(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来から、車両に搭載される有段自動変速機(ステップAT)や無段変速機(CVT)等と組み合わせて、流体(オイル)を利用し、エンジントルク(エンジン駆動力)を増幅させるトルクコンバータが広く利用されている。トルクコンバータは、オイルを介してエンジントルクを伝達し、かつトルク増幅機能を有するため、スムーズな車両発進を可能とする。また、トルクコンバータは、エンジンから生じる振動の吸収機能等も有している。
【0003】
一般的に、エンジンとトルクコンバータとは次のように結合されている。すなわち、エンジンの駆動力を出力するクランクシャフトの端部には、ドライブプレートが接続されており、該ドライブプレートにはトルクコンバータのフロントカバー(コンバータカバー)がボルトにより接続されている。また、フロントカバーにはインペラシェル(ポンプインペラ)が溶接により接合され、該インペラシェルの内径側にはトルコンスリーブが溶接により接合されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、通常、トルクコンバータスリーブは、トランスミッションケースに取り付けられたブッシュなどによって回転可能に径方向を支持されている。一方、エンジン回転数に起因する遠心油圧よるトルクコンバータの軸方向の寸法変位を吸収可能とするため、トランスミッション内には軸方向の固定点(固定部材)が設けられていない。そのため、トルクコンバータの軸方向位置は、ドライブプレート、エンジンのクランクシャフト、クランクシャフトに取り付けられたスラストメタル(メインメタル)の寸法・位置で定まることとなる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、トルクコンバータの内部には、ロックアップクラッチが設けられたロックアップピストンを挟んで、フロントカバー側にリリース室が画成され、ポンプインペラ側に(リリース室と対向するように)アプライ室が画成されている。トルクコンバータ内部に満たされているオイルは、トランスミッションのコントロールバルブによってロックアップに必要な油圧値(アプライ圧)として供給されている。そのため、トルクコンバータ内部には、トランスミッションに挿入されるトルクコンバータの内径面積に上記油圧値を乗じた荷重(油圧荷重)が発生する。
【0007】
ここで、上述した従来のトルクコンバータの結合方法では、トランスミッション側に軸方向の位置拘束がないため、上記油圧荷重を、ドライブプレート、及びエンジンのスラストメタル(メインメタル)で受けることとなる。そのため、油圧荷重にスラストメタルとクランクシャフトとの間の摩擦係数を乗算した摩擦損失が生じ、フリクションの増大、ひいては燃料消費率(燃費)の悪化原因となっている。また、上記油圧荷重がスラストメタルの許容面圧を超えたときには、スラストメタルが摩耗するおそれがある。
【0008】
本発明は、上記問題点を解消する為になされたものであり、エンジンのスラストメタルの摩擦損失を低減して、燃費を向上でき、かつ、該スラストメタルの耐久信頼性を向上させることが可能なトルクコンバータ、及び、トルクコンバータのエンジン並びにトランスミッションとの結合構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るトルクコンバータは、エンジンとトランスミッションとの間に介装されるトルクコンバータであって、先端部に、エンジンの出力軸と嵌合可能に、軸方向にスプラインが形成された入力軸と、トランスミッションケースとの間に介装され、内径面に作用する軸方向の油圧荷重を受けるベアリングと、軸方向へのベアリングの移動を拘束する固定部材とを備えることを特徴とする。
【0010】
