特許第6857022号(P6857022)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6857022
(24)【登録日】2021年3月23日
(45)【発行日】2021年4月14日
(54)【発明の名称】有機酸の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12P 7/46 20060101AFI20210405BHJP
   C12R 1/845 20060101ALN20210405BHJP
【FI】
   C12P7/46
   C12R1:845
【請求項の数】8
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-248608(P2016-248608)
(22)【出願日】2016年12月22日
(65)【公開番号】特開2017-118874(P2017-118874A)
(43)【公開日】2017年7月6日
【審査請求日】2019年10月4日
(31)【優先権主張番号】特願2015-251574(P2015-251574)
(32)【優先日】2015年12月24日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100077562
【弁理士】
【氏名又は名称】高野 登志雄
(74)【代理人】
【識別番号】100096736
【弁理士】
【氏名又は名称】中嶋 俊夫
(74)【代理人】
【識別番号】100117156
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 正樹
(74)【代理人】
【識別番号】100111028
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 博人
(72)【発明者】
【氏名】入江 裕
(72)【発明者】
【氏名】小山 伸吾
【審査官】 松浦 安紀子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−037196(JP,A)
【文献】 米屋武文 他,Rhizopus javanicusの有機酸およびエタノール生産に及ぼす好気培養条件の影響,日本農芸化学会誌,1979年,Vol.53, No.11,Pages 363-367
【文献】 FU, Y. Q. et al.,Enhancement of Fumaric Acid Production by Rhizopus oryzae Using a Two-stage Dissolved Oxygen Control,Applied Biochemistry and Biotechnology,2010年,Vol.162,Pages 1031-1038
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P 7/46
C12R 1/845
WPI
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
糸状菌を用いて、培地中の炭素源からフマル酸を製造する方法であって、炭素源を含み、かつ、溶存酸素濃度を8ppm以上、35ppm以下に制御した液体培地にて糸状菌を培養し、フマル酸を得る、フマル酸の製造方法。
【請求項2】
糸状菌がリゾプス属菌である請求項1記載のフマル酸の製造方法。
【請求項3】
糸状菌がリゾプス・デレマー又はリゾプス・オリザエである請求項1又は2記載のフマル酸の製造方法。
【請求項4】
糸状菌が糸状菌ペレット、又は固定化糸状菌の形態である請求項1〜3のいずれか1項記載のフマル酸の製造方法。
【請求項5】
溶存酸素濃度を8.5ppm以上に制御した液体培地である請求項1〜4のいずれか1項記載のフマル酸の製造方法。
【請求項6】
液体培地に酸素濃度が21%以上、100%以下の気体を通気させる請求項1〜のいずれか1項記載のフマル酸の製造方法。
【請求項7】
炭素源が糖類である請求項1〜のいずれか1項記載のフマル酸の製造方法。
【請求項8】
培養工程における液体培地のpH(35℃)が2以上、7以下である請求項1〜のいずれか1項記載のフマル酸の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機酸、特にフマル酸の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フマル酸は、アルキド樹脂等のプラスチック原料、食品添加物、入浴剤、アスパラギン酸等の基礎化学品へ変換する中間原料等として利用されている。工業的にフマル酸はベンゼンやブタンを原料とした石油化学製品として製造されているが、近年、化石資源の枯渇及び地球温暖化等の環境側面から、再生可能な資源を用いてフマル酸を製造することが求められている。
【0003】
再生可能な資源を用いたフマル酸の製造方法としては、例えば、糖類からリゾプス・デレマー(Rhizopus delemer)等の糸状菌の培養によりフマル酸を生成させる方法が知られている。
