特許第6857042号(P6857042)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6857042
(24)【登録日】2021年3月23日
(45)【発行日】2021年4月14日
(54)【発明の名称】塩化ビニリデン系共重合体ラテックス
(51)【国際特許分類】
   C08F 214/08 20060101AFI20210405BHJP
   C08F 220/14 20060101ALI20210405BHJP
   C08F 220/42 20060101ALI20210405BHJP
   C08F 220/06 20060101ALI20210405BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20210405BHJP
【FI】
   C08F214/08
   C08F220/14
   C08F220/42
   C08F220/06
   B32B27/30 C
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-20430(P2017-20430)
(22)【出願日】2017年2月7日
(65)【公開番号】特開2018-127523(P2018-127523A)
(43)【公開日】2018年8月16日
【審査請求日】2019年10月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大門 利博
【審査官】 横山 法緒
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭60−250040(JP,A)
【文献】 特開昭62−246912(JP,A)
【文献】 特開昭62−256871(JP,A)
【文献】 特開平09−296014(JP,A)
【文献】 特開平10−158455(JP,A)
【文献】 特開平11−001592(JP,A)
【文献】 特開昭60−192629(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/125699(WO,A1)
【文献】 特開2001−342317(JP,A)
【文献】 特開2000−302821(JP,A)
【文献】 特開2000−248493(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 6/00−246/00
C08F 2/00−2/60
C08L 1/00−101/14
B32B 27/30
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化ビニリデン85〜95重量部、及び、塩化ビニリデンと共重合可能なモノマー5〜15重量部(塩化ビニリデン及び塩化ビニリデンと共重合可能なモノマーの合計は100重量部)を含んでなる塩化ビニリデン系共重合体ラテックスであり、
塩化ビニリデンと共重合可能なモノマーが、塩化ビニリデン及び塩化ビニリデンと共重合可能なモノマーの合計100重量部に基づいて、
メタクリル酸メチル〜10重量部、
メタアクリロニトリル0.3〜5重量部、
アクリル酸0〜2重量部を含む、
塩化ビニリデン系共重合体ラテックス。
【請求項2】
請求項1に記載の塩化ビニリデン系共重合体ラテックスを含む層を有するフィルム。
【請求項3】
前記塩化ビニリデン系共重合体ラテックスを含む層が、20g/m〜100g/mの範囲内である乾燥後の塗膜重量を有するように形成されている、請求項2に記載のフィルム。
【請求項4】
前記塩化ビニリデン系共重合体ラテックスを含む層が、ポリ塩化ビニル製のフィルム基材上に形成されている、請求項2または3に記載のフィルム。
【請求項5】
請求項2ないし4のいずれか1項に記載のブリスターパッケージ用フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩化ビニリデン系共重合体ラテックス、及びこのラテックスを含む層を有するフィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
食品や医薬品の品質保持の為には、それを包装するフィルムが、大気中の酸素、窒素、二酸化炭素、水蒸気といった気体を十分遮断、密閉する必要がある。この点、種々の樹脂の中でも、塩化ビニリデン系共重合体ラテックス樹脂から形成された層を有するフィルムは、水蒸気や酸素のバリア性に優れていることから、食品や医薬品包装用途に非常に適している。
