(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来、鉄道路線においては、軌道回路によって列車位置を検知して信号機等を制御する方式が一般的であったが、近年、走行する列車自らが在線する位置を検知し、無線を使って車上装置と地上側制御装置との間で双方向に情報通信を行うことにより列車の運行を制御する無線式列車制御システムが実用化されている。
このような無線式列車制御システムにおいては、路線沿線に沿って無線基地局を設け、車上・地上間での双方向情報通信を可能にしているが、近年の無線通信の発達やビルなどの大型建造物の建設に伴い、妨害波や電波干渉が発生したり電波強度が低下するなどの電波障害が頻発するおそれがある。無線式列車制御システムにおいては、電波障害が発生すると列車が緊急停止するなど列車の円滑な運行制御を妨げる原因となるため、電波障害の検出と対策が重要である。
【0003】
従来、鉄道路線における妨害波を検出する技術としては、鉄道線路に沿って所定の間隔をとって複数の無線基地局を配置し、各無線基地局には自基地局用送電電文と隣接基地局用チェック電文を記憶する記憶装置を設けるとともに、これらの無線基地局と通信線により接続される中央通信制御装置を設け、各無線基地局からの情報を中央通信制御装置で記憶・管理し、無線基地局間の線路沿線における車上・地上間通信に対する妨害波の有無を検出するようにした発明が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
鉄道分野以外では、移動体通信において、受信された信号波形の特徴量(例えば、振幅確率分布等)と複数の教師データ(例えば、異なる複数の通信方式における振幅確率分布等)との類似度により干渉検出パラメータを導出し、導出した該干渉パラメータを、あらかじめ定めた所定の閾値と比較することにより、電磁干渉が発生しているかを判定することで、高精度に電磁干渉を検出可能な装置に関する発明が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示されている発明においては、無線基地局間が数キロメートル離れており線路沿線で妨害波が発生している場合には、数キロメートルの精度でしか妨害波の有無を検出できないという課題がある。また、妨害波を検出することを課題としており、電波干渉や電波強度の低下を検出することを課題としていない。
一方、特許文献2に開示されている発明においては、観測された信号波形と、あらかじめ計測した教師データ信号波形とを類似度を計算するに当たり、振幅確率分布(APD)や振幅ヒストグラムにより得られた特徴量を抽出し、統計処理(ピアソンの相関係数を用いた類似度の算出)することで、妨害波により干渉されているか否かを高精度に判定している。なお、特許文献2の公報の
図4、
図5から、教師データとしては定点におけるそれを保存しているものと思われ、特許文献2の発明では位置については特定していない。
【0006】
そのため、鉄道車両のように刻々とその位置を変えるような系において、位置ごとに妨害波の有無を特定する用途には適用できないものと思料される。また、特許文献2の発明では、特定周波数帯における妨害電波の有無を判定するにとどまっており、妨害電波の発生原因の推定まではできないものと考えられる。
さらに、鉄道保安装置には、緊急列車停止などの異常が発生した場合に、異常の発生を履歴として記憶する機能を備えたものがあるが、従来の鉄道保安装置は単に異常の発生を記録として残すだけであり、残された記録からは異常の発生原因を知ることができないといった課題があった。
【0007】
本発明は上記のような課題に着目してなされたもので、路線沿線における電波障害を高い位置精度で検出することができる電波障害検出技術を提供することを目的とする。
本発明の他の目的は、電波障害に起因してシステム異常が発生した場合に、異常の発生原因を解析して出力することができる異常原因解析支援技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を達成するため、本出願の第1の発明は、
