(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、電力変換素子等の電子部品を銅基板に固定する際に、はんだペースト又ははんだシートを必要箇所に配置してリフロー炉等により加熱してはんだ付けする方法が採用される場合がある。このようなリフロー方式によるはんだ付け方法では、加熱により溶融したはんだが、電子部品等の自重により被接合部材間から押し出され、その結果、接合力が低下する場合がある。また、はんだバンプにより電子部品を配線基板に接続する場合に、バンプの高さが不均一になり、電子部品が傾いて基板に接合される場合がある。このように接合されると、長時間の使用の結果、バンプが低くなった部分に熱応力が加わり、バンプの割れ等が生じる場合がある。また、このようなはんだ付け時の不良に加え、高温作動温度に於いて電子部品のはんだ接合部が高温に晒される状況下ではんだ接合部が軟化(常温に比べて硬度や強度が低下)することにより、接合している部品の自重や振動等の外力により、はんだ接合部の高さが変化して不均一になり、そのことに起因して接合不良が発生する場合もある。
【0003】
これらの改善策として、例えば、はんだ合金に金属粒子を分散させた複合材が提案されている(特許文献1〜3)。
【0004】
特許文献1には、板状はんだ中に高融点金属粒が分散された、Sn主成分の鉛フリーフォームはんだにおいて、前記金属粒が、Ni又はCuであり、はんだ合金の融点+300℃以上の融点を有し、粒径20〜300μmであり、該高融点金属粒の粒子径のバラツキが粒子径の40%以内であり、かつ高融点金属粒の周囲には、はんだの主成分と高融点金属粒との合金層が形成されており、該合金層が、金属粒がNiの場合はNi
3Sn、Ni
3Sn
2、Ni
3Sn
4から成る群、金属粒がCuの場合はCu
3Sn、Cu
6Sn
5から成る群から選んだ少なくとも1種の合金層であることが開示されている。そして、このような構成により、半導体素子と基板とをはんだ付けしたときに、半導体素子が基板に対して傾斜して接合されないため、はんだ量の不足による接合強度の低下がなく、また金属粒の周囲にはんだとの合金層が形成されているため金属粒とはんだ接合強度が向上するとされている。
【0005】
特許文献2には、マトリックスを構成するはんだより高融点の金属球が分散されたはんだシートにおいて、前記金属球における直径の平均値が30〜300μm、直径分布の標準偏差が2.0μm以下であることが記載されている。そして、このような構成により、基板の電極部と電子部品の端子間の間隔(スタンドオフ高さ)を適度に保つことが可能になるため、熱伝導を阻害するはんだ層の厚みを、基板と電子部材の熱膨張差を緩和する領域で可能な限りスタンドオフ高さを抑制することができるとされている。
【0006】
特許文献3には、チップ部品と配線部材とを固着したはんだ層が樹脂層で封止され、前記はんだ層がマトリックス金属に前記マトリクッス金属の融点よりも高い融点を有する金属粉末を分散させた複合体で構成されたことを特徴とする半導体装置が開示されている。そして、このような構成により、基板上に回路素子としてのチップ部品を搭載し、搭載チップ部品を樹脂封止してなる半導体装置を外部配線基板に搭載する場合に1次実装はんだ材の流出やこれによる短絡、断線、チップ部品の位置ずれを防止できる半導体装置を提供できるとされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、近年、Si半導体よりも高温での動作が可能であることから、SiC半導体が注目されている。そのため、例えばSiC半導体を用いたパワーモジュール等を基板上に固着するはんだ合金には、従来よりも高い耐熱性、熱伝導性、信頼性が要求されるようになっている。また、第5世代通信技術の実現により、大量のデータが通信端末間でやり取りされることから、通信端末のプリント基板と電子部品の端子の接合部に用いられるはんだ合金にも、従来よりも高い耐熱性、熱伝導性、信頼性が要求されるようになっている。
