特許第6856918号(P6856918)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6856918植物の抽出物を用いる不飽和脂肪酸の酸化誘導体の製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6856918
(24)【登録日】2021年3月23日
(45)【発行日】2021年4月14日
(54)【発明の名称】植物の抽出物を用いる不飽和脂肪酸の酸化誘導体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12P 7/64 20060101AFI20210405BHJP
【FI】
   C12P7/64
【請求項の数】11
【全頁数】50
(21)【出願番号】特願2016-104366(P2016-104366)
(22)【出願日】2016年5月25日
(65)【公開番号】特開2017-209053(P2017-209053A)
(43)【公開日】2017年11月30日
【審査請求日】2019年5月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】598041566
【氏名又は名称】学校法人北里研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100091096
【弁理士】
【氏名又は名称】平木 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100118773
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 節
(74)【代理人】
【識別番号】100180862
【弁理士】
【氏名又は名称】花井 秀俊
(72)【発明者】
【氏名】供田 洋
(72)【発明者】
【氏名】安原 義
(72)【発明者】
【氏名】福田 隆志
(72)【発明者】
【氏名】大城 太一
【審査官】 小倉 梢
(56)【参考文献】
【文献】 Journal of Food Engineering,2007年,Vol. 79,p. 423-429
【文献】 J. Food Sci. Technol.,2015年,Vol. 52,p. 7002-7013
【文献】 Journal of Food Science,2002年,Vol. 67,p. 1827-1834
【文献】 Journal of Food Science,2006年,Vol. 71,p. M215-M220
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P 7/00 − 7/66
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
WPIDS/WPIX(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I):
【化1】
[式中、
R1は、水素、置換若しくは非置換のC1〜C5アルキル、置換若しくは非置換のC2〜C5アルケニル、置換若しくは非置換のC2〜C5アルキニル、置換若しくは非置換のC3〜C6シクロアルキル、置換若しくは非置換のC4〜C6シクロアルケニル、置換若しくは非置換のC4〜C6シクロアルキニル、置換若しくは非置換の3〜6員のヘテロシクロアルキル、置換若しくは非置換のC7〜C11シクロアルキルアルキル、置換若しくは非置換の3〜6員のヘテロシクロアルキル-C1〜C5アルキル、置換若しくは非置換のC6〜C15アリール、置換若しくは非置換のC7〜C20アリールアルキル、置換若しくは非置換の5〜15員のヘテロアリール、又は置換若しくは非置換の5〜15員のヘテロアリール-C1〜C5アルキルであり、
R2、非置換のC1〜C7アルキル、又は非置換のC4〜C16アルケニルであり、
L1、非置換のC1〜C6アルキレン、又は非置換のC4〜C16アルケニレンでり、
但し、R2及びL1は、炭素数の合計が13〜17の範囲であり、二重結合の合計が0〜5の範囲であるとの条件を満たす。]
で表される不飽和脂肪酸を準備する、不飽和脂肪酸準備工程;
不飽和脂肪酸準備工程で準備された4〜2000 mgの範囲の量の式(I)で表される不飽和脂肪酸と、0.1〜1000 g新鮮植物の範囲の量の少なくとも1種の植物の水抽出物とを接触させて、
式(II-1):
【化2】
[式中、R1、R2及びL1は、前記と同義である。]
で表される不飽和脂肪酸の過酸化物、
式(II-2):
【化3】
[式中、R1、R2及びL1は、前記と同義である。]
で表される不飽和脂肪酸の過酸化物、
式(III-1):
【化4】
[式中、R1、R2及びL1は、前記と同義である。]
で表される不飽和脂肪酸のヒドロキシル誘導体、
式(III-2):
【化5】
[式中、R1、R2及びL1は、前記と同義である。]
で表される不飽和脂肪酸のヒドロキシル誘導体、
式(IV-1):
【化6】
[式中、R1、R2及びL1は、前記と同義である。]
で表される不飽和脂肪酸のオキソ誘導体、及び
式(IV-2):
【化7】
[式中、R1、R2及びL1は、前記と同義である。]
で表される不飽和脂肪酸のオキソ誘導体からなる群より選択される少なくとも1個の不飽和脂肪酸の酸化誘導体を形成させる、酸化工程;
を含む、前記少なくとも1個の不飽和脂肪酸の酸化誘導体の製造方法。
【請求項2】
植物が、ナス科、アブラナ科、セリ科、マメ科、ユリ科、ウリ科、及びバラ科からなる群から選択される少なくとも1種の植物である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
植物が、トマト、パプリカ、ナス、カブ、ニンジン、ダイズ、ネギ、キュウリ、及びリンゴからなる群から選択される少なくとも1種の植物である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記酸化工程を、キュウリの水抽出物を用いてpH 7未満のpHの条件下で実施して、少なくとも1個の不飽和脂肪酸の酸化誘導体として式(II-1):
【化8】
[式中、R1、R2及びL1は、請求項1に記載の定義と同義である。]
で表される不飽和脂肪酸の過酸化物、
式(II-2):
【化9】
[式中、R1、R2及びL1は、前記と同義である。]
で表される不飽和脂肪酸の過酸化物を選択的に形成させる、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記酸化工程を、キュウリの水抽出物を用いてpH 7以上のpHの条件下で実施して、少なくとも1個の不飽和脂肪酸の酸化誘導体として式(III-1):
【化10】
[式中、R1、R2及びL1は、請求項1に記載の定義と同義である。]
で表される不飽和脂肪酸のヒドロキシル誘導体、
式(III-2):
【化11】
[式中、R1、R2及びL1は、前記と同義である。]
で表される不飽和脂肪酸のヒドロキシル誘導体を選択的に形成させる、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記酸化工程を、ニンジンの水抽出物を用いてpH 7未満のpH及び15℃以上且つ30℃未満の反応温度の条件下で実施して、少なくとも1個の不飽和脂肪酸の酸化誘導体として式(III-1):
【化12】
[式中、R1、R2及びL1は、請求項1に記載の定義と同義である。]
で表される不飽和脂肪酸のヒドロキシル誘導体、
式(III-2):
【化13】
[式中、R1、R2及びL1は、前記と同義である。]
で表される不飽和脂肪酸のヒドロキシル誘導体を選択的に形成させる、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記酸化工程を、トマト又はナスの水抽出物を用いてpH 7未満のpHの条件下で実施して、少なくとも1個の不飽和脂肪酸の酸化誘導体として式(II-1):
【化14】
[式中、R1、R2及びL1は、請求項1に記載の定義と同義である。]
で表される不飽和脂肪酸の過酸化物、
式(II-2):
【化15】
[式中、R1、R2及びL1は、前記と同義である。]
で表される不飽和脂肪酸の過酸化物を選択的に形成させる、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記酸化工程を、ダイズの水抽出物を用いてpH 6を越えるpHの条件下で実施して、少なくとも1個の不飽和脂肪酸の酸化誘導体として式(III-1):
【化16】
[式中、R1、R2及びL1は、請求項1に記載の定義と同義である。]
で表される不飽和脂肪酸のヒドロキシル誘導体、
式(III-2):
【化17】
[式中、R1、R2及びL1は、前記と同義である。]
で表される不飽和脂肪酸のヒドロキシル誘導体を選択的に形成させる、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記酸化工程を、カブの水抽出物を用いてpH 8未満且つpH 4を越えるpHの条件下で実施して、少なくとも1個の不飽和脂肪酸の酸化誘導体として式(III-1):
【化18】
[式中、R1、R2及びL1は、請求項1に記載の定義と同義である。]
で表される不飽和脂肪酸のヒドロキシル誘導体、
式(III-2):
【化19】
[式中、R1、R2及びL1は、前記と同義である。]
で表される不飽和脂肪酸のヒドロキシル誘導体を選択的に形成させる、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記酸化工程を、50℃以下の温度の条件下で実施する、請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
R2及びL1が、以下:
条件(i):
R2がn-ブチルであり、
L1が式(L1-1):
【化20】
[式中、
*は、アルケニレン鎖との結合位置であり、
**は、カルボン酸基との結合位置である。]
で表される2価基である;又は
R2が式(R2-1):
【化21】
[式中、
*は、アルケニレン鎖との結合位置である。]
で表される2価基であり、
L1がn-ヘキシレンである;
条件(ii):
R2がn-ヘプチルであり、
L1がn-ヘキシレンである;
条件(iii):
R2がメチルであり、
L1が式(L1-2):
【化22】
[式中、
*は、アルケニレン鎖との結合位置であり、
**は、カルボン酸基との結合位置である。]
で表される2価基である;又は
R2が式(R2-2):
【化23】
[式中、
*は、アルケニレン鎖との結合位置である。]
で表される2価基であり、
L1がn-ヘキシレンである;
条件(iv):
R2がメチルであり、
L1が式(L1-3):
【化24】
[式中、
*は、アルケニレン鎖との結合位置であり、
**は、カルボン酸基との結合位置である。]
で表される2価基である;又は
R2が式(R2-3):
【化25】
[式中、
*は、アルケニレン鎖との結合位置である。]
で表される2価基であり、
L1がエチレンである;及び
条件(v):
R2がメチルであり、
L1が式(L1-4):
【化26】
[式中、
*は、アルケニレン鎖との結合位置であり、
**は、カルボン酸基との結合位置である。]
で表される2価基である;又は
R2が式(R2-4):
【化27】
[式中、
*は、アルケニレン鎖との結合位置である。]
で表される2価基であり、
L1がメチレンである; 及び
条件(vi):
R2がn-ブチルであり、
L1が式(L1-5):
【化28】
[式中、
*は、アルケニレン鎖との結合位置であり、
**は、カルボン酸基との結合位置である。]
で表される2価基である;又は
R2が式(R2-5):
【化29】
[式中、
*は、アルケニレン鎖との結合位置である。]
で表される2価基であり、
L1がエチレンである;
からなる群より選択される条件を満たす、請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物の抽出物を用いる不飽和脂肪酸の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
植物において、リノール酸にリポキシゲナーゼが作用して過酸化物(HPODE)が生成し、次いで過酸化物にペルオキシダーゼが作用してヒドロキシル化誘導体(HODE)が生成し、さらにヒドロキシル化誘導体にデヒドロゲナーゼが作用してオキソ誘導体(oxo-ODE)が生成する代謝経路が知られている。
【0003】
リノール酸の過酸化物及びヒドロキシル化誘導体が、抗炎症、脂質代謝、糖代謝、骨代謝、抗がん作用、抗肥満、及び整腸作用等に関与するペルオキシソーム増殖因子活性化受容体(PPAR)の内因性アゴニストであることが報告された(非特許文献1及び2)。また、リノール酸のオキソ誘導体であるケトオクタデカジエン酸が脂肪燃焼活性を有することが報告された(非特許文献3)。
【0004】
リノール酸の過酸化物、ヒドロキシル化誘導体及びオキソ誘導体のような不飽和脂肪酸の酸化誘導体の有用な生理活性が明らかとなったことから、不飽和脂肪酸から有用な生理活性を有する酸化誘導体を製造する方法が開発された。
【0005】
例えば、特許文献1は、特定のタンパク質を含む生体触媒を用いて、炭素数6〜30の脂肪酸に水酸基を導入する工程を含むことを特徴とする、水酸化脂肪酸の製造方法を記載する。
【0006】
特許文献2は、リノール酸又はリノール酸のエステル体を含む原料を基質として糸状菌により発酵させて発酵物を得る発酵工程を備え、前記糸状菌が、麹菌及びペニシリウム(Penicillium)属の糸状菌からなる群より選択される少なくとも1種である、ケトオクタデカジエン酸の製造方法を記載する。
【0007】
特許文献3は、リノール酸含有食物及び水を収容するとともに上面が開口してなる鍋部と、鍋部の開口に配置される蓋部と、鍋部を加熱する加熱部と、を有するリノール酸含有食物の処理装置であって、前処理コースを有し、前処理コースは、リポキシゲナーゼ失活温度以下の温度で一定時間維持するコースであることを特徴とするリノール酸含有食物の処理装置を記載する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2010-51174号公報
【特許文献2】国際公開第2014/088002号
【特許文献3】特開2015-186545号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Silvia YMC.ら, J Lipid Res, 1999年, 第40巻, p. 1426-1433
【非特許文献2】Obitani H.ら, Prostaglandins Other Lipid Mediat., 2009年, 第89巻, p. 66-72
【非特許文献3】Kim, Y.ら, PLos One, 2012年, 第7(2)巻, e31317
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