無指向性アンテナより無線信号を送信する無線基地局が配設されている路線を走行する車両に搭載され、路線沿線の電波障害を検出する車上装置であって、
前記車上装置は、周辺電波の強度を測定する電波測定装置と、当該車両の位置を把握するための測位装置と、データ記憶装置と、制御装置とを備え、
前記制御装置は、
予め定められた地点にて前記電波測定装置により所定周波数範囲の電波強度の測定を実行させ、測定結果を前記測位装置により取得された位置情報と関連させて前記データ記憶装置に記憶するとともに、
前記電波測定装置により測定された電波強度が予め設定された
上限しきい値と下限しきい値とで規定される所定の許容範囲に入っているか否かを判定し、判定結果を位置情報と関連させて前記データ記憶装置に記憶し、
前記電波測定装置の測定結果を統計処理して、受信電波のレベルの許容範囲を決定する
前記上限しきい値と下限しきい値を生成して位置情報と関連させて前記データ記憶装置に記憶するようにしたものである。
【0009】
上記発明によれば、車上装置の制御装置は、電波測定装置により測定された所定周波数範囲の電波強度を、測位装置により取得された位置情報と関連させて記憶装置に記憶するので、路線沿線における電波障害を高い位置精度で検出することができる。
また、制御装置は、予め定められた地点にて電波強度を測定するので、連続してすべての地点で電波強度の測定を行う場合に比べて、装置の負担を減らすことができる。そのため、高速で高性能な装置を構築する必要がないとともに、データ記憶装置の記憶容量も低減することができるので、コストアップを回避することができる。
さらに、制御装置は、電波測定装置の測定結果を統計処理して、電波強度の許容範囲を決定するしきい値を生成して位置情報と関連させてデータ記憶装置に記憶するため、電波強度の測定結果により、電波強度の許容範囲を決定するしきい値を更新することとなるので、電波環境が変化したような場合にも正確に電波障害を検出することができる。
【0010】
本出願の第2の発明は、
LCXケーブルを含まない電波用アンテナより無線信号を送信する無線基地局が配設されている路線沿線の電波障害を検出する電波障害検出システムにおいて、
周辺電波の強度を測定する電波測定装置と
、車両の位置を把握するための測位装置と、データ記憶装置と、地上側の装置を無線通信可能なモバイル通信装置と、制御装置とを備え、前記電波測定装置により測定された所定周波数範囲の電波強度を、前記測位装置により取得された位置情報と関連させて前記データ記憶装置に記憶する車上装置と、
前記車上装置のモバイル通信装置と無線通信可能な無線通信装置と、前記無線基地局と通信可能な通信装置と、データ記憶装置と、表示装置と、制御装置とを備えた監視装置と、
前記監視装置と通信可能な通信装置、妨害波の電波強度を測定する電波監視装置およびデータ記憶装置を備え前記路線沿線の適当な地点に設置された地上側電波測定装置と、
を有し、
前記車上装置の制御装置は、予め定められた地点にて前記電波測定装置による電波強度の測定を実行させ、測定結果を位置情報と関連させて前記データ記憶装置に記憶するとともに、前記電波測定装置の測定結果を統計処理して、受信電波の強度の許容範囲を決定する上限しきい値と下限しきい値を生成して位置情報と関連させて前記データ記憶装置に記憶し、
前記監視装置は、前記車上装置および前記
地上側電波測定装置と通信を行なって、前記車上装置のデータ記憶装置に記憶されている電波強度の測定データおよび前記
地上側電波測定装置のデータ記憶装置に記憶されている電波強度に関するログデータを受信し、
かつ識別情報に基づいて前記監視装置のデータ記憶装置より前記地上側電波測定装置の位置情報を取得し、受信した
前記測定データの電波強度および前記ログデータ
の電波強度を位置情報を指標として照合するとともに
、前記車上装置の前記電波測定装置により測定された電波強度が予め設定された上限のしきい値と下限のしきい値とで規定される前記許容範囲に入っているか否かを判定して、異常の発生に関する情報および発生位置を前記表示装置に表示させるようにしたものである。
【0011】
