特許第6856948号(P6856948)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6856948
(24)【登録日】2021年3月23日
(45)【発行日】2021年4月14日
(54)【発明の名称】眼科薬物徐放装置
(51)【国際特許分類】
   A61F 9/007 20060101AFI20210405BHJP
   A61F 9/008 20060101ALI20210405BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20210405BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20210405BHJP
   A61K 9/00 20060101ALI20210405BHJP
   A61K 47/04 20060101ALI20210405BHJP
   A61K 47/06 20060101ALI20210405BHJP
   A61K 47/02 20060101ALI20210405BHJP
   A61K 47/32 20060101ALI20210405BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20210405BHJP
【FI】
   A61F9/007 170
   A61F9/008 120Z
   A61K45/00
   A61K39/395 N
   A61K9/00
   A61K47/04
   A61K47/06
   A61K47/02
   A61K47/32
   A61P27/02
【請求項の数】15
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2018-515421(P2018-515421)
(86)(22)【出願日】2017年4月19日
(86)【国際出願番号】JP2017015783
(87)【国際公開番号】WO2017191759
(87)【国際公開日】20171109
【審査請求日】2020年2月27日
(31)【優先権主張番号】特願2016-93496(P2016-93496)
(32)【優先日】2016年5月6日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】506218664
【氏名又は名称】公立大学法人名古屋市立大学
(74)【代理人】
【識別番号】100179578
【弁理士】
【氏名又は名称】野村 和弘
(72)【発明者】
【氏名】安川 力
【審査官】 寺川 ゆりか
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2012/0035528(US,A1)
【文献】 特表2004−536631(JP,A)
【文献】 特表2016−538050(JP,A)
【文献】 特表2013−508092(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 9/007
A61K 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一つの開口部を備える中空の容器内に、薬物封入部及びそれに隣接する眼内滞留性ガス封入部が備えられ、
前記薬物封入部は、前記眼内滞留性ガス封入部が間に介在することによって前記開口部から隔絶されており、
前記眼内滞留性ガスが、六フッ化硫黄及び/又は八フッ化プロパンからなる、
眼科薬物徐放装置。
【請求項2】
前記薬物封入部と前記眼内滞留性ガス封入部からなるユニットが複数備えられ、
前記開口部から前記薬物封入部までの距離がユニット間で異なり、
各ユニットの前記眼内滞留性ガス封入部は直接又は他のユニットを介して前記開口部に連通している、請求項1に記載の眼科薬物徐放装置。
【請求項3】
複数の前記ユニットを区画する、複数の部分隔壁が備えられている、請求項2に記載の眼科薬物徐放装置。
【請求項4】
複数の前記ユニットが、前記開口部から離れる方向に沿って直列状に設けられている、請求項2に記載の眼科薬物徐放装置。
【請求項5】
前記容器が管状であり、その長手軸方向に沿って、複数の前記ユニットが直列状に並んでいる、請求項2に記載の眼科薬物徐放装置。
【請求項6】
前記眼内滞留性ガス封入部の容積がユニット間で異なる、請求項2に記載の眼科薬物徐放装置。
【請求項7】