不飽和脂肪酸から有用な生理活性を有する各種の酸化誘導体を製造するために、様々な方法が開発された。これら公知の方法では、主として、特定の微生物又は酵素を用いて不飽和脂肪酸の酸化反応を進行させる(特許文献1〜3)。このため、公知の方法では、このような特定の微生物又は酵素を準備する必要が存在した。また、使用される微生物又は酵素の種類によっては、安全性の観点から、そのままの形態で食品又は医薬品に添加することが困難な場合が存在した。このような場合、形成された酸化誘導体を、微生物又は酵素を含有する反応系から精製及び/又は単離する等の後処理を実施する必要が存在した。
【0011】
植物においては、内因性のリノール酸、並びにその代謝酵素であるリポキシゲナーゼ、ペルオキシダーゼ及びデヒドロゲナーゼが存在しており、内因性の代謝経路によってリノール酸の酸化誘導体も産生する。しかしながら、植物において産生される酸化誘導体は、通常は微量である。内因性の酸化誘導体を食品又は医薬品の有効成分として利用するために十分な産生能力を有する植物は、未だ見出されていない。また、リノール酸のような不飽和脂肪酸の酸化誘導体には、過酸化物、ヒドロキシル化誘導体及びオキソ誘導体のように様々な化合物が包含される。これらの酸化誘導体は、酸化位置及び/又は二重結合の幾何配置の点で様々な構造を有し得る。しかしながら、特定の構造を有する不飽和脂肪酸の酸化誘導体を選択的に形成させる手段は知られていなかった。
【0012】
それ故、本発明は、リノール酸のような不飽和脂肪酸の酸化誘導体を選択的に形成させることができ、且つ、得られる酸化誘導体を、特段の後処理をすることなく食品又は医薬品に安全に添加することができる手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、前記課題を解決するための手段を種々検討した。本発明者らは、予め準備したリノール酸のような不飽和脂肪酸を、特定の条件下で少なくとも1種の植物の水抽出物と接触させることにより、不飽和脂肪酸の過酸化物、ヒドロキシル化誘導体及びオキソ誘導体のような酸化誘導体を選択的に形成できることを見出した。本発明者らは、前記知見に基づき本発明を完成した。
【0014】
すなわち、本発明の要旨は以下の通りである。
(1) 式(I):
【化1】
[式中、
R1は、水素、置換若しくは非置換のC1〜C5アルキル、置換若しくは非置換のC2〜C5アルケニル、置換若しくは非置換のC2〜C5アルキニル、置換若しくは非置換のC3〜C6シクロアルキル、置換若しくは非置換のC4〜C6シクロアルケニル、置換若しくは非置換のC4〜C6シクロアルキニル、置換若しくは非置換の3〜6員のヘテロシクロアルキル、置換若しくは非置換のC7〜C11シクロアルキルアルキル、置換若しくは非置換の3〜6員のヘテロシクロアルキル-C1〜C5アルキル、置換若しくは非置換のC6〜C15アリール、置換若しくは非置換のC7〜C20アリールアルキル、置換若しくは非置換の5〜15員のヘテロアリール、又は置換若しくは非置換の5〜15員のヘテロアリール-C1〜C5アルキルであり、
R2は、置換若しくは非置換のC1〜C20アルキル、置換若しくは非置換のC2〜C20アルケニル、又は置換若しくは非置換のC2〜C20アルキニルであり、
L1は、単結合、置換若しくは非置換のC1〜C20アルキレン、置換若しくは非置換のC2〜C20アルケニレン、又は置換若しくは非置換のC2〜C20アルキニレンである。]
で表される不飽和脂肪酸を準備する、不飽和脂肪酸準備工程;
不飽和脂肪酸準備工程で準備された式(I)で表される不飽和脂肪酸と、少なくとも1種の植物の水抽出物とを接触させて、
式(II-1):
【化2】
[式中、R1、R2及びL1は、前記と同義である。]
で表される不飽和脂肪酸の過酸化物、
式(II-2):
【化3】
[式中、R1、R2及びL1は、前記と同義である。]
で表される不飽和脂肪酸の過酸化物、
式(III-1):
【化4】
[式中、R1、R2及びL1は、前記と同義である。]
で表される不飽和脂肪酸のヒドロキシル誘導体、
式(III-2):
【化5】
[式中、R1、R2及びL1は、前記と同義である。]
で表される不飽和脂肪酸のヒドロキシル誘導体、
式(IV-1):
【化6】
[式中、R1、R2及びL1は、前記と同義である。]
で表される不飽和脂肪酸のオキソ誘導体、及び
式(IV-2):
【化7】
[式中、R1、R2及びL1は、前記と同義である。]
で表される不飽和脂肪酸のオキソ誘導体からなる群より選択される少なくとも1個の不飽和脂肪酸の酸化誘導体を形成させる、酸化工程;
を含む、前記少なくとも1個の不飽和脂肪酸の酸化誘導体の製造方法。
【0015】
(2) 植物が、ナス科、アブラナ科、セリ科、マメ科、ユリ科、ウリ科、及びバラ科からなる群から選択される少なくとも1種の植物である、前記実施形態(1)に記載の方法。
【0016】
(3) 植物が、トマト、パプリカ、ナス、カブ、ニンジン、ダイズ、ネギ、キュウリ、及びリンゴからなる群から選択される少なくとも1種の植物である、前記実施形態(1)又は(2)に記載の方法。
【0017】
(4) 前記酸化工程を、キュウリの水抽出物を用いてpH 7未満のpHの条件下で実施して、少なくとも1個の不飽和脂肪酸の酸化誘導体として式(II-1):
【化8】
[式中、R1、R2及びL1は、前記実施形態(1)に記載の定義と同義である。]
で表される不飽和脂肪酸の過酸化物、
式(II-2):
【化9】
[式中、R1、R2及びL1は、前記と同義である。]
で表される不飽和脂肪酸の過酸化物を選択的に形成させる、前記実施形態(1)〜(3)のいずれかに記載の方法。
【0018】
(5) 前記酸化工程を、キュウリの水抽出物を用いてpH 7以上のpHの条件下で実施して、少なくとも1個の不飽和脂肪酸の酸化誘導体として式(III-1):
【化10】
[式中、R1、R2及びL1は、前記実施形態(1)に記載の定義と同義である。]
で表される不飽和脂肪酸のヒドロキシル誘導体、
式(III-2):
【化11】
[式中、R1、R2及びL1は、前記と同義である。]
で表される不飽和脂肪酸のヒドロキシル誘導体を選択的に形成させる、前記実施形態(1)〜(3)のいずれかに記載の方法。
【0019】
(6) 前記酸化工程を、ニンジンの水抽出物を用いてpH 7未満のpH及び15℃以上且つ30℃未満の反応温度の条件下で実施して、少なくとも1個の不飽和脂肪酸の酸化誘導体として式(III-1):
【化12】
[式中、R1、R2及びL1は、前記実施形態(1)に記載の定義と同義である。]
で表される不飽和脂肪酸のヒドロキシル誘導体、
式(III-2):
【化13】
[式中、R1、R2及びL1は、前記と同義である。]
で表される不飽和脂肪酸のヒドロキシル誘導体を選択的に形成させる、前記実施形態(1)〜(3)のいずれかに記載の方法。
【0020】
(7) 前記酸化工程を、トマト又はナスの水抽出物を用いてpH 7未満のpHの条件下で実施して、少なくとも1個の不飽和脂肪酸の酸化誘導体として式(II-1):
【化14】
[式中、R1、R2及びL1は、前記実施形態(1)に記載の定義と同義である。]
で表される不飽和脂肪酸の過酸化物、
式(II-2):
【化15】
[式中、R1、R2及びL1は、前記と同義である。]
で表される不飽和脂肪酸の過酸化物を選択的に形成させる、前記実施形態(1)〜(3)のいずれかに記載の方法。
【0021】
(8) 前記酸化工程を、ダイズの水抽出物を用いてpH 6を越えるpHの条件下で実施して、少なくとも1個の不飽和脂肪酸の酸化誘導体として式(III-1):
【化16】
[式中、R1、R2及びL1は、前記実施形態(1)に記載の定義と同義である。]
で表される不飽和脂肪酸のヒドロキシル誘導体、
式(III-2):
【化17】
[式中、R1、R2及びL1は、前記と同義である。]
で表される不飽和脂肪酸のヒドロキシル誘導体を選択的に形成させる、前記実施形態(1)〜(3)のいずれかに記載の方法。
【0022】
(9) 前記酸化工程を、カブの水抽出物を用いてpH 8未満且つpH 4を越えるpHの条件下で実施して、少なくとも1個の不飽和脂肪酸の酸化誘導体として式(III-1):
【化18】
[式中、R1、R2及びL1は、前記実施形態(1)に記載の定義と同義である。]
で表される不飽和脂肪酸のヒドロキシル誘導体、
式(III-2):
【化19】
[式中、R1、R2及びL1は、前記と同義である。]
で表される不飽和脂肪酸のヒドロキシル誘導体を選択的に形成させる、前記実施形態(1)〜(3)のいずれかに記載の方法。
【0023】
(10) 前記酸化工程を、50℃以下の温度の条件下で実施する、前記実施形態(1)〜(9)のいずれかに記載の方法。
【0024】
(11) R2及びL1が、以下:
R2が、非置換のC1〜C7アルキル、又は非置換のC4〜C16アルケニルであり、
L1が、非置換のC1〜C6アルキレン、又は非置換のC4〜C16アルケニレンであり、
但し、R2及びL1は、炭素数の合計が13〜17の範囲であり、二重結合の合計が0〜5の範囲であるとの条件を満たす、前記実施形態(1)〜(10)のいずれかに記載の方法。
【0025】
(12) R2及びL1が、以下:
条件(i):
R2がn-ブチルであり、
L1が式(L1-1):
【化20】
[式中、
*は、アルケニレン鎖との結合位置であり、
**は、カルボン酸基との結合位置である。]
で表される2価基である;又は
R2が式(R2-1):
【化21】
[式中、
*は、アルケニレン鎖との結合位置である。]
で表される2価基であり、
L1がn-ヘキシレンである;
条件(ii):
R2がn-ヘプチルであり、
L1がn-ヘキシレンである;
条件(iii):
R2がメチルであり、
L1が式(L1-2):
【化22】
[式中、
*は、アルケニレン鎖との結合位置であり、
**は、カルボン酸基との結合位置である。]
で表される2価基である;又は
R2が式(R2-2):
【化23】
[式中、
*は、アルケニレン鎖との結合位置である。]
で表される2価基であり、
L1がn-ヘキシレンである;
条件(iv):
R2がメチルであり、
L1が式(L1-3):
【化24】
[式中、
*は、アルケニレン鎖との結合位置であり、
**は、カルボン酸基との結合位置である。]
で表される2価基である;又は
R2が式(R2-3):
【化25】
[式中、
*は、アルケニレン鎖との結合位置である。]
で表される2価基であり、
L1がエチレンである;
条件(v):
R2がメチルであり、
L1が式(L1-4):
【化26】
[式中、
*は、アルケニレン鎖との結合位置であり、
**は、カルボン酸基との結合位置である。]
で表される2価基である;又は
R2が式(R2-4):
【化27】
[式中、
*は、アルケニレン鎖との結合位置である。]
で表される2価基であり、
L1がメチレンである;及び
条件(vi):
R2がn-ブチルであり、
L1が式(L1-5):
【化28】
[式中、
*は、アルケニレン鎖との結合位置であり、
**は、カルボン酸基との結合位置である。]
で表される2価基である;又は
R2が式(R2-5):
【化29】
[式中、
*は、アルケニレン鎖との結合位置である。]
で表される2価基であり、
L1がエチレンである;
からなる群より選択される条件を満たす、前記実施形態(11)に記載の方法。
【発明の効果】
【0026】
本発明により、リノール酸のような不飽和脂肪酸の酸化誘導体を選択的に形成させることができ、且つ、得られる酸化誘導体を、特段の後処理をすることなく食品又は医薬品に安全に添加することができる手段を提供することが可能となる。
【0027】
前記以外の、課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1図1は、各植物の水抽出物を用いたリノール酸の酸化反応の反応生成物におけるリノール酸のオキソ誘導体の分析結果を示す。A〜C:ナス、パプリカ又はトマトの水抽出物を用いたリノール酸の酸化反応の反応生成物の検出波長234 nmによる分析HPLCクロマトグラム。D:リノール酸の過酸化物及びヒドロキシル誘導体の標品(各500 ng)の検出波長234 nmによる分析HPLCクロマトグラム。E〜G:ナス、パプリカ又はトマトの水抽出物を用いたリノール酸の酸化反応の反応生成物の検出波長270 nmによる分析HPLCクロマトグラム。
図2図2は、トマトの水抽出物を用いたリノール酸のヒドロキシル誘導体(13-(Z,E)-HODE)の酸化反応の分析結果を示す。A:反応混合物の分析HPLCクロマトグラム。B:反応混合物から分取した画分のMSスペクトル。
図3図3は、ダイズの水抽出物を用いたリノール酸の酸化反応の反応時間と酸化誘導体の生成量との関係を示す。
図4図4は、ダイズの水抽出物を用いたリノール酸の酸化反応のpHと酸化誘導体の生成量との関係を示す。
図5図5は、カブの水抽出物を用いたリノール酸の酸化反応のpHと酸化誘導体の生成量との関係を示す。
図6図6は、キュウリの水抽出物を用いたリノール酸の酸化反応のpHと酸化誘導体の生成量との関係を示す。
図7図7は、ニンジンの水抽出物を用いたリノール酸の酸化反応のpHと酸化誘導体の生成量との関係を示す。
図8図8は、トマトの水抽出物を用いたリノール酸の酸化反応のpHと酸化誘導体の生成量との関係を示す。
図9図9は、ナスの水抽出物を用いたリノール酸の酸化反応のpHと酸化誘導体の生成量との関係を示す。
図10図10は、ダイズの水抽出物を用いたリノール酸の酸化反応の反応温度と酸化誘導体の生成量との関係を示す。
図11図11は、ナスの水抽出物を用いたリノール酸の酸化反応の反応温度と酸化誘導体の生成量との関係を示す。
図12図12は、ニンジンの水抽出物を用いたリノール酸の酸化反応の反応温度と酸化誘導体の生成量との関係を示す。
図13図13は、トマトの水抽出物を用いたリノール酸の酸化反応の反応温度と酸化誘導体の生成量との関係を示す。
図14図14は、キュウリの水抽出物を用いたリノール酸の酸化反応の反応温度と酸化誘導体の生成量との関係を示す。
図15図15は、ナスの水抽出物を用いたリノール酸の酸化反応の塩化ナトリウム濃度と酸化誘導体の生成量との関係を示す。A:20時間の反応時間の条件で反応を実施した結果。B:44時間の反応時間の条件で反応を実施した結果。
図16-1】図16-1は、カブの水抽出物を用いたエイコサペンタエン酸(EPA)(分子量:302)の酸化反応の分析結果を示す。A:反応混合物の検出波長190 nmによるHPLCクロマトグラム。B〜D:HPLCクロマトグラム上の番号1〜3のピークのMSスペクトル。
図16-2】図16-2は、カブの水抽出物を用いたエイコサペンタエン酸(EPA)(分子量:302)の酸化反応の分析結果を示す。E:HPLCクロマトグラム上の番号4のピークのMSスペクトル。
図17-1】図17-1は、ダイズの水抽出物を用いたエイコサペンタエン酸(EPA)(分子量:302)の酸化反応の分析結果を示す。A:反応混合物の検出波長190 nmによるHPLCクロマトグラム。B〜D:HPLCクロマトグラム上の番号1〜3のピークのMSスペクトル。
図17-2】図17-2は、ダイズの水抽出物を用いたエイコサペンタエン酸(EPA)(分子量:302)の酸化反応の分析結果を示す。E〜F:HPLCクロマトグラム上の番号4〜5のピークのMSスペクトル。
図18-1】図18-1は、カブの水抽出物を用いたドコサヘキサエン酸DHA(分子量:328)の酸化反応の分析結果を示す。A:反応混合物の検出波長190 nmによるHPLCクロマトグラム。B〜D:HPLCクロマトグラム上の番号1〜3のピークのMSスペクトル。