【0003】
近年、下記理由から、包装フィルムは、より高いガスバリア性が求められている。
1)より長期間にわたる食品材料品質の保持、薬効の保持;
2)高齢化に伴う、包装製品の内包物の押出し性向上需要に対応した薄膜化;
3)生産性向上の為の薄膜化。
バリア性を有するフィルムを構成する塩化ビニリデン系ラテックスとしては、特許文献1〜3が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2013/125699号パンフレット
【特許文献2】特表2001−526315号公報
【特許文献3】特開平05−202107号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方で、塩化ビニリデンを90重量%以上とした共重合体は結晶化し易く、安定性(凝集に関わる機械的安定性)や成膜性、及び、成膜後のフィルムの成型性(塗膜の柔軟性、耐屈曲性に関係している)に問題がある。従って、特許文献1〜3に記載のラテックスでは、安定性や成膜性と、このラテックスから形成された層を有するフィルムの高いバリア性との両立が難しい。特にラテックスの凝集に関わる機械的安定性や、このラテックスから形成された層を有するフィルムの外観(黄変)に関わる光学的安定性は、フィルムのバリア性と反比例する傾向がある。
本発明では、塗工後のフィルムの高い酸素、水蒸気バリア性を保ちながら、凝集に関わる機械的安定性が高く、フィルム外観、ひいては成型性に優れた塩化ビニリデン系ラテックスを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記のような問題点を解決するために鋭意研究を重ねた結果、驚くべきことに特定組成の塩化ビニリデン系共重合体組成物においてのみ、塗工後のフィルムの高い酸素、水蒸気バリア性を保ちながら、凝集に関わる機械的安定性が高く、フィルム外観(耐黄変)、ひいてはブリスターパッケージ等の成型性に優れた組成物が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明は以下の通りである。
1).塩化ビニリデン85〜95重量部、及び、塩化ビニリデンと共重合可能なモノマー5〜15重量部(塩化ビニリデン及び塩化ビニリデンと共重合可能なモノマーの合計は100重量部)を含んでなる塩化ビニリデン系共重合体ラテックスであり、塩化ビニリデンと共重合可能なモノマーが、塩化ビニリデン及び塩化ビニリデンと共重合可能なモノマーの合計100重量部に基づいて、メタクリル酸メチル4〜10重量部、メタアクリロニトリルまたはアクリロニトリル0.3〜5重量部、アクリル酸0〜2重量部を含む、塩化ビニリデン系共重合体ラテックス。
2).上記1)項に記載の塩化ビニリデン系共重合体ラテックスを含む層を有するフィルム。
【発明の効果】
【0007】
本発明の塩化ビニリデン系共重合体ラテックスは、塗工後のフィルムの高い酸素、水蒸気バリア性を保ちながら、凝集に関わる機械的安定性が高く、フィルム外観、ひいては成型性(耐屈曲性または柔軟性)に優れるという効果を有する。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の内容を詳細に説明する。
本発明の塩化ビニリデン系共重合体ラテックスは、塩化ビニリデン、及び、塩化ビニリデンと共重合可能なモノマーを含んでなる。本発明の塩化ビニリデン系共重合体ラテックスは、任意選択で、これら以外のモノマーを含んでよく、含まなくてもよい。通常、この塩化ビニリデン系共重合体ラテックスは、これら以外のモノマーを含まない。
これらのモノマーの組成について、塩化ビニリデン及び塩化ビニリデンと共重合可能なモノマーの合計を100重量部とするとき、塩化ビニリデン(以下、VDCと示す)の含有量は85〜95重量部であり、好ましくは90〜93重量部である。他方で、VDCと共重合可能なモノマーの含有量は5〜15重量部であり、好ましくは7〜10重量部である。
これら両成分の重量割合がこの範囲であると、本発明の塩化ビニリデン系共重合体ラテックスを含む層を有するフィルムが、内包物の品質を十分に保持するバリア性を発現することが可能となる。