本発明に係るトルクコンバータによれば、入力軸の先端部に、エンジンの出力軸と嵌合可能に、軸方向にスプラインが形成されている。そのため、該入力軸とエンジン出力軸とがスプライン嵌合されることにより、トルクコンバータの入力軸の軸方向への摺動を可能としつつ(すなわち、エンジン出力軸との相対変位を可能としつつ)、エンジントルクをトルクコンバータに伝えることができる。一方、トルクコンバータ内径面に作用する軸方向の油圧荷重を受けるベアリングがトランスミッションケースとの間に介装されるとともに、固定部材によって当該ベアリングの軸方向への移動が規制される(すなわち、トルクコンバータの軸方向変位が拘束される)。そのため、トルクコンバータの内径面に作用する油圧荷重を、固定部材、ベアリングを介して、トランスミッションケースで受け止めることにより、エンジンのスラストメタルに当該荷重が作用することを防止できる。よって、スラストメタルの摩擦損失を低減することができ、正味熱効率の改善を図ることができる。また、スラストメタルの面圧荷重が低減されることから耐摩耗性が向上し、耐久信頼性も向上する。その結果、エンジンのスラストメタルの摩擦損失を低減して、燃費を向上でき、かつ、該スラストメタルの耐久信頼性を向上させることが可能となる。
【0011】
本発明に係るトルクコンバータでは、上記ベアリングが、フロントカバー及びポンプインペラを介して入力軸と接続されたトルクコンバータスリーブとトランスミッションケースとの間に介装され、上記固定部材が、トルクコンバータスリーブ、及び/又は、トランスミッションケースに取り付けられることが好ましい。
【0012】
この場合、上記ベアリングが、フロントカバー及びポンプインペラを介して入力軸と接続されたトルクコンバータスリーブとトランスミッションケースとの間に介装され、上記固定部材が、トルクコンバータスリーブ、及び/又は、トランスミッションケースに取り付けられるため、より的確に上記ベアリングの軸方向への移動を規制すること(すなわち、トルクコンバータの軸方向変位を拘束すること)ができる。そのため、より確実に、トルクコンバータの内径面に作用する油圧荷重が、エンジンのスラストメタルに作用することを防止することが可能となる。
【0013】
本発明に係るトルクコンバータでは、上記入力軸に、上記スプラインに代えて、ボールスプラインが設けられていることが好ましい。
【0014】
この場合、入力軸の先端部に、スプラインに代えて、ボールスプラインが設けられているため、エンジンの出力軸とトルクコンバータの入力軸との摺動抵抗をより低減することができ、エンジンからの動力伝達時に生じる軸方向荷重をより低減することができる。よって、トルクコンバータからエンジンのスラストメタルへの荷重入力(トルクコンバータ内径面に作用する油圧荷重の入力)をより低減することが可能となる。
【0015】
本発明に係るトルクコンバータの結合構造は、上記いずれかのトルクコンバータと、トルクコンバータの入力軸に形成されたスプラインと嵌合可能に、軸方向にスプラインが形成された出力軸を有するエンジンとを備え、トルクコンバータの入力軸が、エンジンの出力軸と、軸方向に摺動可能にスプライン嵌合され、トルクコンバータの出力軸が、トランスミッションの入力軸と接続されていることを特徴とする。
【0016】
本発明に係るトルクコンバータの結合構造によれば、上記いずれかのトルクコンバータを備えているため、トルクコンバータの入力軸とエンジン出力軸とがスプライン嵌合されることにより、トルクコンバータの入力軸の軸方向への摺動を可能としつつ(すなわち、エンジン出力軸との相対変位を可能としつつ)、エンジントルクをトルクコンバータに伝えることができる。一方、トルクコンバータ内径面に作用する軸方向の油圧荷重を受けるベアリングがトランスミッションケースとの間に介装されるとともに、固定部材によって当該ベアリングの軸方向への移動が規制される(すなわち、軸方向変位が拘束される)。そのため、トルクコンバータの内径面に作用する油圧荷重を、固定部材、ベアリングを介して、トランスミッションケースで受け止めることにより、エンジンのスラストメタルに当該荷重が作用することを防止できる。よって、スラストメタルの摩擦損失を低減することができ、正味熱効率の改善を図ることができる。また、スラストメタルの面圧荷重が低減されることから耐摩耗性が向上し、耐久信頼性も向上する。その結果、エンジンのスラストメタルの摩擦損失を低減して、燃費を向上でき、かつ、該スラストメタルの耐久信頼性を向上させることが可能となる。
【0017】
本発明に係るトルクコンバータの結合構造は、上記トルクコンバータと、トルクコンバータの入力軸とボールスプラインを介して嵌合される出力軸を有するエンジンとを備え、トルクコンバータの入力軸が、エンジンの出力軸と、ボールスプラインを介して軸方向に摺動可能に嵌合され、トルクコンバータの出力軸が、トランスミッションの入力軸と接続されていることを特徴とする。