糸状菌の培養においては、フマル酸は主に炭素源から生じたピルビン酸から始まる還元的TCA回路において生成されると考えられている。一方で、ピルビン酸からエタノールを生成する経路も存在するため、糸状菌によるフマル酸の生成には副産物としてエタノールが生成するという問題がある。そのため、エタノールの副生成を抑制し、且つフマル酸への変換率を高めることはフマル酸製造の効率化に重要である。
従来、フマル酸の生成収率を向上するための技術としては、例えば、炭素源からなる培養媒体中にRhizopus属の菌カビを増殖させることによるフマル酸製造のための発酵工程において、培養媒体中に溶解した酸素の濃度を、細胞増殖段階において飽和の約80〜100%そして酸生産段階において飽和の約30〜80%に保持する方法が報告されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表平3−505396号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、本発明者が前記特許文献1に記載している培地中に溶解した酸素の濃度をフマル酸生産段階において飽和の約30〜80%、すなわち2.1〜5.7ppmの範囲に制御して糸状菌の培養工程を行ったところ、エタノールが多く生成し、十分なフマル酸の生成収率が得られない場合があることが判明した。
従って、本発明は、効率よく有機酸、特にフマル酸を製造することのできる新たな方法を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、糸状菌による有機酸収率を向上させるべく検討した結果、糸状菌の培養時に炭素源を含む液体培地の溶存酸素濃度を増加させ、所定範囲内に制御することで、炭素源からのエタノールの副生成が抑えられ、且つ有機酸への変換率が高くなることを見出した。
【0007】
すなわち、本発明は、糸状菌を用いて、培地中の炭素源から有機酸を製造する方法であって、炭素源を含み、かつ、溶存酸素濃度を8ppm以上、35ppm以下に制御した液体培地にて糸状菌を培養し、有機酸を得る、有機酸の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、炭素源から有機酸への変換率を向上させることができ、糸状菌を用いて高い収率で有機酸を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の有機酸の製造方法は、炭素源を含み、かつ、溶存酸素濃度を8ppm以上、35ppm以下に制御した液体培地にて糸状菌を培養し、有機酸を得る、ものである。
【0010】
本発明において有機酸とは、糸状菌の培養の過程により炭素源から生産される有機酸であり、例えば、フマル酸、乳酸、イタコン酸、リンゴ酸、ピルビン酸等が挙げられる。なかでも、好ましくは、フマル酸、ピルビン酸、乳酸及びリンゴ酸から選ばれる少なくとも1種であり、更に好ましくはフマル酸、ピルビン酸であり、更に好ましくはフマル酸である。
【0011】
(糸状菌)
本発明に用いられる糸状菌としては、リゾプス(Rhizopus)属、アスペルギルス(Aspergillus)属、ムコール(Mucor)属に属する微生物等が挙げられる。例えば、リゾプス・デレマー(Rhizopus delemar)、リゾプス・オリザエ(Rhizopus oryzae)、アスペルギルス・オリザエ(Aspergillus oryzae)、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)、アスペルギルス・テレウス(Aspergillus terreus)、ムコール・マンドシュリクス(Mucor mandshuricus)等が挙げられる。
なかでも、有機酸の高い生産性の観点から、リゾプス(Rhizopus)属菌が好ましく、リゾプス・デレマー(Rhizopus Delemer)、リゾプス・オリザエ(Rhizopus oryzae)がより好ましい。
【0012】
本発明においては、糸状菌をペレット状、綿状、塊状、固定化糸状菌の形態で単独で用いても、混合物として用いてもよい。ここで、本明細書において「ペレット状」とは、液体培養により菌糸が自発的に形成した数百μm〜数mmの大きさの菌糸塊をいう。また、「綿状」とは、菌糸が数十μmの大きさでまばらに存在する糸状菌をいう。「塊状」とは、菌糸同士が凝集し、数十mm以上の大きさに成長した菌糸塊をいう。「固定化糸状菌」とは、担体に保持又は包埋された糸状菌をいう。
なかでも、有機酸の高い生産性の観点及び取扱い性の観点から、好ましくは糸状菌ペレット、固定化糸状菌であり、より好ましくは糸状菌ペレットである。
これらは、商業的に入手したものを使用してもよい。また、例えば、糸状菌ペレットや固定化糸状菌は、次の工程により調製したものを使用してもよい。
【0013】
(糸状菌ペレットの調製工程)
糸状菌ペレットは、培養により調製することができる。
