特許第6856927号(P6856927)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6856927
(24)【登録日】2021年3月23日
(45)【発行日】2021年4月14日
(54)【発明の名称】模擬動物器官の製造方法、模擬動物器官
(51)【国際特許分類】
   G09B 23/28 20060101AFI20210405BHJP
【FI】
   G09B23/28
【請求項の数】13
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-538138(P2016-538138)
(86)(22)【出願日】2016年6月6日
(86)【国際出願番号】JP2016066731
(87)【国際公開番号】WO2017010190
(87)【国際公開日】20170119
【審査請求日】2019年5月15日
(31)【優先権主張番号】特願2015-138381(P2015-138381)
(32)【優先日】2015年7月10日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】519288582
【氏名又は名称】KOTOBUKI Medical株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112689
【弁理士】
【氏名又は名称】佐原 雅史
(74)【代理人】
【識別番号】100128934
【弁理士】
【氏名又は名称】横田 一樹
(72)【発明者】
【氏名】高山 成一郎
【審査官】 彦田 克文
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−360572(JP,A)
【文献】 特開平02−026567(JP,A)
【文献】 特開平06−165648(JP,A)
【文献】 特開2015−036809(JP,A)
【文献】 特開2013−015789(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/016353(WO,A1)
【文献】 特開2014−113695(JP,A)
【文献】 特開2007−185136(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G09B 23/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
医療用の手術器具の練習用途として用いられる模擬動物器官を製造するための方法であって
マンナンを主成分とする原材料と水を混ぜて糊化し、成形して成形体を得る成形工程と、
前記成形体を0℃以下に維持して前記成形体の少なくとも外表面を凍結させる低温工程と、
を有することを特徴とする模擬動物器官の製造方法。
【請求項2】
前記低温程により、前記成形体の少なくとも前記外表面を繊維化させることを特徴とする、
請求項1に記載の模擬動物器官の製造方法。
【請求項3】
前記原材料に電解質を含有させることで、前記模擬動物器官が電気メスの切断手技練習用途として用いられることを特徴とする、
請求項1又は2に記載の模擬動物器官の製造方法。
【請求項4】
前記電解質は、1.0重量%以下であることを特徴とする、
請求項3に記載の模擬動物器官の製造方法。
【請求項5】
前記電解質は、塩化ナトリウムであることを特徴とする、
請求項3又は4に記載の模擬動物器官の製造方法。
【請求項6】
前記成形工程では、増粘剤を混ぜることを特徴とする、
請求項1乃至5のいずれかに記載の模擬動物器官の製造方法。
【請求項7】
前記成形体を乾燥させる乾燥工程を更に有することを特徴とする、
請求項1乃至6のいずれかに記載の模擬動物器官の製造方法。
【請求項8】
前記低温工程後に、前記乾燥工程を行うことを特徴とする、
請求項7に記載の模擬動物器官の製造方法。
【請求項9】
前記乾燥工程後に、前記低温工程を行うことを特徴とする、
請求項7に記載の模擬動物器官の製造方法。
【請求項10】
前記低温工程の後に、前記成形体を、殺菌される程度まで加熱する加熱工程を更に有することを特徴とする、
