【文献】
GOLDBERG, I. et al.,Biotechnology and Bioengineering,1985年 7月,Vol.27,Pages 1067-1069
【文献】
佐々木酉二 他,Rhizopus属の有機酸醗酵,醗酵工学雑誌,1967年,Vol.45, No.3,Pages 211-217
【文献】
GANGL, I. C. et al.,Applied Biochemistry and Biotechnology,1990年,Vol. 24/25,Pages 663-677
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のフマル酸の製造方法は、(1)炭素源を含有する液体培地にてフマル酸を生産する能力を有する微生物を培養し、フマル酸及びフマル酸塩から選ばれる1種以上を得る工程と、(2)工程(1)で得られたフマル酸及びフマル酸塩から選ばれる1種以上を、非イオン性界面活性剤及び両性界面活性剤から選ばれる1種以上の界面活性剤の存在下において析出させる工程、とを含むものである。
本明細書においては、「フマル酸及びフマル酸塩から選ばれる1種以上」を「フマル酸(塩)」と記載することがある。
【0010】
〔工程(1)〕
本発明の方法では、先ず、炭素源を含有する液体培地にてフマル酸を生産する能力を有する微生物を培養し、フマル酸及びフマル酸塩から選ばれる1種以上を得る。
(炭素源を含有する液体培地)
本発明で用いられる液体培地は、合成培地、天然培地、或いは合成培地に天然成分を添加した半合成培地のいずれであってもよい。
炭素源としては、例えば、糖類が挙げられる。糖類としては、グルコース、フルクトース、キシロース等の単糖類、スクロース、ラクトース、マルトース等の二糖類が挙げられる。糖類は無水物又は水和物であってもよい。また、糖類を含有する糖液、例えば、でんぷんから得られる糖液や糖蜜(廃糖蜜)、セルロース系バイオマスから得られる糖液等を使用することもできる。なかでも、微生物によるフマル酸の高い生産性の観点から、グルコース、フルクトースが好ましい。
炭素源は、これらを単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0011】
液体培地中の炭素源の濃度は、微生物によるフマル酸の高い生産性の観点から、好ましくは1質量%以上、より好ましくは2質量%以上、さらに好ましくは3質量%以上であって、また、好ましくは40質量%以下、より好ましくは30質量%以下、さらに好ましくは20質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下である。
【0012】
液体培地には、炭素源の他、窒素源、無機塩類、その他必要な栄養源等を含有することができる。
窒素源の例としては、硫酸アンモニウム、尿素、硝酸アンモニウム、硝酸カリウム、硝酸ナトリウム等の含窒素化合物が挙げられる。
液体培地中の窒素源の濃度は、好ましくは0.001質量%以上、より好ましくは0.05質量%以上であって、また、好ましくは0.5質量%以下、より好ましくは0.2質量%以下である。
また、無機塩としては、硫酸塩、マグネシウム塩、亜鉛塩等が挙げられる。硫酸塩の例としては、硫酸マグネシウム、硫酸亜鉛、硫酸カリウム、硫酸ナトリウム等が挙げられる。マグネシウム塩の例としては、硫酸マグネシウム、硝酸マグネシウム、塩化マグネシウム等が挙げられる。亜鉛塩の例としては、硫酸亜鉛、硝酸亜鉛、塩化亜鉛等が挙げられる。
液体培地中の硫酸塩の濃度は、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.02質量%以上であって、また、好ましくは0.5質量%以下、より好ましくは0.2質量%以下である。
液体培地中のマグネシウム塩の濃度は、好ましくは0.001質量%以上、より好ましくは0.01質量%以上であって、また、好ましくは0.5質量%以下、より好ましくは0.1質量%以下である。
液体培地中の亜鉛塩の濃度は、好ましくは0.001質量%以上、より好ましくは0.005質量%以上であって、また、好ましくは0.05質量%以下、より好ましくは0.02質量%以下である。
【0013】
液体培地のpH(25℃、以下同じ)は、好ましくは3以上、より好ましくは3.5以上であって、また、好ましくは7以下、より好ましくは6以下である。培地のpHは、適宜緩衝剤を用いて調整することができる。
【0014】
(フマル酸を生産する能力を有する微生物)
フマル酸を生産する能力を有する微生物としては、例えば、糸状菌、大腸菌、枯草菌、酵母、放線菌等が挙げられる。なかでも、取扱性、フマル酸の高い生産性の観点から、糸状菌が好ましい。
糸状菌としては、リゾプス(Rhizopus)属、アスペルギルス(Aspergillus)属、ムコール(Mucor)属に属する微生物等が挙げられ、リゾプス(Rhizopus)属に属する微生物が好ましい。
【0015】
リゾプス属菌の種類としては、特に限定されないが、例えば、リゾプス・デレマー(Rhizopus delemar)、リゾプス・オリザエ(Rhizopus oryzae)、リゾプス・アリズス(Rhizopus arrhizus)、リゾプス・キネンシス(Rhizopus chinensis)、リゾプス・ニグリカンス(Rhizopus nigricans)、リゾプス・トンキネンシス(Rhizopus tonkinensis)、リゾプス・トリチシ(Rhizopus tritici)等が挙げられる。これらのリゾプス属菌種は、単独で使用すればよいが、2種以上組み合わせて使用することもできる。
【0016】
糸状菌、特にリゾプス属菌は、ペレットの形態、或いは担体に固定化された形態で用いることが好ましい。リゾプス属菌の「ペレット」とは、液体培養により菌糸が自発的に形成した数百μm〜数mmの大きさの菌糸塊をいい、「担体に固定化された」とは、担体に保持又は包埋された状態をいう。これらは、商業的に入手したものを使用しても、胞子又は菌糸から調製したものを使用してもよい。