第2の発明によれば、車上装置の制御装置は、電波測定装置により測定された所定周波数範囲の電波強度を、測位装置により取得された位置情報と関連させて記憶装置に記憶し、監視装置は車上装置および無線基地局と通信を行なって、それぞれのデータ記憶装置に記憶されているデータを受信し、受信したデータを位置情報を指標として照合して異常の発生および発生位置を表示装置に表示させるので、電波障害が原因で異常が発生した場合には路線沿線における電波障害を高い位置精度で把握することができる。さらに、電波障害に起因してシステム異常が発生した場合に、異常の発生原因の解析を支援することができる。
【0012】
また、車上装置の制御装置は、予め定められた地点にて電波強度を測定するので、連続してすべての地点で電波強度の測定を行う場合に比べて、装置の負担を減らすことができる。そのため、高速で高性能な装置を構築する必要がないとともに、データ記憶装置の記憶容量も低減することができるので、コストアップを回避することができる。
さらに、車上装置の制御装置は、電波測定装置の測定結果を統計処理して、電波強度の許容範囲を決定するしきい値を生成して位置情報と関連させてデータ記憶装置に記憶するように構成されているため、電波強度の測定結果により、電波強度の許容範囲を決定するしきい値を更新することとなるので、電波環境が変化したような場合にも正確に電波障害を検出することができる。
【0013】
本出願の第3の発明は、
LCXケーブルを含まない電波用アンテナより無線信号を送信する無線基地局が配設されている路線沿線の電波障害を検出する電波障害検出方法において、
周辺電波の強度を測定する電波測定機能と
、車両の位置を把握するための測位機能と、地上側の装置を無線通信可能なモバイル通信機能と、データ記憶装置と、制御装置とを備えた車上装置を旅客営業用列車に搭載するとともに、
前記車上装置と無線通信可能な無線通信機能と、前記無線基地局と通信可能な通信機能と、データ記憶装置と、表示装置と、制御装置とを備えた監視装置を地上側に設置し、
前記監視装置と通信可能な通信装置、妨害波の電波強度を測定する電波監視装置およびデータ記憶装置を備えた地上側電波測定装置を前記路線沿線の適当な地点に設置し、
前記車上装置は、予め定められた地点にて前記電波測定機能による電波強度の測定を実行し、測定結果を位置情報と関連させて前記データ記憶装置に記憶し、
前記監視装置は、通信を行なって前記車上装置のデータ記憶装置に記憶されている電波強度の測定データおよび前記
地上側電波測定装置のデータ記憶装置に記憶されている電波強度に関するログデータを受信し、
かつ識別情報に基づいて前記監視装置のデータ記憶装置より前記地上側電波測定装置の位置情報を取得し、受信した
前記測定データの電波強度および前記ログデータ
の電波強度を位置情報を指標として照合するとともに測定された電波強度が予め設定された上限しきい値と下限しきい値とで規定される所定の許容範囲に入っているか否かを判定して、異常の発生に関する情報および発生位置を前記表示装置に表示させるようにしたものである。
【0014】
かかる発明によれば、周辺電波の強度を測定する電波測定機能と、車両の位置を把握するための測位機能と、地上側の装置を無線通信可能なモバイル通信機能と、データ記憶装置と、制御装置とを備えた車上装置を旅客営業用列車に搭載して妨害電波を測定するので、監視用の専用列車を準備して妨害電波を測定する必要がないため、コストアップを回避することができる。また、旅客営業用列車に搭載して妨害電波を測定するので、多くの測定データが得られるとともに、営業中における実情に即した電波環境での測定データが得られるため、より正確に電波障害を検出することができる。さらに、電波障害に起因してシステム異常が発生した場合に、異常の発生原因の解析を支援することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、路線沿線における電波障害を高い位置精度で検出することができる。また、電波障害に起因してシステム異常が発生した場合に、異常の発生原因の解析を支援することができるという効果がある。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しつつ、本発明に係る電波障害検出システムを鉄道路線に適用した場合の実施形態について説明する。