【0009】
本発明者は、高い耐熱性、熱伝導性、信頼性を有するはんだ合金について検討を重ね、このような特性を有し得るはんだ合金として、はんだ合金中に金属間化合物を析出させることが有効であることを見出している(特開2011−41970号公報)。このようなはんだ合金は、市場の要求にある程度応え得るものではあるが、改善の余地がある。
【0010】
特許文献1に記載の発明では、高融点金属粒が、Ni又はCuであり、金属粒とはんだの主成分であるSnとの合金層が、Ni
3Sn、Ni
3Sn
2、Ni
3Sn
4から成る群、又は、Cu
3Sn、Cu
6Sn
5から成る群から選んだ少なくとも1種であるとされている。しかし、例えば金属粒がNiの場合、本発明者が検討したところによると、Snを主成分とする鉛フリーはんだ合金に対する濡れ性が低く、合金層が十分には形成されていない可能性がある。
【0011】
特許文献2に記載の発明では、好適な金属球として、Niを主体とする組成からなる金属球が用いられる。しかし、特許文献2には、予め薄く圧延したはんだ帯同士を、その間に金属球を投入しながら圧延しながら形成するはんだシートしか記載がなく、得られたはんだシートにおいては、金属間化合物は存在していない。また、特許文献2には、Niを主体とする組成からなる金属球として純Ni金属片から形成されるものしか開示されていない。さらに、前述のように、Niの金属球は、Snを主成分とする鉛フリーはんだ合金に対する濡れ性が低く、金属間化合物が十分に形成されない可能性がある。
【0012】
特許文献3に記載の発明では、実施例として、鉛フリーはんだ合金を含む各種のはんだ合金で形成されるマトリックス金属に各種の合金により形成される金属粉末を分散させた複合体で構成されたはんだ層が記載されている。しかし、特許文献3には、はんだ合金及び金属粉末からなるシート状はんだ材に関して開示されているものの、金属間化合物には着目されていない。また、特許文献3に明示されている金属粉末では、市場の高い要求性能に応えるには、改善の余地がある。
【0013】
そこで、本発明の目的は、従来よりも耐熱性、熱伝導性、信頼性の優れたはんだ接合部を形成可能なプリフォームはんだを提供することにある。また、このようなはんだ接合部を有するはんだ接合体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、前述の課題解決のために、鋭意検討を行った。その結果、特定のCu−Ni合金の金属粒子を、Snを主成分とする鉛フリーはんだ合金(例えば、シート状の鉛フリーはんだ合金)中に存在させるか、特定のCu−Co合金の金属粒子を、Snを主成分とし、Niを含有する鉛フリーはんだ合金(例えば、シート状の鉛フリーはんだ合金)中に存在させることで、前述の課題が解決されることを見出した。
【0015】
本発明は、Snを主成分とする鉛フリーはんだ、及び、該鉛フリーはんだよりも融点の高い金属粒子を含むプリフォームはんだであって、前記金属粒子は、Ni含量が0.1〜90質量%であるCu−Ni合金、又は、Co含量が0.1〜90質量%であるCu−Co合金で形成されており、前記鉛フリーはんだは、前記金属粒子が前記Cu−Ni合金の場合はNiを含有してもよく、前記金属粒子が前記Cu−Co合金の場合はNiを含有し、前記金属粒子の表面に(Cu、Ni)
6Sn