典型的に、本発明の塩化ビニリデン系共重合体ラテックスは、ラテックスの総重量に基づいて、VDC85〜95重量%、及び、VDCと共重合可能なモノマー5〜15重量%を含んでなる。この場合、塩化ビニリデン及び塩化ビニリデンと共重合可能なモノマーの合計は、100重量%であってよい(ラテックスは、これら以外のモノマーを含まずに構成されてよい)。好ましくは、本発明の塩化ビニリデン系共重合体ラテックスは、VDC90〜93重量%、及び、VDCと共重合可能なモノマー7〜10重量%を含んでなる。
【0009】
VDCと共重合可能なモノマーは、メタクリル酸メチル(以下、MMAと示す)、メタアクリロニトリル(以下、MANと示す)またはアクリロニトリル(以下、ANと示す)、及びアクリル酸(以下、AAと示す)を含み、好ましくは、MMA、及びANまたはMANからなる。VDCと共重合可能なモノマーは、好ましくは、アクリル酸メチル(以下、MAと示す)を含まない。
【0010】
VDCと共重合可能なモノマーは、VDC及びVDCと共重合可能なモノマーの合計100重量部に基づいて、MMAが4〜10重量部、MANまたはANが0.3〜5重量部であり、より好ましくは組成中のMMAのMAN(またはAN)に対する重量比が1.0以上(MMA/MANまたはAN≧1.0)である。この範囲内であることにより、本発明の塩化ビニリデン系共重合体ラテックスを含む層を有するフィルムは、そのバリア性を保持したまま、ポリマーの変色(黄変)及び結晶化を抑制し、柔軟性を付与することができる。より好ましい実施形態では、VDC及びVDCと共重合可能なモノマーの合計100重量部に基づいて、MMAが5〜8重量部、MANまたはANが0.4〜2重量部である。また、他のより好ましい実施形態において、組成中のMMAのMAN(またはAN)に対する重量比は、3.0以上であり、さらに好ましくは5.0以上である。
【0011】
さらに、VDCと共重合可能なモノマーにおいて、VDC及びVDCと共重合可能なモノマーの合計100重量部に基づくAAの含有量は0〜2.0重量部であり、より好ましくは0〜1.0重量部である。この範囲であると、本発明の塩化ビニリデン系共重合体ラテックスは、熱と機械シアによる凝集が抑制され、特に重ね塗り時における凝集物形成が抑制され、塗工性が向上する。
【0012】
本発明の塩化ビニリデン系共重合体ラテックスは、単量体混合物を乳化重合することによって製造することができる。特に限定されないが、乳化重合は、通常、30〜70℃の温度で行われる。重合温度は、好ましくは40〜60℃の範囲内である。重合温度を70℃以下にすることにより、重合中の原料の分解が抑えられるため、好ましい。重合温度を30℃以上にすることにより、重合速度を上げることができるので、重合の効率が良くなる。重合時の媒体として例えば水又はメタノールを使用することができるが、好ましくは水のみを使用する。
【0013】
本発明の塩化ビニリデン系共重合体ラテックスの乳化重合に用いる塩化ビニリデン及び塩化ビニリデンと共重合可能なモノマーは、例えば重合前に予め所定量を混合し、連絡的に投入してもよく、及び/または、段階的にバッチ投入してもよい。連続投入する場合の単量体の添加速度は、例えば重合温度を50℃とする場合は、添加する単量体の総重量の内の70%以上を17〜30時間、好ましくは19〜30時間、更に好ましくは21〜30時間をかけて添加する程度が好ましい。連続添加する時間は、重合温度によって最適化することが好ましい。好ましい一態様は、重合初期に単量体をバッチ投入し、後に残量を連続投入する方法である。単量体の連続投入を行うことにより、共重合体の重合度を調整することができ、共重合体の重量平均分子量を最適な範囲に調整することが可能となり、重合を効率的に行うことができる。
【0014】
本発明の塩化ビニリデン系共重合体ラテックスの乳化重合に用いることができる界面活性剤として、例えばアルキル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルフォン酸塩、アルキルスルホコハク酸塩、アルキルジフェニルエーテルジスルフォン酸塩、アルキルスルフォン酸塩などの陰イオン性界面活性剤が挙げられる。重合開始剤として、例えば過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム等の過硫酸塩、過酸化水素、tーブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド等の過酸化物等が挙げられる。重合活性剤として、例えば亜硫酸水素ナトリウムのような開始剤のラジカル分解を加速する重合活性剤が挙げられる。