中空の容器内に、薬物封入部及びそれに隣接する眼内滞留性ガス封入部からなるユニットが複数備えられ、
複数の前記ユニットは隔壁によって区画されており、
各ユニットの眼内貯留性ガス封入部の外壁部には、移植後に開口部が形成される領域が設けられており、
前記眼内滞留性ガスが、六フッ化硫黄及び/又は八フッ化プロパンからなる、眼科薬物徐放装置。
【請求項8】
前記開口部がYAGレーザー、色素レーザー又はダイオードレーザーによって形成される、請求項7に記載の眼科薬物徐放装置。
【請求項9】
前記容器内が、複数の前記薬物封入部と複数の前記眼内滞留性ガス封入部が混在する多孔質状態である、請求項1に記載の眼科薬物徐放装置。
【請求項10】
前記容器内に注入した薬物溶液を凍結乾燥することにより前記多孔質状態が形成される、請求項9に記載の眼科薬物徐放装置。
【請求項12】
前記容器が、前記眼内滞留性ガスの透過性が低く、生体適合性の高い材質からなる、請求項1〜10のいずれか一項に記載の薬物徐放装置。
【請求項13】
前記材質が、アクリル樹脂、ガラス、Ti、Ti合金又はNi合金である、請求項12に記載の眼科薬物徐放装置。
【請求項14】
前記薬物封入部に封入される薬物が水溶性である、請求項1〜10、12、13のいずれか一項に記載の眼科薬物徐放装置。
【請求項15】
薬物が液体状又は固体状で前記薬物封入部に封入される、請求項1〜8、12〜14のいずれか一項に記載の眼科薬物徐放装置。
【請求項16】
以下の(a)〜(d)のいずれかの移植方法によって生体に移植される、請求項1〜10、12〜15のいずれか一項に記載の眼科薬物徐放装置、
(a)水晶体嚢内に挿入又は毛様溝に固定、
(b)眼内へ埋植し、毛様体扁平部に固定、
(c)眼内に挿入、
(d)眼外に留置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は薬物徐放システムに関する。詳細には、眼科薬物の徐放装置及びその用途に関する。本出願は、2016年5月6日に出願された日本国特許出願第2016−093496号に基づく優先権を主張するものであり、当該特許出願の全内容は参照により援用される。
【背景技術】
【0002】
治療効果の増大や副作用の軽減などを目的としてドラッグデリバリーシステムが利用されている。ドラッグデリバリーシステムは、(1)薬物放出制御(コントロールドリリース)、(2)薬物標的指向化(ターゲティング)及び(3)吸収促進(経皮吸収・遺伝子導入など)に大別される。眼科領域では(1)の開発が精力的に行われている。例えば、非分解性インプラント(リザーバー型)としてVitrasert(登録商標)(FDA認可)(サイトメガロウイルス網膜炎(AIDS)に対するガンシクロビルの徐放)やRetisert(登録商標)(FDA認可)(非感染性ぶどう膜炎に対するフルオシノロン・アセトニドの徐放)、Iluvien(登録商標)(FDA認可)(糖尿病黄斑浮腫に対するフルオシノロン・アセトニドの徐放)、I-vationTM(海外治験中)(糖尿病黄斑浮腫に対するトリアムシノロン・アセトニドの徐放)、NT-0501(海外第II相試験中)(網膜色素変性症及び萎縮型加齢黄斑変性に対するCNTFの徐放)、生体内分解性インプラント(モノリシック型)としてOzurdex(登録商標)(FDA認可)(黄斑浮腫に対するデキサメタゾンの徐放)、マイクロスフェア(モノリシック型)としてDE-102(糖尿病黄斑浮腫に対するベタメタゾンの徐放)などが開発されている。
【0003】
一方、近年、分子標的治療薬の開発が進み、抗体医薬(例えばbevacizumab、ranibizumab)や遺伝子組換え融合糖タンパク質製剤(例えばaflibercept)、アプタマー製剤(例えばpegaputanib)が開発され、滲出型加齢黄斑変性、糖尿病網膜症や網膜静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫、近視性脈絡膜新生血管に対して良好な治療成績が報告されている。
【0004】
尚、薬物徐放装置の例が特許文献1、2に示される。特許文献1は、発生したガス圧によって薬物を放出する埋め込み型マイクロポンプを開示する。他方、特許文献2は拡散によって薬物を徐放する眼内徐放デバイスを開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2009−535083号公報
【特許文献2】特表2006−516619号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