図18-2】図18-2は、カブの水抽出物を用いたドコサヘキサエン酸DHA(分子量:328)の酸化反応の分析結果を示す。E〜H:HPLCクロマトグラム上の番号4〜7のピークのMSスペクトル。
図19図19は、ダイズの水抽出物を用いたドコサヘキサエン酸DHA(分子量:328)の酸化反応の分析結果を示す。A:反応混合物の検出波長190 nmによるHPLCクロマトグラム。B及びC:HPLCクロマトグラム上の番号1及び2のピークのMSスペクトル。
図20図20は、カブの水抽出物を用いたα-リノレン酸(分子量:278)の酸化反応の分析結果を示す。A:反応混合物の検出波長190 nmによるHPLCクロマトグラム。B及びC:HPLCクロマトグラム上の番号1及び2のピークのMSスペクトル。
図21図21は、ダイズの水抽出物を用いたα-リノレン酸(分子量:278)の酸化反応の分析結果を示す。A:反応混合物の検出波長190 nmによるHPLCクロマトグラム。B及びC:HPLCクロマトグラム上の番号1及び2のピークのMSスペクトル。
図22図22は、ダイズの水抽出物を用いたオレイン酸(分子量:282)の酸化反応の分析結果を示す。A:反応混合物の検出波長190 nmによるHPLCクロマトグラム。B及びC:HPLCクロマトグラム上の番号1及び2のピークのMSスペクトル。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の好ましい実施形態について詳細に説明する。
【0030】
<1:化合物の定義>
本明細書において、化学式中の基に使用される接頭辞「n」はノルマルを、「i」若しくは「iso」はイソを、「s」若しくは「sec」はセカンダリーを、「t」若しくは「tert」はターシャリーを、「c」はシクロを、「o」はオルトを、「m」はメタを、「p」はパラを、それぞれ意味する。
【0031】
本明細書において、「アルキル」は、特定の数の炭素原子を含む、直鎖又は分枝鎖の飽和脂肪族炭化水素基を意味する。例えば、「C1〜C5アルキル」は、少なくとも1個且つ多くても5個の炭素原子を含む、直鎖又は分枝鎖の飽和脂肪族炭化水素基を意味する。好適なアルキルは、限定するものではないが、例えばメチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、sec-ブチル、イソブチル、tert-ブチル及びn-ペンチル等の直鎖又は分枝鎖のC1〜C5アルキルを挙げることができる。
【0032】
本明細書において、「アルケニル」は、前記アルキルの1個以上のC-C単結合が二重結合に置換された基を意味する。好適なアルケニルは、限定するものではないが、例えばビニル、1-プロペニル、アリル、1-メチルエテニル(イソプロペニル)、1-ブテニル、2-ブテニル、3-ブテニル、1-メチル-2-プロペニル、2-メチル-2-プロペニル、1-メチル-1-プロペニル、2-メチル-1-プロペニル及び1-ペンテニル等の直鎖又は分枝鎖のC2〜C5アルケニルを挙げることができる。
【0033】
本明細書において、「アルキニル」は、前記アルキルの1個以上のC-C単結合が三重結合に置換された基を意味する。好適なアルキニルは、限定するものではないが、例えばエチニル、1-プロピニル、2-プロピニル、1-ブチニル、2-ブチニル、3-ブチニル、1-メチル-2-プロピニル及び1-ペンチニル等の直鎖又は分枝鎖のC2〜C5アルキニルを挙げることができる。
【0034】
本明細書において、「シクロアルキル」は、特定の数の炭素原子を含む、脂環式アルキルを意味する。例えば、「C3〜C6シクロアルキル」は、少なくとも3個且つ多くても6個の炭素原子を含む、環式の炭化水素基を意味する。好適なシクロアルキルは、限定するものではないが、例えばシクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル及びシクロヘキシル等のC3〜C6シクロアルキルを挙げることができる。
【0035】
本明細書において、「シクロアルケニル」は、前記シクロアルキルの1個以上のC-C単結合が二重結合に置換された基を意味する。好適なシクロアルケニルは、限定するものではないが、例えばシクロブテニル、シクロペンテニル及びシクロヘキセニル等のC4〜C6シクロアルケニルを挙げることができる。
【0036】
本明細書において、「シクロアルキニル」は、前記シクロアルキルの1個以上のC-C単結合が三重結合に置換された基を意味する。好適なシクロアルキニルは、限定するものではないが、例えばシクロブチニル、シクロペンチニル及びシクロヘキシニル等のC4〜C6シクロアルキニルを挙げることができる。
【0037】
本明細書において、「ヘテロシクロアルキル」は、前記シクロアルキル、シクロアルケニル又はシクロアルキニルの1個以上の炭素原子が、それぞれ独立して窒素(N)、硫黄(S)及び酸素(O)から選択される1個以上のヘテロ原子に置換された基を意味する。この場合において、N又はSによる置換は、それぞれN-オキシド又はSのオキシド若しくはジオキシドによる置換を包含する。好適なヘテロシクロアルキルは、限定するものではないが、例えばピロリジニル、テトラヒドロフラニル、ジヒドロフラニル、テトラヒドロチエニル、テトラヒドロピラニル、ジヒドロピラニル、テトラヒドロチオピラニル、ピペリジニル、モルホリニル、チオモルホリニル及びピペラジニル等の3〜6員のヘテロシクロアルキルを挙げることができる。
【0038】
本明細書において、「シクロアルキルアルキル」は、前記アルキル、アルケニル又はアルキニルの水素原子の1個が前記シクロアルキル、シクロアルケニル又はシクロアルキニルに置換された基を意味する。好適なシクロアルキルアルキルは、限定するものではないが、例えばシクロヘキシルメチル及びシクロヘキセニルメチル等のC7〜C11シクロアルキルアルキルを挙げることができる。
【0039】
本明細書において、「ヘテロシクロアルキルアルキル」は、前記アルキル、アルケニル又はアルキニルの水素原子の1個が前記ヘテロシクロアルキルに置換された基を意味する。好適なヘテロシクロアルキルアルキルは、限定するものではないが、例えば3〜6員のヘテロシクロアルキル-C1〜C5アルキルを挙げることができる。
【0040】
本明細書において、「アルコキシ」は、ヒドロキシルの水素原子が、前記アルキル、アルケニル又はアルキニルに置換された基を意味する。好適なアルコキシは、限定するものではないが、例えばメトキシ、エトキシ、プロポキシ、ブトキシ及びペントキシ等のC1〜C5アルコキシを挙げることができる。
【0041】
本明細書において、「シクロアルコキシ」は、ヒドロキシルの水素原子が、前記シクロアルキル、シクロアルケニル又はシクロアルキニルに置換された基を意味する。好適なシクロアルコキシは、限定するものではないが、例えばシクロプロポキシ、シクロブトキシ及びシクロペントキシ等のC3〜C6シクロアルコキシを挙げることができる。
【0042】
本明細書において、「ヘテロシクロアルコキシ」は、ヒドロキシルの水素原子が、前記ヘテロシクロアルキルに置換された基を意味する。好適なシクロアルコキシは、限定するものではないが、例えば3〜6員のヘテロシクロアルコキシを挙げることができる。
【0043】
本明細書において、「アリール」は、芳香環基を意味する。好適なアリールは、限定するものではないが、例えばフェニル、ビフェニル、テルフェニル、ナフチル及びアントラセニル等のC6〜C18アリールを挙げることができる。
【0044】
本明細書において、「アリールアルキル」は、前記アルキル、アルケニル又はアルキニルの水素原子の1個が前記アリールに置換された基を意味する。好適なアリールアルキルは、限定するものではないが、例えばベンジル、1-フェネチル、2-フェネチル、ビフェニルメチル、テルフェニルメチル及びスチリル等のC7〜C20アリールアルキルを挙げることができる。
【0045】
本明細書において、「ヘテロアリール」は、前記アリールの1個以上の炭素原子が、それぞれ独立してN、S及びOから選択される1個以上のヘテロ原子に置換された基を意味する。この場合において、N又はSによる置換は、それぞれN-オキシド又はSのオキシド若しくはジオキシドによる置換を包含する。好適なヘテロアリールは、限定するものではないが、例えばフラニル、チエニル(チオフェンイル)、ピロリル、イミダゾリル、ピラゾリル、トリアゾリル、テトラゾリル、チアゾリル、オキサゾリル、イソオキサゾリル、オキサジアゾリル、チアジアゾリル、イソチアゾリル、ピリジル、ピリダジニル、ピラジニル、ピリミジニル、キノリニル、イソキノリニル及びインドリル等の5〜15員のヘテロアリールを挙げることができる。
【0046】
本明細書において、「ヘテロアリールアルキル」は、前記アルキル、アルケニル又はアルキニルの水素原子の1個が前記ヘテロアリールに置換された基を意味する。好適なヘテロアリールアルキルは、限定するものではないが、例えばピリジルメチル等の5〜15員のヘテロアリール-C1〜C5アルキルを挙げることができる。
【0047】
本明細書において、「アリールオキシ」は、ヒドロキシルの水素原子が、前記アリールに置換された基を意味する。好適なアリールオキシは、限定するものではないが、例えばフェノキシ、ビフェニルオキシ、ナフチルオキシ及びアントリルオキシ(アントラセニルオキシ)等のC6〜C15アリールオキシを挙げることができる。
【0048】
本明細書において、「アリールアルキルオキシ」は、ヒドロキシルの水素原子が、前記アリールアルキルに置換された基を意味する。好適なアリールアルキルオキシは、限定するものではないが、例えばベンジルオキシ、1-フェネチルオキシ、2-フェネチルオキシ及びスチリルオキシ等のC7〜C20アリールアルキルオキシを挙げることができる。
【0049】
本明細書において、「ヘテロアリールオキシ」は、ヒドロキシルの水素原子が、前記ヘテロアリールに置換された基を意味する。好適なヘテロアリールオキシは、限定するものではないが、例えばフラニルオキシ、チエニルオキシ(チオフェンイルオキシ)、ピロリルオキシ、イミダゾリルオキシ、ピラゾリルオキシ、トリアゾリルオキシ、テトラゾリルオキシ、チアゾリルオキシ、オキサゾリルオキシ、イソオキサゾリルオキシ、オキサジアゾリルオキシ、チアジアゾリルオキシ、イソチアゾリルオキシ、ピリジルオキシ、ピリダジニルオキシ、ピラジニルオキシ、ピリミジニルオキシ、キノリニルオキシ、イソキノリニルオキシ及びインドリルオキシ等の5〜15員のヘテロアリールオキシを挙げることができる。
【0050】
本明細書において、「ヘテロアリールアルキルオキシ」は、ヒドロキシルの水素原子が、前記ヘテロアリールアルキルに置換された基を意味する。好適なヘテロアリールアルキルオキシは、限定するものではないが、例えば5〜15員のヘテロアリール-C1〜C5アルキルオキシを挙げることができる。
【0051】
本明細書において、「アシル」は、前記で説明した基から選択される1価基とカルボニルとが連結した基を意味する。好適なアシルは、限定するものではないが、例えばホルミル、アセチル及びプロピオニル等のC1〜C5脂肪族アシル、並びにベンゾイル等のC7〜C16芳香族アシルを挙げることができる。
【0052】
前記で説明した基は、それぞれ独立して、非置換であるか、或いは1個若しくは複数の前記で説明した1価基によってさらに置換することもできる。
【0053】
本明細書において、「ハロゲン」又は「ハロ」は、フッ素(F)、塩素(Cl)、臭素(Br)又はヨウ素(I)を意味する。
【0054】
<2:不飽和脂肪酸の酸化誘導体の製造方法>
不飽和脂肪酸から酸化誘導体を製造するための公知の方法は、通常は、特定の微生物又は酵素を用いて不飽和脂肪酸の酸化反応を進行させる(例えば、特許文献1〜3)。植物においても、内因性の不飽和脂肪酸を基質とする酸化的代謝経路が存在することが知られている。しかしながら、植物において産生される酸化誘導体は、通常は微量である。内因性の酸化誘導体を食品又は医薬品の有効成分として利用するために十分な産生能力を有する植物は、未だ見出されていない。
【0055】
本発明者らは、予め準備したリノール酸のような不飽和脂肪酸を、特定の条件下で少なくとも1種の植物の水抽出物と接触させることにより、不飽和脂肪酸の過酸化物、ヒドロキシル化誘導体及びオキソ誘導体のような酸化誘導体を選択的に形成できることを見出した。それ故、本発明の一態様は、少なくとも1個の不飽和脂肪酸の酸化誘導体の製造方法に関する。本発明において、不飽和脂肪酸の酸化誘導体は、不飽和脂肪酸の過酸化物、不飽和脂肪酸のヒドロキシル誘導体、及び不飽和脂肪酸のオキソ誘導体からなる群より選択される少なくとも1個の化合物を意味する。
【0056】
本態様に係る方法は、予め準備した不飽和脂肪酸と、少なくとも1種の植物の水抽出物とを接触させて、少なくとも1個の不飽和脂肪酸の酸化誘導体を形成させることを特徴とする。本態様に係る方法は、植物の水抽出物を用いて不飽和脂肪酸の酸化反応を進行させる点で、特定の微生物又は酵素を用いる公知の方法と相違する。また、本態様に係る方法は、予め準備した不飽和脂肪酸を基質として反応系に投入する点で、植物に存在する内因性の不飽和脂肪酸の酸化的代謝経路による不飽和脂肪酸の酸化誘導体の生成反応と相違する。
【0057】
本態様に係る方法は、不飽和脂肪酸準備工程、及び酸化工程を含むことが必要である。各工程について、以下においてさらに詳細に説明する。
【0058】
[2-1:不飽和脂肪酸準備工程]
本態様に係る方法は、式(I):
【化30】
で表される不飽和脂肪酸を準備する、不飽和脂肪酸準備工程を含むことが必要である。
【0059】
式(I)において、
R1は、水素、置換若しくは非置換のC1〜C5アルキル、置換若しくは非置換のC2〜C5アルケニル、置換若しくは非置換のC2〜C5アルキニル、置換若しくは非置換のC3〜C6シクロアルキル、置換若しくは非置換のC4〜C6シクロアルケニル、置換若しくは非置換のC4〜C6シクロアルキニル、置換若しくは非置換の3〜6員のヘテロシクロアルキル、置換若しくは非置換のC7〜C11シクロアルキルアルキル、置換若しくは非置換の3〜6員のヘテロシクロアルキル-C1〜C5アルキル、置換若しくは非置換のC6〜C15アリール、置換若しくは非置換のC7〜C20アリールアルキル、置換若しくは非置換の5〜15員のヘテロアリール、又は置換若しくは非置換の5〜15員のヘテロアリール-C1〜C5アルキルであり、
R2は、置換若しくは非置換のC1〜C20アルキル、置換若しくは非置換のC2〜C20アルケニル、又は置換若しくは非置換のC2〜C20アルキニルであり、
L1は、単結合、置換若しくは非置換のC1〜C20アルキレン、置換若しくは非置換のC2〜C20アルケニレン、又は置換若しくは非置換のC2〜C20アルキニレンである。
【0060】