図1は、電波障害検出システムの全体構成を示す概略構成図である。
図1に示すように、本実施形態の電波障害検出システムは、鉄道路線100の沿線に沿って適切な距離をおいて配設された複数の無線基地局10A,10B,10C……(以下、個々を区別しないときは無線基地局10と称する)と、線路上を走行する車両110に搭載された車上装置20A,20B……(以下、個々を区別しないときは車上装置20と称する)と、所定の路線における列車の運行もしくは所定地域内の複数の路線における列車の運行状況を監視し制御する監視装置30などにより構成される。本実施形態では、車上装置20と監視装置30は、それぞれ無線通信によりデータの送受信を行う機能を備え、監視装置30は車上装置20から無線通信網NTを介して受信したデータを蓄積するデータ蓄積機能(データベース)を備える。
【0018】
なお、上記無線基地局10A,10B,10C……は、無線式列車制御システムの無線基地局が設置されている路線において、妨害電波等の電波障害によって列車運行制御に支障が生じるのを低減するためのシステムであり、無線式列車制御システムを構築するために設置された無線通信設備を用いることも可能である。以下、この場合を前提に説明する。
【0019】
図2は、車両に搭載される車上装置20の構成を機能ブロック図として表したものである。
図2に示すように、車上装置20は、無線通信網NTを介して地上側の監視装置30との間で無線によるデータの送受信を行うモバイル通信手段21と、電波強度を測定して妨害波を検知する電波測定装置22と、該電波測定装置22により取得した妨害波に関する情報を記憶するHDD(ハードディスクドライブ)などからなるデータ記憶装置23と、車両の位置を検知するためのGPS(グローバル・ポジショニング・システム)受信機などからなる測位装置24、車上システムを制御するパーソナルコンピュータ、メモリ装置(RAM)などからなる制御装置25を備える。なお、本実施形態における車上装置20に必須のものではないが、車上装置20を通常の旅客営業用列車に搭載して運用する場合には、無線基地局10との間で無線通信を行う専用無線通信手段が設けられることとなる。なお、上記「妨害波」には、悪意を持った妨害電波のほか、他の無線通信信号や無線基地局から送信され建造物等で反射した反射波、電波干渉も含まれる。
【0020】
車上装置20は、電波測定装置22により所定の間隔で妨害波を測定しその測定結果(所定周波数範囲の電波強度)を、測定時に測位装置24により取得した位置情報と共にデータ記憶装置23に記憶するとともに、モバイル通信手段21によって地上側の監視装置30へ送信する機能を有する。
なお、データ記憶装置23に、鉄道GIS情報(線名、線路名や、キロ程と緯度経度との関係を示す情報)を記憶しておいて、GPSによる位置情報と鉄道GIS情報とから車両位置をより高い精度で把握できるように測位装置24を構成しても良い。また、測位装置24として、予め緯度経度が分かっている地点でGPSによる測位を行なって実際の緯度経度との誤差を求めておき、当該誤差を用いて被測位地点におけるGPSによる測位のデータを補正することより測位精度を向上させるD−GPS(ディファレンシャルGPS)を用いても良い。
【0021】
図3は、地上側の監視装置30の構成を機能ブロック図として表したものである。
図3に示すように、監視装置30は、無線通信網NTを介して上記車上装置20との間で無線によるデータの送受信を行う無線通信手段31と、該無線通信手段31により受信した妨害波に関する情報を車両位置情報と共に記憶するHDDなどからなるデータ記憶装置32と、無線式列車制御システムを構成する制御装置40との間でLAN等を介して有線通信を行う有線通信手段33と、無線通信手段31を制御して受信した妨害波情報および車両位置情報を時系列的にデータ記憶装置32に記憶させるPCサーバーなどからなる制御装置34と、制御装置34から出力された表示制御信号や画像データに基づいて表示を行う液晶ディスプレイなどからなる表示装置35を備える。
【0022】