請求項1乃至9のいずれかに記載の模擬動物器官の製造方法。
【請求項11】
前記成形工程において、前記成形体の内部に異物を収容すること特徴とする、
請求項1乃至10のいずれかに記載の模擬動物器官の製造方法。
【請求項12】
前記成形体の内部又は外周に、マンナンを主成分とする原材料と水を混ぜて糊化した第二素材を充填又は積層する第二成形工程を有することを特徴とする、
請求項1乃至11のいずれかに記載の模擬動物器官の製造方法。
【請求項13】
請求項1乃至12のいずれかの製造方法によって製造されることを特徴とする模擬動物器官。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人等の動物に対する手術の練習や、その他の目的で活用可能な模擬動物器官に関する。
【背景技術】
【0002】
人間を含む動物に等に対して、外科手術が広く行われている。例えば、臓器から腫瘍等を摘出する手術、臓器の一部を切除する手術、臓器を移植する手術、臓器を縫合する手術などが知られている。
【0003】
この種の外科手術は、メス(電気メスを含む)による切開作業や、縫合又は吻合等における運針作業において、外科医師に相応のテクニックが求められるとこから、実際に手術を行う前に、これらの手技の練習を行うのが通常である。
【0004】
そこで、従来、医学教育実習や手術手技訓練等のために生体モデル(模擬動物器官)が用いられている。これらの模擬動物器官は、一般的に、シリコーン樹脂製やポリウレタン製となるが、その他にも、ポリマー樹脂を用いた生体モデルも提案されている(特許4126374号参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、模擬動物器官としてシリコーン樹脂等を用いると、材料価格が高価となってしまい、練習用途に不向きであるという問題があった。シリコーン樹脂等の模擬動物器官は、何度も繰り返し利用して練習することが想定されるが、衛生的ではなく、メスによる切開作業を行ってしまうと、再利用が難しいという問題もあった。
【0006】
同様に、ポリビニルアルコール(PVA)等を利用した模擬動物器官の場合、電気メスによって溶けるように切断されるので、実際の生体の感触と乖離しており、練習に不向きであるという問題があった。
【0007】
また、医療現場では、練習目的で使用された後の模擬動物器官が大量に廃棄されることになるが、シリコーン樹脂やポリマー樹脂等の化学成分材料の場合、処分時に環境に悪影響を及ぼしやすいという問題があった。
【0008】
更にこの種の模擬動物器官では、メス等で切開するときの柔軟性、弾力等が、実際の生体の器官、組織と同じ又は近似することが望ましい。しかし、従来の模擬動物器官では、切開したときの感触が、実際の生体と異なっており、とりわけ、切開後の臓器内部の状態を再現することができないという問題があった。
【0009】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、実際の動物の器官に近い状態で、教育実習や手術の練習を行うことが可能な模擬動物器官を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成する本発明は、マンナンを主成分とする原材料と水を混ぜて糊化し、成形して成形体を得る成形工程と、前記成形体を常温より低い低温環境に維持する低温工程と、を有することを特徴とする模擬動物器官の製造方法である。
【0011】
上記製造方法に関連して、前記低温工程では、前記成形体を0℃以下に維持することを特徴とする。
【0012】
上記製造方法に関連して、前記低温工程では、前記成形体を凍結させることを特徴とする。
【0013】
上記製造方法に関連して、前記成形工程では、前記水に電解質を混ぜることを特徴とする。
【0014】
上記製造方法に関連して、前記電解質は、1.0重量%以下であることを特徴とする。
【0015】
上記製造方法に関連して、前記電解質は、塩化ナトリウムであることを特徴とする。
【0016】
上記製造方法に関連して、前記成形工程では、増粘剤を混ぜることを特徴とする。
【0017】