培養に用いる培地としては、糸状菌を生育可能な液体培地であれば、合成培地、天然培地及び天然成分を添加した半合成培地のいずれでもよい。培地には、後述するような炭素源、窒素源、無機塩等が含まれるのが一般的であるが、各成分組成は適宜選択可能である。
培養条件としては、培養温度が、糸状菌ペレットの生育の観点から、好ましくは20℃以上、より好ましくは25℃以上であり、また、好ましくは40℃以下、より好ましくは30℃以下である。また、培地のpH(25℃)は、糸状菌ペレットの生育の観点から、好ましくは2以上、より好ましくは3以上であり、また、好ましくは7以下、より好ましくは6以下である。
培養方法は、公知の方法を採用することができる。例えば、糸状菌の胞子を液体培地に植菌後、胞子を発芽させて菌糸とし、その菌糸から菌体を形成させペレット化させる。この培養は、通常、好気的条件で行われる。
培養期間は、糸状菌の胞子を液体培地に植菌後、糸状菌ペレットの生育の観点から、好ましくは1日以上、より好ましくは3日以上であり、また、好ましくは7日以内、より好ましくは6日以内である。
培養に用いる培養槽は、従来公知のものを適宜採用することができる。具体的には、通気撹拌型培養槽、気泡塔型培養槽、流動床培養槽等が挙げられ、通気条件は、糸状菌ペレットの生育の観点から、好ましくは0.1vvm以上、より好ましくは0.3vvm以上であり、また、好ましくは4vvm以下、より好ましくは2vvm以下である。
培養後、糸状菌ペレットは、培養液と共に培養槽から抜き出して、ろ別、遠心分離等の簡便な操作により分離回収し有機酸を生成する培養工程に使用することができるが、培養槽に糸状菌ペレットを残し、同一培養槽で培養工程を行うことも可能である。
また、本工程は2以上の工程に更に分けて行うこともできる。
【0014】
(固定化糸状菌の調製工程)
固定化糸状菌は、培養により調製することができる。
培養方法は、公知の方法を採用することができる。例えば、糸状菌の胞子を糸状菌固定化担体の存在する液体培地に植菌後、胞子を発芽させて菌糸とし、担体内へ捕捉された菌糸から固定化糸状菌を調製する。固定化担体として、ウレタン系重合体、オレフィン系重合体、ジエン系重合体、縮合系重合体、シリコーン系重合体、又はフッ素系重合体等が利用可能である。
担体の形状としては、平板状、多層板状、波板状、四面体状、球状、紐状、網状、円柱状、格子状、円筒状等のいずれの形状のものでもよい。
尚、糸状菌の固定化に使用する培地及び培養槽としては前述の糸状菌ペレットと同様のものを使用することが可能であり、また培養条件についても前述の糸状菌ペレットと同様の条件を採用することができる。
更に、培養後、固形化糸状菌は、糸状菌ペレットと同様の操作により分離回収し有機酸を生成する培養工程に使用することができるが、培養槽に固定化糸状菌を残し、同一培養槽で培養工程を行うことも可能である。
また、本工程は2以上の工程に更に分けて行うこともできる。
【0015】
(炭素源を含む液体培地)
本発明で有機酸の生成に用いられる液体培地は炭素源を含む。
液体培地は、合成培地、天然培地、或いは合成培地に天然成分を添加した半合成培地のいずれであってもよい。
炭素源としては、グリセリン、ソルビトール、糖類が挙げられ、有機酸の高い生産性の観点から、好ましくは糖類である。
糖類としては、グルコース、フルクトース、キシロース等の単糖類、スクロース、ラクトース、マルトース等の二糖類が挙げられる。糖類は無水物又は水和物であってもよい。なかでも、炭素源は、有機酸の高い生産性の観点から、グルコース、フルクトース、キシロース、スクロース、ラクトース、マルトース、ソルビトールが好ましく、グルコース、フルクトース、キシロース、スクロース、ラクトース、マルトースがより好ましく、グルコースが更に好ましい。
【0016】
液体培地中の炭素源の濃度は、有機酸の高い生産性の観点から、好ましくは1質量%以上、より好ましくは2質量%以上、更に好ましくは3質量%以上であって、また、好ましくは40質量%以下、より好ましくは30質量%以下、更に好ましくは20質量%以下、更により好ましくは15質量%以下である。
【0017】
液体培地には、炭素源の他、窒素源、無機塩類、その他必要な栄養源が含まれていてもよい。また、使用する炭素源に培養に適切な濃度の上記栄養源が含まれている場合には、炭素源のみを用いることも可能である。
窒素源としては、例えば、硫酸アンモニウム、尿素、硝酸アンモニウム、硝酸カリウム、硝酸ナトリウム等の含窒素化合物が挙げられる。
液体培地中の窒素濃度は、有機酸の高い生産性の観点から、好ましくは0.001質量%以上、より好ましくは0.002質量%以上、更に好ましくは0.004質量%以上であり、また、好ましくは0.1質量%以下、より好ましくは0.08質量%以下、更に好ましくは0.06質量%以下である。
【0018】