5が形成されている、プリフォームはんだに関する。また、前述のプリフォームはんだを用いて形成されたはんだ接合体に関する。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係るプリフォームはんだは、従来よりも耐熱性、熱伝導性、信頼性の優れたはんだ接合部を形成することができる。また、このようなはんだ接合部を有するはんだ接合体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の実施形態に係るプリフォームはんだは、鉛フリーはんだ中に、この鉛フリーはんだよりも融点の高い金属粒子(以下、単に「金属粒子」と称する場合がある。)を含むものである。この鉛フリーはんだは、Snを主成分とする合金である。金属粒子は、Ni含量が0.1〜90質量%であるCu−Ni合金、又は、Co含量が0.1〜90質量%であるCu−Co合金で形成されている。また、この鉛フリーはんだは、前記金属粒子が前記Cu−Ni合金の場合はNiを含有してもよく、前記金属粒子が前記Cu−Co合金の場合はNiを含有する。そして、金属粒子の表面には、はんだ合金と金属粒子との金属間化合物である(Cu、Ni)
6Sn
5が形成されている。
【0019】
このように、プリフォームはんだ中の金属粒子の表面に(Cu、Ni)
6Sn
5が形成されていることで、(Cu、Ni)
6Sn
5が有する優れた熱伝導性により、はんだ接合部の熱伝導性も優れる。金属粒子が、特定範囲のNi含量のCu−Ni合金で形成される場合は、Cu又はNiの粒子の場合に比べて、はんだ合金中のSnを、金属粒子内に迅速に拡散させることが可能であるため、(Cu、Ni)
6Sn
5の生成が極めて迅速に行われる。また、金属粒子が、特定範囲のCo含量のCu−Co合金で形成される場合も、CoはNiと類似の性質を有することから、同様に、(Cu、Ni)
6Sn
5の生成が極めて迅速に行われると考えられる。特に金属粒子としてはんだ合金中に存在させることで、金属粒子を核として(Cu、Ni)
6Sn
5の生成がより迅速に行われる。融点がはんだ合金より高い(Cu、Ni)
6Sn
5が金属粒子の表面に迅速に形成されるため、Cuが含まれていても、金属粒子を核とする粒子の大きさが維持される。以上により、プリフォームはんだ中はもとより、プリフォームはんだを用いた形成されたはんだ接合部においても、従来よりも多量の(Cu、Ni)
6Sn
5が存在するため、従来よりも熱伝導性に優れたはんだ接合部を提供することができる。また、プリフォームはんだを溶融させ部品間の接合を行う際には、予め(Cu、Ni)
6Sn
5が存在するため、その良好な伝導性により周囲のはんだ合金の溶融が促進されることになる。その結果、溶融時にはんだ合金全体の流動性が確保されボイドの発生が抑制されたはんだ接合部が形成される。さらに、(Cu、Ni)
6Sn
5の融点は、415℃あるとともに、Cu
6Sn
5と異なり、186℃でのη−η’相変化が生じない。η−η’相変化が生じると体積変化が生じ、はんだ接合部に応力が集中して破損の原因になり得る。しかし、(Cu、Ni)
6Sn
5は、相変化を生じないため、はんだ接合部が186℃以上の高温に晒され、その後冷却された場合でも相変化が生じないため、はんだ接合部の応力集中が抑制される。
【0020】
以上のように、表面に(Cu、Ni)
6Sn
5が形成されている特定の金属粒子が含まれる、好ましくは分散されているため、(Cu、Ni)
6Sn
5の耐熱性、熱伝導性に基づく特性が効果的にプリフォームはんだ及びはんだ接合部に付与される。また、その熱伝導性に起因してはんだ接合部のボイドの発生を抑制することもできる。これらの結果から、はんだ接合部として長期間使用した場合でも、はんだ部の接合の損傷を抑制し、従来よりも信頼性の高いはんだ接合部を提供することができる。また、以上のような特性のはんだ接合部を有するはんだ接合体を提供することができる。
【0021】
鉛フリーはんだは、Snを主成分とする合金であり、金属粒子の種類に応じて、Niが含まれるものであればよい。つまり、金属粒子が特定のCu−Ni合金の場合は、金属粒子中にNiが含まれるため、金属粒子の表面に(Cu、Ni)
6Sn