上記製造方法に関連して、前記成形体を乾燥させる乾燥工程を更に有することを特徴とする。
【0018】
上記製造方法に関連して、前記低温工程後に、前記乾燥工程を行うことを特徴とする。
【0019】
上記製造方法に関連して、前記乾燥工程後に、前記低温工程を行うことを特徴とする。
【0020】
上記製造方法に関連して、前記成形体を加熱する加熱工程を更に有することを特徴とする。
【0021】
上記製造方法に関連して、前記低温工程の後に、前記加熱工程を行うことを特徴とする。
【0022】
上記製造方法に関連して、前記成形工程において、前記成形体の内部に異物を収容すること特徴とする。
【0023】
上記製造方法に関連して、前記成形体の内部又は外周に、マンナンを主成分とする原材料と水を混ぜて糊化した第二素材を充填又は積層する第二成形工程を有することを特徴とする。
【0024】
上記目的を達成する本発明は、上記のいずれかの製造方法によって製造されることを特徴とする模擬動物器官である。
【0025】
上記目的を達成する本発明は、主成分とするマンナンと、電解質と、水と、を含有する糊化材料で成形されることを特徴とする模擬動物器官である。
【0026】
上記模擬動物器官に関連して、前記糊化材料における前記電解質は1.0重量%以下であることを特徴とする。
【0027】
上記模擬動物器官に関連して、前記電解質は、塩化ナトリウムであることを特徴とする。
【0028】
上記模擬動物器官に関連して、前記糊化材料は、増粘剤を含有することを特徴とする。
【0029】
上記模擬動物器官に関連して、前記糊化材料における前記増粘剤は5.0重量%以下であることを特徴とする。
【0030】
上記目的を達成する本発明は、主成分とするマンナンと、増粘剤と、水と、を含有する糊化材料で成形されることを特徴とする模擬動物器官である。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、実際の動物の器官に極めて近い状態の模擬動物器官を得ることができるという優れた効果を奏し得る。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】本発明の第1の実施形態に係る模擬動物器官の製造工程を示すフロー図である。
図2】同模擬動物器官を示す平面図である。
図3】同模擬動物器官において(A)電気メスで切開する状態を示す平面図、(B)鉗子で内部の肉をつまんでいる状態を示す平面図、(C)切開部分を縫合する状態を示す平面図である。
図4】(A)は積層態様の同模擬動物器官を示す断面図、(B)乃至(D)は同模擬動物器官の他の構成例を示す断面図である。
図5】本発明の第2の実施形態に係る模擬動物器官の製造工程を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明の第1の実施の形態を添付図面を参照して説明する。
【0034】
図1には、本発明の第1の実施形態に係る模擬動物器官の製造工程が示されている。
【0035】
<混練・糊化工程(S110)>
混練・糊化工程S110では、まず、マンナンを主成分とする原材料と水を混ぜて混練して原液を得る。マンナンは、マンノースをおもな構成単位とする多糖類であり、例えば、グルコマンナン、ガラクトマンナン、コンニャク粉(グルコマンナンの一種)などを用いることができる。グルコマンナンは、グルコースとマンノースがおよそ2:3〜1:2の割合で重合したものである。ガラクトマンナンは、マンノースとガラクトースが重合したものである。
【0036】
原材料と水の混合比率は、例えば3:97であり、水に対して原材料を徐々に加えながら撹拌して原液を作製し、しばらく放置する。なお、原液に対して着色材料を混ぜ合わせることも好ましい。例えば、動物の器官に近い色(内蔵であればピンク色、赤褐色)で着色すればよい。
【0037】
その後、水酸化カルシウム等を加えて原液を更に撹拌することで糊化させる。結果、いわゆるコンニャク糊を得ることができる。
【0038】
<成形工程(S120)>