【0018】
本発明に係るトルクコンバータの結合構造によれば、トルクコンバータの入力軸とエンジンの出力軸とがボールスプラインを介して軸方向に摺動可能に嵌合されているため、エンジンの出力軸とトルクコンバータの入力軸との摺動抵抗をより低減することができ、エンジンからの動力伝達時に生じる軸方向荷重をより低減することができる。よって、トルクコンバータからエンジンのスラストメタルへの荷重入力(トルクコンバータ内径面に作用する油圧荷重の入力)をより低減することが可能となる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、エンジンのスラストメタルの摩擦損失を低減して、燃費を向上でき、かつ、該スラストメタルの耐久信頼性を向上させることが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図中、同一又は相当部分には同一符号を用いることとする。また、各図において、同一要素には同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0022】
(第1実施形態)
まず、
図1及び
図2を併せて用いて、第1実施形態に係るトルクコンバータ1の構造、及び、トルクコンバータ1のエンジン3並びに無段変速機(特許請求の範囲に記載のトランスミッションに相当)5との結合構造について説明する。
図1は、トルクコンバータ1が適用されたパワーユニットの概要構成を示すブロック図である。
図2は、トルクコンバータ1の構成、及び、トルクコンバータ1のエンジン3並びに無段変速機5との結合構造を示す図である。
【0023】
図1に示されるように、エンジン3の出力軸(クランクシャフト)3aには、クラッチ機能とトルク増幅機能を持つトルクコンバータ1を介して、エンジン3からの駆動力を変換して出力する無段変速機5が接続されている。
【0024】
トルクコンバータ1は、主として、ポンプインペラ11、タービンランナ12、及びステータ13を備えて構成されている。エンジン3の出力軸(クランクシャフト)3aに接続されたポンプインペラ11がオイルの流れを生み出し、ポンプインペラ11に対向して配置されたタービンランナ12がオイルを介してエンジン3の駆動力を受けて出力軸23を駆動する。両者の間に位置するステータ13は、タービンランナ12からの排出流(戻り)を整流し、ポンプインペラ11に還元することでトルク増幅作用を発生させる。
【0025】
また、トルクコンバータ1は、入力と出力とを直結状態にするロックアップクラッチ32を有している。トルクコンバータ1は、ロックアップクラッチ32が締結されていないとき(非ロックアップ状態のとき)はエンジン3の駆動力をトルク増幅して無段変速機5に伝達し、ロックアップクラッチ32が締結されているとき(ロックアップ時)はエンジン3の駆動力を無段変速機5に直接伝達する。
【0026】
ここで、ロックアップクラッチ32の締結/解放は、ロックアップクラッチ32(アプライ室33)に供給される油圧(ロックアップ・アプライ圧)を調節することによって行われる。なお、このロックアップ・アプライ圧は電子制御装置(TCU)80により制御される。
【0027】
特に、本実施形態に係るトルクコンバータ1は、エンジン3のメインメタル(スラストメタル)3bの摩擦損失(摩擦抵抗)を低減して、燃料消費率(燃費)を向上でき、かつ、該メインメタル(スラストメタル)3bの耐久信頼性を向上させる結合構造を有している。以下、
図2を用いて、より詳細に説明する。
【0028】
エンジン3のクランクシャフト3a(
図2では一部のみ示した)は、ピストンの往復運動をコネクティングロッドを介して回転運動に変換するものである。クランクシャフト3aは、互いに間隔を隔てて一直線上に配置され、メインメタル3bを介してシリンダブロックに支持されるクランクジャーナル(メインジャーナル)と、隣り合うクランクジャーナル間に位置し、コネクティングロッドの大端部が取付けられるクランクピンとを備えている。本実施形態では、メインメタル3bとして、スラストメタルとラジアルメタルとを溶接等により固着したもの、又はラジアルメタルからスラストメタルへと絞り或は曲げなどのプレス加工で一体形成したものを用いた。以下、メインメタル3bをスラストメタル3bということもある。
【0029】