5を形成させるには、はんだ合金中にNiは必須ではないが、金属粒子が特定のCu−Co合金の場合は、金属粒子中にNiは含まれないため、はんだ合金中にはNiが含まれる必要がある。このような鉛フリーはんだ合金としては、本発明の効果を有する範囲において特に制限はなく、金属粒子が特定のCu−Ni合金の場合は、例えば、Sn−Ag系、Sn−Ag−Cu系、Sn−Zn系、Sn−Sb系、Sn−Ag−Bi系、Sn−Ag−In系、Sn−Cu−Ni系及びSn−Ni系等の鉛フリーはんだ合金が挙げられる。このうち、Sn−Cu−Ni系及びSn−Ni系鉛フリーはんだ合金が好ましい。また、このような鉛フリーはんだ合金にNi、Co、Ge、Ga、Cr、P、Si、Ti、V、Mn、Fe、Zr、Nb、Mo、Pd、Te、Pt、Au等が適宜添加されたものであってもよい。また、金属粒子が特定のCu−Co合金の場合は、例えば、Sn−Cu−Ni系及びSn−Ni系、並びに、Sn−Ag系、Sn−Ag−Cu系、Sn−Zn系、Sn−Sb系、Sn−Ag−Bi系、Sn−Ag−In系にNiが添加された鉛フリーはんだ合金等が挙げられる。さらに、このような鉛フリーはんだ合金に、Co、Ge、Ga、Cr、P、Si、Ti、V、Mn、Fe、Zr、Nb、Mo、Pd、Te、Pt、Au等が適宜添加されたものであってもよい。
【0022】
鉛フリーはんだ合金中のSnの濃度は、主成分であればよい。即ち、鉛フリーはんだ合金中で最も含有量が多ければよい。
【0023】
金属粒子は、CuとNiの合金又はCuとCoの合金で形成されたものである。そして、CuとNiの合金の場合は、合金中のNiの含量が0.1〜90質量%であり、好ましくは、5〜45質量%であり、より好ましくは、10〜40質量%であり、特に好ましくは、20〜35質量%である。また、CuとCoの合金の場合は、合金中のCoの含量が0.1〜90質量%であり、好ましくは、5〜45質量%であり、より好ましくは、10〜40質量%であり、特に好ましくは、20〜35質量%である。そして、Cu−Ni合金の場合はNiの含有量がこの範囲であることで、また、Cu−Co合金の場合は、Coの含有量がこの範囲であることで、Snを主成分とする鉛フリーはんだ合金と金属粒子との化合物である金属間化合物として、(Cu、Ni)
6Sn
5が、極めて迅速に金属粒子の表面に形成される。
【0024】
金属粒子の大きさは、金属間化合物の生成の核となり得る大きさがあればよい。例えば、平均粒子径が5μm以上であればよい。また、平均粒子径の上限は被接合部品間の大きさ、はんだの接合強度、被接合部材等に応じて適宜設定することができる。また、粒子のばらつきも特に限定はないが、必要に応じて、整粒したものであってもよい。金属粒子の形状は特に限定はなく、本技術分野において公知のものを採用することができる。
【0025】
金属粒子のプリフォーム中の含量は、特に限定はなく、用途に応じて要求される、接合強度並びに金属間化合物の存在により奏される耐熱性、熱伝導性及び信頼性との関係に基づき適宜決定することができる。
【0026】
このような金属粒子は、公知の方法で調製できる。また、市販のものを使用することもできる。
【0027】
金属粒子の表面には(Cu、Ni)
6Sn
5が形成されている。(Cu、Ni)
6Sn
5は、金属粒子の内部にも形成されていてもよい。(Cu、Ni)
6Sn
5が少なくとも金属粒子の表面に存在していれば、はんだ接合部に良好な耐熱性、熱伝導性、信頼性を付与可能である。このような金属粒子は、例えば、所定のはんだ合金の溶融物と所定の金属粒子の混合物を冷却することで、はんだ合金中に分散された、(Cu、Ni)
6Sn
5が表面に形成され金属粒子として得ることができる。即ち、プリフォームはんだを作製する際に形成される。
【0028】
プリフォームはんだの形状は特に限定はなく、用途等に応じて適宜選択可能である。例えば、シート状、リボン状、ワイヤ状、球形状、ペレット、ワッシャー、その他の所望の形状に成形加工されたもの等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0029】
プリフォームはんだの厚みは、用途等に応じて適宜選択することができる。
【0030】
プリフォームはんだは、金属粒子の表面に(Cu、Ni)