成形工程S120では、コンニャク糊を、目的とする動物器官と同じ形状に成形する。例えば臓器の場合、臓器の形状を模した型枠にコンニャク糊を流し込んで立体的に成形する。皮膚の場合、プレート状の型枠にコンニャク湖を流し込んでシート状に成形する。血管の場合は、丸孔又は環状孔からコンニャク糊を連続的に押出成型して、紐状又は管状に成形しても良い。勿論、押出成型ではなく、型枠によって血管、腸管、食道、肺、舌等を成型しても良い。この結果、コンニャク糊が所望の形状に成形された成形体を得ることができる。
【0039】
<低温工程(S130)>
低温工程S130では、成形体を常温より低い低温環境に一定時間維持する。これにより、成形体の内部の引張強度や、引き裂き強さを高めることができる。例えば、臓器に対する手技を練習する場合、電気メスで臓器を切開し、切開部内に鉗子を挿入して臓器内部をつまむ場合がある。鉗子で臓器内部をつまみながら更に奥側を切開し、又は、臓器内部を鉗子で引っ張りながら剥離や摘出手術を行う必要があるからである。そこで、低温工程によって、成形体の内部の引張強度、引き裂き強度を高めることによって、そのような手技の練習を行う環境を提供する。
【0040】
低温工程S130では、具体的に成形体を0℃以下に維持して少なくとも一部を凍結させる。凍結させると、コンニャク糊の互いの結合状態が強くなり、鉗子でつまんでも、成形体が潰れたり、千切れたりする状況を適度に低減させることができ、実際の臓器に極めて近い内部状態となる。効率的に凍結させるためには、例えばマイナス15℃以下の環境に維持することが好ましく、より望ましくは、マイナス20℃以下に維持する。例えば、マイナス27℃程度で30分〜数時間に亘って維持することができる。
【0041】
また、この低温工程S130では、成形体の外表面側を凍結させながらも、中心は非凍結状態にすることも好ましい。このようにすると、表面側の引張強度が強く、中心側に向かって徐々にやわらかくなる模造動物臓器を得ることができる。また、凍結部分の間と非凍結部分の特性値の違いにより、境界を形成することが可能となり、その境界に沿って剥離手技を練習することが可能となる。実際の臓器も、そのような構造が多々あるため、練習に極めて好ましい態様となる。
【0042】
<乾燥工程(S140)>
乾燥工程S140では、成形体の水分を蒸発させて乾燥させる。本乾燥工程S140は、成形体の外表面近傍を乾燥させれば十分であり、これにより、外表面のみの引張強度を高めることが可能となる。臓器の種類によっては、表皮(又は外袋)が存在していた方が実践に近い場合があり、この乾燥工程S140によって表皮を模擬的に形成することができる。なお、表皮が不要の場合は、この乾燥工程S140を省略することができる。
【0043】
一方、乾燥工程S140で成形体を乾燥させすぎると、いわゆるジャーキーのような状態となり、引張強度が強くなりすぎて、実際の生体の再現性が悪くなる可能性がある。また成形体の内部まで乾燥させることが難しい。仮に内部深くまで乾燥させようとすると、表面が乾燥しすぎてしまう。従って、臓器の再現には、適度な強度を生み出す低温工程S130が優先され、それに対して乾燥工程S140を組み合わせることで、成形体内部の引張強度と、外表面の引張強度を適切に制御することが好ましい。この際、乾燥工程S140は低温工程S130の後に行うことが好ましいが、再現する臓器の目的に応じて、低温工程S130よりも乾燥工程S140を先に実行した方が良い場合もある。
【0044】
なお、いわゆる真空凍結乾燥によって、低温工程S130と乾燥工程S140を同時に行うことも可能である。
【0045】
例えば、乾燥工程S140よりも低温工程S130を先に行うと、外表面と内部の双方が、少し網目状(繊維状)に変化し、全体的に引張強度を高めることができる。後の乾燥工程S140によって外表面の硬さが増大するが、網目状の組成は特に変化しない。
【0046】
一方、低温工程S130よりも乾燥工程S140を先に行うと、外表面を滑らか(密状態)となり、この外表面の強度を局所的に増大させることができる。後の低温工程S130によって、内部のみが少し網目状となり、内部の引張強度を高めることができる。従って、例えば低温工程S130よりも乾燥工程S140を先に行うことで制作した臓器は、外表面から注射針によって内部に液体を注入するような練習をおこなっても、その液体が外表面から漏れ出しにくいという利点がある。