また、監視装置30は、有線通信手段33を介して無線式列車制御システム制御装置40から受信したシステム異常の発生を知らせる信号情報を上記データ記憶装置32に記憶させる機能や、データ記憶装置32に記憶された妨害波情報および異常発生情報に基づいてシステム異常の発生原因を解析する機能を備える。なお、無線式列車制御システム制御装置40は、路線沿線に沿って配設された無線基地局10や各種沿線制御機器と通信可能に有線接続されており、当該路線を走行している列車の緊急停止などの異常を検出し、記憶装置(データベース)41に記録するように構成されている。監視装置30が有線通信手段33を介して無線基地局10や各種沿線制御機器と直接通信してログデータを取得できるように構成しても良い。
【0023】
次に、上記車上装置20における妨害波を検知し蓄積する処理の具体的な手順の一例を、
図4に示すフローチャートを用いて説明する。なお、このフローチャートの処理は、車両の走行が開始されることに応じて開始される。
車上装置20の制御装置25は、先ず、測位装置24から車両の現在位置情報を取得する(ステップS1)。そして、妨害波を測定すべき地点であるか否か判定し(ステップS2)、測定地点でない場合にはステップS1へ戻り、再度現在位置情報を取得する。また、ステップS2で、測定地点である(Yes)と判定するとステップS3へ進み、電波測定装置22により所定の周波数範囲を掃引してその範囲の電波強度を測定する。ここで、所定の周波数範囲は、例えば列車の制御に使用する信号の周波数が400MHzであれば、400MHz±f0(f0は任意の周波数幅)の範囲が選択される。
【0024】
次に、上記ステップS3で測定した電波強度を、ステップS1で取得した測定時の車両の位置情報と共に制御装置25内のRAMに一旦記憶した後、データ記憶装置23に記憶する(ステップS4)。続いて、同一地点における過去に測定した測定データをデータ記憶装置23から読み出す(ステップS5)。そして、それらのデータに対して統計処理(ステップS6)を行なう。その後、データ記憶装置23に記憶されている受信電波強度が正常か否かを判定するためのしきい値レベルを用いて、今回測定された電波強度が正常範囲内であるか否か判定する(ステップS7)。ここで、しきい値レベルには、正常範囲の上限値を示す値と正常範囲の下限値を示す値とが含まれる。
【0025】
上記ステップS7で、測定された電波強度が正常範囲内でないと判定した場合にはステップS8へ移行して、異常な受信電波強度として測定地点に対応してデータ記憶装置23に記憶する。この際、測定された電波強度が正常範囲の上限値を超えているのか下限値を下回っているのかを示す判定結果も記憶する。
ステップ
S8の処理が終了するとステップS10へ移行して、今回の測定地点が最終測定地点であるか否か判定する。そして、最終測定地点でない場合にはステップS1へ戻って上記処理を繰り返し、最終測定地点である(ステップS10:Yes)と判定すると当該妨害波測定処理を終了する。
【0026】
一方、ステップS7で測定された電波強度が正常範囲内であると判定した場合にはステップS9へ進み、ステップS6の統計処理の結果によってしきい値レベルの変更の必要があれば、しきい値レベルを更新する。その後、ステップS10へ進み、最終測定地点であるか否か判定する。そして、最終測定地点でない場合にはステップS1へ戻って上記処理を繰り返し、最終測定地点である(ステップS10:Yes)と判定すると当該妨害波測定処理を終了する。
【0027】
図5には、
図4のフローチャートに従った処理によってデータ記憶装置23に記憶されるデータの構成例が示されている。
本実施形態においては、
図5(A)に示されているように、予め路線100に沿って測定地点が、P1,P2,P3……のように設定されている。そして、各測定地点で測定された受信電波強度は、
図5(B)に示されているように、測定地点の番号順に、測定点の位置情報(GSPによる緯度a、経度bまたはキロ程d)とともに、ステップS7で更新された各地点におけるしきい値(上限値と下限値)も上書き方式で記憶される。また、ステップS8で、受信電波強度が正常範囲内でないと判定された場合における測定結果(所定周波数範囲の電波強度)が記憶される。