6Sn
5を形成させることが可能な加熱処理を伴う方法で得ることができる。例えば、以下の工程により得ることができる。(i)所定の金属粒子をフラックス剤に分散若しくは馴染ませる、(ii)得られたフラックス剤を馴染ませた金属粒子を、溶解させたはんだ合金中に投入し均一に分散させる、(iii)冷却して成形前のインゴットを得る、(iv)それをロール等を用いて圧延し、所定の形状やサイズに加工する。尚、(ii)において成形前のインゴットになる前になじませたフラックス剤が揮発や分解してプリフォームはんだに含有されないように、(i)において組成を調整する。また、特許文献1に記載の母合金法によって得ることも可能である。
【0031】
フラックス剤は、本技術分野において一般的なものを用いることができる。例えば、溶剤、活性剤が含まれるフラックス剤が挙げられる。また、フラックス剤には必要に応じて松脂等の樹脂成分が含まれてもよい。溶剤としては、例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、2−プロパノール、デカノール、イソボルニルシクロヘキサノール(MTPH)等が挙げられる。活性剤としては、例えば、アジピン酸、コハク酸、マレイン酸、安息香酸、グルタル酸、ジエチルアニリン臭化水素酸塩等が挙げられる。樹脂成分としては、例えば、水素添加ロジン、フェノール変性ロジンエステル、重合ロジン等が挙げられる。フラックス剤の成分組成は、はんだ合金の成分組成、金属粒子の組成を考慮して適宜選択することができる。
【0032】
実施形態に係るシート形状のプリフォームはんだを図面に基づき説明すると以下のとおりである。
図1は、シート形状のプリフォームはんだ1の内部構造を説明するための厚み方向の切り欠き断面図である。
図1に示すように、プリフォームはんだ1は、Snを主成分とする合金で形成された鉛フリーはんだ2に、(Cu、Ni)
6Sn
5(符号4)が表面に形成された金属粒子3が分散したものである。
図1に示す実施形態では、はんだ2中に、金属粒子3が分散している。そして、(Cu、Ni)
6Sn
5(符号4)が表面に形成された金属粒子3が近接して存在しており、(Cu、Ni)
6Sn
5(符号4)による熱伝導性がより効果的に発揮され得る。そのため、例えば高温領域で動作する電子部品のはんだ接合部において放熱特性に優れ、良好な耐熱性を有すると考えられる。また、はんだ接合時には、その熱伝導性により加熱による溶解がはんだ合金全体で瞬時に進行しはんだ合金の流動に伴うバブルの発生を効果的に抑制し得ると考えられ、η−η’相変化の起きない(Cu、Ni)
6Sn
5(符号4)の特性と相俟って、冷却後のはんだ接合部の信頼性の向上に寄与すると考えらえる。
【0033】
実施形態に係るはんだ接合体は、前述のプリフォームはんだを用いて形成されたものである。はんだ接合体は、所定の基材と、この基材と接合したプリフォームはんだにより構成されるはんだ接合部(はんだ層とも称する)とを含む。また、前述のプリフォームはんだを用いてはんだ接合を行って、はんだ接合体を形成する場合、公知のリフローやギ酸ガス雰囲気下にて行うことができる。このようにして形成されるはんだ接合体は、前述のプリフォームはんだを用いて形成されているため、表面に(Cu、Ni)
6Sn
5が形成された金属粒子を含むはんだ層を有するため、耐熱性、熱伝導性、信頼性の優れたはんだ接合部を有することとなる。
【0034】
以上のように、前述のプリフォームはんだは、耐熱性、熱伝導性、信頼性に優れるはんだ接合部を形成可能なため、例えば、車載モータやその他の電動モータの駆動を制御するための発熱量が大きいパワーモジュール等の接合に極めて好適である。
【実施例】
【0035】
実施例に基づき、本発明の実施形態に係るプリフォームはんだについて説明する。
【0036】
(実施例1)