【0047】
<加熱工程(S150)>
加熱工程S150では、成形体を加熱して弾力性を高める。具体的には沸騰した湯に成形体を入れて、数十分加熱すれば良い。なお、臓器の種類によっては、弾力性が要求されない場合があり、その場合は加熱時間を短くするか、常温以上の温度の範囲内で加熱温度を下げるか、或いは加熱工程S150を省略することができる。ただし、この加熱工程S150は、殺菌工程を兼ねることができるので、必要に応じて行うことが好ましい。勿論、加熱殺菌以外の手法で殺菌することもできる。
【0048】
この加熱工程S150は、低温工程S130及び乾燥工程S140よりも後に行うことが好ましい。先に加熱工程S150を行って弾力を持たせてしまうと、その後に低温工程S130又は乾燥工程S140を行っても、目的とする引張強度が得られにくいからである。以上の工程を経て、模擬動物器官10が完成する
【0049】
<保存工程(S160)>
【0050】
保存工程S160では、上記の複数の工程が終了した模擬動物器官10を強アルカリ液に浸漬してパッケージする。これにより、数か月から数年の常温又は冷蔵保存を実現する。
【0051】
図2に上記工程で製造された模擬動物器官10を示す。この模擬動物器官10は、実際の内臓等の臓器の再現性が高い。具体的には以下の利点を有する。
【0052】
(1)通電性
本模擬動物器官10は、通電性を有する。従って、図3(A)に示すように、電気メス40による手技を練習することが可能となり、電気メスによる模擬動物器官10の切断具合も、実際の臓器と極めて近い感触を得ることができる。
【0053】
(2)保存性
本模擬動物器官10は長期保存が可能となる。パッケージ未開封であれば常温で1年以上、開封後であっても数日間の保存が可能となる。
【0054】
(3)廃棄性
本模擬動物器官10は、自然由来成分(食品)を主成分としているので、生ごみ同様に簡単に廃棄することが可能となる。また、廃棄後の処分時(例えば焼却や埋め立て時)に環境を破壊するような物質が生じない。
【0055】
(4)安価・衛生的
本模擬動物器官10は、極めて安価に量産することができる。結果、頻繁に交換(廃棄)することが可能となり、結果として、常に衛生的な環境で手技の練習が可能となる。
【0056】
(5)鉗子活用
本模擬動物器官10は、内部も適度な引っ張り強さを有する。従って、図3(B)に示すように、切開後の臓器内部の肉を鉗子50でつまんで保持したり、引っ張ったりする手技の練習を行うことができる。なお、製造時に低温工程S130を省略すると、内部がやわらかい状態となり、鉗子50でつまむと同時に材料が千切れてしまう。
【0057】
(6)縫合特性
図3(C)に示すように、本模擬動物器官10は、切開した部分を、手術用針90及び手術用糸92を利用して縫合することができる。縫合練習を行う際は、低温工程S130又は乾燥工程S140によって表面の引張強度を高めておくことが好ましい。
【0058】
(7)超音波検査
本模擬動物器官10は、エコー(超音波検査装置)検査でも、実際の臓器と近い出力状態を得ることができる。従って、エコーの練習に用いることもでき、また、エコーと外科手術を組み合わせた一連の練習も、単一の模擬動物器官10で行うこともできる。各種画像診断機器(レントゲン、CT、MRI等)においても同様である。
【0059】
なお、上記第1実施形態では、単一の原液又は単一の成形工程S120で製造する場合を例示したが、本発明はこれに限定されない。例えば、複数種類の原液を用意し、それを型枠に別々に流し込み、多層状態を形成することができる。図4(A)に示すように、平板上の型枠60に、複数種類の原液70A、70B、70Cを積層することにより、その後の低温工程S130、乾燥工程S140、加熱工程S150で異なる特性を生じるようにすれば、多層構造の模擬動物器官10を得ることができる。また、第一原液70Aを積層後に低温工程S130、乾燥工程S140、加熱工程S150を適宜選択して行い、次に第二原液70Bを積層して低温工程S130、乾燥工程S140、加熱工程S150を適宜選択して行い、最後に第三原液70Cを積層して、低温工程S130、乾燥工程S140、加熱工程S150を適宜選択して行うことも好ましい。このように複数工程化すると、第一〜第三原液70A、70B、70Cの組成が同じであっても、その後の低温工程S130、乾燥工程S140、加熱工程S150に時間差が生じるので、積層間で異なる特性を生じさせることができる。