R1は、水素、置換若しくは非置換のC1〜C5アルキル、置換若しくは非置換のC2〜C5アルケニル、置換若しくは非置換のC2〜C5アルキニル、置換若しくは非置換のC3〜C6シクロアルキル、置換若しくは非置換のC4〜C6シクロアルケニル、置換若しくは非置換のC4〜C6シクロアルキニル、又は置換若しくは非置換のC7〜C11シクロアルキルアルキルであることが好ましく、水素、置換若しくは非置換のC1〜C5アルキル、置換若しくは非置換のC2〜C5アルケニル、又は置換若しくは非置換のC2〜C5アルキニルであることがより好ましく、水素、メチル、エチル、プロピル、又はグリセリルであることがさらに好ましく、水素であることが特に好ましい。R1がグリセリルの場合、グリセリルの2-位及び3-位のヒドロキシルの少なくともいずれかは、別の式(I)で表される不飽和脂肪酸又は他の脂肪酸とエステル結合を形成していてもよい。
【0061】
R2は、非置換のC1〜C20アルキル、非置換のC2〜C20アルケニル、又は非置換のC2〜C20アルキニルであることが好ましく、非置換のC1〜C10アルキル、又は非置換のC4〜C20アルケニルであることがより好ましく、非置換のC1〜C7アルキル、又は非置換のC4〜C16アルケニルであることがさらに好ましく、メチル、n-ブチル、n-ヘプチル、n-ブタ-1-エン-イル、n-ヘプタ-1-エン-イル、n-ヘプタ-1,4-ジエン-イル、n-デカ-1,4-ジエン-イル、n-デカ-1,4,7-トリエン-イル、n-トリデカ-1,4,7-トリエン-イル、n-トリデカ-1,4,7,10-テトラエン-イル、又はn-ヘキサデカ-1,4,7,10,13-ペンタエン-イルであることが特に好ましい。
【0062】
L1は、単結合、非置換のC1〜C20アルキレン、非置換のC2〜C20アルケニレン、又は非置換のC2〜C20アルキニレンであることが好ましく、単結合、非置換のC1〜C10アルキレン、又は非置換のC4〜C20アルケニレンであることがより好ましく、非置換のC1〜C6アルキレン、又は非置換のC4〜C16アルケニレンであることがさらに好ましく、メチレン、エチレン、n-ヘキシレン、n-ブタ-1-エン-1,4-ジイル、n-ペンタ-1-エン-1,5-ジイル、n-ヘプタ-1,4-ジエン-1,7-ジイル、n-オクタ-1,4-ジエン-1,8-ジイル、n-ノナ-1-エン-1,9-ジイル、n-デカ-1,4,7-トリエン-1,10-ジイル、n-ウンデカ-1,4,7-トリエン-1,11-ジイル、n-ドデカ-1,4-ジエン-1,12-ジイル、n-トリデカ-1,4,7,10-テトラエン-1,13-ジイル、n-テトラデカ-1,4,7,10-テトラエン-1,14-ジイル、又はn-ヘキサデカ-1,4,7,10,13-ペンタエン-1,16-ジイルであることが特に好ましい。
【0063】
R1、R2及びL1の定義において、前記基が置換されている場合、該置換基は、それぞれ独立して、ハロゲン、シアノ、ニトロ、アミノ、ヒドロキシル、C1〜C6アルキル、C2〜C6アルケニル、C2〜C6アルキニル、C3〜C6シクロアルキル、C3〜C6シクロアルケニル、C3〜C6シクロアルキニル、3〜6員のヘテロシクロアルキル、C1〜C6アルコキシ、C3〜C6シクロアルコキシ、3〜6員のヘテロシクロアルコキシ、C4〜C20アリール、C6〜C15アリールオキシ、C7〜C20アリールアルキルオキシ、5〜15員のヘテロアリール、5〜15員のヘテロアリールオキシ、5〜15員のヘテロアリール-C1〜C9アルキルオキシ、C1〜C6アルコキシカルボニル、C3〜C6シクロアルコキシカルボニル、及びC1〜C6アシルオキシからなる群より選択される1個以上の1価基であることが好ましい。
【0064】
式(I)で表される不飽和脂肪酸は、前記で例示されるR1、R2及びL1の任意の組み合わせによって定義される化合物を包含することができる。
【0065】
式(I)で表される不飽和脂肪酸は、
好ましくは、R2及びL1が、以下:
R2が、非置換のC1〜C7アルキル、又は非置換のC4〜C16アルケニルであり、
L1が、非置換のC1〜C6アルキレン、又は非置換のC4〜C16アルケニレンであり、
但し、R2及びL1は、炭素数の合計が13〜17の範囲であり、二重結合の合計が0〜5の範囲であるとの条件を満たす化合物であり、
より好ましくは、R2及びL1が、以下:
条件(i):
R2がn-ブチルであり、
L1が式(L1-1):
【化31】
[式中、
*は、アルケニレン鎖との結合位置であり、
**は、カルボン酸基との結合位置である。]
で表される2価基である;又は
R2が式(R2-1):
【化32】
[式中、
*は、アルケニレン鎖との結合位置である。]
で表される2価基であり、
L1がn-ヘキシレンである;
条件(ii):
R2がn-ヘプチルであり、
L1がn-ヘキシレンである;
条件(iii):
R2がメチルであり、
L1が式(L1-2):
【化33】
[式中、
*は、アルケニレン鎖との結合位置であり、
**は、カルボン酸基との結合位置である。]
で表される2価基である;又は
R2が式(R2-2):
【化34】
[式中、
*は、アルケニレン鎖との結合位置である。]
で表される2価基であり、
L1がn-ヘキシレンである;
条件(iv):
R2がメチルであり、
L1が式(L1-3):
【化35】
[式中、
*は、アルケニレン鎖との結合位置であり、
**は、カルボン酸基との結合位置である。]
で表される2価基である;又は
R2が式(R2-3):
【化36】
[式中、
*は、アルケニレン鎖との結合位置である。]
で表される2価基であり、
L1がエチレンである;及び
条件(v):
R2がメチルであり、
L1が式(L1-4):
【化37】
[式中、
*は、アルケニレン鎖との結合位置であり、
**は、カルボン酸基との結合位置である。]
で表される2価基である;又は
R2が式(R2-4):
【化38】
[式中、
*は、アルケニレン鎖との結合位置である。]
で表される2価基であり、
L1がメチレンである;及び
条件(vi):
R2がn-ブチルであり、
L1が式(L1-5):
【化39】
[式中、
*は、アルケニレン鎖との結合位置であり、
**は、カルボン酸基との結合位置である。]
で表される2価基である;又は
R2が式(R2-5):
【化40】
[式中、
*は、アルケニレン鎖との結合位置である。]
で表される2価基であり、
L1がエチレンである;
からなる群より選択される条件を満たす化合物であり、
特に好ましくは、リノール酸、オレイン酸、α-リノレン酸、エイコサペンタエン酸(EPA)、ドコサヘキサエン酸(DHA)及びアラキドン酸からなる群より選択される化合物である。
【0066】
前記条件(i)〜(vi)で定義される式(I)で表される不飽和脂肪酸は、リノール酸、オレイン酸、α-リノレン酸、EPA、DHA及びアラキドン酸にそれぞれ対応する。式(I)で表される不飽和脂肪酸は、以下において説明する酸化工程において、少なくとも1種の植物の水抽出物と接触させることにより、二重結合の隣の炭素が酸化された誘導体に変換される。それ故、前記の特徴で定義される式(I)で表される不飽和脂肪酸を準備することにより、以下において説明する式(II-1)、(II-2)、(III-1)、(III-2)、(IV-1)及び(IV-2)からなる群より選択される少なくとも1個の不飽和脂肪酸の酸化誘導体を形成させることができる。
【0067】
本発明において、式(I)で表される不飽和脂肪酸、並びに以下において説明する式(II-1)、(II-2)、(III-1)、(III-2)、(IV-1)及び(IV-2)で表される不飽和脂肪酸の酸化誘導体は、該化合物自体だけでなく、存在し得る場合、その塩も包含する。本発明の前記各式で表される化合物の塩としては、限定するものではないが、例えば、ナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、若しくは置換若しくは非置換のアンモニウムイオンのようなカチオンとの塩、又は塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、炭酸若しくはリン酸のような無機酸、又はギ酸、酢酸、マレイン酸、フマル酸、安息香酸、アスコルビン酸、コハク酸、ビスメチレンサリチル酸、メタンスルホン酸、エタンジスルホン酸、プロピオン酸、酒石酸、サリチル酸、クエン酸、グルコン酸、アスパラギン酸、ステアリン酸、パルミチン酸、イタコン酸、グリコール酸、p-アミノ安息香酸、グルタミン酸、ベンゼンスルホン酸、シクロヘキシルスルファミン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、イセチオン酸、p-トルエンスルホン酸若しくはナフタレンスルホン酸のような有機酸アニオンとの塩が好ましい。前記式で表される化合物が前記の塩の形態である場合であっても、本態様に係る方法に適用することができる。
【0068】
本発明において、式(I)で表される不飽和脂肪酸、並びに以下において説明する式(II-1)、(II-2)、(III-1)、(III-2)、(IV-1)及び(IV-2)で表される不飽和脂肪酸の酸化誘導体は、該化合物自体だけでなく、存在し得る場合、該化合物又はその塩の溶媒和物も包含する。前記化合物又はその塩と溶媒和物を形成し得る溶媒としては、限定するものではないが、例えば、低級アルコール(例えば、メタノール、エタノール若しくは2-プロパノール(イソプロピルアルコール)のような1〜6の炭素数を有するアルコール)、高級アルコール(例えば、1-ヘプタノール若しくは1-オクタノールのような7以上の炭素数を有するアルコール)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、酢酸、エタノールアミン若しくは酢酸エチルのような有機溶媒、又は水が好ましい。前記式で表される化合物又はその塩が前記の溶媒との溶媒和物の形態である場合であっても、本態様に係る方法に適用することができる。
【0069】
本発明において、式(I)で表される不飽和脂肪酸、並びに以下において説明する式(II-1)、(II-2)、(III-1)、(III-2)、(IV-1)及び(IV-2)で表される不飽和脂肪酸の酸化誘導体は、該化合物自体だけでなく、その保護形態も包含する。本明細書において、「保護形態」は、1個又は複数の官能基(例えばヒドロキシル基又はカルボン酸基)に保護基が導入された形態を意味する。本明細書において、前記各式で表される化合物の保護形態を、前記各式で表される化合物の保護誘導体と記載する場合がある。また、本明細書において、「保護基」は、望ましくない反応の進行を防止するために、特定の官能基に導入される基であって、特定の反応条件において定量的に除去され、且つそれ以外の反応条件においては実質的に安定、即ち反応不活性である基を意味する。前記化合物の保護形態を形成し得る保護基としては、限定するものではないが、例えば、ヒドロキシル基の保護基の場合、シリル(例えば、t-ブチルジメチルシリル(TBS)、トリメチルシリル(TMS)、トリエチルシリル(TES)、トリイソプロピルシリル(TIPS)若しくはtert-ブチルジフェニルシリル(TBDPS))、アルコキシ(例えば、ベンジル(Bn)、メトキシメトキシ(MOM)若しくはメトキシ(Me))又は環状アセタール(例えば、ベンジリデンアセタール若しくはジメチルアセタール)が、カルボン酸基の保護基の場合、アルキルエステル(例えばメチル、エチル若しくはイソプロピルエステル)、アリールアルキルエステル(例えばベンジルエステル)、グリセリド、又はアミドが、それぞれ好ましい。前記保護基による保護化及び脱保護化は、公知の反応条件に基づき、当業者が適宜実施することができる。前記式で表される化合物が前記の保護基による保護形態である場合であっても、本態様に係る方法に適用することができる。
【0070】
本発明において、式(I)で表される不飽和脂肪酸、並びに以下において説明する式(II-1)、(II-2)、(III-1)、(III-2)、(IV-1)及び(IV-2)で表される不飽和脂肪酸の酸化誘導体が1又は複数の互変異性体を有する場合、前記化合物は、該化合物の個々の互変異性体の形態も包含する。
【0071】
本発明において、式(I)で表される不飽和脂肪酸、並びに以下において説明する式(II-1)、(II-2)、(III-1)、(III-2)、(IV-1)及び(IV-2)で表される不飽和脂肪酸の酸化誘導体が1又は複数の立体中心(キラル中心)を有する場合、前記化合物は、該化合物の個々のエナンチオマー及びジアステレオマー、並びにラセミ体のようなそれらの混合物も包含する。
【0072】
また、本発明において、式(I)で表される不飽和脂肪酸、並びに以下において説明する式(II-1)、(II-2)、(III-1)、(III-2)、(IV-1)及び(IV-2)で表される不飽和脂肪酸の酸化誘導体に存在する1又は複数の二重結合の幾何配置が特定されていない場合、前記化合物は、該化合物の個々の幾何異性体及びそれらの混合物も包含する。
【0073】
本工程において、式(I)で表される不飽和脂肪酸を準備する手段は特に限定されない。例えば、予め調製された式(I)で表される不飽和脂肪酸を購入等して準備することができる。或いは、微生物、植物又は動物等の生物が産生する式(I)で表される不飽和脂肪酸を精製及び単離して準備することもできる。いずれの場合も、本工程の実施形態に包含される。但し、生物が産生する式(I)で表される不飽和脂肪酸を使用する場合、例えば、植物が産生する内因性の式(I)で表される不飽和脂肪酸を精製及び単離することなく、該植物の水抽出物中で同時に又は連続的に反応させて飽和脂肪酸の酸化誘導体を形成させることは、本態様に係る方法の実施形態に包含されない。
【0074】
[2-2:酸化工程]
本態様に係る方法は、不飽和脂肪酸準備工程で準備された式(I)で表される不飽和脂肪酸と、少なくとも1種の植物の水抽出物とを接触させて、
式(II-1):
【化41】
で表される不飽和脂肪酸の過酸化物、
式(II-2):
【化42】
で表される不飽和脂肪酸の過酸化物、
式(III-1):
【化43】
で表される不飽和脂肪酸のヒドロキシル誘導体、
式(III-2):
【化44】
で表される不飽和脂肪酸のヒドロキシル誘導体、
式(IV-1):
【化45】
で表される不飽和脂肪酸のオキソ誘導体、及び
式(IV-2):
【化46】
で表される不飽和脂肪酸のオキソ誘導体からなる群より選択される少なくとも1個の不飽和脂肪酸の酸化誘導体を形成させる、酸化工程を含むことが必要である。
【0075】
式(II-1)、(II-2)、(III-1)、(III-2)、(IV-1)及び(IV-2)で表される不飽和脂肪酸の酸化誘導体において、R1、R2及びL1は、前記と同義である。
【0076】
本工程において、不飽和脂肪酸準備工程で準備された式(I)で表される不飽和脂肪酸と、少なくとも1種の植物の水抽出物とを接触させる。植物の水抽出物は、内因性の式(I)で表される不飽和脂肪酸を含有する場合がある。しかしながら、植物において産生される酸化誘導体は、通常は微量であることから、植物の水抽出物に含有される内因性の式(I)で表される不飽和脂肪酸もまた、通常は微量(例えば、数μg/g新鮮植物以下)である。それ故、不飽和脂肪酸準備工程で準備された式(I)で表される不飽和脂肪酸と、少なくとも1種の植物の水抽出物とを接触させることにより、植物の水抽出物に含有される内因性の不飽和脂肪酸の量を大きく上回る多量の式(I)で表される不飽和脂肪酸を酸化して、対応する少なくとも1個の不飽和脂肪酸の酸化誘導体を多量に形成することができる。