クランクシャフト3aの後端部には、出力フランジ(大径部)3cが設けられている。出力フランジ3cの軸心には、筒状の嵌合部材(スリーブ)3dがボルトによって接続されている。嵌合部材3dの内周面には、複数のスプライン歯(内歯スプライン)が周方向に等間隔で形成されることにより、内(雌)スプライン3eが形成されている。
【0030】
一方、トルクコンバータ1のパイロットボス10(特許請求の範囲に記載の入力軸に相当)の端部には、外周面に複数のスプライン歯(外歯スプライン)が周方向に等間隔で形成されることにより、外(雄)スプライン10aが形成されている。すなわち、エンジン3のクランクシャフト3a(嵌合部材3d)、及びトルクコンバータ1のパイロットボス10それぞれには、相互にスプライン嵌合可能に、軸方向にスプラインが形成されている。エンジン3側の嵌合部材3dの内スプライン3eと、トルクコンバータ1側のパイロットボス10の外スプライン10aとがスプライン嵌合することにより、軸方向に摺動可能に、エンジン3(クランクシャフト3a)の駆動力がトルクコンバータ1(パイロットボス10)に伝達可能となる。
【0031】
パイロットボス10の基端部には、フロントカバー21が接続されている。該フロントカバー21の端部には複数のブレード11aを有するポンプインペラ(インペラシェル)11が接続されている。なお、本実施形態に係るトルクコンバータ1は、コンベンショナルなトルクコンバータとは異なり、ドライブプレートを備えていない。
【0032】
ポンプインペラ(インペラシェル)11の内周側には、トルクコンバータスリーブ15が溶接などで接合されている。なお、詳細については後述する。なお、トルクコンバータスリーブ15の端部外周には、オイルポンプ50をチェーン駆動するためのスプロケット16が配設されている。
【0033】
フロントカバー21とポンプインペラ11とによって区画されるコンバータ室30には、複数のブレード12aを備えるタービンランナ12が回転自在に収容されている。タービンランナ12は、ポンプインペラ11に対向するように配置されている。タービンランナ12にはタービンハブ22が固定されており、タービンハブ22には、タービン出力軸(特許請求の範囲に記載の出力軸に相当)23がスプライン結合されている。また、互いに対向するポンプインペラ11とタービンランナ12との間には複数のブレード13aを備えるステータ13が設けられている。ステータ13は、ワンウェイクラッチ14を介してミッションケース5bに取り付けられている。
【0034】
フロントカバー21とタービンランナ12との間には、フロントカバー21の内面と対向するようにロックアップピストン31が配設されている。ロックアップピストン31は軸方向に移動自在とされてタービンハブ22に取り付けられている。また、ロックアップピストン31のフロントカバー21と対向する面の外縁部には環状のロックアップクラッチ32が取り付けられている。
【0035】
ロックアップピストン31により、コンバータ室30は、フロントカバー21側のリリース室34とタービンランナ12側のアプライ室33とに区画される。すなわち、フロントカバー21とロックアップピストン31とによりリリース室34が画成されるとともに、ロックアップピストン31を挟んで、リリース室34と対向するようにアプライ室33が形成(画成)される。ロックアップピストン31は、アプライ室33とリリース室34との間の圧力差に応じて、ロックアップクラッチ32の締結方向(フロントカバー21に近づく方向)又は解放方向(フロントカバー21から離れる方向)に進退移動する。
【0036】
また、ロックアップピストン31とタービンハブ22との間には、複数のダンパスプリング42と、ダンパスプリング42を保持する保持部材43とを有して構成されるダンパ機構41が取り付けられている。より詳細には、各ダンパスプリング42の一方の端部がロックアップピストン22に取り付けられ、他方の端部が保持部材43を介してタービンハブ22に取り付けられている。ダンパ機構41により、ロックアップクラッチ32締結時(ロックアップ時)のトルク変動(ショック)が吸収される。
【0037】
上述したトルクコンバータスリーブ15は、軸方向に延びる筒部と、筒部の一端から径方向に延びるフランジとを有している。このフランジはポンプインペラ(インペラシェル)11の中央穴の内径面と整合する外径を有している。トルクコンバータスリーブ15の回転軸中心には、上述したタービン出力軸23が挿通されている。なお、タービン出力軸23(トルクコンバータ1の出力軸)は、トランスミッション5の入力軸5aと接続(結合)されている。