【0060】
また、図4(B)に示すように、型枠を利用して袋状の第一模擬動物器官10Aを形成した後、更にその内部に原料を流し込んで、内部に第二模擬動物器官10Bを形成し、全体として一体化した模擬動物器官10を作製することもできる。これとは反対に、図4(C)に示すように、型枠を利用して塊状の第一模擬動物器官10Aを形成した後、更に、特に図示しない型枠を用いて、その周囲に原料を流し込んで第二模擬動物器官10Bを形成し、一体化した模擬動物器官10を作製しても良い。この際、例えば点線に示すように、内部に腫瘍等を模擬的に作成した異物10Cを埋め込むようにして、模擬動物器官10を製造することもできる。このようにすると、腫瘍等を取り出す手技の練習を行ったり、異物を検知するためのエコー検査の練習を行ったりすることが可能となる。
【0061】
図4(D)に示すように、本第1実施形態の製造方法又はその他の製造方法により、(異物にもなり得る)血管を模した紐状又は管状の模擬血管Kを形成し、この模擬血管Kを模擬動物器官10の内部に埋め込むこともできる。このようにすると、模擬動物器官10を気メス等によって切開し、内部の血管Kを取り出したり、内部で血管Kを吻合(血管同士をつなげる)したりする手技を練習することもできる。
【0062】
次に本発明の第2の実施の形態を説明する。なお、第1の実施形態と共通又は類似する部分は、その説明の一部を省略し、異なる点を中心に説明する。
【0063】
図5には、本発明の第2実施形態に係る模擬動物器官の製造工程が示されている。
【0064】
<混練・糊化工程(S210)>
混練・糊化工程S210では、まず、マンナンを主成分とする原材料と、水と、電解質と、増粘剤とを混ぜて混練して原液を得る。つまり、水に電解質を混ぜることで、電解質水溶液とし、マンナンと電解質水溶液と増粘剤を混練して原液を得る。
【0065】
電解質は、水に溶けると電気を通す物質のことであり、具体的には、水中で電気を帯びたイオンとなって電気を通す性質を発揮する。電解質のイオンは、例えば、ナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、塩化物イオン、リン酸イオン、炭酸水素イオンが存在するが、他のイオン物質であっても良い。
【0066】
本第2実施形態では、電解質として塩化ナトリウム(食塩)を採用する。即ち、電解質水溶液として生理食塩水を用いる。
【0067】
増粘剤は、原液の粘性を高めたり、とろみを付けたりする物質のことであり、コンニャク糊の安定性を高めて、その分離を防止することができる。増粘剤には、動物性のもの(ゼラチン等)と植物性のもの(多糖類やセルロースの化学的誘導体等)とがある。具体的な増粘剤の例として、ペクチン、グアーガム、キサンタンガム、タマリンドガム、カラギーナン、プロピレングリコール、カルボキシメチルセルロース、でん粉、結晶セルロース、トレハロース、デキストリンなどが代表的であり、これらを単品又は混合して用いることができる。例えば、デキストリンとでん粉と増粘多糖類を混合したものを用いることができる。
【0068】
原材料と水と電解質(食塩)と増粘剤の混合比率は、例えば8:340:2:3であり、生理食塩水に対して原材料と増粘剤を徐々に加えながら撹拌して原液を作製し、しばらく放置する。なお、作製される原液における電解質(塩化ナトリウム)の含有比率は1.0重量%以下が好ましく、より好ましくは0.7重量%以下とし、0.01重量%以上とする。また、原液における増粘剤の含有比率は5.0重量%以下が好ましく、より好ましくは、3.0重量%以下とし、0.5重量%以上とする。
【0069】
その後、水酸化カルシウム等を加えて原液を更に撹拌することで糊化させる。結果、いわゆるコンニャク糊を得ることができる。
【0070】
<成形工程(S220)>