抗体医薬に代表されるタンパク質/ペプチド製剤は特異性が高く、今後、益々利用・応用されることが期待される。しかしながら、投与後の持続時間は長くなく、薬効を維持するためには継続的な投与(典型的には毎月の投与)が必要となる。また、通常は高濃度で投与されることから、副作用も懸念される。一方、従来の薬物徐放制御(コントロールドリリース)技術では、水溶性であること、高分子量であること、加熱処理などの工程で失活しやすいこと等の理由により、抗体やサイトカインなどのタンパク質/ペプチドの徐放製剤化は困難であった。本発明はこれらの課題の解決を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、以下の発明を想到するに至った。
少なくとも一つの開口部を備える中空の容器内に、薬物封入部及びそれに隣接する眼内滞留性ガス封入部が備えられ、
前記薬物封入部は、前記眼内滞留性ガス封入部が間に介在することによって前記開口部から隔絶されている、眼科薬物徐放装置。
【0008】
上記の眼科薬物徐放装置を眼内又は眼外に移植すると、開口部を介して生体液が容器内に流入する。流入した生体液は眼内滞留性ガスを溶解し、眼内滞留性ガスの残留量は漸減する。そして、眼内滞留性ガスによる隔絶が解除され(封印効果が消失し)、生体液が薬物封入部に到達すると、薬物封入部に封入された薬物が溶解し、拡散することで容器外に放出される。即ち、薬物が徐放される。このように本発明によれば、簡素な構成にもかかわらず、薬物を長期間にわたって徐放(薬効を維持)できる。その結果、薬物の投与量、投与回数を抑え、副作用の問題を解決し得る。また、医療経済にも貢献し得る。更には、固体の状態で薬物を封入することができることから、保存時の薬物の劣化が防止され、保存安定性に優れた製剤となる。一方、簡素な構成であることから、その製造が比較的容易である。また、装置を構成する容器の製造過程と、薬物封入過程とを分離することができることから、薬物毎に容器を用意する必要がない。即ち、1種類の容器で各種薬物の徐放が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】徐放装置の例。A:1つの空洞型、B:直列多房型、C:二房型、D:直列多房型、E:並列多房型(パイプオルガン型)、F:直列管状型、G:直列管状型、H:必要時開口隔室型(矢印はYAGレーザーなどによる開口部を表す)。
図2】移植部位の例。1:眼内レンズと同様に水晶体嚢内または毛様溝に固定。2:毛様体扁平部に固定。3:眼内挿入。4:眼外に固定。
図3】ポリメタクリル酸メチル樹脂(Polymethyl methacrylate: PMMA)製中空デバイスの構成(左)と薬物及び眼内滞留性ガスの注入(右)。
図4】PMMA製中空デバイスの設計図。
図5】家兎に移植後のPMMA製中空デバイス内のガス残留量(左)と薬物放出プロファイル(右)。
図6】徐放装置の別の例。(a)徐放装置10を正面(左)と側方(右)から観察した状態を示した。(b)徐放装置10を斜めから観察した状態を示した。
図7】徐放装置10を眼外に埋植した状態を示す図。
図8】家兎に移植後のセツキシマブ含有徐放装置の薬物放出プロファイル。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は眼科薬物徐放装置(以下、「徐放装置」と略称する)に関する。本発明の徐放装置は眼科用であり、即ち、眼疾患に適用される。本発明の徐放装置を適用可能な疾病(即ち、その治療ないし予防に本発明を用いることが可能な疾病)を例示すれば、加齢黄斑変性、網脈絡膜萎縮、黄斑浮腫(糖尿病網膜症や網膜静脈閉塞症やぶどう膜炎に伴う)、網膜色素変性、黄斑ジストロフィー、黄斑部毛細血管拡張症1型及び2型、網膜剥離、増殖性硝子体網膜症、増殖糖尿病網膜症、家族性滲出性硝子体網膜症、網膜芽細胞腫、コーツ病、ぶどう膜炎等の網膜硝子体疾患、緑内障、血管新生緑内障、視神経症、悪性黒色腫、悪性リンパ腫である。本発明の徐放装置はその特徴的な徐放効果を発揮するために、以下の構成を備える。まず、少なくとも一つの開口部を備える中空の容器内に、薬物封入部及びそれに隣接する眼内滞留性ガス封入部が備えられる。薬物封入部は、眼内滞留性ガス封入部が間に介在することによって容器の開口部から隔絶されている。好ましくは、徐放効果を高めるため、薬物封入部及びそれに隣接する眼内滞留性ガス封入部からなるユニットが複数備えられる。この場合には、容器の開口部から薬物封入部までの距離がユニット間で異なり、各ユニットの眼内滞留性ガス封入部は直接又は他のユニットを介して容器の開口部に連通する。このように、複数のユニットを設け、且つ開口部から薬物封入部までの距離がユニット間で異なるように構成すれば、徐放作用が複数のタイミングで生ずることになり、より長期間にわたる薬物の徐放が可能になる。