【0017】
(培養方法)
フマル酸の生成は、上記液体培地でフマル酸を生産する能力を有する微生物を培養することにより行なわれる。培養の条件は、通常の培養条件に従えばよい。例えば、培養温度は、菌体の生育や、フマル酸の高い生産性の観点から、好ましくは20℃以上、より好ましくは30℃以上であって、また、好ましくは40℃以下、より好ましくは37℃以下である。
培養に用いる培養槽は、従来公知のものを適宜採用することができるが、フマル酸の高い生産性の観点から、好ましくは、通気撹拌型培養槽、気泡塔型培養槽、及び流動床培養槽であり、回分式、半回分式及び連続式のいずれで行ってもよい。また、通気条件は、フマル酸の高い生産性の観点から、好ましくは0.1vvm以上、より好ましくは0.2vvm以上であって、また、好ましくは2vvm以下、より好ましくは1vvm以下である。培養期間は、適宜調整することができる。
【0018】
フマル酸の生成においては、生成するフマル酸によって培養液中のpHが低下するので中和剤を用いて中和しながら培養を進めるのが好ましい。
pH調整に用いる中和剤は、例えば、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の炭酸塩、アンモニウム化合物及びこれらの混合物等が挙げられる。なかでも、フマル酸の溶解度の観点及び経済性の観点から、好ましくは水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、アンモニア水、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウムであり、より好ましくは水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムであり、更に好ましくは水酸化ナトリウムである。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
尚、生成したフマル酸は、中和剤と塩を形成し、フマル酸塩の形で存在していてもよい。
【0019】
このような培養により、培地中にフマル酸(塩)が蓄積する。
フマル酸(塩)を含有する培養液は、培養終了後、適当な分離手段、例えば、遠心分離や精密濾過等の膜処理より培養物から微生物等の不溶物を除去することが好ましい。一方、培養液から分離されたリゾプス属菌等の微生物は、フマル酸生産に再利用することができる。
工程(1)で得られる培養液中、フマル酸(塩)の含有量は、回収率や製造コストの観点から、好ましくは0.5質量%以上、より好ましくは1質量%以上であって、また、好ましくは20質量%以下、より好ましくは10質量%以下、さらに好ましくは3質量%以下である。
【0020】
〔工程(2)〕
工程(2)は、工程(1)で得られたフマル酸及びフマル酸塩から選ばれる1種以上を、非イオン性界面活性剤及び両性界面活性剤から選ばれる1種以上の界面活性剤の存在下において析出させる工程である。
工程(2)は、工程(1)で得られたフマル酸及びフマル酸塩から選ばれる1種以上を含有する培養液から、非イオン性界面活性剤及び両性界面活性剤から選ばれる1種以上の界面活性剤の存在下においてフマル酸を析出する工程であっても良い。或いは、工程(1)で得られたフマル酸及びフマル酸塩から選ばれる1種以上を培養液から分離した後、フマル酸及びフマル酸塩から選ばれる1種以上を含む水溶液から、非イオン性界面活性剤及び両性界面活性剤から選ばれる1種以上の界面活性剤の存在下において再度フマル酸を析出する工程であっても良い。
工程(2)で、フマル酸(塩)を含む培養液に直接、非イオン性界面活性剤及び両性界面活性剤から選ばれる1種以上の界面活性剤を添加してフマル酸を析出する場合は、工程が単純化されるので、コストメリットがある。また、フマル酸(塩)を培養液から分離した後、これを含む水溶液に非イオン性界面活性剤及び両性界面活性剤から選ばれる1種以上の界面活性剤を添加してフマル酸を析出する場合は、夾雑物が少ない状態でフマル酸を析出させることができるので、精製精度を高めることが容易になる。
本発明において、工程(2)は、工程(1)で得られたフマル酸及びフマル酸塩から選ばれる1種以上を含有する培養液から、非イオン性界面活性剤及び両性界面活性剤から選ばれる1種以上の界面活性剤の存在下においてフマル酸を析出する工程が好ましい。
【0021】
(界面活性剤)
本発明で用いられる界面活性剤は、非イオン性界面活性剤及び両性界面活性剤から選ばれる1種以上である。これらの界面活性剤は単独で用いてもよく、また複数を組み合わせて用いてもよい。複数を組み合わせる場合は、非イオン性界面活性剤と両性界面活性剤を組み合わせて用いてもよい。また、非イオン性界面活性剤同士または両性界面活性剤同士を組み合わせて用いてもよい。
フマル酸(塩)を含有する培養液又は水溶液に当該界面活性剤を添加するタイミングについては特に制限されるものではなく、フマル酸の析出時に界面活性剤が存在していればよい。
【0022】
(非イオン性界面活性剤)
本発明で用いられる非イオン性界面活性剤としては、例えば、グリセリン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルケニルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルケニルエーテル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンヒマシ油、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリグリセリン脂肪酸エステル等が挙げられる。