これら重合添加剤は、特に限定されず、例えば本技術分野において従来から好ましく使用されている種類であってよい。これらの物質はラテックスから生成させた塗膜中に残存してバリア性を劣化させる要因となりうるので、その使用量は可能な限り少量であることが好ましい。
【0015】
本発明のラテックスを構成する塩化ビニリデン系共重合体の重合度は、例えば重合に供する単量体の一部を速度調整しながら連続添加して重合することにより、最適な範囲内に調整することができる。その重合度の尺度は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによって測定されるポリスチレン換算の重量平均分子量Mw、及び数平均分子量Mnによって判断される。一実施形態において、本発明のラテックスを構成する塩化ビニリデン系共重合体の重量平均分子量Mwは、通常12万〜30万であり、好ましくは12万〜22万である。数平均分子量Mnに対する重量平均分子量Mwの比(Mw/Mn)は、通常3.0以下である。
【0016】
本発明の塩化ビニリデン系共重合体ラテックスに含まれる塩化ビニリデン系共重合体粒子は、特に限定されないが、その平均粒径は100〜200nmであることが好ましい。平均粒径をこの範囲とすることで、ラテックスの貯蔵安定性が良く、塗工性が向上する。
本発明の塩化ビニリデン系共重合体ラテックスの固形分は、特に限定されないが、通常40〜70重量%である。
【0017】
また、本発明の塩化ビニリデン系共重合体ラテックスに、必要に応じて、一般的に使用されている種々の成分、たとえば、消泡剤、レオロジー調整剤、増粘剤、分散剤、及び、界面活性剤等の安定化剤、湿潤剤、可塑剤、着色剤、ワックス、シリコーンオイルなどを添加してもよい。また、このラテックスに、必要に応じて、光安定剤、紫外線吸収剤、シランカップリング剤、無機フィラー、着色顔料、体質顔料等を配合して使用することも可能である。
【0018】
本発明の塩化ビニリデン系共重合体ラテックスを含む層を有するフィルムを構成するフィルム基材には、特に制限は無いが、代表的なものとして、ポリ塩化ビニル、ポリエステル、ポリアミド及びポリプロピレン製のフィルムが挙げられる。最も一般的にはポリ塩化ビニル製のフィルムが用いられる。基材の厚みは、使用する材質により違いがあるが、通常8〜300μmであってよい。
【0019】
このフィルム上の塩化ビニリデン系共重合体ラテックスを含む層は、特に限定されないが、例えば、乾燥後の塗膜重量が、10g/m〜200g/mの範囲内、より典型的には20g/m〜100g/mの範囲内になるように形成されうる。
また、このフィルム上には、任意選択で、塩化ビニリデン系共重合体ラテックスを含む層以外に、塩化ビニリデン以外の重合活性に富む単量体を主体として機能的に調整された共重合体の層を含んでよい。このような層として、例えば、基材上に水系樹脂エマルジョンやアクリル系ディスパージョンを用いてプライマーを形成し、その上に本発明の塩化ビニリデン系共重合体ラテックスを含む層を設けてもよい。
【0020】
本発明の塩化ビニリデン系共重合体ラテックスは、上で例示したようなフィルムへ塗布され、ブリスターパッケージとして利用することが好ましい。得られたブリスターパッケージは、十分な柔軟性を有し、フィルム外観、成型性に優れる。
さらに、本発明の塩化ビニリデン系共重合体ラテックスは、ブリスターパッケージへの適用以外に、そのままコーティング剤としてクリヤー皮膜を形成させるために使用することもできる。
【0021】
本発明の塩化ビニリデン系共重合体ラテックスを基材であるフィルムに塗布する方法としては、被塗物表面に対して、エアースプレー、エアーレス、ロールコーター、カーテンフローコート、ロールコート、ディップコート、スピンコート等の公知の方法を用いることができる。通常、フィルムへの塗布後は、常温または加熱下で所定時間保持して乾燥される。
【0022】
本発明の塩化ビニリデン系共重合体ラテックスについての熱と機械シアによる凝集に関わる安定性の評価方法としては、例えば、JIS−K6828の合成エマルジョンの試験方法による凝集物量(%)の測定がある。
【0023】