【0011】
一態様では、容器内が、複数の薬物封入部と複数の眼内滞留性ガス封入部が混在する多孔質状態(多孔質体)である。例えば、容器内に注入した薬物溶液を凍結乾燥することにより、このような多孔質状態(薬物封入部としての乾燥状態の薬物が散在し、眼内滞留性ガス封入部としての空隙が間を埋めた状態)を形成することができる。多孔質体の内、容器の開口部に面した部分の薬物封入部は、眼内滞留性ガス封入部によって開口部から隔絶されない場合もあるが、当該薬物封入部を除く大多数の薬物封入部については隔絶状態が形成されることから、上記の原理で徐放効果が得られる。この説明からもわかるように、本発明ではその特有の作用効果を発揮する上で薬物封入部と眼内滞留性ガス封入部が完全に分離していることは必須ではない。
【0012】
本発明の構成の詳細について、図面を参照しつつ説明する。図1は、ユニットを複数設けた場合の具体例(徐放装置1〜8)を示す。内部構造がわかるように断面形状を示した。各徐放装置は概要、中空の容器とその内部に形成された薬物封入部と眼内ガス封入部から構成される。薬物封入部と眼内ガス封入部はそれぞれ複数設けられる。容器の材質は、使用する眼内滞留性ガスの透過性が低く、生体適合性の高いものである限り、特に限定されない。好ましくは、使用する眼内滞留性ガスを実質的に透過しない材質を採用する。容器の材質の例を挙げると、眼内レンズやコンタクトレンズ、体内に留置できる医療材料等に使用されているアクリル樹脂(例えばポリメタクリル酸メチル樹脂(Polymethyl methacrylate: PMMA)やソフトアクリル)、光ファイバーなどで用いるガラス、インプラントなどで用いるTi、Ti合金、Ni合金などの金属である。
【0013】
容器には開口部cが形成される。図示の例では開口部を一つ設けることにしたが、二以上(例えば2〜5箇所)の開口部を設けてもよい。また、開口部の形状、大きさ等は、徐放効果を考慮しつつ設計すればよい。ガスを導入する部分とは別に薬物溶出を促進する開口部(孔)を設けることにしてもよい。
【0014】
薬物封入部には薬物(治療薬又は予防薬)が封入される。水溶性、脂溶性いずれの薬物も使用可能であるが、本発明に特有の作用効果は、水溶性薬物を採用したときに顕著となる。換言すれば、従来の技術では困難であった、水溶性薬物の長期間にわたる徐放を本発明は可能にする。薬物封入部に封入可能な薬物の具体例を挙げると、ベバシズマブ、ラニビズマブ、アフリベルセプト、ペガプタニブなどの血管内皮増殖因子(VEGF)阻害剤、その他の抗体製剤、アプタマー製剤、可溶化受容体製剤、その他、サイトカインなどの生理活性物質である。薬物は液体状又は固体状で封入される。薬物を調製する際に使用する基材や添加物等は特に限定されない。即ち、例えば、ガス内の水分の透過を抑えるためのオリーブオイル、シリコンオイルなどの油脂、ポリ乳酸やポリグリコール酸やその重合体などの生体内分解性高分子、薬物の劣化変性を抑えるためのビタミンCなどの添加物等、眼科領域、薬剤調整等で通常使用されるものを採用することができる。
【0015】
眼内滞留性ガス封入部には眼内滞留性ガスが封入される。眼内滞留性ガスは特に限定されないが、例えば、眼科領域で使用実績のある六フッ化硫黄(SF6)、八フッ化プロパン(C3F8)等や、空気を用いることができる。
【0016】
図示の通り、一つの薬物封入部とそれに隣接する眼内滞留性ガス封入部(例えば徐放装置Aでは薬物封入部aと眼内滞留性ガス封入部b)が対をなし、一つのユニットを形成する。容器内には複数のユニットが備えられることになる。ユニットの数は特に限定されない。例えば、ユニットの数を2〜30の範囲内で設定することができる。但し、ユニットの数が少なすぎると、段階的かつ長期間にわたる徐放という、本発明の効果が発揮されにくくなり、ユニットの数が多すぎると、例えば、簡素な構成という利点が損なわれることから、ユニットの数は好ましくは3〜20、更に好ましくは3〜15である。複数のユニットは、例えば、徐放装置A〜Dのように、容器の開口部cから離れる方向に沿って直列状に設けられる。徐放装置B、Dのように、各ユニットを区画する部分隔壁wを備えることにしてもよい。当該構成によれば、より確実に段階的な薬物の放出が可能になる。徐放装置Cのように管状部dを設ければ、開口部cから、開口部cに最も近いユニットまでの距離を変化させることができ、徐放開始までに要する時間を調整することが可能となる。眼内滞留性ガス封入部の容積をユニット間で異なるように設計すれば、眼内滞留性ガスの残存時間の差を利用して段階的且つ長期間の徐放が可能になる。当該構成を採用した一例が徐放装置Eである。