エチレンオキサイド(EO)鎖を持つ非イオン性界面活性剤を用いる場合、エチレンオキサイド付加モル数は、好ましくは4以上、より好ましくは5以上、さらに好ましくは6以上であり、また、好ましくは250以下、より好ましくは160以下、さらに好ましくは80以下、さらにより好ましくは60以下、さらにより好ましくは50以下、さらにより好ましくは25以下、さらにより好ましくは18以下である。また、非イオン性界面活性剤の脂肪酸部分、アルキル部分、アルキレン部分及びアルケニル部分の炭素数は、好ましくは6以上、より好ましくは8以上、さらに好ましくは10以上であり、また、好ましくは24以下、より好ましくは22以下、さらに好ましくは20以下である。
非イオン性界面活性剤の種類としては、色相成分の除去効果を発揮させる観点から、好ましくはポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテルであり、より好ましくはポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルである。
【0023】
非イオン性界面活性剤のHLB(親水性−親油性のバランス、Hydrophilic−Lypophilic Balance)は、色相成分の除去効果を発揮させる観点から、好ましくは6以上、より好ましくは10以上、さらに好ましくは12以上であり、また、好ましくは20以下、より好ましくは19以下、更に好ましくは17以下である。
本発明においてHLBは、小田・寺村らによる無機性値、有機性値からHLBを算出することができる。
無機性値、有機性値から算出されるHLBは、具体的にはHLB=(Σ無機性値/Σ有機性)×10により計算される。ここで、「無機性値」、「有機性値」のそれぞれについては、例えば、分子中の炭素原子1個について「有機性値」が20、同水酸基1個について「無機性値」が100といったように、各種原子又は官能基に応じた「無機性値」、「有機性値」が設定(例えば、甲田善生 著、「有機概念図―基礎と応用―」11頁〜17頁、三共出版 1984年発行 参照)されており、有機化合物中の全ての原子及び官能基の「無機性値」、「有機性値」を積算することによって、当該有機化合物のHLBが算出される。
尚、2種以上の非イオン性界面活性剤から構成される場合のHLBは、次式のように、各非イオン性界面活性剤のHLB値をその配合質量比率に基づいて相加算平均したものである。
混合HLB=Σ(HLBx×Wx)/ΣWx
(式中、HLBxは、非イオン性界面活性剤XのHLB値を示し、Wxは、HLBxの値を有する非イオン性界面活性剤Xの質量(g)を示す。)
【0024】
(両性界面活性剤)
両性界面活性剤としては、アミドベタイン系界面活性剤、アミドアミノ酸系界面活性剤、アルキルベタイン系界面活性剤、スルホベタイン系界面活性剤、イミダゾリニウムベタイン系界面活性剤、ホスホベタイン系界面活性剤等が挙げられる。なかでも、色相成分の除去効果を発揮させる観点から、アルキルベタイン系界面活性剤、スルホベタイン系界面活性剤が好ましく、アルキルジメチルアミノ酢酸ベタインがより好ましい。アルキルベタイン系界面活性剤のアルキル部分の炭素数は、色相成分の除去効果を発揮させる観点から、好ましくは6以上、より好ましくは8以上、さらに好ましくは10以上であり、また、好ましくは22以下、より好ましくは20以下、さらに好ましくは18以下である。
【0025】
本発明においては、色相成分の除去効果を発揮させる観点から、界面活性剤として非イオン性界面活性剤から選ばれる1種以上を使用することが好ましく、非イオン性界面活性剤を1種用いる場合のHLB及び、2種以上用いる場合の相加算平均HLBは、10以上が好ましく、より好ましくは12以上であり、また、好ましくは20以下であり、より好ましくは17以下である。
非イオン性界面活性剤と両性界面活性剤は、商業的に入手したものを使用することができる。
【0026】
(界面活性剤の濃度)
フマル酸の析出時における界面活性剤の使用量は、特に限定されるものではないが、色相成分の除去率の観点から、フマル酸(塩)に対して好ましくは0.0001以上であり、また、工業的生産性、コストの観点から、好ましくは1以下である。
また、同様の観点から、フマル酸の析出時における総界面活性剤の濃度は、フマル酸(塩)を含有する培養液又は水溶液中に、好ましくは0.0001質量%以上、より好ましくは0.001質量%以上、さらに好ましくは0.01質量%以上であり、また、好ましくは5質量%以下、より好ましくは2質量%以下、さらに好ましくは1質量%以下である。
【0027】
(フマル酸を析出する方法)
フマル酸を析出する方法は、特に制限されず、pH調整、冷却、濃縮等の操作により行うことができる。
フマル酸の析出は、撹拌翼を有する反応槽を用いて、撹拌しながら行うことが好ましい。撹拌翼は、いずれの形状でもかまわないが、特に結晶の混合を良好にするため、パドル翼、タービン翼、プロペラ翼、アンカー翼、大翼径パドル翼、マックスブレンド翼であることが好ましい。以下、フマル酸(塩)を含有する培養液からフマル酸を析出する場合を例として記載する。
【0028】
pH調整による析出は、フマル酸塩からフマル酸と塩に遊離させることで、フマル酸濃度を溶解度以上に高めることにより、フマル酸を析出することができる。
培養液のpH調整に用いる酸は、フマル酸よりpKaが小さい無機酸であれば特に制限なく用いることができる。無機酸として、例えば、塩酸、硝酸、硫酸、リン酸等が挙げられる。好ましくは、硫酸、塩酸である。無機酸の添加量は、工程(1)で得られるフマル酸(塩)含有培養液のpHに応じて適宜調整すればよい。
pHは、フマル酸回収率の観点から、3.5以下に調整するのが好ましく、より好ましくは3以下、さらに好ましくは2.5以下である。また、腐食性の観点から、pH0.5以上が好ましく、より好ましくは1以上が好ましい。