【0028】
図6(A)〜(D)には、
図4の妨害波測定処理で電波強度が、正常または異常であると判定される場合の具体例が示されている。
このうち
図6(A)は測定された電波強度が許容範囲に入っている正常な測定結果を示す。また、(B)は、測定された電波強度が特定の周波数で許容範囲の上限しきい値THを超えている場合を示す。このような測定結果は、例えばその地点における日常的な電波よりも強力な電波が受信されたということであり、その原因としては、例えば他の無線通信信号との一時的もしくは局所的な電波干渉や意図的な妨害波が考えられる。
【0029】
図6(C)は、測定された電波強度が許容範囲の下限しきい値TLを超えている場合を示す。このような測定結果は、例えばその地点における日常的な電波が受信できていないということであり、そのような現象が数日間にわたって連続している場合の原因としては、例えばビルなどの建造部が建設されたり基地局の通信装置が故障した場合が考えられる。
図6(D)は、測定された電波強度が比較的広い周波数範囲にわたって許容範囲の上限しきい値THを超えている場合を示す。このような測定結果は、例えばその地点における日常的な電波が見えていないということであり、その原因としては、例えば他の広帯域の無線通信信号との電波干渉や意図的な妨害波が考えられる。
【0030】
次に、上記監視装置30における処理の具体的な手順の一例を、
図7および
図8に示すフローチャートを用いて説明する。なお、監視装置30における処理には、
図7のフローに従ったデータ蓄積処理と
図8の異常解析処理とがある。なお、これらのフローチャートの処理は、例えばタイマ割込みによって所定時間ごとに繰り返し実行されるようにすることが考えられる。
図7には地上装置からのデータ蓄積処理の手順が示されている。このデータ蓄積処理においては、制御装置34が、先ず無線基地局等の監視対象のいずれかの装置の機器ID(識別コード)もしくは通信用アドレスを選択し、選択された機器IDもしくは通信用アドレスを使用して無線式列車制御システム制御装置40に対してログデータを要求し(ステップS11)、送信されてきたログデータを受信し、送信元の装置を識別する情報と共にデータ記憶装置32にデータベースとして記憶する(ステップS12)。なお、無線基地局のログデータは、本実施形態では無線式列車制御システム制御装置40を介して取得しているが、監視装置30が直接取得できるように構成しても良い。
【0031】
次に、受信したデータの中に異常を示すデータが含まれているか判定する(ステップS13)。そして、異常を示すデータが含まれている(Yes)と判定すると、ステップS14へ移行して、異常発生を示す情報をデータ記憶装置32に記憶するとともに、アラームを発生し、表示装置36によって異常発生の表示を行わせる。ここで、「異常」には、車上装置20で測定された受信電波強度の異常のほか、緊急列車停止のような列車制御上の異常、ログデータがなかったりデータを受信できない、あるいは通信の劣化などの通信異常も含まれる。
なお、制御装置34に受信電波強度の異常の程度を判定する機能を持たせて、異常の程度に応じた段階的なアラームを発生させるようにしても良い。異常の程度を判定する機能は、例えば複数の段階的な判定レベルを設けることで実現することができる。
【0032】
一方、ステップS13で異常発生を示すデータが含まれていない(No)と判定すると、ステップS15へ進み、機器ID(もしくは通信用アドレス)を更新する。そして、全装置(無線基地局)のデータ受信が終了したか否か判定し(ステップS16)、全装置のデータ受信が終了していない(No)と判定すると、ステップS11へ戻って、更新した通信アドレスを使用して次の装置にログデータの送信を要求する。また、ステップS16で、全装置のデータ受信が終了した(Yes)と判定すると、当該データ蓄積処理を終了する。
【0033】
なお、
図7のフローチャートでは、監視対象の装置(無線基地局)を一つずつ指定してログデータを受信して判定を行なっているが、すべての装置のログデータをまとめて受信してから、異常データの判定(ステップS13)を行うようにしても良い。また、