無機塩としては、硫酸塩、マグネシウム塩、亜鉛塩等が挙げられる。硫酸塩の例としては、硫酸マグネシウム、硫酸亜鉛、硫酸カリウム、硫酸ナトリウム等が挙げられる。マグネシウム塩の例としては、硫酸マグネシウム、硝酸マグネシウム、塩化マグネシウム等が挙げられる。亜鉛塩の例としては、硫酸亜鉛、硝酸亜鉛、塩化亜鉛等が挙げられる。
液体培地中の硫酸イオン濃度は、有機酸の高い生産性の観点から、好ましくは0.001質量%以上、より好ましくは0.005質量%以上、更に好ましくは0.01質量%以上であり、また、好ましくは0.1質量%以下、より好ましくは0.08質量%以下、更に好ましくは0.04質量%以下である。
また、液体培地中のマグネシウムイオン濃度は、有機酸の高い生産性の観点から、好ましくは0.001質量%以上、より好ましくは0.002質量%以上であり、また、好ましくは0.5質量%以下、より好ましくは0.2質量%以下、更に好ましくは0.1質量%以下である。
また、液体培地中の亜鉛イオン濃度は、有機酸の高い生産性の観点から、好ましくは0.00001質量%以上、より好ましくは0.00005質量%以上であり、また、好ましくは0.1質量%以下、より好ましくは0.01質量%以下、更に好ましくは0.005質量%以下である。
【0019】
液体培地のpH(35℃)は、菌体の生育や、有機酸の高い生産性の観点から、好ましくは2以上、より好ましくは3以上であり、また、好ましくは7以下、より好ましくは6以下である。
液体培地のpH(35℃)は、好ましくは2〜7、より好ましくは3〜6である。pH制御は、水酸化カルシウム、水酸化ナトリウム、炭酸カルシウム、アンモニア等の塩基、硫酸、塩酸等の酸を用いて行うことができる。
【0020】
(培養方法)
有機酸の生成は、上記液体培地で糸状菌を培養することにより行なわれる。培養の条件は、通常の培養条件に従えばよい。例えば、培養温度は、菌体の生育や、有機酸、特にフマル酸の高い生産性の観点から、好ましくは20℃以上、より好ましくは30℃以上であって、また、好ましくは40℃以下、より好ましくは37℃以下である。
培養に用いる培養槽は、従来公知のものを適宜採用することができるが、有機酸、特にフマル酸の高い生産性の観点から、好ましくは、通気撹拌型培養槽、気泡塔型培養槽、及び流動床培養槽であり、回分式、半回分式及び連続式のいずれで行ってもよい。
培養期間は、適宜調整することができる。
【0021】
本発明において、有機酸、特にフマル酸の生成は、溶存酸素濃度が8ppm以上、35ppm以下に制御された液体培地で行われる。
培養工程における液体培地中の溶存酸素濃度は、エタノールの副生を抑え、有機酸、特にフマル酸の収率を向上させる観点から、好ましくは8.5ppm以上、より好ましくは9ppm以上、更に好ましくは12ppm以上、更により好ましくは15ppm以上、更により好ましくは28ppm以上であり、また、好ましくは34ppm以下、更に好ましくは33ppm以下である。
液体培地中の溶存酸素濃度は、好ましくは8.5〜34ppm、より好ましくは9〜33ppm、更に好ましくは12〜33ppm、更に好ましくは15〜33ppm、更に好ましくは28〜33ppmである。
尚、液体培地中の溶存酸素濃度の制御は、好ましくは経時的に溶存酸素濃度をモニターしながら行われ、当該溶存酸素濃度は、後記実施例記載の方法によって測定することができる。
【0022】
液体培地中の溶存酸素濃度は、通気酸素濃度、通気速度(通気量)、撹拌回転数、圧力等によって制御することができる。
本発明において、通気酸素濃度は、培地に供給される気体中の酸素濃度であり、溶存酸素濃度を8ppm以上、35ppm以下に制御する観点から、21%(体積比率、以下同じ)以上であり、好ましくは35%以上、より好ましくは40%以上である。上限としては、100%とするのが好ましい。通気酸素濃度は培養挙動に合わせて変化させてもよい。酸素濃度が21%以上の気体を得る方法としては、例えば、深冷分離法やPSA法(吸着法)、膜分離法等が挙げられる。
【0023】
通気速度(通気量)は、好ましくは0.1vvm以上、より好ましくは0.2vvm以上であって、また、好ましくは2vvm以下、より好ましくは1vvm以下である。
また、撹拌回転数は、培地に供給された気体を分散する条件が好ましく、スケールに合わせて適宜調整することが出来る。圧力は常圧から微加圧の条件が好ましく、加圧する場合は、0〜0.1MPaの範囲が好ましい。
【0024】
有機酸、特にフマル酸の生成においては、生成する有機酸によって培養液中のpHが低下するので中和剤を用いて中和しながら培養を進めるのが一般的である。
pH調整に用いる中和剤は、例えば、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の炭酸塩、アンモニウム化合物及びこれらの混合物が挙げられる。なかでも、有機酸、特にフマル酸の高い生産性の観点から、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、アンモニア水、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウムであり、より好ましくは水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムであり、更に好ましくは水酸化ナトリウムである。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
