3、及び、本発明1においては38.4%とし、比較例4、本発明2においては35.4%とした。
【0025】
ベースコンクリートのスランプについては、比較例1では12±2.5cm、比較例2,4では10±2.5cm、比較例3では23±1.5cm、本発明1,2では21±1.5cmと設定し、高性能AE減水剤とAE剤にて調整した。尚、空気量は、比較例1では4.5±1.5%、比較例2〜4、及び、本発明1,2においては5±1.5%とした。
【0026】
また、本発明1,2においては、有機繊維を、コンクリート体積に対し0.5%、比較例3においては1.0%混入させた。尚、有機繊維としては、直径0.66mm、標準長30mm、弾性係数23kN/mm
2、破断伸度9.0%の標準物性を有するPVA繊維を使用した。PVA繊維は、予め練り混ぜられたベースコンクリートに投入し、60秒間練り混ぜを行った。尚、繊維混入後のスランプは、本発明1,2、及び、比較例3のいずれも10±2.5cmであることを確認した。各供試体は、最高温度45℃を4時間継続させる蒸気養生を行い、翌日の脱枠後20℃の室内にて所定の材齢まで保管した後、各種試験を行った。
【0027】
【表1】
【0028】
上記表1に示す6種類のコンクリートを対象として、圧縮強度及び弾性係数を測定した。
図1は、材齢1日及び7日の時点での圧縮強度の測定結果を示すグラフである。この図に示すように、繊維混入率を1.0%とした比較例3を除き、いずれも材齢1日で35N/mm
2、7日で50N/mm
2をクリアした。繊維混入率を1.0%とした比較例3は、プレストレス導入時強度(材齢1日で35N/mm
2)、及び、設計基準強度(材齢7日で50N/mm
2)を満足しなかった。この結果より、繊維混入率は、圧縮強度の観点から、1.0%未満(0.75%以下)とすべきことが確認された。
【0029】
図2は、圧縮強度と弾性係数の関係を示すグラフである。尚、この図において「◆」は、繊維混入率を0.0%とした比較例2の圧縮強度と弾性係数の測定結果、「○」は、繊維混入率を0.5%とした本発明1の測定結果、「×」は、繊維混入率を1.0%とした比較例3の測定結果である。また、この図には、本発明1(○)の測定結果の近似式が破線で示されているほか、土木学会が2012年に制定したコンクリート示方書(コン示)に示される普通骨材を用いた普通コンクリートの弾性係数が実線で、また、軽量骨材を用いた軽量コンクリートの弾性係数の実測値を近似した結果(近似式)が一点鎖線で、それぞれ示されている。
【0030】
図2からもわかるように、比較例2,3、及び、本発明1のコンクリート供試体における圧縮強度と弾性係数の関係は、繊維混入率に関係なく一定であり、設計上の圧縮強度50N/mm
2に到達する時点における弾性係数は20kN/mm
2程度であった。尚、有機繊維として混入されているPVA繊維の弾性係数は、上述の通り23kN/mm
2であり、各供試体のコンクリートの弾性係数よりも大きい。本発明に係る「繊維補強軽量コンクリート」は、ベースコンクリートの弾性係数よりも大きな弾性係数を有する有機繊維を、ベースコンクリートに対して混入することが一つの要件となっているところ、本発明1のコンクリート供試体は、この要件を満たしていることになる。
【0031】
次に、上記表1に示す比較例4と本発明2を対象として、(一社)日本コンクリート工学会(JCI)によって定められている「JCI基準」の一つである「切欠きはりを用いたコンクリートの破壊エネルギー試験方法(JCI−S−001)」を実施し、破壊エネルギー及び引張軟化曲線を算出した。
【0032】
図3は、比較例4と本発明2の破壊エネルギーの算出結果(荷重−ひび割れ開口変位(CMOD)曲線)を示すグラフである。有機繊維を混入していない比較例4(L2)の破壊エネルギーは89N/m、一方、有機繊維を0.5%混入した本発明2(FL2)の破壊エネルギーは273N/mとなった。尚、このグラフから、有機繊維を混入した場合、コンクリートにひび割れが発生した後もコンクリートに荷重が残存することがわかる。この試験結果より、繊維混入による効果(耐荷性能向上効果)が確認された。
【0033】
図4は、有機繊維を0.5%混入した本発明2(FL2)の「荷重−CMOD曲線」(
図3)の測定データから多曲線近似法により算出した引張軟化曲線である。この結果より、繊維補強軽量コンクリートの残存引張強度を算出すると0.3N/mm
2となり、耐荷性能を解析的に評価するための繊維混入による効果を定量的に把握した。
【0034】
次に、上記試験結果(
図1〜
図4に示した測定データ及び算出データ)を用いて、下記の表2に示す4種類のプレストレストコンクリート床版の解析モデル(比較例5,6、及び、本発明3,4)を設定し、PC鋼材の緊張力を1000N/mm
2とした場合における非線形FEM解析を実施した。尚、各解析モデルは、幅3.6m、長さ4.8m、高さ17cmの矩形断面を有する床版部材に、PC鋼材15.2m(SWPR7BL)を長さ方向の断面に36本配置する構成とした。
【0035】
【表2】
【0036】
図5は、上記表2の比較例5,6、及び、本発明3,4についての解析結果(荷重−変位関係)を示すグラフである。このグラフに示される通り、普通コンクリート(繊維混入なし)を用いた比較例5(PA−N)の耐力(最大荷重)が約800kNであったのに対し、軽量コンクリート(繊維混入なし)を用いた比較例6(PA−LL)の耐力は610kNとなり、比較例5よりも低い結果となった。一方、有機繊維(PVA繊維)を混入させた繊維補強軽量コンクリートを用いた本発明3(PA−LLF)、及び、本発明4(PA−LLF025)の耐力は、いずれも800kNを大幅に上回る結果となり、有機繊維を適切な割合で混入させることにより、耐荷性能を大幅に向上させることができることが確認された。
【0037】
図6は、上記表2の比較例5,6、及び、本発明3,4についての解析結果(最大主ひずみ−荷重関係)を示すグラフである。このグラフから、繊維補強軽量コンクリートを用いた本発明3(PA−LLF)、及び、本発明4(PA−LLF025)のプレストレストコンクリート床版の耐力が、普通コンクリートを用いた比較例5(PA−N)のプレストレストコンクリート床版の耐力を上回るには、最大主ひずみ20000×10
−6(2.0%)まで破壊に至らないことが条件であることがわかる。
【0038】
尚、これらの解析結果(
図5及び
図6のグラフ)によると、PVA繊維をコンクリート体積に対し0.25%混入させた本発明4(PA−LLF025)は、普通コンクリートを用いた比較例5(PA−N)の耐力(800kN)を十分上回るものの、荷重が800kNを超えたあと、最大主ひずみが急増していることがわかる(
図6参照)。混入したPVA繊維の破断によって耐荷力が決定されると考えられる。このため、有機繊維としてPVA繊維を添加する場合、繊維混入率の下限値は、0.25%となることがわかった。