【0077】
本工程において、式(I)で表される不飽和脂肪酸と、少なくとも1種の植物の水抽出物とを接触させることにより、植物の水抽出物に含まれるリポキシゲナーゼ、ペルオキシダーゼ及び/又はデヒドロゲナーゼが不飽和脂肪酸に作用して、式(II-1)、(II-2)、(III-1)、(III-2)、(IV-1)及び(IV-2)で表される少なくとも1個の不飽和脂肪酸の酸化誘導体が形成される。このため、使用される式(I)で表される不飽和脂肪酸に基づき、対応する構造を有する式(II-1)、(II-2)、(III-1)、(III-2)、(IV-1)及び(IV-2)で表される少なくとも1個の不飽和脂肪酸の酸化誘導体が形成される。例えば、本工程において、使用される式(I)で表される不飽和脂肪酸が、リノール酸、オレイン酸、α-リノレン酸、EPA、DHA又はアラキドン酸である場合、リノール酸、オレイン酸、α-リノレン酸、EPA、DHA又はアラキドン酸の式(II-1)及び(II-2)で表される過酸化物、式(III-1)及び(III-2)で表されるヒドロキシル誘導体、並びに式(IV-1)及び(IV-2)で表されるオキソ誘導体からなる群より選択される少なくとも1個の不飽和脂肪酸の酸化誘導体が、それぞれ形成される。それ故、不飽和脂肪酸準備工程で準備された特定の構造を有する式(I)で表される不飽和脂肪酸を使用することにより、特定の構造を有する不飽和脂肪酸の酸化誘導体を選択的に形成させることができる。
【0078】
式(I)で表される不飽和脂肪酸において、R1、R2及びL1に二重結合が存在する場合、該二重結合の幾何配置は、通常は、式(II-1)、(II-2)、(III-1)、(III-2)、(IV-1)及び(IV-2)で表される少なくとも1個の不飽和脂肪酸の酸化誘導体においても保持される。しかしながら、二重結合の幾何配置は、場合により、式(II-1)、(II-2)、(III-1)、(III-2)、(IV-1)及び(IV-2)で表される少なくとも1個の不飽和脂肪酸の酸化誘導体において異性化してもよい。同様に、式(I)で表される不飽和脂肪酸において、R1、R2及びL1に立体中心(キラル中心)が存在する場合、該立体中心(キラル中心)の立体配置は、通常は、式(II-1)、(II-2)、(III-1)、(III-2)、(IV-1)及び(IV-2)で表される少なくとも1個の不飽和脂肪酸の酸化誘導体においても保持される。しかしながら、立体中心(キラル中心)の立体配置は、場合により、式(II-1)、(II-2)、(III-1)、(III-2)、(IV-1)及び(IV-2)で表される少なくとも1個の不飽和脂肪酸の酸化誘導体において異性化してもよい。いずれの場合も、本工程の実施形態に包含される。
【0079】
本工程において形成される式(II-1)、(II-2)、(III-1)、(III-2)、(IV-1)及び(IV-2)で表される少なくとも1個の不飽和脂肪酸の酸化誘導体は、例えば、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、又は液体クロマトグラフィー-質量スペクトル(LC-MS)等の機器分析の手段によって、同定及び/又は定量することができる。また、不飽和脂肪酸の酸化誘導体の幾何配置及び立体配置を含む化学構造は、例えば、核磁気共鳴スペクトル(NMR)、赤外吸収スペクトル(IR)、紫外吸収スペクトル(UV)、又はMS等の機器分析の手段によって、確認することができる。
【0080】
本工程において、式(I)で表される不飽和脂肪酸と、少なくとも1種の植物の水抽出物とを接触させる順序は特に限定されない。例えば、式(I)で表される不飽和脂肪酸を、反応容器に入れた少なくとも1種の植物の水抽出物に加えてもよく、少なくとも1種の植物の水抽出物を、反応容器に入れた式(I)で表される不飽和脂肪酸に加えてもよく、式(I)で表される不飽和脂肪酸と少なくとも1種の植物の水抽出物とを、実質的に同時に反応容器に入れてもよい。いずれの場合も、本工程の実施形態に包含される。
【0081】
本工程において、使用される植物の水抽出物は、各種の植物から得ることができる。植物は、ナス科、アブラナ科、セリ科、マメ科、ユリ科、ウリ科、及びバラ科からなる群から選択される少なくとも1種の植物であることが好ましく、トマト、パプリカ、ナス、カブ、ニンジン、ダイズ、ネギ、キュウリ、及びリンゴからなる群から選択される少なくとも1種の植物であることがより好ましい。植物は、野生種及び栽培種のいずれであってもよい。抽出に使用される植物の部位は、特に限定されず、地下部(例えば根)及び地上部(例えば茎葉、花、果実及び種子)、並びに可食部及び非可食部のいずれであってもよい。各種の植物から得られる水抽出物を使用することにより、式(I)で表される不飽和脂肪酸から、対応する式(II-1)、(II-2)、(III-1)、(III-2)、(IV-1)及び(IV-2)で表される少なくとも1個の不飽和脂肪酸の酸化誘導体を選択的に形成させることができる。また、前記で例示されるように、本工程において使用される植物の水抽出物は、食用に供される各種の植物から得ることができる。それ故、本工程によって得られる不飽和脂肪酸の酸化誘導体を、精製等の特段の後処理をすることなく、食品又は医薬品に安全に添加することができる。
【0082】
植物の水抽出物は、当該技術分野で通常使用される水抽出の方法によって調製することができる。例えば、前記で例示される植物の全体又は部分をすり下ろし又は粉砕し、これを水に浸漬して、室温〜50℃の範囲の温度で数分間〜数時間、抽出する。抽出時のpHは、そのままのpHであってもよく、酸又はアルカリ等を用いて特定のpH(例えばpH 3〜13の範囲)に調整してもよい。添加する水の量は、使用する植物の水分含有量に基づき適宜設定すればよい。例えば、トマト、キュウリ及びリンゴのように、水分含有量の高い植物を使用する場合には、水を添加しなくてもよい。抽出液は、所望により、遠心分離及び/又は濾過によって残渣を除去してもよい。このようにして得られた粗抽出物を、通常はそのままの状態で、すなわち、精製等を実施することなく、植物の水抽出物として使用することができる。或いは、得られた粗抽出物を、酸又はアルカリ等を用いて特定のpH(例えばpH 3〜13の範囲)に調整する等の追加の処理を実施して、植物の水抽出物として使用することもできる。
【0083】
植物の水抽出物は、前記のように、通常は抽出後そのままの状態で使用するため、植物由来の様々な成分を含む。また、植物の水抽出物は、抽出に使用される植物由来の成分に加えて、式(I)で表される不飽和脂肪酸の酸化反応を実質的に阻害しない範囲で、任意のさらなる成分を含むことができる。任意のさらなる成分としては、例えば、無機塩(例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム又は炭酸水素ナトリウム等)、防腐剤、殺菌剤、増粘剤、甘味料、色素、ビタミン、及び機能性添加物等を挙げることができる。
【0084】
植物の水抽出物は、本工程を実施する際に毎回調製してもよく、予め調製された抽出物を使用してもよい。予め調製された植物の水抽出物としては、例えば、前記で例示される植物を用いて調製される植物(例えば野菜及び/又は果実)のジュース又はエキスを挙げることができる。このような植物のジュース又はエキスは、市販品を購入等して準備してもよい。前記で例示される形態の植物の水抽出物を用いて本工程を実施することにより、式(I)で表される不飽和脂肪酸から、対応する式(II-1)、(II-2)、(III-1)、(III-2)、(IV-1)及び(IV-2)で表される少なくとも1個の不飽和脂肪酸の酸化誘導体を選択的に形成させることができる。また、本工程によって得られる不飽和脂肪酸の酸化誘導体を、精製等の特段の後処理をすることなく、食品又は医薬品に安全に添加することができる。
【0085】
本工程において、使用される式(I)で表される不飽和脂肪酸の量は、少なくとも1種の植物の水抽出物の種類及び/又は量に基づき、適宜設定することができる。例えば、少なくとも1種の植物の水抽出物の量が、0.1〜1000 g新鮮植物の範囲、特に0.1〜10 g新鮮植物の範囲である場合、使用される式(I)で表される不飽和脂肪酸の量は、4〜2000 mgの範囲であることが好ましく、10〜100 mgの範囲であることがより好ましい。前記の量比で、式(I)で表される不飽和脂肪酸と、少なくとも1種の植物の水抽出物とを接触させることにより、式(II-1)、(II-2)、(III-1)、(III-2)、(IV-1)及び(IV-2)で表される少なくとも1個の不飽和脂肪酸の酸化誘導体を高収量で形成させることができる。
【0086】
本工程において、式(I)で表される不飽和脂肪酸と少なくとも1種の植物の水抽出物とを接触させることにより、式(I)で表される不飽和脂肪酸の酸化反応が進行する。式(I)で表される不飽和脂肪酸の酸化反応の反応時間は、5分間以上であることが好ましく、5分間〜45時間の範囲であることがより好ましく、20分間〜20時間の範囲であることがさらに好ましい。前記範囲の反応時間で、式(I)で表される不飽和脂肪酸の酸化反応を実施することにより、式(II-1)、(II-2)、(III-1)、(III-2)、(IV-1)及び(IV-2)で表される少なくとも1個の不飽和脂肪酸の酸化誘導体を高収量で形成させることができる。
【0087】
式(I)で表される不飽和脂肪酸及び少なくとも1種の植物の水抽出物を含む反応混合物の反応温度は、50℃以下であることが好ましく、15〜50℃の範囲であることがより好ましい。植物の水抽出物に含まれるリポキシゲナーゼ、ペルオキシダーゼ及び/又はデヒドロゲナーゼの至適温度は、植物種によって様々であることから、使用される植物の水抽出物に基づき、反応混合物の反応温度を設定することが好ましい。一実施形態において、反応混合物の反応温度は、15〜30℃の範囲であることが好ましい。別の一実施形態において、反応混合物の反応温度は、15℃以上且つ30℃未満の範囲であることが好ましく、15〜25℃の範囲であることがより好ましい。別の一実施形態において、反応混合物の反応温度は、30〜50℃の範囲であることが好ましく、30〜40℃の範囲であることがより好ましい。別の一実施形態において、反応混合物の反応温度は、25〜50℃の範囲であることが好ましく、35〜50℃の範囲であることがより好ましい。前記上限値以下の温度の場合、植物の水抽出物に含まれるリポキシゲナーゼ、ペルオキシダーゼ及び/又はデヒドロゲナーゼが失活することを実質的に回避することができる。前記範囲の反応温度で、式(I)で表される不飽和脂肪酸の酸化反応を実施することにより、式(II-1)、(II-2)、(III-1)、(III-2)、(IV-1)及び(IV-2)で表される少なくとも1個の不飽和脂肪酸の酸化誘導体を選択的に形成させることができる。
【0088】
式(I)で表される不飽和脂肪酸及び少なくとも1種の植物の水抽出物を含む反応混合物のpHは、酸性からアルカリ性領域までの広い範囲から、好ましくはpH 3〜12の範囲から適宜選択することができる。植物の水抽出物に含まれるリポキシゲナーゼ、ペルオキシダーゼ及び/又はデヒドロゲナーゼの至適pHは、植物種によって様々であることから、使用される植物の水抽出物に基づき、反応混合物のpHを設定することが好ましい。一実施形態において、反応混合物のpHは、pH 7未満であることが好ましく、pH 7未満且つpH 3以上の範囲であることがより好ましい。別の一実施形態において、反応混合物のpHは、pH 8未満であることが好ましく、pH 8未満且つpH 4を越える範囲であることがより好ましい。別の一実施形態において、反応混合物のpHは、pH 7以上であることが好ましく、pH 12以下且つpH 7以上の範囲であることがより好ましい。別の一実施形態において、反応混合物のpHは、pH 6を越えることが好ましく、pH 12以下且つpH 6の範囲を越えることがより好ましい。前記範囲のpHで、式(I)で表される不飽和脂肪酸の酸化反応を実施することにより、式(II-1)、(II-2)、(III-1)、(III-2)、(IV-1)及び(IV-2)で表される少なくとも1個の不飽和脂肪酸の酸化誘導体を選択的に形成させることができる。
【0089】
本工程における反応混合物のpHは、塩酸、硝酸、リン酸、酢酸又はクエン酸等の酸、並びに水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム又は炭酸カルシウム等のアルカリを用いて調整することができる。
【0090】
式(I)で表される不飽和脂肪酸及び少なくとも1種の植物の水抽出物を含む反応混合物は、式(I)で表される不飽和脂肪酸の酸化反応を実質的に阻害しない範囲で、任意のさらなる成分を含むことができる。任意のさらなる成分としては、例えば、無機塩(例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム又は炭酸水素ナトリウム等)、防腐剤、殺菌剤、増粘剤、甘味料、色素、ビタミン、及び機能性添加物等を挙げることができる。任意のさらなる成分として無機塩を含む場合、反応混合物中の無機塩の濃度は、10質量%以下であることが好ましい。反応混合物が前記濃度で無機塩を含む場合、反応混合物における微生物の繁殖を実質的に抑制することができる。
【0091】
本態様に係る方法において、使用される植物の水抽出物の種類及び酸化反応の条件の組み合わせに基づき、形成される不飽和脂肪酸の酸化誘導体の選択性がさらに向上することが判明した。植物において、内因性の不飽和脂肪酸を基質とする酸化的代謝経路が存在することは知られていたが、不飽和脂肪酸の過酸化物、ヒドロキシル誘導体及び/又はオキソ誘導体のような特定の酸化状態の酸化誘導体を選択的に形成させる手段は知られていなかった。それ故、本態様に係る方法により、式(II-1)、(II-2)、(III-1)、(III-2)、(IV-1)及び(IV-2)で表される不飽和脂肪酸の酸化誘導体から、特定の酸化状態の酸化誘導体を選択的に形成させる手段を提供することができる。
【0092】
一実施形態において、本工程を、キュウリの水抽出物を用いてpH 7未満のpHの条件下で実施することが好ましい。本実施形態の場合、反応混合物のpHは、pH 7未満且つpH 3以上であることがより好ましい。反応混合物の反応温度は、15〜50℃の範囲であることが好ましく、15〜30℃の範囲であることがより好ましい。前記条件下で本工程を実施することにより、少なくとも1個の不飽和脂肪酸の酸化誘導体として式(II-1)及び(II-2)で表される不飽和脂肪酸の過酸化物を選択的に形成させることができる。
【0093】
別の一実施形態において、本工程を、キュウリの水抽出物を用いてpH 7以上のpHの条件下で実施することが好ましい。本実施形態の場合、反応混合物のpHは、pH 12以下且つpH 7以上であることがより好ましく、pH 11以下且つpH 7以上であることがさらに好ましい。反応混合物の反応温度は、15〜50℃の範囲であることが好ましく、15〜30℃の範囲であることがより好ましい。前記条件下で本工程を実施することにより、少なくとも1個の不飽和脂肪酸の酸化誘導体として式(III-1)及び(III-2)で表される不飽和脂肪酸のヒドロキシル誘導体を選択的に形成させることができる。