尚、生成した有機酸は、中和剤と塩を形成し、有機酸塩の形で存在していてもよい。
【0025】
このような培養により、培地中に有機酸が蓄積する。
有機酸を含有する培養液は、培養終了後、適当な分離手段、例えば、遠心分離や精密濾過等の膜処理より培養物から微生物等の不溶物を除去することが好ましい。これらは培養槽内で行ってもよく、一度槽外に抜き出して行ってもよい。一方、培養液から分離された糸状菌は、有機酸生産に再利用することができる。
【0026】
本発明によれば、炭素源からのエタノールの副生成が抑えられ、且つ有機酸への変換率を向上させることができる。具体的には、40%以上、より好ましくは50%以上の変換率でグルコースから有機酸を製造することができる。
ここで、有機酸変換率(%)とは、培養後に生成した有機酸濃度を、有機酸の培養生産おいて消費したグルコース濃度で割った値である。有機酸変換率の算出方法の詳細は実施例に記載した。
【0027】
得られた有機酸を含有する培養液は、必要に応じて濃縮した後、晶析法、イオン交換法、溶剤抽出法、あるいは有機酸をアルカリ土類金属塩として析出させた後析出物を酸分解する方法等により、培養液から有機酸を分離し回収することができる。
【0028】
上述した実施形態に関し、本発明は更に以下の製造方法を開示する。
【0029】
<1>糸状菌を用いて、培地中の炭素源から有機酸を製造する方法であって、炭素源を含み、かつ、溶存酸素濃度を8ppm以上、35ppm以下に制御した液体培地にて糸状菌を培養し、有機酸を得る、有機酸の製造方法。
【0030】
<2>糸状菌が、好ましくはリゾプス(Rhizopus)属、アスペルギルス(Aspergillus)属、又はムコール(Mucor)属に属する微生物であり、より好ましくはリゾプス・デレマー(Rhizopus delemar)、リゾプス・オリザエ(Rhizopus oryzae)、アスペルギルス・オリザエ(Aspergillus oryzae)、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)、アスペルギルス・テレウス(Aspergillus terreus)、又はムコール・マンドシュリクス(Mucor mandshuricus)である<1>に記載の有機酸の製造方法。
<3>糸状菌が、好ましくはリゾプス(Rhizopus)属菌であり、より好ましくはリゾプス・デレマー(Rhizopus Delemer)、又はリゾプス・オリザエ(Rhizopus oryzae)である<1>に記載の有機酸の製造方法。
<4>糸状菌が、好ましくはペレット状、綿状、塊状、及び固定化糸状菌から選ばれる形態であり、より好ましくは糸状菌ペレット、及び固定化糸状菌から選ばれる形態であり、更に好ましくは糸状菌ペレットである<1>〜<3>のいずれか1に記載の有機酸の製造方法。
<5>炭素源が、好ましくはグリセリン、ソルビトール、及び糖類から選ばれる少なくとも1種であり、より好ましくは糖類であり、また、より好ましくはグルコース、フルクトース、キシロース、スクロース、ラクトース、マルトース、及びソルビトールから選ばれる少なくとも1種であり、更に好ましくはグルコース、フルクトース、キシロース、スクロース、ラクトース、及びマルトースから選ばれる少なくとも1種であり、更に好ましくはグルコースである<1>〜<4>のいずれか1に記載の有機酸の製造方法。
<6>液体培地中の炭素源の濃度が、好ましくは1質量%以上、より好ましくは2質量%以上、更に好ましくは3質量%以上であって、また、好ましくは40質量%以下、より好ましくは30質量%以下、更に好ましくは20質量%以下、更により好ましくは15質量%以下であり、また、好ましくは1〜40質量%、より好ましくは2〜30質量%、更に好ましくは3〜20質量%、更に好ましくは3〜20質量%である<1>〜<5>のいずれか1に記載の有機酸の製造方法。
<7>液体培地が、好ましくは窒素源及び無機塩類を更に含む<1>〜<6>のいずれか1に記載の有機酸の製造方法。
<8>窒素源が、好ましくは硫酸アンモニウム、尿素、硝酸アンモニウム、硝酸カリウム、又は硝酸ナトリウムであり、無機塩が、好ましくは硫酸塩、マグネシウム塩、又は亜鉛塩であり、より好ましくは硫酸マグネシウム、硫酸亜鉛、硫酸カリウム、硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、硝酸マグネシウム、塩化マグネシウム、硫酸亜鉛、硝酸亜鉛、又は塩化亜鉛である<1>〜<7>のいずれか1に記載の有機酸の製造方法。