pH調整による析出を行う際の温度は、特に限定されないが、フマル酸回収率の観点から、培養液を冷却してから実施するのが好ましい。
冷却温度は、フマル酸回収率の観点から、好ましくは35℃以下、より好ましくは30℃以下、さらに好ましくは25℃以下であり、また、好ましくは0℃以上、より好ましくは4℃以上である。
酸の添加速度は、生産性の観点から、好ましくは0.1[mmol−酸/L−培養液/min]以上、より好ましくは0.3[mmol−酸/L−培養液/min]以上であり、また、精製度の観点から、好ましくは20[mmol−酸/L−培養液/min]以下、より好ましくは10[mmol−酸/L−培養液/min]以下、さらに好ましくは5[mmol−酸/L−培養液/min]以下、さらに好ましくは3[mmol−酸/L−培養液/min]以下である。
【0029】
冷却による析出は、フマル酸を含有する培養液を冷却することで、フマル酸濃度を溶解度以上に高めることにより、フマル酸を析出することができる。
均一にフマル酸を析出するために、昇温してから冷却を行ってもよい。また、培養液を濃縮後、昇温してから冷却を行ってもよい。また、精製度の観点から、昇温してから、冷却前に培養液に上記の酸を添加してpHを上記範囲に調整してもよい。昇温温度は、好ましくは40℃以上、より好ましくは55℃以上であり、また、好ましくは100℃以下である。
冷却温度は、フマル酸回収率の観点から、好ましくは35℃以下、より好ましくは30℃以下、さらに好ましくは25℃以下であり、また、好ましくは0℃以上、より好ましくは4℃以上である。
培養温度又は昇温温度から冷却温度に至るまでに要した時間から算出される冷却速度は、生産性と精製度の観点から、好ましくは0.05[℃/min]以上、より好ましくは0.1[℃/min]以上であり、さらに好ましくは0.2[℃/min]以上であり、また、精製度の観点から、10[℃/min]以下であることが好ましく、より好ましくは5[℃/min]以下である。
【0030】
濃縮による析出は、フマル酸を含有する培養液を濃縮することで、フマル酸濃度を溶解度以上に高めることにより、フマル酸を析出することができる。
フマル酸回収率の観点から、濃縮による析出前に、培養液に上記の酸を添加してpHを上記範囲に調整してもよい。
これらの析出方法は単独で実施してもよいし、複数の方法を組み合わせて実施してもよい。複数の方法を組み合わせて実施する場合、フマル酸回収率の観点から、pH調整による析出と、冷却による析出及び/又は濃縮による析出を実施するのが好ましい。
【0031】
本発明において、フマル酸を析出する方法としては、高い精製度のフマル酸を得る観点、フマル酸回収率の観点から、フマル酸(塩)を含む培養液を昇温した後、pH調整を行い、次いで冷却による析出を行う方法が好ましい。なかでも、フマル酸(塩)を含む培養液を55℃以上に昇温した後に、酸を添加してpHを3以下にし、次いで25℃以下まで冷却してフマル酸を析出する方法が好ましい。
また、フマル酸を析出する方法としては、経済的に精製フマル酸を得る観点から、フマル酸(塩)を含む培養液を冷却した後、pH調整による析出を行う方法が好ましい。なかでも、フマル酸(塩)を含む培養液を25℃以下に冷却した後に、酸を添加し、pH3以下に調整してフマル酸を析出する方法が好ましい。
いずれの析出方法においても、フマル酸回収率の観点から、析出終了時の培養液の冷却温度は、フマル酸回収率の観点から、好ましくは35℃以下、より好ましくは30℃以下、さらに好ましくは25℃以下、さらに好ましくは20℃以下であり、また、好ましくは0℃以上、より好ましくは4℃以上である。
また、析出終了時の培養液のpHは、フマル酸回収率の観点から、好ましくは3.5以下に調整するのが好ましく、より好ましくは3以下、さらに好ましくは2.5以下であり、腐食性の観点から、pH0.5以上が好ましく、より好ましくは1以上が好ましい。
【0032】
フマル酸の結晶は、遠心分離、濾過、デカンテーション等の固液分離操作により分取することができる。結晶の分離操作等は、上記温度範囲で行うことが好ましい。
このようにして得られるフマル酸の結晶を必要に応じて洗浄後、乾燥することにより、精製されたフマル酸を得ることができる。
乾燥方法は、特に制限されず、例えば、棚段乾燥機、パドルドライヤー、ナウターミキサー、流動層乾燥機、真空撹拌乾燥機、ディスクドライヤー等の通常の乾燥機を使用することができる。
乾燥温度は、好ましくは80℃以上、より好ましくは90℃以上、さらに好ましくは100℃以上であり、また、好ましくは150℃以下、より好ましくは130℃以下、さらに好ましくは120℃以下である。減圧乾燥を行ってもよい。
【0033】
本発明方法により得られるフマル酸は、色相に優れる。後記実施例に記載した方法で測定される波長400nmの吸光度は、好ましくは0.02以下であり、より好ましくは0.015以下である。
色相が良好なフマル酸は、プラスチックの原料、食品添加物、入浴剤、アスパラギン酸等の基礎化学品へ変換する中間原料等として利用でき、とりわけ食品添加物として有用である。
【0034】
上述した実施形態に関し、本発明はさらに以下の製造方法を開示する。
【0035】
<1>次の工程(1)及び(2):
(1)炭素源を含有する液体培地にてフマル酸を生産する能力を有する微生物を培養し、フマル酸及びフマル酸塩から選ばれる1種以上を得る工程、
(2)工程(1)で得られたフマル酸及びフマル酸塩から選ばれる1種以上を、非イオン性界面活性剤及び両性界面活性剤から選ばれる1種以上の界面活性剤の存在下において析出させる工程
を含む、フマル酸の製造方法。
【0036】
<2>炭素源が、好ましくは糖類であり、より好ましくはグルコース又はフルクトースであり、さらに好ましくはグルコースである<1>に記載のフマル酸の製造方法。
<3>フマル酸を生産する能力を有する微生物が、好ましくは糸状菌、大腸菌、枯草菌、酵母又は放線菌であり、より好ましくは糸状菌である<1>又は<2>記載のフマル酸の製造方法。