本発明の塩化ビニリデン系共重合体ラテックスを含む層を有するフィルムのバリア性の評価法としては、例えば、JIS K7126 B法(等圧法)及びASTM D3985−81による酸素透過度測定方法、JIS K7129 B法(赤外センサー法)及びASTM F1249−90による水蒸気透過度(透湿度)測定方法がある。
【0024】
また、フィルム上に形成された本発明の塩化ビニリデン系共重合体ラテックスを含む層の柔軟性(耐屈曲性)の評価方法としては、JIS−K56005−1による塗料の一般試験方法(屈曲試験)がある。
また、ラテックスから得られる層を有するフィルムの外観、変色(黄変:ΔYI)の評価法としては、例えば、JIS K7373によるプラスチックの黄色度及び黄変度の求め方がある。
【0025】
本発明の塩化ビニリデン系共重合体ラテックス及びこのラテックスを含む層を有するフィルムについて、総合的なバリア性、及びバリア性と各物性の両立は、下記パラメーター(1)〜(3)を用いて評価することができる。
(1).[バリアレベル]=([酸素透過度測定値]+[水蒸気透過度測定値])/2
バリア性としては、酸素バリア性及び水蒸気バリア性の両方を高く保つ必要がある。従って、JIS K7126 B及びASTM D3985−81に示された測定方法に準じた酸素透過度測定値(cc/m・day@23℃、0%RH)とJIS K7129 B及びASTM F1249−90に示された測定方法に準じた水蒸気透過度測定値(g/m・day@38℃、100%RH)の平均値である「バリアレベル」(無単位数)によって、本発明の塩化ビニリデン系共重合体ラテックスを含む層を有するフィルムのバリア性を評価することができる。
特に限定されないが、このバリアレベルとして、一般包装用途においては0.1〜10程度、一般医薬包装(塗付量90GSM)で上限1.0程度、高いバリア性が要求される医薬包装においては0.5未満の数値範囲が望ましい。本発明の塩化ビニリデン系共重合体ラテックスを含む層を有するフィルムは、医薬包装を含む幅広い用途に適用されるものであるから、そのバリアレベルの好ましい数値範囲は1.0未満、より好ましくは0.5未満である。
【0026】
(2).[凝集レベル]=[凝集物量]×[バリアレベル]
また特に、本発明の塩化ビニリデン系共重合体ラテックスの熱と機械シアによる凝集に関わる機械的安定性や、このラテックスを含む層を有するフィルムの黄変に関わる光学的安定性は、当該フィルムのバリア性と反比例する傾向がある。
そこで、このラテックスの熱と機械シアによる凝集に関わる機械的安定性とフィルムのバリア性との両立の尺度として、JIS−K6828の合成エマルジョンの試験方法により測定された凝集物量(%)と上記バリアレベルとの積である「凝集レベル」(無単位数)を用いる。
特に限定されないが、各条件での凝集物量が1%未満となることが好ましいことから、本発明の凝集レベルの好ましい数値範囲は、一般医薬包装で1.0未満、高いバリア性が要求される医薬包装では0.5未満である。本発明の塩化ビニリデン系共重合体ラテックスを含む層を有するフィルムは、医薬包装を含む幅広い用途に適用されるものであるから、凝集レベルの好ましい数値範囲は1.0未満、より好ましくは0.5未満である。
【0027】
(3).[外観レベル]=[ΔYI]×[バリアレベル]
また、本発明の塩化ビニリデン系共重合体ラテックスを含む層を有するフィルムの変色(黄変)に関わる光学的安定性と、フィルムのバリア性との両立の尺度として、JIS K7373のプラスチックの黄色度及び黄変度の求め方により測定されたΔYIと上記バリアレベルとの積である「外観レベル」(無単位数)を用いる。
アレニウスの法則より、外観レベルの変化について、「120℃、8時間」加熱による劣化は、「常温20℃、1年」加熱による劣化にほぼ等しい。特に限定されないが、この条件でのフィルムの外観レベルは1.5以下となることが好ましく、より好ましくは1.0以下である。
【実施例】
【0028】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
なお、実施例及び比較例中の部及び%は、それぞれ重量部及び重量%を示す。
【0029】
<ラテックスの重合例>
参考例1]