<9>液体培地中の窒素濃度が、好ましくは0.001質量%以上、より好ましくは0.002質量%以上、更に好ましくは0.004質量%以上であり、また、好ましくは0.1質量%以下、より好ましくは0.08質量%以下、更に好ましくは0.06質量%以下であり、また、好ましくは0.001〜0.1質量%、より好ましくは0.002〜0.08質量%、更に好ましくは0.004〜0.06質量%である<7>又は<8>に記載の有機酸の製造方法。
<10>液体培地中の硫酸イオン濃度が、好ましくは0.001質量%以上、より好ましくは0.005質量%以上、更に好ましくは0.01質量%以上であり、また、好ましくは0.1質量%以下、より好ましくは0.08質量%以下、更に好ましくは0.04質量%以下であり、好ましくは0.001〜0.1質量%、より好ましくは0.005〜0.08質量%、更に好ましくは0.01〜0.04質量%である<7>又は<8>に記載の有機酸の製造方法。
<11>液体培地中のマグネシウムイオン濃度が、好ましくは0.001質量%以上、より好ましくは0.002質量%以上であり、また、好ましくは0.5質量%以下、より好ましくは0.2質量%以下、更に好ましくは0.1質量%以下であり、また、好ましくは0.001〜0.5質量%、より好ましくは0.002〜0.2質量%、更に好ましくは0.002〜0.1質量%である<7>又は<8>に記載の有機酸の製造方法。
<12>液体培地中の亜鉛イオン濃度が、好ましくは0.00001質量%以上、より好ましくは0.00005質量%以上であり、また、好ましくは0.1質量%以下、より好ましくは0.01質量%以下、更に好ましくは0.005質量%以下であり、また、好ましくは0.00001〜0.1質量%、より好ましくは0.00005〜0.01質量%、更に好ましくは0.00005〜0.005質量%である<7>又は<8>に記載の有機酸の製造方法。
<13>液体培地のpH(35℃)が、好ましくは2以上、より好ましくは3以上であり、また、好ましくは7以下、より好ましくは6以下であり、また、好ましくは2〜7、より好ましくは3〜6である<1>〜<12>のいずれか1に記載の有機酸の製造方法。
<14>培養温度が、好ましくは20℃以上、より好ましくは30℃以上であって、また、好ましくは40℃以下、より好ましくは37℃以下であり、また、好ましくは20〜40℃、より好ましくは30〜37℃である<1>〜<13>のいずれか1に記載の有機酸の製造方法。
<15>液体培地中の溶存酸素濃度が、好ましくは8.5ppm以上、より好ましくは9ppm以上、更に好ましくは12ppm以上、更により好ましくは15ppm以上、更により好ましくは28ppm以上であり、また、好ましくは34ppm以下、更に好ましくは33ppm以下であり、また、好ましくは8.5〜34ppm、より好ましくは9〜33ppm、更に好ましくは12〜33ppm、更に好ましくは15〜33ppm、更に好ましくは28〜33ppmである<1>〜<14>のいずれか1に記載の有機酸の製造方法。
<16>液体培地中の溶存酸素濃度を、好ましくは通気酸素濃度、通気速度(通気量)、撹拌回転数、又は圧力によって制御する<1>〜<15>のいずれか1に記載の有機酸の製造方法。
<17>通気酸素濃度が、好ましくは21%(体積比率、以下同じ)以上、より好ましくは35%以上、より好ましくは40%以上であり、また、好ましくは100%以下であり、また、好ましくは21〜100%、より好ましくは35〜100%、更に好ましくは40〜100%である<16>に記載の有機酸の製造方法。
<18>通気速度(通気量)が、好ましくは0.1vvm以上、より好ましくは0.2vvm以上であって、また、好ましくは2vvm以下、より好ましくは1vvm以下であり、また、好ましくは0.1〜2vvm、より好ましくは0.2〜1vvmである<16>又は<17>に記載の有機酸の製造方法。
<19>圧力が、好ましくは常圧から微加圧の条件であり、加圧する場合は、好ましくは0〜0.1MPaの範囲である<16>〜<18>のいずれか1に記載の有機酸の製造方法。
<20>好ましくは40%以上、より好ましくは50%以上の変換率でグルコースから有機酸を製造する<1>〜<19>のいずれか1に記載の有機酸の製造方法。
<21>有機酸が、好ましくはフマル酸、乳酸、イタコン酸、リンゴ酸、及びピルビン酸から選ばれる少なくとも1種であり、より好ましくはフマル酸、ピルビン酸、乳酸及びリンゴ酸から選ばれる少なくとも1種であり、更に好ましくはフマル酸、及びピルビン酸から選ばれる少なくとも1種であり、更に好ましくはフマル酸である<1>〜<20>のいずれか1に記載の有機酸の製造方法。
【実施例】
【0031】
<分析方法>
[高速液体クロマトグラフ(HPLC)による各種成分の測定]
培養液を0.0085規定硫酸水溶液で適宜希釈し、孔径が0.22μmのセルロースアセテート製メンブレンフィルタ(ADVANTEC社製)を用いて濾過を行い、HPLC分析用サンプルとした。HPLCの分析条件は、次の通りである。
・カラム :ICSep ICE−ION−300
・溶離液 :0.0085規定 硫酸、0.4mL/min
・検出法(i) :RI(HITACHI、L−2490)