<4>糸状菌が、好ましくはリゾプス(Rhizopus)属、アスペルギルス(Aspergillus)属又はムコール(Mucor)属に属する微生物であり、より好ましくはリゾプス(Rhizopus)属に属する微生物である<3>に記載のフマル酸の製造方法。
<5>リゾプス(Rhizopus)属に属する微生物が、好ましくはリゾプス・デレマー(Rhizopus delemar)、リゾプス・オリザエ(Rhizopus oryzae)、リゾプス・アリズス(Rhizopus arrhizus)、リゾプス・キネンシス(Rhizopus chinensis)、リゾプス・ニグリカンス(Rhizopus nigricans)、リゾプス・トンキネンシス(Rhizopus tonkinensis)又はリゾプス・トリチシ(Rhizopus tritici)である<4>に記載のフマル酸の製造方法。
<6>フマル酸を生産する能力を有する微生物の培養が、好ましくは0.1vvm以上、より好ましくは0.2vvm以上、また、好ましくは2vvm以下、より好ましくは1vvm以下で通気しながら、好ましくは20℃以上、より好ましくは30℃以上、また、好ましくは40℃以下、より好ましくは37℃以下の温度下で行われる<1>〜<5>のいずれか1に記載のフマル酸の製造方法。
<7>フマル酸を生産する能力を有する微生物の培養が、好ましくは中和剤を用いて中和しながら行われる<1>〜<6>のいずれか1に記載のフマル酸の製造方法。
<8>中和剤が、好ましくはアルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の炭酸塩、アンモニウム化合物及びこれらの混合物であり、より好ましくは水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、アンモニア水、炭酸アンモニウム及び炭酸水素アンモニウムから選ばれる1種以上であり、さらに好ましくは水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム及び炭酸カリウムから選ばれる1種以上であり、さらに好ましくは水酸化ナトリウムである<7>に記載のフマル酸の製造方法。
<9>工程(1)で得られた培養液中のフマル酸及びフマル酸塩から選ばれる1種以上の含有量が、好ましくは0.5質量%以上、より好ましくは1質量%以上であって、また、好ましくは20質量%以下、より好ましくは10質量%以下、さらに好ましくは3質量%以下である<1>〜<8>のいずれか1に記載のフマル酸の製造方法。
<10>非イオン性界面活性剤が、好ましくはグリセリン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルケニルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルケニルエーテル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンヒマシ油、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油及びポリグリセリン脂肪酸エステルから選ばれる1種以上であり、より好ましくはポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル及びポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテルから選ばれる1種以上であり、さらに好ましくはポリオキシエチレンアルキルエーテル及びポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルから選ばれる1種以上である<1>〜<9>のいずれか1に記載のフマル酸の製造方法。
<11>非イオン性界面活性剤のHLBが、好ましくは6以上、より好ましくは10以上、さらに好ましくは12以上であり、また、好ましくは20以下、より好ましくは19以下、更に好ましくは17以下であり、また、好ましくは6〜20、より好ましくは10〜19、更に好ましくは12〜17である<1>〜<10>のいずれか1に記載のフマル酸の製造方法。
<12>両性界面活性剤が、好ましくはアミドベタイン系界面活性剤、アミドアミノ酸系界面活性剤、アルキルベタイン系界面活性剤、スルホベタイン系界面活性剤、イミダゾリニウムベタイン系界面活性剤及びホスホベタイン系界面活性剤から選ばれる1種以上であり、より好ましくはアルキルベタイン系界面活性剤及びスルホベタイン系界面活性剤から選ばれる1種以上であり、さらに好ましくはアルキルジメチルアミノ酢酸ベタインである<1>〜<11>のいずれか1に記載のフマル酸の製造方法。
<13>界面活性剤が、好ましくは非イオン性界面活性剤であり、より好ましくはHLBが12以上の非イオン性界面活性剤である<1>〜<12>のいずれか1に記載のフマル酸の製造方法。
<14>工程(2)が、好ましくは工程(1)で得られたフマル酸及びフマル酸塩から選ばれる1種以上を含有する培養液から、非イオン性界面活性剤及び両性界面活性剤から選ばれる1種以上の界面活性剤の存在下においてフマル酸を析出する工程、或いは、工程(1)で得られたフマル酸及びフマル酸塩から選ばれる1種以上を培養液から分離した後、フマル酸及びフマル酸塩から選ばれる1種以上を含む水溶液から、非イオン性界面活性剤及び両性界面活性剤から選ばれる1種以上の界面活性剤の存在下において再度フマル酸を析出する工程であり、より好ましくは工程(1)で得られたフマル酸及びフマル酸塩から選ばれる1種以上を含有する培養液から、非イオン性界面活性剤及び両性界面活性剤から選ばれる1種以上の界面活性剤の存在下においてフマル酸を析出する工程である<1>〜<13>のいずれか1に記載のフマル酸の製造方法。