【0017】
容器の形態は特に限定されず、徐放装置F、Gのように管状に構成してもよい。徐放装置F、Gでは複数のユニット(一対の薬剤封入部aと眼内滞留性ガス封入部b)が管状構造の長手方向に沿って直列状に並ぶように設けられている。
【0018】
徐放装置A〜Gでは容器に予め開口部が設けられていたが、移植後に開口部を形成することにしてもよい。即ち、本発明は第2の形態として、
中空の容器内に、薬物封入部及びそれに隣接する眼内滞留性ガス封入部からなるユニットが複数備えられ、
複数の前記ユニットは隔壁によって区画されており、
各ユニットの眼内貯留性ガス封入部の外壁部には、移植後に開口部が形成される領域が設けられている、眼科薬物徐放装置を提供する。
【0019】
当該徐放装置の例(図1の徐放装置H)では移植後にYAGレーザー、色素レーザー、ダイオードレーザー等によって、各ユニットにおける眼内貯留性ガス封入部bの外壁部に開口部cが形成される。この構成を採用すれば、必要なときに薬剤を放出させることができる。また、複数のユニットが備えられることから、複数回に分けて薬剤を放出させることができる。即ち、段階的かつ長期間の徐放が可能になる。典型的には一度の開口操作に供されるユニットは一つであるが、複数のユニットに対して同時又は実質的な時間差を設けることなく開口部を形成することにしてもよい。
【0020】
徐放装置の別の例を図6に示す。図6の徐放装置10は、その先端に開口部11を備える管状部12と、それに連なる中空の本体部13が一体成形された容器からなり、凍結乾燥状態の薬物(多孔質状であり、乾燥した薬物の間を空隙が埋めた状態となる)が充填されている。薬物は本体部13の一部若しくは全部、本体部13の全部と管状部12の一部、又は本体部13の全部と管状部12の全部に充填される。
【0021】
本発明の徐放装置は眼内又は眼外に移植されて使用される。具体的には、例えば、以下の(a)〜(d)のいずれかの移植方法によって移植される。尚、(b)の移植方法は、Vitrasert(登録商標)やRetisert(登録商標)で採用されており、(c)の移植方法はOzurdex(登録商標)やIluvien(登録商標)で採用されており、(d)の移植方法はAhmed(登録商標)Glaucoma ValveやBaerveldt(登録商標)Glaucoma Implant、或いは網膜剥離手術のバックリングで採用されている。
(a)水晶体嚢内に挿入又は毛様溝に固定(図2の1)
(b)眼内へ埋植し、毛様体扁平部に固定(図2の2)
(c)眼内に挿入(図2の3)
(d)眼外に留置(図2の4)
【0022】
(a)の移植方法は、例えば、白内障を併発しているような60歳以上の治療に適しており、移植が簡便で安全であることや、YAGレーザー等でデバイスの開口部を必要時に開口させることが可能であるといった利点がある。(b)の移植方法は、例えば、比較的若年の治療に適しており、一度の徐放で治癒が期待出来る疾患への治療として簡便に施行できる利点がある。(c)の移植方法は、例えば、一度の徐放で治癒が期待出来る疾患への治療や硝子体手術を後日、施行することが可能な治療に適しており、移植が低侵襲で容易である利点がある。(d)の移植方法は、例えば、長期に治療を継続する必要のある慢性疾患の治療に適しており、副作用発現時のデバイス除去が容易であり、デバイス内に薬物の再装填が可能であるといった利点がある。
【実施例】
【0023】
A.薬物徐放システムの有効性検討1
眼内滞留性ガスを利用した薬物徐放システムの有効性を検討するため以下の実験を行った。尚、眼内滞留性ガスによる、封印及び徐放の効果の評価を容易にするため、薬物封入部と眼内滞留性ガス封入部で構成されるユニットの数が1の装置(中空デバイス)を試作し、その特性を調べることにした。
【0024】
1.中空デバイスの作製