ガラスライニングを施した耐圧反応器中に、モノマー100部に対し、純水57部、Dアラボアスコルビン酸ナトリウム0.03部、アルキルスルホン酸ナトリウム0.2部を仕込み、攪拌しながら脱気を行った後、内容物の温度を45℃に保った。別の容器に重量組成比がVDC/MMA/AN=90.1/9.4/0.5となる原料モノマー混合物を作成した。原料モノマー混合物の内20部を上記耐圧反応器中に一括添加し、内圧が降下するまで重合した。続いて、残りのモノマー混合物80部を連続的に定量して圧入した。
並行してt−ブチルハイドロパーオキサイド0.014部を純水3.5部に溶解した開始剤、Dアラボアスコルビン酸ナトリウム0.015部を純水3.5部に溶解した還元剤、及びアルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム1.6部を純水2.5部に溶解した乳化剤を連続的に定量圧入した。この間内容物を攪拌しながら45℃に保ち、内圧が十分に降下するまで反応を進行させた。
重合収率は99.9%であった。重合収率は、ほぼ100%なので、共重合体の組成は原料仕込み比にほぼ等しい。かくして得られたラテックスに対して、水蒸気ストリッピングによって未反応モノマーを除去した後、固形分を50〜60%に調整した。
得られた塩化ビニリデン系共重合体の重量平均分子量Mw(ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによって測定されるポリスチレン換算の数値を指す(以下同様))は、16万であった。
【0030】
[実施例2]
原料モノマー混合物の重量組成比をVDC/MMA/MAN=92.0/7.5/0.5とした以外は、参考例1と同様に重合を行った。
重合収率は99.9%であった。重合収率は、ほぼ100%なので、共重合体の組成は原料仕込み比にほぼ等しい。かくして得られたラテックスに対して、水蒸気ストリッピングによって未反応モノマーを除去した後、固形分を50〜60%に調整した。
得られた塩化ビニリデン系共重合体の重量平均分子量Mwは14万であった。
【0031】
[実施例3]
原料モノマー混合物の重量組成比をVDC/MMA/MAN=92.5/6.5/1.0とした以外は、参考例1と同様に重合を行った。重合収率は99.9%であった。重合収率は、ほぼ100%なので、共重合体の組成は原料仕込み比にほぼ等しい。かくして得られたラテックスに対して、水蒸気ストリッピングによって未反応モノマーを除去した後、固形分を50〜60%に調整した。
得られた塩化ビニリデン系共重合体の重量平均分子量Mwは13万であった。
【0032】
[実施例4]
原料モノマー混合物の重量組成比をVDC/MMA/MAN/AA=92.0/6.5/1.0/0.5とした以外は、参考例1と同様に重合を行った。重合収率は99.9%であった。重合収率は、ほぼ100%なので、共重合体の組成は原料仕込み比にほぼ等しい。かくして得られたラテックスに対して、水蒸気ストリッピングによって未反応モノマーを除去した後、固形分を50〜60%に調整した。
得られた塩化ビニリデン系共重合体の重量平均分子量Mwは13万であった。
【0033】
[実施例5]
原料モノマー混合物の重量組成比をVDC/MMA/MAN/AA=91.5/6.5/1.0/1.0とした以外は参考例1と同様に重合を行った。重合収率は99.9%であった。重合収率は、ほぼ100%なので、共重合体の組成は原料仕込み比にほぼ等しい。かくして得られたラテックスに対して、水蒸気ストリッピングによって未反応モノマーを除去した後、固形分を50〜60%に調整した。
得られた塩化ビニリデン系共重合体の重量平均分子量Mwは13万であった。
【0034】
[比較例1]
原料モノマー混合物の重量組成比をVDC/MAN/MMA/AA=91.5/5.2/2.4/0.9とした以外は、参考例1と同様に重合を行った。重合収率は99.9%であった。重合収率は、ほぼ100%なので、共重合体の組成は原料仕込み比にほぼ等しい。かくして得られたラテックスに対して、水蒸気ストリッピングによって未反応モノマーを除去した後、固形分を50〜60%に調整した。
得られた塩化ビニリデン系共重合体の重量平均分子量Mwは12万であった。
【0035】
[比較例2]
原料モノマー混合物の重量組成比をVDC/MA/AA=90.3/9.4/0.3とした以外は、参考例1と同様に重合を行った。重合収率は99.9%であった。重合収率は、ほぼ100%なので、共重合体の組成は原料仕込み比にほぼ等しい。かくして得られたラテックスに対して、水蒸気ストリッピングによって未反応モノマーを除去した後、固形分を50〜60%に調整した。