<15>界面活性剤の使用量が、フマル酸及びフマル酸塩から選ばれる1種以上に対して、好ましくは0.0001以上であり、また、好ましくは1以下である<1>〜<14>のいずれか1に記載のフマル酸の製造方法。
<16>フマル酸及びフマル酸塩から選ばれる1種以上を含有する培養液又は水溶液中の総界面活性剤の濃度が、好ましくは0.0001質量%以上、より好ましくは0.001質量%以上、さらに好ましくは0.01質量%以上であり、また、好ましくは5質量%以下、より好ましくは2質量%以下、さらに好ましくは1質量%以下であり、また、好ましくは0.0001〜5質量%、より好ましくは0.001〜2質量%、さらに好ましくは0.01〜1質量%である<1>〜<14>のいずれか1に記載のフマル酸の製造方法。
<17>フマル酸を析出する方法が、好ましくはpH調整による析出、冷却による析出及び濃縮による析出から選ばれる1以上の方法である<1>〜<16>のいずれか1に記載のフマル酸の製造方法。
<18>pH調整による析出に用いられる酸が、好ましくはフマル酸よりpKaが小さい無機酸であり、より好ましくは塩酸、硝酸、硫酸又はリン酸であり、さらに好ましくは硫酸又は塩酸である<17>に記載のフマル酸の製造方法。
<19>酸の添加速度が、好ましくは0.1[mmol−酸/L−培養液/min]以上、より好ましくは0.3[mmol−酸/L−培養液/min]以上であり、また、好ましくは20[mmol−酸/L−培養液/min]以下、より好ましくは10[mmol−酸/L−培養液/min]以下、より好ましくは5[mmol−酸/L−培養液/min]以下、さらに好ましくは3[mmol−酸/L−培養液/min]以下である<18>に記載のフマル酸の製造方法。
<20>pH調整による析出が、好ましくはpH3.5以下、より好ましくは3以下、さらに好ましくはpH2.5以下に、また、好ましくはpH0.5以上、より好ましくは1以上に調整して行われる<17>〜<19>のいずれか1に記載のフマル酸の製造方法。
<21>pH調整による析出が、好ましくは培養液を冷却してから行われ、より好ましくは培養液を35℃以下、より好ましくは30℃以下、さらに好ましくは25℃以下であって、また、好ましくは0℃以上、より好ましくは4℃以上に冷却してから行われる<17>〜<20>のいずれか1に記載のフマル酸の製造方法。
<22>pH調整による析出が、好ましくは培養液を25℃以下に冷却した後に、酸を添加し、pH3以下に調整して行われる<17>〜<21>のいずれか1に記載のフマル酸の製造方法。
<23>冷却による析出が、好ましくは培養液を昇温してから行われ、より好ましくは培養液を40℃以上、より好ましくは55℃以上であって、また、好ましくは100℃以下に昇温してから行われる<17>に記載のフマル酸の製造方法。
<24>冷却による析出が、好ましくは培養液を昇温した後、酸を添加して、好ましくはpH3.5以下、より好ましくはpH3以下、さらに好ましくは2.5以下に、また、好ましくはpH0.5以上、より好ましくは1以上にpH調整してから行われる<17>又は<23>に記載のフマル酸の製造方法。
<25>冷却による析出が、好ましくは35℃以下、より好ましくは30℃以下、さらに好ましくは25℃以下であり、また、好ましくは0℃以上、より好ましくは4℃以上に冷却して行われる<17>、<23>又は<24>に記載のフマル酸の製造方法。
<26>培養温度又は昇温温度から冷却温度に至るまでに要した時間から算出される冷却速度が、好ましくは0.05[℃/min]以上、より好ましくは0.1[℃/min]以上であり、さらに好ましくは0.2[℃/min]以上であり、また、10[℃/min]以下であることが好ましく、より好ましくは5[℃/min]以下である<17>、<23>〜<25>のいずれか1に記載のフマル酸の製造方法。
<27>冷却による析出が、好ましくは培養液を55℃以上に昇温した後に、酸を添加してpHを3以下にし、次いで25℃以下まで冷却して行われる<17>、<23>〜<26>のいずれか1に記載のフマル酸の製造方法。
<28>濃縮による析出が、好ましくは培養液に酸を添加して、好ましくはpH3.5以下、より好ましくはpH3以下、さらに好ましくは2.5以下に、また、好ましくはpH0.5以上、より好ましくは1以上にpH調整してから行われる<17>に記載のフマル酸の製造方法。
<29>フマル酸析出終了時の培養液の冷却温度が、好ましくは35℃以下、より好ましくは30℃以下、さらに好ましくは25℃以下、さらに好ましくは20℃以下であり、また、好ましくは0℃以上、より好ましくは4℃以上である<1>〜<28>のいずれか1に記載のフマル酸の製造方法。
<30>フマル酸析出終了時の培養液のpHが、好ましくはpH3.5以下であり、より好ましくは3以下であり、さらに好ましくはpH2.5以下であり、また、好ましくはpH0.5以上、より好ましくはpH1以上である<1>〜<29>のいずれか1に記載のフマル酸の製造方法。
<31>本発明方法により得られるフマル酸の、本願明細書の実施例記載の方法で測定される波長400nmの吸光度が、好ましくは0.02以下であり、より好ましくは0.015以下である<1>〜<30>のいずれか1に記載のフマル酸の製造方法。
【実施例】
【0037】
[リゾプス属菌]
菌株は独立行政法人 製品評価技術基盤機構(NITE)より入手した糸状菌リゾプス・デレマー(Rhizopus delemar) JCM5557を使用した。
【0038】
[界面活性剤]
次の界面活性剤を使用した。
(非イオン性界面活性剤)
ポリオキシエチレン(6)ラウリルエーテル:エマルゲン(登録商標)108、無機性値、有機性値から算出されるHLB10.3(カタログ値HLB12.1)、花王(株)製
ポリオキシエチレン(12)ラウリルエーテル:エマルゲン120、無機性値、有機性値から算出されるHLB13.1(カタログ値HLB15.3)、花王(株)製