図7のデータ蓄積処理は、無線式列車制御システム制御装置40が行い、異常判定結果と異常が発生した装置の機器IDを制御装置34に送信するように構成しても良い。
【0034】
また、上記地上装置からのデータ蓄積処理と並行して、制御装置34は車上装置からのデータ蓄積処理を実行し、車上装置20において記憶装置23に記憶されているログデータを蓄積する。このデータ蓄積処理は、
図7のフローに従った地上装置からのそれとほぼ同様であり、
図7のステップS16の無線基地局を移動局と読み替え、ステップS11,S15の機器IDの代わりに通信用アドレスを選択する点で異なるのみである。監視装置30は車上装置20へ記憶装置23に記憶されている測定データの送信要求を行い、車上装置20は要求を受けると監視装置30へのログデータを送信することとなる。
なお、無線式列車制御システム制御装置40は、無線基地局のログデータのほか、無線通信で無線式列車制御システムの列車側通信装置(車上局)からログデータを受信してデータベースに記憶するようにしてもよい。その場合、制御装置34は、無線式列車制御システム制御装置40から列車側通信装置(車上局)のログデータを受信することができる。
【0035】
図7の地上装置からのデータ蓄積処理および上記車上装置からのデータ蓄積処理が終了すると、監視装置30の制御装置34は、
図8の異常解析処理を実行する。
図8の異常解析処理においては、先ずデータ記憶装置32内のデータベースから監視対象のいずれかの装置(無線基地局)のログデータを順次読み出し(ステップS21)、異常発生の有無を判定する(ステップS22)。そして、読み出したデータに異常発生がなければ、ステップS23で解析対象の装置を変更してステップS21へ戻り、データベースから次の装置のログデータを読み出し、ステップS22で異常発生の有無を判定する。
【0036】
また、ステップS22で、異常発生がある(Yes)と判定すると、ステップS24へ進み、解析対象の装置の識別情報から所定のデータテーブルを使用して該装置が設置されている沿線の位置情報を読み出す。続いて、制御装置34は読み出された位置情報に基づいて、データベース(32)に記憶されている車上装置のデータの中から異常のあった基地局に最も近い測定地点で測定された受信電波強度のデータを読み出す(ステップS25)。
【0037】
次に、読み出されたデータから受信電波強度が許容範囲の上限しきい値よりも高いものであったか否か判定し(ステップS26)、受信電波強度が許容範囲の上限しきい値よりも高い(Yes)と判定すると、ステップS27へ進み、異常原因は妨害波である可能性が高いことを表示装置36に表示する。このとき、測定した受信電波強度を示す
図6(B)または(D)のようなグラフも表示させる。このグラフを見ることで、一時的な妨害波であるのか、広帯域の妨害波であるかを判断することができる。
【0038】
また、ステップS26で、受信電波強度が許容範囲の上限しきい値よりも高くない(No)と判定すると、ステップS28へ移行して、受信電波強度が許容範囲の下限しきい値よりも低いものであったか否か判定する。ここで、受信電波強度が許容範囲の下限しきい値よりも低い(Yes)と判定すると、ステップS29へ進み、異常原因は基地局の通信装置の故障である可能性が高いことを表示装置36に表示する。
一方、ステップS28で、受信電波強度が許容範囲の下限しきい値よりも低いものでない(No)と判定すると、ステップS30へ移行して、原因が不明であることを表示装置36に表示する。
【0039】
上記実施形態の路線沿線の電波障害検出システムは、監視装置30が上述したような異常解析処理を行い、解析結果を表示装置36に表示することによって、いち早く異常が発生した原因を知ることができ、速やかに原因を取り除く対策をとることが可能となる。
また、上記実施形態の路線沿線の電波障害検出システムは、車上装置20が上述したように、周辺電波の強度を測定する電波測定装置と、当該車両の位置を把握するための測位装置と、データ記憶装置と、制御装置とを備えるので、車上装置を旅客営業用列車に搭載することで日常的に沿線の電波環境を測定することができ、妨害波が発生した時に、いち早く妨害波が発生していることを知ることができ、速やかに原因を調べて取り除く対策をとることが可能となる。