【0094】
別の一実施形態において、本工程を、ニンジンの水抽出物を用いてpH 7未満のpH及び15℃以上且つ30℃未満の反応温度の条件下で実施することが好ましい。本実施形態の場合、反応混合物のpHは、pH 7未満且つpH 3以上であることがより好ましい。反応混合物の反応温度は、15〜25℃の範囲であることがより好ましい。前記条件下で本工程を実施することにより、少なくとも1個の不飽和脂肪酸の酸化誘導体として式(III-1)及び(III-2)で表される不飽和脂肪酸のヒドロキシル誘導体を選択的に形成させることができる。
【0095】
別の一実施形態において、本工程を、ニンジンの水抽出物を用いてpH 7未満のpH及び30〜50℃の範囲の反応温度の条件下で実施することが好ましい。本実施形態の場合、反応混合物のpHは、pH 7未満且つpH 3以上であることがより好ましい。反応混合物の反応温度は、30〜40℃の範囲であることがより好ましい。前記条件下で本工程を実施することにより、少なくとも1個の不飽和脂肪酸の酸化誘導体として式(II-1)及び(II-2)で表される不飽和脂肪酸の過酸化物を選択的に形成させることができる。
【0096】
別の一実施形態において、本工程を、トマトの水抽出物を用いてpH 7未満のpHの条件下で実施することが好ましい。本実施形態の場合、反応混合物のpHは、pH 7未満且つpH 3以上であることがより好ましい。反応混合物の反応温度は、25〜50℃の範囲であることが好ましく、35〜50℃の範囲であることがより好ましい。前記条件下で本工程を実施することにより、少なくとも1個の不飽和脂肪酸の酸化誘導体として式(II-1)及び(II-2)で表される不飽和脂肪酸の過酸化物を選択的に形成させることができる。
【0097】
別の一実施形態において、本工程を、ナスの水抽出物を用いてpH 7未満のpHの条件下で実施することが好ましい。本実施形態の場合、反応混合物のpHは、pH 7未満且つpH 3以上であることがより好ましい。反応混合物の反応温度は、25〜50℃の範囲であることが好ましい。前記条件下で本工程を実施することにより、少なくとも1個の不飽和脂肪酸の酸化誘導体として式(II-1)及び(II-2)で表される不飽和脂肪酸の過酸化物を選択的に形成させることができる。
【0098】
別の一実施形態において、本工程を、ダイズの水抽出物を用いてpH 6を越えるpHの条件下で実施することが好ましい。本実施形態の場合、反応混合物のpHは、pH 12以下且つpH 6を越える範囲であることがより好ましく、pH 11以下且つpH 6を越える範囲であることがさらに好ましい。反応混合物の反応温度は、15〜50℃の範囲であることが好ましく、15〜30℃の範囲であることがより好ましい。前記条件下で本工程を実施することにより、少なくとも1個の不飽和脂肪酸の酸化誘導体として式(III-1)及び(III-2)で表される不飽和脂肪酸のヒドロキシル誘導体を選択的に形成させることができる。
【0099】
別の一実施形態において、本工程を、カブの水抽出物を用いてpH 8未満且つpH 4を越えるpHの条件下で実施することが好ましい。本実施形態の場合、反応混合物の反応温度は、15〜50℃の範囲であることが好ましく、15〜30℃の範囲であることがより好ましい。前記条件下で本工程を実施することにより、少なくとも1個の不飽和脂肪酸の酸化誘導体として式(III-1)及び(III-2)で表される不飽和脂肪酸のヒドロキシル誘導体を選択的に形成させることができる。
【0100】
本明細書において、詳細に説明したように、本発明により、少なくとも1種の植物の水抽出物に含まれるリポキシゲナーゼ、ペルオキシダーゼ及び/又はデヒドロゲナーゼの作用を介して、式(I)で表される不飽和脂肪酸から、式(II-1)、(II-2)、(III-1)、(III-2)、(IV-1)及び(IV-2)で表される少なくとも1個の不飽和脂肪酸の酸化誘導体を選択的に形成させることができる。植物において、内因性の不飽和脂肪酸を基質とする酸化的代謝経路が存在することが知られていたが、特定の構造を有する酸化誘導体を選択的に形成させる手段は知られていなかった。また、このような内因性の酸化的代謝経路では、基質とする不飽和脂肪酸が具体的に特定されており(例えばリノール酸)、他の任意の不飽和脂肪酸が同様の経路で酸化され得るかは知られていなかった。それ故、本発明により、少なくとも1種の植物の水抽出物を用いて、多様な構造を有する式(I)で表される不飽和脂肪酸から、有用な生理活性を有する不飽和脂肪酸の特定の酸化誘導体を選択的に且つ高効率で形成させることができる。
【0101】
本発明において使用される植物の水抽出物は、食用に供される各種の植物から得ることができる。このため、本発明の方法によって得られる不飽和脂肪酸の酸化誘導体を、精製等の特段の後処理をすることなく、食品又は医薬品に安全に添加することができる。また、本発明において使用される植物の水抽出物は、植物のジュース又はエキスの形態であってもよい。それ故、本態様に係る方法を、例えば、植物(例えば野菜及び/又は果実)のジュース又はエキスのような食品の製造の際に実施することにより、有用な生理活性を有する不飽和脂肪酸の酸化誘導体の該食品における含有量を向上させることができる。
【実施例】
【0102】
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【0103】
<実験I:各種植物の水抽出物を用いる不飽和脂肪酸の酸化反応(1)>
各種植物の水抽出物を用いて、下記のスキームに示すリノール酸の酸化反応を実施した。
【化47】
【0104】
[I-1:材料及び方法]
ネギ(ユリ科、アリウム・フィスツロサム(Allium fistulosum))、カブ(アブラナ科、ブラシカ・ラパ(Brassica rapa))、ニンジン(セリ科、ドーカス・キャロタ(Daucus carota))、ダイズ(マメ科、グリシン・マックス(Glycine max)、トマト(ナス科、ソヌラム・リコペルシカム(Solanum lycopersicum))、キュウリ(ウリ科、ククミス・サチバス(Cucumis sativus))、及びリンゴ(バラ科、マルス・プミラ(Malus pumila))を一般市場から購入した。各植物材料は、可食部を使用した。カブは、地下部と茎葉部とに分けた。
【0105】
カブの地下部及び茎葉部(各25 g)、ニンジン(37 g)、並びにネギ(25 g)をすり下ろし、これに25 mLの純水を加えて15分間超音波処理した。トマト(53 g)、キュウリ(60 g)及びリンゴ(50 g)をすり下ろし、15分間超音波処理した。ダイズの種子を、コーヒーミルで粉砕した。得られた5 gのダイズ種子粉末に、50 mLの純水を加えて懸濁し、15分間超音波処理した。得られた各植物材料の混合物を遠心分離(4000 rpm、15分間、25℃)し、上清をキムワイプで濾過して、各植物の水抽出物を得た。得られた水抽出物は、カブの地下部(25 g新鮮植物)では35 mLであり、カブの茎葉部(25 g新鮮植物)では28 mLであり、ニンジン(37 g新鮮植物)では35 mLであり、ネギ(25 g新鮮植物)では30 mLであり、トマト(53 g新鮮植物)では35 mLであり、キュウリ(60 g新鮮植物)では35 mLであり、リンゴ(50 g新鮮植物)では35 mLであり、ダイズ(5 g新鮮植物)では50 mLであった。
【0106】
2 mLの各植物の水抽出物を、15 mLコーニングチューブ(コーニング社製)に3本ずつ(反応用、脂肪酸ブランク用及び水抽出物中の内因性リノール酸定量用)分注した。各植物の水抽出物を入れた反応用チューブに、20 μL(18 mg)の市販のリノール酸(和光純薬工業社)を加えて懸濁し、そのままのpHで、室温で20分間反応させた。この際、脂肪酸ブランク用チューブには何も加えずに、同時に室温で20分間反応させた。反応終了後、各反応混合物を、塩酸を用いて酸性(pH 3)にした。この酸性混合物を、2 mLのクロロホルムで3回抽出した。合わせたクロロホルム相を、3 mLの20 v/v%メタノール水溶液で洗浄した。その後、各反応混合物のクロロホルム相を、減圧乾固して、分析用試料としてフリーザー中で保存した。リノール酸定量用チューブに含まれる各植物の水抽出物を、塩酸を用いて酸性(pH 3)にした。この水抽出物を、2 mLのクロロホルムで3回抽出した。合わせたクロロホルム相を、3 mLの20 v/v%メタノール水溶液で洗浄した。その後、各植物の水抽出物のクロロホルム相を、減圧乾固して、分析用試料としてフリーザー中で保存した。負の対照として、植物の水抽出物に代えて、同量の純水を用いて同様の処理を行った。
【0107】
各反応混合物の分析用試料、及び内因性リノール酸定量用の各植物の水抽出物の分析用試料を、1 mLのメタノールに溶解させた。各溶液を遠心分離(4000 rpm、5分間)し、得られた上清を、下記の条件で高速液体クロマトグラフィー(HPLC)分析した。
【0108】
〔HPLC条件〕
○リノール酸の分析HPLC
カラム: TSK ODS 100V(3μ) 4.6×150 mm(東ソー株式会社)
カラム温度: 40℃
試料注入量: 10 μL
溶媒: A:10 mM 塩酸
B:CH3CN
混合比 80%B
流速: 1.2 mL/分
検出: 210 nm
【0109】
○HODE及びHPODEの分析HPLC
カラム: TSK ODS 100V(3μ) 4.6×150 mm(東ソー株式会社)
カラム温度: 40℃
試料注入量: 2 μL
溶媒: A:0.2%酢酸水溶液(pH5.5にNaOHで調整)
B:CH3CN
C:CH3OH
混合比 A:B:C=57:33:10
流速: 1.3 mL/分
検出: 234 nm
【0110】
○oxo-ODEの分析HPLC
カラム: TSK ODS 100V(3μ) 4.6×150 mm(東ソー株式会社)
カラム温度: 40℃
試料注入量: 5 μL
溶媒: A:0.1%ギ酸水溶液
B:0.1%ギ酸アセトニトリル溶液
混合比 60%B/0分-85%B/25分-100%CH3OH/25.5分-
100%CH3OH/28.5分-60%B/29分
流速: 0.5 mL/分
検出: 270 nm
【0111】
[I-2:結果]
各植物の水抽出物を用いたリノール酸の酸化反応の反応生成物を表1に示す。表中、上段は、各植物の水抽出物にリノール酸を加えて反応させた反応混合物の分析結果を、下段は、各種植物の水抽出物のみを反応させた脂肪酸ブランクの反応混合物の分析結果を、それぞれ示す。脂肪酸ブランクの反応は、各植物の水抽出物に含まれる内因性リノール酸の酸化反応に相当する。
【表1】
【0112】
各植物の水抽出物に含まれる内因性リノール酸の定量結果、及び各植物の水抽出物の調製に使用された植物の新鮮重量を表2に示す。表2に示すように、2 mLの植物の水抽出物に含まれる内因性リノール酸は、約0.6〜1.5 μgであった。この内因性リノール酸の量は、反応系に投入されたリノール酸(18 mg)と比較して極めて微量であった。
【表2】
【0113】
表1に示すように、ネギ、カブ、ニンジン、ダイズ、トマト、及びキュウリの水抽出物をリノール酸と反応させた場合、顕著な量のリノール酸の酸化誘導体が形成された。また、形成されたリノール酸の酸化誘導体は、使用された植物の水抽出物に応じて様々であった。例えば、カブ及びニンジンの水抽出物を使用した場合、9-(Z,E)-HODE(Fr. 2)が、ネギ及びダイズの水抽出物を使用した場合、13-(Z,E)-HODE(Fr. 1)が、それぞれより多量に形成された。
【0114】
<実験II:各種植物の水抽出物を用いる不飽和脂肪酸の酸化反応(2)>
[II-1:材料及び方法]
トマト、パプリカ(ナス科、カプシクム・アンヌム(Capsicum annuum))及びナス(ナス科、ソラヌム・メロンゲーナ(Solanum melongena))の水抽出物を用いて、リノール酸の酸化反応を実施した。トマト(65 g)、パプリカ(57 g)及びナス(64 g)をすり下ろし、15分間超音波処理した。得られた各植物材料の混合物を遠心分離(4000 rpm、15分間、25℃)し、上清をキムワイプで濾過して、各植物の水抽出物を得た。得られた水抽出物は、トマト(65 g新鮮植物)では27 mLであり、パプリカ(57 g新鮮植物)では30 mLであり、ナス(64 g新鮮植物)では27 mLであった。実験Iの手順において、各植物の水抽出物の量を4 mLに、市販のリノール酸の量を40 μL(36 mg)に、それぞれ変更した他は前記と同様の手順で、各植物の水抽出物の反応混合物を調製した。塩酸及び水酸化ナトリウム水溶液を用いて、反応混合物のpHをpH 6に調整した。この反応混合物を、室温で20時間反応させた。反応終了後、各反応混合物を、塩酸を用いて酸性(pH 3)にした。この酸性混合物を、3 mLのクロロホルムで3回抽出した。合わせたクロロホルム相を、減圧乾固した。得られた乾固物を、3 mLのヘキサンに溶解させた。このヘキサン溶液を、3 mLの20 v/v%メタノール水溶液で1回、次いで2 mLの80 v/v%メタノール水溶液で3回洗浄した。その後、各反応混合物のヘキサン溶液を、減圧乾固して、実験Iと同様の条件でHPLC分析した。負の対照として、植物の水抽出物に代えて、同量の純水を用いて同様の処理を行った。
【0115】
[II-2:結果]
各植物の水抽出物を用いたリノール酸の酸化反応の反応生成物を表3に示す。脂肪酸ブランクの反応は、各植物の水抽出物に含まれる内因性リノール酸の酸化反応に相当する。また、各植物の水抽出物の調製に使用された植物の新鮮重量を表4に示す。表3に示すように、パプリカ及びナスの水抽出物を用いた場合、トマトの水抽出物を用いた場合と比較して、より多量のリノール酸の酸化誘導体が形成された。
【表3】
【表4】
【0116】
各植物の水抽出物を用いたリノール酸の酸化反応の反応生成物におけるリノール酸のオキソ誘導体の分析結果を図1に示す。図中、A〜Cは、ナス、パプリカ又はトマトの水抽出物を用いたリノール酸の酸化反応の反応生成物の検出波長234 nmによる分析HPLCクロマトグラムを、それぞれ示す。Dは、リノール酸の過酸化物及びヒドロキシル誘導体の標品(各500 ng)の検出波長234 nmによる分析HPLCクロマトグラムを示す。E〜Gは、ナス、パプリカ又はトマトの水抽出物を用いたリノール酸の酸化反応の反応生成物の検出波長270 nmによる分析HPLCクロマトグラムを、それぞれ示す。図1E〜Gに示すように、保持時間40分付近に、検出波長270 nmによる分析HPLCクロマトグラムにのみ存在する新たなピークが出現した(ピーク番号9〜11)。このピークに相当する物質は、パプリカ及びナスの水抽出物を用いた場合、トマトの水抽出物を用いた場合と比較して、より多量に形成された。リノール酸の過酸化物及びヒドロキシル誘導体は、234 nm付近に極大吸収を有するのに対し、リノール酸のオキソ誘導体は、234 nm付近に吸収帯がなく、270 nm付近に極大吸収を有する。それ故、これらの新たに出現したピークに相当する物質は、リノール酸のオキソ誘導体であると推測される。
【0117】