【0038】
トルクコンバータスリーブ15(スプロケット16)とトランスミッションケース5bとの間には、トルクコンバータスリーブ15及びスプロケット16を回転可能に軸支するとともに、トルクコンバータ1の内径面に作用する軸方向(スラスト方向)の油圧荷重を受けるベアリング17が介装されている。ベアリング17としては、転がり軸受(例えばボールベアリング等)が好適に用いられる。
【0039】
また、トルクコンバータスリーブ15(及び/又はトランスミッションケース5b)には、ベアリング17の軸方向への移動を規制(拘束)する固定部材(係止部材)18が取り付けられている。これにより、トルクコンバータ1の軸方向位置がトランスミッション5側で拘束されることとなる。固定部材18としては、例えばスナップリングやロックナットなどが好適に用いられる。なお、本実施形態では、固定部材18として、スナップリングを用いた。このスナップリング18は、弾性金属製の円環状部材であり、周方向の一部が切り取られた略C字型に形成されている。よって、本実施形態では、このスナップリング18を、トルクコンバータスリーブ15の後端部に形成された溝に嵌め込むことにより、ベアリング(転がり軸受)17及びスプロケット16の位置を拘束する構成とした。
【0040】
上述したように構成されることにより、エンジン3側は回転方向のみ動力伝達可能なように、クランクシャフト3a(嵌合部材3d)とトルクコンバータ1(パイロットボス10)とがスプライン篏合され、クランクシャフト3aとトルクコンバータ1との篏合軸変位(相対変位)が許容される。一方、トランスミッション5側に、トルクコンバータ1の軸方向位置を拘束するためのベアリング(転がり軸受)17と固定部材(スナップリング)18とが設けられ、トルクコンバータ1の軸方向位置が拘束される。すなわち、トランスミッション5とトルクコンバータ1とは、トランスミッションケース5b、ベアリング(転がり軸受)17、固定部材(スナップリング)18によって軸方向変位が拘束される。
【0041】
そのため、トルクコンバータ1の内径面に作用する油圧荷重は、固定部材(スナップリング)18、ベアリング(転がり軸受)17を介し、トランスミッションケース5bで受け止められ、エンジン3側のスラストメタル3bには入力されない。なお、ここで、トルクコンバータ1の内径面に作用する油圧荷重は、内径をDとし、アプライ圧をPとした場合、次式(1)によって求められる。
油圧荷重=P×π(D/2)
2 ・・・ (1)
【0042】
その結果、エンジン3内でのスラストメタル3bの摩擦損失が低減され、正味熱効率の改善が図られる。また、スラストメタル3bの面圧荷重が低減されることから耐摩耗性が向上され、耐久信頼性も向上する。
【0043】
以上、詳細に説明したように、本実施形態によれば、トルクコンバータ1のパイロットボス10の先端部に、クランクシャフト3a(嵌合部材3d)と嵌合可能に、スプライン10aが形成されている。そのため、トルクコンバータ1のパイロットボス10とエンジン3のクランクシャフト3(嵌合部材3d)とがスプライン嵌合されることにより、トルクコンバータ1の軸方向への摺動を可能としつつ(すなわち、クランクシャフト3aとの相対変位を可能としつつ)、エンジントルクをトルクコンバータ1に伝えることができる。一方、トルクコンバータ1の内径面に作用する軸方向(スラスト方向)の油圧荷重を受けるベアリング(転がり軸受)17がトランスミッションケース5bとの間に介装されるとともに、固定部材(スナップリング)18によって該ベアリング17の軸方向への移動が規制される(すなわち、トルクコンバータ1の軸方向変位が拘束される)。そのため、トルクコンバータ1の内径面に作用する油圧荷重を、固定部材18、ベアリング17を介して、トランスミッションケース5bで受け止めることにより、エンジン3のスラストメタル3bに油圧荷重が作用することを防止できる。よって、スラストメタル3bの摩擦損失を低減することができ、正味熱効率の改善を図ることができる。また、スラストメタル3bの面圧荷重が低減されることから耐摩耗性が向上し、耐久信頼性も向上する。その結果、エンジン3のスラストメタル3bの摩擦損失を低減して、燃費を向上でき、かつ、該スラストメタル3bの耐久信頼性を向上させることが可能となる。