酸素透過性の低いアクリル樹脂のポリメタクリル酸メチル樹脂(Polymethyl methacrylate: PMMA)製の中空デバイスを作製するために、試作品として、2枚のPMMA製眼内レンズの光学部の外縁部分を接着剤で接合した。内腔容積は計算上、11.3μLであった。1箇所、接着剤を用いずに開口部(矢印)とした(図3左、図4)。
【0025】
2.固形薬物の封入
薬物放出特性を検討するために、低分子量の水溶性の蛍光色素である10%フルオレセインナトリウム水溶液をPMMA中空デバイス内腔に充填し、風乾させた(図3右)。
【0026】
3.眼内滞留性ガスの封入と家兎への移植
固形フルオレセインナトリウム封入PMMA中空デバイスを100% SF6ガス内に留置し、中空部分にガスを充填した(図3右)。家兎にケタラールとセラクタールの筋肉内注射により麻酔後、右眼を0.05%トロピカミド・0.05%フェニレフリン塩酸塩点眼液(ミドリンP(登録商標)、参天製薬)にて散瞳した。術野を消毒、ドレープをかけて、開瞼器にて開瞼し、0.4%オキシブプロカイン塩酸塩点眼液(ベノキシール(登録商標)、参天製薬)にて局所麻酔を行った。角膜穿刺の上、前房内を粘弾性物質で置換し、屈曲させた27G針にて前嚢切開を施行した。その後、2.4 mmの強角膜切開を行い、超音波乳化吸引とinfusion & aspirationにて水晶体を摘出し、再度、前房内を粘弾性物質で満たした後、SF6ガスで内腔を満たした固形フルオレセインナトリウム封入PMMA中空デバイスを嚢内に挿入した。粘弾性物質を除去し、灌流液にて眼圧を調整して、抗生剤眼軟膏を結膜嚢に塗布して手術を終了した。
【0027】
4.薬物放出試験
術後、定期的に散瞳して前眼部写真を撮影し、前房水を吸引採取した。前眼部写真からガスの残留量を計測し、前房水サンプル内のフルオレセインナトリウムの含有量を蛍光強度計にて測定した。2ヶ月の段階でSF6ガスは3割以上残存していた。初期バーストの後、1週目からは安定した薬物徐放を認めた(図5)。このように、2ヶ月以上のガスの残存、安定した薬物徐放効果が確認された。尚、初期バーストは装置(中空デバイス)のデザインによって制御可能である。
【0028】
B.薬物徐放システムの有効性検討2
1.薬物含有徐放装置の作製と薬物・眼内滞留性ガスの封入
三次元(3D)プリンター(Projet 3510HD plus)で材質がVisiJet(登録商標) Crystal(紫外線硬化型アクリル樹脂)の中空デバイス(図6)を作製した。中空デバイス内に抗体医薬のセツキシマブ溶液を充填した後、凍結乾燥処理に供した。このようにして作製された、多孔質体としてセツキシマブが充填された徐放装置10の特性を調べた。充填する気体は空気の場合と、移植直前に十分量のSF6で内部の気体を空気からSF6に置換したもの(SF6封入)も使用し、空気封入した場合と比較した。
【0029】
2.家兎への移植
家兎にケタラールとセラクタールの筋肉内注射により麻酔後、右眼を0.05%トロピカミド・0.05%フェニレフリン塩酸塩点眼液(ミドリンP(登録商標)、参天製薬)にて散瞳した。次に、オキシブプロカイン塩酸塩(ベノキシール点眼液、参天製薬)点眼にて表面麻酔の後、結膜を切開して強膜を露出し、強角膜トンネルを作製して、管状部を強角膜トンネルに挿入して、管状部の先端が前房の周縁部に位置するように徐放装置を眼外に埋植した(図7)。
【0030】
3.薬物放出試験
術後、定期的に前房水を吸引採取し、前房水サンプル中のセツキシマブをELISAキットで定量した。その結果、6ヶ月以上の徐放が確認できた(図8)。また、空気よりもSF6で封入した場合の方が長期徐放に適していることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明の徐放装置は眼疾患の治療・予防に利用される。本発明の徐放装置は、従来の高分子を用いた薬物徐放システムでは困難であった水溶性、とりわけ高分子化合物の徐放に有用である。
【0032】
この発明は、上記発明の実施の形態及び実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。本明細書の中で明示した論文、公開特許公報、及び特許公報などの内容は、その全ての内容を援用によって引用することとする。
【符号の説明】
【0033】
A〜H 徐放装置
a 薬物封入部
b 眼内滞留性ガス封入部
c 開口部
d 管状部
w 部分隔壁
1〜4 移植部位
10 徐放装置
11 開口部
12 管状部
13 本体部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8