成形工程S220では、コンニャク糊を、目的とする動物器官と同じ形状に成形する。この結果、コンニャク糊が所望の形状に成形された成形体を得ることができる。なお、練習用途として、正方形や長方形、円形、球形など、任意の形状に成形しても良い。
【0071】
<低温工程(S230)>
低温工程S230では、成形体を常温より低い低温環境に一定時間維持する。凍結させると、コンニャク糊の互いの結合状態が強くなり、繊維化が進展して、鉗子でつまんでも、成形体が潰れたり、千切れたりする状況を適度に低減させることができ、実際の臓器に極めて近い内部状態となる。
【0072】
低温工程S230では、具体的に成形体を0℃以下に維持して少なくとも一部を凍結させる。増粘剤を混ぜる場合、例えば、マイナス5℃以下〜マイナス15℃以上の間に維持することが好ましい。適度な繊維化が進展し、電気メスによる切断時の水分漏出量を抑制しつつも、適切な強度を確保できる。例えば、マイナス8℃程度で10時間に亘って維持する。なお、マイナス15℃未満(例えばマイナス20℃)で冷凍すると、繊維化が進展しすぎる場合があり、保水力が低下して、電気メスによる切断時の水分漏出量がかえって増えてしまう場合が有る。
【0073】
<乾燥工程(S240)>
乾燥工程S240では、成形体の水分を蒸発させて乾燥させる。本乾燥工程S240は、成形体の外表面近傍を乾燥させれば十分であり、これにより、外表面のみの引張強度を高めることが可能となる。なお、表皮が不要の場合は、この乾燥工程S240を省略することができる。
【0074】
<加熱工程(S250)>
加熱工程S250では、成形体を加熱して弾力性を高める。なお、本第2実施形態では、増粘剤を混合しているので、増粘剤によって弾力性や強度が補われていることから、この加熱工程S250を省略しても良い。
【0075】
<保存工程(S260)>
【0076】
保存工程S260では、上記の複数の工程が終了した模擬動物器官10を強アルカリ液に浸漬してパッケージする。
【0077】
上記工程で製造された第2実施形態に係る模擬動物器官は、実際の内臓等の臓器の再現性が高く、第1の実施形態の利点に加えて、更に、以下の利点を有する。
【0078】
(1)通電性
本模擬動物器官には電解質が含まれているので、その通電性を一層高めることができる。従って、例えば、対極板を利用した電気メスによる手技の際に、模擬動物器官の切れ具合を安定させることが可能となる。特に原液における電解質(塩化ナトリウム)の含有比率は1.0重量%以下が好ましく、より好ましくは0.7重量%以下とし、0.01重量%以上としていることから、実際の動物器官に近い切れ味を創出できる。なお、電解質の含有比率が高すぎると、電気メス装置から異常警報(アラーム)が発する場合が有る。
【0079】
(2)ドリップ抑制
本模擬動物器官には増粘剤が含まれているので、電気メスで切断する場合に、切断と同時に生じる水分漏出量を抑制することができる。これも、実際の動物器官に近い切れ味を創出することにつながる。増粘剤が少なすぎる場合(又は含有しない場合)は、切断時の水分漏出用が多くなり、その水分によって電気メス装置から異常警報(アラーム)が発する場合が有る。なお、本第2実施形態の模擬動物器官は、低温工程S230も併用しており、適切な強度とドリップ抑制を両立させることが可能となっている。
【0080】
なお、上記第2実施形態では、模擬動物器官に電解質と増粘剤の双方が含有される場合を例示したが、本発明はこれに限定されない。例えば、電気メスを用いた切断時の安定性を高めるためには、電解質のみを含有させて通電性を高めても良い。同様に、電気メスを用いた切断時の水分ドリップを抑制するためには、増粘剤のみを含有させても良い。
【0081】
なお、上記実施形態は、主として動物の内蔵を製造する場合を例示したが、本発明はこれに限定されず、皮膚、腕、口、鼻、耳、脚、指等の器官を製造することも可能である。
【0082】
尚、本発明は、上記した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0083】
10 模擬動物器官
40 電気メス
50 鉗子
70A、70B、70C 原液
図1
図2
図3
図4
図5