バインダー(イソボロニルシクロヘキサノール)1.2質量部、アジピン酸0.4質量部、デカノール0.8質量部のフラックス剤、Niの含有量が5.5atm%(5.1質量%)のCu−Ni合金の金属粉末6.8質量部、Snを主成分とする鉛フリーはんだ合金粉末(株式会社日本スペリア社製、SN100C(登録商標)、Sn−Cu−Ni系はんだ合金)10.8質量部の混合物を加熱溶融した後冷却し、シート状のプリフォームはんだ1を作製した。
【0037】
(評価1)
得られたプリフォームはんだ1の厚み方向断面をSEMにより確認した。
図2に示すように得られたプリフォームはんだは、Ni含量が5.1質量%でCu濃度が高い金属粒子を用いて形成したものであったが、はんだ合金中に金属粒子が維持されていることが確認された。つまり、Cu−Ni合金の金属粒子にSnが拡散し、(Cu、Ni)
6Sn
5が表面に形成されたと考えられる。
【0038】
(実施例2)
<鉛フリーはんだのはんだ箔1の作製>
0.7Cu、0.05Ni、0.005Ge、残部Sn組成のはんだ合金(株式会社日本スペリア社製、SN100C(登録商標))を用いて、定法に従って、幅15mm、長さ15mm、厚さ2.5mmのはんだ箔1を作製した。
【0039】
<プリフォームはんだの製造>
Niの含有量が30質量%のCu−Ni合金の金属粒子を、プリフォームはんだの状態で表1に示す含有率となり得るようにフラックス剤(株式会社日本スペリア社製、フラックスRM−5)に練り込み、混練物を作製した。次いで、この混練物を前述のはんだ箔1の一方の面の表面の中心部分に、幅10mm、長さ10mmとなるように均一に塗布した。次いで、混練物が表面に塗布されたはんだ箔1を、200℃に保持したホットプレートに載置して、はんだ箔1を加熱すると同時に、はんだごて(こて先の温度:350℃)を、混練物が塗布された面の側から接触させ、はんだ箔1の表層を溶融し、Cu−Ni合金の金属粒子をはんだ箔1の合金内に埋入した。その後、自然冷却して、金属粒子を鉛フリーはんだ合金中に含むはんだ箔2を得た。はんだ箔2の表裏両面を研磨して厚みを2mmとし、幅10mm、長さ10mmに加工し、はんだ箔3としてシート状のプリフォームはんだ2を得た。得られたプリフォームはんだ2を評価用の試料として用いた。
【0040】
(比較例1)
前述のはんだ箔1の表面を研磨して厚さ2mmとした後、幅10mm、長さ10mmに裁断してはんだ箔4を得た。得られたはんだ箔4を評価用の試料として用いた。
【0041】
(評価2)
<熱拡散率の測定>
エアゾール乾性黒鉛被膜形成潤滑剤DGF(日本船舶工具(有)製)を用いて黒化処理を行った実施例2及び比較例1の各試料を、レーザーフラッシュアナライザーLFA457(NETZSCH社製)を用いて、大気中、室温における熱拡散率の測定を行った。
【0042】
<密度測定>
アルキメデス法に従い、実施例2及び比較例1の各試料を内径が当該試料と合同の容器中の水に沈め、試料投入前後の液面の変化より試料体積を測定し、試料重量より算出した。
【0043】
<比熱測定>
示差走査熱量測定装置DSC3500(NETZSCH社製)を用い、サファイアを基準物質として、アルゴン雰囲気下、室温条件にて、DSC法により実施例2及び比較例1の各試料の比熱を測定した。
【0044】
<熱伝導率>
実施例2及び比較例1の各試料について、前述のようにして得られた、熱拡散率、密度、比熱から、下記式に従って熱伝導率を算出した。
熱伝導率(W/(m・K)) = 熱拡散率(m
2/s)×密度(Kg/m
3)×比熱(J/(Kg・K))
【0045】
以上の結果を、表1に示す。
【0046】
【表1】
【0047】
表1に示すように、所定の金属粒子を含有させることで、熱伝導率が向上していることが分かる。
【0048】
(実施例3)
Coの含有量が30質量%のCu−Co合金の金属粒子(平均粒子径85μm、球形状、
図3参照)を用いた以外は、実施例2と同様にしてプリフォームはんだ3を得た。
【0049】
(評価3)
<はんだ接合体の断面構造の観察>