【0040】
さらに、無線式列車制御システムで列車の通信装置(車上局)と無線基地局10A,10B,10C……との間のデータの送受信の際に、データに誤り訂正符号を付加して誤り訂正機能を持たせている場合には、誤り訂正数を計数して無線式列車制御システム制御装置40が訂正数に応じて通信の劣化を判断して段階的なアラームを発生させることが考えられるが、上記実施形態によれば、沿線の電波障害で通信劣化が発生したような場合に、車上装置20の電波測定装置22の対応する地点での測定結果と照合することで、アラーム発生の原因を分析し易くすることができる。
【0041】
(変形例)
図9に、上記実施形態の変形例を示す。
図9の変形例は、路線沿線の適当な地点に、監視装置30と通信可能な通信装置や、妨害波の電波強度を測定する電波監視装置、データ記憶装置、制御装置などを備えた地上側電波測定装置50を配設し、前記車上装置20により測定された電波強度と、地上側電波測定装置50により測定された電波強度とに基づいて妨害波の有無を判定するものである。この地上側電波測定装置50においても、定常的に電波強度を測定してしきい値を作成し、該しきい値を用いて妨害波の電波強度を判定する。地上側電波測定装置50を設置することで、より信頼性の高い妨害波の有無の検知が可能となる。
さらに、車上装置20と同様な構成を有する装置を自動車等の地上用移動体に搭載して、沿線から離れた位置での電波強度を測定して、その測定値を用いて電波源のより狭い範囲への絞り込みを行うようにしても良い。
【0042】
以上本発明者によってなされた発明を実施形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施形態に限定されるものではない。例えば、前記実施形態では、妨害波を測定する地点にかかわらず、一律に同じような測定を行なっているが、例えば測定地点が無線基地局に近い場所では、本来の無線信号の電波強度が高いため妨害波を検出しにくいことが考えられるので、その場合には、本来の無線信号をキャンセルする処理を行うようにしても良い。このような処理は、例えば公知のノイズキャンセリング技術を応用して行うことができる。
【0043】
また、前記実施形態では、毎回同じ方法で電波強度を測定している例を説明した。ところで、無線式列車制御システムにおける無線式列車制御の伝送タイミングと、本発明による路線沿線の電波障害検出システムの計測タイミングとは、必ずしも一致しているとは限らない。このため、瞬間的な妨害電波が無線式列車制御システムにおける列車制御のタイミングで沿線から発せられた場合、本発明による路線沿線の電波障害検出システムではそれを検出できずに「異常なし」と判定し、列車は正常な電文を受信できず停止する可能性がある。その可能性が予見されるときは、測定地点の数を増やしたり、測定周波数範囲を限定して測定を行なったりしてピンポイントで電波強度を測定するようにしても良い。なお、前回の測定で許容範囲から外れた電波強度が測定された地点においても、妨害電波の発生状況を時間的にきめ細かに把握する必要があるので、同様の処理をするとよい。
さらに、車上装置20において電波測定を行なった際に、位置情報(GPS情報)の他にそのときの車両の速度情報も記憶する。そして、車両速度と電波障害との相関についても解析するようにしても良い。
【0044】
また、前記データ蓄積処理(
図7)のステップS14や異常解析処理(
図8)のステップS27、S29で異常の発生、原因を表示する際に、電子地図のアプリケーションを立ち上げて、表示装置35の画面に地図および発生位置(基地局等)を表示させるようにしてもよい。また、表示された地図上の異常発生位置にカーソルを合わせると吹き出しで異常の種類と原因を表示させるようにしても良い。
さらに、前記実施形態では、本発明を鉄道路線沿線の妨害波検出システムに適用したものを説明したが、本発明は鉄道路線に限定されず、高速道路や専用バス路線などの沿線の妨害波検出システムにも適用可能である。