【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで、本発明者は、この点を検討しようとし、まず、hPUFタンパク質における8つのリピートモチーフR1〜R8以外のドメイン、すなわち、N末端のドメインと、C末端のドメインが、RNA認識に必要なのかどうかを明らかにすることを試みた。ここで、説明の便宜上、N末端のドメインをR1'ドメインと呼び、C末端のドメインをR8'ドメインと呼ぶこととする。なお、R1'ドメインとR8'ドメインのアミノ酸配列は以下の通りである。
R1':GRSRLLEDFRNNRYPNLQLREIAG(配列番号9)
R8':HIATLRKYTYGKHILAKLEKYYMKNGVDLG(配列番号10)
【0008】
R1'ドメインとR8'ドメインがRNA認識に必要なのかどうかを明らかにするために、野生型のhPUFタンパク質のほかに、以下の3つのhPUFタンパク質変異体を作製した。
1)hPUFタンパク質のN末端のR1'ドメイン欠損体
2)hPUFタンパク質のC末端のR8'ドメイン欠損体
3)hPUFタンパク質のR1'/R8'ドメイン欠損体
【0009】
ここで、野生型のhPUFタンパク質の合成は、以下のように行った。
まず、野生型のhPUFタンパク質の遺伝子のコドンをチェックし、大腸菌でのレアコドンを排除し、かつPCRで正しい順番にアッセンブルされるように遺伝子配列を改変した。
その改変した遺伝子を8つのフラグメントに分割し、それぞれのフラグメントに対応する1対のオリゴマーを化学合成した。
それぞれのペアのオリゴマー同士を加熱した後、温度を下げてアニーリングした。
個別に作製した、それぞれのDNAフラグメントをひとつに集めてPCRにより正しい順番に連結して、野生型のhPUFタンパク質の遺伝子を合成した。
その遺伝子を大腸菌発現ベクターpET24aに組み込むことにより、大腸菌での高発現ベクターを構築した。
【0010】
次いで、野生型hPUFタンパク質遺伝子を基にして、上記の1)〜3)の欠損体の遺伝子をそれぞれ分子生物学的に作製し、野生型と同じように大腸菌発現ベクターpET24aにクローニングすることとした。
【0011】
すなわち、野生型hPUFタンパク質の発現ベクターを発現用大腸菌株BL21(DE3)に導入した後、OD600が〜0.65になった時にIPTGを添加して、37℃で3時間培養して、タンパク質を発現させた。
【0012】
しかしながら、上記の1)〜3)の欠損体はいずれも不溶化し、このままでは、RNA結合実験に使用できるタンパク質が得られないという問題が生じた。
【0013】
このことは、逆に、可溶化する野生型hPUFタンパク質は、可溶化条件を満たしていることを示唆しているものであり、この知見に基づいて本発明を成すに至ったものである。
【0014】
さらに、本発明者は、野生型hPUFタンパク質における8つのリピートモチーフR1〜R8において、R7をR5に置換した人工RNA結合タンパク質を設計及び発現させたところ、可溶化した状態で発現することを確認した。さらに、発現させたR7をR5に置換した人工RNA結合タンパク質であるhPUF#MT(R7→R5)を用いたゲルシフトアッセイにより、この人工RNA結合タンパク質は、RNAに結合することを確認した。
【0015】
hPUF_MT(R7→R5)におけるR1-R2-R3-R4-R5-R6-R5-R8の各ドメインのアミノ酸配列を以下に示す。
R1 :HIMEFSQDQHGSRFIQLKLERATPAERQLVFNEILQ(配列番号1)
R2 :AAYQLMVDVFGNYVIQKFFEFGSLEQKLALAERIRG(配列番号2)
R3 :HVLSLALQMYGCRVIQKALEFIPSDQQNEMVRELDG(配列番号3)
R4 :HVLKCVKDQNGNHVVQKCIECVQPQSLQFIIDAFKG(配列番号4)
R5 :QVFALSTHPYGCRVIQRILEHCLPDQTLPILEELHQ(配列番号5)
R6 :HTEQLVQDQYGNYVIQHVLEHGRPEDKSKIVAEIRG(配列番号6)
R5 :QVFALSTHPYGCRVIQRILEHCLPDQTLPILEELHQ(配列番号5)
R8 :ALYTMMKDQYANYVVQKMIDVAEPGQRKIVMHKIRP(配列番号8)
【0016】
本発明のRNA結合タンパク質では、複数のリピートモチーフを有し、この複数のリピートモチーフのN末端に結合したN末端側ドメインと、C末端に結合したC末端ドメインとを有するRNA結合タンパク質において、N末端側ドメインのアミノ酸配列を
GRSRLLEDFRNNRYPNLQLREIAG(配列番号9)
で、C末端ドメインのアミノ酸配列を
HIATLRKYTYGKHILAKLEKYYMKNGVDLG(配列番号10)
とした人工RNA結合タンパク質である。
【0017】
上記複数のリピートモチーフとしては、上記のR1〜R8から選択される複数のリピートモチーフを挙げることができ、複数とは好ましくは4〜16個であり、より好ましくは6〜12個であり、例えば、8個である。但し、本発明の人工RNA結合タンパク質には、天然のhPUFタンパク質は含まない。上記複数のリピートモチーフとしては、天然のhPUFタンパク質におけるR3をR5に置換した変異体、即ち、R1-R2-R5-R4-R5-R6-R7-R8を一例として挙げることができる。即ち、本発明の人工RNA結合タンパク質の一例としては、
R1'- R1-R2-R5-R4-R5-R6-R7-R8-R8'
で示されるアミノ酸配列を有するタンパク質を挙げることができる。