得られたプリフォームはんだ3を、2枚の基材である銅箔の間に挟み、定法に従って、250℃で1〜2分間加熱して、プリフォームはんだ3を溶融させた後、冷却して、両銅箔がプリフォームはんだ3のはんだ接合部を介して接合されているはんだ接合体を作製した。得られたはんだ接合体の厚み方向断面のデジタルマイクロスコープ及び走査電子顕微鏡(SEM)による撮像を取得し、断面を観察するととともに、画像処理ソフトにより、プリフォームはんだ3の層の厚み、及び、同層に含まれる金属間化合物で被覆された金属粒子の寸法を測定した。取得した画像を
図4、5に示す。
図5は、
図4の符号3aで示される金属粒子の近傍の拡大図(700倍)である。また、
図5に示すはんだ接合体の厚み方向断面において、エネルギー分散型X線分析装置により金属成分分析を行って、Sn、Cu、Coの分布を測定した。測定結果を
図6〜8に示す。金属成分分析の測定条件は、ZAF法による簡易定量分析とし、フィッティング係数は0.7108、加速電圧は20.0kV、照射電流は1.00000nAとした。
図6〜8は、
図5に示す断面における、それぞれSn、Cu、Coの分布を示している。尚、
図6〜8は、白黒で示されているが、実際の画像は濃度分布がカラーの点の分布で示されている。
図6〜8の符号7で示すインジケータは、対応するカラー画像では、図中下から上に向かって黒、青系、黄緑系、赤系の順に配列され、各系は図中上側の方が淡色系となるように、順に配列されたスペクトルとして示されている。また、インジケータ7は、図中下から上に向かって順に濃度が高くなるように示されている。尚、以下の
図6〜8を参照した説明では、必要に応じてカラー画像の表示を括弧書きで示している。
【0050】
図4、5に示すように、金属粒子3a、3bの周囲に金属間化合物((Cu、Ni)
6Sn
5)4a、4bが形成されていることが分かる。はんだ合金2の厚みは、
図4、5の両端近傍でそれぞれ96μmで均一な厚みを有し、金属間化合物4aで囲まれた金属粒子3a全体の大きさが概ね85μm、金属間化合物4bで囲まれた金属粒子3b全体の大きさが概ね87μmであった。つまり、Cu又はNi単独の金属粒子の場合と異なり、Cu−Co粒子は形状を維持し、はんだ合金2の層の厚みを均一に形成する機能を発揮していると考えられる。
【0051】
また、
図6に示すように、Snは、金属粒子3a及び銅箔5には含まれず(黒色)、はんだ合金2には、高濃度に含まれ(赤系の色特に淡色系が多く分布)、銅箔5及び金属粒子3aとはんだ合金2との界面付近には、両者の中間程度含まれる(黄緑系が多く、青系も含まれる)ことが分かった。また、Cuの分布は、
図7に示す白黒像ではやや分かりにくいが、対応するカラー画像を参照すると、Cuは、銅箔5に多く含まれ(赤系の色が多く分布)、金属粒子3aには、銅箔5よりは少なく含まれ(赤系、黄緑系が同程度分布)、はんだ合金2には、ほとんど含まれず(黒系)、銅箔5及び金属粒子3aとはんだ合金2との界面付近には、両者の中間程度より少なく含まれる(青系が多く分布)ことが分かった。Coは、
図8に示すように、金属粒子3aにのみ含まれる(水色系が多く分布)ことが分かった。
【0052】
以上のように、
図4〜8より、所定のCu−Co合金の金属粒子を含む場合、金属間化合物(Cu、Ni)
6Sn
5で被覆された金属粒子が粒子径を維持しつつ銅箔等の基材間のはんだ合金中に存在するため、基材間の間隔を一定に保持し、信頼性の向上に寄与することができる。そして、例えば、本実施例では、金属間化合物(Cu、Ni)
6Sn
5で被覆された金属粒子が、銅箔等の基材表面に形成された金属間化合物と連続しており、熱伝導性の向上に寄与することができる。したがって、所定のCu−Co合金の金属粒子を含む場合も、所定のCu−Ni合金の金属粒子の場合と同様に、従来よりも耐熱性、熱伝導性、信頼性の優れたはんだ接合部を形成可能なプリフォームはんだ及びそのような優れた特性のはんだ接合部を有するはんだ接合体を提供することが期待できる。