・検出法(ii) :UV(HITACHI、L−2455、測定波長250nm)
・カラム温度:40℃
・注入液量 :20μL
・保持時間 :40min
【0032】
この分析系における各成分の保持時間は、次の通りである。
・ピルビン酸:15min
・グルコース:16min
・フマル酸 :26min
・エタノール:34min
【0033】
[溶存酸素濃度の測定]
メトラートレド社製のDOセンサー(O24100e)を用いて培養液中の溶存酸素濃度の測定を行った。
【0034】
<糸状菌ペレットの調製>
〔胞子懸濁液の調製〕
菌株は独立行政法人 製品評価技術基盤機構(NITE)より入手した糸状菌リゾプス・デレマー(Rhizopus delemar) JCM5557及びNBRC5441を使用した。糸状菌は、各々別々に試験管内に形成させた斜面状寒天培地(Difco Potato Dextrose Agar、Becton,Dickinson and Company)上に菌体を画線/塗布し、30℃にて静置培養し、定期的に継代を行った。菌体使用時には菌体増殖した試験管に10mLの滅菌蒸留水を添加後、タッチミキサにて4分間撹拌することで胞子を回収し、更に無菌の蒸留水を添加して希釈することで1×106 spores/mLに調整したものを胞子懸濁液とした。
【0035】
〔糸状菌のペレット化〕
糸状菌ペレットの調製は以下の2段階の培養にて行った。
1段目の培養は、200mLのPDB培地(Difco Potato Dextrose Broth、Becton,Dickinsonand Company)を仕込んだ500mL容バッフル付き三角フラスコを滅菌し、前述の方法で調製した胞子懸濁液を1×104個−胞子/mLとなるように植菌して、pHが3〜6の範囲で、27℃、170r/m(PRECI社、PRXYg−98R)の培養条件にて3日間行った。
2段目の培養は、ペレット形成培地(グルコース(和光純薬工業社製)10質量%、硫酸マグネシウム七水和物 0.025質量%、硫酸亜鉛七水和物 0.009質量%、硫酸アンモニウム 0.1質量%、リン酸二水素一カリウム 0.06質量%)500mLを仕込んだ1L容通気撹拌槽を滅菌し、1段目の培養液500mL分の菌体を植菌して27℃、撹拌速度500r/min、通気速度0.3vvmで空気を供給した条件にて2日間行った。pHは7N水酸化ナトリウム溶液を適宜添加して、pH(27℃)4.0を維持した。
【0036】
〔ペレットの回収〕
上記の各段で得られた糸状菌ペレット培養液を、ナイロンメッシュフィルターにてろ液のドリップが落ち着くまで数十秒ろ過し、ウエット状態の糸状菌ペレットを得た。2段目で得られたペレットは速やかに下記培養工程に供した。
【0037】
<有機酸の製造>
〔培養方法〕
実施例1
液体培地(組成:グルコース(和光純薬工業社製)10質量%、硫酸マグネシウム七水和物 0.025質量%、硫酸亜鉛七水和物 0.009質量%、硫酸アンモニウム0.1質量%)500mLを滅菌済の1L容の通気撹拌槽に添加し、続いて上記で調製したJCM5557糸状菌ペレット全量(ウエット状態)を添加した。その直後に培養0時間目のサンプリングを行った後、酸素発生装置(AIR SEP社、NEWLIFE J)を用いて酸素濃度を100%にした気体を通気しながら、温度35℃、撹拌回転数500r/min、通気速度0.3vvmの条件で、経時的にサンプリングを行いながら2日間撹拌培養を行った。
培養期間中、培養液中の溶存酸素濃度は32ppmであった。また、培養期間中、培養液のpHは7N水酸化ナトリウム溶液を適宜添加して、pH(35℃)4.0を維持した。培養終了後、培養液を濾過することで菌体を除去し、フマル酸を含有する培養液を得た。
【0038】
実施例2
酸素発生装置(AIR SEP社、NEWLIFE J)を用いて生成した気体と空気を混合して通気酸素濃度を50%にした以外は実施例1と同様に培養を行い、フマル酸を含有する培養液を得た。培養期間中、培養液中の溶存酸素濃度は9.5ppmであった。
【0039】
実施例3
酸素発生装置(AIR SEP社、NEWLIFE J)を用いて生成した気体と空気を混合して通気酸素濃度を35%にした以外は実施例1と同様に培養を行い、フマル酸を含有する培養液を得た。培養期間中、培養液中の溶存酸素濃度は8.0ppmであった。
【0040】
比較例1
通気する気体を空気(通気酸素濃度21%)とした以外は実施例1と同様に培養を行い、フマル酸を含有する培養液を得た。培養期間中、培養液中の溶存酸素濃度は5.4ppmであった。
【0041】
実施例4