ポリオキシエチレン(47)ラウリルエーテル:エマルゲン150、無機性値、有機性値から算出されるHLB16.8(カタログ値HLB18.4)、花王(株)製
ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート:無機性値、有機性値から算出されるHLB14.9(カタログ値16.7)、和光純薬工業(株)製
ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノオレエート:無機性値、有機性値から算出されるHLB13.5(カタログ値15.0)、和光純薬工業(株)製
ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン(C12−C14)アルキルエーテル:エマルゲンLS−114、無機性値、有機性値から算出されるHLB14、花王(株)社製
ポリオキシエチレン(60)硬化ヒマシ油:エマノーンCH−60(K)、無機性値、有機性値から算出されるHLB13.6、花王(株)社製
テトラオレイン酸ポリオキシエチレン(60)ソルビット:レオドール460V、無機性値、有機性値から算出されるHLB11.7、花王(株)社製
括弧内の数字はEO平均付加モル数を表す。
(両性界面活性剤)
ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン:アンヒトール20BS、花王(株)製
硫酸−3−〔(3−コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ〕−1−プロパン:CHAPS、(株)同仁化学研究所製
(アニオン性界面活性剤)
ラウリル硫酸ナトリウム:エマール0、花王(株)社製(比較例)
(カチオン性界面活性剤)
ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド、和光純薬工業(株)製(比較例)
【0039】
[色相の評価]
乾燥後のフマル酸0.2gに1mol/L NaOHを4mL添加してフマル酸を溶解させた後、光路長1cmの石英セルを用い、波長400nmにおける吸光度を測定した(紫外可視分光光度計UV−1800、(株)島津製作所製)。吸光度の値が小さいほど色相良好とした。
【0040】
実施例1
(1)培養液の取得
液体培地(グルコース4質量%、硫酸マグネシウム7水和物 0.025質量%、硫酸亜鉛7水和物 0.009質量%、硫酸アンモニウム0.1質量%)15Lに、リゾプス属菌を接種し、pH4、液温35℃、撹拌速度200r/min(撹拌翼1/2ディスクタービン翼)、通気0.6vvmの条件で通気撹拌培養を12時間行った。培養中は、pHが4になるように水酸化ナトリウム水溶液を使用してpH調製した。
培養後、孔径0.2μmのメンブレンフィルターシステムにより培養液を濾過することで菌体を除去し、フマル酸またはその塩を2.23質量%含有する培養液を得た。培養液のpHは4.0であった。
【0041】
(2)フマル酸の析出
フマル酸の析出は、翼径7cmのアンカー翼を有する内容積600mLのジャケット式反応槽(槽径7.5cm)にて、撹拌速度200r/minで実施した。
先ず前記(1)で得た培養液450gを60℃に昇温した。続いて、エマルゲン108を0.45g添加した後、硫酸を添加してpHを2.2に調整した。次いで、培養液を0.6℃/minの冷却速度にて5℃まで冷却することでフマル酸を析出した。次に析出したフマル酸懸濁液をNo.2のろ紙(ADVANTEC社製、以下同じ)を使用して吸引ろ過した後、200gのイオン交換水を添加してろ過洗浄を行った。ろ過後のフマル酸ケークは105℃で乾燥することでフマル酸を得た。精製フマル酸の400nmの吸光度は0.015であった。
【0042】
実施例2〜17
界面活性剤の種類・濃度、pH、撹拌速度、冷却速度、冷却温度を表1に示す通りに変えた以外は実施例1と同様にしてフマル酸を得た。また、精製フマル酸の400nmの吸光度に関しても表1に示した通りであった。
【0043】
実施例18
フマル酸の析出は、翼径7cmのアンカー翼を有する内容積600mLのジャケット式反応槽(槽径7.5cm)にて、撹拌速度200r/minで実施した。
先ず前記実施例1(1)で得た培養液450gを60℃に昇温後、硫酸を添加してpHを2.0に調整した。次いで、培養液を0.6℃/minの冷却速度にて5℃まで冷却することでフマル酸を析出した。次に析出したフマル酸懸濁液をNo.2のろ紙(ADVANTEC社製、以下同じ)を使用して吸引ろ過した後、200gのイオン交換水を添加してろ過洗浄を行った。ろ過後のフマル酸ケークは105℃で乾燥することでフマル酸を得た。当該フマル酸の400nmの吸光度は0.026であった。
イオン交換水に上記フマル酸を加え300gにし、翼径7cmのアンカー翼を有する内容積600mLのジャケット式反応槽(槽径7.5cm)に入れ、撹拌速度200r/minにする。これを60℃に昇温する。続いて、エマルゲン108を0.45g添加する。次いで、フマル酸水溶液を0.6℃/minの冷却速度にて5℃まで冷却することでフマル酸を析出させる。次に、フマル酸懸濁液をNo.2のろ紙(ADVANTEC社製、以下同じ)を使用して吸引ろ過する。ろ過後のフマル酸ケークは105℃で乾燥することで無色のフマル酸結晶が得られる。
【0044】
比較例1
フマル酸の析出は、翼径7cmのアンカー翼を有する内容積600mLのジャケット式反応槽(槽径7.5cm)にて、撹拌速度200r/minで実施した。
先ず前記実施例1(1)で得た培養液450gを60℃に昇温後、硫酸を添加してpHを2.0に調整した。次いで、培養液を0.6℃/minの冷却速度にて5℃まで冷却することでフマル酸を析出した。次に析出したフマル酸懸濁液をNo.2のろ紙(ADVANTEC社製、以下同じ)を使用して吸引ろ過した後、200gのイオン交換水を添加してろ過洗浄を行った。ろ過後のフマル酸ケークは105℃で乾燥することでフマル酸を得た。精製フマル酸の400nmの吸光度は0.026であった。