<実験III:トマトの水抽出物を用いるリノール酸のオキソ誘導体の調製>
[III-1:材料及び方法]
トマトの水抽出物を用いて、リノール酸のオキソ誘導体の調製を実施した。実験Iの手順において、反応基質を、リノール酸から10 μL(9 mg)のリノール酸のヒドロキシル誘導体(13-(Z,E)-HODE)に変更した他は前記と同様の手順で、反応混合物を調製した。13-(Z,E)-HODEは、ダイズの水抽出物を用いてリノール酸の酸化反応を実施することによって得たものを使用した。水酸化ナトリウム水溶液を用いて、反応混合物のpHを、pH 11に調整した。この反応混合物を、室温で20時間反応させた後、反応混合物から50 μLを抜き取った。抜き取った反応混合物を、それぞれ450 μLのエタノール中に懸濁して、タンパク質等を沈殿させた後、分析用試料としてフリーザー中で保存した。各反応温度の分析用試料を遠心分離(4000 rpm、5分間)し、得られた上清を、下記の条件でHPLC分析した。また、HPLC分析で同定されたリノール酸の酸化誘導体を、反応混合物の全量から分取HPLCで分取した。分取した画分を、液体クロマトグラフィー-質量スペクトル(LC-MS)を用いて下記の条件で質量スペクトル(MS)測定した。
【0118】
〔HPLC条件〕
○リノール酸のオキソ誘導体の分析HPLC
カラム: TSK Octadecyl-2PW 4.6×150 mm(東ソー株式会社)
カラム温度: 室温
試料注入量: 100 μL
溶媒: A:0.1%リン酸水溶液, pH 7.6
B:アセトニトリル
混合比 28%B
流速: 0.7 mL/分
検出: 270 nm
【0119】
○リノール酸のオキソ誘導体の分取HPLC
カラム: TSK ODS 100V(3μ) 4.6×150 mm(東ソー株式会社)
カラム温度: 40℃
試料注入量: 5 μL
溶媒: A:0.1%ギ酸水溶液
B:0.1%ギ酸アセトニトリル溶液
混合比 60%B/0分-90%B/30分-90%B/35分-60%B/36分
流速: 0.5 mL/分
検出: 270 nm
【0120】
〔LC-MS条件〕
○LC
カラム: Capcellcore C18 2.1×150 mm(資生堂)
カラム温度: 40℃
試料注入量: 2 μL
溶媒: A:0.1%ギ酸アセトニトリル溶液
B:0.1%ギ酸水溶液
混合比 50%A/0分-100%A/8分-100%A/10分
流速: 0.4 mL/分
検出: UV 190 nm及びMS
○MS
MS装置: The AccuToF LC-Plus / JMS-T100Lp (JEOL)
イオン化: 正又は負イオンモードESI
【0121】
[III-2:結果]
トマトの水抽出物を用いた13-(Z,E)-HODEの酸化反応の分析結果を図2に示す。図中、Aは、反応混合物の分析HPLCクロマトグラムを、Bは、反応混合物から分取した画分のMSスペクトルを示す。図2Aに示すように、トマトの水抽出物を用いて反応させた場合、保持時間20分付近に新たなピーク(ピーク番号12)が出現した。このピーク番号12のピークを含む画分を分取HPLCで分取した後、MSスペクトルを測定した。その結果、前記ピークに相当する物質は、リノール酸のオキソ誘導体(13-(Z,E)-oxo-ODE)(分子量:294、m/z 295([M+H]+)、m/z 293([M-H]-))と同定された(図2B)。
【0122】
<実験IV:野菜果実ジュースを用いる不飽和脂肪酸の酸化反応>
[IV-1:材料及び方法]
植物の水抽出物として市販の野菜果実ジュースを用いて、リノール酸の酸化反応を実施した。実験Iの手順において、植物の水抽出物を2 mLの市販の野菜果実ジュース(農協 野菜100%ニンジンミックス、株式会社ふくれん甘木工場)に変更した他は前記と同様の手順で、反応混合物を調製した。正の対照として、実験Iと同様の手順で、キュウリの水抽出物を含む反応混合物を調製した。反応混合物を、そのままのpHで、室温で20時間反応させた後、反応混合物から50 μLを抜き取った。抜き取った反応混合物を、それぞれ450 μLのエタノール中に懸濁して、タンパク質等を沈殿させた後、分析用試料としてフリーザー中で保存した。分析用試料を遠心分離(4000 rpm、5分間)し、得られた上清を、実験Iと同様の条件でHPLC分析した。
【0123】
[IV-2:結果]
野菜果実ジュースを用いたリノール酸の酸化反応の反応生成物を表5に示す。表中、上段は、野菜果実ジュース又はキュウリの水抽出物にリノール酸を加えて反応させた反応混合物の分析結果を、下段は、野菜果実ジュース又はキュウリの水抽出物のみを反応させた脂肪酸ブランクの反応混合物の分析結果を、それぞれ示す。表5に示すように、市販の野菜果実ジュースを用いた場合であっても、植物の水抽出物を用いた場合と同様に、リノール酸の酸化誘導体を生成した。
【表5】
【0124】
<実験V:不飽和脂肪酸の酸化反応における反応時間>
[V-1:材料及び方法]
ダイズの水抽出物を用いて、リノール酸の酸化反応における反応時間と反応生成物との関係を調査した。実験Iの手順において、ダイズの水抽出物の量を4 mLに、市販のリノール酸の量を40 μL(36 mg)に、それぞれ変更した他は前記と同様の手順で、ダイズの水抽出物の反応混合物を調製した。反応開始から0時間、1時間、2時間、4時間、8時間、12時間、16時間及び20時間後に、反応混合物から50 μLを抜き取った。抜き取った反応混合物を、それぞれ450 μLのエタノール中に懸濁して、タンパク質等を沈殿させた後、分析用試料としてフリーザー中で保存した。各反応時間の分析用試料を遠心分離(4000 rpm、5分間)し、得られた上清を、実験Iと同様の条件でHPLC分析した。
【0125】
[V-2:結果]
リノール酸の酸化反応の反応時間と酸化誘導体の生成量との関係を図3に示す。図中の酸化誘導体の生成量は、2 mLのダイズの水抽出物を使用した場合の換算値である。図3に示すように、反応時間が長くなるほど、13-ヒドロキシル誘導体である13-(Z,E)-HODE(Fr. 1)の生成量が増加した。これに対し、他の酸化誘導体の生成量は、反応時間を延長しても有意な変化が認められなかった。
【0126】
<実験VI:植物の水抽出物による不飽和脂肪酸の酸化反応におけるpH(1)>
[VI-1:材料及び方法]
ダイズの水抽出物を用いて、リノール酸の酸化反応におけるpHと反応生成物との関係を調査した。実験Iの手順において、塩酸及び水酸化ナトリウム水溶液を用いて反応開始前の反応混合物のpHをpH 4、6、8、10又は11に調整するように変更した他は、前記と同様の手順で、ダイズの水抽出物の反応混合物を調製した。反応混合物のpHは、pH試験紙で確認した。反応混合物を、室温で7時間反応させた後、反応混合物から50 μLを抜き取った。抜き取った反応混合物を、それぞれ450 μLのエタノール中に懸濁して、タンパク質等を沈殿させた後、分析用試料としてフリーザー中で保存した。各反応温度の分析用試料を遠心分離(4000 rpm、5分間)し、得られた上清を、実験Iと同様の条件でHPLC分析した。
【0127】
カブの水抽出物を用いて、リノール酸の酸化反応におけるpHと反応生成物との関係を調査した。実験Iの手順において、塩酸及び水酸化ナトリウム水溶液を用いて反応開始前の反応混合物のpHをpH 4、6、8、10又は11に調整するように変更した他は、前記と同様の手順で、カブの水抽出物の反応混合物を調製した。反応混合物のpHは、pH試験紙で確認した。反応混合物を、室温で7時間反応させた後、反応混合物から50 μLを抜き取った。抜き取った反応混合物を、それぞれ450 μLのエタノール中に懸濁して、タンパク質等を沈殿させた後、分析用試料としてフリーザー中で保存した。各反応温度の分析用試料を遠心分離(4000 rpm、5分間)し、得られた上清を、実験Iと同様の条件でHPLC分析した。
【0128】
[VI-2:結果]
ダイズの水抽出物を用いたリノール酸の酸化反応のpHと酸化誘導体の生成量との関係を図4に示す。図中の酸化誘導体の生成量は、2 mLのダイズの水抽出物を使用した場合の換算値である。図4に示すように、ダイズの水抽出物を使用した場合、試験した全pH範囲、特にpH 6を越えるpHの範囲で反応が進行した。酸化誘導体の生成量に基づく至適pHは、pH 10であった。pH 8、10又は11の条件で反応を実施した際に、13-ヒドロキシル誘導体である13-(Z,E)-HODE(Fr. 1)が優先的に生成した。これに対し、pH 4又は6の条件で反応を実施した際は、酸化誘導体の生成量が全体的に減少した。
【0129】
カブの水抽出物を用いたリノール酸の酸化反応のpHと酸化誘導体の生成量との関係を図5に示す。図中の酸化誘導体の生成量は、2 mLのカブの水抽出物を使用した場合の換算値である。図5に示すように、カブの水抽出物を使用した場合、試験した全pH範囲、特にpH 8未満且つpH 4を越えるpHの範囲で反応が進行した。酸化誘導体の生成量に基づく至適pHは、pH 6であった。pH 6の条件で反応を実施した際に、9-ヒドロキシル誘導体である9-(Z,E)-HODE(Fr. 2)が優先的に生成した。これに対し、pH 4、8、10又は11の条件で反応を実施した際は、酸化誘導体の生成量が全体的に減少した。
【0130】
<実験VII:植物の水抽出物による不飽和脂肪酸の酸化反応におけるpH(2)>
[VII-1:材料及び方法]
キュウリ、ニンジン、トマト及びナスの水抽出物を用いて、リノール酸の酸化反応におけるpHと反応生成物との関係を調査した。実験Iの手順において、塩酸及び水酸化ナトリウム水溶液を用いて反応開始前の反応混合物のpHを、キュウリの水抽出物ではpH 3、5、7、9又は11に、ニンジンの水抽出物ではpH 3、5、7又は9に、トマトの水抽出物ではpH 3、5又は7に、ナスの水抽出物ではpH 3、5、7又は9に、それぞれ調整するように変更した他は、前記と同様の手順で、各植物の水抽出物の反応混合物を調製した。反応混合物のpHは、pH試験紙で確認した。反応混合物を、室温で20時間反応させた後、反応混合物から50 μLを抜き取った。抜き取った反応混合物を、それぞれ450 μLのエタノール中に懸濁して、タンパク質等を沈殿させた後、分析用試料としてフリーザー中で保存した。各反応温度の分析用試料を遠心分離(4000 rpm、5分間)し、得られた上清を、実験Iと同様の条件でHPLC分析した。
【0131】
[VII-2:結果]
キュウリ、ニンジン、トマト又はナスの水抽出物を用いたリノール酸の酸化反応のpHと酸化誘導体の生成量との関係を、図6、7、8又は9にそれぞれ示す。図中の酸化誘導体の生成量は、2 mLの植物の水抽出物を使用した場合の換算値である。図6に示すように、キュウリの水抽出物を使用した場合、試験した全pH範囲、特にpH 11以下且つpH 3以上のpHの範囲で反応が進行した。酸化誘導体の生成量に基づく至適pHは、pH 7であった。pH 5の条件で反応を実施した際、過酸化物である13-(Z,E)-HPODE(Fr. 5)、9-(Z,E)-HPODE(Fr. 6)、13-(E,E)-HPODE(Fr. 7)及び9-(E,E)-HPODE(Fr. 8)が優先的に生成した。これに対し、pH 7、9又は11の条件で反応を実施した際は、ヒドロキシル誘導体である13-(Z,E)-HODE(Fr. 1)、9-(Z,E)-HODE(Fr. 2)、13-(E,E)-HODE(Fr. 3)又は9-(E,E)-HODE(Fr. 4)が優先的に生成した。
【0132】
図7に示すように、ニンジンの水抽出物を使用した場合、試験した全pH範囲、特にpH 7未満且つpH 3以上のpHの範囲で反応が進行した。酸化誘導体の生成量に基づく至適pHは、pH 5であった。pH 3又は5の条件で反応を実施した際、ヒドロキシル誘導体である13-(Z,E)-HODE(Fr. 1)、9-(Z,E)-HODE(Fr. 2)、13-(E,E)-HODE(Fr. 3)又は9-(E,E)-HODE(Fr. 4)が優先的に生成した。これに対し、pH 7又は9の条件で反応を実施した際は、酸化誘導体の生成量が全体的に減少した。
【0133】
図8に示すように、トマトの水抽出物を使用した場合、pH 7未満、特にpH 7未満且つpH 3以上のpHの範囲で反応が進行した。酸化誘導体の生成量に基づく至適pHは、pH 3であった。pH 3及び5の条件で反応を実施した際、過酸化物である13-(Z,E)-HPODE(Fr. 5)、9-(Z,E)-HPODE(Fr. 6)、13-(E,E)-HPODE(Fr. 7)及び9-(E,E)-HPODE(Fr. 8)が優先的に生成した。
【0134】
図9に示すように、ナスの水抽出物を使用した場合、試験した全pH範囲、特にpH 7未満且つpH 3以上のpHの範囲で反応が進行した。酸化誘導体の生成量に基づく至適pHは、pH 3であった。pH 3又は5の条件で反応を実施した際、過酸化物である13-(Z,E)-HPODE(Fr. 5)、9-(Z,E)-HPODE(Fr. 6)、13-(E,E)-HPODE(Fr. 7)及び9-(E,E)-HPODE(Fr. 8)、並びにヒドロキシル誘導体である9-(Z,E)-HODE(Fr. 2)が優先的に生成した。特に、9-(Z,E)-幾何配置を有する9-(Z,E)-HPODE(Fr. 6)及び9-(Z,E)-HODE(Fr. 2)が多量に生成した。これに対し、pH 7又は9の条件で反応を実施した際は、酸化誘導体の生成量が全体的に減少した。植物種間で比較すると、キュウリ及びナスの水抽出物は、ニンジン及びトマトの水抽出物と比較して、より高い酸化誘導体の生成活性を示した。
【0135】
<実験VIII:不飽和脂肪酸の酸化反応における反応温度>
[VIII-1:材料及び方法]
ダイズの水抽出物を用いて、リノール酸の酸化反応における反応温度と反応生成物との関係を調査した。実験Iと同様の手順で、ダイズの水抽出物の反応混合物を調製した。反応混合物を、20、30、40又は50℃の反応温度で7時間反応させた後、反応混合物から50 μLを抜き取った。抜き取った反応混合物を、それぞれ450 μLのエタノール中に懸濁して、タンパク質等を沈殿させた後、分析用試料としてフリーザー中で保存した。各反応温度の分析用試料を遠心分離(4000 rpm、5分間)し、得られた上清を、実験Iと同様の条件でHPLC分析した。
【0136】
ナス、ニンジン、トマト又はキュウリの水抽出物を用いて、リノール酸の酸化反応における反応温度と反応生成物との関係を調査した。実験Iと同様の手順で、各植物の水抽出物の反応混合物を調製した。塩酸及び水酸化ナトリウム水溶液を用いて、ナス、ニンジン、トマト又はキュウリの反応混合物のpHを、pH 3、5、3又は5にそれぞれ調整した。この反応混合物を、20、30、40又は50℃の反応温度で20時間、及び20℃の反応温度で44時間(ナス及びキュウリ)又は45時間(ニンジン及びトマト)反応させた後、反応混合物から50 μLを抜き取った。抜き取った反応混合物を、それぞれ450 μLのエタノール中に懸濁して、タンパク質等を沈殿させた後、分析用試料としてフリーザー中で保存した。各反応温度の分析用試料を遠心分離(4000 rpm、5分間)し、得られた上清を、実験Iと同様の条件でHPLC分析した。