液体培地(組成:グルコース(和光純薬工業社製)3質量%、硫酸マグネシウム七水和物 0.025質量%、硫酸亜鉛七水和物 0.009質量%、硫酸アンモニウム0.1質量%)500mLを滅菌済の1L容の通気撹拌槽に添加し、続いて上記で調製したNBRC5441糸状菌ペレット全量(ウエット状態)を添加した。その直後に培養0時間目のサンプリングを行った後、酸素発生装置(AIR SEP社、NEWLIFE J)を用いて酸素濃度を100%にした気体を通気しながら、温度35℃、撹拌回転数500r/min、通気速度0.3vvmの条件で、経時的にサンプリングを行いながら2日間撹拌培養を行った。培養期間中、培養液中の溶存酸素濃度は28ppmであった。また、培養期間中、培養液のpHは7N水酸化ナトリウム溶液を適宜添加して、pH(35℃)3.0を維持した。培養終了後、培養液を濾過することで菌体を除去し、有機酸を含有する培養液を得た。
【0042】
比較例2
通気する気体を空気(通気酸素濃度21%)にした以外は実施例4と同様に培養を行い、有機酸を含有する培養液を得た。培養期間中、培養液中の溶存酸素濃度は5.0ppmであった。
【0043】
実施例5
液体培地(組成:グルコース(和光純薬工業社製)3質量%、硫酸マグネシウム七水和物 0.025質量%、硫酸亜鉛七水和物 0.009質量%、硫酸アンモニウム0.1質量%)500mLを滅菌済の1L容の通気撹拌槽に添加し、続いて上記で調製したNBRC5441糸状菌ペレット全量(ウエット状態)を添加した。その直後に培養0時間目のサンプリングを行った後、酸素発生装置(AIR SEP社、NEWLIFE J)を用いて酸素濃度を100%にした気体を通気しながら、温度35℃、撹拌回転数500r/min、通気速度0.3vvmの条件で、経時的にサンプリングを行いながら2日間撹拌培養を行った。培養期間中、培養液中の溶存酸素濃度は28ppmであった。また、培養期間中、培養液のpHは7N水酸化ナトリウム溶液を適宜添加して、pH(35℃)7.0を維持した。培養終了後、培養液を濾過することで菌体を除去し、有機酸を含有する培養液を得た。
【0044】
比較例3
酸素発生装置(AIR SEP社、NEWLIFE J)を用いて生成した気体と空気を混合して通気酸素濃度を21%にした以外は実施例5と同様に培養を行い、有機酸を含有する培養液を得た。培養期間中、培養液中の溶存酸素濃度は5.0ppmであった。
【0045】
実施例6
液体培地(組成:混合糖(グルコース:フルクトース:スクロース:キシロース:ラクトース:マルトース=5:5:2:1:1:1混合比)5質量%、硫酸マグネシウム七水和物 0.025質量%、硫酸亜鉛七水和物 0.009質量%、硫酸アンモニウム0.1質量%)500mLを滅菌済の1L容の通気撹拌槽に添加し、続いて上記で調製したJCM5557糸状菌ペレット全量(ウエット状態)を添加した。その直後に培養0時間目のサンプリングを行った後、酸素発生装置(AIR SEP社、NEWLIFE J)を用いて酸素濃度を100%にした気体を通気しながら、温度35℃、撹拌回転数500r/min、通気速度0.3vvmの条件で、経時的にサンプリングを行いながら2日間撹拌培養を行った。培養期間中、培養液中の溶存酸素濃度は30ppmであった。また、培養期間中、培養液のpHは7N水酸化ナトリウム溶液を適宜添加して、pH(35℃)4.0を維持した。培養終了後、培養液を濾過することで菌体を除去し、有機酸を含有する培養液を得た。
【0046】
比較例4
酸素発生装置(AIR SEP社、NEWLIFE J)を用いて生成した気体と空気を混合して通気酸素濃度を21%にした以外は実施例6と同様に培養を行い、有機酸を含有する培養液を得た。培養期間中、培養液中の溶存酸素濃度は5.0ppmであった。
【0047】
〔評価方法〕
培養液の分析値から、次の(1)〜(6)の項目を評価軸とした。各項目の算出式を表1及び式(1)〜(6)に示す。
【0048】
【表1】
【0049】
(1)糖からフマル酸への変換率
P1[%]=(F−F0)/(G0−G)×100 (1)
(2)糖からエタノールへの変換率
Q[%]=(E−E0)/(G0−G)×100 (2)
(3)前記エタノール変換で発生する二酸化炭素への変換率
R[%]=Q×(CO2分子量/EtOH分子量)×100 (3)
(4)糖からピルビン酸への変換率
S1[%]=(Py−Py0)/(G0−G)×100 (4)
(5)混合糖からフマル酸への変換率
P2[%]=(F−F0)/(M0−M)×100 (5)
(6)混合糖からピルビン酸への変換率
S2[%]=(Py−Py0)/(M0−M)×100 (6)
(式中、G0、M0、F0、E0及びPy0は、培養0時間のグルコース濃度、混合糖濃度、フマル酸濃度、エタノール濃度、ピルビン酸濃度、を示し、G、M、F、E及びPyは、培養後のグルコース濃度、混合糖濃度、フマル酸濃度、エタノール濃度、ピルビン酸濃度を示す。)
【0050】
各実施例、比較例の条件と結果を表2〜表4に示す。
【0051】
【表2】
【0052】
【表3】
【0053】
【表4】
【0054】
表2〜表4に示すように、糸状菌の培養工程において培養液中の溶存酸素濃度を本発明の範囲内に制御することで、グルコース又は混合糖からフマル酸、ピルビン酸への変換が進み、一方、エタノールの副生は低減し、高い収率で有機酸が得られることが確認された。
通常の空気を供給した比較例1〜4では、エタノールが多く副生され、有機酸の収率は低かった。