【0045】
比較例2
前記実施例1(1)で得た培養液500gに活性炭(粒状白鷺WH2C8/32、日本エンバイロ ケミカルズ(株)製)を0.5g添加して吸着処理を行った。活性炭処理は25℃、24時間、100r/minにて振とう撹拌を行った。吸着処理後、孔径0.2μmのメンブレンフィルターシステムにより培養液を濾過することで活性炭を除去した。尚、上清のフマル酸またはその塩の濃度は2.21質量%であった。
フマル酸の析出は、翼径7cmのアンカー翼を有する内容積600mLのジャケット式反応槽(槽径7.5cm)にて、撹拌速度200r/minで実施した。
まず、活性炭処理した培養液450gを60℃に昇温後、硫酸を添加してpHを2.2に調整した。次いで、培養液を0.6℃/minの冷却速度にて5℃まで冷却することでフマル酸を析出した。次に析出したフマル酸懸濁液をNo.2のろ紙(ADVANTEC社製、以下同じ)を使用して吸引ろ過した後、200gのイオン交換水を添加してろ過洗浄を行った。ろ過後のフマル酸ケークは105℃で乾燥することでフマル酸を得た。精製フマル酸の400nmの吸光度は0.021であった。
【0046】
比較例3
フマル酸の析出は、翼径7cmのアンカー翼を有する内容積600mLのジャケット式反応槽(槽径7.5cm)にて、撹拌速度200r/minで実施した。
先ず前記実施例1(1)で得た培養液450gを60℃に昇温した。続いて、エマール0を0.45g添加した後、硫酸を添加してpHを2.1に調整した。次いで、培養液を0.6℃/minの冷却速度にて5℃まで冷却することでフマル酸を析出した。次に析出したフマル酸懸濁液をNo.2のろ紙(ADVANTEC社製、以下同じ)を使用して吸引ろ過した後、200gのイオン交換水を添加してろ過洗浄を行った。ろ過後のフマル酸ケークは105℃で乾燥することでフマル酸を得た。乾燥後のフマル酸0.2gに1mol/L NaOHを4mL添加してフマル酸を溶解させたところ、完全に溶解せずに黄色く濁っていた。このときの波長400nmにおける吸光度は2.0であった。
【0047】
比較例4
フマル酸の析出は、翼径7cmのアンカー翼を有する内容積600mLのジャケット式反応槽(槽径7.5cm)にて、撹拌速度200r/minで実施した。
先ず前記実施例1(1)で得た培養液450gを60℃に昇温した。続いて、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミドを0.45g添加した後、硫酸を添加してpHを2.2に調整した。次いで、培養液を0.6℃/minの冷却速度にて5℃まで冷却することでフマル酸を析出した。次に析出したフマル酸懸濁液をNo.2のろ紙(ADVANTEC社製、以下同じ)を使用して吸引ろ過した後、200gのイオン交換水を添加してろ過洗浄を行った。ろ過後のフマル酸ケークは105℃で乾燥することでフマル酸を得た。精製フマル酸の400nmの吸光度は0.044であった。
【0048】
【表1】
【0049】
実施例19
(1)培養液の取得
実施例1と同様にして、リゾプス属菌を培養して培養液を得た。
【0050】
(2)フマル酸の析出
フマル酸の析出は、実施例1と同様に、翼径7cmのアンカー翼を有する内容積600mLのジャケット式反応槽(槽径7.5cm)にて、撹拌速度200r/minで実施した。
先ず前記(1)で得た培養液450gにエマルゲン120を0.45g添加した後、5℃に冷却した。続いて、pH2.3まで0.5[mmol-H
2SO
4/L-培養液/min]の添加速度にて硫酸を添加することでフマル酸を析出した。次に析出したフマル酸懸濁液をNo.2のろ紙(ADVANTEC社製、以下同じ)を使用して吸引ろ過した後、200gのイオン交換水を添加してろ過洗浄を行った。ろ過後のフマル酸ケークは105℃で乾燥することでフマル酸を得た。精製フマル酸の400nmの吸光度は0.015であった。
【0051】
実施例20
pH、酸添加速度を表2に示す通りに変えた以外は実施例19と同様にしてフマル酸を得た。また、精製フマル酸の400nmの吸光度に関しても表2に示した通りであった。
【0052】
比較例5
フマル酸の析出は、実施例1と同様に、翼径7cmのアンカー翼を有する内容積600mLのジャケット式反応槽(槽径7.5cm)にて、撹拌速度200r/minで実施した。
先ず前記(1)で得た培養液450gを5℃に冷却した。続いて、pH2.2まで5.5[mmol-H
2SO
4/L-培養液/min]の添加速度にて硫酸を添加することでフマル酸を析出した。次に析出したフマル酸懸濁液をNo.2のろ紙(ADVANTEC社製、以下同じ)を使用して吸引ろ過した後、200gのイオン交換水を添加してろ過洗浄を行った。ろ過後のフマル酸ケークは105℃で乾燥することでフマル酸を得た。精製フマル酸の400nmの吸光度は0.041であった。
【0053】
【表2】
【0054】
表1のとおり、本発明の方法により精製されたフマル酸は、着色を十分に除去でき、色相が良好であった。表2より、pH調整による析出において酸の添加速度が小さい程フマル酸の色相が良好となる傾向が見られた。
また、本発明の方法によれば、界面活性剤の使用量が少ない場合であっても着色除去効果があることが確認された。
他方、析出工程前に工業的に実現可能な範囲で活性炭処理を行ってフマル酸を精製した場合は、着色を十分に低減できなかった。また、データに示さないものの、過剰の活性炭を使用した場合においてはフマル酸の着色を低減する傾向があったが、フマル酸が活性炭に吸着してフマル酸回収率が大幅に低下してしまった。
従って、本発明の方法によれば、従来の活性炭吸着処理のように吸着処理による回収率が低下することなく色相が良好なフマル酸を得ることができる。