得られた塩化ビニリデン系共重合体の重量平均分子量Mwは17万であった。
【0036】
得られたラテックスについて以下のようにして物性を評価した。結果を表1に示す。
<熱と機械シアによる凝集に関わる安定性試験>
JIS−K6828の合成エマルジョンの試験方法に準じた凝集物量(%)の測定を、5分間、25℃、30℃、40℃、60℃の各条件にて実施した。
【0037】
次に、上記のようにして得られた塩化ビニリデン系共重合体ラテックスを用いて塗工フィルムを作成し、各物性項目について評価を行った。結果を表1及び2に示す。
<塗工フィルム作成>
コロナ放電処理を施した延伸ポリ塩化ビニルフィルム250μmの上に、プライマーとして水系樹脂エマルジョン(アクリル系ディスパージョン:固形分40%)を、メイヤーロッド#4を用いて乾燥後塗膜重量が2g/mとなるように塗布し、熱風循環乾燥機中にて85℃、15秒の乾燥処理を行った。このフィルムの上に、参考例1、実施例2〜5及び比較例1、2の各々で得られた塩化ビニリデン系共重合体ラテックスを、メイヤーロッドにより1回の乾燥後塗膜重量が10〜15g/mとなるように塗布し、熱風循環乾燥機中にて85℃、15秒の乾燥処理を行い、乾燥後の塗膜重量が90g/mになるまで重ね塗りした。
【0038】
<バリア性試験>
1)酸素透過度測定
得られた塗工フィルムについて、JIS K7126 B法(等圧法)及びASTM D3985−81に示された測定方法に準じ、23℃及び0%RHの条件下、MOCON社の酸素透過度測定装置を用いて測定した(単位:cc/m・day@23℃、0%RH)。
2)水蒸気透過度(透湿度)測定
得られた塗工フィルムについて、JIS K7129 B法(赤外センサー法)及びASTM F1249−90に示された測定方法に準じ、38℃及び100%RHの条件下、MOCON社の水蒸気透過度測定装置を用いて測定した(単位:g/m・day@38℃、100%RH)。
3)バリアレベル
得られた塗工フィルムのバリアレベル(無単位数)を、([酸素透過度測定値]+[酸素透過度測定値])/2で算出した。
【0039】
<外観試験>
得られた塗工フィルムに対し、熱風循環乾燥機中にて、120℃で、0〜8時間の処理を行った後、JIS K7373のプラスチックの黄色度及び黄変度の求め方に示された測定方法に準じ、色差ΔYI値(単位:15g/m)を測定した(2時間ごとに測定した)。
【0040】
<凝集レベル>
ラテックスの熱、機械シアによる凝集に関わる機械的安定性と塗工フィルムのバリア性との両立の尺度として、JIS−K6828の合成エマルジョンの試験方法により測定された凝集物量(%)(5分間、25℃、30℃、40℃、60℃の各条件での値)と上記バリアレベルから、以下のように「凝集レベル」(無単位数)を算出した。
[凝集レベル]=[凝集物量]×[バリアレベル]
【0041】
<外観レベル>
塗工フィルムの変色(黄変)に関わる光学的安定性と、塗工フィルムのバリア性との両立の尺度として、上記方法により測定された色差ΔYI値(120℃、0〜8時間の2時間ごとに測定)と上記バリアレベルから、以下のように「外観レベル」(無単位数)を算出した。
[外観レベル]=[ΔYI]×[バリアレベル]
【0042】
<屈曲試験>
JIS−K5600−5−1に示された測定方法(塗料の一般的試験方法)に準じた屈曲試験機を用い、柔軟性(耐屈曲性)を測定した。評価は以下の基準で行った。なお、表2中に示される直径の値(mm)は、この屈曲試験の折り曲げに用いられる円筒形マンドレルの各直径である。
○:6回全てひび割れ無
△:ひび割れ3回以下
×:全て割れ、破断
【0043】
【表1】
【0044】
【表2】

【0045】
表1及び2の結果から、本発明の塩化ビニリデン系共重合体ラテックスは、塗工後のフィルムの高い酸素、水蒸気バリア性を保ちながら、凝集に関わる機械的安定性が高く、フィルム外観、ひいては成型性(耐屈曲性または柔軟性)に優れるという効果を有することが実証された。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明の塩化ビニリデン系共重合体ラテックスは、塗工後のフィルムの水蒸気や酸素のバリア性に優れ、凝集に関わる機械的安定性やフィルム外観(黄変)に関わる光学的安定性を両立していることから、食品や医薬品包装用フィルム、紙、一般家庭用品等の種々の材料への塗料として好適に使用可能である。