【0137】
[VIII-2:結果]
ダイズの水抽出物を用いたリノール酸の酸化反応の反応温度と酸化誘導体の生成量との関係を図10に示す。図中の酸化誘導体の生成量は、2 mLのダイズの水抽出物を使用した場合の換算値である。図10に示すように、ダイズの水抽出物を使用した場合、20〜50℃の反応温度の範囲で反応が進行した。酸化誘導体の生成量に基づく至適温度は、20℃であった。30℃以下の反応温度の条件で反応を実施した際、13-ヒドロキシル誘導体である13-(Z,E)-HODE(Fr. 1)が優先的に生成した。これに対し、50℃の反応温度の条件で反応を実施した際は、二重結合がtrans異性化したヒドロキシル誘導体である13-(E,E)-HODE(Fr. 3)及び9-(E,E)-HODE(Fr. 4)の生成量が増加した。
【0138】
ナス、ニンジン、トマト又はキュウリの水抽出物を用いたリノール酸の酸化反応の反応温度と酸化誘導体の生成量との関係を、図11、12、13又は14にそれぞれ示す。図中の酸化誘導体の生成量は、2 mLの各植物の水抽出物を使用した場合の換算値である。図11に示すように、ナスの水抽出物を使用した場合、30〜50℃の反応温度の範囲で反応が進行した。酸化誘導体の生成量に基づく至適温度は、30℃であった。30℃以下の反応温度の条件で反応を実施した際、9-(Z,E)-幾何配置を有する過酸化物である9-(Z,E)-HPODE(Fr. 6)及びヒドロキシル誘導体である9-(Z,E)-HODE(Fr. 2)が優先的に生成した。これに対し、50℃の反応温度の条件で反応を実施した際は、二重結合がtrans異性化したヒドロキシル誘導体である13-(E,E)-HODE(Fr. 3)及び9-(E,E)-HODE(Fr. 4)の生成量が増加した。
【0139】
図12に示すように、ニンジンの水抽出物を使用した場合、20〜50℃の反応温度の範囲で反応が進行した。酸化誘導体の生成量に基づく至適温度は、40℃であった。30〜50℃の反応温度の範囲の条件で反応を実施した際、過酸化物である13-(Z,E)-HPODE(Fr. 5)、9-(Z,E)-HPODE(Fr. 6)、13-(E,E)-HPODE(Fr. 7)及び9-(E,E)-HPODE(Fr. 8)が優先的に生成した。また、20℃で反応時間を延長した場合、ヒドロキシル誘導体である13-(Z,E)-HODE(Fr. 1)、9-(Z,E)-HODE(Fr. 2)、13-(E,E)-HODE(Fr. 3)又は9-(E,E)-HODE(Fr. 4)が優先的に生成した。低温で長時間(20℃、45時間)の条件で反応を実施した際にヒドロキシル誘導体が多量に生成したのは、植物の水抽出物を殺菌せずに使用したため、低温条件の方が反応系に存在する微生物の繁殖及び/又は望ましくない副反応の進行が実質的に抑制され、水抽出物に含まれるリポキシゲナーゼ及びペルオキシダーゼを介する酸化反応が優先的に進行したことに起因すると推測される。
【0140】
図13に示すように、トマトの水抽出物を使用した場合、20〜50℃の反応温度の範囲で反応が進行した。酸化誘導体の生成量に基づく至適温度は、50℃であった。40〜50℃の反応温度の範囲の条件で反応を実施した際、過酸化物である13-(Z,E)-HPODE(Fr. 5)、9-(Z,E)-HPODE(Fr. 6)、13-(E,E)-HPODE(Fr. 7)及び9-(E,E)-HPODE(Fr. 8)が優先的に生成した。これに対し、20℃で反応時間を延長した場合、ヒドロキシル誘導体である13-(Z,E)-HODE(Fr. 1)、9-(Z,E)-HODE(Fr. 2)又は13-(E,E)-HODE(Fr. 3)が優先的に生成した。
【0141】
図14に示すように、キュウリの水抽出物を使用した場合、20〜50℃の反応温度の範囲で反応が進行した。酸化誘導体の生成量に基づく至適温度は、20℃であった。20〜40℃の反応温度の範囲の条件で反応を実施した際、過酸化物である13-(Z,E)-HPODE(Fr. 5)、9-(Z,E)-HPODE(Fr. 6)、13-(E,E)-HPODE(Fr. 7)及び9-(E,E)-HPODE(Fr. 8)が優先的に生成した。
【0142】
<実験IX:不飽和脂肪酸の酸化反応における塩濃度>
[IX-1:材料及び方法]
ナスの水抽出物を用いて、リノール酸の酸化反応における塩濃度の影響を調査した。実験Iと同様の手順で、ナスの水抽出物の反応混合物を調製した。反応混合物に、30質量%塩化ナトリウム水溶液を所定量加えて、塩化ナトリウムの最終濃度を0、3、5、7又は10質量%に設定した。この反応混合物を、そのままのpHで、25℃の反応温度で20時間又は44時間反応させた後、反応混合物から50 μLを抜き取った。抜き取った反応混合物を、それぞれ450 μLのエタノール中に懸濁して、タンパク質等を沈殿させた後、分析用試料としてフリーザー中で保存した。各反応時間の分析用試料を遠心分離(4000 rpm、5分間)し、得られた上清を、実験Iと同様の条件でHPLC分析した。
【0143】
[IX-2:結果]
ナスの水抽出物を用いたリノール酸の酸化反応の塩化ナトリウム濃度と酸化誘導体の生成量との関係を図15に示す。図中、Aは、20時間の反応時間の条件で反応を実施した結果を、Bは、44時間の反応時間の条件で反応を実施した結果を、それぞれ示す。図中の酸化誘導体の生成量は、2 mLのナスの水抽出物を使用した場合の換算値である。図15に示すように、ナスの水抽出物を使用した場合、塩化ナトリウム非添加(0質量%)、又は3〜10質量%の範囲の濃度で塩化ナトリウムを含む条件下で反応が進行した。塩化ナトリウム濃度が増加すると、酸化誘導体の生成量は全体として低下したが、生成物の選択性は殆ど変化しなかった。また、反応時間を延長した場合、いずれの塩化ナトリウム濃度の場合も、酸化誘導体の生成量が全体として増加したが、生成物の選択性は殆ど変化しなかった。
【0144】
<実験X:植物の水抽出物を用いる多価不飽和脂肪酸の酸化反応>
[X-1:材料及び方法]
実験Iの手順において、反応基質のリノール酸を、10 μL(9 mg)のエイコサペンタエン酸(EPA)(分子量:302)、ドコサヘキサエン酸(DHA)(分子量:328)、α-リノレン酸(分子量:278)、又はオレイン酸(分子量:282)に変更した他は、前記と同様の手順で、ダイズ又はカブの水抽出物の反応混合物を調製した。EPA及びDHAは、市販のEPAエチルエステル及びDHAトリグリセリド(いずれもマルハニチロ社)を加水分解して調製した。α-リノレン酸及びオレイン酸は、市販のエゴマ油(朝日ST社)及びオリーブ油(日清オイリオ)をそれぞれ加水分解して調製した。塩酸及び水酸化ナトリウム水溶液を用いて、ダイズの水抽出物の反応混合物のpHを11に調整した。カブの水抽出物の反応混合物は、そのままのpH(約pH 6)で使用した。反応混合物を、室温(25℃)で20時間反応させた後、実験IIと同様の手順で、分析用試料を調製した。各分析用試料を遠心分離(4000 rpm、5分間)し、得られた上清を、下記の条件でLC-MS分析した。
【化48】
【0145】
〔LC-MS条件〕
○LC
カラム: Capcellcore C18 2.1×150 mm(資生堂)
カラム温度: 40℃
試料注入量: 2 μL
溶媒: A:0.1%ギ酸アセトニトリル溶液
B:0.1%ギ酸水溶液
混合比 50%A/0分-100%A/8分-100%A/10分
流速: 0.4 mL/分
検出: UV 190 nm及びMS
○MS
MS装置: The AccuToF LC-Plus / JMS-T100Lp (JEOL)
イオン化: 負イオンモードESI
【0146】
[X-2:結果]
カブの水抽出物を用いたEPA(分子量:302)の酸化反応の分析結果を図16-1及び16-2に示す。図中、Aは、反応混合物の検出波長190 nmによるHPLCクロマトグラムを、B〜Eは、HPLCクロマトグラム上の番号1〜4のピークのMSスペクトルを、それぞれ示す。ピーク番号1(保持時間2.35分)のピークに相当する物質は、図16-1Bに示すMSスペクトルから、EPAのヒドロキシル誘導体(m/z 317.2([M-H]-))と、ピーク番号2(保持時間2.74分)のピークに相当する物質は、図16-1Cに示すMSスペクトルから、EPAのヒドロキシル誘導体(m/z 317.2([M-H]-))及びEPAのオキソ誘導体(m/z 315.2([M-H]-))と、ピーク番号3(保持時間3.01分)のピークに相当する物質は、図16-1Dに示すMSスペクトルから、EPAのヒドロキシル誘導体(m/z 317.2([M-H]-))及びEPAのオキソ誘導体(m/z 315.2([M-H]-))と、ピーク番号4(保持時間3.67分)のピークに相当する物質は、図16-2Eに示すMSスペクトルから、EPAのオキソ誘導体(m/z 315.2([M-H]-))と、それぞれ同定された。
【0147】
ダイズの水抽出物を用いたEPA(分子量:302)の酸化反応の分析結果を図17-1及び17-2に示す。図中、Aは、反応混合物の検出波長190 nmによるHPLCクロマトグラムを、B〜Fは、HPLCクロマトグラム上の番号1〜5のピークのMSスペクトルを、それぞれ示す。ピーク番号1(保持時間2.32分)のピークに相当する物質は、図17-1Bに示すMSスペクトルから、EPAのヒドロキシル誘導体(m/z 317.2([M-H]-))と、ピーク番号2(保持時間2.70分)のピークに相当する物質は、図17-1Cに示すMSスペクトルから、EPAのヒドロキシル誘導体(m/z 317.2([M-H]-))と、ピーク番号3(保持時間3.04分)のピークに相当する物質は、図17-1Dに示すMSスペクトルから、EPAのヒドロキシル誘導体(m/z 317.2([M-H]-))と、ピーク番号4(保持時間3.28分)のピークに相当する物質は、図17-2Eに示すMSスペクトルから、EPAのオキソ誘導体(m/z 315.2([M-H]-))と、ピーク番号5(保持時間3.67分)のピークに相当する物質は、図17-2Fに示すMSスペクトルから、EPAのオキソ誘導体(m/z 315.2([M-H]-))と、それぞれ同定された。
【0148】
カブの水抽出物を用いたDHA(分子量:328)の酸化反応の分析結果を図18-1及び18-2に示す。図中、Aは、反応混合物の検出波長190 nmによるHPLCクロマトグラムを、B〜Hは、HPLCクロマトグラム上の番号1〜7のピークのMSスペクトルを、それぞれ示す。ピーク番号1(保持時間3.93分)のピークに相当する物質は、図18-1Bに示すMSスペクトルから、DHAのオキソ誘導体(m/z 341.2([M-H]-))と、ピーク番号2(保持時間4.14分)のピークに相当する物質は、図18-1Cに示すMSスペクトルから、DHAのオキソ誘導体(m/z 341.2([M-H]-))と、ピーク番号3(保持時間4.28分)のピークに相当する物質は、図18-1Dに示すMSスペクトルから、DHAのオキソ誘導体(m/z 341.2([M-H]-))と、ピーク番号4(保持時間4.46分)のピークに相当する物質は、図18-2Eに示すMSスペクトルから、DHAのオキソ誘導体(m/z 341.2([M-H]-))と、ピーク番号5(保持時間4.59分)のピークに相当する物質は、図18-2Fに示すMSスペクトルから、DHAのオキソ誘導体(m/z 341.2([M-H]-))と、ピーク番号6(保持時間4.67分)のピークに相当する物質は、図18-2Gに示すMSスペクトルから、DHAの過酸化物(m/z 359.2([M-H]-))と、ピーク番号7(保持時間5.05分)のピークに相当する物質は、図18-2Hに示すMSスペクトルから、DHAのオキソ誘導体(m/z 341.2([M-H]-))と、それぞれ同定された。
【0149】
ダイズの水抽出物を用いたDHA(分子量:328)の酸化反応の分析結果を図19に示す。図中、Aは、反応混合物の検出波長190 nmによるHPLCクロマトグラムを、B及びCは、HPLCクロマトグラム上の番号1及び2のピークのMSスペクトルを、それぞれ示す。ピーク番号1(保持時間3.85分)のピークに相当する物質は、図19Bに示すMSスペクトルから、DHAのヒドロキシル誘導体(m/z 343.2([M-H]-))と、ピーク番号2(保持時間4.11分)のピークに相当する物質は、図19Cに示すMSスペクトルから、DHAのヒドロキシル誘導体(m/z 343.2([M-H]-))と、それぞれ同定された。
【0150】
カブの水抽出物を用いたα-リノレン酸(分子量:278)の酸化反応の分析結果を図20に示す。図中、Aは、反応混合物の検出波長190 nmによるHPLCクロマトグラムを、B及びCは、HPLCクロマトグラム上の番号1及び2のピークのMSスペクトルを、それぞれ示す。ピーク番号1(保持時間2.17分)のピークに相当する物質は、図20Bに示すMSスペクトルから、α-リノレン酸のヒドロキシル誘導体(m/z 293.2([M-H]-))と、ピーク番号2(保持時間2.59分)のピークに相当する物質は、図20Cに示すMSスペクトルから、α-リノレン酸のオキソ誘導体(m/z 291.2([M-H]-))と、それぞれ同定された。
【0151】
ダイズの水抽出物を用いたα-リノレン酸(分子量:278)の酸化反応の分析結果を図21に示す。図中、Aは、反応混合物の検出波長190 nmによるHPLCクロマトグラムを、B及びCは、HPLCクロマトグラム上の番号1及び2のピークのMSスペクトルを、それぞれ示す。ピーク番号1(保持時間2.15分)のピークに相当する物質は、図21Bに示すMSスペクトルから、α-リノレン酸のヒドロキシル誘導体(m/z 293.2([M-H]-))と、ピーク番号2(保持時間2.33分)のピークに相当する物質は、図21Cに示すMSスペクトルから、α-リノレン酸のヒドロキシル誘導体(m/z 293.2([M-H]-))と、それぞれ同定された。
【0152】
ダイズの水抽出物を用いたオレイン酸(分子量:282)の酸化反応の分析結果を図22に示す。図中、Aは、反応混合物の検出波長190 nmによるHPLCクロマトグラムを、B及びCは、HPLCクロマトグラム上の番号1及び2のピークのMSスペクトルを、それぞれ示す。ピーク番号1(保持時間3.28分)のピークに相当する物質は、図22Bに示すMSスペクトルから、オレイン酸のオキソ誘導体(m/z 295.2([M-H]-))と、ピーク番号2(保持時間3.65分)のピークに相当する物質は、図22Cに示すMSスペクトルから、オレイン酸のオキソ誘導体(m/z 295.2([M-H]-))と、それぞれ同定された。
【0153】
なお、本発明は、前記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、前記した実施例は、本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加、削除及び/又は置換をすることが可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16-1】
図16-2】
図17-1】
図17-2】
図18-1】
図18-2】
図19
図20
図21
図22