【0044】
本実施形態によれば、ベアリング17がトルクコンバータスリーブ15とトランスミッションケース5bとの間に介装され、固定部材18がトルクコンバータスリーブ15に取り付けられているため、より的確にベアリング17の軸方向への移動を規制すること(すなわち、トルクコンバータ1の軸方向変位を拘束すること)ができる。そのため、より確実に、トルクコンバータ1の内径面に作用する油圧荷重が、エンジン3のスラストメタル3bに作用することを防止することが可能となる。
【0045】
本実施形態によれば、ベアリング17として転がり軸受を用いているため、軸受における摩擦損失をより低減することが可能となる。
【0046】
また、本実施形態によれば、固定部材(係止部材)18としてスナップリングを用いているため、比較的簡便にかつ確実にベアリング17の軸方向への移動を規制(拘束)することが可能となる。
【0047】
(第2実施形態)
上述した第1実施形態では、エンジン3のクランクシャフト3aとトルクコンバータ1のパイロットボス10とをスプラインで嵌合する構造としたが、スプラインに代えて、ボールスプラインを用いた構造としてもよい。
【0048】
そこで、
図3を参照しつつ、第2実施形態に係るトルクコンバータ2の構造、及び、トルクコンバータ2のエンジン4並びにトランスミッション5との結合構造について説明する。
図3は、トルクコンバータ2の構造、及び、トルクコンバータ2のエンジン4並びにトランスミッション5との結合構造を示す図である。なお、
図3において上記第1実施形態と同一又は同等の構成要素については同一の符号が付されている。
【0049】
本実施形態は、エンジン4のクランクシャフト4a(嵌合部材4d)とトルクコンバータ2のパイロットボス10Bとの結合に、スプラインに代えてボールスプライン20が用いられている点(すなわち、トルクコンバータ2のパイロットボス10Bと、エンジン4のクランクシャフト4a(嵌合部材4d)とが、ボールスプライン20を介して軸方向に摺動可能に嵌合されている点)で上述した第1実施形態と異なっている。
【0050】
ここで、ボールスプライン20は、スプラインの歯に相当する部分にボール(鋼球)を配置し、転がり摩擦にして、摺動抵抗を大幅に低減したものである。ボールスプライン20は、転送溝を持ったスプライン軸とスプライン外筒から構成されている。スプライン外筒内部には、保持器、サイドリング、鋼球が組込まれており、滑らかに摺動できるように構成されている。なお、その他の構成は、上述した第1実施形態と同一または同様であるので、ここでは詳細な説明を省略する。
【0051】
本実施形態によれば、エンジン4のクランクシャフト4a(嵌合部材4d)と、トルクコンバータ2のパイロットボス10Bとが、ボールスプライン20によって結合されている。そのため、エンジン4のクランクシャフト4a(嵌合部材4d)とトルクコンバータ2のパイロットボス10Bとの摺動抵抗をより低減することができ、エンジン4からの動力伝達時に生じる軸方向荷重をより低減することができる。よって、トルクコンバータ2からエンジン4のスラストメタル3bへの荷重入力(トルクコンバータ内径面に作用する油圧荷重の入力)をより低減することが可能となる。
【0052】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく種々の変形が可能である。例えば、上記実施形態では、本発明を無段変速機(CVT)3に適用した場合を例にして説明したが、本発明は、有段自動変速機(ステップAT)などにも適用することができる。
【0053】
また、上記実施形態では、ベアリング17として転がり軸受(ボールベアリング等)を採用したが、他の形式のベアリングを用いてもよい。同様に、上記実施形態では、固定部材(係止部材)18として、スナップリング(又はロックナット)を用いたが、固定部材18は、ベアリング17の軸方向の変位を拘束(規制)できればよく、スナップリングやロックナットには限られない。
【0054】
さらに、ベアリング17や固定部材18の、形状、サイズ(大きさ)、個数、配置、及び取り付け箇所等は、上記実施形態に限定されることなく、例えば求められる要件等に応じて、任意に設定することができる。